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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127879
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】溶鋼の脱ガス処理方法
(51)【国際特許分類】
   C21C 7/10 20060101AFI20230907BHJP
【FI】
C21C7/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031827
(22)【出願日】2022-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】正木 陽介
(72)【発明者】
【氏名】久志本 惇史
(72)【発明者】
【氏名】宮田 政樹
(72)【発明者】
【氏名】石橋 正嗣
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦智
【テーマコード(参考)】
4K013
【Fターム(参考)】
4K013BA08
4K013BA09
4K013BA11
4K013CE01
4K013CE06
4K013DA12
4K013EA24
4K013EA25
(57)【要約】
【課題】効率よく溶鋼の脱窒処理を行う溶鋼の脱ガス処理方法を提供する。
【解決手段】溶鋼中に前記溶鋼の温度よりも沸点が低い元素を添加して溶解し、真空下で過飽和にして気泡として発生させて脱窒処理を行い、脱ガス処理の終了時に溶鋼中の酸素濃度を100ppm未満、溶鋼中の前記元素の濃度を5ppm未満とする。好ましくは前記溶鋼の温度よりも沸点が低い元素として、Ca、Mgの一種または二種を用いて脱窒処理を行う。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶鋼中に前記溶鋼の温度よりも沸点が低い元素を添加して溶解し、真空下で過飽和にして気泡として発生させて、脱窒または脱水素処理を行い、脱ガス処理の終了時に溶鋼中の前記元素の濃度を5ppm未満とすることを特徴とする溶鋼の脱ガス処理方法。
【請求項2】
前記脱ガス処理の終了時に溶鋼中の酸素濃度を100ppm未満とすることを特徴とする請求項1に記載の溶鋼の脱ガス処理方法。
【請求項3】
前記溶鋼の温度よりも沸点が低い元素として、Ca、Mgの一種または二種を用いて脱窒または脱水素処理を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の溶鋼の脱ガス処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、溶鋼内部から気泡を発生させて脱窒処理を行う溶鋼の脱ガス処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶鋼中の不純物成分である炭素等を除去するために、RHやREDAといった装置による真空脱ガス処理が行われている。一般的に、脱ガス反応を促進するためには反応界面積を増加させたり物質移動を促進させたりすることが有効であり、溶鋼中にガスを吹込んで気泡を生成させることで、気液界面積を増加させたり撹拌を強化したりすることが行われる。その手法の一例として、RH型真空脱ガス装置において、環流ガスとしてAr流量を増加させることによって気泡生成量を増加させる操作が挙げられる。しかしながら、過剰にAr流量を増加させて撹拌を強化すると耐火物の溶損も助長するため、環流ガスの流量には実質的に上限がある。また、吹込みにより生成される気泡は粗大であるため、気液界面積を増加させる効率が低い。
【0003】
一方、ガス成分を溶解させた溶鋼を、真空にして過飽和の状態とすることで、溶鋼内部から気泡を生成させる手法がある。この場合、ガス化の反応によって気泡が生成するため、ガスを溶鋼内に吹込む場合よりも微細な気泡となり、気液界面積を増加させる効率が高い利点がある。例えば特許文献1には、真空脱炭処理中に水素含有物質を溶鋼に添加することで、溶鋼から水素気泡が発生し、脱炭速度が増加することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭57-194206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
