(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127642
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】積層体およびそれを用いた包装体
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20230907BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20230907BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
B32B9/00 A
C23C14/08 A
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031450
(22)【出願日】2022-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000222462
【氏名又は名称】東レフィルム加工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100186484
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 満
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 義和
(72)【発明者】
【氏名】室伏 義郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 誠
(72)【発明者】
【氏名】徳永 幸大
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
4K029
【Fターム(参考)】
3E086AA23
3E086AB01
3E086AD01
3E086BA04
3E086BA13
3E086BA15
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3E086BB05
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3E086CA31
4F100AA19B
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4K029DB10
4K029DB21
4K029EA01
4K029JA10
4K029KA03
(57)【要約】
【課題】ガスバリア性に優れた積層体およびそれを用いた包装体を提供する。
【解決手段】
基材フィルムの少なくとも一方の側にA層を有し、前記A層は少なくともアルミニウム(Al)と酸素(O)を含み、A層中の深さ方向において、長さ基準5.0~25.0%の箇所をX部、25.0~75.0%の箇所をY部、75.0~95.0%の箇所をそれぞれX部、Y部、Z部と規定したときに、Z部におけるアルミニウム(Al)と酸素(O)の平均組成比率(O/Al)Zと、Y部における平均組成比率(O/Al)Yが、下記(1)および(2)を満たす積層体。(1) (O/Al)Z≦2.0。(2) (O/Al)Y/(O/Al)Z≦1.2
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの少なくとも一方の側にA層を有し、前記A層は少なくともアルミニウム(Al)と酸素(O)を含み、A層中の深さ方向において、長さ基準5.0~25.0%の箇所をX部、25.0~75.0%の箇所をY部、75.0~95.0%の箇所をZ部として、それぞれX部、Y部、Z部と規定したときに、X線光電子分光法(XPS)で測定した際のZ部におけるアルミニウム(Al)と酸素(O)の平均組成比率(O/Al)Zと、Y部における平均組成比率(O/Al)Yが、下記(1)および(2)を満たす積層体。
(1) (O/Al)Z≦2.00
(2) (O/Al)Y/(O/Al)Z≦1.20
【請求項2】
前記A層中に、さらに水素を含み、前記X部、Y部、Z部それぞれにおける電子エネルギー損失分光(EELS)分析の酸素K端スペクトルの530eV付近のピーク強度をIX(530)、IY(530)、IZ(530)、A層中のX部、Y部、Z部それぞれにおけるEELS分析の酸素K端スペクトルの540eV付近のピーク強度をIX(540)、IY(540)、IZ(540)としたとき、IY(530)/IY(540)>IX(530)/IX(540)および/またはIY(530)/IY(540)>IZ(530)/IZ(540)である請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記A層中のX部およびZ部において、IX(530)/IX(540)≦0.15および/またはIZ(530)/IZ(540)≦0.25である請求項1または2のいずれかに記載の積層体。
【請求項4】
前記A層の厚みが15.0nm以下である請求項1~3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
前記A層は水素(H)を含み、前記A層の平均組成について、アルミニウム(Al)原子濃度:酸素(O)原子濃度:水素(H)原子濃度が15.0~40.0:40.0~55.0:10.0~35.0(atm%)である請求項1~4のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
前記A層上に、さらに保護層を有し、前記保護層は、水溶性樹脂および/または金属アルコキシドを含む硬化物をさらに含む、請求項1~5のいずれかに記載の積層体。
【請求項7】
前記保護層は、さらに直鎖状ポリシロキサンを含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれかに記載の積層体。
【請求項8】
真空蒸着法によりアルミニウムを蒸発させ、アルミニウム蒸気中に酸素を導入することで、基材の少なくとも片面に蒸着層を形成する請求項1~7に記載の積層体の製造方法。
【請求項9】
基材上流側および/または下流側より酸素を導入する請求項8に記載の積層体の製造方法。
【請求項10】
請求項1~7のいずれかに記載の積層体を含む包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性に優れた積層体およびそれを用いた包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食物、医薬品、日用品など様々なものを包装するために、各種包装材料が用いられてきたが、これらの包装材料には、内容物の劣化を防止するために酸素バリア性、水蒸気バリア性が必要とされる。優れたガスバリア性を有するアルミニウム箔は、レトルト食品用包装材料として用いられている。しかし、アルミニウム箔を用いた包装材料は、ピンホールが発生しやすいことからアルミニウム箔の取り扱いが難しく、用途が限定される。
【0003】
これらの問題を解決するため、ポリエステルフィルム等の基材に、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理気相成長法(PVD法)、あるいはプラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(CVD法)等により形成された酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の無機化合物層を形成したフィルムが使用されている。
【0004】
ガスバリア性を発現する方法として、酸化アルミニウムからなる無機化合物層の組成や、その層が接する基材との界面を制御する方法が開示されている(特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2003/009998号
【特許文献2】特開2017-177343号公報
【特許文献3】国際公開第2014/050951号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
いずれの特許文献も、金属化合物で構成される蒸着層の組成や化学状態を制御したものである。
【0007】
特許文献1は、基材上にプラズマ前処理し、そこに積層する酸化アルミニウム蒸着層の組成を基材側から表層にかけて連続的に変化させる技術に関するものである。また、特許文献2は、酸化アルミニウム蒸着層内の成分としてアルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムの比率を制御し蒸着層の密度を向上させる技術に関するものである。さらに特許文献3は、プラズマ前処理した基材上に酸化アルミニウム蒸着層を積層することで、基材と酸化アルミニウム蒸着層との界面に結合を形成したり、蒸着層の組成を制御する技術である。
【0008】
しかしながら、いずれの特許文献も、蒸着層中の成分や組成、比率、構成を最適なものにしたとはいえず、高いガスバリア性を発現するには不十分であるという課題があった。
【0009】
本発明では、この課題に鑑み、積層体の好ましい状態を明らかにすることで、ガスバリア性に優れた積層体およびそれを用いた包装体を安定して提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の積層体は、基材フィルムの少なくとも一方の側にA層を有し、前記A層は少なくともアルミニウム(Al)と酸素(O)を含み、A層中の深さ方向において、長さ基準5.0~25.0%の箇所をX部、25.0~75.0%の箇所をY部、75.0~95.0%の箇所をZ部として、それぞれX部、Y部、Z部と規定したときに、X線光電子分光法(XPS)で測定した際のZ部におけるアルミニウム(Al)と酸素(O)の平均組成比率(O/Al)Zと、Y部における平均組成比率(O/Al)Yが、下記(1)および(2)を満たす積層体である。
(1) (O/Al)Z≦2.00
(2) (O/Al)Y/(O/Al)Z≦1.20
