IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アイカ工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127633
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】変成シリコーン組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20230907BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20230907BHJP
   C08G 59/14 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
C08L63/00 A
C08L83/04
C08G59/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031433
(22)【出願日】2022-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】近藤 雄大
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 彩
【テーマコード(参考)】
4J002
4J036
【Fターム(参考)】
4J002CD20W
4J002CL003
4J002CM013
4J002CP03X
4J002CP18X
4J002EN016
4J002ER006
4J002FD143
4J002FD146
4J002FD157
4J002GJ01
4J002GL00
4J002GN00
4J002GQ00
4J036AA01
4J036CD04
4J036DA01
4J036DC02
4J036FB13
4J036FB14
4J036FB16
4J036GA09
4J036JA06
(57)【要約】
【課題】
難接着材料への接着性に優れ、特にABS等のプラスチック材料に対し十分な接着強度を示し、且つ破壊モードが凝集破壊と成る様な変成シリコーン組成物を得ることである。
【解決手段】
変成シリコーン(A)、NBR変性エポキシ樹脂(B)、硬化剤(C)、硬化触媒(D)からなる組成物である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変成シリコーン(A)、NBR変性エポキシ樹脂(B)、硬化剤(C)、硬化触媒(D)からなる組成物。
【請求項2】
変成シリコーン(A)100質量部に対し、NBR変性エポキシ樹脂(B)を1~120質量部と、硬化剤(C)を1~30質量部と、硬化触媒(D)を0.1~5質量部とを、含むことを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
硬化剤(C)が、アミン系化合物である請求項1または請求項2に記載の組成物。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難接着材料への接着性に優れ、特にABS等のプラスチック材料に対し高い接着強度を示し、且つ破壊モードが凝集破壊と成る様な変成シリコーン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
変成シリコーンは、主骨格にポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール等の構造をもち、末端に加水分解性シリル基を持つ化合物である。空気中の水分により加水分解性シリル基のアルコキシ基が加水分解し、生成したシラノール基が縮合することによって重合は進行する。
【0003】
特許文献1は、その変成シリコーンを用いた公報であり、接着剤、シーリング材、塗料等の分野への応用が示唆されている。
近年では、変成シリコーンは、上記以外でも展開が図られており、前述の土木建築分野以外に、電気・電子機器分野、自動車分野、航空・宇宙分野への展開が試みられている。
この様に変成シリコーンは、展開分野が広がったために、木材、ガラス、コンクリート、金属はもとより、プラスチックに対しても、高い接着強度および安定した接着性が求められるようになった。
【0004】
一方、特許文献2は、半導体チップの接合領域からはみ出る半導体部品用接着剤の量を調整し、高精度かつ信頼性の高い半導体チップ積層体の製造方法及び半導体装置に関する公報である。プラスチックに対する接着性という意味では、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-101071号
【特許文献2】特開2011-009765号
【特許文献3】特開2003-138150号
【特許文献4】国際公開WO2014/017218号
【0006】
