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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127549
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】ガラス基材を備えた部材
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/30 20060101AFI20230906BHJP
   C08G 81/00 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
C03C17/30 A
C08G81/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023024544
(22)【出願日】2023-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2022031103
(32)【優先日】2022-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100187377
【弁理士】
【氏名又は名称】芳野 理之
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】山澤 幸香
(72)【発明者】
【氏名】早川 信
(72)【発明者】
【氏名】山本 政宏
(72)【発明者】
【氏名】内藤 磨男
【テーマコード(参考)】
4G059
4J031
【Fターム(参考)】
4G059AA01
4G059AC22
4G059FA05
4G059FA28
4G059FB05
4J031AA08
4J031AA53
4J031AB04
4J031AB06
4J031AC13
4J031AD01
4J031AE05
4J031AE07
4J031AF05
4J031AF17
4J031AF21
(57)【要約】
【課題】 清掃を繰り返しながら長期間使用した後であっても、汚れの付着を継続的に防止することができるとともに、付着した汚れを容易に、すなわち小さい清掃負荷で継続的に除去することができるガラス部材の提供。
【解決手段】 ガラス基材を備えた部材であって、前記ガラス基材は、主成分元素としてのケイ素(Si)原子および酸素(O)原子、ならびに任意成分元素としてのIa金属原子および/またはIIa金属原子を含み、前記部材の表面は、パーフルオロポリエーテル鎖を含み、前記部材の表面における、X線光電子分光法(XPS)によって測定されるSi2pスペクトルおよびSn3d5スペクトルの各ピーク面積から算出されるSi原子濃度に対するSn原子濃度の比(Sn原子濃度/Si原子濃度)が0.05よりも大きい、部材。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基材を備えた部材であって、
前記ガラス基材は、主成分元素としてのケイ素(Si)原子および酸素(O)原子、ならびに任意成分元素としてのIa金属原子および/またはIIa金属原子を含み、
前記部材の表面は、パーフルオロポリエーテル鎖を含み、
前記部材の表面における、X線光電子分光法(XPS)によって測定されるSi2pスペクトルおよびSn3d5スペクトルの各ピーク面積から算出されるSi原子濃度に対するSn原子濃度の比(Sn原子濃度/Si原子濃度)が0.05よりも大きい、部材。
【請求項2】
前記パーフルオロポリエーテル鎖は、Si原子と結合してなり、当該Si原子がO原子を介して前記ガラス基材の表面と結合してなる、請求項1に記載の部材。
【請求項3】
前記パーフルオロポリエーテル鎖は、パーフルオロエーテルが10~200重合されてなるものである、請求項1または2に記載の部材。
【請求項4】
Sn-O-Si-C結合を含む、請求項1または2に記載の部材。
【請求項5】
Sn-O-Si-C結合を含む、請求項3に記載の部材。
【請求項6】
洗面所、レストルーム、バスルームまたはシャワーブースで使用されるガラス製品である、請求項1または2に記載の部材。
【請求項7】
洗面所、レストルーム、バスルームまたはシャワーブースで使用されるガラス製品である、請求項3に記載の部材。
【請求項8】
洗面所、レストルーム、バスルームまたはシャワーブースで使用されるガラス製品である、請求項4に記載の部材。
【請求項9】
洗面所、レストルーム、バスルームまたはシャワーブースで使用されるガラス製品である、請求項5に記載の部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基材を備えた部材に関する。詳細には、良好な防汚性と高い耐久性とを兼ね備えたガラス部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基材は様々な用途で使用されており、例えば、鏡は洗面や化粧等の用途で使用される。このような洗面鏡や化粧鏡には使用条件によって様々な汚れが付着し易い。例えば、化粧品は一般に使用者が鏡に近づいて使用するため、鏡にはマスカラ等の化粧品が付着し易い。鏡に付着した化粧品などの汚れを除去するために、通常、乾いた布等を用いた乾拭き清掃および/または水を含ませた布等を用いた水拭き清掃が行われている。しかし、水拭き跡が鏡の表面に残り、水垢として固着し、鏡の外観を損ね、ひいては鏡本来の機能を損ねることが懸念されている。
【0003】
例えば洗面鏡は、洗顔や手洗いに利用する洗面器の奥側上方に設置される鏡であり、水を使用する様々な行為を行う際に利用される。洗面鏡は、例えば、手洗いやうがい、洗顔、歯磨き等、水滴が飛び散りやすい行為に伴い使用される。また、上記行為は日常生活で日々当たり前に行われる。洗面鏡の使われ方は多様であり、酷く水滴が付着する場合もあり、その際、乾布等で拭き取っても、あたかも水拭き清掃を行った後のような水滴の拭き跡や汚れが表面に残る。洗面鏡の前方には洗面設備が存在するため、このような拭き跡を清掃する際に手を大きく伸ばす必要があり、通常、力を入れながら布拭きをするのが難しい。なおかつ、拭き跡を残存させておくと鏡の外観を損ね、ひいては鏡本来の機能を損ねることが懸念されている。
【0004】
また、洗面鏡は住宅設備であるため、頻繁に買い替えない使用者が大半であり、短くとも10年間は継続使用されることが想定される。特に水まわり設備の場合、汚れがひどく、強く擦るような清掃を実施する場合も多い。そのため、そのような負荷がかかるような使用状況においても長期間に亘り、鏡に傷や汚れが付かないことが求められる。
【0005】
公共施設においても、洗面鏡や化粧鏡は多く存在し、多数の人が頻繁に使用するため、それらの表面には水滴が多く飛び散り、また様々な化粧汚れも付着する。一方、洗面鏡、化粧鏡には大面積のニーズも多い。その場合、鏡に付着した汚れを完全に拭取ることは通常困難であり、かつ、完全に拭取ることができないと鏡を使用する際にそれらの汚れや拭き跡を気にする人が多い。そのため、例えばホテルや商業施設等では、お客様を不快にさせないための十分な清掃が大変であり、時間もかかることが課題となっている。
【0006】
そこで、ガラス基材の表面への汚れの付着を防止し、また汚れの除去性を高めるために、保護層で被覆するなどして基材の表面を改質する技術が使用されている。
【0007】
しかしながら、ガラス基材に保護層を設けることで基材表面に着色したり、保護層の傷つき・剥離などにより基材の外観が損なわれたりすることが問題であった。この問題を解決するため、従来から、ガラス基材と化学結合する単分子膜が利用されている。単分子膜は視認できない薄い層であるため、単分子膜を設けることにより、基材の外観を損なうことなく単分子膜の機能を付与することができる。また、単分子膜はガラス基材と化学結合するため、膜の耐久性も向上する。
【0008】
例えば、フルオロアルキルシラン化合物を含む単分子膜は、ガラス基材の表面を保護すると共に、防汚効果も有することが知られている。例えば、特開2005-206447号公報(特許文献1)には、ガラス板に、フッ化炭素基と炭化水素基とシリル基を主成分とする物質とシロキサン基を主成分とする物質とを含む被膜を形成したガラス部材が開示されている。このガラス部材は、撥水撥油防汚機能が要求されるガラス板において、耐摩耗性および耐候性等の耐久性、水滴離水性(滑水性)、および防汚性が向上されたものとされている(段落0005)。また、特許文献1には、ガラス板としてフロートガラスを用い、スズを含む面に撥水撥油防汚性被膜を形成しておくと耐久性を上げる上で都合がよいと記載されている(段落0040)。
【0009】
他方、近年では、フルオロアルキルシラン化合物と比較してガラス基材との密着性や耐久性に優れたパーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物を基材表面に適用する技術が提案されている。
【0010】
例えば、特開2010-31184号公報(特許文献2)には、タッチパネルの表面の汚れを拭取る際の表面滑り性を特に向上させることを目的とする、パーフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーを含む表面処理剤組成物が提案されている。また、特許文献2には、スライドガラスの表面に当該組成物に含まれるパーフルオロオキシアルキレン基含有ポリマーを真空蒸着させたガラス部材が開示されている。この部材は、摩耗試験後においても、動摩擦係数が低く、表面滑り性が良く、皮脂汚れ拭き取り性も優れていたとされている。
【0011】
また、特開2016-204656号公報(特許文献3)には、タッチパネルの表面の汚れを拭取る際の耐摩耗性を特に向上させることを目的とする、フルオロポリエーテル基含有ポリマー変性シランを含む表面処理剤が提案されている。また、特許文献3には、ゴリラ(登録商標)ガラス3(コーニング社製)の表面に当該表面処理剤をスプレー塗工して得られたガラス部材が開示されている。この部材は、摩耗試験後における水に対する接触角(撥水性)が良好であり、耐摩耗性を発揮したとされている。
なお、ゴリラ(登録商標)ガラスは、化学強化により耐スクラッチ性等の強度が改善された、主にスマートフォンに使用されているガラスである。
