IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 川崎重工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-掘削用液圧システム 図1
  • 特開-掘削用液圧システム 図2
  • 特開-掘削用液圧システム 図3
  • 特開-掘削用液圧システム 図4
  • 特開-掘削用液圧システム 図5
  • 特開-掘削用液圧システム 図6
  • 特開-掘削用液圧システム 図7
  • 特開-掘削用液圧システム 図8
  • 特開-掘削用液圧システム 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127760
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】掘削用液圧システム
(51)【国際特許分類】
   E21B 3/02 20060101AFI20230907BHJP
   E21B 17/07 20060101ALI20230907BHJP
   E02F 9/20 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
E21B3/02
E21B17/07
E02F9/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031645
(22)【出願日】2022-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 伊吹
(72)【発明者】
【氏名】黒田 裕一朗
【テーマコード(参考)】
2D003
2D129
【Fターム(参考)】
2D003BA02
2D003BA06
2D003BA07
2D003DB03
2D129BA05
2D129BA08
2D129BA12
2D129BA13
2D129BA28
2D129CB15
2D129DA18
2D129EB13
(57)【要約】
【課題】掘削軸の捩れを検出することができる掘削用液圧システムを提供する。
【解決手段】一実施形態に係る掘削用液圧システム1Aは、テレスコピック構造の掘削軸を有する掘削機に搭載されるものであり、掘削軸を回転させる液圧モータ4と、一対の給排ライン42,42により液圧モータ4と接続された方向切換弁3と、吐出ライン22により方向切換弁3と接続された液圧ポンプ2を含む。さらに、液圧システム1Aは、液圧ポンプ2の吐出圧力を計測する圧力センサ81と、液圧モータ4の回転数を計測する回転数センサ73と、圧力センサ81および回転数センサ73と電気的に接続された制御装置6を含む。制御装置6は、圧力センサ81で計測される液圧ポンプ2の吐出圧力が第1閾値よりも大きく、かつ、回転数センサ73で計測される液圧モータ4の回転数が第2閾値よりも小さいときに、掘削軸17に捩れが発生したと判定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレスコピック構造の掘削軸を有する掘削機に搭載される掘削用液圧システムであって、
前記掘削軸を回転させる液圧モータと、
一対の給排ラインにより前記液圧モータと接続された方向切換弁と、
吐出ラインにより前記方向切換弁と接続された液圧ポンプと、
前記吐出ラインから分岐するリリーフラインに設けられたリリーフ弁と、
前記液圧ポンプの吐出圧力を計測する圧力センサと、
前記液圧モータの回転数を計測する回転数センサと、
前記圧力センサおよび前記回転数センサと電気的に接続された制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記圧力センサで計測される前記液圧ポンプの吐出圧力が第1閾値よりも大きく、かつ、前記回転数センサで計測される前記液圧モータの回転数が第2閾値よりも小さいときに、前記掘削軸に捩れが発生したと判定する、掘削用液圧システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記圧力センサで計測される前記液圧ポンプの吐出圧力が前記第1閾値よりも大きく、かつ、前記回転数センサで計測される前記液圧モータの回転数が前記第2閾値よりも小さいとき、特定条件を満たす場合に前記掘削軸に捩れが発生したと判定し、
