(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127974
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】車両用電源装置
(51)【国際特許分類】
H02H 3/16 20060101AFI20230907BHJP
B60R 16/02 20060101ALI20230907BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20230907BHJP
H02J 7/02 20160101ALI20230907BHJP
G01R 31/52 20200101ALI20230907BHJP
【FI】
H02H3/16 A
B60R16/02 645A
H02J7/00 P
H02J7/02 H
G01R31/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022031982
(22)【出願日】2022-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000143639
【氏名又は名称】株式会社今仙電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100109597
【弁理士】
【氏名又は名称】西尾 章
(72)【発明者】
【氏名】山野上 耕一
(72)【発明者】
【氏名】槇尾 大介
【テーマコード(参考)】
2G014
5G004
5G503
【Fターム(参考)】
2G014AA16
2G014AB61
5G004AA04
5G004BA01
5G004CA03
5G503BA03
5G503BB01
5G503BB02
5G503CA11
5G503FA06
5G503HA02
(57)【要約】
【課題】安価でかつ確実な感電防止対策を行うことのできる車両用電源装置を提供する。
【解決手段】車両用電源装置1は、複数の蓄電素子を直列に接続した第一の蓄電素子群2と、第一の蓄電素子群の正極側に直列に接続され、第一の蓄電素子群と合わせることによって高電圧の直流電源を構成する第二の蓄電素子群3と、アクティブバランサ4と、第一の蓄電素子群と低電圧負荷との間に配置される第一のスイッチ手段5および第二のスイッチ手段6と、制御手段7と、高電圧の直流電源の電力を遮断する遮断手段8と、漏電検出手段9と、を備えている。制御手段は、第一のスイッチ手段5および第二のスイッチ手段6がオフ状態であるデッドタイム期間に、漏電検出手段9から送出される信号を判定し、漏電電流が所定の基準に達した場合には、負荷に供給する電力を所定期間遮断する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
低電圧負荷と、前記低電圧負荷よりも高い電圧で駆動される高電圧負荷とに電力を供給する車両用電源装置であって、
複数の蓄電素子を直列に接続して所定の電圧の直流電源を得る第一の蓄電素子群と、
複数の蓄電素子を直列に接続して構成されており、前記第一の蓄電素子群の正極側に直列に接続され、前記第一の蓄電素子群と合わせることによって高電圧の直流電源を構成する第二の蓄電素子群と、
前記第一の蓄電素子群及び前記第二の蓄電素子群との間に配置されるアクティブバランサと、
前記第一の蓄電素子群から低電圧を供給する出力端子に対応して設けられた第一のスイッチ手段および第二のスイッチ手段と、
前記高電圧の直流電源からの電力を遮断する遮断手段と、
前記第一のスイッチ手段および前記第二のスイッチ手段を制御して所定の低電圧を得る制御と、前記アクティブバランサを制御して全ての前記蓄電素子の容量を略均一とする制御と、前記遮断手段の切り替え制御と、を行う制御手段と、
前記高電圧の直流電源と接地電位との間の漏電電流を検出して前記制御手段に信号を送出する漏電検出手段と、
を備えており、
前記制御手段が、前記第一のスイッチ手段および前記第二のスイッチ手段がオフ状態であるデッドタイム期間に前記漏電検出手段から送出される信号を判定し、漏電電流が所定の基準に達した場合には、前記低電圧負荷と前記高電圧負荷のいずれか一方もしくは両方に対する電力を所定期間遮断することを特徴とする車両用電源装置。
【請求項2】
