(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127487
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】画像識別プログラム、画像識別方法および画像識別装置
(51)【国際特許分類】
G06T 7/00 20170101AFI20230906BHJP
G06T 7/60 20170101ALI20230906BHJP
【FI】
G06T7/00 612
G06T7/00 350B
G06T7/60 110
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031311
(22)【出願日】2022-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000005223
【氏名又は名称】富士通株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】弁理士法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武部 浩明
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 信浩
(72)【発明者】
【氏名】馬場 孝之
【テーマコード(参考)】
5L096
【Fターム(参考)】
5L096AA03
5L096AA06
5L096BA06
5L096BA13
5L096CA02
5L096DA02
5L096FA06
5L096FA14
5L096FA53
5L096GA19
5L096GA51
5L096HA11
5L096JA11
5L096JA16
5L096KA04
(57)【要約】
【課題】医用画像から病変に関する状態を高精度に識別する。
【解決手段】処理部2は、画像P1の各分割領域について、病変に関する複数の状態のうちのどの状態であるかを識別する第1の識別処理と、複数の状態のうち第1の状態および第2の状態の各領域との境界を含むかを識別する第2の識別処理を実行し、第1の識別処理で第1の状態と識別され、かつ隣接する1以上の第1の分割領域を連結した連結集合G1を特定し、連結集合G1内の分割領域のうち、第1の識別処理で第2の状態と識別された分割領域と接する分割領域B1~B4についての第1の個数と、これらの分割領域B1~B4のうち、第2の識別処理で境界を含むと判定された分割領域B1~B4についての第2の個数との比較結果に基づいて、分割領域B1~B4が第1の状態か、または第2の状態かを判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに、
人体の内部を撮影した画像を分割した複数の分割領域のそれぞれについて、撮影された領域が病変に関する複数の状態のうちのどの状態であるかを識別する第1の識別処理を実行し、
前記複数の分割領域のそれぞれについて、撮影された領域が、前記複数の状態のうち第1の状態の領域と第2の状態の領域との境界を含むかを識別する第2の識別処理を実行し、
前記複数の分割領域のうち、前記第1の識別処理によって前記第1の状態と識別され、かつ隣接する1以上の第1の分割領域を連結した連結集合を特定し、
前記1以上の第1の分割領域のうち、前記第1の識別処理によって前記第2の状態と識別された分割領域と接する1以上の第2の分割領域についての第1の個数と、前記1以上の第2の分割領域のうち、前記第2の識別処理によって前記境界を含むと判定された分割領域についての第2の個数との比較結果に基づいて、前記1以上の第1の分割領域が前記第1の状態か、または前記第2の状態かを判定する、
処理を実行させる画像識別プログラム。
【請求項2】
前記判定では、前記第1の個数に対する前記第2の個数の比率が所定の閾値以上の場合に、前記1以上の第1の分割領域が前記第1の状態であると判定し、前記比率が前記閾値未満の場合、または前記第1の個数が0の場合に、前記1以上の第1の分割領域が前記第2の状態であると判定する、
請求項1記載の画像識別プログラム。
【請求項3】
前記連結集合が複数特定された場合、前記判定では、複数の前記連結集合のそれぞれについて計数された前記第1の個数および前記第2の個数に基づき、前記1以上の第1の分割領域が前記第1の状態か、または前記第2の状態かを判定する処理を個別に実行する、
請求項1または2記載の画像識別プログラム。
【請求項4】
前記画像は、肺野の断面を撮影することで取得され、
前記第1の識別処理では、前記複数の状態として、複数種別の陰影および正常のうちのどれであるかを識別し、
前記第1の状態はすりガラス影であることを示し、前記第2の状態は正常であることを示す、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の画像識別プログラム。
【請求項5】
コンピュータが、
人体の内部を撮影した画像を分割した複数の分割領域のそれぞれについて、撮影された領域が病変に関する複数の状態のうちのどの状態であるかを識別する第1の識別処理を実行し、
前記複数の分割領域のそれぞれについて、撮影された領域が、前記複数の状態のうち第1の状態の領域と第2の状態の領域との境界を含むかを識別する第2の識別処理を実行し、
前記複数の分割領域のうち、前記第1の識別処理によって前記第1の状態と識別され、かつ隣接する1以上の第1の分割領域を連結した連結集合を特定し、
前記1以上の第1の分割領域のうち、前記第1の識別処理によって前記第2の状態と識別された分割領域と接する1以上の第2の分割領域についての第1の個数と、前記1以上の第2の分割領域のうち、前記第2の識別処理によって前記境界を含むと判定された分割領域についての第2の個数との比較結果に基づいて、前記1以上の第1の分割領域が前記第1の状態か、または前記第2の状態かを判定する、
画像識別方法。
【請求項6】
人体の内部を撮影した画像を分割した複数の分割領域のそれぞれについて、撮影された領域が病変に関する複数の状態のうちのどの状態であるかを識別する第1の識別処理を実行し、
前記複数の分割領域のそれぞれについて、撮影された領域が、前記複数の状態のうち第1の状態の領域と第2の状態の領域との境界を含むかを識別する第2の識別処理を実行し、
前記複数の分割領域のうち、前記第1の識別処理によって前記第1の状態と識別され、かつ隣接する1以上の第1の分割領域を連結した連結集合を特定し、
前記1以上の第1の分割領域のうち、前記第1の識別処理によって前記第2の状態と識別された分割領域と接する1以上の第2の分割領域についての第1の個数と、前記1以上の第2の分割領域のうち、前記第2の識別処理によって前記境界を含むと判定された分割領域についての第2の個数との比較結果に基づいて、前記1以上の第1の分割領域が前記第1の状態か、または前記第2の状態かを判定する、処理部、
を有する画像識別装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像識別プログラム、画像識別方法および画像識別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
