(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127927
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】硬化型免震装置およびこれを備えた免震構造物
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20230907BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
E04H9/02 331Z
E04H9/02 331D
E04H9/02 341A
F16F15/02 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031918
(22)【出願日】2022-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 皓
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 宏一
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139BB02
2E139BB36
2E139CA11
2E139CA30
2E139CB15
3J048AA02
3J048AA03
3J048AD06
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】水平2方向に効力を発揮することができる硬化型免震装置およびこれを備えた免震構造物を提供する。
【解決手段】上側ガイドレール24および下側ガイドレール26に沿って移動可能なガイド28とを有するとともに上部構造物12Aを支持する転がり支承18と、上部構造物12Aとガイド28との間、下部構造物14Aとガイド28との間をそれぞれ接続して設けられ、水平変位に応じて剛性が変化する特性を有するとともに水平方向の変位を抑制する硬化型装置20と、回転慣性力を利用して水平方向の振動を抑制する回転慣性装置22とを備え、硬化型装置20および回転慣性装置22は、互いに交差する水平2方向の変位または振動をそれぞれ抑制するように配置されるようにする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造物と下部構造物との間の免震層に設けられ、上部構造物と下部構造物とを水平方向に相対変位可能な硬化型免震装置であって、
上部構造物において水平1方向に配置される上側ガイドレールと、下部構造物において上側ガイドレールの延在方向に交差する水平1方向に配置される下側ガイドレールと、上側ガイドレールおよび下側ガイドレールに沿って移動可能なガイドとを有するとともに上部構造物を支持する転がり支承と、
上部構造物とガイドとの間、下部構造物とガイドとの間をそれぞれ接続して設けられ、水平変位に応じて剛性が変化する特性を有するとともに水平方向の変位を抑制する硬化型装置と、回転慣性力を利用して水平方向の振動を抑制する回転慣性装置とを備え、
硬化型装置および回転慣性装置は、互いに交差する水平2方向の変位または振動をそれぞれ抑制するように配置されることを特徴とする硬化型免震装置。
【請求項2】
硬化型装置は、1本または複数本のワイヤーと、このワイヤーの端部側に設けられる復元ばね機構とを有することを特徴とする請求項1に記載の硬化型免震装置。
【請求項3】
硬化型装置のワイヤーは、高さ方向、上側ガイドレールまたは下側ガイドレールの延在方向に対して斜めに配置されることを特徴とする請求項2に記載の硬化型免震装置。
【請求項4】
上部構造物は、柱、梁または床であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一つに記載の硬化型免震装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一つに記載の硬化型免震装置を備えることを特徴とする免震構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化型免震装置およびこれを備えた免震構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、免震構造は建物の基礎部分に剛性の低い層を導入して建物の固有周期を伸ばすことで、地震入力時の加速度を低減させ、これにより、建物を地震から守る方式として知られている。しかし、一方で、長周期地震が発生した際は免震層の変位が過大となることが危惧されており、2016年の熊本地震の際にも長周期パルスの発生により、多くの免震建築物が被害を受けた。このような問題を解決するために、非特許文献1に示すような硬化型免震構造が開発されている。この硬化型免震構造は、単一方向に作用する硬化型装置を備えており、変位が増大するに従い免震層の剛性が大きくなることにより過大変位を防止する。この構造は、制御対象となる質量に対して、ワイヤーを固定することによって実現される。硬化型装置の剛性は、皿ばねの剛性を変更することにより調節可能である。
