(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127779
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】混合物の回折パターン分析装置、方法、プログラム及び情報記憶媒体
(51)【国際特許分類】
G01N 23/207 20180101AFI20230907BHJP
G01N 23/2055 20180101ALI20230907BHJP
【FI】
G01N23/207
G01N23/2055 320
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031672
(22)【出願日】2022-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000250339
【氏名又は名称】株式会社リガク
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】虎谷 秀穂
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA18
2G001CA01
2G001FA03
2G001FA17
2G001KA01
2G001MA04
(57)【要約】
【課題】一部の成分についてだけ回折パターンが既知である場合にも、それらの成分の回折パターンの強度比を算出することができる混合物の回折パターン分析装置を提供する。
【解決手段】混合物の回折パターン分析装置は、標的成分を示すとともに形状パラメータにより形状変更が可能な既知の標的パターン係る項と、残差群を示す未知パターンに係る項と、を含むフィッティングパターンを用いる。前記形状パラメータに所与の値を付与し、且つ前記未知パターンを初期パターンに設定した状態で、前記フィッティングパターンを観測パターンにフィッティングさせる。その後、前記未知パターンを変更することにより、前記フィッティングパターンを前記観測パターンにフィッティングさせる。複数の前記形状パラメータを用いて上記フィッティングを実行し、いずれかの形状パラメータに係る計算結果を選択する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線回折の観測パターンを取得する観測パターン取得手段と、
標的成分を示すとともに形状パラメータにより形状変更が可能な既知の標的パターンに第1強度比を乗じた項と、1以上の残差成分からなる残差群を示す未知パターンに第2強度比を乗じた項と、を含み、前記第1強度比、前記第2強度比及び前記未知パターンがフィッティングパラメータであるフィッティングパターンを用い、前記形状パラメータに所与の値を付与し、且つ前記未知パターンを初期パターンに設定した状態で、前記第1強度比及び前記第2強度比を変更することにより、前記フィッティングパターンを前記観測パターンにフィッティングさせる第1フィッティング手段と、
前記第1フィッティング手段によるフィッティングの後、前記第1強度比及び前記第2強度比の変更を制限しつつ、前記未知パターンを変更することにより、前記フィッティングパターンを前記観測パターンにフィッティングさせる第2フィッティング手段と、
複数の前記形状パラメータを生成するパラメータ生成手段と、
複数の前記形状パラメータのそれぞれを用いて、前記第1フィッティング手段及び前記第2フィッティング手段を動作させる制御手段と、
前記未知パターンに基づいて、複数の前記形状パラメータのいずれかに係る前記第1強度比を選択する選択手段と、
を含む、混合物の回折パターン分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の混合物の回折パターン分析装置において、
前記形状パラメータは、前記標的成分の格子定数を含む、混合物の回折パターン分析装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の混合物の回折パターン分析装置において、
前記形状パラメータは、前記既知の標的パターンに含まれるピークの幅に関する情報を含む、混合物の回折パターン分析装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の混合物の回折パターン分析装置において、
前記計算結果選択手段は、前記未知パターンを示す値に対して正値に変換する関数を適用するとともに、該関数の値の総和を算出し、該総和に基づいて、複数の前記形状パラメータのいずれかに係る前記第1強度比を選択する、混合物の回折パターン分析装置。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載の混合物の回折パターン分析装置において、
前記計算結果選択手段は、前記未知パターンを示す値の変化量に対して正値に変換する関数を適用するとともに、該関数の値の総和を算出し、該総和に基づいて、複数の前記形状パラメータのいずれかに係る前記第1強度比を選択する、混合物の回折パターン分析装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の回折パターン分析装置において、
複数の前記形状パラメータのそれぞれを用いて、前記第1フィッティング手段と前記第2フィッティング手段を複数回ずつ動作させることを特徴とする混合物の回折パターン分析装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の回折パターン分析装置において、
