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特開2023-127724水硬性組成物、硬化体、及び水硬性組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127724
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】水硬性組成物、硬化体、及び水硬性組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/13 20060101AFI20230907BHJP
【FI】
C04B7/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031588
(22)【出願日】2022-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(72)【発明者】
【氏名】福島 悠太
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 貴康
(72)【発明者】
【氏名】大崎 雅史
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 豪
(57)【要約】
【課題】カオリン以外の無機鉱物を用いて製造され、かつ十分な圧縮強度発現性を有する、低炭素型の水硬性組成物を提供すること。
【解決手段】SiO含有量が30~40質量%でありAl含有量が30~40質量%である無機鉱物(但しカオリンを除く)を30~70質量%、及びアルカリ刺激材を30~70質量%含み、無機鉱物において、27Al-NMRで分析した4配位Al、5配位Al及び6配位Alのピーク面積の和を100%とした時の、4配位Al及び5配位Alの少なくとも一方のピーク面積の割合が30~50%である、水硬性組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO含有量が30~40質量%でありAl含有量が30~40質量%である無機鉱物(但しカオリンを除く)を30~70質量%、及びアルカリ刺激材を30~70質量%含み、
前記無機鉱物において、27Al-NMRで分析した4配位Al、5配位Al及び6配位Alのピーク面積の和を100%とした時の、前記4配位Al及び前記5配位Alの少なくとも一方のピーク面積の割合が30~50%である、水硬性組成物。
【請求項2】
前記水硬性組成物が、炭酸塩を15質量%以下含む、請求項1に記載の水硬性組成物。
【請求項3】
前記無機鉱物が、500~950℃でか焼された粘土鉱物である、請求項1又は2に記載の水硬性組成物。
【請求項4】
前記アルカリ刺激材がCSを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の水硬性組成物。
【請求項5】
前記無機鉱物がアロフェンを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の水硬性組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の水硬性組成物及び水を含むペーストを硬化させてなる、硬化体。
【請求項7】
SiO含有量が30~40質量%でありAl含有量が30~40質量%である無機鉱物(但しカオリンを除く)を27Al-NMRによって分析し、4配位Al、5配位Al及び6配位Alのピーク面積の和を100%とした時の、前記4配位Al及び前記5配位Alの少なくとも一方のピーク面積の割合が30~50%である無機鉱物を選定する選定工程と、
選定した前記無機鉱物及びアルカリ刺激材を混合し、前記無機鉱物を30~70質量%、及び前記アルカリ刺激材を30~70質量%含む水硬性組成物を調製する混合工程と、を備える、水硬性組成物の製造方法。
【請求項8】
