(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127518
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】透析装置の洗浄方法
(51)【国際特許分類】
A61M 1/16 20060101AFI20230906BHJP
C02F 1/50 20230101ALI20230906BHJP
【FI】
A61M1/16 185
C02F1/50 531P
C02F1/50 532C
C02F1/50 540B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022041897
(22)【出願日】2022-03-01
(71)【出願人】
【識別番号】522104772
【氏名又は名称】深田 健吾
(72)【発明者】
【氏名】深田 健吾
【テーマコード(参考)】
4C077
【Fターム(参考)】
4C077AA05
4C077BB01
4C077GG02
4C077GG03
4C077HH05
4C077HH12
4C077HH15
4C077HH21
4C077JJ04
4C077JJ12
4C077JJ16
4C077KK09
4C077KK23
4C077KK30
(57)【要約】
【課題】人工透析システムの洗浄滅菌液において。次亜塩素酸ナトリウムによる洗浄工程と酸洗浄工程を個別に行う事で、洗浄廃液が下水道法による排水基準pH規制に違反してしまう。
【解決手段】次亜塩素酸ナトリウムと酢酸緩衝液を混合した中性域の洗浄滅菌液を、セントラル薬液ポートから入れ、セントラル内で希釈する事で、洗浄廃液を中性域にし、且つ洗浄滅菌システムを簡素化する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工透析に使う洗浄滅菌液で、次亜塩素酸ナトリウムと酢酸緩衝液を希釈混合とpH調整した液を多人数用透析液供給装置(セントラル)の薬液ポートから供給する事を特徴とする洗浄滅菌装置。
【請求項2】
人工透析に使う洗浄滅菌液で、次亜塩素酸ナトリウムと酢酸緩衝液を希釈混合とpH調整した液を使う事で、塩素ガスの発生リスクを少なくする手法。
【請求項3】
人工透析に使う洗浄滅菌液で、次亜塩素酸ナトリウムと酢酸緩衝液を希釈混合とpH調整した液を使う事で、洗浄滅菌液が濃い状態でも、液中の滅菌成分が経時的に減少しにくくなる手法。
【請求項4】
人工透析に使う洗浄滅菌液で、次亜塩素酸ナトリウムと酢酸緩衝液を希釈混合とpH調整した液を使って洗浄滅菌する工程の最後に水に置き換える事で、接液部材の劣化防止と透析液への洗浄滅菌液混入リスクが減少する手法。
【請求項5】
人工透析の洗浄で、酢酸緩衝液を通液、または滞留させる事で、接液部の錆を緩和、予防する手法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療における人工透析システムの洗浄・滅菌と、その廃液を下水道法排水基準pH規制に対応する事に関する。
【背景技術】
【0002】
日本における透析は、多人数用透析液供給装置(セントラル)を用いたセントラル方式と呼ばれる
図1のやり方が主流だ。
【0003】
透析の洗浄・滅菌は、一般的に次亜塩素酸ナトリウムと酸(酢酸・過酢酸・塩酸など)をそれぞれ単独で独立した工程で希釈し使用されるのが一般的である。
図1
次亜塩素酸ナトリウムはタンパク洗浄と滅菌効果、酸は炭酸カルシウム洗浄効果が有る。
【0004】
それ以外の手法として、次亜塩素酸ナトリウムと酸を希釈混合した洗浄滅菌液をセントラル受水口から入れて、洗浄・滅菌をするやり方も実施されている。
図2にその構成を示す。その洗浄滅菌液は一般名称として、機能水、次亜活性水、活性水、pH調整次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸水と呼ばれている。これらを以下〔次亜活性水〕と呼ぶ。次亜活性水は次亜濃度10~80ppmでpH3.9~7に調整されたものが多い。
【0005】
次亜活性水は、酸によるpH調整で、次亜塩素酸ナトリウムの電離度を調整し、次亜塩素酸イオンに比べ、次亜塩素酸の存在を多くする事で、滅菌力を強化する事が出来る。調整とは、〔次亜塩素酸 HCLO〕と〔次亜塩素酸イオン OCL-〕の存在比を変える事を言う。表1参照。
【0006】
【0007】