【0012】
また、特開2012-157856号公報(特許文献4)には、フロートガラス基板の表面を研磨し、水洗及び乾燥させたものに、パーフルオロポリエーテル基含有シランの硬化縮合被膜を形成させて得たガラス部材が開示されている。このガラス部材は、埃の付着度が低く、埃除去性が良好であり、埃が付着した状態での油の除去性が良好であったとされている(段落0057)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005-206447号公報
【特許文献2】特開2010-31184号公報
【特許文献3】特開2016-204656号公報
【特許文献4】特開2012-157856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者らは、一般に高い耐久性を有するとされているパーフルオロポリエーテル鎖を表面に含むガラス部材の中にも、経時的に、すなわち清掃を繰り返しながら長期間使用した結果、機能喪失してしまうものがあることを確認した。そして、今般、良好な防汚性とより高い耐久性、とりわけ耐摺動性とを兼ね備えたガラス部材の新規な構成を見出した。すなわち、固有の表面組成を有するガラス基材の表面にパーフルオロポリエーテル鎖を適用することで、清掃(これにより部材表面へ摺動力または摩耗力が負荷される)を繰り返しながら長期間使用した後であっても、化粧品や水垢等の汚れの付着を継続的に防止できるとともに、付着した汚れを容易に、すなわち小さい清掃負荷で継続的に除去できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明による部材は、
ガラス基材を備え、
前記ガラス基材は、主成分元素としてのケイ素(Si)原子および酸素(O)原子、ならびに任意成分元素としてのIa金属原子および/またはIIa金属原子を含み、
前記部材の表面は、パーフルオロポリエーテル鎖を含み、
前記部材の表面における、X線光電子分光法(XPS)によって測定されるSi2pスペクトルおよびSn3d5スペクトルの各ピーク面積から算出されるSi原子濃度に対するSn原子濃度の比(Sn原子濃度/Si原子濃度)が0.05よりも大きいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、清掃を繰り返しながら長期間使用した後であっても、清掃により部材表面に負荷された摺動力または摩耗力に対する優れた耐久性を有するため、汚れの付着を継続的に防止することができる。また、付着した汚れを容易に、すなわち小さい清掃負荷で継続的に除去することができる。したがって、防汚性および易除去性双方を長期間維持することができるガラス部材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(a)従来技術によるガラス部材の一例を示す模式図であり、ガラス基材上にフルオロアルキル鎖が垂直方向に存在していることを示す。(b)本発明によるガラス部材の一例を示す模式図であり、ガラス基材上にパーフルオロポリエーテル鎖が水平方向に傾き存在していることを示す。
図2】実施例1~9および比較例1~2のガラス部材をXPS測定して得られたO1sスペクトルを示す図である。
図3】実施例1~9および比較例1~2のガラス部材をXPS測定して得られたF1sスペクトルを示す図である。
図4】実施例1~9および比較例1~2のガラス部材をXPS測定して得られたC1sスペクトルを示す図である。
図5】実施例1~9および比較例1~2のガラス部材をXPS測定して得られたSn3d5スペクトルを示す図である。
図6】実施例1~9および比較例1~2のガラス部材をXPS測定して得られたSi2pスペクトルを示す図である。
図7】実施例1~9および比較例1~2のガラス部材をXPS測定して得られたNa1sスペクトルを示す図である。
図8】実施例1~9および比較例1~2のガラス部材をXPS測定して得られたCa2pスペクトルを示す図である。
図9】実施例1のガラス部材を測定して得られたO1sスペクトルのピークを3つのピーク(CF-O-CF、Si-O-H、Si-O-Si)に分離した結果を示す図である。
図10】実施例5のガラス部材を測定して得られたO1sスペクトルのピークを3つのピーク(CF-O-CF、Si-O-H、Si-O-Si)に分離した結果を示す図である。
図11】比較例2のガラス部材を測定して得られたO1sスペクトルのピークを3つのピーク(CF-O-CF、Si-O-H、Si-O-Si)に分離した結果を示す図である。
図12】実施例5のガラス部材、および前処理を行わなかった以外は実施例5と同様の方法にて作製したガラス部材をTOF-SIMS測定して得られたスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ガラス基材を備えた部材
<部材の構成>
図1bは、本発明によるガラス基材を備えた部材(以下、「ガラス部材」または「部材」ということもある。)の一例の断面構造を表した模式図である。本発明による部材は、ガラス基材1を備えてなる。本発明による部材は、その表面にパーフルオロポリエーテル鎖3を含んでなる。なお、本発明は、ガラス基材1とパーフルオロポリエーテル鎖3を含む部材表面との間に、本発明の効果を奏し得る範囲において、任意の構成要素(例えば、所望の機能を有する中間層)を含む態様を除外するものではない。
【0019】
<部材の表面組成>
本発明による部材は、その表面における、X線光電子分光法(XPS)によって下記「XPS測定条件」に従って測定されるSi2pスペクトルおよびSn3d5スペクトルの各ピーク面積から算出されるSi原子濃度に対するSn原子濃度の比(Sn原子濃度/Si原子濃度)(以下、RSn/Siということもある。)が0.05よりも大きい。本発明による部材は、当該部材の表面にパーフルオロポリエーテル鎖を含むことにより、パーフルオロポリエーテル鎖とガラス基材の表面との密着性が良好であり、さらにパーフルオロポリエーテル鎖を含む部材表面の耐久性も良好なものとなる。その結果、本発明による部材は、清掃を繰り返しながら長期間使用された後であっても、清掃により部材表面に負荷された摺動力または摩耗力に対する優れた耐久性を発揮することができ、防汚性および汚れの易除去性双方を長期間維持することができる。さらに、本発明による部材は、清掃、特に水拭き清掃後に水跡を残りにくくすることができ、このため水垢を形成しにくくすることができ、その結果、長期にわたり、つまり継続的に水垢の固着を防止することができる。
【0020】
<作用機序>
本発明による部材が上記のような効果を奏する理由として、下記のように考えられるが、これに限定されるものではない。本発明による部材の表面において、特定量のSn原子が好ましくは面方向に均一に分散することで、パーフルオロポリエーテル鎖とガラス基材の表面との間の相互作用が均一に働くため、両者間の相互作用をより強くでき、両者のより安定した状態を形成できると考えられる。したがって、清掃を繰り返しながら部材を長期間使用した後も、部材の表面に均一にパーフルオロポリエーテル鎖が残存することができると考えられる。その結果、パーフルオロポリエーテル鎖が長期間ガラス基材の表面と強く密着した状態で残存することができると考えられる。このような作用機序により、本発明による部材は、水拭き清掃後の水跡残りや化粧品等の汚れに対する防汚性および易除去性双方が長期間維持されると考えられる。
【0021】
SnOはSiOに比べて水酸基を形成しやすい。そのため、表面にSnを所定量以上含むガラス基材では、所定量以上の水酸基が形成されていると考えられる。そのような表面は、表面エネルギーが高くなるため、汚れが吸着しやすい傾向にある。したがって、従来技術においてはガラス基材のSnを除去しようとする考えが一般的であるが、本発明においては、SnOが水酸基を形成しやすいとの特性を逆に積極的に活用している。SnOが水酸基を形成しやすいとの特性により、ガラス基材とパーフルオロポリエーテル鎖との結合が促されていると考えられる。
【0022】
また、Sn原子はSi原子と比較し、原子径が大きいことや配位数が多い(一般的に、Siは4配位、Snは6配位)との特徴を有する。このような特徴により、RSn/Siが0.05よりも大きい本発明の部材にあっては、ガラス基材とパーフルオロポリエーテル鎖との相互作用が強く、安定した状態を形成していると考えられる。
【0023】
一方、パーフルオロポリエーテル鎖は、後述するように、フッ素原子が結合した炭素原子と、当該炭素原子が酸素原子を介して結合したエーテル結合を繰り返し構造中に含む鎖であり、例えば、-[(CF-O]-(xは、自然数)で表される繰り返し単位を含む。具体的には、(CF)-O、(C)-O、(C)-O、(C)-Oなどの繰り返し単位である各エーテル結合が1つ以上ランダムに結合された鎖であり、鎖中に複数のO原子が存在する。このパーフルオロポリエーテル鎖中の酸素原子と、上述したガラス基材由来の水酸基とが、水素結合を形成し、またパーフルオロポリエーテル鎖中の酸素原子が、スズ原子と配位結合を形成すること等により、ガラス基材とパーフルオロポリエーテル鎖との間の安定性が向上していると考えられる。
【0024】
<RSn/Siの好ましい範囲>
部材の表面におけるSnの量は、部材が着色しない限りにおいて、多い方が好ましい。本発明において、部材の表面におけるRSn/Siの下限値は0.06以上であることが好ましく、0.07以上であることがより好ましい。また、部材の着色の観点から、RSn/Siの上限値は0.5未満であることが好ましく、0.4未満であることがより好ましい。RSn/Siの好ましい範囲はこれらの上限値と下限値とを組み合わせることができ、例えば、RSn/Siは0.05より大きく0.5未満がより好ましく、0.06以上0.4未満がさらにより好ましい。
【0025】
<RSn/Siの算出方法>
本発明において、部材の表面のRSn/Siは、部材の表面をX線光電子分光法(XPS)により測定することにより得ることができる。すなわち、部材の表面のSn原子およびSi原子の各濃度をXPSにより求める。なお、XPS測定前に、部材の表面の汚れを洗浄することが好ましい。例えば、エタノールを含浸させた布にて部材の表面を拭き取り、脱脂することが好ましい。
