IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人東京農工大学の特許一覧 ▶ 国立大学法人東北大学の特許一覧

特開2023-127958タンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整ための剤及びその使用
<>
  • 特開-タンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整ための剤及びその使用 図1
  • 特開-タンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整ための剤及びその使用 図2
  • 特開-タンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整ための剤及びその使用 図3
  • 特開-タンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整ための剤及びその使用 図4
  • 特開-タンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整ための剤及びその使用 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127958
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】タンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整ための剤及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/00 20060101AFI20230907BHJP
   C08B 37/16 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
C07K1/00
C08B37/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031958
(22)【出願日】2022-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(71)【出願人】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】村岡 貴博
(72)【発明者】
【氏名】野尻 涼矢
(72)【発明者】
【氏名】奥村 正樹
【テーマコード(参考)】
4C090
4H045
【Fターム(参考)】
4C090AA01
4C090AA08
4C090BA10
4C090BB04
4C090BB12
4C090BB36
4C090BB55
4C090BB63
4C090BB68
4C090BB99
4C090DA11
4C090DA23
4H045AA10
4H045AA30
4H045EA60
4H045FA67
4H045GA45
(57)【要約】
【課題】タンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のための剤、前記剤を含むタンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のためのキット、前記剤を用いたタンパク質のフォールディング方法、タンパク質の凝集抑制方法、及びタンパク質の保管方法を提供する。
【解決手段】シクロデキストリンの少なくとも1個の水酸基が、下記式(I)で表される基で置換された化合物(A)を含む、タンパク質凝集抑又はタンパク質フォールディング調整のための剤。Xは、硫黄原子又はセレン原子を表し、Yは、2価の連結基を表す。*は、結合手を表す。
[化1]
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シクロデキストリンの少なくとも1個の水酸基が、下記式(I)で表される基で置換された化合物(A)を含む、タンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のための剤。
【化1】
[式中、Xは、硫黄原子又はセレン原子を表し、Yは、2価の連結基を表す。*は、結合手を表す。]
【請求項2】
前記水酸基が、2位の水酸基及び6位の水酸基からなる群より選択される少なくとも1個の水酸基である、請求項1に記載のタンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のための剤。
【請求項3】
前記シクロデキストリンが、βシクロデキストリンである、請求項1又は2に記載のタンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のための剤。
【請求項4】
前記式(I)で表される基が、下記式(I-1)で表される基である、請求項1~3のいずれか一項に記載のタンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のための剤。
【化2】
[式中、Xは、硫黄原子又はセレン原子を表し、Y11は、アミド結合を含む2価の連結基、又はアルキレン基を表す。*は、結合手を表す。]
【請求項5】
前記化合物(A)が、下記式(I-1-2SH)又は(I-1-6SH)で表される化合物である、請求項1に記載のタンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のための剤。
【化3】
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載のタンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のための剤と、疎水性基を含む化合物とを含む、タンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のためのキット。
【請求項7】
前記疎水性基を含む化合物が、分子量50~1000の化合物である、請求項6に記載のタンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のためのキット。
【請求項8】
前記疎水性基が、炭化水素基である、請求項6又は7に記載のタンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のためのキット。
【請求項9】
前記疎水性基を含む化合物が、アダマンタンである、請求項6に記載のタンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のためのキット。
【請求項10】
酸化剤をさらに含む、請求項6~9のいずれか一項に記載のタンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のためのキット。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか一項に記載のタンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のための剤の存在下で、タンパク質をインキュベーションする工程を含む、タンパク質のフォールディング方法。
【請求項12】
前記インキュベーションを、疎水性基を含む化合物の共存下で行う、請求項11に記載のタンパク質のフォールディング方法。
【請求項13】
前記インキュベーションを、酸化剤の共存下で行う、請求項11又は12に記載のタンパク質のフォールディング方法。
【請求項14】
前記タンパク質が、アンフォールディングされたタンパク質及びミスフォールディングされたタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項11~13のいずれか一項に記載のタンパク質のフォールディング方法。
【請求項15】
