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特開2023-127652バインダー樹脂組成物、スラリー組成物、セパレータ及びリチウムイオン電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127652
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】バインダー樹脂組成物、スラリー組成物、セパレータ及びリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/443 20210101AFI20230907BHJP
   H01M 50/414 20210101ALI20230907BHJP
   H01M 50/411 20210101ALI20230907BHJP
   H01M 50/42 20210101ALI20230907BHJP
   H01M 50/426 20210101ALI20230907BHJP
   H01M 50/434 20210101ALI20230907BHJP
   H01M 50/437 20210101ALI20230907BHJP
   H01M 50/446 20210101ALI20230907BHJP
   H01M 50/449 20210101ALI20230907BHJP
【FI】
H01M50/443 B
H01M50/414
H01M50/411
H01M50/42
H01M50/426
H01M50/434
H01M50/437
H01M50/446
H01M50/449
H01M50/443 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031464
(22)【出願日】2022-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】富田 嘉彦
(72)【発明者】
【氏名】李 維
(72)【発明者】
【氏名】香川 靖之
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 裕理
【テーマコード(参考)】
5H021
【Fターム(参考)】
5H021CC03
5H021CC04
5H021EE01
5H021EE02
5H021EE03
5H021EE06
5H021EE10
5H021EE15
5H021EE20
5H021EE21
5H021EE22
5H021EE28
5H021EE31
5H021EE32
(57)【要約】
【課題】高温になった際にレドックスシャトル剤を電解液中に放出できるリチウムイオン電池を実現可能な、リチウムイオン電池セパレータ用のバインダー樹脂組成物、スラリー組成物及びセパレータ、並びに、高温になった際にレドックスシャトル剤を電解液中に放出できるリチウムイオン電池を提供する。
【解決手段】[1]バインダー樹脂と、レドックスシャトル剤と、を含む、リチウムイオン電池セパレータ用のバインダー樹脂組成物、[2]前記[1]に記載のバインダー樹脂組成物と、無機充填剤と、を含む、リチウムイオン電池セパレータ用のスラリー組成物、[3]セパレータ基材と、前記セパレータ基材の少なくとも一方の面に配置された、前記[1]に記載のバインダー樹脂組成物又は前記[2]に記載のスラリー組成物により形成された機能層と、を備える、リチウムイオン電池用のセパレータ、並びに、[4]正極と、負極と、電解液と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、を備え、前記セパレータが前記[3]に記載のセパレータを含む、リチウムイオン電池である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂と、
レドックスシャトル剤と、
を含む、リチウムイオン電池セパレータ用のバインダー樹脂組成物。
【請求項2】
水性媒体を更に含み、
前記水性媒体に前記バインダー樹脂が粒子状に分散しており、
前記レドックスシャトル剤が、前記バインダー樹脂の粒子中に含まれている、請求項1に記載のバインダー樹脂組成物。
【請求項3】
前記バインダー樹脂がエマルション粒子である、請求項1又は2に記載のバインダー樹脂組成物。
【請求項4】
前記レドックスシャトル剤は、ベンゼン環にヒドロキシ基及びアルコキシ基からなる群より選択される少なくとも一種の官能基が導入された構造を有する化合物を含む、請求項1~3のいずれかに記載のバインダー樹脂組成物。
【請求項5】
前記レドックスシャトル剤は、下記式(1)で示される化合物を含む、請求項1~4のいずれかに記載のバインダー樹脂組成物。
【化1】
(前記式(1)中、R、R、R、R、R及びRで示される置換基は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、アリール基、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のフッ素置換アルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、又は炭素数1~4のフッ素置換アルコキシ基であり、これらの置換基のうち少なくとも1つは、ヒドロキシ基又はアルコキシ基である。)
【請求項6】
前記レドックスシャトル剤は、tert-ブチルカテコール、ヒドロキノンモノメチルエーテル、ヒドロキノン及びジブチルヒドロキシトルエンからなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1~5のいずれかに記載のバインダー樹脂組成物。
【請求項7】
前記バインダー樹脂は、脂肪族共役ジエン/芳香族モノビニル系共重合体、(メタ)アクリル系重合体、フッ素系重合体、(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリルアミド系共重合体、(メタ)アクリロニトリル系重合体、及び芳香族モノビニル/(メタ)アクリル系共重合体からなる群より選択される少なくとも一種を含む、請求項1~6のいずれかに記載のバインダー樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載のバインダー樹脂組成物と、無機充填剤と、を含む、リチウムイオン電池セパレータ用のスラリー組成物。
【請求項9】
セパレータ基材と、
前記セパレータ基材の少なくとも一方の面に配置された、請求項1~7のいずれかに記載のバインダー樹脂組成物又は請求項8に記載のスラリー組成物により形成された機能層と、
を備える、リチウムイオン電池用のセパレータ。
【請求項10】
正極と、負極と、電解液と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、を備え、
