IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セイコーソリューションズ株式会社の特許一覧

特開2023-127511接触検出装置、通報装置、接触検出プログラム、及び通報プログラム
<>
  • 特開-接触検出装置、通報装置、接触検出プログラム、及び通報プログラム 図1
  • 特開-接触検出装置、通報装置、接触検出プログラム、及び通報プログラム 図2
  • 特開-接触検出装置、通報装置、接触検出プログラム、及び通報プログラム 図3
  • 特開-接触検出装置、通報装置、接触検出プログラム、及び通報プログラム 図4
  • 特開-接触検出装置、通報装置、接触検出プログラム、及び通報プログラム 図5
  • 特開-接触検出装置、通報装置、接触検出プログラム、及び通報プログラム 図6
  • 特開-接触検出装置、通報装置、接触検出プログラム、及び通報プログラム 図7
  • 特開-接触検出装置、通報装置、接触検出プログラム、及び通報プログラム 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127511
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】接触検出装置、通報装置、接触検出プログラム、及び通報プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/041 20060101AFI20230906BHJP
   G06F 3/044 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
G06F3/041 520
G06F3/041 512
G06F3/044
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031346
(22)【出願日】2022-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】313006647
【氏名又は名称】セイコーソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096655
【弁理士】
【氏名又は名称】川井 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100091225
【弁理士】
【氏名又は名称】仲野 均
(72)【発明者】
【氏名】益山 智浩
(72)【発明者】
【氏名】野村 浩一
(72)【発明者】
【氏名】三井 謙二
(57)【要約】
【課題】タッチセンサが使用される環境の変化によって生じる誤検出や検出漏れを少なくする。
【解決手段】タッチセンサの基準値Aを固定値ではなく、温度や湿度といった使用環境の変化に応じて変化する測定値Pを定期的に測定し、測定値Pを使用して基準値Aの設定と更新を行う。これによりタッチしたか否かを判断するための閾値B(=A+閾値量C)も使用環境に応じた値となる。環境E1で測定した測定値P3、P4は、閾値B(E2)以上であるため、両者ともに接触と判断される(図1)。一方、別の環境E2では、当該環境E2に応じた基準値A(E2)、閾値B(E2)に更新される。このため、仮に環境E1と同じ測定値P3、P4であったとしても、測定値P3は閾値B(E2)以上であるため接触と判断されるが、測定値P4は閾値B(E2)未満であるため非接触と判断されることになる。このように、誤検出や検出漏れを回避することが可能になる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電容量式のタッチセンサと、
前記タッチセンサによる静電容量の測定値が閾値Bを超えた場合にタッチされたことを検出する接触検出手段と、
前記タッチセンサにおける静電容量の測定値Pを取得する静電容量取得手段と、
前記取得した測定値Pを使用して、前記閾値Bを更新する更新手段と、
を具備したことを特徴とする接触検出装置。
【請求項2】
前記更新手段は、前記取得した測定値Pを使用して前記タッチセンサの基準値Aを更新し、更新した基準値Aに固定値である閾値量Cを加算した値で前記閾値Bを更新する、
ことを特徴とする請求項1に記載の接触検出装置。
【請求項3】
所定時間T毎に、測定試行を行う測定試行手段と、
前記静電容量取得手段は、前記測定試行において前記測定値Pを取得し、
前記更新手段は、前記測定試行において、前記測定値Pを使用して前記閾値Bを更新する、
ことを特徴とする請求項2に記載の接触検出装置。
【請求項4】
前記静電容量取得手段は、前記測定試行において、測定値Pをn回取得し、
前記更新手段は、前記測定試行において、前記取得したn回分の測定値Pの平均値を測定試行値Sとして取得し、取得した測定試行値Sを使用して基準値Aを更新する、
ことを特徴とする請求項3に記載の接触検出装置。
【請求項5】
前記更新手段は、m回の測定試行において取得するm回分の測定試行値Sの移動平均値を新たな基準値Aとして更新を行う、
ことを特徴とする請求項4に記載の接触検出装置。
【請求項6】
前記取得した測定試行値Sが、更新前の前記基準値Aから下限リミットL1以上小さい場合、今回の測定試行より前に取得済みの測定試行値Sと、今回の測定試行直前の基準値Aをクリアするクリア手段と、を備え、
前記更新手段は、前記クリア手段でクリアした測定試行以降に取得した測定試行値Sを使用して基準値Aを更新する、
ことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の接触検出装置。
【請求項7】
前記取得した測定試行値Sが、更新前の前記基準値Aから上限リミット以上大きい場合、今回の測定試行で取得した測定試行値Sを破棄する破棄手段と、を備え、
前記更新手段は、今回の測定試行直前の基準値Aを前記破棄した測定試行値Sの代りに使用して、基準値Aを更新する、
ことを特徴とする請求項4、請求項4、又は、請求項6に記載の接触検出装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7のうちのいずれか1の請求項に記載された接触検出装置と、
前記接触検出装置の前記タッチセンサの下に配設された押下ボタンと、
前記押下ボタンの押下を検出する押下検出手段と、
前記タッチセンサにタッチされたことが検出され、かつ、前記押下ボタンの押下が検出された場合に、あらかじめ決められた通報先に異常状態を通報する異常状態通報手段と、
