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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127898
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】高分子アクチュエータ及びセンサ
(51)【国際特許分類】
   H02N 11/00 20060101AFI20230907BHJP
   C08L 33/06 20060101ALI20230907BHJP
   C08L 71/00 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
H02N11/00 Z
C08L33/06
C08L71/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031852
(22)【出願日】2022-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋充
(72)【発明者】
【氏名】高木 凡子
(72)【発明者】
【氏名】中井 孝憲
(72)【発明者】
【氏名】石田 真
(72)【発明者】
【氏名】玉井 秀樹
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002GQ00
4J002GT00
(57)【要約】
【課題】柔軟性(弾性率)を維持したまま、誘電率を向上させ、体積抵抗率の低下を抑制した誘電エラストマ層を備える高分子アクチュエータを提供すること。
【解決手段】誘電エラストマ層と前記誘電エラストマ層の両面に配置された2つの電極とを備えており、
前記誘電エラストマ層が、ポリロタキサンを含む樹脂成分と、ポリアルキレングリコール鎖と環状カーボネート構造とを側鎖に有する(メタ)アクリルポリマーとを含有する組成物の硬化物からなるものであることを特徴とする高分子アクチュエータ。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電エラストマ層と前記誘電エラストマ層の両面に配置された2つの電極とを備えており、
前記誘電エラストマ層が、ポリロタキサンを含む樹脂成分と、ポリアルキレングリコール鎖と環状カーボネート構造とを側鎖に有する(メタ)アクリルポリマーとを含有する組成物の硬化物からなるものであることを特徴とする高分子アクチュエータ。
【請求項2】
前記(メタ)アクリルポリマーが、下記式(1):
【化1】
(前記式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、AOはアルキレンオキシ基を表し、Rはアルキル基を表し、pは前記アルキレンオキシ基の重合度を表す。)
で表される繰返し単位と、下記式(2):
【化2】
(前記式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rはアルキレン基を表し、Bは前記環状カーボネート構造を表す。)
で表される繰返し単位とを含有するものであることを特徴とする請求項1に記載の高分子アクチュエータ。
【請求項3】
前記環状カーボネート構造がエチレンカーボネート構造であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高分子アクチュエータ。
【請求項4】
請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の高分子アクチュエータを備えることを特徴とするセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子アクチュエータ及びセンサに関し、より詳しくは、誘電エラストマ層を備える高分子アクチュエータ及びセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリロタキサンを含有する誘電エラストマ層を備える高分子アクチュエータは、変位の大きい高分子アクチュエータとして知られている(例えば、特開2017-66318号公報(特許文献1))。しかしながら、従来のポリロタキサンを含有する誘電エラストマ層を備える高分子アクチュエータにおいては、出力が必ずしも十分に高いものではなく、高出力化が求められていた。
【0003】
一般に、誘電エラストマ層を備える高分子アクチュエータを高出力化するためには、誘電エラストマ層の誘電率を向上させることが有効であると考えられている。そして、誘電エラストマ層の誘電率を向上させるためには、チタン酸バリウムやチタニア等の高誘電率フィラーを配合することが有効であると考えられる。しかしながら、高誘電率フィラーは、弾性率が高いセラミックスからなるものが多いため、このような高誘電率フィラーを誘電エラストマ層に配合すると、誘電エラストマ層の誘電率は向上するものの、弾性率が著しく高くなるため、動作時に高分子アクチュエータの変位量が小さくなるという問題があった。このため、誘電エラストマ層を備える高分子アクチュエータにおいて、誘電エラストマ層の柔軟性を維持しながら、誘電率を向上させる技術が求められてきた。
【0004】
