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特開2023-127930イニシエータ、イニシエータ装置、及びイニシエータの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127930
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】イニシエータ、イニシエータ装置、及びイニシエータの製造方法
(51)【国際特許分類】
   F42B 3/12 20060101AFI20230907BHJP
   B60R 21/264 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
F42B3/12
B60R21/264
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031921
(22)【出願日】2022-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サッブメーク ジャックリット
(72)【発明者】
【氏名】小森 翔悟
(72)【発明者】
【氏名】藤井 康平
【テーマコード(参考)】
3D054
【Fターム(参考)】
3D054DD11
3D054FF17
(57)【要約】
【課題】電橋線なしで着火可能とし、イニシエータの製造を容易にする技術を提供する。
【解決手段】イニシエータは、一対の電極と、前記一対の電極の間に介在する絶縁部材と、前記一対の電極の一端側を周囲の空間と共に覆うカバー体と、前記カバー体内の前記空間に充填された火薬と、を備え、前記一対の電極は、前記空間において、前記絶縁部材が介在する部分と比べて絶縁耐性が低い放電ギャップを有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、
前記一対の電極の間に介在する絶縁部材と、
前記一対の電極の一端側を周囲の空間と共に覆うカバー体と、
前記カバー体内の前記空間に充填された火薬と、
を備え、
前記一対の電極は、前記空間において、前記絶縁部材が介在する部分と比べて絶縁耐性が低い放電ギャップを有するイニシエータ。
【請求項2】
前記空間に充填された前記火薬と、前記放電ギャップとの間を空隙とし、且つ前記火薬と前記放電ギャップとを所定距離以内に配置した請求項1に記載のイニシエータ。
【請求項3】
前記一対の電極のうち、一方が線状の第一の電極であり、他方がリング状のリング部を含む第二の電極であり、
前記第一の電極の少なくとも一部が前記リング部の貫通孔内に挿入され、前記貫通孔を画す前記リング部の内周面と、前記第一の電極との間に前記電極が設けられた請求項1又は2に記載のイニシエータ。
【請求項4】
一方向に延在し、端部において開口した内部空間を有する筒状の内筒部を更に備え、
前記内筒部が、前記カバー体の前記空間内において、前記開口が前記電極に面して配置され、前記内筒部の前記内部空間に前記火薬が充填される請求項1~3の何れか1項に記載のイニシエータ。
【請求項5】
前記第二の電極は、一方向に延在し端部において開口した内部空間を有する内筒部を更に備え、
前記内筒部が、前記カバー体の前記空間内において、前記端部を前記リング部に当接し、前記開口を前記電極に面して配置され、前記内筒部の周壁から前記第一の電極側へ延設された延設部を備え、前記第一の電極と前記延設部との間を放電ギャップとし、
前記内筒部の前記内部空間に前記火薬が充填される請求項3に記載のイニシエータ。
【請求項6】
前記延設部が、前記内筒部における前記周壁のリング部側の端部から前記内部空間側に張り出した環状の部材である請求項5に記載のイニシエータ。
【請求項7】
前記延設部が、前記内筒部における前記周壁の一部から前記内部空間の延在方向と直交する方向に延設され、前記延在方向から見た場合に前記第一の電極と重なり、前記延在方向において前記第一の電極と所定の間隔を隔てて配置され、当該間隔を前記放電ギャップとする請求項5に記載のイニシエータ。
【請求項8】
前記カバー体が導電性を有し、前記第二の電極の一部を構成し、
前記第一の電極と前記カバー体との間に前記放電ギャップを形成した請求項3に記載のイニシエータ。
【請求項9】
請求項1~8の何れか1項に記載のイニシエータと、
前記一対の電極に電力を供給して前記放電ギャップに放電を生じさせる電力供給ユニットと、
を備えるイニシエータ装置。
【請求項10】
絶縁部材を介して第一の電極と第二の電極とを一体化して前記第一の電極と前記第二の電極との間を放電ギャップとした電極ユニットを形成する電極一体化工程と、
有底筒状のカバー体の開口から当該カバー体内の火薬収容部に火薬を充填する火薬充填工程と、
前記カバー体に充填された火薬に、前記電極ユニットの前記放電ギャップが接触又は近接するように電極ユニットが前記カバー体の前記開口に嵌め込まれる電極ユニット嵌込工程と、
カバー体及び前記電極ユニットを一体に接合する接合工程と、
を有するイニシエータの製造方法。
【請求項11】
前記火薬収容部に収容された火薬に圧力をかけて押し固め、前記火薬において前記電極ユニットと接する面に凹部を形成する圧填工程を有し、
前記電極ユニット嵌込工程において、前記放電ギャップと前記凹部とが隣接するように前記電極ユニットが前記カバー体の前記開口に嵌め込まれる請求項10に記載のイニシエータの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イニシエータ、イニシエータ装置、及びイニシエータの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、絶縁部材を介して一体化された一対の電極と、これら両電極に接続されて通電により発熱する電橋線と、この電橋線と同電橋線の発熱によって起爆する火薬とを内部に密封状態にて収容するケースとを構成部品とするイニシエータが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003-285712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のイニシエータにおいて、電橋線は、電極と導通するように溶接されており、製造時に溶接の手間が生じていた。また、電橋線の発熱によって火薬に点火するため、電橋線と火薬とが圧接して配置されるが、圧接する際に電橋線に必要以上の圧力が加わると、電橋線が損傷してしまうため、製造時に注意を要していた。更に、この電橋線の損傷や溶接不良が生じると、着火性に多大な影響を及ぼすため、損傷の有無や溶接状態を厳しく管理することになり、管理負荷の増加や歩留まりの低下を招き易く、イニシエータの製造を容易に行えないという問題があった。
