(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127493
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】エッチング装置
(51)【国際特許分類】
C23F 1/08 20060101AFI20230906BHJP
H05K 3/06 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
C23F1/08 103
H05K3/06 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031322
(22)【出願日】2022-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504345805
【氏名又は名称】株式会社 アルファー精工
(74)【代理人】
【識別番号】100156867
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 欣浩
(74)【代理人】
【識別番号】100143786
【弁理士】
【氏名又は名称】根岸 宏子
(72)【発明者】
【氏名】矢野 晋也
(72)【発明者】
【氏名】植竹 操
【テーマコード(参考)】
4K057
5E339
【Fターム(参考)】
4K057WA11
4K057WB04
4K057WE08
4K057WM06
4K057WM08
4K057WM09
4K057WN01
4K057WN02
5E339AB07
5E339AD01
5E339BC02
5E339BE13
5E339BE16
5E339CE11
5E339EE10
(57)【要約】
【課題】厚みが厚いワークにエッチングを行う場合でもサイドエッチを抑制することができ、またタクトタイムも抑えることができるエッチング装置を提供する。
【解決手段】エッチング装置1Aは、ワークWを搬送する搬送手段と、搬送手段によるワークWの搬送方向に沿って延在しエッチング液を送給するスプレー管3と、エッチング液をワークWに対して噴射可能であって、搬送方向に列をなしてスプレー管3に設けられる複数のスプレーノズル2と、搬送方向に直交する搬送直交方向に対してスプレー管3を移動可能であって、スプレーノズル2から噴射されるエッチング液がワークWに対して所定領域の搬送直交方向全域に亘って吹き付けられるようにスプレー管3を移動させる移動手段と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに対してエッチング液を噴射して当該ワークの所定領域にエッチングを行うエッチング装置であって、
前記ワークを搬送する搬送手段と、
前記搬送手段による前記ワークの搬送方向に沿って延在し前記エッチング液を送給するスプレー管と、
前記エッチング液を前記ワークに対して噴射可能であって、前記搬送方向に列をなして前記スプレー管に設けられる複数のスプレーノズルと、
前記搬送方向に直交する搬送直交方向に対して前記スプレー管を移動可能であって、前記スプレーノズルから噴射される前記エッチング液が前記ワークに対して前記所定領域の搬送直交方向全域に亘って吹き付けられるように当該スプレー管を移動させる移動手段と、を備えるエッチング装置。
【請求項2】
前記スプレーノズルは、スプレーパターンが細長状になるものであって、当該スプレーパターンの長手方向が前記搬送直交方向に沿う状態で前記スプレー管に設けられる、請求項1に記載のエッチング装置。
【請求項3】
前記搬送手段は、搬送経路の途中において、前記ワークを、前記搬送方向に位置する側が前記搬送直交方向に位置する側になるように姿勢変更する姿勢変更手段を備える、請求項2に記載のエッチング装置。
【請求項4】
前記スプレーノズルは、スプレーパターンが細長状になるものであり、
