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特開2023-127739スパッタリングターゲット、カルコゲナイド膜の成膜方法及びメモリ装置
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  • 特開-スパッタリングターゲット、カルコゲナイド膜の成膜方法及びメモリ装置 図1
  • 特開-スパッタリングターゲット、カルコゲナイド膜の成膜方法及びメモリ装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127739
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット、カルコゲナイド膜の成膜方法及びメモリ装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20230907BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20230907BHJP
   H01L 21/363 20060101ALI20230907BHJP
   H10B 63/10 20230101ALI20230907BHJP
   H10N 70/00 20230101ALI20230907BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C23C14/06 A
H01L21/363
H01L27/105 449
H01L45/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031611
(22)【出願日】2022-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】316005926
【氏名又は名称】ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】大場 和博
(72)【発明者】
【氏名】荒谷 勝久
(72)【発明者】
【氏名】保田 周一郎
(72)【発明者】
【氏名】清 宏彰
【テーマコード(参考)】
4K029
5F083
5F103
【Fターム(参考)】
4K029BD01
4K029CA06
4K029DC04
4K029DC09
4K029DC35
4K029EA09
5F083FZ10
5F083JA31
5F083JA35
5F083JA36
5F083JA37
5F083JA39
5F083JA40
5F083JA60
5F083PR03
5F083PR22
5F103AA08
5F103BB22
5F103DD30
5F103LL20
5F103NN06
5F103RR02
5F103RR05
5F103RR08
(57)【要約】
【課題】パーティクルの増大を抑制しつつ、耐熱性が高いカルコゲナイド膜を成膜することができるスパッタリングターゲット、カルコゲナイド膜の成膜方法及びメモリ装置を提供する。
【解決手段】スパッタリングターゲットは、ゲルマニウム、ヒ素及びセレンと、ボロンとを含有する合金からなる。合金におけるボロンの含有量は、5原子%以上20原子%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルマニウム、ヒ素及びセレンと、ボロンとを含有する合金からなり、前記合金における前記ボロンの含有量は5原子%以上20原子%以下である、スパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記合金におけるカーボンの含有量は少なくとも0.5原子%未満あるいは0原子%である、請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記合金は、添加成分としてガリウム及びインジウムの少なくとも一方を含み、
前記合金における前記添加成分の含有量は1原子%以上10原子%以下である、請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項4】
平面視による形状が円形で直径が300mm以上であり、厚みが3mm以下である、請求項1に記載のスパッタリングターゲット。
【請求項5】
ゲルマニウム、ヒ素及びセレンと、ボロンとを含有する合金からなり、前記合金における前記ボロンの含有量は5原子%以上20原子%以下であるスパッタリングターゲットを用いて、スパッタリングを行うことによってカルコゲナイド膜を成膜する、カルコゲナイド膜の成膜方法。
【請求項6】
前記スパッタリングは、成膜雰囲気に窒素を添加する窒素リアクティブスパッタリングである、請求項5に記載のカルコゲナイド膜の成膜方法。
【請求項7】
前記スパッタリングターゲットは、平面視による形状が円形で直径が300mm以上であり、厚みが3mm以下であり、
前記カルコゲナイド膜を成膜する工程では、
前記スパッタリングターゲットにターゲットの面積当たり0.7W/cm以上の高周波電力を印加する、請求項5に記載のカルコゲナイド膜の成膜方法。
【請求項8】
セレクタ素子のスイッチ層としてカルコゲナイド膜を有し、
前記カルコゲナイド膜は、ゲルマニウム、ヒ素及びセレンと、ボロンとを含有し、
前記カルコゲナイド膜における前記ボロンの含有量は5原子%以上20原子%以下である、メモリ装置。
【請求項9】
