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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127860
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】防護柵
(51)【国際特許分類】
   E01F 15/10 20060101AFI20230907BHJP
【FI】
E01F15/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031800
(22)【出願日】2022-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】398000185
【氏名又は名称】日本ヒルティ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000006839
【氏名又は名称】日鉄建材株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120868
【弁理士】
【氏名又は名称】安彦 元
(72)【発明者】
【氏名】栗林 健一
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕二
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 亨
(72)【発明者】
【氏名】井部 豪士
(72)【発明者】
【氏名】阿部 幸夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 健次郎
【テーマコード(参考)】
2D101
【Fターム(参考)】
2D101CA02
2D101CA06
2D101CA17
2D101DA04
2D101EA05
2D101FA27
2D101FA32
(57)【要約】      (修正有)
【課題】H形鋼などの壁高欄の既設支柱に取り付けるスタッドボルトの施工誤差やパネル材の製作誤差等を吸収でき、短時間で設置が可能な防護柵を提供する。
【解決手段】支柱14のフランジの少なくとも上部及び下部の2カ所にスタッドボルト3を取り付け、スタッドボルト3に縦材21を取り付け、縦材21及び横材22は、断面コの字状で閉塞面に複数の接続孔を有したチャンネル部材4からなり、縦材21をスタッドボルト3に接続孔で固定し、横枠22を特定形状の接続部材5を介して縦枠21の開放面41の任意の位置に固定し、パネル材6を接続部材5を介して横枠22の開放面41の任意の位置に固定する。接続部材5は、チャンネル部材4に対して固定金具51及び樹脂プレート52を回転させることで折返し片45に嵌合溝55を嵌合させて締め込むことにより開口溝40の任意の位置に固定可能に構成する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦材と横材を格子状に組み合わせた枠体が既設の支柱に取り付けられ、前記枠体にパネル材が取り付けられた、工事区域と他の区域とを区画する防護柵であって、
前記支柱のフランジの少なくとも上部及び下部の2カ所にスタッドボルトが取り付けられ、前記スタッドボルトに前記縦材が取り付けられており、
前記縦材及び前記横材は、断面コの字状で閉塞面に複数の接続孔を有したチャンネル部材からなり、
前記縦材は、前記スタッドボルトに前記接続孔が固定され、前記横材が特定形状の接続部材を介して前記縦材の開放面の任意の位置に固定され、
前記パネル材は、前記接続部材を介して前記横材の開放面の任意の位置に固定されており、
前記チャンネル部材は、前記開放面に折返し片を有する開口溝が設けられ、
前記接続部材は、前記折返し片と嵌合する嵌合溝を有した固定金具と、前記固定金具に固着された樹脂プレートとを備え、
前記接続部材は、前記チャンネル部材に対して前記固定金具及び前記樹脂プレートを回転させることで前記折返し片に前記嵌合溝を嵌合させて締め込むことにより前記開口溝の任意の位置に固定可能に構成されていること
を特徴とする防護柵。
【請求項2】
前記横材は、前記縦材に横材固定金具を介して固定され、
前記横材固定金具は、断面コの字状で閉塞面に複数の接続孔を有したチャンネル部材からなり、前記閉塞面が前記縦材側に、かつ、断面コの字状の開放面が前記横材側に配置されて、前記接続部材を介してそれぞれ固定され、
前記横材は、前記横材固定金具と長手方向に重なり合って取り付けられることにより、前記支柱間隔以下の長さとなっていること
を特徴とする請求項1に記載の防護柵。
【請求項3】
前記横材固定金具には、前記横材の長手方向の端部を載置する断面L字状又は断面J字状の横材受け部材が取り付けられていること
