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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127653
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】液圧回転装置
(51)【国際特許分類】
   F04B 1/126 20200101AFI20230907BHJP
   F04B 1/2035 20200101ALI20230907BHJP
   F04B 1/22 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
F04B1/126
F04B1/2035
F04B1/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031465
(22)【出願日】2022-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒田 裕一朗
(72)【発明者】
【氏名】吉田 伊吹
(72)【発明者】
【氏名】永石 雄飛
【テーマコード(参考)】
3H070
【Fターム(参考)】
3H070AA01
3H070BB04
3H070BB06
3H070CC07
3H070DD01
3H070DD17
(57)【要約】      (修正有)
【課題】押え板の最外周縁部分に大きなトルクが発生することを抑制できる液圧回転装置を提供する。
【解決手段】回転軸と、回転軸に相対回転不能に設けられているシリンダブロックと、複数のシリンダ室の各々に挿通されている複数のピストンと、複数のピストンの各々に設けられている複数のシューと、摺動面が回転軸に対して斜めに傾くように配置されている斜板と、複数のシューを斜板に向かって押圧する押え板と、押え板を介して複数のシューを斜板に向かって押圧する球面ブッシュと、を備え、押え板は、斜板と接する主面と反対側の裏面に、径方向外方に進むにつれて主面に近づくように傾斜する外周縁テーパ部を含み、外周縁テーパ部は、押え板本体の外周面において外周縁テーパ部が主面の部分より大きい厚みを有しており、シリンダブロックの先端面には、複数のシリンダ室の開口部に、先端面から窪む窪みが形成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、
周方向に間隔をあけて配置されている複数のシリンダ室と該複数のシリンダ室が開口する先端面を含み、前記回転軸に相対回転不能に設けられているシリンダブロックと、
前記複数のシリンダ室の各々に挿通されている複数のピストンと、
前記複数のピストンの各々に設けられている複数のシューと、
前記複数のシューが配置される摺動面を有し、該摺動面が前記回転軸に対して斜めに傾くように配置されている斜板と、
前記周方向に間隔をあけて配置され前記複数のシューが挿通される複数の挿通孔を有し、前記複数のシューを前記斜板に向かって押圧する押え板と、
前記押え板を介して前記複数のシューを前記斜板に向かって押圧する球面ブッシュと、
を備え、
前記押え板は、前記斜板と接する主面と反対側の裏面に、前記複数の挿通孔のピッチサークルより径方向外側を形成始点とし、径方向外方に進むにつれて前記主面に近づくように傾斜する外周縁テーパ部を含み、前記外周縁テーパ部は、押え板本体の外周面において前記外周縁テーパ部が前記主面の部分より大きい厚みを有しており、
前記シリンダブロックの前記先端面には、前記複数のシリンダ室の開口部に、前記先端面から窪む窪みが形成されている、
液圧回転装置。
【請求項2】
前記押え板は、前記外周縁テーパ部が平坦に形成されている、請求項1に記載の液圧回転装置。
【請求項3】
前記窪みは、前記シリンダ室の前記開口部に形成された座ぐりである、請求項1又は2に記載の液圧回転装置。
【請求項4】
前記座ぐりは、前記シリンダ室の直径に対して2%乃至12%の所定幅寸法である、請求項3に記載の液圧回転装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、回転軸の周囲に複数の液圧ピストンを有する液圧回転装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、斜板ポンプ及び斜板モータ等の液圧回転装置が種々の機械で使用されている。液圧回転装置は、複数本のピストンが往復運動するシリンダ室を有するシリンダブロックと、ピストンの凸球部が転動可能に嵌り込む凹所を有するシューを斜板に押圧する押え板を有している。
