(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127645
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】ポリエーテルエステルアミド組成物および繊維
(51)【国際特許分類】
C08L 77/12 20060101AFI20230907BHJP
【FI】
C08L77/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031453
(22)【出願日】2022-03-02
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】矢野 稜人
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 昂太郎
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CL071
4J002GK01
(57)【要約】
【課題】 繊維とした際の染色堅牢性・吸放湿性・制電性に優れたポリエーテルエステルアミド組成物を提供する。
【解決手段】 ジカルボン酸成分(a)、ラクタムまたはアミノカルボン酸を原料とするポリアミド成分(b)、およびポリエチレングリコール成分(c)からなり、その溶融粘度が測定温度265℃において、100Pa・s以上、200Pa・s以下であり、かつ水溶性溶出成分(WSC)が10重量%以下であるポリエーテルエステルアミド組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分(a)、ラクタムまたはアミノカルボン酸を原料とするポリアミド成分(b)、およびポリエチレングリコール成分(c)からなり、その溶融粘度が測定温度265℃において、100Pa・s以上、200Pa・s以下であり、かつ水溶性溶出成分(WSC)が10重量%以下であるポリエーテルエステルアミド組成物。
【請求項2】
ジカルボン酸成分(a)が芳香族ジカルボン酸である請求項1記載のポリエーテルエステルアミド組成物。
【請求項3】
組成物中のポリエチレングリコールの数平均分子量が1000~5000である請求項1または請求項2に記載のポリエーテルエスエルアミド組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のポリエーテルエステルアミド組成物を構成成分として含む繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維とした際の染色堅牢性・制電性・吸放湿性に優れたポリエーテルエステルアミド組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリエーテルエステルアミド組成物は、主に樹脂成形物の帯電防止剤として用いられ、優れた制電性を付与することが知られている。
【0003】
制電性の特性発現として、特許文献1には熱可塑性ポリマーと、ポリアミドブロックとポリエーテルブロックを有するコポリマーと、ポリマー鎖中に少なくとも1種のイオン性官能基を有するポリマーまたはオリゴマーとから成る帯電防止性ポリマー組成物が例示されている。また、特許文献2には、熱可塑性ポリエステルにポリ(エチレンオキシド)グリコールを共重合したポリエーテルエステルアミドを配合することによって、色調を改善した熱可塑性ポリエステルが記載されている。
【0004】
また、特許文献3には、特定分子量のポリアミドとポリエーテル成分として高分子量のビスフェノール類のエチレンオキシド付加物から誘導されるポリエーテルエステルアミド、およびこのポリエーテルエステルアミドと熱可塑性樹脂とを特定比率とした樹脂組成物が例示されている。また、特許文献4には、特定分子量のポリオキシエチレングリコールとジカルボン酸、特定比率としたラクタムを均一に重合することによって、低硬度かつ透明で親水性を有したポリアミドエラストマーが記載されている。
【0005】
また特許文献5には、ポリエーテルエステルアミドの分子量と分子量分布を制御することによって繊維とした際に優れた吸放湿性・制電性を示すポリエーテルエステルアミド組成物が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002-371189号公報