前記選定工程に先立ち、前記無機鉱物を500~950℃で加熱するか焼工程を更に備える、請求項7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物、硬化体、及び水硬性組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機鉱物をか焼してポゾラン反応性を高め、それを高炉スラグ、フライアッシュ等のセメント混合材の代わりに利用する技術として、LC(Limestone Calcined Clay Cement)が知られている(例えば、非特許文献1)。このセメントは低炭素セメントと言うことができ、通常のポルトランドセメントと比較して、製造に関連する二酸化炭素排出量(CO)を削減することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Karen Scrivener et al.: Calcined clay limestone cements (LC3), Cement and Concrete Research,Vol.114,pp.49-56 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記技術に関しては、無機鉱物としてカオリンをか焼したメタカオリンを含む材料について、良好な強度発現性が達成されることが示されている。しかしながらカオリンの産出される地域及び国は限定されるため、カオリンに代わる材料の探索が課題となっている。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、カオリン以外の無機鉱物を用いて製造され、かつ十分な圧縮強度発現性を有する、低炭素型の水硬性組成物を提供することを目的とする。本発明はまた、当該水硬性組成物から得られる硬化体、及び当該水硬性組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
発明者らは、カオリン以外の材料として、通常はセメントの反応を阻害すると言われるアロフェンといった鉱物に着目をした。そして、そのような鉱物を含む水硬性組成物がカオリンを含む場合と同等又はそれ以上の特性を有する可能性があること、また水硬性組成物を調製する際のアルカリ刺激材としてのセメント配合量を低減できる可能性があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明の一側面は、SiO含有量が30~40質量%でありAl含有量が30~40質量%である無機鉱物(但しカオリンを除く)を30~70質量%、及びアルカリ刺激材を30~70質量%含み、無機鉱物において、27Al-NMRで分析した4配位Al、5配位Al及び6配位Alのピーク面積の和を100%とした時の、4配位Al及び5配位Alの少なくとも一方のピーク面積の割合が30~50%である、水硬性組成物を提供する。
発明者らは、カオリンに代わる、ポゾラン反応性の高い無機鉱物(粘土鉱物)及びそのか焼物として、27Al-NMRによる構造解析において特定のAl配位数の関係を有するものが、低炭素型セメントの製造に適するものであることを見出した。上記特定のAl配位数の関係を有する無機鉱物を含む水硬性組成物は、カオリン以外の無機鉱物を用いて製造され、かつ十分な圧縮強度発現性を有する、低炭素型の水硬性組成物であるということができる。
【0008】
水硬性組成物の一態様は、炭酸塩を15質量%以下含んでよい。
【0009】
水硬性組成物の一態様において、無機鉱物が、500~950℃でか焼された粘土鉱物であってよい。
【0010】
水硬性組成物の一態様において、アルカリ刺激材がケイ酸三カルシウム(3CaO・SiO,CSで示す。)を含んでよい。
【0011】
水硬性組成物の一態様において、無機鉱物がアロフェンを含んでよい。
【0012】
本発明の一側面は、上記の水硬性組成物及び水を含むペーストを硬化させてなる、硬化体を提供する。
上記水硬性組成物から得られるこのような硬化体は、十分な圧縮強度を有する、低炭素型の硬化体であるということができる。
【0013】
本発明の一側面は、SiO含有量が30~40質量%でありAl含有量が30~40質量%である無機鉱物(但しカオリンを除く)を27Al-NMRによって分析し、4配位Al、5配位Al及び6配位Alのピーク面積の和を100%とした時の、4配位Al及び5配位Alの少なくとも一方のピーク面積の割合が30~50%である無機鉱物を選定する選定工程と、選定した無機鉱物及びアルカリ刺激材を混合し、無機鉱物を30~70質量%、及びアルカリ刺激材を30~70質量%含む水硬性組成物を調製する混合工程と、を備える、水硬性組成物の製造方法を提供する。
このような製造方法であれば、カオリン以外の無機鉱物を用いて製造され、かつ十分な圧縮強度発現性を有する、低炭素型の水硬性組成物を製造することができる。
【0014】
