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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127629
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】粉末ペースト
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20230907BHJP
   H01M 8/0202 20160101ALI20230907BHJP
   H01M 8/0271 20160101ALI20230907BHJP
   H01M 8/124 20160101ALI20230907BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20230907BHJP
   B22F 1/10 20220101ALI20230907BHJP
   B22F 1/12 20220101ALI20230907BHJP
   C22C 1/05 20230101ALI20230907BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20230907BHJP
【FI】
H01M4/86 T
H01M8/0202
H01M8/0271
H01M8/124
B22F9/00 B
B22F1/10
B22F1/12
C22C1/05 A
H01M8/12 102A
H01M8/12 101
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031429
(22)【出願日】2022-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】519322392
【氏名又は名称】森村SOFCテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】弁理士法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 千栄
(72)【発明者】
【氏名】西脇 英樹
(72)【発明者】
【氏名】和田 匡央
【テーマコード(参考)】
4K017
4K018
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
4K017AA08
4K017BA02
4K017BA03
4K018AA02
4K018AA11
4K018AB01
4K018BA01
4K018BA05
4K018BD04
4K018KA38
5H018AA06
5H018BB06
5H018BB08
5H018EE13
5H018HH01
5H018HH05
5H126AA06
5H126AA13
5H126AA14
5H126DD05
5H126EE11
(57)【要約】
【課題】粉末ペーストの経時的な粘度変化を制する。
【解決手段】粉末ペーストは、粉末と、有機高分子と、有機溶媒とを含む。粉末ペーストに含まれる粉末のD10は、0.01μm以上、2.0μm以下である。粉末ペーストに含まれる有機溶媒は、異性体混合物を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末と、有機高分子と、有機溶媒と、を含む粉末ペーストにおいて、
前記粉末のD10は、0.01μm以上、2.0μm以下であり、
前記有機溶媒は、異性体混合物を含む、
ことを特徴とする粉末ペースト。
【請求項2】
請求項1に記載の粉末ペーストにおいて、
前記有機溶媒は、10質量%以上の含有量で前記異性体混合物を含む、
ことを特徴とする粉末ペースト。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の粉末ペーストにおいて、さらに、
0.1質量%以上、5.0質量%以下の含有量で水分を含む、
ことを特徴とする粉末ペースト。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の粉末ペーストにおいて、
前記粉末ペーストは、電気化学セルの作製に用いられる粉末ペーストである、
ことを特徴とする粉末ペースト。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の粉末ペーストにおいて、
前記異性体混合物は、テルピネオールの異性体混合物と、ブタノールの異性体混合物と、キシレンの異性体混合物と、の少なくとも1つを含む、
ことを特徴とする粉末ペースト。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の粉末ペーストにおいて、
前記有機高分子は、セルロース系樹脂と、ブチラール系樹脂と、アクリル系樹脂と、エポキシ系樹脂と、フェノール系樹脂と、エチレン系樹脂と、アミド系樹脂と、の少なくとも1つを含む、
ことを特徴とする粉末ペースト。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の粉末ペーストにおいて、
前記粉末は、導電性粉末と、絶縁性粉末と、イオン伝導性粉末と、の少なくとも1つを含む、
ことを特徴とする粉末ペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、粉末ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
水素と酸素との電気化学反応を利用して発電を行う燃料電池の種類の1つとして、固体酸化物形燃料電池(以下、「SOFC」という。)が知られている。SOFCは、一般に、所定の方向に並べて配置された複数の発電単位を備える燃料電池スタックの形態で利用される。
【0003】
発電単位は、発電の最小単位であり、単セルと、セパレータと、インターコネクタとを備える。単セルは、電解質層と、電解質層を挟んで互いに対向する空気極および燃料極とを含む。電解質層と空気極との間には、高抵抗物質の生成を抑制するための中間層が設けられることがある。セパレータは、空気極に面する空気室と燃料極に面する燃料室とを区画するための部材であり、例えば単セルの周縁部にロウ付けにより接合される。セパレータと単セルとの接合箇所には、空気室と燃料室との間のガスのリーク(クロスリーク)を抑制するために、ガラスシール部が設けられることがある。インターコネクタは、発電単位間の電気的導通を確保すると共に、発電単位間での反応ガスの混合を防止するための部材であり、例えば空気極の表面に、導電性酸化物である接合部を介して接合される。
【0004】
燃料電池スタックを構成する各部材が、粉末と有機高分子と有機溶媒とを含む粉末ペーストを用いて形成されることがある(例えば、特許文献1参照)。例えば、空気極および燃料極は、導電性粉末(例えば、それぞれLSCF粉末およびNiとYSZとの混合粉末)を含む粉末ペーストを焼成した焼成体により形成されることがあり、電解質層および中間層は、イオン伝導性粉末(例えば、それぞれYSZ粉末およびGDC粉末)を含む粉末ペーストを焼成した焼成体により形成されることがあり、インターコネクタと空気極とを接合する接合部は、導電性粉末(例えば、MnCo系スピネル型酸化物粉末)を含む粉末ペーストを焼成した焼成体により形成されることがある。また、単セルとセパレータとをロウ付け接合する接合部は、導電性粉末(例えば、Ag粉末)を含む粉末ペーストに対する熱処理により形成されることがある。また、ガラスシール部は、絶縁性粉末(ガラス)を含む粉末ペーストを溶融させた後に硬化させることにより形成されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-78033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