を特徴とする請求項2に記載の防護柵。
【請求項4】
前記スタッドボルトは、前記支柱のフランジ面に打込み溶着されていること
を特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の防護柵。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工事区域と他の区域とを区画する防護柵に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道高架橋の高欄や防音壁、電柱などの改修工事は、資材や人と列車が接触することを防ぐため、列車が運行していない夜間での作業が求められている。このため、短時間での作業を強いられている。また、今後労働人口が減少する一方で、改修工事は増加しており、施工の効率化を達成しないとこのような改修工事を続けることが困難な状況となっている。
【0003】
施工効率化の一つに、このような改修工事を夜間だけでなく列車運行時間帯にも施工することで、作業時間を確保する方法が考えられる。列車運行時間帯に改修工事を行う場合、資材や人と列車が接触することを防止するために、列車が走行する軌道部と工事作業スペースとを区切る安全柵(仮設防護柵)を設ける必要がある。
【0004】
このような仮設防護柵としては、本願出願人らが提案した特許文献1に記載の仮設防護壁が開示されている。特許文献1に記載の仮設防護壁は、複数の支柱2と、これらの支柱2に架け渡された複数の横梁3と、これらの横梁3に取り付けられたパネル材4と、支柱2に傾斜して連結される控え柱5と、を具備し、支柱2は、一対の断面コの字状のコの字部材の閉塞面同士を接合し、開口溝の端部に鋸刃を形成するとともに、控え柱5は、開口溝の端部に鋸刃が形成された断面コの字状のコの字部材を有し、控え柱5を支柱2より軌道R1側に設け、支柱2と控え柱5を、前記鋸刃と噛合する接続部材を介して前記鋸刃の任意の位置に連結可能に構成するものである。
【0005】
特許文献1に記載の仮設防護壁は、任意の高さ及び任意の位置に控え柱を固定することが可能となり、場所によって径や高さ位置が異なる導水管などの障害物を避けて、控え柱を設置することが容易となる。また、斜材である控え柱がパネルで区画された工事区域側にないことで作業空間及び作業通路が確保される。
【0006】
しかし、鉄道高架橋の高欄には、H形鋼等を支柱とし、天井部分と壁部分にコンクリート系のパネル部材を配置した逆L形構造の高欄(以下、逆L形高欄と称す。)が多く採用されている。このような逆L形高欄を改修・補強する工事や逆L形高欄がある状態で電柱等を改修・補強する工事において、特許文献1の仮設防護壁を採用した場合、既設の逆L形高欄のH形鋼などからなる支柱に干渉してしまい、仮設防護壁の支柱を逆L形高欄の既設支柱よりも軌道側にセットバックして設置する必要がある。
【0007】
しかし、この支柱のセットバックにより、現地の状況によっては、列車走行時の建築限界を侵してしまうという課題があった。また、支柱を新たに設置する必要があり、この作業は全て列車が運行されていない夜間での工事となるため、1日の作業時間が限られ、施工期間が長くなるという課題もあった。
【0008】
このような課題を解決する方法として、H形鋼などの既設支柱をそのまま仮設防護壁の支柱として利用することが考えられる。しかしながら、既設支柱にスタッドボルトを取り付け、そこに横材を直接設置すると、横材の取付高さが固定されてしまい、仮設防護壁のパネル材を取り付ける際、スタッドボルト取り付け時の施工誤差、並びに、パネル材の製作誤差等が吸収できず、パネル材が横材に取り付けられなくなるという新たな課題が生じる。また、上記誤差を踏まえ、スタッドボルトの取り付け位置を既設支柱毎に微調整する方法もあるが、スタッドボルトの位置決めに時間を要し、施工手間が増えるといった課題も生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2021-8724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、前述した問題に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、H形鋼などの壁高欄の既設支柱を防護柵の支柱として利用した場合でも支柱に取り付けるスタッドボルトの施工誤差やパネル材の製作誤差等を吸収でき、短時間で設置が可能な防護柵を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明に係る防護柵は、縦材と横材を格子状に組み合わせた枠体が既設の支柱に取り付けられ、前記枠体にパネル材が取り付けられた、工事区域と他の区域とを区画