前記特定条件は、掘削深さが第3閾値よりも大きく、かつ、前記掘削軸をワイヤを介して上下動させる巻上ユニットによるワイヤの巻上速度が第4閾値よりも小さいことである、請求項1に記載の掘削用液圧システム。
【請求項3】
テレスコピック構造の掘削軸を有する掘削機に搭載される掘削用液圧システムであって、
前記掘削軸を回転させる液圧モータと、
一対の給排ラインにより前記液圧モータと接続された方向切換弁と、
吐出ラインにより前記方向切換弁と接続された液圧ポンプと、
前記吐出ラインから分岐するリリーフラインに設けられたリリーフ弁と、
前記液圧モータが掘削方向に回転するときの前記液圧モータの入口圧力を計測する圧力センサと、
前記液圧モータの回転数を計測する回転数センサと、
前記圧力センサおよび前記回転数センサと電気的に接続された制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記圧力センサで計測される前記液圧モータの入口圧力が第1閾値よりも大きく、かつ、前記回転数センサで計測される前記液圧モータの回転数が第2閾値よりも小さいときに、前記掘削軸に捩れが発生したと判定する、掘削用液圧システム。
【請求項4】
前記制御装置は、前記掘削軸に捩れが発生したと判定したとき、表示器に異常が発生したことを表示させることと、警報器に警報を発生させることのうちの少なくとも一方を行う、請求項1~3の何れか一項に記載の掘削用液圧システム。
【請求項5】
前記制御装置は、前記掘削軸に捩れが発生したと判定したとき、前記方向切換弁が中立位置に切り換えられた後に前記方向切換弁を中立位置に所定時間維持する、請求項1~4の何れか一項に記載の掘削用液圧システム。
【請求項6】
前記制御装置はメモリを含み、
前記制御装置は、前記掘削軸に捩れが発生したと判定したときに、前記掘削軸に捩れが発生したときの日時、前記液圧ポンプの吐出圧力または前記液圧モータの入口圧力、および前記液圧モータの回転数を前記メモリに保存する、請求項1~5の何れか一項に記載の掘削用液圧システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、掘削機に搭載される掘削用液圧システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、地盤に縦穴を掘削する掘削機が知られている。掘削機は、鉛直方向に延びる掘削軸と、掘削軸の下端に設けられた掘削用のバケットを含む。例えば、特許文献1には、液圧モータを用いて掘削軸を回転させる掘削機が開示されている。
【0003】
また、特許文献1に開示された掘削機は、掘削中に地盤の強度を示すN値を検出する管理装置を含む。この管理装置は、液圧モータの入口圧力と回転数からN値を算出する。そして、管理装置は、N値が異常値となると、地盤中に掘削不能な障害物が存在することを警告する。
【0004】
バケットが硬い岩盤などの掘削不能な障害物に当たると、バケットが曲がることで縦穴が傾いて形成されることがある。これに対し、上記のように地盤中に掘削不能な障害物が存在することが警告されれば、縦穴が傾いて形成されることを未然に防ぐことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-255765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、地盤に深い縦穴を掘削する場合、掘削軸はテレスコピック構造となる。このような長い掘削軸では、バケットが硬い岩盤などの障害物に当たって掘削負荷が増大したときに、掘削軸が大きく捩られた状態で液圧モータが停止する。従って、作業者が液圧モータを逆回転させたときに、液圧モータが掘削軸の捩れによって高速で逆回転し、液圧モータの構成部品に過度な応力が掛かるおそれがある。
【0007】