タンパク質を含む溶液中に、請求項1~5のいずれか一項に記載のタンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のための剤を共存させることを含む、タンパク質の凝集抑制方法。
【請求項16】
タンパク質を含む溶液中に、請求項1~5のいずれか一項に記載のタンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のための剤を共存させることを含む、タンパク質の保管方法。
【請求項17】
下記式(I-1-2SH)で表される化合物。
【化4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整ための剤及びその使用に関する。特に、タンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整ための剤及びキットに関する。また、タンパク質のフォールディング方法、タンパク質の凝集抑制方法、及びタンパク質の保管方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然構造が崩れた、タンパク質のフォールディング中間体は、アミロイド線維形成などを起因とする神経変性疾患の原因となる。フォールディング中間体の化学的、生物学的性質を解明することは、疾患プロセスの理解と治療法、治療薬の開発につながる。しかし、フォールディング中間体の構造は不安定であり、制御して取り扱うことが困難である。そのため、フォールディング中間体の研究のためには、フォールディング中間体形成の制御が求められる。
【0003】
天然構造でジスルフィド結合を有するタンパク質のフォールディングには、ジスルフィド結合の形成が関与している。ジスルフィド結合を有するタンパク質のフォールディング方法としては、タンパク質のフォールディング過程に還元剤と酸化剤とを共存させ、ジスルフィド結合の形成と切断とを繰り返し起こすことで、最安定な天然構造へと導く方法がある。その際用いられる典型的な還元剤としては、グルタチオン(GSH)、β-メルカプトエタノール(β-ME)、及びジチオスレイトール(DTT)、酸化剤としては、グルタチオン酸化体(GSSG)が挙げられる。
【0004】
また、特許文献1では、効率的にタンパク質フォールディング可能な還元剤として、1-(2-メルカプトエチル)グアニジンが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-210258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フォールディング中間体の化学的、生物学的性質の解明のためには、フォールディング中間体形成の制御が求められる。また、タンパク質研究のためには、タンパク質の凝集抑制技術が求められる。
【0007】
そこで、本発明は、タンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のための剤、前記剤を含むタンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のためのキット、前記剤を用いたタンパク質のフォールディング方法、タンパク質の凝集抑制方法、及びタンパク質の保管方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は以下の態様を含む。
[1]シクロデキストリンの少なくとも1個の水酸基が、下記式(I)で表される基で置換された化合物(A)を含む、タンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のための剤。
【0009】
【化1】
[式中、Xは、硫黄原子又はセレン原子を表し、Yは、2価の連結基を表す。*は、結合手を表す。]
【0010】
[2]前記水酸基が、2位の水酸基及び6位の水酸基からなる群より選択される少なくとも1個の水酸基である、[1]に記載のタンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のための剤。
[3]前記シクロデキストリンが、βシクロデキストリンである、[1]又は[2]に記載のタンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のための剤。
[4]前記式(I)で表される基が、下記式(I-1)で表される基である、[1]~[3]のいずれか1つに記載のタンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のための剤。
【0011】
【化2】
[式中、Xは、硫黄原子又はセレン原子を表し、Y11は、アミド結合を含む2価の連結基、又はアルキレン基を表す。*は、結合手を表す。]
【0012】
[5]前記化合物(A)が、下記式(I-1-2SH)又は(I-1-6SH)で表される化合物である、[1]に記載のタンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のための剤。
【0013】
【化3】
【0014】
[6][1]~[5]のいずれか1つに記載のタンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のための剤と、疎水性基を含む化合物とを含む、タンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のためのキット。
[7]前記疎水性基を含む化合物が、分子量50~1000の化合物である、[6]に記載のタンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のためのキット。
[8]前記疎水性基が、炭化水素基である、[6]又は[7]に記載のタンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のためのキット。
[9]前記疎水性基を含む化合物が、アダマンタンである、[6]に記載のタンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のためのキット。
[10]酸化剤をさらに含む、[6]~[9]のいずれか1つに記載のタンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のためのキット。
[11][1]~[5]のいずれか1つに記載のタンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のための剤の存在下で、タンパク質をインキュベーションする工程を含む、タンパク質のフォールディング方法。
[12]前記インキュベーションを、疎水性基を含む化合物の共存下で行う、[11]に記載のタンパク質のフォールディング方法。
[13]前記インキュベーションを、酸化剤の共存下で行う、[11]又は[12]に記載のタンパク質のフォールディング方法。
[14]前記タンパク質が、アンフォールディングされたタンパク質及びミスフォールディングされたタンパク質からなる群より選択される少なくとも1種を含む、[11]~[13]のいずれか1つに記載のタンパク質のフォールディング方法。
[15]タンパク質を含む溶液中に、[1]~[5]のいずれか1つに記載のタンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のための剤を共存させることを含む、タンパク質の凝集抑制方法。
[16]タンパク質を含む溶液中に、[1]~[5]のいずれか1つに記載のタンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のための剤を共存させることを含む、タンパク質の保管方法。
[17]下記式(I-1-2SH)で表される化合物。
【0015】
【化4】