前記フィッティングパターンは、さらにフィッティングパラメータである仮パターンの項を含み、
前記第1フィッティング手段は、前記第1強度比及び前記第2強度比に加えて、前記仮パターンを変更することにより、前記フィッティングパターンを前記観測パターンにフィッティングさせ、
前記第2フィッティング手段は、前記仮パターンの項の少なくとも一部を前記残差群に係る項が吸収するように前記未知パターンを変更する、
ことを特徴とする混合物の回折パターン分析装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれかに記載の回折パターン分析装置において、
前記第1強度比及び前記第2強度比に基づいて前記標的成分の定量分析を行うことを特徴とする混合物の回折パターン分析装置。
【請求項9】
X線回折の観測パターンを取得する観測パターン取得ステップと、
標的成分を示すとともに形状パラメータにより形状変更が可能な既知の標的パターンに第1強度比を乗じた項と、1以上の残差成分からなる残差群を示す未知パターンに第2強度比を乗じた項と、を含み、前記第1強度比、前記第2強度比及び前記未知パターンがフィッティングパラメータであるフィッティングパターンを用いる第1フィッティングステップであって、前記形状パラメータに所与の値を付与し、且つ前記未知パターンを初期パターンに設定した状態で、前記第1強度比及び前記第2強度比を変更することにより、前記フィッティングパターンを前記観測パターンにフィッティングさせる第1フィッティングステップと、
前記第1フィッティングステップによるフィッティングの後、前記第1強度比及び前記第2強度比の変更を制限しつつ、前記未知パターンを変更することにより、前記フィッティングパターンを前記観測パターンにフィッティングさせる第2フィッティングステップと、
前記形状パラメータを複数生成するパラメータ生成ステップと、を含み、
複数の前記形状パラメータのそれぞれを用いて、前記第1フィッティングステップ及び前記第2フィッティングステップを実行させ、
前記未知パターンに基づいて、複数の前記形状パラメータのいずれかに係る前記第1強度比を選択する、
混合物の回折パターン分析方法。
【請求項10】
X線回折の観測パターンを取得する観測パターン取得手段、
標的成分を示すとともに形状パラメータにより形状変更が可能な既知の標的パターンに第1強度比を乗じた項と、1以上の残差成分からなる残差群を示す未知パターンに第2強度比を乗じた項と、を含み、前記第1強度比、前記第2強度比及び前記未知パターンがフィッティングパラメータであるフィッティングパターンを用いる第1フィッティング手段であって、前記形状パラメータに所与の値を付与し、且つ前記未知パターンを初期パターンに設定した状態で、前記第1強度比及び前記第2強度比を変更することにより、前記フィッティングパターンを前記観測パターンにフィッティングさせる第1フィッティング手段、
前記第1フィッティング手段によるフィッティングの後、前記第1強度比及び前記第2強度比の変更を制限しつつ、前記未知パターンを変更することにより、前記フィッティングパターンを前記観測パターンにフィッティングさせる第2フィッティング手段と、
前記形状パラメータを複数生成するパラメータ生成手段、
複数の前記形状パラメータのそれぞれを用いて、前記第1フィッティング手段及び前記第2フィッティング手段を動作させる制御手段、及び
前記未知パターンに基づいて、複数の前記形状パラメータのいずれかに係る前記第1強度比を選択する選択手段
としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【請求項11】
請求項10に記載のプログラムを格納したコンピュータ可読情報記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は混合物の回折パターン分析装置、方法、プログラム及び情報記憶媒体に関し、X線回折の観測パターンに含まれる1又は複数の既知回折パターンの強度比を算出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
X線回折法を用いて混合物の定量分析を行うことができる。実際に観測される混合物の回折パターンには、各成分に由来する既知回折パターンが重なって含まれている。定量分析を実施する場合には、実際に観測される回折パターンにおける、各成分に由来する既知回折パターンの強度比を計算する。このような強度比が分かれば、例えば下記特許文献1~3に記載された方法により、各成分の重量分率を算出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】再表2017/149913号公報
【特許文献2】再表2019/031019号公報
【特許文献3】特開2019-184254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の方法によれば、観測される回折パターンを複数の既知回折パターンに分解する際、すべての可能性のある成分について既知回折パターンを用意する必要がある。しかしながら、すべての成分について既知回折パターンを用意するのは、実際には困難な場合が多い。また、既知回折パターンの強度比が正確に分かれば、その反射として未知成分の回折パターンが分かることになる。これにより、その成分の構造解析等も実施することができるようになる。