また、特開2018-59042号公報(特許文献2)には、側鎖にカーボネート基等の極性基が導入された共重合体を含有する誘電エラストマ材料が開示されており、前記極性基を導入することによって、前記誘電エラストマ材料の比誘電率が増大することが記載されている。しかしながら、側鎖にカーボネート基等の極性基のみが導入された共重合体を含有する誘電エラストマ材料は、比誘電率の向上が必ずしも十分ではなく、また、側鎖にカーボネート基等の極性基が導入された共重合体を含有しない誘電エラストマ材料に比べて、体積抵抗率が低下するという問題があった。更に、この誘電エラストマ材料を使用したアクチュエータやセンサにおいては、これらの動作によって誘電エラストマ材料の変形が繰返されて誘電エラストマ材料にヘタリが発生し、動作の可逆性が損なわれるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-66318号公報
【特許文献2】特開2018-59042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、柔軟性(弾性率)を維持したまま、誘電率を向上させ、体積抵抗率の低下を抑制した誘電エラストマ層を備える高分子アクチュエータ及びセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ポリロタキサンを含有する誘電エラストマ層に、ポリアルキレングリコール鎖と環状カーボネート構造とを側鎖に有する(メタ)アクリルポリマーを配合することによって、誘電エラストマ層の柔軟性(弾性率)を維持したまま、誘電率を向上させ、体積抵抗率の低下を抑制することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の高分子アクチュエータは、誘電エラストマ層と前記誘電エラストマ層の両面に配置された2つの電極とを備えており、前記誘電エラストマ層が、ポリロタキサンを含む樹脂成分と、ポリアルキレングリコール鎖と環状カーボネート構造とを側鎖に有する(メタ)アクリルポリマーとを含有する組成物の硬化物からなるものであることを特徴とするものである。
【0009】
本発明の高分子アクチュエータにおいては、前記(メタ)アクリルポリマーが、下記式(1):
【0010】
【化1】
【0011】
(前記式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、AOはアルキレンオキシ基を表し、Rはアルキル基を表し、pは前記アルキレンオキシ基の重合度を表す。)
で表される繰返し単位と、下記式(2):
【0012】
【化2】
【0013】
(前記式中、Rは水素原子又はメチル基を表し、Rはアルキレン基を表し、Bは前記環状カーボネート構造を表す。)
で表される繰返し単位とを含有するものであることが好ましい。
【0014】
また、本発明の高分子アクチュエータにおいては、前記環状カーボネート構造がエチレンカーボネート構造であることが好ましい。
【0015】
さらに、本発明のセンサは、前記本発明の高分子アクチュエータを備えていることを特徴とするものである。
【0016】
なお、本発明によって、誘電エラストマ層の柔軟性(弾性率)を維持したまま、誘電率を向上させ、体積抵抗率の低下を抑制することが可能となる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、環状カーボネートは大きな誘電分極を有しているため、高い誘電率を示す。しかしながら、誘電エラストマ層に、側鎖に環状カーボネート構造のみを有する(メタ)アクリルポリマーを配合すると、環状カーボネート構造の大きな誘電分極によって、環状カーボネート構造同士が凝集しやすく、凝集体構造内で分極が打ち消されるため、誘電エラストマ層に電場を印加しても、(メタ)アクリルポリマーが電場の印加方向に配向しにくく、誘電率が向上しにくくなる。また、環状カーボネート構造同士の凝集によって、誘電エラストマ層の体積抵抗率が低下しやすくなる。一方、側鎖にポリアルキレングリコール鎖と環状カーボネート構造とを有する(メタ)アクリルポリマーを配合すると、運動性が高く、大きな分極を誘起しやすいポリアルキレングリコール鎖の作用によって、環状カーボネート構造同士の凝集を抑制することができるため、誘電エラストマ層に電場を印加すると、(メタ)アクリルポリマーが電場の印加方向に配位し、誘電率が向上し、体積抵抗率の低下が抑制されると推察される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、柔軟性(弾性率)を維持したまま、誘電率を向上させ、体積抵抗率の低下を抑制した誘電エラストマ層を備える高分子アクチュエータ及びセンサを得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0019】
本発明の高分子アクチュエータは、誘電エラストマ層と前記誘電エラストマ層の両面に配置された2つの電極とを備えており、前記誘電エラストマ層は、ポリロタキサンを含む樹脂成分と、ポリアルキレングリコール鎖と環状カーボネート構造とを側鎖に有する(メタ)アクリルポリマーとを含有する組成物の硬化物からなるものである。
【0020】
(ポリロタキサン)
