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特開2023-127544光治療方法、光治療装置および光治療システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127544
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】光治療方法、光治療装置および光治療システム
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/06 20060101AFI20230906BHJP
   A61B 1/00 20060101ALI20230906BHJP
   A61B 1/045 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
A61N5/06 Z
A61B1/00 621
A61B1/00 511
A61B1/045 640
A61B1/045 622
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023009156
(22)【出願日】2023-01-25
(31)【優先権主張番号】63/315174
(32)【優先日】2022-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】山下 迪
【テーマコード(参考)】
4C082
4C161
【Fターム(参考)】
4C082PA00
4C082PC10
4C082PG13
4C082PG15
4C082PG17
4C082PL05
4C161CC06
4C161FF40
4C161HH56
4C161QQ02
4C161WW17
4C161WW18
(57)【要約】      (修正有)
【課題】十分な光治療効果を確実に得ることができる光治療方法、光治療装置および光治療システムを提供する。
【解決手段】光治療方法は、第1期間において、光治療薬剤が付与された患部に治療光を照射すること、および、第1期間の後の第2期間において、患部に治療光を追加で照射すること、を含む。第2期間は、第1期間における治療光の照射によって光治療薬剤から発する光の強度が有意に低下した後の期間であり、第2期間の治療光の照射エネルギ量は、患部の状態に応じて決定される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1期間において、光治療薬剤が付与された患部に治療光を照射すること、および、
前記第1期間の後の第2期間において、前記患部に前記治療光を照射すること、を含み、
前記第2期間は、前記第1期間における前記治療光の照射によって前記光治療薬剤から発する光の強度が有意に低下した後の期間であり、
前記第2期間の前記治療光の照射エネルギ量は、前記患部の状態に応じて決定される光治療方法。
【請求項2】
前記第1期間は、前記治療光の照射の開始後、前記光の強度が急激に低下する期間である、請求項1に記載の光治療方法。
【請求項3】
前記第2期間は、前記光の強度が略プラトーな状態を含む期間である、請求項2に記載の光治療方法。
【請求項4】
前記第1期間における前記治療光の出力が、前記光の強度の変化を把握することができる程度に低出力である、請求項1に記載の光治療方法。
【請求項5】
前記第1期間において、前記患部に前記治療光を照射することによって前記患部から発せられる蛍光の強度に基づく情報を観察すること、
前記第2期間において、前記患部に前記治療光および白色の照明光を照射し、前記治療光が照射される前記患部を白色光下で観察すること、および、
前記第2期間において、前記照射エネルギ量を計測し、前記照射エネルギ量が所定量に到達したときに、前記第2期間における前記治療光の照射を停止すること、をさらに含む、請求項1に記載の光治療方法。
【請求項6】
光治療薬剤が付与された患部に治療光を照射する照射部と、
前記治療光が照射されている前記患部の光強度を測定する測定部と、
該測定部によって測定された前記患部の光強度に基づいて、前記患部への前記治療光の照射を制御する制御部と、を備え、
該制御部は、前記患部の光強度が有意に低下した後に、規定の照射エネルギ量の前記治療光を前記患部に追加で照射する、光治療装置。
【請求項7】
前記照射部が、励起光を照射し、
前記測定部が、前記患部の光強度として、前記光治療薬剤から発する蛍光の強度を測定する、請求項6に記載の光治療装置。
【請求項8】
前記測定部によって測定される前記光強度の変化に基づいて第1期間および第2期間を判定する判定部をさらに備え、