水硬性組成物の製造方法の一態様は、選定工程に先立ち、無機鉱物を500~950℃で加熱するか焼工程を更に備えてよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、カオリン以外の無機鉱物を用いて製造され、かつ十分な圧縮強度発現性を有する、低炭素型の水硬性組成物を提供することができる。また、本発明によれば、当該水硬性組成物から得られる硬化体、及び当該水硬性組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本開示は以下の実施形態に限定されない。
なお、以下の説明では、「X~Y」(X、Yは任意の数字)と記載した場合、特に断らない限り「X以上Y以下」を意味する。
本明細書において例示する材料は特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0017】
<水硬性組成物>
水硬性組成物は、SiO含有量が30~40質量%でありAl含有量が30~40質量%である無機鉱物(但しカオリンを除く)、及びアルカリ刺激材を含む。
【0018】
(無機鉱物)
SiO含有量が30~40質量%でありAl含有量が30~40質量%である無機鉱物としては、カオリン以外に、アロフェン、イライト、モンモリロナイト、パイロフィライト等が挙げられる。これらのうち、アルカリ刺激材との反応性の観点から、無機鉱物はアロフェンを含むことが好ましく、アロフェンであることがより好ましい。無機鉱物は粘土鉱物であってもよい。
【0019】
無機鉱物におけるSiO含有量は、アルカリ刺激材との反応性の観点から、32質量%以上であることが好ましく、38質量%以下であることが好ましい。
無機鉱物におけるAl含有量は、アルカリ刺激材との反応性の観点から、32質量%以上であることが好ましく、38質量%以下であることが好ましい。
【0020】
無機鉱物において、27Al-NMRで分析した4配位Al、5配位Al及び6配位Alのピーク面積の和を100%とした時の、4配位Al及び5配位Alの少なくとも一方のピーク面積の割合が30~50%である。
無機鉱物中において、4配位Al及び5配位Alは骨格が不安定であり、アルカリ刺激材との反応性の増加に寄与すると考えられる。4配位Al及び5配位Alの少なくとも一方のピーク面積の割合が30%以上であることで、この作用による効果を充分に享受できる。一方、4配位Al及び5配位Alの割合が多過ぎると、アルカリ刺激材との反応が急速に進行する虞がある。4配位Al及び5配位Alの割合の少なくとも一方のピーク面積の割合が50%以下であることで、そのような現象を抑制し易い。これらの観点から、4配位Al及び5配位Alの少なくとも一方のピーク面積の割合は30~45%であることが好ましく、35~45%であることがより好ましい。
上記作用効果を得易い観点からは、4配位Al及び5配位Alのピーク面積の割合が共に30~50%であってよく、共に30~45%であることが好ましく、35~45%であることがより好ましい。
【0021】
4配位Al及び5配位Alのピーク面積の和は、アルカリ刺激材との反応性の観点から50%以上であることが好ましく、また、アルカリ刺激材との反応速度の観点から90%以下であることが好ましい。これらの観点から、4配位Al及び5配位Alのピーク面積の和は60~90%であることがより好ましく、70~80%であることがさらに好ましい。
以上のことより、6配位Alのピーク面積は、10~50%であることが好ましく、10~40%であることがより好ましく、20~30%であることがさらに好ましい。
【0022】
4配位Al、5配位Al及び6配位Alのピーク面積は、後述のピーク面積調整工程のような工程により調整することができる。例えば、ピーク面積調整のためにか焼を行う場合は、無機鉱物は500~950℃でか焼された粘土鉱物であってもよい。
【0023】
上記ピーク面積の割合は、以下のようにして測定される。
無機鉱物の核種27Al-NMRの化学シフト及び配位状態を、NMR装置JNM-ECZ800R(日本電子株式会社製)を用いて分析する。
分析手法はMAS(Magic Angle Spinning)法とし、3.2mmの試料管を使用する。分析条件は、磁場強度:18.79T、周波数:20kHz、積算回数:256回、パルス幅:90°(0.6μs)とする。
得られた27Al-NMRスペクトルに対し、ガウス関数及びローレンツ関数の畳み込み関数であるフォークト関数を用いて、各々のピークの波形分離を行う。そして分離した各ピークの積分値を用いて各ピーク面積を算出する。
