(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127634
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/22 20060101AFI20230907BHJP
C08G 59/68 20060101ALI20230907BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20230907BHJP
C09J 7/40 20180101ALI20230907BHJP
【FI】
C08G59/22
C08G59/68
C09K3/00 104Z
C09J7/40
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031434
(22)【出願日】2022-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000100698
【氏名又は名称】アイカ工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】木村 匡志
(72)【発明者】
【氏名】坂本 賢太郎
【テーマコード(参考)】
4J004
4J036
【Fターム(参考)】
4J004DA04
4J004DB02
4J036AA05
4J036AJ09
4J036AJ21
4J036AK17
4J036GA01
4J036GA06
4J036GA24
4J036GA26
4J036HA02
4J036JA15
(57)【要約】
【課題】
低粘度で、良好な薄膜塗工性と実用に耐え得る皮膜強度を両立した紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物を得ることである。
【解決手段】
25℃における粘度が10~1,000mPa・sであり一分子中に少なくとも2個のカチオン重合性基を有するオルガノポリシロキサン(A)を40~95質量部、一般式(1)で表される化合物(B)を5~60質量部、光カチオン重合開始剤(C)を0.5~10質量部含み、25℃における粘度が10~100mPa・sである紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
25℃における粘度が10~1,000mPa・sであり一分子中に少なくとも2個のカチオン重合性基を有するオルガノポリシロキサン(A)を40~95質量部、
下記一般式(1)で表される化合物(B)を5~60質量部、
・・・(1)
(R
1はカチオン重合性基を含有する非置換もしくは置換の炭素原子数1~10の1価炭化水素基であり、
R
2は独立にカチオン重合性基を含有しない非置換もしくは置換の炭素原子数1~10の1価炭化水素基であり、nは0~3の整数である。)
光カチオン重合開始剤(C)を0.5~10質量部含み、
25℃における粘度が10~100mPa・sである紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物。
【請求項2】
25℃における粘度が10~1,000mPa・sであり一分子中に少なくとも2個のカチオン重合性基を有するオルガノポリシロキサン(A)のカチオン性重合基がエポキシ基、
一般式(1)で表される化合物(B)が、下記一般式(2)で表される化合物である請求項1に記載の紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物。
・・・(2)
(X
1、X
2はいずれも炭素数1~5であらわされるアルキレン基である。)
【請求項3】
25℃における粘度が10~1,000mPa・sであり一分子中に少なくとも2個のカチオン重合性基を有するオルガノポリシロキサン(A)のカチオン性重合基が脂環式エポキシ基、
一般式(2)で表される化合物のX1、X2がエチレン基であり、
光カチオン重合開始剤(C)が、ビス-[4-アルキルフェニル]ヨードニウムヨードニウム塩化合物である請求項2に記載の紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物。
【請求項4】
ケイ素原子を含有しないエポキシ化合物を含有しないことを特徴とする請求項1~3いずれかに記載の紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物。
【請求項5】
請求項1~4いずれかに記載の紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物を用いて作製されたセパレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
低粘度で、良好な薄膜塗工性と実用に耐え得る皮膜強度を両立した紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線硬化性組成物は、紫外線を照射した時にラジカルを発生させる開始剤を添加し、そのラジカルを活性種として反応が進行していくタイプと、紫外線を照射した時にカチオン種を発生させる開始剤を添加し、そのカチオン種を活性種として反応が進行していくタイプに大別できる。前者は、(メタ)アクリル基、ビニル基等を有する化合物を重合させることができ、後者はエポキシ基、オキセタニル基、ビニルエーテル基を有する化合物を重合させることができる。
前者は、酸素阻害の影響を受け、表面が硬化せずに、表面タックが残りやすいこと、後者は酸素阻害の影響は受けず、表面が完全硬化し表面タックレスであることは広く知られている。
紫外線硬化型シリコーン組成物としては、この両方で反応が進行する組成物が市販されている。特許文献1は後者で、エポキシ基を含有するシリコーンを重合させている公報である。良好な薄膜塗工性を得るには改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭56-38350号
【特許文献2】特開2010-215847号
【特許文献3】国際公開WO2018/079337号
【特許文献4】特開2018-188618号
【0004】
特許文献2は、基材としてプラスチックフィルムを使用した場合においても、基材に対して優れた溶剤摩擦耐性を有し、任意の剥離性能に調整可能な剥離剤組成物に関する公報である。特許文献2も特許文献1同様、良好な薄膜塗工性を得るには改善の余地があった。
特許文献3は良好な剥離性を有する新規の剥離シートを提供することを目的とする公報であるが、皮膜強度には改善の余地があった。
【0005】
特許文献4は、透明性と吸湿性とを兼ね備える有機EL発光装置用の封止材を作製できる紫外線硬化性組成物、この紫外線硬化性組成物を用いる有機EL発光装置の製造方法、及び有機EL発光装置に関する公報である。剥離剤としての検討は行われていなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