前記第1期間が、前記患部の光強度が急激に低下する状態を含み、
前記第2期間が、前記第1期間の後の期間である、請求項6に記載の光治療装置。
【請求項9】
光治療薬剤が付与された患部に治療光を照射する照射部と、
前記治療光が照射されている前記患部の光強度を測定する測定部と、
該測定部によって測定された前記患部の光強度に基づいて、前記患部への前記治療光の照射を制御する制御部と、
前記測定部によって測定される前記患部の光強度の変化をリアルタイムに表示する表示部と、を備え、
該制御部は、前記患部の光強度が有意に低下した後に、規定の照射エネルギ量の前記治療光を前記患部に追加で照射する、光治療システム。
【請求項10】
前記測定部によって測定される前記光強度の変化に基づいて第1期間および第2期間を判定する判定部をさらに備え、
前記第1期間が、前記患部の光強度が急激に低下する状態を含み、
前記第2期間が、前記第1期間の後の期間であり、
前記表示部が、前記判定部の判定結果を表示する、請求項9に記載の光治療システム。
【請求項11】
前記制御部が、
前記第1期間において、前記測定部によって測定された前記患部の光強度に基づく情報を前記表示部に表示させ、
前記第2期間において、患部に対する治療光と白色の照明光の照射を制御して前記患部の画像を前記表示部に表示させ、
前記第2期間において、前記照射エネルギ量を計測し、前記照射エネルギ量が所定量に到達したときに、前記前記第2期間における前記治療光の照射を停止させる、請求項10に記載の光治療システム。
【請求項12】
前記制御部が、
前記第1期間において、前記測定部によって測定された前記患部の光強度に基づく情報を前記表示部に表示させ、
前記第2期間において、患部に対する治療光と白色の照明光の照射を制御して前記患部の画像を前記表示部に表示させ、
前記第2期間において、前記照射エネルギ量を計測し、前記照射エネルギ量が所定量に到達したときに警告を発する、請求項10に記載の光治療システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光治療方法、光治療装置および光治療システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
PIT(光免疫治療)は、光感受性薬剤と治療光照射とを組み合わせてがんを治療する技術である。従来、高出力の治療光を用いて光治療を開始し、患部ごとに決められた照射時間に基づいて光治療の終了のタイミングが決められていた。
【0003】
PITにおいて、治療光照射過多は副作用を生じる可能性があり、照射不足は治療が不十分となるため、治療光の照射のエネルギ量を管理することが重要である。そこで、患部から発する蛍光の強度に基づいて光治療の進行状況を評価する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1には、治療光の照射による患部からの蛍光を検出し、蛍光の強度が所定値以下になったときに治療光の照射を自動的に終了するかその旨を表示部に表示することによって、治療光の過度な照射を防止することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-167046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PITの正確な機序は未だ明らかではなく、薬剤による光治療がどの程度進行しているのかを推定することは難しい。そのため、適切な光治療効果を得る方法が見出されておらず、光治療効果がばらつきやすい。特許文献1のように、治療光を照射した初期の蛍光の強度のみに着目して照射エネルギ量を制御した場合、治療光の照射が最適であるとは言えない。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、十分な光治療効果を確実に得ることができる光治療方法、光治療装置および光治療システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、第1期間において、光治療薬剤が付与された患部に治療光を照射すること、および、前記第1期間の後の第2期間において、前記患部に前記治療光を照射すること、を含み、前記第2期間は、前記第1期間における前記治療光の照射によって前記光治療薬剤から発する光の強度が有意に低下した後の期間であり、前記第2期間の前記治療光の照射エネルギ量は、前記患部の状態に応じて決定される、光治療方法である。
【0008】