【0005】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、一部の成分についてだけ回折パターンが既知である場合にも、それらの成分の回折パターンの強度比を精度よく算出することができる混合物の回折パターン分析方法、装置、プログラム及びコンピュータ可読情報記憶媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、混合物の回折パターン分析装置は、X線回折の観測パターンを取得する観測パターン取得手段と、標的成分を示すとともに形状パラメータにより形状変更が可能な既知の標的パターンに第1強度比を乗じた項と、1以上の残差成分からなる残差群を示す未知パターンに第2強度比を乗じた項と、を含み、前記第1強度比、前記第2強度比及び前記未知パターンがフィッティングパラメータであるフィッティングパターンを用い、前記形状パラメータに所与の値を付与し、且つ前記未知パターンを初期パターンに設定した状態で、前記第1強度比及び前記第2強度比を変更することにより、前記フィッティングパターンを前記観測パターンにフィッティングさせる第1フィッティング手段と、前記第1フィッティング手段によるフィッティングの後、前記第1強度比及び前記第2強度比の変更を制限しつつ、前記未知パターンを変更することにより、前記フィッティングパターンを前記観測パターンにフィッティングさせる第2フィッティング手段と、複数の前記形状パラメータを生成するパラメータ生成手段と、複数の前記形状パラメータのそれぞれを用いて、前記第1フィッティング手段及び前記第2フィッティング手段を動作させる制御手段と、前記未知パターンに基づいて、複数の前記形状パラメータのうちいずれかに係る前記第1強度比を選択する選択手段と、を含む。
【0007】
ここで、前記形状パラメータは、前記標的成分の格子定数を含んでよい。また、前記形状パラメータは、前記既知の標的パターンに含まれるピークの幅に関する情報を含んでよい。
【0008】
また、前記計算結果選択手段は、前記未知パターンを示す値に対して正値に変換する関数を適用してよい。また該関数の値の総和を算出してよい。そして、該総和に基づいて、複数の前記形状パラメータのいずれかに係る前記第1強度比を選択してよい。
【0009】
また、前記計算結果選択手段は、前記未知パターンを示す値の変化量に対して正値に変換する関数を適用してよい。また該関数の値の総和を算出してよい。そして、該総和に基づいて、複数の前記形状パラメータのいずれかに係る前記第1強度比を選択してよい。
【0010】
また、複数の前記形状パラメータのそれぞれを用いて、前記第1フィッティング手段と前記第2フィッティング手段を複数回ずつ動作させてよい。
【0011】
また、前記フィッティングパターンは、さらにフィッティングパラメータである仮パターンの項を含んでよい。前記第1フィッティング手段は、前記第1強度比及び前記第2強度比に加えて、前記仮パターンを変更することにより、前記フィッティングパターンを前記観測パターンにフィッティングさせてよい。前記第2フィッティング手段は、前記仮パターンの項の少なくとも一部を前記残差群に係る項が吸収するように前記未知パターンを変更してよい。
【0012】
また、前記第1強度比及び前記第2強度比に基づいて前記標的成分の定量分析を行ってよい。
【0013】
また、本発明に係る混合物の回折パターン分析方法は、X線回折の観測パターンを取得する観測パターン取得ステップと、標的成分を示すとともに形状パラメータにより形状変更が可能な既知の標的パターンに第1強度比を乗じた項と、1以上の残差成分からなる残差群を示す未知パターンに第2強度比を乗じた項と、を含み、前記第1強度比、前記第2強度比及び前記未知パターンがフィッティングパラメータであるフィッティングパターンを用いる第1フィッティングステップであって、前記形状パラメータに所与の値を付与し、且つ前記未知パターンを初期パターンに設定した状態で、前記第1強度比及び前記第2強度比を変更することにより、前記フィッティングパターンを前記観測パターンにフィッティングさせる第1フィッティングステップと、前記第1フィッティングステップによるフィッティングの後、前記第1強度比及び前記第2強度比の変更を制限しつつ、前記未知パターンを変更することにより、前記フィッティングパターンを前記観測パターンにフィッティングさせる第2フィッティングステップと、前記形状パラメータを複数生成するパラメータ生成ステップと、を含み、複数の前記形状パラメータのそれぞれを用いて、前記第1フィッティングステップ及び前記第2フィッティングステップを実行させ、前記未知パターンに基づいて、複数の前記形状パラメータのいずれかに係る前記第1強度比を選択する。
【0014】