溶鋼内部から気泡を生成させる手法として、鋼種によっては脱炭処理のみならず、鋼種によっては脱窒処理や、脱水素処理が必要な場合もある。脱窒処理や脱水素処理では、溶鋼中の窒素や水素がそのままN2ガス、H2ガスとして排出されるのに対し、脱炭処理では、溶鋼中の炭素と酸素とが反応してCOまたはCO2ガスとして排出される。このように脱炭処理では酸素を多く必要とする処理であり、特に溶鋼中の炭素や酸素の濃度が高い条件では、脱炭反応や脱酸反応が起こりやすい。特許文献1に記載の方法は脱炭処理の手法であり、脱窒処理や脱水素処理に適用することができない。
【0006】
本発明は前述の問題点を鑑み、効率よく溶鋼の脱窒処理または脱水素処理を行う溶鋼の脱ガス処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、気液界面積を増加させるために、溶鋼内部から気泡を生成しながら脱窒処理を行う方法について鋭意検討を行った。その結果、溶鋼温度よりも沸点が低い元素を添加すれば、溶鋼の熱によってその元素が気化し、微細な気泡が生成することによって溶鋼中の不純物成分(窒素および水素)も除去されることを見出した。
【0008】
本発明は以下の通りである。
(1)
溶鋼中に前記溶鋼の温度よりも沸点が低い元素を添加して溶解し、真空下で過飽和にして気泡として発生させて脱窒または脱水素処理を行い、脱ガス処理の終了時に溶鋼中の前記元素の濃度を5ppm未満とすることを特徴とする溶鋼の脱ガス処理方法。
(2)
前記脱ガス処理の終了時に溶鋼中の酸素濃度を100ppm未満とすることを特徴とする上記(1)に記載の溶鋼の脱ガス処理方法。
(3)
前記溶鋼の温度よりも沸点が低い元素として、Ca、Mgの一種または二種を用いて脱窒または脱水素処理を行うことを特徴とする上記(1)または(2)に記載の溶鋼の脱ガス処理方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、効率よく溶鋼の脱窒処理を行う溶鋼の脱ガス処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
まず、取鍋内の溶鋼にRH型真空脱ガス装置の浸漬管を浸漬させ、真空槽内を真空引きする。そして、溶鋼内に溶鋼温度よりも沸点が低い元素(以下、揮発性金属元素と称す)を添加し、浸漬管の側面から環流ガス(Ar)を流して溶鋼を環流させることによって脱ガス処理を行う。
【0011】
ここで、揮発性金属元素とは、一般的な溶鋼温度1600~1650℃よりも沸点が低い金属元素を示し、具体的な元素としては、例えば、Ca(沸点:1503℃)、Mg(沸点:1095℃)、Sr(沸点:1414℃)、Na(沸点:883℃)、K(沸点:765℃)、Zn(沸点:907℃)、Bi(沸点:1561℃)、Te(沸点:988℃)が挙げられる。特に、Ca、Mgは蒸気圧が高く、真空下においては低濃度でも気泡が発生しやすく、また、溶鋼の脱酸や介在物処理においてもよく用いられていることから、合金の入手が容易、特別な新規設備が不要、溶鋼への供給が容易という利点がある。そのため、Caおよび/またはMgを用いることが好ましい。
【0012】
また、揮発性金属元素は金属単体で添加してもよく、合金として添加してもよい。本実施形態では、主に脱窒処理を行うために、脱炭反応が起こらない条件として、予め溶鋼中の酸素濃度を低くしておくか、もしくは脱酸元素(Si,Alなど)とともに添加する必要がある。したがって、合金として揮発性金属元素を添加する場合には、脱酸力の強い元素との合金を用いることが好ましい。より好ましくは例えばCaSi、MgSiなどが挙げられる。
【0013】
さらに揮発性金属元素の添加方法については、真空下で過飽和にして気泡として発生させることができれば、どのような方法であってもよい。例えば、脱窒処理の効率を重視する場合には、コアードワイヤーに内装して揮発性金属元素を供給する方法が挙げられる。また、操業上のやりやすさを重視する場合には、合金ホッパーから供給する方法、もしくは揮発性金属元素の粉体を上吹きランスからキャリヤガスとともに溶鋼へ吹付ける方法などが挙げられる。
【0014】
以上のように揮発性金属元素を添加することにより、溶鋼中で揮発性金属元素が気化し、微細な気泡が生成する。微細な気泡によって気液界面積が大きくなり、溶鋼中の窒素や水素が気泡表面に取り込まれる。そして、気化した揮発性金属元素は真空槽内でN2ガスやH2ガスとともに回収される。また、CaSiなど脱酸元素を含む合金として添加した場合は、溶鋼中の酸素と脱酸元素とが反応し、酸化物からなる介在物が生成され、溶鋼の環流によって溶鋼表面から介在物が回収される。なお、揮発性金属元素の一部も酸化物を形成して溶鋼表面から回収される。