また前記A層中に、さらに水素を含み、前記X部、Y部、Z部それぞれにおける電子エネルギー損失分光(EELS)分析の酸素K端スペクトルの530eV付近のピーク強度をIX(530)、IY(530)、IZ(530)、A層中のX部、Y部、Z部それぞれにおけるEELS分析の酸素K端スペクトルの540eV付近のピーク強度をIX(540)、IY(540)、IZ(540)としたとき、IY(530)/IY(540)>IX(530)/IX(540)および/またはIY(530)/IY(540)>IZ(530)/IZ(540)である、上述のいずれかに記載の積層体である。
【0011】
また前記A層中のX部およびZ部において、IX(530)/IX(540)≦0.15および/またはIZ(530)/IZ(540)≦0.25である、上述のいずれかに記載の積層体である。
【0012】
また前記A層の厚みが15.0nm以下である、上述のいずれかに記載の積層体である。
【0013】
また前記A層は水素(H)を含み、前記A層の平均組成について、アルミニウム(Al)原子濃度:酸素(O)原子濃度:水素(H)原子濃度が15.0~40.0:40.0~55.0:10.0~35.0(atm%)である、上述のいずれかに記載の積層体である。
【0014】
また前記A層上に、さらに保護層を有し、前記保護層は、水溶性樹脂および/または金属アルコキシドを含む硬化物をさらに含む、上述のいずれかに記載の積層体である。
【0015】
また前記保護層は、さらに直鎖状ポリシロキサンを含む、上述のいずれかに記載の積層体である。
【0016】
さらには、真空蒸着法によりアルミニウムを蒸発させ、アルミニウム蒸気中に酸素を導入することで、基材の少なくとも片面に蒸着層を形成する、上述のいずれかに記載の積層体の製造方法、また、さらには基材上流側および/または下流側より酸素を導入するその製造方法である。
【0017】
また、上述のいずれかに記載の積層体を含む包装体である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ガスバリア性に優れた積層体およびそれを用いた包装体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の積層体の一例を示した断面図である。
【
図2】本発明の積層体を製造するための巻き取り式真空蒸着装置を模式的に示す概略図である。
【
図3】積層体を製造するための巻き取り式真空蒸着装置内の酸素ガス導入管の一例を模式的に示す概略図である。
【
図4】積層体を製造するための巻き取り式真空蒸着装置内の酸素ガス導入管の一例を模式的に示す概略図である。
【
図5】積層体を製造するための巻き取り式真空蒸着装置内の酸素ガス導入管の一例を模式的に示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の積層体について、さらに詳しく説明する。
【0021】
本発明の積層体は、基材フィルムの少なくとも一方の側にA層を有し、前記A層は少なくともアルミニウム(Al)と酸素(O)を含み、A層中の深さ方向において、長さ基準5.0~25.0%の箇所をX部、25.0~75.0%の箇所をY部、75.0~95.0%の箇所をZ部として、それぞれX部、Y部、Z部と規定したときに、X線光電子分光法(XPS)で測定した際のZ部におけるアルミニウム(Al)と酸素(O)の平均組成比率(O/Al)Zと、Y部における平均組成比率(O/Al)Yが、下記(1)および(2)を満たす積層体である。
(1) (O/Al)Z≦2.00
(2) (O/Al)Y/(O/Al)Z≦1.20
[基材フィルム]
本発明にかかる基材フィルムを構成する樹脂は特に限定はなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステルアミド系樹脂、ポリエーテルエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、あるいはポリ塩化ビニル系樹脂、さらにはポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、ポリビニルアルコールなどの生分解性樹脂等が挙げられる。中でも、リサイクルのしやすさという観点からはポリプロピレンが好ましく、またリサイクル性に加え無機層との密着力やハンドリングの観点からはポリエステルが好ましく、これら樹脂全体に対し3~55質量%のリサイクル原料を含むことが好ましい。尚、リサイクル原料は、メカニカルリサイクルにてリサイクルされたものであっても、ケミカルリサイクルにてリサイクルされたものであってもよく、特に限定されるものではない。さらに、前記基材フィルムを構成する樹脂にバイオマス由来(植物由来)の原料を含んで化学燃料由来の原料との混合樹脂であってもよく、例えばポリエステルの場合、その原料であるジオールもしくはジカルボン酸のいずれか一方または両方が、樹脂組成物全体に対し10~95質量%のバイオマス由来(植物由来)の原料を含むことが好ましい。
【0022】
基材フィルムは、未延伸であっても、延伸(一軸又は二軸)されていてもよいが、熱寸法安定性の観点から二軸延伸フィルムであることが好ましい。
【0023】
基材フィルムの厚みは、特に制限はないが、1μm以上100μm以下が好ましく、5μm以上50μm以下がさらに好ましく、10μm以上30μm以下がより好ましい。
【0024】
基材フィルムのA層を形成する側の表面には、密着性や平滑性を良くするため、必要に応じて、コロナ処理、オゾン処理、プラズマ処理、グロー放電処理、イオンビーム処理、紫外線処理、溶剤処理、有機物もしくは無機物またはそれらの混合物で構成されるアンカーコート層の形成処理、等の前処理が施されていてもよい。また、A層を形成する側の反対側には、基材の巻き取り時の滑り性の向上や基材の耐擦傷性を目的として、有機物や無機物あるいはこれらの混合物のコーティング層が積層されていてもよい。
【0025】
[A層]
本発明にかかるA層は、少なくともアルミニウム(Al)と酸素(O)を含み、A層中の深さ方向において、長さ基準5.0~25.0%の箇所をX部、25.0~75.0%の箇所をY部、75.0~95.0%の箇所をZ部として、それぞれX部、Y部、Z部と規定したときに、X線光電子分光法(XPS)で測定した際のZ部におけるアルミニウム(Al)と酸素(O)の平均組成比率(O/Al)Zと、Y部における平均組成比率(O/Al)Yが、下記(1)および(2)を満たすものである。
(1) (O/Al)Z≦2.00
(2) (O/Al)Y/(O/Al)Z≦1.20
A層に含まれる元素は、少なくともアルミニウム(Al)および酸素(O)を含んでいれば、他の元素を含んでいても構わない。例えば、水素(H)、炭素(C)、窒素(N)、ケイ素(Si)などを含んでいても構わない。
【0026】
A層がアルミニウム(Al)、および酸素(O)を含む、とは実施例に記載の条件でXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy。別名でESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)ともいう場合がある。)法で評価を行った場合に検出される、A層を構成する全原子100.0atm%中に、いずれの元素に関しても、元素の含有比率が5.0atm%以上であることをいう。従って、前記(1)(2)を満たしても、A層を構成する全原子100.0atm%中に、アルミニウム(Al)、および酸素(O)のいずれかの元素の含有比率が5.0atm%未満であると、本発明のA層とは異なるものとする。尚、本発明における、XPS法の詳細な評価条件は実施例に記載の通りである。
【0027】
本手法によって、深さ方向に対する組成比率のグラフを得ることができるが、例えば積層体がA層と基材による2層構造の場合、A層の表層0.4nmまでの領域は表面汚染の情報を含むため、表層0.4nmより深い位置からA層の組成を算出していく。また、A層の基材との界面は基材の影響をうけるので、基材の平均炭素量C1とA層の平均炭素量C2とした場合、(C1+C2)/2の箇所をA層と基材の基準界面とし、基準界面から表層0.4nmまでの領域をXPS法におけるA層の測定領域とする。特に断りのない限り、当該測定領域における各測定点における測定結果を平均してA層の平均組成を算出するものとする。具体的には、まずは適宜仮の界面として、界面と思わしき場所をA層と基材との基準界面として、A層と基材の平均炭素量を求める。求めた平均炭素量から導かれるA層と基材との基準界面を用いてA層と基材の平均炭素量を求める。これを繰り返して、各平均炭素量が収束するときの基準界面をA層と基材の基準界面とする。また、A層と基材との間に別の層を有する場合のように、A層と隣接する層がある場合は、上記同様の考え方でA層と当該隣接する層の平均炭素量から基準界面を求める。A層の両面にそれぞれ隣接する層がある場合は、表層0.4nmの箇所の代わりに、上記同様に求めたそれぞれの基準界面を用いる。
【0028】
XPS法にて測定する際、A層において、X部、Y部、Z部をそれぞれ以下のように定義する。X部は、XPS法にて特定されるA層の厚みに対して、長さ基準で5.0~25.0%の箇所を指す。Y部は、A層厚みに対して、中央の25.0~75.0%の箇所を指す。さらに、Z部は、当該厚みに対して、75.0~95.0%の箇所を指す。基材を特定できる場合、例えば積層体がA層と基材による2層構造の場合、A層の基材側との界面を0%、最表面を100%とする。A層と基材との間に別の層を有する場合は、A層の当該別の層との界面を0%とする。別の層が複数ある場合はA層と隣接する層とA層との界面を0%とする。A層の両面にそれぞれ隣接する層がある場合は、各隣接する層との界面を適宜0%、100%とする。また、それぞれの部位における各測定点における測定結果を平均してそれぞれの部位の組成を算出するものとする。
【0029】