を具備したことを特徴とする通報装置。
【請求項9】
静電容量式のタッチセンサによる静電容量の測定値が閾値Bを超えた場合にタッチされたことを検出する接触検出機能と、
前記タッチセンサにおける静電容量の測定値Pを取得する静電容量取得機能と、
前記取得した測定値Pを使用して、前記閾値Bを更新する更新機能と、
をコンピュータに実現するための接触検出プログラム。
【請求項10】
請求項9に記載の接触検出プログラムと、
前記タッチセンサの下に配設された押下ボタンの押下を検出する押下検出機能と、
前記接触検出機能で前記タッチセンサにタッチされたことが検出され、かつ、前記押下ボタンの押下が検出された場合に、あらかじめ決められた通報先に異常状態を通報する異常状態通報機能と、
を具備したことを特徴とする通報プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は接触検出装置、通報装置、接触検出プログラム、及び通報プログラムに係り、静電容量式のタッチセンサによる検出に関する。
【背景技術】
【0002】
特定操作の有無の検出や、データ入力や画面操作を検出するためのデバイスとして、静電容量式のタッチセンサを用いた接触検出装置等の各種機器が広く使用されている(例えば、特許文献1)。
静電容量式のタッチセンサは、人がセンサに触れた時の静電容量を測定し、触れていない時の静電容量と比べて、閾値量C以上増加している場合に、接触(タッチ)ありを検出する仕組みになっている。
【0003】
図8は、従来の静電容量式タッチセンサによる、接触検出の原理を表したものである。
図8に示すように、従来の静電容量式のタッチセンサ(以下、単にタッチセンサという)では、標準的な環境E0(例えば、温度23℃、湿度50%)において人がタッチセンサに触れていない状態で測定した静電容量値(以下、単に非接触静電容量値という)を基準値A0としている。そして、この基準値A0に閾値量Cを加算した値を閾値B0とし、閾値B0以上の静電容量を検出した場合にユーザがタッチセンサに接触したと判断している。
例えば、図8の左側に示すように、検出した静電容量Pが、閾値B0以上のP1である場合には接触ありと判断し、閾値B0未満である場合には非接触と判断するようになっている。
【0004】
そして、従来の基準値A0、閾値量C、閾値B0は、いずれも固定値である。
このため、図8の右側に示すように、異なる測定環境E1で測定した静電容量値が同じ値P3、P4であれば、固定の基準値A0に基づいて決められた閾値B0(固定値)を超えているため、ユーザがタッチセンサに接触したと判断している。
【0005】
しかし、タッチセンサの非接触静電量値は、気温や湿度といった測定環境に応じて変化する値である。すなわち、図8の右側に示すように、標準環境E0とは異なる環境E1で測定した場合の非接触静電容量値は、固定の基準値A0よりも高い値A’に変動している。
また、基準値A0からA’への変動と同様に、標準環境E0であればP1、P2となる測地値も、環境E1だとP3、P2に変動する。
この場合、測定環境E1で測定した静電容量の測定値P3は、固定である閾値B0も、非接触静電量値A’に閾値量Cを加算した閾値B’も共に超えた値であるため、接触と検出しても問題ない。
しかし静電容量の測定値P4の場合、非接触静電量値A’からの増加量が閾値量C以上(=閾値B’以上)ではないので、本来は非接触と判断すべき測定値であるにもかかわらず、閾値B0以上であることから接触と誤判断してしまっていた。
逆に、非接触静電量値A’が基準値A0よりも低い場合には、本来は接触と判断すべき測定値Pであるにもかかわらず、閾値B0未満となってしまい、非接触と判断してしまう場合もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005-18669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、タッチセンサが使用される環境の変化によって生じる誤検出や検出漏れを少なくすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)請求項1に記載の発明では、静電容量式のタッチセンサと、前記タッチセンサによる静電容量の測定値が閾値Bを超えた場合にタッチされたことを検出する接触検出手段と、前記タッチセンサにおける静電容量の測定値Pを取得する静電容量取得手段と、前記取得した測定値Pを使用して、前記閾値Bを更新する更新手段と、を具備したことを特徴とする接触検出装置を提供する。
(2)請求項2に記載の発明では、前記更新手段は、前記取得した測定値Pを使用して前記タッチセンサの基準値Aを更新し、更新した基準値Aに固定値である閾値量Cを加算した値で前記閾値Bを更新する、ことを特徴とする請求項1に記載の接触検出装置を提供する。
(3)請求項3に記載の発明では、所定時間T毎に、測定試行を行う測定試行手段と、前記静電容量取得手段は、前記測定試行において前記測定値Pを取得し、前記更新手段は、前記測定試行において、前記測定値Pを使用して前記閾値Bを更新する、ことを特徴とする請求項2に記載の接触検出装置を提供する。
(4)請求項4に記載の発明では、前記静電容量取得手段は、前記測定試行において、測定値Pをn回取得し、前記更新手段は、前記測定試行において、前記取得したn回分の測定値Pの平均値を測定試行値Sとして取得し、取得した測定試行値Sを使用して基準値Aを更新する、ことを特徴とする請求項3に記載の接触検出装置を提供する。
(5)請求項5に記載の発明では、前記更新手段は、m回の測定試行において取得するm回分の測定試行値Sの移動平均値を新たな基準値Aとして更新を行う、ことを特徴とする請求項4に記載の接触検出装置を提供する。
(6)請求項6に記載の発明では、前記取得した測定試行値Sが、更新前の前記基準値Aから下限リミットL1以上小さい場合、今回の測定試行より前に取得済みの測定試行値Sと、今回の測定試行直前の基準値Aをクリアするクリア手段と、を備え、前記更新手段は、前記クリア手段でクリアした測定試行以降に取得した測定試行値Sを使用して基準値Aを更新する、ことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の接触検出装置を提供する。
(7)請求項7に記載の発明では、前記取得した測定試行値Sが、更新前の前記基準値Aから上限リミット以上大きい場合、今回の測定試行で取得した測定試行値Sを破棄する破棄手段と、を備え、前記更新手段は、今回の測定試行直前の基準値Aを前記破棄した測定試行値Sの代りに使用して、基準値Aを更新する、ことを特徴とする請求項4、請求項4、又は、請求項6に記載の接触検出装置を提供する。