ポリロタキサンとは、環状の分子(リング状分子)の穴を棒状の分子(軸分子)が貫通し、棒状の分子の両末端に嵩高い部位(末端基)が結合した構造を有する分子集合体である。このようなポリロタキサンを誘電エラストマ層に含有させることによって、誘電エラストマ層において絶縁破壊電圧の低下を抑制しながら誘電率を向上させることができ、アクチュエータの出力を向上させることが可能となる。また、前記ポリロタキサンを含有する誘電エラストマ層は、前記ポリロタキサンが動的な架橋点となり、変形による架橋点の破壊が起こらないため、ヘタリが発生しにくく、動作の可逆性(可逆応答性)と安定性に優れている。本発明においては、このようなポリロタキサンとして特に制限はなく、従来公知のポリロタキサンを用いることができる。
【0021】
前記リング状分子としては特に制限はなく、例えば、シクロデキストリン(例えば、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン)、クラウンエーテル、シクロファン、カリックスアレーン、ククルビットウリル、環状アミド等が挙げられる。これらのリング状分子は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、このようなリング状分子は置換基や側鎖を有していてもよい。これらのリング状分子の中でも、適度な柔軟性と誘電率が得られるという観点から、グラフト鎖としてカプロラクトン鎖を有するシクロデキストリンが好ましい。
【0022】
また、前記軸分子としては特に制限はなく、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリ乳酸、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル等が挙げられる。これらの軸分子は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの軸分子の中でも、ガラス転移温度が低く、リング状分子がスムーズに移動できるという観点から、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールが好ましい。
【0023】
さらに、前記嵩高い末端基としては特に制限はなく、例えば、ジニトロフェニル基、シクロデキストリン基、アダマンタン基、トリチル基、フルオレセイン基、ピレン基、置換ベンゼン環、多環芳香族環、ステロイド基等が挙げられる。これらの末端基は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの末端基の中でも、軸分子の末端に導入しやすく、リング状分子が外れない程の嵩高さを有しているという観点から、ジニトロフェニル基、シクロデキストリン基、アダマンタン基、トリチル基、フルオレセイン基、ピレン基が好ましく、アダマンタン基がより好ましい。
【0024】
((メタ)アクリルポリマー)
本発明に用いられる(メタ)アクリルポリマーは、ポリアルキレングリコール鎖と環状カーボネート構造とを側鎖に有するものである。このような(メタ)アクリルポリマーは、ガラス転移温度が低く、誘電エラストマ層に含有させることによって、誘電エラストマ層の柔軟性(弾性率)を維持したまま、誘電率を向上させことが可能となる。
【0025】
前記ポリアルキレングリコール鎖としては、ポリエチレングリコール鎖、ポリプロピレングリコール鎖が挙げられ、中でも、鎖の運動性が高く、環状カーボネート構造の運動を妨げないという観点から、ポリエチレングリコール鎖が好ましい。また、ポリエチレングリコール鎖は、ポリプロピレングリコールとの親和性を有しているため、前記誘電エラストマ層を形成するための組成物において、マトリックスとしてポリプロピレングリコールを用いる場合には、前記(メタ)アクリルポリマーがマトリックス中に良好に分散し、凝集による絶案破壊を抑制することが可能となる。
【0026】
前記ポリアルキレングリコール鎖におけるアルキレングリコールの重合度としては、4~100が好ましく、4~80がより好ましく、4~50が更に好ましく、4~20がまた更に好ましく、4~10が特に好ましい。アルキレングリコールの重合度が前記下限未満になると、環状カーボネート構造同士の凝集を十分に抑制することができないため、誘電率が十分に向上せず、また、体積抵抗率の低下を十分に抑制できない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、ポリアルキレングリコール鎖の運動性が低下し、環状カーボネート構造の運動を阻害する傾向にある。
【0027】
本発明に用いられる(メタ)アクリルポリマーは、このようなポリアルキレングリコール鎖を含む繰返し単位、例えば、下記式(1):
【0028】
【化3】
【0029】
で表される繰返し単位を有するものである。
【0030】
前記式(1)中、Rは水素原子又はメチル基を表す。また、AOはアルキレンオキシ基を表し、例えば、エチレンオキシ基、プロピレンオキシ基等が挙げられ、中でも、分子量が小さいにもかかわらず分極が大きいため、添加量に対する誘電率向上効果が高くなるという観点から、エチレンオキシ基が好ましい。Rはアルキル基を表し、例えば、メチル基、エチル基等が挙げられる。pは前記アルキレンオキシ基の重合度を表し、4~100が好ましく、4~80がより好ましく、4~50が更に好ましく、4~20がまた更に好ましく、4~10が特に好ましい。pが前記下限未満になると、環状カーボネート構造同士の凝集を十分に抑制することができないため、誘電率が十分に向上せず、また、体積抵抗率の低下を十分に抑制できない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、ポリアルキレングリコール鎖の運動性が低下し、環状カーボネート構造の分極を妨げるため、誘電率が向上しにくくなる傾向にある。