前記スプレー管は、前記スプレーパターンの長手方向が前記搬送方向に沿う状態で前記スプレーノズルが設けられた第一部分と、前記スプレーパターンの長手方向が前記搬送直交方向に沿う状態で前記スプレーノズルが設けられた第二部分とを有する、請求項1に記載のエッチング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より各種の回路基板が使用されている。近年は高輝度LEDやパワーモジュール向けの大電流が流れる回路基板を使用する機会が増えている。回路基板を大電流に対応させるには、抵抗値を下げるとともに大電流を流した際に十分な放熱性が確保されるように、回路パターンの厚みを厚くすることが有効である。
【0003】
回路パターンを厚肉にした回路基板を製造する技術として、特許文献1が知られている。この製造方法は、銅板の一面にハーフエッチングで回路パターンを形成し、形成した回路パターンに対してプリプレグを積層させ、更にこのプリプレグと反対側の面(未加工側)に回路パターンの残りを形成する、という工程を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3806294号公報
【特許文献2】特開平10-18057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし特許文献1の技術で回路基板を製造する場合、銅板の一面側と他面側の両方からハーフエッチングを行うため、工程が複雑になるとともにタクトタイムも長くなり、それに伴い製造コストも高くなってしまう。一方、銅板の一面側からのエッチングで回路パターンを形成しようとする場合、従来のエッチング装置(特許文献2や添付図面の
図6を参照)では銅板の厚みが厚くなるに伴って裾引き(サイドエッチ)が大きくなるため、十分な回路幅を確保することができない。
【0006】
このような従来の問題点に鑑み、本発明は、大電流用回路基板の回路パターンのように厚みが厚いワークにエッチングを行う場合でもサイドエッチを抑制することができ、またタクトタイムも抑えることができるエッチング装置を提供することを目的とする。併せて、このエッチング装置に関係する技術を用いた回路基板、及び回路パターンを製造する方法も提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ワークに対してエッチング液を噴射して当該ワークの所定領域にエッチングを行うエッチング装置であって、前記ワークを搬送する搬送手段と、前記搬送手段による前記ワークの搬送方向に沿って延在し前記エッチング液を送給するスプレー管と、前記エッチング液を前記ワークに対して噴射可能であって、前記搬送方向に列をなして前記スプレー管に設けられる複数のスプレーノズルと、前記搬送方向に直交する搬送直交方向に対して前記スプレー管を移動可能であって、前記スプレーノズルから噴射される前記エッチング液が前記ワークに対して前記所定領域の搬送直交方向全域に亘って吹き付けられるように当該スプレー管を移動させる移動手段と、を備えるエッチング装置である。
【0008】
上述したエッチング装置において、前記スプレーノズルは、スプレーパターンが細長状になるものであって、当該スプレーパターンの長手方向が前記搬送直交方向に沿う状態で前記スプレー管に設けられることが好ましい。
【0009】
また上述したエッチング装置において、前記搬送手段は、搬送経路の途中において、前記ワークを、前記搬送方向に位置する側が前記搬送直交方向に位置する側になるように姿勢変更する姿勢変更手段を備えることが好ましい。
【0010】
そして上述したエッチング装置において、前記スプレーノズルは、スプレーパターンが細長状になるものであり、前記スプレー管は、前記スプレーパターンの長手方向が前記搬送方向に沿う状態で前記スプレーノズルが設けられた第一部分と、前記スプレーパターンの長手方向が前記搬送直交方向に沿う状態で前記スプレーノズルが設けられた第二部分とを有することが好ましい。
【0011】
上記のエッチング装置による製造方法の一例としては、ワークに対してエッチング液を噴射するエッチング装置によって当該ワークの所定領域にエッチングを行って回路基板の回路パターンを製造する方法であって、前記エッチング装置は、前記ワークを搬送する搬送手段と、前記搬送手段による前記ワークの搬送方向に沿って延在し前記エッチング液を送給するスプレー管と、前記エッチング液を前記ワークに対して噴射可能であって、前記搬送方向に列をなして前記スプレー管に設けられる複数のスプレーノズルと、前記搬送方向に直交する搬送直交方向に対して前記スプレー管を移動させる移動手段と、を備え、前記スプレーノズルから前記エッチング液を噴射させつつ、前記搬送手段によって前記ワークを搬送させ、且つ前記移動手段によって前記スプレー管を、前記スプレーノズルから噴射される前記エッチング液が前記ワークに対して前記所定領域の搬送直交方向全域に亘って吹き付けられるように移動させることにより、前記回路パターンを製造する方法が挙げられる。
