特開 2023-127910 ファーサイドエアバッグ装置

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)

(12)【公報種別】公開特許公報(A)

(11)【公開番号】P2023127910

(43)【公開日】2023-09-14

(54)【発明の名称】ファーサイドエアバッグ装置

(51)【国際特許分類】

   B60R 21/207 20060101AFI20230907BHJP

【ＦＩ】

B60R21/207

【審査請求】未請求

【請求項の数】5

【出願形態】ＯＬ

(21)【出願番号】P 2022031883

(22)【出願日】2022-03-02

(71)【出願人】

【識別番号】000241463

【氏名又は名称】豊田合成株式会社

(71)【出願人】

【識別番号】000005326

【氏名又は名称】本田技研工業株式会社

(74)【代理人】

【識別番号】100105957

【弁理士】

【氏名又は名称】恩田 誠

(74)【代理人】

【識別番号】100068755

【弁理士】

【氏名又は名称】恩田 博宣

(72)【発明者】

【氏名】山本 周司

(72)【発明者】

【氏名】河村 功士

(72)【発明者】

【氏名】尾崎 武経

(72)【発明者】

【氏名】千田 祐介

(72)【発明者】

【氏名】糟谷 祐介

【テーマコード（参考）】

3D054

【Ｆターム（参考）】

3D054AA02

3D054AA03

3D054AA07

3D054AA23

3D054CC29

3D054FF16

(57)【要約】

【課題】乗員の腕部が展開及び膨張の初期のエアバッグによって押し上げられるのを抑制する。
【解決手段】膨張用ガスを充填させることなく平面状に展開させられた非膨張展開形態のエアバッグ３１は、折り畳まれることにより収納用形態にされる。非膨張展開形態のエアバッグ３１は、下膨張部４２と、下膨張部４２の上側に連通した状態で隣接する上膨張部４５とを備える。収納用形態では、上膨張部４５は、折り返す方向を交互に変えながら上下方向へ蛇腹状に折り畳まれている。収納用形態では、下膨張部４２の少なくとも一部は、上膨張部４５よりも、衝撃の加わった特定側壁部から遠い側（サイドフレーム部１８側：左側）に配置されている。
【選択図】図２

【特許請求の範囲】

【請求項1】

複数の乗物用シートが同乗物用シートの幅方向に並設され、かつ同幅方向における両側部が一対の側壁部により構成された乗物に適用され、両側壁部のうちの一方を特定側壁部とした場合、隣り合う前記乗物用シートのうち、前記特定側壁部から遠い前記乗物用シートのシートバックであって、前記特定側壁部に近い側の側部内には収納用形態のエアバッグが収納され、かつ同エアバッグが自身の一部に設定された固定部において前記側部内に固定されており、前記特定側壁部に対し外方から衝撃が加わったことが検出された場合、又は衝撃が加わることが予測される場合に、ガス発生器から膨張用ガスを前記エアバッグに供給し、前記固定部を前記側部内に残した状態で前記エアバッグを、隣り合う前記乗物用シートの間で展開及び膨張させるファーサイドエアバッグ装置であり、
前記収納用形態は、前記膨張用ガスを充填させることなく平面状に展開させられた非膨張展開形態の前記エアバッグが折り畳まれることによりなされ、
前記非膨張展開形態の前記エアバッグは、下膨張部と、前記下膨張部の上側に連通した状態で隣接する上膨張部とを備え、
前記収納用形態では、前記上膨張部は、折り返す方向を交互に変えながら上下方向へ蛇腹状に折り畳まれ、前記下膨張部の少なくとも一部は、前記上膨張部よりも前記特定側壁部から遠い側に配置されているファーサイドエアバッグ装置。

【請求項2】

前記非膨張展開形態の前記エアバッグにおける前記上膨張部には、互いに上下方向に離間する複数の直線状の上折り線が設定され、
前記上膨張部のうち、前記下膨張部との境界部では、隣り合う前記上折り線の間隔が前後方向に変化するように設定され、前記境界部よりも上方の部分では、隣り合う前記上折り線の間隔が、前後方向に一定に設定されている請求項１に記載のファーサイドエアバッグ装置。

【請求項3】

前記非膨張展開形態の前記エアバッグにおける前記下膨張部には、前側ほど低くなる下折り線が設定され、
前記下膨張部は、前記下折り線よりも前側の下前膨張部と、同下折り線よりも後側の下後膨張部とからなり、
前記下膨張部は前記下折り線に沿って折り返されることにより、前記下前膨張部及び前記下後膨張部が重ね合わされた二つ折り状態にされ、
前記収納用形態では、前記二つ折り状態の前記下前膨張部及び前記下後膨張部は、蛇腹状に折り畳まれた前記上膨張部よりも前記特定側壁部から遠い側において、前記幅方向に並べられた状態で配置されている請求項１又は２に記載のファーサイドエアバッグ装置。

【請求項4】

前記収納用形態の前記エアバッグにおける前記下膨張部に対し、前記特定側壁部から遠ざかる側の箇所には、膨張する前記下膨張部を通じて前記膨張用ガスの圧力を受け、前記特定側壁部側へ向かう反力を発生させる受圧部が設けられている請求項１～３のいずれか１項に記載のファーサイドエアバッグ装置。

【請求項5】

前記側部内にはサイドフレーム部が配置されており、前記受圧部は前記サイドフレーム部の一部により構成されている請求項４に記載のファーサイドエアバッグ装置。

【発明の詳細な説明】

【技術分野】

【0001】

本発明は、隣り合う乗物用シート間でエアバッグを展開及び膨張させることで、乗員を衝撃から保護するファーサイドエアバッグ装置に関する。

【背景技術】

【0002】

車幅方向に複数の車両用シートが並設された車両の中には、ファーサイドエアバッグ装置が搭載されたものがある。このタイプのエアバッグ装置は、一般的なサイドエアバッグ装置と同様に、エアバッグと、膨張用ガスをエアバッグに供給するガス発生器とを備える。