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、タンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のための剤、前記剤を含むタンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のためのキット、前記剤を用いたタンパク質のフォールディング方法、タンパク質の凝集抑制方法、及びタンパク質の保管方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】β-シクロデキストリン-2SH(β-CD2SH)の合成例で得られたβ-CD2SHの1H NMRスペクトルデータを示す。
図2】β-シクロデキストリン-6SH(β-CD6SH)の合成例で得られたβ-CD6SHの1H NMRスペクトルデータを示す。
図3】RNase Aのフォールディング速度を示す。アダマンタン(-):β-CD2SH及び酸化型グルタチオン(GSSG)存在下;アダマンタン(+):アダマンタン、β-CD2SH及び酸化型グルタチオン(GSSG)存在下。
図4】RNase Aフォールディング反応中のジスルフィド結合の形成過程を示す。GSH:グルタチオン及びGSSG存在下;β-CD6SH:β-CD6SH及びGSSG存在下;β-CD2SH:β-CD2SH及びGSSG存在下。R:RNase A還元体;1SS:RNase Aフォールディング中間体(ジスルフィド結合1つ);2SS:RNase Aフォールディング中間体(ジスルフィド結合2つ);3SS:RNase Aフォールディング中間体(ジスルフィド結合3つ);4SS/N:RNase Aの天然構造と完全酸化型非天然構造の混合物。
図5】β-CD2SHによるリゾチームの凝集抑制効果を示す。リゾチームは96℃で加熱後に冷却した。1.5(h):冷却から1.5時間後;6(h):冷却から6時間後。β-CD2SH(+):β-CD2SH存在下;β-CD2SH(-):β-CD2SH非存在下。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<タンパク質凝集抑又はタンパク質フォールディング調整のための剤>
本開示の第1の態様は、タンパク質凝集抑又はタンパク質フォールディング調整のための剤である。本態様の剤は、シクロデキストリンの少なくとも1個の水酸基が、下記式(I)で表される基で置換された化合物(A)を含む。
【0019】
【化5】
[式中、Xは、硫黄原子又はセレン原子を表し、Yは、2価の連結基を表す。*は、結合手を表す。]
【0020】
(化合物(A))
化合物(A)は、シクロデキストリンの少なくとも1個の水酸基が、前記式(I)で表される基(以下、「基(I)」ともいう)で置換された化合物である。シクロデキストリンは、複数個のD-グルコースが、α-1,4グリコシド結合により結合した環状オリゴ糖である。シクロデキストリンとしては、例えば、α-シクロデキストリン(グルコース6個;α-CD)、β-シクロデキストリン(グルコース7個;β-CD)、及びγ-シクロデキストリン(グルコース8個;γ-CD)が挙げられる。中でも、シクロデキストリンとしては、β-CDが好ましい。
【0021】
化合物(A)は、シクロデキストリン骨格を有し、且つ前記シクロデキストリン骨格が有する水酸基の少なくとも1個が、基(I)で置換されている。すなわち、化合物(A)は、シクロデキストリンを構成するD-グルコースが有する水酸基の少なくとも1個が、基(I)で置換された構造を有している。置換される水酸基の数は、特に限定されない。シクロデキストリンがα-CDである場合、前記式(I)で表される基で置換される水酸基の数としては、例えば、1~18個、1~10個、1~6個、1~4個、1~3個、2個、又は1個が挙げられる。シクロデキストリンがβ-CDである場合、基(I)で置換される水酸基の数としては、例えば、1~21個、1~18個、1~10個、1~6個、1~4個、1~3個、2個、又は1個が挙げられる。シクロデキストリンがγ-CDである場合、基(I)で置換される水酸基の数としては、例えば、1~24個、1~21個、1~18個、1~10個、1~6個、1~4個、1~3個、2個、又は1個が挙げられる。前記式(I)で表される基で置換される水酸基の数としては、1個が好ましい。
【0022】
基(I)で置換される水酸基の位置は、特に限定されない。基(I)で置換される水酸基は、1位の水酸基でもよく、2位の水酸基でもよく、6位の水酸基でもよい。1位の水酸基及び2位の水酸基が基(I)で置換されてもよく、及び1位の水酸基及び6位の水酸基が基(I)で置換されてもよく、2位の水酸基及び6位の水酸基が基(I)で置換されてもよく、1位の水酸基、2位の水酸基及び6位の水酸基が基(I)で置換されてもよい。
1個のD-グルコース内で1つの水酸基が基(I)で置換されてもよく、1個のD-グルコース内で2つ以上の水酸基が基(I)で置換されてもよい。1個のD-グルコースの水酸基のみが基(I)で置換されてもよく、2個以上のD-グルコースの水酸基が置換されてもよい。
【0023】
基(I)で置換される水酸基は、2位の水酸基及び6位の水酸基からなる群より選択される少なくとも1個の水酸基が好ましい。一実施形態において、化合物(A)は、シクロデキストリンの2位の水酸基1個が基(I)で置換された化合物である。一実施形態において、化合物(A)は、シクロデキストリンの6位の水酸基1個が基(I)で置換された化合物である。
【0024】
≪式(I)で表される基;基(I)≫
前記式(I)中、Xは、硫黄原子又はセレン原子を表す。Xは、硫黄原子が好ましい。
【0025】
前記式(I)中、Yは、2価の連結基を表す。Yにおける2価の連結基としては、置換基を有してもよい2価の炭化水素基、ヘテロ原子を含む2価の連結基が挙げられる。
【0026】
における置換基を有してもよい2価の炭化水素基は、脂肪族炭化水素基でもよく、芳香族炭化水素基でもよいが、脂肪族炭化水素基が好ましい。
脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基でもよく、不飽和脂肪族炭化水素基でもよいが、飽和脂肪族炭化水素基が好ましい。脂肪族炭化水素基は、直鎖状脂肪族炭化水素基でもよく、分岐鎖状脂肪族炭化水素基でもよく、環状脂肪族炭化水素基でもよい。
直鎖状の脂肪族炭化水素基は、炭素原子数1~10が好ましく、炭素原子数1~6がより好ましく、炭素原子数1~4がさらに好ましく、炭素原子数2~3が特に好ましい。
分岐鎖状の脂肪族炭化水素基は、炭素原子数2~10が好ましく、炭素原子数2~6がより好ましく、炭素原子数2~4がさらに好ましく、炭素原子数3~4が特に好ましい。
環状の脂肪族炭化水素基は、炭素原子数3~10が好ましく、炭素原子数3~8がより好ましく、炭素原子数3~6がさらに好ましく、炭素原子数3~4が特に好ましい。環状脂肪族炭化水素基は、単環式基でもよく、多環式基でもよいが、単環式基が好ましい。
【0027】
前記脂肪族炭化水素基は、置換基を有してもよい。前記置換基は、特に限定されないが、例えば、アミノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子)、水酸基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシ基、アルコキシ基等が挙げられる。
【0028】
芳香族炭化水素基は、芳香環を少なくとも1つ有する炭化水素基である。芳香環は、4n+2個のπ電子をもつ環状共役系であれば、特に限定されず、単環式でもよく、多環式でもよい。芳香環は、炭素原子数5~30が好ましく、炭素原子数5~20がより好ましく、炭素原子数6~15がさらに好ましく、炭素原子数6~12が特に好ましい。ただし、前記炭素原子数には、置換基における炭素原子数を含まないものとする。