粉末ペーストは、作製後、使用されるまでの間、常温(例えば、5℃超、35℃以下)または低温(例えば、-30℃超、5℃以下)で保管されることがある。従来の粉末ペーストは、常温または低温で保管される際に、経時的に粘度が変化するという課題がある。粉末ペーストの経時的な粘度変化が大きいと、粉末ペーストを使用する際の成膜条件や熱処理条件等の管理が難しくなり、粉末ペーストを用いて一定の品質の部材を形成することが難しくなる。また、粉末ペーストの経時的な粘度変化が過大となると、該粉末ペーストを廃棄せざるを得ないことがあり、資源の有効活用やコスト低減の観点で問題がある。
【0007】
なお、このような課題は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形の電解セル(以下、「SOEC」という。)を構成する各部材の形成に用いられる粉末ペーストにも共通の課題である。また、このような課題は、SOFCやSOECに限らず、他のタイプの燃料電池または電解セル(以下、燃料電池および電解セルをまとめて「電気化学セル」という。)を構成する各部材の形成に用いられる粉末ペーストにも共通の課題である。さらに、このような課題は、電気化学セルを構成する部材の形成に用いられる粉末ペーストに限らず、粉末と有機高分子と有機溶媒とを含む粉末ペースト一般に共通の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0009】
(1)本明細書に開示される粉末ペーストは、粉末と、有機高分子と、有機溶媒とを含み、前記粉末のD10は、0.01μm以上、2.0μm以下であり、前記有機溶媒は、異性体混合物を含む。
【0010】
本粉末ペーストに含まれる粉末は、D10の値が過度に小さくないため、粒径の小さい粒子が比較的少ない粉末である。そのため、粉末ペーストを保管する際に、粒径の小さい粒子の凝集や沈降に起因する粉末ペーストの粘度変化を抑制することができる。
【0011】
また、粉末ペーストを常温保管する際には、粉末ペースト表面から溶媒が徐々に蒸発し、溶媒中に分散していた粒子や溶媒中に溶解していた固形物が析出する。また、粉末ペーストを冷蔵保管または冷凍保管するために冷却する際には、粉末ペースト中の溶媒が固化し、溶媒中に分散していた粒子や溶媒中に溶解していた固形物が析出する。また、冷蔵保管または冷凍保管後、粉末ペーストを使用するために常温に戻す際には、粉末ペースト中の溶媒が融解し、析出していた粒子や固形物が再度、溶媒中に分散または溶解する。本粉末ペーストは、異性体混合物を含む有機溶媒を含むため、異性体混合物を含まない有機溶媒と比較して、溶媒が蒸発する温度範囲が広く、かつ、溶媒が固化する温度範囲が広い。そのため、粉末ペーストを保管する際に、溶媒の蒸発速度が低下し、あるいは、溶媒の固化速度が低下し、溶媒の蒸発や固化に伴う粒子や固形物の析出速度が低下して、該粒子や固形物の沈降や凝集に起因する粉末ペーストの粘度変化を抑制することができる。また、本粉末ペーストは、異性体混合物を含む有機溶媒を含むため、異性体混合物を含まない有機溶媒と比較して、溶媒が融解する温度範囲が広い。そのため、冷蔵保管または冷凍保管後、粉末ペーストを使用するために常温に戻す際に、溶媒の融解速度が低下し、溶媒の融解に伴う粒子や固形物の分散または溶解速度が低下して、該粒子や固形物が沈降または凝集したまま残ることに起因する粉末ペーストの粘度変化を抑制できる。
【0012】
以上のことから、本粉末ペーストによれば、粉末ペーストの経時的な粘度変化を抑制することができる。
【0013】
(2)上記粉末ペーストにおいて、前記有機溶媒は、10質量%以上の含有量で前記異性体混合物を含む構成としてもよい。このような構成を採用すれば、有機溶媒に含まれる異性体混合物の存在により、粒子や固形物の析出速度等を効果的に低下させることができ、該粒子や固形物の沈降や凝集に起因する粉末ペーストの経時的な粘度変化を効果的に抑制することができる。
【0014】
(3)上記粉末ペーストにおいて、さらに、0.1質量%以上、5.0質量%以下の含有量で水分を含む構成としてもよい。このような構成を採用すれば、粉末ペースト中の水分が粉末や有機重合体と水和することによって粉末ペーストの分散性が向上し、粉末ペースト中の粒子の凝集や沈降による粉末ペーストの経時的な粘度変化を効果的に抑制することができる。
【0015】
(4)上記粉末ペーストにおいて、前記粉末ペーストは、電気化学セルの作製に用いられる粉末ペーストである構成としてもよい。このような構成を採用すれば、電気化学セルの作製用の粉末ペーストについて、経時的な粘度変化を抑制することができる。
【0016】
(5)上記粉末ペーストにおいて、前記異性体混合物は、テルピネオールの異性体混合物と、ブタノールの異性体混合物と、キシレンの異性体混合物と、の少なくとも1つを含む構成としてもよい。このような構成を採用すれば、粉末ペーストの経時的な粘度変化を効果的に抑制することができる。
【0017】
(6)上記粉末ペーストにおいて、前記有機高分子は、セルロース系樹脂と、ブチラール系樹脂と、アクリル系樹脂と、エポキシ系樹脂と、フェノール系樹脂と、エチレン系樹脂と、アミド系樹脂と、の少なくとも1つを含む構成としてもよい。このような構成を採用すれば、粉末ペーストの経時的な粘度変化を効果的に抑制することができる。
【0018】
(7)上記粉末ペーストにおいて、前記粉末は、導電性粉末と、絶縁性粉末と、イオン伝導性粉末と、の少なくとも1つを含む構成としてもよい。このような構成を採用すれば、導電性粉末ペースト、絶縁性粉末ペーストまたはイオン伝導性粉末ペーストについて、経時的な粘度変化を抑制することができる。
【0019】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、粉末ペースト、粉末ペーストの製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図
図2図1のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図
図3図1のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図
図4図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図
図5図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図
図6】性能評価結果を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0021】
A.実施形態:
A-1.構成:
(燃料電池スタック100の構成)
図1は、本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図であり、図2は、図1のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図であり、図3は、図1のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向と呼び、Z軸負方向を下方向と呼ぶものとするが、燃料電池スタック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。図4以降についても同様である。