【0005】
本開示の技術は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、電橋線なしで着火可能とし、イニシエータの製造を容易にする技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の技術は、以下の構成を採用した。即ち、本開示の技術の一態様は、
一対の電極と、
前記一対の電極の間に介在する絶縁部材と、
前記一対の電極の一端側を周囲の空間と共に覆うカバー体と、
前記カバー体内の前記空間に充填された火薬と、
を備え、
前記一対の電極は、前記空間において、前記絶縁部材が介在する部分と比べて絶縁耐性が低い放電ギャップを有するイニシエータである。
【0007】
前記イニシエータは、前記空間に充填された前記火薬と、前記放電ギャップとの間を空隙とし、且つ前記火薬と前記放電ギャップとを所定距離以内に配置してもよい。
【0008】
前記イニシエータは、前記一対の電極のうち、一方が線状の第一の電極であり、他方がリング状のリング部を含む第二の電極であり、
前記第一の電極の少なくとも一部が前記リング部の貫通孔内に挿入され、前記貫通孔を画す前記リング部の内周面と、前記第一の電極との間に前記電極が設けられてもよい。
【0009】
前記イニシエータは、一方向に延在し、端部において開口した内部空間を有する筒状の内筒部を更に備え、
前記内筒部が、前記カバー体の前記空間内において、前記開口が前記電極に面して配置され、前記内筒部の前記内部空間に前記火薬が充填されてもよい。
【0010】
前記イニシエータにおいて、前記第二の電極は、一方向に延在し端部において開口した内部空間を有する内筒部を更に備え、
前記内筒部が、前記カバー体の前記空間内において、前記端部を前記リング部に当接し、前記開口を前記電極に面して配置され、前記内筒部の周壁から前記第一の電極側へ延設された延設部を備え、前記第一の電極と前記延設部との間を放電ギャップとし、
前記内筒部の前記内部空間に前記火薬が充填されてもよい。
【0011】
前記イニシエータは、前記延設部が、前記内筒部における前記周壁のリング部側の端部から前記内部空間側に張り出した環状の部材であってもよい。
【0012】
前記イニシエータは、前記延設部が、前記内筒部における前記周壁の一部から前記内部空間の延在方向と直交する方向に延設され、前記延在方向から見た場合に前記第一の電極と重なり、前記延在方向において前記第一の電極と所定の間隔を隔てて配置され、当該間隔を前記放電ギャップとしてもよい。
【0013】
前記イニシエータは、前記カバー体が導電性を有し、前記第二の電極の一部を構成し、
前記第一の電極と前記カバー体との間に前記放電ギャップを形成してもよい。
【0014】
本開示の技術の一態様は、
前記イニシエータと、
前記一対の電極に電力を供給して前記放電ギャップに放電を生じさせる電力供給ユニットと、
を備えるイニシエータ装置である。
【0015】
本開示の技術の一態様は、
絶縁部材を介して第一の電極と第二の電極とを一体化して前記第一の電極と前記第二の電極との間を放電ギャップとした電極ユニットを形成する電極一体化工程と、
有底筒状のカバー体の開口から当該カバー体内の火薬収容部に火薬を充填する火薬充填工程と、
前記カバー体に充填された火薬に、前記電極ユニットの前記放電ギャップが接触又は近接するように電極ユニットが前記カバー体の前記開口に嵌め込まれる電極ユニット嵌込工程と、
カバー体及び前記電極ユニットを一体に接合する接合工程と、
を有するイニシエータの製造方法である。
【0016】
イニシエータの製造方法は、前記火薬収容部に収容された火薬に圧力をかけて押し固め、前記火薬において前記電極ユニットと接する面に凹部を形成する圧填工程を有し、
前記電極ユニット嵌込工程において、前記放電ギャップと前記凹部とが隣接するように前記電極ユニットが前記カバー体の前記開口に嵌め込まれてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本開示の技術によれば、電橋線なしで着火可能とし、イニシエータの製造を容易にする技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】第一実施形態に係るイニシエータを備えたガス発生器の構成を示す図である。
図2】第一実施形態に係るイニシエータの中心軸Xに沿った内部構造を概略的に示す軸方向断面図である。
図3図2のA-A線に沿ったイニシエータの断面図である。
図4】第一実施形態におけるイニシエータの製造手順(組み付け手順)を説明する図である。
図5】第二電極接続工程に対応する状況を説明する図である。
図6】電極一体化工程に対応する状況を説明する図である。
図7】火薬充填工程に対応する状況を説明する図である。
図8】電極ユニット嵌込工程に対応する状況を説明する図である。
図9】接合工程に対応する状況を説明する図である。
図10】電極間に作動用の高電圧が印加された状態を示す図である。
図11】第二実施形態に係るガス発生器の構成を示す図である。
図12】押しボタンが係止部の手前まで押し込まれた状態を示す図である。
図13】ハンマーが圧電素子に衝突した状態を示す図である。
図14】第三実施形態に係るイニシエータ装置の構成を示す図である。
図15】第四実施形態に係るイニシエータの構成を示す図である。
図16図15のB-B線に沿ったイニシエータの断面図である。
図17】第四実施形態におけるイニシエータの製造手順(組み付け手順)を説明する図である。
図18】圧填工程に対応する状況を説明する図である。
図19】電極ユニット嵌込工程に対応する状況を説明する図である。
図20】第四実施形態に係るイニシエータの構成を示す図である。
図21図20のC-C線に沿ったイニシエータの断面図である。
図22】第五実施形態におけるイニシエータの製造手順(組み付け手順)を説明する図である。
図23】内筒部付加工程に対応する状況を説明する図である。
図24】火薬充填工程に対応する状況を説明する図である。
図25】第六実施形態に係るイニシエータの構成を示す図である。