そこで、本開示は、テレスコピック構造の掘削軸の捩れを検出することができる掘削用液圧システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、一つの側面から、テレスコピック構造の掘削軸を有する掘削機に搭載される掘削用液圧システムであって、前記掘削軸を回転させる液圧モータと、一対の給排ラインにより前記液圧モータと接続された方向切換弁と、吐出ラインにより前記方向切換弁と接続された液圧ポンプと、前記吐出ラインから分岐するリリーフラインに設けられたリリーフ弁と、前記液圧ポンプの吐出圧力を計測する圧力センサと、前記液圧モータの回転数を計測する回転数センサと、前記圧力センサおよび前記回転数センサと電気的に接続された制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記圧力センサで計測される前記液圧ポンプの吐出圧力が第1閾値よりも大きく、かつ、前記回転数センサで計測される前記液圧モータの回転数が第2閾値よりも小さいときに、前記掘削軸に捩れが発生したと判定する、掘削用液圧システムを提供する。
【0009】
また、本開示は、別の側面から、テレスコピック構造の掘削軸を有する掘削機に搭載される掘削用液圧システムであって、前記掘削軸を回転させる液圧モータと、一対の給排ラインにより前記液圧モータと接続された方向切換弁と、吐出ラインにより前記方向切換弁と接続された液圧ポンプと、前記吐出ラインから分岐するリリーフラインに設けられたリリーフ弁と、前記液圧モータが掘削方向に回転するときの前記液圧モータの入口圧力を計測する圧力センサと、前記液圧モータの回転数を計測する回転数センサと、前記圧力センサおよび前記回転数センサと電気的に接続された制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記圧力センサで計測される前記液圧モータの入口圧力が第1閾値よりも大きく、かつ、前記回転数センサで計測される前記液圧モータの回転数が第2閾値よりも小さいときに、前記掘削軸に捩れが発生したと判定する、掘削用液圧システムを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、掘削軸の捩れを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】第1実施形態に係る掘削用液圧システムの概略構成図である。
図2図2Aは掘削機の側面図、図2Bは掘削ユニットの拡大図である。
図3】第1実施形態における制御装置が行う制御のフローチャートである。
図4】第2実施形態に係る掘削用液圧システムの概略構成図である。
図5】第2実施形態における制御装置が行う制御のフローチャートである。
図6】方向切換弁の変形例を示す図である。
図7】方向切換弁の別の変形例を示す図である。
図8】方向切換弁のさらに別の変形例を示す図である。
図9】変形例の掘削用液圧システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
図1に、第1実施形態に係る掘削用液圧システム1Aを示す。この液圧システム1Aは、図2Aに示すような掘削機10に搭載される。
【0013】
掘削機10は、鉛直方向に延びるフレーム11を含み、このフレーム11に掘削ユニット15が取り付けられている。掘削ユニット15は、フレーム11と結合されるベース16と、ベース16を貫通して鉛直方向に延びる掘削軸17と、掘削軸17の下端に設けられたバケット18を含む。掘削軸17は、ベース16に回転可能かつ鉛直方向に摺動可能に支持されている。
【0014】
また、ベース16には減速機19が取り付けられ、この減速機19に液圧モータ4が取り付けられている。液圧モータ4は、減速機19を介して掘削軸17を掘削方向または反掘削方向に回転させる。
【0015】
図2Bに示すように、掘削軸17は、伸縮可能なテレスコピック構造である。掘削軸17は、掘削機10の巻上ユニット12によりワイヤ13を介して上下動されるとともに伸長または短縮される。より詳しくは、掘削軸17は、直径の異なる複数の管状体を含み、外側から数えてn番目の管状体はn-1番目の管状体内に少なくとも部分的に嵌合する。管状体の数は図例では3つであるが、特に限定されるものではない。
【0016】
図1に戻って、液圧システム1Aは、上述した液圧モータ4と、この液圧モータ4へ方向切換弁3を介して作動液を供給する液圧ポンプ2を含む。作動液は、典型的には作動油である。
【0017】
より詳しくは、液圧ポンプ2は、吸入ライン21によりタンク20と接続されるとともに、吐出ライン22により方向切換弁3と接続されている。方向切換弁3は、タンクライン25によりタンク20と接続されている。
【0018】
吐出ライン22からはリリーフライン23が分岐しており、このリリーフライン23はタンク20へつながっている。リリーフライン23には、リリーフ弁24が設けられている。