【特許文献2】特開昭63-120754号公報
【特許文献3】特開平7-330899号公報
【特許文献4】特開平4-146925号公報
【特許文献5】国際公開第2019-167541号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1および2に記載の方法によって得られる樹脂組成物は、繊維化した際に温度20℃・湿度40%RHの条件では比較的高い制電性が得られるものの、制電性の発現に必要な水分を保持するための吸放湿性が不足しているため、低温・低湿度(10℃・10%RH)の条件下ではその制電性が満足できるレベルにない。また、特許文献3に記載の方法で得られる樹脂組成物は、制電性を向上させるために、ポリエーテル成分として芳香族構造を持つポリエチレングリコールを使用しており、制電性は向上するものの、繊維化した際に吸放湿性が満足するレベルにないため、低温・低湿度(10℃・10%RH)の条件下ではその制電性が満足できるレベルにない。また、特許文献4に記載の方法で得られる樹脂組成物は、制電性を有しながら透明かつ親水性を発現させるために、組成物中の各成分の重量分率を制御しており、制電性は発現するものの、繊維化した際に吸放湿性が満足するレベルにないため、低温・低湿度(10℃・10%RH)の条件下ではその制電性が満足できるレベルにない。
【0008】
そして、特許文献5に記載の方法で得られる樹脂組成物は、分子量・分子量分布((数平均分子量(Mn)/重量平均分子量(Mw))を制御することにより、吸放湿性・制電性を向上させるものの、繊維化した後に洗濯した際の色落ちが激しく、染色堅牢度が満足できるレベルにない。
【0009】
本発明者らは、繊維化した際に、極めて優れた吸放湿性・制電性を発現し、さらには、優れた染色堅牢性を発現するポリエーテルエステルアミド組成物を見出した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成からなる。
(1)ジカルボン酸成分(a)、ラクタムまたはアミノカルボン酸を原料とするポリアミド成分(b)、およびポリエチレングリコール成分(c)からなり、その溶融粘度が測定温度265℃において、100Pa・s以上、200Pa・s以下であり、かつ水溶性溶出成分(WSC)が10重量%以下であるポリエーテルエステルアミド組成物。
(2)ジカルボン酸成分(a)が芳香族ジカルボン酸であることを特徴とする(1)に記載のポリエーテルエステルアミド組成物。
(3)組成物中のポリエチレングリコールの数平均分子量が1000~5000であることを特徴とする(1)または(2)に記載のポリエーテルエスエルアミド組成物。
(4)(1)から(3)のいずれか1項に記載のポリエーテルエステルアミド組成物を構成成分として含む繊維。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリエーテルエステルアミド組成物は、繊維とした際に染色堅牢性、吸放湿性および制電性に優れたものを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のポリエーテルエステルアミド組成物は、ジカルボン酸成分(a)、ラクタムまたはアミノカルボン酸を原料とするポリアミド成分(b)、ポリエチレングリコール(PEG)成分(c)からなる。
【0013】
本発明のポリエーテルエステルアミド組成物のジカルボン酸成分(a)は、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン酸等の脂肪族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸等があり、1種または2種以上を混合して用いることができる。好ましいジカルボン酸としては芳香族ジカルボン酸である。芳香族ジカルボン酸を使用するとベンゼン環同士の相互作用で結晶性が増加し、さらにポリマー鎖間の距離が近くなるため溶融粘度が上がり、優れた制電性・吸放湿性を発現する。さらに好ましい芳香族ジカルボン酸としてはテレフタル酸である。ジカルボン酸成分(a)はポリエーテルエステルアミド組成物中の組成量としては、好ましくは1~10重量%である。より好ましくは4.5~7.5重量%である。