【0003】
一方、上記に関連する従来技術として、例えば特許文献1~3に記載のものが知られている。特許文献1、2に記載の構造は、慣性質量ダンパーや防振構造などを用いた構造である。錘を回転させることで、大きな質量を付加した際と同等の効果をもたらし、建物の振動を抑制する。特許文献3は、転がり支承によるキ字型免震構造であり、水平2方向に効力を発揮する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「硬化型復元力と回転慣性質量を組み合わせた過大変位抑制型免震構造に関する基礎的研究(その4)大型免震試験体と解析モデル概要」、鈴木瑛大、渡辺宏一、宮本皓、射場淳、石井建、菊地優、日本建築学会年次大会(東海)、No:21270、2021
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-189104号公報
【特許文献2】特開2020-186744号公報
【特許文献3】特開平10-280730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、実際の建物には地震力が任意の水平方向から入力する。しかし、上記の従来の硬化型免震構造は水平1方向のみに効力を発揮する構造であることから、そのままの形態で実際の建物に適用することは難しいという問題があった。このため、任意の水平方向の地震力に対応可能なように、水平2方向に効力を発揮することができる技術の開発が求められていた。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、水平2方向に効力を発揮することができる硬化型免震装置およびこれを備えた免震構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る硬化型免震装置は、上部構造物と下部構造物との間の免震層に設けられ、上部構造物と下部構造物とを水平方向に相対変位可能な硬化型免震装置であって、上部構造物において水平1方向に配置される上側ガイドレールと、下部構造物において上側ガイドレールの延在方向に交差する水平1方向に配置される下側ガイドレールと、上側ガイドレールおよび下側ガイドレールに沿って移動可能なガイドとを有するとともに上部構造物を支持する転がり支承と、上部構造物とガイドとの間、下部構造物とガイドとの間をそれぞれ接続して設けられ、水平変位に応じて剛性が変化する特性を有するとともに水平方向の変位を抑制する硬化型装置と、回転慣性力を利用して水平方向の振動を抑制する回転慣性装置とを備え、硬化型装置および回転慣性装置は、互いに交差する水平2方向の変位または振動をそれぞれ抑制するように配置されることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る他の硬化型免震装置は、上述した発明において、硬化型装置は、1本または複数本のワイヤーと、このワイヤーの端部側に設けられる復元ばね機構とを有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る他の硬化型免震装置は、上述した発明において、硬化型装置のワイヤーは、高さ方向、上側ガイドレールまたは下側ガイドレールの延在方向に対して斜めに配置されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る他の硬化型免震装置は、上述した発明において、上部構造物は、柱、梁または床であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る免振構造物は、上述した硬化型免震装置を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る硬化型免震装置によれば、上部構造物と下部構造物との間の免震層に設けられ、上部構造物と下部構造物とを水平方向に相対変位可能な硬化型免震装置であって、上部構造物において水平1方向に配置される上側ガイドレールと、下部構造物において上側ガイドレールの延在方向に交差する水平1方向に配置される下側ガイドレールと、上側ガイドレールおよび下側ガイドレールに沿って移動可能なガイドとを有するとともに上部構造物を支持する転がり支承と、上部構造物とガイドとの間、下部構造物とガイドとの間をそれぞれ接続して設けられ、水平変位に応じて剛性が変化する特性を有するとともに水平方向の変位を抑制する硬化型装置と、回転慣性力を利用して水平方向の振動を抑制する回転慣性装置とを備え、硬化型装置および回転慣性装置は、互いに交差する水平2方向の変位または振動をそれぞれ抑制するように配置されるので、水平2方向に効力を発揮することができるという効果を奏する。
