(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127841
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】2,6-キシレノール生合成のための微生物および製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/15 20060101AFI20230907BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20230907BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20230907BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20230907BHJP
C12P 7/22 20060101ALI20230907BHJP
C12N 9/10 20060101ALN20230907BHJP
C12N 9/88 20060101ALN20230907BHJP
【FI】
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P7/22
C12N9/10
C12N9/88
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031771
(22)【出願日】2022-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100182132
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100172683
【弁理士】
【氏名又は名称】綾 聡平
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】宮武 令
【テーマコード(参考)】
4B050
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B050CC03
4B050DD02
4B050KK04
4B050LL05
4B064AC17
4B064CA19
4B065AA01X
4B065AA01Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA01
4B065CA05
4B065CA60
(57)【要約】 (修正有)
【課題】2,6-キシレノールの生産が可能である新規な組換え微生物、および2,6-キシレノールの新規な製造方法を提供すること。
【解決手段】2-ヒドロキシフェニル酢酸を2-ヒドロキシ-3-メチルフェニル酢酸へ変換する酵素、及び2-ヒドロキシ-3-メチルフェニル酢酸を2,6-キシレノールへ変換する酵素を有する、組換え微生物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-ヒドロキシフェニル酢酸を2-ヒドロキシ-3-メチルフェニル酢酸へ変換する酵素、及び
2-ヒドロキシ-3-メチルフェニル酢酸を2,6-キシレノールへ変換する酵素
を有する、組換え微生物。
【請求項2】
2-ヒドロキシフェニル酢酸を2-メチルフェノールへ変換する酵素、及び
2-メチルフェノールを2,6-キシレノールへ変換する酵素
を有する、組換え微生物。
【請求項3】
2-ヒドロキシフェニル酢酸生産能を向上させた微生物を宿主として利用した、請求項1または2記載の組換え微生物。
【請求項4】
バイオマス由来原料から2,6-キシレノールを生産することのできる、請求項1から3のいずれか1項に記載の組換え微生物。
【請求項5】
前記バイオマス由来原料がC1化合物である、請求項4に記載の組換え微生物。
【請求項6】
請求項1から5記載の組換え微生物を培養して培養物を得る工程を含む、2,6-キシレノールの製造方法。
【請求項7】
前記培養物から2,6-キシレノールを分離および/または精製する分離および/または精製工程をさらに含む、請求項6に記載の2,6-キシレノールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2,6-キシレノール生合成のための遺伝子組換え微生物、および、当該遺伝子組換え微生物を用いた2,6-キシレノールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化石燃料は枯渇が危惧され、かつ地球温暖化の一因とされていることから、化学品製造プロセスにおいては、化石燃料由来の原料から再生可能な原料、例えばバイオマス由来原料への移行が望まれている。また、製造プロセスで排出される、二酸化炭素に代表される温室効果ガス発生量の低減が望まれている。このため。遺伝子組換えにより代謝が改変された微生物を用い、糖などのバイオマス由来原料からのワンポット発酵生産による製造方法が提案されている。さらには、二酸化炭素などのC1原料からのワンポット発酵生産による製造方法も求められている。