【0022】
燃料電池スタック100は、複数の(本実施形態では7つの)発電単位102と、一対のエンドプレート104,106とを備える。7つの発電単位102は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向)に並べて配置されている。一対のエンドプレート104,106は、7つの発電単位102から構成される集合体を上下から挟むように配置されている。
【0023】
燃料電池スタック100を構成する各層(発電単位102、エンドプレート104,106)のZ軸方向回りの周縁部には、上下方向に貫通する複数の(本実施形態では8つの)孔が形成されており、各層に形成され互いに対応する孔同士が上下方向に連通して、一方のエンドプレート104から他方のエンドプレート106にわたって上下方向に延びる連通孔108を構成している。以下の説明では、連通孔108を構成するために燃料電池スタック100の各層に形成された孔も、連通孔108と呼ぶ場合がある。
【0024】
各連通孔108には上下方向に延びるボルト22が挿通されており、ボルト22とボルト22の両側に嵌められたナット24とによって、燃料電池スタック100は締結されている。なお、図2および図3に示すように、ボルト22の一方の側(上側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の上端を構成するエンドプレート104の上側表面との間、および、ボルト22の他方の側(下側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の下端を構成するエンドプレート106の下側表面との間には、絶縁シート26が介在している。ただし、後述のガス通路部材27が設けられた箇所では、ナット24とエンドプレート106の表面との間に、ガス通路部材27とガス通路部材27の上側および下側のそれぞれに配置された絶縁シート26とが介在している。絶縁シート26は、例えばマイカシートや、セラミック繊維シート、セラミック圧粉シート、ガラスシート、ガラスセラミック複合剤等により構成される。
【0025】
各ボルト22の軸部の外径は各連通孔108の内径より小さい。そのため、各ボルト22の軸部の外周面と各連通孔108の内周面との間には、空間が確保されている。図1および図2に示すように、燃料電池スタック100のZ軸方向回りの外周における1つの辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22A)と、そのボルト22Aが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から酸化剤ガスOGが導入され、その酸化剤ガスOGを各発電単位102に供給するガス流路である酸化剤ガス導入マニホールド161として機能し、該辺の反対側の辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22B)と、そのボルト22Bが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の空気室166から排出されたガスである酸化剤オフガスOOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する酸化剤ガス排出マニホールド162として機能する。なお、本実施形態では、酸化剤ガスOGとして、例えば空気が使用される。
【0026】
また、図1および図3に示すように、燃料電池スタック100のZ軸方向回りの外周における1つの辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22D)と、そのボルト22Dが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から燃料ガスFGが導入され、その燃料ガスFGを各発電単位102に供給する燃料ガス導入マニホールド171として機能し、該辺の反対側の辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22E)と、そのボルト22Eが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の燃料室176から排出されたガスである燃料オフガスFOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する燃料ガス排出マニホールド172として機能する。なお、本実施形態では、燃料ガスFGとして、例えば都市ガスを改質した水素リッチなガスが使用される。
【0027】
燃料電池スタック100には、4つのガス通路部材27が設けられている。各ガス通路部材27は、中空筒状の本体部28と、本体部28の側面から分岐した中空筒状の分岐部29とを有している。分岐部29の孔は本体部28の孔と連通している。各ガス通路部材27の分岐部29には、ガス配管(図示せず)が接続される。また、図2に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161を形成するボルト22Aの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス導入マニホールド161に連通しており、酸化剤ガス排出マニホールド162を形成するボルト22Bの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス排出マニホールド162に連通している。また、図3に示すように、燃料ガス導入マニホールド171を形成するボルト22Dの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス導入マニホールド171に連通しており、燃料ガス排出マニホールド172を形成するボルト22Eの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス排出マニホールド172に連通している。
【0028】
(エンドプレート104,106の構成)
一対のエンドプレート104,106は、Z軸方向視で略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばステンレスにより形成されている。一方のエンドプレート104は、最も上に位置する発電単位102の上側に配置され、他方のエンドプレート106は、最も下に位置する発電単位102の下側に配置されている。一対のエンドプレート104,106によって複数の発電単位102が押圧された状態で挟持されている。上側のエンドプレート104は、燃料電池スタック100のプラス側の出力端子として機能し、下側のエンドプレート106は、燃料電池スタック100のマイナス側の出力端子として機能する。
【0029】
(発電単位102の構成)
図4は、図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図であり、図5は、図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図である。
【0030】