【0019】
液圧モータ4は、掘削方向に回転するときに入口ポートとなる第1ポート4aと、反掘削方向に回転するときに入口ポートとなる第2ポート4bを有する。つまり、液圧モータ4が掘削方向に回転するとき第2ポート4bが出口ポートとなり、液圧モータ4が反掘削方向に回転するときに第1ポート4aが出口ポートとなる。
【0020】
液圧モータ4の第1ポート4aおよび第2ポート4bは、一対の給排ライン41,42により方向切換弁3と接続されている。給排ライン41が第1ポート4aにつながり、給排ライン42が第2ポート4bにつながっている。方向切換弁3は、図1の中間位置である中立位置と、図1の右側位置である掘削位置と、図1の左側位置である逆回転位置との間で切り換えられる。
【0021】
中立位置では、吐出ライン22、タンクライン25および給排ライン41,42がブロックされる。掘削位置では、吐出ライン22が給排ライン41と連通し、給排ライン42がタンクライン25と連通する。逆回転位置では、吐出ライン22が給排ライン42と連通し、給排ライン41がタンクライン25と連通する。
【0022】
本実施形態では、方向切換弁3がパイロット圧により駆動される。具体的に、方向切換弁3は、一対のパイロットポート31,32を含む。ただし、方向切換弁3は、電気信号により駆動されてもよい。
【0023】
さらに、液圧システム1Aは、方向切換弁3を中立位置から掘削位置へ、または中立位置から逆回転位置へ切り換えるための操作装置5を含む。操作装置5は、掘削機10の運転室内に配置される。操作装置5は、掘削方向または反掘削方向に傾倒される操作レバーを含む。
【0024】
本実施形態では、操作装置5が、操作レバーの傾倒角に応じたパイロット圧を出力するパイロット操作弁である。このため、方向切換弁3のパイロットポート31,32はパイロットライン51,52により操作装置5と接続されている。
【0025】
ただし、操作装置5は、操作レバーの傾倒角に応じた電気信号を出力する電気ジョイスティックであってもよい。この場合、方向切換弁3のパイロットポート31,32は一対の電磁比例弁とそれぞれ接続される。
【0026】
さらに、液圧システム1Aは、制御装置6を備える。制御装置6は、各種のデータを記憶可能なメモリ61を有する。また、制御装置6は、表示器91および警報器92と電気的に接続されている。
【0027】
制御装置6に関し、本明細書で開示する要素の機能は、開示された機能を実行するよう構成またはプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、および/または、それらの組み合わせ、を含む回路または処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路または回路と見なされる。本開示において、回路、ユニット、または手段は、列挙された機能を実行するハードウエアであるか、または、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウエアである。ハードウエアは、本明細書に開示されているハードウエアであってもよいし、あるいは、列挙された機能を実行するようにプログラムまたは構成されているその他の既知のハードウエアであってもよい。ハードウエアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、手段、またはユニットはハードウエアとソフトウエアの組み合わせであり、ソフトウエアはハードウエアおよび/またはプロセッサの構成に使用される。
【0028】
制御装置6は、圧力センサ81、回転数センサ71~73とも電気的に接続されている。例えば、回転数センサ71~73のそれぞれは、磁気式速度センサである。
【0029】
圧力センサ81は、吐出ライン22に設けられており、液圧ポンプ2の吐出圧力Pdを計測する。回転数センサ71は、図2Aに示すように巻上ユニット12に設けられており、巻上ユニット12によるワイヤ13の巻上速度Vを計測する。同じく図2Aに示すように、回転数センサ72は、フレーム11の上端に取り付けられたシーブに設けられており、シーブの回転数から掘削深さDpを計測する。回転数センサ73は、図2Bに示すように液圧モータ4に設けられており、液圧モータ4の回転数Nを計測する。