本発明の他の態様は、光治療薬剤が付与された患部に治療光を照射する照射部と、前記治療光が照射されている前記患部の光強度を測定する測定部と、該測定部によって測定された前記患部の光強度に基づいて、前記患部への前記治療光の照射を制御する制御部と、を備え、該制御部は、前記患部の光強度が有意に低下した後に、規定の照射エネルギ量の前記治療光を前記患部に追加で照射する、光治療装置である。
【0009】
本発明の他の態様は、光治療薬剤が付与された患部に治療光を照射する照射部と、前記治療光が照射されている前記患部の光強度を測定する測定部と、該測定部によって測定された前記患部の光強度に基づいて、前記患部への前記治療光の照射を制御する制御部と、前記測定部によって測定される前記患部の光強度の変化をリアルタイムに表示する表示部と、を備え、該制御部は、前記患部の光強度が有意に低下した後に、規定の照射エネルギ量の前記治療光を前記患部に追加で照射する、光治療システムである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る光治療システムの全体構成図である。
図2】治療光の照射による光治療薬剤の蛍光強度の時間変化を示すグラフであり、治療光の総照射エネルギ量(横軸)と光治療薬剤の蛍光強度(縦軸)との関係を示している。
図3】本発明の一実施形態に係る光治療方法のフローチャートである。
図4A】実験において得られた治療光の総照射エネルギ量(横軸)と光治療薬剤の蛍光強度(縦軸)との関係を示すグラフである。
図4B】実験において得られた治療光の総照射エネルギ量(横軸)と光治療薬剤の蛍光強度(縦軸)との関係を示すグラフである。
図4C】実験において得られた治療光の総照射エネルギ量(横軸)と光治療薬剤の蛍光強度(縦軸)との関係を示すグラフである。
図5図4Aから図4Cの実験において、腫瘍の光治療効果を病理学的に評価した結果であり、治療光の総照射エネルギ量と光治療効果との関係を示す表である。
図6】本発明の他の実施形態に係る光治療方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に係る光治療方法、光治療装置および光治療システムについて図面を参照して説明する。
図1に示されるように、本実施形態に係る光治療システム100は、内視鏡1によって患部Aを観察しながら、光応答性の光治療薬剤によって患部Aを光治療する内視鏡システムである。患部Aは、例えば、がんのような腫瘍である。光治療薬剤は、患部Aに集積する特性を有する蛍光分子であり、励起光によって引き起こされる光化学反応によって光治療効果を発揮する。光治療薬剤は、例えば、パニツムマブ-IR700複合体またはヘマトポルフィリン誘導体である。
【0012】
光治療システム100は、患者の体内の患部Aを観察する内視鏡1と、患部Aを照明するための白色の照明光L1を発生する照明光源2と、内視鏡画像を処理する画像処理部3と、内視鏡画像を表示する表示部4と、光治療装置10と、を備える。内視鏡1の基端には、内視鏡プロセッサ101が接続されている。
【0013】
内視鏡1は、軟性または硬性の長尺のスコープ5と、撮像素子を有する画像取得部6と、を備える。スコープ5には、スコープ5を長手方向に貫通する処置具チャネル5aが設けられている。スコープ5の先端面には、照明窓5bおよび受光窓5cが設けられている。内視鏡1は、照明光源2から供給された照明光L1を照明窓5bから患部Aに向かって射出する。また、内視鏡1は、患部Aにおいて反射された照明光L1を受光窓5cにおいて受光し、患部Aの内視鏡画像を画像取得部6によって取得する。
【0014】
画像処理部3は、画像取得部6から内視鏡画像を受け取り、必要に応じて内視鏡画像に処理を施した後に内視鏡画像を表示部4に出力する。
表示部4は、液晶ディスプレイ等の任意のディスプレイを含む表示装置である。
【0015】
光治療装置10は、患部Aを治療するための治療光L2を発生する治療光源11と、内視鏡1を経由して体内に挿入され治療光L2を患部Aに照射するプローブ(照射部)12と、治療光L2が照射されている患部Aの蛍光強度Fを測定する測定部13と、測定された蛍光強度Fに基づいて第1期間P1と第2期間P2とを判定する判定部14と、判定部14の判定結果に基づいて治療光源11を制御する制御部15とを備える。
光治療装置10は、CPUのようなプロセッサと、RAMのようなメモリと、ROMまたはHDDのようなコンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体とを備える。プロセッサ、メモリおよび記録媒体は、例えば、内視鏡プロセッサ101内に設けられる。記録媒体には、後述する光治療方法をプロセッサに実行させるための光治療プログラムが記憶されている。判定部14および制御部15の後述の処理はプロセッサによって実現される。