前記セパレータが請求項9に記載のセパレータを含む、リチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バインダー樹脂組成物、スラリー組成物、セパレータ及びリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池において、安全性を向上させる観点から、電解液中にレドックスシャトル剤を添加する場合がある。レドックスシャトル剤は酸化還元試薬の一種であり、過充電時にレドックスシャトル剤が正負極間を往復して過充電電流を化学反応により消費することによって、過充電抑制機構を成立させることができる。
このようなレドックスシャトル剤に関する技術としては、例えば、特許文献1及び2に関するものが挙げられる。
【0003】
特許文献1(特開平9-17447号公報)には、負極にリチウムを主体とする金属又は、リチウムをドープ・脱ドープすることが可能な炭素材料を用い、正極にリチウムと遷移金属の複合酸化物を用いてなる非水電解液二次電池において、非水電解液に、ベンゼン環に2つのメトキシ基とハロゲン基が導入された構造の有機化合物を含有することを特徴とする非水電解液二次電池が、エネルギー密度の高い4V以上の電圧のリチウム二次電池(非水電解液二次電池)の過充電保護を低コストで、しかもエネルギー密度を低下させる保護装置なしに提供することができると記載されている。
【0004】
特許文献2(特表2009-514149号公報)には、ビニレンカーボネート類、エチレンカーボネート類、環状亜硫酸塩類及び不飽和サルトン類よりなる群から選ばれた1種以上の化合物を電解液に添加して、電解液中のレドックスシャトル剤と負極との間の反応を抑制し、酸化-還元反応を循環するレドックスシャトル剤の寿命を向上させることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9-17447号公報
【特許文献2】特表2009-514149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電解液中のレドックスシャトル剤は負極と反応してしまい失活してしまう場合がある(特許文献2参照)。そのため、過充電時等に高温になった際にレドックスシャトル剤を電解液中に放出できるリチウムイオン電池が求められている。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、高温になった際にレドックスシャトル剤を電解液中に放出できるリチウムイオン電池を実現可能な、リチウムイオン電池セパレータ用のバインダー樹脂組成物、スラリー組成物及びセパレータ、並びに、高温になった際にレドックスシャトル剤を電解液中に放出できるリチウムイオン電池を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、以下に示すバインダー樹脂組成物、スラリー組成物、セパレータ及びリチウムイオン電池が提供される。
【0009】
[1]
バインダー樹脂と、
レドックスシャトル剤と、
を含む、リチウムイオン電池セパレータ用のバインダー樹脂組成物。
[2]
水性媒体を更に含み、
前記水性媒体に前記バインダー樹脂が粒子状に分散しており、
前記レドックスシャトル剤が、前記バインダー樹脂の粒子中に含まれている、前記[1]に記載のバインダー樹脂組成物。
[3]
前記バインダー樹脂がエマルション粒子である、前記[1]又は[2]に記載のバインダー樹脂組成物。
[4]
前記レドックスシャトル剤は、ベンゼン環にヒドロキシ基及びアルコキシ基からなる群より選択される少なくとも一種の官能基が導入された構造を有する化合物を含む、前記[1]~[3]のいずれかに記載のバインダー樹脂組成物。
[5]
前記レドックスシャトル剤は、下記式(1)で示される化合物を含む、前記[1]~[4]のいずれかに記載のバインダー樹脂組成物。
【化1】
(前記式(1)中、R、R、R、R、R及びRで示される置換基は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、アリール基、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のフッ素置換アルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、又は炭素数1~4のフッ素置換アルコキシ基であり、これらの置換基のうち少なくとも1つは、ヒドロキシ基又はアルコキシ基である。)
[6]
前記レドックスシャトル剤は、tert-ブチルカテコール、ヒドロキノンモノメチルエーテル、ヒドロキノン及びジブチルヒドロキシトルエンからなる群より選択される少なくとも一種を含む、前記[1]~[5]のいずれかに記載のバインダー樹脂組成物。
[7]
前記バインダー樹脂は、脂肪族共役ジエン/芳香族モノビニル系共重合体、(メタ)アクリル系重合体、フッ素系重合体、(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリルアミド系共重合体、(メタ)アクリロニトリル系重合体、及び芳香族モノビニル/(メタ)アクリル系共重合体からなる群より選択される少なくとも一種を含む、前記[1]~[6]のいずれかに記載のバインダー樹脂組成物。
[8]
前記[1]~[7]のいずれかに記載のバインダー樹脂組成物と、無機充填剤と、を含む、リチウムイオン電池セパレータ用のスラリー組成物。
[9]
セパレータ基材と、
前記セパレータ基材の少なくとも一方の面に配置された、前記[1]~[7]のいずれかに記載のバインダー樹脂組成物又は前記[8]に記載のスラリー組成物により形成された機能層と、
を備える、リチウムイオン電池用のセパレータ。
[10]
正極と、負極と、電解液と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、を備え、
前記セパレータが前記[9]に記載のセパレータを含む、リチウムイオン電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高温になった際にレドックスシャトル剤を電解液中に放出できるリチウムイオン電池を実現可能な、リチウムイオン電池セパレータ用のバインダー樹脂組成物、スラリー組成物及びセパレータ、並びに、高温になった際にレドックスシャトル剤を電解液中に放出できるリチウムイオン電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明における実施の形態について説明する。本明細書において、数値範囲の「~」は特に断りがなければ、以上から以下を表す。
【0012】
[バインダー樹脂組成物]
本発明のバインダー樹脂組成物は、バインダー樹脂と、レドックスシャトル剤と、を含む、リチウムイオン電池セパレータ用のバインダー樹脂組成物である。
本発明のバインダー樹脂組成物によれば、高温になった際にレドックスシャトル剤を電解液中に放出できるリチウムイオン電池を実現できる。
このような効果が得られる理由は、以下の通りであると推察される。
【0013】
まず、リチウムイオン電池は、一般に、正極、負極、及び、正極と負極とを隔離して正極と負極との間の短絡を防ぐセパレータを備えている。本発明に係るバインダー樹脂組成物は、リチウムイオン電池内のセパレータに対して機械的強度、結着性、耐熱性等の機能を向上させる機能層の形成に用いることができる。