前記アクティブバランサが、前記第一の蓄電素子群の陰極側と、前記第二の蓄電素子群の正極側と、前記第一の蓄電素子群と前記第二の蓄電素子群との間に設けられた出力端子の三点に接続していることを特徴とする請求項1に記載の車両用電源装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記漏電電流が所定の基準に達した時、前記遮断手段をオフの状態に固定することを特徴とする請求項1に記載の車両用電源装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記漏電電流が所定の基準に達した時、前記遮断手段がオフである状態を所定の時間保持した後、再度、前記遮断手段がオンとなる動作を繰り返すことを特徴とする請求項1に記載の車両用電源装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記第一のスイッチ手段および前記第二のスイッチ手段と前記低電圧負荷とを接続している期間と前記漏電検出手段の漏電検出値との積が0.003アンペア×1秒以下となるように前記スイッチング手段を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用電源装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記漏電電流が所定の基準に達した時、前記第一のスイッチ手段および前記第二のスイッチ手段の接続を禁止することを特徴とする請求項1記載の車両用電源装置。
【請求項7】
前記漏電電流の基準となる電流値が0アンペアであり、
前記制御手段は、漏電電流が0アンペアよりも大である場合に、前記低電圧負荷と前記高電圧負荷のいずれか一方もしくは両方に対する電力を所定期間遮断することを特徴とする請求項1に記載の車両用電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用電源装置に関する。特に、異なる電圧で作動する複数の負荷に給電する電源装置であって、簡易な構成によって使用者の感電対策を確実に行うことのできる車両用電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の電気回路は、12V又は24Vの鉛蓄電池から低電圧の電力を給電する回路と、300Vから400V程度の駆動用二次電池から高電圧の電力を給電する回路との2つの系統に分かれていた。鉛蓄電池は重量があり、また電池自体の製造や廃棄の際の環境負荷が大きい。さらに、近年の電気自動車やハイブリッド車では、より昇圧した給電が必要となる場合がある。このため、車両用の電源として異なる電圧を一つの電源で提供できる二次電池システムの開発が進んでいる。
【0003】
二次電池システムには、複数の蓄電素子を直列に接続した二次電池が広く用いられている。このような二次電池は、蓄電素子の数を増やすことで高圧の出力電圧を得ることができ、効率よく動力を供給することができる。一方で、車載用電源には、厳重な感電防止措置が必要となる。特に、作動電圧が直流60V以上となる動力系に対しては、安全対策が必須である。
【0004】
発明者らは、これまでに、高圧電源から降圧手段を介して低電圧電源を得る車両用電源装置であって、トランス等の絶縁手段を用いることなく人体の感電を防止できる車両用電源装置を発明し、特許文献1に開示した。特許文献1の車両用電源装置の基本的な構成を、
図5に示す。車両用電源装置は、複数の蓄電素子で構成される高電圧電源600から、12Vで動作する電気負荷300と、高電圧負荷装置400に電力を供給する。車両用電源装置は、高電圧電源600の一部の蓄電素子を電気負荷300に接続する複数のスイッチ手段を備えており、スイッチ手段を100usec程度の周期で選択的に切り替えて電気負荷に所定の電圧の電力を供給する。蓄電素子間の電圧バランスの制御は、スイッチ手段の接続時間の制御によって行う。さらに特許文献1の車両用電源装置は、高電圧電源と接地電位との間の漏電電流を検出する漏電検出手段100を備えている。漏電検出手段100は、スイッチ手段が全てオフのデッドタイム中に、漏電の有無を検出する。漏電検出手段は、たとえば高電圧電源と接地極との間の漏電電流を測定する。制御手段は、漏電検出手段が検出した漏電電流が0アンペアより大の時に漏電が発生していると判断して、以降のスイッチ手段の接続を禁止するか、又は遮断手段500、501をオフにして感電を防止する。
