(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127730
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】プラスミドベクター、組換え放線菌、及び標的タンパク質の生産方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/74 20060101AFI20230907BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20230907BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20230907BHJP
C12N 15/31 20060101ALI20230907BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20230907BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
C12N15/74 Z
C12N15/113 Z ZNA
C12N15/11 Z
C12N15/31
C12P21/02 C
C12N1/21
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031597
(22)【出願日】2022-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 英晃
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AG01
4B064CA03
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA01
4B064DA20
4B065AA50X
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA27
4B065CA44
4B065CA60
(57)【要約】 (修正有)
【課題】生産コストを抑えながら、放線菌において標的タンパク質を効率良く製造することができるプラスミドベクターを提供する。
【解決手段】放線菌において標的タンパク質を発現するためのプラスミドベクターは、光センサー機能を有するタンパク質をコードする核酸(a);プロモーター認識能を有するタンパク質をコードする核酸(b);前記核酸(b)がコードするタンパク質に認識されるプロモーター活性を有する核酸(c);及び前記標的タンパク質をコードする遺伝子を挿入するためのクローニングサイト(d);をこの順に含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放線菌において標的タンパク質を発現するためのプラスミドベクターであって、
以下の(a1)~(a4)のいずれかの塩基配列を含み、且つ、光センサー機能を有するタンパク質をコードする核酸(a);
(a1)配列番号1で表される塩基配列;
(a2)配列番号1で表される塩基配列において1若しくは数個の塩基を欠損、置換、及び/又は付加された塩基配列;
(a3)配列番号1で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(a4)配列番号1で表される塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸の塩基配列;
以下の(b1)~(b4)のいずれかの塩基配列を含み、且つ、プロモーター認識能を有するタンパク質をコードする核酸(b);
(b1)配列番号2で表される塩基配列;
(b2)配列番号2で表される塩基配列において1若しくは数個の塩基を欠損、置換、及び/又は付加された塩基配列;
(b3)配列番号2で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(b4)配列番号2で表される塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸の塩基配列;
以下の(c1)~(c4)のいずれかの塩基配列を含み、且つ、前記核酸(b)がコードするタンパク質に認識されるプロモーター活性を有する核酸(c);
(c1)配列番号3又は4で表される塩基配列;
(c2)配列番号3又は4で表される塩基配列において1若しくは数個の塩基を欠損、置換、及び/又は付加された塩基配列;
(c3)配列番号3又は4で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(c4)配列番号3又は4で表される塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸の塩基配列;及び
前記標的タンパク質をコードする遺伝子を挿入するためのクローニングサイト(d);
をこの順に含む、プラスミドベクター。
【請求項2】
前記核酸(c)の下流であって、前記クローニングサイト(d)の上流に、
配列番号5~7のいずれかで表される塩基配列を含み、且つ、リボソーム結合部位として機能する核酸(e)を更に含む、請求項1に記載のプラスミドベクター。
【請求項3】
前記核酸(e)は、配列番号8~14のいずれかで表される塩基配列からなる、請求項2に記載のプラスミドベクター。
【請求項4】
前記核酸(b)の下流であって、前記核酸(c)の上流に、
以下の(f1)~(f4)のいずれかの塩基配列を含み、且つ、転写を終結させる活性を有する核酸(f)を更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のプラスミドベクター。
(f1)配列番号15で表される塩基配列;
(f2)配列番号15で表される塩基配列において1若しくは数個の塩基を欠損、置換、及び/又は付加された塩基配列;
(f3)配列番号15で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(f4)配列番号15で表される塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸の塩基配列
【請求項5】
前記核酸(a)の上流に、sti領域を含む核酸(g)を更に含み、
前記核酸(g)が、以下の(g1)~(g4)のいずれかの塩基配列を含み、且つ、前記プラスミドベクターのコピー数を増大し得る、請求項1~4のいずれか一項に記載のプラスミドベクター。
(g1)配列番号16で表される塩基配列;
(g2)配列番号16で表される塩基配列において1若しくは数個の塩基を欠損、置換、及び/又は付加された塩基配列;
(g3)配列番号16で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(g4)配列番号16で表される塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸の塩基配列
【請求項6】
前記クローニングサイト(d)に、前記標的タンパク質をコードする遺伝子が挿入されている、請求項1~5のいずれか一項に記載のプラスミドベクター。
【請求項7】
請求項6に記載のプラスミドベクターで形質転換された、組換え放線菌。
【請求項8】
請求項6に記載のプラスミドベクターで放線菌を形質転換する形質転換工程と、
形質転換された前記放線菌を430nm以上550nm以下の波長を含む光照射下で培養する培養工程と、
得られた培養物から前記標的タンパク質を回収する回収工程と、
をこの順に含む、標的タンパク質の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスミドベクター、組換え放線菌、及び標的タンパク質の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子組換え技術を利用したタンパク質生産は、細菌、酵母、動物細胞等を宿主として、各種発現ベクターを利用して実用化されている。従来型のタンパク質生産系は、構成的タイプと誘導タイプに分けられ、前者は、常にタンパク質生産を行う系であり、後者は低分子誘導化合物によって発現を誘導することで生産を行う系である。
【0003】
従来型の構成的タイプのタンパク質生産系では、宿主に対して毒性のあるタンパク質を生産させる際には、増殖阻害が起こるため、該タンパク質を生産できない。従来型の誘導タイプのタンパク質生産系では、低分子誘導化合物が高価であり、再利用できず、また培地組成を変える必要がある。代表的な誘導化合物であるIPTG(isopropyl β-D-thiogalactopyranoside)は生産コストの最大40%を占める。誘導化合物は、人工合成物、抗生物質、糖等が主に用いられており、いずれも人工的に製造されているものであることから、環境負荷も大きい。
【0004】
一方、発明者は、これまで、放線菌の一種に内在するカロテノイド合成遺伝子の調節領域(プロモーター領域)を単離して、発現ベクターを構築し、メラニン色素をコードする遺伝子を挿入することで、光刺激に応答してメラニン色素が産生されることを報告している(例えば、非特許文献1参照)。光誘導によるタンパク質生産系は、従来のタンパク質生産系よりもコストが低く、環境負荷も小さく、且つ、培地交換の必要もない。
【0005】
光誘導によるタンパク質生産系としては、大腸菌において、pET系に匹敵する収量のタンパク質が得られた例が報告されている(例えば、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Takano H et al., “The CarA/LitR-Family Transcriptional Regulator: Its Possible Role as a Photosensor and Wide Distribution in Non-Phototrophic Bacteria.”, Biosci. Biotechnol. Biochem., Vol. 70, Issue 9, pp. 2320-2324, 2006.
【非特許文献2】Ohlendorf R et al., “From Dusk till Dawn: One-Plasmid Systems for Light-Regulated Gene Expression.”, J Mol Biol., Vol. 416, Isuue 4, pp. 534-542, 2012.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載の光誘導によるタンパク質生産系では、標的タンパク質の種類によっては発現が弱く、改良の余地がある。
また、非特許文献2に記載の光誘導によるタンパク質生産系では、人工的に構築された異種生物由来の2成分制御系及びλファージリプレッサーの3遺伝子からなる複雑なシステムであるため、普及していない。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、生産コストを抑えながら、放線菌において標的タンパク質を効率良く製造することができるプラスミドベクター、並びに、前記プラスミドベクターを用いた組換え放線菌及び標的タンパク質の生産方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、放線菌において標的タンパク質を発現するためのプラスミドベクターの光刺激に応答する調節領域の構成を見直すことで、標的タンパク質の生産効率が飛躍的に向上したタンパク質生産系を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1) 放線菌において標的タンパク質を発現するためのプラスミドベクターであって、