肺などの各種疾患の診断には、CT(Computed Tomography)画像などの医用画像が広く用いられている。医用画像を用いた画像診断では、医師は多数の画像を読影しなければならず、医師の負担が大きい。そのため、医師の診断作業をコンピュータによって何らかの形で支援する技術が求められている。
【0003】
医用画像を用いた診断支援技術として、次のような提案がある。例えば、学習済みの識別器を用いて医用画像の画像解析を行い、医用画像が複数種別の病変パターンのうちのいずれかに該当する確率を示す指標を算出する診断部を有する画像処理装置が提案されている。また、画像情報から異常陰影候補を検出し、検出された異常陰影候補の重心を算出し、その重心から異常陰影候補の領域端部までの距離が所定の比率となる点を求めることで、異常陰影候補の領域を中心部と辺縁部とに分類する画像診断支援装置も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-33966号公報
【特許文献2】特開2004-41490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、医用画像から、撮影された領域が病変に関する複数の状態のどれであるかを識別する識別処理では、疾患によっては特定の2つの状態の識別が難しい場合がある。例えば、同じ種類の病変の状態であっても画像上での濃さや明るさが異なる場合があるために、別の病変の状態との識別が難しいというケースがある。
【0006】
1つの側面では、本発明は、医用画像から病変に関する状態を高精度に識別可能にした画像識別プログラム、画像識別方法および画像識別装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1つの案では、コンピュータに、人体の内部を撮影した画像を分割した複数の分割領域のそれぞれについて、撮影された領域が病変に関する複数の状態のうちのどの状態であるかを識別する第1の識別処理を実行し、複数の分割領域のそれぞれについて、撮影された領域が、複数の状態のうち第1の状態の領域と第2の状態の領域との境界を含むかを識別する第2の識別処理を実行し、複数の分割領域のうち、第1の識別処理によって第1の状態と識別され、かつ隣接する1以上の第1の分割領域を連結した連結集合を特定し、1以上の第1の分割領域のうち、第1の識別処理によって第2の状態と識別された分割領域と接する1以上の第2の分割領域についての第1の個数と、1以上の第2の分割領域のうち、第2の識別処理によって境界を含むと判定された分割領域についての第2の個数との比較結果に基づいて、1以上の第1の分割領域が第1の状態か、または第2の状態かを判定する、処理を実行させる画像識別プログラムが提供される。
【0008】
また、1つの案では、上記の画像識別プログラムに基づく処理と同様の処理をコンピュータが実行する画像識別方法が提供される。
さらに、1つの案では、上記の画像識別プログラムに基づく処理と同様の処理を実行する画像識別装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
1つの側面では、医用画像から病変に関する状態を高精度に識別できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施の形態に係る画像識別装置の構成例および処理例を示す図である。
【
図2】第2の実施の形態に係る診断支援処理システムの構成例を示す図である。
【
図3】画像識別装置のハードウェア構成例を示す図である。
【
図4】陰影識別処理の基本的な流れを示す図である。
【
図5】GGOと正常との識別に関する課題を説明するための図である。
【
図6】陰影識別処理および境界識別処理を実行した場合の処理結果を示す第1の図である。
【
図7】陰影識別処理および境界識別処理の結果に基づく識別処理を示す第1の図である。
【
図8】陰影識別処理および境界識別処理を実行した場合の処理結果を示す第2の図である。
【
図9】陰影識別処理および境界識別処理の結果に基づく識別処理を示す第2の図である。
【
図10】陰影識別処理および境界識別処理を実行した場合の処理結果を示す第3の図である。
【
図11】陰影識別処理および境界識別処理の結果に基づく識別処理を示す第3の図である。
【
図12】学習処理装置および画像識別装置が備える処理機能の構成例を示す図である。
【
図13】学習処理装置による学習処理の手順を示すフローチャートの例である。
【
図14】画像識別装置による画像識別処理の手順を示すフローチャートの例(その1)である。
【
図15】画像識別装置による画像識別処理の手順を示すフローチャートの例(その2)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
〔第1の実施の形態〕
図1は、第1の実施の形態に係る画像識別装置の構成例および処理例を示す図である。
図1に示す画像識別装置1は、人体の内部を撮影した画像を取得し、取得した画像に基づいて、撮影された領域が病変に関する複数の状態のうちのどの状態であるかを識別する情報処理装置である。例えば、肺野の断面が撮影された場合において、複数の状態として陰影の種別が識別される。この場合、陰影の種別の1つとして、画像上の対応する領域が正常であることを示す種別が含まれてもよい。
【0012】
この画像識別装置1は、処理部2を有する。処理部2は、例えばプロセッサである。この場合、処理部2の処理は、例えば、プロセッサが所定のプログラムを実行することで実現される。処理部2は、以下のような処理を実行する。
【0013】
処理部2は、上記のように取得した画像を複数の分割領域に分割する。処理部2は、分割された複数の分割領域のそれぞれについて、撮影された領域が上記の複数の状態のうちのどの状態であるかを識別する第1の識別処理を実行する。
【0014】
図1では、取得される画像の例として画像P1,P2を示している。画像P1には、複数の状態のうち、第1~第3の状態の領域が含まれている。これらのうち、第1の状態の領域は、第2の状態より色が薄く(輝度が明るく)なっている。一方、画像P2には、第2、第3の状態の領域が含まれている。ただし、画像P2における第2の状態の領域は、画像P1における第2の状態より色が薄く(輝度が明るく)なっており、画像P1における第1の状態の領域の色と類似している。
【0015】
このような場合、第1の識別処理では、第1の状態と第2の状態とを正しく識別することが難しい場合がある。例えば、第2の状態が、第1の状態であると誤って識別される場合がある。
【0016】
図1では、画像P1aに示すように、画像P1に対して第1の識別処理を実行した場合、画像P1内の分割領域のうち分割領域B1~B4が第1の状態であると識別されたとする。このケースでは、第1の状態が正しく識別されている。一方、画像P2aに示すように、画像P2に対して第1の識別処理を実行した場合、画像P2内の分割領域のうち分割領域B11~B21が第1の状態であると識別されたとする。このケースでは、分割領域B11~B21はいずれも第2の状態であるにもかかわらず、第1の状態であると誤って判定されている。
【0017】