【0005】
また、発明者らは、複数のバッテリを直列に接続した二次電池において、バッテリとバッテリの間に設けられた出力端子が接地されていることを特徴とする高電圧電源を発明し、特許文献2に開示した。特許文献2の高電圧電源の構成例を、
図6に示す。高電圧電源124は、複数の蓄電素子を含み、直列に接続された複数のバッテリ111を備えている。バッテリ111とバッテリ111の間の出力端子は、車体のグランド105に接続され、接地電位となっている。これにより、高電圧電源124とグランド105との最大電位差が小さくなっており、高電圧負荷装置103に電力を供給する場合であっても、車体に対する絶縁が不要となる。また、高電圧電源124は、全てのバッテリ111と並列に接続されてバイパス回路を形成するバランサ132を備えており、複数のバッテリ111間の充放電状態のバランス制御を能動的に行う。
【0006】
特許文献1の車両用電源装置は、一般的な電圧3Vの蓄電素子を適用している場合、300Vの高電圧規格の負荷装置に給電するために100個の蓄電素子と50個のスイッチ手段が必要となる。多数のスイッチ手段を設けることは、装置全体の価格の上昇と、制御の複雑さの原因となる。一方、特許文献2の高電圧電源は、電圧規格300Vの負荷装置に給電する場合には、高電圧電源124とグランド105との電位差が最低でも150Vとなる。このため、従来と同様の感電防止対策が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-114847号公報
【特許文献2】特開2020-199925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
車両の電源システムは、種々の電気回路と使用者が触れる可能性のある車両ボディとの間で、確実な絶縁を行う必要がある。しかしながら、複数の電圧系統を含む電源システムの場合、電圧制御と絶縁を行うための装置構成が大型化し、高額なものとなる傾向があった。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、複数の電圧の給電を行い、しかも確実な絶縁対策を行うことのできる車両用電源装置の提供を、解決すべき課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、低電圧負荷と、低電圧負荷よりも高い電圧で駆動される高電圧負荷とに電力を供給する車両用電源装置に関する。本発明の車両用電源装置は、複数の蓄電素子を直列に接続して所定の電圧の直流電源を得る第一の蓄電素子群と、複数の蓄電素子を直列に接続して構成されており、第一の蓄電素子群の正極側に直列に接続され、第一の蓄電素子群と合わせることによって高電圧の直流電源を構成する第二の蓄電素子群と、第一の蓄電素子群及び第二の蓄電素子群との間に配置されるアクティブバランサと、高電圧の直流電源からの電力を遮断する遮断手段と、制御手段と、漏電検出手段とを備えている。制御手段は、第一のスイッチ手段および第二のスイッチ手段を制御して所定の低電圧を得る制御と、前記アクティブバランサを制御して全ての前記蓄電素子の容量を略均一とする制御と、前記遮断手段の切り替え制御と、を行う。漏電検出手段は、高電圧の直流電源と接地電位との間の漏電電流を検出して前記制御手段に信号を送出する。本発明の制御手段は、第一のスイッチ手段および第二のスイッチ手段がオフ状態であるデッドタイム期間に漏電検出手段から送出される信号を判定し、漏電電流が所定の基準に達した場合には、低電圧負荷と高電圧負荷のいずれか一方もしくは両方に対する電力を所定期間遮断することを特徴とする。
【0011】
本発明の車両用電源装置は、アクティブバランサが、第一の蓄電素子群の陰極側と、第二の蓄電素子群の正極側と、第一の蓄電素子群と第二の蓄電素子群との間に設けられた出力端子の三点に接続していることが好ましい。
【0012】
本発明の車両用電源装置の制御手段は、漏電電流が所定の基準に達した時、遮断手段をオフの状態に固定することができる。
【0013】
また、本発明の車両用電源装置の制御手段は、漏電電流が所定の基準に達した時、遮断手段がオフである状態を所定の時間保持した後、再度、遮断手段がオンとなる動作を繰り返すことができる。
