(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127567
(43)【公開日】2023-09-13
(54)【発明の名称】プロピレン樹脂組成物及びそれからなる射出成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 53/00 20060101AFI20230906BHJP
C08L 23/12 20060101ALI20230906BHJP
B29C 45/00 20060101ALI20230906BHJP
B29C 33/42 20060101ALI20230906BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20230906BHJP
B65D 1/26 20060101ALI20230906BHJP
B65D 65/02 20060101ALI20230906BHJP
【FI】
C08L53/00
C08L23/12
B29C45/00
B29C33/42
B29C45/26
B65D1/26 110
B65D65/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023029037
(22)【出願日】2023-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2022031104
(32)【優先日】2022-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】596133485
【氏名又は名称】日本ポリプロ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】高山 正人
【テーマコード(参考)】
3E033
3E086
4F202
4F206
4J002
【Fターム(参考)】
3E033AA08
3E033BA16
3E033BB01
3E033CA20
3E033DA08
3E033DD05
3E033FA02
3E086AD06
3E086BA15
3E086BA35
3E086BB23
3E086BB35
3E086BB55
3E086BB58
3E086BB63
3E086CA01
3E086CA05
3E086DA03
4F202AA11
4F202AG07
4F202AG24
4F202AH55
4F202AM34
4F202AR12
4F202CA11
4F202CB01
4F202CK12
4F206AA11
4F206AG07
4F206AG24
4F206AH55
4F206AM34
4F206AR12
4F206JA07
4F206JL02
4F206JQ81
4J002BB122
4J002BB151
4J002BP021
4J002GG01
4J002GG02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】プロピレン樹脂組成物による射出成型によって製造されるカップ状の包装体のヒケを防止する。
【解決手段】特定のポリプロピレン樹脂(X)と、特定のプロピレン系ブロック共重合体(Y)とを含むプロピレン樹脂組成物を用いることによって、得られる射出成形体、特に胴部とフランジを有するカップ状の包装体は、フランジのヒケを防止することが出来る。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(X-i)~(X-vii)を満足するポリプロピレン樹脂(X)と、下記(Y-i)を満足するプロピレン系ブロック共重合体(Y)とを含むことを特徴とするプロピレン樹脂組成物。
(X-i)メルトフローレート(MFR)が0.1~35g/10minである。
(X-ii)GPCによる分子量分布(Mw/Mn)が3.0~10である。
(X-iii)溶融張力(MT)が5~50gfである。
(X-iv)パラキシレン可溶成分量(CXS)が、0.01重量%以上5重量%未満である。
(X-v)分子量分布(Mz/Mw)が3.0~10である。
(X-vi)溶融張力(MT)は、
Log(MT)≧-0.9×log(MFR)+0.7
又は MT≧15 のいずれかを満たす。
(X-vii)分岐指数(g’)が、0.3~1である。
(Y-i)メルトフローレート(MFR)が40~150g/10分である。
【請求項2】
ポリプロピレン樹脂(X)が10~50重量%であって、プロピレン系ブロック共重合体(Y)が50~90重量%(但し、ポリプロピレン樹脂(X)とプロピレン系ブロック共重合体(Y)の合計は100重量%である)である、請求項1に記載のプロピレン樹脂組成物。
【請求項3】
プロピレン系ブロック共重合体(Y)の全エチレン含有量が0.5~20重量%である請求項1に記載のプロピレン樹脂組成物。
【請求項4】
ポリプロピレン樹脂(X)のプロピレン単位3連鎖のmm分率(mm)が95%以上である請求項1に記載のプロピレン樹脂組成物。
【請求項5】
プロピレン系ブロック共重合体(Y)の曲げ弾性率が750~2000MPaである請求項1に記載のプロピレン樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のプロピレン樹脂組成物からなる射出成型体。
【請求項7】
請求項6に記載の射出成型体であって、胴部とフランジを有するカップ状の包装体。
【請求項8】