また、後述するEELS測定の際、A層において、X部、Y部、Z部はそれぞれ以下のように定義する。X部は、STEM(走査透過型電子顕微鏡)による断面観察像から特定されるA層厚みに対して、長さ基準で5.0~25.0%の箇所を指す。Y部は、A層厚みに対して、中央の25.0~75.0%の箇所を指す。さらに、Z部は、当該厚みに対して、75.0~95.0%の箇所を指す。なお、A層厚みはSTEM(走査透過型電子顕微鏡)による断面観察像から測定した値を使用し、基材を特定できる場合、例えば積層体がA層と基材による2層構造の場合、A層の基材側との界面を0%、最表面を100%とする。A層と基材との間に別の層を有する場合は、A層の当該別の層との界面を0%とする。別の層が複数ある場合はA層と隣接する層とA層との界面を0%とする。A層の両面にそれぞれ隣接する層がある場合は、各隣接する層との界面を適宜0%、100%とする。
【0030】
本発明において、A層のZ部におけるアルミニウム(Al)と酸素(O)の平均組成比率(O/Al)Zが(O/Al)Z≦2.00であると、アルミニウム(Al)と酸素(O)の結合における未結合手が少なくなりA層がより緻密になりやすく、酸素や水蒸気などのガスの出入り口となるZ部におけるガス透過を抑制することができると推測している。A層のZ部におけるアルミニウム(Al)と酸素(O)の平均組成比率(O/Al)Zが2.00<(O/Al)Zであると、A層内に過酸化Alが多くなり欠陥の多いA層が形成されるためガスバリア性が低下すると考えている。A層のZ部におけるアルミニウム(Al)と酸素(O)の平均組成比率(O/Al)Zは、好ましくは(O/Al)Z≦1.90、さらに好ましくは(O/Al)Z≦1.80である。(O/Al)Zの下限値は特に限定しないが、完全な酸化アルミニウム(アルミナ)に相当する(O/Al)Z=1.50であると、A層厚みによってはクラックなどの不具合が生じる場合があるため、(O/Al)ZとA層厚みを適宜調整したり、後述するA層中に、さらに水素(H)を含むようにすることで、本発明の積層体となりうる。なお、仮に(O/Al)Z=1.5である場合であっても、必ずしもアルミニウムが完全な酸化物であるわけではなく、水酸化物を含有していたり、亜酸化Alや過酸化Alを含有している可能性がある。これは蒸着時の雰囲気における水分や、蒸着後の水分の付着を防いだとしても、蒸着槽内の残留水分や基材に含まれている水分などが、蒸着時や蒸着後に膜中に取り込まれるためであると考えられる。
【0031】
さらに、前記(O/Al)Zと、Y部における平均組成比率(O/Al)Yとの比である(O/Al)Y/(O/Al)Zが(O/Al)Y/(O/Al)Z≦1.20であると、A層の深さ方向における組成傾斜が少なく均一な層となり、A層内における酸素や水蒸気などのガスの拡散が抑制することができると推測している。結果として、A層が緻密で均一な膜となり、ガスの透過・拡散を抑制することで、高いガスバリア性を発現できる。前記(O/Al)Zと、Y部における平均組成比率(O/Al)Yとの比である(O/Al)Y/(O/Al)Zが1.20<(O/Al)Y/(O/Al)Zであると、逆にA層が不均一な膜となり、ガスをA層内部に取り込みやすく透過・拡散しやすくなりガスバリア性が低下すると考えている。また、前記(O/Al)Zと、Y部における平均組成比率(O/Al)Yとの比である(O/Al)Y/(O/Al)Zは、好ましくは(O/Al)Y/(O/Al)Z≦1.10であり、下限値は特に限定しないが、(O/Al)Y/(O/Al)Z<0.96であると、A層厚みによってはカールなどの不具合が生じる場合があるため、(O/Al)Y/(O/Al)ZとA層厚みを適宜調整したり、後述するA層中に、さらに水素(H)を含むようにすることで、本発明の積層体となりうる。
【0032】
なお、アルミニウム(Al)、および、酸素(O)を含む層が複数ある場合には、少なくとも1つの層において本発明のA層となりうる条件を満たせば、A層を有し、前記A層は少なくともアルミニウム(Al)と酸素(O)を含み、A層中の深さ方向において、長さ基準5.0~25.0%の箇所をX部、25.0~75.0%の箇所をY部、75.0~95.0%の箇所をそれぞれX部、Y部、Z部と規定したときに、X線光電子分光法(XPS)で測定した際のZ部におけるアルミニウム(Al)と酸素(O)の平均組成比率(O/Al)Zと、Y部における平均組成比率(O/Al)Yが、下記(1)および(2)を満たす積層体、であるとする。
(1) (O/Al)Z≦2.00
(2) (O/Al)Y/(O/Al)Z≦1.20
なお、1つの層とは、厚み方向に向かって、隣接する部位と区別可能な境界面を有し、かつ有限の厚みを有する部位を指す。より具体的には、実施例に記載のとおりにA層の断面を走査透過型電子顕微鏡(STEM)にて観察した際、不連続な境界面により区別されるものを指す。A層の厚み方向に組成が変わっていても、その間に前述の境界面がない場合には、1つの層として取り扱う。
【0033】
A層は少なくともアルミニウム(Al)、および、酸素(O)を含み、A層中の深さ方向においてX部、Y部、Z部を規定したときに、本発明の積層体を得るための達成手段として、酸素ガスの導入位置と導入量、導入方法を適切にすることを好ましく挙げることができる。具体的には、
図2に示す巻き取り式真空蒸着装置3を例とすると、酸素ガスの導入量として、A層形成時に、5.0×10
-2Pa以下の減圧度とし、基材搬送速度が400m/min、基材幅1.0m、A層狙い厚み8nmでアルミニウムを蒸発させた際に、導入酸素ガス量が2~19L/minであることが好ましい。酸素ガスの導入方法としては、X部、Y部、Z部それぞれの箇所にピンポイントで酸素を導入する観点から
図4のように導入方向が一方向の管状形状のものを用いることが好ましい。
図4のようにガス導入口が管状形状であることにより、ガス導入口から導入したガスの指向性が高く、狙った位置を効率的に酸化させることが出来る。
図3のようにピンホール形状とすることで、ガス導入口から導入した酸素ガスを、アルミ蒸気中に均一に浸透させることが出来るが、狙った箇所をピンポイントで酸化させる観点では、管状形状のものと比較して劣る場合がある。また
図5のように導入方向が複数の管状形状のものを用いることも出来るが、ガス導入の制御が困難となる場合がある。
【0034】
さらに好ましい達成手段の一例として、蒸着時のアルミニウム蒸気と酸素ガスを高度に活性化することが好ましい。活性化の方法としては、プラズマやイオン、光、熱など様々な励起方法があるが、プラズマを用いると比較的効率的に活性化することができるため好ましく、そのプラズマ発生手段としては、ホローカソード放電、マイクロ波プラズマ、ICPプラズマ、ヘリコン波プラズマなどが挙げられるが、これらのプラズマ発生手段の中でも特に好ましくは、ホローカソード放電が大容量のプラズマ発生手段として適している。ホローカソード放電とは、空洞状の陰極内にプラズマを発生させ、空洞内壁に沿って形成されるシース内に一次電子を閉じ込めることにより電離効率を向上させ、空洞の開口部に対向する陽極との間に強力なプラズマを発生させる方法である。アルミニウムの蒸発源の幅や数に応じて、フィルムの幅方向にホローカソードのプラズマ源を1m当たり5本程度並べ、幅方向に一様な活性化を行う。その一例として、
図2において蒸発源15と搬送される基材1の間の空間に高密度プラズマを発生させるプラズマ活性化させるため、21に示されるプラズマ源を蒸着源15付近に配置して、プラズマ22を蒸着源15とメインドラム9の間の空間に送り込み、この領域に存在する気体や蒸発物などに作用させ活性化させ、さらに、蒸着中の基材1の表面にもプラズマは到達し蒸着が促がされるものである。
【0035】
本発明のA層中には、さらに水素(H)を含み、X部、Y部、Z部それぞれにおける電子エネルギー損失分光(EELS)分析の酸素K端スペクトルの530eV付近のピーク強度をIX(530)、IY(530)、IZ(530)、A層中のX部、Y部、Z部それぞれにおけるEELS分析の酸素K端スペクトルの540eV付近のピーク強度をIX(540)、IY(540)、IZ(540)としたとき、IY(530)/IY(540)>IX(530)/IX(540)および/またはIY(530)/IY(540)>IZ(530)/IZ(540)であることが好ましい。
【0036】
EELS分析とは、電子エネルギー損失分光分析のことであり、測定試料へ電子を入射し、その入射電子が測定試料との相互作用によりエネルギーを失った後の電子(非弾性散乱電子)を分光分析することで、測定試料の元素組成や化学結合状態を解析する手法である。分析対象となる非弾性散乱は、内殻電子励起(50eV~)、価電子の励起によるバンド間遷移(0~10eV)、電子の集団振動によるプラズモン励起(10~50eV)である。酸素K端スペクトルは、EELSスペクトルにおける内殻電子領域の吸収スペクトルを指す。なお、530eV付近のピーク強度をI(530)とは、528.0~531.0eVの間に検出されるピークトップの強度である。ただし、528.0~531.0Vの間に複数のピークトップが検出される場合は最もピーク強度の高いピークトップにおける強度を採用し、ピークトップが検出されない場合は530eVにおける強度を採用する。540eV付近のピーク強度をI(540)とは、535.0~545.0eVの間に検出されるピークトップの強度である。ただし、535.0~545.0eVの間に複数のピークトップが検出される場合は最もピーク強度の高いピークトップにおける強度を採用し、ピークトップが検出されない場合は540eVにおける強度を採用する。
【0037】
EELS分析は、STEM-EELS(Scanning Transmission Electron Microscopy-Electron Energy Loss Spectroscopy)により測定される。STEM-EELSを測定する前の試料の前処理としては、FIB法(Focused Ion Beam法)を用いる。具体的には「高分子表面加工学」(岩森暁著)p.118~119に記載の方法に基づいて、マイクロサンプリングシステムを使用して断面観察用サンプルを作製する。その際、試料は表面に導電性を付与する目的で実施するカーボン蒸着を施す時を除き、全てグローブボックス中(窒素雰囲気下)で扱う。詳細な測定条件は実施例の通りである。前述のXPS法により、アルミニウム(Al)、および酸素(O)を含む層の位置の概略を把握しておき、STEM測定にてその層の界面を把握する、当該層のX部、Y部、Z部についてEELS測定を行い、当該層各部のI(530)、I(540)を求める。