また、本発明に係るプログラムは、X線回折の観測パターンを取得する観測パターン取得手段、標的成分を示すとともに形状パラメータにより形状変更が可能な既知の標的パターンに第1強度比を乗じた項と、1以上の残差成分からなる残差群を示す未知パターンに第2強度比を乗じた項と、を含み、前記第1強度比、前記第2強度比及び前記未知パターンがフィッティングパラメータであるフィッティングパターンを用いる第1フィッティング手段であって、前記形状パラメータに所与の値を付与し、且つ前記未知パターンを初期パターンに設定した状態で、前記第1強度比及び前記第2強度比を変更することにより、前記フィッティングパターンを前記観測パターンにフィッティングさせる第1フィッティング手段、前記第1フィッティング手段によるフィッティングの後、前記第1強度比及び前記第2強度比の変更を制限しつつ、前記未知パターンを変更することにより、前記フィッティングパターンを前記観測パターンにフィッティングさせる第2フィッティング手段と、前記形状パラメータを複数生成するパラメータ生成手段、複数の前記形状パラメータのそれぞれを用いて、前記第1フィッティング手段及び前記第2フィッティング手段を動作させる制御手段、及び前記未知パターンに基づいて、複数の前記形状パラメータのいずれかに係る前記第1強度比を選択する選択手段としてコンピュータを機能させるためのプログラムである。
【0015】
また、本発明に係る情報記憶媒体は、上記プログラムを格納したコンピュータ可読情報記憶媒体である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る分析システムの構成を示す図である。
【
図3】パラメータフィッティングの処理を示すフロー図である。
【
図4】標的成分及び残差群の重量分率の計算手順を示すフロー図である。
【
図5】変数a
R_avの計算手順を示すフロー図である。
【
図6】比較例に係る分析システムによる分析例を示す図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る分析システムによる分析例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について図面に基づき詳細に説明する。
【0018】
(システム構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る分析システムの構成を示す図である。同図に示すように本分析システム10は、X線回折装置12、分析装置14、記憶部16及び表示部18を含んでいる。
【0019】
X線回折装置12は、粉末X線回折測定を行う。具体的にはX線回折装置12は、試料物質に既知波長のX線を入射し、回折X線の強度を測定する。回折角度2θの値ごとのX線強度のデータは観測パターンとしてX線回折装置12から分析装置14に出力される。
【0020】
ここで、本システムにより分析される試料物質は混合物であり、この混合物は1以上の標的成分(標的物質)と残差群を含んでいる。標的成分(Target component)とは、定量測定の対象となる成分である。残差群は1以上の残差成分(標的成分以外の物質)からなる。残差群の一例としては、どのような化学組成の成分がどのくらいの混合比で存在しているかが分かっているものの、その回折パターンについては未知であるものが挙げられる。また、他の例としては、混合物全体の化学組成は蛍光分析などにより分かっているものの、残差群については化学組成や混合比が分かっていないものが挙げられる。
【0021】
分析装置14は、例えば公知のコンピュータシステムにより構成されており、演算装置やメモリを含んでいる。分析装置14にはSSD(Solid State Disk)やHDD(Hard Drive Disk)などのコンピュータ可読情報記憶媒体により構成された記憶部16が接続されている。記憶部16には、本発明の一実施形態に係る分析プログラムが記憶されており、この分析プログラムを分析装置14が実行することにより、本発明の一実施形態に係る分析方法が具現化される。
【0022】
記憶部16にはさらに、各標的成分単体のX線回折パターンが標的パターンとして事前に記憶されている。これらの標的パターンは、コンピュータシステムによって所定のアルゴリズムを実行することにより生成される。標的パターンは、標的成分に関する種々の物性データから計算されるが、形状パラメータの変更によりその形状を調整できるようになっている。ここでは形状パラメータとして、回折線の位置を決める格子定数、及び回折線の幅を決める半値幅が用いられる。
【0023】
記憶部16にはさらに、残差群のX線回折パターンである未知パターンの初期パターンが記憶されている。本実施形態では、この初期パターンを変更しながら、未知パターンを真のパターンに近づけていくものである。初期パターンは、残差群に含まれる成分のうち主なもののX線回折パターンであってもよい。或いは初期パターンは、残差群に含まれる複数成分の各X線回折パターンの線形結合であってもよい。しかし、初期パターンはこれに限らない。後述のように計算過程において初期パターンは適切なパターンに変更されるから、初期パターンとして、残差群に実際には含まれていない物質のX線回折パターンを用いることもできる。
【0024】
記憶部16には、さらに各標的成分の化学組成情報(含有する原子の種類や原子量)や物性データを記憶している。なお、記憶部16は、試料である混合物全体の化学組成情報を記憶してもよい。
【0025】
表示部18は、分析装置14による分析結果を表示する表示デバイスである。例えば表示部18は、標的パターンと未知パターンの強度比や、各標的成分の重量分率や残差群全体の重量分率を表示する。
【0026】
(理論的背景)
ここで、分析装置14により行われるX線回折パターン分析の理論的背景について説明する。
【0027】