ここで、例えば、第1の状態の領域と第2の状態の領域との間には、通常、明確な境界が現れるという性質が存在する場合がある。このような性質は、例えば、第2の状態である身体領域の一部の組織が変化することで、第1の状態が発生する場合に発生し得る。そこで、本実施の形態において、処理部2は、上記の第1の識別処理に加え、第1の状態の領域と第2の状態の領域との境界を分割領域が含むか否かを識別する第2の識別処理を実行する。
【0018】
上記のように、第1の状態の領域と第2の状態の領域との間に明確な境界が現れやすいという性質がある場合、このような境界を含むか否かを識別する第2の識別処理では、比較的高い識別精度が得られると考えられる。このため、処理部2は、第1の識別処理によって第1の状態と識別された分割領域について、第2の識別処理の結果を考慮して、第1の状態か、または第2の状態かを最終的に判定する。これによって、分割領域が第1の状態か、または第2の状態かの識別精度を向上させる。
【0019】
処理部2は、上記のように、画像上の複数の分割領域のそれぞれについて、上記の第1の識別処理を実行するとともに、上記の第2の識別処理を実行する。処理部2は、画像上の複数の分割領域のうち、第1の識別処理によって第1の状態と識別され、かつ隣接する1以上の分割領域を連結した連結集合を特定する。そして、処理部2は、特定された連結集合に含まれる分割領域のうち、第1の識別処理によって第2の状態と識別された分割領域と接する分割領域の数を、第1の個数として計数する。
【0020】
図1の画像P1では、画像P1aに示すように、第1の識別処理によって第1の状態と識別された分割領域B1~B4を連結した領域が、連結集合G1として特定される。また、連結集合G1に含まれる分割領域B1~B4のいずれも、第1の識別処理によって第2の状態と識別された分割領域と接している。このため、連結集合G1については、第1の個数が「4」と計数される。
【0021】
また、
図1の画像P2では、画像P2aに示すように、第1の識別処理によって第1の状態と識別された分割領域B11~B21を連結した領域が、連結集合G2として特定される。しかし、連結集合G2に含まれる分割領域B11~B21のいずれも、第1の識別処理によって第2の状態と識別された分割領域と接していない。このため、連結集合G2については、第1の個数が「0」と計数される。
【0022】
処理部2はさらに、連結集合に含まれる分割領域のうち、第1の状態と識別された分割領域と接する分割領域の中から、第2の識別処理によって境界を含むと識別された分割領域の数を、第2の個数として計数する。そして、第1の個数と第2の個数との比較結果に基づいて、連結集合に含まれる各分割領域が第1の状態か、または第2の状態かを最終的に判定する。
【0023】
図1の画像P1では、画像P1bに示すように、連結集合G1内の該当する分割領域のうち、第2の識別処理によって分割領域B1~B4が境界と識別されている。このため、連結集合G1については、第2の個数が「4」と計数される。一方、
図1の画像P2では、連結集合G2には、第1の識別処理によって第2の状態と識別された分割領域と接する分割領域が存在しない。このため、第2の個数は「0」となる。
【0024】
処理部2は、例えば、第1の個数に対する第2の個数の比率が所定の閾値以上の場合に、連結集合に含まれる各分割領域は第1の状態であると判定する。この閾値は、0より大きく1より小さい値に設定される。また、処理部2は、上記の比率が閾値未満であるか、または第1の個数が「0」の場合に、連結集合に含まれる各分割領域は第2の状態であると判定する。
【0025】
例えば閾値=0.5とすると、
図1の画像P1では、第1の個数に対する第2の個数の比率が「1」となり、閾値以上である。このため、連結集合G1に含まれる各分割領域B1~B4は、第1の状態であると正しく判定される。また、
図1の画像P2では、第1の個数が「0」である。このため、連結集合G2に含まれる分割領域B11~B21は、第2の状態であると正しく判定される。
【0026】
以上のように、画像識別装置1は、第1の識別処理によって第1の状態と識別された分割領域について、第2の識別処理の結果を考慮して第1の個数と第2の個数とを計数する。第1の個数と第2の個数との比較結果は、第1の識別処理によって第1の状態と識別され、かつ第2の状態と識別された領域と接する分割領域の個数と、第2の識別処理によって境界と識別された分割領域の個数とを比較した結果となる。このため、画像識別装置1は、第1の識別処理によって第1の状態と識別された分割領域(具体的には連結集合に含まれる分割領域)のそれぞれが第1の状態か、または第2の状態かを、第1の個数と第2の個数とに基づいて最終的に判定することで、これらの状態を精度よく識別できるようになる。すなわち、画像識別装置1によれば、医用画像から病変に関する状態を高精度に識別できる。
【0027】
〔第2の実施の形態〕
次に、病変に関する複数の状態として、肺野における複数の陰影種別を識別できるようにしたシステムについて説明する。
【0028】
図2は、第2の実施の形態に係る診断支援処理システムの構成例を示す図である。
図2に示す診断支援システムは、CT撮影による画像診断を支援するシステムであり、学習処理装置100、画像識別装置200およびCT装置300を含む。なお、画像識別装置200は、
図1に示した画像識別装置1の一例である。
【0029】
CT装置300は、人体のX線CT画像を撮影する。本実施の形態では、CT装置300は、胸部領域におけるアキシャル断面のCTスライス画像を、人体の高さ方向(アキシャル断面に垂直な方向)に対する位置を所定間隔で変えながら所定枚数撮影する。
【0030】
画像識別装置200は、CT装置300によって撮影された各スライス画像から肺野領域を特定し、肺野領域の画像を一定の大きさの「画像ブロック」に分割する。画像識別装置200は、画像ブロックのそれぞれについて、陰影の種別を識別する。この識別処理は、あらかじめ学習された学習モデルを用いて行われる。
【0031】
学習処理装置100は、画像識別装置200による陰影種別の識別処理で利用される学習モデルを、機械学習によって生成する。学習処理装置100によって生成された学習モデルのデータは、例えばネットワークを介して、あるいは可搬型の記録媒体を介して画像識別装置200に読み込まれる。
【0032】
図3は、画像識別装置のハードウェア構成例を示す図である。画像識別装置200は、例えば、
図3に示すようなハードウェア構成のコンピュータとして実現される。
図3に示すように、画像識別装置200は、プロセッサ201、RAM(Random Access Memory)202、HDD(Hard Disk Drive)203、GPU(Graphics Processing Unit)204、入力インタフェース(I/F)205、読み取り装置206および通信インタフェース(I/F)207を有する。
【0033】
プロセッサ201は、画像識別装置200全体を統括的に制御する。プロセッサ201は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)またはPLD(Programmable Logic Device)である。また、プロセッサ201は、CPU、MPU、DSP、ASIC、PLDのうちの2以上の要素の組み合わせであってもよい。