【0038】
アルミニウム(Al)、および酸素(O)を含む層が複数あるときは、少なくとも1つの層において、IY(530)/IY(540)>IX(530)/IX(540)および/またはIY(530)/IY(540)>IZ(530)/IZ(540)であれば、その積層体はA層を有し、前記A層は少なくともアルミニウム(Al)、および酸素(O)を含み、さらに水素(H)を含み、X部、Y部、Z部それぞれにおける電子エネルギー損失分光(EELS)分析の酸素K端スペクトルの530eV付近のピーク強度をIX(530)、IY(530)、IZ(530)とし、A層中のX部、Y部、Z部それぞれにおけるEELS分析の酸素K端スペクトルの540eV付近のピーク強度をIX(540)、IY(540)、IZ(540)としたとき、IY(530)/IY(540)>IX(530)/IX(540)および/またはIY(530)/IY(540)>IZ(530)/IZ(540)である、とする。
【0039】
EELS分析における酸素K端スペクトルの、530eV付近のピークは水酸化物由来のものであり、540eV付近のピークはAlおよびOの混成ピークである。つまり、それぞれのピーク強度をI(530)、I(540)とした場合、I(530)/I(540)の値が大きいほど膜中の水酸化物量が多いことを表し、値が小さいほど膜中の水酸化物量が少ないことを表す。
【0040】
IY(530)/IY(540)>IX(530)/IX(540)および/またはIY(530)/IY(540)>IZ(530)/IZ(540)であるとは、Y部よりも外側部分(X部および/またはZ部)の水酸化物量が少ないことを表す。Y部よりも外側部分(X部および/またはZ部)の水酸化物量が少ないことにより、Y部よりも外側部分(X部および/またはZ部)の緻密性が高くなり、外部からA層中への酸素や水分などのガス侵入を防ぐことができ、その結果、高いガスバリア性を発現することができる。上記した膜質およびバリア性のばらつきの観点より、IY(530)/IY(540)>IX(530)/IX(540)であることがより好ましく、IY(530)/IY(540)>IX(530)/IX(540)およびIY(530)/IY(540)>IZ(530)/IZ(540)であることがさらに好ましい。
【0041】
上記態様とするための達成手段として、酸素ガスの導入位置と導入量、導入方法を適切にすることが挙げられ、詳細は上記した内容と同様であるが、
図2に示す巻き取り式真空蒸着装置3を例とすると、
図4のように導入方向が一方向の管状形状の酸素ガス導入管を用い、上流側より基材上流側へ多く酸素を導入する、および/または上流側より蒸発源直上へ多く酸素を導入することにより、そうしない場合と比べてI
X(530)/I
X(540)を低くすることができる。蒸発源直上へ多く酸素を導入することにより、そうしない場合と比べてI
Y(530)/I
Y(540)を低くすることができる。下流側より基材下流側へ多く酸素を導入する、および/または下流側より蒸発源直上へ多く酸素を導入することにより、そうしない場合と比べてI
Z(530)/I
Z(540)を低くすることができる。また、より減圧度を高める、つまり雰囲気圧力を低くすることで全体的にI(530)/I(540)の値を低くすることができる。
【0042】
A層中に水素(H)を含むとは、実施例に記載の条件でHR-RBS/HR-HFS法で評価を行った場合に、A層中の平均組成として5.0atm%以上水素を含有することをいう。水素(H)を含むことで、積層体に柔軟性を付与することでクラックやカールなどの発生を抑制することができる。
【0043】
積層体の全光線透過率は、85.0%以上であることが好ましい。積層体の全光線透過率が85.0%以上であることで、内容物の視認性に優れる。全光線透過率はヘイズメーターを用いて測定することが出来る。
【0044】
基材を含むフィルムに対して前記A層が形成されており、前記A層中のX部およびZ部において、IX(530)/IX(540)≦0.15および/またはIZ(530)/IZ(540)≦0.25、であることが好ましい。IX(530)/IX(540)≦0.15および/またはIZ(530)/IZ(540)≦0.25であることにより、基材に近いX部および/または基材から遠いZ部における水酸化物量が少なくなり、緻密膜となるため、ガスバリア性が良好となる。ガスバリア性の観点より、IX(530)/IX(540)≦0.11および/またはIZ(530)/IZ(540)≦0.20がより好ましく、IX(530)/IX(540)≦0.083および/またはIZ(530)/IZ(540)≦0.15がさらに好ましい。
【0045】
A層の厚みは15.0nm以下であることが好ましい。A層の厚みが15.0nm以下であることで、バリア性が良好かつ折曲げ耐性に優れる。同様の観点より、10.0nm以下がより好ましく、8.0nm以下がさらに好ましく、7.0nm以下が特に好ましい。A層の厚みは、走査透過型電子顕微鏡(STEM)による断面観察像から測定することが可能である。
【0046】
バリア性および柔軟性を確保する観点より、A層は、前記A層の平均組成について、アルミニウム(Al)原子濃度:酸素(O)原子濃度:水素(H)原子濃度が15.0~40.0:40.0~55.0:10.0~35.0(atm%)であることが好ましい。前記A層の平均組成はHR-RBS/HR-HFS法で測定することとする。具体的な測定条件は実施例に記載の通りである。同様の観点より、Al原子濃度:O原子濃度:H原子濃度が20.0~35.0:40.0~55.0:15.0~30.0(atm%)であることがより好ましい。また、窒素(N)原子、炭素(C)原子の濃度がいずれも5atm%以下であることが好ましい。
【0047】
[A層の製造方法一例]
A層の形成方法については、特に限定はなく、真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、分子線エピタキシー法、クラスターイオンビーム法、イオンプレーティング法、原子層堆積法、プラズマ重合法、大気圧プラズマ重合法、プラズマCVD法、レーザーCVD法、熱CVD法、コーティング法等を用いることができる。製造コスト、ガスバリア性等の観点から、真空蒸着法を用いることが好ましい。
【0048】
A層は、真空蒸着法によりアルミニウムを蒸発させ、アルミニウム蒸気中に酸素を導入することで、基材の少なくとも片面に形成できる。真空蒸着法によりアルミニウムを蒸発させる方法としては、電子線(EB)蒸着法、抵抗加熱法、誘導加熱法などが挙げられるが、それらに限定されるものではない。前記方法でアルミニウムの蒸発量を調整したうえで、アルミニウム蒸発ガス中に酸素を導入することで酸素量や膜質を制御したA層を得ることができる。導入するガスとしては、酸素を含んでいれば、膜質制御のために他のガスとして不活性ガスなどを含んでいても構わない。
【0049】
基材上流側および/または下流側より酸素を導入することが好ましい。前記位置からアルミニウムの蒸発ガス方向に向かって酸素を導入することが好ましい。前記のように酸素を導入することで、A層のX部および/またはZ部の膜質が良好になりバリア性や密着性が向上する。酸素導入位置として、基材上流側もしくは、基材上流側および下流側から酸素を導入することがより好ましい。
【0050】
巻き取り式真空蒸着装置
図2によるA層の形成方法の一例を示す。電子線(EB)加熱蒸着法により、基材1の表面にA層として、酸化アルミニウム蒸着層を設ける。まず蒸着材料として、アルミニウム顆粒を蒸発源15にセットする。巻き取り室4の中で、巻き出しロール5に前記基材1のA層を設ける側の面が蒸発源15に対向するようにセットし、巻き出しガイドロール6,7,8を介して、メインドラム9に通す。次に、真空ポンプにより、真空蒸着装置3内を減圧し、5.0×10
-3Pa以下を得る。到達真空度は5.0×10
-3Pa以下が好ましい。到達真空度は5.0×10
-2Pa以下であることにより、真空蒸着装置内の残留ガスが少なくなり、A層の膜質が向上する。メインドラム9の温度は一例として、-30℃に設定する。基材の熱負けを防ぐ観点から、20℃以下が好ましく、より好ましくは0℃以下である。次に、加熱源として電子銃(EB銃)17を用い、蒸発源内のアルミニウムの溶かし込みを行う。アルミニウム顆粒が全て溶融した後、フィルム走行面から50mmの距離に設置されたリニア型アノードレイヤータイプのイオン源14(米Veeco社、ALS1000L)を、酸素を8L/min導入し、アノード電圧10kV、アノード電流8.6Aで動作させて基材表面を処理する。その後、EB銃、形成するA層の厚みが5nmとなるように加速電流とフィルム搬送速度、酸素ガス導入量を調整し、前記基材1の表面上にA層を形成する。酸素ガスの導入位置は狙い膜質に応じて酸素ガス導入管16a~cのうちから単独もしくは複数用いる。酸素ガス導入管は
図4のように導入方向が一方向の管状形状のものを用いる。蒸着初期の膜質を向上させ、密着性およびバリア性を良好にする観点より、16aおよびまたは16bを用いることが好ましい。その後、ガイドロール10,11,12を介して巻き取りロール13に巻き取る。イオン源による基材表面処理とA層の蒸着は同一搬送内で実施してもよいし、別搬送で行ってもよい。
【0051】
さらにアルミニウム蒸気と酸素ガスを高度に活性化するため、
図2の21に示されるホローカソードのプラズマ源を蒸着源15付近に配置し、プラズマを蒸着源15とメインドラム9の間の空間に送り込み、この領域に存在する気体や蒸発物などに作用させ活性化させてもよい。
【0052】
[保護層]
本発明の積層体の最表面の上、つまりA層の上には、水溶性樹脂および/または金属アルコキシドを含む硬化物を含む保護層を形成することが好ましい。なお、ここでいう最表面とは、基材上にA層が積層された後の、A層の表面をいう。該硬化物を含む保護層を有することで、ガスバリア性がさらに向上したり、耐擦傷性、印刷性、耐レトルト性等を付与することができる。