以下の(a1)~(a4)のいずれかの塩基配列を含み、且つ、光センサー機能を有するタンパク質をコードする核酸(a);
(a1)配列番号1で表される塩基配列;
(a2)配列番号1で表される塩基配列において1若しくは数個の塩基を欠損、置換、及び/又は付加された塩基配列;
(a3)配列番号1で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(a4)配列番号1で表される塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸の塩基配列;
以下の(b1)~(b4)のいずれかの塩基配列を含み、且つ、プロモーター認識能を有するタンパク質をコードする核酸(b);
(b1)配列番号2で表される塩基配列;
(b2)配列番号2で表される塩基配列において1若しくは数個の塩基を欠損、置換、及び/又は付加された塩基配列;
(b3)配列番号2で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(b4)配列番号2で表される塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸の塩基配列;
以下の(c1)~(c4)のいずれかの塩基配列を含み、且つ、前記核酸(b)がコードするタンパク質に認識されるプロモーター活性を有する核酸(c);
(c1)配列番号3又は4で表される塩基配列;
(c2)配列番号3又は4で表される塩基配列において1若しくは数個の塩基を欠損、置換、及び/又は付加された塩基配列;
(c3)配列番号3又は4で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(c4)配列番号3又は4で表される塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸の塩基配列;及び
前記標的タンパク質をコードする遺伝子を挿入するためのクローニングサイト(d);
をこの順に含む、プラスミドベクター。
(2) 前記核酸(c)の下流であって、前記クローニングサイト(d)の上流に、
配列番号5~7のいずれかで表される塩基配列を含み、且つ、リボソーム結合部位として機能する核酸(e)を更に含む、(1)に記載のプラスミドベクター。
(3) 前記核酸(e)は、配列番号8~14のいずれかで表される塩基配列からなる、(2)に記載のプラスミドベクター。
(4) 前記核酸(b)の下流であって、前記核酸(c)の上流に、
以下の(f1)~(f4)のいずれかの塩基配列を含み、且つ、転写を終結させる活性を有する核酸(f)を更に含む、(1)~(3)のいずれか一つに記載のプラスミドベクター。
(f1)配列番号15で表される塩基配列;
(f2)配列番号15で表される塩基配列において1若しくは数個の塩基を欠損、置換、及び/又は付加された塩基配列;
(f3)配列番号15で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(f4)配列番号15で表される塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸の塩基配列
(5) 前記核酸(a)の上流に、sti領域を含む核酸(g)を更に含み、
前記核酸(g)が、以下の(g1)~(g4)のいずれかの塩基配列を含み、且つ、前記プラスミドベクターのコピー数を増大し得る、(1)~(4)のいずれか一つに記載のプラスミドベクター。
(g1)配列番号16で表される塩基配列;
(g2)配列番号16で表される塩基配列において1若しくは数個の塩基を欠損、置換、及び/又は付加された塩基配列;
(g3)配列番号16で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(g4)配列番号16で表される塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸の塩基配列
(6) 前記クローニングサイト(d)に、前記標的タンパク質をコードする遺伝子が挿入されている、(1)~(5)のいずれか一つに記載のプラスミドベクター。
(7) (6)に記載のプラスミドベクターで形質転換された、組換え放線菌。
(8) (6)に記載のプラスミドベクターで放線菌を形質転換する形質転換工程と、
形質転換された前記放線菌を430nm以上550nm以下の波長を含む光照射下で培養する培養工程と、
得られた培養物から前記標的タンパク質を回収する回収工程と、
をこの順に含む、標的タンパク質の生産方法。
【発明の効果】
【0011】
上記態様のプラスミドベクター、組換え放線菌及び標的タンパク質の生産方法によれば、生産コストを抑えながら、放線菌において標的タンパク質を効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図3】本発明の一実施形態に係るプラスミドベクターの構造を示す模式図である。
【
図4】本発明の他の実施形態に係るプラスミドベクターの構造を示す模式図である。
【
図5】本発明の他の実施形態に係るプラスミドベクターの構造を示す模式図である。
【
図6】本発明の他の実施形態に係るプラスミドベクターの構造を示す模式図である。
【
図7】実施例1におけるクマシーブリリアントブルー(CBB)染色像である。
【
図8】実施例1におけるXylEの活性を示すグラフである。
【
図9】実施例1におけるXylEの活性を示すグラフである。
【
図10】実施例1におけるXylEの活性を示すグラフである。
【
図19】実施例2における各プラスミドベクターの構造の一部を示す模式図(左)と、菌体の観察像(右)である。
【
図21】実施例2におけるアガロースゲル電気泳動像である。
【
図22】実施例2におけるXylEの活性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、必要に応じて図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0014】
本明細書中において、「配列」とは、任意の長さのヌクレオチド配列を意味しており、デオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドであり、線状、環状、又は分岐状であり、一本鎖又は二本鎖である。
【0015】
本明細書において、「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」とは、アミノ酸残基のポリマーを意味し、互換的に使用される。また、1つ若しくは複数のアミノ酸が、天然に存在する対応アミノ酸の化学的類似体、又は修飾誘導体である、アミノ酸ポリマーを意味する。
【0016】
本明細書において、「核酸」とは、線状又は環状配座であり、一本鎖又は二本鎖形態のいずれかである、デオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドポリマーを意味し、ポリマーの長さに関して制限するものとして解釈されるものではない。また、天然ヌクレオチドの公知の類似体、並びに塩基部分、糖部分及びリン酸部分のうち少なくとも一つの部分において修飾されるヌクレオチド(例えば、ホスホロチエート骨格)を包含する。一般に、特定ヌクレオチドの類似体は、同一の塩基対合特異性を有し、例えば、Aの類似体は、Tと塩基対合する。
【0017】
≪プラスミドベクター≫
本実施形態のプラスミドベクターは、放線菌において標的タンパク質を発現するためのプラスミドベクターである。
【0018】
本実施形態のプラスミドベクターは、核酸(a)、核酸(b)、核酸(c)、及びクローニングサイト(d)をこの順に含む。
【0019】
核酸(a)は、以下の(a1)~(a4)のいずれかの塩基配列を含み、且つ、光センサー機能を有するタンパク質をコードする核酸である。
(a1)配列番号1で表される塩基配列;
(a2)配列番号1で表される塩基配列において1若しくは数個の塩基を欠損、置換、及び/又は付加された塩基配列;
(a3)配列番号1で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(a4)配列番号1で表される塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸の塩基配列
【0020】
核酸(b)は、以下の(b1)~(b4)のいずれかの塩基配列を含み、且つ、プロモーター認識能を有するタンパク質をコードする核酸である。
(b1)配列番号2で表される塩基配列;
(b2)配列番号2で表される塩基配列において1若しくは数個の塩基を欠損、置換、及び/又は付加された塩基配列;
(b3)配列番号2で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(b4)配列番号2で表される塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸の塩基配列
【0021】
核酸(c)は、以下の(c1)~(c4)のいずれかの塩基配列を含み、且つ、前記核酸(b)がコードするタンパク質に認識されるプロモーター活性を有する。
(c1)配列番号3又は4で表される塩基配列;
(c2)配列番号3又は4で表される塩基配列において1若しくは数個の塩基を欠損、置換、及び/又は付加された塩基配列;
(c3)配列番号3又は4で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(c4)配列番号3又は4で表される塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸の塩基配列
【0022】
クローニングサイト(d)は、標的タンパク質をコードする遺伝子を挿入するための領域である。
【0023】
図1は、発明者らが非特許文献1にて報告したプラスミドベクターpQRSである。pQRSでは、光刺激に応答する調節領域として、Streptomyces coelicolor A3(2)株に由来する、LitQ、LitR、LitS、及びLitAからなる遺伝子群を含む。さらに、pQRSは、LitQの下流に、σ
LitS因子依存性プロモーターである、カロテノイドYプロモーター(PcrtY)、及びカロテノイドY遺伝子を含み、カロテノイドY遺伝子の下流に標的タンパク質をコードする遺伝子のためのクローニングサイトを有する。
【0024】
一方、発明者らは、上記pQRSの構成を見直して、後述する実施例に示すように、プラスミドベクターpLit19を構築した(
図2参照)。発明者らは、光刺激に応答する調節領域のうち、LitR及びLitSの2遺伝子のみで、光誘導による転写を開始することができることを見出した。また、LitSの下流に、カロテノイドプロモーター及び標的タンパク質をコードする遺伝子のためのクローニングサイトをこの順で含むことで、後述する実施例に示すように、pLit19では、pQRSよりもタンパク質の生産効率が格段に向上することを明らかにした。
【0025】
したがって、本実施形態のプラスミドベクターは、上記構成を有することで、生産コストを抑えながら、放線菌において標的タンパク質を効率良く製造することができる。
【0026】
また、本実施形態のプラスミドベクター及び該プラスミドベクターを用いた標的タンパク質の生産は、オプトジェネティクス(光遺伝学)を利用した技術であり、オプトジェネティクス(光遺伝学)における以下に示す利点を有する。
1)光照射は非侵襲的な手法であり、低分子誘導物質の添加等、放線菌の培養培地の組成を変えることなく、標的タンパク質を発現させることができる。