芳香環として具体的には、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン等の芳香族炭化水素環;前記芳香族炭化水素環を構成する炭素原子の一部がヘテロ原子で置換された芳香族複素環等が挙げられる。芳香族複素環におけるヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子等が挙げられる。芳香族複素環として具体的には、ピリジン環、チオフェン環等が挙げられる。
【0029】
前記芳香族炭化水素基は、置換基を有してもよい。前記置換基は、特に限定されないが、例えば、アルキル基、アミノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子)、水酸基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシ基、アルコキシ基等が挙げられる。
【0030】
におけるヘテロ原子を含む2価の連結基は、炭素原子及び水素原子に加えてヘテロ原子を含む2価の連結基である。ヘテロ原子としては、例えば、窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子が挙げられる。ヘテロ原子を含む2価の連結基としては、例えば、アルキレン基を構成するメチレン基(-CH-)の一部が、-O-、-C(=O)-O-、-O-C(=O)-、-C(=O)-、-O-C(=O)-O-、-C(=O)-NH-、-NH-、-NH-C(=NH)-、-C(=O)-NR-、-NR-、-NR-C(=NR)-(R及びRは、炭素原子数1~3のアルキル基、又は炭素原子数1~3のアシル基)、-S-、-S(=O)-、及び-S(=O)-O-からなる群より選択される少なくとも1個の基で置換された基が挙げられる。前記アルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよいが、直鎖状が好ましい。直鎖状アルキレン基としては、炭素原子数1~10が挙げられ、炭素原子数1~6が好ましく、炭素原子数1~4がより好ましく、炭素原子数1~3がさらに好ましく、炭素原子数2~3が特に好ましい。分岐鎖状アルキレン基としては、炭素原子数2~10が挙げられ、炭素原子数2~6が好ましく、炭素原子数2~4がより好ましく、炭素原子数2~3がさらに好ましい
ヘテロ原子を含む2価の基は、メチレン基の一部が-NH-で置換された直鎖状アルキレン基が好ましい。
【0031】
基(I)は、下記式(I-1)で表される基が好ましい。
【0032】
【化6】
[式中、Xは、硫黄原子又はセレン原子を表し、Y11はアミド結合を含む2価の連結基、又は、炭素原子数1~6のアルキレン基を表す。*は、結合手を表す。]
【0033】
前記式(I-1)中、Xは前記式(I)中のXと同じである。
【0034】
前記式(I-1)中、Y11は、アミド結合(-C(=O)-NH-、又は-NH-C(=O)-)を含む2価の連結基、又は炭素原子数1~6のアルキレン基を表す。
【0035】
アミド結合を含む2価の連結基としては、アルキレン基を構成するメチレン基(-CH-)の一部がアミド結合で置換された基;及びペプチドを含む2価の連結基が挙げられる。
前記アルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよいが、直鎖状が好ましい。直鎖状アルキレン基としては、炭素原子数1~10が挙げられ、炭素原子数1~6が好ましく、炭素原子数1~4がより好ましく、炭素原子数1~3がさらに好ましく、炭素原子数2~3が特に好ましい。分岐鎖状アルキレン基としては、炭素原子数2~10が挙げられ、炭素原子数2~6が好ましく、炭素原子数2~4がより好ましく、炭素原子数2~3がさらに好ましい。
前記ペプチドを含む2価の連結基としては、2~10個のアミノ酸残基を有するペプチドを含む連結基が挙げられる。前記ペプチドが有するアミノ酸残基は、2~8個が好ましく、2~6個が好ましく、2~4個がさらに好ましく、2~3個が特に好ましい。
【0036】
11におけるアルキレン基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよいが、直鎖状が好ましい。直鎖状アルキレン基は、炭素原子数1~4が好ましく、炭素原子数1~3がより好ましく、炭素原子数2~3がさらに好ましい。分岐鎖状アルキレン基は、炭素原子数2~6であり、炭素原子数2~4が好ましく、炭素原子数3~4がより好ましい。
【0037】
化合物(A)の具体例としては、下記式(I-1-2SH)又は(I-1-6SH)で表される化合物が挙げられるが、これらに限定されない。下記式(I-1-2SH)で表される化合物は、β-CD2SHである。下記式(I-1-6SH)で表される化合物は、β-CD6SHである。
【0038】
【化7】
【0039】
化合物(A)は、塩の形態であってもよい。塩としては、特に制限されず、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩;マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属との塩;アンモニウム塩;又は塩酸、燐酸、硝酸、硫酸、亜硫酸等の無機酸との塩;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、リンゴ酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸との塩等が挙げられる。
化合物(A)は、溶媒和物の形態であってもよい。溶媒和物としては、特に限定されず、例えば、水和物;アルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール)、アセトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、DMF、DMSO等の溶媒との溶媒和物が挙げられる。
【0040】
≪化合物(A)の合成方法≫
化合物(A)は、公知の方法を組み合わせて合成することができる。例えば、化合物(A)の合成は、以下のように行うことができる。
まず、シクロデキストリンに対し、基(I)で置換する水酸基にp-トルエンスルホニル基(トシル基)を導入する。次いで、前記トシル基に対し、ジスルフィド結合若しくはジセレン結合を有する化合物を反応させて、前記水酸基にジスルフィド結合若しくはジセレン結合を有する基を導入する。次いで、還元剤を用いて、前記ジスルフィド結合若しくはジセレン結合を還元することで、化合物(A)を得ることができる。
化合物(A)の合成例の一例を以下に示すが、これに限定されない。下記合成例は、β-シクロデキストリンの2位の水酸基のうちの1つを、基(I)で置換した場合の例である。
【0041】
【化8】
[式中、Xは、硫黄原子又はセレン原子を表し、Yは、2価の連結基を表し、Rは、1価の有機基を表す。]
【0042】
上記合成例では、モノ-2-O-(p-トルエンスルホニル)-β-シクロデキストリン(1)に、化合物(2)を反応させて、化合物(3)を得る。次いで、還元剤を用いて、化合物(3)のX-X結合ご還元することで、化合物(A)を得る。
【0043】
(任意成分)
本態様の剤は、前記化合物(A)に加えて、任意成分を含んでもよい。任意成分は、化合物(A)の機能を損なわない限り、特に限定されない。任意成分としては、例えば、疎水性基を含む化合物(以下、「疎水性基含有化合物」ともいう)、酸化剤等が挙げられる。本態様の剤が化合物(A)に加えて任意成分を含む場合、本態様の剤は、タンパク質凝集抑又はタンパク質フォールディング調整のための組成物であってもよい。
【0044】
≪疎水性基含有化合物≫
本態様の剤は、化合物(A)のタンパク質フォールディング作用の調整のために、疎水性基含有化合物を含んでもよい。
疎水性基含有化合物は、シクロデキストリンのゲスト分子として機能し得る化合物であれば、特に限定されない。シクロデキストリンは、環状構造内部が疎水性であり、ホスト-ゲスト相互作用により、環状構造の内部に疎水性化合物を包接することができる。ホスト-ゲスト相互作用により、化合物(A)に疎水性基含有化合物が包接されると、化合物(A)のタンパク質フォールディング速度が抑制される。