【0012】
上記のエッチング装置による製造物の一例としては、エッチングにより形成された回路パターンを備える回路基板であって、前記回路パターンのエッチング深さは0.5~2.0mmであり、当該回路パターンのエッチファクタは5以上である回路基板が挙げられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明のエッチング装置によれば、厚みが厚いワークにエッチングを行う場合でもサイドエッチを抑制することができ、またタクトタイムも抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係るエッチング装置の第一実施形態を示す図であって、(a)は正面図であり、(b)は平面図であり、(c)は側面図である。
【
図2】本発明に係るエッチング装置の第二実施形態を平面視で示した図である。
【
図3】本発明に係るエッチング装置の第三実施形態を平面視で示した図である。
【
図5】サイドエッチ量を更に抑制することができる原理を説明するための図である。
【
図6】従来のエッチング装置を示す図であって、(a)は正面図であり、(b)は平面図であり、(c)は側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら本発明に係るエッチング装置の一実施形態について説明する。なお、添付図面に示した図は模式的なものであり、各部分の厚みや幅、各部分同士の比率等は、実際に実施されるものとは異なる場合がある。
【0016】
まず、本発明に係るエッチング装置による製造物の一例である回路基板について、
図4(a)を参照しながら説明する。本実施形態の回路基板41は、回路パターン42、絶縁層43、ベース基板44をこの順で積層したものである。
【0017】
回路パターン42は、板状になる金属を後述するエッチング装置でエッチングすることによって所定のパターンに加工したものである。本実施形態の回路パターン42は、厚銅(圧延銅)により形成されている。また回路パターン42の厚みT(厚銅の厚み)は、0.5~2.0mmである。
【0018】
絶縁層43は、絶縁性を有する素材で形成され、回路パターン42とベース基板44とを電気的に絶縁する役割を果たすとともにそれらを互いに貼り付ける役割を果たしている。絶縁層43は、ベース基板44の表面全体を覆っていてもよいし、表面の一部を覆っていてもよい。
【0019】
絶縁層43の素材としては、一例として熱硬化性樹脂を含有する樹脂組成物が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、シアネート樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂として1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。熱硬化性樹脂以外に樹脂組成物に含有されるものとしては、例えば硬化剤が挙げられる。硬化剤は、熱硬化性樹脂の種類に応じて選択され、これと反応するものであれば特に限定されない。例えばエポキシ樹脂を使用する場合における硬化剤としては、アミン系硬化剤、イミダゾール系硬化剤、フェノール系硬化剤等が挙げられる。また樹脂組成物には、フィラー(無機充填材)を含有させてもよい。フィラーとしては、絶縁性に優れかつ熱伝導率の高いものが好ましく、例えば、酸化アルミニウム、シリカ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、酸化マグネシウム等が挙げられる。更に樹脂組成物には、硬化促進剤、安定剤、イオン捕捉剤、溶剤等を含有させてもよい。また樹脂組成物には、柔軟性付与材を含有させてもよい。
【0020】