(8)請求項8に記載の発明では、請求項1から請求項7のうちのいずれか1の請求項に記載された接触検出装置と、前記接触検出装置の前記タッチセンサの下に配設された押下ボタンと、前記押下ボタンの押下を検出する押下検出手段と、前記タッチセンサにタッチされたことが検出され、かつ、前記押下ボタンの押下が検出された場合に、あらかじめ決められた通報先に異常状態を通報する異常状態通報手段と、を具備したことを特徴とする通報装置を提供する。
(9)請求項9に記載の発明では、静電容量式のタッチセンサによる静電容量の測定値が閾値Bを超えた場合にタッチされたことを検出する接触検出機能と、前記タッチセンサにおける静電容量の測定値Pを取得する静電容量取得機能と、前記取得した測定値Pを使用して、前記閾値Bを更新する更新機能と、をコンピュータに実現するための接触検出プログラムを提供する。
(10)請求項10に記載の発明では、請求項9に記載の接触検出プログラムと、前記タッチセンサの下に配設された押下ボタンの押下を検出する押下検出機能と、前記接触検出機能で前記タッチセンサにタッチされたことが検出され、かつ、前記押下ボタンの押下が検出された場合に、あらかじめ決められた通報先に異常状態を通報する異常状態通報機能と、を具備したことを特徴とする通報プログラムを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明では、タッチセンサにおける静電容量の測定値Pを使用して閾値Bを更新するので、タッチセンサが使用される環境の変化によって生じる誤検出や検出漏れを少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態のタッチセンサによる、測定環境に応じて設定、更新される基準値Aの状態と、接触検出の原理について表したものである。
図2】タッチセンサを搭載した通報装置の外観構成図である。
図3】通報装置の異常通報に関する機能構成図である。
図4】通報装置のハードウェア構成を表した説明図である。
図5】閾値量C、上限値、上限リミットL2、下限値、下限リミットL1についての説明図である。
図6】通報装置による基準値Aを決定する基準値処理の内容を表したフローチャートである。
図7】測定試行の内容とタイミングについて概念的に表した説明図である。
図8】従来の静電容量式タッチセンサによる、接触検出の原理を表した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の接触検出装置、通報装置、接触検出プログラム、及び通報プログラムにおける好適な実施の形態について、図1から図7を参照して詳細に説明する。
(1)実施形態の概要
本実施形態のタッチセンサでは、基準値Aを固定値ではなく、温度や湿度といった使用環境の変化に応じて変化する静電容量値(測定値P)を定期的に測定して、基準値Aの設定と更新を行うものである。これによりタッチしたか否かを判断するための閾値B(=A+閾値量C)も使用環境に応じた値となる。
なお、本実施形態では、ユーザがタッチセンサに接触している状態で電源がオンされた場合や、電源オンの後にユーザが継続的にタッチセンサに接触している場合においても適正に基準値Aを設定、更新することができるようにするため、非接触状態に限定されることなく測定した静電容量値(非接触静電量値の場合を含む)に基づいて基準値Aを決定するようにしている。
但し、以下の原理説明(図1)では、説明を単純化するために、測定した静電容量値が非接触静電量値である場合を例に説明する。
【0012】
図1は、本実施形態のタッチセンサによる、測定環境に応じて設定、更新される基準値Aの状態と、接触検出の原理について表したものである。
図1に示したように、本実施形態のタッチセンサでは、定期的に測定したタッチセンサの静電容量値を使用することで、基準値Aの値を、測定環境E1における基準値A(E1)、測定環境E2における基準値A(E2)というように、変化する測定環境に応じて設定、更新を行う。すなわち、図1に示すように、環境E1から環境E2にタッチセンサが移動すると、矢印q1で示すように、基準値A(E1)から基準値A(E2)に変更される。
そして環境に応じて設定した基準値A(E1)、A(E2)に、固定値である閾値量C(詳細は図5で後述する)を加算することで、両環境における閾値B(E1)、B(E2)とする。すなわち、図1の矢印p2に示すように、閾値Bの値は、環境E1の基準値A(E1)に閾値量Cを加算した閾値B(E1)から、図1の矢印q2に示すように、環境E2の基準値A(E2)に閾値量Cを加算した閾値B(E2)に変更される。
このように、環境に応じた基準値Aと閾値Bを使用することにより、測定環境における基準値A(=A(E1)、A(E2))から閾値量C以上増加した静電容量を測定した場合(閾値Bを超える場合)に接触と判断することができ、誤検出や検出漏れを回避することが可能になる。
【0013】
いま、図1に示すように、環境E1においてタッチセンサの測定値P3、P4が得られ、その後に環境E2に移動して測定した場合に測定値P5、P6が得られたものとし、かつ、両環境E1、E2下での測定値が同じ値、すなわちP5=P3、P6=P4であったものとする。
そして仮に、環境E2における基準値A、閾値Bが、測定環境の変化にもかかわらず、環境E1と同じ基準値A(E1)、閾値(E1)のままであったとすると、本来非接触と判断されるべき測定値P6(=P4)が接触と判断されてしまう。
これに対して、本実施形態では、測定環境が環境E1から環境E2に変化したことに対応して、基準値AがA(E1)からA(E2)に変更され、閾値BがB(E1)からB(E2)に変更される。このため、環境E2で測定した測定値P5(=P3)は閾値B(E2)以上であるため接触、測定値P6(=P4)は閾値B(E2)未満であるため非接触、というようにいずれの場合も正しく判断されることになる。
【0014】
基準値Aについては、次のように決定する。
すなわち、タッチセンサを搭載した端末の起動中(電源オン時)において、所定時間T(例えば、T=20秒)が経過する毎に、連続n回(例えば、n=3回)タッチセンサの静電容量の測定値P(非接触静電量値の場合を含む)を測定して、n回分の平均値(=(ΣP)/n)を求める。
本実施形態では、以上の処理を「測定試行」といい、測定試行を所定時間(例えば、数ミリ秒)以内に行う。この測定試行で求めたn回分の平均値を「測定試行値S」という。
