(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023127996
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/12 20060101AFI20230907BHJP
【FI】
B60C11/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032017
(22)【出願日】2022-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】森 一真
【テーマコード(参考)】
3D131
【Fターム(参考)】
3D131BC15
3D131BC18
3D131BC19
3D131EB97Z
(57)【要約】
【課題】トレッド部の摩耗が進行しても氷雪路面やウェット路面での優れた旋回性能を維持できるタイヤを提供する。
【解決手段】タイヤのトレッド部は、少なくとも1つの陸部4を備える。陸部4は、踏面40からタイヤ半径方向内側に位置する外側領域41と、タイヤ半径方向内側に位置する内側領域42と、少なくとも1つのサイプ5とを含む。サイプ5は、外側領域41をタイヤ軸方向に延びる1本の外側サイプ要素51と、内側領域42を延びる複数の内側サイプ要素52とを含む。内側サイプ要素52は、タイヤ周方向に延びる成分52Aを含み、外側サイプ要素51と繋がっている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部は、少なくとも1つの陸部を備え、
前記陸部は、踏面からタイヤ半径方向内側に位置する外側領域と、前記外側領域のタイヤ半径方向内側に位置する内側領域と、少なくとも1つのサイプとを含み、
前記少なくとも一つのサイプは、前記外側領域をタイヤ軸方向に延びる1本の外側サイプ要素と、前記内側領域を延びる複数の内側サイプ要素とを含み、
前記複数の内側サイプ要素は、タイヤ周方向に延びる成分を含み、前記外側サイプ要素と繋がっている、
タイヤ。
【請求項2】
タイヤ周方向に延びる前記成分は、前記外側サイプ要素とは非平行である、請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
タイヤ周方向に延びる前記成分は、タイヤ半径方向内側に向かって増加する、請求項1または2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記複数の内側サイプ要素は、複数の屈曲要素を含み、
前記複数の屈曲要素は、それぞれ、
前記外側サイプ要素に対してタイヤ周方向の一方側にオフセットされてタイヤ軸方向に延びる第1オフセット要素と、
前記外側サイプ要素に対してタイヤ周方向の他方側にオフセットされてタイヤ軸方向に延びる第2オフセット要素と、
前記第1オフセット要素の少なくとも一つと、前記第2オフセット要素の少なくとも1つとを継ぐジョイント要素とを含む、請求項1ないし3のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記ジョイント要素は、タイヤ周方向に対して傾斜している、請求項4に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記複数の屈曲要素のそれぞれにおいて、
前記第1オフセット要素は、前記ジョイント要素が接続された側と反対側の端部に、前記第2オフセット要素に向かって、タイヤ周方向に対して、前記ジョイント要素とは逆向きに傾斜して延びる第1途切れ要素を備える、請求項5に記載のタイヤ。
【請求項7】
前記複数の屈曲要素のそれぞれにおいて、
前記第2オフセット要素は、前記ジョイント要素が接続された側と反対側の端部に、前記第1オフセット要素に向かって、タイヤ周方向に対して、前記ジョイント要素とは逆向きに傾斜して延びる第2途切れ要素を備える、請求項6に記載のタイヤ。
【請求項8】
前記複数の屈曲要素のうちタイヤ周方向で隣接する屈曲要素は、タイヤ軸方向で部分的にオーバラップする、請求項7に記載のタイヤ。
【請求項9】
前記第1オフセット要素及び前記第2オフセット要素は、タイヤ半径方向に対して傾斜する傾斜要素を有する、請求項4ないし8のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項10】
前記第1オフセット要素及び前記第2オフセット要素は、前記傾斜要素から屈曲し、タイヤ半径方向に対して平行な平行要素を有する、請求項9に記載のタイヤ。