【0026】
XPS装置として、例えばPHI QuanteraII(アルバック・ファイ製)を用い、各部材の表面を以下の「XPS測定条件」を用いて測定する。
[XPS測定条件]
X線条件(単色化AlKα線、50W、15kV)
分析領域(200μmφ)
中和銃条件(Emission:20μA)
イオン銃条件(Emission:7.0mA)
光電子取出角(45°)
Time per step(50ms)
Sweep(5回)
Pass energy(55eV)
測定元素(O、F、C、Sn、Si、Na、Caの順で走査)
走査範囲(O1s:523~543eV、F1s:679~699eV、C1s:278~308eV、Sn3d5:480~500eV、Si2p:94~114eV、Na1s:1066~1086eV、Ca2p:341~361eV)
【0027】
XPS測定により、部材の表面に由来するO1sスペクトル、F1sスペクトル、C1sスペクトル、Sn3d5スペクトル、Si2pスペクトル、Na1sスペクトル、Ca2pスペクトルを得る。得られたスペクトルから、データ解析ソフトウェアPHI MultiPak VERSION9(アルバック・ファイ製)を用いて各原子濃度を算出する。得られたスペクトルにスムージング処理を施し、Na1sピークを1072.1eVとしてチャージ補正した後に、各原子の電子軌道に基づくピークに対し、Shirely法でバックグラウンドを除去する。その後、各ピーク面積強度を算出し、データ解析ソフトウェアに予め設定されている装置固有の感度係数で除算する解析処理を行い、各原子濃度を算出する。具体的には、酸素原子濃度(以下、C)、フッ素原子濃度(以下、C)、炭素原子濃度(以下、C)、スズ原子濃度(以下、CSn)、ケイ素原子濃度(以下、CSi)、ナトリウム原子濃度(以下、CNa)、カルシウム原子濃度(以下、CCa)を算出する。濃度の算出には、酸素についてはO1sピーク(529~539eV)、フッ素についてはF1sピーク(683~693eV)、炭素についてはC1sピーク(283~299eV)、スズについてはSn3d5ピーク(482~492eV)、ケイ素についてはSi2pピーク(98~108eV)、ナトリウムについてはNa1sピーク(1067~1077eV)、カルシウムについてはCa2pピーク(345~355eV)のピーク面積を用いる。各原子濃度の値は、異なる4カ所を測定した平均の値とすることができる。ただし、4カ所の中に異常値が現れた場合は、異常値を除いて平均値を算出する。得られたスズ原子濃度CSnおよびケイ素原子濃度CSiを用いて、下記式(A)によってRSn/Siを算出する。
Sn/Si=CSn/CSi・・・式(A)
【0028】
パーフルオロポリエーテル鎖が層を形成しており、その層が厚く、部材の表面のXPS測定において、ガラス基材由来のピークが検出されない場合には、部材の表面に含まれるパーフルオロポリエーテル鎖を含有する層を加熱やUV光照射によって除去または減少させた後に、ガラス基材の表面のR’Sn/Siを算出することが可能である(R’Sn/Siについては後述する)。
【0029】
ガラス基材
本発明において、ガラス基材は、主成分元素としてケイ素(Si)原子および酸素(O)原子を含み、また任意成分元素としてIa金属原子および/またはIIa金属原子を含む。Ia金属原子とは、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)、フランシウム(Fr)を指す。IIa金属原子とは、ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)、ラジウム(Ra)を指す。これらのうち、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)から選択される一種以上を任意成分元素として含むのが好ましい。
また本発明において、ガラス基材は、その表面にスズ(Sn)原子をさらに含む。
【0030】
本発明において、ガラス基材は、その表面における、X線光電子分光法(XPS)によって上記XPS測定条件に従って測定されるSi2pスペクトルおよびSn3d5スペクトルの各ピーク面積から算出されるケイ素(Si)原子濃度(以下、「C’Si」という)に対するスズ(Sn)原子濃度(以下、「C’Si」という)の比(Sn原子濃度/Si原子濃度)(以下、R’Sn/Siということもある。)が0.05よりも大きいものであることが好ましい。ガラス基材の表面のXPS測定については、既に説明した部材の表面のXPS測定と同様の装置、条件を用いて行うことができる。
【0031】
ガラス基材の表面のXPS測定では、O1sピーク、Si2pピーク、Sn3d5ピーク、Na1sピーク、Ca2pピークが検出される。得られたSi2pスペクトルおよびSn3d5スペクトルに対し、上述した部材の表面のRSn/Siを求める際に行う処理と同様の処理を行うことにより、下記式(B)によってガラス基材表面のR’Sn/Siを求めることが可能である。
R’Sn/Si=C’Sn/C’Si・・・式(B)
【0032】
ガラス基材の表面におけるSnの量は、ガラス基材が着色しない限りにおいて、多い方が好ましい。本発明において、ガラス基材の表面におけるR’Sn/Siが0.06以上であることが好ましく、0.07以上であることがより好ましい。また、ガラス基材の着色の観点から、R’Sn/Siが0.5未満であることが好ましく、0.4未満であることがより好ましい。
【0033】
ガラス基材の表面のR’Sn/Siは、既に説明したガラス部材の表面のRSn/Siと相関がある。そのため、ガラス部材の表面をXPS測定することにより、ガラス基材の表面のR’Sn/Si値を推定することが可能である。これは、パーフルオロポリエーテル鎖が、ガラス基材の表面に存在するSn原子とSi原子の濃度に影響を及ぼさない程度の密度でガラス部材の表面に含まれているためと考えられる。
【0034】
ガラス基材として、一般的にガラスと知られているものを利用可能である。例えば、建築用ガラスに使用されているフロート法により作製されたフロートガラス、又はロールアウト法で製造されたソーダ石灰ガラス等の無機質で透明性があるガラスを利用することができる。本発明においては、これらガラスの表面のSnの量を調整することが好ましい。具体的には、所望のSnの量となるようにガラスの表面にスズを導入することが好ましい。スズの導入方法として、ガラスの製造時に導入する方法や、ガラスの製造後に導入する方法が挙げられる。ガラスの製造時の導入方法としては、フロート法により製造する際に導入する方法が挙げられる。ガラスの製造後に導入する方法としては、例えば、真空蒸着、イオンプレーティング法、スパッタリング法等のPVD法やCVD法によりガラス基材の表面にSn原子を打ち込む方法、スプレー等によりガラス基材の表面にSn原子を含む層を形成する方法が挙げられる。
【0035】
ガラス基材の形状としては、平板、曲げ板等を使用でき、大きさや厚さは特に制限されない。ガラス基材のうち、パーフルオロポリエーテル鎖を含む面(部材の表面)とは反対の面(部材の裏面)は反射面であってもよい。
【0036】
パーフルオロポリエーテル鎖
部材の表面に含まれるパーフルオロポリエーテル鎖3は、フッ素原子が結合した炭素原子と、当該炭素原子が酸素原子を介して結合したエーテル結合を繰り返し構造中に含む鎖であり、例えば、-[(CF-O]-(xは、自然数)で表される繰り返し単位を含む。具体的には、(CF)-O、(C)-O、(C)-O、(C)-Oなどの繰り返し単位である各エーテル結合が1つ以上ランダムに結合された鎖である。本発明において、繰り返し単位の合計数が大きい方が好ましいが、200以下であることがより好ましい。したがって、パーフルオロポリエーテル鎖3は1分子あたりの鎖が相対的に長いことを特徴とする。これにより、パーフルオロポリエーテル鎖3は優れた可撓性を有するとともに、基材との良好な相互作用を発現するものと考えられる。
【0037】
パーフルオロポリエーテル鎖3が可撓性を有する理由として下記が考えられるが、本発明はこれに限られるものではない。パーフルオロポリエーテル鎖3は、上述したとおり、炭素原子にフッ素原子と酸素原子が結合していると考えられる。一般に、炭素原子と結合する原子は正四面体構造の頂点に位置するため、炭素単結合を軸に自由に回転することができる。そのため、無数の立体配座を取ることができる。パーフルオロポリエーテル鎖のようにエーテル結合を含む場合、エーテル結合の酸素原子と結合する2つの炭素原子間において、間に位置する酸素原子の存在によって相互作用は働きにくくなり、ねじれの位置によるエネルギー的な差は殆どない。その為、エーテル結合を含む有機鎖は炭素-酸素単結合を軸に比較的自由に回転することができる。例えば、エーテル結合を多く有するパーフルオロポリエーテル鎖は、エーテル結合を持たないフルオルアルキル鎖などと比較して、その形状は自由度高く変化する。即ち、エーテル結合を多く有する、つまり繰り返し単位の数が大きい、つまり1分子あたりの鎖が長いパーフルオロポリエーテル鎖3は可撓性(柔軟性)に優れると考えられる。
【0038】
パーフルオロポリエーテル鎖3の優れた可撓性により、例えば、拭き掃除等により部材表面にかけられた摺動力または摩耗力などの負荷を分散させ又は逃がすことが可能となる。その結果、本発明による部材の表面は優れた耐久性を有することが可能となると考えられる。
本発明において、パーフルオロポリエーテル鎖3は、その機能を良好に発揮可能な範囲において、分子鎖が長い、つまり繰り返し単位の数が大きいほど好ましい。これにより、パーフルオロポリエーテル鎖3の可撓性はより向上されると考えられる。
【0039】
さらに、パーフルオロポリエーテル鎖3は、一分子あたりの鎖が長くかつ可撓性があるため、図1bに示すように、ガラス基材1の表面に対し水平方向(面方向)に傾き存在していると推定される。これにより、ガラス基材の表面とパーフルオロポリエーテル鎖の間の距離が短くなるため、パーフルオロポリエーテル鎖とガラス基材の表面に含まれるSn原子との間で相互作用が働くと考えられる。Sn原子はSi原子と比較し、原子径が大きいこと、また配位数が多い(一般的に、Siは4配位、Snは6配位)ことからパーフルオロポリエーテル鎖との相互作用が強く、安定した状態を形成していると考えられる。上記の相互作用により、パーフルオロポリエーテル鎖とガラス基材の表面との密着性が向上され、その結果、部材の耐久性も向上されると考えられる。