【0014】
また、本発明に係る他の硬化型免震装置によれば、硬化型装置は、1本または複数本のワイヤーと、このワイヤーの端部側に設けられる復元ばね機構とを有するので、復元ばね機構の剛性を変更することで硬化型装置の剛性や復元力の大きさを容易に調節することができるという効果を奏する。
【0015】
また、本発明に係る他の硬化型免震装置によれば、硬化型装置のワイヤーは、高さ方向、上側ガイドレールまたは下側ガイドレールの延在方向に対して斜めに配置されるので、ワイヤーの配置方向を変更することで硬化型装置による復元力の大きさを調節することができるという効果を奏する。
【0016】
また、本発明に係る他の硬化型免震装置によれば、上部構造物は、柱、梁または床であるので、柱、梁または床の下において水平2方向に効力を発揮する硬化型免震装置を実現することができるという効果を奏する。
【0017】
また、本発明に係る免振構造物によれば、上述した硬化型免震装置を備えるので、水平2方向に効力を発揮することができる免震構造物を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、本発明に係る硬化型免震装置およびこれを備えた免震構造物の実施の形態を示す概略側面図である。
【
図2】
図2は、本実施の形態を示す図であり、(1)は側面図、(2)は伏図である。
【
図3】
図3は、本実施の形態の変形例の説明図であり、(1)は変形例1、(2)は変形例2、(3)は変形例3、(4)は変形例4である。
【
図4】
図4は、本発明の効果の検証の説明図である。
【
図5】
図5は、本発明の効果の検証結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係る硬化型免震装置およびこれを備えた免震構造物の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0020】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る硬化型免震装置10は、上部構造物12と下部構造物14との間の免震層16に設けられ、上部構造物12と下部構造物14とを水平方向に相対変位可能な装置である。本実施の形態に係る免振構造物は、この硬化型免震装置10と上部構造物12と下部構造物14とを備えた構造物である。
【0021】
硬化型免震装置10は、
図2に示すように、転がり支承18からなる免震構造に対して、硬化型装置20と回転慣性装置22を備える免震層を上下に重ねて配置したものである。硬化型装置20および回転慣性装置22は、互いに交差する前後左右の水平2方向の変位または振動をそれぞれ抑制するように配置される。本実施の形態では、水平2方向に作用する転がり支承18に対して硬化型装置20と回転慣性装置22を併用することで、硬化型装置20と回転慣性装置22の力を発揮させるようにしている。
【0022】
通常、転がり支承は柱下に配置するが、硬化型装置20は非線形な剛性を発揮させることが目的であることから、転がり支承18と組み合わせて梁下などに配置することで、同様の効果が得られることが期待される。本実施の形態では、転がり支承18は上部構造物12の下面に位置する取付部材12Aと、下部構造物14の上面に位置する取付部材14Aとの間に配置される。取付部材12Aは、柱、梁、床部分などを想定し、取付部材14Aは、基礎、床部分などを想定している。
【0023】
転がり支承18は、
図2に示すように、取付部材12Aの下面において左右方向(水平1方向)に配置される上側ガイドレール24と、取付部材14Aの上面において上側ガイドレール24の延在方向に交差する前後方向(水平1方向)に配置される下側ガイドレール26と、上側ガイドレール24および下側ガイドレール26に嵌合し、各ガイドレール24、26に沿って移動可能なブロック状のガイド28とを有しており、ガイド28を介して上部構造物12の荷重を支持する。このように、ガイド28を水平1方向に案内可能なガイドレール24、26を上段側と下段側に重ねて配置するとともに、案内方向が互いに直交するように配置する。ガイド28は、ガイドレール24、26との接触部分に図示しないボールベアリング機構を有している。各ガイドレール24、26は一定の長さを有しており、交差部分を上から見ると十字形状を呈している。