【請求項11】
前記傾斜要素のタイヤ半径方向内端において、前記内側サイプ要素は、タイヤ軸方向に延びる成分の長さの総和Yに対するタイヤ周方向に延びる前記成分の長さの総和Xの比X/Yが0.3~0.7である、請求項9または10に記載のタイヤ。
【請求項12】
前記複数の内側サイプ要素は、前記外側サイプ要素と繋がる起点から放射状に広がる要素を含む、請求項1ないし3のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項13】
前記複数の内側サイプ要素は、前記外側サイプ要素と繋がる起点から循環する閉じた要素を含む、請求項1ないし3のいずれか一項に記載のタイヤ。
【請求項14】
前記複数の内側サイプ要素は、互いに離隔した複数の要素を含んでいる、請求項1、12または13に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トレッド部を有するタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、サイプ主部のタイヤ半径方向内縁に、この内縁に連なりサイプ底までのびるとともに前記サイプ主部の深さ方向中心線に対して一方側に傾斜してのびる第1の傾斜部と他方側に傾斜してのびる第2の傾斜部とを、前記サイピングの長さ方向に交互に配したタイヤが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
通常、トレッド部の摩耗に伴い、陸部の剛性が高くなることから、サイピングのエッジ効果が低下し氷雪性能やウェット性能に影響を及ぼす。
【0005】
一方、特許文献1に開示されたタイヤでは、上記構成のサイピングを採用することにより、陸部のタイヤ周方向の剛性の高まりが緩和される。その結果、トレッド部の摩耗が進行しても直進加減速時におけるブロックの端縁やサイピングでのエッジ効果が維持され、氷雪性能やウェット性能の低下の抑制が期待される。
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示されたサイピングは、タイヤ周方向に延びる成分を含まないため(
図1、2等参照)、トレッド部の摩耗に伴う陸部のタイヤ軸方向の剛性の高まりを緩和することができない。従って、トレッド部の摩耗の進行に伴い旋回時におけるブロックの端縁のエッジ効果が低下する。また、サイピング自体のエッジ効果も期待できないので、旋回時の氷雪性能やウェット性能が低下する。
【0007】
本開示は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、トレッド部の摩耗が進行しても氷雪路面やウェット路面での優れた旋回性能を維持できるタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部は、少なくとも1つの陸部を備え、
前記陸部は、踏面からタイヤ半径方向内側に位置する外側領域と、前記外側領域のタイヤ半径方向内側に位置する内側領域と、少なくとも1つのサイプとを含み、
前記少なくとも一つのサイプは、前記外側領域をタイヤ軸方向に延びる1本の外側サイプ要素と、前記内側領域を延びる複数の内側サイプ要素とを含み、
前記複数の内側サイプ要素は、タイヤ周方向に延びる成分を含み、前記外側サイプ要素と繋がっている。
【発明の効果】
【0009】
本開示の前記タイヤでは、前記サイプは、前記外側領域をタイヤ軸方向に延びる1本の外側サイプ要素と、前記内側領域を延びる複数の内側サイプ要素とを含み、前記複数の内側サイプ要素は、タイヤ周方向に延びる成分を含む。従って、摩耗の進行に伴い、内側サイプ要素のタイヤ周方向に延びる成分が出現する。これにより、陸部のタイヤ軸方向の剛性の高まりが緩和され、氷雪路面やウェット路面での優れた旋回性能が維持される。さらに、内側サイプ要素自身のエッジ効果により、氷雪路面やウェット路面での優れた旋回性能が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示のタイヤの一実施形態のトレッド部の横断面図である。
【
図3】
図2のサイプの一形態を示す陸部の展開図である。
【
図4】
図2のサイプの別の形態を示す陸部の展開図である。
【
図5】
図2のサイプのさらに別の形態を示す陸部の展開図である。
【
図6】
図5のサイプをタイヤ半径方向外側から透視する陸部の斜視図である。
【
図7】
図5のサイプをタイヤ半径方向内側から透視する陸部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1には、本実施形態のタイヤ1のトレッド部2の横断面図が示されている。なお、