【0030】
ただし、回転数センサ71,72のどちらか一方は省略可能である。例えば、回転数センサ72が省略され、巻上速度Vを積分することによって掘削深さDpが算出されてもよい。あるいは、回転数センサ71,72の双方が省略され、液圧システム1Aの制御装置9が掘削機10の制御装置からワイヤ13の巻上速度Vおよび掘削深さDpを入手してもよい。
【0031】
次に、図3を参照して、制御装置6が行う制御について説明する。
【0032】
まず、制御装置6は、ステップS1において、圧力センサ81で計測される液圧ポンプ2の吐出圧力Pdを第1閾値αと比較し、液圧ポンプ2の吐出圧力Pdが第1閾値αよりも大きいか否かを判定する。第1閾値αは、リリーフ弁24の設定圧、すなわちリリーフ圧よりも僅かに小さい値である。例えば、リリーフ圧が34MPaの場合、第1閾値αは32MPaである。
【0033】
液圧ポンプ2の吐出圧力Pdが第1閾値αよりも小さい場合、制御装置6は液圧ポンプ2の吐出圧力Pdと第1閾値αとの比較を繰り返す。逆に、液圧ポンプ2の吐出圧力Pdが第1閾値αよりも大きい場合、制御装置6はステップS2に進む。本実施形態では、Pd=αのときはステップS1を繰り返すが、Pd=αのときはステップS2に進んでもよい。
【0034】
ステップS2において、制御装置6は、回転数センサ73で計測される液圧モータ4の回転数Nを第2閾値βと比較し、液圧モータ4の回転数Nが第2閾値βよりも小さいか否かを判定する。第2閾値βは、液圧モータ4が停止しているとみなせるか否かの指標であり、例えば100rpmである。
【0035】
液圧モータ4の回転数Nが第2閾値βよりも大きい場合、制御装置6はステップS1に戻る。逆に、液圧モータ4の回転数Nが第2閾値βよりも小さい場合、制御装置6はステップS3に進む。本実施形態では、N=βのときはステップS1に戻るが、N=βのときはステップS3に進んでもよい。
【0036】
ステップS3において、制御装置6は、回転数センサ72により計測される掘削深さDpを第3閾値γと比較し、掘削深さDpが第3閾値γよりも大きいか否かを判定する。第3閾値γは、例えば10mである。掘削深さDpが第3閾値γよりも小さい場合、制御装置6はステップS1に戻る。逆に、掘削深さDpが第3閾値γよりも大きい場合、制御装置6はステップS4に進む。本実施形態では、Dp=γのときはステップS1に戻るが、Dp=γのときはステップS4に進んでもよい。
【0037】
ステップS4において、制御装置6は、回転数センサ71により計測されるワイヤ13の巻上速度Vを第4閾値εと比較し、ワイヤ13の巻上速度Vが第4閾値εよりも小さいか否かを判定する。第4閾値εは、例えば0.5m/sである。ワイヤ13の巻上速度Vが第4閾値εよりも大きい場合、制御装置6はステップS1に戻る。逆に、ワイヤ13の巻上速度Vが第4閾値εよりも小さい場合、制御装置6はステップS5に進む。本実施形態では、V=εのときはステップS1に戻るが、V=εのときはステップS5に進んでもよい。なお、ステップS3でYESとなり、かつ、ステップS4でYESとなることが特定条件を満たすことである。
【0038】
ステップS5において、制御装置6は、掘削軸17に捩れが発生したと判定する。一方、ステップS5に進まない間、例えば上記の特定条件を満たさない間は、制御装置6は、掘削軸17に捩れが発生していないと判定する。さらに、制御装置6は、ステップS5において、具体的なアクションを行う。
【0039】
本実施形態では、制御装置6が行うアクションが、表示器91に異常が発生したことを表示させるアクションと、警報器92に警報を発生させるアクションを含む。ただし、制御装置6は、表示器91に異常が発生したことを表示させるアクションと警報器92に警報を発生させるアクションのどちらか一方を行ってもよい。
【0040】
なお、制御装置6は、表示器91に異常が発生したことを表示させるとともに、表示器91に警告を表示させてもよい。警告は、例えば、操作レバーを直ちに反掘削方向に傾倒してはならないという警告であってもよいし、操作レバーを中立状態とする時間をある程度確保すべきという警告であってもよい。
【0041】