2)光の照射及び非照射によって、可逆的且つ迅速に標的タンパク質の発現の開始及び停止を行うことができる。
3)光の照射箇所においてのみ、局所的に標的タンパク質の発現を誘導することができる。
4)高価な低分子誘導物質と比較して、光は安価であるため、生産コストを抑えることができる。
【0027】
図3は、本発明の一実施形態に係るプラスミドベクターの構造を示す模式図である。
図3を参照しながら、本実施形態のプラスミドベクターの各構成について以下に詳細を説明する。
【0028】
<核酸(a)>
図3に示すように、核酸(a)は、核酸(b)に対して逆の方向でベクター内に含まれる。
【0029】
核酸(a)は、以下の(a1)~(a4)のいずれかの塩基配列を含み、且つ、光センサー機能を有するタンパク質をコードする核酸である。
(a1)配列番号1で表される塩基配列;
(a2)配列番号1で表される塩基配列において1若しくは数個の塩基を欠損、置換、及び/又は付加された塩基配列;
(a3)配列番号1で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(a4)配列番号1で表される塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸の塩基配列
【0030】
配列番号1は、Streptomyces coelicolor A3(2)株由来のMerR型転写調節タンパク質LitR(Light Inducible Transcriptional Regulator)をコードする遺伝子の塩基配列である。
図2に示すように、暗条件下では、LitR-ビタミン12(B12)複合体タンパク質が形成されており、LitSからの転写開始を抑制している。一方で、光が照射されることで、B12が光分解されて、LitRは不活性化される。その結果、RNAポリメラーゼがリクルートされて、LitSタンパク質が発現される。発現されたLitSタンパク質は、RNAポリメラーゼと共に、カロテノイドE又はYプロモーターからの転写を誘導し、カロテノイドE(又はY)プロモーターの下流に導入された標的タンパク質をコードする遺伝子が発現する。
【0031】
LitRに相同な遺伝子はグラム陽性及び陰性を問わず、一般細菌に広く分布している。よって、上記配列番号1で表される塩基配列からなるS. coelicolor A3(2)株由来のLitR以外のLitR相同遺伝子も同様に光センサー機能を有し得る。LitRと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸としては、下記(a2)~(a4)のいずれかの塩基配列を含み、且つ、光センサー機能を有するタンパク質をコードする核酸が挙げられる。
(a2)配列番号1で表される塩基配列において1若しくは数個の塩基を欠損、置換、及び/又は付加された塩基配列;
(a3)配列番号1で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(a4)配列番号1で表される塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸の塩基配列
【0032】
なお、ここでいう「光センサー機能」とは、上述したLitRのように、暗条件(光非照射)下では、B12と複合体タンパク質を形成してLitSの発現を抑制し、一方、光照射下では、B12が光分解されることで不活性化して、LitSの発現抑制を解除する機能を示す。
【0033】
上記(a2)の塩基配列について、配列番号1で表される塩基配列において、欠失、置換、及び/又は付加されてもよい塩基の数としては、1個以上100個以下が好ましく、1個以上50個以下がより好ましく、1個以上30個以下がさらにより好ましく、1個以上10個以下がさらに好ましく、1個以上5個以下が特に好ましく、1個以上2個以下が最も好ましい。
【0034】
上記(a3)の塩基配列について、配列番号1で表される塩基配列との同一性は、90%以上100%未満であり、95%以上100%未満であることが好ましく、97%以上100%未満であることがより好ましく、99%以上100%未満であることがさらに好ましく、99.5%以上100%未満であることが特に好ましく、99.9%以上100%未満であることが最も好ましい。
塩基配列同士の同一性は、公知の各種相同性検索プログラムを用いて求めることができる。例えば、公知の相同性検索ソフトウェアBLASTにより得られた値を採用できる。
【0035】
本明細書において、「ストリンジェントな条件」とは、例えば、Molecular Cloning-A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION(Sambrookら、Cold Spring Harbor Laboratory Press)に記載の条件が挙げられる。例えば、5×SSC(20×SSCの組成:3Mの塩化ナトリウム,0.3Mのクエン酸溶液、pH7.0)、0.1質量%のN-ラウロイルサルコシン、0.02質量%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、2質量%の核酸ハイブリダイゼーション用ブロッキング試薬、及び50質量%のホルムアミドからなるハイブリダイゼーションバッファー中で、55℃以上70℃以下の温度下で数時間から一晩インキュベーションを行うことによりハイブリダイズさせる条件が挙げられる。なお、インキュベーション後の洗浄の際に用いる洗浄バッファーとしては、好ましくは0.1質量%のSDS含有1×SSC溶液、より好ましくは0.1質量%のSDS含有0.1×SSC溶液である。
【0036】
<核酸(b)>
図3に示すように、核酸(b)は、核酸(a)に対して逆の方向でベクター内に含まれる。
【0037】
核酸(b)は、以下の(b1)~(b4)のいずれかの塩基配列を含み、且つ、プロモーター認識能を有するタンパク質をコードする核酸である。
(b1)配列番号2で表される塩基配列;
(b2)配列番号2で表される塩基配列において1若しくは数個の塩基を欠損、置換、及び/又は付加された塩基配列;
(b3)配列番号2で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(b4)配列番号2で表される塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸の塩基配列
【0038】
配列番号2は、Streptomyces coelicolor A3(2)株由来の、ECFファミリーのσ因子をコードするLitS遺伝子の塩基配列である。上述したように、LitSタンパク質は、カロテノイドE又はYプロモーターに特異的に結合して、カロテノイドE又はYプロモーターからの転写を誘導する。
【0039】
LitSに相同な遺伝子はグラム陽性及び陰性を問わず、一般細菌に広く分布している。よって、上記配列番号2で表される塩基配列からなるS. coelicolor A3(2)株由来のLitS以外のLitS相同遺伝子も同様にプロモーター認識能を有する。LitSと機能的に同等なタンパク質をコードする核酸としては、下記(b2)~(b4)のいずれかの塩基配列を含み、且つ、プロモーター認識能を有するタンパク質をコードする核酸が挙げられる。
(b2)配列番号2で表される塩基配列において1若しくは数個の塩基を欠損、置換、及び/又は付加された塩基配列;
(b3)配列番号2で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(b4)配列番号2で表される塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸の塩基配列
【0040】
なお、ここでいう「プロモーター認識能」とは、上述したLitSタンパク質のように、カロテノイドE又はYプロモーターを特異的に認識して結合する機能を示す。
【0041】
上記(b2)の塩基配列について、配列番号2で表される塩基配列において、欠失、置換、及び/又は付加されてもよい塩基の数としては、1個以上60個以下が好ましく、1個以上50個以下がより好ましく、1個以上30個以下がさらにより好ましく、1個以上10個以下がさらに好ましく、1個以上5個以下が特に好ましく、1個以上2個以下が最も好ましい。
【0042】
上記(b3)の塩基配列について、配列番号2で表される塩基配列との同一性は、90%以上100%未満であり、91%以上100%未満であることが好ましく、95%以上100%未満であることがより好ましく、98%以上100%未満であることがさらに好ましく、99%以上100%未満であることが特に好ましく、99.5%以上100%未満であることが最も好ましい。
【0043】
<核酸(c)>
図3に示すように、核酸(c)は、核酸(b)に対して同じ方向でベクター内に含まれる。
【0044】
核酸(c)は、以下の(c1)~(c4)のいずれかの塩基配列を含み、且つ、前記核酸(b)がコードするタンパク質に認識されるプロモーター活性を有する。
(c1)配列番号3又は4で表される塩基配列;
(c2)配列番号3又は4で表される塩基配列において1若しくは数個の塩基を欠損、置換、及び/又は付加された塩基配列;
(c3)配列番号3又は4で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(c4)配列番号3又は4で表される塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸の塩基配列
【0045】
配列番号3は、S. coelicolor A3(2)株由来のカロテノイド合成遺伝子crtEのプロモーターであり、配列番号4は、Streptomyces coelicolor A3(2)株由来のカロテノイド合成遺伝子crtYのプロモーターである。これらカロテノイドプロモーターは、上述したLitSタンパク質によって特異的に認識され、カロテノイドプロモーター下流に挿入された標的タンパク質をコードする遺伝子の転写が誘導される。
【0046】
カロテノイドE又はYプロモーターに相同な配列は主に放線菌群に広く分布している。よって、上記配列番号3で表される塩基配列からなるS. coelicolor A3(2)株由来のカロテノイドEプロモーター、及び、上記配列番号4で表される塩基配列からなるStreptomyces coelicolor A3(2)株由来のカロテノイドYプロモーター以外のカロテノイドプロモーターも同様にLitSタンパク質に認識されるプロモーター活性を有する。カロテノイドE又はYプロモーターと機能的に同等な核酸としては、下記(c2)~(c4)のいずれかの塩基配列を含み、且つ、核酸(b)がコードするタンパク質に認識されるプロモーター活性を有する核酸が挙げられる。
(c2)配列番号3又は4で表される塩基配列において1若しくは数個の塩基を欠損、置換、及び/又は付加された塩基配列;
(c3)配列番号3又は4で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(c4)配列番号3又は4で表される塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸の塩基配列
【0047】
なお、ここでいう「核酸(b)がコードするタンパク質に認識されるプロモーター活性」とは、上述したカロテノイドE又はYプロモーターのように、LitS又はLitS相同タンパク質に特異的に認識され、且つ、LitS又はLitS相同タンパク質が結合した場合にのみ転写を惹起する活性を意味する。
【0048】