【0014】
本発明のポリエーテルエステルアミド組成物のラクタムまたはアミノカルボン酸を原料とするポリアミド成分(b)は、ε-カプロラクタム、バレロラクタム、ラウロラクタム、ウンデカノラクタム等のラクタム、ω-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸であり、1種または2種以上を混合して用いることができる。好ましいラクタムとしてはε-カプロラクタム、アミノカルボン酸としてはω-アミノカプロン酸である。本発明のポリエーテルエステルアミド組成中のポリアミド成分(b)の組成量は、好ましくは34重量%以上、59重量%以下である。より好ましくは35重量%以上、55重量%以下である。34重量%以上、59重量%以下であると、PEG成分(c)との重量比率が最適となり、優れた吸放湿性・制電性を発現しやすい。
【0015】
本発明のポリエーテルエステルアミド組成物のPEG成分(c)の組成量は、好ましくは40重量%以上、65重量%以下である。より好ましくは50重量%以上、60重量%以下である。40重量%以上、65重量%以下であると、ポリアミド成分(b)との重量比率が最適となり、優れた吸放湿性・制電性を発現しやすい。また、65重量%以下とすることで、WSCの増加を抑制することができ、染色堅牢性が良好となる。
【0016】
本発明のポリエーテルエステルアミド組成物のPEGの数平均分子量は、1000~5000であることが好ましい。さらに好ましくは1100以上、3500以下、一層好ましくは1200以上、2500以下である。数平均分子量が1000~5000の範囲にあると、ポリマー中のPEG成分が水分を包含するのに最適となるため、優れた吸放湿性・制電性を示す。なお、PEG成分の数平均分子量は化学処理によって、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)にて同定することができる。
【0017】
本発明のポリエーテルエステルアミド組成物のPEG成分(c)/ジカルボン酸成分(a)のモル比は1.10以上、1.30以下であることが好ましい。より好ましくは1.15以上、1.25以下である。この範囲にあることで優れた染色堅牢性を示す。
【0018】
本発明のポリエーテルエステルアミド組成物の溶融粘度は、測定温度265℃において、100Pa・s以上であることが、繊維とした際の染色堅牢性・制電性・吸放湿性を兼ね備えるために必須である。好ましくは100~150Pa・sである。この範囲にあると、ポリマー分子鎖中のポリアミド成分が結晶化されやすくなり、PEG成分が安定的にポリマー中に保持されるため、優れた制電性・吸放湿性を発現する。また、繊維化する際の紡糸が安定化し、複合糸の芯鞘比率が安定化する。溶融粘度が100Pa・s未満の場合、ポリマー分子鎖中のポリアミド成分が結晶化しにくくなり、PEG成分が保持されにくいため、優れた吸放湿性・制電性を発現しない。また、繊維化する際の紡糸が不安定となり、複合糸の芯鞘比率が安定化しない。
【0019】
本発明のポリエーテルエステルアミド組成物の水溶性溶出成分(WSC)は10重量%以下であることで、繊維化した際に優れた染色堅牢性を発現する。より好ましくは7.5重量%以下であり、さらに好ましくは5重量%以下である。WSCが10重量%以下であるとポリマー中に未反応で残存するPEGや低分子量のポリアミド成分が少ないため、繊維化した際に水や汗によるポリマーの溶出量が減り、優れた染色堅牢性を示しやすくなる。一方で、WSCが10重量%を超える場合、水溶性成分と一緒に定着した染色剤も溶出するため、色が落ちやすくなり染色堅牢度は低下する。
【0020】
