IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ セイコーホールディングス株式会社の特許一覧

特開2023-127743複合材製品の製造方法、複合材製品および時計
<>
  • 特開-複合材製品の製造方法、複合材製品および時計 図1
  • 特開-複合材製品の製造方法、複合材製品および時計 図2
  • 特開-複合材製品の製造方法、複合材製品および時計 図3
  • 特開-複合材製品の製造方法、複合材製品および時計 図4
  • 特開-複合材製品の製造方法、複合材製品および時計 図5
  • 特開-複合材製品の製造方法、複合材製品および時計 図6
  • 特開-複合材製品の製造方法、複合材製品および時計 図7
  • 特開-複合材製品の製造方法、複合材製品および時計 図8
  • 特開-複合材製品の製造方法、複合材製品および時計 図9
  • 特開-複合材製品の製造方法、複合材製品および時計 図10
  • 特開-複合材製品の製造方法、複合材製品および時計 図11
  • 特開-複合材製品の製造方法、複合材製品および時計 図12
  • 特開-複合材製品の製造方法、複合材製品および時計 図13
  • 特開-複合材製品の製造方法、複合材製品および時計 図14
  • 特開-複合材製品の製造方法、複合材製品および時計 図15
  • 特開-複合材製品の製造方法、複合材製品および時計 図16
  • 特開-複合材製品の製造方法、複合材製品および時計 図17
  • 特開-複合材製品の製造方法、複合材製品および時計 図18
  • 特開-複合材製品の製造方法、複合材製品および時計 図19
  • 特開-複合材製品の製造方法、複合材製品および時計 図20
  • 特開-複合材製品の製造方法、複合材製品および時計 図21
  • 特開-複合材製品の製造方法、複合材製品および時計 図22
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127743
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】複合材製品の製造方法、複合材製品および時計
(51)【国際特許分類】
   G04B 17/06 20060101AFI20230907BHJP
【FI】
G04B17/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031617
(22)【出願日】2022-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000005038
【氏名又は名称】セイコーグループ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】平岡 昌士
(72)【発明者】
【氏名】人見 崇
(72)【発明者】
【氏名】藤枝 久
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 正洋
(57)【要約】
【課題】製造が容易であり、かつ、形状精度を高めることができる複合材製品の製造方法、複合材製品および時計を提供する。
【解決手段】複合材製品の製造方法は、第1部材に第2部材を形成して複合母材23を得る第2部材形成工程と、複合母材23を、複合材製品に応じた形状に加工する加工工程と、複合材製品に応じた形状を有する治具60を用いて、加工工程で加工された部分を保持した状態で、複合母材23から、加工工程で加工された部分を複合材製品42として切り出す切り出し工程と、を有する。
【選択図】図16
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1部材と、前記第1部材とは異なる材料で構成された第2部材とを有する複合材製品の製造方法であって、
前記第1部材に前記第2部材を形成して複合母材を得る第2部材形成工程と、
前記複合母材を、前記複合材製品に応じた形状に加工する加工工程と、
前記複合材製品に応じた形状を有する治具を用いて、前記加工工程で加工された部分を保持した状態で、前記複合母材から、前記加工工程で加工された部分を前記複合材製品として切り出す切り出し工程と、を有する、
複合材製品の製造方法。
【請求項2】
前記第1部材は、一方向に延在し、
前記第2部材は、前記第1部材の延在方向の一部が露出するように形成され、
前記切り出し工程において、前記露出した部分の前記第1部材を保持した状態で前記複合材製品を前記複合母材から切り出す、請求項1記載の複合材製品の製造方法。