上記(c2)の塩基配列について、配列番号3又は4で表される塩基配列において、欠失、置換、及び/又は付加されてもよい塩基の数としては、1個以上3個以下が好ましく、1個以上2個以下がより好ましく、1個がさらに好ましい。
【0049】
上記(c3)の塩基配列について、配列番号3又は4で表される塩基配列との同一性は、90%以上100%未満であり、94%以上100%未満であることが好ましく、97%以上100%未満であることがより好ましい。
【0050】
また、上記配列番号3で表される塩基配列からなるS. coelicolor A3(2)株由来のカロテノイドEプロモーター、及び、上記配列番号4で表される塩基配列からなるStreptomyces coelicolor A3(2)株由来のカロテノイドEプロモーター以外のカロテノイドプロモーターとしては、以下の表に示すものも用いることができる。これらカロテノイドプロモーターは、カロテノイドE又はYプロモーターに相同な配列として発明者らが設計し、また、LitSに認識されるプロモーター活性を有するものであることを確認したものである。
【0051】
【0052】
なお、上記表に示すプロモーター配列は、次の方法を用いて設計したものである。フォワードプライマーとしてpLit19-mCherry-F-SEQ(5’-TTCTACGAGGACCTGACGCAG-3’;配列番号52)と、リバースプライマーとしてcrtEp-RV3(5’-CTCGAGAAGCTTTGATCTACGNNNNTSCTTCCGNNNNNNNNNNNNNNNYGGATGCNNNNNNNNNNGCCCGTTCCGGCACGGGGTG-3’(Nは、A、T、C、又はGのうちの任意の塩基である。);配列番号53)により、pLit19-mCherry(後述する
図19のNo.2;配列番号79)を鋳型として、PrimeSTAR GXL DNA Polymerase(タカラバイオ社製)を用いてPCRを行う。PCRプログラムは、「98℃ 10秒間;55℃ 15秒間;68℃ 1分間」を30サイクルである。増幅DNA断片(417bp)を制限酵素SphIとHindIII間で切断後、同制限酵素で切断したpLit19-mCherry(後述する
図19のNo.2;配列番号79)の同サイトに挿入する。各菌体において、mCherryの発現によって呈する赤色を指標として、プロモーター配列を探索する。
【0053】
<クローニングサイト(d)>
図3に示すように、クローニングサイト(d)は、核酸(b)及び核酸(c)に対して同じ方向でベクター内に含まれる。
【0054】
クローニングサイト(d)は、標的タンパク質をコードする遺伝子を挿入するための領域である。クローニングサイトは、プロモーターの下流に設けられている。このクローニングサイトは、特定の種類の制限酵素(又はその組合せ)によって、ユニークに切断されるサイトである。その特定の種類の制限酵素(又はその組合せ)で切断した箇所に、標的タンパク質をコードする遺伝子を挿入することができる。
【0055】
クローニングサイトは、マルチクローニングサイト(MCS)としてもよい。MCSは、複数種類の制限酵素部位を有する核酸であり、標的タンパク質をコードする遺伝子をMCSに連結してベクターに挿入するために使用される。例えば、MCSは、NdeI、EcoRI、XbaI、HindIII、BglII、BamHI等の制限酵素部位(これらのうち1個以上)を有する。クローニングサイトは、例えば、配列番号54で表される塩基配列からなる。
【0056】
図4は、本発明の他の実施形態に係るプラスミドベクターの構造を示す模式図である。
図4に示すプラスミドベクターは、核酸(e)を更に含む点で、
図3に示すプラスミドベクターと相違しており、その他は
図3に示すプラスミドベクターと同じである。
図4に示すプラスミドベクターは、核酸(e)を更に含むことで、後述する実施例に示すように、標的タンパク質の生産効率をより向上させることができる。
【0057】
<核酸(e)>
核酸(e)は、核酸(c)の下流であって、クローニングサイト(d)の上流に、設けられている。
図4に示すように、核酸(e)は、核酸(c)及びクローニングサイト(d)に対して同じ方向でベクター内に含まれる。
【0058】
核酸(e)は、配列番号5~7のいずれかで表される塩基配列を含み、且つ、リボソーム結合部位として機能する。リボソーム結合部位は、翻訳開始の目印となり得る。
【0059】
配列番号5~7は、それぞれ放線菌においてこれまでに知られているリボソーム結合部位の塩基配列である。
【0060】
核酸(e)は、配列番号8~14のいずれかで表される塩基配列からなることが好ましい。これらの塩基配列は、リボソーム結合部位とその周辺配列からなるものであり、参考文献1(Horbal L et al., “A set of synthetic versatile genetic control elements for the efficient expression of genes in Actinobacteria.”, Scientific Reports, Vol. 8, No. 491, 2018; DOI:10.1038/s41598-017-18846-1.)の記載を参照して、発明者らが独自で検討を行った配列である。
核酸(e)が上記いずれかの塩基配列からなることで、後述する実施例に示すように、標的タンパク質の生産効率をより向上させることができる。
中でも、核酸(e)は、配列番号13又は14で表される塩基配列からなることがより好ましい。
【0061】
図5は、本発明の他の実施形態に係るプラスミドベクターの構造を示す模式図である。
図5に示すプラスミドベクターは、核酸(f)を更に含む点で、
図3に示すプラスミドベクターと相違しており、その他は
図3に示すプラスミドベクターと同じである。
図5に示すプラスミドベクターは、核酸(f)を更に含むことで、後述する実施例に示すように、標的タンパク質の生産効率をより向上させることができる。
【0062】
<核酸(f)>
核酸(f)は、核酸(b)の下流であって、核酸(c)の上流に、設けられている。
図5に示すように、核酸(f)は、核酸(b)及び核酸(c)に対して同じ方向でベクター内に含まれる。
【0063】
核酸(f)は、以下の(f1)~(f4)のいずれかの塩基配列を含み、且つ、転写を終結させる活性を有する。
(f1)配列番号15で表される塩基配列;
(f2)配列番号15で表される塩基配列において1若しくは数個の塩基を欠損、置換、及び/又は付加された塩基配列;
(f3)配列番号15で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(f4)配列番号15で表される塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸の塩基配列
【0064】
配列番号15は、人工合成されたターミネーター配列(ttsbiB)である(参考文献2:de Hoon M. J. L. et al., “Prediction of Transcriptional Terminators in Bacillus subtilis and Related Species.”, PLoS Comput Biol., Vol. 1, Issue 3, e25, 2005.)。
【0065】
配列番号15で表される塩基配列を含む配列からなる核酸と機能的に同等な核酸としては、下記(f2)~(b4)のいずれかの塩基配列を含み、且つ、転写を終結させる活性を有する核酸が挙げられる。
(f2)配列番号15で表される塩基配列において1若しくは数個の塩基を欠損、置換、及び/又は付加された塩基配列;
(f3)配列番号15で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(f4)配列番号15で表される塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸の塩基配列
【0066】
上記(f2)の塩基配列について、配列番号15で表される塩基配列において、欠失、置換、及び/又は付加されてもよい塩基の数としては、1個以上3個以下が好ましく、1個以上2個以下がより好ましく、1個がさらにより好ましい。
【0067】
上記(f3)の塩基配列について、配列番号15で表される塩基配列との同一性は、90%以上100%未満であり、94%以上100%未満であることが好ましく、97%以上100%未満であることがより好ましい。
【0068】
図6は、本発明の他の実施形態に係るプラスミドベクターの構造を示す模式図である。
図6に示すプラスミドベクターは、核酸(g)を更に含む点で、
図3に示すプラスミドベクターと相違しており、その他は
図3に示すプラスミドベクターと同じである。
図6に示すプラスミドベクターは、核酸(g)を更に含むことで、後述する実施例に示すように、プラスミドベクターのDNA収量をより向上させることができ、その結果、標的タンパク質の生産効率をより向上させることができる。
【0069】
核酸(g)は、sti領域を含み、核酸(a)の上流に、設けられている。核酸(g)は、後述する自律複製可能な領域に対して特定方向でベクター内に含まれる。
【0070】
「sti」とは、「強い不和合性(strong incompatibility)」を引き起こすことから命名された遺伝子の名称である。stiは、Streptomyces属細菌の内因性の野生型プラスミドであるpIJ101の必須複製領域部分ではない約200bpのDNA断片としてそもそも見出されたものである。
【0071】
核酸(g)は、以下の(g1)~(g4)のいずれかの塩基配列を含み、且つ、前記プラスミドベクターのコピー数を増大し得る。
(g1)配列番号16で表される塩基配列;
(g2)配列番号16で表される塩基配列において1若しくは数個の塩基を欠損、置換、及び/又は付加された塩基配列;
(g3)配列番号16で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(g4)配列番号16で表される塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸の塩基配列
【0072】
配列番号16は、放線菌プラスミドであるpVJ1由来のsti領域の塩基配列である。後述する実施例に示すように、本実施形態のプラスミドベクターは、pVJ1由来のsti領域を含むことで、プラスミドベクターのDNA収量をより向上させることができ、その結果、標的タンパク質の生産効率をより向上させることができる。
【0073】
配列番号16で表される塩基配列を含む配列からなる核酸と機能的に同等な核酸としては、下記(g2)~(g4)のいずれかの塩基配列を含み、且つ、プラスミドベクターのコピー数を増大し得る核酸が挙げられる。
(g2)配列番号16で表される塩基配列において1若しくは数個の塩基を欠損、置換、及び/又は付加された塩基配列;
(g3)配列番号16で表される塩基配列と90%以上の配列同一性を有する塩基配列;
(g4)配列番号16で表される塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸の塩基配列
【0074】
上記(g2)の塩基配列について、配列番号16で表される塩基配列において、欠失、置換、及び/又は付加されてもよい塩基の数としては、1個以上66個以下が好ましく、1個以上46個以下がより好ましく、1個以上33個以下がさらにより好ましく、1個以上19個以下がさらに好ましく、1個以上6個以下が特に好ましく、1個以上3個以下が最も好ましい。
【0075】