【0053】
水溶性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、変性ポリビニルアルコール等が挙げられ、これらの樹脂は単独で用いても、2種以上の混合物であってもよいが、好ましくはビニルアルコール系樹脂(変性ポリビニルアルコールを含む)である。ビニルアルコール系樹脂(変性ポリビニルアルコールを含む)は、一般に、ポリ酢酸ビニルをけん化して得られるものであり、酢酸基の一部をけん化して得られる部分けん化であっても、完全けん化であってもよいが、けん化度が高い方が好ましい。けん化度は、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上である。けん化度が低く、立体障害の大きい酢酸基を多く含むと、層の自由体積が大きくなる場合がある。ビニルアルコール系樹脂の重合度は、1,000以上3,000以下が好ましく、1,000以上2,000以下がより好ましい。重合度が低い場合、ポリマーが固定されにくく、ガスバリア性が発現しやすくなる。
【0054】
さらに、特に好ましい水溶性樹脂としては、環状構造中にカルボニル基を有するビニル系樹脂である。保護層中の水溶性樹脂として、環状構造中にカルボニル基を有するビニル系樹脂を含むことで、環状構造による疎水化と、カルボニル基による樹脂周囲の相互作用にて緻密な構造の膜となり、耐水性が向上し、親水性の低い緻密な構造の保護層となり、酸素や水蒸気などのガス分子との相互作用を小さくし、ガス分子の透過経路を遮断することで、ガスバリア性の発現とともに優れたガスバリア性を発現すると考えられる。尚、本発明の環状構造中にカルボニル基を有するビニル系樹脂は、保護層中の全水溶性樹脂100質量%中に20~100質量%であることが好ましい。20質量%未満であると、ガスバリア性の向上効果が乏しい場合があり、全ての水溶性樹脂が環状構造中にカルボニル基を有するビニル系樹脂である100質量%が最も好ましい。
【0055】
環状構造としては、三員環以上(例えば、三~六員環)であれば特に限定されない。また、環状構造内に例えば炭素以外の窒素、酸素、硫黄、リンなどのヘテロ元素等を有する複素環のような環状構造であってもよい。また、この環状構造中におけるカルボニル基を有する部位は、ビニル系樹脂における主鎖や側鎖、または架橋鎖のうちどちらに存在していてもよい。これら環状構造中にカルボニル基を有するビニル系樹脂として、具体的には例えば環状エステルであるラクトン構造や環状アミドであるラクタム構造が挙げられ、これらは単独であっても、2種以上を含んであってもよく、特に限定されるものではないが、好ましくはラクトン構造である。水溶性樹脂としてラクトン構造を有するビニル系樹脂を用いると、後述するケイ素アルコキシドの加水分解に使用する酸触媒に対し安定でありガスバリア性が維持しやすい。ラクトン構造を有するビニル系樹脂をとしては例えば、α-アセトラクトン、β-プロピオラクトン、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン等が挙げられる。
【0056】
また、金属アルコキシドとしては例えば、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、ケイ素などの金属アルコキシドが挙げられるが、本発明においてはケイ素アルコキシドが好ましい。
【0057】
ケイ素アルコキシドは、Si(OR)4で表される金属アルコキシドの1種であり、このケイ素アルコキシド中のRは低級アルキル基が好ましく、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基が挙げられる。ケイ素アルコキシドとしては具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランが挙げられ、これらは単独であっても、2種以上の混合物であってもよく、また後述するそれらの加水分解物であってもよい。
【0058】
本発明の保護層には、さらに直鎖状ポリシロキサンを含むことが好ましい。直鎖状ポリシロキサンは、分子鎖に細孔が少なく、分子鎖同士は高い密度で存在できるため、直鎖状ポリシロキサンを含み、保護層中でネットワークを形成し固定することで、保護層を構成する成分の分子鎖の動きを抑制できるため、緻密な構造の保護層になることで、さらにガスバリア性が向上しやすくなるとともに、ガスバリア性が発現しやすくなる。
【0059】
直鎖状ポリシロキサンとは、下記化学式(1)で示されるものであり、ここで化学式(1)中のnは2以上の整数である。化学式(1)中のRは低級アルキル基として例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基や、分岐アルキル基としてiso-プロピル基、t-ブチル基などが挙げられる。本発明において、直鎖状ポリシロキサンの直鎖構造が長いと保護層中でネットワークを形成し固定しやすくなるため、nは好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上である。
【0060】
【0061】
直鎖状ポリシロキサンは、前述の通りSi(OR)4で表されるケイ素アルコキシドから得ることができる。ケイ素アルコキシド中のRは低級アルキル基が好ましく、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基が挙げられる。ケイ素アルコキシドとしては具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランが挙げられ、これらは単独であっても、2種以上の混合物であってもよい。ケイ素アルコキシドは、例えば直鎖状ポリシロキサンを得るために加水分解することができる。ケイ素アルコキシドは、Si(OR)4、水、触媒、有機溶媒の存在下で加水分解される。加水分解に使用される水は、Si(OR)4のアルコキシ基に対して0.8当量以上5当量以下であることが好ましい。水の量が0.8当量より少ないと、十分に加水分解が進行せず、直鎖状ポリシロキサンを得ることができなかったりする場合がある。水の量が5当量より多いと、後述するケイ素アルコキシドの反応がランダムに進行して、直鎖状でないポリシロキサンを多量に形成し直鎖状ポリシロキサンを得ることができない場合がある。
【0062】
加水分解に使用する触媒は、酸触媒であることが好ましい。酸触媒の例としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、酢酸、酒石酸等が挙げられ、特に限定されるものではない。通常、ケイ素アルコキシドの加水分解および重縮合反応は、酸触媒であっても塩基触媒であっても進めることができるが、酸触媒を用いた場合、系中のモノマーは平均的に加水分解されやすく、直鎖状になりやすい。一方、塩基触媒を用いた場合は、同一分子に結合したアルコキシドの加水分解・重縮合反応が進みやすい反応機構であるため、反応がランダムに進行し反応生成物は空隙の多い状態になりやすい。触媒の使用量は、ケイ素アルコキシド総モル量に対して、0.1モル%以上0.5モル%以下であることが好ましい。
【0063】
加水分解に使用する有機溶媒は、水およびケイ素アルコキシドと混合可能なメチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール等のアルコール類を用いることができる。
【0064】
加水分解温度は20℃以上45℃以下であることが好ましい。20℃未満で反応させた場合は、反応性が低く、Si(OR)4の加水分解が進みづらい場合がある。一方、45℃を超える温度で反応させた場合は、急激に加水分解、重縮合反応が進行し、ゲル化したり、直鎖状ではないランダムで疎なポリシロキサンになる場合がある。
【0065】
本発明において、保護層中の全ての水溶性樹脂の合計の含有率が、保護層100質量%中に20~80質量%であることが好ましい。水溶性樹脂の含有率が20~80質量%であると、緻密な構造の保護層となりやすく、ガスバリア性の発現とともに優れたガスバリア性を発現しやすくなる。水溶性樹脂の含有率が20質量%未満であると保護層が硬くなりやすく、クラックが生じてガスバリア性が低下する場合がある。水溶性樹脂の含有率が80質量%より多いと水溶性樹脂を固定化することができず、ガスバリア性が低下する場合がある。水溶性樹脂の含有率はより好ましくは30~60質量%、さらに好ましくは35~50質量%である。なお、保護層中の全ての直鎖状ポリシロキサンの合計の含有率も、保護層100質量%中に20~80質量%であることも可能であるが、前述の通りケイ素アルコキシド(ケイ素アルコキシドの加水分解物を含む)を別途含んでいてもよいため、含有比率は、直鎖状ポリシロキサンおよびケイ素アルコキシドをSiO2換算し、保護層中の無機成分(以後、保護層中の無機成分を、保護層無機成分、と記す)の合計含有率が、保護層100質量%中に20~80質量%であることが好ましい。尚、保護層中の水溶性樹脂と保護層無機成分の含有率は後述する方法で測定することができる。
【0066】
本発明において、保護層における直鎖状ポリシロキサンとケイ素アルコキシドの混合比率を調整することが可能である。混合比率は、直鎖状ポリシロキサンおよびケイ素アルコキシドの、それぞれのSiO2換算した質量比率で、直鎖状ポリシロキサン/ケイ素アルコキシド=15/85~90/10の範囲が好ましく、50/50~85/15の範囲がより好ましく、60/40~85/15の範囲がさらに好ましい。この値が90/10を超える場合は、直鎖ポリシロキサン同士の相互作用が強くなり前記水溶性樹脂を固定化することができず、ガスバリア性が低下する場合がある。一方、15/85未満であると、ケイ素アルコキシド由来のSi-OH結合が多くなることで親水性が高くなりガスバリア性が低下する場合がある。保護層中における直鎖状ポリシロキサンとケイ素アルコキシドの混合比率は後述する方法で測定することができる。
【0067】