また、制御装置6は、掘削軸17に捩れが発生したと判定したときに、掘削軸17に捩れが発生したときの日時、液圧ポンプ2の吐出圧力Pd、液圧モータ4の回転数N、掘削深さDpおよびワイヤ13の巻上速度Vをメモリ61に保存する。このため、もし掘削機10に異常が発生した場合に、その異常の原因を追究することができる。
【0042】
以上説明した液圧システム1Aでは、次のような効果を得ることができる。バケット18が硬い岩盤などの障害物に当たって掘削負荷が増大すると、掘削軸17が捩られながら液圧モータ4が回転することで液圧ポンプ2の吐出圧力Pdがリリーフ弁24の設定圧まで上昇し、これによりリリーフ弁24が開いて液圧モータ4が停止する。従って、液圧ポンプ2の吐出圧力Pdおよび液圧モータ4の回転数Nに基づいて掘削軸17の捩れを検出することができる。
【0043】
しかも、本実施形態では、特定条件を満たさないときは掘削軸17に捩れが発生していないと判定されるので、掘削軸17に捩れが発生したと判定されるケースから、掘削深さDpが第3閾値γよりも小さい状況、例えばバケット18を上昇させた状態で掘削軸17を逆回転させる土砂落とし作業や、ワイヤ13の巻上速度Vが第4閾値εよりも大きい状況である巻き上げ時を除外することができる。
【0044】
(第2実施形態)
図4に、第2実施形態に係る掘削用液圧システム1Bを示す。なお、本実施形態において、第1実施形態と同一構成要素には同一符号を付し、重複した説明は省略する。
【0045】
本実施形態では、液圧モータ4が掘削方向に回転するときの液圧モータ4の入口圧力Piを計測する圧力センサ82が採用されている。圧力センサ82は、液圧モータ4の第1ポート4aとつながる給排ライン41に設けられており、制御装置6と電気的に接続されている。また、本実施形態では、回転数センサ71,72は不要である。
【0046】
次に、図5を参照して、制御装置6が行う制御について説明する。
【0047】
まず、制御装置6は、ステップS11において、圧力センサ82で計測される液圧モータ4の入口圧力Piを第1閾値ζと比較し、液圧モータ4の入口圧力Piが第1閾値ζよりも大きいか否かを判定する。第1閾値ζは、リリーフ弁24の設定圧、すなわちリリーフ圧よりも僅かに小さい値である。例えば、リリーフ圧が34MPaの場合、第1閾値ζは32MPaである。
【0048】
液圧モータ4の入口圧力Piが第1閾値ζよりも小さい場合、制御装置6は液圧モータ4の入口圧力Piと第1閾値ζとの比較を繰り返す。逆に、液圧モータ4の入口圧力Piが第1閾値ζよりも大きい場合、制御装置6はステップS12に進む。本実施形態では、Pi=ζのときはステップS11を繰り返すが、Pi=ζのときはステップS2に進んでもよい。
【0049】
ステップS12は、第1実施形態で説明したステップS2と同じである。つまり、制御装置6は、液圧モータ4の回転数Nが第2閾値βよりも大きい場合にステップS11に戻り、液圧モータ4の回転数Nが第2閾値βよりも小さい場合にステップS13に進む。本実施形態では、N=βのときはステップS11に戻るが、N=βのときはステップS13に進んでもよい。
【0050】
ステップS13において、制御装置6は、掘削軸17に捩れが発生したと判定する。一方、ステップS13に進まない間は、制御装置6は、掘削軸17に捩れが発生していないと判定する。さらに、制御装置6は、ステップS13において、具体的なアクションを行う。このアクションは、第1実施形態で説明したアクションと同じである。
【0051】
また、制御装置6は、掘削軸17に捩れが発生したと判定したときに、掘削軸17に捩れが発生したときの日時、液圧モータ4の入口圧力Piおよび液圧モータ4の回転数Nをメモリ61に保存する。このため、もし掘削機10に異常が発生した場合に、その異常の原因を追究することができる。
【0052】
本実施形態の液圧システム1Bでは、次のような効果を得ることができる。バケット18が硬い岩盤などの障害物に当たって掘削負荷が増大すると、掘削軸17が捩られながら液圧モータ4が回転することで液圧モータ4の入口圧力Piがリリーフ弁24の設定圧まで上昇し、これによりリリーフ弁24が開いて液圧モータ4が停止する。従って、液圧モータ4の入口圧力Piおよび液圧モータ4の回転数Nに基づいて掘削軸17の捩れを検出することができる。
【0053】
(その他の実施形態)
本開示は上述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0054】