胴部の肉厚が0.3~0.7mmであり、フランジの肉厚が胴部の肉厚の1.2~5倍である請求項7に記載のカップ状の包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、プロピレン樹脂組成物及びそれからなる射出成形体に関し、詳しくは、プロピレン樹脂組成物を用いた射出成型よって製造される胴部とフランジを有するカップ状の容器に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン樹脂組成物を射出形成に供する場合、肉厚が薄い部分と厚い部分があると、一般に肉厚が厚い部分にヒケが発生することが知られている。射出成形による包装体、特に胴部とフランジを有するカップ状の包装体の作製において、胴部の肉厚を薄肉にすることにより、当該包装体の作製に必要な樹脂の量を削減しようとすると、フランジは一般に肉厚部分になるため、特にフランジにはヒケが発生しやすいことが知られている。フランジにヒケが発生すると、フィルムとフランジの融着により包装体内に食品を入れて密閉する食料品にヒートシール不良を生じ、密閉が不完全なるので、このヒケを解消するために、今まで種々の検討がなされてきた。
特許文献1は、胴部の肉厚が0.2mm以上0.35mm以下であり、フランジの肉厚が0.4mm以上0.7mm以下であるポリプロピレン樹脂の容器を開示するが、この問題は何ら考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の課題は、包装体、特に胴部とフランジを有するカップ状の包装体を射出成形するにあたり、当該カップ状の包装体の製造に必要な樹脂を削減し、胴部とフランジを有するカップ状包装体の特にフランジのヒケの発生を抑えることができるポリプロピレン樹脂組成物、それからなる射出成形体、特に胴部とフランジを有するカップ状の包装体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の態様1は、下記(X-i)~(X-vii)を満足するポリプロピレン樹脂(X)と、下記(Y-i)を満足するプロピレン系ブロック共重合体(Y)とを含むことを特徴とするプロピレン樹脂組成物である。
(X-i)メルトフローレート(MFR)が0.1~35g/10minである。
(X-ii)GPCによる分子量分布(Mw/Mn)が3.0~10である。
(X-iii)溶融張力(MT)が5~50gfである。
(X-iv)パラキシレン可溶成分量(CXS)が、0.01重量%以上5重量%未満である。
(X-v)分子量分布(Mz/Mw)が3.0~10である。
(X-vi)溶融張力(MT)は、
Log(MT)≧-0.9×log(MFR)+0.7
又は MT≧15 のいずれかを満たす。
(X-vii)分岐指数(g’)が、0.3~1である。
(Y-i)メルトフローレート(MFR)が40~150g/10分である。
【0006】
本開示の態様2は、ポリプロピレン樹脂(X)が10~50重量%であって、プロピレン系ブロック共重合体(Y)が50~90重量%(但し、ポリプロピレン樹脂(X)とプロピレン系ブロック共重合体(Y)の合計は100重量%である)である、態様1に記載のプロピレン樹脂組成物である。
【0007】
本開示の態様3は、プロピレン系ブロック共重合体(Y)の全エチレン含有量が0.5~20重量%である態様1又は2に記載のプロピレン樹脂組成物である。
【0008】
本開示の態様4は、ポリプロピレン樹脂(X)のプロピレン単位3連鎖のmm分率(mm)が95%以上である態様1乃至3の何れか1つの態様に記載のプロピレン樹脂組成物である。
【0009】
本開示の態様5は、プロピレン系ブロック共重合体(Y)の曲げ弾性率が750~2000MPaである態様1乃至4の何れか1つの態様に記載のプロピレン樹脂組成物である。
【0010】
本開示の態様6は、態様1~5のいずれかの態様に記載のプロピレン樹脂組成物からなる射出成型体である。
【0011】
本開示の態様7は、態様6に記載の射出成型体であって、胴部とフランジを有するカップ状の包装体である。
【0012】
本開示の態様8は、胴部の肉厚が0.3~0.7mmであり、フランジの肉厚が胴部の肉厚の1.2~5倍である態様7に記載のカップ状の包装体である。
【発明の効果】
【0013】
態様1から5のプロピレン樹脂組成物からなる射出成型体を作製した場合、態様6の当該射出成型体には、ヒケが発生しないという効果を奏する。態様7のように、特に射出成型体が胴部とフランジを有するカップ状の包装体である場合は、フランジ部分にヒケが発生しないため、当該カップ状の包装体のフランジにフィルムでヒートシールする際、ヒートシール不良が発生しないという効果を奏する。また、態様8の胴部とフランジを有するカップ状包装体は、薄肉でありながら変形しにくく、十分な強度を有するカップ状の包装体を得ることが出来るという効果を発現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】胴部とフランジを有するカップ状の包装体の例の側面からの図
【
図2】胴部とフランジを有するカップ状の包装体の例の断面図
【
図3】胴部とフランジを有するカップ状の包装体の例の上面からの図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示において、メルトフローレート(MFR)とは、JIS K-7210-1999に準拠して、2.16kg荷重、230℃で測定されたメルトフローレートをいい、単位は「g/10分」である。
【0016】
本開示において、「Mw」は、重量平均分子量をいう。
【0017】
本開示において、「Mn」は、数平均分子量をいう。
【0018】
本開示において、「Mz」は、Z平均分子量をいう。
【0019】
本開示において、「GPCによる分子量分布(Mw/Mn)」は、MwをMnで割って得た値をいう。
【0020】
本開示において、「分子量分布(Mz/Mw)」は、MzをMwで割って得た値をいう。
【0021】
本開示において、「溶融張力(MT)」の単位は、「gf」である。
【0022】
本開示において、「パラキシレン可溶成分量(CXS)」は、ポリプロピレン樹脂(X)全量に対するパラキシレン可溶成分量をいう。
【0023】
本開示において、「分岐指数(g’)」は、[η]br/[η]linで求めた値をいう。ここで、[η]brはポリプロピレン樹脂(X)(この式の説明では、「br」という。)の固有粘度であり、[η]linは、brと同じ分子量を有する同種の直鎖状高分子ポリマーの固有粘度[η]linである。g’は、ポリプロピレン樹脂(X)の構造中に分岐構造が多いほど、小さな値をとる。