酢酸に緩衝液(バッファー)を入れてpH4.5~7に調整した酢酸緩衝液を、次亜塩素酸ナトリウムと混合する事で、それらが高濃度で混合しても塩素ガス発生量を少なくする手法が有る。緩衝液とは、酢酸の場合は酢酸ナトリウムや酢酸カリウムなどを混合したものを指す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004-130016
【特許文献2】特開2004-130017
【特許文献3】特許第6025126号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の次亜活性水を用いる場合では、次亜活性水作製装置から次亜活性水を高圧かつ大流量でセントラルへ送る送液ポンプが必要である。その能力は最大で、動圧0.1~0.2MPa 流量40L/分が求められる。そのため装置が大型化してしまう問題が有った。(
図2)
【0010】
人工透析システムの洗浄滅菌に、上記の次亜活性水のみを使った運用の場合に、接液部が錆びてしまう問題が有った。
【0011】
次亜活性水作製時に、次亜塩素酸ナトリウムと緩衝効果の無い酸を高濃度で混合した場合に、塩素ガスが多量に発生してしまう問題が有った。
【0012】
次亜活性水作製時に、次亜塩素酸ナトリウムと緩衝効果の無い酸を高濃度で混合した場合に、経時的に滅菌成分が急速に減少する問題が有った。
【0013】
次亜活性水作製時に、次亜塩素酸ナトリウムと緩衝効果の無い酸を高濃度で混合した場合に、接液部を劣化させてしまう問題が有った。具体的には金属の錆、樹脂の割れの不具合がある。
【0014】
人工透析システムの洗浄滅菌に、次亜塩素酸ナトリウムと酸をそれぞれ単独で独立した工程で使用した場合の廃液は、下水道法による排水基準pH規制から大きく外れる問題が有った。
【0015】
現行のセントラルや個人機には、次亜塩素酸ナトリウムと酸を混合する機能は無い。
図9,
図10
【課題を解決するための手段】
【0016】
従来の次亜活性水を用いる手法では、
図2の様に次亜活性水作製装置で、最終濃度に希釈混合した次亜活性水を、セントラルのRO入口から入れるのに対し、本発明では、
図3の様に、次亜活性水をセントラル薬液ポートから入れ、セントラル内で希釈し最終濃度とする事を特徴とする。
図3の派生形として
図4,
図5、
図6が考えられる。
【0017】
図4の構成では、セントラルの薬液行程中信号を次亜活性水作製装置が受け、且つセントラルの薬液ポートが液を吸引するときに、次亜活性水作製装置内ではRO水が流出する。そのRO水の流量を計り、次亜活性水作製装置に設定された次亜塩素酸ナトリウムと酢酸緩衝液の混合比で、次亜塩素酸ナトリウムと酢酸緩衝液が注入される。さらにその混合液はセントラル内で希釈し、次亜塩素酸ナトリウム濃度100ppm相当でpH7.5付近を維持しながら、次亜活性水をコンソールに供給する。
【0018】
図5、
図6の構成では、セントラルの薬液行程中信号を次亜活性水作製装置が受け、且つセントラルの薬液ポートが液を吸引するときに、次亜活性水作製装置内では次亜塩素酸ナトリウムが流出する。その次亜塩素酸ナトリウムの流量を計り、次亜活性水作製装置に設定された次亜塩素酸ナトリウムと酢酸緩衝液の混合比で酢酸緩衝液が注入される。さらにその混合液はセントラル内で希釈し、次亜塩素酸ナトリウム濃度100ppm相当でpH7.5付近を維持しながら、次亜活性水をコンソールに供給する。
【0019】
構成において、
図5、
図6の違いは、次亜活性水作製装置がRO水を受水する手法が以下の様に違う。
図5では、RO水をRO装置のRO水供給パイプから次亜活性水作製装置に供給し、減圧弁を必要としている。
図6では、RO水をROタンクから次亜活性水作製装置に供給している事で減圧弁を不要としている。
【0020】
次亜活性水の具体的濃度は次亜50~600ppm、pH5~8を想定するが、ここでは次亜100ppm、pH7.5±0.5の実施例を示す。表2にセントラルに次亜活性水を使う時の各部での希釈率と濃度を示す。ここでいう酢酸緩衝液は、酢酸30%(5mol/L)x100ccに、固体NaOH(0.025mol/g)x15.046g=0.376molを溶かした混合液として計算した。酢酸濃度は未反応の酢酸濃度を示す。(酢酸はNaOHと反応し酢酸ナトリウムに変化するため、反応が進むと酢酸濃度は減少する)
【0021】
【0022】
セントラルの薬洗時間より、次亜活性水作製装置の薬液注入時間を10分程度短くする事で、その10分を水に置換する工程とする。
図4の場合の各装置動作タイムチャートを
図7に示す。
図5、
図6の場合の各装置動作タイムチャートを
図8に示す。
【0023】