【0003】
ポリフェニレンエーテルは加工性および生産性に優れ、例えば、溶融射出成形法および溶融押出成形法などの成形方法により所望の形状の製品および部品を効率よく生産できるため、電気・電子分野、自動車分野、その他の各種工業材料分野、食品・包装分野の製品・部品用の材料として幅広く用いられている。ポリフェニレンエーテル製造において重要なモノマーは、2,6-キシレノール(別名:2,6-ジメチルフェノール、CAS No.576-26-1)である。
【0004】
2,6-キシレノールの製造方法としては、フェノールまたはo-クレゾールと、メタノールとを触媒存在下で反応させ蒸留精製する方法が提案されているが、本方法の原料であるフェノールは化石原料より誘導される化合物である(特許文献1)。
【0005】
フェノールをバイオマス由来原料から調製する方法としては、バイオマスを機械エネルギーで直接粉砕後に熱処理しフェノールを得る方法が提案されている(特許文献2)。また、バイオマス由来原料からの直接発酵生産方法としては、フェノール生産機能を付与されたコリネ型細菌の形質転換体を用いたフェノールの製造方法が提案されている(特許文献3)。2,6-キシレノール合成のためには原料フェノールからの合成反応が追加で必要であり、製造プロセスとして煩雑になるという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭57-11933号公報
【特許文献2】特許第5967707号明細書
【特許文献3】特許第5932649号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、バイオマス原料から2,6-キシレノールの生産が可能である新規な組換え微生物、および、本組み換え微生物を培養することによる2,6-キシレノールの新規な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記従来技術の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、宿主微生物において、外来性の特定の酵素を発現させることで、バイオマス原料から2,6-キシレノールを生産することができることを見出し、本知見に基づき、本発明をなすに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下を提供する:
[1]2-ヒドロキシフェニル酢酸を2-ヒドロキシ-3-メチルフェニル酢酸へ変換する酵素、及び
2-ヒドロキシ-3-メチルフェニル酢酸を2,6-キシレノールへ変換する酵素
を有する、組換え微生物;
[2]2-ヒドロキシフェニル酢酸を2-メチルフェノールへ変換する酵素、及び
2-メチルフェノールを2,6-キシレノールへ変換する酵素
を有する、組換え微生物;
[3]2-ヒドロキシフェニル酢酸生産能を向上させた微生物を宿主として利用した、[1]または[2]記載の組換え微生物;
[4]バイオマス由来原料から2,6-キシレノールを生産することのできる、[1]から[3]のいずれか1項に記載の組換え微生物;
[5]前記バイオマス由来原料がC1化合物である、[4]に記載の組換え微生物;
[6][1]から[5]記載の組換え微生物を培養して培養物を得る工程を含む、2,6-キシレノールの製造方法;
[7]前記培養物から2,6-キシレノールを分離および/または精製する分離および/または精製工程をさらに含む、[6]に記載の2,6-キシレノールの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、2,6-キシレノールの生産が可能である新規な組換え微生物、および、2,6-キシレノールの新規な製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の組換え微生物が有する、2-ヒドロキシフェニル酢酸からの2,6-キシレノール生合成経路の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。また、本明細書に記述されているDNAの取得、ベクターの調製および形質転換等の遺伝子操作は、特に明記しない限り、Molecular Cloning 4th Edition(Cold Spring Harbor Laboratory Press, 2012)、Current Protocols in Molecular Biology(Greene Publishing Associates and Wiley-Interscience)、および、遺伝子工学実験ノート(羊土社 田村隆明)等公知の文献に記載されている方法により行うことができる。本明細書において特に断りのない限りヌクレオチド配列は5’方向から3’方向に向けて記載される。本明細書において、「ポリペプチド」および「タンパク質」の語は、互換可能に使用される。また、本明細書において、これらの語は、化学反応を触媒する場合、「酵素」と称される。