例えば、方向切換弁3は、必ずしも中立位置で吐出ライン22、タンクライン25および給排ライン41,42がブロックする必要はない。例えば、図6に示すように、方向切換弁3は、中立位置で給排ライン41,42を絞りを介してタンクライン25と連通させてもよい。このような構成であれば、掘削負荷が増大して液圧モータ4が停止した後に方向切換弁3が中立位置に戻されたときに、掘削軸17の捩れが徐々に解消されるように液圧モータ4がゆっくりと逆回転することが可能となる。
【0055】
あるいは、パイロットライン51,52が図7に示すように構成され、方向切換弁3がゆっくりと中立位置に戻るようにしてもよい。具体的には、パイロットライン51,52のそれぞれに絞り53が設けられ、この絞り53をバイパスするバイパスライン54がパイロットライン51または52に接続される。バイパスライン54には、パイロットポート31または32へ向かう流れは許容するがその逆の流れは禁止する逆止弁55が設けられる。
【0056】
また、制御装置6は、掘削軸17に捩れが発生したと判定したときに、表示器91に異常が発生したことを表示させるアクションと警報器92に警報を発生させるアクションの一方または双方を行う代わりに、方向切換弁3が中立位置に切り換えられた後に方向切換弁3を中立位置に所定時間維持するアクションを行ってもよい。この所定時間は、例えば、第1実施形態では液圧ポンプ2の吐出圧力が所定値以下となるまでであり、第2実施形態では液圧モータ4の入口圧力が所定値以下となるまでである。なお、方向切換弁3を中立位置に所定時間維持するアクションは、表示器91に異常が発生したことを表示させるアクションと警報器92に警報を発生させるアクションの一方または双方と共に行われてもよい。
【0057】
例えば、図8に示すように、方向切換弁3を中立位置から逆回転位置へ切り換えるためのパイロットポート32につながるパイロットライン52に電磁開閉弁56を設け、制御装置6が、掘削軸17に捩れが発生したと判定したときに、所定時間だけ電磁開閉弁56を閉じてもよい。
【0058】
あるいは、図9に示す変形例の掘削用液圧システム1Cのように、方向切換弁3が電気信号により駆動される場合、制御装置6は、電気ジョイスティックである操作装置5の操作レバーが掘削方向から反掘削方向に傾倒されたとき、方向切換弁3を中立位置に所定時間維持した後に逆回転位置に切り換えてもよい。
【0059】
なお、表示器91に異常が発生したことを表示させるアクションと警報器92に警報を発生させるアクションのどちらかが行われれば、作業者に対し、掘削負荷が増大して液圧モータ4が停止した直後に液圧モータ4を逆回転させることを思い留まらせることができる。一方、方向切換弁3が中立位置に切り換えられたときに方向切換弁3を中立位置に所定時間維持するアクションが行われれば、方向切換弁3が所定時間中立位置に維持されている間に掘削軸17の捩れを解消することができる。
【0060】
また、制御装置6は、掘削軸17に捩れが発生したと判定された後に、操作装置5の操作レバーが反掘削方向に傾倒されて液圧モータ4が逆回転し、液圧モータ4の回転数Nが閾値を超えたときに、不具合が生じるおそれがあることを表示器91に表示させるとともに、警報器92に警報を発生させてもよい。
【0061】
さらには、液圧モータ4は、複数のピストンおよびシリンダブロックなどで構成される回転ユニットと、この回転ユニットを収容するケーシングを含むため、ケーシング内の圧力を圧力センサで計測し、ケーシング内の圧力が閾値を超えたときに破損が発生したことを表示器91に表示させるとともに、警報器92に警報を発生させてもよい。
【0062】
(まとめ)
本開示は、一つの側面から、テレスコピック構造の掘削軸を有する掘削機に搭載される掘削用液圧システムであって、前記掘削軸を回転させる液圧モータと、一対の給排ラインにより前記液圧モータと接続された方向切換弁と、吐出ラインにより前記方向切換弁と接続された液圧ポンプと、前記吐出ラインから分岐するリリーフラインに設けられたリリーフ弁と、前記液圧ポンプの吐出圧力を計測する圧力センサと、前記液圧モータの回転数を計測する回転数センサと、前記圧力センサおよび前記回転数センサと電気的に接続された制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記圧力センサで計測される前記液圧ポンプの吐出圧力が第1閾値よりも大きく、かつ、前記回転数センサで計測される前記液圧モータの回転数が第2閾値よりも小さいときに、前記掘削軸に捩れが発生したと判定する、掘削用液圧システムを提供する。
