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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127637
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】打球部及びこれを用いたバット
(51)【国際特許分類】
   A63B 59/50 20150101AFI20230907BHJP
   A63B 102/18 20150101ALN20230907BHJP
【FI】
A63B59/50
A63B102:18
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031438
(22)【出願日】2022-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110629
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100166615
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 大輔
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 秀雅
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 千紘
(72)【発明者】
【氏名】神谷 裕仁
(72)【発明者】
【氏名】金澤 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】村上 謙二
(72)【発明者】
【氏名】吉塚 泰丈
(57)【要約】
【課題】打球部でのエネルギー損失を低減し、反発力を向上することが可能な打球部を提供する。
【解決手段】打球部5は、径方向の一側に偏心して配置された芯材7と、この芯材7に支持された径方向の一側部19及び芯材7に空間部23をもって径方向で対向する径方向の他側部21を有し、相対的に弾性ヒステリシスが小さい第1弾性体15と、第1弾性体15の他側部21の径方向の外側を覆って打球面5aを形成し、相対的に弾性ヒステリシスが大きい第2弾性体17とを備える。
【選択図】 図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
球技用のバットの打球部であって、
径方向の一側に偏心して配置された芯材と、
該芯材に支持された前記径方向の一側部及び前記芯材に空間部をもって前記径方向で対向する前記径方向の他側部を有し相対的に弾性ヒステリシスが小さい第1弾性体と、
前記第1弾性体の前記他側部の前記径方向の外側を覆って打球面を形成し、相対的に前記弾性ヒステリシスが大きい第2弾性体と、
を備えた打球部。
【請求項2】
請求項1の打球部であって、
前記第2弾性体は、前記第1弾性体及び前記芯材を内包する筒状である、
打球部。
【請求項3】
請求項2の打球部であって、
前記第2弾性体は、前記径方向の一側で前記芯材に結合されている、
打球部。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項の打球部であって、
前記第1弾性体は、前記芯材に並設された環状であり、周方向の一部が前記一側部を構成する、
打球部。
【請求項5】
請求項1~3の何れか一項の打球部であって、
前記第1弾性体は、軸方向に沿って設けられ、前記軸方向の一側が前記芯材に結合された片持ち状の板材であり、前記軸方向の一側が前記一側部を構成し前記軸方向の他側が前記他側部を構成する、
打球部。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項の打球部を有するバット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性体を有する打球部及びこれを用いた球技用のバットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のバットとしては、例えば、特許文献1に記載のものがある。このバットは、芯材である円柱状のベース部材と、ベース部材の打球部となるべき部分に一体化された円筒状の弾性体とを備えている。
【0003】
この従来のバットでは、打球時に弾性体が変形することでボールの変形を抑制すると共に、弾性体が復元するときにボールに反発力を付与することによって打球の飛距離を向上することができる。
【0004】