前記カルコゲナイド膜は、2原子%以上15原子%以下の濃度で窒素をさらに含有する、請求項8に記載のメモリ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、スパッタリングターゲット、カルコゲナイド膜の成膜方法及びメモリ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大容量の不揮発メモリとしてReRAM(Resistance Random Access Memory)やPRAM(Phase-Change Random Access Memory)等の抵抗変化型メモリが検討されている。また、3次元構造を有するクロスポイントメモリが検討されている。クロスポイントメモリはセル面積を小さくすることが可能であり、なおかつ、クロスポイントアレイを上方向に複数層積層することができるため、負揮発性メモリの大容量化を実現することが可能となる。
【0003】
クロスポイントアレイは、交差する配線間の交点(クロスポイント)に、直列に接続されたメモリ素子とスイッチ素子からなるメモリセルを配置した構造を有する。スイッチ素子としては、例えばカルコゲナイド膜を用いたスイッチ素子(オボニック閾値スイッチ(OTS;Ovonic Threshold Switch))が挙げられる(例えば、特許文献1、2参照)。OTS素子は、OFFリーク電流を低減することが可能であり、繰り返し特性、スイッチング閾値ばらつきが少ない等の特性を有する。
【0004】
OTS素子に用いられるカルコゲナイド膜は、ヒ素(As)、セレン(Se)等を含むアモルファス材料であるが、特にSeが低融点であるため、耐熱性が低い傾向がある。カルコゲナイド膜の耐熱性が低いと、カルコゲナイド膜を成膜した後のプロセス温度が低く制限されるため、耐熱性は高い方が好ましい。カルコゲナイド膜にボロン(B)及び炭素(C)を添加して、カルコゲナイド膜の耐熱性を向上させる技術が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-86526号公報
【特許文献2】特開2010-157316号公報
【特許文献3】国際公開第2019/167538号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
カルコゲナイド膜の成膜工程において、パーティクルの低減が望まれている。
【0007】
本開示はこのような事情に鑑みてなされたものであり、パーティクルの増大を抑制しつつ、耐熱性が高いカルコゲナイド膜を成膜することができるスパッタリングターゲット、カルコゲナイド膜の成膜方法及びメモリ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一態様に係るスパッタリングターゲットは、ゲルマニウム、ヒ素及びセレンと、ボロンとを含有する合金からなり、前記合金における前記ボロンの含有量は5原子%以上20原子%以下である。このスパッタリングターゲットを用いてスパッタリングを行うことによって、パーティクルの増大を抑制しつつ、耐熱性が高いカルコゲナイド膜を成膜することができる。
【0009】
本開示の一態様に係るカルコゲナイド膜の成膜方法は、ゲルマニウム、ヒ素及びセレンと、ボロンとを含有する合金からなり、前記合金における前記ボロンの含有量は5原子%以上20原子%以下であるスパッタリングターゲットを用いて、スパッタリングを行うことによってカルコゲナイド膜を成膜する。これによれば、パーティクルの増大を抑制しつつ、耐熱性が高いカルコゲナイド膜を成膜することができる。
【0010】
本開示の一態様に係るメモリ装置は、セレクタ素子のスイッチ層としてカルコゲナイド膜を有し、前記カルコゲナイド膜は、ゲルマニウム、ヒ素及びセレンと、ボロンとを含有し、前記カルコゲナイド膜における前記ボロンの含有量は5原子%以上20原子%以下である。これによれば、上記のスパッタリングターゲットを用いて、セレクタ素子のスイッチ層を成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本実施形態に係るメモリ装置のメモリセルアレイの構成例を示す斜視図である。
図2図2は、本実施形態に係るメモリセルの構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<スパッタリングターゲット>
本開示の実施形態(以下、本実施形態)に係るスパッタリングターゲットは、例えば、クロスポイントメモリのセレクタ素子(一例として、後述するセレクタ素子20)を形成する際に使用される成膜材料であり、パーティクルの増大を抑制しつつ、耐熱性が高いカルコゲナイド膜を成膜することができるものである。
【0013】
本実施形態に係るスパッタリングターゲットは、ゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)及びセレン(Se)と、ボロン(B)とを含有する合金からなる。この合金におけるBの含有量は、5原子%以上20原子%以下であり、より好ましくは、10原子%以上15原子%以下である。Ge、As及びSeを含むカルコゲナイド膜は、Seが低融点であるため、耐熱性が低い傾向にあるが、Bを含むことにより耐熱性が向上する。
【0014】
本実施形態に係るスパッタリングターゲット(合金)は、炭素(C)を含有しない。仮にCが含まれていたとしても、その量は極めて僅かであり、ほぼ含有しないレベルである。スパッタリングターゲットにおけるCの含有量は1原子%未満であり、好ましくは0.5原子%未満であり、より好ましくは0原子%である。これにより、このスパッタリングターゲットを用いてカルコゲナイド膜を成膜する際に、パーティクルの増大を抑制することができる(後述の表3参照)。
【0015】
また、本実施形態に係るスパッタリングターゲットは、上記組成を有する(すなわち、Ge、As及びSeと、Bとを含有する合金からなり、この合金におけるBの含有量は5原子%以上20原子%以下である)ことにより、スパッタリングターゲットの機械的強度も向上する。
【0016】
本実施形態に係るスパッタリングターゲットは、機械的強度の向上により、その直径(口径)を大きくするとともに、その厚みを薄く加工することができる。例えば、平面視による形状が円形で直径が300mm以上であり、厚みが3mm以下のスパッタリングターゲットを実現することができる。