ベース基板44は、種々の素材で形成することが可能であるが、特に熱伝導率の高い素材で形成することが好ましく、例えば銅、アルミニウム、鉄等の金属(単体金属でもよいし合金でもよい)により形成することが好ましい。本実施形態のベース基板44は板状であるが、熱を外部に放出させる効果を高めるためにフィン等を設けたものでもよい。またベース基板44は、単層構造でも多層構造でもよい。
【0021】
次に、本発明の完成に至るにあたって確認を行った従来のエッチング装置について、
図6を参照しながら説明する。
【0022】
図6に示した従来のエッチング装置51は、これまで、例えば厚みが薄い回路パターンをエッチングで形成する際に多用されている。このエッチング装置51は、エッチング液(例えば塩化第二鉄溶液)をワークWに向けて噴射するスプレーノズル52を備えている。スプレーノズル52は、平面に吹き付けた際のスプレーパターンが円形状になるいわゆる充円錐ノズルを使用していて、エッチング液を供給するスプレー管53に取り付けられている。スプレー管53は、
図6においてY方向に沿って延在していて、スプレーノズル52は、1本のスプレー管53に対してY方向に直列状に複数取り付けられている。スプレー管53は、不図示の揺動手段によってそれぞれの中心軸回りに揺動できるように構成されている。またスプレー管53は、
図6(b)に示したようにX方向に間隔をあけて複数設けられている。すなわちスプレーノズル52は、平面視でX方向及びY方向に間隔をあけて配置されている。なお、スプレーノズル52のX方向及びY方向の間隔は、スプレーノズル52からスプレー液を噴射させつつスプレー管53を揺動させた際、ワークWに吹き付けられる個々のスプレー液同士の間に隙間が生じないように(スプレーパターン同士が重なるように)比較的密に詰められている。
【0023】
更にエッチング装置51は、スプレーノズル52の上方において、Y方向に延在するとともにX方向に間隔をあけて配置された複数本のローラ54を備えている。エッチングを行うワークWは、ローラ54に載置される。そしてローラ54が回転することにより、ローラ54に載置されたワークWは、
図6に示したX方向に搬送される。なおX方向は、本明細書等の「搬送方向」に相当し、Y方向は「搬送直交方向」に対応する。
【0024】
このような構成になるエッチング装置51に対し、ワークWとして、
図4(b)に示すように、回路パターン42として加工される前の厚銅420が絶縁層43上に積層されている未加工の回路基板410を準備し、ローラ54によりワークWを搬送させつつスプレーノズル52からエッチング液を噴射させることによってエッチングを行って回路パターン42を形成する試験をおこなった。なお図示は省略するが、厚銅420の表面には、レジスト材(本実施形態においてはドライフィルムレジスト)が積層されている。また回路パターン42の範囲は、回路構成やこれに実装される電子部品の種類等によってその大きさや形状が変わり、厚銅420に対してX方向及びY方向の全領域に設けられることもあるし一部の領域にのみ設けられることがあるが、本試験では、厚銅420に対してX方向及びY方向の全領域に設けられるものとする。すなわちエッチング液は、厚銅420のX方向及びY方向の全領域に吹き付けられる。また試験に使用したワークWにおける厚銅420の厚みは1.5mmである。
【0025】
しかし従来のエッチング装置51でワークWをエッチングしたところ、厚銅420を所定の深さまでエッチングするのに要する時間(試験においては絶縁層43が露出するまでエッチングするのに要する時間)が多大であった。またエッチング後の回路パターン42を確認したところ、サイドエッチ量(
図4(a)に示した長さD)が過大になって意図したエッチファクタ(
図4(a)に示したT/Dの値)が得られず、またエッチファクタのばらつきも大きくなっていた。
【0026】
一方、これらの問題点について本願発明者が検討を重ねたところ、スプレーノズル52から噴射されるエッチング液の温度や圧力、スプレーノズル52からワークWまでの距離、スプレーノズル52の個体差、ワークWに吹き付けられたエッチング液の重なり具合の違い等が不具合につながっていることを見出した。そして更に検討を重ねて上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0027】