【請求項3】
前記第2部材形成工程において、拡散接合、ろう材、接着材、めっき、および3Dプリンタのうちいずれかを用いて前記第1部材に前記第2部材を形成する、請求項1または2に記載の複合材製品の製造方法。
【請求項4】
前記第2部材は、前記第1部材より線膨張係数が大きい、請求項1~3のうちいずれか1項に記載の複合材製品の製造方法。
【請求項5】
前記治具の先端面に、前記複合母材に向けて突出する凸部が形成され、
前記凸部は、前記切り出し工程によって前記複合材製品を切り出した後に、前記複合母材に当接することで、前記治具および前記複合材製品が前記複合母材に近づく方向に移動するのを規制する、請求項1~4のうちいずれか1項に記載の複合材製品の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のうちいずれか1項に記載の複合材製品の製造方法によって得られた、複合材製品。
【請求項7】
請求項6記載の複合材製品を備えた時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材製品の製造方法、複合材製品および時計に関する。
【背景技術】
【0002】
機械式時計の調速機は、てんぷを備える。てんぷは、てん真およびてん輪を備える。てんぷは、てん真の回転軸回りに周期的に正逆回転して振動する。てん輪の慣性モーメントは温度によって変化するため、てんぷの振動周期は、温度の影響を受ける。てんぷの振動周期の温度特性を改善するため、てん輪のリム部をバイメタル構造とすることが提案されている(例えば、特許文献1,2を参照)。
【0003】
特許文献1に記載の製造方法では、第1リムと第2リムとを溶接することによっててんぷを作製する。特許文献2に記載の製造方法では、2つの部材からなる複合体をスライスして平板片とし、この平板片を加工して、てん輪を得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6166623号公報
【特許文献2】特開2017-223566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の製造方法では、第1リムと第2リムとの溶接に手間がかかるため、製造の容易さの点で改善の余地があった。また、特許文献1に記載の製造方法では、第1リムおよび第2リムを加工後に組み立てるため、第1リムと第2リムとの位置精度を高める必要があった。
特許文献2に記載の製造方法では、第1部材と第2部材との複合体を作製し、この複合体をスライスして得た平板片をてん輪に加工する。この製造方法では、第1部材と第2部材との複合体である平板片をてん輪形状に加工するため、第1部材と第2部材との接合位置のずれは起こりにくい。
しかし、この製造方法では、複合体をスライスする際の変形、および製品形状の加工時の変形などにより、製品の形状精度が低くなる可能性があった。
【0006】
本発明の一態様は、製造が容易であり、かつ、形状精度を高めることができる複合材製品の製造方法、複合材製品および時計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の一態様は、第1部材と、前記第1部材とは異なる材料で構成された第2部材とを有する複合材製品の製造方法であって、前記第1部材に前記第2部材を形成して複合母材を得る第2部材形成工程と、前記複合母材を、前記複合材製品に応じた形状に加工する加工工程と、前記複合材製品に応じた形状を有する治具を用いて、前記加工工程で加工された部分を保持した状態で、前記複合母材から、前記加工工程で加工された部分を前記複合材製品として切り出す切り出し工程と、を有する、複合材製品の製造方法を提供する。
【0008】
本態様によれば、第1部材と第2部材との複合母材から複合材製品を切り出す個片化の前に、複合母材を複合材製品に応じた形状に加工、すなわち製品形状に加工する。そのため、個片化後にその個片を複合材製品に応じた形状に加工する手法に比べ、加工工程における精度の確保が容易である。言い換えれば、切り出しの前に複合母材を製品形状に加工するため、加工精度を高めることができる。よって、複合材製品の形状精度を高めることができる。
【0009】
製品形状に加工された母材から切り出しを行う際には製品に変形が起こりやすいが、本態様によれば、次の理由により、このような変形は生じにくい。本態様によれば、切り出し工程において、製品に応じた形状の治具を用いて複合母材を保持した状態で、加工された製品を切り出す。そのため、切り出し時に切断工具により母材に力がかかる場合でも、製品の変形を抑制できる。よって、形状精度の高い製品が得られる。