しかし、従来のバットは、弾性体が発泡ポリウレタン等の粘弾性体であるため、弾性体でのエネルギー損失が大きくなり、反発力の発生に限界が生じていた。結果として、従来のバットでは、打球の飛距離の向上に限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-19236号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする問題点は、打球部でのエネルギー損失が大きくなり、反発力の発生に限界が生じていた点である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、球技用のバットの打球部であって、径方向の一側に偏心して配置された芯材と、該芯材に支持された前記径方向の一側部及び前記芯材に空間部をもって前記径方向で対向する前記径方向の他側部を有し相対的に弾性ヒステリシスが小さい第1弾性体と、前記第1弾性体の前記他側部の前記径方向の外側を覆って打球面を形成し、相対的に前記弾性ヒステリシスが大きい第2弾性体と、を備えた打球部を提供する。
【0008】
また、本発明は、上記打球部を備えたバットを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、相対的に弾性ヒステリシスの小さい第1弾性体及び相対的に弾性ヒステリシスの大きい第2弾性体を組み合わせることで、打球部全体のエネルギー損失を低減して反発力を向上することができる。
【0010】
しかも、本発明では、芯材を偏心させて大きく確保した空間部によって第1弾性体の変形ストロークを増加させ、これによって弾性エネルギーを増加させて反発力をさらに向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の実施例1に係るバットを示す斜視図である。
図2図2は、図1のバットを示す縦断面図である。
図3図3は、図2のIII-III線に係るバットの打球部を示す横断面図である。
図4図4は、図2のバットの芯材の一部を示す斜視図である。
図5図5(A)及び(B)は、打球時のバットとボールとの関係を示す横断面図であり、図5(A)は実施例、図5(B)は比較例である。
図6図6は、実施例1の変形例に係るバットの打球部を示す横断面図である。
図7図6は、実施例1の他の変形例に係るバットの打球部を示す横断面図である。
図8図8は、本発明の実施例2に係るバットを示す横断面図である。
図9図9は、図8のバットの芯材の一部を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
打球部でのエネルギー損失を低減し、発生する反発力を向上するという目的を、相対的に弾性ヒステリシスの小さい第1弾性体及び相対的に弾性ヒステリシスの大きい第2弾性体を組み合わせた打球部において芯材を偏心させることにより実現した。
【0013】
図1図9のように、本発明の球技用のバット1の打球部5は、芯材7と、第1弾性体15と、第2弾性体17とを備える。
【0014】
芯材7は、径方向の一側に偏心して配置されている。第1弾性体15は、芯材7に支持された径方向の一側部19及び芯材7に空間部23をもって径方向で対向する径方向の他側部21を有し、相対的に弾性ヒステリシスが小さい。第2弾性体17は、第1弾性体15の他側部21の径方向の外側を覆って打球面5aを形成し、相対的に弾性ヒステリシスが大きい。
【0015】
第2弾性体17は、打球面5aを構成できれば形状は問わないが、第1弾性体15及び芯材7を内包する筒状であってもよい。
【0016】
また、第2弾性体17は、径方向の一側で芯材7に結合されていてもよい。
【0017】
第1弾性体15は、径方向の一側部19及び他側部21を有すれば形状は任意であるが、芯材7に並設された環状としてもよい。この場合、第1弾性体15の周方向の一部が一側部19を構成してもよい。
【0018】
第1弾性体15は、上記並設に代えて、軸方向に沿って設けられ、軸方向の一側が芯材7に結合された片持ち状の板材であってもよい。この場合、第1弾性体15の軸方向の一側が一側部19を構成し、第1弾性体15の軸方向の他側が他側部21を構成する。
【実施例0019】
[バットの構造]
図1は、本発明の実施例1に係るバットを示す斜視図である。図2は、図1のバットを示す縦断面図である。図3は、図2のIII-III線に係るバットの打球部を示す横断面図である。図4は、図2のバットの芯材の一部を示す斜視図である。
【0020】
本実施例のバット1は、野球やソフトボール等の球技に用いられるものであり、グリップ部3と、打球部5とを備えている。
【0021】
グリップ部3は、打者が把持する部分であり、芯材7の一部からなっている。
【0022】
芯材7は、中空棒状体である。この芯材7は、横断面形状が円形で肉厚が一定に構成されている。ただし、芯材7の肉厚は、部分的に薄く或いは厚くすることも可能である。また、芯材7の横断面形状は、先端側から基端側にかけて一定であるが、部分的に径を変更する等によって異なる形状とすることも可能である。さらに、芯材7の横断面形状は、円形に限られず、楕円等の他の形状を採用することが可能であり、中実にしてもよい。
【0023】
芯材7の材質は、繊維強化プラスチック(FRP)、本実施例において炭素繊維強化プラスチック(CFRP)が用いられている。ただし、芯材7の材質は、FRPに限定されるものではなく、金属や木等を用いることが可能である。
【0024】