【0017】
ターゲットの口径を大きくすることで、面積当たりの成膜パワーを下げることが可能となり、板厚を薄くすることにより冷却効率が向上するため、スパッタリングターゲットに高い成膜パワーを印加することが可能となる。例えば、本実施形態に係るスパッタリングターゲットの直径が440mm以上で厚みが3mmの場合、スパッタリングターゲットに0.7W/cm、つまり1000W以上の高周波電力(RF電極)を印加しても、問題となるような放電異常は生じず、ターゲット表面に問題となるようなクラックも生じない(後述の表1参照)。これにより、カルコゲナイド膜の成膜レートを向上させることができ、成膜スループットを向上させることができる(後述の表4参照)。量産性に優れた成膜スループットを得ることが可能となる。
【0018】
なお、後述の比較例1で示すように、スパッタリングターゲットがボロン(B)を含まない場合は、機械的強度が低く、例えば直径300mm以上の大口径では厚みを5mm以下に加工することは困難である。Bを含まない場合は、スパッタリングターゲットの厚みを薄くできず、厚くなる。厚みのあるスパッタリングターゲットに高パワーを印加すると、ターゲット表面の過熱により、放電異常が生じ易く、ターゲット表面にクラック等、あるいは局所的な溶融が生じ易くなる。したがって、Bを含まない場合は、成膜レートを向上させることは困難である。
【0019】
本実施形態に係るスパッタリングターゲット(合金)は、添加成分としてガリウム及びインジウムの少なくとも一方を含んでもよい。この場合、スパッタリングターゲットにおける添加成分の含有量は、1原子%以上10原子%以下が好適である。この添加成分を含有するスパッタリングターゲットを用いて成膜されるカルコゲナイド膜を、例えば、セレクタ素子のスイッチ層として用いると、スイッチ閾値電圧の変動(いわゆるドリフト)の低減や繰り返し特性の向上などのセレクタ素子の電気的特性を向上できる場合がある。
【0020】
なお、本実施形態に係るスパッタリングターゲット(合金)において、上記添加成分(ガリウム及びインジウムの少なくとも一方)の含有量が1%よりも少ないと添加による効果が小さくなる。添加成分の含有量が10%よりも多いと、成膜されるカルコゲナイド膜をセレクタ層に用いたセレクタ素子において、リーク電流増大などの特性劣化が生じる可能性がある。このような理由から、添加成分の含有量は、1原子%以上10原子%以下が好適である。
【0021】
<カルコゲナイド膜の成膜方法>
本実施形態では、上記組成を有する(すなわち、Ge、As及びSeと、Bとを含有する合金からなり、この合金におけるBの含有量は5原子%以上20原子%以下である)スパッタリングターゲットを用いて、スパッタリングを行うことによって、カルコゲナイド膜を成膜する。このスパッタリングは、成膜雰囲気に窒素(N)を添加する窒素リアクティブスパッタリングであってもよい。窒素リアクティブスパッタリングを行うことで、カルコゲナイド膜の成膜過程でその膜中にNを導入することができ、Nを含有するカルコゲナイド膜を成膜することができる。
【0022】
後述の比較例2で示すように、Cを3原子%の濃度で含有するスパッタリングターゲットを用いてカルコゲナイド膜を成膜すると、パーティクルが増加する傾向がある。必ずしも原因は明らかではないが、ターゲット母材中にカーボンが存在することによって、異常放電の起点となり、あるいは、スパッタされたカーボン粒子の気相反応により、パーティクルが生成すると考えられる。パーティクルは、デバイス欠陥を招き、デバイスの歩留まりを低下させる可能性がある。またさらに、窒素リアクティブスパッタリングを行う場合は、スパッタリングターゲット表面の窒化により、必ずしも明らかではないが異常放電の発生しやすくなるために、パーティクルの増加が顕著となる。しかしながら、本実施形態に係るスパッタリングターゲットは、Cを含有しない(または、ほぼ含有しない)ため、カーボン成分を含んでいることによるパーティクル発生が抑制することが可能となる。
【0023】
また、Bを含んでいない一般的なGe,As,Se成分を含むターゲットは、耐熱性や機械強度が十分でないため、高パワーでの成膜でターゲットの割れや溶融が生じることから、高パワーでの成膜が困難であり、窒素リアクティブスパッタリングにおけるメタリックモードの成膜の実現が難しく、比較的低いパワー、低い成膜レートでの成膜とならざるを得ないために、ターゲット表面においてスパッタよりも窒化が進行するポイズンモードでの成膜となり易い傾向があり、窒化によってパーティクルが増大する。
【0024】
しかしながら、本実施形態に係るスパッタリングターゲットは、Cを含有しない(または、ほぼ含有しない)ため、カーボン成分を含んでいることによるパーティクル発生が抑制することが可能であり、さらには、窒素リアクティブスパッタリングを行う場合においても、表面の窒化が抑制され、メタリックモードに近い成膜が可能となることにより、窒化に由来するパーティクルを低減することができる。本実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いることで、高スループットの量産性を損なうことなく、窒素リアクティブスパッタリングを行うことが可能である。
【0025】
<カルコゲナイド膜の組成>
本実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いて成膜されるカルコゲナイド膜は、スパッタリングターゲットと同様に、Ge、As及びSeと、Bとを含有し、Bの含有量は5原子%以上20原子%以下である。Ge、As及びSeを含むカルコゲナイド膜は、Seが低融点であるため耐熱性が低い傾向にあるが、本実施形態で成膜されるカルコゲナイド膜はBを含むことにより耐熱性が高い。このため、カルコゲナイド膜を成膜した後のプロセスの上限温度を高くすることができる。