【0013】
本明細書において、「内因」または「内因性」という用語は、言及している遺伝子組換えによる改変がなされていない宿主微生物が、言及している遺伝子またはそれによりコードされるタンパク質(典型的には酵素)を、当該宿主細胞内で優位な生化学的反応を進行させ得る程度に機能的に発現しているかどうかに関わらず、宿主微生物が有していることを意味するために用いられる。
【0014】
本明細書において、「外来」または「外来性」という用語は、遺伝子組換え前の宿主微生物が本発明により導入されるべき遺伝子を有していない場合、その遺伝子による酵素を実質的に発現していない場合、及びその遺伝子もしくは異なる遺伝子により当該酵素のアミノ酸配列をコードしているが、遺伝子組換え後に匹敵する内因性酵素活性を発現しない場合において、本発明に基づく遺伝子または核酸配列を宿主に導入することを意味するために用いられる。「外来性」の語は、「外因性」の語と互換可能に使用される。
【0015】
本発明の第一の側面は、特定の酵素を有する遺伝子組み換え微生物である。当該遺伝子組み換え微生物は、外来性の酵素遺伝子を導入した遺伝子組換え微生物、または、内因性の酵素遺伝子に改変を行った遺伝子組換え微生物であり、好ましくは、外来性の酵素遺伝子を導入した遺伝子組換え微生物である。本明細書において、「遺伝子組換え微生物」は、単に「組換え微生物」とも称し、また「改変微生物」とも称する。
【0016】
一態様において、本発明にかかる組換え微生物は、
(A)2-ヒドロキシフェニル酢酸を2-ヒドロキシ-3-メチルフェニル酢酸へ変換する酵素、及び
(B)2-ヒドロキシ-3-メチルフェニル酢酸を2,6-キシレノールへ変換する酵素
を有する。
【0017】
2-ヒドロキシフェニル酢酸を2-ヒドロキシ-3-メチルフェニル酢酸へ変換する酵素(上記酵素(A))は、
図1に示すステップAの反応を触媒する。
図1のステップAでは、2-ヒドロキシフェニル酢酸が2-ヒドロキシ―3-メチルフェニル酢酸へと変換される。本変換を触媒し得る酵素の例としては、EC 2.1.1の群に分類されるメチルトランスフェラーゼが挙げられる。より具体的には、例えば、EC 2.1.1.304(L-チロシン C3-メチルトランスフェラーゼ)などの群に分類される酵素は、本変換に対して活性を有し得る酵素として例示することができる。
【0018】
2-ヒドロキシ-3-メチルフェニル酢酸を2,6-キシレノールへ変換する酵素(上記酵素(B))は、
図1に示すステップBの反応を触媒する。
図1のステップBでは、2-ヒドロキシ―3-メチルフェニル酢酸が2,6-キシレノールへと変換される。本変換を触媒し得る酵素の例としては、EC 4.1.1の群に分類されるデカルボキシラーゼが挙げられる。より具体的には、例えば、EC 4.1.1.83(4-ヒドロキシフェニル酢酸デカルボキシラーゼ)に分類される酵素は、本変換に対して活性を有し得る酵素として例示することができる。
【0019】
本発明にかかる組換え微生物は、別の一態様において、
(C)2-ヒドロキシフェニル酢酸を2-メチルフェノールへ変換する酵素、及び
(D)2-メチルフェノールを2,6-キシレノールへ変換する酵素
を有する。
【0020】
2-ヒドロキシフェニル酢酸を2-メチルフェノールへ変換する酵素(上記酵素(C))は、
図1に示すステップCの反応を触媒する。
図1のステップCでは、2-ヒドロキシフェニル酢酸が2-メチルフェノールへと変換される。本変換を触媒し得る酵素の例としては、EC 4.1.1の群に分類されるデカルボキシラーゼが挙げられ、より具体的には、例えば、EC 4.1.1.83(4-ヒドロキシフェニル酢酸デカルボキシラーゼ)に分類される酵素が挙げられる。
【0021】
2-メチルフェノールを2,6-キシレノールへ変換する酵素(上記酵素(D))は、
図1に示すステップDの反応を触媒する。
図1のステップDでは、2-メチルフェノールが2,6-キシレノールへと変換される。本変換を触媒し得る酵素の例としては、EC 2.1.1の群に分類されるメチルトランスフェラーゼが挙げられ、より具体的には、例えば、EC 2.1.1.304(L-チロシン C3-メチルトランスフェラーゼ)に分類される酵素が挙げられる。
【0022】
本発明に利用することのできる上記の酵素をコードする遺伝子は、例示された生物以外に由来するものであっても、または人工的に合成したものであってもよく、宿主微生物細胞内で実質的な酵素活性を発現できるものであればよい。
【0023】