図26図25のD-D線に沿ったイニシエータの断面図である。
図27】第七実施形態に係るイニシエータの構成を示す図である。
図28図27のE-E線に沿ったイニシエータの断面図である。
図29】第七実施形態に係るイニシエータの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照して本開示の実施形態に係るイニシエータ及びイニシエータ装置について説明する。なお、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲内で、適宜、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。本開示は、実施形態によって限定されることはなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【0020】
<第一実施形態>
[全体構成]
図1は、第一実施形態に係るイニシエータ10を備えたガス発生器100の構成を示す図である。図1では、ガス発生器100の作動前の状態が示されている。ガス発生器100は、例えばエアバッグを膨張、展開させるためのガスをエアバッグに供給するためのエアバッグ用ガス発生器である。なお、ガス発生器100は、自動車用に限らず、自動二輪用、自転車用、歩行者用などのエアバッグにガスを供給するや、救命胴衣にガスを供給するものであってもよい。
【0021】
図1に示すように、ガス発生器100は、ハウジング110、ガス発生剤120、伝火
薬130、イニシエータ装置140等を備えている。イニシエータ装置140は、イニシエータ10と、当該イニシエータ10に電力を供給して作動させる電力供給ユニット20とを備えている。ガス発生器100は、イニシエータ装置140を作動させることでガス発生剤120を燃焼させ、その燃焼生成物である燃焼ガスをハウジング110に形成されたガス排出孔111から放出するように構成されている。以下、ガス発生器100の各構成について説明する。
【0022】
[ハウジング]
ハウジング110はガス発生器100を構成する各部品を収容する金属製の外殻容器であり、上側容器112及び下側容器113を含んで構成されている。上側容器112及び下側容器113は、それぞれ有底略円筒状に形成されており、これらが互いの開口端同士を向き合わせた状態で接合されることで、中心軸X方向の両端が閉塞した短尺円筒状の外殻容器としてハウジング110が形成されている。上側容器112及び下側容器113は、例えばステンレス鋼板をプレス加工することで成形することができる。
【0023】
ハウジング110の内部には、イニシエータ10、カップ体107、伝火薬130、及びガス発生剤120等が配置されている。また、ハウジング110の内部には、燃焼室90が形成されており、燃焼室90にガス発生剤120が収容されている。ここで、ハウジング110の中心軸X方向に沿った方向において、上側容器112側(即ち、図1における上側)をガス発生器100の上側とし、下側容器113側(即ち、図1における下側)をガス発生器100の下側とする。
【0024】
下側容器113における底板部分の中央には、イニシエータ10を下側容器113に取り付けるための取付孔320が形成されている。この取付孔320に、イニシエータ10が挿入され、樹脂製保持部16を介して下側容器113に取り付けられ、イニシエータ10がハウジング110と同軸に配置される。
【0025】
上側容器112の接合部123と下側容器113の接合部124は、鍔状に形成され、互いに重ね合わされてレーザ溶接等によって接合される。このように接合された上側容器112と下側容器113とによりハウジング110が形成され、内部空間を画定している。また、上側容器112の上側周壁部には、ハウジング110の内部空間と外部空間とを連通するガス排出孔111が、周方向に沿って複数並んで形成されている。
【0026】
[カップ体]
図1に示すように、カップ体107は樹脂製保持部16に装着された部材であり、有底筒形状を有している。より詳しくは、カップ体107は、平面視が円形状の頂壁部71と、当該頂壁部71から底板部32に向かって下方に延設される円筒状の側壁部72が一体的に構成されている。カップ体107は、イニシエータ10をその周囲の空間と共に覆うように配置され、内部の空間を伝火室108としている。伝火室108内には、伝火薬130が、イニシエータ10と接し、イニシエータ10の周囲を埋めるように充填されている。
【0027】
伝火室108に収容される伝火薬130は特に限定されないが、着火性に優れ、ガス発生剤120よりも燃焼温度の高いガス発生剤を使用することが好ましい。伝火薬130としては、例えばニトログアニジン(34重量%)、硝酸ストロンチウム(56重量%)からなる公知のものを用いることができる。あるいは、伝火薬130としては公知の黒色火薬(ボロン硝石)等を使用してもよい。また、伝火薬130の形態は特に限定されず、粉状であってもよいし、バインダー等によって例えば顆粒状、ペレット状、円柱状、ディスク状等、種々の形状に成形されていてもよい。伝火薬130は、イニシエータ10の作動時に放出される燃焼生成物によって着火し、燃焼ガスを発生させる。
【0028】
また、カップ体107は、内側の伝火室108と外側の燃焼室90とを区画する。即ち、ハウジング1の内部において、カップ体107の外側が燃焼室90となっている。イニシエータ10の作動によって、伝火室108内の伝火薬130が点火され、燃焼すると、カップ体107が破裂し伝火室108と燃焼室90が連通するように構成されている。カップ体107は、例えば、薄いアルミニウム製のカップ体であっても良い。但し、カップ体107の材料は特に限定されず、種々の材料を使用することができる。
【0029】
[イニシエータ]
図2は、第一実施形態に係るイニシエータ10の中心軸Xに沿った内部構造を概略的に示す軸方向断面図、図3は、図2のA-A線に沿ったイニシエータ10の断面図である。以下、図2に示すように、イニシエータ10を中心軸Xに沿って切断した断面をイニシエータ10の「縦断面」という場合がある。また、イニシエータ10の中心軸Xに沿った方向をイニシエータ10の「上下方向」という場合がある。図2では、イニシエータ10の作動前の状態が示されている。
【0030】