なお、無機鉱物の27Al-NMRスペクトルでは、化学シフト-10ppm~15ppmの範囲にピークP1が、50ppm~80ppmの範囲にピークP2が、30ppm~40ppmの範囲にピークP3が観察される。ピークP1は6配位のAlに対応し、これは無機鉱物の骨格に由来する。ピークP2及びP3は、無機鉱物の骨格の部分的な崩壊(例えば高温での熱処理による6配位Al構造の分解と脱ヒドロキシル化)等によって生成すると考えられる、それぞれ4配位のAl及び5配位のAlに由来する。
得られたP1~P3の各ピーク面積から、P1+P2+P3の面積の和、及び当該和を基準とするP2及びP3の面積の割合をそれぞれ算出する。
【0024】
水硬性組成物における無機鉱物の含有量は、圧縮強さの観点から、水硬性組成物の全量を基準として、30質量%以上であり、一方、良好な流動性を維持し易い観点から70質量%以下である。これらの観点から、当該含有量は、35~60質量%であることが好ましく、40~55質量%であることがより好ましい。
【0025】
(アルカリ刺激材)
アルカリ刺激材としては、ポルトランドセメントクリンカ、ケイ酸三カルシウム(3CaO・SiO,CSで示す。)等が挙げられる。
【0026】
ポルトランドセメントクリンカは、JIS R 5210:2003「ポルトランドセメント」に規定の各種ポルトランドセメントを調製するため使用されるポルトランドセメントクリンカを使用することができる。上記各種ポルトランドセメントとしては、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、及び低熱ポルトランドセメント等が挙げられる。ポルトランドセメントクリンカとしては、普通ポルトランドセメント及び早強ポルトランドセメントを調製するために使用されるポルトランドセメントクリンカであってよい。
【0027】
ポルトランドセメントクリンカの鉱物組成はBogue式によって算出することができる。ここで、Bogue式とは、化学組成の含有比率からポルトランドセメントクリンカ中の主要鉱物の含有率を算定する式として広く用いられる式である。以下に示すBogue式を用いることによって、ポルトランドセメントクリンカ中のケイ酸三カルシウム(3CaO・SiO,CSで示す。)、ケイ酸二カルシウム(2CaO・SiO,CSで示す。)、及びアルミン酸三カルシウム(3CaO・Al,CAで示す。)の含有量を算出することができる。なお、下記式中の「%」は「質量%」を意味する。
化学式は、JIS R 5204:2019「セメントの蛍光X線分析方法」による化学分析値が示す各化合物の含有比率(質量%)を表す。
【0028】
<Bogue式>
S[%]=(4.07×CaO[%])-(7.60×SiO[%])-(6.72×Al[%])-(1.43×Fe[%])-(2.85×SO[%])
S[%]=(2.87×SiO[%])-(0.754×CS[%])
A[%]=(2.65×Al[%])-(1.69×Fe[%])
AF[%]=3.04×Fe[%]
【0029】
水硬性組成物におけるアルカリ刺激材の含有量は、圧縮強さの観点から、水硬性組成物の全量を基準として、30質量%以上であり、一方CO排出量の削減の観点から70質量%以下である。これらの観点から、当該含有量は、35~60質量%であることが好ましく、40~55質量%であることがより好ましい。
【0030】
水硬性組成物における無機鉱物及びアルカリ刺激材の含有量は、圧縮強さの観点から、水硬性組成物の全量を基準として、60質量%以上であり、80質量%以上であることが好ましく、85質量%以上であることがより好ましく、100質量%(実質的に無機鉱物及びアルカリ刺激材からなる)であってもよい。
【0031】
水硬性組成物は、無機鉱物及びアルカリ刺激材の他に、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては無機質微粉末、石膏、炭酸塩等が挙げられる。その他の成分は、水硬性組成物の全量を基準として40質量%以下とすることができ、20質量%以下であってもよく、15質量%以下であってもよい。
【0032】
無機質微粉末は圧縮強さの向上を目的として水硬性組成物に添加される。無機質微粉末としては、例えば、珪石、砕石等の粉末状の材料が挙げられる。
水硬性組成物における無機質微粉末の含有量は、流動性の観点から、水硬性組成物の全量を基準として、0質量%以上であり、一方圧縮強さの観点から15質量%以下であることが好ましい。
【0033】