【0015】
温度や湿度の環境変化による測定試行値Sの変動を平滑化するために、m回(例えば、3回)の測定試行値の移動平均値を求め、今回の測定試行時(現時点)の基準値Aとする。ここで、測定試行値の移動平均値は、今回の測定試行から遡ってm回分の測定試行値Sの平均値(=(ΣS)/m)である。
このように本実施形態では、所定時間T毎に求めた測定試行値Sを使用して基準値Aを求め更新している。
そして、タッチセンサの接触判定用の測定値Pに対し、当該測定時から遡って少なくとも時間T+α(α=測定試行の時間)以内に求めた測定試行値Sを使用して決定した基準値A(及び閾値B)に基づいて、接触か否かの判定が行われる。
従って、タッチセンサの周囲環境(温度、湿度)に応じて更新される閾値B(=基準値A+閾値量C)を使用することで、タッチセンサの測定値Pに対する接触の誤検出や検出漏れを回避することができる。
【0016】
また実施形態では、ユーザが通報装置1のタッチセンサ22に触れた状態で通報装置1の電源がオンになった場合などや、タッチセンサ22に金属が接触している状態を「特殊状態」とし、特殊状態に対する処理を規定している。
すなわち、測定試行値Sが(基準値A-下限リミットL1)以下である場合には、更新前の現在の基準値A、移動平均バッファ等をクリアし、今回の測定試行を含め再度m回分の測定試行値Sが得られるまでタッチセンサ機能を一時無効とする。無効にしたタッチセンサ機能は、クリアした基準値Aが新たに設定されることで解除される。
一方、測定試行値Sが(基準値A+上限リミットL2)以上である場合には、当該測定における測定試行値Sを破棄し、破棄した測定試行値Sの代りに現在の基準値Aを使用して移動平均値を算出し、新たな基準値Aとする。
【0017】
(2)実施形態の詳細
図2は本実施形態が適用されるタッチセンサを搭載した通報装置1の外観構成を表したものである。
通報装置1は、ユーザが緊急事態や異常を感じた場合に、予め決められた通報センタ(緊急センタ等)に異常状態を通報するための装置である。そのため通報装置1は、ユーザが常時身に付けたり、鞄等に入れて所持することができるようにするために、携帯可能な小型サイズに形成され、上部に図示しないストラップ穴が形成されている。
【0018】
通報装置1の正面には、通報ボタン21、タッチセンサ22、表示パネル23、マイク24、スピーカ25を備えている。これらの詳細については後述する。
通報ボタン21は、物理的に押下されたことを検出する機械式のボタンで、この通報ボタン21の上部に静電容量式のタッチセンサ21が配置されている。
このように通報ボタン21の上部にタッチセンサ21が配置されることで、通報装置1は、タッチセンサ21による接触(タッチ)ありを検出し、かつ、通報ボタン21の押下を検出した場合に、通報センタへの通報が行われるように構成されている。
なお、通報装置1は、図示しないがその他に、電源ボタン、バッテリ、USB端子、バッテリを充電するための充電端子、通信用のアンテナ等を備えている。
【0019】
表示パネル23は、例えば図示されているように、電波の受信状態、電池残量等の状態表示や、異常通報に関連して「通報中」等の通信状態の表示、その他ユーザに対する指示表示等の各種表示がされる。
なお、本実施形態では、通報装置1に適用されるタッチセンサ22として通報ボタン21の上部に配置され、表示パネル23がタッチセンサと別位置に配置されている。これに対して、通常の端末装置等のデータ入力部としてタッチセンサ22が適用される場合には、本実施形態で説明するタッチセンサ22が表示パネル23の上部に配置される。
【0020】
マイク24は、異常通報を行った際に、ユーザの音声を通報センタに伝えるための入力装置である。
一方、スピーカ25は、異常通報を行った際に、通報センタから受信する、オペレータの音声や電子音声を出力する出力装置である。
【0021】
図3は、通報装置1の異常通報機能についての機能構成を表したものである。
図3に示すように、通報装置1は、制御部10が後述する通報プログラム271、や基準値プログラム272による各種処理を行うことで、基準値処理部10a、基準値A記憶部10b、タッチ検出部10c、通報部10d、その他の各部として機能する。
この制御部10には、通報ボタン21からのボタン信号B、タッチセンサ22からの測定値Pを取得する。
制御部10の基準値処理部10aは、所定時間Tごとに行う測定試行で測定試行値Sを求め、求めた試行測定値Sの移動平均値により基準値Aを求める。基準値処理部10aは、求めた基準値Aを基準値A記憶部10bに保存(電源ボタンがオンされた後の設定と、その後の更新)する。
また、基準値処理部10aは、通報部10dに、センサ機能の無効信号、有効信号を供給する。すなわち、基準値処理部10aは、測定試行値Sが下限リミットL1以下の場合にセンサ機能の無効信号を供給し、測定試行値Sが下限リミットL1より大きく、かつ、上限リミットL2未満になった場合に有効信号を供給する。
【0022】
タッチ検出部10cは、測定試行で行われるタッチセンサ22の検出とは別に、ユーザがタッチセンサに接触(タッチ)したか否かを判定する。すなわち、タッチ検出部10cは、従来のタッチセンサと同様に、タッチセンサ22による静電容量の測定値Pが閾値Bよりも大きければユーザの接触を検出する。
ここで閾値Bは、基準値Aに閾値量Cを加えた値であるが、タッチセンサ22の基準値Aが基準値処理部10aで適時更新されるので、閾値Bの値も使用される湿度や温度当の環境に応じて適切な値に更新される。このため、固定値を使用する従来と異なり、本実施形態では、使用環境に対応して、より精度よく接触の検出が行われる。
【0023】
通報部10dは、タッチセンサ機能が有効である場合、タッチ検出部10cでの接触と、通報ボタン21からボタン信号Bの入力(通報ボタンオン)の両者を検出したことを条件に、通報センタに異常状態の発生を通報する。この通報がされると、図2に示すように表示パネル23に「通報中」の表示がされる。
また、タッチセンサ機能が有効な場合、タッチ検出部10cによる接触が検出されただけで、通報ボタン信号Bの入力がない場合には、単にユーザの指などがタッチセンサ22に触れただけと判断できるので、通報部10dは異常通報をしない。逆に、通報ボタン信号Bの入力があるが、タッチ検出部10cによる接触が検出されない場合には、ユーザによる押下ではなく、鍵などの物体に押されただけと判断できるので、通報部は異常通報をしない。