する防護柵であって、前記支柱のフランジの少なくとも上部及び下部の2カ所にスタッドボルトが取り付けられ、前記スタッドボルトに前記縦材が取り付けられており、前記縦材及び前記横材は、断面コの字状で閉塞面に複数の接続孔を有したチャンネル部材からなり、前記縦材は、前記スタッドボルトに前記接続孔が固定され、前記横材が特定形状の接続部材を介して前記縦材の開放面の任意の位置に固定され、前記パネル材は、前記接続部材を介して前記横材の開放面の任意の位置に固定されており、前記チャンネル部材は、前記開放面に折返し片を有する開口溝が設けられ、前記接続部材は、前記折返し片と嵌合する嵌合溝を有した固定金具と、前記固定金具に固着された樹脂プレートとを備え、前記接続部材は、前記チャンネル部材に対して前記固定金具及び前記樹脂プレートを回転させることで前記折返し片に前記嵌合溝を嵌合させて締め込むことにより前記開口溝の任意の位置に固定可能に構成されていることを特徴とする。
【0012】
第2発明に係る防護柵は、第1発明において、前記横材は、前記縦材に横材固定金具を介して固定され、前記横材固定金具は、断面コの字状で閉塞面に複数の接続孔を有したチャンネル部材からなり、前記閉塞面が前記縦材側に、かつ、断面コの字状の開放面が前記横材側に配置されて、前記接続部材を介してそれぞれ固定され、前記横材は、前記横材固定金具と長手方向に重なり合って取り付けられることにより、前記支柱間隔以下の長さとなっていることを特徴とする。
【0013】
第3発明に係る防護柵は、第2発明において、前記横材固定金具には、前記横材の長手方向の端部を載置する断面L字状又は断面J字状の横材受け部材が取り付けられていることを特徴とする。
【0014】
第4発明に係る防護柵は、第1発明ないし第3発明のいずれかの発明において、前記スタッドボルトは、前記支柱のフランジ面に打込み溶着されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1発明~第4発明によれば、断面コの字状のチャンネル部材からなる縦材の開放面の任意の位置に、横材の閉塞面が固定できるため、スタッドボルトに固定された縦材に対して、横材を上下方向において任意の位置に固定することができる。このため、支柱に取り付けるスタッドボルトに施工誤差が生じたり、パネル材に製作誤差が生じたりしても、パネル材を容易に横材に固定することができる。その上、第1発明~第4発明によれば、止め付けるボルトに過大な引張力が作用した場合でも、接続部材の固定金具がチャンネル部材から抜けることがなく、安全性の高い構造を得ることができる。また、固定金具が縦材又は横材のチャンネル部材の開放面に挿入された状態で、任意の位置にスライドして固定可能であり、スタッドボルトの設置誤差や、パネルの製作誤差を容易に吸収することできる。
【0016】
また、第1発明~第4発明によれば、既設の支柱の少なくとも上下2カ所にスタッドボルトを設置するだけで枠体の縦材を固定することができる。このため、横材を上下方向に複数段(複数本)設置する場合は、その段数に応じてスタッドボルトを設置する必要があるが、本発明では支柱の少なくとも上下2カ所の設置で対応できるため、現場施工で設置に時間を要するスタッドボルトの設置数を低減することができる。
【0017】
それに加え、第1発明~第4発明によれば、縦材の任意の位置に横材を固定できるため、縦材を設置した後、横材の本数や、横材の位置を自由に選定することができる。このため、現地の状況により横材の本数やその位置が変わる場合でも、スタッドボルト設置作業と縦材設置作業を機械的に行うことができ、位置出し等の作業が不要となり、施工性が極めて良好である。
【0018】
特に、第2発明によれば、横材固定金具を用いることで縦材の必要本数を低減することができ、施工コストを低減することができる。また、横材の閉塞面の孔位置によっては、当該孔位置と縦材位置とが合わず、横材を縦材に取り付けできない場合が生じるが、横材固定金具を介することで、横材の閉塞面の孔位置によらず、横材を確実に縦材に固定できる。さらに、既設支柱の間隔が多少相違したり、横材の長さに多少の誤差があったりした場合でも横材固定金具を介することで対応することができる。
【0019】
特に、第3発明によれば、横材を横材固定金具に接続部材で固定する際、横材を支持する人と、接続部材で横材を固定する人の2人作業となるが、横材受け部材を設置することで、横材の仮受けが可能となり、1人作業で対応できるため、施工の省力化を達成することができる。
【0020】
