(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127940
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】過熱検出装置
(51)【国際特許分類】
G01R 31/00 20060101AFI20230907BHJP
G01R 31/12 20200101ALI20230907BHJP
【FI】
G01R31/00
G01R31/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031935
(22)【出願日】2022-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【弁理士】
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】蛇口 広行
(72)【発明者】
【氏名】林田 真由子
【テーマコード(参考)】
2G015
2G036
【Fターム(参考)】
2G015AA27
2G015CA21
2G036AA18
2G036AA23
2G036BB20
2G036CA06
(57)【要約】
【課題】電気設備の過熱の発生を初期の段階で検知することができる過熱検出装置を提供すること。
【解決手段】心線11および心線11を被覆する被覆部材12を有する導電ケーブル10と、心線11が圧着される圧着部21と被締結部22が連接されてなる端子20と、圧着部21に取り付けられた、常温で気化せず、常温よりも高い温度で気化する気化性物質を含有する絶縁部材30と、前記被締結部22を締結する締結部41を有する端子台40と、端子台40が設置されてなるケース50と、を備えた、電気設備60の過熱を検出する過熱検出装置1であって、前記気化性物質に感度を有するガス感応素子2およびガス感応素子2の出力に基づき端子台40の過熱を判断する過熱判断手段3を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
心線および前記心線を被覆する被覆部材を有する導電ケーブルと、
前記心線が圧着される圧着部と被締結部とが連接されてなる端子と、
前記圧着部に取り付けられた、常温で気化せず、常温よりも高い温度で気化する気化性物質を含有する絶縁部材と、
前記被締結部を締結する締結部を有する端子台と、
前記端子台が設置されてなるケースと、を備えた電気設備の過熱を検出する過熱検出装置であって、
前記気化性物質に感度を有するガス感応素子および前記ガス感応素子の出力に基づき過熱を判断する過熱判断手段を有することを特徴とする、過熱検出装置。
【請求項2】
前記気化性物質は、前記被覆部材よりも前記絶縁部材に多く含まれるものである、
請求項1に記載の過熱検出装置。
【請求項3】
前記絶縁部材は、樹脂基材および前記樹脂基材に添加された添加物質を含み、
前記気化性物質は、前記添加物質または前記添加物質が変成した物質である、
請求項2に記載の過熱検出装置。
【請求項4】
前記添加物質は、前記樹脂基材の柔軟性を高める可塑剤、前記可塑剤が添加された前記樹脂基材の安定性を高める安定剤および前記可塑剤を溶解させる溶剤からなる群から選ばれる1または複数である、
請求項3に記載の過熱検出装置。
【請求項5】
前記添加物質は、フタル酸ジイソノニル、2-エチルヘキサン酸およびドデカノールからなる群から選ばれる1または複数である、
請求項3に記載の過熱検出装置。
【請求項6】
前記添加物質は、フタル酸ジイソノニルを含む、
請求項3に記載の過熱検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビル・工場の配電盤、分電盤や鉄道の電気設備における火災の予兆としての端子や導電ケーブルの過熱を検知する過熱検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気設備においては、電気エネルギーの発生、供給、変換装置を発火源とする電気火災を防止するため、絶縁不良の有無などを定期的に点検し、電気配線や端子部などに異常が生じないようにメンテナンスする必要がある。近年、労働者の高齢化などに伴う人手不足により、電気設備の点検・メンテナンス作業の軽減への要求が大きくなってきている。しかし、定期的な点検には、異臭の確認といった人の感覚を必要とする項目があるため、カメラや温度センサ等を用いた遠隔監視だけで代替することは十分ではない。また、電気火災は、発煙を検知した後に警報を発したのでは遅いため、火災の予兆としての異常な過熱の発生を早期に検知することが求められている。