疎水性基含有化合物としては、例えば、分子量50~1000の化合物が挙げられる。疎水性基含有化合物の分子量は、50~800が好ましく、50~500がより好ましく、50~300がさらに好ましく、50~200が特に好ましい。
【0045】
疎水性基含有化合物が有する疎水性基は、特に限定されないが、炭化水素基が好ましい。炭化水素基としては、例えば、炭素原子数3~30の炭化水素基が挙げられる。炭化水素基は、炭素原子数6~20が好ましく、炭素原子数6~18がより好ましく、炭素原子数8~16がさらに好ましく、炭素原子数8~14が特に好ましい。
疎水性基は、1価の基であってもよく、2価の基であってもよく、3価以上の基であってもよい。
【0046】
前記炭化水素基は、脂肪族炭化水素基であってもよく、芳香族炭化水素基であってもよい。
脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基でもよく、不飽和脂肪族炭化水素基でもよい。脂肪族炭化水素基は、直鎖状の脂肪族炭化水素基でもよく、分岐鎖状の不飽和炭化水素基でもよく、環状の脂肪族炭化水素基でもよい。
直鎖状又は分岐鎖状の脂肪族炭化水素基としては、直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基又はアルキレン基、直鎖状又は分岐鎖状のアルケニル基又はアルケニレン基、直鎖状又は分岐鎖状のアルキニル基又はアルキニレン基が挙げられる。
環状の脂肪族炭化水素基は、単環式基であってもよく、多環式基であってもよい。単環式基としては、例えば、モノシクロアルカン環、モノシクロアルケン環、又はモノシクロアルキン環を含む基等が挙げられる。モノシクロアルカンとしては、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロシクロオクタン、シクロノナン、シクロデカン等が挙げられる。モノシクロアルケンとしては、例えば、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロシクロオクテン、シクロノネン等が挙げられる。が、これらに限定されない。モノシクロアルキンとしては、例えば、シクロペンチン、シクロヘキシン、シクロヘプチン、シクロシクロオクチン、シクロノニン等が挙げられる。多環式基としては、例えば、アダマンタン、ノルボルナン、ノルボルネン、ビシクロ[2.2.2]オクタタン、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカン等の環骨格を含む基が挙げられる。
【0047】
芳香族炭化水素基は、単環式でもよく、多環式でもよい。芳香族炭化水素基は、芳香族炭化水素環を含むものが好ましい。芳香族炭化水素基が含む芳香環の数は、1~6個が挙げられ、1~5個が好ましく、1~4個がより好ましく、1~3個がさらに好ましく、1~2個が特に好ましい。芳香族炭化水素基としては、ベンゼン、フルオレン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、テトラヒドロナフタレン等の環骨格を含む基が挙げられる。
【0048】
化合物(A)がα-シクロデキストリン骨格を有する場合、疎水性基含有基としては、炭素原子数3~18のn-アルキル基が挙げられる。具体例としては、n-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、及びn-ドデシル基等が挙げられる。
化合物(A)がβ-シクロデキストリン骨格を有する場合、疎水性基としては、炭素原子数6~18の多環式脂肪族炭化水素基、及び炭素原子数3~10の分子鎖状アルキル基が挙げられる。具体例としては、例えば、アダマンチル基、エチルアダマンチル基、ノルボルニル基、イソボルニル基、tert-ブチル基が挙げられる。
化合物(A)がγ-シクロデキストリン骨格を有する場合、疎水性基含有基としては、n-アルキル基、シクロアルキル基が挙げられる。具体例としては、例えば、n-オクチル基、n-ドデシル基、及びシクロドデシル基が挙げられる。
【0049】
疎水性基含有化合物の疎水性基以外の部分は、疎水性基含有化合物が、化合物(A)のゲスト分子として機能する限り、特に限定されない。疎水性基以外の部分は、疎水性であってもよく、親水性であってもよい。疎水性基含有化合物としては、例えば、炭化水素が挙げられる。
化合物(A)がα-シクロデキストリン骨格を有する場合、疎水性基含有化合物としては、炭素原子数3~18のn-アルカンが挙げられる。具体例としては、n-ブタン、n-ヘキサン、n-オクタン、及びn-ドデカン等が挙げられる。
化合物(A)がβ-シクロデキストリン骨格を有する場合、疎水性基含有化合物としては、炭素原子数6~18の多環式脂肪族炭化水素、及び炭素原子数3~10の分子鎖状アルカンが挙げられる。具体例としては、例えば、アダマンタン、エチルアダマンタン、ノルボルナン、イソボルナン、イソブタンが挙げられる。
化合物(A)がγ-シクロデキストリン骨格を有する場合、疎水性基含有化合物としては、n-アルカン、シクロアルカンが挙げられる。具体例としては、例えば、n-オクタン、n-ドデカン、及びシクロドデカンが挙げられる。
【0050】
≪酸化剤≫
本態様の剤は、タンパク質中のチオール基を酸化させジスルフィド結合を形成させるために、酸化剤を含んでもよい。化合物(A)による還元作用と、酸化剤による酸化作用とにより、タンパク質中のチオール・ジスルフィド結合交換反応を繰り返されることで、それに伴ったタンパク質構造変化を誘起させ、最安定な天然構造へと導かれる。
【0051】
酸化剤は、タンパク質へのジスルフィド結合導入に使用されるものを特に制限なく使用することができる。酸化剤としては、例えば、酸化型グルタチオン、酸化型ジチオスレイトール、酸化型セレノグルタチオン、グルタレドキシン類(Glutaredoxins)、シスチン、酸化型シスタミン、酸化型セレノシスタミン、過酸化水素、ジアミド、フェリシアン化カリウム等が挙げられる。
中でも、実際の生体反応で使用される観点から、酸化型グルタチオンが好ましい。
【0052】
本態様の剤は、タンパク質フォールディングを調整するために用いることができる。本態様の剤の存在下でタンパク質フォールディングを行う場合、フォールディング反応液に疎水性基含有化合物を添加することにより、タンパク質フォールディング速度を調整することができる。より具体的には、フォールディング反応液中に存在する化合物(A)の量に対して、疎水性基含有化合物の量を多くすることにより、タンパク質フォールディング速度を遅くすることができる。一方、フォールディング反応液中に存在する化合物(A)の量に対して、疎水性基含有化合物の量を少なくすることにより、タンパク質フォールディング速度を早くすることができる。化合物(A)と疎水性基含有化合物とのモル比(化合物(A):疎水性基含有化合物)は、例えば、50:1~1:50の間で変化させることができる。
【0053】
本態様の剤は、タンパク質の凝集を抑制するために用いることができる。本態様の剤をタンパク質と共存させることにより、タンパク質の凝集を抑制することができる。本態様の剤をタンパク質の凝集抑制剤として用いる場合、本態様の剤の使用量としては、タンパク質のモル量に対して、例えば、1~1000倍のモル量が挙げられる。本態様の剤の使用量は、タンパク質のモル量に対して、例えば、50~800倍のモル量が好ましく、100~600倍のモル量がより好ましく、300~600倍のモル量がさらに好ましい。
【0054】
本態様の剤を適用するタンパク質は、ジスルフィド結合を有するタンパク質であれば、特に限定されない。タンパク質が有するジスルフィド結合の数は、特に限定されず、1個以上であればよい。タンパク質が有するジスルフィド結合の数は、例えば、1~20個、1~15個、1~10個、又は1~5個等が挙げられる。