上記(g3)の塩基配列について、配列番号16で表される塩基配列との同一性は、90%以上100%未満であり、93%以上100%未満であることが好ましく、92%以上100%未満であることがより好ましく、95%以上100%未満であることがさらにより好ましく、97%以上100%未満であることがさらに好ましく、99%以上100%未満であることが特に好ましく、99.5%以上100%未満であることが最も好ましい。
【0076】
本実施形態のプラスミドベクターは、
図3~
図6に示す構造からなるものに限定されず、本実施形態のプラスミドベクターが奏する効果を損なわない範囲内において、
図3~
図6に示すものの一部の構成が変更又は削除されたものや、これまでに説明したものにさらに他の構成が追加されたものであってもよい。
【0077】
例えば、
図3に示すプラスミドベクターにおいて、上記核酸(e)、上記核酸(f)、及び上記核酸(g)の全てが追加されたものであってもよい。
【0078】
<その他構成>
本実施形態のプラスミドベクターは、放線菌の宿主において自律複製可能な領域を含み得る。放線菌の宿主において自律複製可能な領域は、該領域を含むプラスミドを宿主に導入したときに、プラスミドが複製できる最小限の領域を含みさえすればよく、特に制限されない。自律複製可能な領域としては、例えば、Streptomyces属細菌の内因性の野生型プラスミドであるpIJ101又はpIJ101から改良されたプラスミドベクターに由来する自律複製領域(複製起点(「ori」)及び複製タンパク質「rep」を含む領域)が挙げられる。repを含む領域は、例えば、配列番号56で表される塩基配列からなる。
【0079】
本実施形態のプラスミドベクターは、放線菌の菌体内でプラスミドベクターの複製が可能であり、放線菌の増殖によってプラスミドベクターが落ちてしまうことを抑制することができる。また、放線菌の菌体内でのプラスミドベクターのコピー数を増加させることができる。
【0080】
本実施形態のプラスミドベクターは、これを保持した宿主を選択できるように、適切な薬剤耐性遺伝子又は代謝酵素等の選択用マーカー遺伝子を含むことが好ましい。
選択用マーカー遺伝子としては、チオストレプトン耐性遺伝子、アプラマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子等が挙げられる。薬剤マーカーが抗生物質耐性遺伝子である場合には、対応する抗生物質を含む培地で放線菌を培養することにより、放線菌の菌体内からプラスミドベクターが落ちてしまうことを抑制することができる。好ましくは、チオストレプトン耐性遺伝子が用いられる。チオストレプトン耐性遺伝子は、例えば、配列番号55で表される塩基配列からなる。
pIJ101に由来する汎用プラスミドベクターのpIJ350、pIJ702はチオストレプトン耐性遺伝子を有するので、骨格プラスミドとして好適に用いられる。
【0081】
本実施形態のプラスミドベクターは、必要に応じて他のエレメント(例えば、転写活性化配列、発現調節配列(オペレーター、エンハンサー等)を更に含んでいてもよい。
【0082】
本実施形態のプラスミドベクターの骨格として、放線菌宿主に対して通常用いられるプラスミドを使用することができる。例えば、pIJ101に由来する汎用プラスミドベクター及び他の放線菌に適した公知のプラスミドベクターを用いることができる。このようなプラスミドベクターとしては、例えば、pIJ350、pIJ702、pIJ487等が挙げられる。pIJ350、pIJ702はチオストレプトン耐性遺伝子及びpIJ101に由来する自律複製領域(複製起点(「ori」)及び複製タンパク質「rep」を含む領域)を有するので、骨格プラスミドとして好適に用いられる。
【0083】
本実施形態のプラスミドベクターを構成する各要素の連結は、当業者が通常用いる技術を適宜採用することができる。結合は、適切な制限酵素、リンカー、DNAリガーゼ等を用いて行うことができる。
【0084】
本実施形態のプラスミドベクターのクローニングサイトに標的タンパク質をコードする遺伝子を組み込んで用いることができる。標的タンパク質をコードする遺伝子は、本実施形態のプラスミドベクターにおいて核酸(c)の下流に設けられたクローニングサイト(d)に挿入される。
【0085】
標的タンパク質としては、宿主菌で発現可能なタンパク質であれば特に制限されず、後述する実施例に示すように、あらゆるタンパク質を十分に発現させることができる。
【0086】
標的タンパク質としては、所望の酵素、構造タンパク質、調節因子等であってよく、天然のタンパク質、変異タンパク質、人工的に作り出したタンパク質等であってもよい。
【0087】
標的タンパク質をコードする遺伝子の由来は、例えば、動物由来遺伝子、植物由来遺伝子、微生物由来遺伝子、ウイルス由来遺伝子及び化学合成した遺伝子から任意に選択することができ、限定されない。所望の構造遺伝子保有生物からの遺伝子のクローニングは、公知の任意の手法により行われ得る。必要に応じて制限酵素認識部位を設けたプライマーを用い、PCRで増幅することにより、構造遺伝子を得ることができる。
【0088】
≪組換え放線菌≫
本実施形態の組換え放線菌は、クローニングサイト(d)に、標的タンパク質をコードする遺伝子が挿入されている、上記プラスミドベクターで形質転換されている。
【0089】
なお、一般に、「形質転換」とは、菌体内に外から核酸が導入されて、該菌体の性質が変わることをいう。本実施形態の組換え放線菌においてプラスミドベクターで形質転換されている状態は、プラスミドベクターが放線菌の染色体DNAにインテグレートしている状態、細胞質中に遊離のプラスミド状態で含まれている状態、及びその両方が併存している状態を含む。
【0090】
本実施形態の組換え放線菌によれば、生産コストを抑えながら、放線菌において標的タンパク質を効率良く製造することができる。
【0091】
本明細書において、放線菌とは、放線菌目(order Actinomycetales)に属する菌をいう。
【0092】
放線菌は、グラム陽性細菌に所属する一分類群であり、主に土壌等に生息する。原核生物であるが、多くの放線菌は分岐を伴う糸状の生育を示し、多様な形態を呈する。また、一般的に胞子を形成し、中には胞子嚢や運動性胞子を形成する種も存在する。また、放線菌からは種々の抗生物質及び他の生物学的に重要な化合物が発見されている。
【0093】
放線菌目には、フランキア科(Frankiaceae)、ミクロモノスポラ科(Micromonosporaceae)、プロピオニバクトリウム科(Propionibacteriaceae)、シウドノカルジア科(Psuodonocardiaceae)、ストレプトマイセス科(Streptomyceae)、ストレプトスポランギウム科(Streptosporanguaceae)、テルモモノスポラ科(Thermomonosporaceae)、コリネバクテリウム科(Corynebacteriaceae)、マイコバクテリウム科(Mycobacteriaceae)、ノカジア科(Nocaudiaceae)が含まれる。好ましくは、ストレプトマイセス科、より好ましくはストレプトマイセス属(Streptomyces)に属する菌である。
【0094】
ストレプトマイセス属に属する菌としては、例えば、ストレプトマイセス・セプタタス(Streptomyces septus)、ストレプトマイセス・リビダンス(Streptomyces lividans)、ストレプトマイセス・グリセウス(Streptomyces griseus)、ストレプトマイセス・ラベンデュラエ(Streptomyces lavendulae)、ストレプトマイセス・バージニア(Streptomyces virginia)、ストレプトマイセス・コエリカラー(Streptomyces coelicolor)が挙げられる。本実施形態の組換え放線菌においては、宿主菌体として、ストレプトマイセス・グリセウス又はストレプトマイセス・コエリカラーが好適に用いられる。
【0095】
このようなストレプトマイセス属に属する放線菌やその他の放線菌は、NBRCカタログ、ATCCカタログ、JCMカタログ等の種々のカタログに記載されており、例えば、微生物寄託分譲機関から分譲を受けることによって当業者であれば容易に入手可能である。
【0096】
宿主放線菌について、突然変異を導入するように処理を行うこともできる。このような処理としては、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン(NTG)による変異株の作製が挙げられる。
【0097】
≪標的タンパク質の生産方法≫
本実施形態の標的タンパク質の生産方法は、以下の工程を含む。
クローニングサイト(d)に、標的タンパク質をコードする遺伝子が挿入されている、上記プラスミドベクターで放線菌を形質転換する形質転換工程;
形質転換された前記放線菌を430nm以上550nm以下の波長を含む光照射下で培養する培養工程;及び
得られた培養物から前記標的タンパク質を回収する回収工程。
【0098】
本実施形態の標的タンパク質の生産方法によれば、生産コストを抑えながら、放線菌において標的タンパク質を効率良く製造することができる。
【0099】
次いで、本実施形態の標的タンパク質の生産方法の各工程について以下に詳細に説明する。
【0100】
<形質転換工程>
形質転換工程では、標的タンパク質をコードする遺伝子が挿入されている、上記プラスミドベクターで放線菌を形質転換する。
【0101】
宿主である放線菌へのプラスミドベクターの導入(形質転換)は、公知の方法により行うことができる。具体的な放線菌宿主の形質転換法としては、プロトプラスト/PEG法が挙げられるが、これに限定されない。宿主にプラスミドベクターが導入されたことの確認は、選択用マーカー遺伝子(例えば、チオストレプトン耐性遺伝子)を用いて行うことができる。
【0102】
<培養工程>
培養工程では、形質転換された放線菌を430nm以上550nm以下の波長を含む光照射下で培養する。
【0103】
照射する光としては、青色又は緑色の光である430nm以上550nm以下の波長を含む光であり、緑色又は青色の光を含む可視光線(波長400nm以上800nm以下)を用いることができ、青色の光(波長430nm以上490nm以下)を含む光がより好ましい。
また、より少ない波長強度で標的タンパク質を生産できることから、青色の光(波長430nm以上490nm以下)又は緑色の光(波長490nm以上550nm以下)のみからなる光を用いてもよい。或いは、青色の光又は緑色の光のみからなる光源は高価であり、設備コストを抑える観点からは、白色又は電球色の市販の発光ダイオード(LED)も好適に用いることができる。
【0104】
照射する光の波長強度は、例えば、0.1μmol・s-1・m-2以上10.0μmol・s-1・m-2未満とすることができ、0.5μmol・s-1・m-2以上5.0μmol・s-1・m-2以下であることが好ましく、1.0μmol・s-1・m-2以上3.0μmol・s-1・m-2以下であることがより好ましい。
波長強度が上記下限値以上であることで、LitR-B12複合体タンパク質のB12を光分解することができ、LitRを不活性化することで、LitSタンパク質を発現させて、標的タンパク質の発現をより効率的に誘導することができる。一方で、波長強度が上記上限値以下であることで、光強度の高さに起因する細胞内で活性酸素の発生を抑制することができ、活性酸素が生体分子(例えば、DNA、タンパク質、脂質等)と非特異的に反応して細胞機能を阻害することをより抑制することができる。その結果、タンパク質の発現が低下することを効果的に抑制することができる。
【0105】
光を照射するタイミングとしては、培養初期から光を照射するか、一定程度増殖してから光を照射して発現を誘導する、又は、遮光性の培養容器で培養して集菌した後、光透過性の培養容器に移して遺伝子発現を誘導する方法等を選択することができる。毒性を有するタンパク質を発現させる場合等には、光非照射下で培養後、培養途中から光を照射して誘導する条件が好ましく用いられる。