【0010】
本態様によれば、第2部材形成工程において第1部材に第2部材を形成した後、複合母材からの切り出しを行う。個片化の前に第1部材に第2部材を形成するため、個片化後に第1部材と第2部材とを接合する手法に比べ、接合工程(第2部材形成工程)を少なくすることができる。そのため、製造は容易となる。
【0011】
本態様によれば、個片化の前に第1部材に第2部材を形成するため、個片化後に第1部材と第2部材とを接合する手法に比べ、第1部材と第2部材との接合位置の精度を高めることができる。
【0012】
(2)前記第1部材は、一方向に延在し、前記第2部材は、前記第1部材の延在方向の一部が露出するように形成され、前記切り出し工程において、前記露出した部分の前記第1部材を保持した状態で前記複合材製品を前記複合母材から切り出すことが好ましい。
本態様によれば、第1部材を精度よく位置決めできる。そのため、切り出し時の加工精度を高めることができる。
【0013】
(3)前記第2部材形成工程においては、拡散接合、ろう材、接着材、めっき、および3Dプリンタのうちいずれかを用いて前記第1部材に前記第2部材を形成することが好ましい。
本態様によれば、第2部材を容易に形成することができる。
【0014】
(4)前記第2部材は、前記第1部材より線膨張係数が大きいことが好ましい。
本態様によれば、複合材製品としてのてんぷの振動周期の温度特性を良好にできる。
【0015】
(5)前記治具の先端面に、前記複合母材に向けて突出する凸部が形成され、前記凸部は、前記切り出し工程によって前記複合材製品を切り出した後に、前記複合母材に当接することで、前記治具および前記複合材製品が前記複合母材に近づく方向に移動するのを規制することが好ましい。
本態様によれば、切り出し工程で用いる切断工具による前記複合材製品の破損を抑制できる。
【0016】
(6)本発明の他の態様は、前記複合材製品の製造方法によって得られた複合材製品を提供する。
【0017】
(7)本発明のさらに他の態様は、前記複合材製品を備えた時計を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、製造が容易であり、かつ、形状精度を高めることができる複合材製品の製造方法、複合材製品および時計を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態に係る時計の外観図である。
図2】ムーブメントの表側から見た平面図である。
図3】てん輪の斜視図である。
図4】実施形態に係る複合材製品の製造方法の工程図である。
図5】実施形態に係る複合材製品の製造方法の工程図である。
図6】3Dプリンタによって第2部材を形成する方法を説明する図である。
図7】3Dプリンタによって第2部材を形成する方法を説明する図である。
図8】実施形態に係る複合材製品の製造方法の工程図である。
図9】実施形態に係る複合材製品の製造方法の工程図である。
図10】実施形態に係る複合材製品の製造方法の工程図である。
図11】実施形態に係る複合材製品の製造方法の工程図である。
図12】実施形態に係る複合材製品の製造方法の工程図である。
図13】実施形態に係る複合材製品の製造方法の工程図である。
図14】実施形態に係る複合材製品の製造方法の工程図である。
図15】実施形態に係る複合材製品の製造方法の工程図である。
図16】実施形態に係る複合材製品の製造方法の工程図である。
図17】実施形態に係る複合材製品の製造方法の工程図である。
図18】実施形態に係る複合材製品の製造方法の工程図である。
図19】実施形態に係る複合材製品の製造方法の工程図である。
図20】実施形態に係る複合材製品の製造方法の工程図である。
図21】実施形態に係る複合材製品の製造方法の工程図である。
図22】実施形態に係る複合材製品の製造方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。
実施形態に係る機械式の腕時計およびこの腕時計に組み込まれたムーブメントについて説明したあと、複合材製品の製造方法の詳細について説明する。
【0021】
[時計]