図1は、タイヤ1の正規状態におけるタイヤ回転軸を含む子午線断面図である。本実施形態のトレッド部2は、例えば、空気入りタイヤとして好適に用いられる。但し、このような態様に限定されるものではなく、トレッド部2は、例えば、エアレスタイヤ用として用いられてもよい。
【0012】
「正規状態」とは、各種の規格が定められた空気入りタイヤの場合、タイヤが正規リムにリム組みされかつ正規内圧が充填され、しかも、無負荷の状態である。各種の規格が定められていないタイヤや、エアレスタイヤの場合、前記正規状態は、タイヤの使用目的に応じた標準的な使用状態であって無負荷の状態を意味する。本明細書において、特に断りがない場合、タイヤ各部の寸法等は、前記正規状態で測定された値である。なお、本明細書で説明された各構成は、ゴム成形品に含まれる通常の誤差を許容するものとする。
【0013】
「正規リム」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めているリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば"Measuring Rim" である。
【0014】
「正規内圧」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0015】
図1に示されるように、トレッド部2には、例えば、タイヤ周方向に連続して延びる複数の主溝3と、これらに区分された複数の陸部4とが設けられている。トレッド部2に主溝3が形成されることなく、トレッド部2が単一の陸部4によって構成される形態であってもよい。
【0016】
本実施形態の陸部4は、例えば、ブロックをタイヤ周方向に複数含んだブロック列として構成されている。ブロックは、陸部4をタイヤ軸方向に横切る複数の横溝の間に区分されている。本発明の陸部4は、このような態様に限定されるものではなく、例えば、タイヤ周方向に連続して延びるリブ状に形成されていてもよい。
【0017】
図2には、陸部4をタイヤ周方向DCに切断した断面が示されている。陸部4は、外側領域41と、内側領域42と、を含んでいる。
【0018】
外側領域41は、踏面40からタイヤ半径方向内側に第1距離(深さ)D1までの領域である。内側領域42は、外側領域41のタイヤ半径方向内側に位置している。外側領域41と内側領域42との境界43は、踏面40からタイヤ半径方向内側に第1距離D1を隔てている。
【0019】
外側領域41は、トレッド部2の新品時から摩耗中期までの踏面40を構成する。内側領域42は、トレッド部2の摩耗中期から摩耗末期までの踏面40を構成する。
【0020】
陸部4は、少なくとも1つのサイプ5を含んでいる。本開示において、「サイプ」とは、微小な幅を有する切れ込みであって、互いに向き合う2つのサイプ壁の間の幅が1.5mm以下のものを指す。踏面40とサイプ壁とが交差するエッジが奏するエッジ効果によって、特にタイヤ1の氷雪性能やウェット性能が向上する。
【0021】
サイプ5は、少なくとも1つの陸部4に少なくとも1つ設けられていればよい。サイプ5は、複数の陸部4(例えば、
図1に示される全ての陸部4)に設けられているのが望ましい。
【0022】
サイプ5は、外側領域41をタイヤ軸方向に延びる1本の外側サイプ要素51と、内側領域42を延びる複数の内側サイプ要素52とを含んでいる。このような外側サイプ要素51と内側サイプ要素52とを含むサイプ5は、各陸部4に複数設けられるのが望ましいが、陸部4に少なくとも一つ形成されていればよい。さらに、各陸部4には、サイプ5及びサイプ5とは別の形態のサイプが設けられていてもよい。
【0023】
外側サイプ要素51は、タイヤ軸方向に対して傾斜していてもよい。この場合、外側サイプ要素51のタイヤ軸方向に対する角度は、45゜未満が望ましい。外側サイプ要素51のタイヤ軸方向に対する角度が45゜未満であることにより、摩耗初期での加減速性能が向上する。なお、外側サイプ要素51は、直線状にのびる形態に限られず、曲線状及びジグザグ状にのびていてもよい。また、外側サイプ要素51は、タイヤ半径方向に対して傾斜していてもよい。
【0024】
複数の内側サイプ要素52は、外側領域41と内側領域42との境界43で、外側サイプ要素51から分岐するようにタイヤ半径方向の内側に形成されている。すなわち、複数の内側サイプ要素52は、境界43で、外側サイプ要素51と繋がっている。
【0025】