ここで、リチウムイオン電池が高温になった際に、バインダー樹脂組成物により形成された機能層中のバインダー樹脂が軟化し、バインダー樹脂組成物からなる機能層中に含まれるレドックスシャトル剤が電解液中に放出される。
このようにして、本発明のバインダー樹脂組成物によれば、高温になった際にレドックスシャトル剤を電解液中に放出できるリチウムイオン電池することが実現できる。
【0014】
以下、本発明に係るバインダー樹脂組成物を構成する各成分について説明する。
【0015】
(バインダー樹脂)
バインダー樹脂は、バインダー樹脂組成物又はスラリー組成物を用いてセパレータ基材上に形成した機能層に対して結着性を付与したり、無機充填剤等の成分が機能層から脱離しないように保持したり、機能層を介した電池部材同士の結着を可能にしたりする成分である。
【0016】
バインダー樹脂としては、リチウムイオン電池内において使用可能なものであれば特に限定されないが、結着性を発現しうる単量体を含む単量体組成物を重合してなる重合体が好ましく、付加重合して得られる付加重合体がより好ましい。
このような重合体としては、脂肪族共役ジエン/芳香族モノビニル系共重合体(脂肪族共役ジエン単量体単位及び芳香族モノビニル単量体単位を主として含む重合体)、(メタ)アクリル系重合体((メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を主として含む重合体)、フッ素系重合体(フッ素含有単量体単位を主として含む重合体)、(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリルアミド系共重合体((メタ)アクリル酸単位及び(メタ)アクリルアミド単位を主として含む重合体)、(メタ)アクリロニトリル系重合体((メタ)アクリロニトリル単位を主として含む重合体)、及び芳香族モノビニル/(メタ)アクリル系共重合体(芳香族モノビニル単量体単位及び(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を主として含む重合体)等からなる群から選択される少なくとも一種が好ましく、脂肪族共役ジエン/芳香族モノビニル系共重合体、(メタ)アクリル酸/(メタ)アクリルアミド系共重合体、(メタ)アクリロニトリル系重合体、及び(メタ)アクリル系重合体からなる群から選択される少なくとも一種がより好ましく、脂肪族共役ジエン/芳香族モノビニル系共重合体、(メタ)アクリロニトリル系重合体、及び(メタ)アクリル系重合体からなる群から選択される少なくとも一種が更に好ましい。
ここで、脂肪族共役ジエン単量体単位を形成し得る脂肪族共役ジエン単量体、芳香族モノビニル単量体単位を形成し得る芳香族モノビニル単量体、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体単位を形成し得る(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体、フッ素含有単量体単位を形成し得るフッ素含有単量体は特に限定されず、例えば、バインダー樹脂を形成するための単量体として用いられている公知の各種単量体を使用することができる。
本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及び/又はメタクリルを意味し、「(メタ)アクリロ」とは、アクリロ及び/又はメタクリロを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味し、「(メタ)アリル」とは、アリル及び/又はメタリルを意味する。
また、本明細書において、「単量体単位を含む」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に単量体由来の構造単位が含まれている」ことを意味する。
また、本明細書において、単量体単位を「主として含む」とは、当該単量体単位の含有割合が最も多いことを意味し、複数種の単量体単位を「主として含む」とは、「重合体に含有される全繰り返し単位の量を100質量%とした場合に、当該複数種の単量体単位の含有割合の合計が50質量%を超える」ことを意味する。なお、本明細書において、重合体中の各種単量体単位(繰り返し単位)の含有割合は、H-NMRや13C-NMR等の核磁気共鳴(NMR)法を用いて測定することができる。
【0017】
脂肪族共役ジエン/芳香族モノビニル系共重合体としては、例えば、ブタジエン/スチレン共重合体ゴム、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレンゴム共重合体ゴム等が挙げられる。
フッ素系重合体としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ素ゴム等が挙げられる。
【0018】
バインダー樹脂として使用される重合体は、結着性を向上させる観点から、官能基を含むことが好ましい。
バインダー樹脂に含まれる官能基としては、機能層の結着性及びリチウムイオン電池のレート特性を向上させる観点から、カルボン酸基、ヒドロキシル基、アミノ基、エポキシ基、オキサゾリン基、スルホン酸基、ニトリル基、及びアミド基からなる群から選択される少なくとも一種の官能基が好ましく、カルボン酸基、ヒドロキシル基、アミノ基、エポキシ基、ニトリル基、及びアミド基からなる群から選択される少なくとも一種の官能基がより好ましく、カルボン酸基、エポキシ基、及びニトリル基からなる群から選択される少なくとも一種の官能基が更に好ましい。これらの官能基は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
二種以上の官能基を有する重合体としては、特に限定されないが、例えば、エポキシ基及びニトリル基を有する重合体;カルボン酸基及びニトリル基を有する重合体;カルボン酸基及びヒドロキシル基を有する重合体;カルボン酸基及びアミド基を有する重合体;カルボン酸基、ニトリル基、及びアミノ基を有する重合体;カルボン酸基、エポキシ基、ヒドロキシル基、及びニトリル基を有する重合体;が挙げられる。
【0019】
重合体に特定官能基を導入する方法は特に限定されず、上述した官能基を含有する単量体を用いて重合体を調製し、上述した官能基含有単量体単位を含む重合体を得てもよいし、任意の重合体を末端変性することにより、上述した官能基を末端に有する重合体を得てもよい。
【0020】
ここで、カルボン酸基含有単量体単位を形成しうるカルボン酸基含有単量体としては、モノカルボン酸及びその誘導体や、ジカルボン酸及びその酸無水物並びにそれらの誘導体等が挙げられる。
モノカルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等が挙げられる。
モノカルボン酸誘導体としては、例えば、2-エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α-アセトキシアクリル酸、β-trans-アリールオキシアクリル酸、α-クロロ-β-E-メトキシアクリル酸等が挙げられる。