【0106】
光照射以外の培養条件としては、宿主菌が増殖し、標的タンパク質を産生できる条件であれば特に制限はない。通常、液体培地中で振盪培養又は通気攪拌培養等の好気的条件下で、通常10℃以上40℃以下、好ましくは28℃で、12時間以上120時間行われる。pHは、4以上10以下、好ましくは6以上8以下に調節される。pHの調整は、無機酸または有機酸、アルカリ溶液等を用いて行うことができる。
【0107】
培地は、宿主菌が資化し得る炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行うことができる培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
【0108】
炭素源としては、グルコース、ガラクトース、フラクトース、キシロース、スクロース、ラフィノース、デンプン等の炭水化物、酢酸、プロピオン酸等の有機酸、エタノール、プロパノール等のアルコール類が挙げられる。
【0109】
窒素源としては、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機酸若しくは有機酸のアンモニウム塩又はその他の含窒素化合物が挙げられる。その他、ペプトン、肉エキス、コーンスティープリカー、各種アミノ酸等を用いてもよい。
【0110】
無機物としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等が挙げられる。
【0111】
また、必要に応じて植物油、界面活性剤、シリコン等の消泡剤を添加してもよい。
【0112】
<回収工程>
回収工程では、得られた培養物から標的タンパク質を回収する。
【0113】
本明細書において、「培養物」には、培養上清、培養細胞、培養菌体、及び細胞若しくは菌体の破砕物が包含される。
【0114】
標的タンパク質が宿主菌体内に蓄積する場合には、培養終了後、遠心分離によって形質転換細胞を回収し、得られた菌体を超音波処理等によって破砕した後、遠心分離等によって無細胞抽出液を得ることで、標的タンパク質を回収することができる。
【0115】
標的タンパク質が細胞外に分泌される場合には、培養上清を回収することで、標的タンパク質を回収することができる。
【0116】
<その他工程>
本実施形態の標的タンパク質の生産方法は、例えば、形質転換工程の前に、挿入工程を、回収工程の後に、精製工程を、更に含むことができる。
【0117】
[挿入工程]
上記プラスミドベクターに標的タンパク質をコードする遺伝子が挿入されていない場合には、挿入工程では、上記プラスミドベクターのクローニングサイトに標的タンパク質をコードする遺伝子を挿入する。
【0118】
遺伝子の挿入方法としては、当業者が通常用いる技術を適宜採用することができる。具体的には、適切な制限酵素、リンカー、DNAリガーゼ等を用いて行うことができる。
【0119】
[精製工程]
精製工程では、回収工程から得られた標的タンパク質を含む溶液(無細胞抽出液や培養上清)から、標的タンパク質を精製する。
【0120】
標的タンパク質の精製は、公知の方法により行うことができる。具体的には、塩析法や、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーの各種クロマトグラフィーなどの一般的なタンパク質精製法により精製することができる。
【0121】
≪用途≫
本実施形態のプラスミドベクター、組換え放線菌、及び標的タンパク質の生産方法は、生産コストを抑えながら、放線菌において標的タンパク質を効率良く製造することができる。また、後述する実施例に示すように、1g以上10g/L以下の高濃度で、大量に標的タンパク質を発現させることができる。よって、食品用酵素や抗生物質の製造等に利用することができ、工業的に有用な技術である。
【実施例0122】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0123】
[実施例1]
非特許文献1に記載のプラスミドベクターpQRSを改良して、タンパク質の発現を向上させたプラスミドベクターpLit19を用いて、各種検討を行った。
【0124】
(プラスミドベクターpLit19の構築)
プラスミドpIJ702(5650bp)に、S. coelicolor A3(2)株に由来する、LitR(配列番号1)及びLitS(配列番号2)、S. coelicolor A3(2)に由来するプロモーター領域PcrtE(配列番号3)、並びに、pUC19に由来する、マルチクローニングサイト(配列番号54)をクローニングして、プラスミドベクターpLit19を構築した。得られたpLit19の構造を
図2に示す。
図2に示すように、pLit19は、LitR(配列番号1)、LitS(配列番号2)、PcrtE(配列番号3)、及びマルチクローニングサイト(配列番号54)をこの順で含む。また、
図2において、図示を省略しているが、マルチクローニングサイト(配列番号54)の下流に、チオストレプトン耐性遺伝子(配列番号55)、及び複製タンパク質rep遺伝子(配列番号56)を更に含む。pLit19の全長の塩基配列は、配列番号57に示すとおりである。
【0125】
(カテコール2,3ジオキシゲナーゼ遺伝子(XylE)の生産試験)
上記pLit19のマルチクローニングサイトのHindIIIサイトとXbaIサイト間に、Pseudomonas putida由来のカテコール2,3ジオキシゲナーゼ遺伝子(XylE)遺伝子(配列番号58)を挿入して、プラスミドベクターpLit19-XylEを構築した。次いで、pLit19-XylEをS. griseus(NBRC 13350)に形質転換(プロトプラスト/PEG法;参考文献3:D.A. Hopwood et al., PRACTICAL STREPTOMYCES GENETICS (Streptomyces Manual), John Innes Centre Ltd, Chapter 2、10)して、青色の光(中心波長:470nm(半減値幅±10nm)、波長強度:3.0μmol・s-1・m-2)の照射下で、28℃、2日間攪拌培養(攪拌速度:135rpm、TAITEC社製大型高温振とう培養機バイオシェーカー(登録商標) BR-180LF)した。培地としては、YMPD培地(組成:イーストエキストラクト(Difco製)0.2質量%、魚エキス(極東製薬工業製)0.2質量%、バクトペプトン(Difco製)0.4質量%、塩化マグネシウム0.2質量%、塩化ナトリウム0.5質量%、グルコース1.0質量%、pH7.2)を用いた。
また、対照として、非特許文献1に記載のプラスミドベクターpQRS(全長配列:配列番号59)のマルチクローニングサイトのSphIサイトとBglIIサイトの間にXylE遺伝子(配列番号58)を挿入して構築した、プラスミドベクターpQRS-XylEも同様にS. griseus(NBRC 13350)に形質転換(プロトプラスト/PEG法)して、上記条件下で2日間攪拌培養(攪拌速度:135rpm、TAITEC社製大型高温振とう培養機バイオシェーカー(登録商標) BR-180LF)した。
【0126】
培養後、各菌体を回収して、1×TEバッファー(pH7.0)に懸濁後、Misonix社製Astrason Ultrasonic Processor XLを用いて、Amplitude 30のパルス強度で、パルスオン1秒とパルスオフ1秒を30回繰り返すことにより、細胞溶解物を得た。細胞溶解物を用いたSDS-PAGE(ゲル濃度:12.5質量%)を行い、クマシーブリリアントブルー(CBB)染色により発現タンパク質を検出した。結果を
図7に示す。
図7において、「Dark」は光非照射下で培養した試料であり、「BL」は青色の光照射下で培養した試料である。「M」は、分子量マーカー(アンテグラル社製、XL-Ladder Broad)である。以降、同様である。
また、上記細胞溶解物を用いて、発現したXylEの活性を0.2mM カテコールが含まれる10mM リン酸ナトリウムバッファー中におけるタンパク質1mgあたり、1分間における吸光度375nmの変化をもとに算出した。結果を
図8に示す。
図8において、「N.D.」はNot Detectedの略であり、検出されなかったことを示す。以降、同様である。
【0127】
図7に示すように、pLit19-XylEを形質転換し、青色の光照射下で培養した試料では、大量のXylEの発現が確認されたが、その他の試料では、XylEの発現が確認されなかった。
【0128】
図8に示すように、pLit19-XylEを形質転換し、青色の光照射下で培養した試料では、XylEの活性が認められたが、その他の試料では、XylEの活性は認められなかった。
【0129】
(光の波長の検討)
上記pLit19-XylEをS. griseus(NBRC 13350)に形質転換(プロトプラスト/PEG法)して、青色の光(中心波長:470nm(半減値幅±10nm)、波長強度:3.0μmol・s-1・m-2)、緑色の光(ピーク波長:波長505nm以上510nm以下、波長強度:1.0μmol・s-1・m-2)、又は、赤色の光(中心波長:660nm(半減値幅±15nm)、波長強度:3.0μmol・s-1・m-2)の照射下で、28℃、2日間攪拌培養(攪拌速度:135rpm、TAITEC社製大型高温振とう培養機バイオシェーカー(登録商標) BR-180LF)した。培地としては、YMPD培地を用いた。
【0130】
培養後、各菌体を回収して、1×TEバッファー(pH7.0)に懸濁後、Misonix社製Astrason Ultrasonic Processor XLを用いて、Amplitude 30のパルス強度で、パルスオン1秒とパルスオフ1秒を30回繰り返すことにより、細胞溶解物を得た。細胞溶解物を用いて、発現したXylEの活性を0.2mM カテコールが含まれる10mM リン酸ナトリウムバッファー中におけるタンパク質1mgあたり、1分間における吸光度375nmの変化をもとに算出した。結果を
図9に示す。
【0131】
図9に示すように、青色又は緑色の光照射下で培養した試料では、XylEの活性が認められたが、光非照射下又は赤色の光照射下で培養した試料では、XylEの活性がほとんど認められなかった。
また、青色の光照射下で培養した試料では、XylEの活性が顕著に高かった。
【0132】
(波長強度の検討)
上記pLit19-XylEをS. griseus(NBRC 13350)に形質転換(プロトプラスト/PEG法)して、青色の光(中心波長:470nm(半減値幅±10nm)、波長強度:2.5、5.0、又は10.0μmol・s-1・m-2)の照射下で、28℃、2日間攪拌培養(攪拌速度:135rpm)した。培地としては、YMPD培地を用いた。
対照として、XylEを挿入していないプラスミドベクターpLit19も同様にS. griseus(NBRC 13350)に形質転換(プロトプラスト/PEG法)して、上記条件下で2日間攪拌培養(攪拌速度:135rpm、TAITEC社製大型高温振とう培養機バイオシェーカー(登録商標) BR-180LF)した。
【0133】
培養後、各菌体を回収して、1×TEバッファー(pH7.0)に懸濁後、Misonix社製Astrason Ultrasonic Processor XLを用いて、Amplitude 30のパルス強度で、パルスオン1秒とパルスオフ1秒を30回繰り返すことにより、細胞溶解物を得た。細胞溶解物を用いて、発現したXylEの活性を0.2mM カテコールが含まれる10mM リン酸ナトリウムバッファー中におけるタンパク質1mgあたり、1分間における吸光度375nmの変化をもとに算出した。結果を