低粘度で、良好な薄膜塗工性と実用に耐え得る皮膜強度を両立した紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
25℃における粘度が10~1,000mPa・sであり一分子中に少なくとも2個のカチオン重合性基を有するオルガノポリシロキサン(A)を40~95質量部、一般式(1)で表される化合物(B)を5~60質量部、光カチオン重合開始剤(C)を0.5~10質量部含み、25℃における粘度が10~100mPa・sである紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物である。
【発明の効果】
【0008】
低粘度による良好な薄膜塗工性と実用に耐え得る皮膜強度を両立したカチオン硬化型シリコーン系離型剤組成物、およびこれを用いた剥離紙、セパレータフィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本願の発明に係る、低粘度で、良好な薄膜塗工性と実用に耐え得る皮膜強度を両立した紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物を具体的に説明する。
【0010】
<25℃における粘度が10~1,000mPa・sであり一分子中に少なくとも2個のカチオン重合性基を有するオルガノポリシロキサン(A)>
25℃における粘度が10~1,000mPa・sであり一分子中に少なくとも2個のカチオン重合性基を有するオルガノポリシロキサン(A)は、カチオン重合性基を有するシリコーン化合物である。カチオン重合性基としては、エポキシ基、オキセタニル基、ビニルエーテル基等を挙げることができる。より好適なカチオン重合性基は、エポキシ基である。エポキシ基としては、グリシジル基、または3,4-エポキシシクロヘキシル基などのエポキシシクロヘキシル基、3,4-エポキシ-4-メチルシクロヘキシル基などのエポキシメチルシクロヘキシル基等の脂環式エポキシ基等を挙げることができる。
【0011】
反応性の観点からは、脂環式エポキシ基を有するものが好適である。粘度は10~1,000mPa・sである方が好ましい。粘度が10mPa・sを下回った場合、基材上でハジキを生じる可能性がある。1,000mPa・sを上回った場合、組成物の粘度が高すぎて塗工性が低下する。直鎖構造を主とするカチオン重合性基を有するオイル状のシリコーン化合物が好適である。粘度範囲を満たせば、架橋構造を有していても構わない。オルガノポリシロキサン(A)は、複数種を併用することもできる。
【0012】
25℃における粘度が10~1,000mPa・sであり一分子中に少なくとも2個のカチオン重合性基を有するオルガノポリシロキサン(A)の添加量は、25℃における粘度が10~1,000mPa・sであり一分子中に少なくとも2個のカチオン重合性基を有するオルガノポリシロキサン(A)と一般式(1)で表される化合物(B)の合計100質量部に対して、40~95質量部、より好適には50~93質量部である。
【0013】
<一般式(1)で表される化合物(B)>
一般式(1)で表される化合物(B)のうち、R1はカチオン重合性基を含有する非置換もしくは置換の炭素原子数1~10の1価炭化水素基であり、R2は独立にカチオン重合性基を含有しない非置換もしくは置換の炭素原子数1~10の1価炭化水素基であり、nは0~3の整数である。
R1はカチオン重合時における反応性の観点からビニルエーテル基、オキセタニル基よりもエポキシ基が好適で、エポキシ基の中でも脂環式エポキシ基がより好適である。また、R2は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソプロピル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、シクロヘキシル基、フェニル基、トリル基などや水素原子の一部または全部をヒドロキシ基、アノ基、ハロゲン原子などで置換した基などが挙げられるが、メチル基あるいはフェニル基がより好適である。
一般式(1)で表される化合物(B)は、組成物を低粘度化し、かつ皮膜強度を向上させる成分である。一般式(1)で表される化合物(B)添加量は、25℃における粘度が10~1,000mPa・sであり一分子中に少なくとも2個のカチオン重合性基を有するオルガノポリシロキサン(A)と一般式(1)で表される化合物(B)の合計100質量部に対して、5~60質量部、より好適には7~55質量部である。添加量が5質量部を下回ると組成物の十分低粘度化効果が得られず、硬化物も十分な皮膜強度とを得ることができない。60質量部を上回ると、硬化物の剥離強度が低下し剥離剤としての性能が低下してしまう。
【0014】
一般式(1)で表される化合物(B)の中でも、より好適な材料としては、一般式(2)で表される化合物が挙げられる。尚X1、X2は、いずれも炭素数1~5であらわされるアルキレン基である。
【0015】
<光カチオン重合開始剤(C)>
光カチオン重合開始剤(C)は、組成物を硬化させるための光開始剤である。紫外線照射によりカチオン種を発生できるオニウム塩系光開始剤が好適である。組成物への相溶性、硬化性から、カチオンとしてジビス[4-アルキルフェニル]ヨードニウム構造を持ち、アニオンとしてSbF6-、PF6-、BF4-、B(C6F5)4-といった構造を持つものが好適である。光カチオン重合開始剤(C)の添加量としては、25℃における粘度が10~1,000mPa・sであり一分子中に少なくとも2個のカチオン重合性基を有するオルガノポリシロキサン(A)と一般式(1)で表される化合物(B)の合計100質量部に対して、0.1~10質量部、より好適には0.5~5質量部である。0.1質量部より少ないと硬化が不十分、10質量部より多いと硬化皮膜の表面状態に悪影響が生じて、剥離特性が悪くなる。
【0016】
本願の紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物の25℃における適正粘度は、10~100mPa・sであり、より好適には20~90mPa・sである。100mPa・sを上回ると、良好な薄膜塗工性が得られず、10mPa・sを下回ると、硬化性が低下する。
【0017】
本願の紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物は、プラスチックフィルム等に塗布され、紫外線を照射し硬化させて、セパレータフィルムとして用いられる場合がある。
基材と成るプラスチックフィルムの材質としては、汎用品ではポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル類、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、用途によってはポリエチレンナフタレート、液晶ポリマー、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド等が用いられる場合もある。