【0040】
一方、従来用いられていたフルオロアルキル鎖2は、一般的に分子鎖が短く、剛直であるため、図1aに示すように、ガラス基材の表面に対し垂直方向に存在していると考えられる。したがって、ガラス基材の表面とフルオロアルキル鎖2の間の距離は長く、ガラス基材の表面にSn原子が含まれている場合であっても、フルオロアルキル鎖2とSn原子との間で働く相互作用は弱いと考えられる。
【0041】
パーフルオロポリエーテル鎖3は直鎖であることが好ましい。直鎖であることで、分岐鎖を有する構造よりも立体障害が少なく、基材中のSnとの相互作用が生じる確率が高くなると考えられる。そのため、基材への密着力が向上すると考えられる。
【0042】
上述したパーフルオロポリエーテル鎖3の優れた可撓性、さらに基材1の表面に含まれるSn原子との強い相互作用により、本発明による部材は、清掃を繰り返しながら長期間使用された後であっても、清掃により部材表面に負荷された摺動力または摩耗力に対する優れた耐久性を有するため、その機能、すなわち防汚性および汚れの易除去性双方を長期間維持することができる。
【0043】
本発明において、パーフルオロポリエーテル鎖3として、一般に下記の式1で表されるものが好ましい。
【化1】
式1中、a,b,c,dは繰り返し単位の数、すなわち0以上の整数であり、a,b,c,dの和は3~200であり、式中の各繰り返し単位がランダムに結合した鎖でもよく、各繰り返し単位からなるそれぞれの高分子鎖同士が結合した鎖でもよい。また、繰り返し単位については直鎖のみでも分岐を含むものでもよい。R及びRはそれぞれ有機鎖を示し、炭素原子、酸素原子、窒素原子、水素原子、フッ素原子から選択される1種以上を含む。例えば、アルキル鎖(-(CH-)、フッ化アルキル鎖(-(CF-)、これら両方を含む有機鎖や、アルキル鎖、フッ化アルキル鎖、これら両方を含む有機鎖から選択される1種以上にエーテル結合を含むものが挙げられる。また、RまたはRのいずれか一方が末端でも良く、R及びRの両方に末端基が結合したものでも良い。ここで、式1のパーフルオロポリエーテル鎖の繰り返し単位の数は、式1のパーフルオロポリエーテル鎖を含む原料を19F-NMRによる液分析することにより求められる数である。その他、必要に応じてH-NMR、13C―NMR、DEPT135、MALDI-MS分析も掛け合わせて行い、繰り返し単位の数を求める場合もある。当該原料と、当該原料を用いて作製した部材に含まれるパーフルオロポリエーテル鎖の構造(繰り返し単位の数)は、部材の製造工程において、変わらないものであると考えられるため、部材に含まれるパーフルオロポリエーテル鎖の繰り返し単位の数は、原料の液分析により求められる。当該原料が溶剤で既に希釈され分析困難な場合は、一定濃度以上に濃縮後、液分析を行うことができる。
【0044】
本発明において、パーフルオロポリエーテル鎖3は、パーフルオロエーテルが10~200重合されてなるものであることが好ましい。式1において、a+b+c+dが10~200であることが好ましく、より好ましくは10~150、最も好ましくは20~100である。これにより、さらに耐久性を高くすることが可能となる。
【0045】
パーフルオロポリエーテル鎖3として、さらに好ましくは、例えば下記の式2~8で表されるパーフルオロポリエーテル鎖が挙げられる。
【化2】
式2中、e:f:g=23.2:22.3:0.4(平均値)であり、式中の繰り返し単位はランダムに配列している。e+f+g=45.9である。
ここで、式2のパーフルオロポリエーテル鎖の繰り返し単位の数は、式2のパーフルオロポリエーテル鎖を含む原料を19F-NMRによる液分析することにより求められる数である。当該原料と、当該原料を用いて作製した部材に含まれるパーフルオロポリエーテル鎖の構造(繰り返し単位の数)は、部材の製造工程において、変わらないものであると考えられるため、部材に含まれるパーフルオロポリエーテル鎖の繰り返し単位の数は、原料の液分析により求められる。
【化3】
式3中、h:i:j=22.3:20.2:0.5(平均値)であり、式中の繰り返し単位はランダムに配列している。h+i+j=43.0である。ここで、式3のパーフルオロポリエーテル鎖の繰り返し単位の数は、式3のパーフルオロポリエーテル鎖を含む原料を19F-NMRによる液分析することにより求められる数である。当該原料と、当該原料を用いて作製した部材に含まれるパーフルオロポリエーテル鎖の構造(繰り返し単位の数)は、部材の製造工程において、変わらないものであると考えられるため、部材に含まれるパーフルオロポリエーテル鎖の繰り返し単位の数は、原料の液分析により求められる。
【化4】
式4中、kの平均値は22.9である。ここで、式4のパーフルオロポリエーテル鎖の繰り返し単位の数は、式4のパーフルオロポリエーテル鎖を含む原料を19F-NMRによる液分析することにより求められる数である。当該原料と、当該原料を用いて作製した部材に含まれるパーフルオロポリエーテル鎖の構造(繰り返し単位の数)は、部材の製造工程において、変わらないものであると考えられるため、部材に含まれるパーフルオロポリエーテル鎖の繰り返し単位の数は、原料の液分析により求められる。
【化5】
式5中、lの平均値は23.4である。ここで、式5のパーフルオロポリエーテル鎖の繰り返し単位の数は、式5のパーフルオロポリエーテル鎖を含む原料を19F-NMRによる液分析することにより求められる数である。当該原料と、当該原料を用いて作製した部材に含まれるパーフルオロポリエーテル鎖の構造(繰り返し単位の数)は、部材の製造工程において、変わらないものであると考えられるため、部材に含まれるパーフルオロポリエーテル鎖の繰り返し単位の数は、原料の液分析により求められる。
【化6】
式6中、mの平均値は23.2である。ここで、式6のパーフルオロポリエーテル鎖の繰り返し単位の数は、式6のパーフルオロポリエーテル鎖を含む原料を19F-NMRによる液分析することにより求められる数である。当該原料と、当該原料を用いて作製した部材に含まれるパーフルオロポリエーテル鎖の構造(繰り返し単位の数)は、部材の製造工程において、変わらないものであると考えられるため、部材に含まれるパーフルオロポリエーテル鎖の繰り返し単位の数は、原料の液分析により求められる。
【化7】
式7中、nの平均値は18である。ここで、式7のパーフルオロポリエーテル鎖の繰り返し単位の数は、式7のパーフルオロポリエーテル鎖を含む原料を19F-NMRによる液分析することにより求められる数である。当該原料と、当該原料を用いて作製した部材に含まれるパーフルオロポリエーテル鎖の構造(繰り返し単位の数)は、部材の製造工程において、変わらないものであると考えられるため、部材に含まれるパーフルオロポリエーテル鎖の繰り返し単位の数は、原料の液分析により求められる。
【化8】
式8中、pの平均値は24である。ここで、式8のパーフルオロポリエーテル鎖の繰り返し単位の数は、式8のパーフルオロポリエーテル鎖を含む原料を19F-NMRによる液分析することにより求められる数である。当該原料と、当該原料を用いて作製した部材に含まれるパーフルオロポリエーテル鎖の構造(繰り返し単位の数)は、部材の製造工程において、変わらないものであると考えられるため、部材に含まれるパーフルオロポリエーテル鎖の繰り返し単位の数は、原料の液分析により求められる。
【0046】
部材の表面にパーフルオロポリエーテル鎖が含まれることは、例えばX線光電子分光法(XPS)および飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF―SIMS)により特定することができる。評価方法を以下に説明する。
【0047】
まず、X線光電子分光法(XPS)により部材の表面を評価し、C1s、F1s、O1sのスペクトルを得る。このスペクトルにおいて、F1sにおけるC-F結合を有するフッ素原子のピーク(ピーク位置:687eV~690eV)が得られ、かつC1sにおけるC-F結合を有する炭素原子のピーク(ピーク位置:290eV~297eV)が得られることで、部材の表面がC-F結合を含むことが分かる。C-F結合を含む化合物の例として、パーフルオロエーテル鎖含有化合物やフルオロアルキル化合物などが考えられる。さらに、O1sにおけるCF-O-CF結合を有する酸素原子のピーク(ピーク位置:535eV~538eV)が得られることで、部材の表面がパーフルオロエーテル鎖を含むことが確認できる。なお、XPS測定は、上述の装置および「XPS測定条件」を用いて行う。
【0048】
O1sにおけるCF-O-CF結合を有する酸素原子のピーク(ピーク位置:535eV~538eV)の確認方法は以下である。XPS測定によって得られるO1sスペクトルを3つのピークに分離する。3つのピークのピークトップをそれぞれCF-O-CF(536eV)、Si-O-H(533eV)、Si-O-Si(532eV)とし、Gauss―Lorentz関数を用いShirley法にてピークフィット処理を行う。この処理を行った各ピークから、CF-O-CFピーク面積(以下、ACF2-O-CF2)、Si-O-Hピーク面積(以下、ASi-O-H)、Si―O-Siピーク面積(以下、ASi-O-Si)を算出する。CF-O-CFはパーフルオロエーテル由来のピークであり、Si-O-HとSi-O-Siはガラス基材由来のピークであると考えられる。ACF2-O-CF2の値が20以上である場合、パーフルオロエーテルが存在するといえる。ACF2-O-CF2の値は、好ましくは30以上、より好ましくは35以上であり、このような範囲でパーフルオロポリエーテルが存在すると、上述した本発明の効果をより向上させることができる。
【0049】
また、TOF-SIMSによる部材の表面の評価方法は、以下のとおりである。TOF―SIMS装置として、例えば、TOF.SIMS5(ION―TOF社)を用いることができる。TOF―SIMSは、一次イオン源から照射されるパルス状の一次イオンを試料表面に照射した際に試料表面から発生する二次イオンを検出する分析手法である。発生する二次イオンの種類や検出感度は、試料表面における組成や化学構造によって異なる。試料表面における各種二次イオンの分布を可視化することによって、試料表面における組成や化学構造の分布を推定することができる。