【0031】
前記環状カーボネート構造としては、エチレンカーボネート構造等のアルキレンカーボネート構造が挙げられる。
【0032】
本発明に用いられる(メタ)アクリルポリマーは、このような環状カーボネート構造を含む繰返し単位、例えば、下記式(2):
【0033】
【化4】
【0034】
で表される繰返し単位を有するものである。
【0035】
前記式(2)中、Rは水素原子又はメチル基を表す。また、Rはアルキレン基を表し、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等が挙げられる。Bは前記環状カーボネート構造を表し、例えば、エチレンカーボネート構造等のアルキレンカーボネート構造が挙げられる。
【0036】
また、本発明に用いられる(メタ)アクリルポリマーにおいては、本発明の効果を損なわない範囲において、前記ポリアルキレングリコール鎖を含む繰返し単位及び前記環状カーボネート構造を含む繰返し単位以外に、他の(メタ)アクリルモノマー単位を含んでいてもよい。このような他の(メタ)アクリルモノマー単位としては、側鎖に水酸基を有する(メタ)アクリルモノマー単位、例えば、ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート単位、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート単位等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート単位が挙げられる。
【0037】
本発明に用いられる(メタ)アクリルポリマーにおける(メタ)アクリルモノマーの重合度(すなわち、前記ポリアルキレングリコール鎖を含む繰返し単位と前記環状カーボネート構造を含む繰返し単位と前記他の(メタ)アクリルモノマー単位の合計数)としては、3~1万が好ましく、5~1000がより好ましく、5~100が特に好ましい。(メタ)アクリルモノマーの重合度が前記下限未満になると、(メタ)アクリルポリマーが誘電エラストマ層からブリードアウトしやすくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、(メタ)アクリルポリマーが誘電エラストマ層内で均一に分散しないため、誘電率が十分に向上せず、また、体積抵抗率の低下を十分に抑制できない傾向にある。
【0038】
本発明に用いられる(メタ)アクリルポリマーにおいて、前記ポリアルキレングリコール鎖を含む繰返し単位(以下、「ポリアルキレングリコール鎖単位」ともいう)と前記環状カーボネート構造を含む繰返し単位(以下、「環状カーボネート構造単位」ともいう)とのモル比(ポリアルキレングリコール鎖単位:環状カーボネート構造単位)としては、90:10~30:70が好ましく、80:20~40:60がより好ましく、80:20~50:50が特に好ましい。ポリアルキレングリコール鎖単位:環状カーボネート構造単位が前記下限未満になると、環状カーボネート構造の導入量が少なく、誘電率が向上しにくくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると、環状カーボネート構造同士の凝集を十分に抑制することができないため、誘電率が十分に向上せず、また、体積抵抗率の低下を十分に抑制できない傾向にある。
【0039】
前記誘電エラストマ層を形成するための組成物において、前記(メタ)アクリルポリマーの含有量としては、前記誘電エラストマ層を形成するための樹脂成分100質量部に対して、5~60質量部が好ましく、10~40質量部がより好ましい。前記(メタ)アクリルポリマーの含有量が前記下限未満になると、前記ポリアルキレングリコール鎖及び前記環状カーボネート構造による効果が十分に得られず、例えば、誘電率が十分に向上せず、また、体積抵抗率の低下を十分に抑制できない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、前記(メタ)アクリルポリマーが相分離してしまう傾向にある。
【0040】
また、前記誘電エラストマ層を形成するための組成物において、前記(メタ)アクリルポリマーの含有量としては、前記ポリロタキサン100質量部に対して、5~5000質量部が好ましく、100~3000質量部がより好ましい。前記(メタ)アクリルポリマーの含有量が前記下限未満になると、前記ポリアルキレングリコール鎖及び前記環状カーボネート構造による効果が十分に得られず、例えば、誘電率が十分に向上せず、また、体積抵抗率の低下を十分に抑制できない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、前記(メタ)アクリルポリマーが相分離してしまう傾向にある。
【0041】