尚、直鎖状ポリシロキサンとして、あらかじめSi(OR)4が複数結合したオリゴマー原料を使用することで、直鎖状ポリシロキサンおよびケイ素アルコキシドの混合比率を容易に調整することができる。あらかじめSi(OR)4が複数結合したオリゴマー原料としては、例えば化学式(1)中のRがメチル基であるメチルシリケートや、Rがエチル基であるエチルシリケートなどのアルキルシリケートが数量体となった直鎖状オリゴマーが挙げられる。
【0068】
本発明において、保護層に含まれる直鎖状ポリシロキサンおよびケイ素アルコキシドを熱によって重縮合反応を進行させて保護層を形成することができる。重縮合反応が進行した場合、直鎖状ポリシロキサンやケイ素アルコキシドに含まれるアルコキシ基および/またはヒドロキシル基が減少し、緻密で強靭な構造の保護層となる。また、重縮合反応によって、直鎖状ポリシロキサンやケイ素アルコキシドの分子量が大きくなるため、ビニル系樹脂を固定する能力が高くなる。したがって、保護層は熱によって反応を進行させることでガスバリア性、ガスバリア性を向上できるため、温度は高い方が好ましい。しかしながら、温度が200℃を超える場合は、基材フィルムが熱によって収縮したり、無機層のひずみやクラックが発生したりしてガスバリア性が低下する場合がある。
【0069】
保護層は、保護層の成分を含む塗液(以下、保護層塗液と略す)を、無機層上に塗工、乾燥して得ることができる。したがって、前記重縮合反応を進行させるための温度である塗膜の乾燥温度は、100℃以上200℃以下であることが好ましく、120℃以上180℃以下であることがより好ましく、150℃以上180℃以下であることがさらに好ましい。100℃未満の場合は、後述の溶媒として含まれる水が十分に蒸発せず、層を硬化できない場合がある。
【0070】
保護層塗液は、水溶性樹脂を水または水/アルコール混合溶媒に溶解したものと、特定官能基を有する化合物や直鎖状ポリシロキサンや特定官能基を有さないケイ素アルコキシドを含む溶液とを混合して得ることができる。溶媒で使用されるアルコールとしては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール等が挙げられる。
【0071】
保護層塗液を、無機層上に塗工する方法としては、ダイレクトグラビア方式、リバースグラビア方式、マイクログラビア方式、ロッドコート方式、バーコート方式、ダイコート方式、スプレーコート方式等、特に限定はなく既知の方法を用いることができる。
【0072】
本発明にかかる保護層には、ガスバリア性を損なわない限りにおいて、レベリング剤、架橋剤、硬化剤、密着剤、安定化剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤等を含んでもよい。架橋剤の一例としては例えば、アルミニウム、チタン、ジルコニウム等のケイ素アルコキシドおよびその錯体等が挙げられる。
【0073】
保護層の平均厚みは10nm以上1,000nm以下が好ましく、より好ましくは、100nm以上600nm以下、さらに好ましくは350nm以上500nm以下である。平均厚みが10nm未満の場合、無機層のピンホールやクラックを十分に埋めることができず、十分なガスバリア性を発現できない場合がある。一方、厚みが1,000nmを超えると、厚みによるクラックが生じたりする場合がある。
【0074】
保護層は、前述の通り熱によって縮合反応が進行し、ガスバリア性が向上する。したがって、ガスバリア性を向上させるために保護層を形成した後、積層体をさらに熱処理することも好ましい。熱処理温度は、30℃以上100℃以下が好ましく、40℃以上80℃以下がより好ましい。熱処理時間は、1日以上14日以下が好ましく、3日以上7日以下がより好ましい。熱処理温度が30℃未満の場合は、反応促進に必要な熱エネルギーが不十分で効果が小さい場合があり、100℃を超える場合は、基材のカールやオリゴマーが発生したり、設備や製造のためのコストが高くなったりする場合がある。
【0075】
[保護層の分析]
本発明にかかる保護層中における直鎖状ポリシロキサンは、レーザーラマン分光法にて存在を確認することができる。レーザーラマン分光法では、直鎖状ポリシロキサンや金属アルコキシド(金属アルコキシドの加水分解物を含む)の結合状態として直鎖状ポリシロキサンと、5員環以上の環構造を含み分岐も存在する構造であるランダムネットワーク構造と、4員環構造のラマンバンドは400~500cm-1に観測される。これらのラマンバンドは重畳するため、4員環構造は495cm-1、直鎖状ポリシロキサンは488cm-1、ランダムネットワーク構造は単一の規則構造ではないため450cm-1以下に広がりをもつバンドとして観測され、これらをガウス関数近似でフィッティングしてピーク分離することができる。
【0076】
保護層中の水溶性樹脂と無機成分(直鎖ポリシロキサンやケイ素アルコキシド(ケイ素アルコキシドの加水分解物を含む))の含有率を求める方法を記載する。無機成分である直鎖状ポリシロキサンやケイ素アルコキシド(ケイ素アルコキシドの加水分解物を含む)の量は、前述の通りケイ素量に置き換えることが可能であり、ケイ素量は、蛍光X線分析によって得ることができる。まず、ケイ素量が既知でケイ素量の異なる5種類の標準サンプルを用意し、各サンプルの蛍光X線分析を実施する。蛍光X線分析は、X線照射によって元素に固有の蛍光X線を発生させ、それを検出する。発生するX線量は、測定対象に含まれる元素の量に比例するため、測定によって得られるケイ素のX線強度S(単位:cps/μA)とケイ素量は比例関係にある。ここで、標準サンプルの厚みを後述の平均厚みTと同様の方法で算出し、蛍光X線分析で求めたX線強度Sを標準サンプルの厚みで除して単位厚み当たりのX線強度Sを算出し、既知のケイ素量と単位厚み当たりのX線強度Sをプロットし検量線を作成する。その後、本発明の積層体において、同様に蛍光X線分析と平均厚みTから単位厚み当たりのX線強度Sを求めて、検量線とその値からケイ素量を算出する。このケイ素量から、直鎖状ポリシロキサンおよびケイ素アルコキシドに含まれるケイ素原子の合計モル数を求めSiO2質量に換算することで、保護層無機成分の合計質量比率Sを求め、水溶性樹脂と各種無機成分の含有率を求めることができる。
【0077】
保護層における無機成分中の直鎖状ポリシロキサンとケイ素アルコキシドの混合比率は、前記レーザーラマン分光法で測定して得られる、ランダムネットワーク構造を示すラマンバンドの面積A1と、直鎖状ポリシロキサンを示すラマンバンドの面積A2の比であるA2/A1が直鎖状ポリシロキサン/ケイ素アルコキシドの混合比率(SiO2換算の質量比)となる。
【0078】
[包装体]
本発明の包装体とは、本発明の積層体を接着剤などの接着成分を介して貼り合わせ、袋状としたものである。貼り合わせる面はA層もしくは保護層側同士の場合や、一方がA層もしくは保護層でもう一方が基材とで貼り合わせる場合であってもよい。本発明の包装体は、本発明の積層体を用いることでガスバリア性に優れている。そのため内容物充填後に酸素や水蒸気によるガス劣化などの不良が発生せず、安全に内容物を保存することができるため、例えばボイル・レトルト処理時にかかる熱でもガスバリア性が劣化しない包装体を提供することができる。
【0079】
[用途]
本発明の積層体は、ガスバリア性に優れた積層体であるため、食品、医薬品、電子部品などの包装体として好適に使用できる。
【実施例0080】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0081】
[評価方法]
(1)走査透過型電子顕微鏡(STEM)観察
マイクロサンプリングシステム(FEI製 Helios G4)を使用して断面観察用サンプルをFIB法により作製した。走査透過型電子顕微鏡(JEOL製 JEM-ARM200F)により、加速電圧200kVとして、観察用サンプルの断面を観察し、積層体のA層を特定し、その厚みを測定した。
【0082】
(2)XPS分析
下記条件にて、A層の深さ方向に組成分析評価を行い、デプスプロファイルにより膜構成を確認した。尚、金属元素については、酸化物成分と金属成分の成分を分離してプロファイル化した。A層側からイオンエッチングを行いながら基材に到達するまでデータを収集し、得られた各元素のデプスプロファイルから組成の連続的な増加又は減少の有無を確認した。尚、連続的な増加又は減少の有無については、前記増加又は減少の長さが2nm以上存在する場合に、連続的な増加又は減少が有ると判断した。
【0083】
A層の厚みに対して、A層の基材側との界面を0%、最表面を100%とし、X部は5~25%、Y部は40~60%、Z部は75~95%の位置にて分析を実施し、該領域の平均値を分析結果として用いて、各箇所(X部、Y部、Z部)の(O/Al)値を算出した。
【0084】
測定条件は下記の通りとした。
・装置:X線光電子分光装置(PHI社製Quantera SXM)
・励起X線:monochromatic AlKα1,2線(1486.6eV)
・X線径:100μm
・光電子脱出角度:45°(試料表面に対する検出器の傾き)
・イオンエッチング条件:Ar+イオン3kV
ラスターサイズ 2×2mm(エッチング領域)
エッチングレート 12.0nm/分。
【0085】
(3)EELS分析
A層のEELS分析は、EELS検出器(GATAN GIF Quantum)を用いて実施した。具体的な測定条件としては、加速電圧200kV、ビーム径0.2nmφ、エネルギー分解能0.5eV FWHM(半値全幅)にて、各箇所(X部、Y部、Z部)分析を行い、酸素K端の吸収スペクトルを得た。A層の厚みに対して、A層の基材側との界面を0%、最表面を100%とし、X部は5~25%、Y部は40~60%、Z部は75~95%の位置にて分析を実施し、該領域の平均値を分析結果として用いた。
【0086】
その後、530eV付近のピーク強度をIX(530)、IY(530)、IZ(530)、および540eV付近のピーク強度をIX(540)、IY(540)、IZ(540)から、IX(530)/IX(540),IY(530)/IY(540),IZ(530)/IZ(540)を算出した。