図4および図5に示すように、発電単位102は、単セル110と、セパレータ120と、空気極側フレーム130と、空気極側集電体134と、燃料極側フレーム140と、燃料極側集電体144と、発電単位102の最上層および最下層を構成する一対のインターコネクタ150とを備えている。セパレータ120、空気極側フレーム130、燃料極側フレーム140、インターコネクタ150におけるZ軸方向回りの周縁部には、上述したボルト22が挿通される連通孔108に対応する孔が形成されている。
【0031】
インターコネクタ150は、Z軸方向視で略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばフェライト系ステンレスにより形成されている。インターコネクタ150は、発電単位102間の電気的導通を確保すると共に、発電単位102間での反応ガスの混合を防止する。なお、本実施形態では、2つの発電単位102が隣接して配置されている場合、1つのインターコネクタ150は、隣接する2つの発電単位102に共有されている。すなわち、ある発電単位102における上側のインターコネクタ150は、その発電単位102の上側に隣接する他の発電単位102における下側のインターコネクタ150と同一部材である。また、燃料電池スタック100は一対のエンドプレート104,106を備えているため、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えておらず、最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていない(図2および図3参照)。
【0032】
単セル110は、電解質層112と、電解質層112を挟んで上下方向(発電単位102が並ぶ配列方向)に互いに対向する空気極(カソード)114および燃料極(アノード)116とを備える。単セル110は、さらに、電解質層112と空気極114との間に配置された中間層180を備える。本実施形態の単セル110は、燃料極116で単セル110を構成する他の層(電解質層112、空気極114、中間層180)を支持する燃料極支持形の単セルである。
【0033】
電解質層112は、略矩形の平板形状部材であり、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)、SDC(サマリウムドープセリア)、GDC(ガドリニウムドープセリア)、ペロブスカイト型酸化物等のイオン伝導性を有する固体酸化物により形成されている。空気極114は、略矩形の平板形状部材であり、例えば、導電性のペロブスカイト型酸化物(例えばLSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)、LSM(ランタンストロンチウムマンガン酸化物)、LNF(ランタンニッケル鉄))により形成されている。燃料極116は、略矩形の平板形状部材であり、例えば、Ni(ニッケル)とセラミック粒子からなるサーメットにより形成されている。このように、本実施形態の単セル110(発電単位102)は、電解質として固体酸化物を用いる固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。
【0034】
中間層180は略矩形の平板形状部材であり、例えば、SDC、GDC、LDC(ランタンドープセリア)、YDC(イットリウムドープセリア)等のイオン伝導性を有する固体酸化物により形成されている。中間層180は、空気極114から拡散した元素(例えば、Sr)が電解質層112に含まれる元素(例えば、Zr)と反応して高抵抗な物質(例えば、SrZrO)の層が生成されることを抑制する。
【0035】
セパレータ120は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔121が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。セパレータ120における孔121の周囲部分は、電解質層112における空気極114の側の表面の周縁部に対向している。セパレータ120は、その対向した部分に配置されたロウ材(例えばAgロウ)により形成された接合部124により、電解質層112(単セル110)と接合されている。セパレータ120により、空気極114に面する空気室166と燃料極116に面する燃料室176とが区画される。
【0036】
セパレータ120における孔121付近には、ガラスを含む絶縁性のガラスシール部125が配置されている。ガラスシール部125は、接合部124に対して空気室166側に位置しており、セパレータ120の貫通孔周囲部の表面と、単セル110(本実施形態では電解質層112)の表面とにわたって配置されている。ガラスシール部125により、単セル110とセパレータ120との間がシールされ、単セル110の周縁部における一方の電極側から他方の電極側へのガスのリーク(クロスリーク)が効果的に抑制される。
【0037】
空気極側フレーム130は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔131が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、マイカ等の絶縁体により形成されている。空気極側フレーム130の孔131は、空気極114に面する空気室166を構成する。空気極側フレーム130は、セパレータ120における電解質層112に対向する側とは反対側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、空気極側フレーム130によって、発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ150間が電気的に絶縁される。また、空気極側フレーム130には、酸化剤ガス導入マニホールド161と空気室166とを連通する酸化剤ガス供給連通孔132と、空気室166と酸化剤ガス排出マニホールド162とを連通する酸化剤ガス排出連通孔133とが形成されている。
【0038】
燃料極側フレーム140は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔141が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。燃料極側フレーム140の孔141は、燃料極116に面する燃料室176を構成する。燃料極側フレーム140は、セパレータ120における電解質層112に対向する側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、燃料極側フレーム140には、燃料ガス導入マニホールド171と燃料室176とを連通する燃料ガス供給連通孔142と、燃料室176と燃料ガス排出マニホールド172とを連通する燃料ガス排出連通孔143とが形成されている。
【0039】
燃料極側集電体144は、燃料室176内に配置されている。燃料極側集電体144は、インターコネクタ対向部146と、電極対向部145と、電極対向部145とインターコネクタ対向部146とをつなぐ連接部147とを備えており、例えば、ニッケルやニッケル合金、ステンレス等により形成されている。電極対向部145は、燃料極116における電解質層112に対向する側とは反対側の表面に接触しており、インターコネクタ対向部146は、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面に接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102におけるインターコネクタ対向部146は、下側のエンドプレート106に接触している。燃料極側集電体144は、このような構成であるため、燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)とを電気的に接続する。なお、電極対向部145とインターコネクタ対向部146との間には、例えばマイカにより形成されたスペーサー149が配置されている。そのため、燃料極側集電体144が温度サイクルや反応ガス圧力変動による発電単位102の変形に追随し、燃料極側集電体144を介した燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)との電気的接続が良好に維持される。