【0063】
バケットが硬い岩盤などの障害物に当たって掘削負荷が増大すると、掘削軸が捩られながら液圧モータが回転することで液圧ポンプの吐出圧力がリリーフ弁の設定圧まで上昇し、これによりリリーフ弁が開いて液圧モータが停止する。従って、液圧ポンプの吐出圧力および液圧モータの回転数に基づいて掘削軸の捩れを検出することができる。
【0064】
前記制御装置は、前記圧力センサで計測される前記液圧ポンプの吐出圧力が前記第1閾値よりも大きく、かつ、前記回転数センサで計測される前記液圧モータの回転数が前記第2閾値よりも小さいとき、特定条件を満たす場合に前記掘削軸に捩れが発生したと判定し、前記特定条件は、掘削深さが第3閾値よりも大きく、かつ、前記掘削軸をワイヤを介して上下動させる巻上ユニットによるワイヤの巻上速度が第4閾値よりも小さいことであってもよい。この構成によれば、掘削軸に捩れが発生したと判定されるケースから、掘削深さが第3閾値よりも小さい状況、例えばバケットを上昇させた状態で掘削軸を逆回転させる土砂落とし作業や、ワイヤの巻上速度が第4閾値よりも大きい状況である巻き上げ時を除外することができる。
【0065】
また、本開示は、別の側面から、テレスコピック構造の掘削軸を有する掘削機に搭載される掘削用液圧システムであって、前記掘削軸を回転させる液圧モータと、一対の給排ラインにより前記液圧モータと接続された方向切換弁と、吐出ラインにより前記方向切換弁と接続された液圧ポンプと、前記吐出ラインから分岐するリリーフラインに設けられたリリーフ弁と、前記液圧モータが掘削方向に回転するときの前記液圧モータの入口圧力を計測する圧力センサと、前記液圧モータの回転数を計測する回転数センサと、前記圧力センサおよび前記回転数センサと電気的に接続された制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記圧力センサで計測される前記液圧モータの入口圧力が第1閾値よりも大きく、かつ、前記回転数センサで計測される前記液圧モータの回転数が第2閾値よりも小さいときに、前記掘削軸に捩れが発生したと判定する、掘削用液圧システムを提供する。
【0066】
バケットが硬い岩盤などの障害物に当たって掘削負荷が増大すると、掘削軸が捩られながら液圧モータが回転することで液圧モータの入口圧力がリリーフ弁の設定圧まで上昇し、これによりリリーフ弁が開いて液圧モータが停止する。従って、液圧モータの入口圧力および液圧モータの回転数に基づいて掘削軸の捩れを検出することができる。
【0067】
前記制御装置は、前記掘削軸に捩れが発生したと判定したとき、表示器に異常が発生したことを表示させることと、警報器に警報を発生させることのうちの少なくとも一方を行ってもよい。この構成によれば、作業者に対し、掘削負荷が増大して液圧モータが停止した直後に液圧モータを逆回転させることを思い留まらせることができる。
【0068】
前記制御装置は、前記掘削軸に捩れが発生したと判定したとき、前記方向切換弁が中立位置に切り換えられた後に前記方向切換弁を中立位置に所定時間維持してもよい。この構成によれば、方向切換弁が所定時間中立位置に維持されている間に掘削軸の捩れを解消することができる。
【0069】
前記制御装置はメモリを含み、前記制御装置は、前記掘削軸に捩れが発生したと判定したときに、前記掘削軸に捩れが発生したときの日時、前記液圧ポンプの吐出圧力または前記液圧モータの入口圧力、および前記液圧モータの回転数を前記メモリに保存してもよい。この構成によれば、もし掘削機に異常が発生した場合に、その異常の原因を追究することができる。
【符号の説明】
【0070】
1A,1B 掘削用液圧システム
10 掘削機
12 巻上ユニット
17 掘削軸
2 液圧ポンプ
22 吐出ライン
23 リリーフライン
24 リリーフ弁
3 方向切換弁
4 液圧モータ
41,42 給排ライン
6 制御装置
61 メモリ
73 回転数センサ
81,82 圧力センサ
91 表示器
92 警報器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9