g’の解説が、「Developments in Polymer Characterization-4」(J.V. Dawkins ed. Applied Science Publishers, 1983)に、記載されている。
【0024】
本開示において、「全エチレン含有量」は、プロピレン系ブロック共重合体(Y)中の-CH2-CH2-の割合をいい、重量%であらわしたものである。
【0025】
本開示において、「プロピレン単位3連鎖のmm分率(mm)」は、ポリプロピレン樹脂(X)中のプロピレン単位3連鎖中各プロピレン単位中のメチル分岐の方向が同一であるものの割合をいう。
【0026】
(1)ポリプロピレン樹脂(X)
本発明のポリプロピレン樹脂(X)は、下記(X-i)~(X-vii)を満足する。
(X-i)メルトフローレート(MFR)が0.1~35g/10minである。
(X-ii)GPCによる分子量分布(Mw/Mn)が3.0~10である。
(X-iii)溶融張力(MT)が5~50gfである。
(X-iv)パラキシレン可溶成分量(CXS)が、0.01重量%以上5重量%未満である。
(X-v)分子量分布(Mz/Mw)が3.0~10である。
(X-vi)溶融張力(MT)は、
Log(MT)≧-0.9×log(MFR)+0.7
又は MT≧15 のいずれかを満たす。
(X-vii)分岐指数(g’)が、0.3~1である。
【0027】
また、本発明に用いられるポリプロピレン樹脂(X)の付加的な特徴として、以下のプロピレン単位3連鎖のmm分率(mm)に関する特性を有することが好ましい。
・ポリプロピレン樹脂(X)のプロピレン単位3連鎖のmm分率(mm)が95%以上である。
【0028】
(1-1)メルトフローレート(MFR)
本発明に用いられるポリプロピレン樹脂(X)のメルトフローレート(以下MFRと略記することが有る)は、0.1~35g/10分の範囲であることが必要であり、好ましくは0.3~25.0g/10分、さらに好ましくは0.5~20.0g/10分、より好ましくは0.7~15g/10分、特に好ましくは1~10g/10分である。ポリプロピレン樹脂(X)のMFRをこの様な範囲とすることによって、本発明のプロピレン樹脂組成物が適切な流動性を保って良好な成形性を示すと共に、適切な溶融張力を有することとなる。即ち、ポリプロピレン樹脂(X)のMFRがこの範囲を下回るものは、流動性不足となり、各種の成形に対して、例えば押出機の負荷が高すぎるなどの製造上の問題が生じる。一方、ポリプロピレン樹脂(X)のMFRがこの範囲を上回るものは、溶融張力(粘度)の不足により、得られる射出成形体が薄肉で良好な強度を保つことが困難になる場合がある。
なお前述の通り、MFRは、JIS K-7210-1999に準拠して、2.16kg荷重、230℃で測定されたもので、単位はg/10分である。
【0029】
ポリプロピレン樹脂(X)のMFRは、ポリプロピレン樹脂(X)の重合条件である温度や圧力の調節、重合時に添加する水素等の連鎖移動剤の添加量の制御により、調節することができる。
ポリプロピレン樹脂(X)重合時の温度を上げることにより、ポリプロピレン樹脂(X)のMFRを低くすることが出来る。
ポリプロピレン樹脂の重合時の圧力を上げることにより、ポリプロピレン樹脂(X)のMFRを高くすることが出来る。
ポリプロピレン樹脂の重合時の水素等の連鎖移動剤の添加量を上げることにより、ポリプロピレン樹脂(X)のMFRを高くすることが出来る。即ち、連鎖移動剤として水素を用いる場合は、ポリプロピレン樹脂の重合時の水素添加量を上げることにより、ポリプロピレン樹脂(X)のMFRを高くすることが出来る。
【0030】
(1-2)GPCによる分子量分布(Mw/Mn)及び分子量分布(Mz/Mw)
ポリプロピレン樹脂(X)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって得られる分子量分布(Mw/Mn)(ここで、Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量であり、以下「Mw/Mn」と略記することがある)が3.0以上10.0以下であることが必要である。ポリプロピレン樹脂(X)の分子量分布Mw/Mnは、その好ましい範囲としては3.5~8.0、更に好ましくは4.0~6.0の範囲である。
さらに、ポリプロピレン樹脂(X)の分子量分布(Mz/Mw)(ここで、MzはZ平均分子量であり、以下「Mw/Mz」と略記することが有る)が3.0以上10.0以下であることが必要である。Mz/Mwの好ましい範囲は3.5~8.0、更に好ましくは4.0~6.0の範囲である。
分子量分布の広いものほど成形加工性が向上するが、Mw/MnおよびMz/Mwがこの範囲にあるものは、成形加工性に特に優れるものである。
【0031】
なお、Mn、Mw、Mzの定義は「高分子化学の基礎」(高分子学会編、東京化学同人、1978)等に記載されており、GPCによる分子量分布曲線から計算可能である。例えば、本明細書の実施例で用いたGPCの具体的な測定手法は、以下の通りである。
・装置:Waters社製GPC(ALC/GPC 150C)
・検出器:FOXBORO社製MIRAN 1A IR検出器(測定波長:3.42μm)
・カラム:昭和電工社製AD806M/S(3本)
・移動相溶媒:オルトジクロロベンゼン(ODCB)
・測定温度:140℃
・流速:1.0ml/min
・注入量:0.2ml
・試料の調製:試料はODCB(0.5mg/mLのBHT(p-ジブチルヒドロキシトルエン)を含む)を用いて1mg/mLの溶液を調製し、140℃で約1時間を要して溶解させる。
GPC測定で得られた保持容量から分子量への換算は、予め作成しておいた標準ポリスチレン(PS)による検量線を用いて行う。使用する標準ポリスチレンは、何れも東ソー(株)製の以下の銘柄である。