【0003】

上記ファーサイドエアバッグ装置では、エアバッグ及びガス発生器が、車両用シートのうち、隣の車両用シートに近い側の側部内に収納される。この収納に際し、膨張用ガスを充填させることなく平面状に展開させられた非膨張展開形態のエアバッグが、折り畳まれることにより、収納に適したコンパクトな収納用形態にされる。

【0004】

例えば、特許文献１に記載されたファーサイドエアバッグ装置では、非膨張展開形態のエアバッグの上部が、上方から下方に向けて同一方向に繰り返し折り畳まれることによりロール状にされる。また、非膨張展開形態の上記エアバッグの下部が、折り返す方向を交互に変えながら上方から下方へ向けて折り畳まれることにより、蛇腹状にされる。

【0005】

そして、車両用シートのうち、隣の車両用シートに近い側の側部内に収納されたエアバッグは、自身の後端部に設定された固定部において、ガス発生器とともに側部内に固定される。

【0006】

ここで、側突等により、上記車両のサイドドア等の側壁部に対し、外方から衝撃が加わると、側壁部から遠い側の車両用シートに着座している乗員は、慣性により、衝撃の加わった側へ移動しようとする。

【0007】

これに対し、上記ファーサイドエアバッグ装置では、側壁部に対し衝撃が加わったことが検出された場合、又は衝撃が加わることが予測される場合、ガス発生器から膨張用ガスが噴出される。この膨張用ガスにより、エアバッグが、固定部を側部内に残した状態で、隣り合う車両用シートの間で展開及び膨張する。このエアバッグにより、上記のように、衝撃の加わった側へ移動しようとする乗員の上半身が受け止められ、衝撃から保護される。

【先行技術文献】

【特許文献】

【0008】

【特許文献1】特開２０１７－５２４９２号公報

【発明の概要】

【発明が解決しようとする課題】

【0009】

ところが、特許文献１に記載された上記ファーサイドエアバッグ装置では、膨張用ガスがエアバッグの下部に最初に供給される。エアバッグのうち、蛇腹状に折り畳まれた下部は折りを解消しながら上方へ展開及び膨張しようとする。上記下部の展開方向前方である上方には、乗員の腕部が位置する。そのため、エアバッグの展開及び膨張の初期に、腕部が、エアバッグによって押し上げられるおそれがある。

【課題を解決するための手段】

【0010】

上記課題を解決するファーサイドエアバッグ装置は、複数の乗物用シートが同乗物用シートの幅方向に並設され、かつ同幅方向における両側部が一対の側壁部により構成された乗物に適用され、両側壁部のうちの一方を特定側壁部とした場合、隣り合う前記乗物用シートのうち、前記特定側壁部から遠い前記乗物用シートのシートバックであって、前記特定側壁部に近い側の側部内には収納用形態のエアバッグが収納され、かつ同エアバッグが自身の一部に設定された固定部において前記側部内に固定されており、前記特定側壁部に対し外方から衝撃が加わったことが検出された場合、又は衝撃が加わることが予測される場合に、ガス発生器から膨張用ガスを前記エアバッグに供給し、前記固定部を前記側部内に残した状態で前記エアバッグを、隣り合う前記乗物用シートの間で展開及び膨張させるファーサイドエアバッグ装置であり、前記収納用形態は、前記膨張用ガスを充填させることなく平面状に展開させられた非膨張展開形態の前記エアバッグが折り畳まれることによりなされ、前記非膨張展開形態の前記エアバッグは、下膨張部と、前記下膨張部の上側に連通した状態で隣接する上膨張部とを備え、前記収納用形態では、前記上膨張部は、折り返す方向を交互に変えながら上下方向へ蛇腹状に折り畳まれ、前記下膨張部の少なくとも一部は、前記上膨張部よりも前記特定側壁部から遠い側に配置されている。

【0011】

上記の構成によれば、特定側壁部に対し外方から衝撃が加わると、特定側壁部から遠い側の乗物用シートに着座している乗員の上半身は、慣性により、特定側壁部側へ移動しようとする。

【0012】

一方、特定側壁部に対し外方から衝撃が加わったことが検出された場合、又は加わることが予測される場合、ガス発生器からエアバッグの上膨張部及び下膨張部に膨張用ガスが供給される。供給された膨張用ガスによりエアバッグは、折り畳まれた順とは逆の順に展開及び膨張する。エアバッグは、自身に設定された固定部を側壁部内に残した状態で、隣り合う乗物用シートの間で展開及び膨張する。

【0013】

ここで、膨張用ガスが供給された下膨張部の少なくとも一部は、上膨張部よりも特定側壁部から遠い側で膨張する。また、蛇腹状に折り畳まれている上膨張部は、膨張する上記下膨張部によって、特定側壁部側へ押されながら、上方へ向けて展開及び膨張する。このように、エアバッグは、腕部を迂回しながら展開及び膨張する。従って、エアバッグの展開及び膨張の初期に、乗員の腕部が同エアバッグによって押し上げられる現象が起こりにくい。

【0014】

そして、上記のように衝撃に応じて特定側壁部側へ移動しようとする乗員の上半身が、展開及び膨張したエアバッグによって受け止められる。特定側壁部側への乗員の上半身の移動がエアバッグによって規制され、同上半身が衝撃から保護される。

【0015】

上記ファーサイドエアバッグ装置において、前記非膨張展開形態の前記エアバッグにおける前記上膨張部には、互いに上下方向に離間する複数の直線状の上折り線が設定され、前記上膨張部のうち、前記下膨張部との境界部では、隣り合う前記上折り線の間隔が前後方向に変化するように設定され、前記境界部よりも上方の部分では、隣り合う前記上折り線の間隔が、前後方向に一定に設定されていることが好ましい。