【0024】
硬化型装置20は、水平変位に応じて剛性が変化する特性を有するとともに水平方向の変位を抑制する装置であり、ワイヤー30と、ワイヤー30の端部側に接続した複数の皿ばね32(復元ばね機構)で構成される。建物は平断面の短辺方向および長辺方向で固有周期が異なるが、皿ばね32の剛性を変更することにより、硬化型装置20の剛性や復元力の大きさを容易に調節することができる。これにより、建物の各方向に適した硬化型装置20の剛性調節が可能である。硬化型装置20は、上段側と下段側に配置される。なお、
図2(2)においては、上段側に配置される硬化型装置20は、便宜上図示を省略している。
【0025】
上段側の硬化型装置20は、ガイド28の側方(右方)において前後対称の位置に2組設けられる。硬化型装置20のワイヤー30は前後方向水平に張られており、ワイヤー30の一端はガイド28の一方(右方)の側部の固定部材28Aに連結され、他端はガイド28から前後に離れた位置の取付部材12Aに固定された固定部材34の孔を通して、固定部材34の外側に配置された皿ばね32に接続される。
【0026】
下段側の硬化型装置20は、ガイド28の側方(前方)において左右対称の位置に2組設けられる。硬化型装置20のワイヤー30は左右方向水平に張られており、ワイヤー30の一端はガイド28の一方(前方)の側部の固定部材28Aに連結され、他端はガイド28から左右に離れた位置の取付部材14Aに固定された固定部材34の孔を通して、固定部材34の外側に配置された皿ばね32に接続される。
【0027】
なお、図の例では、ワイヤー30の本数を1本としたものを用いているが、本発明はこれに限るものではなく、後述の変形例で説明するように、ワイヤー30を複数本用いてもよい。こうすることで、硬化型装置20が発揮する復元力を増加させることが可能となる。さらに、ワイヤー30をガイド28に取り付ける際は、後述の変形例で説明するように、上下方向、前後方向または左右方向に対して斜め方向に取り付けることも可能である。ワイヤー30の配置方向を変更することで、硬化型装置20による復元力の大きさを調節することが可能となる。
【0028】
回転慣性装置22は、回転慣性力を利用して水平方向の振動を抑制するものであり、ボールネジ36と、ボールネジ36の端部側に係合したホイールを備えた回転慣性機構38で構成される。回転慣性機構38は、ボールネジ36の直動運動をホイールの回転運動に変換し、慣性質量効果を発揮する周知の回転慣性ダンパーである。回転慣性装置22は、上段側と下段側に一組ずつ配置される。なお、回転慣性装置22は、ホイールが回転する形式に限るものではなく、これ以外の形式の回転慣性ダンパーを用いてもよい。このようにしても、同様の効果が得られることが期待される。
【0029】
上段側の回転慣性装置22は、ガイド28の側方(左方)に設けられる。この回転慣性装置22のボールネジ36は左右方向水平に延在しており、ボールネジ36の一端はガイド28の左方の側部に連結され、他端はガイド28から左方向に離れた位置の取付部材12Aに固定された回転慣性機構38に接続される。下段側の回転慣性装置22は、ガイド28の側方(後方)に設けられる。この回転慣性装置22のボールネジ36は前後方向水平に延在しており、ボールネジ36の一端はガイド28の後方の側部に連結され、他端はガイド28から後方向に離れた位置の取付部材12Aに固定された回転慣性機構38に接続される。
【0030】
本実施の形態の硬化型免震装置10によれば、転がり支承18を用いた免震構造に対して、硬化型装置20と回転慣性装置22を備える免震層を上下2段重ねで配置することにより、左右方向と前後方向の水平2方向に効力を発揮させることができる。これにより、実際の免震建築構造物への適用が可能となり、任意方向の地震に対し、応答変位・加速度を低減することができる。したがって、長周期地震が発生した際でも、変位および加速度について、水平1方向のみならず、水平2方向へ効力を発揮する免震層を実現することが可能となる。
【0031】
(変形例)
上記の実施の形態においては、本発明の基本となる取付パターンを示したが、本発明はこれに限るものではない。例えば、
図3(1)に示すように、硬化型装置20を左右方向に対して斜めに配置した構成や、
図3(2)に示すように、左右方向に対して斜めに配置することに加え、前後に対に配置した構成、
図3(3)に示すように、ワイヤー30の本数を複数本(図の例では2本)用いた構成、
図3(4)に示すように、硬化型装置20の配置を高さ方向に斜めにした構成を採用してもよい。このように、硬化型装置20の配置を変えることにより、硬化型装置20による復元力の調整に効果がある他、免震構造の浮き上がり防止にもつながることが期待される。