一般に、時計の駆動部分を含む機械体を「ムーブメント」と称する。このムーブメントに文字板、針を取り付けて、時計ケースの中に入れて完成品にした状態を時計の「コンプリート」と称する。時計の基板を構成する地板の両側のうち、時計ケースのガラスのある方の側、すなわち文字板のある方の側をムーブメントの「裏側」と称する。また、地板の両側のうち、時計ケースのケース裏蓋のある方の側、すなわち文字板と反対の側をムーブメントの「表側」と称する。
【0022】
図1は、実施形態に係る時計1の外観図である。図1に示すように、本実施形態の時計1のコンプリートは、図示しないケース裏蓋、およびガラス2からなる時計ケース3内に、ムーブメント100と、時に関する情報を示す目盛り等を有する文字板11と、時を示す時針12、分を示す分針13および秒を示す秒針14を含む指針と、を備えている。文字板11には、日付を表す数字を明示させる日窓11aが開口している。これにより、時計1は、時刻に加え、日付を確認することが可能とされている。
【0023】
図2は、ムーブメント表側の平面図である。図2では、図面を見やすくするため、ムーブメント100を構成する時計部品のうち一部の図示を省略している。
図2に示すように、機械式時計のムーブメント100は、基板を構成する地板102を有している。地板102の巻真案内穴102aには、巻真110が回転可能に組み込まれている。この巻真110は、おしどり190、かんぬき192、かんぬきばね194および裏押さえ196を含む切換装置によって、軸線方向の位置が決められている。
巻真110を回転させると、つづみ車(不図示)の回転を介してきち車112が回転する。きち車112の回転により丸穴車114および角穴車116が順に回転し、香箱車120に収容されたぜんまい(不図示)が巻き上げられる。
【0024】
香箱車120は、地板102と香箱受160との間で回転可能に支持されている。二番車124、三番車126、四番車128およびがんぎ車130は、地板102と輪列受162との間で回転可能に支持されている。
ぜんまいの復元力により香箱車120が回転すると、香箱車120の回転により二番車124、三番車126、四番車128およびがんぎ車130が順に回転する。これら香箱車120、二番車124、三番車126および四番車128は、表輪列を構成する。
【0025】
二番車124が回転すると、その回転に基づいて筒かな(不図示)が同時に回転し、この筒かなに取り付けられた分針13(図1参照)が「分」を表示する。また、筒かなの回転に基づいて日の裏車(不図示)の回転を介して筒車(不図示)が回転し、この筒車に取り付けられた時針12(図1参照)が「時」を表示する。
【0026】
表輪列の回転を制御するための脱進・調速装置は、がんぎ車130、アンクル142およびてんぷ10で構成されている。
がんぎ車130の外周には歯130aが形成されている。アンクル142は、地板102とアンクル受164との間で回転可能に支持されており、一対のつめ石142a,142bを備えている。アンクル142の一方のつめ石142aが、がんぎ車130の歯130aに係合した状態で、がんぎ車130は一時的に停止している。
てんぷ10は、一定周期で往復回転することにより、がんぎ車130の歯130aに、アンクル142の一方のつめ石142aおよび他方のつめ石142bを、交互に係合および解除させている。これにより、がんぎ車130を一定速度で脱進させている。
【0027】
てんぷ10は、主に、てん輪42(図3参照)と、てん真と、ひげぜんまいと、ひげ玉とを備える。
【0028】
[複合材製品の製造方法]
図3は、てん輪42の斜視図である。てん輪42は、複合材製品の一例である。
図3に示すように、てん輪42は、複数のリム50と、複数の連結アーム51と、中央リング52とを備える。リム50は、てん真(図示略)を中心とする円弧状とされている。連結アーム51は、リム50と中央リング52とを径方向に連結する。
【0029】
リム50の一端部は、連結アーム51の先端が連結された固定端部50aである。リム50の他端部は、径方向に変位可能な自由端部50bである。
【0030】
リム50は、径方向内側に配置される第1リム54と、第1リム54に対して径方向外側に配置される第2リム55とを備える。第1リム54と第2リム55とは、リム50の径方向に隣り合う。第1リム54と第2リム55とは、異なる材料で構成されている。第1リム54と第2リム55とは、例えば、線膨張係数が異なる材料で構成されている。
【0031】
第2リム55は、例えば、第1リム54の材料に比べて線膨張係数が大きい材料で形成されている。
温度が上昇した場合には、第2リム55は第1リム54よりも周方向に大きく膨張する。これにより、リム50の自由端部50bは径方向内側へ移動する。そのため、てんぷの振動周期の温度特性を良好にできる。なお、線膨張係数の測定方法としては、JIS Z 2285:2003などがある。