【0034】
RAM202は、画像識別装置200の主記憶装置として使用される。RAM202には、プロセッサ201に実行させるOS(Operating System)プログラムやアプリケーションプログラムの少なくとも一部が一時的に格納される。また、RAM202には、プロセッサ201による処理に必要な各種データが格納される。
【0035】
HDD203は、画像識別装置200の補助記憶装置として使用される。HDD203には、OSプログラム、アプリケーションプログラム、および各種データが格納される。なお、補助記憶装置としては、SSD(Solid State Drive)などの他の種類の不揮発性記憶装置を使用することもできる。
【0036】
GPU204には、表示装置204aが接続されている。GPU204は、プロセッサ201からの命令にしたがって、画像を表示装置204aに表示させる。表示装置としては、液晶ディスプレイや有機EL(Electroluminescence)ディスプレイなどがある。
【0037】
入力インタフェース205には、入力装置205aが接続されている。入力インタフェース205は、入力装置205aから出力される信号をプロセッサ201に送信する。入力装置205aとしては、キーボードやポインティングデバイスなどがある。ポインティングデバイスとしては、マウス、タッチパネル、タブレット、タッチパッド、トラックボールなどがある。
【0038】
読み取り装置206には、可搬型記録媒体206aが脱着される。読み取り装置206は、可搬型記録媒体206aに記録されたデータを読み取ってプロセッサ201に送信する。可搬型記録媒体206aとしては、光ディスク、半導体メモリなどがある。
【0039】
通信インタフェース207は、ネットワークを介して、CT装置300などの他の装置との間でデータの送受信を行う。
以上のようなハードウェア構成によって、画像識別装置200の処理機能を実現することができる。なお、学習処理装置100も、
図3に示すようなハードウェア構成のコンピュータとして実現可能である。
【0040】
次に、画像識別装置200で実行される陰影識別処理の概要について説明する。
まず、
図4は、陰影識別処理の基本的な流れを示す図である。CT装置300によって撮影対象者の胸部領域が撮影されると、画像識別装置200は、撮影によって得られた複数のスライス画像を取得する。画像識別装置200は、取得したスライス画像の中から肺野領域が写っているスライス画像を抽出する(ステップS11)。以下、抽出されたスライス画像のセットを「肺野画像セット」と記載する。
【0041】
次に、画像識別装置200は、肺野画像セット内の各スライス画像を一定の大きさの画像ブロックに分割する(ステップS12)。これとともに、画像識別装置200は、肺野画像セット内の各スライス画像から肺野領域を特定する。この特定処理は、例えば、機械学習によって事前に学習された肺野領域特定用の学習モデルを用いて実行される。このような処理により、各スライス画像の画像ブロックは、肺野領域内の画像ブロックと肺野領域外の画像ブロックとに分類される。
【0042】
次に、画像識別装置200は、肺野領域内の各画像ブロックについて陰影種別を識別する(ステップS13)。陰影種別は、陰影の種別を示すものであり、本実施の形態では、すりガラス影(Ground Glass Opacity:GGO)、浸潤影、蜂巣肺、肺気腫、その他の陰影のいずれかを示すものとする。さらに、陰影種別の1つとして正常も含まれる。このような陰影種別の識別は、機械学習によって事前に学習された陰影識別用の学習モデルを用いた識別器によって実行される。
【0043】
このような陰影識別処理により、肺野領域における異常陰影量を、陰影種別ごとに自動的に定量化できる。このような陰影識別処理は、例えば、びまん性肺疾患の診断に有効である。
【0044】
ところが、上記の陰影識別処理では、GGOと正常との識別に関して次のような課題がある。
図5は、GGOと正常との識別に関する課題を説明するための図である。
図5に示す画像P11~P13は、肺野領域を撮影したスライス画像の一部の例である。
【0045】
画像P11は、GGOと正常との識別誤りが発生しにくい場合の例である。この画像P11の例のように、通常、正常の領域は黒色(輝度0)に近い場合が多い一方、GGOの領域はグレーに近い色となる場合が多い。このような場合には、GGOの領域と正常の領域とは正しく識別される可能性が高い。
【0046】
しかし、正常の領域であっても、例えば息の吸い込みが不十分である場合などには薄い色になる場合がある。画像P12はこの場合の例であり、画像P12に写っている正常の領域の色は、画像P11よりも薄く(輝度が高く)なっている。このような場合、正常の領域の色がGGOの領域の色に近くなってしまうことから、正常の領域であってもGGOであると誤って識別される場合がある。
【0047】
また、画像P12における正常の領域では、肺内の空気の密度が一様であることから正常の領域全体が一様に薄い色になっている。これに対して、正常の領域であっても、胸壁付近の色が薄くなる場合がある。画像P13はこの場合の例であり、正常の領域のうち、肺の中心に近い部分では濃い色になっているが、胸壁に近いほど薄い色になっている。
【0048】
図5の下側に示す画像P11a~P13aでは、それぞれ画像P11~P13に対して上記の陰影識別処理が実行された場合に、GGOと判定された画像ブロックを太線で表している。画像P11aでは、色の濃いGGOの領域に含まれるすべての画像ブロックが、GGOと正しく識別されている。一方、画像P12aでは、薄い色の正常の領域に含まれるすべての画像ブロックが、GGOと誤って識別されている。また、画像P13aでは、正常の領域のうち、胸壁に近い薄い色の領域に含まれる画像ブロックが、GGOと誤って識別されている。
【0049】
以上の画像P12a,P13aの例のように、上記の陰影識別処理では、GGOの領域と、輝度がやや高くグレーになっている正常の領域とを正しく識別することが難しく、後者をGGOと誤って識別してしまう場合があるという問題がある。そこで、本実施の形態の画像識別装置200は、GGOの領域と正常の領域との境界に関する以下のような性質を利用して、GGOと正常とを正しく識別できるようにする。
【0050】
画像P12のように、正常の領域が一様にグレーになるケースは、上記のように息の吸い込みが不十分な場合に発生しやすい。この場合、肺内の空気の密度が一様であることから、肺の一部のみでなく肺全体がグレーになることが多い。これはすなわち、肺内にGGOの領域が発生していないことが多いことを意味し、当然ながら正常の領域とGGOを含むその他の陰影種別の領域との境界は存在しない。
【0051】
また、画像P13のように正常の領域の色(輝度)が一様でないケースは、部分容積効果(Partial Volume Effect)によって発生すると考えられる。部分容積効果は、ボクセル内に複数の組織が含まれている場合に、それらの組織のCT値を平均した値がピクセルのCT値になることによって、CT像で示されるCT値が不正確になる現象である。代表的には、種々の組織が隣接する部分で発生しやすく、その場合に組織の境界が不明瞭になる。