【0016】

非膨張展開形態のエアバッグにおける上膨張部のうち、下膨張部との境界部よりも上方部分では、隣り合う直線状の上折り線の間隔（折り幅）が、前後方向に一定に設定される。上膨張部の上記上方部分は、各上折り線に沿って、折り方向を交互に変えながら折り返されることにより、折り幅が前後方向に一定となるように蛇腹状に折り畳まれる。

【0017】

また、上膨張部のうち下膨張部との境界部では、隣り合う上折り線の間隔が、前後方向に変化するように設定される。上記境界部は、上折り線に沿って折り返されることにより、折り幅が前後方向に異なるように蛇腹状に折り畳まれる。

【0018】

そのため、非膨張展開形態のエアバッグを収納用形態にする際、上膨張部のうち境界部よりも上方の多くの部分を効率よく蛇腹状に折り畳むことが可能となる。また、上膨張部の境界部では、その形状に拘らず、境界部全体を過不足なく蛇腹状に折り畳むことが可能となる。

【0019】

上記ファーサイドエアバッグ装置において、前記非膨張展開形態の前記エアバッグにおける前記下膨張部には、前側ほど低くなる下折り線が設定され、前記下膨張部は、前記下折り線よりも前側の下前膨張部と、同下折り線よりも後側の下後膨張部とからなり、前記下膨張部は前記下折り線に沿って折り返されることにより、前記下前膨張部及び前記下後膨張部が重ね合わされた二つ折り状態にされ、前記収納用形態では、前記二つ折り状態の前記下前膨張部及び前記下後膨張部は、蛇腹状に折り畳まれた前記上膨張部よりも前記特定側壁部から遠い側において、前記幅方向に並べられた状態で配置されていることが好ましい。

【0020】

上記の構成によれば、下膨張部が二つ折り状態にされることで、折り返されない場合に比べ、収納用形態にされたときのエアバッグのサイズがより小さくなり、乗物用シートに対する搭載性が向上する。

【0021】

また、ガス発生器から下膨張部に膨張用ガスが供給されると、下前膨張部及び下後膨張部がそれぞれ膨張することで、上膨張部を特定側壁部側へ押し出す力が発生する。
上記ファーサイドエアバッグ装置において、前記収納用形態の前記エアバッグにおける前記下膨張部に対し、前記特定側壁部から遠ざかる側の箇所には、膨張する前記下膨張部を通じて前記膨張用ガスの圧力を受け、前記特定側壁部側へ向かう反力を発生させる受圧部が設けられていることが好ましい。

【0022】

上記の構成によれば、ガス発生器から供給される膨張用ガスにより下膨張部が膨張し始めると、その膨張用ガスの圧力が、受圧部によって受け止められるとともに、特定側壁部側へ向かう反力が発生される。そのため、この反力により、上膨張部を特定側壁部側へ速やかに押し出すことが可能となる。

【0023】

上記ファーサイドエアバッグ装置において、前記側部内にはサイドフレーム部が配置されており、前記受圧部は前記サイドフレーム部の一部により構成されていることが好ましい。

【0024】

上記の構成によれば、シートバックの側部内に設けられた既設のサイドフレーム部が受圧部として機能する。そのため、受圧部を別途設けなくても、下膨張部を特定側壁部側へ速やかに展開及び膨張させる効果が得られる。

【発明の効果】

【0025】

上記ファーサイドエアバッグ装置によれば、乗員の腕部が展開及び膨張の初期のエアバッグによって押し上げられるのを抑制できる。

【図面の簡単な説明】

【0026】

【図1】一実施形態において、ファーサイドエアバッグ装置が搭載された車両の部分平面図である。

【図2】上記実施形態において、エアバッグモジュールが収納されたシートバックの側部の内部構造を示す部分平断面図である。

【図3】上記実施形態において、車両用シート、乗員及び側壁部を車両前方から見た部分正断面図である。

【図4】上記実施形態において、車室内での車両用シート、乗員及びエアバッグの位置関係を示す部分側面図である。

【図5】上記実施形態において、エアバッグが収納用形態にされたエアバッグモジュールの側面図である。

【図6】上記実施形態において、エアバッグが非膨張展開形態にされたエアバッグモジュールの側面図である。

【図7】上記実施形態におけるエアバッグの第１の折り工程を説明する側面図である。

【図8】上記実施形態におけるエアバッグの第１及び第２の折り工程を説明する側面図である。

【図9】上記実施形態におけるエアバッグの第２及び第３の折り工程を説明する側面図である。

【図10】上記実施形態におけるエアバッグの第３及び第４の折り工程を説明する側面図である。

【図11】上記実施形態におけるエアバッグの第４の折り工程を説明する側面図である。

【図12】上記実施形態におけるエアバッグの第４及び第５の折り工程を説明する側面図である。

【図13】図２からサイドフレーム部及びエアバッグモジュールを取り出して示す平断面図である。

【図14】図３に対応する図であり、展開及び膨張の初期におけるエアバッグの状態を乗員及び車両用シートとともに示す部分正断面図である。

【発明を実施するための形態】

【0027】

以下、車両用のファーサイドエアバッグ装置に具体化した一実施形態について、図面を参照して説明する。
なお、以下の記載においては、車両の前進方向を前方とし、後進方向を後方として説明する。また、上下方向は車両の上下方向を意味し、左右方向は車幅方向であって車両の前進時の左右方向と一致する。また、車両用シートには、衝突試験用のダミーと同様の体格を有する乗員が着座している。さらに、車室内には、車両用シートに着座している乗員を同車両用シートに拘束するためのシートベルト装置（図示略）が設けられているものとする。