ジカルボン酸としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。
ジカルボン酸誘導体としては、例えば、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸や、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキル等のマレイン酸モノエステルが挙げられる。
ジカルボン酸の酸無水物としては、例えば、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸等が挙げられる。
また、カルボン酸基含有単量体としては、例えば、加水分解によりカルボン酸基を生成する酸無水物も使用できる。中でも、カルボン酸基含有単量体としては、アクリル酸及びメタクリル酸が好ましい。カルボン酸基含有単量体は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0021】
ヒドロキシル基含有単量体単位を形成しうるヒドロキシル基含有単量体としては、例えば、(メタ)アリルアルコール、3-ブテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール等のエチレン性不飽和アルコール;アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、マレイン酸ジ-2-ヒドロキシエチル、マレイン酸ジ-4-ヒドロキシブチル、イタコン酸ジ-2-ヒドロキシプロピル等のエチレン性不飽和カルボン酸のアルカノールエステル類;一般式:CH2=CRa-COO-(Cq2qO)p-H(式中、pは2~9の整数、qは2~4の整数、Raは水素原子又はメチル基を表す)で表されるポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル類;2-ヒドロキシエチル-2’-(メタ)アクリロイルオキシフタレート、2-ヒドロキシエチル-2’-(メタ)アクリロイルオキシサクシネート等のジカルボン酸のジヒドロキシエステルのモノ(メタ)アクリル酸エステル類;2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、2-ヒドロキシプロピルビニルエーテル等のビニルエーテル類;(メタ)アリル-2-ヒドロキシエチルエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル-3-ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル-3-ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル-4-ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル-6-ヒドロキシヘキシルエーテル等のアルキレングリコールのモノ(メタ)アリルエーテル類;ジエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル等のポリオキシアルキレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル類;グリセリンモノ(メタ)アリルエーテル、(メタ)アリル-2-クロロ-3-ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシ-3-クロロプロピルエーテル等の、(ポリ)アルキレングリコールのハロゲン及びヒドロキシ置換体のモノ(メタ)アリルエーテル;オイゲノール、イソオイゲノール等の多価フェノールのモノ(メタ)アリルエーテル及びそのハロゲン置換体;(メタ)アリル-2-ヒドロキシエチルチオエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシプロピルチオエーテル等のアルキレングリコールの(メタ)アリルチオエーテル類;N-ヒドロキシメチルアクリルアミド(N-メチロールアクリルアミド)、N-ヒドロキシメチルメタクリルアミド、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド、N-ヒドロキシエチルメタクリルアミド等のヒドロキシル基を有するアミド類等が挙げられる。ヒドロキシル基含有単量体は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0022】
アミノ基含有単量体単位を形成しうるアミノ基含有単量体としては、例えば、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アミノエチルビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテル等が挙げられる。アミノ基含有単量体は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0023】
エポキシ基含有単量体単位を形成しうるエポキシ基含有単量体としては、例えば、炭素-炭素二重結合及びエポキシ基を含有する単量体が挙げられる。
炭素-炭素二重結合及びエポキシ基を含有する単量体としては、例えば、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブテニルグリシジルエーテル、o-アリルフェニルグリシジルエーテル等の不飽和グリシジルエーテル;ブタジエンモノエポキシド、クロロプレンモノエポキシド、4,5-エポキシ-2-ペンテン、3,4-エポキシ-1-ビニルシクロヘキセン、1,2-エポキシ-5,9-シクロドデカジエン等のジエン又はポリエンのモノエポキシド;3,4-エポキシ-1-ブテン、1,2-エポキシ-5-ヘキセン、1,2-エポキシ-9-デセン等のアルケニルエポキシド;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルクロトネート、グリシジル-4-ヘプテノエート、グリシジルソルベート、グリシジルリノレート、グリシジル-4-メチル-3-ペンテノエート、3-シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステル、4-メチル-3-シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステル、等の、不飽和カルボン酸のグリシジルエステル類;が挙げられる。エポキシ基含有単量体は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0024】
オキサゾリン基含有単量体単位を形成しうるオキサゾリン基含有単量体としては、例えば、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリン等が挙げられる。オキサゾリン基含有単量体は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0025】