【0052】
画像P13のようなケースでも、肺(胸壁)の形状がスライス画像上の位置に応じて連続的に変化することで、部分容積効果の影響が連続的に変化し、それによって胸壁に近づくにつれて輝度がなだらかに変化すると考えられる。このように輝度がなだらかに変化する場合には、正常の領域とGGOを含むその他の陰影種別の領域との明確な境界は存在しない。
【0053】
一方、GGOは、肺の局所領域において肺の組織が実質的に変化するものである。このため、GGOの領域と正常の領域との境界は通常、目視で確認できる程度に明確である。このことから、スライス画像上の画像ブロックがGGOの領域と正常の領域との境界であるか否かを識別する識別処理は、比較的高精度に実現可能であると考えられる。
【0054】
そこで、画像識別装置200は、各画像ブロックに対して、上記の陰影識別処理に加えて、GGOの領域と正常の領域との境界であるか否かを識別する「境界識別処理」を施す。画像識別装置200は、陰影識別処理によってGGOと識別された領域と正常と識別された領域との境界領域に含まれる画像ブロックに関し、境界識別処理の識別結果を用いることでGGOか正常かをあらためて識別する。これによって、GGOと正常とを誤って識別する可能性を低減し、陰影識別精度を向上させる。
【0055】
以下、
図6~
図11を用いて、上記の画像P11~P13に対して本実施の形態の処理を適用した場合について例示する。
図6は、陰影識別処理および境界識別処理を実行した場合の処理結果を示す第1の図である。なお、
図6に示す画像P11では、わかりやすいように画像ブロックの境界を示すグリッド線を点線で表している。
【0056】
図6に示す画像P11bでは、上記の画像P11に対して陰影識別処理を実行した結果、GGOと識別された画像ブロック(GGOブロック)にハッチングを施して示している。画像識別装置200は、このようなGGOブロックのうち、隣接するGGOブロックを連結した画像ブロックの集合を「GGOブロック集合」として特定する。
図6の例では、画像P11cに示すように2つのGGOブロック集合G11a,G11bが特定されている。
【0057】
また、
図6に示す画像P11dでは、画像P11に対して境界識別処理を実行した結果、GGOの領域と正常の領域との境界であると識別された画像ブロック(境界ブロック)にハッチングを施して示している。
【0058】
図7は、陰影識別処理および境界識別処理の結果に基づく識別処理を示す第1の図である。画像識別装置200は、上記手順によって特定されたGGOブロック集合G11a,G11bのそれぞれについて、以下のようにして境界識別処理の結果と照合する。
【0059】
まず、画像識別装置200は、GGOブロック集合G11a,G11bに含まれるGGOブロックの中から、陰影識別処理によって正常と識別された画像ブロック(正常ブロック)と接するGGOブロックを特定する。
図7に示す画像P11eでは、特定されたGGOブロックにハッチングを施して示している。
【0060】
画像識別装置200は、GGOブロック集合G11a,G11bのそれぞれについて、上記のように特定された、正常ブロックと接するGGOブロックの数(GGOブロック数N)を計数する。
図7に示す表TB11には、GGOブロック集合G11a,G11bのそれぞれについて計数されたGGOブロック数Nを示している。GGOブロック集合G11aに含まれる該当ブロックのGGOブロック数Nは「12」と計数され、GGOブロック集合G11bに含まれる該当ブロックのGGOブロック数Nは「5」と計数される。
【0061】
また、画像識別装置200は、GGOブロック集合G11a,G11bのそれぞれについて、正常ブロックと接すると判定されたGGOブロックのうち、境界識別処理によって境界であると識別された境界ブロックの数(境界ブロック数M)を計数する。表TB11に示すように、GGOブロック集合G11aについては境界ブロック数Mが「10」と計数され、GGOブロック集合G11bについては境界ブロック数Mが「5」と計数される。
【0062】
画像識別装置200は、GGOブロック集合G11a,G11bのそれぞれについて、GGOブロック数Nに対する境界ブロック数Mの比率(M/N)を計算する。表TB11に示すように、GGOブロック集合G11aについてはM/N=0.83と算出され、GGOブロック集合G11bについてはM/N=1と算出される。
【0063】
画像識別装置200は、算出された比率を所定の閾値と比較する。閾値は、0より大きく1より小さい値に設定される。画像識別装置200は、比率が閾値以上である場合には、GGOブロック集合に含まれる各画像ブロックがGGOであると最終的に識別する。一方、画像識別装置200は、比率が閾値未満であるか、またはGGOブロック数N=0の場合には、GGOブロック集合に含まれる各画像ブロックが正常であると最終的に識別する。
【0064】
表TB11に示すように、GGOブロック集合G11aに含まれる各画像ブロックはGGOと識別され、GGOブロック集合G11bに含まれる各画像ブロックもGGOと識別される。このように、画像P11についてはGGOの画像ブロックがGGOであると正しく識別されていることがわかる。
【0065】
図8は、陰影識別処理および境界識別処理を実行した場合の処理結果を示す第2の図である。なお、
図8に示す画像P12では、わかりやすいように画像ブロックの境界を示すグリッド線を点線で表している。
【0066】
図8に示す画像P12bでは、上記の画像P12に対して陰影識別処理を実行した結果、GGOと識別されたGGOブロックにハッチングを施して示している。画像識別装置200は、このようなGGOブロックのうち、隣接するGGOブロックを連結したGGOブロック集合を特定する。
図8の例では、画像P12cに示すように1つのGGOブロック集合G12が特定されている。
【0067】
また、
図8に示す画像P12dでは、画像P12に対して境界識別処理を実行した結果を示している。この境界識別処理では、画像P12からはGGOの領域と正常の領域との境界であると識別される境界ブロックは検出されない。このため、
図6の画像P11dのようなハッチングの領域は現れない。
【0068】
図9は、陰影識別処理および境界識別処理の結果に基づく識別処理を示す第2の図である。画像識別装置200は、上記手順によって特定されたGGOブロック集合G12について、以下のようにして境界識別処理の結果と照合する。
【0069】
まず、画像識別装置200は、GGOブロック集合G12に含まれるGGOブロックの中から、陰影識別処理によって正常と識別された正常ブロックと接するGGOブロックを特定する。画像識別装置200は、このように特定された、正常ブロックと接するGGOブロックの数を示すGGOブロック数Nを計数する。
図9に示す画像P12eのように、GGOブロック集合G12からはこのようなGGOブロックは特定されない。したがって、
図9に示す表TB12のように、GGOブロック数Nは「0」と計数される。
【0070】