【0026】
例えば、一般的な半導体プロセスでは400℃程度の熱がかかる工程が存在する。本実施形態に係るスパッタリングターゲットで成膜されるカルコゲナイド膜は、少なくとも400℃程度の熱負荷に耐え得る(後述の表2参照)ため、成膜後の半導体プロセスの上限温度を400℃、又は、それ以上の高温度に設定することが可能である。カルコゲナイド膜を成膜した後の熱工程について、専用の低温プロセスを用いる必要がなく、通常温度の半導体プロセスを使用することができ、半導体プロセスの自由度を高めることが可能である。
【0027】
また、本実施形態で成膜されるカルコゲナイド膜は、Bを含有することにより、機械的強度も向上する。これにより、例えばカルコゲナイド膜上にハードマスク等を積層した場合でも、ハードマスクから受ける応力によってセレクタ層に結晶欠陥等が生じることを抑制することができる。
【0028】
また、本実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いて窒素リアクティブスパッタリングを行うことで、成膜されるカルコゲナイド膜に窒素(N)を導入することができる。例えば、窒素リアクティブスパッタリングを行うことで、窒素(N)含有量が2原子%以上15原子%以下のカルコゲナイド膜を成膜することができる。カルコゲナイド膜が2原子%以上15原子%以下の濃度でNを含有することによって、既に述べた耐熱性や機械的強度が向上する。また、セレクタ素子のセレクタ層に用いられる場合は、セレクタ素子に求められるスイッチ閾値電圧の変動(いわゆるドリフト)の低減や繰り返し特性の向上などの電気的特性が向上する場合がある。
【0029】
なお、成膜されるカルコゲナイド膜において、Nの含有量が2原子%よりも少ないと、Nを含有することによる効果が小さくなる。また、Nの含有量が15原子%よりも多いと、カルコゲナイド膜の密度の低下により、セレクタ素子に求められる電気的特性が低下する可能性がある。また、カルコゲナイド膜にNが過剰に含まれると、半導体プロセスの熱処理(例えば、400℃)によってNの結合が分解して、カルコゲナイド膜の膜中から膜外へNが放出され易くなる。Nの放出量が多いと、カルコゲナイド膜に気泡が生じ、カルコゲナイド膜の構造が破壊され、セレクタ素子に不具合が生じる可能性がある。このような理由から、カルコゲナイド膜のNの含有量は2原子%以上15原子%以下が好適である。
【0030】
<メモリ装置>
上述したように、本実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いて成膜されるカルコゲナイド膜は耐熱性と機械的強度が高い。耐熱性と機械的強度が高いカルコゲナイド膜をセレクタ素子のセレクタ層に用いることで、温度勾配などの熱的変化や機械的負荷を受けても欠陥が生じにくく、電気的特性が良好なセレクタ素子を実現することができる。以下、本実施形態に係るカルコゲナイド膜をセレクタ素子のセレクタ層として用いる、メモリ装置について説明する。
【0031】
(構成例)
図1は、本実施形態に係るメモリ装置のメモリセルアレイ1の構成例を示す斜視図である。図2は、本実施形態に係るメモリセル10の構成例を示す断面図である。図1に示すように、メモリセルアレイ1は、所謂クロスポイントアレイ構造を備えており、例えば、各ワード線WLと各ビット線BLとが互いに対向する位置(クロスポイント)に1つずつ、メモリセル10を備えている。クロスポイントに配置されたメモリセル10を、クロスポイントメモリ素子ともいう。各ワード線WLは、互いに共通の方向に延在している。各ビット線BLは、ワード線WLの延在方向とは異なる方向(例えば、ワード線WLの延在方向と直交する方向)であって、かつ互いに共通の方向に延在している。
【0032】
図1及び図2に示すように、メモリセル10は、セレクタ素子20と、メモリ素子30と、中間電極40とを有する。セレクタ素子20とメモリ素子30は、中間電極40を介して直列に接続されている。例えば、セレクタ素子20はワード線WL寄りに配置され、メモリ素子30はビット線BL寄りに配置され、ている。または、セレクタ素子20がビット線BL寄りに配置され、メモリ素子30がワード線WL寄りに配置されていてもよい。
【0033】
セレクタ素子20は、カルコゲナイド膜を用いたスイッチ素子(OTS素子)である。セレクタ素子20は、メモリセル10の選択素子であり、図1に示した任意のメモリ素子30を選択的に動作させるための素子である。セレクタ素子20は、メモリ素子30に直列に接続されており、下部電極21、スイッチ層22及び上部電極23をこの順に有するものである。下部電極21及び上部電極23は、例えば炭素(C)で構成されている。
【0034】
スイッチ層22は、本実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いて成膜されるカルコゲナイド膜であり、例えばスパッタリングターゲットと同一の組成を有する。
【0035】
または、スイッチ層22は、本実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いて窒素リアクティブスパッタリングにより成膜されるカルコゲナイド膜であってもよい。この場合は、カルコゲナイド膜の成膜過程で膜中に窒素(N)が導入されるため、スイッチ層22はスパッタリングターゲットの組成にNを加えた組成を有する。
【0036】
スイッチ層22は、印加電圧を所定の閾値電圧(スイッチング閾値電圧)以上にすることで低抵抗状態に変化し、印加電圧を上記の閾値電圧(スイッチング閾値電圧)より低い電圧にすることで高抵抗状態に変化する。スイッチ層22の非晶質構造は、図示しない電源回路(パルス印加手段)から下部電極21及び上部電極23を介した電圧パルスあるいは電流パルスの印加によらず、安定して維持される。