【0040】
空気極側集電体134は、空気室166内に配置されている。空気極側集電体134は、複数の略四角柱状の集電体要素135から構成されており、例えば、フェライト系ステンレスにより形成されている。空気極側集電体134は、空気極114における電解質層112に対向する側とは反対側の表面と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面とに接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102における空気極側集電体134は、上側のエンドプレート104に接触している。空気極側集電体134は、このような構成であるため、空気極114とインターコネクタ150(またはエンドプレート104)とを電気的に接続する。なお、本実施形態では、空気極側集電体134(集電体要素135)とインターコネクタ150とは一体の部材として形成されている。すなわち、該一体の部材の内の、上下方向(Z軸方向)に直交する平板形状の部分がインターコネクタ150として機能し、該平板形状の部分から空気極114に向けて突出するように形成された複数の集電体要素135が空気極側集電体134として機能する。
【0041】
空気極側集電体134(集電体要素135)の表面は、導電性のコート136によって覆われている。コート136は、例えば、スピネル型酸化物(例えば、Mn1.5Co1.5やMnCo、ZnCo、ZnMn、ZnMnCoO、CuMn)により形成されている。なお、上述したように、本実施形態では、空気極側集電体134(集電体要素135)とインターコネクタ150とが一体の部材として形成されているため、実際には、空気極側集電体134(集電体要素135)の表面の内、インターコネクタ150との境界面はコート136により覆われていない一方、インターコネクタ150の表面の内、少なくとも酸化剤ガスOGが流れるガス流路に面する表面(例えば、インターコネクタ150における空気極114側の表面)はコート136により覆われている。
【0042】
空気極114と空気極側集電体134(集電体要素135)とは、導電性を有する接合部138により接合されている。接合部138は、例えば、スピネル型酸化物(例えば、Mn1.5Co1.5やMnCo、ZnCo、ZnMn、ZnMnCoO、CuMn)により形成されている。接合部138により、空気極114と空気極側集電体134とが電気的に接続される。
【0043】
A-2.燃料電池スタック100の動作:
図2および図4に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して酸化剤ガスOGが供給されると、酸化剤ガスOGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して酸化剤ガス導入マニホールド161に供給され、酸化剤ガス導入マニホールド161から各発電単位102の酸化剤ガス供給連通孔132を介して、空気室166に供給される。また、図3および図5に示すように、燃料ガス導入マニホールド171の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料ガスFGが供給されると、燃料ガスFGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して燃料ガス導入マニホールド171に供給され、燃料ガス導入マニホールド171から各発電単位102の燃料ガス供給連通孔142を介して、燃料室176に供給される。
【0044】
各発電単位102の空気室166に酸化剤ガスOGが供給され、燃料室176に燃料ガスFGが供給されると、単セル110において酸化剤ガスOGおよび燃料ガスFGの電気化学反応による発電が行われる。この発電反応は発熱反応である。各発電単位102において、単セル110の空気極114は空気極側集電体134を介して一方のインターコネクタ150に電気的に接続され、燃料極116は燃料極側集電体144を介して他方のインターコネクタ150に電気的に接続されている。また、燃料電池スタック100に含まれる複数の発電単位102は、電気的に直列に接続されている。そのため、燃料電池スタック100の出力端子として機能するエンドプレート104,106から、各発電単位102において生成された電気エネルギーが取り出される。なお、SOFCは、比較的高温(例えば700℃から1000℃)で発電が行われることから、起動後、発電により発生する熱で高温が維持できる状態になるまで、燃料電池スタック100が加熱器(図示せず)により加熱されてもよい。
【0045】
各発電単位102の空気室166から排出された酸化剤オフガスOOGは、図2および図4に示すように、酸化剤ガス排出連通孔133を介して酸化剤ガス排出マニホールド162に排出され、さらに酸化剤ガス排出マニホールド162の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。また、各発電単位102の燃料室176から排出された燃料オフガスFOGは、図3および図5に示すように、燃料ガス排出連通孔143を介して燃料ガス排出マニホールド172に排出され、さらに燃料ガス排出マニホールド172の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示しない)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。
【0046】
A-3.燃料電池スタック100の構成部材の形成のための粉末ペースト:
次に、本実施形態の燃料電池スタック100を構成する各部材の形成に用いられる粉末ペーストについて説明する。本実施形態の燃料電池スタック100の構成部材の少なくとも1つである特定部材は、粉末ペーストを用いて形成されている。特定部材は、空気極114と、燃料極116と、電解質層112と、中間層180と、インターコネクタ150と空気極114とを接合する接合部138と、セパレータ120と単セル110とをロウ付け接合する接合部124と、ガラスシール部125との少なくとも1つである。
【0047】