【0028】

図１に示すように、車両１０の幅方向（左右方向）における両側部は、ドア、ピラー等からなる側壁部１１，１２によって構成されている。車室内には、前部座席として車両用シート１３，１４が、同車両用シート１３，１４の幅方向に並べられた状態で配置されている。側壁部１１に近い車両用シート１３は、乗員（運転者）Ｐ１が着座する運転席として機能する。側壁部１２に近い車両用シート１４は、乗員（助手席乗員）Ｐ２が着座する助手席として機能する。車両用シート１３，１４は互いに同様の構成を有している。そのため、ここでは、車両用シート１３についてのみ説明する。

【0029】

＜車両用シート１３の概略構成について＞
図３及び図４に示すように、車両用シート１３は、シートクッション１５、シートバック１６及びヘッドレスト２０を備えている。シートクッション１５は、乗員Ｐ１が着座する箇所である。シートバック１６は、乗員Ｐ１の上半身を後方から支える箇所である。シートバック１６は、傾斜角度を調整可能に構成されている。ヘッドレスト２０は、乗員Ｐ１の頭部ＰＨを後方から支える箇所である。車両用シート１３は、シートバック１６が前方を向く姿勢で配置されている。このように配置された車両用シート１３の幅方向は、車幅方向（左右方向）と合致する。

【0030】

図２は、車両用シート１３におけるシートバック１６であって、側壁部１２（車両用シート１４）に近い側（右側）の側部１７の内部構造を示している。シートバック１６の内部には、その骨格部分をなすシートフレームが配置されている。

【0031】

側部１７の内部には、シートフレームの一部を構成するサイドフレーム部１８が配置されている。サイドフレーム部１８は、金属板を曲げ加工等することによって形成されている。

【0032】

サイドフレーム部１８を含むシートフレームの前側には、ウレタンフォーム等の弾性材からなるシートパッド１９が配置されている。また、シートフレームの後側には、バックボード２１が配置されている。なお、シートパッド１９は表皮によって被覆されているが、図２ではその表皮の図示が省略されている。

【0033】

上記側部１７の内部であって、サイドフレーム部１８よりも側壁部１２側（車両用シート１４側：右側）には、収納部２２が設けられている。収納部２２は、ファーサイドエアバッグ装置の主要部をなすエアバッグモジュールＡＢＭが収納されるスペースである。

【0034】

収納部２２の前部の角部からは、斜め前方に向けてスリット２３が延びている。シートパッド１９の前側の角部１９ｃとスリット２３とによって挟まれた箇所（図２において二点鎖線の枠で囲んだ箇所）は、後述するエアバッグ３１によって破断される破断予定部２４を構成している。

【0035】

＜エアバッグモジュールＡＢＭについて＞
エアバッグモジュールＡＢＭは、エアバッグ３１と、これに膨張用ガスを供給するガス発生器２５とを主要な構成部材として備えている。次に、これらの構成部材の各々について説明する。

【0036】

［ガス発生器２５］
ガス発生器２５は、インフレータ２６と、そのインフレータ２６を覆うリテーナ２７とを備えている。ここでは、インフレータ２６として、パイロタイプと呼ばれるタイプが採用されている。インフレータ２６の内部には、膨張用ガスを発生するガス発生剤（図示略）が収容されている。インフレータ２６は、その上端部にガス噴出部２６ａを有している。また、インフレータ２６の下端部には、同インフレータ２６への作動信号の入力配線となるハーネス（図示略）が接続されている。

【0037】

なお、インフレータ２６としては、上記ガス発生剤を用いたパイロタイプに代えて、高圧ガスの充填された高圧ガスボンベの隔壁を火薬等によって破断して膨張用ガスを噴出させるタイプが用いられてもよい。

【0038】

一方、リテーナ２７は、膨張用ガスの噴出する方向を制御するディフューザとして機能するとともに、インフレータ２６をエアバッグ３１等と一緒にサイドフレーム部１８に締結する機能を有する部材である。リテーナ２７の大部分は、金属板等の板材を曲げ加工等することによって筒状に形成されている。リテーナ２７には、これをサイドフレーム部１８に取付けるための部材としてボルト２８が固定されている。

【0039】

なお、ガス発生器２５は、インフレータ２６とリテーナ２７とが一体になったものであってもよい。また、ガス発生器２５は、リテーナ２７が用いられることなく、インフレータ２６のみによって構成されたものであってもよい。この場合、ボルト２８はインフレータ２６に固定される。

【0040】

［エアバッグ３１］
図４及び図６では、エアバッグ３１が、膨張用ガスを充填させることなく平面状に展開させられた形態（以下「非膨張展開形態」という）で図示されている。エアバッグ３１は、１枚の布片（基布、パネル布等とも呼ばれる）を、その中央部分に設定した折り線３３に沿って前方へ二つ折りして車両用シート１３の幅方向に重ね合わせ、その重ね合わされた部分を袋状となるように結合させることにより形成されている。ここでは、エアバッグ３１の上記の重ね合わされた２つの部分を区別するために、側壁部１２（車両用シート１４）側に位置するものを布部３４といい、側壁部１１側に位置するものを布部３５というものとする（図８参照）。

【0041】

なお、本実施形態では、折り線３３がエアバッグ３１の後端部に位置するように布片が二つ折りされているが、折り線３３が他の端部、例えば前端部、上端部、下端部等に位置するように布片が二つ折りされてもよい。また、エアバッグ３１は折り線３３に沿って分割された２枚の布片からなるものであってもよい。この場合には、エアバッグ３１は、２枚の布片を上記幅方向（左右方向）に重ね合わせ、両布片を、全周にわたって結合させることにより形成される。さらに、布部３４，３５の少なくとも一方は、２枚以上の布片によって構成されてもよい。