また、以下の化合物について目的を損ねない範囲で含有してもよい。例えば、酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤および滑剤(脂肪族アルコール、脂肪族アミド、脂肪族ビスアミド、ビス尿素およびポリエチレンワックス等)、顔料(酸化チタン、硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン、アニリンブラック等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p-オキシ安息香酸オクチル、N-ブチルベンゼンスルホン酸アミド等)、帯電防止剤(4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンオキシド、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組合せ等)、充填剤(グラファイト、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化鉄、硫化亜鉛、亜鉛、鉛、ニッケル、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ベントナイト、モンモリロナイト、合成雲母等の粒子状、繊維状、針状、板状充填剤等)、他の重合体(他のポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ABS樹脂、SAN樹脂、ポリスチレン等)を挙げることができる。
【0021】
本発明のポリエーテルエステルアミド組成物は、例えば以下に示す方法にて得ることができる。
【0022】
まずは、得られるポリエーテルエステルアミド組成物に対する仕込み量として、ラクタムまたはアミノカルボン酸を原料とするポリアミド成分(b)を40~60重量%、ジカルボン酸成分(a)を1~10重量%、PEG成分(c)を35~50重量%添加して、ポリアミド成分とジカルボン酸成分を反応させ、両末端がカルボシキル基であるポリアミド成分を製造する。その製造方法として例えば、酸化による分解・劣化を抑制するため、複数回窒素置換を実施した後に、常圧(101.33kPa)、0.5L/分の窒素気流下で加熱する。加熱時の重合缶内温は好ましくは180℃以上、300℃以下、より好ましくは200℃以上、260℃以下である。加熱中にラクタムの開環・重合反応が起こると同時にジカルボン酸がアミノ末端基に反応し、末端封鎖することによって、両末端がカルボキシル基であるポリアミドが得られる。
【0023】
このポリアミドに、重合触媒を添加して重縮合することにより、ポリアミドの両末端カルボシキル基とPEGのヒドロキシル基がエステル化反応することで、ポリエーテルエステルアミド組成物が得られる。
【0024】
本発明のポリエーテルエステルアミド組成物の製造において、ジカルボン酸成分(a)に対するPEG成分(c)の仕込み量のモル比((c)/(a))は0.8以上、0.9以下である。
【0025】
この範囲にあることで共重合が効率よく進行し、短時間でより高重合度のポリエーテルエステルアミド組成物が得られる。すなわち、ポリマー中に残存する未反応PEG成分が減少し、WSCを10重量%以下に制御できる。
【0026】
また、本発明のポリエーテルエステルアミド組成物の製造において、数平均分子量が1400~6000のPEGを用いる。この範囲にあることで、WSC、溶融粘度を所望の範囲に制御することができ、優れた吸放湿性、制電性、染色堅牢性が得られる。
【0027】
重合触媒としてはチタン系の化合物を用いることが好ましい。チタン系の重合触媒を使用して重縮合することにより、よりポリマーの数平均分子量分布が制御され、吸湿・制電性に優れたポリエーテルエステルアミド組成物が得られる。チタン触媒は立体構造的にPEG成分の酸素元素と安定的な構造を形成しやすいと推定する。したがって、他の金属触媒種に比べ、反応中に触媒が均一に存在できるため、得られるポリマー鎖の長さがより均一となり、分子量分布が制御されると考えられる。特に好ましくはチタンテトラアルコキシド(Ti(OR)4)である。このアルキル基(R)としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基またはヘキサドデシル基等がある。さらに好ましくはチタニウムテトラブトキサイドである。
【0028】
PEGや重合触媒の添加方法は、1回または複数回に分けてもよく、重合反応は減圧下で行い、好ましくは100℃以上、280℃以下、より好ましくは130℃以上、250℃以下で実施する。重合触媒がチタンテトラアルコキシド(Ti(OR)4)の場合は、触媒の加水分解を未然防止するため、減圧を開始する前に添加することが望ましい。また、重合反応は重縮合で生成する水を除去することで進行するため、650Pa以下の減圧条件で実施する。特に原料がε-カプロラクタムでは真空装置に飛散しやすいため、減圧速度は10kPa/分以下が好ましい。得られるポリエーテルエステルアミド組成物の重合度は重合機に備えられた撹拌機のトルクや電力を測定することで反応の終点を決定できる。