このような(メタ)アクリルポリマーの合成方法としては特に制限はなく、例えば、前記ポリアルキレングリコール鎖を含む(メタ)アクリルモノマーと、環状構造に1つの酸素原子を含む複素環式(メタ)アクリレート(例えば、グリシジル(メタ)アクリレート)と、他の(メタ)アクリルモノマーとを、臭化リチウムの存在下、二酸化炭素雰囲気下で加熱して、1つの酸素原子を含む前記環状構造を環状カーボネート構造に変換しながら、前記(メタ)アクリレートを共重合させる方法が挙げられる。また、前記(メタ)アクリルポリマーは、前記ポリアルキレングリコール鎖を含む(メタ)アクリルモノマーと前記環状カーボネート構造を含む(メタ)アクリルモノマーと前記他の(メタ)アクリルモノマーとを従来公知の方法で共重合させることによっても合成することができる。
【0042】
これらの合成方法における反応条件としては特に制限はなく、従来公知の反応条件を適宜採用することができ、また、最適化した反応条件を採用することが好ましい。
【0043】
(その他の樹脂成分)
前記誘電エラストマ層を形成するための組成物には、必要に応じて、ポリシロキサンを含有するブロック共重合体やポリシロキサンを含有しない重合体が含まれていてもよい。ポリシロキサンとしては特に制限はないが、例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。ポリシロキサンを含有するブロック共重合体としては特に制限はないが、例えば、ポリカプロラクトン-ポリシロキサンブロック共重合体、ポリアジペート-ポリシロキサンブロック共重合体、ポリエチレングリコール-ポリシロキサンブロック共重合体等が挙げられる。ポリシロキサンを含有しない重合体としては特に制限はないが、例えば、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリカーボネート、ポリカプロラクトン、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリプロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0044】
本発明にかかる誘電エラストマ層は、前記ポリロタキサンを含む樹脂成分と前記(メタ)アクリルポリマーとを少なくとも含有し、必要に応じて、ポリシロキサンを含有するブロック共重合体やポリシロキサンを含有しない重合体を含有する組成物を硬化させることによって形成することができる。したがって、前記組成物には、必要に応じて、架橋剤が含まれていることが好ましい。
【0045】
このような架橋剤は、前記組成物に含まれる、前記ポリロタキサン、前記ポリシロキサンを含有するブロック共重合体、前記ポリシロキサンを含有しない重合体等の樹脂成分に応じて適宜選択することができ、特に制限はなく、例えば、官能基を有する、脂肪族ポリオール、脂肪族ポリエーテル、脂肪族ポリカーボネート、及びこれらのブロック共重合体が挙げられる。また、前記官能基としては、イソシアネート基、ブロックイソシアネート基、エポキシ基が挙げられる。
【0046】
前記誘電エラストマ層の形成方法としては特に制限はなく、例えば、前記組成物を、スピンコート法、スリットダイコータ法、スクリーンプリント法、インクジェット法等の公知の膜形成方法により塗膜を形成した後、硬化させる方法が挙げられる。
【0047】
本発明の高分子アクチュエータは、このような誘電エラストマ層と前記誘電エラストマ層の両面に配置された2つの電極とからなる電極層付誘電体を備えるものであり、前記電極層付誘電体の形状としては特に制限はなく、例えば、渦巻き状に複数巻いて円筒状にしたもの、波状に湾曲させて折り畳んだカーテン状のもの等が挙げられる。
【0048】
前記電極としては特に制限はなく、従来のアクチュエータに用いられる公知の電極を用いることができ、例えば、貴金属(例えば、銀ナノワイヤ等)やカーボン(例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン等)といった導電性粒子が分散した、シリコーンや天然ゴム、樹脂等からなる導電性高分子膜等が挙げられる。
【0049】
また、本発明のセンサは、このような本発明の高分子アクチュエータを備えるものである。
【実施例0050】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
(合成例1)
<(メタ)アクリルポリマーの合成>
グリシジルアクリレート0.4g、メトキシトリエチレングリコールアクリレート0.6g、S,S-ジベンジルトリチオ炭酸0.155g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)9mg、臭化リチウム一水和物(LiBr・HO)15mg、及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)1.4gを混合し、1気圧の二酸化炭素雰囲気下、70℃で20時間撹拌して重合反応を行った。反応後の溶液をジエチルエーテル20mlに投入して-70℃に冷却したところ、固体成分が析出した。この析出物を遠心分離(5000rpm)により回収し、テトラヒドロフラン(THF)0.5mlに溶解させた後、-70℃のジエチルエーテル中で再沈殿させた。得られた沈殿物を真空乾燥して、下記式:
【0052】
【化5】
【0053】
で表される、側鎖にメトキシトリエチレングリコール鎖とエチレンカーボネート構造とを有するアクリルポリマー0.94gを得た。なお、このアクリルポリマーの設計分子量は約2200である。
【0054】
(比較合成例1)
<(メタ)アクリルポリマーの合成>