F380、F288、F128、F80、F40、F20、F10、F4、F1、A5000、A2500、A1000
各々が0.5mg/mLとなるようにODCB(0.5mg/mLのBHTを含む)に溶解した溶液を0.2mL注入して較正曲線を作成する。較正曲線は、最小二乗法で近似して得られる三次式を用いる。
なお、分子量への換算に使用する粘度式[η]=K×Mαは、以下の数値を用いる。
PS:K=1.38×10-4、α=0.7
PP:K=1.03×10-4、α=0.78
なお、同等の装置や検出器、カラム等を使用しても、GPCによる分子量分布の測定は可能である。
【0032】
ポリプロピレン樹脂(X)のGPCによる分子量分布(Mw/Mn)及び分子量分布(Mz/Mw)は、ポリプロピレン樹脂(X)の重合条件である温度や圧力の調節、重合時に添加する水素等の連鎖移動剤の添加量の制御により、調節することができる。
ポリプロピレン樹脂(X)の重合時の高温化は、ポリプロピレン樹脂(X)のGPCによる分子量分布(Mw/Mn)及び分子量分布(Mz/Mw)を高くする。
ポリプロピレン樹脂(X)の重合時の高圧力化は、ポリプロピレン樹脂(X)のGPCによる分子量分布(Mw/Mn)及び分子量分布(Mz/Mw)低くする。
ポリプロピレン樹脂(X)の重合時の連鎖移動剤の添加量の増加は、ポリプロピレン樹脂(X)のGPCによる分子量分布(Mw/Mn)及び分子量分布(Mz/Mw)を低くする。即ち、連鎖移動剤として水素を用いる場合は、ポリプロピレン樹脂(X)の重合時の水素添加量の増加は、ポリプロピレン樹脂(X)のGPCによる分子量分布(Mw/Mn)及び分子量分布(Mz/Mw)を低くする。
【0033】
(1-3)溶融張力(MT)が5~50gf
本発明に用いられるポリプロピレン樹脂(X)の溶融張力(MT)(以下「MT」と略記することが有る)は、5~50gfの範囲であることが必要であり、好ましくは6~40gfさらに好ましくは7~35gf、より好ましくは8~30gfである。ポリプロピレン樹脂(X)のMTをこの様な範囲とすることによって、本発明のプロピレン樹脂組成物が適切な流動性を保って良好な成形性を示すと共に、得られる射出成形体が薄肉でありながら良好な強度を保つことが可能となり、ヒケも発生しない。即ち、ポリプロピレン樹脂(X)のMTがこの範囲を下回るものは、溶融張力の不足により、得られる射出成形体が薄肉で良好な強度を保つことが困難になったりヒケが発生したりする場合がある。一方、ポリプロピレン樹脂(X)のMTがこの範囲を超える場合は、測定手法によっては引き取り速度が著しく遅くなり、測定が困難となり、実用的ではない。
【0034】
さらに、ポリプロピレン樹脂(X)は、以下の(X-vi)を満たす必要がある。
(X-vi)
溶融張力(MT)は、
Log(MT)≧-0.9×log(MFR)+0.7
又は MT≧15 のいずれかを満たす。
MTの測定については、例えば本明細書の実施例では、(株)東洋精機製作所製キャピログラフ1Bを用いて、キャピラリー:直径2.0mm、長さ40mm、シリンダー径:9.55mm、シリンダー押出速度:20mm/分、引き取り速度:4.0m/分、温度:230℃の条件で測定したときの溶融張力を用い、単位はグラムであるが、同等の装置を用いて、測定することもできる。ただし、ポリプロピレン樹脂(X)のMTが極めて高い場合には、引き取り速度4.0m/分では、樹脂が破断してしまう場合があり、このような場合には、引き取り速度を下げ、引き取りのできる最高の速度における張力をMTとする。
【0035】
この規定は、本発明のプロピレン樹脂組成物が適切な流動性を保って良好な成形性を示すと共に、得られる射出成形体が薄肉でありながら良好な強度を保ち、ヒケの発生を抑えることが可能となるための指標であり、一般に、MTは、MFRと相関を有していることから、MFRとの関係式によって記述している。
このように、MTをMFRとの関係式で規定する手法は、当業者にとって通常の手法であって、例えば、特開2003-25425号公報、特開2003-64193号公報、特開2003-94504号公報等に、高溶融張力を有するポリプロピレンの定義として、各種の関係式が提案されている。
【0036】
ポリプロピレン樹脂(X)が、上記(X-vi)を満たせば、充分に溶融張力の高い樹脂といえる。即ち、上記(X-vi)を満たしたポリプロピレン樹脂(X)を後述するプロピレン系ブロック共重合体(Y)と組み合わせることにより、射出成型体、特に胴部とフランジを有するカップ状の包装体を得るためのプロピレン樹脂組成物として特に有用である。また、以下の(X-vi)’を満たすことがより好ましく、(X-vi)”を満たすことが更に好ましい。
・(X-vi)’
log(MT)≧-0.9×log(MFR)+0.9
又は
MT≧15
のいずれかを満たす。
・(X-vi)”
log(MT)≧-0.9×log(MFR)+1.1
又は
MT≧15
のいずれかを満たす。
【0037】
上述の通りポリプロピレン樹脂(X)のMTはMFRと密接に関係が有るので、ポリプロピレン樹脂(X)のMFRの調整方法と同様の方法で、MTを調節することができる。
【0038】
(1-4)パラキシレン可溶成分量(CXS)
本発明に用いられるポリプロピレン樹脂(X)は、立体規則性が高い方が、本発明のプロピレン樹脂組成物およびそれからなる射出成型体となったときに、ベタツキやブリードアウトの原因となる低結晶性成分が少なくなると共に、薄肉でありながら良好な強度を保ち、ヒケの発生を抑えることが可能となるので、好ましい。この低結晶性成分は、キシレン可溶成分量(CXS)(以下「CXS」と略記することが有る)によって評価され、それがポリプロピレン樹脂(X)全量に対して、0.01重量%以上5重量%未満の範囲であることが必要であり、好ましくは3.0重量%以下であり、より好ましくは1.0重量%以下あり、さらに好ましくは0.5重量%以下である。下限については、本来は特に制限されないが、測定下限を考慮して0.01重量%以上と規定され、好ましくは0.03重量%以上である。CXSをこの様な範囲とすることによって、本発明のプロピレン樹脂組成物およびそれからなる射出成型体となったときに、ベタツキやブリードアウトを抑えることが可能となる。