【0050】
以下の測定条件を用いてTOF-SIMSにより部材の表面測定を行うことにより、横軸:質量数(m/z、つまり、質量mを電荷zで割った値)、縦軸:二次イオン強度(カウント数)とした化合物の二次イオンマススペクトルを得ることができる。
[TOF―SIMS測定条件]
一次イオン源:Bi
イオン照射量:5E9ions/cm
測定面積:200μm角
質量範囲:0~800
スパッタイオン源:Ar-GCIB
測定サイクル:120
検出イオン:Positive
スパッタレート:0.3nm/cycle(アクリル換算)
【0051】
上記の測定条件を用いて得られる二次イオンマススペクトルにおいて、周期的に現れるフラグメントから部材の表面がパーフルオロポリエーテル鎖を含むことを確認することが可能である。二次イオンマススペクトルm/zが数百以上の高質量側において、等質量間隔で周期的に現れるフラグメントが存在する場合、その質量間隔から化合物に含まれる繰り返し単位の分子式を推測することができる。繰り返し単位が複数存在する場合についても同様に推測することができる。XPSによって得られるCF-O-CF結合の存在、及びTOF-SIMSによって得られる精密質量と同位体の一致度から、分子式がC(x、y、zは1以上の整数、ただし、y=2x)と同定される場合、繰り返し単位としてパーフルオロエーテルを含むことが分かる。また、等質量間隔で周期的に現れるフラグメントから、繰り返し単位の合計数が少なくとも何個以上あるかが分かる。以上のTOF―SIMS分析によって、繰り返し単位がパーフルオロエーテルを含み、繰り返し単位の合計数が少なくとも3個以上であるとき、部材の表面がパーフルオロポリエーテル鎖3を含むことがわかる。
【0052】
本発明において、後述するように、パーフルオロポリエーテル鎖の原料として、例えばパーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物を使用することができる。パーフルオロポリエーテル鎖3を含む化合物において、パーフルオロポリエーテル鎖3はSi原子と結合してなることが好ましい。つまり、パーフルオロポリエーテル鎖3を含む化合物は、パーフルオロポリエーテル鎖3とSi原子とを含むことが好ましい。パーフルオロポリエーテル鎖3を含む化合物は、パーフルオロポリエーテル鎖3とSi原子に加え、他の化学構造、好ましくは有機基をさらに含んでいてもよい。パーフルオロポリエーテル鎖3が有機基を介し間接的に又は直接的にSi原子と結合することで、部材の表面の耐久性が向上する。また、パーフルオロポリエーテル鎖3を含む化合物がこれに含まれるSi原子を介してガラス基材1の表面と結合することが好ましい。これにより、パーフルオロポリエーテル鎖3とガラス基材1の表面との密着力が向上する。また本発明において、パーフルオロポリエーテル鎖3と直接的又は間接的に結合してなるSi原子がO原子と結合してなり、当該Si原子がこのO原子を介してガラス基材1の表面と結合してなることがより好ましい。これにより、パーフルオロポリエーテル鎖3とガラス基材1の表面との密着力がより向上する。
【0053】
パーフルオロポリエーテル鎖3を含む化合物は、これに含まれるSi原子およびO原子を介してガラス基材1の表面と結合していることが好ましい。この結合状態は、例えば、表面増強ラマン分光法(SERS)、19Si-NMRおよび赤外分光法(IR)などの方法により特定することが可能である。
【0054】
パーフルオロポリエーテル鎖3を含む化合物は、これに含まれる複数のSi原子を介してガラス基材1と結合している方が好ましい。これにより、パーフルオロポリエーテル鎖3とガラス基材1の表面との密着力が向上する。Si原子は、パーフルオロポリエーテル鎖3を含む化合物の側鎖や末端と結合していることが好ましい。パーフルオロポリエーテル鎖3を含む化合物の末端にSi原子が結合していることがより好ましい。パーフルオロポリエーテル鎖3を含む化合物の両末端にSi原子が結合していてもよく、パーフルオロポリエーテル鎖3を含む化合物の片末端にSi原子が結合していても良い。パーフルオロポリエーテル鎖3と結合するSi原子は、原料であるパーフルオロポリエーテル鎖3を含む化合物に含まれる反応性シリル基由来であっても、ガラス基材の表面を活性化することで生じたSi原子でも良い。
【0055】
さらに本発明において、パーフルオロポリエーテル鎖3を含む化合物のC原子がSi-O鎖を介してガラス基材1の表面のSn原子と結合していることが好ましい。つまり、ガラス基材1の表面とパーフルオロポリエーテル鎖3を含む化合物とがSn-O-Si-C結合が形成されることで、本発明による部材の表面は特に優れた耐久性を得ることができる。
【0056】
部材をTOF-SIMSにより評価することにより、部材がSn-O-Si-C結合を含むことを確認することができる。パーフルオロポリエーテル鎖3を含む化合物がSi原子と結合している場合、Si原子を介して、パーフルオロポリエーテル鎖3を含む化合物とガラス基材1とが結合していると考えられる。
【0057】
部材がSn-O-Si-C結合を含むことを確認する方法を以下に説明する。まず、部材の表面をTOF-SIMSによって、下記条件2に従って測定し、得られたスペクトルを下記条件3に従って規格化を行う。
【0058】
(条件2)
測定装置:ION-TOF社 TOF.SIMS5
一次イオン源:Bi
イオン照射量:5E9ions/cm
測定面積:200μm角
質量範囲:0~800
スパッタイオン源:Ar-GCIB
測定サイクル:120
検出イオン:Positive
スパッタレート:0.3nm/cycle(アクリル換算)
【0059】
(条件3)
条件2に従って測定されたスペクトルの110~120サイクルにおけるSnの平均値を算出し、規格化し、フラグメント毎に各係数を掛ける(下記式C)。各係数は、SiOH:3,000、F:2,000、SiCHO:2,000、Sn:2,000である。
(ピークCount値×係数)/(110~120サイクルのSnCount平均値)・・・(式C)
【0060】
規格化したスペクトルにおいて、パーフルオロポリエーテル鎖由来のピークF(m/z=19)のピーク値が1サイクルの値の半分になる値のサイクル位置をガラス基材とパーフルオロポリエーテル鎖の界面と定義する。この界面において、パーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物の末端基由来のピークSiCHO(m/z=59)と、ガラス基材由来のピークSn(m/z=120)、それぞれ二種のピークの減少を確認することで、パーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物の末端のシラノール基と、ガラス基材の表面に含まれるSnとが結合し、Sn-O-Si-C結合を生成したと考えられる。つまり、部材は、Sn-O-Si-C結合を含むと考えられる。
【0061】
本発明において、部材の表面に多数のパーフルオロポリエーテル鎖3が高い密度で存在することにより、パーフルオロポリエーテル鎖3を含む膜または層が形成されていてもよい。パーフルオロポリエーテル鎖3を含む膜は、好ましくは薄膜である。パーフルオロポリエーテル鎖3を含む膜または層が形成されたものである場合、その厚さは1nm以上10nm以下であることが好ましく、1nm以上5nm以下であることがより好ましい。
【0062】
部材の製造方法
<ガラス基材の準備工程>
まず、ガラス基材を準備する。ガラス基材は、その表面における、X線光電子分光法(XPS)によって上記XPS測定条件に従って測定されるSi2pスペクトルおよびSn3d5スペクトルの各ピーク面積から算出されるケイ素(Si)原子濃度に対するスズ(Sn)原子濃度の比(Sn原子濃度/Si原子濃度、R’Sn/Si)が0.05よりも大きいもの準備する。当該準備工程において、ガラス基材の表面をXPS測定することにより、R’Sn/Si値が0.05よりも大きいことを確認する。この結果、上記要件を満たしていれば、次ステップの前処理を行う。要件を満たしていない場合は、ガラス基材の表面のSn原子を増やすために、ガラス基材の表面を処理する。処理方法としては、真空蒸着、イオンプレーティング法、スパッタリング法等のPVD法やCVD法によりガラス基材の表面にSn原子を打ち込む方法、スプレー等によって表面にSn原子を含む層を形成する方法を用いることができる。その後、ガラス基材の表面を再度XPS測定し、R’Sn/Si値が0.05よりも大きいことを確認する。
【0063】
<前処理工程>
次いで、作製したガラス基材を前処理する。本発明において、ガラス基材の表面の前処理とは、ガラス基材の表面のSn原子濃度が減少し過ぎず、R’Sn/Si>0.05を満たす範囲でガラス基材の表面に存在する汚れを除去し、表面の水酸基を活性化する処理である。この前処理工程は、ガラス基材の表面に存在する汚れを除去する工程および/またはガラス基材の表面の水酸基を活性化する工程を備えてなる。ガラス基材の表面のR’Sn/Siが上記範囲となるように行う。前処理の方法として、ウェット方法では、アルカリ洗浄剤入り水溶液にガラス基材を浸漬させたまま超音波洗浄する方法や、前記アルカリ洗浄剤水溶液を不織布ウエス等に含侵させガラス基材の表面を拭き取る方法が挙げられる。また、アルカリ洗浄剤入り水溶液の代わりに中性洗浄剤入り水溶液、酸性洗浄剤入り水溶液、ガラス研磨剤やフッ化水素酸系の薬剤を用いる方法もある。ドライ方法では、ガラス基材の表面にUV照射やプラズマ照射する方法がある。UV照射の際波長としては、λ=308nm、254nm、222nm、185nm、172nm、146nm、126nmを用いることができる。プラズマ照射の際は大気圧プラズマ、中真空プラズマを用いることができる。
【0064】
上述したように、ガラス基材の表面を前処理することにより、ガラス基材の表面の水酸基を活性化することが可能となるが、前処理は同時に、ガラス基材の表面のSn原子が面方向に均一に分散して存在する状態を維持することができる。
【0065】
<パーフルオロポリエーテル鎖の形成工程>