【0037】
メモリ素子30は、下部電極と、下部電極に対向配置された上部電極と、下部電極及び上部電極の間に設けられたメモリ層とを有している。図2では、ビット線BLがメモリ素子30の上部電極を兼ねており、中間電極40がメモリ素子30の下部電極を兼ねている場合を示しているが、これはあくまで一例である。図示しないが、ビット線BLとメモリ層との間にメモリ素子30の上部電極が配置されていてもよいし、中間電極40とメモリ層との間にメモリ素子30の下部電極が配置されていてもよい。
【0038】
メモリ素子30のメモリ層は、例えば、抵抗変化層及びイオン源層が積層された積層構造を有する。イオン源層は、電界の印加によって抵抗変化層内に伝導パスを形成する可動元素を含んでいる。抵抗変化層は、例えば、金属元素もしくは非金属元素の酸化物、又は、金属元素もしくは非金属元素の窒化物によって構成されている。抵抗変化層は、メモリ素子30の上部電極(例えば、ビット線BL)と下部電極(例えば、中間電極40)との間に所定の電圧を印加した場合に抵抗変化層の抵抗値が変化するものである。
【0039】
またメモリ素子30のメモリ層は公知のGe、Sb、Teの少なくともいずれか1種もしくは2種以上を含んだ相変化メモリ(PCM)材料によって形成する、もしくは公知の磁気抵抗変化メモリ(MRAM)材料によって形成することも可能である。
【0040】
(製造方法)
次に、図2に示したメモリセル10の製造方法を説明する。メモリセル10は、成膜装置、レジスト塗布装置、露光装置、エッチング装置など、各種の装置を用いて製造される。以下、これらの装置を、製造装置と総称する。メモリセル10は、例えば次に説明する製造方法によって製造することができる。
【0041】
製造装置は、セレクタ素子20の下部電極21、スイッチ層22及び上部電極23この順で形成する。スイッチ層22はカルコゲナイド膜であり、本実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いたスパッタリングにより形成される。スイッチ層22の膜厚は、例えば5nm以上50nm以下である。下部電極21及び上部電極23は、例えば炭素(C)で構成される導電膜である。下部電極21及び上部電極23は、PVD(Physical Vapor Deposition)又はCVD(Chemical Vapor Deposition)等、公知の成膜方法で成膜される。下部電極21及び上部電極23の各膜厚は、例えば3nm以上20nm以下である。
【0042】
次に、製造装置は、メモリ素子30の下部電極(例えば、中間電極40)を形成する。メモリ素子30の下部電極は、半導体プロセスに用いられる配線材料、例えば、タングステン(W)、窒化タングステン(WN)、窒化チタン(TiN)、炭素(C)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、窒化タンタル(TaN)及びシリサイド等のいずれか1つ以上により構成される導電膜である。
【0043】
メモリ素子30の下部電極が、電界でイオン伝導が生じる可能性のあるCu等の材料で構成されている場合は、Cu等で構成される下部電極の表面を、W、WN、TiN、TaN等のイオン伝導や熱拡散しにくいバリア性の材料で被覆するようにしてもよい。
【0044】
この段階の後に、製造装置は、ドライエッチ等の公知の技術により微細加工を行い、セレクタ素子20を孤立化させ、メモリ素子30の下部電極(例えば、中間電極40)を表面に露出させる。
【0045】
次に、製造装置は、メモリ素子30のメモリ層を形成する。例えば、メモリ層として、抵抗変化層を0.5nm以上2nm以下の膜厚に形成し、その上にイオン層を15nm以上40nm以下の膜厚に形成する。抵抗変化層は、金属元素もしくは非金属元素の酸化物、又は、金属元素もしくは非金属元素の窒化物によって構成されており、一例を示すと、AlOx等で構成されている。
【0046】
イオン源層は、電界の印加によって抵抗変化層内に伝導パスを形成する可動元素を含んでいる。この可動元素は、例えば、遷移金属元素、アルミニウム(Al)、銅(Cu)又はカルコゲン元素である。カルコゲン元素としては、例えば、テルル(Te)、セレン(Se)、又は硫黄(S)が挙げられる。遷移金属元素としては、周期律表第4族~第6族の元素であり、例えば、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)又はタングステン(W)等が挙げられる。イオン源層は、上記可動元素を1種あるいは2種以上含んで構成されている。また、イオン源層は、酸素(O)、窒素(N)、上記可動元素以外の元素(例えば、マンガン(Mn)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、白金(Pt))又はケイ素(Si)等を含んでいてもよい。
【0047】
またメモリ素子30のメモリ層は公知のGe、Sb、Teの少なくともいずれか1種もしくは2種以上を含んだ相変化メモリ(PCM)材料によって形成する、もしくは公知の磁気抵抗変化メモリ(MRAM)材料によって形成することも可能である。
【0048】
以上の工程を経て、メモリセル10が完成する。
【0049】
本実施形態に係るメモリ装置によれば、スパッタリングターゲットを用いて成膜されるカルコゲナイド膜を、セレクタ素子20のスイッチ層22に用いることで、低融点のカルコゲナイド膜を用いたセレクタ素子において課題となりうる耐熱性と機械的強度とがそれぞれ向上する。
【0050】
また、本実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いることにより、高耐熱のカルコゲナイド膜を成膜する際に生じるパーティクルを低減することが可能となる。これにより、パーティクルに起因するデバイスの欠陥を低減することができ、デバイスの歩留まりを向上することができる。また、カルコゲナイド膜の成膜スループットが向上し、スイッチ層22の成膜プロセスのコストを低減することが可能となる。