内側領域42が踏面40を構成する摩耗中期以降において、複数の内側サイプ要素52は、踏面40に出現する。これにより、摩耗中期から摩耗末期における陸部4の剛性の高まりが緩和される。また、エッジ効果を奏するエッジ成分が増加し、良好な氷雪性能やウェット性能が得られる。
【0026】
内側サイプ要素52は、タイヤ周方向DCに延びる成分52Aを含んでいる。ここで、「タイヤ周方向DCに延びる成分」とは、タイヤ軸方向に対して傾斜または直交してのびる成分すなわちタイヤ軸方向に対して平行ではない成分を意図している。
【0027】
内側サイプ要素52のタイヤ周方向DCに延びる成分52Aは、摩耗の進行に伴い、踏面40に出現する。これにより、陸部4のタイヤ軸方向の剛性の高まりが緩和され、氷雪路面やウェット路面での優れた旋回性能が維持される。さらに、内側サイプ要素52の成分52A自身が奏するエッジ効果により、氷雪路面やウェット路面での優れた旋回性能が期待される。氷雪路面やウェット路面での優れた旋回性能を得るためには、上記成分52Aのタイヤ軸方向に対する角度は、45゜以上が望ましい。
【0028】
上記成分52Aは、外側サイプ要素51とは非平行である、のが望ましい。成分52Aが外側サイプ要素51とは非平行であることにより、摩耗の進行に伴って外側サイプ要素51とは異なる形態の内側サイプ要素52が複数出現するので、内側サイプ要素52の自由度が高められ、氷雪路面やウェット路面でより一層優れた旋回性能が得られる。
【0029】
上記成分52Aは、タイヤ半径方向内側に向かって増加する、のが望ましい。成分52Aがタイヤ半径方向内側に向かって増加することにより、摩耗の進行に伴って踏面40に出現する成分52Aが増加するので、摩耗中期から摩耗末期にかけて、氷雪路面やウェット路面でのより一層優れた旋回性能が得られる。
【0030】
図3は、サイプ5の一形態であるサイプ5Aを示す陸部4の展開図である。同図において、外側サイプ要素51は実線で描かれ、内側サイプ要素52は破線で描かれている。
【0031】
同図において、サイプ5Aは、陸部4のタイヤ軸方向DAの両端に達するいわゆるオープンサイプの形態を呈している。サイプ5Aは、陸部4のタイヤ軸方向DAの一端に達するいわゆるセミオープンサイプの形態を呈していてもよく、陸部4の内部にタイヤ軸方向DAの両端を有するいわゆるクローズドサイプの形態を呈していてもよい。以下のサイプ5B、5Cに関しても同様である。
【0032】
サイプ5Aにおいて、複数の内側サイプ要素52は、外側サイプ要素51と繋がる起点53から外側サイプ要素51と同一面上をのびる要素54と、外側サイプ要素51と繋がる起点53から放射状に広がる要素55とを含む。このようなサイプ5Aによって、摩耗中期から摩耗末期において、要素54のタイヤ周方向DCに延びる成分52Aが増大し、氷雪路面やウェット路面での優れた旋回性能が期待される。
【0033】
なお、サイプ5Aにおいて、複数の内側サイプ要素52は、互いに離隔していてもよく、外側サイプ要素51と同一面上をのびる要素54を介して接続されていてもよい。
【0034】
図4は、サイプ5の別の形態であるサイプ5Bを示す陸部4の展開図である。同図において、外側サイプ要素51は実線で描かれ、内側サイプ要素52は破線で描かれている。
【0035】
サイプ5Bにおいて、複数の内側サイプ要素52は、外側サイプ要素51と繋がる起点53から循環する閉じた要素56を含む。このようなサイプ5Bによって、摩耗中期から摩耗末期において、要素56のタイヤ周方向DCに延びる成分52Aが増大し、氷雪路面やウェット路面での優れた旋回性能が期待される。
【0036】
要素56はタイヤ半径方向から視て多角形状(同図では、12角形状)に形成されるのが望ましい。上記多角形は、鋭角及び鈍角が交互に配された内角を含む星形状であってもよい。このようなサイプ5Bによって、摩耗中期から摩耗末期において、要素56のタイヤ周方向DCに延びる成分52Aがより一層増大する。
【0037】
なお、サイプ5Bにおいて、複数の内側サイプ要素52は、互いに離隔していてもよく、外側サイプ要素51と同一面上をのびる要素54(
図3参照)を介して接続されていてもよい。
【0038】
また、トレッド部2には、サイプ5A及びサイプ5Bの双方が、一つの陸部4に形成されていてもよい。
【0039】
図5は、サイプ5のさらに別の形態であるサイプ5Cを示す陸部4の展開図である。同図において、外側サイプ要素51は実線で描かれ、内側サイプ要素52は破線で描かれている。
【0040】