以下、
図1を参照しながら本発明に係るエッチング装置の第一実施形態であるエッチング装置1Aについて説明する。エッチング装置1Aは、塩化第二鉄溶液等のエッチング液を上方に向けて噴射してワークWに吹き付けるスプレーノズル2を備えている。なお
図1に示したワークWは、上述した
図4(b)、
図6に示したワークWと同一である。本実施形態のスプレーノズル2は、スプレーパターンが細長状になるいわゆる扇形ノズルを使用している。またスプレーノズル2は、エッチング液を供給する1本のスプレー管3に取り付けられている。本実施形態のスプレー管3は、
図1においてX方向に沿って延在していて、スプレーノズル2は、スプレー管3に対してX方向に直列状に複数取り付けられている。なおスプレーノズル2は、スプレーパターンの長手方向がY方向に沿う状態でスプレー管3に取り付けられている。
【0028】
またエッチング装置1Aは、スプレー管3をY方向に沿って移動させる不図示の移動手段を備えている。移動手段は、例えばY方向に沿って延在するガイドシャフトと、ガイドシャフトにスライド可能に保持されてスプレー管3に取り付けられるスライダーと、スライダーに連結するとともにY方向に沿って延在する駆動ベルトと、駆動ベルトを回転させるモータ等によって構成することができる。移動手段によってスプレー管3がY方向に移動する範囲は、少なくとも、ワークWにおける回路パターン42が設けられる領域に対してそのY方向の全域に亘ってエッチング液が吹き付けられる範囲とする。すなわち本実施形態の回路パターン42は、ワークWの厚銅420におけるY方向の全領域に設けられるため、
図1(b)に示した状態においては少なくとも、ワークWの左端部WLに対してスプレーパターンの左端部SLが重なる位置とワークWの右端部WRに対してスプレーパターンの右端部SRが重なる位置との間で、スプレー管3を移動させる。
【0029】
更にエッチング装置1Aは、スプレーノズル2の上方において、Y方向に延在するとともにX方向に間隔をあけて配置された複数本のローラ4を備えている。ローラ4は、平面視においてスプレーノズル2と重ならないように配置されている。またローラ4は、外形が円形状になる棒状であって、その中心軸まわりに回転することができる。ローラ4を回転させる回転機構としては、例えばそれぞれのローラ4にプーリを取り付けるとともにこれらのプーリに駆動ベルトを回しかけ、この駆動ベルトをモータで回転させるようにしたものが挙げられる。なお、本実施形態のローラ4と回転機構は、本明細書等の「搬送手段」に相当する。
【0030】
このような構成になるエッチング装置1Aは、ローラ4を回転させてワークWをX方向に搬送させつつ、スプレーノズル2からエッチング液を噴射させながらスプレー管3をY方向に移動させることにより、ワークWにエッチングを行うことができる。
【0031】
上述したように、従来のエッチング装置51で生じていた不具合は、例えばスプレーノズル52の個体差や、ワークWに吹き付けられたエッチング液の重なり具合の違い等が要因であった。これに対してエッチング装置1Aは、1本のスプレー管3に複数のスプレーノズル2をX方向に直列状に配置し、このスプレー管3をY方向に移動させることによってエッチング液をワークWに吹き付けるように構成しているため、スプレーノズル2の個体差やワークWに吹き付けられるエッチング液の重なり具合の違いによる影響を抑制することができ、これにより、サイドエッチを抑えてエッチファクタを高めることができる。またエッチングに要する時間は、上述したスプレーノズル2やスプレー管3等の新規の構成を採用したこと(特に、スプレーノズル2におけるスプレーパターンは細長状であり、ワークWに対してスプレー液が局所的に吹き付けられることからスプレー液の打力が高まること)、またスプレーノズル2から噴射されるエッチング液の温度や圧力、スプレーノズル2からワークWまでの距離等を適宜調整したことにより短縮することが可能であった。なお、エッチング装置1Aによる試験について、詳細な説明は後述する。
【0032】