次いで、前処理されたガラス基材の表面にパーフルオロポリエーテル鎖を形成する。パーフルオロポリエーテル鎖の形成は、パーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物を含む処理液をガラス基材の表面に適用することにより製造することができる。パーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物を含む処理液の適用方法は、公知の方法を用いることができる。例えば、パーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物を含む処理液を、ディッピング処理、スピンコート、バーコート、ワイピング、真空蒸着、スプレーガン等を用いて塗布することにより適用することができる。パーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物を含む処理液をガラス基材の表面に塗布した後、乾燥、必要に応じ養生を行い、その後、場合により、好ましくは、部材の表面を乾布または水を含ませた布で拭き上げし、または中性洗剤とスポンジを用いて洗浄し、その後水にて十分にすすぎ洗いを行った後、部材の表面にパーフルオロポリエーテル鎖を含むガラス部材を得ることができる。
【0066】
パーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物を含む処理液としては、本発明の部材を作製可能なものであれば何でも使用可能である。パーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物として、例えば、-[(CF-O]-(xは、自然数)で表される繰り返し単位、具体的には、(CF)-O、(C)-O、(C)-O、(C)-Oなどの繰り返し単位である各エーテル結合が1つ以上ランダムに結合された鎖を含む化合物が挙げられる。パーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物の具体的な例として、下記の式9に示す構造を含む化合物が挙げられる。
【化9】
式9中、a,b,c,dは繰り返し単位の数、すなわち0以上の整数であり、a,b,c,dの和は3~200であり、式中の各繰り返し単位がランダムに結合した鎖でもよく、各繰り返し単位からなるそれぞれの高分子鎖同士が結合した鎖でもよい。また、各繰り返し単位は直鎖でも分岐を含むものでもよい。R及びRはそれぞれ有機鎖を示し、炭素原子、酸素原子、窒素原子、水素原子、フッ素原子から選択される1種以上を含む。例えば、アルキル鎖(-(CH-)、フッ化アルキル鎖(-(CF-)、これら両方を含む有機鎖や、アルキル鎖、フッ化アルキル鎖、これら両方を含む有機鎖から選択される1種以上にエーテル結合を含むものが挙げられる。また、RまたはRのいずれか一方が末端でも良く、R及びRの両方に末端基が結合したものでも良い。式9のパーフルオロポリエーテル鎖の繰り返し単位数は、式9のパーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物を含む処理液を19F-NMRにより液分析して求められる。その他、必要に応じてH-NMR、13C―NMR、DEPT135、MALDI-MS分析も掛け合わせて行い、繰り返し単位の数を求める場合もある。当該処理液が溶剤で既に希釈され分析困難な場合は、一定濃度以上に濃縮後、液分析を行う。
【0067】
さらに具体的なパーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物として、下記の式10~16に示す構造を含む化合物が挙げられる。
【化10】
式10中、e:f:g=23.2:22.3:0.4(平均値)であり、式中の繰り返し単位はランダムに配列している。e+f+g=45.9である。式10のパーフルオロポリエーテル鎖の繰り返し単位数は、式10のパーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物を含む処理液を19F-NMRにより液分析して求められる。
【化11】
式11中、h:i:j=22.3:20.2:0.5(平均値)であり、式中の繰り返し単位はランダムに配列している。h+i+j=43.0である。式11のパーフルオロポリエーテル鎖の繰り返し単位数は、式11のパーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物を含む処理液を19F-NMRにより液分析して求められる。
【化12】
式12中、kの平均値は22.9である。式12のパーフルオロポリエーテル鎖の繰り返し単位数は、式12のパーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物を含む処理液を19F-NMRにより液分析して求められる。
【化13】
式13中、lの平均値は23.4である。式13のパーフルオロポリエーテル鎖の繰り返し単位数は、式13のパーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物を含む処理液を19F-NMRにより液分析して求められる。
【化14】
式14中、mの平均値は23.2である。式14のパーフルオロポリエーテル鎖の繰り返し単位数は、式14のパーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物を含む処理液を19F-NMRにより液分析して求められる。
【化15】
式15中、nの平均値は18である。式15のパーフルオロポリエーテル鎖の繰り返し単位数は、式15のパーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物を含む処理液を19F-NMRにより液分析して求められる。
【化16】
式16中、pの平均値は24である。式16のパーフルオロポリエーテル鎖の繰り返し単位数は、式16のパーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物を含む処理液を19F-NMRにより液分析して求められる。
【0068】
パーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物は、パーフルオロポリエーテル鎖と少なくとも1つのSi原子を含む化合物であることが好ましい。パーフルオロポリエーテル鎖は有機基を介し又は直接Si原子と結合してなることが好ましい。パーフルオロポリエーテル鎖が有機基を介し又は直接Si原子と結合することで得られる作用効果については既に説明したとおりである。パーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物は、パーフルオロポリエーテル鎖と少なくとも1つの反応性シリル基とが結合している化合物であることがさらに好ましい。
【0069】
反応性シリル基は、好ましくは、Si原子にフッ素原子を含まない有機基と、水酸基または加水分解可能な基とが結合した官能基である。加水分解可能な基は、具体的にはアルコキシ基、ハロゲノ基等であり、より具体的には、-OCH、-OCHCH、-Cl等である。反応性シリル基に含まれる水酸基または加水分解可能な基は、ガラス基材の表面との結合点として機能することが好ましい。つまり、反応性シリル基に含まれる水酸基、または加水分解可能な基が加水分解することによって得られる水酸基、もしくは水酸基に含まれる水素原子は、ガラス基材の表面に存在する官能基(水素原子または水酸基など)と脱水縮合する。これにより、パーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物はガラス基材の表面と結合することが可能となる。本発明において、反応性シリル基は、ガラス基材の表面との結合点、すなわち水酸基または加水分解可能な基を多く含むことが好ましい。これにより、パーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物とガラス基材の表面との密着力が向上する。
【0070】
本発明において、パーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物を含む処理液は、適当な溶剤で希釈されたものであってもよい。このような溶剤としては、フッ素化脂肪族炭化水素系溶剤(パーフルオロヘプタン、パーフルオロオクタンなど)、フッ素化芳香族炭化水素系溶剤(m-キシレンヘキサフロライド、ベンゾトリフロライドなど)、フッ素化エーテル系溶剤(メチルパーフルオロブチルエーテル、パーフルオロ(2-ブチルテトラヒドロフラン)、エチルナノフルオロイソブチルエーテル、エチルナノフルオロブチルエーテルなど)、フッ素化アルキルアミン系溶剤(パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリペンチルアミンなど)、炭化水素系溶剤(石油ベンジン、ミネラルスピリッツ、トルエン、キシレンなど)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)を例示することができる。これらの中では、溶解性、濡れ性などの点で、フッ素化溶剤が望ましく、特には、m-キシレンヘキサフロライド、パーフルオロ(2-ブチルテトラヒドロフラン)、パーフルオロトリブチルアミン及びこれらの混合物が好ましい。
【0071】
用途
本発明による部材は、上述した構成および特性を満たす範囲において、一般的なガラス製品が使用される用途に使用することができる。例えば、鏡、窓ガラス、ガラス製扉、壁もしくは棚板、またはスマートミラー等として用いることができる。
本発明の好ましい態様によれば、本発明による部材は、水まわりで使用されるガラス部材、例えば、洗面所、レストルーム、バスルーム、シャワーブースで使用されるガラス部材であってよい。また、本発明による部材は、水まわりで利用されるタッチパネルやガラス製表示パネルであってよい。これらの具体例として、洗面鏡、化粧鏡、浴室鏡、浴室扉、浴室窓ガラス、浴室棚、シャワーブース壁、シャワーブース扉、シャワーブース棚があげられる。また、洗面所、レストルーム、バスルーム、シャワーブース等の水まわり空間で使用されるスマートミラーが挙げられる。