【0003】
この種の先行技術の一例として、例えば特許文献1の斜板形油圧ポンプがある。特許文献1の斜板形油圧ポンプでは、押え板が、斜板に臨む側と反対側の面の一側面が傾斜面とされている。この押え板は、傾斜面によって内周縁から径方向外側に進むにつれて厚みが小さくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10-288147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液圧回転装置は、使用されている機械によっては、外力を受けて回転軸が過大な回転数で回転することがある。回転軸に過剰な回転が生じた場合、押え板は、上死点に位置するピストンから大きな慣性力を受ける。この慣性力により、押え板は上死点位置付近の部分がシリンダブロックの方へと倒れ込むように撓むことがある。ここで上死点位置とは、回転軸周りの位置であってピストンが上死点に達した際の位置である。特許文献1の押え板では、内周縁から径方向外側に進むにつれて厚みが小さくなっているので、上死点位置付近において傾斜面の最外周縁部分がシリンダブロックと当接する。そうすると、シリンダブロックのシリンダ室に大きな押圧力が作用するおそれがある。
【0006】
そこで、本出願は、シリンダブロックのシリンダ室に大きな押圧力が作用することを抑制できる液圧回転装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本出願は、回転軸と、周方向に間隔をあけて配置されている複数のシリンダ室と該複数のシリンダ室が開口する先端面を含み、前記回転軸に相対回転不能に設けられているシリンダブロックと、前記複数のシリンダ室の各々に挿通されている複数のピストンと、前記複数のピストンの各々に設けられている複数のシューと、前記複数のシューが配置される摺動面を有し、該摺動面が前記回転軸に対して斜めに傾くように配置されている斜板と、前記周方向に間隔をあけて配置され前記複数のシューが挿通される複数の挿通孔を有し、前記複数のシューを前記斜板に向かって押圧する押え板と、前記押え板を介して前記複数のシューを前記斜板に向かって押圧する球面ブッシュと、を備え、前記押え板は、前記斜板と接する主面と反対側の裏面に、前記複数の挿通孔のピッチサークルより径方向外側を形成始点とし、径方向外方に進むにつれて前記主面に近づくように傾斜する外周縁テーパ部を含み、前記外周縁テーパ部は、押え板本体の外周面において前記外周縁テーパ部が前記主面の部分より大きい厚みを有しており、前記シリンダブロックの前記先端面には、前記複数のシリンダ室の開口部に、前記先端面から窪む窪みが形成されている、液圧回転装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本出願によれば、シリンダブロックのシリンダ室に大きな押圧力が作用することを抑制できる液圧回転装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本出願の一実施形態に係る液圧回転装置を示す断面図である。
図2図2は、図1の液圧回転装置に領域Xで示す部分の拡大断面図である。
図3図3は、図1の液圧回転装置に備わる押え板を示す拡大断面図である。
図4図4は、図3に示す押え板の正面図である。
図5図5は、図1の液圧回転装置において、シリンダブロックが高速回転した際の押え板の挙動を示す拡大断面図である。
図6図6は、図1の液圧回転装置に備わるシリンダブロックのシリンダ室を示す平面図である。
図7図7は、図6に示すシリンダ室の開口部の断面図である。