【0032】
(本発明の効果の検証)
次に、本発明の効果の検証について説明する。本検証では、固有周期3.3秒、減衰定数10%となる免震構造物を対象として、(1)比較例(硬化型免震装置を有しない通常の免震構造)、(2)本発明の実施例(硬化型免震装置を有する場合)の2つに対して検討を行う。本検証では、特に、免震構造に大きな被害を出した2016年の熊本地震において、西原村にて観測された地震波を用いた応答解析により検証を行っている。解析に用いた地震波の時間波形を
図4(1)、(2)に示す。
図4(1)は東西成分、(2)は南北成分である。
【0033】
図4(3)~(6)、
図5に応答解析結果を示す。
図4(3)は東西方向応答変位、(4)は南北方向応答変位、(5)は東西方向応答加速度、(6)は南北方向応答加速度である。
図5(1)は変位オービット、(2)は加速度オービットである。
【0034】
上記の応答解析結果より、本発明の硬化型免震装置を用いることで(実施例)、東西および南北の水平2方向に対して、応答変位および加速度を低減できることが明らかになった。西原波は長周期パルスと呼ばれ、特に免震構造のような固有周期が長い建築構造物に入力すると、応答変位が過大となり、擁壁への衝突が懸念される。上記の応答解析結果でも硬化型免震装置が取り付けられていない場合(比較例)は、特に東西方向で応答変位が1mを超えることが明らかとなった。なお、通常の建築物のクリアランスは最大でも0.75m程度である。
【0035】
一方、硬化型免震装置を取り付けた場合(実施例)は、最大応答変位を低減させていることのみならず、最大応答加速度についても、硬化型免震装置を取り付けていない場合(比較例)と同程度に抑えられていることがわかる。加速度と変位は通常、トレードオフの関係になっていることから、両者を落とすのは非常に困難であるが、本発明の硬化型免震装置を用いることにより、東西および南北方向に対して、最大加速度応答を増加させることなく、応答変位を低下させることができることが示された。
【0036】
以上説明したように、本発明に係る硬化型免震装置によれば、上部構造物と下部構造物との間の免震層に設けられ、上部構造物と下部構造物とを水平方向に相対変位可能な硬化型免震装置であって、上部構造物において水平1方向に配置される上側ガイドレールと、下部構造物において上側ガイドレールの延在方向に交差する水平1方向に配置される下側ガイドレールと、上側ガイドレールおよび下側ガイドレールに沿って移動可能なガイドとを有するとともに上部構造物を支持する転がり支承と、上部構造物とガイドとの間、下部構造物とガイドとの間をそれぞれ接続して設けられ、水平変位に応じて剛性が変化する特性を有するとともに水平方向の変位を抑制する硬化型装置と、回転慣性力を利用して水平方向の振動を抑制する回転慣性装置とを備え、硬化型装置および回転慣性装置は、互いに交差する水平2方向の変位または振動をそれぞれ抑制するように配置されるので、水平2方向に効力を発揮することができる。
【0037】
また、本発明に係る他の硬化型免震装置によれば、硬化型装置は、1本または複数本のワイヤーと、このワイヤーの端部側に設けられる復元ばね機構とを有するので、復元ばね機構の剛性を変更することで硬化型装置の剛性や復元力の大きさを容易に調節することができる。
【0038】
また、本発明に係る他の硬化型免震装置によれば、硬化型装置のワイヤーは、高さ方向、上側ガイドレールまたは下側ガイドレールの延在方向に対して斜めに配置されるので、ワイヤーの配置方向を変更することで硬化型装置による復元力の大きさを調節することができる。
【0039】
また、本発明に係る他の硬化型免震装置によれば、上部構造物は、柱、梁または床であるので、柱、梁または床の下において水平2方向に効力を発揮する硬化型免震装置を実現することができる。
【0040】
また、本発明に係る免振構造物によれば、上述した硬化型免震装置を備えるので、水平2方向に効力を発揮することができる免震構造物を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上のように、本発明に係る硬化型免震装置およびこれを備えた免震構造物は、建物などに設置される免震構造に有用であり、特に、水平2方向に免震作用の効力を発揮するのに適している。
【符号の説明】
【0042】
10 硬化型免震装置
12 上部構造物
12A,14A 取付部材
14 下部構造物
16 免震層
18 転がり支承
20 硬化型装置
22 回転慣性装置
24 上側ガイドレール
26 下側ガイドレール
28 ガイド
28A 固定部材
30 ワイヤー
32 皿ばね(復元ばね機構)
34 固定部材
36 ボールネジ
38 回転慣性機構