特に、第4発明によれば、打込み溶着式でスタッドボルトを固定するので、溶接機が不要で雨天時でも施工することができる。また、打込み溶着式でスタッドボルトを固定する場合は、フランジへの下穴は小さくてよく、作業時間が溶接式やねじ込み式に比べて圧倒的に短い。さらに、火花が発生せず火気への配慮が不要となるなど、工事現場での施工性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係る防護柵を示す斜視図である。
図2図2は、同上の防護柵を軌道側(内側)から高欄側(外側)を向いて見た状態を示す正面図である。
図3図3は、同上の防護柵を示す平面図である。
図4図4は、同上の防護柵を逆L形高欄の内側から軌道側に向いて見た状態を示す背面図である。
図5図5は、図3のA部拡大平面図である。
図6図6は、図3のB-B線鉛直断面図である。
図7図7は、図6のC部拡大図である。
図8図8は、図6のD部拡大図である。
図9図9は、同上の防護柵のスタッドボルトを軸直角方向に見た側面図である。
図10図10は、同上の防護柵のチャンネル部材を示す図であり、(a)が長手方向と直交する断面図であり、(b)が開放面から閉塞面方向に見た側面図である。
図11図11は、同上の防護柵の接続部材のツイストロックチャンネルナットを示す図であり、(a)がボルト挿入方向に見た正面図であり、(b)が平面図、(c)が右側面図、(d)が斜視図である。
図12図12は、本発明の第2実施形態に係る防護柵を示す平面図である。
図13図13は、同上の防護柵を逆L形高欄の内側から軌道側に向いて見た状態を示す背面図である。
図14図14は、図12のE部拡大平面図である。
図15図15は、図12のF-F線鉛直断面図である。
図16図16は、図15のG部拡大図である。
図17図17は、同上の防護柵の横材受け部材を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態に係る防護柵について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0023】
[第1実施形態]
図1図11を用いて、本発明の第1実施形態に係る防護柵1について説明する。なお、本実施形態に係る防護柵1は、新幹線などの高速列車が通過する専用高架橋に沿って立設された既設の逆L形高欄10を改修する改修工事を行う際に、軌道と工事区域とを区画する仮設の防護柵として設置される場合を例示して説明する。但し、本発明に係る防護柵は、仮設の防護柵に限られず、常設の防護柵に適用できることは云うまでもない。
【0024】
図1は、本発明の第1実施形態に係る防護柵1を示す斜視図であり、図2は、軌道側(内側)から高欄側(外側)を向いて防護柵1を見た状態を示す正面図であり、図3は、防護柵1を示す平面図であり、図4は、逆L形高欄10の内側から軌道側に向いて防護柵1を見た状態を示す背面図である。また、図5は、図3のA部拡大平面図である。そして、図6は、図3のB-B線鉛直断面図であり、図7は、図6のC部拡大図、図8は、図6のD部拡大図である。
【0025】
ここで、逆L形高欄とは、パネル材が壁面とその折返しの天井面に設置されて防音壁を越境する騒音低減効果を有する断面逆L字状の防音壁とした壁高欄を指している。
【0026】
図3図6に示すように、例示する既設の逆L形高欄10は、鉄筋コンクリートからなる壁高欄11の上に複数の外側支柱12が立設され、その外側支柱12同士の間に、コンクリート製やモルタル製などのコンクリート系(セメント系)のパネル材13が複数段に亘って嵌め込まれている。その上、逆L形高欄10は、外側支柱12の軌道側(内側)に、複数の内側支柱14を備え、外側支柱12の上端と内側支柱14の上端との間に天井支持鋼材15が架け渡されており、天井面にもパネル材13が設置されている。
【0027】
図1図6に示すように、本実施形態に係る防護柵1は、前述の逆L形高欄10の既設の内側支柱14を支柱とし、その内側支柱14に格子状の枠体2が取り付けられ、その枠体2に後述のパネル材6が取り付けられた防護柵である。この枠体2は、縦材21と横材22とが格子状に組み合わされて防護柵1を支持する枠体である。また、この防護柵1は、軌道R1に沿って設置され、軌道R1と工事区域CAとを区画して、作業員が軌道R1側に立ち入ったり、資材等を持って移動する際に誤って列車に接触したりすることを防止する機能を有している。
【0028】
(支柱)
内側支柱14は、既設の逆L形高欄10に用いられている支柱であり、図示形態では、H形鋼である。図6図7に示すように、この内側支柱14の上下には、枠体2の縦材21をボルト固定するためのスタッドボルト3が縦材21につき上下2カ所ずつ計4カ所打込み溶着されている。勿論、既設の内側支柱14は、H形鋼に限られず、溝形鋼やC型チャンネルを組み合わせた鋼材など、既設の逆L形高欄10に用いられており、スタッドボルト3を設置するためのフランジを有する支柱であれば本発明を適用することができる。また、スタッドボルト3は、4カ所以上設けられていればよい。