図8図8は、図7に示すシリンダ室の開口部とは異なる開口部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本出願に係る液圧回転装置1の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明で用いる方向の概念は、説明する上で便宜上使用するものであって、発明の構成の向き等をその方向に限定するものではない。また、以下に説明する液圧回転装置1は、本出願の一実施形態に過ぎない。従って、本出願は実施形態に限定されず、発明の趣旨を逸脱しない範囲で追加、削除、変更が可能である。
【0011】
<液圧回転装置>
図1は、一実施形態に係る液圧回転装置1を示す断面図である。図2は、図1の液圧回転装置1に領域Xで示す部分の拡大断面図である。図1に示す液圧回転装置1は、液圧モータとして機能する場合の例である。液圧回転装置1は、液圧モータとして機能する場合、作動液(「作動液」は、油又は水等の液体を含む)が供給されることによって回転軸12を回転駆動する。なお、液圧回転装置1は、液圧ポンプとして機能する場合、回転軸12が回転駆動されて作動液を吐出する。
【0012】
液圧回転装置1は、ケーシング11と、回転軸12と、シリンダブロック13と、複数のピストン14と、複数のシュー15と、斜板16と、押え板17と、球面ブッシュ18と、を備えている。液圧回転装置1は、バルブプレート19を更に備えている。また、液圧回転装置1は、本実施形態において可変容量型の液圧回転装置であり、傾転機構20を更に備えている。
【0013】
<ケーシング>
ケーシング11は、収容空間11aを含む。そして、ケーシング11は、収容空間11aに上記各構成12~20を収容している。また、ケーシング11は、収容空間11aに繋がる開口部分11bを一端部に有している。そして、ケーシング11は、2つの通路11c,11dを他端部に有している。
【0014】
<回転軸>
回転軸12は、ケーシング11に収容されている。そして、回転軸12は、ケーシング11に軸受で支持されている。より詳細に説明すると、回転軸12は、一端部をケーシング11の開口部分11bから外方に突出させている。また、回転軸12は、互いに離れた2箇所(本実施形態において、一端側(図1の左方)及び他端側(図1の右方)の2箇所)でケーシング11に支承されている。そして、回転軸12は、軸線L1まわりに回転する。
【0015】
<シリンダブロック>
シリンダブロック13は、周方向に間隔をあけて先端面に配置される複数のシリンダ室13aを含む。また、シリンダブロック13は、回転軸12に相対回転不能に設けられている。より詳細に説明すると、シリンダブロック13の中心部分には、回転軸12の中間部分が相対回転不能に挿通されている。また、本実施形態において、シリンダブロック13には、軸心から放射状に9個のシリンダ室13aが形成されている(図6参照)。複数のシリンダ室13aは、軸線L1を中心とする回転方向に等間隔をあけて配置されている。複数のシリンダ室13aは、シリンダブロックの先端面に開口している。軸方向は、軸線L1が延在する方向である。本実施形態のシリンダ室13aの数は一例であり、シリンダブロック13に形成されるシリンダ室13aの数は、8個以下であってもよく、10個以上であってもよい。各シリンダ室13aには、シリンダブッシュ27が嵌め込まれている。シリンダブッシュ27は、内面がピストン14との接触面となる。更に、シリンダブロック13は、シリンダ室13aと同数のシリンダポート13bを有している。シリンダポート13bは、対応するシリンダ室13aと夫々繋がっている。図1のシリンダ室13aは、1箇所のみを示している。
【0016】
<ピストン>
複数のピストン14は、シリンダブロック13のシリンダ室13aの各々に挿通される。ピストン14は、ピストン本体14aと凸球部14bとを有している。そして、ピストン14では、主にピストン本体14aがシリンダ室13aに挿通されている。ピストン14は、ピストン本体14aがシリンダ室13aを軸方向に摺動する。また、ピストン14は、凸球部14bがシリンダ室13aから出ている。
【0017】
<シュー>
複数のシュー15は、ピストン14の各々に設けられている。より詳細に説明すると、シュー15は、一端部にフランジ15aを有し、他端に凹所15bを含んでいる。フランジ15aは、凹所15bの部分の外周面から径方向外方に突出している。凹所15bには、ピストン14の凸球部14bが中心点周りに転動可能に嵌まり込む。これにより、ピストン14とシュー15とが互いに転動可能に連結されている。