グリシジルアクリレート4g、2-エチルヘキシルアクリレート6g、S,S-ジベンジルトリチオ炭酸1.67g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)90mg、臭化リチウム一水和物(LiBr・HO)150mg、及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)14gを混合し、1気圧の二酸化炭素雰囲気下、70℃で20時間撹拌して重合反応を行った。反応後の溶液をメタノール150mlに投入して-70℃に冷却したところ、固体成分が析出した。この析出物を遠心分離(4800rpm)により回収し、テトラヒドロフラン(THF)5mlに溶解させた後、-70℃のメタノール125ml中で再沈殿させた。得られた沈殿物を真空乾燥して、下記式:
【0055】
【化6】
【0056】
で表される、側鎖に2-エチルヘキシル基とエチレンカーボネート構造とを有するアクリルポリマー7.46gを得た。なお、このアクリルポリマーの設計分子量は約2030である。
【0057】
(比較合成例2)
<(メタ)アクリルポリマーの合成>
メトキシトリエチレングリコールアクリレート1g、S,S-ジベンジルトリチオ炭酸0.242g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)9mg、及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)1.4gを混合し、窒素雰囲気下、70℃で20時間撹拌して重合反応を行った。反応後の溶液をジエチルエーテル15mlに投入して-70℃に冷却したところ、固体成分が析出した。この析出物を遠心分離(5000rpm)により回収し、テトラヒドロフラン(THF)0.5mlに溶解させた後、-70℃のジエチルエーテル中で再沈殿させた。得られた沈殿物を真空乾燥して、下記式:
【0058】
【化7】
【0059】
で表される、側鎖にメトキシトリエチレングリコール鎖のみを有するアクリルポリマー06gを得た。なお、このアクリルポリマーの設計分子量は約2000である。
【0060】
(比較合成例3)
<(メタ)アクリルポリマーの合成>
2-エチルヘキシルアクリレート1g、S,S-ジベンジルトリチオ炭酸0.24g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)9mg、及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)1.4gを混合し、窒素雰囲気下、70℃で20時間撹拌して重合反応を行った。反応後の溶液をメタノール15mlに投入して-70℃に冷却したところ、固体成分が析出した。この析出物を遠心分離(5000rpm)により回収し、テトラヒドロフラン(THF)0.5mlに溶解させた後、-70℃のジエチルエーテル中で再沈殿させた。得られた沈殿物を真空乾燥して、下記式:
【0061】
【化8】
【0062】
で表される、側鎖に2-エチルヘキシル基のみを有するアクリルポリマー0.8gを得た。なお、このアクリルポリマーの設計分子量は約2000である。
【0063】
(比較合成例4)
<(メタ)アクリルポリマーの合成>
グリシジルアクリレート1g、S,S-ジベンジルトリチオ炭酸0.243g、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)9mg、臭化リチウム一水和物(LiBr・HO)15mg、及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)1.4gを混合し、1気圧の二酸化炭素雰囲気下、70℃で20時間撹拌して重合反応を行った。反応後の溶液をジエチルエーテル20mlに投入して-70℃に冷却したところ、固体成分が析出した。この析出物を遠心分離(5000rpm)により回収し、テトラヒドロフラン(THF)0.5mlに溶解させた後、-70℃のジエチルエーテル中で再沈殿させた。得られた沈殿物を真空乾燥して、下記式:
【0064】
【化9】
【0065】
で表される、側鎖にエチレンカーボネート構造のみを有するアクリルポリマー0.5gを得た。なお、このアクリルポリマーの設計分子量は約2000である。
【0066】
〔ガラス転移温度〕
合成例1及び比較合成例1~4で得られたアクリルポリマーのガラス転移温度(Tg[℃])を、熱重量示差熱分析装置(ティーエイインスツル社製「TA5000」)を用いて測定した。その結果を表1に示す。
【0067】
〔比誘電率及び誘電正接〕
合成例1及び比較合成例1~4で得られたアクリルポリマーを直径5cmのステンレス板でギャップが100~1000μmの範囲内となるように挟んで固定し、測定用試料を作製した。この測定用試料をLCRメータ(日置電機株式会社製「IM3523」に接続し、室温下、周波数1kHzで比誘電率及び誘電正接を測定した。これらの結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1に示したように、(メタ)アクリルポリマーに、側鎖としてポリアルキレングリコール鎖と環状カーボネート構造とを導入した場合(合成例1)には、比誘電率が大きく、誘電正接が小さい(メタ)アクリルポリマーが得られることがわかった。
【0070】