特許文献3は、化粧外壁作製のためのタイル貼り工法において、タイル貼り用の接着剤としても目地部用のシーリング材としても使用可能な室温硬化性組成物に関する公報である。特許文献4は、安全性が高く且つ硬化速度を促進することができ、貯蔵安定性に優れた2液型硬化性組成物、及び該硬化性組成物を硬化させてなる硬化物に関する公報である。いずれの公報も、高接着強度という意味では目的を達成しているが、プラスチックに関する接着性は改善の余地があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
難接着材料への接着性に優れ、特にABS等のプラスチック材料に対し十分な接着強度を示し、且つ破壊モードが凝集破壊と成る様な変成シリコーン組成物を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
変成シリコーン(A)、ニトリルブタジエンゴム(NBR)変性エポキシ樹脂(B)、硬化剤(C)、硬化触媒(D)からなる組成物である。
【発明の効果】
【0009】
難接着材料への接着性に優れ、特にABS等のプラスチック材料に対し十分な接着強度を示し、且つ破壊モードが凝集破壊と成る様な変成シリコーン組成物であるので、土木建築分野以外に、電気・電子機器分野、自動車分野、航空・宇宙分野への展開することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
難接着材料への接着性に優れ、特にプラスチック材料に対し高い接着強度を示し、且つ破壊モードが凝集破壊と成る様な変成シリコーン組成物の一例を示す。
【0011】
本願の組成物は一液組成物、二液組成物、何れの供給形態でも提供することができる。
二液組成物の場合は、変成シリコーン(A)と硬化剤(C)が含まれる主剤組成物、NBR変性エポキシ樹脂(B)と硬化触媒(D)が含まれる硬化剤組成物の形態で供給されるのが一般的である。
【0012】
本願に使用される変成シリコーン(A)は、主骨格にポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール等の構造をもち、末端に加水分解性シリル基を持つ化合物である。空気中の水分により加水分解性シリル基のアルコキシ基が加水分解し、生成したシラノール基が縮合することによって重合は進行する。
変成シリコーン(A)は市販されており、具体的に製品名を挙げると、カネカ社製、商品名:EST-280、商品名:OR110S、商品名:MA440、商品名:MA480、MA451、商品名:MA904、MAX602、商品名:MAX923、商品名:MAX951、商品名:S203H、商品名:S227、商品名:S303H、商品名:S327、商品名:SA100S、商品名:SA310S、商品名:SA410S、商品名:SAT010、商品名:SAT145、商品名:SAT200、商品名:SAX015、商品名:SAX260、商品名:SAX350、商品名:SAX400が販売され、ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト社から、商品名:STP-E10、商品名:STP-E15、商品名:STP-E30、商品名:STP-E35等が販売されている。
【0013】
NBR変性エポキシ樹脂(B)は、市販のものを使用することができる。市販品としては、ADEKA社製の製品名:アデカレジンEPR-1415-1、製品名:アデカレジンEPR-2000、製品名:アデカレジンEPR-2007、製品名:アデカレジンEPR-1630、製品名:アデカレジンEPR-4033を上げることができる。また、NBRは、末端がカルボキシル基に成っているカルボキシル化NBR、末端がアミノ基に成っているアミノ基化NBRであってもよい。カルボキシル基化NBR変性エポキシ樹脂としては、DIC社製、製品名:TSR960、製品名:TSR-601を挙げることができる。
添加量としては、変成シリコーン(A)100質量部に対し、1~120質量部、より好適には5~100質量部である。
また、NBR変性エポキシ樹脂(B)の他に、ビスフェノール系ジグリシジレートを併用することもできる。
ビスフェノール系ジグリシジレート化合物としては、ビスフェノールAジグリシジレート、ビスフェノールFジグリシジレート、ビスフェノールEジグリシジレート、ビスフェノールSジグリシジレート等が挙げられ、水素添加(水添)タイプで有っても良い。
ビスフェノール系ジグリシジレート化合物の製品名を挙げると、三菱ケミカル社製、製品名:828、製品名:834、製品名:806、製品名:YX-8000等が挙げられる。
添加量としては、変成シリコーン(A)100質量部に対し、0~80質量部、より好適には0~60質量部である。
【0014】
硬化剤(C)は、NBR変性エポキシ樹脂(B)の硬化剤である。硬化剤(C)としては、NBR変性エポキシ樹脂(B)のエポキシ樹脂と反応できる硬化剤であれば構わない。このような硬化剤としては、アミン化合物、チオール化合物、酸無水物、カルボキシル基含有化合物、フェノール樹脂を挙げることができる。より好適な硬化剤としては、アミン化合物を挙げることができる。