イニシエータ10は、一対の電極11・12と、この電極間に介在する絶縁部材13と、電極11・12の一端側を周囲の空間と共に覆うカバー体14と、このカバー体内の空間に収容される火薬15と、イニシエータ10の底部側を覆う樹脂製保持部16とを備えている。なお、一対の電極11・12のうち、一方を第一の電極11、他方を第二の電極12とも称す。
【0031】
第一の電極11は、金属等で形成され導電性を有する線状の部材(導電ピン)であって、先端部分がX軸に沿ってイニシエータ10の中心に配置される。第二の電極12は、円板の中央に第一の電極11を通す貫通孔129を有した金属リング121と、この金属リング121に接続された導電ピン122とを有する。電極11・12の何れを正極又は負極とするかは、特に限定されないが、本実施形態では、第一の電極11が正極、第二の電極12が負極である。
【0032】
金属リング121の貫通孔129内に通された第一の電極11と、金属リング121の内周面との間には絶縁部材13が設けられている。絶縁部材13は、ガラスやセラミック等の絶縁性の部材であり、第一の電極11と第二の電極12との間に介在することで、電極間の絶縁耐性を所定値以上、例えばエアギャップ以上に高めている。第一の電極11と第二の電極12は、イニシエータ10の製造時に、絶縁部材13を介して一体化され電極ユニット1Aとして形成される。
【0033】
カバー体14は、有底筒状の部材であり、本実施形態では、円筒状の周壁141と、この上端を閉塞する頂壁部142とを有し、周壁141の下端に開口143を有している。カバー体14は、電極ユニット1Aの先端側を覆うように電極ユニット1Aに被せられ、周壁141の下側部分が金属リング121に対し溶接等によって取り付けられる。即ち、電極ユニット1Aが、カバー体14の開口143を塞栓する。このように電極ユニット1Aによって閉じられるカバー体14内の空間が火薬収容部144となる。
【0034】
カバー体14の火薬収容部144には、火薬15が充填される。火薬15は、例えば、ZPP(ジルコニウム・過塩素酸カリウム)、ZWPP(ジルコニウム・タングステン・過塩素
酸カリウム)、THPP(水素化チタン・過塩素酸カリウム)、鉛トリシネート等を採用してもよい。
【0035】
樹脂製保持部16は、電極ユニット1Aの先端部分を下側から覆うようにカバー体14の下部にモールド成形される。樹脂製保持部16は、ガス発生器100の下側容器113
に取り付けられた際、イニシエータ10をハウジング110に対して固定的に保持する。また、樹脂製保持部16は、絶縁性の部材であり電極11・12間の絶縁耐性を確保している。なお、樹脂製保持部16は、モールド成形に限らず、カバー体14や電極ユニット1Aと別体に形成され、カバー体14や電極ユニット1Aに後付けされる構成であってもよい。
【0036】
イニシエータ10は、第二の電極12に備えられた金属リング121の上端部21A、および第一の電極11の上端部11Aが、火薬収容部144内に面し、且つ第一の電極11の上端部11Aと金属リング121の上端部21Aとが所定の間隔210を隔てて配置されている。この間隔210は、電極11・12間に絶縁部材13が介在する部分や樹脂製保持部16が介在する部分と比べて絶縁耐性が低く設定され、電極11・12間に作動用の電力が供給された場合に放電が生じる放電ギャップとなっている。
【0037】
[電力供給ユニット]
電力供給ユニット20は、駆動部21と、バッテリー22と、制御部23とを備えている。駆動部21は、ケーブル24を介して電極11・12と電気的に接続され、またバッテリー22とも電源ラインを介して接続されている。更に、駆動部21は、通信回線を介して制御部23と接続されている。駆動部21は、制御部23の制御に応じて、バッテリー22から供給される電力を昇圧し、電極11・12間に高電圧を印加する。駆動部21は、例えばインパルス電圧発生回路や昇圧DC-DCコンバータであってもよい。
【0038】
制御部23は、衝撃センサや操作部から取得した信号に基づいて、ガス発生器100を動作させるか否かを判定し、動作させる場合に、駆動部21を制御して、電極11・12間に高電圧を印加させる。ここで、高電圧とは、電極11・12間の放電ギャップ210における絶縁耐圧を超え、火花を伴う放電、所謂火花放電又はアーク放電を生じさせる電圧である。
【0039】
[製造方法]
次に、イニシエータ10の製造方法(組み付け方法)について説明する。但し、本実施形態におけるイニシエータ10の製造方法(組み付け方法)は、以下の方法に限定されるものではない。図4は、第一実施形態におけるイニシエータ10の製造手順(組み付け手順)を説明する図である。
【0040】
まず、ステップS10では、金属リング121の下面に導電ピン122を接続して第二の電極12を作成する(第二電極接続工程)。図5は、第二電極接続工程に対応する状況を説明する図である。図5は、第二の電極12における金属リング121の下面121Aに対して、下方から導電ピン122を接近させている状況を示している。
【0041】
ステップS20では、金属リング121の貫通孔129に第一の電極11の先端部を通し、電橋11と金属リング121の内周面との間に、絶縁部材13の材料を充填させ、絶縁部材13を焼成して、電極11・12を一体化し、電極ユニット1Aを形成する(電極一体化工程)。図6は、電極一体化工程に対応する状況を説明する図である。図6は、第一の電極11と第二の電極12との間に絶縁部材13の材料13Aを充填している状況を示している。
【0042】
ステップS30では、カバー体14の開口143から火薬収容部144内に火薬15を充填する(火薬充填工程)。このとき火薬15に圧力をかけて充填(以下、圧填とも称す)することで、火薬15の粒子間に存在する隙間を減少させ、火薬15の密度を高めることができるが、この隙間を少なくし過ぎると、放電できるスペースが少なくなり、この火薬15と接した放電ギャップ210において放電が生じにくくなってしまうことがある。
このため、火薬収容部144内に火薬15を充填する際には、圧力をかけないか、或は放電が行えるように低い圧力に抑えることが望ましい。図7は、火薬充填工程に対応する状況を説明する図である。図7は、カバー体14の火薬収容部144内に火薬15を充填している状況を示している。
【0043】
ステップS40では、カバー体14内に充填された火薬15に、電極ユニット1Aの先端部に形成された放電ギャップ210が接触するように電極ユニット1Aが開口143に嵌め込まれる(電極ユニット嵌込工程)。図8は、電極ユニット嵌込工程に対応する状況を説明する図である。図8は、電極ユニット1Aをカバー体14の開口143側から接近させている状況を示している。