一方、ポリアルキレングリコール鎖の代わりにアルキル鎖を導入した場合(比較合成例1、3)には、比誘電率が十分に増大しないことがわかった。また、側鎖としてポリアルキレングリコール鎖のみを導入した場合(比較合成例2)並びに環状カーボネート構造のみを導入した場合(比較合成例4)には、誘電正接が増大することがわかった。特に、側鎖としてポリアルキレングリコール鎖のみを導入した場合(比較合成例2)には、比誘電率が十分に増大しないこともわかった。
【0071】
(合成例2)
<(メタ)アクリルポリマーの合成>
容量200mlのフラスコに、グリシジルアクリレート8g(62.4mmol)、ポリエチレングリコールメトキシアクリレート(重合度9)16g(33.2mmol)、ヒドロキシエチルアクリレート1.22g(10.5mmol)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.94g、臭化リチウム一水和物(LiBr・HO)0.47g、及びN-メチル-2-ピロリドン(NMP)93mlを入れ、脱気及び二酸化炭素導入を3回繰返した。フラスコ内を1気圧の二酸化炭素雰囲気に調整した後、80℃で10時間撹拌して重合反応を行った。反応後の溶液をジエチルエーテル800mlに投入し、固体成分を析出させた。この析出物を回収して真空乾燥した後、アセトニトリルに溶解し、得られた溶液を0.2μmのフィルターでろ過した。得られたろ液をジエチルエーテルに投入して固体成分を再沈殿させた。得られた沈殿物を真空乾燥して、下記式:
【0072】
【化10】
【0073】
で表される、側鎖にポリエチレングリコール鎖とエチレンカーボネート構造とヒドロキシエチル基とを有するアクリルポリマー18.07gを得た。このアクリルポリマーの重量平均分子量をゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定したところ、標準ポリスチレン換算で3600であった。
【0074】
(合成例3)
<架橋剤の合成>
三口ナスフラスコに、ポリカプロラクトンがグラフトされたポリプロピレングリコール100gを入れ、窒素気流下、90℃のオイルバス中で撹拌した。得られた溶液に、1,3-ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン(三井化学株式会社製「タケネート600」)7.45gを1時間かけてゆっくりと滴下した後、さらに2時間撹拌して、オリゴマーを得た。
【0075】
三口ナスフラスコに、1,3-ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン(三井化学株式会社製「タケネート600」)16.66gを入れ、窒素気流下、90℃のオイルバス中で撹拌した。得られた溶液に、前記オリゴマー80gをトルエン80gに溶解した溶液を2時間かけてゆっくりと滴下した後、さらに2時間撹拌した。その後、液温を40℃まで低下させ、2-ブタノンオキシム(東京化成工業株式会社製)10.95gを、液温が60℃以上にならないように、ゆっくりと滴下した。滴下終了後、40℃で5時間撹拌して、末端ブロックイソシアネート基を有するポリプロピレングリコール(Mn:5422)からなる架橋剤を得た。この架橋剤を酢酸ブチルに添加して、濃度が50質量%の架橋剤溶液を調製した。
【0076】
(実施例1)
<(メタ)アクリルポリマー含有ポリエチレングリコールフィルムの作製>
合成例3で得られた架橋剤溶液(架橋剤濃度:50質量%)27.29g、カプロラクトン側鎖を有するポリロタキサン(株式会社ASM製「SH3400P」、リング状分子:カプロラクトン側鎖を有するシクロデキストリン、軸分子:ポリエチレングリコール(分子量:3.5万)。末端基:アダマンタン基)5.43g、ポリオキシプロピレンジオール(和光純薬工業株式会社製、ポリプロピレングリコール700、ジオール型、平均分子量:約700)1.27g、ポリオキシプロピレンモノブチルエーテル(シグマアルドリッチ社製、ポリプロピレングリコールモノブチルエーテル1K、モノオール、平均分子量:約1000)3.62g、シリコーン添加剤(Gelest社製「DBL-C31」、両末端アルコール変性シリコーン:カプロラクトン-ジメチルシロキサン-カプロラクトンブロックコポリマー、固形分濃度30質量%のトルエン溶液)0.40g、加水分解抑制剤(日清紡ケミカル株式会社製「カルボジライトV-09GB」、濃度30質量%のトルエン溶液)0.80g、酸化防止剤(BASF社製「Irganox1726」、2,4-ビス(ドデシルチオメチル)-6-メチルフェノール)0.48g、及びジラウリン酸ジブチルスズを3質量%の濃度でトルエンに溶解した触媒溶液0.40gを、メチルセロソルブ9.60gに溶解して攪拌し、均一な溶液を得た。この溶液に、合成例2で得られた側鎖にポリエチレングリコール鎖とエチレンカーボネート構造とヒドロキシエチル基とを有するアクリルポリマーを、濃度が20質量%となるように添加し、樹脂溶液を調製した。この樹脂溶液に脱泡処理を施した後、スリットダイコータ法により前記樹脂溶液を基材フィルム上に塗布し、得られた塗膜を130℃のオーブン内で減圧条件下、5時間静置して硬化させた。その後、得られた硬化膜を基材フィルムから剥離した。この硬化膜の厚さは0.05mmであった。
【0077】
(比較例1)
<ポリエチレングリコールフィルムの作製>