【0042】

エアバッグ３１においては、各布部３４，３５の外形形状が、折り線３３を対称軸として互いに線対称の関係にある。各布部３４，３５としては、強度が高く、伸びにくく、しかも可撓性を有していて容易に折り畳むことのできる素材、例えばポリエステル糸、ポリアミド糸等を用いて形成した織布等が適している。

【0043】

両布部３４，３５の上記結合は、それらの周縁部に沿って設けられた周縁結合部３６においてなされている。周縁結合部３６は、両布部３４，３５の周縁部のうち、後端部（折り線３３の周辺部分）を除く部分を、縫製（縫糸で縫合）することにより形成されている。図６では、周縁結合部３６は、断続的に並べられた一定長さの太線によって表現されている。これらの太線は、縫糸を側方から見た状態で示している。この点は、図７～図１２についても同様である。なお、周縁結合部３６は、上記縫糸を用いた縫合とは異なる手段、例えば接着剤を用いた接着によって形成されてもよい。

【0044】

両布部３４，３５の間であって、周縁結合部３６及び折り線３３によって囲まれた空間は、膨張用ガスによって展開及び膨張させられる膨張部４１となっている。膨張部４１は、図４に示すように、乗員Ｐ１の上半身の多くの部位、本実施形態では、腰部ＰＰから頭部ＰＨにかけての部位を保護対象部位としている。膨張部４１は、上記保護対象部位を拘束して衝撃から保護することのできる形状及び大きさに形成されている。

【0045】

図６に示すように、非膨張展開形態のエアバッグ３１における膨張部４１は、エアバッグ３１の下端３１Ｌを含含み、かつ略扇形状をなす下膨張部４２と、下膨張部４２の上側に隣接する上膨張部４５とを備えている。図１０に示すように、下膨張部４２の前部は下前膨張部４３によって構成され、同下膨張部４２の後部は下後膨張部４４によって構成されている。下前膨張部４３及び下後膨張部４４は互いに連通している。図６に示すように、上膨張部４５は、同上膨張部４５の下端部を構成し、かつ下膨張部４２の上側に隣接する境界部４６と、境界部４６の上側に隣接する非境界部４７とからなる。

【0046】

膨張部４１内には、図示しない厚み規制部が設けられている。厚み規制部は、膨張部４１の上記幅方向（左右方向）における膨張厚みを規制するためのものである。厚み規制部は、一般的にテザーと呼ばれるものと同様の構成を有している。また、膨張部４１内の後下部には、図示しないインナチューブが配置されている。インナチューブは、ガス発生器２５を取り囲んだ状態で上下方向へ延びている。インナチューブは、ガス発生器２５で発生された膨張用ガスを整流する機能を有している。

【0047】

エアバッグ３１の後端部は、サイドフレーム部１８に対する固定部３２として設定されている。そして、ガス発生器２５が略上下方向へ延びる姿勢にされて、固定部３２内に収容されている。さらに、ボルト２８がインナチューブ、エアバッグ３１等に挿通されることにより、同ガス発生器２５がエアバッグ３１等に対し位置決めされた状態で係止されている。

【0048】

［エアバッグモジュールＡＢＭの固定態様］
ところで、エアバッグモジュールＡＢＭは、エアバッグ３１が図２及び図５に示すようにコンパクトな収納用形態にされた状態で収納部２２に収納されている。図３に示すように、エアバッグモジュールＡＢＭは、その上端が、例えば、下記高さに位置するように、側部１７内に固定されている。

【0049】

上記高さとは、「乗員Ｐ１が、例えばステアリングホイール７３を把持して、運転姿勢を採っているとき（図４参照）の上腕部ＰＡＵの下端と同じ高さ、又は下端よりも低い高さ」である。

【0050】

図６に示す非膨張展開形態のエアバッグ３１は、ガス発生器２５が収容された固定部３２（後端部）とは異なる箇所が、厚み規制部（テザー）、インナチューブ等と一緒に折り畳まれることにより、図２及び図５に示す収納用形態にされている。

【0051】

収納用形態では、図１３に示すように、上膨張部４５が、折り返す方向を交互に変えながら上下方向へ蛇腹状に折り畳まれている。下膨張部４２の少なくとも一部は、上膨張部４５の後述する前部４９よりも、側壁部１２（車両用シート１４）から遠い側（サイドフレーム部１８側：左側）に配置されている。より詳しくは、同図１３に示すように、下膨張部４２は、下前膨張部４３及び下後膨張部４４が重ね合わされた二つ折り状態にされている。二つ折り状態の下前膨張部４３及び下後膨張部４４は、車両用シート１３の幅方向（左右方向）に並べられた状態で配置されている。

【0052】

図２に示すように、エアバッグ３１が収納用形態にされたエアバッグモジュールＡＢＭは、収納部２２内に収納されている。そして、エアバッグ３１の固定部３２から露出するボルト２８が、サイドフレーム部１８に挿通されている。ボルト２８の一部は、サイドフレーム部１８よりも側壁部１１側へ突出しており、この突出部分にナット２９が締め付けられている。この締め付けにより、ガス発生器２５が、エアバッグ３１の固定部３２（後端部）と一緒にサイドフレーム部１８に固定されている。

【0053】

なお、ガス発生器２５は、上述したボルト２８及びナット２９とは異なる部材によってサイドフレーム部１８に固定されてもよい。また、ガス発生器２５がインフレータ２６のみによって構成される場合には、インフレータ２６が、同インフレータ２６に固定されたボルト２８と、これに締め付けられたナット２９とによってサイドフレーム部１８に固定されてもよい。