【0032】
てん輪42の製造方法の一例について、図4図16を参照して説明する。
【0033】
(第2部材形成工程)
図4に示すように、円柱状の第1部材21を用意する。第1部材21は、例えば、線膨張係数が比較的小さい材料で形成されている。第1部材21は、一方向(中心軸方向)に延在する。C1は第1部材21の中心軸である。
【0034】
図5に示すように、第1部材21の表面(詳しくは外周面)に、第2部材22を形成する。第2部材22は、例えば、第1部材21の材料に比べて線膨張係数が大きい材料で形成される。第2部材22は、第1部材21の外周面に、層状に形成されている。これにより、第1部材21に第2部材22が形成された複合母材23が得られる。複合母材23は、中心軸C1を有する円柱状である。
【0035】
第2部材22は、第1部材21の延在方向の一部が露出するように形成する。例えば、第2部材22は、第1部材21の外周面のうち、第1部材21の一端21a(前端)から長さ方向の中央までの領域のみに形成されている。そのため、第1部材21の外周面のうち、第1部材21の他端21b(後端)から長さ方向の中央までの領域は露出している。
なお、第2部材22が形成される領域は、第1部材21の一端から長さ方向の中央までの領域に限定されない。第2部材22が形成される第1部材21の領域は任意に選択できる。第2部材22は、第1部材21の全長にわたって形成することもできる。
【0036】
図6および図7は、3Dプリンタによって第2部材を形成する方法を説明する図である。
図6および図7に示すように、第2部材22は、例えば、3Dプリンタ200によって形成することができる。
3Dプリンタ200は、供給ノズル201と、レーザヘッド202とを備える。供給ノズル201は、パウダー状の材料を第1部材21の外周面に供給する。レーザヘッド202は、第1部材21にレーザ光を照射する。レーザ光の照射によって、材料は溶融し、結合および凝固する。材料供給およびレーザ光の照射は、支持部203によって第1部材21を支持し、第1部材21を中心軸C1の周りに回転させながら行う。
【0037】
複合母材23は、3Dプリンタ200の支持部203によって支持した状態のまま、加工工程および切り出し工程に供することもできる。この方法によれば、てん輪42(図3参照)の製造が容易となる。この方法によれば、共通の支持部で複合母材23を支持したまま、複合母材23を、第2部材形成工程、加工工程および切り出し工程に供するため、各工程の加工精度を高めることができる。
【0038】
第2部材22は、3Dプリンタ200に限らず、他の手法によって形成してもよい。例えば、第2部材22は、めっきによって第1部材21の外周面に形成してもよい。第2部材22は、ろう材、接着材などの接合材を用いて第1部材21に接合してもよい。第2部材22は、拡散接合を利用して第1部材21の外周面に形成することもできる。
【0039】
第2部材22の形成方法としては、拡散接合、ろう材、接着材、めっき、および3Dプリンタのうちいずれかを採用できる。これにより、第2部材22を容易に形成することができる。
【0040】
(加工工程)
図8に示すように、切削加工などにより、複合母材23の先端面23aに凹部24を形成する。凹部24は、第1部材21と同心の円形状とされている。凹部24の内径は第1部材21の外径より小さい。
【0041】
図9に示すように、切削加工などにより、凹部24をさらに深く形成する。この際、凹部24の底部に連結アーム51および中央リング52を形成する(図3参照)。複合母材23の外周縁には、リム50(図3参照)となる環状リム56が形成される。環状リム56は、第1部材で形成された第1リム57と、第2部材で形成された第2リム58とを有する。第2リム58は、第1リム57の外周面に設けられている。第1リム57は第1リム54(図3参照)となる。第2リム58は第2リム55(図3参照)となる。このように、複合母材23の先端部は、てん輪42(図3参照)に応じた形状に加工される。
中央リング52の内側の凹所を中央凹所53という。
【0042】
穿孔工具(例えば、ドリルなどの回転工具)を用いて、環状リム56に、周方向に間隔をおいて複数の孔59を形成する。孔59は、環状リム56を径方向に貫通する。
本実施形態では、凹部24の形成(図8参照)の後に孔59を形成するが、凹部24の形成の前に孔59を形成することもできる。その場合、てん輪42の形状精度を高めることができる可能性がある。