【0014】
本発明の車両用電源装置の制御手段は、第一のスイッチ手段および第二のスイッチ手段と低電圧負荷とを接続している期間と、漏電検出手段の漏電検出値との積が0.003アンペア×1秒以下となるようにスイッチング手段を制御することができる。
【0015】
本発明の車両用電源装置の制御手段は、漏電電流が所定の基準に達した時、第一のスイッチ手段および第二のスイッチ手段の接続を禁止することができる。
【0016】
本発明の車両用電源装置は、漏電電流の基準となる電流値が0アンペアとすることができる。制御手段は、漏電電流が0アンペアよりも大である場合に、低電圧負荷と高電圧負荷のいずれか一方もしくは両方に対する電力を所定期間遮断することが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る車両用電源装置は、高電圧と低電圧の両方の電力を提供できる。低電圧は、第一の蓄電素子群から第一のスイッチ手段および第二のスイッチ手段を介して供給される。従来の高電圧電源から低電圧を得るために必要であったDC-DCコンバータや数多くのスイッチ手段を必要とすることがないため、従来よりも装置全体の構成を簡素化し、装置を安価に構成することができる。
【0018】
本発明に係る車両用電源装置の第一のスイッチ手段および第二のスイッチ手段の耐電圧は、第一の蓄電素子群の出力する電圧に対応する電圧でよく、より低い電圧対応のスイッチ手段を適用することができる。このため、装置全体の構成を一層簡素化し、装置を安価に構成することができる。
【0019】
一方で、本発明に係る車両用電源装置は、制御手段の感電防止処理部が、第一のスイッチ手段および第二のスイッチ手段がオフ状態であるデッドタイム期間に、漏電検出手段から送出される信号を判定し、漏電電流が所定の基準に達した場合には、低電圧負荷と高電圧負荷のいずれか一方もしくは両方に対する電力を所定期間遮断することで確実な感電対策を行い、安全性を確保することができる。
【0020】
特に、制御手段が好適なタイミングと期間で遮断手段をオフにする命令を出力し、命令によって遮断手段が電流を遮断することにより、高電圧の直流電源からの電力供給が停止され、高電圧系統と高電圧負荷の周辺の確実な感電対策を行うことができる。
【0021】
また、制御手段が出力する命令によって、第一のスイッチ手段および第二のスイッチ手段の接続が禁止されてオフになることにより、低電圧の電力供給が停止され、低電圧系統と低電圧負荷の周辺の確実な感電対策を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の車両用電源装置と、複数の負荷との接続状態を模式的に示すブロック図である。
【
図2】
図2は、アクティブバランサによる充電状態の制御内容を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係る車両用電源装置の漏電検出の一例を説明する図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係る車両用電源装置の漏電検出の代替例を説明する図である。
【
図5】
図5は、従来例の高電圧電源の構成を模式的に示すブロック図である。
【
図6】
図6は、従来例の高電圧電源の構成を模式的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の車両用電源装置の好適な実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
図1は、一実施形態に係る車両用電源装置1の構成例を示すブロック図である。本実施形態における車両用電源装置1は、低電圧負荷20と、高電圧負荷30とに電力を供給する。
【0024】
車両用電源装置1は、第一の蓄電素子群2と、第二の蓄電素子群3と、アクティブバランサ4と、第一のスイッチ手段5と、第二のスイッチ手段6と、制御手段7と、遮断手段8と、漏電検出手段9と、を備えている。
【0025】
第一の蓄電素子群2は、低電圧負荷20の電源となる蓄電素子群である。第一の蓄電素子群2は、それぞれが充放電可能な複数の二次電池を直列に接続することで構成されている。蓄電素子は、例えば、リチウムイオン電池やニッケル水素電池数といった電池セルで構成することができ、車両に搭載されている発電手段、または外部電源によって充電される。