タンパク質の分子量は、特に限定されないが、例えば、1,000~10,000,000が挙げられ、1,000~250,000が好ましい。
【0055】
<タンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のためのキット>
本開示の第2の態様は、タンパク質凝集抑又はタンパク質フォールディング調整のためのキットである。本態様のキットは、第1の態様の剤と、前記疎水性基含有化合物とを含む。
【0056】
第1の態様の剤は、上記で説明したとおりである。本態様のキットでは、第1の態様の剤は、疎水性基含有化合物を含有しないものを用いることができる。本態様のキットでは、第1の態様の剤は、酸化剤を含有しないものを用いることができる。
【0057】
疎水性基含有化合物は、上記で説明したとおりである。化合物(A)がβ-シクロデキストリン骨格を含む場合、疎水性基含有化合物としては、アダマンタンが好ましい。
【0058】
(任意の構成)
本態様のキットは、第1の態様の剤及び疎水性基含有化合物に加えて、任意の構成を含んでもよい。任意の構成としては、例えば、酸化剤、緩衝液等の各種試薬類、及び使用説明書等が挙げられる。
【0059】
酸化剤としては、前記「<タンパク質凝集抑又はタンパク質フォールディング調整のための剤>」の項で挙げたものと同様のものが挙げられる。酸化剤としては、酸化型グルタチオンが好ましい。
【0060】
緩衝液は、タンパク質、化合物(A)、疎水性基含有化合物、及び酸化剤等を溶解させて、タンパク質フォールディング反応を行うために用いることができる。緩衝液は、濃縮液(例えば、1~10倍濃縮液)であってもよく、使用時に希釈して用いてもよい。緩衝液は、生化学分野で通常用いられるものを特に制限なく使用することができる。緩衝液としては、例えば、トリス緩衝液、MES緩衝液及びトリシン緩衝液等のアミン系緩衝液;リン酸緩衝液;及びGood’s buffers等が挙げられる。緩衝液のpHとしては、pH4~10が挙げられる。緩衝液のpHは、pH5~9が好ましく、pH7~9がより好ましく、pH7~8がさらに好ましい。
【0061】
本態様のキットは、タンパク質フォールディング反応を実施するために用いることができる。本態様のキットは、第1の態様の剤と疎水性基含有化合物を含むため、フォールディング反応液中の化合物(A)と疎水性基含有化合物とのモル比を適宜調整することができる。そのため、前記モル比の調整により、タンパク質フォールディング速度を適宜調整することができる。
本態様のキットは、タンパク質凝集を抑制するために用いてもよい。
【0062】
<タンパク質のフォールディング方法>
本開示の第3の態様は、タンパク質のフォールディング方法である。本態様のタンパク質のフォールディング方法は、第1の態様の剤の存在下で、タンパク質をインキュベーションする工程を含む。
【0063】
(タンパク質をインキュベーションする工程;タンパク質フォールディング工程)
タンパク質のインキュベーションは、適切な緩衝液に、タンパク質、及び第1の態様の剤(例えば、化合物(A))を溶解してフォールディング反応液を調製し、インキュベーションすることで行うことができる。当該インキュベーションを行うことにより、タンパク質フォールディング反応を行うことができる。
【0064】
緩衝液としては、上記「<タンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のためのキット>」の項で挙げたものを用いることができる。
【0065】
フォールディング反応液中のタンパク質濃度は、特に限定されないが、例えば、フォールディング反応液中の最終濃度として、0.1~100μMが挙げられる。タンパク質濃度は、0.5~50μMが好ましく、1~20μMがより好ましく、1~10μMがさらに好ましい。
【0066】
フォールディング反応液中の化合物(A)の濃度は、特に限定されないが、例えば、フォールディング反応液中の最終濃度として、0.01~100mMが挙げられる。化合物(A)の濃度は、0.05~50mMが好ましく、0.1~20mMがより好ましく、0.5~10mMがさらに好ましい。
【0067】
フォールディング反応液は、タンパク質及び第1の態様の剤に加えて、上記疎水性基含有化合物を含んでもよい。すなわち、タンパク質のインキュベーションは、化合物(A)及び疎水性基含有化合物の共存下で行ってもよい。フォールディング反応液中の疎水性基含有化合物の濃度は、特に限定されないが、例えば、フォールディング反応液中の最終濃度として、0.001~100mMが挙げられる。疎水性基含有化合物の濃度は、0.001~50mMが好ましく、0.01~20mMがより好ましく、0.05~10mMがさらに好ましい。
化合物(A)と疎水性基含有化合物とのモル比(化合物(A):疎水性基含有化合物)は、例えば、50:1~1:50の間で変化させることができる。化合物(A)に対し、疎水性化合物の量を多くすると、フォールディング速度を遅くすることができる。化合物(A)に対し、疎水性化合物の量を少なくすると、フォールディング速度を速くすることができる。
【0068】
フォールディング反応液は、タンパク質及び第1の態様の剤に加えて、酸化剤を含んでもよい。すなわち、タンパク質のインキュベーションは、化合物(A)及び酸化剤の共存下で行ってもよい。酸化剤としては、上記で挙げたものを用いることができる。フォールディング反応液中の酸化剤の濃度は、特に限定されないが、例えば、フォールディング反応液中の最終濃度として、0.001~100mMが挙げられる。酸化剤の濃度は、0.001~50mMが好ましく、0.01~20mMがより好ましく、0.05~10mMがさらに好ましい。
化合物(A)と酸化剤とのモル比(化合物(A):酸化剤)としては、例えば、20:1~1:1が好ましく、10:1~2:1がより好ましい。
【0069】
フォールディング反応液は、タンパク質、第1の態様の剤、疎水性基含有化合物、及び酸化剤を含むことが好ましい。すなわち、タンパク質のインキュベーションは、化合物(A)、疎水性基含有化合物、及び酸化剤の共存下で行うことが好ましい。
【0070】
インキュベーションに用いるタンパク質は、1個以上のジスルフィド結合を有する限り、特に限定されない。タンパク質は、上記と同様のものが挙げられる。タンパク質としては、アンフォールディングされたタンパク質、及びミスフォールディングされたタンパク質が挙げられる。
アンフォールディングされたタンパク質とは、1個以上のジスルフィド結合が酸化されて、1個以上のジスルフィド結合が切断されたタンパク質である。タンパク質のアンフォールディングは、還元剤を用いて行うことができる。還元剤としては、化合物(A)を用いてもよく、他の還元剤(例えば、グルタチオン、β-メルカプトエタノール、ジチオスレイトール等)を用いてもよい。
ミスフォールディングされたタンパク質とは、1個以上のジスルフィド結合が最安定の天然構造以外の構造で形成されているタンパク質である。ミスフォールディングされたタンパク質は、例えば、酸化剤と還元剤とを併用することで作製することができる。
【0071】
インキュベーション温度は、タンパク質フォールディング反応の進行が可能な温度であれば、特に限定されない。インキュベーション温度は、タンパク質の種類に応じて適宜選択することができる。インキュベーション温度としては、例えば、10~50℃が挙げられ、20~40℃が好ましく、25℃~35℃がより好ましい。
インキュベーション時間は、タンパク質の種類に応じて適宜選択することができる。インキュベーション時間としては、例えば、1~600分が挙げられる。フォールディングの状態を経時的に観察し、最安定な天然構造となった時点で、インキュベーションを終了してもよい。フォールディング状態の観察には、例えば、4-Acetamido-4’-Maleimidylstilbene-2,2’-Disulfonic Acid(AMS)等のチオール基修飾剤を用いることができる。