【0051】
以上から、本開示により、メモリセル10(クロスポイントメモリ)のプロセス用に低温の専用プロセスラインを用いずに、量産性高く、良好な歩留まりで、メモリセルアレイ1を製造することが可能となる。
【実施例0052】
次に、実施例及び比較例と実験結果とを示して、本開示をさらに具体的に説明する。
(実施例)
高純度化したゲルマニウム(Ge)、ヒ素(As)、セレン(Se)及び液状のガリウム(Ga)原料を、ゲルマニウム11.8原子%(at%)、ヒ素32.9at%、セレン49.4at%となるように調合し、石英管に入れて真空に引き封止した。その後、電気炉中で加熱して溶解し、冷却してGaGeAsSe合金インゴットを作製した。その後、インゴットをボールミルによってアルゴン雰囲気中で粉砕して原料粉末を得た。
【0053】
次に、高純度化したB粉末をGaGeAsSe合金粉末に加えて、混合して合計の組成比が、B15at%-Ga5at%-Ge10at%-As28at%-Se42at%となるように調整した。
【0054】
次に、混合粉末をホットプレスにより固化成形して、バッキングプレートにボンディングすることで、厚みが異なる3つのスパッタリングターゲットを得た。実施例1のスパッタリングターゲットは、例えば、直径440mm、厚み3mmである。実施例2のスパッタリングターゲットは、例えば、直径440mm、厚み5mmである。実施例3のスパッタリングターゲットは、例えば、直径440mm、厚み8mmである。実施例1、2、3の違いはスパッタリングターゲットの厚みだけであり、組成比は同じである。
【0055】
(比較例1)
比較例1として、一般的なカルコゲナイドガラス材料であるGeAsSeのスパッタリングターゲットを作製した。高純度化したGe、As及びSe原料を、Ge20at%、As32at%、Se48at%の組成比となるように調合し、石英管に入れて真空に引き封止した。その後、電気炉中で加熱して溶解し、冷却して合金インゴットを作製した。その後、インゴットをボールミルによってアルゴン雰囲気中で粉砕して原料粉末を得た。その後、公知の粉末焼結技術により整形し、直径440mmの形状に加工した。
【0056】
比較例1では、実施例1と同様にスパッタリングターゲットを3mm厚に加工しようと試みたが、脆い材料であるため、通常の機械研磨による加工方法では割れが生じて作製することができなかった。比較例1では、Ge20at%、As32at%、Se48at%の組成比で、直径440mmの場合、スパッタリングターゲットの厚みを8mmよりも薄くすることはできなかった。また、直径300mmの場合は、スパッタリングターゲットの厚みを8mmよりも薄くすることはできなかった。
【0057】
(比較例2)
高純度化したGe、As及、Se及び液状のGa原料を、Ge11.8at%、As32.9at%、Se49.4at%となるように調合し、石英管に入れて真空に引き封止した。その後、電気炉中で加熱して溶解し、冷却してGaGeAsSe合金インゴットを作製した。その後、石英管の一部を切断して、高純度化した炭化ボロン(BC)化合物を所定量充填して、合計の組成比がB12at%-C3at%-Ga5at%-Ge10at%-As28at%-Se42at%となるように調整した。その後、石英管を再度真空に引きながら封止した。その後、電気炉中で加熱溶解した。その際に、融点の低いGaGeAsSe合金インゴットが先に溶解するが、低融点合金が溶解し終えたところで、石英管を搖動してさらにBC化合物を溶解した。その後冷却し、均一なBCGaGeAsSe合金インゴットを得た。
【0058】
(実験1)
スパッタリングターゲットは一般的に熱伝導度の大きい銅やアルミニウム製のバッキングプレートにボンディングされ、なおかつバッキングプレートの裏面は水冷などで冷却されて使用される。カルコゲナイド膜は一般的に熱伝導率が低く、材質が脆い。このため、セレクタ層をスパッタリングにより成膜する際は、過熱によってスパッタリングターゲットが割れないような成膜条件の調整が必要である。
【0059】
具体的には、ウエハ上にカルコゲナイド膜を一定時間成膜した後に、スパッタリングターゲットの過熱による割れを防ぐためにプラズマ放電を停止する一定の冷却時間が必要である。成膜時間と冷却時間の関係はスパッタリングターゲットの冷却効率に依存しており、スパッタリングターゲット厚みが薄いほど冷却効率が高くなる。
【0060】
本開示者は、実施例1、2、3の各スパッタリングターゲットを用いて、スパッタリングターゲットの厚みと単位面積あたりの成膜電力(成膜パワー密度)の上限値との関係を調査した。その結果を表1に示す。
【表1】
【0061】
表1に示すように、この調査では、実施例1、2、3の各スパッタリングターゲットについて、ターゲットの単位面積当たりのパワー密度を0.20~1.05W/cmで成膜を行い、成膜中と成膜後のターゲットの状態を調べた。成膜パワーは例えば直径100mmのターゲットの場合は、16~85Wで直径440mmの場合は300~1600Wに相当する。この際に、各成膜パワーでプラズマを5分間放電して、各成膜パワーでの放電安定性を調べた。また、放電に異常が生じた場合は、その時点で放電を停止し、その後に、スパッタリングターゲットを成膜チャンバーから外して、ターゲット表面にクラックなどの異常が生じていないかを調べた。
【0062】
表1に示すように、厚みが最も大きい8mm厚のスパッタリングターゲット(実施例3)では、成膜パワー密度0.26W/cmで放電に異常が生じた。これは、ターゲット表面がスパッタされることでスパッタリングターゲットが加熱され、局所的にターゲット材料が溶融し、安定な放電を維持できなかったためと考えられる。使用後のターゲット表面を観察すると、クラックや局所的な溶融が見られた。