ところでエッチング装置1Aを用いて検討を重ねたところ、サイドエッチ量Dは従来のエッチング装置51でエッチングを行う場合よりも抑えられるものの、後述するようにY方向の値に対してX方向の値が大きくなる傾向が認められた。そしてこの点を改善すべく更に検討を重ね、
図2に示すエッチング装置1Bの如き構成であれば、サイドエッチ量DはX方向でもY方向の値と同等に収められることが認められた。
【0033】
ここで
図2のエッチング装置1Bについて説明する。本実施形態のエッチング装置1Bは、上述したエッチング装置1Aと基本構成は同じであるが、複数のローラ4により構成される搬送経路の途中に、ワークWの姿勢を変更する姿勢変更手段5を備える点が相違する。姿勢変更手段5は、ワークWを、X方向に位置する側がY方向に位置する側になるように姿勢変更を行うものである。姿勢変更手段5を例示すると、ワークWの上方に設けられる移載機(上下方向に移動可能であり且つ鉛直軸まわりに回転可能であって、先端部に設けたワーク吸着部でワークWを上昇させた後、鉛直軸まわりにワークWを90度回転させ、更に元の高さまでワークWを下降できるように構成される)や、ローラ4により搬送されたワークWが載置される回転テーブル(鉛直軸まわりに回転可能であって、ローラ4でワークWが搬送されるとワークWを載置した状態で90度回転するように構成される)が挙げられる。
【0034】
なお
図2に示したエッチング装置1Bにおいて、スプレー管3は、姿勢変更手段5に対して搬送方向上流側と下流側で分離しているが、一体的に連結していてもよい。
【0035】
このような構成になるエッチング装置1Bによれば、姿勢変更手段5に対して搬送方向上流側でエッチングされたワークWは、姿勢変更手段5によって姿勢が90度変えられた後に搬送方向下流側でエッチングされる。すなわち、搬送方向上流側でワークWをエッチングした際にサイドエッチ量DがY方向よりもX方向で大きくなりつつあっても、姿勢変更後に引き続き搬送方向下流側でエッチングを行う際に、元のX方向の部位でのサイドエッチ量Dを抑えることができる。従って、最終的に所定の深さまでエッチングを行った際のサイドエッチ量Dは、当初X方向に位置していた部位でもY方向に位置していた部位の値と同等に収めることができる。なお本実施形態のエッチング装置1Bにおいて、搬送方向上流側でのワークWの搬送距離は、搬送方向下流側でのワークWの搬送距離よりも長くなっていて(すなわち、搬送方向上流側でワークWをエッチングする時間は搬送方向下流側でワークWをエッチングする時間よりも長い)、搬送方向上流側で主のエッチングを行い、搬送方向下流側で元のX方向の部位でのサイドエッチ量Dを抑えるエッチングを行うように構成されている。
【0036】
サイドエッチ量DにおけるX方向の値をY方向の値と同等に収めるには、
図3に示したエッチング装置1Cでも実現可能である。本実施形態のエッチング装置1Cは、複数のローラ4により構成される搬送経路の途中において、スプレーノズル2の向きを変更している。具体的には、搬送方向上流側において、スプレーノズル2は、スプレーパターンの長手方向がY方向に沿う状態でスプレー管3に取り付けられているが、搬送方向下流側では、スプレーノズル2は、スプレーパターンの長手方向がX方向に沿う状態で取り付けられている。本実施形態における搬送方向下流側のスプレーノズル2は、隣り合うスプレーノズル2のスプレーパターン同士がX方向で重ならないようにするため、X方向に沿う向きにスプレーノズル2を配置する際、一つおきにY方向にずらして全体として千鳥状になるようにしてスプレー管3に取り付けられている。
【0037】
なお
図3に示したスプレー管3のうち、スプレーパターンの長手方向がY方向に沿う状態でスプレーノズル2が取り付けられている部分(搬送方向上流側の部分)は、本明細書等の「第二部分」に相当し、スプレーパターンの長手方向がX方向に沿う状態でスプレーノズル2が取り付けられている部分(搬送方向下流側の部分)は、本明細書等の「第一部分」に相当する。また
図3におけるスプレー管3は、搬送方向上流側と下流側で分離しているが、一体的に連結していてもよい。
【0038】