【0026】
第二の蓄電素子群3は、第一の蓄電素子群2と組み合わせることで高電圧負荷30の電源となる高電圧電源を構成する。第二の蓄電素子群3は、第一の蓄電素子群2の正極側に直列に接続される。第二の蓄電素子群3を構成する蓄電素子は、第一の蓄電素子群2の蓄電素子と同一の、リチウムイオン電池やニッケル水素電池といった二次電池セルで構成することが好ましい。第二の蓄電素子群3もまた、車両に搭載されている発電手段または外部電源によって充電される。
【0027】
特に、第一の蓄電素子群2は、低電圧負荷20への給電によって、第二の蓄電素子群3よりも残容量が少なくなることが多い。アクティブバランサ4は、第一の蓄電素子群2及び第二の蓄電素子群3との間に配置されて、蓄電素子の充電状態(SOC)、すなわちそれぞれの蓄電素子の最大容量に対する残容量を略均一にする。アクティブバランサ4は、第一の蓄電素子群2の陰極側と、第二の蓄電素子群3の正極側と、第一の蓄電素子群2と前記第二の蓄電素子群3との間に設けられた出力端子の三点に接続していることが好ましい。
【0028】
第一のスイッチ手段5および第二のスイッチ手段6は、第一の蓄電素子群2から低電圧負荷20に電力を供給する配線上に配置されており、第一のスイッチ手段5と第二のスイッチ手段6の両方がオンとなっているとき、低電圧負荷20に電力が供給される。第一のスイッチ手段5と第二のスイッチ手段6のオンとオフのタイミングは、制御手段7によって制御される。
【0029】
好適な実施形態では、低電圧負荷20と並列にコンデンサ21が配設されている。制御手段7によって第一のスイッチ手段5と第二のスイッチ手段6の両方がオフにされる期間は、第一の蓄電素子群2から低電圧負荷20への供給電力が瞬断されるため、低電圧負荷20である車両の電気負荷が瞬間的に停止する可能性がある。しかしながらコンデンサ21を配置することにより、コンデンサ21に充電された電力が第一のスイッチ手段5と第二のスイッチ手段6がオフの時も低電圧負荷20へ供給され続け、電圧は0ボルトまで降下することなく、僅かの電圧降下に留めることができる。
【0030】
遮断手段8は、第一遮断スイッチ81と第二遮断スイッチ82を備えており、第一の蓄電素子群2と第二の蓄電素子群3によって高電圧負荷30に電力を供給する配線上に配置される。第一遮断スイッチ81と第二遮断スイッチ82は、
図3の上段に示すように、TSの期間オンとし、一定の期間オフとする動作を周期TSで繰り返す。第一遮断スイッチ81と第二遮断スイッチ82がオンとなっている期間は第一の蓄電素子群2と第二の蓄電素子群3からなる高電圧電源が高電圧負荷30へ供給され、遮断手段500、501がオフとなっている期間は高電圧電源から高電圧負荷30が遮断される。
【0031】
漏電検出手段9は、高電圧の直流電源と高電圧負荷30との間に配置されている。漏電検出手段9は、端子T1が第二の蓄電素子群3の陽極側に接続しており、端子T2が第一の蓄電素子群2の陰極側に接続している。また、漏電検出手段9は、端子T3を経由して車体に接地している。さらに、端子T0を経由して、制御手段7と通信可能に接続している。
【0032】
制御手段7は、車両用電源装置1全体の監視と制御を行う。特に、制御手段7は、第一のスイッチ手段5と第二のスイッチ手段6を制御して所定の低電圧を得るとともに、漏電を検出したときに必要に応じて低電圧負荷への電力を遮断する。また制御手段7は、アクティブバランサ4を制御して、全ての蓄電素子の充電状態が略均一になるように制御する。さらに制御手段7は、漏電検出手段9の出力に基づいて、遮断手段8の切り替え制御を行う。
【0033】
制御手段7は、第一のスイッチ手段5と第二のスイッチ手段6を、所定の周波数とデューティ比で制御する。第一のスイッチ手段5と第二のスイッチ手段6は両方がオンになった場合に、低電圧負荷20に電力が供給される。制御手段7が、第一のスイッチ手段5と第二のスイッチ手段6を同時にスイッチングすることで、安定化した低電圧の電力を出力することができる。
【0034】