特許文献1には、簡易な構成で絶縁電線の過熱を初期の段階で検知することを目的として、有機系添加物質が添加された絶縁被覆を有する絶縁電線の異常を検知するにあたり、有機系添加物質に起因して発生するガスを検出する方法が記載されている。
また、特許文献2には、所定温度以上になると透明またはほぼ透明に変化する過熱表示部を一部に有することを特徴とする電線端子用絶縁キャップが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6- 82504号公報
【特許文献2】特開平6-111863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の絶縁被覆に添加された有機系添加物質に起因して発生するガスを検出する方法は、絶縁電線が接続された端子部から絶縁電線の芯線への熱伝導、および芯線から絶縁被覆への熱伝導が悪いため、端子の異常発熱を初期の段階で検知することが困難である。また、特許文献2に記載の電線端子用絶縁キャップは、定期点検の際に端子の過熱を目視で確認することができるものの、端子の異常な過熱を検知して、火災発生の危険切迫を前もって知らせることができない。
本発明は、電気設備の過熱の発生を初期の段階で検知することができる過熱検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上述した課題を解決するための手段として、以下の構成を備えている。
心線および前記心線を被覆する被覆部材を有する導電ケーブルと、前記心線が圧着される圧着部と被締結部とが連接されてなる端子と、前記圧着部に取り付けられた、常温で気化せず、常温よりも高い温度で気化する気化性物質を含有する絶縁部材と、前記被締結部を締結する締結部を有する端子台と、前記端子台が設置されてなるケースと、を備えた、電気設備の過熱を検出する過熱検出装置であって、前記気化性物質に感度を有するガス感応素子および前記ガス感応素子の出力に基づき過熱を判断する過熱判断手段を有することを特徴とする、過熱検出装置。
【0006】
端子からの熱伝導がよい圧着部に取り付けられた絶縁部材に含まれる気化性物質は、端子に過熱が生じた際、最初に気化しガスとして検知できる。このため、気化性物質に感度を有するガス感応素子の出力に基づいて過熱を判断することにより、火災の予兆段階において電気設備の過熱を感度よく検出することが可能である。
【0007】
前記気化性物質は、前記被覆部材よりも前記絶縁部材に多く含まれていてもよい。
過熱検出装置は、絶縁部材に多く含まれる気化性物質を検知対象とすることにより、電気設備に生じた過熱を感度よく検知できる。
【0008】
前記絶縁部材は、樹脂基材および前記樹脂基材に添加された添加物質を含み、前記気化性物質は、前記添加物質または前記添加物質が変成した物質であってもよい。
前記添加物質は、前記樹脂基材の柔軟性を高める可塑剤、前記可塑剤が添加された前記樹脂基材の安定性を高める安定剤および前記可塑剤を溶解させる溶剤からなる群から選ばれる1または複数であってもよい。
前記添加物質は、フタル酸ジイソノニル、2-エチルヘキサン酸およびドデカノールからなる群から選ばれる1または複数であってもよい。
前記添加物質は、フタル酸ジイソノニルを含んでもよい。
前記絶縁部材に含まれる添加物質に起因する気化性物質を検知することで、電気設備の過熱を感度よく検知することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、絶縁部材に含まれる気化性物質に感度を有するガス感応素子の出力に基づいて過熱を判断することにより、端子のゆるみなどを要因として、火災の初期における予兆の段階で検知することができる。したがって、電気設備の過熱を初期の段階で検知できる過熱検出装置を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】電気設備を模式的に示し、過熱検出装置の構成を機能ブロックで示した図である。
【
図2】実施例のセンサ出力と導電ケーブルの温度とを示すグラフである。
【