一方、タッチセンサ機能が無効である場合、通報部10dは、タッチセンサ22が特殊状態であると判断し、タッチ検出部10cによる接触の検出の有無にかかわらず、通報ボタン21からのボタン信号Bの入力だけで、通報センタへの異常通報を行う。
【0024】
図4は、通報装置1のハードウェア構成を表したものである。図4における各部は、図2図3で示した各部と同一部分について同一の符号を付して適宜その説明を省略する。 図4に示すように、通報装置1は、制御部10、通報ボタン21、タッチセンサ22、表示パネル23、マイク24、スピーカ25、通信制御部26、記憶部27を備えている。
制御部1は、CPU11、ROM12、RAM13を有している。
CPU11は、ROM12や記憶部27等の各種記憶部に記憶されたプログラムに従って、各種の情報処理や制御を行う。具体的には、CPU11は、後述する通報プログラム271や基準値プログラム272を実行することで、ユーザによる通報ボタン21の接触判断や、通報センタへの通報等を行う。
【0025】
RAM13は、CPU11が各種演算や制御を行う際に必要なプログラムやデータを一時記憶するワーキングメモリであり、本実施形態では、初期値データ130、基準値領域131、測定試行回数132、センサ機能フラグ133、測定値バッファ134、移動平均バッファ135、測定値136などが一時記憶される。
初期値データ130は、電源がオンされた際に初期設定されるデータであり、具体的には、記憶部27から読み出した閾値量C、上限リミットL2、下限リミットL1(詳細は後述する)が保存される。
【0026】
RAM13における基準値領域131~移動平均バッファ135は、基準値プログラム272の実行による基準値処理において保存、使用されるデータである。
基準値領域131は、タッチセンサ22が使用される環境に応じて設定、更新される基準値Aを保存するために確保される領域である。この基準値領域131は、通報装置1の異常通報機能の機能構成(図3)における基準値A記憶部10bに該当する。
測定試行回数132は、測定試行の回数が保存され、測定試行が行われる毎に、最大m回までカウントアップされる。
センサ機能フラグ133は、電源がオンされてから(m-1)回目の測定試行までの間、及び、測定試行値Sが(基準値A-下限リミットL1)以下の特殊状態である場合(後述のS20;Y)に、オンとなるフラグである。このセンサ機能フラグ133がオンの場合、タッチセンサ機能が無効とされ、ユーザの異常状態を通報センタに通報するか否かを判定する際に、通報ボタン21の押下だけで異常通報が行われる。
【0027】
測定値バッファ134は、測定試行において測定されるタッチセンサ22の測定値Pがn回分保存される領域である。
本実施形態において、測定試行毎に測定値Pを測定する回数はn=3回であり、測定値バッファ134には3回分の測定値Pが保存される。
【0028】
移動平均バッファ135は、測定値バッファ134に保存されたn個の測定値Pの平均値(=測定試行値S)が保存される。
この移動平均バッファ135には、測定試行が行われた順にm回分の測定試行値Sが保存される。m+1回目以降の測定試行の場合、移動平均バッファ135は、最も古い測定試行値Sが最新の測定試行値Sで書換えられる。なお、移動平均バッファ135として、FIFO(ファーストイン・ファーストアウト)機能を有するメモリを使用するようにしてもよい。
【0029】
測定値136には、基準値Aを求めるための測定試行とはべつに、所定周期ごとに測定されるタッチセンサ22の静電容量(測定値P)が保存される。この測定値Pが、閾値B(=基準値A+閾値量C)を超えたか否かにより、ユーザによる接触があったか否かが判断される。本実施形態では、接触についての判断結果が、異常通報するか否かの判定に使用される。
【0030】
通信制御部26は、例えば、インターネットなどの通信ネットワークを介して通報センタと接続し、ユーザが異常状態であることの通報や、通報装置1と通報センタ間での音声、情報の送受信が行われる。
【0031】
記憶部27は、例えば、大容量のハードディスクや、フラッシュメモリなどの半導体メモリ等の各種記憶手段で構成され、また、これら記憶手段の組み合わせにより構成されている。
記憶部27には、通報プログラム271、基準値プログラム272、初期値データ273、その他のプログラムやデータが保存される。
通報プログラム271は、図3で説明した異常通報機能を実行するためのプログラムである。
基準値プログラム272は、タッチセンサ22の測定値Pを使用することで、タッチセンサ22が使用される環境(湿度や温度等)に応じた基準値Aの値を設定、更新するプログラムである。
【0032】
初期値データ273は、RAM13の初期値データ130に初期設定される閾値量C2、上限リミットL2、下限リミットL1が保存されている。
図5は、閾値量C、上限値、上限リミットL2、下限値、下限リミットL1についての説明図である。
図5では、タッチセンサ22で計測した数値と、その数値に対応する実際の容量値(pF)を示し、基準値A0(標準環境E0における基準値A)の一例として14000(3.5pF)を示している。
そして、この基準値A0の各値を基準に、増加、減少した値を±値で表している。
ただし、各容量値はタッチセンサ(パネル)の電極の面積や電極間の距離、パネルの材質などで変化する値であり、図5では、特定製品での値を一例として示している。
図5では、基準値A0=14000(3.5pF)を基準として、基準値A0からの増加量をプラス(+)で、減少量をマイナス(-)で表している。
具体例として、閾値量Cは+400(+0.1pF)、上限リミットL2は+200(+0.05pF)下限リミットL1は+300(+0.7pF)である。
以下、閾値量C、上限リミットL2、下限リミットL1について説明する。
【0033】
閾値量Cは、定期的に測定するタッチセンサ22の静電容量値Pを使用して求めた基準値Aに加算することで閾値Bを求めるための値で、基準値Aから閾値Bまでの静電容量値の増加量である。
非接触状態のタッチセンサ22に人が接触することで静電容量の値は増加するが、その増加量は環境の変化によって変化しないので、閾値量Cについては固定値であり、標準環境E0における基準値A0に対する増加量から決められている。
一例として、図5の右側に示すように、大人が指の腹でしっかりとタッチセンサに触れた場合の静電容量値は、基準値A0から1200(0.3pF)前後増加(+)し、子供の場合に500(0.125pF)前後増加(+)する。