試料である混合物がK個の成分を持つとき、k番目の重量分率wkは次式(1)で表される。
【0028】
【0029】
SkはLp補正を施したk番目の成分の強度の総和であり観測強度に相当する。またakは、記憶部16に記憶されているk番目の成分の化学組成情報から計算されるパラメータで、単位重量当たりの散乱強度の逆数に相当する。akは次式(2)で表される。
【0030】
【0031】
ここで、Mkはk番目の成分の化学式量である。nki'はk番目の成分を構成するi番目の原子に含まれている電子の数である。Σはk番目の成分を構成する全ての原子についての和を意味する。
【0032】
次に、標的成分の個数をKT個(k=1~KT)、残差成分をK-KT個(k=KT+1~K)とすると、標的成分であるk番目の成分の重量分率wk(k=1~KT)は次式(3)で表される。
【0033】
【0034】
ここで、SRはLp補正を施した残差群の観測強度の総和である。すなわち、SRは次式(4)を意味する。
【0035】
【0036】
但し本実施形態では、残差成分の観測強度の総和SKT+1、SKT+2、…、SKをそれぞれ算出するのではなく、残差群全体に関するSRを算出する点が特徴の一つである。
【0037】
また、aR_avは、残差群全体の化学組成情報から計算されるものである。aR_avの計算方法については後述する。
【0038】
残差群全体の重量分率wRは次式(5)で表される。
【0039】
【0040】
標的成分についてak(k=1~KT)は既知であり、観測パターンに含まれる標的パターンの強度比からSk(k=1~KT)も算出可能である。後述するように、aR_avも複数の計算方法が存在する。さらに、以下に説明するように残差群に係る未知パターンも計算可能であり、その強度比からSRも計算可能である。このため、式(3)及び(5)により、各標的成分についての重量分率wk、及び残差群についての重量分率wRを求めることができる。
【0041】
(フィッティングパターン)
フィッティングパターンは次式(6)で表される。
【0042】
【0043】
ここでiは各回折角度を示す(i=1~N)。Yi
calcは、フィッティングパターンにおけるi番目の回折角度での強度を示す。Sck
Tは、k番目の標的成分の強度比を示す。Yki
Tは、k番目の標的成分の回折パターンにおけるi番目の回折角度での強度を示す。上述のようにYki
Tは形状パラメータによりパターン形状の調整が可能である。ここでは仮に格子定数及び半値幅の2つの形状パラメータにそれぞれ所与の値が設定されているものとする。ScRは、残差群の強度比を示す。Sci×Yi
Rは、残差群の回折パターンである未知パターンを示す。このうち、Yi
Rは、未知パターンの初期パターンを示す。具体的には、初期パターンにおけるi番目の回折角度での強度を示す。Sciは初期パターンに乗算される、i番目の回折角度での強度に対する補正因子である。Sciはフィッティング開始時にはすべて1に設定される。未知パターンの積分強度を一定にするため、Sciは次式(7)の拘束条件を有する。
【0044】
【0045】
すなわち、式(6)により示されるフィッティングパターンYi
calcは、標的成分を示す標的パターンYki
Tにその強度比を乗じた項と、残差群を示す未知パターンにその強度比を乗じた項とを含む。そして、2つの強度比と未知パターンがフィッティングパラメータである。
【0046】
また、式(6)において、Yi
TMPは、仮パターンにおけるi番目の回折角度での強度を示す。Yi
TMPは、例えば各項の係数をフィッティングパラメータとする多項式やフーリエ級数を採用することができる。なお、Yi
TMPは、未知パターンの収束を良好なものとする役割の暫定的な項であり、計算終了時には零、又は極めて零に近い値となる。
【0047】
(第1フィッティングステップ)
フィッティングの際には、まず未知パターンを初期パターンであるYi
Rにした状態で、第1強度比であるSck
T、第2強度比であるScR、及びYi
TMPを変更し、フィッティングパターンYi
calcを観測パターンYi
obsにフィッティングさせる。具体的には、未知パターンを初期パターンであるYi
Rにするため、Sciをすべて1に設定する。例えば最小二乗法等を用いて、式(6)に示されるYi
calcとX線回折装置12から得られた観測パターンYi
obsとの差が最小となるよう、Sck
T、ScR及びYi
TMPを決定する。
【0048】
(第2フィッティングステップ)
次に、Sck
T、ScR及びYi
TMPを第1フィッティングステップで決定した値に固定した状態で、未知パターンSci×Yi
Rを変更し、フィッティングパターンYi
calcを観測パターンYi
obsにフィッティングさせる。ここでは、Sciを変更することにより、未知パターンSci×Yi
Rを変更する。
【0049】
具体的には、次式(8)によりSciを計算する。
【0050】
【0051】
式(8)に示されるSciは、式(7)の要件を満足しない。そこで次式(9)によりSciを正規化する。
【0052】
【0053】
ここで、Sci
newは正規化後のSciを示し、Sci
oldは式(8)の左辺を示す。また、SA及びSBkは次式(10)及び(11)で表される。
【0054】
【0055】
【0056】
その後、正規化後のSciを用いて、再び第1フィッティングステップを実行する。すなわち、Yi
obsとYi