【0072】
(任意工程)
本態様の方法は、前記インキュベーション工程に加えて、任意工程を含んでもよい。任意工程としては、例えば、タンパク質をアンフォールディングする工程、フォールディングされたタンパク質を単離する工程等が挙げられる。
【0073】
≪タンパク質アンフォールディング工程≫
本態様の方法は、前記インキュベーション工程(タンパク質フォールディング工程)の前に、タンパク質をアンフォールディングする工程を含んでもよい。
タンパク質をアンフォールディングする工程は、還元剤の存在下で、タンパク質をインキュベーションすることにより行うことができる。還元剤としては、上記で挙げたものを用いることができる。タンパク質のアンフォールディングには、タンパク質変性剤(例えば、グアニジン塩酸塩、尿素等)を用いてもよい。
タンパク質のアンフォールディング反応は、タンパク質、酸化剤、及びタンパク質変性剤を、水等の媒体に溶解してタンパク質アンフォールディング反応液を調製し、インキュベーションすることにより行ってもよい。
タンパク質濃度としては、例えば、アンフォールディング反応液中の最終濃度として、0.1~100μMが挙げられる。タンパク質濃度は、0.5~50μMが好ましく、1~20μMがより好ましく、1~10μMがさらに好ましい。
還元剤の濃度としては、例えば、アンフォールディング反応液中の最終濃度として、0.1~1000mMが挙げられる。酸化剤の濃度は、1~500mMが好ましく、10~300mMがより好ましく、50~200mMがさらに好ましい。
変性剤の濃度としては、例えば、アンフォールディング反応液中の最終濃度として、0.1~100Mが挙げられる。変性剤の濃度は、0.5~50Mが好ましく、1~30Mがより好ましく、1~20Mがさらに好ましい。
アンフォールディング反応液のpHとしては、例えば、pH5~10が挙げられ、pH6~9.5が好ましく、pH7~9がより好ましく、pH8~9がさらに好ましい。
【0074】
インキュベーション温度は、タンパク質アンフォールディング反応の進行が可能な温度であれば、特に限定されない。インキュベーション温度は、タンパク質の種類に応じて適宜選択することができる。インキュベーション温度としては、例えば、10~50℃が挙げられ、20~40℃が好ましく、20℃~35℃がより好ましい。
インキュベーション時間は、タンパク質の種類に応じて適宜選択することができる。インキュベーション時間としては、例えば、1~600分が挙げられ、10~500分が好ましく、30~400分がより好ましく、60~300分がさらに好ましい。アンフォールディングの状態を経時的に観察し、全てのジスルフィド結合が還元された時点で、インキュベーションを終了してもよい。
【0075】
インキュベーション後、アンフォールディング反応液の透析等を行い、変性剤及び還元剤等を除去してもよい。
【0076】
≪タンパク質単離工程≫
本態様の方法は、前記インキュベーション工程(タンパク質フォールディング工程)の後に、フォールディングされたタンパク質を単離する工程を含んでもよい。タンパク質の単離には、公知のタンパク質単離方法を特に制限なく、用いることができる。タンパク質単離法としては、例えば、塩析、透析、カラムクロマトグラフィー等が挙げられる。
【0077】
<タンパク質の凝集抑制方法>
本開示の第4の態様は、タンパク質の凝集抑制方法である。本態様の方法は、タンパク質溶液中に、第1の態様の剤を共存させることを含む。
【0078】
タンパク質溶液は、タンパク質を水又は緩衝液等に溶解することにより、調製することができる。緩衝液としては、上記と同様のものが挙げられる。タンパク質溶液のpHは、特に限定されず、タンパク質の種類により、適宜選択することができる。タンパク質溶液のpHとしては、例えば、pH4~10が挙げられる。タンパク質溶液のpHは、pH5~9が好ましく、pH7~9がより好ましく、pH7~8がさらに好ましい。
タンパク質溶液中のタンパク質濃度は、特に限定されない。タンパク質濃度としては、例えば、0.1~1000μMが挙げられる。タンパク質濃度としては、例えば、1~500μMが好ましく、5~300μMがより好ましく、10~100μMがさらに好ましい。
【0079】
第1の態様の剤(例えば、化合物(A))は、タンパク質溶液に添加して溶解させることにより、タンパク質溶液中に共存させることができる。タンパク質溶液中の化合物(A)の濃度は、タンパク質溶液中の最終濃度として、例えば、0.1~1000mMが挙げられる。化合物(A)の濃度としては、例えば、1~500mMが好ましく、5~300mMがより好ましく、5~100mMがさらに好ましい。
化合物(A)のモル濃度としては、タンパク質のモル濃度に対して、例えば、1~1000倍のモル濃度が挙げられる。化合物(A)のモル濃度は、タンパク質のモル濃度に対して、例えば、50~800倍が好ましく、100~600倍がより好ましく、300~600倍がさらに好ましい。
【0080】
タンパク質溶液中に、第1の態様の剤を添加して、タンパク質と化合物(A)とを共存させることにより、タンパク質の凝集を効果的に抑制することができる。
【0081】
<タンパク質の保管方法>
本開示の第5の態様は、タンパク質の保管方法である。本態様の方法は、タンパク質溶液中に、第1の態様の剤を共存させることを含む。
【0082】
タンパク質溶液中での、第1の態様の剤の共存は、上記と同様に行うことができる。
タンパク質溶液は、適切な容器に、第1の態様の剤を含むタンパク質溶液を入れて、保管すればよい。容器としては、例えば、プラスチック製容器、ガラス製容器等が挙げられる。
保管温度は、特に限定されないが、例えば、0~40℃が挙げられる。保管温度は、0~30℃が好ましく、0~20℃がより好ましく、0~10℃がさらに好ましい。
【0083】
タンパク質溶液中に、第1の態様の剤を添加して、タンパク質と化合物(A)とを共存させて保管することにより、保管中にタンパク質が凝集することを抑制することができる。
【0084】
<化合物>
本開示の第6の態様は、下記式(I-1-2SH)で表される化合物である。本態様の化合物は、第1の態様の剤として利用することができる。
【0085】
【化9】
【実施例0086】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0087】
<β-シクロデキストリン-2SHの合成例>
以下のスキームにより、β-シクロデキストリン-2SH(β-CD2SH)を合成した。
【0088】
【化10】
【0089】
(化合物(2)の合成)
ナスフラスコに、Mono-2-O-(p-toluenesulfonyl)-β-cyclodextrin(化合物1;200.2mg,0.155mmol,東京化成工業)を加え、ジメチルスルホキシド(DMSO,4mL,キシダ化学)に溶解させた。次に、シスタミン二塩酸塩(350.2mg,1.55mmol,東京化成工業)と水酸化ナトリウム(144.3mg,3.6075mmol,キシダ化学)とを精製水(1mL)に溶解させ、得られた溶液をフラスコ内に滴下した。滴下後、80℃に昇温し、48時間攪拌した。室温に冷却した後、エタノール(キシダ化学)を加え、沈殿物を回収した。沈殿物をアセトンで洗浄し、バキュームオーブンで乾燥させて、化合物2を得た。収量:158.5mg、収率:80.6%。
【0090】
(β-CD2SHの合成)
窒素雰囲気下で、化合物2(113.8mg,0.0896mmol)を脱水N,N-ジメチルホルムアミド(DMF,0.75mL,関東化学)に溶解させた。次に、ジチオトレイトール(DTT,27.9mg,0.181mmol,ナカライテスク)をあらかじめ窒素バブリングにより脱気した精製水(0.25mL)に溶解させ、得られた溶液をフラスコ内に加えた。その後、室温で20時間攪拌した。エタノール(キシダ化学)を加え、沈殿物を回収した。沈殿物をアセトンで洗浄し、バキュームオーブンで乾燥させて、β-CD2SHを得た。収量:16.5mg、収率:15.4%。得られたβ-CD2SHの1H NMR解析(溶媒:重DMSO、測定温度:25℃)を行い、構造を確認した。β-CD2SHの1H NMRスペクトルデータを図1に示す。