また、これらの硬化剤は、ビスフェノール系ジグリシジレートも硬化させることができる。
【0015】
アミン化合物は、変性ポリアミド、変性ポリアミン、三級アミン、ケチミン等から選択することができる。尚、ケチミンを選択すると、一液組成物の供給形態をとることができる。
変性ポリアミドの製品名を挙げると、エボニック・ジャパン社製、商品名: アンカマイド260A、商品名:アンカマイド350A、商品名:アンカマイド375A、商品名:アンカマイド502、商品名:アンカマイド910、商品名:アンカマイド2050、商品名:アンカマイド2137、商品名:アンカマイド2353、商品名:アンカマイド2396、商品名:アンカマイド2426、商品名:アンカマイド2445が挙げられる。
変性ポリアミンの製品名を挙げると、エボニック・ジャパン社製、商品名:アンカミン1561、商品名:アンカミン1618、商品名:アンカミン1618F、商品名:アンカミン1693、商品名:アンカミン1704、商品名:アンカミン1769、商品名:アンカミン1884、商品名:アンカミン1895、商品名:アンカミン1934、商品名:アンカミン2071、商品名:アンカミン2072、商品名:アンカミン2074、商品名:アンカミン2075、商品名:アンカミン2143、商品名:アンカミン2280、商品名:アンカミン2199、商品名:アンカミン2205、商品名:アンカミン2228、商品名:アンカミン2368、商品名:アンカミン2405、商品名:アンカミン2432、商品名:アンカミン2422、商品名:アンカミン2502、商品名:アンカミン2505、商品名:アンカミン2609、商品名:アンカミン2596、商品名:アンカミン2643、商品名:アンカミン2644、商品名:アンカミン2706、商品名:アンカミン2730、商品名:アンカミン2049、商品名:アンカミン2264、ピイ・ティ・アイ・ジャパン社製、商品名:ハードナーPH-770、商品名:ハードナーPH-776P、商品名:ハードナーPH777P、商品名:ハードナーPH-780、商品名:ハードナーPH-781、商品名:ハードナーPH782、商品名:ハードナーPH785、商品名:ハードナーPH-798、商品名:ハードナーKA-861、商品名:ハードナーKA-935等が挙げられる。
3級アミンとしては、エボニック・ジャパン社製、商品名:アンカミン1110、商品名:アンカミンK-54、商品名:アンカミンK-61B等が挙げられる。
ケチミンとしては、アデカ社製、商品名:アデカハードナーEH-235R-2、日東化成社製、製品名:エポニットK-100等が挙げられる。
硬化剤(C)の添加量としては、組成物全体の約5~10%なので、変成シリコーン(A)100質量部に対しては1~30質量部、より好適には5~25質量部である。
【0016】
硬化触媒(D)は、変成シリコーン(A)の硬化触媒である。硬化触媒(D)としては、錫系、ビスマス系、アミン系の触媒を用いる事もできる。
具体的に製品名を挙げると、錫触媒としては、日東化成社製、商品名:ネオスタンU-100、商品名:ネオスタンU-130、商品名:ネオスタンU-200、商品名:ネオスタンU-220H、商品名:ネオスタンU-303等が販売されている。
ビスマス触媒としては、日東化成社製、商品名:ネオスタンU-600が販売され、松尾産業社からは、商品名:Borchi Kat24、商品名:Borchi Kat315等が販売されている。
アミン系触媒としては、サンアプロ社製、商品名:U-CAT SA-1、U-CAT SA-102、U-CAT SA-106、U-CAT SA-112、U-CAT SA-506等が販売されている。
より好適な硬化触媒は錫系触媒で、その中でもネオスタンU-130を用いるのが好適である。添加量としては、変成シリコーン(A)100質量部に対し0.1~5質量部、より好適には0.5~3質量部である。
【0017】
本願の変成シリコーン組成物は、空気と触れることの少ない、深部の硬化性を向上させるために、水を添加することもできる。添加量としては、変成シリコーン(A)100質量部に対し0~3質量部、より好適には0~1質量部である。
【0018】
本願の変成シリコーン組成物は、密着性向上の為にシランカップリング剤を添加することができる。具体的に製品名を挙げると、信越化学工業社製、製品名:KBM-1003(ビニルトリメトキシシラン)、製品名:KBM-403(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)、製品名:KBM-503(3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)、製品名:KBM-903(3-アミノプロピルトリメトキシシラン)等が市販されている。添加量としては、変成シリコーン(A)100質量部に対し0.5~15質量部、より好適には1~10質量部である。