芯材7は、軸方向の基端側から先端側にかけて、グリップ部3、打球部領域9、及びヘッド部11を一体に備えている。ただし、グリップ部3、打球部領域9、及びヘッド部11の何れか一つ、二つ、或いは全てを別体の部材として構成し、それら別体の部材を相互に一体的に結合して芯材7としても良い。なお、軸方向は、バット1の軸心に沿った方向であり、軸心に対してやや斜めの方向も含む。
【0025】
グリップ部3は、打者が把持する円筒状部分である。本実施例のグリップ部3は、芯材7の形状に応じて横断面形状が円形の中空棒状に形成されている。このグリップ部3には、グリップテープ3aが巻かれている。グリップ部3の基端には、径方向に張り出したグリップエンド3bが設けられている。このグリップ部3の先端には、打球部領域9が一体に設けられている。なお、径方向は、バット1の径に沿った方向であるが、径に対してやや斜めの方向も含む。
【0026】
打球部領域9は、弾性部材13と共に打球部5を構成する芯材7の一部であり、横断面形状が円形の中空棒状に形成されている。なお、打球部領域9の横断面形状は、円形に限られず、他の形状とすることも可能である。例えば、打球部領域9の横断面形状は、径方向の一側と他側とで非対称となる形状や楕円形状等としてもよい。
【0027】
この打球部領域9は、径方向の一側に偏心して配置されている。すなわち、打球部領域9(芯材7)の中心O2は、打球部5の中心O1に対して径方向に偏倚した位置に配置されている。
【0028】
打球部領域9の偏心は、基端側から先端側に向けて漸次行われ、打球部5の外径がほぼ一定となっている部分で偏心量も一定となる。この一定となる偏心量は、後述する第1弾性体15の他側部21の変形量に応じて設定される。なお、打球部領域9の偏心は、クランク状に行ってもよい。
【0029】
打球部領域9の先端には、ヘッド部11が一体に設けられている。ヘッド部11は、円板状に形成されている。ヘッド部11は、打球部領域9に対して径方向に膨出している。ヘッド部11の外径は、打球部5の外径Rとほぼ一致している。
【0030】
打球部5は、芯材7の打球部領域9に弾性部材13が取り付けられて構成されている。弾性部材13は、打球時の変形によりボールBの変形を抑えると共にボールBに反発力を加えることが可能となっている。なお、ボールBは、軟式ボールである。本実施例の弾性部材13は、第1弾性体15と、第2弾性体17とを備えている。
【0031】
第1弾性体15は、相対的に弾性ヒステリシスが小さい部材であり、打球時に弾性変形してエネルギー損失の少ない反発力を生じさせるものである。
【0032】
弾性ヒステリシスは、応力-ひずみ関係の弾性範囲内において、負荷と除荷のサイクルでループを描き、エネルギー損失を生じることをいい、エネルギー損失を意味する。この弾性ヒステリシスは、第1弾性体15の材質や形状等によって適宜設定することができる。
【0033】
第1弾性体15の材質は、本実施例において、芯材7と同一の材質のCFRPとなっている。ただし、第1弾性体15は、芯材7とは異なる材質によって形成することも可能である。
【0034】
この第1弾性体15は、打球部領域9に並設された環状に形成されている。本実施例の第1弾性体15は、軸方向において、少なくとも打球部5の衝撃中心、いわゆるスイートスポットを含む領域に設けるのが好ましい。本実施例では、第1弾性体1が軸方向でスイートスポットの前後にわたる筒型に形成されている。
【0035】
第1弾性体15の横断面形状は、本実施例においてC型のチャンネル形状を有する円弧状に形成されている。第1弾性体15の円弧状は、芯材7の打球部領域9よりも大きい外径を有し、一定の肉厚を有する。第1弾性体15の中心O3は、打球部5の中心O1及び打球部領域9の中心O2に対して径方向にずれている。
【0036】
ただし、第1弾性体15の中心O3は、打球部5の中心O1と一致していてもよい。また、第1弾性体15の肉厚は、周方向及び軸方向の一方又は双方において変化させてもよい。
【0037】
第1弾性体15の径方向の一側部19は、C型のチャンネル形状の不連続な端部であり、芯材7の打球部領域9に一体に結合されている。これにより、第1弾性体15が閉じた環状を呈している。結果として、第1弾性体15は、径方向の一側部19が芯材7の打球部領域9に支持され、径方向の他側部21が芯材7の打球部領域9に空間部23をもって径方向で対向する。
【0038】
なお、一側部19は、第1弾性体15において径方向の一側に位置する部分であり、他側部21は、第1弾性体15において径方向の他側に位置する部分である。本実施例のように第1弾性体15が環状の場合、一側部19は、周方向の一部によって構成され、他側部21は、径方向での一側部19の反対側に位置する周方向の一部によって構成される。
【0039】
一側部19の芯材7に対する支持は、一側部19が径方向で芯材7で受けられ、第1弾性体15の径方向の移動を抑制できればよい。このため、一側部19は、芯材7に対して一体でなくてもよく、例えば芯材7に対して別体に形成して結合し或いは結合せずに当接させることも可能である。
【0040】