これらプラスチックフィルムと、紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物の密着性を向上させるために、プライマー処理、コロナ処理、エッチング処理、プラズマ処理などがされたプラスチックフィルムなどのシート状基材を用いてもよい。
【0018】
基材のプラスチックフィルムに対する紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物の塗布方法としては、ロール塗布、グラビア塗布、ワイヤードクター塗布、エアーナイフ塗布、ディッピング塗布などの公知の方法を用いることができる。塗布量としては 0.01~100 g/m2、より好適には0.05~50g/m2である。
紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物を塗布したプラスチックフィルムに、紫外線を照射すると、容易に硬化させることができる。紫外線の光源としては、高圧水銀ランプ、中圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、水銀アーク灯などを用いることができる。
【実施例0019】
次に、本願の紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物について、実施例及び比較例により詳細に説明する。
【0020】
<粘度測定>
実施例、比較例で用いるシリコーン材料、および実施例1~4、比較例1~5の紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物の23℃における粘度を、B形粘度計(東機産業TVB-25M)にて測定した。
紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物の判定基準としては、粘度が10~100mPa・sの範囲であれば合格、それ以外は不合格とした。結果を表3、表4に示す。
【0021】
<セパレータフィルムの作製>
紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物をPETフィルム(東レ社製、製品名:ルミラー75U483)に 約0.5g/m2となるように塗布し、高圧水銀灯を用い80mJ/cm2の照射量の紫外線を照射し、セパレータフィルムを作製した。
【0022】
<剥離力>
セパレータフィルムの作製にて作製したセパレータフィルムの紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物硬化物面に、粘着テープ(商品名ニットー31Bテープ日東電工製)を貼り付け2kgロールで一往復圧着した。粘着テープの剥離力は、室温23℃、湿度50%の条件において、粘着テープを180度の方向に0.3m/minの速度で引き剥がして求めた。判定基準としては、10~200mN/25mmが合格である。結果を表3、表4に示す。
【0023】
<皮膜強度>
セパレータフィルムの作製にて作製したセパレータフィルムの紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物硬化物面を、指で10回擦り、曇り(スミア)および剥離剤層の脱落(ラブオフ)の有無を目視にて確認した。そして、以下の判断基準により、剥離剤層の皮膜強度を評価した。
判定基準としては、スミアおよびラブオフの両方とも確認されなかった場合は合格(:〇)、スミアおよびラブオフの少なくとも一方が確認された場合は不合格(:×)とした。結果を表3、表4に示す。
【0024】
<実施例1の紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物の作製>
EpMe
2SiO
1/2単位、Me
2SiO
2/2単位からなり25℃で47mPa・sの粘度を示すオイル状のポリシロキサン(a-1)を90g、下記式(4)で示される化合物(b-1)を10g、均一になるまで攪拌した。その混合液に光カチオン重合開始剤(C)として、炭酸プロピレンに50質量%溶解させたビス-[4-nアルキル(C10~C13)フェニル]ヨードニウムテトラキスペンタフルオロフェニルホウ酸溶液2gを均一になるまで攪拌混合し、実施例1の紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物を得た。
尚、Epは下記式(3)の構造であり、Meはメチル基を表す。
・・・(3)
・・・(4)
【0025】
<実施例2、3、比較例1、3の紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物の作製>
実施例1における(a-1)、(b-1)を表1、表2に示す添加量に変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2、3、比較例1、2、3の紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物を作製した。
【0026】
<実施例4、比較例2の紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物の作製>
実施例1における(a-1)成分をMe3SiO1/2単位、EpMeSiO2/2単位、Me2SiO2/2単位からなり25℃で100mPa・sの粘度を示すオイル状のポリシロキサン(a-2)に変更し、表1に記載した添加量としたこと以外は同様にして実施例4、比較例2の紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物を作製した。
【0027】
<比較例4の紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物の作製>
実施例1における(b-1)成分を、ケイ素原子を含有しないエポキシ化合物である下記式(5)の成分(b-2)に変更し、表1に記載した添加量としたこと以外は同様にして比較例4の紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物を作製した。尚、比較例4の組成物は相溶せずに2層に分離したので、粘度測定、剥離力、皮膜強度の評価は行っていない。
・・・(5)
【0028】
<比較例5の紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物の作製>
実施例1における(b-1)成分を、ケイ素原子を含有しないエポキシ化合物である式(6)の成分(b-3)に変更し、表1に記載した添加量としたこと以外は同様にして比較例5の紫外線硬化型シリコーン剥離剤組成物を作製した。
・・・(6)
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】