【0029】
重合反応中のPEGの熱分解を防ぐため、重合触媒添加後の重合時間は3時間以内にすることが好ましい。さらに好ましくは2時間30分以内である。
【0030】
重合反応を終了した後のポリエーテルエステルアミド組成物は公知の方法でペレタイズするが、本ポリマーは吸湿性が高く、水冷ではストランドが膨潤されるため、例えば冷却したベルト上にストランドを取り出し、空冷した後にペレタイズすることが望ましい。
【0031】
得られたペレットは公知の溶融紡糸、複合紡糸の手法により繊維化することができる。耐久性などを付与するために通常芯鞘構造の複合繊維の芯部として使用される。例えば、ポリアミド(鞘部)とポリエーテルエステルアミド組成物(芯部)を別々に溶融しギヤポンプにて計量・輸送し、そのまま通常の方法で芯鞘構造をとるように複合流を形成して紡糸口金から吐出し、チムニー等の糸条冷却装置によって冷却風を吹き当てることにより糸条を室温まで冷却し、給油装置で給油するとともに集束し、第1流体交絡ノズル装置で交絡し、引き取りローラー、延伸ローラーを通過し、その際引き取りローラーと延伸ローラーの周速度の比に従って延伸する。さらに、糸条を延伸ローラーにより熱セットし、ワインダー(巻取装置)で巻き取る。
【実施例0032】
本発明を実施例で更に具体的に説明する。実施例中の諸特性の測定方法は次のとおりである。
【0033】
[PEG数平均分子量]
組成物ペレットをアンモニア処理後、ゲル浸透クロマトグラフGPC(東ソー社:DP-8020、検出器:昭和電工社 RI201)を用いて23℃で測定した。
【0034】
[ポリアミド成分(b)、PEG成分(c)の定量]
組成物ペレットを重HFIP/重クロロホルム混液(1/1、v/v)に溶解させ、1H-NMRを測定した。それぞれの成分に帰属されるピークより成分量を算出した。
【0035】
[PEG成分(c)/ジカルボン酸成分(a)のモル比]
組成物ペレットを重HFIP/重クロロホルム混液(1/1、v/v)に溶解させ、1H-NMRを測定した。それぞれの成分に帰属されるピークよりPEG成分量(M1)とジカルボン酸成分量(M2)を算出し、各成分量とPEG分子量(MW1)およびジカルボン酸分子量(MW2)から以下の式を用いてモル比を算出した。
PEG成分(c)/ジカルボン酸成分(a)のモル比=(M1/MW1)/(M2/MW2)
[溶融粘度]
組成物ペレットを真空乾燥機にて110℃、4時間乾燥した後、フローテスタ(CFT-500Dリフレッシュ)を用いて測定温度265℃、荷重10kg、滞留時間8分、オリフィス0.5φ×1.0mmlの条件で測定した。
【0036】
[WSC]
組成物ペレットを150μm~425μmのサイズに粉砕した後、秤量瓶に5g(W0)はかり取り、85℃で80分熱風乾燥する。そして乾燥後のチップ重量(W1)を測定し、粉砕ペレットの水分率を以下の式に従い計算する。
水分率(%)=W1/W0
次に、粉砕ペレット2g(W2)とイオン交換水300mlをフラスコに入れ、90℃の熱水に6時間浸けて冷却した後に孔径20~30μmのガラスフィルターで減圧濾過する。そして濾過後のガラスフィルターを75℃で16時間熱風乾燥、70℃、3torrで3時間真空乾燥し、ガラスフィルターに残存するペレット重量(W3)を測定する。そして、以下の式に従いWSCを計算する。
WSC(重量%)=[(W2-W3)/W2]×100-水分率×[100/(100-水分率)]
[吸放湿性(ΔMR)]
組成物ペレットを秤量瓶に1~2gはかり取り、110℃で2時間乾燥させた後の重量(W0)を測定し、次にペレットを20℃、相対湿度65%で24時間保持した後の重量(W65)を測定する。そして、ペレットを30℃、相対湿度90%で24時間保持した後の重量(W90)を測定する。そして、以下の式に従い計算したものである。ΔMRが8%以上で◎、5%以上8%未満で○、5%未満で×とした。
MR65(%)=[(W65-W0)/W0]×100
MR90(%)=[(W90-W0)/W0]×100