【0029】
ここで、打込み溶着とは、非金属の溶着と相違し、スタッドボルト3より径の小さい下孔(図示せず)に打込み機(鋲打機)等を用いてスタッドボルト3を高速で打込み圧入することで熱(摩擦熱)を発生させて金属の母材及びボルトを溶かして一体化し、固着することを指している。この下孔は、打込み前に既設の内側支柱14のフランジ面にスタッドボルト3の後述の基端部31の径(直径)より少し小さい孔を予め削孔しておく。
【0030】
勿論、スタッドボルト3の内側支柱14への固着方法は、打込み溶着方式に限られず、径の小さな下孔にスタッドボルトのねじ部をねじ込んで固定するねじ込み方式を採用することもできる。また、アーク溶接など溶接機を用いてスタッドボルトを内側支柱14へ溶接して固定することもできる。
【0031】
しかし、打込み溶着方式は、片手で持ち運び容易なハンディータイプの工具で施工することができるので、アーク溶接のように大電流を流す必要がなく雨天でも施工可能である。また、打込み溶着式でスタッドボルトを固定する場合は、フランジへの下穴は小さくてよく、作業時間がねじ込み式に比べて圧倒的に短い。その上、火花が発生せず可燃物への配慮が不要となるなど、工事現場での施工性に優れている。
【0032】
(スタッドボルト)
スタッドボルト3は、ステンレス製のボルト材であり、図9に示すように、縦材21をねじ止め可能な所定長さのM10のねじ山が形成されたねじ部30と、このねじ部30の長手方向の一端部に形成されてM10のボルト径より小さい径の基端部31と、を備えている。図9は、スタッドボルト3を軸直角方向に見た側面図である。
【0033】
また、図9に示すように、基端部31には、ゴム状のネオプレーンゴムからなるシール材32と、円錐台状のワッシャー33が、嵌め込まれている。そして、基端部31の先端円周には、テーパー面31aが形成されている。このテーパー面31aは、基端部31が基端部31の径の小さい下孔に打ち込まれる際に案内する機能を有している。
【0034】
(枠体)
枠体2は、縦材21と横材22が後述の接続部材5を介して格子状に組み合わされたものであり、本実施形態では、図3図6に示すように、横材22の長手方向の両端に縦材21が設置されている。つまり、2本縦材21同士の間に6本の横材22が所定間隔をあけて直交するように接合されている。防護柵1には、強風時や列車走行時に大きな風圧が作用するため、その風圧に対抗する横材22にはこれらの荷重に耐えられる構造が求められている。このため、横材22の長さを既設の支柱(内側支柱14)のピッチとし、横材22の両端を支柱に固定した縦材21で支持する両端支持とすることで強度上有利な構造となるからである。
【0035】
(チャンネル部材)
縦材21及び横材22は、いずれも断面コの字状のチャンネル部材4から構成されている。このチャンネル部材4は、図10に示すように、矩形ボックス状の断面の一辺(角筒状の一面)に開口溝40が形成された開放面41となっており、その開放面41の反対側が閉塞された閉塞面42となった部材である。図10は、チャンネル部材4を示す図であり、(a)が長手方向と直交する断面図であり、(b)が開放面41から閉塞面方向に見た側面図である。
【0036】
この閉塞面42に、部材同士を接続する際の接続孔が穿設されている。この接続孔は、図10に示すように、チャンネル部材4の長手方向に長い長孔43と、円形の円形孔44の二種類の接続孔が設けられている。図示形態では、チャンネル部材4は、長孔43と円形孔44が交互に設けられている。
【0037】
また、図10(a)に示すように、開口溝40の両縁は、断面U字状に折り返す折返し片45が形成されている。この折返し片45は、後述の接続部材5の固定金具51の嵌合溝と嵌合する。
【0038】
なお、図10(a)に示すように、チャンネル部材4の両側面46には、接続孔として複数の円形孔44が穿設されている。
【0039】
(縦材)
図5に示すように、縦材21は、既設の逆L形高欄10の内側支柱14に打込み溶着されたスタッドボルト3に閉塞面42の接続孔が挿通されて、スタッドボルト3と螺合するナット(図示形態ではM10の座付ナットN)で締め付けることで内側支柱14に接合される。
【0040】
(横材)
そして、横材22は、縦材21の開放面41が横材22の閉塞面42に当接して、縦材21の長手方向と横材22の長手方向が直交するように後述の接続部材5を介して接合されている。本実施形態に係る防護柵1では、図1図2図6等に示すように、上下方向に高速列車の風圧に耐える所定間隔を置いて6本(一般的には、4~8本)の横材22が接合されている。
【0041】
(接続部材)