【0054】

収納用形態のエアバッグ３１における下膨張部４２に対し、側壁部１２（車両用シート１４）から遠ざかる側の箇所には、受圧部が設けられている。受圧部は、膨張する下膨張部４２を通じて膨張用ガスの圧力を受け、側壁部１２（車両用シート１４）側へ向かう反力を発生させる役割を担っている。受圧部は、本実施形態ではサイドフレーム部１８の一部によって構成されている。

【0055】

［エアバッグ３１の折り態様］
非膨張展開形態のエアバッグ３１を収納用形態にするために、次の第１～第５の折り工程、及び収納用形態の保持工程が行なわれる。なお、図７～図１１では、エアバッグモジュールＡＢＭが、サイドフレーム部１８に固定されるときと同程度の角度で傾斜させられた状態で図示されている。

【0056】

（第１の折り工程）
第１の折り工程では、図７に示す非膨張展開形態のエアバッグ３１における上膨張部４５の非境界部４７であって、上下方向における中間部に、略前後方向に直線状に延びる折り線５１が設定される。

【0057】

図７において矢印Ａで示すように、非境界部４７において折り線５１よりも上側の部分５２が、折り線５１に沿って、側壁部１２（車両用シート１４）側へ折り返す折りが行なわれる。この第１の折り工程が行なわれることにより、図８に示すように、上記部分５２が部分５３に対し側壁部１２（車両用シート１４）側に重なった状態となる。これに伴い、上膨張部４５（エアバッグ３１）の上下方向の寸法が、第１の折り工程が行なわれる前よりも小さくなる。

【0058】

（第２の折り工程）
図８に示すように、第２の折り工程では、第１の折り工程が行なわれた後の非境界部４７に対し、それぞれ直線状をなす２種類の上折り線５４，５５が複数本ずつ設定される。一点鎖線で示される上折り線５４は、山折りされる際の折り目となる線である。破線で示される上折り線５５は、谷折りされる際の折り目となる線である。山折りは、折り目（上折り線５４）が外側に出る折り方である。山折りされた部分は山のように盛り上がった状態となる。谷折りは、折り目（上折り線５５）が内側に隠れるように折る折り方である。谷折りされた部分は、谷のように内側に凹む。

【0059】

上折り線５４と上折り線５５とは交互に配置されている。隣り合う上折り線５４，５５は互いに平行に離間した状態で略前後方向へ延びている。隣り合う上折り線５４，５５の間隔（折り幅）は、前後方向のどの箇所でも一定である。

【0060】

非境界部４７は、折り返す方向を交互に変えながら上方から下方へ向けて蛇腹状に折り畳まれる。この折り態様は、蛇腹折りと呼ばれる。この蛇腹折りにより、図９に示すように、非境界部４７、ひいてはエアバッグ３１の上下方向の寸法が、第１の折り工程が行なわれた直後よりも小さくなる。

【0061】

（第３の折り工程）
図９に示すように、第３の折り工程では、上膨張部４５の境界部４６に対し、それぞれ直線状をなす２種類の上折り線５７，５８が設定される。一点鎖線で示される上折り線５７は、山折りされる際に折り目となる線である。破線で示される上折り線５８は、谷折りされる際に折り目となる線である。

【0062】

両上折り線５７，５８の間隔は、前後方向に変化するように設定される。本実施形態では、上記間隔は前方ほど広くなるように設定される。図１０に示すように、境界部４６は、上折り線５７，５８に沿って折り返されることにより、折り幅が前後方向に異なるように蛇腹状に折り畳まれる。この折りにより、上膨張部４５、ひいてはエアバッグ３１の上下方向の寸法が、第２の折り工程が行なわれた直後よりもさらに小さくなる。

【0063】

（第４の折り工程）
図１０に示すように、第４の折り工程では、非膨張展開形態のエアバッグ３１における略扇形状の下膨張部４２に、前側ほど低くなる直線状の下折り線６１が設定される。この設定により、下膨張部４２は、下折り線６１よりも前側の下前膨張部４３と、同下折り線６１よりも後側の下後膨張部４４とに仕切られる。

【0064】

一方で、第４の折り工程では、第３の折り工程を経た上膨張部４５の前後方向における中間部４８が中心とされて、同上膨張部４５の中間部４８よりも前方部分（前部４９）が矢印Ｂで示すように、下方へ回転するように折り曲げられる。なお、前部４９は、図１０では一点鎖線の枠で囲まれた箇所である。

【0065】

上記折り曲げの際、下膨張部４２では、上膨張部４５から離れた下後膨張部４４が変形しない、又は変形しにくいのに対し、上膨張部４５に隣接する下前膨張部４３は、上膨張部４５の動き（折り曲げ）に追従して変形する。すると、図１１に示すように、下膨張部４２は、下折り線６１において折り返されることで、下前膨張部４３が下後膨張部４４に対し、側壁部１２（車両用シート１４）側から重なった二つ折り状態にされる（図１３参照）。また、蛇腹状に折り畳まれた上膨張部４５の上記前部４９は、上記下前膨張部４３よりも側壁部１２（車両用シート１４）側に位置する。

【0066】

続いて、上記のように車両用シート１３の幅方向に重なり合った下前膨張部４３及び下後膨張部４４が、図１２に示すように上膨張部４５の前部４９に巻き付けられる。
（第５の折り工程）
第５の折り工程では、図１２に示すように、第４の折り工程を経たエアバッグ３１の次の箇所に、車両用シート１３の幅方向（左右方向）に延びる折り線６４が設定される。該当する箇所は、前部４９、下前膨張部４３及び下後膨張部４４の前方であり、かつ下端から上方へ離れた箇所であって、例えば、ガス発生器２５の下端の斜め前上方となる箇所である。