スルホン酸基含有単量体単位を形成しうるスルホン酸基含有単量体としては、例えば、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸-2-スルホン酸エチル、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸等が挙げられる。スルホン酸基含有単量体は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0026】
ニトリル基含有単量体単位を形成しうるニトリル基含有単量体としては、例えば、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体等が挙げられる。具体的には、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β-エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル;α-クロロアクリロニトリル、α-ブロモアクリロニトリル等のα-ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリル等のα-アルキルアクリロニトリル;等が挙げられる。ニトリル基含有単量体は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0027】
アミド基含有単量体単位を形成しうるアミド基含有単量体としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド等が挙げられる。アミド基含有単量体は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0028】
本発明に係るバインダー樹脂組成物は、水性媒体を更に含み、水性媒体にバインダー樹脂が粒子状に分散していることが好ましい。こうすることで、レドックスシャトル剤が、バインダー樹脂の粒子中に含まれるため、使用時や保管時におけるレドックスシャトル剤の電解液中への溶出をより一層抑制することができる。
【0029】
バインダー樹脂としての重合体の調製方法は特に限定されない。バインダー樹脂としての重合体は、例えば、上述した単量体を含む単量体組成物を水系溶媒中で重合することにより製造される。なお、単量体組成物中の各単量体の含有割合は、重合体中の所望の単量体単位(繰り返し単位)の含有割合に準じて定めることができる。
なお、重合様式は、特に制限なく、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法等のいずれの方法も用いることができる。また、重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合、各種縮合重合、付加重合等いずれの反応も用いることができる。そして、重合に際しては、必要に応じて乳化剤や重合開始剤を使用することができる。
これらの中でも、バインダー樹脂は、乳化重合法により製造することが好ましい。乳化重合法を用いると、バインダー樹脂をラテックス粒子で得ることができる。
また、バインダー樹脂はエマルション粒子であって、水性媒体に分散させてエマルション水溶液として用いることが好ましい。
【0030】
本発明に係るバインダー樹脂の体積平均粒子径は、結着性を向上させる観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、更に好ましくは50nm以上、更に好ましくは100nm以上、更に好ましくは130nm以上であり、リチウムイオン電池のレート特性を向上させる観点から、好ましくは1000nm以下、より好ましくは600nm以下、更に好ましくは400nm以下、更に好ましくは200nm以下、更に好ましくは170nm以下である。
上記体積平均粒子径としては、レーザー回折式粒子径分布測定装置を用いて測定された粒子径分布(体積基準)において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径D50を採用することができる。
【0031】
本発明に係るバインダー樹脂のガラス転移温度は、使用時や保管時におけるレドックスシャトル剤の電解液中への溶出を抑制する観点から、好ましくは-50℃以上、より好ましくは-40℃以上、更に好ましくは-30℃以上であり、高温時におけるレドックスシャトル剤の電解液中への溶出を向上させる観点から、好ましくは150℃以下、より好ましくは100℃以下、更に好ましくは80℃以下である。
ここで、本明細書において、「ガラス転移温度」は実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0032】
本発明に係るバインダー樹脂組成物中のバインダー樹脂の含有量は、バインダー樹脂及びレドックスシャトル剤の合計量を100質量部としたとき、結着性を向上させる観点から、好ましくは50質量部以上、より好ましくは70質量部以上、更に好ましくは80質量部以上、更に好ましくは90質量部以上、更に好ましくは95質量部以上、更に好ましくは97質量部以上であり、イオン伝導度の低下を抑制し、入出力特性や電池寿命等の電池特性への影響を抑制する観点から、好ましくは99.99質量部以下、より好ましくは99.9質量部以下、更に好ましくは99.7質量部以下、更に好ましくは99.5質量部以下である。
【0033】
(レドックスシャトル剤)
レドックスシャトル剤としては、可逆性酸化還元電位を有する化合物であって、該酸化還元電位の値が、設定すべき過充電電位の近傍にある化合物が好ましい。ここで「可逆性酸化還元電位を有する」とは、電極においてその化合物の分解や重合等の不可逆反応が起き難く、当該化合物が、その酸化体と還元体との間で繰り返し相互に行き来する反応が起こることをいう。本明細書中、用語「可逆性酸化還元電位」は、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定により求めたもののである。
また、「設定すべき過充電電位」は、正極活物質の種類によって異なり、非水系電解液の分解等の非可逆反応が起こらない範囲で各電池製造業者によって定められる。例えば、正極にLiCoO、負極にグラファイトを使用したリチウムイオン電池の場合は4.2~4.4V程度、正極にLiMn、負極にグラファイトを使用したリチウムイオン電池の場合は4.0~4.2V程度、正極にLiFePO4、負極にグラファイトを使用したリチウムイオン電池の場合は3.6~3.8V程度に設定されることが多い。また、「近傍」とは設定すべき過充電電位に対して、±0.05Vであることが好ましい。
【0034】
レドックスシャトル剤の分子量は、電解液中における拡散性を向上させる観点から、好ましくは100以上、より好ましくは110以上、更に好ましくは120以上であり、そして、好ましくは500以下、より好ましくは400以下、更に好ましくは300以下、更に好ましくは250以下、更に好ましくは200以下である。
【0035】