石膏は水和反応速度の調整を目的として水硬性組成物に添加される。石膏としては、例えば、二水石膏、半水石膏、無水石膏等が挙げられる。
水硬性組成物における石膏の含有量は、一般的なポルトランドセメントにおける石膏量と同等でよい。水硬性組成物の全量を基準として、0質量%以上であり、一方良好な水和反応速度を維持し易い観点から5質量%以下であることが好ましい。
【0034】
炭酸塩はアルカリ刺激材のCSの水和反応の促進を目的として水硬性組成物に添加される。炭酸塩としては、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ土類金属の炭酸塩等が挙げられ、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム(石灰石)、炭酸マグネシウム等が挙げられる。
石灰石としては、例えば、一般に販売されている石灰石粉、及び寒水石粉等の炭酸カルシウムを主成分とする粉末を使用することができる。石灰石は、好ましくは、JIS R 5210「ポルトランドセメント」に記載の少量混合成分に適合するものを含む。
水硬性組成物における炭酸塩の含有量は、流動性の観点から、水硬性組成物の全量を基準として、0質量%以上であり、一方圧縮強さの観点から15質量%以下であることが好ましい。
【0035】
<硬化体>
硬化体は、上記の水硬性組成物及び水を含むペーストを硬化させてなるものである。硬化条件は特に制限されない。硬化体は、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に記載の方法に準拠して調製することができる。
【0036】
ペーストにおける水の量は、流動性の観点から、水硬性組成物の全量100質量部に対し、35質量部以上であり、一方硬化体の空隙構造を密にし易い観点から80質量部以下である。これらの観点から、当該水の量は、35~80質量部であることが好ましく、50~70質量部であることがより好ましい。
【0037】
<水硬性組成物の製造方法>
水硬性組成物の製造方法は、SiO含有量が30~40質量%でありAl含有量が30~40質量%である無機鉱物(但しカオリンを除く)を27Al-NMRによって分析し、4配位Al、5配位Al及び6配位Alのピーク面積の和を100%とした時の、4配位Al及び5配位Alの少なくとも一方のピーク面積の割合が30~50%である無機鉱物を選定する選定工程と、選定した無機鉱物及びアルカリ刺激材を混合し、無機鉱物を30~70質量%、及びアルカリ刺激材を30~70質量%含む水硬性組成物を調製する混合工程と、を備える。
【0038】
水硬性組成物の製造方法は、選定工程に先立ち、ピーク面積調整工程を更に備えていてもよい。
【0039】
(選定工程)
選定工程では、低炭素型セメントに適する材料として、カオリンに代わる、ポゾラン反応性の高い無機鉱物及びそのか焼物を選定する。選定の結果ピーク面積に関し上記特定の関係を有する無機鉱物であれば、無機鉱物を混合工程に供すればよい。一方、ピーク面積に関し上記特定の関係を有しない無機鉱物であれば、その無機鉱物を後述のピーク面積調整工程に供することができる。
【0040】
(混合工程)
混合工程では、上記のとおり選定された無機鉱物及びアルカリ刺激材を混合する。両者の混合時に、上記その他の成分を共に混合してもよい。各原料の配合量は上記のとおりである。
【0041】
混合工程においては、各原料を粉砕してもよい。破砕を行う場合、混合及び破砕の順序は特に限定されるものではない。すなわち、各原料を混合した後に破砕を行ってもよく、各原料を個別に破砕した後に混合してもよく、また各原料の混合及び破砕を同時に行ってもよい。混合は、例えば、パン型ミキサー、傾胴式ミキサー、リボンミキサー等の混合機を用いて行ってよく、ボールミル、竪型ローラーミル、ローラープレス等の粉砕機を用いて混合粉砕してもよく、各原料のそれぞれを粉砕した後に機械混合機等の混合機で混合してもよい。
【0042】
(ピーク面積調整工程)
無機鉱物の骨格に由来する6配位AlのピークP1の面積が大きすぎると、無機鉱物はピーク面積に関し上記特定の関係を有しない。この場合は、ピーク面積調整を無機鉱物に対して施すことにより、実用に適した無機鉱物に調整できる場合がある。
【0043】
上記のとおり、それぞれ4配位Al及び5配位Alに由来するピークP2及びP3は、無機鉱物の骨格の部分的な崩壊によって生成させることができると考えられる。無機鉱物の骨格の部分的な崩壊は、例えば無機鉱物のか焼、酸塩基処理、粉砕等により実施することができる。