【0016】
治療光源11は、光治療薬剤の励起波長を有する励起光である治療光L2を出力する。治療光源11は、治療光L2の出力を変更する出力切替部11aを有し、制御部15による制御に従って、治療光L2の出力を変更可能であってもよい。
【0017】
プローブ12は、治療光L2を導光する光ファイバを有する長尺の光ファイバプローブであり、処置具チャネル5a内に挿入される。プローブ12の基端は、治療光源11と接続され、治療光L2がプローブ12の先端から患部Aに照射される。
複数のプローブ12が設けられ、患部Aに照射される治療光L2の数を増減可能であってもよい。
【0018】
スコープ5の先端面には、蛍光Lfを選択的に透過させ蛍光Lfとは異なる波長域の光を遮断するバリアフィルタ5dが設けられている。測定部13は、バリアフィルタ5dを透過した蛍光Lfの強度Fを検出し、蛍光強度Fを判定部14に送信する。例えば、測定部13は、内視鏡プロセッサ101内またはスコープ5内に設けられた撮像素子を有し、蛍光強度Fの情報を含む蛍光画像を取得する。蛍光画像または蛍光強度Fは、表示部4にリアルタイムに表示されてもよい。測定部13は、撮像素子以外の任意の種類の光検出器を有していてもよい。
【0019】
判定部14は、蛍光強度Fの変化に基づいて第1期間P1と第2期間P2とを判定する。
図2は、治療光L2の照射による治療光薬剤の蛍光強度Fの時間変化を示している。蛍光強度Fの時間変化の過程は、蛍光強度Fが有意に低下する初期の第1期間P1と、第1期間P1の後の第2期間Pとを含む。第2期間P2は、蛍光強度Fが略プラトーな状態と、蛍光強度Fが緩やかに変動する状態とを含む。
【0020】
判定部14は、蛍光強度Fの大きさまたは時間変化率に基づいて、第1期間P1と第2期間P2とを判定する。
例えば、判定部14は、治療光L2の照射開始から蛍光強度Fが所定の閾値Thまで低下するまでの期間を第1期間P1であると判定し、蛍光強度Fが所定の閾値Thまで低下した後の期間を第2期間P2であると判定する。判定部14の判定結果は、表示部4に表示されてもよい。
あるいは、判定部14は、治療光L2の照射開始から蛍光強度Fが所定量低下するまでの期間を第1期間P1であると判定してもよい。
【0021】
制御部15は、判定部14の判定結果に基づいて治療光源11を制御することによって、第1期間P1において治療光L2を患部Aに照射し、第2期間P2において規定照射エネルギ量ΔEの治療光L2を患部Aに照射する。規定照射エネルギ量ΔEは、患部Aの状態に応じて決定される。例えば、規定照射エネルギ量ΔEは、1J以上であり、患部Aの光治療効果が得られるように、総エネルギ量が100J/cm以下となる最適な値に設定される。
【0022】
次に、光治療システム100によって実行される光治療方法について説明する。
図3に示されるように、光治療方法は、光治療薬剤が付与された患部Aに治療光L2を照射する工程S1と、規定照射エネルギ量ΔEを決定する工程S2と、規定照射エネルギ量ΔEの治療光L2を患部Aに追加で照射する工程S3とを含む。
【0023】
工程S1において、制御部15は、治療光源11から治療光L2を出力させることによって、治療光L2を患部Aに照射する。
治療光L2が照射されている患部Aでは光治療薬剤の蛍光Lfが発生する。患部Aの蛍光強度Fは測定部13によって測定され、蛍光強度Fの変化に基づいて第1期間P1であるか否かが判定部14によって判定される。そして、例えば、蛍光強度Fが所定の閾値Thまで低下したとき、判定部14によって第1期間P1が終了したと判定される。
【0024】
次の工程S2において、判定部14の判定結果に応答して、制御部15は、規定照射エネルギ量ΔEを決定し、続いて工程S3を開始する。
工程S3において、治療光L2が患部Aに追加で照射され、工程S1の後に規定照射エネルギ量ΔEの治療光L2が照射された時点で、制御部15が治療光源11を制御することによって患部Aへの治療光L2の照射が停止し、治療光L2による患部Aの光治療が終了する。
【0025】
ここで、蛍光強度Fと光治療効果との関係について説明する。
図4Aから図4Cは、腫瘍モデル動物を使用して光治療薬剤の蛍光強度Fの時間変化を調べた実験結果を示している。図4Aおよび図4Bは皮膚がんモデル、図4Cは胃がんモデルでの実験結果である。図4A図4B図4Cの実験において、治療光L2の出力(パワー密度)はそれぞれ50mW/cm、150mW/cm、50mW/cmである。
【0026】