本明細書において、目的の外来性遺伝子が導入される宿主微生物は特に限定されず、原核生物および真核生物のいずれであってもよい。既に単離保存されているもの、新たに天然から分離したものおよび遺伝子改変をされたものから任意に選択することができる。宿主微生物は、例えば、エスケリキア(Escherichia)属、バチルス(Bacillus)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、アルスロバクター(Arthrobacter)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、クロストリジウム(Clostridium)属、ザイモモナス(Zymomonas)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、シネコシスティス(Synechocystis)属、アルカリハロバチルス(Alkalihalobacillus)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属、ヤロウィア(Yarrowia)属、カンジタ(Candida)属、ピキア(Pichia)属、またはアスペルギルス(Aspergillus)属に属する。宿主微生物は、好ましくは、エスケリキア(Escherichia)属に属し、より好ましくは、大腸菌(Escherichia coli)である。
【0024】
したがって、上記宿主微生物に外来性遺伝子を導入した本発明にかかる組換え微生物は、例えば、エスケリキア(Escherichia)属、バチルス(Bacillus)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、アルスロバクター(Arthrobacter)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、クロストリジウム(Clostridium)属、ザイモモナス(Zymomonas)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、バークホルデリア(Burkholderia)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、ロドコッカス(Rhodococcus)属、シネコシスティス(Synechocystis)属、アルカリハロバチルス(Alkalihalobacillus)属、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロマイセス(Schizosaccharomyces)属、ヤロウィア(Yarrowia)属、カンジタ(Candida)属、ピキア(Pichia)属、またはアスペルギルス(Aspergillus)属に属する。本発明にかかる組換え微生物は、好ましくは、エスケリキア(Escherichia)属に属し、より好ましくは、大腸菌(Escherichia coli)である。
【0025】
本明細書において、ある化合物に関し、微生物が「生産能を有する」とは、当該微生物が当該化合物の「生産経路を有する」ことを意味する。「生産経路を有する」とは、本発明にかかる遺伝子組換え微生物が、その化合物の生産経路の各反応段階が進行するために十分な量の酵素を発現し、その化合物を生合成可能であることを意味する。本発明の組換え微生物は、当該化合物を生産する能力を本来有する宿主微生物を用いたものであってもよく、本来は当該化合物を生産する能力を有さない宿主微生物に対して、その化合物の生産能を有するように改変を行ったものであってもよい。
【0026】
本明細書において、「由来する」とは、遺伝子またはそれによりコードされるタンパク質(典型的には酵素)が、言及する特定の生物種が内因的に有しているものであることを意味する。
【0027】
本発明の遺伝子組換え微生物が、外来遺伝子の導入によらずとも、2,6-キシレノール生産経路の反応段階を触媒する十分な量の酵素を発現する場合は、内因遺伝子にコードされる酵素によって反応が進行してもよい。
【0028】
好ましい態様において、本発明にかかる組換え微生物は、2-ヒドロキシフェニル酢酸生産能を向上させた微生物を宿主として利用した組換え微生物である。すなわち、本発明にかかる組換え微生物は、非改変株と比較して2-ヒドロキシフェニル酢酸生産能が向上した微生物である。具体的に、本発明にかかる組換え微生物は、宿主微生物が本来有する内因性の2-ヒドロキシフェニル酢酸生産能を向上させるように改変を行ったものであってもよく、あるいは、本来は2-ヒドロキシフェニル酢酸生産能を有さない宿主微生物に対して、2-ヒドロキシフェニル酢酸生産能を有するように任意の改変を行ったものであってもよい。
【0029】
本発明にかかる組換え微生物に関し、宿主微生物において、任意の酵素の活性の低下は、例えば、当該酵素の遺伝子の破壊によって行われてもよい。標的遺伝子の破壊は、当該分野で公知の方法により行われる。
【0030】
本発明にかかる組換え微生物は、バイオマス由来原料から2,6-キシレノールを生産することのできる微生物である。具体的には、上記酵素を有することによって、バイオマス由来原料から、2,6-キシレノールを生産することができる。
【0031】