【0039】
なお、本願におけるCXSの測定法の詳細は、以下の通りである。
2gの試料を300mlのp-キシレン(0.5mg/mlのBHTを含む)に130℃で溶解させ溶液とした後、25℃で12時間放置する。その後、析出したポリマーを濾別し、濾液からp-キシレンを蒸発させ、さらに100℃で12時間減圧乾燥し室温キシレン可溶成分を回収する。この回収成分の重量の仕込み試料重量に対する割合[重量%]をCXSと定義する。
【0040】
(1-5)分岐指数(g‘)
分岐指数(g‘)(以下g’と略記することが有る)は、本発明に用いられるポリプロピレン樹脂(X)が分岐構造を有することの直接的な指標であり、MFRやMTが特定の範囲を示すことの指標の一つとなる。本発明に用いられるポリプロピレン樹脂(X)のg‘は0.3~1であることが必要であり、好ましくは0.55~0.98、更に好ましくは0.75~0.96、最も好ましくは0.8~0.95である。g’は、ポリプロピレン樹脂(X)の固有粘度[η]brと同じ分子量を有する線状ポリマーの固有粘度[η]linの比、すなわち、[η]br/[η]lin によって与えられ、分岐構造が存在すると、1よりも小さな値をとる。
定義は、例えば「Developments in Polymer Characterization-4」(J.V. Dawkins ed. Applied Science Publishers,1983)に、記載されており、当業者にとって公知の指標である。その他にも、Polymer, 45, 6495-6505(2004)、Macromolecules, 33, 2424-2436(2000)、Macromolecules, 33, 6945-6952(2000)などの文献を参考とすることが出来る。
【0041】
本発明で用いられるポリプロピレン樹脂(X)は、分子構造としては例えば櫛型鎖が生成するような場合が考えられるので、以下代表例として、ポリプロピレン樹脂(X)が櫛型鎖が生成する分子構造を有する場合を例にして説明する。
ポリプロピレン樹脂(X)のg’をこの様な範囲とすることにより溶融張力を適切な範囲とすることが可能となるので、本発明のプロピレン樹脂組成物が適切な流動性を保って良好な成形性を示すと共に、得られる射出成形体が薄肉でありながら良好な強度を保ち、ヒケの発生を抑えることが可能となる。即ち、g’が0.30未満であると、主鎖が少なく側鎖の割合が極めて多いこととなり、このような場合には、溶融張力が向上しなかったり、ゲルが生成するおそれがあるため、各種物性に影響を及ぼす可能性が有り、良好な成形性を示すと共に、得られる射出成形体が薄肉でありながら良好な強度を保ち、ヒケの発生を抑えるという本発明の目的にとって好ましくない場合がある。一方、1.00である場合には、これは分岐が存在しないことを意味し、溶融張力が不足する場合があり、良好な成形性を示すと共に、得られる射出成形体が薄肉でありながら良好な強度を保ち、ヒケの発生を抑えるという、本発明のプロピレン樹脂組成物の目的には適さない。
【0042】
g‘の算出方法は、例えば本明細書の実施例における方法は、以下の通りである。
示差屈折計(RI)および粘度検出器(Viscometer)を装備したGPC装置として、Waters社のAlliance GPCV2000を用いる。また、光散乱検出器として、多角度レーザー光散乱検出器(MALLS)Wyatt Technoogy社のDAWN-Eを用いる。検出器は、MALLS、RI、Viscometerの順で接続する。移動相溶媒は、1,2,4-トリクロロベンゼン(BASFジャパン社製酸化防止剤Irganox1076を0.5mg/mLの濃度で添加)である。
流量は1mL/分で、カラムは、東ソー社 GMHHR-H(S) HTを2本連結して用いる。カラム、試料注入部および各検出器の温度は、140℃である。試料濃度は1mg/mLとし、注入量(サンプルループ容量)は0.2175mLである。
MALLSから得られる絶対分子量(Mabs)、二乗平均慣性半径(Rg)およびViscometerから得られる極限粘度([η])を求めるにあたっては、MALLS付属のデータ処理ソフトASTRA(version4.73.04)を利用し、前述の文献を参考にして計算を行う。
なお、種々の装置やカラム等は、他の同等のものを用いることも可能である。
【0043】
[分岐指数(g’)の算出]
分岐指数(g’)は、サンプルを上記Viscometerで測定して得られる極限粘度([η]br)と、別途、線状ポリマーを測定して得られる極限粘度([η]lin)との比([η]br/[η]lin)として算出する。
ポリマー分子に分岐構造が存在すると、同じ分子量の線状のポリマー分子と比較して慣性半径が小さくなる。慣性半径が小さくなると、極限粘度が小さくなることから、分岐構造が存在するに従い同じ分子量の線状ポリマーの極限粘度([η]lin)に対する分岐ポリマーの極限粘度([η]br)の比([η]br/[η]lin)は、小さくなっていく。
したがって、分岐指数(g’=[η]br/[η]lin)が1より小さい値になる場合には、分岐が存在することを意味する。ここで、[η]linを得るための線状ポリマーとしては、市販のホモポリプロピレン(日本ポリプロ社製ノバテックPP(登録商標) グレード名:FY6)を用いる。線状ポリマーの[η]linの対数は分子量の対数と線形の関係があることは、Mark-Houwink-Sakurada式として公知であるから、[η]linは、低分子量側や高分子量側に適宜外挿して数値を得ることができる。
なお、本発明に用いられるポリプロピレン樹脂(X)の付加的な特徴として、以下のプロピレン単位3連鎖のmm分率(mm)に関する特性を有することが好ましい。
【0044】
(1-6)プロピレン単位3連鎖のmm分率(mm)