【0043】
加工工程における「加工」は、複合母材23の形状の変化を伴う。本実施形態における「加工」は、凹部24の形成に伴い、複合母材23の先端部の形状が変化している。
「加工」としては、切削加工に限らず、レーザ加工、プレス加工、曲げ加工、切断加工、打ち抜き加工、放電加工などが挙げられる。
【0044】
図10および図11に示すように、複合母材23の先端部の形状に応じた先端形状を有する治具60を用意する。治具60は、ヘッド部材61と、支持体62と、付勢部材63(図11参照)とを備える。図11図16図18図22において、右方向は前方である。
【0045】
ヘッド部材61は、複合母材23と同軸の円柱状とされている。ヘッド部材61の先端面には、てん輪42に即した形状の凹部64が形成されている。凹部64は、環状リム56に応じた環状溝76と、連結アーム51に応じた直線溝71と、中央リング52に応じた環状溝72とを有する。環状溝72の内側には、中央凸部74が形成されている。中央凸部74は、ヘッド部材61と同軸の円柱状である。中央凸部74は、ヘッド部材61の先端面61aから複合母材23に向けて突出する。中央凸部74は、複合母材23の中央凹所53に挿入される。
【0046】
図10に示すように、ヘッド部材61には、環状リム56を切断するためのカッター83(図14参照)を受け入れる2つの切り欠き73が形成されている。図11に示すように、ヘッド部材61には、離型用の流体(気体または液体)、または棒状の操作体が通る通路65が形成されている。通路65は、ヘッド部材61の中心軸と平行に形成され、ヘッド部材61の先端面に開口している。通路65を通して流体または操作体を送入し、てん輪42(図16参照)をヘッド部材61から離れる方向に押圧することによって、てん輪42をヘッド部材61から容易に取り外すことができる。なお、図10では通路65の図示を省略する。
付勢部材63(図11参照)は、支持体62に反力をとってヘッド部材61を複合母材23に向けて付勢する。
【0047】
図11に示すように、チャック81(支持部)を用いて複合母材23を把持する。チャック81は、第1部材21の露出部分(図5に示す第1部材21の他端21bから長さ方向の中央までの部分)を把持すると、第1部材21を精度よく位置決めできる。そのため、切り出し時の加工精度を高めることができる。
【0048】
図12に示すように、治具60のヘッド部材61を複合母材23の先端に突き合わせる。環状リム56は環状溝76に挿入される。連結アーム51は直線溝71に挿入される。中央リング52は環状溝72に挿入される(図10参照)。ヘッド部材61は、付勢部材63によって複合母材23に押し当てられることが好ましい。
【0049】
図13に示すように、環状溝76の幅W1(環状溝76の径方向の寸法)は、環状リム56の厚さT1(環状リム56の径方向の寸法)より大きい。そのため、環状溝76の側面と環状リム56の側面との間には隙間が形成される。例えば、図13では、環状溝76の外周側の側面と環状リム56の外周側の側面との間に隙間G1が形成されている。環状溝76の内周側の側面と環状リム56の内周側の側面との間に隙間G2が形成されている。環状溝76の幅W1が環状リム56の厚さT1より大きいことによって、環状リム56を環状溝76に容易に挿入できる。
【0050】
図13では、環状リム56の先端面56aは環状溝76の底面76aに突き当てられている。
環状溝76の深さは、環状リム56の突出高さより小さい。例えば、直線溝71の底面からの環状溝76の深さD1は、連結アーム51の突出面からの環状リム56の突出高さH1より小さい。そのため、ヘッド部材61の先端面と、複合母材23の凹部24(図10参照)の底面との間には隙間が形成される。例えば、図13では、直線溝71の底面と連結アーム51の突出面との間に、隙間G3が形成されている。
【0051】
ヘッド部材61の中央凸部74の先端面74aと、複合母材23の中央凹所53の底面53aとの間は、隙間G4が形成されている。中央凸部74の側面74bと中央凹所53の側面53bとの間は、隙間G5が形成されている。隙間G5は、例えば、隙間G3,G4より大きい。隙間G5が十分に大きいことにより、カッター82を、図19に示す切断終了位置P1に容易に配置することができる。
【0052】
図14に示すように、カッター83を用いて、環状リム56を2か所で切断する。この際、カッター83は、ヘッド部材61の切り欠き73(図10参照)に挿入される。