【0087】
(4)A層中の水素(H)有無、およびA層の平均組成
積層体のA層の平均組成分析は、HR-RBS法(High Resolution Rutherford Backscattering Spectrometry)/HR-HFS法(High Resolution Hydrogen Forward scattering Spectrometry)により行い、アルミニウム(Al)原子濃度:酸素(O)原子濃度:水素(H)原子濃度の比率を算出した。詳細な測定条件は下記とした。
<HR-RBS測定>
装置 : (株)神戸製鋼所製RBS分析装置 HRBS500
入射イオン : He+
入射エネルギー : 450eV
入射角 : 60deg
散乱角 : 60deg
試料電流 : 30nA
照射量 : 12.5μC
<HR-HFS測定>
装置 : (株)神戸製鋼所製RBS分析装置 HRBS500
入射イオン : N+
入射エネルギー : 480eV
入射角 : 70deg
散乱角 : 30deg
試料電流 : 2nA
照射量 : 0.4μC
(5)保護層の成分分析・構造同定(水溶性樹脂)
サンプルから保護層を剥離し、溶解可能な溶剤に溶解した。次に、その溶液を濾過し、粒子と濾液とを分離した。必要に応じ、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、ゲル浸透クロマトグラフィー、液体高速クロマトグラフィー等に代表される一般的なクロマトグラフィー等を適用し、保護層および樹脂層に含まれる成分を、それぞれ単一物質に分離精製した。その後、各単一物質にDMSO-d6を加え、60℃に加温して溶解させ、この溶液を核磁気共鳴分光法として、1H-NMR、13C-NMR測定を行った。次いで各単一物質について、IR法(赤外分光法)、各種質量分析法(ガスクロマトグラフィー-質量分析法(GC-MS)、熱分解ガスクロマトグラフィー-質量分析法(熱分解GC-MS)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-MS)、飛行時間型質量分析法(TOF-MS)、飛行時間型マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI-TOF-MS)、ダイナミック二次イオン質量分析法(Dynamic-SIMS)、飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)を適宜組み合わせて定性分析用を行い、サンプル中に含まれる成分の特定と構造同定を行った。尚、これらの定性分析を組み合わせる場合には、より少ない組み合わせで測定できるものを優先して適用した。
【0088】
(6)保護層中の水溶性樹脂、無機成分(直鎖状ポリシロキサン、ケイ素アルコキシド)の含有比率の測定
水溶性樹脂としてポリビニルアルコール(以下、PVAと略すこともある。重合度1,700、けん化度98.5%)および無機成分としてテトラアルコキシシラン(以下、TEOSと略することもある)の加水分解物からなり、水溶性樹脂/無機成分の含有比率(無機成分はSiO2質量換算)が80/20、65/35、50/50、35/65、20/80となるように混合して得た膜を、含有率が異なる標準サンプルとして用意した。
【0089】
次いで、各標準サンプルを、株式会社島津製作所製蛍光X線分析装置EDX-700を用いて、ケイ素の特定X線Kαの強度を測定、得られたX線強度S(単位:cps/μA)を求めた。前記(1)に記載の方法で、各標準サンプルの厚みを測定し、単位厚み当たりのX線強度Sを算出し、水溶性樹脂と無機成分の含有率(無機成分はSiO2質量換算)との検量線を作成した。
【0090】
次いで、本発明の積層体について、同様に蛍光X線分析と平均厚みTから単位厚み当たりのX線強度Sを求め、検量線から水溶性樹脂と無機成分の含有率を求めた。
【0091】
(7)ケイ素の結合状態の分析(直鎖状ポリシロキサン有無)、(直鎖状ポリシロキサン/ケイ素アルコキシドの混合比率(SiO2換算の質量比))
積層体の保護層を切削により分離し、以下の条件を用いてラマン分光法で分析した。
測定装置:Jobin Yvon/愛宕物産製 T-6400
測定モード:顕微ラマン
対物レンズ:100倍
ビーム径:1μm
光源:Ar+レーザー/514.5nm
レーザーパワー:200mW
回折格子:Single 600gr/mm
スリット:100μm
検出器:CCD/Jobin Yvon製 1,024×256。
【0092】
ケイ素アルコキシドからなるランダムネットワーク構造を表す面積A1、直鎖状ポリシロキサンを表す面積A2を算出するための、ラマンスペクトルの解析条件は次の通りである。得られたラマンスペクトルを、スペクトル解析ソフトGRAMS/Thermo Scientificを使用して解析した。ラマンスペクトルを直線近似でベースライン補正した後、600~250cm-1の範囲でフィッティングした。フィッティングは、4員環構造(ピーク波数495cm-1、半値幅35cm-1)、直鎖状ポリシロキサン(ピーク波数488cm-1、半値幅35cm-1)、ケイ素アルコキシドからなるランダムネットワーク構造の3成分に分離した。ケイ素アルコキシドからなるランダムネットワーク構造は連続構造を反映したブロードなピークになるため、4員環構造、直鎖状ポリシロキサンと合わせた3成分にガウス関数近似で分離するとして自動フィッティングした。
【0093】
得られたバンドと、ベースラインで囲まれた領域の面積を算出することで、直鎖状ポリシロキサンの有無を判断するとともに、ケイ素アルコキシドをからなるランダムネットワーク構造を表す面積をA1、直鎖状ポリシロキサンを表す面積をA2とし、A2/A1(直鎖状ポリシロキサン/ケイ素アルコキシドの混合比率(SiO2換算の質量比))を算出した。
【0094】
(8)酸素バリア性(酸素透過率[cc/m2/day])
積層体の酸素透過率は、JISK7126-2(制定2006年8月20日)に準じて、モコン(MOCON)社製酸素透過率測定装置OX-TRAN2/20を用いて、23℃、0%RHの条件にて測定した。異なる位置から採取したサンプル5点を平均し、その値を酸素透過率[cc/m2/day]とした。
【0095】
(9)水蒸気バリア性(水蒸気透過率[g/m2/day])
積層体の水蒸気透過度は、JISK7129B(制定2008年3月20日)に準じて、モコン(MOCON)社製水蒸気透過率測定装置Permatran-W3/30を用いて、40℃、90%RHの条件にて測定した。異なる位置から採取したサンプル5点を平均し、その値を水蒸気透過度[g/m2/day]とした。
【0096】
(実施例1)
(A層の形成)
図2に示す巻き取り式真空蒸着装置3を使用し、電子線(EB)蒸着法により、A層として酸化アルミニウム蒸着層を厚み8nm狙いで設けた。基材としては、厚み12μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製“ルミラー”(登録商標)P60)を用いた。
【0097】
具体的な操作は以下の通りである。蒸着材料として、2~5mm程度の大きさの顆粒状のアルミニウム(真空冶金(株)製、純度99.99%)を蒸発源15にセットした。巻き取り室4の中で、巻き出しロール5に前記基材1のA層を設ける側の面が蒸発源15に対向するようにセットし、巻き出しロール6,7,8を介して、メインドラム9に通した。このとき、メインドラムは温度-30℃に制御した。次に、真空ポンプにより真空蒸着装置3内を減圧し、3.0×10
-3Paを得た。次に、加熱源として電子銃17を用い、アルミニウムが顆粒状でなくなるまで溶融した。その後、フィルム走行面から50mmの距離に設置されたリニア型アノードレイヤータイプのイオン源14(米Veeco社、ALS1000L)を、酸素を8L/min導入し、アノード電圧10kV、アノード電流8.6Aで動作させて基材表面を処理した。イオン源用電源は、米グラスマン・ハイボルテージ社SHタイプを用いた。次に、酸素ガス導入管16a,16bより合計10L/minの酸素ガスを1:9の比率で導入(すなわち、ガス導入管16aからは1L/min、ガス導入管16bからは9L/minの比率で酸素ガスを導入することである。)し、形成するA層の厚みが8nm狙いとなるように投入電力、投入電流および搬送速度を調整して、前記基材1の表面上にA層を形成した。酸素ガス導入管としては、
図4のように管状形状のものを用いた。その後、ガイドロール10,11,12を介して巻き取りロール13に巻き取った。
【0098】
(実施例2)
A層を形成する際、酸素ガス導入管16a,16cより合計10L/minの酸素ガスを1:1の比率で導入した以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0099】
(実施例3)
A層を形成する際、酸素ガスを、酸素ガス導入管16aのみから合計10L/min導入した以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0100】
(実施例4)
A層を形成する際、酸素ガス導入管16a,16bより合計10L/minの酸素ガスを0.5:9.5の比率で導入した以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0101】
(実施例5)
形成するA層の厚みを5nm狙いで蒸着した以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0102】
(実施例6)
形成するA層の厚みを13nm狙いで蒸着した以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0103】
(実施例7)
A層を形成する際、酸素ガスを、酸素ガス導入管16bのみから合計10L/min導入した以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0104】
(実施例8)