図10に示す。なお、
図10において、「empty」はXylEを挿入していないプラスミドベクターpLit19を用いた試料であり、「XylE」はpLit19-XylEを用いた試料である。
【0134】
図10に示すように、2.5μmol・s
-1・m
-2以上5.0μmol・s
-1・m
-2以下の波長強度で光照射した試料では、XylEの活性が認められた。また、2.5μmol・s
-1・m
-2の波長強度で光照射した試料では、XylEの活性が顕著に高かった。
【0135】
(培養培地の検討)
上記pLit19-XylEをS. griseus(NBRC 13350)に形質転換(プロトプラスト/PEG法)して、青色の光(中心波長:470nm(半減値幅±10nm)、波長強度:3.0μmol・s-1・m-2)の照射下で、28℃、2日間攪拌培養(攪拌速度:135rpm)した。培地としては、以下の5種の培地を用いて、比較検討した。
対照として、XylEを挿入していないプラスミドベクターpLit19も同様にS. griseus(NBRC 13350)に形質転換(プロトプラスト/PEG法)して、YMPD培地を用いて、上記条件下で2日間攪拌培養(攪拌速度:135rpm、TAITEC社製大型高温振とう培養機バイオシェーカー(登録商標) BR-180LF)した。
【0136】
【0137】
培養後、各菌体を回収して、1×TEバッファー(pH7.0)に懸濁後、Misonix社製Astrason Ultrasonic Processor XLを用いて、Amplitude 30のパルス強度で、パルスオン1秒とパルスオフ1秒を30回繰り返すことにより、細胞溶解物を得た。細胞溶解物を用いたSDS-PAGE(ゲル濃度:12.5質量%)を行い、CBB染色により発現タンパク質を検出した。結果を
図11に示す。
【0138】
図11に示すように、いずれの培地を用いた試料においても、同程度の量のXylEが検出された。
よって、発明者らが開発した光誘導性のタンパク質生産系では、培地の種類に依存せずに、タンパク質を生産できることが明らかとなった。
【0139】
(細胞内タンパク質の生産試験)
上記pLit19のマルチクローニングサイトに、以下の表に示す、細胞内タンパク質をコードする遺伝子をそれぞれ挿入して、プラスミドベクターを構築した。なお、各遺伝子のマルチクローニングサイトの挿入位置は、XylE、SGR5412、EGFP、SasA-His、SasABCD、SGR6186-6189、及びsrc43255はHindIII-XbaIサイト間に、GUS、mCherry、2,6-ジヒドロキシピリジン-3-モノ-オキシゲナーゼはHindIII-EcoRIサイト間とした。
【0140】
【0141】
次いで、各プラスミドベクターをS. griseus(NBRC 13350)に形質転換(プロトプラスト/PEG法)して、青色の光(中心波長:470nm(半減値幅±10nm)、波長強度:3.0μmol・s
-1・m
-2)の照射下で、28℃、2日間攪拌培養(攪拌速度:135rpm、TAITEC社製大型高温振とう培養機バイオシェーカー(登録商標) BR-180LF)した。培地としては、YMPD培地を用いた。培養後、各菌体を回収して、1×TEバッファー(pH7.0)に懸濁後、Misonix社製Astrason Ultrasonic Processor XLを用いて、Amplitude 30のパルス強度で、パルスオン1秒とパルスオフ1秒を30回繰り返すことにより、細胞溶解物を得た。細胞溶解物を用いたSDS-PAGE(ゲル濃度:12.5質量%)を行い、CBB染色により発現タンパク質を検出した。結果を
図12に示す。
【0142】
図12に示すように、いずれの細胞内タンパク質も検出された。
よって、発明者らが開発した光誘導性のタンパク質生産系を用いることで、種類に限定されず、細胞内タンパク質を生産できることが明らかとなった。
【0143】
(菌体外分泌酵素の生産試験)
上記pLit19のマルチクローニングサイトのHindIII-XbaIサイト間に、以下の表に示す菌体外分泌酵素をコードする遺伝子をそれぞれ挿入して、プラスミドベクターを構築した。なお、表中のアスタリスクで示した分子量については、成熟型である分泌タンパク質の分子量を推定できなかったため、プロ体であるタンパク質全長のアミノ酸配列で推定された分子量を示した。
【0144】
【0145】
次いで、各プラスミドベクターを上記表に記載のホストにそれぞれ形質転換(プロトプラスト/PEG法)して、暗所下、28℃で48時間前培養した。培地としては、TSB培地(NISSUI社製)を用いた。次いで、前培養液1mLを100mLのTSB培地(NISSUI社製)に添加し、青色の光(中心波長:470nm(半減値幅±10nm)、波長強度:3.0μmol・s-1・m-2)の照射下で、28℃、2日間振盪培養(攪拌速度:135rpm、TAITEC社製大型高温振とう培養機バイオシェーカー(登録商標) BR-180LF)した。
【0146】
培養後、培養液を遠心分離(6,000rpm、10分間、4℃)した。上清を回収し、そのうち15mLをファルコンチューブに分注し、30mLのエタノール(濃度99.5質量%)を添加し、-80℃で一晩インキュベートした。その後、遠心分離(10,000rpm、10分間、4℃)を行い、上清を除去して、ペレットに300μLの1×TEバッファー(pH7.0)を添加して、懸濁した。懸濁液の内10μLを用いたSDS-PAGE(ゲル濃度:12.5質量%)を行い、CBB染色により発現タンパク質を検出した。結果を
図13に示す。
【0147】
図13に示すように、いずれの菌体外分泌酵素も検出された。
よって、発明者らが開発した光誘導性のタンパク質生産系を用いることで、種類に限定されず、菌体外分泌酵素を生産できることが明らかとなった。
【0148】
(SLAC生産に対する光の波長の検討)
上記菌体外分泌酵素のうち、SLACをコードする遺伝子を挿入した、pLit19-SLACについて、光の波長の影響を検討した。
【0149】
まず、pLit19-SLACをS. griseus(NBRC 13350)に形質転換(プロトプラスト/PEG法)して、青色の光(中心波長:470nm(半減値幅±10nm)、波長強度:3.0μmol・s-1・m-2)、緑色の光(ピーク波長:波長505nm以上510nm以下、波長強度:1.0μmol・s-1・m-2)、又は、赤色の光(中心波長:660nm(半減値幅±15nm)、波長強度:3.0μmol・s-1・m-2)の照射下で、28℃、24時間振盪培養(攪拌速度:135rpm、TAITEC社製大型高温振とう培養機バイオシェーカー(登録商標) BR-180LF)した。培地としては、YMPD培地、TSB培地、又はNBRC227培地を用いた。
【0150】
培養後、培養液を遠心分離(6,000rpm、10分間、4℃)した。上清を回収し、そのうち15mLをファルコンチューブに分注し、30mLのエタノール(濃度99.5質量%)を添加し、-80℃で一晩インキュベートした。その後、遠心分離(10,000rpm、10分間、4℃)を行い、上清を除去して、ペレットに300μLの1×TEバッファー(pH7.0)を添加して、懸濁した。懸濁液の内10μLを用いたSDS-PAGE(ゲル濃度:12.5質量%)を行い、CBB染色により発現タンパク質を検出した。結果を
図14に示す。
【0151】
図14に示すように、青色又は緑色の光照射下で培養した試料では、SLACが検出されたが、赤色の光照射下で培養した試料では、SLACが検出されなかった。
【0152】
(SLAC生産に対する培養日数の検討)
pLit19-SLACについて、培養日数のSLACの生産への影響を検討した。
【0153】
まず、pLit19-SLACをS. griseus(NBRC 13350)に形質転換(プロトプラスト/PEG法)して、青色の光(中心波長:470nm(半減値幅±10nm)、波長強度:3.0μmol・s-1・m-2)の照射下で、28℃、7日間振盪培養(攪拌速度:135rpm、TAITEC社製大型高温振とう培養機バイオシェーカー(登録商標) BR-180LF)した。培地としては、100mLのYMPD培地、又はTSB培地を500mLバッフル付三角フラスコに入れて用いた。培養開始から、1、2、3、4、5、6、及び7日目に培養上清をそれぞれサンプリングした。
【0154】
次いで、サンプリングした培養上清のうち10μLを用いたSDS-PAGE(ゲル濃度:12.5質量%)を行い、CBB染色により発現タンパク質を検出した。結果を
図15(YMPD培地)及び
図16(TSB培地)に示す。
【0155】
図15に示すように、YMPD培地を用いた試料では、培養日数が経過するのに伴って、SLACの生産量が増加し、培養開始から7日目には、100mg/L以上500mg/L以下程度のSLACが検出された。
一方、
図16に示すように、TSB培地を用いた試料では、培養日数が経過するのに伴って、SLACの生産量が減少しており、培養開始から1日目で500mg/L以上1000mg/L以下程度のSLACが検出されていた。
【0156】
(市販のLEDライトによる光照射の検討)
培養機専用の青色の照明よりも安価な照明器具として、市販のLEDライトの利用を検討した。
【0157】
まず、pLit19-XylEをS. griseus(NBRC 13350)に形質転換(プロトプラスト/PEG法)して、市販のLEDライト(Benature LEDライト充電式 マグネット アウトドアライト、型番:B07HQL86TB)を用いて、白色の光(波長:380nm以上780nm以下、波長強度:8.2mmol・s-1・m-2)及び電球色の光(波長:380nm以上780nm以下、波長強度:8.2mmol・s-1・m-2)の照射下で、28℃、1日間振盪培養(攪拌速度:135rpm、TAITEC社製大型高温振とう培養機バイオシェーカー(登録商標) BR-180LF)した。培地としては、20μg/mLのチオストレプトン含有YMPD培地を用いた。
【0158】
培養後、菌体を回収して、1×TEバッファー(pH7.0)に懸濁後、Misonix社製Astrason Ultrasonic Processor XLを用いて、Amplitude 30のパルス強度で、パルスオン1秒とパルスオフ1秒を30回繰り返すことにより、細胞溶解物を得た。細胞溶解物を用いたSDS-PAGE(ゲル濃度:12.5質量%)を行い、CBB染色により発現タンパク質を検出した。結果を
図17に示す。
【0159】
図17に示すように、暗所(光非照射)下で培養した試料では、XylEは検出されなかったが、光照射下で培養した試料では、XylEが検出された。
よって、発明者らが開発した光誘導性のタンパク質生産系は、市販のLEDライトを用いた場合でも、十分にタンパク質を生産できることが確かめられた。
【0160】
(遮光性バッフル付フラスコの検討)
遮光性バッフル付フラスコを用いた場合に、タンパク質生産が抑制されるかについて検討した。
【0161】
まず、pLit19-XylEをS. griseus(NBRC 13350)に形質転換(プロトプラスト/PEG法)して、青色の光(中心波長:470nm(半減値幅±10nm)、波長強度:2.75μmol・s-1・m-2)の照射下で、28℃、1日間又は2日間振盪培養(攪拌速度:135rpm、TAITEC社製大型高温振とう培養機バイオシェーカー(登録商標) BR-180LF)した。培地としては、YMPD培地を用いた。また、培養容器として、通常のバッフル付三角フラスコと、遮光性バッフル付フラスコを用いた。
【0162】