これらの部材を使用する際は、表面の防曇性等を向上させるため、部材の近くに加温部材(例えば、ヒーター)を設けても良い。
【実施例0072】
以下の実施例によって本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0073】
1.準備
1-1.ガラス基材
フロートガラスを3%水酸化カリウム水溶液に80℃にて所定時間(0~60分間)浸漬し、ガラス基材A~Eを作製した。
【0074】
作製した各ガラス基材の表面をXPSにより測定し、各ガラス基材の表面の各原子濃度を確認した。測定前に、各ガラス基材の表面の汚れを除去するため、エタノールを含浸させた不織布ウエス(ベンコット、旭化成製)を用いて、ガラス基材の表面を拭き取ることで脱脂した。
【0075】
XPS装置として、PHI QuanteraII(アルバック・ファイ製)を用い、各ガラス基材の表面について、以下の「XPS測定条件」にて測定を行った。
[XPS測定条件]
X線条件(単色化AlKα線、50W、15kV)
分析領域(200μmφ)
中和銃条件(Emission:20μA)
イオン銃条件(Emission:7.0mA)
光電子取出角(45°)
Time per step(50ms)
Sweep(5回)
Pass energy(55eV)
測定元素(O、Sn、Si、Na、Caの順で走査)
走査範囲(O1s:523~543eV、Sn3d5:480~500eV、Si2p:94~114eV、Na1s:1066~1086eV、Ca2p:341~361eV)
【0076】
XPS測定により、O1sスペクトル、Sn3d5スペクトル、Si2pスペクトル、Na1sスペクトル、Ca2pスペクトルを得た。得られたスペクトルから、データ解析ソフトウェアPHI MultiPak VERSION9(アルバック・ファイ製)を用いて各原子濃度を算出した。得られたスペクトルにスムージング処理を施し、Na1sピークを1072.1eVとしてチャージ補正した後に、各原子の電子軌道に基づくピークに対し、Shirely法でバックグラウンドを除去した。その後、各ピーク面積強度を算出し、データ解析ソフトウェアに予め設定されている装置固有の感度係数で除算する解析処理を行い、各原子濃度を算出した。具体的には、酸素原子濃度(以下、C’)、スズ原子濃度(以下、C’Sn)、ケイ素原子濃度(以下、C’Si)、ナトリウム原子濃度(以下、C’Na)、カルシウム原子濃度(以下、C’Ca)を算出した。濃度の算出には、酸素についてはO1sピーク(529~539eV)、スズについてはSn3d5ピーク(482~492eV)、ケイ素についてはSi2pピーク(98~108eV)、ナトリウムについてはNa1sピーク(1067~1077eV)、カルシウムについてはCa2pピーク(345~355eV)のピーク面積を用いた。各原子濃度の値は、異なる4カ所を測定した平均の値とした。ただし、4カ所の中に異常値が現れた場合は、異常値を除いて平均値を算出した。得られたC’、C’Si、C’Sn、C’Ca、C’Na(atomic%)を表1に示す。
XPSで得られたC’SnおよびC’Siを用いて、下記式(B)によってR’Sn/Siを算出した。
R’Sn/Si=C’Sn/C’Si 式(B)
得られたR’Sn/Siの値を表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
1-2.試薬
パーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物またはフルオロアルキル鎖を含む化合物を含む下記試薬a~cを調製した。各試薬に含まれる有効成分の構造式において、XSiは、Si原子を少なくとも一つ含み、Si原子にフッ素原子を含まない有機基と、水酸基または加水分解可能な基とが結合したものを意味する。加水分解可能な基とは、アルコキシ基、ハロゲノ基を意味する。具体的には、-OCH、-OCHCH、-Clである。
【0079】
試薬a
下記成分からなり、式(a)で表されるパーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物を有効成分とする試薬
【化17】
(式a中、l:m:n=22.3:20.2:0.5(平均値)であり、XSiは、Si原子を平均1.0個含み、Si原子にフッ素原子を含まない有機基と、水酸基または加水分解可能な基とが結合したものを意味する。加水分解可能な基とは、アルコキシ基、ハロゲノ基を意味する。具体的には、-OCH、-OCHCH、-Clである。なお、式中の繰り返し単位はランダムに配列している。これらの値はNMRにより試薬aを液分析して求めた。パーフルオロポリエーテル鎖の数平均分子量は19F-NMRの結果から、またXSiの存在はH-NMRおよび29Si-NMRの検出スペクトルから確認した。)
【0080】
(成分)
・メタキシレンヘキサフロライド(CASNo.402-31-3) 80-90%
・式(a)のパーフルオロポリエーテル鎖含有有機ケイ素化合物(有効成分) 10-20%
【0081】
試薬b
下記成分からなり、式(b)で表されるパーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物を有効成分とする試薬。
【化18】
(式b中、l:m:n=23.2:22.3:0.4(平均値)であり、XSiは、Si原子を平均3.0個含む以外は式(a)のXSiと同様である。これらの値はNMRにより試薬bを液分析して求めた。パーフルオロポリエーテル鎖の数平均分子量は、19F-NMRの結果から、またXSiの存在はH-NMRおよび29Si-NMRの検出スペクトルから確認した。)
【0082】
(成分)
・フルオロアルキルエーテル(CASNo.163702-06-5) 40-50%
・フルオロアルキルエーテル(CASNo.163702-05-4) 30-40%
・式(b)のパーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物(有効成分) 10-20%
【0083】
試薬c
下記成分からなり、式(c)で表されるパーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物を有効成分とする試薬。
【化19】
(式c中、nの平均値は22.9である。XSiはSi原子を平均2.0個含む以外は式(a)のXSiと同様である。これらの値はNMRにより試薬cを液分析して求めた。パーフルオロポリエーテル鎖の数平均分子量は、19F-NMRの結果から、またXSiの存在はH-NMRおよび29Si-NMRの検出スペクトルから確認した。)
【0084】
(成分)
・エチルノナフルオロブチルエーテル(CAS No.163702-05-4) 25-35%
・エチルノナフルオロイソブチルエーテル(CAS No.163702-06-5) 45-55%
・式(c)のパーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物(有効成分) 15-25%
【0085】
試薬d
下記成分からなり、式(d)で表されるパーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物を有効成分とする試薬
【化20】
(式d中、nの平均値は23.4であり、この相対はNMRにより試薬dを液分析して求めた。パーフルオロポリエーテル鎖の数平均分子量は、19F-NMRの結果から確認した。また、XSiはSi原子を平均3.0個含む以外は式(a)のXSiと同様である。)
【0086】
(成分)
・エチルノナフルオロブチルエーテル(CAS No.163702-05-4) 25-35%
・エチルノナフルオロイソブチルエーテル(CAS No.163702-06-5) 45-55%
・式(d)のパーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物(有効成分) 15-25%
【0087】
試薬e
下記成分からなり、式(e)で表されるパーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物を有効成分とする試薬
【化21】
(式e中、nの平均値は23.2である。XSiはSi原子を平均3.7個含む以外は式(a)のXSiと同様である。これらの値はNMRにより試薬eを液分析して求めた。パーフルオロポリエーテル鎖の数平均分子量は、19F-NMRの結果から、またXSiの存在はH-NMRおよび29Si-NMRの検出スペクトルから確認した。)
【0088】
(成分)
・エチルノナフルオロブチルエーテル(CAS No.163702-05-4) 25-35%
・エチルノナフルオロイソブチルエーテル(CAS No.163702-06-5) 45-55%
・式(e)のパーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物(有効成分) 15-25%
【0089】
試薬f
下記成分からなり、式(f)で表されるパーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物を有効成分とする試薬
【化22】
(式f中、nの平均値は18であり、この値はNMRにより試薬fを液分析して求めた。パーフルオロポリエーテル鎖の数平均分子量は、19F-NMRの結果から確認した。また、XSiはSi原子を平均5.0個含む以外は式(a)のXSiと同様である。)
【0090】
(成分)
・1,1,1,2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-トリデカフルオロオクタン(CAS No.80793-17-5)
99.5%以上
・式(f)のパーフルオロポリエーテル鎖含有シラン化合物(有効成分) 0.5%未満
【0091】
試薬g
式(g)で表されるフルオロアルキル鎖を含む化合物を有効成分とする試薬。
【化23】
(式g中、XSiはSi原子を平均1.0個含む以外は式(a)のXSiと同様である。)
【0092】
(成分)
・式(g)のフルオロアルキル鎖を含む化合物(有効成分、CASNo.83048-65-1)>98.0%
1-3.処理液の調製