例えば、空気極114が特定部材である場合、空気極114の原料である導電性粉末を含む粉末ペースト(導電性ペースト)を作製し、該導電性ペーストを電解質層112の表面に例えばスクリーン印刷によって塗布することによって塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させた後、所定の温度(例えば、1100℃程度)で焼成することにより、空気極114が形成される。また、燃料極116が特定部材である場合、燃料極116の原料である導電性粉末を含む粉末ペースト(導電性ペースト)を作製し、該導電性ペーストを例えばドクターブレード法により薄膜化して所定の厚さの燃料極用グリーンシートを作製し、該グリーンシートを脱脂した後、所定の温度(例えば1350℃程度)で焼成することにより、燃料極116が形成される。また、電解質層112が特定部材である場合、電解質層112の原料であるイオン伝導性粉末を含む粉末ペースト(イオン伝導性ペースト)を作製し、該イオン伝導性ペーストを例えばドクターブレード法により薄膜化して所定の厚さの電解質層用グリーンシートを作製し、該グリーンシートを脱脂した後、所定の温度(例えば1350℃程度)で焼成することにより、電解質層112が形成される。また、中間層180が特定部材である場合、中間層180の原料であるイオン伝導性粉末を含む粉末ペースト(イオン伝導性ペースト)を作製し、該イオン伝導性ペーストを例えばドクターブレード法により薄膜化して所定の厚さの中間層用グリーンシートを作製し、該グリーンシートを脱脂した後、所定の温度(例えば1200℃程度)で焼成することにより、中間層180が形成される。また、インターコネクタ150と空気極114とを接合する接合部138が特定部材である場合、接合部138の原料である導電性粉末を含む粉末ペースト(導電性ペースト)を作製し、該導電性ペーストをインターコネクタ150および/または空気極114の表面に塗布することによって塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させた後、所定の温度(例えば、850℃程度)で焼成することにより、接合部138が形成される。
【0048】
また、セパレータ120と単セル110とをロウ付け接合する接合部124が特定部材である場合、接合部124の原料である導電性粉末を含む粉末ペースト(導電性ペースト)を作製し、該導電性ペーストを接合箇所に塗布することによって塗膜を形成し、該塗膜を所定の温度(例えば、1100℃程度)で加熱することにより、ロウ付け部としての接合部124が形成される。
【0049】
また、ガラスシール部125が特定部材である場合、ガラスシール部125の原料である絶縁性粉末を含む粉末ペースト(絶縁性ペースト)を作製し、該絶縁性ペーストをシール箇所に塗布することによって塗膜を形成し、該塗膜を所定の温度(例えば、800℃程度)で加熱して溶融させた後、硬化させることにより、ガラスシール部125が形成される。
【0050】
なお、粉末ペーストは、作製後、使用されるまでの間、常温保管(例えば、5℃超、35℃以下)、冷蔵保管(例えば、-15℃超、5℃以下)、または冷凍保管(例えば、-30℃超、-15℃以下)されることがある。
【0051】
本実施形態の燃料電池スタック100を構成する各部材の形成に用いられる粉末ペーストは、粉末と、ビヒクルとを含む。
【0052】
粉末ペーストに含まれる粉末は、該粉末ペーストにより形成される部材の原料粉末であり、例えば、導電性粉末、絶縁性粉末、イオン伝導性粉末が挙げられる。空気極114の形成に用いられる粉末ペーストは、例えばLSCF、LSM、LNF等の導電性粉末を含み、燃料極116の形成に用いられる粉末ペーストは、例えばNiとYSZとの混合粉末等の導電性粉末を含み、電解質層112の形成に用いられる粉末ペーストは、例えばYSZ等のイオン伝導性粉末を含み、中間層180の形成に用いられる粉末ペーストは、例えばGDC等のイオン伝導性粉末を含み、ガラスシール部125の形成に用いられる粉末ペーストは、ガラス等の絶縁性粉末を含み、セパレータ120と単セル110とをロウ付け接合する接合部124の形成に用いられる粉末ペーストは、例えばAg等の導電性粉末を含み、インターコネクタ150と空気極114とを接合する接合部138の形成に用いられる粉末ペーストは、例えばMnCo系のスピネル型酸化物等の導電性粉末を含む。
【0053】
粉末ペーストに含まれる粉末のD10は、0.01μm以上、2.0μm以下である。すなわち、粉末ペーストに含まれる粉末は、粒径が比較的小さい粒子の割合が少ない粉末である。粉末のD10は、0.05μm以上、1.0μm以下であることがより好ましい。また、粉末のD90は、0.1μm以上、50μm以下であることが好ましい。すなわち、粉末ペーストに含まれる粉末は、粒径が比較的大きい粒子の割合が少ない粉末であることが好ましい。
【0054】
なお、粉末ペーストに含まれる粉末の粒度分布(D10、D90等)は、以下の方法により測定することができる。まず、粉末ペーストを溶媒(アセトン等)により希釈する。溶剤で希釈した粉末ペーストに粒度分布測定装置のレーザーを照射し、回折・散乱光の強度分布パターンが得られるようになるまで、適宜希釈する。その後、粒度分布測定装置により、希釈した粉末ペーストにおける粉末の粒度分布を測定する。
【0055】
粉末ペーストに含まれるビヒクルは、有機高分子を有機溶媒に溶解させたものである。そのため、粉末ペーストは、粉末と、有機高分子と、有機溶媒とを含む、と換言することができる。なお、本実施形態の粉末ペーストは、粉末とビヒクルとを含む結果、有機高分子および有機溶媒を含んでいるが、必ずしも粉末ペーストに含まれる有機高分子および有機溶媒がビヒクル由来である必要はない。
【0056】
粉末ペーストに含まれる有機高分子は、いわゆるバインダであり、例えば、セルロース系樹脂と、ブチラール系樹脂と、アクリル系樹脂と、エポキシ系樹脂と、フェノール系樹脂と、エチレン系樹脂と、アミド系樹脂と、の少なくとも1つを含む。
【0057】
粉末ペーストに含まれる有機溶媒は、異性体混合物を含む。異性体混合物は、例えば、テルピネオールの異性体混合物と、ブタノールの異性体混合物と、キシレンの異性体混合物と、の少なくとも1つを含む。例えば、テルピネオールとしては、α(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)、δ(デルタ)の4つの異性体が存在する。テルピネオールの異性体混合物は、これら4つの異性体のうちの少なくとも2つの異性体から構成される混合物である。他の材料の異性体混合物についても同様である。有機溶媒における異性体混合物の含有量は、10質量%以上であることが好ましい。
【0058】
なお、各種クロマトグラフを用いた分離分析、定量分析と、赤外線分光分析・核磁気共鳴分析・質量分析・元素分析等による構造解析により、粉末ペースト中の有機化合物(有機高分子や有機溶媒)を同定することができる。
【0059】
粉末ペーストは、さらに水分を含んでいてもよい。粉末ペーストが水分を含む場合、その含有量は、0.1質量%以上、5.0質量%以下であることが好ましい。粉末ペーストに含まれる水分は、粉末ペーストに含まれる粉末の表面に吸着した水分であってもよいし、粉末ペーストの作製時に添加された水であってもよい。なお、粉末ペースト中の水分量は、カールフィッシャー測定法(加熱温度300℃)により測定することができる。
【0060】
粉末ペーストは、必要に応じて、他の成分、例えば、分散剤、可塑剤、増粘剤、界面活性剤等を含んでいてもよい。
【0061】
A-4.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の粉末ペーストは、粉末と、有機高分子と、有機溶媒とを含む。粉末ペーストに含まれる粉末のD10は、0.01μm以上、2.0μm以下である。粉末ペーストに含まれる有機溶媒は、異性体混合物を含む。
【0062】
このように、本実施形態の粉末ペーストに含まれる粉末は、D10の値が過度に小さくないため、粒径の小さい粒子が比較的少ない粉末である。そのため、粉末ペーストを保管する際に、粒径の小さい粒子の凝集や沈降に起因する粉末ペーストの粘度変化を抑制することができる。