calcの誤差が収束するまで、第1フィッティングステップ及び第2フィッティングステップを複数回繰り返して実行する。なお、式(8)は、式(6)の右辺第1項及び第2項の和が観測パターンYi
obsに等しいと仮定した場合のSciの値を示している。これにより、仮パターンYi
TMPの値は、残差群に係る第2項により吸収されるようになる。このため計算終了時には、仮パターンYi
TMPの値は零、又は極めて零に近い値に収束する。これによりフィッティングパターンYi
calcは観測パターンYi
obsにフィッティングされる。
【0057】
以上の説明では標的パターンYki
Tの2つの形状パラメータ(格子定数及び半値幅)にそれぞれ所与の値が設定されているものとした。本実施形態では、それらの値を変更しながら、複数回にわたって上述のパラメータフィッティングを実行する。これにより、標的パターンYki
Tの2つの形状パラメータの値を最適化する。後述のように標的パターンYki
Tに誤差が含まれていると、当該誤差に対応する成分(対応誤差成分)が残差群に係る未知パターンにも含まれることになる。これにより、未知パターンが不正確なものとなり、最終的な計算結果であるSck
T、ScRにも誤差が含まれることになる。そこで、標的パターンYki
Tの2つの形状パラメータの値を最適化することで、このような対応誤差成分を最小化することができる。どのような形状パラメータの値が最適であるかは、後述するように未知パターンSci×Yi
Rに基づいて判断することができる。
【0058】
図2は、分析装置14の動作を示すフロー図である。分析装置14により実行される分析プログラムは同図において左側に示される形状パラメータ直接探索プログラム(S201~S204)と、右側に示されるパターンフィッティングプログラム(S101~S103)と、両プログラムの橋渡しを担うプログラム(S301~S303)を含んでいる。
【0059】
分析装置14では、まず標的パターンYki
T、及びその可変パラメータである形状パラメータXpを指定する(S101)。ここでは形状パラメータXpとして標的成分の格子定数及びピークの半値幅の2つが用いられる。形状パラメータXpのセット{Xp}は形状パラメータ直接探索プログラムに通知される(S301)。
【0060】
形状パラメータ直接探索プログラムは、最適化アルゴリズムを実行するものであり、ここでは最適化アルゴリズムの一例として直接探索法であるネルダー-ミード法(シンプレックス法/アメーバ法)が用いられる。形状パラメータ直接探索プログラムは、まず形状パラメータXpのセット{Xp}に対応する2次元シンプレックスの初期状態を設定する。具体的には2次元シンプレックスの3つの頂点のそれぞれに初期座標を設定する(S201)。各初期座標は、それぞれ予め記憶部16に記憶された座標が設定されてもよいし、図示しない入力デバイスにより手入力で設定されてもよい。各頂点に対応する形状パラメータのセット{Xp}はパターンフィッティングプログラムに転送される(S302)。
【0061】
パターンフィッティングプログラムは、形状パラメータの各セット{Xp}に基づいてシンプレックスの各頂点に対応する標的パターンYki
Tを生成する(S102)。この際、記憶部16に事前に記憶されている標的成分に関する各種物性データも参照される。そして、各頂点に対応する標的パターンYki
Tを順に用いて後述のパターンフィッティングを実行する(S103)。
【0062】
すべての頂点についてパターンフィッティングを終えると、各頂点に対応するフィッティングパターンYi
calcのScR、Sci、Yi
Rを形状パラメータ直接探索プログラムに転送する(S303)。
【0063】
形状パラメータ直接探索プログラムは、各頂点に対応するフィッティングパターンYi
calcのScR、Sci、Yi
Rに基づいて、各頂点に対応する評価値Snを計算する(S203)。評価値Snは未知パターンSci×Yi
Rに基づくものである。一例として評価値Snの次式(12)に示されるものであってよい。ここでnは任意の自然数である(1以上の正数であってもよい)。
【0064】
【0065】
式(12)に示される評価値Snは、未知パラメータSci×Yi
Rの各回折角度における値の変化量に対して正値に変換する関数(ここでは絶対値のべき乗)を適用し、該関数の値の総和を演算するものである。これにより、未知パラメータSci×Yi
Rの変化値の総量を評価することができる。未知パラメータSci×Yi
Rに上述の対応誤差成分が含まれる場合には、未知パラメータSci×Yi
Rの変化量の総量が大きくなる傾向にある。そこで、式(12)に示される評価値Snを最小化することで、標的パターンYki
Tに対して適切な形状パターンのセット{Xp}を選択するとともに、未知パラメータSci×Yi
Rに含まれる対応誤差成分を小さくすることができる。なお、ここでは上記関数が適用される値を未知パターンそのものの変化量としたが、未知パターンにScRを乗じた値の変化量に上記関数を適用してもよい。或いはYi
Rが固定値の場合にはSciは未知パターンと同視できるから、Sciの変化量に上記関数を適用してもよい。
【0066】
評価値Snが十分に収束していない場合には、2次元シンプレックスの3頂点の座標を変更し(S202)、再び、S302以降の処理を実行する。座標の変更には、ネルダー-ミード法の4つの操作(鏡像、拡大、収縮、縮小)が用いられる。