【0018】
<斜板>
斜板16は、摺動面16aを含む。摺動面16aは、シリンダブロック13の先端面に対向する。そして、摺動面16a上には、複数のシュー15がフランジ15aを当接させるように配置されている。摺動面16a上では、軸線L1の周りをシュー15が摺動する。また、斜板16は、摺動面16aが回転軸12に対して斜めに傾くように配置されている。より詳細に説明すると、斜板16は、内孔に回転軸12を挿通させるように配置されている。そして、斜板16は、摺動面16aが軸線L1に直交する傾転軸L2を中心に傾倒するように配置されている。斜板16は、傾転角αを変えることができる。本実施形態において、摺動面16aにおいて、軸線L1及び傾転軸L2に直交する直交軸L3に沿う直交方向一方側(図1において上側)がシリンダブロック13の先端面の近くに配置されている。
【0019】
<押え板>
図3は、図1の液圧回転装置1に備わる押え板17を示す拡大断面図である。図4は、図3に示す押え板17の正面図である。図2に示すように、押え板17は、複数のシュー15を斜板16に向かって押圧する。押え板17は、図3に示すように押え板本体21と、複数の挿通孔22と、外周縁テーパ部23と、を含んでいる。また押え板17は、突縁部24、及び貫通孔25を含んでいる。この押え板17は、図2に示すように、複数のシュー15のフランジ15aを間に介在させるようにして斜板16の摺動面16aに対向させて配置される。
【0020】
図3に示すように、押え板本体21は、斜板側にある主面21aと、主面21aの反対側にある裏面21bとを有している。より詳細に説明すると、押え板本体21は、円板状に形成され、厚み方向一方側に主面21aを有し、他方側に裏面21bを有している。
【0021】
押え板17には、外周縁テーパ部23が押え板本体21の裏面21bにおける外周縁21cに形成されている。外周縁テーパ部23は、径方向外方に進むにつれて主面21aに近づくように傾斜している。また、外周縁テーパ部23は、複数の挿通孔22のピッチサークル22aより径方向外側を形成始点23aとしている。ここで、形成始点23aは、押え板本体21において外周縁テーパ部23の内周縁である。そして、外周縁テーパ部23は、形成始点23aから径方向外側に進むにつれて主面21aに近づくように傾斜している。
【0022】
外周縁テーパ部23は、押え板本体21の外周面において外周縁テーパ部23より主面21a側の部分より大きい厚みを有する。本実施形態において、外周縁テーパ部23より主面21a側の部分は、押え板本体21の外周面において外周縁テーパ部23より主面21a側に位置する円柱面状の最外周面21dである。そして、径方向外方から見た際に、外周縁テーパ部23の厚みT1が円柱面状の最外周面21dの厚みT2より大きくなっている。また、外周縁テーパ部23は、平坦に形成されている。本実施形態において、外周縁テーパ部23は、形成始点23aから押え板本体21の最外周面21dまで直線状に形成されている。
【0023】
また、押え板17は、押え板本体21の外周面において外周縁テーパ部23の厚みT1が、それより主面21a側の部分の厚みT2より大きい。そうすると、外周縁テーパ部23は、テーパ角βを大きくできる。これにより、後述するように押え板本体21が撓んだ際にシリンダブロック13との接触位置を形成始点23aとすることができる。
【0024】
突縁部24は、押え板本体21の主面21aの内周部にある。そして、突縁部24は、主面21aから厚み方向一方側に突出している。また、突縁部24は、押え板本体21の厚みT0より大きい厚みP1を有している。なお、突縁部24の厚みP1は、必ずしも押え板本体21の厚みT0より大きい必要はない。また、突縁部24の外周面は、押え板17の軸線L4に平行に延在している。軸線L4は、押え板17の厚み方向に延びる軸線である。
【0025】
貫通孔25は、押え板17において押え板本体21及び突縁部24を軸線L4に沿って貫通している。貫通孔25には、回転軸12が挿通される。また、貫通孔25は、第1開口25bから第2開口25c付近まで延在する縮径部25aを有している。縮径部25aは、第1開口25bから第2開口25cに向かって縮径している。ここで、第1開口25bは、貫通孔25において押え板本体21の裏面21b側の開口である。第2開口25cは、貫通孔25において第1開口25bの反対側の開口である。