これらの実験から、光治療薬剤の蛍光強度Fが、治療光L2の総照射エネルギ量に応じて2段階で変化するという知見が得られた。図4Aから図4Cにおいて、横軸は、治療光L2の照射エネルギ量(J/cm)を示し、縦軸は、蛍光強度Fを示している。
具体的には、総照射エネルギ量が20J/cm以下の第1期間P1では、蛍光強度Fが急激に減弱し、総照射エネルギ量が20J/cmよりも多い第2期間P2では、蛍光強度Fが略プラトーな状態となり、その後に緩やかに変動する。
【0027】
ここで、治療光L2の照射を開始したときの蛍光強度Fから蛍光強度Fが60%以上減少した場合に、蛍光強度Fが急激に減弱したと判定することができる。かかる急激な蛍光強度Fの減弱は、光治療薬剤が患部Aに対し十分に作用していることを意味する。これに対し、かかる急激な蛍光強度Fの減弱が現れない場合は、光治療薬剤が患部Aに対し十分に作用していないと考えられるため、治療光L2の照射を停止するか、別の患部Aの位置へプローブ12を移動させる。
さらに、第1期間P1において同じ患部Aに対し治療光L2の照射を継続させることによって、その後、蛍光強度の変化がプラトーまたはそれに類する変曲点を有する状態の少なくとも1つの状態へと変化することに基づいて、第2期間P2に達したと判定することができる。
このように第1期間P1における急激な蛍光強度Fの減弱状態から第2期間P2における状態に転じる時点を、第2期間P2の開始点と判定することによって、光治療効果が確実に得られる規定照射エネルギ量ΔEの治療光L2を患部に照射することができる。
【0028】
図5は、腫瘍モデル動物の腫瘍の光治療効果を病理学的観点から評価した結果を示している。
従来、蛍光強度Fが急激に減弱する第1期間P1において、光治療が進行していると考えられていた。しかし、図5の評価結果から、治療光L2の総照射エネルギ量が少ない第1期間P1では、治療1日後の病理学的な変化が少なく、高い光治療効果を期待することができないことが分かった。すなわち、治療光L2の照射の初期において、蛍光強度Fの変化量は大きいが光治療効果はほとんど無く、蛍光強度Fが十分に低下した時点では光治療が十分ではない。
さらに、蛍光強度Fが十分に低下した後の第2期間P2において、蛍光強度Fは略プラトーまたは緩やかに変化する状態であるにも関わらず、総照射エネルギ量の増加と共に光治療効果が高まることが分かった。
【0029】
このように、蛍光強度Fの減弱量(減弱レート)は、光治療効果を一意的に表していない。さらに、光治療薬剤が患部Aに十分に結合していない場合には、蛍光強度Fが低下しないことがある。したがって、蛍光強度Fのみに基づいて光治療効果が得られたかどうかを判断することはできない。
【0030】
本実施形態によれば、治療光L2の照射過程が2つの期間P1,P2に分けられ、第1期間P1および第2期間P2において、相互に異なる基準に基づいて治療光L2の照射が制御される。そして、蛍光強度Fが有意に低下した後の第2期間P2において、規定量ΔEの照射エネルギの治療光L2が患部Aに追加で照射される。これにより、患部Aにおいて十分な光治療効果を確実に得ることができる。
【0031】
上記実施形態において、第1期間P1と第2期間P2との間で治療光L2の出力が異なっていてもよい。第1期間P1と第2期間P2とで、治療光L2の適切な出力が異なり得る。例えば、第1期間P1における治療光L2の第1出力は、蛍光強度Fの変化を把握することができる程度に低出力であることが好ましい。一方、第2期間P2における治療光L2の第2出力は、第1出力よりも高くてもよい。 例えば、ユーザは、表示部4上に表示される蛍光強度Fまたは期間P1,P2の判定結果を観察し、蛍光強度Fの有意な低下が認められたときに、または、第1期間P1から第2期間P2へ移行したときに、治療光L2の出力を変更してもよい。治療光L2の出力の変更は、治療光源11の出力を切替えることによって行われてもよく、他の手段によって行われてもよい。例えば、プローブ12の先端を患部Aに近付けることによって、患部Aに照射される治療光L2の出力を変化させてもよい。ここで、プローブ12と患部Aとの間の距離は、照明光L1による患部A付近からの反射光の強度を表示部4で確認したり、肉眼で判定したりすることによって把握してもよい。
【0032】
上記実施形態において、制御部15は、第1期間P1および第2期間P2において以下の制御を実行してもよい。
図6は、光治療システム100によって実行される光治療方法の他の例を示す。この光治療方法は、工程S1,S2,S3に加えて、工程S4,S5,S6をさらに含む。
【0033】