【0044】
ステップS50では、カバー体14に組み付けた電極ユニット1Aの金属リング121とカバー体14の下端部とを溶接し、電極ユニット1Aとカバー体14とを接合する(接合工程)。図9は、接合工程に対応する状況を説明する図である。図9は、金属リング121とカバー体14の下端部とを溶接して接合を完了した状況を示している。
ステップS60では、電極ユニット1Aの先端部分を下側から覆うようにカバー体14の下部に樹脂製保持部16が図2に示すようにモールド成形される(保持部成形工程)。
【0045】
[動作]
以上のように製造される第一実施形態に係るガス発生器100の動作について説明する。例えば、エアバッグ装置における衝撃センサ(図示せず)が車両等の衝突に伴う衝撃を検知し、この検知信号を制御部23が取得すると、制御部23が駆動部21を制御して一対の電極11・12に作動用の電圧を印加させ、イニシエータ10を作動させる。図10は、電極11・12間に作動用の高電圧が印加された状態を示す図である。図10に示すように、電極11・12間に高電圧が印加されると、火薬収容部144に面した電極先端部間の放電ギャップ210に火花60を伴う放電が生じ、この火花60によって火薬収容部144内の火薬15に点火し、火薬15を燃焼させる。そして、火薬15の燃焼に伴ってカバー体14の内部圧力が上昇し、カバー体14が開裂することで、カバー体14の開裂箇所から燃焼生成物である火炎や高温ガス等が放出される。図1に示すように、イニシエータ10は、カップ体107の内側に形成された伝火室108に臨むように配置されているため、カバー体14の開裂箇所から放出される火炎や高温ガス等によって伝火薬130が着火し、燃焼する。即ち、本実施形態のイニシエータ10は、作動により、伝火薬130に点火する点火器として機能する。
【0046】
カップ体107の頂壁部71及び側壁部72によって囲まれた伝火室108に収容された伝火薬130が燃焼すると、この燃焼により生成された火炎や高温ガスによって伝火室108内の温度及び内圧が急激に上昇し、そのエネルギーによってアルミニウム製の薄肉のカップ体107が破裂する。その結果、伝火薬130が燃焼することで生成された燃焼生成物(火炎や高温ガス)が伝火室108から燃焼室90へと放出され、当該燃焼生成物が燃焼室90に収容されているガス発生剤120と接触することでガス発生剤120が着火され、燃焼する。
【0047】
燃焼室90におけるガス発生剤120が燃焼することで生成された高温・高圧の燃焼ガスは、ガス排出孔111からハウジング110の外部へと放出され、エアバッグ装置におけるエアバッグ(図示せず)に導入され、エアバッグの膨張、展開に利用される。
【0048】
[実施形態の効果]
本実施形態におけるイニシエータ10によれば、上記のように一対の電極11・12と、これら電極11・12の一端側を周囲の空間と共に覆うカバー体14と、カバー体14内の火薬収容部144に収容される火薬15とを備え、火薬収容部144において、電極
11・12の間に放電ギャップを有している。これにより本実施形態のイニシエータ10は、電極間に電橋線を設けた従来のイニシエータと比べて、電橋線を必要とせず、部品点数を抑えた簡素な構成とすることができ、小型化を図ることができる。また、電橋線を用いないため、電橋線を溶接する工程や、電橋線の状態を検査する工程を削減できる。また、電橋線を用いないため、製造時に電橋線が火薬との圧接などによって破断することや、電橋線の接続不良が起こらず、歩留まりの低下を防止することができると共に、品質の安定化が図れる。このように簡素な構成とすることや、製造時の工程を削減できること、歩留まりの低下を防止できることから、イニシエータ10の製造を容易にすることができる。延いては、イニシエータ10の製造コストを削減することができる。
【0049】
<第二実施形態>
前述の第一実施形態では、電力供給ユニット20として、バッテリー22から供給される電力の電圧を駆動部21が昇圧する例を示したが、本実施形態では、圧電素子を用いた電力供給ユニット20Aの例を示す。なお、その他の構成は前述の第一実施形態と同じであるため、共通の要素には共通の符号を付すなどして詳細な説明を割愛する。
【0050】
図11は、第二実施形態に係るガス発生器100Aの構成を示す図である。電力供給ユニット20Aは、圧電素子25、ハンマー26、弾性体27、押しボタン28、係止部29を備えている。圧電素子25は、例えば、圧電体と、この圧電体を挟む電極とを有し、圧電体に加えられた力を電圧に変換する。この圧電体と電極は、放電ギャップ210に放電を生じさせる電圧が得られるように積層されてもよい。圧電素子25は、ケーブル24を介して電極11・12と接続されている。
【0051】
ハンマー26は、不図示の保持機構により圧電素子25に対して進退動可能に保持されており、初期状態では、圧電素子25から離れた位置(初期位置)において係止部29により係止されている。弾性体27は、例えばコイルバネであり、押しボタン28がユーザ等によって押し込まれると、圧縮されてハンマー26を圧電素子側へ付勢する。図12は、押しボタン28が係止部29の手前まで押し込まれた状態を示す図である。そして、押しボタン28が更に押し込まれて、係止部29と当接すると、係止部29を回動させてハンマー26の係止を解除させる。この結果、ハンマー26は、弾性体27の付勢力により圧電素子25側へ移動し圧電素子25に衝突する。図13は、ハンマー26が圧電素子25に衝突した状態を示す図である。
【0052】
圧電素子25は、ハンマー26の衝突によって加えられた力を電圧に変換し、ケーブル24を介して電極11・12間に印加する。これによりイニシエータ10の放電ギャップ210に放電を生じさせてイニシエータ10を作動させる。
【0053】
このように本実施形態において、イニシエータ10は、前述の第一実施形態と同じく、放電により火薬15に点火する構成であり、イニシエータ10の製造を容易にしている。また、本実施形態によれば、イニシエータ10の電極11・12に印加する電圧を圧電素子25によって生じさせるため、バッテリーを不要にでき、簡易な構成のイニシエータ装置を提供できる。
【0054】
<第三実施形態>
前述の第一実施形態において、イニシエータ10は、作動により伝火薬130に点火する点火器として用いたが、本実施形態では、イニシエータ10が作動した際の圧力により、動作対象を移動させるアクチュエータとしてイニシエータ10を用いる例を示す。なお、前述の第一実施形態と共通の要素には共通の符号を付すなどして詳細な説明を割愛する。