【0015】
一方、溶鋼中の酸素濃度が高い状態で脱酸元素を添加せずに揮発性金属元素を添加すると、溶鋼中の炭素と酸素とが反応したり、揮発性金属元素との酸化物を形成したりするため、脱窒効果が低減する。このような反応を防止するためには溶鋼中酸素濃度が低くなるような条件とすることが好ましい。具体的には、脱ガス処理終了時において溶鋼中酸素濃度が100ppm未満となるような条件とすることが好ましい。より好ましくは溶鋼中酸素濃度が50ppm未満、さらに好ましくは20ppm未満である。
【0016】
また、脱窒処理時間は長いほど脱窒効果は大きくなるため、上限は特に限定されないが、揮発性金属元素が気化して溶鋼中に揮発性金属元素がほとんど残っていない状態では、溶鋼中の窒素濃度は低下しにくくなる。また、脱窒処理時間が短い場合には、溶鋼中に揮発性金属元素が残ったままとなり、脱窒効果が不十分となる。したがって、脱窒効果を十分に得るためには、脱ガス処理終了時において、溶鋼中の揮発性金属元素の濃度は5ppm未満とする。好ましくは3ppm未満とする。
【0017】
以上のような条件によって、効率よく脱窒処理を行うことができる。また、溶鋼中の水素濃度についても同様の方法により効率よく低下させることができる。なお、以上に説明した手順においては、脱炭処理を行わない例として説明したが、本実施形態に係る脱窒処理または脱水素処理を行う前(揮発性金属元素を添加する前)に予め脱炭処理を行ってもよい。また、同様に脱窒処理(脱水素処理)を行う前に予め金属Alなどを添加して脱酸処理を行ってもよい。
【実施例0018】
次に、本発明の実施例について説明するが、この条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するための一条件例であり、本発明は、この実施例の記載に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する種々の手段にて実施することができる。
【0019】
転炉から出鋼した280tの溶鋼を収容した取鍋をRH型真空脱ガス装置へ移動させ、浸漬管を溶鋼内に浸漬させ、真空槽内を0.7kPaまで真空引きした。なお、処理対象である溶鋼の成分は、質量%でCを0.10%、Siを0.3%、Mn濃度を0.60%、Sを0.0015%、Alを0.1%含み、溶鋼温度は1600~1630℃であった。
【0020】
そして、浸漬管の側面から環流ガスとしてArガスを流し、溶鋼を環流させるとともに、コアードワイヤーにより、カルシウムシリコン(Ca:10~20%、Si:80~90%)合金、マグネシウムシリコン合金(Mg:10~20%、Si:80~90%)、カルシウムマグネシウムシリコン合金のいずれかの合金を溶鋼中へ添加し、さらに、浸漬管の側面から環流ガスとしてArガスを流して溶鋼を環流させ、揮発性金属元素であるCa、Mgの気泡を発生させた。この時に添加した合金の原単位および組成比を表1に示す。また、合金を添加した直後(脱窒および脱水素処理前)における溶鋼中のCa濃度およびMg濃度を表1に示した結果であった。さらに処理前の溶鋼中のN濃度は40ppm、H濃度は5.0ppmであった。
【0021】
そして、揮発性金属元素であるCa、Mgの気泡を発生させて脱窒処理および脱水素処理を行い、気泡の発生量が減少した段階で脱ガス処理を終了し、処理後の溶鋼中のCa濃度、Mg濃度、N濃度、H濃度およびO濃度を測定した。測定結果を表1に示す。
【0022】
また、比較のため、揮発性金属元素を添加せずに溶鋼の環流のみを行って脱窒処理および脱水素処理を行う実験と、脱窒処理および脱水素処理の処理時間を短縮した実験も行った。この結果も併せて表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
揮発性金属元素を添加していない比較例No.1の処理後のN濃度が35ppmであった。Ca、Mgの気泡を発生させたものの、処理後のCa、Mg濃度が高かったNo.2、3では処理後のN濃度が26~28ppmと高かった。対して、Ca、Mgの気泡を発生させ、かつ処理後のCa、Mg濃度が5ppm未満の実施例No.4~12では処理後のN濃度が15~21ppmと大きく低下した。また、処理後のH濃度については、比較例No.1が1.8ppm、実施例No.2、3が1.5ppmであったのに対し、実施例No.3~12では1.0~1.3ppmと大きく低下した。