合成例2で得られた、側鎖にポリエチレングリコール鎖とエチレンカーボネート構造とヒドロキシエチル基とを有するアクリルポリマーを用いず、メチルセロソルブの量を10.80gに変更した以外は実施例1と同様にして、硬化膜を得た。この硬化膜の厚さは0.05mmであった。
【0078】
(比較例2)
合成例2で得られた、側鎖にポリエチレングリコール鎖とエチレンカーボネート構造とヒドロキシエチル基とを有するアクリルポリマーの代わりに、比較合成例2で得られた、側鎖にメトキシトリエチレングリコール鎖のみを有するアクリルポリマーを用いた以外は実施例1と同様にして、硬化膜を得た。この硬化膜の厚さは0.05mmであった。
【0079】
(比較例3)
合成例2で得られた、側鎖にポリエチレングリコール鎖とエチレンカーボネート構造とヒドロキシエチル基とを有するアクリルポリマーの代わりに、比較合成例3で得られた、側鎖に2-エチルヘキシル基のみを有するアクリルポリマーを用いた以外は実施例1と同様にして、硬化膜を得た。この硬化膜の厚さは0.05mmであった。
【0080】
(比較例4)
合成例2で得られた、側鎖にポリエチレングリコール鎖とエチレンカーボネート構造とヒドロキシエチル基とを有するアクリルポリマーの代わりに、比較合成例4で得られた、側鎖にエチレンカーボネート構造のみを有するアクリルポリマーを用いた以外は実施例1と同様にして、硬化膜を得た。この硬化膜の厚さは0.05mmであった。
【0081】
〔比誘電率〕
得られた硬化膜の両面に、オートファインコータ(日本電子株式会社製「JEC-3000FC」)を用いて、金を蒸着させて電極膜(15mm径)を作製し、誘電率測定用プローブを用いてプレシジョン・インピーダンス・アナライザ(Agilent社製「4294A」)により静電容量を測定し、比誘電率を算出した。その結果を表2に示す。
【0082】
〔体積抵抗率〕
得られた硬化膜の両面に、オートファインコータ(日本電子株式会社製「JEC-3000FC」)を用いて、金を蒸着させて電極膜(8mm径)を作製し、微小電流計(日置電機株式会社製「超絶縁計SM7120」)を用いて、体積抵抗率を測定した。その結果を表1に示す。
【0083】
〔破断強度〕
得られた硬化膜から、JIS K6251に従って、ダンベル状7号形試験片を作製し、この試験片について、引張試験機(株式会社島津製作所製「オートグラフAGS-X 10N」)を用いて、つかみ具間距離:20mm、引張速度:100mm/分の条件で、破断するまで引張試験を行い、破断した時点の応力値から破断強度を求めた。その結果を表2に示す。
【0084】
〔初期弾性率〕
得られた硬化膜から、JIS K6251に従って、ダンベル状7号形試験片を作製し、この試験片について、引張試験機(株式会社島津製作所製「オートグラフAGS-X 10N」)を用いて、つかみ具間距離:20mm、引張速度:100mm/分の条件で、伸長が有効長さの100%となるまで引張試験を行い、その後、伸長時と同じ速度で0%となるまで収縮させ、応力-歪み曲線を得た。この応力-歪み曲線の1%~5%伸長時の範囲を線形近似し、その傾きを初期弾性率とした。その結果を表2に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
表2に示したように、ポリロタキサンを含む樹脂成分の硬化物からなる誘電エラストマ層に、側鎖にポリエチレングリコール鎖とエチレンカーボネート構造とを有するアクリルポリマーを添加した場合(実施例1)には、添加しなかった場合(比較例1)に比べて、比誘電率が向上することが確認された。また、体積抵抗率及び破断強度が維持され、高分子アクチュエータに適した機械特性を示すことが確認された。さらに、初期弾性率が低下し、エラストマとしての特性(特に、柔軟性)が損なわれていないことが確認された。
【0087】
一方、誘電エラストマ層に、側鎖にメトキシトリエチレングリコール鎖のみを有するアクリルポリマーを添加した場合(比較例2)には、比誘電率及び体積抵抗率の測定時に絶縁破壊が起こり、添加しなかった場合(比較例1)に比べて、破断強度も低下することがわかった。また、側鎖に2-エチルヘキシル基のみを有するアクリルポリマーを添加した場合(比較例3)には、添加しなかった場合(比較例1)に比べて、比誘電率が低下し、体積抵抗率が増大することがわかった。さらに、側鎖にエチレンカーボネート構造のみを有するアクリルポリマーを添加した場合(比較例4)には、添加しなかった場合(比較例1)に比べて、体積抵抗率及び破断強度が低下することがわかった。
【0088】
以上の結果から、ポリロタキサンを含む樹脂成分の硬化物からなる誘電エラストマ層に、ポリアルキレングリコール鎖と環状カーボネート構造とを側鎖に有する(メタ)アクリルポリマーを添加することによって、エラストマとしての特性(特に、柔軟性)を維持したまま、比誘電率を増大させ、体積抵抗率の低下を抑制することが可能であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
以上説明したように、本発明によれば、柔軟性(弾性率)を維持したまま、誘電率を向上させ、体積抵抗率の低下を抑制した誘電エラストマ層を形成することが可能となる。したがって、本発明の高分子アクチュエータは、このような誘電エラストマ層を備えているため、産業用や介護用ロボット、人工筋肉、センサ、ハプティクス等、様々な分野に利用することができる。