このように、複合母材23からてん輪42(第1部材と第2部材との複合材製品)を切り出す前に、複合母材23をてん輪42に応じた形状に加工するため、てん輪42の形状精度を高めることができる。
【0053】
(切り出し工程)
図15に示すように、カッター82(切断工具)を用いて、複合母材23を、中心軸C1に垂直に切断する。これにより、図16に示すように、てん輪42が複合母材23から切り出される。
【0054】
切り出し工程について、図17図22を参照して詳しく説明する。
図17に示すように、カッター82は、先端82aに向かって厚さを増し、先端82aにおいて最も厚くなっている。カッター82の前面82bは、先端82aから離れるほど後退するように傾斜している。
【0055】
図18に示すように、カッター82の前面82bは傾斜しているため、切断終了位置P1にあるカッター82の前面82bは、側面53bと同じ径方向位置において、複合母材23の切断予定面84に対して距離L1だけ後方に位置する。距離L1は、中央凸部74の先端面74aと、中央凹所53の底面53aとの隙間G4(先端面74aと底面53aとの距離)より大きい。
【0056】
図18および図19に示すように、切り出し工程において、複合母材23はカッター82によって切断され、てん輪42(複合材製品)が切り出される。切断終了時には、カッター82は切断終了位置P1に達する。切断終了位置P1において、先端82aは中央凹所53の側面53bより中心軸C1に近く、かつ中央凸部74の側面74bに比べて中心軸C1から離れている。図18において、先端82aは側面53bより低く、側面74bより高い位置にある。切断終了位置P1において、先端82aは中央凹所53の側面53bより中心軸C1に近いため、てん輪42を確実に切り出しできる。切断終了位置P1において、先端82aが中央凸部74の側面74bに比べて中心軸C1から離れているため、中央凸部74はカッター82によって破損しない。
【0057】
図20に示すように、てん輪42およびヘッド部材61は、付勢部材63(図17参照)によって複合母材23に近づく方向(後方)に移動する。ヘッド部材61の中央凸部74の先端面74aは、複合母材23の中央凹所53の底面53aに突き当てられる。前述の距離L1(図18参照)は、先端面74aと底面53aとの隙間G4より大きいため、てん輪42はカッター82に達しない。治具60のヘッド部材61の中央凸部74が複合母材23に当接することで、ヘッド部材61およびてん輪42が複合母材23に近づく方向に移動するのを規制する。これにより、カッター82によるてん輪42の破損を抑制できる。
【0058】
図21に示すように、てん輪42および治具60を前方に退避させる。
図22に示すように、カッター82を中心軸C1に近づく方向にさらに移動させ、複合母材23の残余部分25(図21参照)を切除する。これにより、複合母材23の切断端面26は平坦となる。
【0059】
加工工程(図8図9参照)、および切り出し工程(図15図22参照)を繰り返すことによって、複合母材23から、さらに1または複数のてん輪42を作製できる。
【0060】
本実施形態では、カッター83が入り込む切り欠き73を有する治具60(図10参照)を用いたが、治具の構成はこの例に限定されない。例えば、環状リム56が2か所で切断された先端形状を有する治具、すなわち、てん輪42の形状の凹部を有する治具を用いてもよい。その場合、治具60を使用する前に環状リム56を2分割する。これにより、さらに切り出し時の加工精度を高めることができる。
また、切り出し工程は、加工工程から連続して行われてもよい。すなわち、加工工程においてチャックを用いて複合母材23を把持して加工を行った後、前記チャックで複合母材23を把持したまま、切り出し工程に移行してもよい。これにより、加工時間を短縮するとともに、切り出し時の加工精度を高めることができる。
【0061】
[実施形態の製造方法によって得られる効果]
本実施形態の製造方法は、第1部材21と第2部材22との複合母材23からてん輪42(複合材製品)を切り出す個片化の前に、複合母材23を製品に応じた形状に加工、すなわち製品形状に加工する。そのため、個片化後にその個片を製品形状に加工する場合に比べ、加工工程における精度の確保が容易である。言い換えれば、切り出しの前に複合母材23を製品形状に加工するため、加工精度を高めることができる。よって、本実施形態の製造方法によれば、製品の形状精度を高めることができる。
【0062】