【0067】

同図１２において矢印Ｃで示すように、エアバッグ３１において、折り線６４よりも下側の部分６５が、折り線６４に沿って上方へ折り返す折りが行なわれる。この折りにより、下側の部分６５が、折り線６４よりも上側の部分６６の前側に重なった状態となる。これに伴い、エアバッグ３１の上下方向の寸法が、第５の折り工程が行なわれる前よりも小さくなる。ただし、エアバッグ３１の前後方向の寸法は、下側の部分６５が重なったことにより、第５の折り工程が行なわれる前よりも大きくなる。そして、エアバッグ３１は、折り畳まれた部分が、固定部３２（後端部）に近づくように変形させられることで、収納用形態（図５参照）にされる。

【0068】

（収納用形態の保持工程）
第５の折り工程を経て収納用形態にされたエアバッグ３１の互いに上下方向に離間した複数箇所に対し、図５に示すように、結束テープ６８が巻き付けられる。エアバッグ３１は結束テープ６８によって収納用形態に保持される。

【0069】

［ファーサイドエアバッグ装置のその他の構成］
図２に示すように、ファーサイドエアバッグ装置は、上述したエアバッグモジュールＡＢＭのほかに、衝撃センサ７１及び制御装置７２を備えている。衝撃センサ７１は加速度センサ等からなり、側壁部１１，１２に対し外方（側方又は斜め前側方）から車両１０に加えられる衝撃を検出する。

【0070】

制御装置７２は、コンピュータプログラム（ソフトウエア）に従って動作する１つ以上のプロセッサ、各種処理のうち、少なくとも一部の処理を実行する１つ以上の専用のハードウエア回路、あるいはそれらの組み合わせ、を含む回路として構成されている。制御装置７２は、衝撃センサ７１からの検出信号に基づきガス発生器２５の作動を制御する。本実施形態では、制御装置７２は、衝撃センサ７１が所定値以上の大きさの衝撃を検出した場合に、ガス発生器２５を作動させるための作動信号を出力する。

【0071】

＜作用及び効果＞
次に、上記のように構成された本実施形態の作用について説明する。また、作用に伴い生ずる効果についても併せて説明する。なお、前提条件として、乗員Ｐ１が車両用シート１３に適正な姿勢で着座していて、その乗員Ｐ１の上半身が、シートベルト装置によって同車両用シート１３に拘束されているものとする。

【0072】

［（１）ファーサイドエアバッグ装置の非作動時］
側壁部１１，１２のいずれに対しても所定値以上の大きさの衝撃が加わったことが、図２に示す衝撃センサ７１によって検出されないときには、制御装置７２からガス発生器２５に対し作動信号が出力されない。インフレータ２６のガス噴出部２６ａからは、膨張用ガスが噴出されない。エアバッグ３１は、同図２に示すように、収納用形態で収納部２２に収納され続ける。

【0073】

［（２）ファーサイドエアバッグ装置の作動時］
次に、両側壁部１１，１２の一方、例えば、側壁部１２が特定側壁部とされて、この側壁部１２に対し、図１において矢印で示すように、側突等による衝撃が外方（側方又は斜め前方）から加わった場合について説明する。

【0074】

この場合には、図１における乗員Ｐ１の上半身が、慣性により衝撃の加わった側である側壁部１２側へ移動しようとする。この移動には、同側壁部１２側へ倒れ込む動きも含まれる。

【0075】

一方、側壁部１２に対し、所定値以上の衝撃が加わったことが図２の衝撃センサ７１によって検出されると、その検出信号に応じ制御装置７２からガス発生器２５に対し、上記作動信号が出力される。この作動信号に応じて、インフレータ２６のガス噴出部２６ａから膨張用ガスが噴出される。膨張用ガスは、収納用形態のエアバッグ３１における下膨張部４２及び上膨張部４５のそれぞれに供給される。

【0076】

膨張用ガスが供給されることで下膨張部４２及び上膨張部４５の各内圧が上昇する。下膨張部４２及び上膨張部４５は、上述した折り畳み方とは逆の順序で、展開及び膨張する。

【0077】

展開及び膨張するエアバッグ３１によって、図５に示す結束テープ６８が破断される。引き続き展開及び膨張するエアバッグ３１は、図２における収納部２２の近くでシートパッド１９を押圧し、破断予定部２４においてシートパッド１９を破断させる。エアバッグ３１は、固定部３２（後端部）を収納部２２内に残した状態で、側部１７の外部へ出る。エアバッグ３１は、車両用シート１３，１４の間で展開及び膨張する。

【0078】

（２－１）ここで、図１３に示すように、上膨張部４５とサイドフレーム部１８との間に位置する下膨張部４２に対し、ガス発生器２５から膨張用ガスが供給されると、同下膨張部４２が膨張し始める。すると、サイドフレーム部１８のうち、下膨張部４２よりも側壁部１１側の箇所が受圧部として機能する。膨張用ガスの圧力がサイドフレーム部１８によって受け止められるとともに、側壁部１２側へ向かう反力が発生される。この反力によって、図１４に示すように、上膨張部４５が側壁部１２（車両用シート１４）側へ押し出される。

【0079】

また、蛇腹状に折り畳まれている上膨張部４５は、下膨張部４２によって側壁部１２側へ押されながら、上方へ向けて展開及び膨張する。この際、上膨張部４５では、図７及び図８に示すように、部分５２が折り線５１を中心とした上方への回転を伴いながら展開及び膨張が行なわれる。この回転は、部分５３よりも側壁部１２（車両用シート１４）側で行なわれる。このように、エアバッグ３１は腕部ＰＡを迂回しながら展開及び膨張する。従って、エアバッグ３１が展開及び膨張する際に、乗員Ｐ１の腕部ＰＡを押し上げる現象が起こりにくい。