接続部材5は、ボルトB(実施形態ではM10のボルト)(図6図7参照)と、これと螺合するツイストロックチャンネルナット50から構成されている。このツイストロックチャンネルナット50は、図11に示すように、浅い断面コの字状の溝形の鋼材が斜めに切断され正面視平行四辺形状となった固定金具51と、この固定金具51に固着された樹脂製の樹脂プレート52など、から構成されている。図11は、接続部材5のツイストロックチャンネルナット50を示す図であり、(a)がボルト挿入方向に見た正面図であり、(b)が平面図、(c)が右側面図、(d)が斜視図である。
【0042】
この固定金具51は、中央にM10のボルトと螺合するねじ溝が形成された円形筒状のねじ部53を備え、溝形の縁部54には、前述の折返し片45と嵌合する三角形状の4つの嵌合溝55が形成されている。
【0043】
樹脂プレート52は、矩形プレート状のプレート部56と、このプレート部56から2方向の両側に突出する一対のウィング部57と、プレート部56と連続してねじ部53の外周に嵌着される嵌着部58と、を備えている。
【0044】
また、樹脂プレート52は、嵌着部58が筒状のねじ部53の周りに嵌め込まれた状態で、縁部54がカシメられることで固定金具51に固着されている。
【0045】
このツイストロックチャンネルナット50は、ねじ部53にボルトが挿通されて、電動工具等でボルトを回転させる際、嵌合溝55がチャンネル部材4の折返し片45に当接して掛け止められることでツイストロックチャンネルナット50の回転を止めている。ツイストロックチャンネルナット50の回転が止まった状態で電動工具等でボルトを回転させ続けると、ボルトと螺合するねじ部53が締め付けられて、ツイストロックチャンネルナット50がボルトの頭側に引き寄せられる。
【0046】
このため、縦材21の開口溝40からツイストロックチャンネルナット50を縦材21内に挿入し、縦材21の開放面41と横材22の閉塞面42を当接させて横材22の接続孔にボルトを挿通して締め付けると、ツイストロックチャンネルナット50の嵌合溝55が縦材21の折返し片45に食い込んで縦材21の開口溝40の任意の位置に横材22を強固に固定することができる。
【0047】
(パネル材)
パネル材6は、透明な樹脂板からなり、本実施形態では、耐衝撃性能が一般の石英ガラスと比べて250倍以上であるポリカーボネートから形成されている。本実施形態に係るパネル材6は、厚さ5mm×高さ2400mm×幅500mmの縦長な長方形状となっている。ポリカーボネートの密度は、1.2g/cmであり、パネル材6の1枚の重さは、7200gと軽く、人力で持ち運ぶことが容易である。このため、パネル材6は、揚重機を使用しないで設置作業ができ、作業効率が極めて良い。
【0048】
勿論、本発明に係るパネル材は、ポリカーボネートに限られず、金属製の折板や他の樹脂製のパネルとすることもできる。但し、パネル材を透明な樹脂板とすることで、軌道内の状況が視認できる上、太陽光が入るため明るくなり、軽量で運搬性が良好で作業性が向上する。
【0049】
なお、パネル材6の高さにより横材本数が変わり、一般的には、縦材21に対して横材22が4~8本程度接合される。よって、既設H形鋼支柱である内側支柱14にスタッドボルト3を介して横材22を直接固定する場合、横材22の本数分である横材片側当たり4~8本(横材両側では8~16本)のスタッドボルトを内側支柱14に設置する必要がある。しかし、本実施形態に係る防護柵1では、内側支柱14のフランジ面に縦材21の上方と下方を固定するため、縦材21の本数に対して2本のスタッドボルト3があればよい。スタッドボルト3の設置は現場施工となるため、本数を減らすことで、施工手間や施工コストを削減することが可能となる。
【0050】
(補強材)
また、図6図7等に示すように、パネル材6は、補強材7を介して枠体2に取り付けられている。具体的には、図7図8に示すように、補強材7である帯鋼板からなるフラットバー71でボルトBと接触する部分を保護するとともに、高速列車通過時の強風に対抗して曲げ剛性を向上させるために、パネル材6の高欄側に補強材7である鋼材からなるアングル材72が横材22とパネル材6との間に介装されている。
【0051】
図7図8に示すように、縦材21の開放面41と横材22の閉塞面42を当接させて、縦材21と横材22とを前述の接続部材5で接合して枠体2を構成した後、横材22の開口溝40からツイストロックチャンネルナット50を横材22内に挿入し、接続部材5のボルトBをアングル材72、パネル材6、フラットバー71の接合孔に差し込んで回転する。すると前述のように、ツイストロックチャンネルナット50の嵌合溝55が横材22の折返し片45に食い込んで横材22の長手方向に沿った開口溝40の任意の位置でパネル材6等を固定することができる。
【0052】
(塞ぎ材)