製品形状に加工された母材から切り出しを行う際には製品に変形が起こりやすいが、本実施形態の製造方法では、次の理由により、このような変形は生じにくい。本実施形態の製造方法は、切り出し工程において、製品に応じた形状の治具60を用いて複合母材23を保持した状態で、加工された製品を切り出す。そのため、切り出し時にカッター82により複合母材23に力がかかる場合でも、製品の変形を抑制できる。よって、本実施形態の製造方法によれば、形状精度の高い製品が得られる。
【0063】
本実施形態の製造方法によれば、第2部材形成工程において第1部材21に第2部材22を形成した後、複合母材23からの切り出しを行う。個片化の前に第1部材21に第2部材22を形成するため、個片化後に第1部材と第2部材とを接合する手法に比べ、接合工程(第2部材形成工程)を少なくすることができる。そのため、製造は容易となる。
これに対し、個片化後に第1部材と第2部材とを接合する場合は、接合工程が多くなるため、製造の手間が増大する。
【0064】
本実施形態の製造方法は、個片化の前に第1部材21に第2部材22を形成するため、個片化後に第1部材と第2部材とを接合する手法に比べ、第1部材21と第2部材22との接合位置の精度を高めることができる。
個片化後に第1部材と第2部材とを接合する場合は、個片化後の小さな2つの部材を接合するため、接合位置の精度を高めるのは容易でない。
【0065】
本実施形態の製造方法は、複合母材23から複数の製品を加工することができるため、製造工程を簡略化し、生産性を高めることができる。
【0066】
[複合材製品の他の例]
実施形態の複合材製品の製造方法は、図3に示すてん輪などの時計用部品の製造に限らず、他の用途にも適用できる。
【0067】
(ブスバー)
実施形態の複合材製品の製造方法は、ブスバーの製造に適用することができる。ブスバーは、第1部材と第2部材とを用いた複合材製品であってよい。第1部材は母材であり、例えば銅、アルミニウム、鉄、これらの合金などの高導電性材料で構成される。第2部材は、チタン、ジルコニウムなどの高耐食性材料で構成される。第2部材は、第1部材に積層される。複合材製品であるブスバーは、導電性が高く、耐食性にも優れる。
【0068】
(電極型)
実施形態の複合材製品の製造方法は、電極型の製造に適用することができる。電極型は、第1部材と第2部材とを用いた複合材製品であってよい。第1部材は基材であり、例えば銅、アルミニウム、鉄、これらの合金などの高導電性材料で構成される。第2部材は、超硬合金などの高硬度材料で構成される。複合材製品である電極型は、導電性が高く、機械的強度も高い。
【0069】
(温度計)
実施形態の複合材製品の製造方法は、温度計の製造に適用することができる。温度計は、第1部材と第2部材とを用いた複合材製品(バイメタル式温度計)であってよい。第1部材と第2部材とは、線膨張係数が異なる材料で構成されている。バイメタル式温度計は、例えば、第1部材と第2部材とを組み合わせたバイメタルをヘリカル状に巻いた構造を有する。
【0070】
(ベアリング)
実施形態の複合材製品の製造方法は、ベアリングの製造に適用することができる。ベアリングは、第1部材と第2部材とを用いた複合材製品であってよい。第1部材は基材であり、例えば、鋼で形成される。第2部材は青銅などで形成された被覆層である。複合材製品であるベアリングは、高温での疲労強度を高めることができる。
【0071】
(熱交換パイプ)
実施形態の複合材製品の製造方法は、熱交換パイプの製造に適用することができる。熱交換パイプは、第1部材と第2部材とを用いた複合材製品であってよい。第1部材は基材であり、例えば、ステンレスで形成された管状体である。第2部材はアルミニウムなどの高熱電導性材料で構成され、管状体の外周面に設けられる。複合材製品である熱交換パイプは、耐食性が高く、放熱性能にも優れている。
【0072】
(自転車用フレーム)
実施形態の複合材製品の製造方法は、自転車用フレームの製造に適用することができる。自転車用フレームは、第1部材と第2部材とを用いた複合材製品であってよい。第1部材は基材であり、例えば、アルミニウムで形成された管状体である。第2部材はチタンなどの高耐久性材料で構成され、管状体の外周面に設けられる。複合材製品である自転車用フレームは、軽量であり、耐久性が高い。
【符号の説明】
【0073】
1…時計、21…第1部材、22…第2部材、42…てん輪(複合材製品)、23…複合母材、60…治具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22