【0026】
図4に示すように、押え板17の複数の挿通孔22は、押え板本体21において周方向に所定間隔をあけて配置されている。複数の挿通孔22は、押え板本体21においてピストン14及びシリンダ室13aと同数ある。複数の挿通孔22は、押え板本体21において貫通孔25を囲むように配置されている。更に詳細に説明すると、複数の挿通孔22の各々は、中心がピッチサークル22a上に位置するように押え板本体21に配置されている。また、挿通孔22は、シュー15のフランジ15aより小径に形成されている。
【0027】
押え板17には、挿通孔22の各々に、摺動面16a上に配置されるシュー15の各々が、フランジ15aを主面21a側に配置した状態で凹所15bの部分が挿入される。これにより、図2に示すように、押え板17は、複数のシュー15のフランジ15aを斜板16との間に挟むように、押え板本体21の主面21aを摺動面16aに対向させて配置される。
【0028】
また、外周縁テーパ部23では、上死点位置にある形成始点23aがシリンダブロック13の先端面13eに最も接近する。ここで、上死点位置とは、回転軸12を中心とする周方向における位置であってピストン14が上死点に達した際の位置である。本実施形態において、外周縁テーパ部23は、以下のようになっている。即ち、外周縁テーパ部23のテーパ角βは、最大傾転角αmaxに対して、β<90-αmaxを有している。ここで、最大傾転角αmaxは、斜板16の傾倒可能な最大角度である。これにより、外周縁テーパ部23において、上死点位置にある形成始点23aをシリンダブロック13の先端面に最も接近させることができる。
【0029】
<球面ブッシュ>
図2に示すように、球面ブッシュ18は、押え板17を介して複数のシュー15を斜板16に押え付ける。より詳細に説明すると、球面ブッシュ18は、回転不能に回転軸12に挿通されている。また、球面ブッシュ18は、押え板17の貫通孔25に挿通されている。そして、球面ブッシュ18は、貫通孔25の内周面に当接している。更に球面ブッシュ18は、シリンダブロック13に設けられる複数のばね部材26によって軸方向一方側に付勢されている。これにより、球面ブッシュ18は、押え板17を介して複数のシュー15を斜板16に押え付ける。また、球面ブッシュ18は、一端側部分が部分球面状になっている。また、押え板17の貫通孔25の縮径部25aがテーパ状になっている。それ故、斜板16が傾倒する際に押え板17もまた傾転軸L2まわりに傾倒することができる。更に、球面ブッシュ18は、ストッパ部18aを有している。ストッパ部18aは、斜板16の最大傾転角αmaxまで傾倒すると押え板17に当たる。そして、ストッパ部18aは、斜板16の傾倒を制限する。
【0030】
<バルブプレート>
図1に示すように、バルブプレート19は、2つのポート19a,19bを有している。バルブプレート19は、シリンダブロック13の他端とケーシング11の他端部との間に設けられている。第1ポート19aは、ケーシング11の第1通路11cに繋がり、第2ポート19bは、ケーシング11の第2通路11dに繋がっている。各ポート19a,19bは、複数のシリンダポート13bに対応させて配置されている。そして、シリンダブロック13が回転することによって、各シリンダポート13bの接続先が第1ポート19aから第2ポート19b、また第2ポート19bから第1ポート19aに切換わる。
【0031】
<傾転機構>
傾転機構20は、斜板16を傾転軸L2周りに傾動させる。より詳細に説明すると、傾転機構20は、ロッド20a及び連結部材20bを有している。ロッド20aは、連結部材20bを介して斜板16に連結されている。ロッド20aは、ストローク制御されて斜板16を傾転軸L2周りに傾斜させる。より詳細に説明すると、ロッド20aは、ストローク制御されて斜板16の傾転角α(≦最大傾転角αmax)を変える。このように、液圧回転装置1では、傾転機構20によって斜板16の傾転角αを変えることができる。これにより、ピストン14のストローク量が変わる。そうすると、作動液の供給流量に対する回転軸12の速度及び駆動力を変えることができる。
【0032】
<液圧回転装置の動作>