本発明に用いられるポリプロピレン樹脂(X)は、立体規則性が高いことが好ましい。立体規則性の高さは、13C-NMRによって評価することができ、13C-NMRによって得られるプロピレン単位3連鎖のmm分率(mm)(以下(mm分率)と略記することが有る)が95%以上の立体規則性を有するものが好ましい。
mm分率は、ポリマー鎖中、頭-尾結合からなる任意のプロピレン単位3連鎖中、各プロピレン単位中のメチル分岐の方向が同一であるプロピレン単位3連鎖の割合であり、上限は100%である。このmm分率は、ポリプロピレン分子鎖中のメチル基の立体構造がアイソタクチックに制御されていることを示す値であり、高いほど、高度に制御されていることを意味する。mm分率を以下に示す様な範囲とすることにより、本発明のプロピレン樹脂組成物およびそれからなる射出成型体の剛性を高くすることができ、特に射出成型体が胴部とフランジを有するカップ状の包装体である場合には、薄肉でありながら、胴部とフランジを有するカップ形状を良好に保つことが可能になる。即ち、mm分率が以下に示す値より小さいと、本発明のプロピレン樹脂組成物およびそれからなる射出成型体の剛性が低下するなど、機械的物性が低下する傾向にある。
従って、mm分率は、95%以上が好ましく、より好ましくは96%以上であり、さらに好ましくは97%以上であり、前記の通り上限は100%である。
【0045】
なお、13C-NMRによるプロピレン単位3連鎖のmm分率(mm)の測定法の詳細は、以下の通りである。
試料375mgをNMRサンプル管(10φ)中で重水素化1,1,2,2、-テトラクロロエタン2.5mlに完全に溶解させた後、125℃においてプロトン完全デカップリング法で測定する。ケミカルシフトは、重水素化1,1,2,2-テトラクロロエタンの3本のピークの中央のピークを74.2ppmに設定する。他の炭素ピークのケミカルシフトはこれを基準とする。
フリップ角:90度
パルス間隔:10秒
共鳴周波数:100MHz以上
積算回数:10,000回以上
観測域:-20ppmから179ppm
データポイント数:32768
mm分率の解析は、前記の条件により測定された13C-NMRスペクトルを用いて行う。
スペクトルの帰属は、Macromolecules,8卷,687頁(1975年)やPolymer,30巻,1350頁(1989年)を参考にして行う。
なお、mm分率決定のより具体的な方法は、特開2009-275207号公報の段落[0053]~[0065]に詳細に記載されており、本発明においても、この方法に従って行うものとする。
【0046】
(1-7)製造方法
ポリプロピレン樹脂(X)は、上記した各種の特性を満たす限り、特に製造方法を限定されるものではないが、前述のように、高い立体規則性、低い低結晶性成分量、好ましい分子量分布の範囲の全ての条件を満足し、分岐指数g’の範囲、高い溶融張力等の条件を満足するための好ましい製造方法は、メタロセン触媒の組み合わせを利用したマクロマー共重合法を用いる方法である。このような方法の例としては、例えば、特開2009-57542号公報等に開示される方法が挙げられる。
この手法は、マクロマー生成能力を有する特定の構造の触媒成分と、高分子量でマクロマー共重合能力を有する特定の構造の触媒成分とを組み合わせた触媒を用いて、分岐構造を有するポリプロピレンを製造する方法であり、これによれば、バルク重合や気相重合といった工業的に有効な方法で、特に実用的な圧力温度条件下の単段重合で、しかも、分子量調整剤である水素を用いて、目的とする物性を有するポリプロピレン樹脂(X)の製造が可能である。
【0047】
また、従来は、立体規則性の低いポリプロピレン成分を使用して結晶性を落とすことによって、分岐生成効率を高めなければならなかったが、上記の方法では、充分に立体規則性の高いポリプロピレン成分を、側鎖に簡便な方法で、導入することが可能である。このような製造方法を採用することは、本発明に用いるポリプロピレン樹脂(X)として好ましい。
また、上記手法を用いれば、重合特性の大きく異なる二種の触媒を使用することで、分子量分布に関する各種の特性を同時に満たすことが可能であり、好ましい。
【0048】
(2)プロピレン系ブロック共重合体(Y)
本発明のプロピレン系ブロック共重合体(Y)は、下記(Y-i)を満足する。
(Y-i)メルトフローレート(MFR)が40~150g/10分である。
【0049】
また、本発明に用いられるプロピレン系ブロック共重合体(Y)の付加的な特徴として、以下の全エチレン含量と曲げ弾性率に関する特性を有する方が好ましい。
・全エチレン含有量が0.5~20重量%である。
・曲げ弾性率が750~2000MPaである
【0050】
(2―1)メルトフローレート(MFR)
本発明に用いられるプロピレン系ブロック共重合体(Y)のメルトフローレート(MFR)は、40~150g/10分の範囲であることが必要であり、好ましくは50~140g/10分、さらに好ましくは60~130g/10分、より好ましくは70~120g/10分、特に好ましくは75~110g/10分である。プロピレン系ブロック共重合体(Y)のMFRをこの様な範囲とすることによって、本発明のプロピレン樹脂組成物が適切な流動性を保って良好な成形性を示すこととなる。即ち、プロピレン系ブロック共重合体(Y)のMFRがこの範囲を下回るものは、流動性不足となり、各種の成形に対して、例えば押出機の負荷が高すぎるなどの製造上の問題が生じる場合がある。一方、プロピレン系ブロック共重合体(Y)のMFRがこの範囲を上回るものは成型時の取り扱いが困難になる場合がある。
なお、MFRは、JIS K-7210-1999に準拠して、2.16kg荷重、230℃で測定されたもので、単位はg/10分である。
【0051】
本発明に用いられるプロピレン系ブロック共重合体(Y)の付加的な特徴として、以下の全エチレン含量と曲げ弾性率に関する特性を有する方が好ましい。
【0052】
(2―2)全エチレン含有量