レドックスシャトル剤として、ベンゼン環にヒドロキシ基及びアルコキシ基からなる群より選択される少なくとも一種の官能基が導入された構造を有する化合物が好ましく、下記式(1)で示される化合物がより好ましい。
【0036】
【化2】
ここで、前記式(1)中、R、R、R、R、R及びR(以下、「R~R」と表記する。)で示される置換基は、それぞれ独立して、水素原子、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、アリール基、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のフッ素置換アルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、又は炭素数1~4のフッ素置換アルコキシ基であり、これらの置換基のうち少なくとも1つは、ヒドロキシ基又はアルコキシ基である。
【0037】
ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子等が挙げられる。また、アリール基としては、例えば、フェニル基等が挙げられる。炭素数1~4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基及びtert-ブチル基等が挙げられる。炭素数1~4のフッ素置換アルキル基としては、例えば、トリフルオロメチル基等が挙げられる。炭素数1~4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基及びtert-ブトキシ基等が挙げられる。炭素数1~4のフッ素置換アルコキシ基としては、例えば、モノフルオロメトキシ基、ジフルオロメトキシ基、2,2,2-トリフルオロエトキシ基及び2,2,3,3,-テトラフルオロプロポキシ基等が挙げられる。置換基は、これらの置換基のいずれの組み合わせであってもよい。
【0038】
前記式(1)で示される化合物の中でも、tert-ブチルカテコール、ヒドロキノンモノメチルエーテル、ヒドロキノン及びジブチルヒドロキシトルエンからなる群より選択される少なくとも一種が好ましい。
【0039】
本発明に係るバインダー樹脂組成物中のレドックスシャトル剤の含有量は、バインダー樹脂及びレドックスシャトル剤の合計量を100質量部としたとき、酸化還元反応の循環作用による過充電防止効果を向上させる観点から、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.3質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上であり、イオン伝導度の低下を抑制し、入出力特性や電池寿命等の電池特性への影響を抑制する観点から、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下、更に好ましくは20質量部以下、更に好ましくは10質量部以下、更に好ましくは5質量部以下、更に好ましくは3質量部以下である。
【0040】
(水系媒体)
本発明に係る水系媒体についてはバインダー樹脂を分散できるものであれば特に限定されないが、例えば、蒸留水、イオン交換水、市水、工業用水等を使用できる。これらの中でも、蒸留水やイオン交換水が好ましい。また、水には、アルコール等の水と親水性の高い溶媒を混合させてもよい。
【0041】
本発明に係るバインダー樹脂組成物中のバインダー樹脂及びレドックスシャトル剤の合計含有量は、本発明に係るバインダー樹脂組成物の全体を100質量%としたとき、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
【0042】
本発明に係るバインダー樹脂組成物のpH値は、貯蔵安定性を向上させる観点から、例えば、4以上9以下である。
【0043】
(その他の成分)
本発明に係るバインダー樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、バインダー樹脂、レドックスシャトル剤及び水系媒体以外の成分を含んでもよい。その他の成分としては、有機溶媒、増粘剤、pH調整剤等が挙げられる。
これらの添加剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
本発明に係るバインダー樹脂組成物の調製方法は、特に限定されないが、例えば、水系媒体及びレドックスシャトル剤の存在下で、バインダー樹脂を重合することによって調製することができる。
【0045】
[スラリー組成物]
本発明に係るスラリー組成物は、前述した本発明に係るバインダー樹脂組成物と、無機充填剤と、を含むリチウムイオン電池セパレータ用のスラリー組成物である。
本発明に係るスラリー組成物は、リチウムイオン電池内のセパレータに対して機械的強度、結着性、耐熱性等の機能を向上させる機能層の形成に用いることができる。すなわち、本発明に係る機能層は、本発明に係るバインダー樹脂組成物又は本発明に係るスラリー組成物から形成される。
【0046】
(無機充填剤)
無機充填剤としては、例えば、アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム等の炭化物;硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸物;水酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウム等の水酸化物;タルク、カオリナイト、ディカイト、ナクライト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂、ガラス等のケイ酸物;チタン酸カリウム等が挙げられ、好ましくは酸化物、水酸化物であり、より好ましくは酸化アルミニウム、水酸化酸化アルミニウムである。
【0047】
本発明に係るスラリー組成物中の無機充填剤の含有量は、バインダー樹脂と無機充填剤の合計を100質量部としたとき、例えば、50質量部以上99.7質量部以下である。
【0048】
(その他の成分)
本発明に係るスラリー組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明に係るバインダー樹脂組成物及び無機充填剤以外の成分を含んでもよい。その他の成分としては、分散剤、有機溶媒、増粘剤、湿潤剤、消泡剤、発泡剤、pH調整剤、難燃剤、有機微粒子、前記バインダー樹脂とは組成及び性状の異なる他の重合体、濡れ剤、粘度調整剤、電解液添加剤等の機能層に添加しうる添加剤が挙げられる。
これらの添加剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
本発明に係るスラリー組成物の調製方法は、特に限定されず、上述した成分を混合することで調製することができる。
【0050】
[セパレータ]
本発明に係るセパレータは、セパレータ基材と、前記セパレータ基材の少なくとも一方の面に配置された、前述した本発明に係るバインダー樹脂組成物又はスラリー組成物により形成された機能層と、を備える、リチウムイオン電池用のセパレータである。