図1に示すように、液圧回転装置1では、2つの通路11c,11dのうち何れか一方、例えば第1通路11cに作動液が供給されると、以下のように動作する。即ち、液圧回転装置1では、第1ポート19aに繋がるシリンダ室13aに作動液が供給される。そして、別のシリンダ室13aから第2ポート19bを介して第2通路11dに作動液が排出される。このように作動液の給排によってピストン14が往復運動する。往復運動するピストン14に連結されているシュー15がシリンダブロック13に対して傾倒する斜板16の摺動面16a上に配置されている。それ故、ピストン14が往復運動することによってシュー15が摺動面16a上を摺動しながら軸線L1周りに回転する。これにより、シリンダブロック13及びそれに相対不能に設けられる回転軸12が回転する。また、シュー15とともに押え板17も回転する。
【0033】
<押え板の挙動>
図5は、図1の液圧回転装置1において、シリンダブロック13が高速回転した際の押え板17の挙動を示す拡大断面図である。なお、図5では、説明の便宜上、ピストン14及びシュー15が省略されている。シリンダブロック13が高速回転し、押え板17が撓んだ場合、ピストン14の上死点位置では、押え板本体21の外周縁テーパ部23の形成始点23aがシリンダブロック13の先端面に最も接近する。即ち、外周縁テーパ部23は、テーパ角βが、斜板16の傾倒可能な最大傾転角αmaxに対して、β<90-αmaxを有している。これにより、外周縁テーパ部23は、上死点位置にある形成始点23aがシリンダブロック13の先端面に最も接近する。ここで、上死点位置とは、回転軸12を中心とする周方向における位置であってピストン14が上死点に達した際の位置である。
【0034】
このように、押え板17は、シリンダブロック13が高速回転して押え板本体21が撓んだ場合に、シリンダブロック13との接触位置13fを形成始点23aと対向する位置とすることができる。即ち、本実施形態の押え板17は、外周縁テーパ部23の形成始点23aがピッチサークル22aより径方向外側に位置し、押え板本体21の外周面において外周縁テーパ部23の厚みT1がそれより主面21a側の部分の厚みT2より大きい。そうすると、外周縁テーパ部23のテーパ角βを従来のものより鋭角にすることができる。これにより、押え板本体21が撓んだ際にシリンダブロック13との接触位置13fを形成始点23aと対向する位置とすることができる。即ち、シリンダブロック13との押え板17との接触位置を、押え板17の最外周縁部分から図4に示す形成始点23aの位置まで径方向内側に移すことができる。それ故、押え板17の最外周縁に大きなトルクが発生することを抑制できる。これにより、液圧回転装置1は、従来のものより大きな回転数を許容できる。
【0035】
また、本実施形態の液圧回転装置1では、押え板17の突縁部24の厚みP1を大きくすることができる。これにより、押え板17の剛性を向上させることができる。更に、本実施形態の液圧回転装置1では、押え板17の突縁部24の外周面が軸線L1に真っすぐに延在している。これに対して縮径部25aが第1開口25bから第2開口25cに向かって縮径している。それ故、突縁部24の厚みを大きくすることができる。これにより、押え板17の剛性を向上させることができる。
【0036】
また、本実施形態の液圧回転装置1では、外周縁テーパ部23において形成始点23aがシリンダブロック13の先端面13eに最も接近する。これにより、押え板17が撓んだ際に形成始点23a以外の部分がシリンダブロック13に接触することを更に抑制できる。
【0037】
更に、本実施形態の液圧回転装置1では、外周縁テーパ部23が傾転機構20によって傾倒可能な最大傾転角αmaxに対してβ<90-αmaxを満たすテーパ角βを有している。それ故、形成始点23aが外周縁テーパ部23においてシリンダブロック13の先端面に最も接近する。これにより、押え板17が撓んだ際、形成始点23a以外の部分がシリンダブロック13に接触することを抑制できる。
【0038】