本発明に用いられるプロピレン系ブロック共重合体(Y)の全エチレン含有量は、0.5~20重量%の範囲であることが好ましく、更に好ましくは5~10重量%である。プロピレン系ブロック共重合体(Y)の全エチレン含有量をこの様な範囲とすることによって、本発明のプロピレン樹脂組成物が耐衝撃性を始めとする種々の機械物性を、良好なものとすることが出来る。
【0053】
(2―3)曲げ弾性率
本発明に用いられるプロピレン系ブロック共重合体(Y)の曲げ弾性率は、750~2000MPaの範囲であることが好ましく、更に好ましくは800~1500MPa、より好ましくは1000~1400MPaである。プロピレン系ブロック共重合体(Y)の曲げ弾性率をこの様な範囲とすることによって、本発明のプロピレン樹脂組成物を成型品とした際の輸送時の変形を防いだり、射出成型時の離型不良を発生しにくくするという効果が得られる。
【0054】
(2―4)製造方法
本発明に用いられるプロピレン系ブロック共重合体(Y)の製造方法は、本願規定の条件を満たすプロピレン系ブロック共重合体(Y)が得られる方法であれば特に限定されず、公知の方法、例えば特開2009-299025号公報の「VI.ホモポリプロピレン、もしくはエチレン含量が0.5重量%以下のエチレン-プロピレン共重合体(H)の製造方法」の記載やその他の文献を参照することで、当業者は、本開示の態様1に記載のプロピレン系ブロック共重合体(Y)を、製造できる。また、同様の特性を有する市販品を入手して、使用することも可能である。
【0055】
(3)プロピレン樹脂組成物
本発明のプロピレン樹脂組成物において、ポリプロピレン樹脂(X)が10~50重量%であって、プロピレン系ブロック共重合体(Y)が50~90重量%(但し、ポリプロピレン樹脂(X)とプロピレン系ブロック共重合体(Y)の合計は100重量%である)であることが好ましい。更に好ましくはポリプロピレン樹脂(X)が15~45重量%であって、プロピレン系ブロック共重合体(Y)が55~85重量%、より好ましくはポリプロピレン樹脂(X)が20~40重量%であって、プロピレン系ブロック共重合体(Y)が60~80重量%である。本願発明のプロピレン樹脂組成物をこのような組成範囲とすることにより、本願発明の効果を効果的に得ることが容易となる。
【0056】
(4)その他の添加剤
本開示のプロピレン樹脂組成物には、本願発明の効果を損なわない範疇で、各種添加剤、例えば、耐熱安定剤、酸化防止剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、銅害防止剤、帯電防止剤、難燃剤、親水化剤、スリップ剤、抗ブロッキング剤、防曇剤、着色剤、充填剤、ポリエチレン、エラストマー、石油樹脂、抗菌剤などを含有することができる。
また、MFR調整が必要な場合は、有機過酸化物を配合することもできる。
【0057】
(5)プロピレン樹脂組成物の調製方法
本開示に係るポリプロピレン樹脂組成物の製造方法としては、前記ポリプロピレン樹脂(X)及びプロピレン系ブロック共重合体(Y)とを混合し、さらに場合により、上記任意のその他の添加成分を配合して、まぶしたり、ハンドブレンドするなどドライブレンドする方法、Vブレンダー、タンブラーミキサーなど各種のブレンダー、ミキサーなどを用いて混合する方法、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロールミキサー、ブラベンダープラストグラフ、ニーダーなど通常の混練機を用いて溶融・混練・造粒する方法、及び前記各成分を各々別個に(または一部をブレンドして)そのまま射出成形機などの各種成形機に直接供給する方法などを挙げることができる。
【0058】
溶融・混練・造粒方法を選択する場合は、通常は二軸押出機を用いて溶融・混練・造粒するのが好ましい。この溶融・混練・造粒の際には、前記ポリプロピレン樹脂(X)及びプロピレン系ブロック共重合体(Y)(場合により上記任意のその他の添加成分など)の配合物を同時に溶融・混練・造粒してもよく、また、性能向上を図るべく各成分を分割、例えば、先ずポリプロピレン樹脂(X)及びプロピレン系ブロック共重合体(Y)の一部を溶融・混練・造粒し、その後に残りの成分を溶融・混練・造粒することもできる。
なお、造粒時の溶融混練温度は、150~300℃が好ましく、180~250℃がより好ましい。
【0059】
(6)射出成型体
本発明の射出成型体、特に胴部とフランジを有するカップ状の包装体は胴部やフランジの変形やフランジのヒケが防止されているので、本開示の胴部とフランジを有するカップ状の包装体の内部に食品を入れ、フランジ部分とフィルムとを融着させることで、食品を胴部とフランジを有するカップ状の包装体内に密封し、食品を内部に密閉した食料品を作成することができる。
【0060】
胴部とフランジを有するカップ状の包装体の胴部の肉厚は、0.3~0.7mmが好ましく、0.35~0.6mmがより好ましく、0.4~0.5mmがさらに好ましい。胴部とフランジを有するカップ状の包装体の胴部の肉厚をこのような範囲とすることにより、胴部とフランジを有するカップ状の包装体の製造に必要な樹脂を削減し、胴部とフランジを有するカップ状の包装体が薄肉で軽量であるにもかかわらず、その胴部の変形を防止することが出来る。
胴部とフランジを有するカップ状の包装体のフランジの肉厚は、胴部の肉厚の1.2~5倍が好ましく1.5~4.5倍が更に好ましく、1.7~4倍が特に好ましい。胴部とフランジを有するカップ状の包装体のフランジの肉厚をこのような範囲とすることにより、薄肉で軽量の胴部とフランジを有するカップ状の成形体であるにもかかわらず、胴部とフランジを有するカップ状の包装体の変形の防止および易開封性を両立させることが出来る。
また、フランジの肉厚は0.5~3.5mmであることが好ましく、0.6~2.5mmであることが更に好ましく、0.7~1.5mmであることが特に好ましい。フランジの肉厚をこのような範囲とすることにより、薄肉で軽量の胴部とフランジを有するカップ状の成形体であるにもかかわらず、胴部とフランジを有するカップ状の包装体の変形の防止および易開封性を両立させることが出来る。