【0067】
評価値Snの収束は、例えばシンプレックスの3頂点に対応する3つの評価値Snが所定条件(相互に十分に近い値であるかどうか)を満足するかにより判断してよい。或いは、直前のシンプレックスに対応する評価値Snの最小値と、今回のシンプレックスに対応する評価値Snの最小値が所定条件(十分に近い値であるかどうか)を満足するかにより判断してもよい。
【0068】
形状パラメータ直接探索プログラムは、S204において評価値Snが十分に収束していると判断すれば処理を終了する。このとき、評価値Snの最小値に対応するSck
T、ScRが計算結果として出力される。すなわち、未知パターンSci×Yi
Rに基づいて評価値Snが計算され、該評価値Snに基づいてSck
T、ScRが選択される。
【0069】
なお、評価値Snの変形例として次式(13)を採用してもよい。ここでもnは任意の自然数である(1以上の正数であってもよい)。
【0070】
【0071】
式(13)に示される評価値Snは、未知パターンSci×Yi
Rの各回折角度における値に対して正値に変換する関数(ここでは絶対値のべき乗)を適用し、その関数の値の総和を演算するものである。これにより、未知パターンSci×Yi
Rの振幅の総量を評価することができる。未知パターンSci×Yi
Rに上述の対応誤差成分が含まれる場合には、未知パターンSci×Yi
Rの振幅の総量が大きくなる傾向にある。そこで、式(13)に示される評価値Snを最小化することで、標的パターンYki
Tに対して適切な形状パターンのセット{Xp}を選択するとともに、未知パターンSci×Yi
Rに含まれる対応誤差成分を小さくすることができる。なお、ここでは上記関数が適用される値を未知パターンそのものとしたが、未知パターンにScRを乗じた値に上記関数を適用してもよい。或いはYi
Rが固定値の場合にはSciは未知パターンと同視できるから、Sciに上記関数を適用してもよい。
【0072】
図3は、分析装置14における上述のパターンフィッティング(S103)の処理を示すフロー図である。
【0073】
分析装置14は、まずX線回折装置12から観測パターンY
i
obsを取得する(S1031)。さらに、
図2のS102において生成された複数の標的パターンY
ki
Tのうち1つを読み出す(S1032)。その後、式(10)及び(11)によりS
A及びS
Bkを算出する(S1033)。さらに、初期パターンY
i
Rを記憶部16から読み出す(S1034)。
【0074】
その後、補正パターンSciの値をすべて1に初期化し(S1035)、上述の第1フィッティングステップを実行する(S1036)。すなわち、式(6)に示されるYi
calcと観測パターンYi
obsとの誤差が最小化されるようにして、フィッティングパラメータであるSck
T、ScR及びYi
TMPを決定する。S1036においては、式(6)に示されるYi
calcが取得され、S1032、S1034及びS1035で得られる値が代入される。
【0075】
次に、式(8)により補正パターンSci(正規化前)を算出し(S1037)、式(9)によりそれを正規化する(S1038)。
【0076】
以上のS1035~S1038の処理を、Yi
calcと観測パターンYi
obsとの誤差が収束条件を満足するまで繰り返す(S1039)。この処理をすべての標的パターンYki
Tについて実行し、フィッティングパターンYi
calcの第2項に含まれるScR、Sci、Yi
Rを出力する。
【0077】
以上のようにして形状パラメータを最適化しつつ、フィッティングパターンYi
calcを観測パターンYi
obsに一致させると、その結果を用いて定量分析を行うことができる。また、未知パターンSci×Yi
Rを用い、リートベルト法等により未知成分の構造解析を実施することができる。
【0078】
定量分析を実施する場合、Sck
T及びScRを用いてSk及びSRの値を算出する。例えば、Yki
TとYi
Rとが予め規格化されていれば、SkはSck
Tと等しく、SRはScRと等しい。そして、それらの値を式(3)に代入し、重量分率wkを算出する。また重量分率wkの値を式(5)に代入し、残差群に係る重量分率wRを算出する。
【0079】
(aR_avの算出方法(1))
ここで、aR_avの算出方法について説明する。
【0080】
残差群に対してどのような化学組成の成分がどれくらいの混合比で存在しているか分かっている場合、それらの情報から直接aR_avを求めることができる。
【0081】
すなわち、残差群が物質A(WAg)及び物質B(WBg)からなるとき、残差群は次式(14)に示される散乱強度を与える。
【0082】
【0083】
この散乱強度を残差群の総重量で割れば、単位重量当たりの散乱強度、即ちaR_avが求まる。すなわち、aR_avは次式(15)で与えられる。
【0084】
【0085】
式(15)をK-T個の成分から成る残差群に一般化し、重量分率wkを用いてaR_avを表すと、次式(16)のようになる。
【0086】
【0087】
ここで、ak'については化学組成情報から式(2)を用いて算出することができる。したがって、残差群にどのような化学組成の成分がどのくらいの混合比で存在しているかが分かっている場合には、同式(16)によりaR_avを算出することができる。
【0088】
(aR_avの算出方法(2))