ΔMR(%)=MR90-MR65 。
【0037】
[制電性]
繊維とした後に得られた織物を、JIS L1094(織物及び編物の帯電性試験方法、2014年)A法(半減期測定法)、B法(摩擦帯電圧測定法)に従い測定した。なお、環境条件は10℃×10%RH、摩擦布は綿(金巾3号)、たて方向で測定した。700V未満で◎、700以上1000V未満で○、1000V以上で×とした。
【0038】
[染色堅牢度]
繊維とした後に得られた織物を、JIS L0844(洗濯に対する染色堅ろう度試験方法、2009年)、7.1項A法に準じ、表7中のA-2条件にて測定した。判定はJIS L0801(2009)10項(a)の視感法に従って、変退色について級判定を実施した。変退色判定の3級以上を◎、2級以上3級未満を○、2級未満を×とした。
【0039】
(実施例1)
窒素導入管、テフロンコートした撹拌棒を備えた耐圧ガラス製の200mLへそ付試験管に、12.7gのテレフタル酸(成分a)と、76.7gのε-カプロラクタム(成分b)と、11.4gの水と、数平均分子量1450のPEG(成分c)89.8gをそれぞれ添加した。試験管内を7回窒素置換した後、常圧(101.33kPa)、0.5L/分の窒素気流下で内温を250℃まで昇温し、20rpmで2時間撹拌し、ポリアミド成分とジカルボン酸成分を反応させ、両末端がカルボキシル基であるポリアミド成分を合成する。2時間後、重合触媒としてチタニウムテトラブトキサイド750ppm(チタン元素換算で220ppm)添加し、ポリアミドの両末端カルボキシル基とPEGのヒドロキシル基がエステル化反応することで、ポリエーテルエステルアミド組成物を得る。5kPa/分の速度の減圧速度で常圧(101.33kPa)から26.33kPaまで15分間かけて減圧し、さらに0.6kPa/分の速度の減圧速度で26.33kPaから130Paまで45分間かけて減圧した。130Paの圧力で2時間30分重合を行ったところで所定の撹拌機トルク到達したため、反応を終了した。その後、窒素で常圧に戻し、得られたポリマーはへそ部からストランドとして吐出し、空冷しながらセラミックカッタにてペレタイズした。得られたペレットを評価した結果、優れた吸放湿性を示した。結果を表1に示す。
【0040】
得られたポリエーテルエステルアミドペレットを芯部、硫酸相対粘度が2.71であるナイロン6ペレットを鞘部に用いた。芯部溶融部温度240℃、鞘部溶融部温度270℃にて溶融し、紡糸温度265℃、同心円芯鞘複合用口金から芯/鞘比率(重量部)=30/70になるように紡糸した。
【0041】
この時、得られる芯鞘複合繊維の総繊度が22dtexとなるようにギヤポンプの回転数を選定し、それぞれ9g/分の吐出量とした。そして糸条冷却装置で糸条を冷却固化し、給油装置により非含水油剤を給油したのち、第1流体交絡ノズル装置で交絡を付与し、第1ロールである引き取りローラーの周速度を2339m/分、第2ロールである延伸ローラーの周速度を4210m/分で延伸、延伸ローラー150℃により熱セットを行い、巻き取り速度を4000m/分で巻き取り、22dtex10フィラメントの芯鞘複合繊維を得た。
【0042】
(織物の製造)
該芯鞘複合繊維を経糸、緯糸に用い、経密度188本/2.54cm、緯密度155本/2.54cmに設定し平組織で製織した。
【0043】
得られた生機地を常法に従って、1リットル当たり2gの苛性ソーダ(NaOH)を含む溶液でオープンソーパーにより精練し、シリンダー乾燥機にて120℃で乾燥し、次いで170℃にてプレセット、液流染色機により、酸性染料(Nylosan Blue-GFL167%(サンドス社製)1.0%owfを用いて98℃×60分染色処理、合成タンニン(ナイロンフィックス501 センカ社製)3g/lを用いて80℃×20分固着処理を施し、乾燥(120℃)、仕上げセット(175℃)した。その後、カレンダー加工(加工条件:シリンダー加工、加熱ロール表面温度180℃、加熱ロール加重147kN、布走行速度20m/分)を織物の両面に1回施し、密度が経210本/2.54cm、緯で160本/2.54cmである織物を得た。得られた織物を評価した結果、優れた制電性を示した。結果を表2に示す。
【0044】
(実施例2、3)