【0055】
図14は、第三実施形態に係るイニシエータ装置140Aの構成を示す図である。イニシエータ装置140Aは、筒状の筐体150と、動作対象151と、イニシエータ10と、電力供給ユニット20Aとを有する。なお、イニシエータ10と、電力供給ユニット20Aは、前述の第二実施形態と同じである。
【0056】
筐体150は、一方向に延在する筒状の部材であり、この筒内に動作対象151と、イニシエータ10と、電力供給ユニット20Aとが設けられている。イニシエータ10は、筐体150の延在方向における中心軸と、図2に示したX軸とを一致させるように配置されている。
【0057】
本実施形態のイニシエータ装置140Aにおいて、押しボタン28が押されると、電力供給ユニット20Aの圧電素子25によりイニシエータ10の電極11・12間に高電圧が印加される。これにより、イニシエータ10の火薬収容部144に面した電極先端部間の放電ギャップ210に火花60を伴う放電が生じ、この火花60によって火薬収容部144内の火薬15に点火し、火薬15を燃焼させる。そして、火薬15の燃焼に伴ってカバー体14の内部圧力が上昇し、カバー体14が開裂することで、カバー体14の開裂箇所から燃焼生成物である火炎や高温ガス等が放出される。この燃焼生成物が放出された際の圧力により、動作対象151が、筐体150の延在方向に移動される。なお、動作対象151とイニシエータ10との間の空間に、ガス発生剤を更に備え、イニシエータ10の作動によって放出した燃焼瀬生物によってガス発生剤を燃焼させ、ガス発生剤の燃焼によって生じたガスの圧力によって動作対象151を動作させてもよい。
【0058】
このように本実施形態によれば、火薬15の燃焼によって、瞬時に、比較的大きな力で動作対象を移動させることができる。また、本実施形態のイニシエータ装置140Aは、前述の第二実施形態と同様に、バッテリーを不要にでき、簡易な構成のイニシエータ装置を提供できる。
【0059】
本実施形態の動作対象151は、特段限定されるものではないが、例えば無針注射器のプランジャーであってもよい。即ち、イニシエータ10は、無針注射器のアクチュエータとして用いられてもよい。この場合、例えば、イニシエータ10が作動して放出した燃焼生成物の圧力により、射出液が収容された無針注射器のプランジャーを移動させ、このプランジャーの押圧により射出液を外部へ射出させる。
【0060】
<第四実施形態>
前述の第一実施形態において、イニシエータ10は、火薬収容部144に充填された火薬15と放電ギャップ210が接するように形成されたが、本実施形態では火薬15と放電ギャップ210との間に空隙を設けた例を示す。なお、その他の構成は前述の第一実施形態と同じである。また、その他の構成は、第二実施形態又は第三実施形態と同様に形成してもよい。本実施形態において、前述の実施形態と共通の要素には共通の符号を付すなどして詳細な説明を割愛する。
【0061】
図15は、第四実施形態に係るイニシエータ10Bの構成を示す図であり、図16は、図15のB-B線に沿ったイニシエータ10Bの断面図である。図15図16に示すように、火薬収容部144に充填された火薬15と、放電ギャップ210との間に空隙149を設け、且つ火薬15と放電ギャップ210とが所定距離以内となるように近接配置している。ここで所定距離とは、放電ギャップ210に生じた放電によって火薬15に点火することが出来る距離の最大値である。この所定距離は、例えば、火薬15と放電ギャップ210との距離を変えて点火できるか否かの試験を行うことで求めることができる。この所定距離は、電極11・12に印加される電圧値や、火薬15の種類等の条件に応じて定められてもよい。
【0062】
図17は、第四実施形態におけるイニシエータ10Bの製造手順(組み付け手順)を説明する図である。なお、ステップS10~S20の工程は、第一実施形態における図4と同じである。
【0063】
ステップS30では、カバー体14の開口143から火薬収容部144内に火薬15を所定量充填する(火薬充填工程)。なお、本実施形態では、次ステップで圧填して火薬15の嵩が詰まるため、圧填後の火薬15が所要の状態となるように、例えば火薬15の下面が規定の位置となるように充填量を設定してもよい。
【0064】
ステップS35では、押し型17を開口143から挿入し、火薬15に圧力をかけて火薬15を押し固める(圧填工程)。図18は、圧填工程に対応する状況を説明する図である。図18は、押し型17を火薬収容部144に挿入するため、押し型17の先端を下向きにしてカバー体14の開口143に接近させている圧填前の状況と、圧填後の火薬15の状況を示している。
【0065】
押し型17は、平面視した場合の外形が火薬収容部144と同様の円形であり、その外径が火薬収容部144の内径より僅かに小さく形成され、火薬収容部144に挿抜可能となっている。また、押し型17は、火薬15と接する側(先端側)に、X軸と直交する平面171と、平面171から突出した突出部172とを有している。このため押し型17によって圧填された火薬15は、押し型17の平面171と突出部172とに沿って押し固められ、X軸と直交する下端面155と、下端面155に対して上側に窪んだ凹部156とが形成される。
【0066】
ステップS40では、カバー体14内で圧填された火薬15の下端面155に電極ユニット1Aの先端面が当接し、放電ギャップ210と火薬15の凹部156とが隣接するように電極ユニット1Aが開口143に嵌め込まれる(電極ユニット嵌込工程)。図19は、電極ユニット嵌込工程に対応する状況を説明する図である。図19は、電極ユニット1Aをカバー体14の開口143に嵌め込んだ後の状況を示している。図19に示すように、火薬15の下面に凹部156が形成されているので、火薬15の下端面155に電極ユニット1Aの先端面を当接させた状態で、放電ギャップ210と火薬15との間に空隙が形成される。また、この状態で火薬15と放電ギャップ210とが所定距離以内に位置するように凹部156の形状が設定されている。例えば図19の縦断面では第一の電極11において、絶縁部材13で覆われず火薬収容部144内に露出している面(以下単に上面とも称す)117のうち最も第二の電極に近い点118と、第二の電極12において、絶縁部材13で覆われず火薬収容部144内に露出している面217のうち最も第一の電極11に近い点218とを結ぶ直線を最短放電ギャップ211と仮定し、この最短放電ギャップ211と直交する方向の距離L0が所定距離以内になるように設定されてもよい。そして、前述の図4と同様にステップS50の接合工程とステップS60の保持部成形工程が行われ、イニシエータ10Bが形成される。