本発明に係るセパレータは、本発明に係るバインダー樹脂組成物又はスラリー組成物により形成されている機能層を備えるため、リチウムイオン電池が高温になった際に機能層中のレドックスシャトル剤を電解液中に放出することができる。
【0051】
(セパレータ基材)
セパレータ基材としては、特に限定されないが、例えば、有機セパレータ基材、無機セパレータ基材等のセパレータ基材が挙げられ、有機セパレータ基材が好ましい。
有機セパレータ基材は、有機材料からなる多孔性部材であり、強度を向上させる観点から、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂や芳香族ポリアミド樹脂等を含む微多孔膜又は不織布が好ましく、ポリオレフィン樹脂製の微多孔膜又は不織布がより好ましく、ポリエチレン製の微多孔膜又は不織布が更に好ましい。
【0052】
セパレータ基材の厚みは、強度を向上させる観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは5μm以上であり、リチウムイオン電池のレート特性を向上させる観点から、好ましくは40μm以下、より好ましくは30μm以下、更に好ましくは20μm以下である。
【0053】
機能層は、上述した通り、本発明に係るバインダー樹脂組成物又はスラリー組成物により形成されている。
機能層中に含まれている各成分は、溶媒等の揮発成分を除いて、本発明に係るバインダー樹脂組成物又はスラリー組成物中に含まれていたものであるため、各成分の好適な含有量は、本発明に係るバインダー樹脂組成物又はスラリー組成物中の各成分の好適な含有量と同じである。
【0054】
セパレータ基材上に機能層を形成する方法としては、例えば、本発明に係るバインダー樹脂組成物又はスラリー組成物をセパレータ基材の表面に塗布し、次いで乾燥する方法;本発明に係るバインダー樹脂組成物又はスラリー組成物にセパレータ基材を浸漬後、これを乾燥する方法;本発明に係るバインダー樹脂組成物又はスラリー組成物を離型基材上に塗布し、乾燥して機能層を製造し、得られた機能層を基材の表面に転写する方法等が挙げられる。
【0055】
機能層の厚みは、機械的強度、結着性、耐熱性等の機能を向上させる観点から、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは1μm以上、更に好ましくは3μm以上であり、リチウムイオン電池のレート特性を向上させる観点から、好ましくは10μm以下、より好ましくは8μm以下である。
【0056】
[リチウムイオン電池]
本発明に係るリチウムイオン電池は、正極と、負極と、電解液と、前記正極と前記負極との間に配置されたセパレータと、を備え、前記セパレータが前述した本発明に係るセパレータを含む、リチウムイオン電池である。本発明に係るリチウムイオン電池は、本発明に係るバインダー樹脂組成物又はスラリー組成物により形成されている機能層を有するセパレータを備えるため、リチウムイオン電池が高温になった際に機能層中のレドックスシャトル剤を電解液中に放出することができる。そのため、本発明に係るリチウムイオン電池は、使用時や保管時において、電解液中のレドックスシャトル剤が負極と反応してしまい失活してしまうことを抑制することができる。
【0057】
(正極及び負極)
正極及び負極としては、特に限定されず、リチウムイオン電池用の正極及び負極を用いることができる。
正極としては、例えば、正極用集電体と、正極用集電体に積層された正極活物質とを備える電極が挙げられる。正極用集電体としては、例えば、アルミニウム箔、チタン箔、ステンレス鋼箔、ニッケル箔、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス等が挙げられる。正極活物質としては、例えば、リチウム含有遷移金属酸化物、リチウム含有リン酸塩、リチウム含有硫酸塩等が挙げられる。これらの正極活物質は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
負極としては、例えば、負極用集電体と、負極用集電体に積層された負極活物質とを備える電極が挙げられる。負極用集電体としては、例えば、銅箔やニッケル箔等が挙げられる。負極活物質としては、例えば、グラファイト、ソフトカーボン、ハードカーボン等の炭素活物質等が挙げられる。これらの負極活物質は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0058】
(電解液)
電解液としては、例えば、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液を用いることができる。
支持電解質としては、例えば、リチウム塩を用いることができる。リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlCl、LiClO、CFSOLi、CSOLi、CFCOOLi、(CFCO)NLi、(CFSONLi、及び(CSO)NLi等からなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。これらの中でも、LiPF、LiClO、及びCFSOLiからなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。支持電解質は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ビニレンカーボネート(VC)等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;等からなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。
また、これらの有機溶媒の混合液を用いてもよい。これらの中でも、誘電率及び安定な電位領域が良好である観点から、カーボネート類が好ましい。
【0060】
本発明に係るリチウムイオン電池は、例えば、正極と負極とをセパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて、巻く、折る等して電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することで製造することができる。また、電池容器には、必要に応じて、エキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子等の過電流防止素子、リード板等を入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をしてもよい。電池の形状としては、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型等が挙げられる。
【0061】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【実施例0062】
以下、本実施形態を、実施例・比較例を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0063】
実施例1