サイプ5Cにおいて、複数の内側サイプ要素52は、複数の屈曲要素57を含んでいる。
【0041】
複数の屈曲要素57は、それぞれ、第1オフセット要素57Aと、第2オフセット要素57Bと、ジョイント要素57Cとを含んでいる。
【0042】
第1オフセット要素57Aは、外側サイプ要素51に対してタイヤ周方向DCの一方側にオフセットされてタイヤ軸方向DAに延びている。
【0043】
第2オフセット要素57Bは、外側サイプ要素51に対してタイヤ周方向DCの他方側にオフセットされてタイヤ軸方向DAに延びている。第1オフセット要素57Aと第2オフセット要素57Bとは、タイヤ周方向DCで互いに反対側にオフセットされている。
【0044】
ジョイント要素57Cは、第1オフセット要素57Aと、第2オフセット要素57Bとを継ぐ。ジョイント要素57Cは、タイヤ周方向DCの一方側から他方側にのび、屈曲要素57のタイヤ周方向DCに延びる成分52Aを構成する。
【0045】
タイヤ周方向DCに延びる成分52Aであるジョイント要素57Cを含む屈曲要素57によって、摩耗中期から摩耗末期において、氷雪路面やウェット路面での優れた旋回性能が得られる。
【0046】
複数の屈曲要素57は、互いに離隔している。これにより、陸部4の過度な剛性低下が抑制され、ドライ路面での優れた操縦安定性能が得られる。
【0047】
本開示において、ジョイント要素57Cは、タイヤ周方向DCに対して傾斜している、のが望ましい。このようなジョイント要素57Cは、内側サイプ要素52のタイヤ軸方向DAに延びる成分52Bを構成する。これにより、摩耗中期から摩耗末期において、氷雪路面やウェット路面で優れた加減速性能が得られる。
【0048】
タイヤ軸方向DAに隣り合う屈曲要素57において、一方の第1オフセット要素57Aの少なくとも一部は、他方の第2オフセット要素57Bの少なくとも一部とタイヤ周方向DCで対向して配されている。これにより、屈曲要素57の密度が局所的に高まり、摩耗中期から摩耗末期において、氷雪路面やウェット路面で優れた加減速性能が得られる。
【0049】
本開示において、複数の屈曲要素57のそれぞれにおいて、第1オフセット要素57Aは、ジョイント要素57Cが接続された側と反対側の端部に、第1途切れ要素57Dを備える、のが望ましい。第1途切れ要素57Dは、隣り合う屈曲要素57の第2オフセット要素57Bに向かって延びている。第1途切れ要素57Dは、タイヤ周方向DCに対して、ジョイント要素57Cとは逆向きに傾斜して延びる。このような第1途切れ要素57Dは、第1オフセット要素57A及びジョイント要素57Cと相俟って鍵状の形状を呈し、摩耗中期から摩耗末期において、優れたエッジ効果を奏し、氷雪路面やウェット路面で優れた加減速性能及び旋回性能が得られる。
【0050】
本開示において、複数の屈曲要素57のそれぞれにおいて、第2オフセット要素57Bは、ジョイント要素57Cが接続された側と反対側の端部に、第2途切れ要素57Eを備える、のが望ましい。第2途切れ要素57Eは、隣り合う屈曲要素57の第1オフセット要素57Aに向かって延びている。第2途切れ要素57Eは、タイヤ周方向DCに対して、ジョイント要素57Cとは逆向きに傾斜して延びる。このような第2途切れ要素57Eは、第2オフセット要素57B及びジョイント要素57Cと相俟って鍵状の形状を呈し、摩耗中期から摩耗末期において、優れたエッジ効果を奏し、氷雪路面やウェット路面で優れた加減速性能及び旋回性能が得られる。
【0051】
複数の屈曲要素57のうちタイヤ周方向DCで隣り合う屈曲要素57は、タイヤ軸方向DAで部分的にオーバラップする、のが望ましい。本開示では、第1オフセット要素57Aの一部及び第1途切れ要素57Dと、第2オフセット要素57Bの一部及び第2途切れ要素57Eとが、タイヤ軸方向DAでオーバーラップしている。このような屈曲要素57により、屈曲要素57の密度が局所的に高まり、摩耗中期から摩耗末期において、氷雪路面やウェット路面で優れた加減速性能が得られる。
【0052】
図6、7は、サイプ5Cを透視する斜視図である。同図では、陸部4の輪郭が2点鎖線で描かれ、サイプ5Cの輪郭が実線で描かれている。
【0053】
サイプ5Cにおいて、第1オフセット要素57Aは、タイヤ半径方向DRに対して傾斜する傾斜要素58Aを有している。また、第2オフセット要素57Bは、タイヤ半径方向DRに対して傾斜する傾斜要素58Bを有している。同様に、ジョイント要素57C、第1途切れ要素57D及び第2途切れ要素57Eは、タイヤ半径方向DRに対して傾斜する傾斜要素58C、58D、及び58Eを有している。傾斜要素58A、58B、58C、58D、及び58Eは、内側サイプ要素52においてタイヤ半径方向DRの外側に位置し、外側サイプ要素51に接続される。