また、画像識別装置200は、GGOブロック集合G12において正常ブロックと接すると判定されたGGOブロックのうち、境界識別処理によって境界であると識別された境界ブロックの数を示す境界ブロック数Mを計数する。表TB12に示すように、境界ブロック数Mは「0」と計数される。そして、画像識別装置200は、GGOブロック数Nに対する境界ブロック数Mの比率(M/N)を計算する。GGOブロック数N=0であるので、表TB12に示すように、M/Nは計算不能である。
【0071】
画像識別装置200は、算出された比率を前述の閾値と比較し、比較結果に関する上記の条件に基づいて、GGOブロック集合G12に含まれる各画像ブロックがGGOであるか、または正常であるかを最終的に識別する。GGOブロック数N=0であるので、表TB12に示すように、GGOブロック集合G12に含まれる各画像ブロックは正常であると識別される。このように、画像P12については、陰影識別処理によってGGOと誤って識別された正常の画像ブロックが、最終的に正常であると正しく識別されていることがわかる。
【0072】
図10は、陰影識別処理および境界識別処理を実行した場合の処理結果を示す第3の図である。なお、
図10に示す画像P13では、わかりやすいように画像ブロックの境界を示すグリッド線を点線で表している。
【0073】
図10に示す画像P13bでは、上記の画像P13に対して陰影識別処理を実行した結果、GGOと識別されたGGOブロックにハッチングを施して示している。画像識別装置200は、このようなGGOブロックのうち、隣接するGGOブロックを連結したGGOブロック集合を特定する。
図10の例では、画像P13cに示すように1つのGGOブロック集合G13が特定されている。
【0074】
また、
図10に示す画像P13dでは、画像P13に対して境界識別処理を実行した結果を示している。この境界識別処理では、画像P13からはGGOの領域と正常の領域との境界であると識別される境界ブロックは検出されない。このため、
図6の画像P11dのようなハッチングの領域は現れない。
【0075】
図11は、陰影識別処理および境界識別処理の結果に基づく識別処理を示す第3の図である。画像識別装置200は、上記手順によって特定されたGGOブロック集合G13について、以下のようにして境界識別処理の結果と照合する。
【0076】
まず、画像識別装置200は、GGOブロック集合G13に含まれるGGOブロックの中から、陰影識別処理によって正常と識別された正常ブロックと接するGGOブロックを特定する。
図11に示す画像P13eでは、特定されたGGOブロックにハッチングを施して示している。画像識別装置200は、このように特定された、正常ブロックと接するGGOブロックの数を示すGGOブロック数Nを計数する。
図11に示す表TB13のように、このようなGGOブロック数Nは「10」と計数される。
【0077】
また、画像識別装置200は、GGOブロック集合G13において正常ブロックと接すると判定されたGGOブロックのうち、境界識別処理によって境界であると識別された境界ブロックの数を示す境界ブロック数Mを計数する。表TB13に示すように、境界ブロック数Mは「0」と計数される。そして、画像識別装置200は、GGOブロック数Nに対する境界ブロック数Mの比率(M/N)を計算する。表TB13に示すように、M/N=0と算出される。
【0078】
画像識別装置200は、算出された比率を前述の閾値と比較し、比較結果に関する上記の条件に基づいて、GGOブロック集合G13に含まれる各画像ブロックがGGOであるか、または正常であるかを最終的に識別する。比率が「0」であり閾値より小さいため、表TB13に示すように、GGOブロック集合G13に含まれる各画像ブロックは正常であると識別される。このように、画像P13についても、陰影識別処理によってGGOと誤って識別された正常の画像ブロックが、最終的に正常であると正しく識別されていることがわかる。
【0079】
以上のように、画像識別装置200は、陰影識別処理によってGGOと識別された画像ブロックについては、境界識別処理の結果を用いることで、GGOか正常かの識別処理を再実行する。これにより、グレーになった正常の領域の画像ブロックをGGOと誤って識別する可能性を低減でき、陰影識別精度を向上させることができる。
【0080】
次に、
図12は、学習処理装置および画像識別装置が備える処理機能の構成例を示す図である。
まず、学習処理装置100は、アノテーション処理部111、陰影識別器学習部112、境界識別器学習部113、教師画像記憶部121およびモデル記憶部122,123を備える。アノテーション処理部111、陰影識別器学習部112および境界識別器学習部113の処理は、例えば、学習処理装置100が備える図示しないプロセッサが所定のプログラムを実行することで実現される。教師画像記憶部121およびモデル記憶部122,123は、学習処理装置100が備える図示しない記憶装置に確保される記憶領域である。
【0081】
アノテーション処理部111は、収集されたCTスライス画像に基づいて、陰影識別器および境界識別器の学習用の教師画像セットを生成し、これらを教師画像記憶部121に格納する。後述するように、生成された教師画像セットに含まれる各教師画像には、正解ラベルとして、陰影識別器の学習用の第1ラベルと、境界識別器の学習用の第2ラベルとが付与される。
【0082】
陰影識別器学習部112は、教師画像記憶部121に格納された教師画像セットを取得し、各教師画像に付与された第1ラベルに基づいて、陰影識別処理を実行する陰影識別器を学習し、得られた学習モデルのデータをモデル記憶部122に格納する。
【0083】
境界識別器学習部113は、教師画像記憶部121に格納された教師画像セットを取得し、各教師画像に付与された第2ラベルに基づいて、境界識別処理を実行する境界識別器を学習し、得られた学習モデルを示すデータをモデル記憶部123に格納する。
【0084】
次に、画像識別装置200は、画像入力部211、肺野領域特定部212、陰影識別部213、境界識別部214、GGO・正常識別部215およびモデル記憶部221~223を備える。画像入力部211、肺野領域特定部212、陰影識別部213、境界識別部214およびGGO・正常識別部215の処理は、例えば、画像識別装置200が備えるプロセッサ201が所定のプログラムを実行することで実現される。モデル記憶部221~223は、RAM202、HDD203などの画像識別装置200が備える記憶装置に確保される記憶領域である。
【0085】
画像入力部211は、CT装置300によって撮影対象者の胸部領域を撮影することで得られた複数のCTスライス画像の入力を受け付ける。
モデル記憶部221には、肺野領域特定用の学習モデルのデータが格納されている。肺野領域特定部212は、画像入力部211に入力された複数のCTスライス画像の中から、肺野領域が写っているスライス画像のセット(肺野画像セット)を抽出する。肺野領域特定部212は、抽出された肺野画像セットに基づき、モデル記憶部221に格納されたデータに基づく学習モデルを用いて、肺野画像セット内の各CTスライス画像から肺野領域を特定する。
【0086】