【0067】
本実施形態によれば、図19に示すように、放電ギャップ上に火薬15の凹部156が形成され、放電ギャップ210と火薬15との間に空隙149を有するので、火薬15が押し固められた状態であっても放電可能な領域が確保でき、的確に放電を行って火薬15に点火できるので、イニシエータ10Bの信頼性を向上させることができる。
【0068】
<第五実施形態>
前述の第一実施形態において、イニシエータ10は、カバー体14内に直接火薬15が充填されていたが、本実施形態のイニシエータ10Cは、火薬収容部144内に内筒部18を備え、この内筒部18の内部空間に火薬15が充填される構成となっている。なお、
その他の構成は前述の第一実施形態と同じである。また、その他の構成は、第二~第四実施形態と同様に形成されてもよい。本実施形態において、前述の実施形態と共通の要素には共通の符号を付すなどして詳細な説明を割愛する。
【0069】
図20は、第四実施形態に係るイニシエータ10Cの構成を示す図であり、図21は、図20のC-C線に沿ったイニシエータ10Cの断面図である。内筒部18は、一方向(X軸方向)に延在し、両端部181・182において開口した内部空間180を有する筒状の部材である。内筒部18の材質は必ずしも限定されるものではないが、本実施形態では金属で形成されている。
【0070】
内筒部18は、円筒状の部材であり、カバー体14の火薬収容部144内に配置され、内部空間180に火薬15が充填される。即ち、本実施形態では、火薬収容部144内であって、且つ内部空間180内に火薬15が充填される。内筒部18は、延在方向からみた場合、例えば図21に示すように上端部182側から見た場合に、周壁183が円形を成し、その中心がX軸と同軸となるように配置され、内筒部18の下端が金属リング121上に当接される。換言すると、内筒部18は、下端部181側の開口が、第一の電極11における上端部に面するように配置される。
【0071】
図22は、第五実施形態におけるイニシエータ10Cの製造手順(組み付け手順)を説明する図である。なお、ステップS10~S20の工程は、第一実施形態における図4と同じである。
【0072】
ステップS25では、金属リング121の上面に内筒部18を載せ、金属リング121の上面と内筒部18の下端とを溶接して、第二の電極12に内筒部18を付加する(内筒部付加工程)。図23は、内筒部付加工程に対応する状況を説明する図である。図23は、内筒部18を加えた電極ユニット1Aの状況を示している。
【0073】
ステップS30Aでは、内筒部18における上端部182の開口から内筒部18内に火薬15が投入され、所定量充填される(火薬充填工程)。このとき火薬15に圧力をかけて充填(以下、圧填とも称す)することで、火薬15の粒子間に存在する隙間を減少させ、火薬15の密度を高めることができるが、この隙間を少なくし過ぎると、放電できるスペースが少なくなり、この火薬15と接した放電ギャップ210において放電が生じにくくなってしまうことがある。このため、内筒部18内に火薬15を充填する際には、圧力をかけないか、或は放電が行えるように低い圧力に抑えることが望ましい。図24は、火薬充填工程に対応する状況を説明する図である。図24は、内筒部18内に火薬15を充填している状況を示している。そして、前述の図4と同様にステップS50の接合工程とステップS60の保持部成形工程が行われ、イニシエータ10Cが形成される。
【0074】
本実施形態によれば、放電ギャップ210における放電によって内筒部18内の火薬15に点火でき、前述の実施形態と同様にイニシエータ10の製造を容易にすることができる。なお、本実施形態では、内筒部18内に充填した火薬15を圧填しないか、或は圧填圧力を低くしたが、第四実施形態と同様に、内筒部18に充填する火薬15を圧填して放電ギャップ210の位置に凹部を形成することで、火薬15と放電ギャップ210との間を空隙とし、且つ火薬15と放電ギャップ210とを所定距離以内に配置した構成としてもよい。
【0075】
<第六実施形態>
本実施形態において、イニシエータ10Dは、火薬収容部144内に内筒部18を備え、この内筒部18の周壁183から第一の電極11側に延設部184を設けて、この延設部184と第一の電極11との間を放電ギャップ220とする構成としている。なお、そ
の他の構成は前述の第五実施形態と同じである。本実施形態において、前述の実施形態と共通の要素には共通の符号を付すなどして詳細な説明を割愛する。
【0076】
図25は、第六実施形態に係るイニシエータ10Dの構成を示す図であり、図26は、図25のD-D線に沿ったイニシエータ10Dの断面図である。内筒部18は、一方向(X軸方向)に延在し、両端部181・182において開口した内部空間180を有する筒状の部材である。また、内筒部18は、金属等で形成された導電性の部材であり、金属リング121と導通して第二の電極12の一部を構成する。
【0077】
本実施形態の内筒部18は、周壁183のリング部側の下端部181から内部空間側へ延設された環状の延設部184を有している。延設部184は、概ねX軸と直交する方向に延設され、第一の電極11との間で放電が可能なように内側端面1841が第一の電極との間に所定の間隔を隔てて配置されている。即ち内側端面1841が、第一の電極の上部に配置される開口部(貫通孔)185を画する内周壁となっている。開口部185は、X軸方向において下側が拡径している。即ち内側端面1841は屈曲しており、例えば図25に示すようにX軸に沿う断面において、X軸と平行な上側端部1842と、X軸に対して傾斜した下側傾斜部1843を有している。換言すると、下側傾斜部1843は、X軸と直交する方向において外側よりも内側が上方に位置しており、外側から内側にかけて上向きに傾斜している。また、延設部184は、図26に示すようにX軸上側から見た場合に、内側端面1841の一部が第一の電極11の上に位置するように設けられている。
【0078】