制御手段7は、アクティブバランサ4を制御して、第一の蓄電素子群2と第二の蓄電素子群3の充電状態と放電状態を制御する。アクティブバランサ4は、第一の蓄電素子群2の陰極側と、第二の蓄電素子群3の正極側と、第一の蓄電素子群2と前記第二の蓄電素子群3との間に設けられた出力端子の三点に接続している。アクティブバランサ4は、第一の蓄電素子群2の陰極側にスイッチ素子41を備えており、第二の蓄電素子群3の正極側にスイッチ素子42を備えている。このスイッチ素子41,42のオンとオフをそれぞれ蓄電素子の数に対応したデューティ比で制御して発電手段から給電することで、動作時の全ての蓄電素子の充電状態を略均一にする。
【0035】
一例として、第一の蓄電素子群2と第二の蓄電素子群3に同一種類の蓄電素子が用いられており、第一の蓄電素子群2と第二の蓄電素子群3の蓄電素子の数の比が1:3である場合の、アクティブバランサ4が行う充放電制御の内容について説明する。
図2に示すように、スイッチ素子41をオンとすると同時にスイッチ素子42をオフとする期間を、スイッチ素子41をオフとすると同時にスイッチ素子42をオンとする期間の略3倍とすることで第一の蓄電素子群2に充電する時間をより長くし、第一の蓄電素子群2と第二の蓄電素子群3の充電状態を略均一にすることができる。このとき、アクティブバランサ4は、昇降圧チョッパと同様の動作を行う。
【0036】
さらに制御手段7は、第一のスイッチ手段5および第二のスイッチ手段6がオフ状態であるデッドタイム期間中に漏電検出手段9から送出される信号を判定し、漏電電流が所定の基準に達した場合には、低電圧負荷20と高電圧負荷30のいずれか一方もしくは両方に対する電力を所定期間遮断する。制御手段7による漏電状態の検出は、第一のスイッチ手段5および第二のスイッチ手段6がオフ状態であるデッドタイム期間に行う必要がある。第一のスイッチ手段5および第二のスイッチ手段6がオン状態の時には、全体の抵抗値が低くなり、漏電電流の検出精度が低くなるためである。
【0037】
以下、
図1、
図3、および
図4を参照して、遮断手段8及び漏電検出手段9の動作を説明する。
図3及び
図4の上段は、遮断手段8の第一遮断スイッチ81と第二遮断スイッチ82のオンとオフの切り替えを時系列で示している。
図3及び
図4の中段は、第一のスイッチ手段5および第二のスイッチ手段6のオンとオフの切り替えを時系列で示している。
図3及び
図4の下段は、漏電検出手段9が検出する漏電検出値ILeakと、制御手段7が予め記憶している漏電電流の基準値ILeakとの関係を時系列で示している。漏電検出手段9は、端子T1と接地端子T13との間に流れる電流と、端子T2と接地端子T3との間に流れる電流のうち、大きい方の漏電検出値ILeakを端子T0から制御手段7へ出力するように構成してある。
【0038】
第一のスイッチ手段5および第二のスイッチ手段6がオフである期間において、端子T1と端子T2とは車体に対してフローティングとなっているから上記漏電検出値は0アンペアとなっている。ところが、第二の蓄電素子3の正極側、即ちT1側に人体が触れると、人体の抵抗値が5KΩ程度であることから、端子T2と接地端子T3との間に漏電電流が検出される。
【0039】
図3に示すように、人体が高電圧部位に接触していない場合、第一のスイッチ手段5および第二のスイッチ手段6がオフであるデットタイム期間Td1、Td2における漏電検出手段9の漏電検出値ILeakは0アンペアである。しかし、第一のスイッチ手段5および第二のスイッチ手段6がオンとなっている期間に人体が高電圧部位に触れると、第一のスイッチ手段5および第二のスイッチ手段6がオフとなるデットタイム期間Td3における漏電検出手段9の漏電検出値ILeakは、0アンペアより大きくなる。
【0040】
制御手段7は、漏電検出手段9の端子T0を介して漏電検出値ILeakを取り込んでいる。取り込んだILeakが所定の値ILth以上であることを検出した場合、人体接触または機器異常が原因の漏電が発生していると判定する。そして、
図3及び
図4に示すように遮断手段8の第一遮断スイッチ81と第二遮断スイッチ82とを所定の期間中オフにする。
【0041】
図3に示すように、制御手段7は、期間を規定することなく、これ以降、遮断手段8はオフ状態を維持しても良い。一方で、車両は、人体が高電圧回路部位へ触れた場合のみならず、搭載される電子部品のリークや絶縁部分の機能不良、及び走行中の振動等によって一時的に漏電電流が流れる場合がある。そのような場合に、制御手段7の作用によって高電圧負荷30への電力供給が完全に停止すると、車両が走行中に各部機能を喪失して危険な場合がある。