バイオマス由来の原料としては、生物が産生し得る炭素含有化合物および高分子が挙げられる。バイオマス由来の原料は、例えばC1~C12化合物、好ましくはC1~C10化合物、より好ましくはC1~C6化合物、最も好ましくはC1化合物である。バイオマス由来の原料の具体例としては、例えば、グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、オリゴ糖、多糖、でんぷん、セルロース、米ぬか、廃糖蜜、油脂(例えば大豆油、ヒマワリ油、ピーナッツ油、ヤシ油など)、脂肪酸(例えばパルミチン酸、リノール酸、オレイン酸、リノレン酸など)、アルコール(例えばグリセロール、エタノールなど)、有機酸(例えば酢酸、乳酸、コハク酸など)、トウモロコシ分解液、セルロース分解液が挙げられ、好ましくは、D-グルコース、スクロース、グリセロールである。C1化合物は、例えば、一酸化炭素、二酸化炭素、メタンおよびメタノールである。
【0032】
また、本発明に利用することのできる上記の酵素のアミノ酸配列、または酵素をコードする遺伝子の塩基配列には、前記宿主微生物細胞で実質的な酵素活性を発現できるものであれば、自然界で発生し得るすべての変異や、人工的に導入された変異及び修飾を有していてよく、例えば、欠失、置換、挿入、付加といった変異が含有され得る。例えば、上記の酵素のアミノ酸配列に対して1又は複数個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~10個、さらに好ましくは1~7個、さらにより好ましくは1~5個、特に好ましくは1~3個のアミノ酸の欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列を含んでいてよい。
【0033】
さらに、本発明で利用できる上記の酵素をコードする遺伝子の塩基配列には、前記宿主微生物細胞で実質的な酵素活性を発現できるものであれば、相補的な塩基配列を有するDNAと緊縮条件下でハイブリダイズするDNAも利用可能である。「緊縮条件」とは、例えば、「1xSSC、0.1%SDS、60℃」程度の条件であり、より厳しい条件としては「0.1xSSC、0.1%SDS、60℃」程度の条件であり、さらに厳しい条件としては「0.1xSSC、0.1%SDS、68℃」程度の条件である。
【0034】
加えて、特定のアミノ酸をコードする種々のコドンには余分のコドンが存在することが知られており、そのため本発明においても同一のアミノ酸に最終的に翻訳されることになる代替コドンを利用してよい。つまり、遺伝子コードは縮重しているので、ある特定のアミノ酸をコードするのに複数のコドンを使用でき、そのためアミノ酸配列は任意の1セットの類似のDNAオリゴヌクレオチドでコードされ得る。なお、ほとんどの生物は特定のコドン(最適コドン)のサブセットを優先的に用いることが知られているので(Gene、Vol.105、pp.61-72、1991等)、宿主微生物に応じて「コドン最適化」を行うことは本発明においても有用であり得る。
【0035】
したがって、本発明にかかる遺伝子組換え微生物は、酵素活性を発現できることを条件に、
・上記酵素の遺伝子の塩基配列と、例えば80%以上、85%以上、88%以上、90%以上、93%以上、95%以上、97%以上、98%以上または99%以上の配列同一性を有する塩基配列を含み得るか、あるいは、
・上記酵素のアミノ酸配列と、例えば80%以上、85%以上、88%以上、90%以上、95%以上、97%以上、98%以上または99%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をコードする遺伝子を含み得る。
【0036】
なお、本明細書において、参照アミノ酸配列に対する比較アミノ酸配列の「配列同一性」の割合(%)は、これら2つの配列間の同一性が最大となるように配列を整列させ、必要であれば2つの配列の一方または双方にギャップが導入されたときの、参照配列中のアミノ酸残基と同一である、比較配列中のアミノ酸残基の百分率として定義される。このとき、保存的置換は配列同一性の一部として考慮しない。配列同一性は、公に入手可能なコンピュータソフトウェアを使用することによって決定することができ、例えば、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)等のアライメントサーチツールを用いて決定することができる。当業者は、アラインメントにおいて、比較配列の最大のアラインメントを得るために適切なパラメーターを決定することができる。ヌクレオチド配列の「配列同一性」についても、同様の方法によって決定することができる。
【0037】
上記の化合物生合成酵素遺伝子が「発現カセット」として宿主微生物細胞内に導入されることで、より安定的で高レベルの酵素活性を得ることができる。本明細書において、「発現カセット」とは、発現対象の核酸または発現対象の遺伝子に機能的に結合された転写および翻訳をレギュレートする核酸配列を含むヌクレオチドを意味する。典型的に、本発明の発現カセットは、コード配列から5’上流にプロモーター配列、3’下流にターミネーター配列、場合により更なる通常の調節エレメントを機能的に結合された状態で含み、そのような場合に、発現対象の核酸または発現対象の遺伝子が宿主微生物に導入される。