【0063】
また、粉末ペーストを常温保管する際には、粉末ペースト表面から溶媒が徐々に蒸発し、溶媒中に分散していた粒子や溶媒中に溶解していた固形物が析出する。また、粉末ペーストを冷蔵保管または冷凍保管するために冷却する際には、粉末ペースト中の溶媒が固化し、溶媒中に分散していた粒子や溶媒中に溶解していた固形物が析出する。また、冷蔵保管または冷凍保管後、粉末ペーストを使用するために常温に戻す際には、粉末ペースト中の溶媒が融解し、析出していた粒子や固形物が再度、溶媒中に分散または溶解する。本実施形態の粉末ペーストは、異性体混合物を含む有機溶媒を含むため、異性体混合物を含まない有機溶媒と比較して、溶媒が蒸発する温度範囲が広く、かつ、溶媒が固化する温度範囲が広い。そのため、粉末ペーストを保管する際に、溶媒の蒸発速度が低下し、あるいは、溶媒の固化速度が低下し、溶媒の蒸発や固化に伴う粒子や固形物の析出速度が低下して、該粒子や固形物の沈降や凝集に起因する粉末ペーストの粘度変化を抑制することができる。また、本実施形態の粉末ペーストは、異性体混合物を含む有機溶媒を含むため、異性体混合物を含まない有機溶媒と比較して、溶媒が融解する温度範囲が広い。そのため、冷蔵保管または冷凍保管後、粉末ペーストを使用するために常温に戻す際に、溶媒の融解速度が低下し、溶媒の融解に伴う粒子や固形物の分散または溶解速度が低下して、該粒子や固形物が沈降または凝集したまま残ることに起因する粉末ペーストの粘度変化を抑制できる。
【0064】
以上のことから、本実施形態の粉末ペーストによれば、粉末ペーストの経時的な粘度変化を抑制することができる。
【0065】
また、本実施形態の粉末ペーストにおいて、有機溶媒は、10質量%以上の含有量で異性体混合物を含むことが好ましい。このような構成とすれば、有機溶媒に含まれる異性体混合物の存在により、上述した粒子や固形物の析出速度等を効果的に低下させることができ、該粒子や固形物の沈降や凝集に起因する粉末ペーストの経時的な粘度変化を効果的に抑制することができる。
【0066】
また、本実施形態の粉末ペーストは、さらに、0.1質量%以上、5.0質量%以下の含有量で水分を含むことが好ましい。このような構成とすれば、粉末ペースト中の水分が粉末や有機重合体と水和することによって粉末ペーストの分散性が向上し、粉末ペースト中の粒子の凝集や沈降による粉末ペーストの経時的な粘度変化を効果的に抑制することができる。
【0067】
また、本実施形態の粉末ペーストにおいて、粉末のD90は、0.1μm以上、50μm以下であることが好ましい。このような構成では、粉末ペーストに含まれる粉末は、D90の値が過度に大きくないため、粒径の大きい粒子が比較的少ない粉末である。そのため、粒径の大きい粒子の存在による混練不十分に起因する粉末ペーストの印刷性の低下を抑制することができる。
【0068】
また、本実施形態の粉末ペーストは、電気化学セル(より具体的には燃料電池スタック100)の作製に用いられる粉末ペーストである。本実施形態の粉末ペーストによれば、電気化学セルの作製用の粉末ペーストについて、経時的な粘度変化を抑制することができる。
【0069】
また、本実施形態の粉末ペーストにおいて、異性体混合物は、テルピネオールの異性体混合物と、ブタノールの異性体混合物と、キシレンの異性体混合物と、の少なくとも1つを含むことが好ましい。このような構成とすれば、粉末ペーストの経時的な粘度変化を効果的に抑制することができる。
【0070】
また、本実施形態の粉末ペーストにおいて、有機高分子は、セルロース系樹脂と、ブチラール系樹脂と、アクリル系樹脂と、エポキシ系樹脂と、フェノール系樹脂と、エチレン系樹脂と、アミド系樹脂と、の少なくとも1つを含むことが好ましい。このような構成とすれば、粉末ペーストの経時的な粘度変化を効果的に抑制することができる。
【0071】
また、本実施形態の粉末ペーストにおいて、粉末は、導電性粉末と、絶縁性粉末と、イオン伝導性粉末と、の少なくとも1つを含む。本実施形態の粉末ペーストによれば、導電性粉末ペースト、絶縁性粉末ペーストまたはイオン伝導性粉末ペーストについて、経時的な粘度変化を抑制することができる。
【0072】
なお、本実施形態の粉末ペーストは、低温(-30℃超、5℃以下)で保管されることが好ましい。粉末ペーストを5℃以下で保管すれば、粉末ペーストの粘度変化の原因となり得る溶媒の蒸発を抑制することができ、また、粉末ペーストを-30℃超で保管すれば、保管後に使用するために常温に戻す際に、粉末ペーストの成分が分離して元に戻らないという事態の発生を回避することができる。
【0073】
A-5.性能評価:
複数の粉末ペーストのサンプルを用いて性能評価を行った。図6は、性能評価結果を示す説明図である。図6に示すように、性能評価には、21個の粉末ペーストのサンプル(S1~S21)が用いられた。各サンプルは、粉末(LSCF粉末)と、有機高分子(エチルセルロース)と、有機溶媒(テルピネオール)とを含む粉末ペーストである。粉末と有機高分子と有機溶媒とが、質量比で5:1:4になるように配合して混練し、各サンプルの粉末ペーストを得た。異性体混合物を含む有機溶媒で適宜粘度調整した。各サンプルの粉末ペーストの初期粘度は、10~300Pa・sであった。
【0074】
図6に示すように、各サンプルは、LSCF粉末のD10の値と、有機溶媒が単体から構成されているか/異性体混合物を含むかの別とが互いに異なっている。
【0075】
また、サンプルS1~S14については、常温(25℃)で14日間保管し、保管前後で粉末ペーストの粘度を測定し、粘度変化率を算出した。同様に、サンプルS15~S21については、低温で14日間保管し、保管前後で粉末ペーストの粘度を測定し、粘度変化率を算出した。低温保管は、-18℃に設定した冷凍庫中に保管するものとし、常温に戻す際には1~24時間、常温雰囲気に放置した。粘度測定は、常温において、回転粘度計を用いて回転速度:20rpmで測定した。粘度変化率は、以下の算出式に従い算出した。粘度変化率の絶対値が30%超であるときに不可「×」と判定し、粘度変化率の絶対値が20%超、30%以下であるときに可「△」と判定し、粘度変化率の絶対値が10%超、20%以下であるときに優良「〇」と判定し、粘度変化率の絶対値が10%以下であるときに極めて優良「◎」と判定した。
粘度変化率=((保管後の粘度-初期粘度)/初期粘度)×100
【0076】
また、各サンプルについて、保管後の印刷性について評価を行った。より詳細には、被印刷物として10cm×10cmの平板状のYSZ基板を準備し、常温においてYSZ基板上に各サンプルの粉末ペーストをスクリーン印刷により9cm×9cm、厚さ20μmで塗布して乾燥させ、塗膜を形成した。このとき、形成された塗膜において、かすれ、剥離、形状不良(意図した形状からの外れ)の3つの不良の有無を確認し、3つの不良がすべて確認されたときに不可「×」と判定し、2つの不良が確認されたときに可「△」と判定し、1つの不良が確認されたときに優良「〇」と判定し、不良が確認されなかったときに極めて優良「◎」と判定した。なお、剥離の有無については、塗膜の表面に市販のセロハン粘着テープを貼り、該テープを剥がしたときに塗膜が基板から剥離したか否かの試験により判定を行った。
【0077】
総合評価として、粘度変化率および印刷性の2つの評価項目のうちの少なくとも一方で不可「×」と判定されたときに総合的に不可「×」と判定し、2つの評価項目のうちの少なくとも一方で可「△」と判定され、かつ、不可「×」と判定された評価項目が無いときに総合的に可「△」と判定し、2つの評価項目のうちの少なくとも一方で優良「〇」と判定され、かつ、不可「×」または可「△」と判定された評価項目が無いときに総合的に優良「〇」と判定し、2つの評価項目の両方で極めて優良「◎」と判定されたときに総合的に極めて優良「◎」と判定した。