【0042】
そこで、
図4に示すように、制御手段7は、漏電検出手段9の漏電検出値ILeakが所定の電流値ILth以上の時、遮断手段8の第一遮断スイッチ81と第二遮断スイッチ82とがオフである状態を所定の期間保持した後、再度第一遮断スイッチ81と第二遮断スイッチ82とをオンとする動作を繰り返すが如く構成することができる。
【0043】
これによって、車体の電源装置各部の故障等によって一時的な漏電電流が発生したとしても第一の蓄電素子群2と第二の蓄電素子群3からなる高電圧電源から高電圧負荷30への電力供給が再開するので、車両機能が回復して走行安全性を維持することができる。また、遮断手段8がオフである状態をたとえば0.5秒以上とすれば、漏電電流が車両の不具合に伴うものではなく、実際には人体の感電による場合であっても人体への致命的な影響をなくすことができる。
【0044】
第一遮断スイッチ81と第二遮断スイッチ82とを再度オンにした際に、デッドタイム期間Tdnにおける漏電検出手段100の漏電検出値ILeakがILthを超えている場合には、制御手段7は未だ人体が高電圧回路に接触していると判断し、第一遮断スイッチ81と第二遮断スイッチ82を再度オフとする。
【0045】
第一遮断スイッチ81と第二遮断スイッチ82とを再度オンにした際に、デッドタイム期間Tdnにおける漏電検出手段9の漏電検出値ILeakがILth未満である場合、制御手段7は、人体が高電圧回路に接触していないと判断し、第一遮断スイッチ81と第二遮断スイッチ82のオン状態を維持して高電圧負荷装置400への電力の供給を再開する。
【0046】
遮断手段8によって、第一の蓄電素子群2と第二の蓄電素子群3からなる高電圧電源が遮断されるから、人体を経由して高電圧電流が流れることがなくなり感電を防止することができる。尚、車両用電源装置1は図示しない筐体で囲むことによって、車両用電源装置1の内部に人体が触れて感電することが防止されている。
【0047】
なお、制御手段7が行う電流遮断処理は、低電圧負荷20と高電圧負荷30のそれぞれの動作状態に応じて、遮断手段8の第一遮断スイッチ81と第二遮断スイッチ82の両方の接続を禁止する処理と、第一のスイッチ手段5と第二のスイッチ手段6の両方の接続を禁止する処理のいずれか一方もしくは両方とすることができる。
【実施例0048】
以下、車両が備えている12Vの低電圧負荷20と300Vの高電圧負荷30に電力を供給する車両用電源装置1の構成と動作について、具体的に説明する。給電される低電圧負荷20は、たとえば電動パワーステアリング装置や、ワイヤレスドアロック装置である。また、給電される高電圧負荷30は、たとえば車両走行用モータである。
【0049】
本実施例では、第一の蓄電素子群2と第二の蓄電素子群3に、同じ種類の充電電圧3Vのリチウムイオン電池が用いられている。第一の蓄電素子群2は、5個のリチウムイオン電池が直列に接続されている。第二の蓄電素子群3は、95個のリチウムイオン電池が直列に接続されている。第一の蓄電素子群2は、最大電圧15Vの直流となる。また、第一の蓄電素子群2と第二の蓄電素子群3を組み合わせることで、最大電圧が300Vを超える直流電源となる。
【0050】
第一の蓄電素子群2は、低電圧負荷20と高電圧負荷30の両方に電力を供給するため、第二の蓄電素子群3よりも充電率が低くなることが多い。そこで、アクティブバランサ4は、バランス回路内のスイッチ素子41,42を異なるタイミングと周期で操作し、昇降圧チョッパと同様の動作によって、それぞれの蓄電素子群の充電状態を均等に保つ。代替例としては、アクティブバランサ4は、第二の蓄電素子群3の電池の電荷を、第一の蓄電素子群2の電池に移動させるように動作してもよい。このようなアクティブバランサ4は、複数のトランスと、複数のダイオードと、スイッチを含んでおり、複数のトランスを直列接続した一次側トランスから、充電量が低くなっている蓄電素子群に接続された二次側トランスに電流を発生させて充電する。
【0051】