【0063】
この結果から、8mm厚のスパッタリングターゲット(実施例3)は、成膜パワー密度0.26W/cmよりも小さい投入電力で使用する必要があり、量産で長時間の成膜で用いることを考慮すると成膜パワー密度0.20W/cm程度で使用するのが好ましいことがわかった。同様に、5mm厚のスパッタリングターゲット(実施例2)では成膜パワー密度0.70W/cmで異常が生じた。3mm厚のスパッタリングターゲット(実施例1)では成膜パワー密度1.05W/cmで異常が生じた。
【0064】
以上から、スパッタリングターゲットの厚みを薄くすることによって、使用可能な成膜パワーを大きくすることができることがわかった。この傾向は、実施例だけでなく、比較例1、2においても同様と考えられる。
【0065】
(実験2)
実施例のスパッタリングターゲット(BGaGeAsSeN)、比較例1のスパッタリングターゲット(GeAsSeN)、比較例2のスパッタリングターゲット(BCGaGeAsSeN)を用いて、耐熱性試験を行った。
【0066】
耐熱性試験は、酸化膜付きのSi基板上に、配線電極(タングステン(W)、厚み40nm)、下部電極(炭素(C)、厚み15nm)、セレクタ層(カルコゲナイド膜、厚み24nm)、上部電極(炭素(C)、厚み15nm)の順に成膜した。セレクタ層を成膜する際に、それぞれ実施例1、比較例1、比較例2の各スパッタリングターゲットを用いることで、実施例、比較例1、比較例2の各サンプルを作製した。実験2において、各サンプルのセレクタ層は、それぞれ最適な電気的特性が得られるように、窒素を7at%含んでいる。
【0067】
その後、加工プロセスの温度負荷と同じ400℃の炉に、実施例、比較例1、比較例2の各サンプルを1時間ほど投入し熱処理による変化を観察した。その結果を表2に示す。
【表2】
【0068】
表2に示すように、実施例1のサンプル及び比較例2のサンプルでは、400℃の熱履歴を受けた後でもセレクタ層にバブルなどの劣化が見られなかった。これは、実施例1ではB(ボロン)を、比較例2ではボロン(B)及び炭素(C)を含むBC化合物をそれぞれスパッタリングターゲットに添加したことによって、セレクタ層の耐熱性が向上したためと考えられる。スパッタリングターゲットにBを添加すると、スパッタリングターゲットを用いて成膜されるセレクタ層(カルコゲナイド膜)の耐熱性が向上することが確認された。
【0069】
(実験3)
次に、スパッタリング時のパーティクルの発生を調べるため、実施例のスパッタリングターゲット(BGaGeAsSeN)、比較例1のスパッタリングターゲット(GeAsSeN)、比較例2のスパッタリングターゲット(BCGaGeAsSeN)を用いて、パーティクル測定を行った。実施例、比較例1、比較例2の各サンプルの層構成は、シリコン基板/セレクタ層/カーボンとした。実験2と同様に、実験3においても、実施例、比較例1、比較例2の各サンプルのセレクタ層は、それぞれ最適な電気的特性が得られるように、窒素を7at%含む構成となるようにリアクティブスパッタリングとした。
【0070】
パーティクルの測定結果を表3に示す。パーティクルは12インチウエハ前面において80nm以上のものの個数を公知のパーティクルカウンターにより測定している。
【表3】
【0071】
パーティクルの測定結果が良好であるのは、実施例及び比較例1の各サンプルである。しかし、実験2で示したように、比較例1のサンプルでは良好な耐熱性を得ることができず、標準的な半導体プロセスで使用されうる400℃の熱負荷では膜剥がれなどの欠陥が発生して歩留まりの大幅な低下や、あるいは、剥がれによるコンタミにより半導体プロセスラインの清浄度を大幅に悪化させるため半導体プロセスラインで取り扱うことができなくなる。
【0072】
一方で、比較例2のサンプルでは耐熱性は良好であるものの、パーティクルが多く発生する。これも、デバイスの加工プロセス上で欠陥となるため好適でない。実施例と比較例2の差異は炭素(C)を含んでいるか否かである。この結果から、スパッタリングターゲットにCが含まれていないことが、パーティクル低減に極めて効果的であることがわかった。
【0073】
なお、実験3で用いた実施例のスパッタリングターゲットは、実験1で用いた実施例1、2、3の各スパッタリングターゲットと同様に、ボロン(B)を15at%含む。また、本開示者は、Bの含有量は20at%以下であれば、パーティクル数を200個程度に抑制できることを確認した。Bの含有量が20at%よりも大きいと、パーティクルは400個程度に増加することを確認した。この結果から、本開示の実施形態に係るスパッタリングターゲットに含まれるBの含有量は、5at%以上20at%以下が好ましく、10at%以上15at%以下がさらに好ましいと考えられる。
【0074】
(実験4)
次に、実施例と、比較例1及び比較例2とで可能なスパッタリングターゲットの薄板加工の厚み、成膜の最大パワー、カルコゲナイド膜の成膜レートを表4に示す。
【表4】
【0075】
実施例のスパッタリングターゲット(BGaGeAsSeN)及び比較例2のスパッタリングターゲット(BCGaGeAsSeN)は、GeAsSeの脆いカルコゲナイドガラス材料に対して、高強度のB及びBCの粒子を分散させた構造となっている。実施例及び比較例1の各スパッタリングターゲットは、材料強度学的に分散強化型の複合組織となり強化されるため、通常のスパッタリングターゲット加工方法で3mm厚の薄板加工が可能となる。
【0076】
一方で、比較例1のスパッタリングターゲット(GeAsSeN)は、Bを含まない脆いカルコゲナイドガラスであるため、通常の加工方法でなおかつ、直径300mm以上の大口径スパッタリングターゲットでは8mmよりも薄い厚みに加工することが困難である。
【0077】