図6は、図1の液圧回転装置1に備わるシリンダブロック13のシリンダ室13aを示す平面図である。複数のシリンダ室13aの各々は、中心がピッチサークル13d上に位置するようにシリンダブロック13に所定間隔で配置されている。本実施形態の液圧回転装置1では、図5に示すように、回転軸12が過大な回転数で回転した場合、押え板17がシリンダブロック13の先端面と接触することがある。この場合、シリンダブロック13のシリンダ室13aの開口部13cに大きな押圧力が作用するおそれがある。本出願における「開口部13c」は、シリンダ室13aが開口している縁部分をいう(図6図7に符号13cで示す)。この大きな押圧力は、図5に示すように、外周縁テーパ部23の形成始点23aと対向する部分となる接触位置13fの線上に作用する。そして、シリンダ室13aの開口部13cに大きな押圧力が作用すると、シリンダ室13aが変形するおそれがある。
【0039】
<窪み>
そこで、図6に示すように、本実施形態の液圧回転装置1のシリンダブロック13には、押え板17の外周縁テーパ部23の形成始点23aと接触する位置である接触位置13fを含むように窪み30が設けられている。窪み30は、シリンダブロック13の開口部13cに、先端面13eから一部を窪ませることで設けられている。
【0040】
図7は、図6に示すシリンダ室13aの開口部13cの断面図である。窪み30は、本実施形態ではシリンダ室13aの開口部13cに設けられた所定深さU1、所定幅寸法C1の座ぐりで構成されている。より詳細に説明すると、シリンダ室13aには、シリンダブッシュ27が嵌め込まれており、そのシリンダブッシュ27の外周の開口部13cに所定幅寸法C1の座ぐりを設けることで窪み30が設けられている。座ぐりの所定幅寸法C1は、例えば、1mm乃至3mm程度にできる。座ぐりの所定幅寸法C1は、本実施形態に限定されず、隣接するシリンダ室13aとの間の寸法に応じて決定してもよい。窪み30の所定深さU1は、例えば、0.2mm乃至0.5mm程度にできる。窪み30の所定深さU1は、本実施形態に限定されず、液圧回転装置1の大きさなどに応じて決定してもよい。
【0041】
このように本実施形態では、座ぐりにより複数のシリンダ室13aの開口部13cに所定深さU1の窪み30が設けられている。窪み30は、座ぐりとすることで機械加工によって容易に設けることができる。窪み30は、押え板17の外周縁テーパ部23の形成始点23aと対向するシリンダ室13aの開口部13cの位置にのみ設けられていてもよい。例えば、窪み30は、複数のシリンダ室13aの開口部13cにおいて、押え板17の外周縁テーパ部23の形成始点23aと対向する部分である接触位置13fの線上の一部13g(二点鎖線で示す部分)にのみ設けられていてもよい。
【0042】
<窪みの作用>
図5、6に示すように、窪み30は押え板17の外周縁テーパ部23の形成始点23aと対向する位置に設けられている。このため、押え板17の形成始点23aがシリンダブロック13と接触したとしても、窪み30があるため、押え板17がシリンダ室13aの開口部13cを押圧する力を低減することができる。より詳細に説明すると、押え板17がシリンダブロック13と接触したとしても、窪み30によって接触位置がシリンダ室13aから離れた位置となるため、シリンダ室13aの開口部13cに作用する押圧力を低減することができる。例えば、回転軸12が過大な回転数で回転して押え板17がシリンダブロック13の先端面と接触してシリンダ室13aの開口部13cをその押圧力で変形させたと仮定して、計算上では、その変形量を40%乃至50%程度に低減することができる。
【0043】
また、座ぐりによって形成される窪み30は、シリンダ室13aに嵌め込まれたシリンダブッシュ27が厚みB1とすると、そのシリンダブッシュ27の内径である直径D1に対して2%乃至12%の所定幅寸法C1で形成されていてもよい。このように構成すれば、シリンダ室13aの大きさに対して、押え板17によるシリンダ室13aに作用する押圧力を低減できる適切な大きさの窪み30を開口部13cに設けることができる。
【0044】
図8は、図7に示すシリンダ室13aの開口部13cとは異なる開口部13cの断面図である。この例の窪み31は、シリンダブッシュ27の上端を所定寸法U2以上下げることで形成している。窪み31は、例えば、シリンダブッシュ27の上端を、シリンダブロック13の先端面13eから0.5mm~1mm程度下げることで形成することができる。シリンダブッシュ27の上端を下げる所定寸法U2は、本実施形態に限定されない。