さらに、図6図8に示すように、本実施形態に係る防護柵1の下部外側(工事区域CA側)には、パネル材6の下部開口を塞ぐための折曲げ鋼板(本実施形態では高耐食性めっき鋼板)からなる塞ぎ材9が取り付けられている。
【0053】
この塞ぎ材9は、図6図8に示すように、既設の内側支柱14の外側フランジに溶着されたスタッドボルト3にボルト固定されている。
【0054】
以上説明した本発明の実施形態に係る防護柵1によれば、縦材21と横材22などのチャンネル部材4同士の接合やチャンネル部材4とパネル材6などの他の部材との接合を接続部材5でチャンネル部材4の開口溝40の任意の位置に固定することができる。このため、スタッドボルト3に固定された縦材21に対して、横材22が自由に上下方向に移動でき、既設の内側支柱14に現地で取り付けるスタッドボルト3に施工誤差が生じたり、パネル材6に製作誤差が生じたりした場合でも、パネル材6を容易に横材22に固定することできる。
【0055】
また、一般に、パネル材の高さは2mを超える高さに達するので、パネル材6は、4~8本の横材22を配設して風荷重に対抗する必要がある。既設の支柱にスタッドボルト3を介して横材22を直接固定する場合、横材22の本数分である横材片側当たり4~8本(横材両側では8~16本)のスタッドボルト3を既設の支柱に設置する必要がある。しかし、本実施形態に係る防護柵1では、既設の内側支柱14のフランジ面に1本の縦材21につき、上方と下方を固定するための少なくとも2本のスタッドボルト3があればよい。このため、防護柵1によれば、現場施工となり施工に手間がかるスタッドボルト3の設置本数を減らすことにより、防護柵1全体の設置作業の施工手間や施工コストを削減することが可能となる。
【0056】
その上、既設支柱(内側支柱14等)の軌道方向の間隔は、現地の状況により変動する場合がある。このため既設支柱の支柱間隔により、風荷重による面圧が異なるため、必要となる横材22の本数も変動する。これに伴い、横材22を取り付ける上下間隔も変動する。このため、既設支柱にスタッドボルト3を介して横材22を直接固定する場合、支柱間隔によりその都度、スタッドボルト3の位置決めをする必要が生じ、工事現場においてとても煩雑な作業となる。一方、防護柵1によれば、縦材21の任意の位置に横材22を固定できるため、縦材21を設置した後、横材22の本数や、横材22の上下間隔を自由に選定できる。このため、防護柵1では、スタッドボルト3の設置作業と縦材21の設置作業は、既設支柱である内側支柱14の間隔に関係なく、機械的に作業できるため、施工性が極めてよい。
【0057】
次に、図12図17を用いて、本発明の第2実施形態に係る防護柵1’について説明する。第2実施形態に係る防護柵1’が、前述の防護柵1と相違する点は、主に、横材22が縦材21に横材固定金具23を介して固定されている点であるのでその点を中心に説明し、同一構成は同一符号を付し、説明を省略する。
【0058】
図12は、本発明の第2実施形態に係る防護柵1’を示す平面図であり、図13は、防護柵1’を逆L形高欄10の内側から軌道側に向いて見た状態を示す背面図である。また、図14は、図12のE部拡大平面図であり、図15は、図12のF-F線鉛直断面図であり、図16は、図15のG部拡大図である。そして、図17は、防護柵1’の横材受け部材24を示す斜視図である。
【0059】
図12図14に示すように、防護柵1’の枠体2’は、横材22が縦材21に直接接続部材5で接合されているのではなく、横材固定金具23を介して固定されている。この横材固定金具23は、縦材21や横材22と同様に、前述のチャンネル部材4から構成されている。
【0060】
具体的には、図14図16に示すように、横材固定金具23の閉塞面42が縦材21側に、開放面41が横材22側に配置されて、縦材21の長手方向と横材固定金具23の長手方向が直交するように接続部材5で接合される。そして、縦材21に直交して固定された横材固定金具23の長手方向に沿って、横材固定金具23の開放面41が横材22の閉塞面42に当接するように配置して両者を接続部材5で接合する。
【0061】
また、この横材固定金具23の長さは、200mm~1000mmとなっている。これは、横材22が横材固定金具23と長手方向に重なり合ってラップする部分の長さが100mm以上必要であり、横材固定金具23の両端部でそれぞれ違う横材22が取り付けられることを考えると、横材固定金具23の長さは、200mm以上必要であるからである。
【0062】
また、逆L形高欄10を改修する際、天井パネル(パネル材13)やその支持材が撤去されるため、既設支柱である内側支柱14の上端がフリーの状態となる。このため、内側支柱14が倒れ易くなり、剛性を上げて防護柵1’全体の変形を抑えないと列車側への建築限界を侵すおそれがある。そこで、横材固定金具23の長さを長くして横材22とのラップ部分を長くすることにより、防護柵1’全体の変形を抑えることが可能となる。