また、本実施例の芯材7における一側部19の支持位置(結合位置)は、打球部領域9の径方向の中心O2からやや一側に偏倚した位置である。ただし、この結合位置は、第1弾性体15の弾性や空間部23の大きさ等に応じて適宜変更可能である。
【0041】
第1弾性体15の他側部21は、芯材7の打球部領域9と径方向で対向する範囲の円弧状の部分の一部又は全部である。この他側部21は、第1弾性体15の弾性変形により、空間部23の範囲で芯材7側へ径方向で変位可能となっている。
【0042】
本実施例では、芯材7の打球部領域9の偏心により、空間部23を大きく確保することができるため、第1弾性体15の他側部21が芯材7に至るまでの変形量を大きくすることができる。つまり、芯材7の偏心量に応じて第1弾性体15を柔軟にでき、第1弾性体15を積極的に弾性変形させることが可能となる。
【0043】
また、本実施例では、軸方向に沿って芯材7に並設された環状であり、周方向の一部が一側部19を構成するため、空間部23を確保し易く、また第1弾性体15の一側部19を芯材7に容易に支持することができる。
【0044】
第2弾性体17は、第1弾性体15の他側部21の径方向の外側を覆って打球面5aを形成し、相対的に弾性ヒステリシスが大きい部材である。この第2弾性体17は、打球時の圧縮変形及び湾曲によってボールBの変形を抑制する。なお、打球面5aは、打球部5において、打球が意図された面をいう。第2弾性体17の弾性ヒステリシスは、第2弾性体17の材質や形状等によって適宜設定することができる。
【0045】
本実施例の第2弾性体17は、第1弾性体15及び芯材7の打球部領域9を内包する筒状となっている。これにより、第2弾性体17は、打球部5の全周に設けられ、打球部5の全周において打球面5aを形成する。従って、本実施例では、打球部5の全周でボールBを打つことが可能となる。
【0046】
ただし、第2弾性体17は、打球部5周方向の一部に設けた円弧状の板等としてもよい。この場合、少なくとも第1弾性体15の他側部21上に位置して打球面5aを構成する。
【0047】
第2弾性体17の外径は、軸方向の基端側から先端側に向けて漸次大きくなっており、先端側でほぼ一定となる。この第2弾性体17の軸方向の先端は、芯材7のヘッド部11に軸方向で突き当てられ、同基端は、カラー25によって軸方向で抜け止めがなされている。この状態で、第2弾性体17の内周面が、接着剤等の適宜の固着手段によって第1弾性体15及び芯材7に固着されている。
【0048】
この固着により、第2弾性体17は、径方向の一側で芯材7に結合されている。第2弾性体17の芯材7への結合は、芯材7が偏心していることにより確実に行わせることができる。このように径方向の一側で芯材7に結合されていることで、第2弾性体17は、ボールBが径方向の他側に衝突した際に、確実に圧縮変形及び湾曲してボールBの変形を抑制することができる。
【0049】
本実施例の第2弾性体17は、周方向で肉厚がほぼ均一な円筒形断面を有している。ただし、第2弾性体17は、周方向で肉厚を変更してもよい。肉厚とは、第2弾性体17の内外周間の径方向の寸法を意味する。
【0050】
第2弾性体17の材質は、発砲ポリウレタン樹脂等の粘弾性体である。ただし、第2弾性体17の材質は、ボールBに対する変形を抑制可能なものであればよく、ボールB等との関係で適宜設定すればよい。
【0051】
かかる第2弾性体17の表面は、表皮材27によって被覆されている。表皮材27は、ボールBとの衝突に対する耐久性を向上する。本実施例の表皮材27は、ポリウレタンフィルム等の熱可塑性樹脂等からなる円筒膜状に形成されている。なお、表皮材27は省略することも可能である。
【0052】
[バットの作用]
図5(A)及び(B)は、打球時のバットとボールとの関係を示す横断面図であり、図5(A)は本実施例、図5(B)は比較例である。
【0053】
なお、図5(B)の比較例は、第2弾性体17内に円環状の第1弾性体15を埋設し、芯材7、第1弾性体15、及び第2弾性体17を同心状に配置したものである。
【0054】
本実施例では、打球部5とボールBとの衝突時、ボールBの運動エネルギーの一部が打球部5の変形エネルギーに変換される。このときの変形エネルギーは、粘性減衰の大きい第2弾性体17の変形エネルギーと減衰の少ない第1弾性体15の変形エネルギーの合計である。
【0055】
ボールBの運動エネルギーの変形エネルギーへの変換が進むにつれてボールBが減速され、打球部5の第1弾性体15及び第2弾性体17に蓄積された変形エネルギーは、ボールBの停止に伴い、再びボールBの運動エネルギーに変換される。
【0056】
具体的には、図5(A)のようにボールBが打球部5に径方向の他側で衝突すると、当初、第2弾性体17の衝突箇所である径方向の他側がボールBによって押圧されて主に圧縮変形する。この圧縮変形により、ボールBの打球部5への衝突時の変形が抑制される。
【0057】
このとき、第2弾性体17は、径方向の一側で芯材7に結合されて受けられるため、ボールBの衝突に応じて径方向の他側で確実に圧縮変形することができる。
【0058】