このように本実施形態では、内筒部18が延設部184を備え、延設部184の内側端面1841が第一の電極11の上に張り出して設けられおり、この内側端面1841と第一の電極11との間が放電ギャップ220となっている。そして、第五実施形態と同様にステップS30Aで内筒部18の上端開口から火薬15が投入され、内部空間180に火薬15が充填されることで、開口部185、例えば内側端面1841と第一の電極11との間にも火薬15が充填される。このため、本実施形態のイニシエータ10Dは、電極11・12間に作動用電圧が印加された際、放電ギャップ220に生じる放電によって、この放電ギャップ220に充填された火薬15が点火されるので、的確に作動でき、信頼性を向上させることができる。
【0079】
<第七実施形態>
前述の第六実施形態は、内筒部18が円環状の延設部184を備えた構成であるが、本実施形態は、内筒部18がアーム状の延設部184Aを備えた構成を示す。なお、その他の構成は前述の第六実施形態と同じである。本実施形態において、前述の実施形態と共通の要素には共通の符号を付すなどして詳細な説明を割愛する。
【0080】
図27は、第七実施形態に係るイニシエータ10Eの構成を示す図であり、図28は、図27のE-E線に沿ったイニシエータ10Eの断面図である。本実施形態の内筒部18は、周壁183のリング部側の下端部181において、周壁183の一部が内部空間側へ延設されたアーム状の延設部184Aを有している。延設部184Aは、概ねX軸と直交する方向に延設され、その先端から周壁側に向かって所定範囲にある部分(以下、内端側部分とも称す)1847が、図28に示すようにX軸上側から見た場合に、第一の電極11と重なるように設けられている。また、延設部184Aにおいて、内端側部分1847は、その下面(内端側下面とも称す)1848が、周壁側の下面(周壁側下面)1844に対し、X軸方向において所定距離高くなるように段差が形成されている。即ち、内端側部分1847の下側に切り欠き部1846が設けられている。このため、第五実施形態と同様にステップS25で金属リング121の上面に内筒部18を載せ、金属リング121の上面と内筒部18の下端とを溶接した場合、周壁側下面1844と接した電極ユニット1Aの上面に対して、内端側下面1848が高い位置に配置される。即ち、内端側下面1
848は、第一の電極11との間に所定の間隔を隔てて配置され、この内端側下面1848と第一の電極11との間隔が放電ギャップ230となる。
【0081】
そして、ステップS30Aで内筒部18の上端開口から火薬15が投入され、内部空間180に火薬15が充填されることで、内端側下面1848と第一の電極11との間、即ち放電ギャップ230にも火薬15が充填される。なお、火薬15を充填する際、微細な振動を連続的に与えて、火薬15の流動性を高め、火薬15が内端側下面1848と第一の電極11との間に入り込み易くしてもよい。また、火薬15が内端側下面1848と第一の電極11との間に充填された後、内筒部18における上端部182の開口から火薬15に圧力をかけて火薬15を押し固める工程(圧填工程)を行ってもよい。本実施形態では、延設部184Aの内端側部分1847が、火薬の圧填方向と直交して設けられており、火薬15を圧填した場合でも内端側下面1848と第一の電極11との間に放電可能なスペースを確保できる。
【0082】
本実施形態のイニシエータ10Eは、電極11・12間に作動用電圧が印加された際、放電ギャップ230に生じる放電によって、この放電ギャップ230に充填された火薬15が点火されるので、的確に作動でき、信頼性を向上させることができる。
【0083】
<第八実施形態>
本実施形態は、カバー体14を第二の電極の一部とし、カバー体14と第一の電極11との間に放電ギャップ240を形成する構成であり、その他の構成は前述の第五実施形態と同じである。なお、その他の構成は、第一~第三実施形態と同じにしてもよい。本実施形態において、前述の実施形態と共通の要素には共通の符号を付すなどして詳細な説明を割愛する。
【0084】
図29は、第七実施形態に係るイニシエータ10Fの構成を示す図である。本実施形態のカバー体14は、金属等で形成された導電性の部材であり、前述の実施形態と同様にステップS50において金属リング121と溶接等で接続されて第二の電極12の一部を構成する。また、第一の電極11Bが、X軸方向上側に延設され、上端がカバー体14と所定の間隔を隔てて配置され、このカバー体14と第一の電極11Bとの間隔が放電ギャップ240となる。
【0085】
そして、第五実施形態と同様に、ステップS30Aの火薬充填工程で、内筒部18内に火薬15を充填する際、第一の電極11Bの上まで火薬15を充填する。即ち、カバー体14を取り付けた際にカバー体14と第一の電極11Bと間に火薬15が介在するように充填される。
【0086】
本実施形態のイニシエータ10Fは、電極11・12間に作動用電圧が印加された際、放電ギャップ240に生じる放電によって、この放電ギャップ240に充填された火薬15が点火されるので、的確に作動でき、信頼性を向上させることができる。
【0087】
以上、本開示に係るイニシエータ、イニシエータ装置、及びイニシエータの製造方法の実施形態について説明したが、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0088】
1 ハウジング
1A 電極ユニット
8 伝火室
10,10B,10C,10D,10E,10F イニシエータ
11,11B 第一の電極
12 第二の電極
13 絶縁部材
14 カバー体
15 火薬
16 樹脂製保持部
17 押し型
18 内筒部
20,20A 電力供給ユニット
21 駆動部
22 バッテリー
23 制御部
24 ケーブル
25 圧電素子
26 ハンマー
27 弾性体
28 ボタン
29 係止部
32 底板部
60 火花
71 頂壁部
72 側壁部
90 燃焼室
100,100A ガス発生器
107 カップ体
108 伝火室
110 ハウジング
111 ガス排出孔
112 上側容器
113 下側容器
120 ガス発生剤
121 金属リング
122 導電ピン
123 接合部
124 接合部
129 貫通孔
130 伝火薬
140,140A イニシエータ装置
141 周壁
142 頂壁部
143 開口
144 火薬収容部
150 筐体
151 動作対象
180 内部空間
183 周壁
184,184A 延設部
210,220,230,240 放電ギャップ
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