そこで、多数の年齢、性別のユーザが実際にタッチセンサ22に触れた際の静電容量値のサンプルを使用して増加量Δ(基準値A0からの増加量)を決め、この増加量Δよりも小さい値を閾値量Cとしている。
基準値A+増加量Δ>閾値B(=基準値A+閾値量C)でなければ接触の検出ができないので、閾値量Cは増加量Δ未満であることが必要である。例えば、閾値量Cは増加量Δの30%~80%の範囲で選択される。
なお、閾値Bは、タッチセンサ22がタッチされたか否かを判断するための閾値で、タッチセンサ22で検出する静電容量の値(測定値P)が閾値B以上である場合にタッチされたと判断される。
閾値量Cが固定値であることから、閾値Bは、基準値Aと同様にタッチセンサ22が使用される環境に応じた値に変動することで、その環境に応じた適切な接触判定を行うことが可能になる。
【0034】
上限リミットL2と下限リミットL1は、基準値処理において使用され、タッチセンサ22が特殊状態であるか否かを判断するための制限値である。
すなわち、測定試行値Sが上限値(=基準値A+上限リミットL2)以上である場合(以下、上限特殊状態という)、測定試行値Sが下限値(=基準値A-下限リミットL1)以下である場合(以下、下限特殊状態という)に特殊状態と判断される。なお、上述の通り、測定試行値Sは、測定試行におけるn個の測定値Pの平均値((ΣP)/n)である。
【0035】
上限特殊状態は、例えば、タッチセンサ22に金属等が接触している場合などに発生する特殊状態である。
上限特殊状態か否かの判断を可能にするため、上限リミットL2は、閾値量Cよりも小さな値であり、金属が接触している場合の増加量+300(+0.075pF)よりも小さな値として、閾値量Cの略w倍(本実施形態では、w=0.5C)、本実施形態では上限リミットL2=+200(+0.05pF)に設定されている。
これにより図5に黒丸で示すように、測定試行値Sが、基準値Aに上限リミットL2を加えた上限値=1600(3.55pF)以上の測定試行値S12の場合に上限特殊状態と判断される。そして、測定試行値S12のように上限値(A+L2)以上の上限特殊状態と判断された場合、今回の測定試行値Sが破棄され、移動平均バッファ135には、現在の基準値Aが保存される(図6のステップ23参照)。
一方、二重丸で示すように、上限値未満の測定試行値S11の場合には、正常な状態と判断され、タッチセンサ機能が有効にされる(図6のステップ24参照)。
【0036】
一方、下限特殊状態は、例えば、ユーザがタッチセンサ22に触れている状態で電源がオンされた場合や、ユーザがタッチセンサ22に連続的に触れている場合等において、基準値Aが高くなってしまうことにより発生する特殊状態である。この場合の下限特殊状態は、継続接触により上昇した基準値Aの異常でもある。このように基準値Aが上昇した特殊状態において、タッチセンサ22との接触が離れた直後の測定試行において、測定試行値Sが下限値(A0-L1)を下回ることになる。
下限リミットL1は、例えば、標準的な環境E0で測定した場合の基準値A0(図8参照)から、減少量-200(-0.05pF)~減少量-400(0.1pF)の範囲で選択される。本実施形態では、下限リミットL1=-300(0.075pF)に設定されている。
これにより図5に黒丸で示すように、測定試行値Sが基準値A0に下限リミットL1を加えた下限値=1100(3.425pF)以下の測定試行値S14の場合に下限特殊状態と判断される。そして、測定試行値S14のように下限値(A-L1)以下の下限特殊状態と判断された場合、基準値Aと移動平均バッファ135の全値がクリアされ、タッチセンサ機能が無効になり、初期状態になる(図6のステップ21、15参照)。
一方、二重丸で示すように、下限値より大きい測定試行値S13の場合には、正常な状態と判断される(図6のステップ20;Y)。
なお、図5では、標準環境E0における基準値A0を1400(3.5pF)として表示し、この値に対する増減値として各値を表しているが、閾値量Cを決定する場合を除き、実際のタッチセンサでの接触検出や基準値Aを変更する基準値処理(図6)では、測定環境に応じて更新される基準値Aに対して増減した閾値、上限値、下限値が使用される。
【0037】
次に、以上のように構成された通報装置1による基準値処理の動作について説明する。
図6は、基準値Aを決定する基準値処理の内容を表したフローチャートで、通報装置1のCPU11が基準値プログラム272を実行することで処理される。この基準値プログラム272は、通報装置1の電源がオンされた後に、所定時間T秒毎(定期的)に実行される。
本実施形態では、T秒=20秒毎に実行されるが、他の時間間隔、例えば10秒毎、30秒毎、60秒毎等に実行するようにしてもよい。ただし、時間Tが長いと、基準値Aの更新にタイムラグが生じるため、最大120秒以下、好ましくは60秒以下に設定されることが好ましい。
また、通報装置1を駆動するためのバッテリの充電残量が所定量(例えば全体の10%)以下になった場合に、T秒をデフォルトの値=20秒よりも長い時間、例えば60秒に変更するなど、バッテリ残量に応じてT秒の値を長い値に変更するようにしてもよい。
【0038】
CPU11は、通報ボタン21が押下中であるか(ステップ11)を判断し、押下中である場合(ステップ11;Y)、今回の基準値処理を終了する。
通報ボタン21が押下中でない場合(ステップ11;N)、CPU11は、表示パネルに異常通報に基づく特定の表示(例えば、図2に示す「通報中」の表示)をしているか否かを判断し(ステップ12)、表示中である場合(ステップ12;Y)、今回の基準値処理を終了する。
【0039】
表示パネルが特定の表示をしていない場合(ステップ12;N)、CPU11は、測定試行値Sを取得する(ステップ13)。
図7は、測定試行の内容とタイミングについて概念的に表したものである。
図7の下段に示すように、測定試行は、基準値プログラム272の基準値処理が行われる毎(=T秒毎)に行われる。
各測定試行において、CPU11は、図7の上段に示すように、測定試行の開始から数ミリ秒の間に、タッチセンサ22の静電容量値をn回測定し、測定値P1~Pnをその測定順に測定値バッファ134に保存する。
CPU11は、保存した測定値P1~Pnの平均値=(ΣP)/nを求め、測定試行値Sとして取得する。この測定試行値Sは、移動平均バッファ135の保存対象となる。
【0040】
図6に戻り、ステップ13で測定試行値Sを取得した後、CPU11は、m回の測定試行が終了しているか否かを判断する(ステップ14)。すなわち、CPU11は、RAM13の測定試行回数132の値がmか否かを判断する。