図3】比較例のセンサ出力と導電ケーブルの温度とを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を実施する態様について、以下、図面を参照して説明する。同じ部材については、各図面において同じ部材番号を付して、適宜、説明を省略する。
【0012】
火災の成長を、予兆段階、切迫・警報段階、発生段階のように、模式的な段階としてとらえた場合、火災による損害規模は、発生段階以降に急激に大きくなる。したがって、火災による被害を抑えるためには、予兆レベル(段階)を検知することが重要である。しかし、従来の火災報知機は、切迫・警報段階において生じる発煙や発火を検知するものが一般的であり、火災の予兆レベルを精度よく検知することが困難であった。
【0013】
老朽化した配電盤において、火災の予兆としての異常発熱が生じる要因のひとつに端子の緩みがある。端子の緩み等によってコネクタ部が外れることによって接触不良が生じ、抵抗値が局所的に上昇し、ジュール熱増加による過熱が生じる。この過熱が進むと、配線被覆が焦げる、変色する、放電するなどの、火災発生の原因となりうる事象(インシデント)が発生する。火災はいろいろな要因が重なることで生じるため、予兆レベルの事象が生じてから火災に至るまでの時間はケースバイケースであるが、従来の煙検知型警報機が検知対象とする発煙、発火は、予兆レベルの事象が生じてから相当時間が経過していることが多い。
【0014】
端子の緩みによる抵抗値の局所的な上昇により異常な過熱が生じた場合、熱源である端子に最も近い絶縁部材が過熱されやすいため、最初に高温になる。端子の絶縁処理に用いられる絶縁テープや絶縁キャップなどの絶縁部材は、柔軟性を高めるための添加物質が多く含まれる。このため、端子に過熱が生じた場合、60℃~100℃程度の比較的低温の段階において、ケーブルを被覆する絶縁部材よりも、絶縁部材のほうが添加物質に起因して生じる気化性物質を多く発生させる。したがって、端子に異常な過熱が発生した場合、当該過熱にいち早く反応する絶縁部材から発生する気化性物質をガスセンサで検知すれば、予兆レベルの段階において過熱の発生を検知することができる。
また、配電盤や分電盤はケース等で覆われた閉空間内に載置されているため、全ての端子にそれぞれセンサを設置する必要は無く、ケース内にセンサを一つ設置することにより、ケース内で発生した気化性物質を検知することができる。
したがって、絶縁部材の添加物質に起因して生じる気化性物質の検知は、火災の予兆レベルの事象を高感度で効率よく検知するために有効といえる。
【0015】
図1は、本実施形態の過熱検出装置1および、過熱検出装置1が過熱を検出する電気設備60の構成を模式的に示す図である。同図に示すように、過熱検出装置1は、ガス感応素子2および過熱判断手段3を有しており、電気設備60は、導電ケーブル10と、端子20と、絶縁部材30と、端子台40と、ケース50とを備えている。
【0016】
導電ケーブル10は、銅などの導電体からなる心線11および、心線11を被覆するポリ塩化ビニルなどの樹脂の絶縁体からなる被覆部材12を有する。
端子20は、導電ケーブル10の端末処理部材であり、導電ケーブル10の心線11が圧着される圧着部21と、端子台40の締結部41に締結される被締結部22とが、連接されてなるものである。
【0017】
絶縁部材30は、端子20の圧着部21に取り付けられて、心線11が圧着された圧着部21を覆って絶縁処理するものである。絶縁部材30として、絶縁キャップや絶縁テープなどが用いられる。絶縁部材30は、心線11を被覆する被覆部材12同様、ポリ塩化ビニルなどの絶縁体で形成されるが、導電ケーブル10と端子20との接続部の段差に沿って設置できるように、柔軟性の付与などを目的とした添加物質をより多く含有する。
【0018】
添加物質は、端子台40の締結部41に過熱が生じていない常温(室温、25℃)では気化しないが、過熱により常温よりも高い温度、例えば、60~100℃程度となった場合、気化する気化性物質であることが一般的である。このため、端子台40の締結部41において過熱が生じた場合、過熱検出装置1のガス感応素子2で、絶縁部材30の添加物質に起因する気化性物質を検知することが、予兆レベルで火災を検知するために効果的である。
【0019】
絶縁部材30は、樹脂基材および樹脂基材に添加された添加物質を含んで構成されている場合、気化性物質は、添加物質または添加物質が変成した物質である。