モデル記憶部222には、陰影識別器の学習モデルのデータが格納されている。この学習モデルのデータは、学習処理装置100のモデル記憶部122から、ネットワークや可搬型記録媒体を介して画像識別装置200に入力され、モデル記憶部222に格納される。陰影識別部213は、モデル記憶部222に格納されたデータに基づく学習モデルを用いて、肺野画像セット内の各CTスライス画像に対して画像ブロック単位で陰影識別処理を実行し、各画像ブロックの陰影種別を識別する。
【0087】
モデル記憶部223には、境界識別器の学習モデルのデータが格納されている。この学習モデルのデータは、学習処理装置100のモデル記憶部123から、ネットワークや可搬型記録媒体を介して画像識別装置200に入力され、モデル記憶部223に格納される。境界識別部214は、モデル記憶部223に格納されたデータに基づく学習モデルを用いて、肺野画像セット内の各CTスライス画像に対して画像ブロック単位で境界識別処理を実行し、各画像ブロックがGGOの領域と正常の領域との境界を含むか否かを識別する。
【0088】
GGO・正常識別部215は、陰影識別部213によってGGOと識別された画像ブロック(GGOブロック)を含むCTスライス画像から、隣接するGGOブロックを連結したGGOブロック集合を特定する。GGO・正常識別部215は、GGOブロック集合に含まれるGGOブロックの中から、陰影識別部213によって正常と識別された画像ブロック(正常ブロック)と接するGGOブロックを特定し、特定されたGGOブロックの数を示すGGOブロック数Nを計数する。また、GGO・正常識別部215は、特定された(正常ブロックと接する)GGOブロックの中から、境界識別部214によってGGOの領域と正常の領域との境界を含むと識別されたGGOブロックの数を示す境界ブロック数Mを計数する。GGO・正常識別部215は、GGOブロック数Nと境界ブロック数Mとの比較結果に基づいて、GGOブロックに含まれる各画像ブロックがGGOであるか、または正常であるかを最終的に識別する。
【0089】
なお、本実施の形態では、陰影識別器および境界識別器の学習処理と、それらを用いた識別処理とが、それぞれ学習処理装置100と画像識別装置200という個別の情報処理装置で実行される。しかし、学習処理と識別処理は同一の情報処理装置で実行されてもよい。例えば、画像識別装置200が学習処理機能も備える場合、アノテーション処理部111、陰影識別器学習部112、境界識別器学習部113および教師画像記憶部121が、画像識別装置200に備えられればよい。この場合、陰影識別器学習部112および境界識別器学習部113による学習結果は、それぞれモデル記憶部222,223に直接格納されればよい。
【0090】
図13は、学習処理装置による学習処理の手順を示すフローチャートの例である。
[ステップS31]胸部領域が撮影されたCTスライス画像が複数枚収集され、アノテーション処理部111は、収集された各CTスライス画像を取得する。CTスライス画像は、例えば、512画素×512画素のCT画像として取得される。
【0091】
[ステップS32]アノテーション処理部111は、各CTスライス画像を一定サイズの格子状の画像ブロックに分割する。画像ブロックのサイズは、例えば16画素×16画素である。
【0092】
[ステップS33]アノテーション処理部111は、ユーザの入力操作に応じて、各CTスライス画像上の画像ブロックのうち、肺野領域に含まれる各画像ブロックに対して第1ラベルを付与する。第1ラベルは、陰影識別器の学習用の正解ラベルであり、複数の陰影種別のうちのどれであるかを示す。前述のように、陰影種別としては、GGO、浸潤影、蜂巣肺、肺気腫、その他の陰影、正常が適用される。ここでは例として、第1ラベルとしては、正常の場合に「0」が付与され、GGOの場合に「1」が付与され、浸潤影の場合に「2」が付与され、蜂巣肺の場合に「3」が付与され、肺気腫の場合に「4」が付与され、その他の陰影の場合に「5」が付与される。
【0093】
アノテーション処理部111は、第1ラベルが付与された各画像ブロックを、教師画像として教師画像記憶部121に格納する。また、アノテーション処理部111は、肺野領域に含まれない画像ブロックを破棄する。
【0094】
[ステップS34]アノテーション処理部111は、ユーザの入力操作に応じて、教師画像記憶部121に格納された画像ブロックのうち、第1ラベルがGGOを示す画像ブロック(GGOブロック)のそれぞれに対して、内部・境界ラベルを仮付与する。内部・境界ラベルは、画像ブロックが、GGOの領域の内部を含むか、またはGGOの領域と正常の領域との境界を含むかを示すラベルであり、ここでは例として、前者の場合に「0」が付与され、後者の場合に「1」が付与される。
【0095】
[ステップS35]アノテーション処理部111は、教師画像記憶部121に格納された各画像ブロックに対して第2ラベルを付与する。第2ラベルは、画像ブロックがGGOの領域と正常の領域との境界であるか否かを示す正解ラベルであり、ここでは例として、境界である場合に「1」が付与され、それ以外の場合に「0」が付与される。
【0096】
アノテーション処理部111は、画像ブロックに仮付与された内部・境界ラベルが「1」の場合、その画像ブロックに第2ラベルとしてGGOの領域と正常の領域との境界を示す「1」を付与する。また、アノテーション処理部111は、画像ブロックに仮付与された内部・境界ラベルが「0」の場合と、画像ブロックに内部・境界ラベルが付与されていない場合に、画像ブロックに第2ラベルとして上記の境界でないことを示す「0」を付与する。
【0097】
[ステップS36]陰影識別器学習部112は、教師画像記憶部121に格納された各画像ブロックを教師画像として取得し、各画像ブロックに付与された第1ラベルに基づいて陰影識別器を学習する。陰影識別器学習部112は、学習された陰影識別器を示す学習モデルのデータをモデル記憶部122に格納する。
【0098】
[ステップS37]境界識別器学習部113は、教師画像記憶部121に格納された各画像ブロックを教師画像として取得し、各画像ブロックに付与された第2ラベルに基づいて境界識別器を学習する。境界識別器学習部113は、学習された境界識別器を示す学習モデルのデータをモデル記憶部123に格納する。
【0099】
なお、陰影識別器の学習と境界識別器の学習では、同じ機械学習手法を用いることが可能である。これらの学習では、例えば、CNN(Convolutional Neural Network)を用いた深層学習が行われる。
【0100】
この後、モデル記憶部122に格納された学習モデルのデータと、モデル記憶部123に格納された学習モデルのデータとが、ネットワークや可搬型記録媒体を介して画像識別装置200に入力される。前者のデータはモデル記憶部222に格納され、後者のデータはモデル記憶部223に格納される。
【0101】
図14、
図15は、画像識別装置による画像識別処理の手順を示すフローチャートの例である。
[ステップS41]CT装置300により、撮影対象者の胸部領域が撮影される。画像入力部211は、撮影によって得られた複数のCTスライス画像の入力を受け付ける。肺野領域特定部212は、画像入力部211に入力された複数のCTスライス画像の中から、肺野領域が写っているスライス画像のセット(肺野画像セット)を抽出する。