フッ素溶媒(製品名:NOVEC7200、スリーエム製)30gに、試薬aを206μL滴下し、軽く攪拌し、試薬aの有効成分濃度が約0.1wt%である処理液aを得た。
同様の方法により、試薬bを含む処理液b、試薬cを含む処理液c、試薬dを含む処理液d、試薬eを含む処理液eを得た。試薬fは有効成分の濃度が0.1wt%であったため、フッ素溶媒による希釈はせずに、試薬fをそのまま処理液fとして用いた。
フッ素溶媒(製品名:NOVEC7200、スリーエム製)30gに、試薬gを0.03g加え、軽く攪拌し、試薬gの有効成分濃度が約0.1wt%である処理液gを得た。
【0093】
2.パーフルオロポリエーテル鎖の形成
2-1.ガラス基材の前処理
ガラス基材A~Eを光表面処理装置(PL-21-200(S)、センエンジニアリング製)の中に光源から2mm程度の場所に導入し、各ガラス基材の表面に対し5分間UVオゾン処理を行った。
【0094】
2-2.処理液の適用
前処理をした各ガラス基材の表面にスプレーガンを用いて圧力0.04MPaで表2に示す処理液を塗布し、30秒間静置した。その後、120℃の乾燥炉で30分間加熱乾燥させ、11個のサンプルを得た。
【0095】
2-3.後洗浄
得られた各サンプルに流水をかけながらスポンジで表面を磨き、余分な処理液を除去し、実施例1~9および比較例1~2の部材を得た。
【0096】
3.分析・評価方法
得られた各部材について、以下の分析・評価を実施した。
【0097】
3-1.XPSによる各原子濃度の測定
各部材の表面の各原子濃度をXPSにより求めた。測定前に、各部材の表面の汚れを除去するため、エタノールを含浸させた不織布ウエス(ベンコット、旭化成製)にて各部材の表面を拭き取ることで脱脂した。
【0098】
XPS装置として、PHI QuanteraII(アルバック・ファイ製)を用い、各部材の表面について、以下の「XPS測定条件」にて測定を行った。
[XPS測定条件]
X線条件(単色化AlKα線、50W、15kV)
分析領域(200μmφ)
中和銃条件(Emission:20μA)
イオン銃条件(Emission:7.0mA)
光電子取出角(45°)
Time per step(50ms)
Sweep(5回)
Pass energy(55eV)
測定元素(O、F、C、Sn、Si、Na、Caの順で走査)
走査範囲(O1s:523~543eV、F1s:679~699eV、C1s:278~308eV、Sn3d5:480~500eV、Si2p:94~114eV、Na1s:1066~1086eV、Ca2p:341~361eV)
【0099】
XPS測定により、O1sスペクトル、F1sスペクトル、C1sスペクトル、Sn3d5スペクトル、Si2pスペクトル、Na1sスペクトル、Ca2pスペクトルを得た(図2~8)。得られたスペクトルから、データ解析ソフトウェアPHI MultiPak VERSION9(アルバック・ファイ製)を用いて各原子濃度を算出した。得られたスペクトルにスムージング処理を施し、Na1sピークを1072.1eVとしてチャージ補正した後に、各原子の電子軌道に基づくピークに対し、Shirely法でバックグラウンドを除去した。その後、各ピーク面積強度を算出し、データ解析ソフトウェアに予め設定されている装置固有の感度係数で除算する解析処理を行い、各原子濃度を算出した。具体的には、酸素原子濃度(以下、C)、フッ素原子濃度(以下、C)、炭素原子濃度(以下、C)、スズ原子濃度(以下、CSn)、ケイ素原子濃度(以下、CSi)、ナトリウム原子濃度(以下、CNa)、カルシウム原子濃度(以下、CCa)を算出した。濃度の算出には、酸素についてはO1sピーク(529~539eV)、フッ素についてはF1sピーク(683~693eV)、炭素についてはC1sピーク(283~299eV)、スズについてはSn3d5ピーク(482~492eV)、ケイ素についてはSi2pピーク(98~108eV)、ナトリウムについてはNa1sピーク(1067~1077eV)、カルシウムについてはCa2pピーク(345~355eV)のピーク面積を用いた。各原子濃度の値は、異なる4カ所を測定した平均の値とした。ただし、4カ所の中に異常値が現れた場合は、異常値を除いて平均値を算出した。得られた炭素原子、フッ素原子、酸素原子、ケイ素原子、スズ原子、カルシウム原子、ナトリウム原子の各濃度(Atomic%)を表2に示す。
【表2】
【0100】
3-2.R Sn/Si の算出
XPSで得られたスズ原子濃度CSnおよびケイ素原子濃度CSiを用いて、下記式(A)によってRSn/Siを算出した。
Sn/Si=CSn/CSi・・・式(A)
得られたRSn/Siの値を表3に示す。
【0101】
3-3.フルオロエーテルの確認
上記3-1.で得られた実施例1のO1sスペクトルを図9、実施例5のO1sスペクトルを図10、比較例2のO1sスペクトルを図11の「実測値」として示す。各スペクトルを3つのピークに分離した。3つのピークのピークトップをそれぞれCF-O-CF(536eV)、Si-O-H(533eV)、Si-O-Si(532eV)とし、Gauss―Lorentz関数を用いShirley法にてピークフィット処理を行った(図9~11に記載の「ピークフィット処理」)。この処理を行った各ピークから、CF-O-CFピーク面積(以下、ACF2-O-CF2)、Si-O-Hピーク面積(以下、ASi-O-H)、Si―O-Siピーク面積(以下、ASi-O-Si)を算出した。得られたACF2-O-CF2、ASi-O-H、ASi-O-Siの値を表3に示す。ここで、CF-O-CFはパーフルオロエーテル由来のピークであり、Si-O-HとSi-O-Siはガラス基材由来のピークであると考えられる。図9、10ではパーフルオロエーテル由来のピークが確認されており、一方、図11ではパーフルオロエーテル由来のピークは確認されなかった。そのため、ACF2-O-CF2の値が20以上である場合、パーフルオロエーテルが存在するといえる。
【0102】
3-4.Sn-O-Si-C結合の確認
実施例5の部材の表面を飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)によって、下記条件2に従って測定し、得られたスペクトルを下記条件3に従って規格化を行った。一方、ガラス基材の前処理を行わなかった以外は実施例5と同様の方法にて作製した部材の表面をTOF-SIMSによって、下記条件2に従って測定し、下記条件3に従って規格化したスペクトルを得た。図12に実施例5の(ガラス基材の前処理を行って作製した)部材、およびガラス基材の前処理を行わなかった以外は実施例5と同様の方法にて作製した部材の規格化したTOF-SIMSスペクトルを示す。
【0103】
(条件2)
測定装置:ION-TOF社 TOF.SIMS5
一次イオン源:Bi
イオン照射量:5E9ions/cm
測定面積:200μm角
質量範囲:0~800
スパッタイオン源:Ar-GCIB
測定サイクル:120
検出イオン:Positive
スパッタレート:0.3nm/cycle(アクリル換算)
【0104】
(条件3)
条件2に従って測定されたスペクトルの110~120サイクルにおけるSnの平均値を算出し、規格化し、フラグメント毎に各係数を掛ける(下記式C)。各係数は、SiOH:3,000、F:2,000、SiCHO:2,000、Sn:2,000である。
(ピークCount値×係数)/(110~120サイクルのSnCount平均値)・・・(式C)
【0105】
得られた2種類のスペクトルを比較した。その結果、SiCHO(m/z=59)とSn(m/z=120)のピーク強度が小さくなった。SiCHO(m/z=59)は処理液bに含まれる式(b)で表されるパーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物の末端基由来のピークと考えられ、またSn(m/z=120)はガラス基材由来のピークであると考えられる。これら二種のピークが減少していることから、これらが反応したと考えられ、すなわち、処理液に含まれる式(b)で表されるパーフルオロポリエーテル鎖を含む化合物の末端のシラノール基と、ガラス基材の表面に含まれるSnとが結合し、Sn-O-Si-C結合を生成したと考えられる。図12に示したTOF-SIMSスペクトルにおいて、パーフルオロポリエーテル鎖とガラス基材の界面を示すパーフルオロポリエーテル鎖由来のピークF(m/z)=19が1サイクル値の半分の値になるのは25サイクル目であった。この25サイクル目におけるSiCHOとSnの値を表4に示す。
【0106】
3-5.マスカラ汚れの拭き取り性
各部材の表面に化粧用マスカラ(mediaボリュームマスカラS BKつやブラック、カネボウ化粧品製)を用いて直接直径2mm円状の黒点を描き、5分間静置した。その後、マイクロファイバークロス(ZMF-05、システムポリマー製)を用い手動で拭き取り操作を3回行った(200gf/cm)。その後、目視にて汚れや拭き取り跡の有無を確認した。その結果、汚れや拭き取り跡が確認できなかった場合は「〇」、確認できた場合は「×」と評価した。結果を表3に示す。
【0107】
3-6.水拭き跡残り性
マイクロファイバークロス(ZMF-05、システムポリマー製)を2cm角の治具に二枚重ねに取り付け、超純水100μLを含浸させた。各部材の表面に対して荷重(88gf/cm)をかけ、超純水を含浸させたクロスを押し付けた。その後、各部材の表面を目視観察し、水拭き跡の有無を確認した。跡が確認できなかった場合は「〇」、確認できた場合は「×」と評価した。結果を表3に示す。
【0108】
3-7.耐摩耗試験
乾いた布(オリジナル格子柄台ふきん、カウネット製)を用いて、各部材の表面に対して荷重(88gf/cm)をかけながら、5,200往復摺動させた。摺動後、部材表面を流水で洗い流し、エアーダスターで水分を除去した。摺動後の各部材に対し、上述の「マスカラ汚れの拭き取り性」及び「水拭き跡残り性」を評価した。結果を表3に示す。
【0109】
【表3】
【0110】
【表4】
【符号の説明】
【0111】
1 ガラス基材
2 フルオロアルキル鎖
3 パーフルオロポリエーテル鎖
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12