実験1で示したように、厚みを薄くすることにより、スパッタリングターゲットの放熱効果を高めることができる。このため、実施例と比較例2では0.79W/cmの放電が可能となる。一方で比較例1の8mm厚のスパッタリングターゲットでは安定的に使用できる放電パワー密度は0.20W/cmまでであり、これ以上にパワーを上昇させると放電異常が起こり易く、さらにはスパッタリングターゲットに割れ(クラック)が生じ易くなる。
【0078】
表4に示すように、実施例のスパッタリングターゲット(BGaGeAsSeN)による成膜レートは7.5A/sと良好な成膜レートを得ることができた。
【0079】
抵抗変化型メモリ(ReRAM)や相変化メモリ(PCM)で用いるセレクタ素子は、一般的におよそ4V程度のスイッチ電圧で用いられるため、スイッチ層の膜厚は20~25nm程度必要である。そのため、成膜のスループットはそれぞれのスパッタリングターゲットで、セレクタ層の膜厚を20nmとして、ウエハ1枚当たりのスループットを単位時間当たりの処理枚数(WPH)として求めた。
【0080】
ここで、窒素リアクティブスパッタリングを連続して行うと、ターゲット表面が窒化するため、ある時点から爆発的にパーティクルが増大する傾向がある。そのため、混合する窒素ガスの流量比や成膜レートに依存して、一定のリアクティブスパッタ成膜時間おきにアルゴンスパッタによるターゲット表面のクリーニングが必要となる。
【0081】
そこで、成膜時間:冷却時間=1:3の比率で成膜と冷却とを繰り返し行うサイクルを構築した。このサイクルで、窒素リアクティブスパッタリングによりセレクタ層を20nm成膜し、その後にスパッタリングターゲット表面のクリーニングを窒素ドープ成膜時間の5倍行う成膜レシピを構成した。この場合、実施例1のウエハ1枚当たりのスループットは、凡そ1時間あたり5枚であった。一方で、比較例1と2では、実施例1と同様のレシピでは数枚でパーティクルが大幅に増大してしまうため、同じレシピではスループットの計算ができなかった。
【0082】
<本実施形態の効果>
以上から、本実施形態のスパッタリングターゲット(すなわち、Ge、As、Seと、Bとを含有する合金からなり、合金におけるBの含有量が5原子%以上20原子%以下である、スパッタリングターゲット)を用いてスパッタリングを行うことによって、耐熱性と機械的強度が高いカルコゲナイド膜を成膜できることが確認された。
【0083】
また、本実施形態のスパッタリングターゲットを用いることにより、成膜時のパーティクルを低減することが可能となり、デバイスの欠陥を低減し歩留まりを向上することができることが確認された。本実施形態のスパッタリングターゲットを用いることにより、カルコゲナイド膜の成膜スループットが向上し、カルコゲナイド膜の成膜コストを低減することが可能となる。
【0084】
<その他の実施形態>
上記のように、本開示は実施形態、変形例及び実施例によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面は本開示を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。本技術はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。上述した実施形態、変形例及び実施例の要旨を逸脱しない範囲で、構成要素の種々の省略、置換及び変更のうち少なくとも1つを行うことができる。また、本明細書に記載された効果はあくまでも例示であって限定されるものでは無く、また他の効果があってもよい。
【0085】
なお、本開示は以下のような構成も取ることができる。
(1)
ゲルマニウム、ヒ素及びセレンと、ボロンとを含有する合金からなり、前記合金における前記ボロンの含有量は5原子%以上20原子%以下である、スパッタリングターゲット。
(2)
前記合金におけるカーボンの含有量は少なくとも0.5原子%未満あるいは0原子%である、前記(1)に記載のスパッタリングターゲット。
(3)
前記合金は、添加成分としてガリウム及びインジウムの少なくとも一方を含み、
前記合金における前記添加成分の含有量は1原子%以上10原子%以下である、前記(1)又は(2)に記載のスパッタリングターゲット。
(4)
平面視による形状が円形で直径が300mm以上であり、厚みが3mm以下である、前記(1)から(3)のいずれか1項に記載のスパッタリングターゲット。
(5)
ゲルマニウム、ヒ素及びセレンと、ボロンとを含有する合金からなり、前記合金における前記ボロンの含有量は5原子%以上20原子%以下であるスパッタリングターゲットを用いて、スパッタリングを行うことによってカルコゲナイド膜を成膜する、カルコゲナイド膜の成膜方法。
(6)
前記スパッタリングは、成膜雰囲気に窒素を添加する窒素リアクティブスパッタリングである、前記(5)に記載のカルコゲナイド膜の成膜方法。
(7)
前記スパッタリングターゲットは、平面視による形状が円形で直径が300mm以上であり、厚みが3mm以下であり、
前記カルコゲナイド膜を成膜する工程では、
前記スパッタリングターゲットにターゲットの面積当たり0.7W/cm以上の高周波電力を印加する、前記(5)又は(6)に記載のカルコゲナイド膜の成膜方法。
(8)
セレクタ素子のスイッチ層としてカルコゲナイド膜を有し、
前記カルコゲナイド膜は、ゲルマニウム、ヒ素及びセレンと、ボロンとを含有し、
前記カルコゲナイド膜における前記ボロンの含有量は5原子%以上20原子%以下である、メモリ装置。
(9)
前記カルコゲナイド膜は、2原子%以上15原子%以下の濃度で窒素をさらに含有する、前記(8)に記載のメモリ装置。
【符号の説明】
【0086】
1 メモリセルアレイ
10 メモリセル
20 セレクタ素子
21 下部電極
22 スイッチ層
23 上部電極
30 メモリ素子
40 中間電極
BL ビット線
WL ワード線
図1
図2