【0038】
プロモーターとは、構成発現型プロモーターであるか誘導発現型プロモーターであるかに拘わらず、RNAポリメラーゼをDNAに結合させ、RNA合成を開始させるDNA配列と定義される。強いプロモーターとはmRNA合成を高頻度で開始させるプロモーターであり、本発明においても好適に使用される。大腸菌ではlac系、trp系、tacまたはtrc系、λファージの主要オペレーター及びプロモーター領域、fdコートタンパク質の制御領域、解糖系酵素(例えば、3-ホスホグリセレートキナーゼ、グリセルアルデヒド‐3‐リン酸脱水素酵素)、グルタミン酸デカルボキシラーゼA、セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼに対するプロモーター、T7ファージ由来RNAポリメラーゼのプロモーター領域等が利用可能である。コリネ菌(Corynebacterium glutamicum)ではHCE(high-level constitutive expression)プロモーター、cspBプロモーター、sodAプロモーター、伸長因子(EF-Tu)プロモーターなどが利用可能である。ターミネーターとしては、T7ターミネーター、rrnBT1T2ターミネーター、lacターミネーターなどが利用可能である。プロモーターおよびターミネーター配列のほかに、他の調節エレメントの例として挙げられ得るのは、選択マーカー、増幅シグナル、複製起点などである。好適な調節配列については、例えば、”Gene Expression Technology:Methods in Enzymology 185”、Academic Press (1990)に記載されている。
【0039】
上記で説明した発現カセットは、例えば、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、ISエレメント、フォスミド、コスミド、又は線状もしくは環状のDNA等から成るベクターに組み入れて、宿主微生物中に挿入される。プラスミドおよびファージが好ましい。これらのベクターは、宿主微生物中で自律複製されるものでもよいし、また染色体により複製されてもよい。好適なプラスミドは、例えば、大腸菌のpLG338、pACYC184、pBR322、pUC18、pUC19、pKC30、pRep4、pHS1、pKK223-3、pDHE19.2、pHS2、pPLc236、pMBL24、pLG200、pUR290、pIN-III113-B1、λgt11又はpBdCI;桿菌のpUB110、pC194又はpBD214;コリネバクテリウム属のpSA77又はpAJ667などである。バチルス属などの桿菌ではpUB110、pC194またはpBD214などが挙げられる。これらの他にも使用可能なプラスミド等は、”Gene Cloning and DNA analysis 7th edition”、Wiley-Blackwell(2016)に記載されている。ベクターへの発現カセットの導入は、適当な制限酵素による切り出し、クローニング、及びライゲーションを含む慣用の方法によって可能である。各々の発現カセットは、1つのベクター上に配置されてもよく、2つまたはそれ以上のベクターに配置されてもよい。
【0040】
上記のようにして本発明の発現カセットを有するベクターが構築された後、該ベクターを宿主微生物に導入する際に適用できる手法は慣用の方法を用いることができる。例えば、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法、接合伝達法、プロトプラスト融合法などが挙げられるが、これらに限定されず、宿主微生物に好適な方法が選択可能である。
【0041】
本発明の第二の側面は、先述の組換え微生物を培養する培養工程を含む、2,6-キシレノールの製造方法に関する。
【0042】
2,6-キシレノールの製造方法には、本発明にかかる遺伝子組換え微生物を培養する培養工程が含まれる。培養工程では、先述の組換え微生物を培養して培養物を得る。具体的には、当該組換え微生物を、炭素源および窒素源を含有する培地で目的化合物を生産するのに十分な期間培養することによって、菌体を含む培養物が得られる。本発明の遺伝子組換え微生物は、2,6-キシレノール生産、ならびに、微生物の生育および維持に適した条件下で培養され、好適な培地組成、培養時間および培養条件は当業者によって適宜設定することができる。
【0043】