A層を形成する際、酸素ガス導入管16b,16cより合計10L/minの酸素ガスを9:1の比率で導入した以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0105】
(実施例9)
A層を形成する際、酸素ガスを、酸素ガス導入管16cのみから合計10L/min導入した以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0106】
(実施例10)
A層を形成する際、酸素ガス導入管16a,16b,16cより合計10L/minの酸素ガスを1:8:1の比率で導入した以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0107】
(実施例11)
A層を形成する際、酸素ガス導入管16a,16cより合計10L/minの酸素ガスを0.5:9.5の比率で導入した以外は、実施例2と同様にして積層体を得た。
【0108】
(実施例12)
A層を形成する際、酸素ガス導入管16a,16cより合計10L/minの酸素ガスを9.5:0.5の比率で導入した以外は、実施例2と同様にして積層体を得た。
【0109】
(実施例13)
(A層の形成)
図2に示す巻き取り式真空蒸着装置3を使用し、抵抗加熱式蒸着法により、A層として酸化アルミニウム蒸着層を厚み8nm狙いで設けた。基材としては、厚み12μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製“ルミラー”(登録商標)P60)を用いた。
【0110】
具体的な操作は以下の通りである。蒸着材料として、アルミニウムワイヤー(日本軽金属(株)製、純度99.99%)を用い、蒸発源として抵抗加熱用ボートをセットした。巻き取り室4の中で、巻き出しロール5に前記基材1のA層を設ける側の面が蒸発源15に対向するようにセットし、巻き出しロール6,7,8を介して、メインドラム9に通した。このとき、メインドラムは温度-30℃に制御した。次に、真空ポンプにより真空蒸着装置3内を減圧し、8.0×10-3Paを得た。次に、抵抗加熱したボート上にアルミニウムワイヤーを送って蒸発させ、酸素ガスを36L / 分の流量で流し蒸着した。フィルム速度を6 m / 秒で走行させ、アルミニウムワイヤーの供給速度を調節して蒸着膜の狙い膜厚を8nmの厚さとした。酸化アルミニウム膜1m2当りの酸素ガス量は20ccであり、蒸着膜の膜厚[nm]に対して2.5cc/nmの関係であった。蒸着源の斜め上にプラズマ発生部としてホローカソード方式のプラズマ源を設置し、ホローカソード方式のプラズマ源にアルゴンガスを流し放電させてプラズマを励起した。そのプラズマを対向するアノードによりボートの直上に引き出しフィルム面に向かうアルミニウム原子および酸素ガスを活性化させながら蒸着し、基材1の表面上にA層を形成した。
【0111】
(実施例14)
A層上に下記の保護層を積層したこと以外は、実施例10と同様にして積層体を得た。
【0112】
<保護層>
水溶性樹脂として、ポリビニルアルコール(以下PVAと略す。重合度1,700、けん化度98.5%)を、質量比で水/イソプロピルアルコール=97/3の溶媒に投入し、90℃で加熱撹拌して固形分10質量%のPVA溶液を得た。
【0113】
次いで、ケイ素アルコキシドであるTEOS11.7gとメタノール4.7gを混合した溶液に、0.02N塩酸水溶液18.6gを撹拌しながら液滴することで、TEOS加水分解液を得た。
【0114】
次いで、PVAの固形分として含有率が20質量%になるように、PVA溶液と前記TEOS加水分解液を混合・撹拌し、水で希釈して固形分13.4質量%の保護層塗液を得た。この保護層塗液をグラビアコート法により無機層上に塗工後160℃で乾燥し、乾燥後の平均厚み400nmの保護層を形成した。
【0115】
(実施例15)
A層上に下記の保護層を積層したこと以外は、実施例10と同様にして積層体を得た。
【0116】
<保護層>
実施例14と同様にして、PVA溶液を得た。
【0117】
次いで、ケイ素アルコキシドであるTEOS11.7gとメタノール4.7gを混合した溶液に、0.02N塩酸水溶液18.6gを撹拌しながら液滴することで、TEOS加水分解液を得た。一方で、直鎖ポリシロキサンとしてコルコート株式会社製エチルシリケート48(平均10量体の直鎖状オリゴマー)11.2g、メタノール16.9gを混合した溶液に、0.06N塩酸水溶液7.0gを液滴して、10量体シリケート加水分解液を得た。10量体シリケート加水分解液とTEOS加水分解液をSiO2換算固形分の質量比が80/20になるように混合し、10量体シリケート・TEOS加水分解混合液を得た。
【0118】
次いで、PVAの固形分として含有率が20質量%になるように、PVA溶液と前記10量体シリケート・TEOS加水分解混合液を混合・撹拌し、水で希釈して固形分13.4質量%の保護層塗液を得た。この保護層塗液をグラビアコート法により無機層上に塗工後160℃で乾燥し、乾燥後の平均厚み400nmの保護層を形成した。
【0119】
(実施例16)
実施例10と同様にしてA層を形成した。
【0120】
次いで、保護層に使用する水溶性樹脂を、環状構造中にカルボニル基を有するγ-ブチロラクトン構造を含有する変性ポリビニルアルコールとしたこと以外は、実施例15と同様に保護層を形成して積層体を得た。
【0121】
なお、保護層の変性ポリビニルアルコールが、γ-ブチロラクトン構造を有することは以下の方法により確認した。
【0122】
保護層を剥離し、DMSO-d6により60~80℃で加熱し溶解させ、1H-NMR、13C-NMRにより、DEPT135測定を行った。1H-NMRから、0.8と1.0ppmに現れるシグナルをγ-ブチロラクトンの環構造中のメチレン基に由来したピークと同定した。また2.3ppmに現れるシグナルをγ-ブチロラクトンの環構造中のカルボニル基に隣接したメチレン基に由来したピークと同定した。13C-NMRから、74ppmに現れるシグナルをγ-ブチロラクトンの環構造中のメチレン基に由来したピークと同定した。また174ppmに現れるシグナルをγ-ブチロラクトンの環構造中のカルボニル基に由来したピークと同定した。また45ppmに現れるシグナルをγ-ブチロラクトンの環構造中のカルボニル基に隣のメチレン基に由来したピークと同定した。
【0123】
(実施例17)
実施例10と同様にしてA層を形成した。
【0124】
次いで、保護層に使用する直鎖状ポリシロキサンを、コルコート株式会社製エチルシリケート40(平均5量体の直鎖状オリゴマー)としたこと以外は、実施例16と同様に保護層を形成して積層体を得た。
【0125】
(比較例1)
A層形成時に酸素ガスを導入しない以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0126】
(比較例2)
A層を形成する際、酸素ガス導入量を合計3L/minとした以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0127】
(比較例3)
A層を形成する際、酸素ガス導入量を合計20L/minとした以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0128】
(比較例4)
A層を形成する際、酸素ガス導入管として、
図3のようなピンホール形状のものを使用した以外は、実施例1と同様にして積層体を得た。
【0129】
各実施例および比較例で得られた積層体に関しては、試験片を切り出し、各種評価を実施した。結果を表1~3に示す。
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
実施例1~13は、アルミニウム(Al)と酸素(O)を含むA層中の、深さ方向におけるX部、Y部、Z部のいずれかで膜質が異なり、X線光電子分光法(XPS)で測定した際のZ部におけるアルミニウム(Al)と酸素(O)の平均組成比率(O/Al)Zが(O/Al)Z≦2.00を満たすとともに、Y部における平均組成比率(O/Al)Yとの比である(O/Al)Y/(O/Al)Zが、(O/Al)Y/(O/Al)Z≦1.20を満たす結果であった。
【0134】
実施例2、3は、実施例1と比較して酸素ガス導入管16bを用いないことでA層のY部の酸化度が低くなることから、Y部のI(530)/I(540)の値が実施例1よりも大きくなった。また、A層を形成する際、酸素ガス導入管16aを使用しなかった実施例7~9は、実施例1と比較して(O/Al)Zが大きい値となった。さらに、ホローカソードのプラズマ源を用い蒸着時のアルミニウム蒸気と酸素ガスを高度に活性化した実施例13は、特にガスバリア性が良好であった。
【0135】
比較例1は、酸素を導入せずにA層を形成したため、A層を構成する全原子100.0atm%中の酸素(O)元素の含有比率が4.2atm%であり、5.0atm%未満であっため本発明のA層とは異なり、酸素(O)を含まないアルミニウム(Al)の層となってしまった。
【0136】
比較例2は実施例1と比較して極端に導入酸素量が少ないことにより酸化度が低くなり、亜酸化Alが多いA層が形成され膜質ばらつきが大きい膜となったと考えられる。また、比較例3は実施例1と比較して極端に導入酸素量が多いことにより、欠陥の多いA層が形成され、膜質ばらつきが大きい膜となったと考えられる。
【0137】
実施例10と同様のA層上に、保護層を設けた実施例14~17は、さらにガスバリア性が改善した。そのうち、保護層の金属アルコキシドに直鎖状ポリシロキサンを混合した実施例15は、直鎖状ポリシロキサンを含まない実施例14よりもガスバリア性が改善し、水溶性樹脂を環状構造中にカルボニル基を有するγ-ブチロラクトン構造を含有する変性ポリビニルアルコールとした実施例16はさらにバスバリア性が改善したり、直鎖状ポリシロキサンを平均5量体の直鎖状オリゴマーに変更した実施例17では、ガスバリア性の調整が可能であった。
本発明の積層体は、酸素ガス、水蒸気等に対するガスバリア性に優れているため、食品、医薬品、電子部品などの包装材料として好適に使用できるが、用途がこれらに限定されるものではない。