上記金属の錆問題を解決するため、次亜活性水による洗浄滅菌工程以外に、酢酸緩衝液による洗浄工程を入れる。または、洗浄滅菌工程の最後に酢酸緩衝液を滞留する。
具体的な滞留濃度は酢酸成分が1000~10000ppmを想定する。
【発明の効果】
【0024】
図3の構成にする事で、
図2の送液ポンプが不要となり、次亜活性水作製装置を簡便化、小型化出来る。
【0025】
次亜活性水作製時に次亜塩素酸ナトリウムと酢酸緩衝液を混合する事で、塩素ガス発生量をきわめて少なく出来る。
【0026】
次亜活性水作製時に次亜塩素酸ナトリウムと酢酸緩衝液を混合する事で、経時的に滅菌成分が減少するのを緩和出来る。
【0027】
人工透析システムを次亜塩素酸ナトリウムと酸を混合しpH調整した次亜活性水を用いる事で、洗浄滅菌に使われた廃液をpH規制内にする事が出来る。
【0028】
酢酸緩衝液による酸洗工程を入れる事で、金属製接液部の錆問題を緩和、予防できる。
【0029】
図4の構成で各装置動作タイムチャートを
図7に示す様にする。又
図5、
図6の構成で各装置動作タイムチャートを
図8に示す様にする事で、配管内がRO水に置換され、治療中の意図せぬ透析液への洗浄滅菌液の侵入を予防する。意図せぬ透析液への洗浄滅菌液の侵入とは、薬液電磁弁の液リークなどが考えられる。
【0030】
洗浄滅菌液をpH7.5±0.5に調整する事で、〔次亜塩素酸 HCLO〕と〔次亜塩素酸イオン OCL-〕を共存させることで、洗浄と滅菌の両方の効果を引き出すことが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】一般的構成。次亜洗・酸洗を別個の工程で行う一般的な手法。
【
図2】一般的構成。次亜活性水をセントラルの受水口から入れる手法。
【
図3】本発明の構成。濃い次亜活性水をセントラルの薬液ポートから入れる構成。
【
図4】本発明である
図3の派生型1。薬液ポンプを2コ使っている。RO水をRO装置の供給管から受水している。
【
図5】本発明である上記
図3の派生型2。薬液ポンプを1コ使っている。RO水をRO装置の供給管から受水している。
【
図6】本発明である上記
図3の派生型3。薬液ポンプを1コ使っている。RO水をタンクから受水する構成で、タンクのヘッド圧を使う事で、
図5の減圧弁を不要とした構成である。
【
図9】酢酸にNaOH投入時のpH変化。pH5.5の酢酸緩衝液を作る条件を求めた。
【
図10】pH5.5の酢酸緩衝液をRO水で希釈した時のpH変化。常にpH5以上を維持出来る事を確認した。
【
図11】次亜原液(6.6%)に酢酸緩衝液(pH5.5)を滴下した時のpH変化。混合液がpH7.5になるための混合比を求めた。
【
図12】次亜原液(6.6% 10cc)に酢酸緩衝液(pH5.5 3cc)を混合後の時間経過によるpH変化。混合液(次亜濃度5.08%)と、その混合液を都度1/500に希釈した希釈液、それぞれのpHを測定した。
【
図13】上記
図12の条件での次亜塩素酸ナトリウム濃度の時間経過による変化。(初期値を100%として表示した。)次亜塩素酸ナトリウム濃度は、HACH社製 残留塩素計 DPD法で測定した。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次亜活性水作製装置に次の二点を設定する。
1.次亜塩素酸ナトリウムと酢酸緩衝液の混合比。
2.薬洗工程の終盤を水洗にするための設定として、セントラルの薬洗時間から10分少なくした値を次亜活性水作製装置の次亜活性水供給時間とし、次亜活性水供給後の10分間はRO水のみを送る設定にする。
【0033】
次亜塩素酸ナトリウムタンク・酢酸緩衝液タンク・ROタンクのチューブを次亜活性水作製装置受液部につなげ、セントラルの薬液ポートのチューブを次亜活性水作製装置給液部につなげる。
【0034】
セントラルの薬洗行程中信号を次亜活性水作製装置に入力する事で、セントラルと次亜活性水作製装置が連動し、洗浄滅菌動作を行う。
【符号の説明】
【0035】
1 RO装置
2 多人数用透析液供給装置(セントラル)
3 コンソール
4 次亜タンク
5 酸タンク
6 次亜活性水作製装置(従来型)
7 送液ポンプ
8 自動弁(洗浄滅菌液用)
9 自動弁(RO水用)
10 ROタンク
11 次亜活性水作製装置(本発明の装置)
12 手動3方弁
13 容積ポンプ
14 電磁弁
15 減圧弁
16 流量計
17 背圧逆止弁
18 サンプリング弁(濃度・圧力の確認用)
19 制御盤
20 排水管
25 酢酸緩衝液
26 電磁弁1
27 電磁弁2