【0102】
[ステップS42]ステップS48までの識別処理ループが、肺野画像セットに含まれるCTスライス画像(肺野画像)のそれぞれに対して実行される。
[ステップS43]肺野領域特定部212は、モデル記憶部221に格納されたデータに基づく学習モデルに処理対象の肺野画像を入力することで、肺野画像から肺野領域を特定する。また、肺野領域特定部212は、特定された肺野領域の画像を一定サイズの画像ブロックに分割する。
【0103】
[ステップS44]陰影識別部213は、モデル記憶部222に格納されたデータに基づく学習モデル(陰影識別器)に、肺野領域内の各画像ブロックを入力する。これにより、画像ブロックごとに陰影識別処理が実行され、画像ブロックが正常、GGO、浸潤影、蜂巣肺、肺気腫、その他の陰影のどれであるかが識別される。
【0104】
[ステップS45]境界識別部214は、モデル記憶部223に格納されたデータに基づく学習モデル(境界識別器)に、肺野領域内の各画像ブロックを入力する。これにより、画像ブロックごとに境界識別処理が実行され、画像ブロックがGGOの領域と正常の領域との境界であるか否かが識別される。
【0105】
このステップS45の処理は、ステップS44の処理と並行して実行可能である。ただし、ステップS45の処理は、この時点で実行されずに、例えば、後述するステップS51の直前または直後に実行されてもよい。
【0106】
[ステップS46]GGO・正常識別部215は、ステップS44の陰影識別処理によって識別された画像ブロックの中に、GGOの画像ブロック(GGOブロック)が含まれるかを判定する。GGOブロックが1つでも含まれる場合、処理がステップS49に進められ、GGOブロックが1つも含まれない場合、処理がステップS47に進められる。
【0107】
[ステップS47]GGO・正常識別部215は、肺野領域内の各画像ブロックの識別結果として、ステップS44の陰影識別処理の結果をそのまま出力する。
[ステップS48]肺野画像セットに含まれるすべての肺野画像について識別処理ループの実行が完了すると、画像識別処理が終了する。
【0108】
[ステップS49]GGO・正常識別部215は、肺野領域内の画像ブロックの中から、ステップS44の陰影識別処理によってGGOと識別されたGGOブロックを特定する。GGO・正常識別部215は、特定されたGGOブロックの中から、隣接するGGOブロック同士を連結することで、それぞれ1以上のGGOブロックを含むGGOブロック集合を特定する。
【0109】
[ステップS50]ステップS56までの境界識別処理ループが、特定されたGGOブロック集合のそれぞれに対して実行される。
[ステップS51]GGO・正常識別部215は、処理対象のGGOブロック集合に含まれるGGOの中から、ステップS44の陰影識別処理によって正常と識別された画像ブロック(正常ブロック)と接するGGOブロックを特定する。GGO・正常識別部215は、特定されたGGOブロックの数をGGOブロック数Nとして計数する。
【0110】
[ステップS52]GGO・正常識別部215は、ステップS51で特定された、正常ブロックと接するGGOブロックの中から、ステップS45の境界識別処理によってGGOの領域と正常の領域との境界と識別されたGGOブロックを特定する。GGO・正常識別部215は、特定されたGGOブロックの数を境界ブロック数Mとして計数する。
【0111】
[ステップS53]GGO・正常識別部215は、GGOブロック数Nに対する境界ブロック数Mの比率(M/N)を計算し、算出された比率が所定の閾値以上かを判定する。この閾値は、0より大きく、1より小さい値に設定される。比率が閾値以上の場合、処理がステップS54に進められる。一方、比率が閾値未満であるか、またはGGOブロック数N=0の場合には、処理がステップS55に進められる。
【0112】
[ステップS54]GGO・正常識別部215は、処理対象のGGOブロック集合に含まれる各画像ブロックをGGOと識別し、最終的な識別結果として出力する。
[ステップS55]GGO・正常識別部215は、処理対象のGGOブロック集合に含まれる各画像ブロックを正常と識別し、最終的な識別結果として出力する。
【0113】
[ステップS56]肺野画像から特定されたすべてのGGOブロック集合についての境界識別処理ループの実行が完了すると、処理がステップS57に進められる。
[ステップS57]GGO・正常識別部215は、識別処理ループにおける処理対象の肺野画像に含まれる画像ブロックのうち、GGOブロック集合に含まれない各画像ブロックの識別結果として、ステップS44の陰影識別処理の結果をそのまま出力する。この後、処理がステップS48に進められる。
【0114】
以上のように、画像識別装置200は、陰影識別処理によってGGOと識別された画像ブロックについては、境界識別処理の結果を用いることでGGOか正常かの識別を再度実行し、最終的な識別結果を出力する。これにより、グレーになった正常の領域の画像ブロックをGGOと誤って識別する可能性を低減できる。その結果、CT画像に基づく自動的な陰影識別の精度を向上させることができる。
【0115】
なお、上記の各実施の形態に示した装置(例えば、画像識別装置1,200、学習処理装置100)の処理機能は、コンピュータによって実現することができる。その場合、各装置が有すべき機能の処理内容を記述したプログラムが提供され、そのプログラムをコンピュータで実行することにより、上記処理機能がコンピュータ上で実現される。処理内容を記述したプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読み取り可能な記録媒体としては、磁気記憶装置、光ディスク、半導体メモリなどがある。磁気記憶装置には、ハードディスク装置(HDD)、磁気テープなどがある。光ディスクには、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、ブルーレイディスク(Blu-ray Disc:BD、登録商標)などがある。
【0116】
プログラムを流通させる場合には、例えば、そのプログラムが記録されたDVD、CDなどの可搬型記録媒体が販売される。また、プログラムをサーバコンピュータの記憶装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することもできる。
【0117】
プログラムを実行するコンピュータは、例えば、可搬型記録媒体に記録されたプログラムまたはサーバコンピュータから転送されたプログラムを、自己の記憶装置に格納する。そして、コンピュータは、自己の記憶装置からプログラムを読み取り、プログラムにしたがった処理を実行する。なお、コンピュータは、可搬型記録媒体から直接プログラムを読み取り、そのプログラムにしたがった処理を実行することもできる。また、コンピュータは、ネットワークを介して接続されたサーバコンピュータからプログラムが転送されるごとに、逐次、受け取ったプログラムにしたがった処理を実行することもできる。
【符号の説明】
【0118】
1 画像識別装置
2 処理部
B1~B4,B11~B21 分割領域
G1,G2 連結集合
P1,P1a,P1b,P2,P2a,P2b 画像