第1出力の治療光L2の照射を開始した後(工程S1)、制御部15は、測定部13によって測定された蛍光強度Fに基づく情報をリアルタイムに表示部4に表示させる(工程S4)。前記情報は、例えば、蛍光画像または蛍光強度Fである。したがって、第1期間P1において、術者は、表示部4に表示される情報を観察し、それにより、治療光L2を照射する時間の経過/照射エネルギの積算によって蛍光Fが減衰することを視覚的に確認することができる。
【0034】
第1期間P1中、判定部14は、測定部13によって測定された蛍光強度Fが所定の閾値Thまで低下した否かを判定する(工程S5)。判定部14は、蛍光強度Fが所定の閾値Thまで低下していたと判定した場合(工程S5のYES)、第1期間P1が終了したと判定し、制御部15は次の工程S2に進む。
【0035】
工程S2に続く工程3は、工程S31~工程S33を含む。制御部15は、第2出力の治療光L2の照射を開始させる(工程S31)。第2出力は、第1出力と同一であってもよく、第1出力と異なっていてもよい。
工程S31の後、制御部15は、照明光源2を制御して照明光源2から白色の照明光L1を出力させ、第2出力の治療光L2の照射と並行して白色の照明光L1を患部Aに照射させる。これにより、患部Aの白色光画像である内視鏡画像が画像取得部6によって取得され、画像処理部3を経由して表示部4に表示される(工程S6)。したがって、第2期間P2中、術者は、表示部4に表示される内視鏡画像によって、治療光L2が照射されている患部Aを白色の照明光L1下で観察することができる。すなわち、第2期間P2において、術者は、表示部4に表示される内視鏡画像によって、治療光L2による患部Aの光治療の進行を視覚的に確認することができる。
【0036】
制御部15は、第2出力の治療光L2の照射が開始されてからの治療光L2の照射エネルギ量を計測する(工程S32)。第2期間P2での総照射エネルギ量が規定量に到達したとき(工程S32のYES)、制御部15は、治療光源11を制御して治療光L2の照射を停止させる(工程S33)。例えば、前記規定量が100J/cmである場合、総照射エネルギ量が100J/cmに到達したときに、治療光L2の照射が停止する。
【0037】
工程S33において、制御部15は、治療光源11を制御して治療光L2の照射を停止させることに代えて、総照射エネルギ量が規定量に到達したことを術者に警告する動作を行ってもよい。この場合、総照射エネルギ量が規定量(例えば、100J/cm)に到達したときに、警告が発せられる。例えば、制御部15は、総照射エネルギ量が規定量に到達したことを示す表示を表示部4に表示させてもよい。または、制御部15は、ブザーまたはスピーカ等から、総照射エネルギ量が規定量に到達したことを術者に知らせる音声等の音を出力させてもよい。
術者は、警告に基づいて総照射エネルギ量が規定値に到達したことを確認した後、表示部4に表示される白色の照明光L1を用いて取得された内視鏡画像によって光治療の進行状態を確認する。光治療が十分であると判断した場合、術者は、治療光源11からの照明光L1の出力を停止させるための操作を行ってもよい。
【0038】
制御部15は、総照射エネルギ量が規定量の所定の割合、例えば規定量の半分に到達したときに、治療光L2の照射を停止させてもよい。術者は、治療光L2の停止後に光治療の進行を確認し、光治療が不十分である判断した場合に治療光L2の照射を再開させてもよい。この場合においても、総照射エネルギ量が規定量に到達したときに、制御部15は、治療光L2の照射を停止させる。また、総照射エネルギ量が規定量に到達して治療光L2の照射が停止した後、術者は、光治療の進行を確認し、追加の照射が必要と判断した場合には、追加で治療光L2を照射を行ってもよい。
【0039】
制御部15は、総照射エネルギ量が規定量に到達する前に、警告を発してもよい。例えば、規定量が100J/cmである場合、制御部15は、総照射エネルギ量が20J/cmに到達したときに、術者に光治療の進行の確認を促す警告を表示または音声によって行う。その後、総照射エネルギ量が100J/cmに到達したときに、制御部15は、治療光L2の照射を停止させる。
このとき、制御部15は、総照射エネルギ量が所定量(例えば、20J/cm)増す毎に警告を繰り返してもよい。術者による治療光L2の停止の操作がない場合、制御部15は、治療光L2の照射を継続させ、総照射エネルギ量が規定量に到達したときに治療光L2の照射を停止させてもよい。
【符号の説明】
【0040】
4 表示部
10 光治療装置
12 プローブ(照射部)
13 測定部
14 判定部
15 制御部
100 光治療システム
A 患部
L2 治療光
Lf 蛍光
P1 第1期間
P2 第2期間
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5
図6