本実施例において、第一のスイッチ手段5および第二のスイッチ手段6は、第一の蓄電素子群2の出力する最大電圧15Vに対応するスイッチング素子を適用することができる。このため、第一のスイッチ手段5および第二のスイッチ手段6に高価な高電圧対応のスイッチを適用する必要はなく、MOSFETなどのトランジスタを採用することができる。
【0052】
遮断手段8の遮断手段8の第一遮断スイッチ81と第二遮断スイッチ82には、耐電圧300Vの半導体スイッチ等を適用することができる。
【0053】
漏電検出手段9の接地端子T3は、車体に接続することで接地されている。第一のスイッチ手段5と第二のスイッチ手段6の両方がオフとなっている期間においては、漏電検出手段9の陽極側端子T1と陰極側端子T2のそれぞれが、車体に対してフローティングとなり基準電位が保たれる。このため、漏電検出手段9の検出電流値は通常0アンペアとなる。しかし、第一のスイッチ手段5および第二のスイッチ手段6がオンとなっている期間に人体が高電圧部位に触れると、第一のスイッチ手段5および第二のスイッチ手段6がオフとなるデットタイム期間Td3における漏電検出手段9の漏電検出値ILeakは、0アンペアより大きくなる。
【0054】
制御手段7は、漏電検出手段9から出力された漏電電流ILeakを取り込み、予め記憶している基準電流値ILthと比較する。最も安全率の高い基準電流値ILthは0アンペアである。しかしながら、一般的には電流値が30ミリアンペアの時に感電時間が0.1秒以下であれば致命的な人体反応は無いとされている。本実施例では、感電防止の実際的な観点から、感電電流と感電時間との積の最大値が0.003アンペア秒となるように、基準電圧値ILth値を定める。
【0055】
本実施例の車両用電源装置1においては、高電圧電源の電圧値300ボルトと、人体抵抗5KΩとから、最大感電電流は約60ミリアンペアであると仮定することができる。したがって、人体に危害の無い感電時間は0.05秒以下と推定される。そこで本実施例では、第一遮断スイッチ81と第二遮断スイッチ82がオンとなっている期間TNの最大値は十分に余裕を持って小さな値である0.001秒に設定している。
【0056】
制御手段7が出力する電流の遮断命令は、遮断手段8の第一遮断スイッチ81と第二遮断スイッチ82の両方の接続を禁止する処理とすることができる。遮断手段8の接続を禁止することで、高電圧負荷30への給電が停止されて、感電が防止される。また、感電防止処理部が出力する電流の遮断命令を、第一のスイッチ手段5と第二のスイッチ手段6の両方の接続を禁止する処理とすることも可能である。さらに、遮断手段8の接続を禁止する処理と、第一のスイッチ手段5と第二のスイッチ手段6の両方の接続を禁止する処理の両方を同時に行うことも可能である。
【0057】
制御手段7の電流の遮断命令が、遮断手段8の第一遮断スイッチ81と第二遮断スイッチ82とを所定の期間中オフにするという設定になっている場合には、この停止期間においても高電圧負荷30へ供給される電圧を保持できるように、高電圧負荷30と並列に所望の容量を具備した図示しないコンデンサを配設することが好ましい。
【0058】
本実施例における制御手段7は、取り込んだILeakが所定の値ILth以上であることを検出した場合、
図3に示したように、遮断手段8の第一遮断スイッチ81と第二遮断スイッチ82のオフ状態を維持しても良い。あるいは、制御手段7は、車両起因による漏電電流検出によって高電圧負荷30に対する電源供給が停止することなく、同時に人体への感電電流による危険を回避する為、
図4に示したように、漏電検出手段9の漏電検出値ILeakが所定の電流値ILthである以上の時、遮断手段8がオフである状態を例えば所定時間である0.5秒以上保持した後、再度遮断手段8がオンとなる動作を繰り返してもよい。
【0059】
本実施例で説明した高電圧電源の構成は、適宜変更が可能である。例えば、第一の蓄電素子群2と第二の蓄電素子群3をそれぞれ構成する蓄電素子の数は、給電する負荷の種類によって適宜変更することが可能である。また、第一の蓄電素子群2と第二の蓄電素子群3の構成に合わせて、アクティブバランサ4の構成を適宜変更することができる。
本発明に係る車両用電源装置は、車両のほか、任意の産業用機器に搭載することが可能である。なお、車両以外に適用する場合には、漏電検出手段9の接地端子を、基準電位となる位置に接地する必要がある。