このような構成になるエッチング装置1Cによれば、搬送方向上流側においてはスプレーパターンの長手方向がY方向に沿う状態でのスプレーノズル2から噴射されるエッチング液によってエッチングが行われ、搬送方向下流側においてはスプレーパターンの長手方向がX方向に沿う状態でのスプレーノズル2から噴射されるエッチング液によってエッチングが行われる。すなわち、搬送方向上流側でワークWをエッチングした際にサイドエッチ量DがY方向よりもX方向で大きくなりつつあっても、搬送方向下流側でエッチングを行う際には、元のX方向の部位でのサイドエッチ量Dを抑えることができる。従って、エッチング装置1Bと同様にエッチング装置1Cにおいても、最終的に所定の深さまでエッチングを行った際のサイドエッチ量Dは、X方向でもY方向の値と同等に収めることができる。
【0039】
ところで本願発明者が検討を重ねたところ、サイドエッチ量Dはスプレーノズル2の噴射角度によって更に抑制可能であることが見出された。この点につき
図5を参照しながら説明する。
【0040】
図5(a)は、ワークWとして
図4に示した回路基板410を使用し、
図2のエッチング装置1Bでエッチングを行う状況について示した図である。なお、
図5(a)における符合Rは、レジスト材(本実施形態ではドライフィルムレジスト)を示し、符合Hは、レジスト材Rの開口を示す。ところで
図2に示したエッチング装置1Bにおいて、スプレーノズル2は真上(Z方向)に向けてエッチング液を噴射する。この状態でエッチングを最後まで行ったところ、
図5(b)に示すように回路パターン42は、同一の開口Hにおける進行方向先頭側部分42Fのサイドエッチ量Dは、進行方向後尾部分42Rのサイドエッチ量Dよりも大きくなっていた。この原因について調査を重ねたところ、開口Hから入り込むエッチング液は開口Hの内側で液だまりとなり、この状態でワークWが搬送される結果、液だまりに接触しやすい進行方向後尾部分42Rでのエッチングが進行方向先頭側部分42Fよりも進みやすいことが認められた。
【0041】
一方、スプレーノズル2を真上に向けてある程度のエッチングを行った後、
図5(c)に示すように、ワークWの搬送方向に向けて噴射角度を傾けたスプレーノズル2でエッチング液を噴射したところ、
図5(d)に示すように、進行方向先頭側部分42Fのサイドエッチ量Dを、進行方向後尾部分42Rのサイドエッチ量Dと同等に抑えられることが認められた。すなわち、図示したようにスプレーノズル2の噴射角度が傾いているため、進行方向先頭側部分42Fに対してエッチング液が接触しやすくなり、また液だまりも進行方向先頭側部分42Fに接触しやすくなるからである。
【0042】
このため、サイドエッチ量Dを更に抑制する場合は、エッチング工程の後半において、ワークWの搬送方向に向けて噴射角度を傾けたスプレーノズル2でエッチングを行うことが好ましい。なお、スプレーノズル2の噴射角度について検討を重ねたところ、
図5(c)に示した鉛直方向を基準とする噴射角度θの好ましい範囲は10°≦θ≦45°であった。
【0043】
以下、上述した従来のエッチング装置51、本発明の一実施形態に係るエッチング装置1A、1B、1C、及びエッチング工程の後半においてスプレーノズル2の噴射角度を傾けたエッチング装置1Bによって、ワークWにおける厚銅420をエッチングした際の試験結果を示す。使用したワークWは何れの試験でも同一であって、厚銅420の厚みは1.5mmであり、絶縁層43が露出するまでエッチングを行う。また何れの試験でもエッチング液は塩化第二鉄溶液である。なお、スプレーノズル2、52から噴射されるエッチング液の温度、流量(噴射量)、圧力(噴射速度)等の他、スプレーノズル2、52からワークWまでの距離、ワークWの搬送速度、スプレー管3の移動速度等は、エッチングに要する時間の短縮、及びサイドエッチ量Dの抑制とエッチファクタT/Dの向上が両立できるように最適化した条件に設定されている。条件の一例を挙げると、下記の表1に示した比較例において、スプレーノズル52への流量は3~4L/minで圧力は0.2~0.3MPaに設定し、実施例1~4において、スプレーノズル2への流量は5~6L/minで圧力は0.4~0.5MPaに設定する。このような条件下で試験を行ったところ、下記の表1の結果が得られた。
【0044】
【0045】