【0063】
但し、横材固定金具23の長さが1000mmを超えると、曲げ剛性の向上よりもコストアップのデメリットが大きくなるため、横材固定金具23の長さは、200mm~1000mmの範囲が好適である。
【0064】
また、防護柵1’の枠体2’において、横材固定金具23には、横材22の長手方向の端部を載置する断面L字状又は断面J字状の横材受け部材24が取り付けられた上、横材固定金具23と横材22とが接続部材5で接合されている。
【0065】
この横材受け部材24は、高耐食性めっき鋼板からなり、図17に示すように、図示形態では、横材固定金具23の長さに応じた所定長さを有する断面J字状の部材となっている。この横材受け部材24の縦材21側となる面には、接続部材5のボルトBを挿通するための複数のボルト孔24aが穿設されている。
【0066】
この横材受け部材24は、このボルト孔24aにボルトBが挿通されて、縦材21と横材固定金具23とが接続部材5で接合される際に介装されて、挟み込まれることで横材固定金具23に横材受け部材24が装着される。
【0067】
以上説明した本発明の第2実施形態に係る防護柵1’によれば、前記作用効果に加え、横材固定金具23を用いることで縦材21の必要本数を低減することができ、施工コストを低減することができる。また、横材22の閉塞面42の孔位置によっては、縦材21との接合位置が円形孔44と長孔43との間となる場合があり、横材22を縦材21に取り付けできない場合が生じ得る。しかし、横材固定金具23を介することで、横材22の閉塞面42の孔位置によらず、横材22を確実に縦材21に固定できる。さらに、既設支柱である内側支柱14の間隔が多少相違したり、横材22の長さに多少の誤差があったりした場合でも横材固定金具23を介することで対応することができる。
【0068】
また、横材22を横材固定金具23に接続部材5で固定する場合、横材22を支持する人と、接続部材5で横材22を固定する人の2人作業となるものと考えられるが、横材受け部材24を設置することで、横材22の仮受けが可能となる。
【0069】
このため、防護柵1’によれば、横材22の長手方向の両端部をそれぞれ横材受け部材24に載置した後、接続部材5で横材22を固定することで、1人作業でこれらの2つの作業を行うことができ、施工の省力化を達成することができる。
【0070】
以上、実施形態に係る防護柵1,1’について詳細に説明したが、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎない。よって、例示した実施形態によって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【0071】
特に、本発明の実施形態に係る防護柵は、新幹線などの高速列車が通過する専用高架橋に沿って立設された既設の逆L形高欄10を改修する改修工事を行う場合に用いられる、軌道に沿って設置され、既設の逆L形高欄の支柱を支柱とする防護柵を例示して説明した。しかし、本発明に係る防護柵は、縦材と横材を格子状に組み合わせた枠体が支柱に取り付けられ、前記枠体にパネル材が取り付けられた、軌道と工事区域とを区画する仮設又は常設の防護柵には適用することができる。
なお、本発明は、防護柵を設置する位置に支柱が存在していれば適用可能であり、軌道を有する鉄道分野に限定されるものではない。道路分野など、工事区域と他の区域とを区画する種々の分野を対象としていることを付記する。
【符号の説明】
【0072】
1,1’:防護柵
2,2’:枠体
21:縦材
22:横材
23:横材固定金具
24:横材受け部材
24a:ボルト孔
3:スタッドボルト
30:ねじ部
31:基端部
31a:テーパー面
32:シール材
33:ワッシャー
4:チャンネル部材
40:開口溝
41:開放面
42:閉塞面
43:長孔
44:円形孔
45:折返し片
46:側面
5:接続部材
B:ボルト
50:ツイストロックチャンネルナット
51:固定金具
52:樹脂プレート
53:ねじ部
54:縁部
55:嵌合溝
56:プレート部
57:ウィング部
58:嵌着部
6:パネル材
7:補強材
71:フラットバー
72:アングル材
9:塞ぎ材
10;逆L形高欄
11:壁高欄
12:外側支柱
13:パネル材
14:内側支柱
15:天井支持鋼材
CA:工事区域
R1:軌道
図1
図2
図3
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図5
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