炭素源としては、D-グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、オリゴ糖、多糖、でんぷん、セルロース、米ぬか、廃糖蜜、油脂(例えば大豆油、ヒマワリ油、ピーナッツ油、ヤシ油など)、脂肪酸(例えばパルミチン酸、リノール酸、オレイン酸、リノレン酸など)、アルコール(例えばグリセロール、エタノールなど)、有機酸(例えば酢酸、乳酸、コハク酸など)、トウモロコシ分解液、セルロース分解液が挙げられる。好ましくは、D-グルコース、スクロースまたはグリセロールである。これらの炭素源は、個別にあるいは混合物として使用することができる。
【0044】
バイオマス由来の原料を用いて製造された化合物は、ISO16620-2またはASTM D6866に規定されるCarbon-14(放射性炭素)分析に基づくバイオベース炭素含有率の測定により、例えば石油、天然ガス、石炭などを由来とする合成原料と明確に区別することができる。
【0045】
窒素源としては、含窒素有機化合物(例えば、ペプトン、カザミノ酸、トリプトン、酵母抽出物、肉抽出物、麦芽抽出物、コーンスティープリカー、大豆粉、アミノ酸および尿素など)、または無機化合物(例えば、アンモニア水溶液、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウムなど)が挙げられる。これらの窒素源は、個別にあるいは混合物として使用することが出来る。
【0046】
また、培地は、組換え微生物が有用な付加的形質を発現する場合、例えば抗生物質への耐性マーカーを有する場合、対応する抗生物質を含んでいてよい。それにより、培養時の雑菌による汚染リスクが低減される。抗生物質としては、アンピシリンなどのβ-ラクタム系抗生物質、カナマイシンなどのアミノグリコシド系抗生物質、エリスロマイシンなどのマクロライド系抗生物質、テトラサイクリン系抗生物質、クロラムフェニコールなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0047】
培養は、バッチ式であっても連続式であってもよい。また、いずれの場合にも、培養の適切な時点で追加の前記炭素源等を補給する形式であってもよい。更に、培養は、好適な温度、酸素濃度、pH等の条件を制御しながら培養されてもよい。一般的な微生物宿主細胞に由来する形質転換体の好適な培養温度は、通常15℃~55℃、好ましくは25℃~40℃の範囲である。宿主微生物が好気性の場合、発酵中の適切な酸素濃度を確保するために振盪(フラスコ培養等)、攪拌/通気(ジャー・ファーメンター培養等)を行ってもよい。それらの培養条件は、当業者にとって容易に設定可能である。
【0048】
培養工程において、組換え微生物の培養物および/または培養物の抽出物を得ることを含んでもよい。
【0049】
本発明にかかる化合物の製造方法は、前記培養物および/または前記培養物の抽出物を、基質化合物と混合して混合液を得る混合工程をさらに含んでもよい。基質化合物は、酵素および目的化合物に応じて適宜選択されてよい。
【0050】
本発明にかかる化合物の製造方法は、目的化合物である2,6-キシレノールを分離および/または精製する工程を含んでよい。具体的には、本発明にかかる製造方法は、前記培養工程で得られた培養物から2,6-キシレノールを分離および/または精製する分離および/または精製工程をさらに含んでもよい。当該分離および/または精製する工程では、任意の手法、例えば、遠心分離、ろ過、膜分離、晶析、抽出、蒸留、吸着、相分離、イオン交換および各種のクロマトグラフィーなどが挙げられるが、これらに限定されない。分離および/または精製工程では、一種類の方法を選択しても良く、また複数の方法を組み合わせても良い。
【0051】
本発明の第三の側面は、上記酵素に関する組換えポリペプチドに関する。
【0052】
本発明の更なる側面は、先述の組換えポリペプチドを用いることを含む、2,6-キシレノールの製造方法に関する。本発明にかかる製造方法は、前記組換えポリペプチドを、基質化合物と混合して混合液を得る混合工程を含んでもよい。基質化合物は、酵素および目的化合物に応じて適宜選択されてよい。
【0053】
以上説明したとおり、本発明によれば、2,6-キシレノールの生産が可能である新規な組換え微生物、および、2,6-キシレノールの新規な製造方法を提供することができる。また、本発明で規定する特定の酵素をコードする外因性遺伝子を含むことによって、目的化合物である2,6-キシレノールを効率よく製造することができる。さらに、本発明にかかる組換え微生物および/または製造方法は、良好な目的化合物の生産能を有するので、工業的規模で目的化合物を生産できることが期待される。また、本発明にかかる組換え微生物および製造方法によって製造される2,6-キシレノールは、特に、ポリマー製造のためのモノマー原料として使用することができる。
【0054】
以上の説明を与えられた当業者は、本発明を十分に実施できる。以下、更なる説明の目的として実施例を与え、従って、本発明は当該実施例に限定されるものではない。
【実施例0055】
<各化合物に対する耐性試験>
大腸菌、コリネ菌、好アルカリ菌
【0056】
<組換え微生物の構築方法>
<組換え微生物の培養方法>