樹脂基材としては、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン樹脂、フッ素樹脂などが用いられる。添加物質としては、樹脂基材の柔軟性を高める可塑剤、可塑剤が添加された樹脂基材の加工時の熱分解や紫外線による劣化を防いで安定性を高める安定剤、可塑剤を溶解させる溶剤などが用いられる。これら添加物質は、単独でまたは複数で樹脂基材に添加して用いられる。
【0020】
可塑剤としては、2-エチルヘキサン酸、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ビス(2―エチルヘキシル)などが挙げられる。安定剤としては、2-エチルヘキサン酸、3,3-ジ-tert-ジブチル-4-ヒドロキシベンゼンプロパン酸メチルなどが挙げられる。溶剤としては、ドデカノール、3-エチル-エチル-1-ヘキサノールなどが挙げられる。
【0021】
端子台40は、被締結部22を締結する締結部41を有しており、ケース50内に設置されている。ビル・工場の配電盤、分電盤や鉄道の電気設備などの電気設備60は、端子台40などを収納するケース50を備えているため、端子台40の過熱により絶縁部材30から気化性物質が発生した場合、気化性物質がケース50内に充満する。このため、過熱検出装置1は、ケース50内に一つ設けて、ケース50内に充満した気化性物質を検知することにより、ケース50内の複数の端子台40のいずれかで生じた過熱を検知できる。
【0022】
過熱検出装置1のガス感応素子2は、気化性物質に感度を有しており、締結部41に過熱が生じたときに絶縁部材30から発生する気化性物質を検知する。ガス感応素子2としては、公知のガスセンサを用いることができる。
過熱判断手段3は、気化性物質が検知されたときのガス感応素子2からの信号の出力に基づき、締結部41に過熱が発生したと判断する。過熱判断手段3としては、演算処理装置などを用いることができる。また、過熱判断手段3は、プログラムまたは他のプログラムの一部として実施することもできる。
【0023】
過熱検出装置1は、端子台40からの距離が近い圧着部21に取り付けられた絶縁部材30に起因する気化性物質をガス感応素子2で検知し、過熱判断手段3により過熱が発生したと判断する。このため、過熱検出装置1は、火災の予兆段階である端子台40に生じた過熱を感度よく検知し、火災の発生を未然に防ぐことができる。
【実施例0024】
[実施例]
本実施例では、導電ケーブル10として、被覆部材12がポリ塩化ビニルであるIV電線を用い、絶縁部材30として樹脂基材が塩化ビニル樹脂であり、添加物質として2-エチルヘキサン酸(可塑剤)およびドデカノール(溶剤)を含有する絶縁キャップを用いた。端子20の心線11が圧着される圧着部21を絶縁キャップで覆い、端子台40を室温から段階的に過熱した。
図2は、加熱時間の経過に伴う、導電ケーブル10の温度と、気化性物質(ガス)を検知した結果を示すグラフである。同図に示すように、ケース50内の気化性物質の測定は、3種類のガスセンサA~Cを用いて行った。
【0025】
[比較例]
導電ケーブル10として、被覆部材12がポリ塩化ビニルであるIV電線を用い、絶縁部材30としての絶縁キャップで覆うことなく、端子台40を室温から段階的に過熱した。
図3は、加熱時間の経過に伴う、導電ケーブル10の温度と、気化性物質(ガス)を検知した結果を示すグラフである。実施例同様、ケース50内の気化性物質の測定は、3種類のガスセンサA~Cを用いて行った。
【0026】
図2に示す実施例の結果から、圧着部21が絶縁部材30としての絶縁キャップで覆われている場合、導電ケーブル10の温度が60℃に到達することにより気化性物質が発生し、当該気化性物質を検知可能であることが分かった。
図3に示す比較例の結果から、圧着部21が絶縁部材30としての絶縁キャップで覆われていない場合、気化性物質(ガス)の量が少なく、導電ケーブル10の温度が60℃程度となった時点では気化性物質が発生せず、気化性物質を検知することができなかった。
図2、
図3に示す結果から、圧着部21を覆う絶縁部材30に起因する気化性物質を検知対象とすることにより、予兆レベルの事象の発生によって導電ケーブル10が60℃程度になったことを検知できることが分かった。