次に、混合物全体(バッチ組成)の化学組成情報が分かっているが、残差群に関して化学組成情報が分かっていない場合について説明する。バッチ組成の化学組成情報は、例えばバッチ組成に対して蛍光分析等を適用することで求めることができる。或いは、揮発性成分がないと仮定できる場合には、混合物の合成に用いた原料の化学組成情報をそのまま用いることができる。
【0089】
このような場合、バッチ組成の化学組成情報を式(2)に代入し、混合物試料全体に対するakを算出する。この値をaBと表記する。
【0090】
式(16)と同様に、バッチ組成のaBは次式(17)で表される。
【0091】
【0092】
式(17)を変形し、残差群に係るaR_avは次式(18)により表される。
【0093】
【0094】
同式(18)において、aB及びak'は既知であるが、重量分率wR及びwk'は未知である。そこで、例えばaR_avの初期値をaBと仮定して、式(3)(5)より重量分率wR及びwk'を計算し、これを再び式(18)に代入し、aR_avを再度算出する。これを繰り返すことにより、真値に近いaR_avを計算することができる。
【0095】
図4は、標的成分の重量分率w
k、及び残差群の重量分率w
Rを計算する処理を示すフロー図である。同図に示すように、分析装置14は標的成分の化学組成情報を記憶部16から読み出し、式(2)によりa
kを計算する(S401)。さらに、分析装置14は残差群に係るa
R_avを算出する(S402)。例えば、残差群にどのような化学組成の成分がどれくらいの混合比で存在しているか分かっている場合、式(16)によりa
R_avを算出する。
【0096】
その後、式(3)により標的成分の重量分率wkを算出する(S403)。さらに、式(5)により残差群の重量分率wRを算出する(S404)。そして、重量分率wk及びwRを表示部18に表示させる(S405)。
【0097】
図5は、変数a
R_avの計算手順を示すフロー図である。同図に示す処理は、
図4に示されるS402の処理の一例である。分析装置14は、記憶部16からバッチ組成の化学組成情報を読み出し、バッチ組成に係るa
B
-1を式(17)により計算する(S4021)。次に、a
R_av
-1の初期値としてa
B
-1を設定し(S4022)、式(3)及び式(5)により重量分率w
k及びw
Rを計算する(S4023)。それらの値を式(18)に代入し、a
R_av
-1を計算する(S4024)。a
R_av
-1が収束条件を満足するまでS4023及びS4024の処理を繰り返し、収束条件を満足すればa
R_av
-1を出力する(S4026)。この値は、S403の処理で用いられてよい。
【0098】
図6及び
図7は、分析システム10による混合物試料のX線回折パターンの分析例を示す図である。試料はα-Al
2O
3とγ-Al
2O
3の混合物(混合比75:25)である。標的成分はα- Al
2O
3である。残差群は単成分でありγ- Al
2O
3である。残差群の回折パターンは未知である。但し、
図6では、標的パターンY
ki
Tの形状パラメータのセット{X
p}を最適化していない。一方、
図7では、形状パラメータ直接探索プログラムにより形状パラメータのセット{X
p}を最適化している。
【0099】
図6において、符号20には観測パターンY
i
obsが示されている。符号22には補正パターンSc
iが示されている。補正パターンSc
iには標的成分のピークの位置に鋭い立ち上がりや立下りが表れている(一例として符号24参照)。これは標的パターンY
ki
Tの誤差に対応してするものであり、上述の対応誤差成分である。
【0100】
一方、
図7では、符号26に示される補正パターンSc
iにおいて、標的成分のピークの位置に生じる立上がりや立下りが小さくなっている(一例として符号28参照)。このように、形状パラメータ直接探索プログラムにより形状パラメータのセット{X
p}を最適化すると、補正パターンSc
iにおいて、標的成分のピークの位置に表れる対応誤差成分を小さくすることができる。この結果、標的成分の重量分率w
k、及び残差群の重量分率w
Rを精度よく算出することが可能となる。なお、本実施形態の方法によりγ-Al
2O
3の重量分率を計算したところ、真値に対して誤差は1%程度であった。
【0101】
以上説明した本実施形態によれば、一部の成分についてだけ回折パターンが既知である場合にも、回折パターンが既知の成分のみならず、回折パターンが未知の残差群についても、強度比を算出することができ、またそれら成分の重量分率を精度よく算出することができる。また、標的パターンYki
Tを形状パラメータのセット{Xp}により形状変更可能とし、形状パラメータのセット{Xp}の各値を最適化アルゴリズムにより最適化したので、標的成分及び残差群について重量分率をさらに精度よく算出することができる。また、未知パターンSci×Yi
R精度よく生成できるので、未知成分の構造解析や成分同定を精度よく行うことができる。
【0102】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形実施が可能である。例えば、各パターンの強度比は上記説明とは異なる方法により算出してもよい。
【符号の説明】
【0103】
10 分析システム、12 X線回折装置、14 分析装置、16 記憶部、18 表示部、20 観測パターン、22 未知パターン、24,28 対応誤差成分。