測定試行回数132の値がm未満であり、m回の測定試行が終了していない場合(ステップ14;N)、CPU11は、RAM13のセンサ機能フラグ133をオフにすることで、タッチセンサ22のタッチセンサ機能を無効にする(ステップ15)。これにより、異常通報をする際の判断条件の対象からタッチセンサ22の接触が除外される。
【0041】
次に、CPU11は、ステップ13で取得した測定試行値SをRAM13の移動平均バッファ135に保存するとともに、n回分の測定値Pが保存されている測定値バッファ134をクリアする(ステップ16)。
またCPU11は、RAM13の測定試行回数132の値に1を加算し(ステップ17)、加算後の測定試行回数がm回になったか否か確認する(ステップ18)。
測定回数がm回になっていない場合(ステップ18;N)、電源オンの後、基準値Aを求めるために必要な回数分の測定試行値Sが移動平均バッファ135に保存されていないので、CPU11は今回の基準値処理を終了する。
以上のステップ14;Yからステップ18までの処理は、図7の下段に示すように、電源をオンした直後の測定試行1からm回目の測定試行mまで回繰り返される。
【0042】
一方、測定回数がm回である場合、すなわち今回の測定試行がm回目である場合(ステップ18;Y)、CPU11は、移動平均バッファ135に保存されているm回分の測定試行値S1~Smの移動平均値=ΣS/mを算出し、算出した基準値AをRAM13の基準値領域131に設定し(ステップ19)、今回の基準値処理を終了する。
【0043】
ステップ14に戻り、m回目の測定試行が終了している場合、すなわち測定値バッファ134の値がm回である場合(ステップ14;Y)、CPU11は、タッチセンサ22が特殊状態(下限特殊状態、上限特殊状態)である場合の処理や基準値Aの更新処理を行う。
すなわちCPU11は、基準値領域131と初期値データ130から基準値Aと下限リミットL1を読み出し、ステップ13で取得した測定試行値Sが、(基準値A-下限リミットL1)以下であるか否かを判断する(ステップ20)。
【0044】
測定試行値Sが(A-L1)以下である場合(ステップ20;Y)、例えば図5で示した測定試行値S14の場合、CPU11は、基準値領域131の基準値A、移動平均バッファ135の全データ、測定試行回数132をクリアし(ステップ21)、ステップ15に移行する。
これにより、今回の測定試行は、電源オン直後の測定試行と同じように上記したステップ15以降の処理をm回繰り返すことになる。
【0045】
ステップ20において測定試行値S≦(A-L1)となるのは、ユーザがタッチセンサ22に所定時間継続的に接触することで基準値Aが上昇している状態から、タッチセンサ22との接触が離れた直後の測定試行の場合である。この場合、ステップ13で取得している測定試行値は、タッチセンサ22との接触が離れた状態における値である。
そこでステップ21で移動平均バッファ135をクリアし、ステップ15の後に、CPU11は、今回の測定試行におけるステップ13で取得した測定試行値Sを移動平均バッファ135に保存する(ステップ16)
なお、CPU11は、今回の測定試行で取得した測定試行値Sも破棄(クリア)し、タッチセンサ機能を無効にした後(ステップ15)、処理を終了するようにしてもよい。この場合、次の測定試行による測定試行値Sから移動平均バッファ135に保存される。
【0046】
一方、測定試行値Sが(A-L1)より大きい場合(ステップ20;N)、例えば図5で示した試行測定値S13の場合、CPU11は、測定試行値Sが(基準値A+上限リミットL2)以上であるか否かを判断する(ステップ22)。
測定試行値Sが(A+L2)以上である場合(ステップ22;Y)、例えば図5で示した試行測定値S12の場合、タッチセンサ22に金属等が接触することで上限特殊状態になっていると判断されるため、CPU11は、ステップ13で取得した測定試行値Sを破棄し、基準値領域131に保存されている現在の基準値Aを移動平均バッファ135に保存し(ステップ23)、ステップ26に移行する。
なお、破棄した測定試行値Sの変わりに保存する基準値Aは、移動平均バッファ135に保存されているm個の測定試行値Sのうち一番古い値(今回の測定試行からm回前の測定試行において保存した測定試行値S)を書き換えることで保存する。
【0047】
測定試行値Sが(A+L2)よりも小さい場合(ステップ22;N)、例えば図5で示した試行測定値S11の場合、すなわち特殊状態(下限特殊状態、上限特殊状態)ではないので、CPU11は、RAM13のセンサ機能フラグ133をオンにして、タッチセンサ22のタッチセンサ機能を有効にする(ステップ24)。これにより、異常通報をする際の判断条件の対象として、タッチセンサ22の接触と通報ボタン21の押下の両条件を満たすことが必要になる。
【0048】
その後CPU11は、ステップ13で取得した測定試行値Sを移動平均バッファ135に保存する(ステップ25)。
なお、今回の測定試行で取得した測定試行値Sは、ステップ23において基準値Aを保存する場合と同様に、一番古い測定試行値Sを書き換えることで保存する。
【0049】
次に、CPU11は、移動平均バッファ135に保存されているm個の測定試行値Sを使用して、移動平均値(ΣS)/mを算出し、算出した移動平均値を新たな基準値Aとして、基準値領域131の基準値Aを更新し(ステップ26)、今回の測定試行を終了する。
【0050】
以上説明したように本実施形態の、タッチセンサ22を適用した通報装置1によれば、定期的にタッチセンサ22の静電容量を測定し、測定した静電容量値(測定値P)に応じて基準値Aを設定、更新しているので、タッチセンサ22が使用される環境(温度、湿度)の変化に応じたより適切な基準値Aを使用することができる。
このように、基準値Aを固定値とするのではなく、タッチセンサ22の使用環境に応じた適切な基準値Aを使用し、この変化する基準値Aに閾値量C(固定値)を加算した値を閾値Bとしているので、タッチセンサ22の使用環境が変化した場合であってもタッチの誤検出や検出漏れが少なく、より精度の高いタッチ有無の判定を行うことができる。
【0051】
また、1回の測定試行で求めた測定試行値Sを基準値Aとするのではなく、測定試行を行う毎に、最新の測定試行値Sから遡ってm回前までの測定試行値Sまでの移動平均ΣS/mを基準値Aとしている。このように移動平均を取ることで、測定試行値Sの変動を平滑化しているので、基準値Aが極端に変動することを回避し、変化後の環境だけでなく変化過程での環境を含めた基準値Aとすることができる。