【0080】

そして、エアバッグ３１は、乗員Ｐ１の上半身に対し、側壁部１２（車両用シート１４）側の側方で展開及び膨張する。そのため、上記のように衝撃に応じて側壁部１２側へ移動しようとする乗員Ｐ１の上半身は、その側方で展開及び膨張したエアバッグ３１によって受け止められる。側壁部１２側への乗員Ｐ１の上半身の移動（倒れる現象を含む）が規制され、同上半身が衝撃から保護される。

【0081】

［（３）上記以外の作用及び効果］
（３－１）非膨張展開形態のエアバッグ３１の折り畳みに際し、上膨張部４５の非境界部４７では、図８に示すように、隣り合う直線状の上折り線５４，５５の間隔（折り幅）が、前後方向に一定に設定される。非境界部４７は、各上折り線５４，５５に沿って、折り方向を交互に変えながら折り返されることにより、折り幅が前後方向に一定となるように蛇腹状に折り畳まれる。

【0082】

また、上膨張部４５の境界部４６では、図９に示すように、隣り合う直線状の上折り線５７，５８の間隔が、前後方向に変化するように設定される。上記境界部４６は、上折り線５７，５８に沿って折り返されることにより、折り幅が前方ほど大きくなるように蛇腹状に折り畳まれる。

【0083】

そのため、非境界部４７を効率よく蛇腹状に折り畳むことができる。また、境界部４６では、その形状に拘らず、境界部４６全体を過不足なく蛇腹状に折り畳むことができる。
（３－２）本実施形態では、図１０及び図１３に示すように、下膨張部４２が下折り線６１に沿って折り返されることにより、下前膨張部４３及び下後膨張部４４が重ね合わされた二つ折り状態にされている。

【0084】

そのため、下膨張部４２が折り返されない場合に比べ、収納用形態にされたときのエアバッグ３１のサイズをより小さくし、車両用シート１３に対する搭載性を向上させることができる。

【0085】

（３－３）本実施形態では、図２及び図１３に示すように、シートバック１６の側部１７内に設けられた既設のサイドフレーム部１８の一部を受圧部として機能させている。そのため、受圧部を別途設けなくても、下膨張部４２を側壁部１２側へ速やかに展開及び膨張させる効果が得られる。

【0086】

（３－４）なお、図１における側壁部１１に対し外方から衝撃が加わった場合については説明しないが、上記と同様の作用が行なわれて、車両用シート１４に着座している乗員Ｐ２が衝撃から保護される。

【0087】

＜変更例＞
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変更例として実施することもできる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。

【0088】

［エアバッグ３１について］
・エアバッグ３１の形状又は大きさが変更されて、同エアバッグ３１による乗員Ｐ１の保護対象部位が拡大、縮小又は変更されてもよい。

【0089】

・エアバッグ３１は、上記実施形態のように略全体が膨張するものであってもよいが、膨張用ガスが供給されず膨張することのない非膨張部を一部に有するものであってもよい。

【0090】

・エアバッグ３１の固定部３２は、車両用シート１３の側部１７に位置する部材であって、サイドフレーム部１８と同様に高い剛性を有する部材に固定されてもよい。
・エアバッグ３１は、収納用形態にされた状態では、下膨張部４２の少なくとも一部が上膨張部４５よりも側壁部１２（車両用シート１４）から遠い側（サイドフレーム部１８側）に配置されればよい。従って、下膨張部４２のうち、上記配置の対象となる部位は、下膨張部４２の一部のみであってもよいし、全部であってもよい。

【0091】

・収納用形態のエアバッグ３１における下膨張部４２は、上記幅方向（左右方向）に対し、上記実施形態よりも多くの数、折り畳まれてもよい。
［制御装置７２について］
・制御装置７２の仕様が、側壁部１１，１２の一方に対し外方から衝撃が加わることを予測した場合に、ガス発生器２５に作動信号を出力する仕様に変更されてもよい。

【0092】

［ファーサイドエアバッグ装置の適用箇所について］
・上記ファーサイドエアバッグ装置は、車両用シート１３，１４のいずれか一方のみに適用されてもよい。

【0093】

また、上記ファーサイドエアバッグ装置は、車両１０の前部座席（運転席、助手席）に限らず、後部座席（２列目以降の座席）に適用されてもよい。ただし、後部座席の場合にも、隣り合う車両用シート１３，１４が互いに独立していて、同車両用シートの幅方向に離間した状態で配置されているものが適用対象となる。

【0094】

・シートバック１６が前方とは異なる方向、例えば側方（左右方向）を向く姿勢で車両用シート１３，１４が配置されているタイプの車両１０の場合、上記ファーサイドエアバッグ装置は、それらの車両用シート１３，１４にも適用可能である。

【0095】

・車両１０が、３つ以上の車両用シート１３，１４が幅方向に並設されたタイプである場合、上記ファーサイドエアバッグ装置は、それらの車両用シート１３，１４にも適用可能である。

【0096】

［その他］
・サイドフレーム部１８とは別の部材によって受圧部が構成されてもよい。
・上記ファーサイドエアバッグ装置が適用される車両１０には、自家用車に限らず各種産業車両も含まれる。

【0097】

・上記ファーサイドエアバッグ装置は、車両１０とは異なる乗物、例えば航空機、船舶等の乗物における乗物用シートに搭載されるファーサイドエアバッグ装置にも適用可能である。

【符号の説明】

【0098】

１０…車両（乗物）
１１…側壁部
１２…側壁部（特定側壁部）
１３，１４…車両用シート（乗物用シート）
１６…シートバック
１７…側部
１８…サイドフレーム部
２５…ガス発生器
３１…エアバッグ
３２…固定部
４２…下膨張部
４３…下前膨張部
４４…下後膨張部
４５…上膨張部
４６…境界部
５４，５５，５７，５８…上折り線
６１…下折り線

【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】