【0061】
本願の射出成型体の生産性のため、複数の製品を同時に成型する多数個取り金型が好ましい。
【0062】
(7)食料品
本願発明の胴部とフランジを有するカップ状の包装体に食品を入れ、フランジをフィルムで溶着することにより、食品を密閉することにより、食料品を作製できる。食品を密閉することにより、当該食料品は、食品の品質を保ちながら流通させることができる。ここでいう食品とは、例えばプリン、チーズ、ゼリー、ヨーグルト、寒天、スパム、干物などが挙げられる。なお、ここでいう「食料品」は、容器と、その容器中に入った食品と、食品を密閉するためにヒートシールにより容器のフランジで融着したフィルムとを含む物である。
【実施例0063】
実施例の記載は、本開示を具体的に説明する。実施例によって、本開示は、限定されるものではない。
【0064】
(1)物性の評価方法
(1-1)メルトフローレート(MFR)
MFRはJIS K-7210-1999に準拠して、2.16kg荷重、230℃で測定した。
【0065】
(1-2)フランジのヒケ
目視評価において、容器のフランジにヒケがあるものは「×」、容器のフランジにヒケが確認出来ないものは「○」と、評価した。表1において、当該目視評価を、「目視」と表示した。
【0066】
(1-3)分岐指数(g’)
[η]brおよび[η]linを、前述の条件で求め、g’を得た。
【0067】
(1-4)GPCによる分子量分布(Mw/Mn)及び分子量分布(Mz/Mw)
GPCによる計測データを前述の条件で取得し、GPCによる分子量分布(Mw/Mn)及び分子量分布(Mz/Mw)を得た。
【0068】
(1-5)全エチレン含有量
全エチレン含有量は以下の測定及び解析により取得した。
FT-IR測定は以下の条件で測定を行い、データを採取した。
装置:パーキンエルマー社製 1760X
(ア)検出器:MCT
(イ)分解能:8cm-1
(ウ)測定間隔:0.2分(12秒)
(エ)一測定当たりの積算回数:15回
測定結果の後処理と解析
FT-IRによって得られる2956cm-1の吸光度と2927cm-1の吸光度との比を用い、ポリエチレンやポリプロピレンや13C-NMR測定等によりエチレン含量が既知となっているエチレン・プロピレン・ラバー(EPR)及びそれらの混合物を使用して、予め作成しておいた検量線により、全エチレン含量(重量%)に換算して求めた。
【0069】
(1-6)溶融張力(MT)
溶融張力(MT)を前述の条件にて得た。
【0070】
(1-7)パラキシレン可溶成分量(CXS)
パラキシレン可溶成分量(CXS)を前述の条件で得た。
【0071】
(1-8)プロピレン単位3連鎖のmm分率(mm)
プロピレン単位3連鎖のmm分率(mm)を前述の条件で得た。
【0072】
(1-9)曲げ弾性率
JIS K7171(ISO178)に準拠して求めた。
【0073】
(1-10)重量
胴部とフランジを有するカップ状の包装体を8個重ね、精密天秤で包装体の重量を測定した後、測定値を8で除して、胴部とフランジを有するカップ状の包装体1個当たりの重量を測定した。包装体の重量の単位は、gである。表1において、包装体の重量を、「重量」と表記した。
【0074】
(1-11) フランジ及び胴部の厚み
射出成型して得られた胴部とフランジを有するカップ状の包装体のフランジ及び胴部の肉厚は、マイクロメーターまたはノギスを用いて測定した。
【0075】
(2)使用材料]
(2―1)ポリプロピレン樹脂(X)
本実施例において、「X-1」は、日本ポリプロ(株)製の製商品名WAYMAX MFX3を用いた。X-1は、ポリプロピレン樹脂である。
X-1において、MFRが8g/10分であり、Mw/Mnが4.3であり、Mz/Mwが4.5であり、MTが9.2gfであり、CXSが0.1重量%であり、mmが98であり、Log(MT)≧-0.9×log(MFR)+0.7の関係を有し、g’が、0.87であることを確認した。
【0076】
(2-2)プロピレン系ブロック共重合体(Y)
本実施例において、「Y-1」は、日本ポリプロ(株)製の製商品名「ノバテックPP BC10HRF」を用いた。Y-1は、チーグラー触媒により重合したプロピレン-エチレンブロック共重合体である。Y-1は、20重量%のプロピレン-エチレン共重合体を含有する。そしてプロピレン-エチレン共重合体は、40重量%のエチレン含有量(全エチレン含有量は8重量%)を含有する。Y-1のMFRは100g/10分である。Y-1の曲げ弾性率は1250MPaである。
【0077】
本実施例において、「Y-2」は、日本ポリプロ(株)製の製商品名「ノバテックPP BC08F」を用いた。Y-2は、チーグラー触媒により重合したプロピレン-エチレンブロック共重合体である。Y-2は、20重量%の当該プロピレン-エチレン共重合体を含有する。Y-2は、40重量%のエチレン含量(全エチレン含有量は8重量%)を含有する。Y-2のMFRは75g/10分である。Y-2の曲げ弾性率は1400MPaである。
【0078】
(3)射出成型
[実施例1~3および比較例1~2]
X-1、Y-1およびY-2を表1に記載の重量部で混合したものを、住友重機械製射出成型機SG125M-Hに投入し、ショートショットしないように、
図1~3に示した胴部とフランジを有するカップ状の包装体を射出成型した。
ここで、当該胴部とフランジを有するカップ状の包装体について、フランジの内径は80mmであり、底部の内径は58mmであり、足部の内径は56mmであり、高さは50mmであり、足部の高さ5mmであり、底部の肉厚は0.7mmであり、胴部の肉厚は0.4mmであり、フランジの肉厚は0.6mmである。当該包装体の内部の体積量は、180mlである。
【0079】
表1に実施例1~3および比較例1~2の包装体の重量と目視の結果を記載した。
【0080】
【0081】
表1から、本開示の課題が解決することがわかる。