各成分の仕込み量を表1に示す処方として溶融粘度、WSCを変更した以外は、実施例1と同様の方法にてポリエーテルエステルアミド組成物、及び織物を得た。実施例1と同様の評価を行った結果、実施例1対比、染色堅牢性が若干劣るものの吸放良好な湿性・制電性を兼ね備えていた。結果を表1に示す。
【0045】
(実施例4,5)
各成分の仕込み量を表1に示す処方としてWSCを変更した以外は、実施例1と同様の方法にてポリエーテルエステルアミド組成物、及び織物を得た。実施例1と同様の評価を行った結果、実施例1対比、吸放湿性・制電性が若干劣るものの優れた染色堅牢性を兼ね備えていた。結果を表1に示す。
【0046】
(実施例6~9)
PEGの数平均分子量を2200、3000、4200、5600とし、各成分の仕込み量を表1に示す処方として溶融粘度、WSCを変更した以外は、実施例1と同様の方法にてポリエーテルエステルアミド組成物、及び織物を得た。実施例1と同様の評価を行った結果、実施例1対比、染色堅牢性が若干劣るものの良好な吸放湿性・制電性を兼ね備えていた。結果を表1に示す。
【0047】
(実施例10)
ジカルボン酸成分(a)をアジピン酸とし、各成分の仕込み量を表2に示す処方とした以外は、実施例1と同様の方法にてポリエーテルエステルアミド組成物、及び織物を得た。実施例1と同様の評価を行った結果、実施例1対比若干劣るものの、染色堅牢性・吸放湿性・制電性を兼ね備えていた。結果を表2に示す。
【0048】
(実施例11)
ジカルボン酸成分(a)をセバシン酸とし、各成分の仕込み量を表2に示す処方とした以外は、実施例1と同様の方法にてポリエーテルエステルアミド組成物、及び織物を得た。実施例1と同様の評価を行った結果、実施例1対比若干劣るものの、染色堅牢性・吸放湿性・制電性を兼ね備えていた。結果を表2に示す。
【0049】
(実施例12)
ポリアミド成分(b)をアミノウンデカン酸とし、各成分の仕込み量を表2に示す処方とした以外は、実施例1と同様の方法にてポリエーテルエステルアミド組成物、及び織物を得た。実施例1と同様の評価を行った結果、実施例1対比若干劣るものの、染色堅牢性・吸放湿性・制電性を兼ね備えていた。結果を表2に示す。
【0050】
(比較例1、2)
各成分の仕込み量を表2に示す処方として組成物の溶融粘度、WSCを変更した以外は、実施例1と同様の方法にてポリエーテルエステルアミド組成物、及び織物を得た。実施例1と同様の評価を行った結果、比較例1は吸放湿性・制電性が劣っていた。比較例2は染色堅牢性が劣っていた。結果を表2に示す。
【0051】
(比較例3)
ジカルボン酸成分(a)をアジピン酸、重合触媒を酸化ジルコニウムとし、各成分の仕込み量を表2に示す処方として溶融粘度を変更した以外は、実施例1と同様の方法にてポリエーテルエステルアミド組成物、及び織物を得た。実施例1と同様の評価を行った結果、染色堅牢性を示したが、吸放湿性・制電性で劣っていた。結果を表1に示す。
【0052】
(比較例4、5)
各成分の仕込み量を表2に示す処方としてWSCを変更した以外は、実施例1と同様の方法にてポリエーテルエステルアミド組成物、及び織物を得た。実施例1と同様の評価を行った結果、吸放湿性・制電性は示したが、染色堅牢度が劣っていた。結果を表2に示す。
【0053】
(比較例6)
各成分の仕込み量を表2に示す処方として溶融粘度、WSCを変更した以外は、実施例1と同様の方法にてポリエーテルエステルアミド組成物、及び織物を得た。実施例1と同様の評価を行った結果、染色堅牢性・吸放湿性・制電性が劣っていた。結果を表2に示す。
【0054】
(比較例7)
仕込むPEGの数平均分子量を300とし、各成分の仕込み量を表2に示す処方として溶融粘度を変更した以外は、実施例1と同様の方法にてポリエーテルエステルアミド組成物、及び織物を得た。実施例1と同様の評価を行った結果、染色堅牢性を示したが、吸放湿性・制電性が劣っていた。結果を表2に示す。
【0055】
(比較例8)
仕込むPEGの数平均分子量を8600とし、各成分の仕込み量を表2に示す処方としてWSCを変更した以外は、実施例1と同様の方法にてポリエーテルエステルアミド組成物、及び織物を得た。実施例1と同様の評価を行った結果、吸放湿性・制電性は示したが、染色堅牢度が劣っていた。結果を表2に示す。
【0056】
【0057】