【0078】
図6に示すように、サンプルS1~S7では、粘度変化率および印刷性がともに不可「×」と判定され、総合的に不可「×」と判定された。これらのサンプルでは、有機溶媒が単体から構成されているため、常温保管の際に溶媒が蒸発する温度範囲が狭く、その結果溶媒の蒸発速度が速くなり(溶媒が集中して蒸発し)、溶媒の蒸発に伴う粒子や固形物の析出速度が速くなって、該粒子や固形物の沈降や凝集に起因する粉末ペーストの粘度変化が大きくなったものと考えられる。また、これらのサンプルでは、粉末ペーストの粘度変化(粘度増大または粘度低下)が大きいため、粘度の大きな増大に起因して粉末ペーストが印刷機のスキージ上で流動しなくなってスクリーンに粉末ペーストが入らず、結果的に印刷後の膜がかすれたりまだらになって剥離したりしたため、あるいは、粘度の大きな低下に起因してスクリーン印刷時にスクリーンパターンよりも広く膜が形成されて、狙いの寸法の膜が得られなくなったため、印刷性が低下したものと考えられる。
【0079】
また、サンプルS8,S15では、粘度変化率が可「△」と判定される一方、印刷性が不可「×」と判定され、総合的に不可「×」と判定された。これらのサンプルでは、粉末のD10の値が過度に小さく、粒径の小さい粒子が比較的多いため、粉末ペーストを常温または低温で保管した際に、粒径の小さい粒子の凝集や沈降に起因する粉末ペーストの粘度変化が大きくなり、その結果、印刷性が低下したものと考えられる。
【0080】
また、サンプルS14,S21では、粘度変化率が可「△」と判定される一方、印刷性が不可「×」と判定され、総合的に不可「×」と判定された。これらのサンプルでは、粉末のD10の値が過度に大きく、粒径の大きい粒子が比較的多いため、粒径の大きい粒子の存在による混練不十分に起因して粉末ペーストの印刷性が低下したものと考えられる。
【0081】
これに対し、サンプルS9~S13,S16~S20では、粘度変化率および印刷性がともに可「△」以上と判定され、総合的に可「△」以上と判定された。これらのサンプルでは、粉末のD10が0.01μm以上、2.0μm以下と過度に小さくも大きくもないため、粉末ペーストを保管する際に、粒径の小さい粒子の凝集や沈降に起因する粉末ペーストの粘度変化を抑制することができたものと考えられる。また、これらのサンプルのうち、常温保管されたサンプルS9~S13では、有機溶媒が異性体混合物を含むため、常温保管の際の溶媒の蒸発速度が遅く、溶媒の蒸発に伴う粒子や固形物の析出速度が遅くなって、該粒子や固形物の沈降や凝集に起因する粉末ペーストの粘度変化が抑制されたものと考えられる。また、これらのサンプルのうち、低温保管されたサンプルS16~S20では、有機溶媒が異性体混合物を含むため、低温保管のために冷却する際の溶媒の固化速度が遅く、溶媒の固化に伴う粒子や固形物の析出速度が遅くなって、該粒子や固形物の沈降や凝集に起因する粉末ペーストの粘度変化が抑制され、かつ、粉末ペーストを使用するために常温に戻す際の溶媒の融解速度が遅く、溶媒の融解に伴う粒子や固形物の分散または溶解速度が遅くなって、該粒子や固形物が沈降または凝集したまま残ることに起因する粉末ペーストの粘度変化が抑制されたものと考えられる。また、これらのサンプルでは、粉末ペーストの経時的な粘度変化が抑制された結果、印刷性の低下も抑制されたものと考えられる。
【0082】
以上の性能評価結果から、粉末と有機高分子と有機溶媒とを含む粉末ペーストにおいて、粉末のD10が0.01μm以上、2.0μm以下であり、かつ、有機溶媒が異性体混合物を含むと、粉末ペーストの経時的な粘度変化を抑制できることが確認された。
【0083】
なお、サンプルS9~S13のうち、粉末のD10が0.05μm以上、1.0μm以下であるサンプルS10~S12では、粘度変化率および印刷性がともに優良「〇」以上と判定され、総合的に優良「〇」以上と判定された。同様に、サンプルS16~S20のうち、粉末のD10が0.05μm以上、1.0μm以下であるサンプルS17~S19では、粘度変化率および印刷性がともに非常に優良「◎」と判定され、総合的に非常に優良「◎」と判定された。これらの結果から、粉末ペーストに含まれる粉末のD10が0.05μm以上、1.0μm以下であると、粉末ペーストの経時的な粘度変化を効果的に抑制でき、より好ましいと言える。
【0084】
また、常温保管されたサンプルS9~S13と低温保管されたサンプルS16~S20とを比較すると、粉末のD10が同じであれば、常温保管より低温保管の方が粉末ペーストの経時的な粘度変化を効果的に抑制できると言える。これは、常温保管では、粉末ペーストの粘度変化の原因となり得る溶媒の蒸発が発生するのに対し、低温保管では溶媒の蒸発を抑制することができるためであると考えられる。
【0085】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0086】
上記実施形態における燃料電池スタック100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。また、上記実施形態における各部材を構成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により構成されていてもよい。
【0087】
また、上記実施形態では、空気極114と、燃料極116と、電解質層112と、中間層180と、インターコネクタ150と空気極114とを接合する接合部138と、セパレータ120と単セル110とをロウ付け接合する接合部124と、ガラスシール部125との少なくとも1つが、本実施形態の粉末ペーストを用いて形成されているが、燃料電池スタック100における他の部材が本実施形態の粉末ペーストを用いて形成されていてもよい。
【0088】
また、本明細書に開示される技術は、燃料電池スタック100を構成する各部材の形成用の粉末ペーストに限らず、他の用途のための粉末ペーストにも同様に適用可能である。他の用途としては、例えば、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形電解セル(SOEC)の利用形態である電解セルスタックを構成する各部材の形成用が挙げられる。
【符号の説明】
【0089】
22:ボルト 24:ナット 26:絶縁シート 27:ガス通路部材 28:本体部 29:分岐部 100:燃料電池スタック 102:発電単位 104,106:エンドプレート 108:連通孔 110:単セル 112:電解質層 114:空気極 116:燃料極 120:セパレータ 121:孔 124:接合部 125:ガラスシール部 130:空気極側フレーム 131:孔 132:酸化剤ガス供給連通孔 133:酸化剤ガス排出連通孔 134:空気極側集電体 135:集電体要素 136:コート 138:接合部 140:燃料極側フレーム 141:孔 142:燃料ガス供給連通孔 143:燃料ガス排出連通孔 144:燃料極側集電体 145:電極対向部 146:インターコネクタ対向部 147:連接部 149:スペーサー 150:インターコネクタ 161:酸化剤ガス導入マニホールド 162:酸化剤ガス排出マニホールド 166:空気室 171:燃料ガス導入マニホールド 172:燃料ガス排出マニホールド 176:燃料室 180:中間層
図1
図2
図3
図4
図5
図6