第2弾性体17がボールBと第1弾性体15との間で圧縮されると、その圧縮部分を介してボールBの押圧力が第1弾性体15の他側部21に伝達される。この押圧力により、第1弾性体15が弾性変形し、他側部21が空間部23を狭くするように径方向の一側へ変位する。
【0059】
このとき、芯材7の打球部領域9の偏心により、空間部23が大きく確保されているため、第1弾性体15の他側部21が芯材7に至るまでの弾性変形量を大きくすることができる。その分、第2弾性体17の圧縮変形量を減らすことができる。
【0060】
従って、本実施例では、第2弾性体17の圧縮変形による粘性減衰が抑制され、打球部5に蓄積された変形エネルギーをボールBの運動エネルギーへ変換する際のエネルギーロスを少なくすることができる。このため、本実施例のバット1は、打球部5の反発特性値がよく、ボールBの飛距離を向上することができる。
【0061】
また、本実施例のバット1では、打球部5の径方向の一側を用いることにより、第2弾性体17のみを変形させて、径方向の他側とは異なる打球を得ることができる。
【0062】
比較例では、ボールBが打球部5に径方向の他側で衝突すると、実施例と同様に、当初、第2弾性体17の衝突箇所である径方向の他側がボールBによって押圧されて圧縮変形する。
【0063】
第2弾性体17がボールBと第1弾性体15との間で圧縮されると、その圧縮部分を介してボールBの押圧力が第1弾性体15の他側部21に伝達される。このとき、比較例では、第1弾性体15が、径方向の他側に全体として移動し、ほとんど弾性変形しない。結果として、ボールBが変形するか或いは第2弾性体17の圧縮量が増加する。
【0064】
従って、比較例では、ボールBの変形又は第2弾性体17の圧縮変形による粘性減衰が増加し、打球部5に変形エネルギーを蓄積してボールBの運動エネルギーへ変換する際のエネルギーロスが多くなる。
【0065】
[変形例]
図6は、変形例に係るバット1の打球部5を示す横断面図である。
【0066】
図6の変形例では、第1弾性体15の横断面形状を円環状にし、一側部19の内面に芯材7を結合している。
【0067】
図7は、他の変形例に係るバット1の打球部5を示す横断面図である。
【0068】
図7の変形例では、第1弾性体15の横断面形状を半円環状にし、一側部19の外面に芯材7を結合している。なお、第1弾性体15は、円環状としてもよい。この変形例では、第1弾性体15の他側部21が一側部19を介して空間部23をもって芯材7の打球部領域9に対向している。
【0069】
このように、他側部21は、空間部23をもって芯材7に対向していればよく、対向の形態は、介在する部材のない直接的な対向、介在する部材のある間接的な対向かは問わない。
【0070】
これら図6及び図7の変形例においても、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【実施例0071】
図8は、本発明の実施例2に係るバットを示す横断面図である。図9は、図8のバットの芯材の一部を示す斜視図である。なお、実施例2は、基本構成が実施例1と共通するため、対応する構成に同符号を付して重複した説明を省略する。
【0072】
実施例2は、第1弾性体15を片持ち状の板材によって構成している。また、本実施例では、カラー25が芯材7に一体に設けられている。その他は、実施例1と同一である。なお、カラー25は、実施例1と同様に芯材7とは別体に構成してもよい。
【0073】
第1弾性体15は、軸方向に沿って設けられ、軸方向の一側が芯材7に結合されている。この第1弾性体15の軸方向の一側は、径方向の一側部19を構成し、軸方向の他側は、径方向の他側部21を構成する。なお、第1弾性体15の軸方向の一側は、バット1の基端側であるが、先端側としてもよい。この場合、第1弾性体15の軸方向の他側は、バット1の基端側とする。
【0074】
本実施例の一側部19は、カラー25に一体に結合され、先端側に向けて漸次径方向の外側に遷移する傾斜した板部である。なお、一側部19は、芯材7に沿って設けることも可能である。
【0075】
他側部21は、全体として芯材7に沿って設けられた板部である。この他側部21は、横断面において、第2弾性体17の内周面に沿って湾曲した弧状に形成されている。なお、他側部21は、平板、ウェーブ状の板、又は複数の棒状体や線状体の集合等としてもよい。
【0076】
本実施例では、打球部5とボールBとの衝突時に、第2弾性体17が径方向他側で圧縮されると、第1弾性体15が一側部19を支点として弾性変形して芯材7の打球部領域9との間の空間部23を径方向で狭くするように他側部21を変位させることができる。
【0077】
これにより、本実施例でも、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 バット
5 打球部
5a 打球面
7 芯材
15 第1弾性体
17 第2弾性体
19 一側部
21 他側部
23 空間部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9