ただし、本実施形態ではm=3回としているが、m=1回として測定試行毎に求めた測定試行値Sの値を基準値Aとすることで、変化後の環境に即応した基準値Aとすることができる。
また、m=2回、4回と他の回数にすることも可能であり、更に、使用される状況に応じてユーザが回数mの値を変更することができるようにしてもよい。
【0052】
また、各測定試行において、タッチセンサ22の測定値Pを1回だけ測定するのではなく、測定値Pをn回測定し、その平均値=ΣP/nを測定試行値Sとしている。これにより、タッチセンサ22による静電容量の測定誤差の影響を少なくすることができる。
なお、各測定試行における測定値Pの測定回数はn=3回であるが、より少ない1回、2回とし、またより多い4回、5回等とすることも可能であり、規定された測定回数分の測定値Pが測定値バッファ134に保存するようにしてもよい。
ただし、測定試行値Sを求めるための測定値Pの測定回数(n回)と、基準値Aを求めるための測定試行の回数(m回)の両者を1回とすることは可能であるが、何れか一方(nかm)については複数回とすることが好ましい。
【0053】
また、実施形態では、測定試行で求めた測定試行値Sの上限(基準値A+上限リミットL2)と下限(基準値A-下限リミットL1)を設けることで、タッチセンサ22に金属が接触している状態や、ユーザが通報装置1を握っている等の状態あっても、失報や誤報を排除して確実に異常通報の処理を行うことができる。
【0054】
以上、タッチセンサ22を適用した通報装置1の1実施形態について説明したが、本発明は説明した実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した範囲において各種の変形を行うことが可能である。
例えば、説明した実施形態では、タッチセンサ22適用した通報装置1について説明した。これに対し、表示装置の画面上にタッチセンサ22を配置し、タッチとそのタッチ位置を検出することで、検出したタッチ位置に対応して表示されている表示内容に対する入力を検出するタッチパネルに適用するようにしてもよい。またタッチセンサ22を適用したタッチパネルを携帯端末等の端末装置に使用することも可能である。
この場合、説明した実施形態の通報装置1に比べ、通報ボタン21が不要である。また、図6のフローチャートで説明した基準値処理では、通報装置1用の処理であるステップステップ11、12、ステップ15、ステップ24は不要である。
【0055】
また説明した通報装置1、及び上記変形で説明した携帯端末等にタッチセンサ22を適用した場合において、タッチセンサ22の特殊状態に対応する処理を省略し、測定試行で得られた測定試行値Sを使用して基準値Aを設定、更新する処理を採用するようにすることも可能である。
この場合、図6のフローチャートにおいて、ステップ20、ステップ21、ステップ22、ステップ23が省略される。
【0056】
説明した実施形態では、使用される状態(環境)に応じて変化するタッチセンサ22の静電容量(測定値P)を定期的に測定し、測定値Pを使用して基準値Aを求めている。
これに対して、定期的に測定した測定値Pを使用し、ユーザの接触、非接触を判断するための閾値Bを、使用環境に応じて変化させる方法であれば他の方法を採用することも可能である。
例えば、図8で説明した従来の基準値A0(固定値)を使用し、測定試行値Sと基準値A0からの変動量Δを求めることで、閾値B′を求めるようにしてもよい。
すなわち、求めた変動量Δから閾値量Cの変動量ΔC(=閾値量C+Δ)を計算するようにしてもよい。この場合の閾値B′は、B′=A0+ΔCとなる。
また、求めた変動量Δを直接使用して、変動後の閾値B=A0+Δ+Cを求めるようにしてもよい。
【0057】
また説明した実施形態では、測定試行値Sと、上限値(=基準値A+上限リミットL2)以上である場合、下限値(=基準値A-下限リミットL1)と比較してタッチセンサ22が特殊状態(上限特殊状態、下限特殊状態)であると判断した。
これに対し、測定試行値Sではなくて、測定試行において測定される各測定値P(P1~Pn)のそれぞれと比較するようにしてもよい。
この場合、いずれか1つの測定値Pが、上限値以上、下限値以下の場合に特殊状態と判断する。
【0058】
また説明した実施形態では、定期的に行う測定試行で求めるm回分の測定試行値Sの移動平均値を基準値Aとしている。
これに対して、m回分の測定試行値Sに対する加重移動平均Kの値を基準値Aとしてもよい。ここで加算する測定試行値Sを古い順にS1、S2、…Smとし、Σの加算範囲をs=1~s=mとした場合の加重平均Kは、K=(Σ((Ss)×s))/Σsである。
【0059】
説明下実施形態では、環境に応じて求めた基準値AをRAM13の基準値領域131に保存している。このため、通報装置1や上記変形例で説明した端末装置の電源をオフにした場合に、基準値領域131に保存されている基準値Aはクリアされ、その後電源がオンされた場合にm回の測定試行が終了するまで基準値Aは決らない状態になる。
そこで、電源をオフする場合には、基準値領域131に保存されている基準値Aを、記憶部27に保存した後にオフするようにしてもよい。
この場合、記憶部27に保存した基準値Aは、再度電源がオンになった場合に、初期値データ273をRAM13の初期値データ130に保存するのと同様に、基準値領域131に保存される。
このように、電源オフされた場合に基準値Aを記憶部27に保存することで、その後電源がオンになった場合に、ただちに基準値A及び閾値Bを使用して、ユーザによるタッチセンサ22の接触があったか否かの判断を行うことができる。
【符号の説明】
【0060】
1 通報装置
10 制御部
10a 基準値処理部
10b 記憶部
10c タッチ検出部
10d 通報部
21 タッチセンサ
21 通報ボタン
23 表示パネル
24 マイク
25 スピーカ
26 通信制御部
27 記憶部
130 初期値データ
131 基準値領域
132 測定試行回数
133 センサ機能フラグ
134 測定値バッファ
135 移動平均バッファ
136 測定値
271 通報プログラム
272 基準値プログラム
273 初期値データ
A 基準値
B 閾値
C 閾値量
L1 下限リミット
L2 上限リミット
P 測定値
S 測定試行値
T 所定時間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8