【0044】
無機鉱物のか焼を行う場合、水硬性組成物の製造方法は、選定工程に先立ち、無機鉱物を加熱するか焼工程を更に備えるということができる。
か焼温度は、圧縮強さの増加に寄与する4配位Al及び5配位Alを増加させる観点から、500℃以上であることが好ましく、一方、それら4配位Al及び5配位Alが他の鉱物の生成(例えばアロフェンであればムライトの生成)に使用されることを抑制する観点から、950℃以下であることが好ましい。これらの観点から、か焼温度は600~900℃であることがより好ましい。
か焼時間は特に制限されないが、結晶構造への影響の観点から0.5~5時間とすることができ、1~4時間であってもよい。
【0045】
ピーク面積調整工程後に改めて選定工程を実施して、その選定結果をピーク面積調整工程にフィードバックし、ピーク面積調整工程の各種条件(例えばか焼温度、か焼時間等)を調整することができる。
【実施例0046】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0047】
<水硬性組成物の原料>
(無機鉱物)
使用した無機鉱物(粘土鉱物)の種類を表1に示す。
【表1】
【0048】
(アルカリ刺激材)
アルカリ刺激材としてCS(3CaO・SiO)を調製した。CSは、二酸化ケイ素(和光純薬製)及び炭酸カルシウム(和光純薬製)をモル比で1:3となるように調合し、水と一緒に練り混ぜ、電気炉内で1500℃の温度で1時間焼成することで得た。
【0049】
(その他の成分)
石灰石:宇部マテリアルズ社製(石灰石微粉末325メッシュ品)
無水石膏:天然無水石膏
【0050】
<水硬性組成物の調製>
各種無機鉱物に対し、表2に示す条件にてか焼を行った。か焼時間は1時間とした。
次に、表2に示す配合に従って、か焼した無機鉱物、アルカリ刺激材及びその他の成分を混合して水硬性組成物を調製した。
【0051】
<硬化体の調製>
各例で得られた水硬性組成物及び水を質量比で100:70の割合で混合し、スリーワンモーター(HEIDEN製)を用いて、回転数300rpm、混合時間1分30秒の条件によりペーストを調製した。
調製したペーストを、1cm×1cm×6cmの型枠に充填し、20℃、60RHの条件で空気中に1日静置した後、脱型して硬化体を得た。
【0052】
【表2】
【0053】
<ピーク面積比の計算>
無機鉱物の核種27Al-NMRの化学シフト及び配位状態を、NMR装置JNM-ECZ800R(日本電子株式会社製)を用いて分析した。
分析手法はMAS(Magic Angle Spinning)法とし、3.2mmの試料管を使用した。分析条件は、磁場強度:18.79T、周波数:20kHz、積算回数:256回、パルス幅:90°(0.6μs)とした。
得られた27Al-NMRスペクトルに対し、ガウス関数及びローレンツ関数の畳み込み関数であるフォークト関数を用いて、各々のピークの波形分離を行った。27Al-NMRスペクトルにおいて、化学シフト-10ppm~15ppmの範囲のピークP1が6配位Alに、50ppm~80ppmの範囲のピークP2が4配位Alに、30ppm~40ppmの範囲のピークP3が5配位Alに、それぞれ対応する。
そして分離した各ピークの積分値を用いて各ピーク面積を算出した。
得られた各ピーク面積から、P1+P2+P3の面積の和、及び当該和を基準とするP1~P3の面積の割合(%)をそれぞれ算出した。結果を表3に示す。
【0054】
<圧縮強さ測定>
各例で得られた硬化体について、以下の方法に沿って圧縮強さの測定を行った。すなわち、圧縮強さの測定はJIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」の記載の方法に準拠して測定した。なお、2本の硬化体を用いて、それぞれN=4で測定した。結果を表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
表3に示されるように、実施例では、カオリン以外の無機鉱物を用いて、十分な圧縮強度発現性を有する、低炭素型の水硬性組成物を製造することができた。このことは、カオリン以外の無機鉱物を27Al-NMRによって分析して、4配位Al及び5配位Alのピーク面積の割合に着目して無機鉱物を選定し、これをアルカリ刺激材と混合することで、十分な圧縮強度発現性を有する、低炭素型の水硬性組成物を製造することができることの証左である。