表1の比較例に示したように、エッチング装置51によってワークWをエッチングして得られる回路パターン42は、サイドエッチ量Dが大であった。またエッチングに要する時間も大であった。一方、実施例1~3に示すように、エッチング装置1A~1Cによってエッチングを行うと、サイドエッチ量Dを抑えられることが認められた。またエッチングに要する時間は数十分程度であって、エッチング装置51での時間よりも短くできることが確認された。なお、エッチング装置1Aでエッチングを行った場合には、サイドエッチ量DはY方向よりもX方向が大きくなる傾向が認められたが、実施例2、3に示すようにエッチング装置1B、1Cによってエッチングを行うと、サイドエッチ量Dは、X方向、Y方向ともに0.2~0.3mmに収めることができ、またエッチファクタT/Dも5以上にできることが認められた。そしてエッチング工程の後半においてスプレーノズル2の噴射角度を傾けたエッチング装置1Bによってエッチングを行うと、サイドエッチ量Dは、X方向、Y方向ともに0.15~0.25mmに収めることができ、またエッチファクタT/Dは6以上にできることが認められた。またワークWとして厚銅420の厚みが0.5~2.0mmの範囲になるものを準備し、エッチング装置1A~1Cによって絶縁層43が露出するまでエッチングを行う試験を行ったところ、実施例1~4と同様の結果が確認された。
【0046】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、上記の説明で特に限定しない限り、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。また、上記の実施形態における効果は、本発明から生じる効果を例示したに過ぎず、本発明による効果が上記の効果に限定されることを意味するものではない。
【0047】
例えば、エッチング装置1A~1Cにおいて、スプレーノズル2はスプレーパターンが長細状になるものであったが、これに限られず、例えば平面に吹き付けた際のスプレーパターンが正方形状になるいわゆる充角錐ノズルを使用してもよい。スプレーノズル2として充角錐ノズルを使用する場合は、正方形状になるスプレーパターンの直交する2辺がX方向とY方向に指向するようにして、これをスプレー管3に取り付けるものとする。このような充角錐ノズルによれば、上述したスプレーパターンが細長状になるスプレーノズル2で生じていたサイドエッチ量DがY方向よりもX方向で大きくなる現象の改善につなげることができる。
【0048】
またエッチング装置1A~1Cの構成も適宜変更可能であって、例えばワークWに対して上方からスプレー液を吹き付けるようにしてもよい。また
図3に示したエッチング装置1Cにおいては、スプレーノズル2の配置を搬送方向上流側と下流側とで入れ替えてもよく、搬送方向上流側ではスプレーパターンの長手方向がX方向に沿う状態とし、搬送方向下流側ではスプレーパターンの長手方向がY方向に沿う状態になるようにしてもよい。また
図3ではスプレーノズル2の配置を搬送方向上流側と下流側の2箇所で変更していたが、これを更に増やしてもよい。
【0049】
また
図4(a)に示した回路基板41は、
図4(b)に示した如き予め厚銅420が絶縁層43に積層されているものをエッチングすることのみで形成されるものではなく、単体の厚銅420をワークWとしてエッチングを行って回路パターン42を形成し、それを絶縁層43に積層させてもよい。
【0050】
なお、
図5(c)に示すようにしてスプレーノズル2の噴射角度をワークWの搬送方向に向けて傾けた際、回路パターン42の形状によっては、進行方向先頭側部分42Fでのエッチングが進行方向後尾部分42Rよりも進行する可能性がある。この場合には、スプレーノズル2の噴射角度をワークWの搬送方向とは逆向きに傾けて、進行方向後尾部分42Rのエッチングが進行方向先頭側部分42Fよりも優先的に行われるようにしてもよい。スプレーノズル2の噴射角度をワークWの搬送方向とは逆向きに傾ける場合、
図5(c)に示した鉛直方向を基準とする噴射角度θは、-10°≦θ≦-45°の範囲で設定することが好ましい。
【符号の説明】
【0051】
1A、1B、1C:エッチング装置
2:スプレーノズル
3:スプレー管
4:ローラ(搬送手段)
5:姿勢変更手段
41:回路基板
42:回路パターン
W:ワーク