【0091】
<β-シクロデキストリン-6SHの合成>
以下のスキームにより、β-シクロデキストリン-6SH(β-CD6SH)を合成した。
【0092】
【化11】
【0093】
(化合物5の合成)
化合物3(シスタミン二塩酸塩、681.5mg,3.03mmol,東京化成工業)を5M 水酸化ナトリウム水溶液(10mL,水酸化ナトリウム(キシダ化学)を用いて調製)に溶解させ、塩化メチレン(10mL,5回,AGC)で抽出した。回収した有機層に硫酸ナトリウム(キシダ化学)を加え、濾過した。濾液を減圧留去、真空乾燥し、化合物4を得た。続けて、化合物4が入ったナスフラスコに、Mono-6-O-(p-toluenesulfonyl)-β-cyclodextrin(β-CD-6-OTs,130.2mg,0.101mmol,東京化成工業)を加え、70℃に昇温し、6時間攪拌した。室温に冷やした後、アセトン(関東化学)を加えて、沈殿物を回収した。沈殿物をアセトンで洗浄し、バキュームオーブンで乾燥させて、化合物5を得た。収量:49.9mg、収率:38.9%。
【0094】
(β-CD6SHの合成)
窒素雰囲気下で、化合物5(49.9mg,0.0393mmol)を脱水N,N-ジメチルホルムアミド(DMF,1.5mL,関東化学)に溶解させた。次に、ジチオトレイトール(DTT,12.1mg,0.0784mmol,ナカライテスク)をあらかじめ窒素バブリングにより脱気した精製水(0.5mL)に溶解させ、得られた溶液をフラスコ内に加えた。その後、室温で10時間攪拌した。アセトン(関東化学)を加えて、沈殿物を回収した。沈殿物をアセトンで洗浄し、バキュームオーブンで乾燥させて、β-CD6SHを得た。収量:27.7mg、収率:59.0%。得られたβ-CD6SHの1H NMR解析(溶媒:重DMSO、測定温度:25℃)を行い、構造を確認した。β-CD6SHの1H NMRスペクトルデータを図2に示す。
【0095】
<還元変性タンパク質の作製>
モデル基質としてRNase Aを採用した(M.M. Lyles, H.F. Gilbert., Biochemistry. 1991 30(3):613-9.)。RNase Aは4本のジスルフィド結合を有すタンパク質であり、当該分野におけるモデル基質として一般である。
RNase A(sigma)の還元変性体(4つのジスルフィド結合の還元体)を作製するために、RNase A 16.0mgを、6M グアニジン塩酸及び100mM DTTの存在下、pH8.7、25℃で、2時間インキュベートし、10mM HClで透析した。さらに、2回透析を行い、DTT等を除いて溶液を10mM HClに交換した(M.M. Lyles, H.F. Gilbert., Biochemistry. 1991 30(3):613-9.)。
【0096】
<RNase A活性評価>
(RNase Aのフォールディング反応)
フォールディング促進効果を評価するために、上記で調製した還元変性RNase Aの活性回復測定を行った。チオール化合物(β-CD2SH)1mM及びジスルフィド化合物(酸化型グルタチオン;GSSG)0.2mMの存在下で、8μM RNase Aを含む緩衝液(50mM Tris-HCl pH7.5、300mM NaCl)を30℃でインキュベートした。
【0097】
(RNase A活性測定)
経時的に上記反応液を分取し、RNase Aの基質となるシチジン 2’:3’-環状一リン酸(cytidine 2’:3’-cyclic monophosphate:cCMP)を含む同緩衝液で希釈し、最終濃度8μM RNase A、0.6mM cCMPとした。分光光度計により284nmの吸光度の変化を測定し、天然構造へフォールディングされたRNase Aの核酸分解活性を定量した。
【0098】
(実施例1)
以下の条件で、RNase Aのフォールディング反応を行った。条件(2)では、フォールディング反応液を調製後、フォールディング反応液に対して、30℃で3分30秒間超音波を照射した。その後、フォールディング反応液を濾過した。濾過後のフォールディング反応液にRNase Aを添加し、インキュベートした。
(1)1mM β―CD2SH/0.2mM GSSG
(2)1mM β―CD2SH/0.2mM GSSG/0.1mMアダマンタン(東京化成工業)
経時的に反応液を分取し、上記のようにRNA Aの活性測定を行った。
【0099】
結果を図3に示す。アダマンタンを添加することにより、RNase Aの天然構造へのフォールディングが遅れることが確認された。この結果から、アダマンタンの添加により、タンパク質のフォールディング速度を調節できることが示された。
【0100】
(実施例2)
RNase A分子内にジスルフィド結合が形成される過程を観察するため、遊離チオール基修飾試薬である4-Acetamido-4’-Maleimidylstilbene-2,2’-Disulfonic Acid(AMS,Invitrogen)を用いて、ジスルフィド結合を形成していないチオール基のみを選択的に修飾した。
【0101】
以下の条件で、RNase Aのフォールディング反応を行った。
(1)1mM グルタチオン(GSH)/0.2mM GSSG
(2)1mM β―CD6SH/0.2mM GSSG
(3)1mM β―CD2SH/0.2mM GSSG
【0102】
経時的に反応液を分取し、最終濃度5mMとなるようにAMSを加えることで反応をクエンチした。このサンプルを、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)に供することで、RNase A 内ジスルフィド結合の導入度を評価した。
【0103】
結果を図4に示す。(1)~(3)のいずれの条件でも、インキュベーション30分以上でRNase Aの還元体(図中の「R」)がほぼ消失していることが確認された。この結果は、RNase Aのフォールディング反応によりRNase Aの部分的なフォールディング形成が進行し、RNase Aの部分的なフォールディング中間体が形成されて、RNase A還元体が消失することを示す。
【0104】
(実施例3)
30μM リゾチーム、12.75mM β-CD2SHを含む水溶液を、96℃で、20分間加熱した。冷却し、1.5時間後及び6時間後に、水中に溶解しているリゾチーム濃度を測定した。
【0105】
結果を図5に示す。β-CD2SHの存在下では、β-CD2SHの非存在と比較して、リゾチーム残存濃度が増加した。この結果は、β-CD2SHが、タンパク質の凝集抑制効果を有することを示す。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明によれば、タンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のための剤、前記剤を含むタンパク質凝集抑制又はタンパク質フォールディング調整のためのキット、前記剤を用いたタンパク質のフォールディング方法、タンパク質の凝集抑制方法、及びタンパク質の保管方法が提供される。本発明により提供される剤は、タンパク質フォールディング調整剤、タンパク質凝集抑制剤、タンパク質フォールディング促進剤、及びタンパク質フォールディング速度調節剤として使用することができる。タンパク質フォールディング速度調節剤は、タンパク質フォールディング中間種の生化学的特性解析を行う上で有用である。タンパク質凝集抑制剤は、タンパク質を用いた実験、及びタンパク質試薬の保管等に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5