培養後、各菌体を回収して、1×TEバッファー(pH7.0)に懸濁後、Misonix社製Astrason Ultrasonic Processor XLを用いて、Amplitude 30のパルス強度で、パルスオン1秒とパルスオフ1秒を30回繰り返すことにより、細胞溶解物を得た。細胞溶解物を用いたSDS-PAGE(ゲル濃度:12.5質量%)を行い、CBB染色により発現タンパク質を検出した。結果を
図18に示す。
図18において、「Normal」は、通常のバッフル付三角フラスコを用いた試料であり、「Shading」は、遮光性バッフル付フラスコを用いた試料である。
【0163】
図18に示すように、通常のバッフル付三角フラスコを用いた試料では、培養日数の経過と共に、XylEの生産量が増加する傾向がみられた。一方、遮光性バッフル付フラスコを用いた試料では、暗所(光非照射)下で培養した試料と同様に、いずれの培養日数においてもXylEは検出されなかった。
【0164】
[実施例2]
標的タンパク質の発現を向上させることを目的として、プラスミドベクターpLit19の構成を検討して、以下の改良を試みた。
1)ターミネーター配列の挿入;
2)リボソーム結合サイトの挿入;
3)複製に関わるsti領域の挿入
【0165】
(ターミネーター配列の検討)
mCherryをコードする遺伝子を挿入した、pLit19-mCherry(配列番号77)について、
図19に示す構造となるように改良を行った。改良された各プラスミドベクターNo.1~No.5の配列をそれぞれ配列番号78~82に示す。また、ターミネーター配列tt
sbiB及びfdの配列は以下の表に示すとおりである。
【0166】
【0167】
次いで、各プラスミドベクターをS. griseus(NBRC 13350)に形質転換(プロトプラスト/PEG法)して、白色の光(波長:450nm以上750nm以下、波長強度:1.0μmol・s
-1・m
-2)の照射下で、28℃、3日間振盪培養(攪拌速度:135rpm、TAITEC社製大型高温振とう培養機バイオシェーカー(登録商標) BR-180LF)した。培地としては、20μg/mLのチオストレプトン含有YMPD培地を用いた。3日間培養後の各菌体の観察像を
図19に示す。
図19において、「White Light」は、白色の光照射下で培養した試料である。
【0168】
図19に示すように、ターミネーター配列tt
sbiBを挿入した試料では、mCherryの産生量が顕著に高かった。
【0169】
(リボソーム結合サイトの検討)
参考文献1(Horbal L et al., “A set of synthetic versatile genetic control elements for the efficient expression of genes in Actinobacteria.”, Scientific Reports, Vol. 8, No. 491, 2018; DOI:10.1038/s41598-017-18846-1.)におけるリボソーム結合サイトの配列を基に、pLit19-XylEにおいて、クローニング用制限酵素サイト(配列番号84)と開始コドン(配列番号85)の間に、以下の表に示すリボソーム結合サイト及び周辺配列(配列番号8~14及び86)をそれぞれ挿入して、プラスミドベクターを改良した。
【0170】
【0171】
次いで、各プラスミドベクターをS. griseus(NBRC 13350)に形質転換(プロトプラスト/PEG法)して、青色の光(中心波長:470nm(半減値幅±10nm)、波長強度:2.75μmol・s-1・m-2)の照射下で、28℃、2日間振盪培養(攪拌速度:135rpm、TAITEC社製大型高温振とう培養機バイオシェーカー(登録商標) BR-180LF)した。培地としては、20μg/mLのチオストレプトン含有YMPD培地(100mL)を用いた。
【0172】
培養後、各菌体を回収して、1×TEバッファー(pH7.0)に懸濁後、Misonix社製Astrason Ultrasonic Processor XLを用いて、Amplitude 30のパルス強度で、パルスオン1秒とパルスオフ1秒を30回繰り返すことにより、細胞溶解物を得た。細胞溶解物を用いたSDS-PAGE(ゲル濃度:12.5質量%)を行い、CBB染色により発現タンパク質を検出した。結果を
図20に示す。
【0173】
図20に示すように、W5以外のリボソーム結合サイト及びその周辺配列を挿入したプラスミドベクターを用いた試料では、XylEが検出された。
W52及びSAV2794のリボソーム結合サイト及びその周辺配列を挿入したプラスミドベクターを用いた試料では、XylEの生産量が特に顕著であった。
【0174】
(複製に関わるsti領域の検討)
プラスミドベクターpLit19-B(配列番号87)のKpnI-NsiIサイト間に、放線菌プラスミドpIJ101、pJV1、又はpSG5由来のsti領域を導入して、pLit19のDNA収量の変化を検討した。具体的には、以下の表に示すプラスミドを構築した。また、pJV1由来のsti領域(ΔBamHI site)の塩基配列を配列番号95に示す。
【0175】
【0176】
上記各プラスミドベクターをS. griseus(NBRC 13350)に形質転換(プロトプラスト/PEG法)して、光非照射下で、28℃、2日間又は3日間振盪培養(攪拌速度:135rpm、TAITEC社製大型高温振とう培養機バイオシェーカー(登録商標) BR-180LF)した。培地としては、20μg/mLのチオストレプトン含有YMPD培地(10mL)、又は、20μg/mLのチオストレプトン含有NBRC227培地(10mL)を用いた。
【0177】
培養後、各菌体を回収して、2mLのSolution I(50mM glucose、10mM EDTA、及び25mM Tris-HCl、pH8.0)を加え、菌体を完全に懸濁した。1mg/mLになるようにリゾチームを加え、37℃で撹拌しながら1時間インキュベートした。2mLのSolution II(0.2N NaOH、1質量%SDS)を加え、よく攪拌した後、氷水上で5分間インキュベートした。2mLのSolution III(3M 酢酸カリウム、2M 酢酸)を加え、素早くかつ激しく攪拌し、氷水上で30分間インキュベートした。7,300rpm、4℃で10分間遠心し、上清を15mLチューブに移した。6mLの2-プロパノールを加え、攪拌した後、氷水で2時間インキュベートした。7,300rpm、4℃で10分間遠心し、上清を除去した。沈殿に250μLの1×TE(pH8.0)を加え、ピペッティングで沈殿を完全に溶解し、1.5mLチューブに移した。1,250μLのキアゲン社QIAprep Spin Miniprep Kitに含まれるPB溶液を加え、よく攪拌した。QIAprep 2.0スピンカラムに、750μLのサンプルを添加し、10,000rpm、4℃で1分間遠心した。フロースルー液を捨て、残り750μLのサンプルを添加し、再度10,000rpm、4℃で1分間遠心した。フロースルー液を捨て、750μLのQIAprep Spin Miniprep Kitに含まれるPE溶液を添加し、10,000rpm、4℃で1分間遠心した。フロースルー液を捨て、13,000rpm、4℃で1分間遠心した。135μLのQIAprep Spin Miniprep Kitに含まれるEB溶液を加えて、10,000rpm、4℃で1分間遠心し、粗DNA精製溶液を得た。次いで、粗DNA精製溶液から、Plasmid-Safe ATP-Dependent DNase(Epicentre biotechnologies社製)及びRNaseを用いて染色体及びRNA除去して、DNA含有液を得た。なお、「Plasmid-Safe ATP-Dependent DNase(Epicentre biotechnologies社製)」は、linear-dsDNAやclosed環状ssDNA、linear-ssDNAを分解し、nicked及びclosed環状dsDNAは分解しない酵素である。
次いで、得られたDNA含有液を用いて、アガロースゲル電気泳動を行った。結果を
図21に示す。
図21において、対照として、sti領域を含まないプラスミドベクターであるpIJ702(配列番号96)及びpLit19もアガロースゲルにアプライして、電気泳動を行った。
【0178】
また、電気泳動で高純度プラスミドが取得できていることが確認されたため、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製NanoDrop Lite分光光度計を用いて、DNA濃度を測定した。結果を以下の表に示す。なお、表において、「*」における培養条件は、20μg/mLのチオストレプトン含有YMPD培地(10mL)を用いて、28℃、3日間であり、「**」における培養条件は、20μg/mLのチオストレプトン含有NBRC227培地(10mL)を用いて、28℃、2日間である。
【0179】
【0180】
図21及び上記表に示すように、sti領域をnaturalの向きで導入したプラスミドベクターは、sti領域を含まないプラスミドベクターよりもDNAの収量が増加する傾向がみられた。
pJV1由来のsti領域をnaturalの向きで導入したプラスミドベクターは、DNAの収量が特に多かった。
【0181】
次に、pJV1由来のsti領域をnaturalの向きで導入したプラスミドベクターpLit19+pJV1 stiのマルチクローニングサイトのHindIII-XbaIサイト間に、XylEをコードする遺伝子を挿入して、プラスミドベクターpLit19+pJV1 sti-XylE(全長配列:配列番号97)を構築した。
【0182】
プラスミドベクターpLit19+pJV1 sti-XylEをS. griseus(NBRC 13350)に形質転換(プロトプラスト/PEG法)して、青色の光(中心波長:470nm(半減値幅±10nm)、波長強度:1.0μmol・s-1・m-2)の照射下で、28℃、1日間又は2日間振盪培養(攪拌速度:135rpm、TAITEC社製大型高温振とう培養機バイオシェーカー(登録商標) BR-180LF)した。培地としては、YMPD培地を用いた。
また、対照として、sti領域を含まないプラスミドベクターpLit19-XylEも同様にS. griseus(NBRC 13350)に形質転換(プロトプラスト/PEG法)して、上記条件下で1日間又は2日間振盪培養(攪拌速度:135rpm、TAITEC社製大型高温振とう培養機バイオシェーカー(登録商標) BR-180LF)した。
【0183】
培養後、各菌体を回収して、1×TEバッファー(pH7.0)に懸濁後、Misonix社製Astrason Ultrasonic Processor XLを用いて、Amplitude 30のパルス強度で、パルスオン1秒とパルスオフ1秒を30回繰り返すことにより、細胞溶解物を得た。細胞溶解物を用いて、発現したXylEの活性を0.2mM カテコールが含まれる10mM リン酸ナトリウムバッファー中におけるタンパク質1mgあたり、1分間における吸光度375nmの変化をもとに算出した。結果を
図22に示す。
【0184】
図22に示すように、pLit19+pJV1 sti-XylEを用いた試料では、pLit19-XylEを用いた試料よりも、XylEの活性が高い傾向がみられた。
また、培養開始から2日目で、pLit19+pJV1 sti-XylEを用いた試料は、pLit19-XylEを用いた試料よりも、XylEの活性が顕著に高かった。
本実施形態のプラスミドベクター、組換え放線菌及び標的タンパク質の生産方法によれば、生産コストを抑えながら、放線菌において標的タンパク質を効率良く製造することができる。