攪拌機及び還流冷却付きのセパラブルフラスコに、蒸留水200質量部、レドックスシャトル剤であるtert-ブチルカテコール1質量部、及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(乳化剤)0.1質量部を仕込み、70℃まで昇温させた。次いで、セパラブルフラスコに過硫酸カリウム(開始剤)2.2質量部を添加した。
次いで、下記モノマー成分、蒸留水100質量部、及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(乳化剤)0.3質量部を混合撹拌し、乳化液を得た。得られた乳化液を窒素ガスで置換した上記のセパラブルフラスコに、70℃で180分かけて連続的に添加した。その後、75℃で4時間撹拌し、重合を完結させた。これにより、バインダー樹脂の水分散液として、リチウムイオン電池セパレータ用のバインダー樹脂組成物を得た。バインダー樹脂組成物の固形分濃度は25.0質量%であり、バインダー樹脂のガラス転移温度は-24℃であり、バインダー樹脂の体積平均粒子径は120nmであった。バインダー樹脂の体積平均粒子径はレーザー回折式粒子径分布測定装置(大塚電子株式会社製、濃厚系粒子径アナライザー FPAR1000)を用いて測定し、粒子径分布(体積基準)において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径D50を示す。
(モノマー成分)
n-ブチルアクリレート 41質量部
エチルアクリレート 42質量部
アクリロニトリル 15質量部
グリシジルメタクリレート 2質量部
【0064】
また、バインダー樹脂のガラス転移温度(Tg、単位:℃)を、下記のFOX式により算出した。
1/Tg=W/Tg+W/Tg+・・・+W/Tg (1)
[式中、Tgは共重合体のガラス転移温度(単位:K)、Tg(i=1、2、・・・n)は、単量体iが単独重合体を形成するときのガラス転移温度(単位:K)、W(i=1、2、・・・n)は、単量体iの全単量体中の質量分率を表す。]
【0065】
実施例2
攪拌機及び還流冷却付きのセパラブルフラスコに、蒸留水200質量部、レドックスシャトル剤であるヒドロキノンモノメチルエーテル1質量部、及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(乳化剤)0.1質量部を仕込み、70℃まで昇温させた。次いで、セパラブルフラスコに過硫酸カリウム(開始剤)2.2質量部を添加した。
次いで、下記モノマー成分、蒸留水100質量部、及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(乳化剤)0.3質量部を混合撹拌し、乳化液を得た。得られた乳化液を窒素ガスで置換した上記のセパラブルフラスコに、70℃で180分かけて連続的に添加した。その後、75℃で4時間撹拌し、重合を完結させた。これにより、バインダー樹脂の水分散液として、リチウムイオン電池セパレータ用のバインダー樹脂組成物を得た。バインダー樹脂組成物の固形分濃度は25.1質量%であり、バインダー樹脂のガラス転移温度は49℃であり、バインダー樹脂の体積平均粒子径は150nmであった。
(モノマー成分)
アクリロニトリル 42質量部
n-ブチルアクリレート 25質量部
メタクリル酸 3質量部
スチレン 30質量部
【0066】
比較例1
攪拌機及び還流冷却付きのセパラブルフラスコに、蒸留水200質量部を仕込み、70℃まで昇温させた。次いで、セパラブルフラスコに過硫酸カリウム(開始剤)1.5質量部及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(乳化剤)0.1質量部を添加した。
次いで、下記モノマー成分、蒸留水100質量部、及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(乳化剤)0.3質量部を混合撹拌し、乳化液を得た。得られた乳化液を窒素ガスで置換した上記のセパラブルフラスコに、70℃で180分かけて連続的に添加した。その後、75℃で4時間撹拌し、重合を完結させた。これにより、バインダー樹脂組成物を得た。バインダー樹脂組成物の固形分濃度は25.0質量%であり、バインダー樹脂のガラス転移温度は49℃であり、バインダー樹脂の体積平均粒子径は130nmであった。
(モノマー成分)
アクリロニトリル 42質量部
n-ブチルアクリレート 25質量部
メタクリル酸 3質量部
スチレン 30質量部
【0067】
[評価]
(1)水中のレドックスシャトル剤(「RS剤」ともいう)の量
実施例1及び2で得られたバインダー樹脂組成物を、超遠心分離装置(エッペンドルフ・ハイマック・テクノロジーズ社製、製品名:HITACHI Micro Ultracentrifuge CS100FNX)にて85000rpmで1時間遠心し、得られた上澄みをイソプロパノール(IPA)に溶解後、GC/MSに供し、バインダー樹脂組成物における水中に溶解しているレドックスシャトル剤の量を定量した。
(GC-MS装置)
Agilent7890B-5977(アジレントテクノロジー社製)
注入口:240℃
カラム:DB-WAX30m×0.25mmID×0.25μm
カラム流量:1.7mL/分(定流量制御、平均線速度:30cm/秒)
スプリット比:10/1
昇温条件:40℃で3分間保持後、昇温速度10℃/分で250℃まで昇温し、その後、250℃で10分間保持
測定モード:SIM(選択イオンモニタリング)
定量イオン:m/z57
【0068】
(2)電解液中のレドックスシャトル剤の量
実施例1及び2で得られたバインダー樹脂組成物を常温で乾燥し、試料片を作製した。得られた試料片を、エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)/エチルメチルカーボネート(EMC)=3/2/5(体積比)の割合で調製した電解液に、浸漬条件25℃1時間、及び70℃1時間の2条件でそれぞれ浸漬した。
また、比較例1で得られたバインダー樹脂組成物を常温で乾燥し、得られた試料片を、前記電解液に浸漬し、レドックスシャトル剤としてtert-ブチルカテコールをバインダー樹脂100質量部に対して1質量部の比率で加えた。
各電解液中に存在するレドックスシャトル剤について、前記(1)と同様に、IPAに溶解後、GC/MSに供し、各電解液中に溶解しているレドックスシャトル剤の量を定量した。
【0069】
(評価結果)
以上の評価結果を表1にまとめた。
【0070】
【表1】
【0071】
実施例1及び2において、バインダー樹脂組成物における水中のレドックスシャトル剤の量が0ppmであることから、バインダー樹脂のエマルション粒子中にレドックスシャトル剤が含まれていることが分かった。
また、実施例1及び2のバインダー樹脂組成物は、25℃の電解液中に浸漬させた場合に比べて、70℃の電解液に浸漬させた方が、電解液中のレドックスシャトル剤の量が多いことが分かった。すなわち、本発明に係るバインダー樹脂組成物によれば、高温になった際にレドックスシャトル剤を電解液中に放出できることが理解できる。