【0019】
本願の接着剤組成物は、粘度調整、硬さ調整の為に、可塑剤を添加することができる。可塑剤としては、ポリプロピレングリコール等のグリコール系が挙げられる。
【0020】
本願の接着剤組成物は、粘度調整、硬さ調整の為に充填材を添加することが出来る。充填材は無機系、有機系どちらでもよく、無機材としては、炭酸カルシウム、シリカ、酸化カルシウム、カオリン、焼成カオリン、クレー、珪酸カルシウム、硫酸カルシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、水酸化アルミニウム、珪酸アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、炭酸マグネシウム、珪酸マグネシウム、タルク、ゼオライト、ガラスビーズ、シラスバルーン等が挙げられる。
有機材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメタクリル酸メチル、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ABS樹脂、アクリロニトリル-スチレン共重合体、ポリカーボネート等が挙げられる。
【0021】
以下、本発明について実施例及び比較例を挙げてより詳細に説明するが、具体例を示すものであって、特にこれらに限定するものではない。なお、部数は全て質量部である。
尚、本願は、ケチミンを使用しなかったので、全て二液組成物である。
【実施例0022】
実施例1の組成物の作製
井上製作所社製プラネタリーミキサー、商品名:PLM-2の釜の中に、SAT-200を1000g、アンカミンK-54を105g、KBM-903を53g秤取り、プラネタリーミキサーの撹拌目盛り5にて均一に成るまで撹拌し、実施例1の主剤を得た。
これとは別に、井上製作所社製プラネタリーミキサー、商品名:PLM-2の釜の中に、828を250g、予め60℃に加温したアデカレジンEPR-1415-1を250g、U-130を10g、水を3g秤取り、プラネタリーミキサーの撹拌目盛り5にて均一に成るまで撹拌し、実施例1の硬化剤組成物を得た。
【0023】
実施例2~6、比較例1~4の組成物の作製
表1、表2に示した配合割合で、実施例1の組成物の作製と同様の手順で、実施例2~6、比較例1~4の主剤、硬化剤組成物を作製した。
尚、HP-820は、DIC社のアルキルフェノール型エポキシ化合物である。
各組成物を硬化させる場合、表1、表2の合計に示した割合にて主剤、硬化剤を秤取り、泡が入らないようにスパーテル等で攪拌し、23℃/50%RHにて1週間静置すれば硬化物を得ることができる。
【0024】
せん断試験
プラスチック材料としてABSを選定し、100mm×25mm×1mm厚のABS板を準備した。
100mm×25mm×1mm厚ABS板2枚のうち1枚に前述の実施例1~6、比較例1~4の組成物を塗布し、もう一枚のABS板を重ね合わせ接触面積が12.5mm×25mm×100μm厚に成るように貼り合わせた。クリップ2個を使い圧締し、23℃/50%RHにて1週間保管した。クリップを取り外し、せん断験片を得た。
この試験片を一軸試験機である島津製作所社製、オートグラフAG-X plusを用い、2mm/分にてせん断強度を測定した。n=5平均である。
判定基準としては、接着強度が1MPa以上、且つ破壊モードが凝集破壊(:CF)であれば合格、接着強度が1MPa未満、または破壊モードが界面破壊(:AF)の場合は不合格とした。
【0025】
皮膜物性
実施例1~6、比較例1~4の組成物をシリコーン離型紙に約150mm×150mm×2mm厚と成る様に塗布し、23℃/50%RH環境にて1週間静置し、皮膜物性評価用の硬化物を得た。この硬化物を、JIS K6251、No.3号ダンベル型で打ち抜き、試験片を作製した。この試験片を、オートグラフAG-X plusを用いて皮膜物性を測定した。引張速度は100mm/分で、n=5平均である。
判定基準としては、最大強度が1.5MPa以上、且つ伸び率が50%以上を合格、最大強度が1.5MPa未満、または伸び率が50%未満を不合格とした。
【0026】
変成シリコーン(A)、NBR変性エポキシ樹脂(B)、硬化剤(C)、硬化触媒(D)からなる組成物である実施例1~6は、接着強度、皮膜物性共に合格となった。
【0027】
NBR変性エポキシ樹脂(B)の代わりに、ビスフェノール系ジグリシジレートである828を用いた比較例1、NBR変性エポキシ樹脂(B)の代わりに、アルキルフェノール型エポキシ化合物であるHP-820を用いた比較例2は、せん断試験が不合格となった。
変成シリコーン(A)を添加していない比較例3、比較例4は、皮膜物性が不合格となった。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
【表3】
【0031】
【表4】