【0045】
<その他の実施形態>
上記した実施形態では、液圧回転装置1が液圧モータとして機能する場合について説明したが、液圧回転装置1は液圧ポンプとして機能するようにしてもよい。液圧回転装置1が液圧ポンプとして機能する場合、エンジン及びモータ等の駆動源によって回転軸12が駆動されると、ピストン14が往復運動する。往復運動することによって、例えば第1ポート19a及びシリンダポート13bを介して第1通路11cからシリンダ室13aに作動液が吸入される。また吸入された作動液は、シリンダポート13b及び第2ポート19bを介してシリンダ室13aから第2通路11dに吐出される。
【0046】
また、上記した実施形態の液圧回転装置1は、可変容量型の液圧装置であるが、必ずしも可変容量型である必要はなく、固定容量型の液圧回転装置であってもよい。また、液圧回転装置1の傾転機構20もまた、上記した構造に限定されず、斜板16を傾転可能な構造であればよい。
【0047】
<まとめ>
本出願は、回転軸と、周方向に間隔をあけて配置されている複数のシリンダ室と該複数のシリンダ室が開口する先端面を含み、前記回転軸に相対回転不能に設けられているシリンダブロックと、前記複数のシリンダ室の各々に挿通されている複数のピストンと、前記複数のピストンの各々に設けられている複数のシューと、前記複数のシューが配置される摺動面を有し、該摺動面が前記回転軸に対して斜めに傾くように配置されている斜板と、周方向に間隔をあけて配置され前記複数のシューが挿通される複数の挿通孔を有し、前記複数のシューを前記斜板に向かって押圧する押え板と、前記押え板を介して前記複数のシューを前記斜板に向かって押圧する球面ブッシュと、を備え、前記押え板は、前記斜板と接する主面と反対側の裏面に、前記複数の挿通孔のピッチサークルより径方向外側を形成始点とし、径方向外方に進むにつれて前記主面に近づくように傾斜する外周縁テーパ部を含み、前記外周縁テーパ部は、押え板本体の外周面において前記外周縁テーパ部が前記主面の部分より大きい厚みを有しており、前記シリンダブロックの先端面には、前記複数のシリンダ室の開口部に、前記先端面から窪む窪みが形成されている、液圧回転装置を提供する。
【0048】
この構成により、押え板は、外周縁テーパ部の形成始点がピッチサークルより径方向外側に位置し、押え板本体の外周面において外周縁テーパ部の厚みが主面の部分の厚みより大きい。これにより、押え板がシリンダブロックの方へと撓んだ際にシリンダブロックとの接触する位置を外周縁テーパ部の形成始点として、接触位置を押え板の径方向内側に移し、押え板の最外周縁部分に大きなトルクが発生することを抑制できる。シリンダブロックは、複数のシリンダ室の開口部に、先端面から窪む窪みがあるため、押え板が接触したときの押圧力を低減することができる。
【0049】
また、前記押え板は、前記外周縁テーパ部が平坦に形成されていてもよい。このように構成すれば、押え板本体が撓んだときに外周縁テーパ部の形成始点がシリンダブロックと接するようにできる。
【0050】
また、前記窪みは、前記シリンダ室の前記開口部に形成された座ぐりであってもよい。このように構成すれば、窪みを機械加工で容易に形成することができる。
【0051】
また、前記座ぐりは、前記シリンダ室の直径に対して2%乃至12%の所定幅寸法で形成されていてもよい。このように構成すれば、シリンダ室の大きさに対して、押え板によるシリンダ室13aに作用する押圧力を低減できる適切な大きさの窪みを設けることができる。
【符号の説明】
【0052】
1 液圧回転装置
12 回転軸
13 シリンダブロック
13a シリンダ室
13c 開口部
13e 先端面
13f 接触位置
14 ピストン
15 シュー
15a フランジ
16 斜板
16a 摺動面
17 押え板
20 傾転機構
21 押え板本体
21a 主面
21b 裏面
21c 外周縁
21d 最外周面
22 挿通孔
22a ピッチサークル
23 外周縁テーパ部
23a 形成始点
27 シリンダブッシュ
30 窪み
31 窪み
C1 所定幅寸法
L1 軸線
T1 厚み
T2 厚み
U1 所定深さ
U2 所定寸法
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8