【0054】
傾斜要素58A、58Bによって、摩耗の進行に伴い第1オフセット要素57A、第2オフセット要素57Bのオフセット量が大きくなり、第1オフセット要素57A、第2オフセット要素57Bの間隔が拡大する。そして、傾斜要素58C、58D、58Eによって、摩耗の進行に伴いジョイント要素57C、第1途切れ要素57D、第2途切れ要素57Eの長さが拡大する。これにより、内側サイプ要素52のタイヤ周方向DCに延びる成分52Aが増大し、摩耗中期から摩耗末期において、氷雪路面やウェット路面で優れた旋回性能が得られる。
【0055】
サイプ5Cにおいて、第1オフセット要素57Aは、傾斜要素58Aから屈曲し、タイヤ半径方向DRに対して平行な平行要素59Aを有している。また、第2オフセット要素57Bは、傾斜要素58Bから屈曲し、タイヤ半径方向DRに対して平行な平行要素59Bを有している。同様に、ジョイント要素57C、第1途切れ要素57D及び第2途切れ要素57Eは、タイヤ半径方向DRに対して平行な平行要素59C、59D、及び59Eを有している。平行要素59A、59B、59C、59D、及び59Eは、内側サイプ要素52においてタイヤ半径方向DRの内側に位置し、傾斜要素58A、58B、58C、58D、及び58Eに接続される。
【0056】
内側サイプ要素52のタイヤ半径方向DRの内側に平行要素59A、59B、59C、59D、及び59Eが設けられることにより、内側サイプ要素52の深さを十分に確保しつつ、タイヤ1の加硫成形後に加硫金型からのトレッド部2の離型が容易となる。これにより、加硫金に形成されているサイプ5Cを形成するためのブレード及びトレッド部2のゴムの破損等が抑制される。
【0057】
サイプ5Cにおいて、内側サイプ要素52は、タイヤ軸方向DAに延びる成分52Bの長さの総和Yに対するタイヤ周方向DCに延びる成分52Aの長さの総和Xの比X/Yが0.3~0.7である、ことが望ましい。ここで、タイヤ軸方向DAに延びる成分52Bの長さ及びタイヤ周方向DCに延びる成分52Aの長さは、傾斜要素58A、58B、58C、58D、及び58Eのタイヤ半径方向DRの内端において測定される。
【0058】
上記比X/Yが0.3以上であることにより、摩耗中期から摩耗末期において、氷雪路面やウェット路面で優れた旋回性能が得られる。上記比X/Yが0.7以下であることにより、摩耗中期から摩耗末期において、陸部4のタイヤ軸方向DAの剛性が十分に確保される。従って、陸部4の変形に伴う実接地面積の減少が抑制され、氷雪路面やウェット路面ならびにドライ路面での優れた旋回性能が得られる。
【0059】
図5に示されるように、第1オフセット要素57Aと第1途切れ要素57Dとがなす角θADは、90゜~130゜が望ましい。
【0060】
角θADが90゜以上であることにより、第1途切れ要素57D、第1オフセット要素57A及びジョイント要素57Cによって鍵状の内側サイプ要素52が形成され、摩耗中期以降の氷雪路面やウェット路面で優れた加減速性能及び旋回性能が得られる。対向する第1途切れ要素57Dと第2途切れ要素57Eとの距離が十分に得られ、摩耗中期から摩耗末期において、陸部4のタイヤ軸方向DAの剛性が十分に確保される。角θADが130゜以下であることにより、第1途切れ要素57Dのタイヤ周方向DCに延びる成分52Aが容易に増大する。
【0061】
同様に、第2オフセット要素57Bと第2途切れ要素57Eとがなす角θBEは、90゜~130゜が望ましい。また、第1オフセット要素57Aとジョイント要素57Cとがなす角θAC及び第2オフセット要素57Bとジョイント要素57Cとがなす角θBCは、90゜~130゜が望ましい。
【0062】
図8は、サイプ5Cを含む陸部4のタイヤ周方向DCに切断した断面を示している。サイプ5Cの全深さDに対する踏面40からの外側領域41の深さD1の比D1/Dは、20%以下が望ましい。このような構成により、外側領域41から分岐する内側サイプ要素52が早期に踏面40に出現し、氷雪路面やウェット路面での優れた旋回性能及び加減速性能が得られる。
【0063】
サイプ5Cの全深さDに対する踏面40からの傾斜要素58A、58B、58C、58D、及び58Eの深さD2の比D2/Dは、95%以下が望ましい。このような構成により、摩耗末期における、第1オフセット要素57A、第2オフセット要素57Bの間隔が拡大する。そして、ジョイント要素57C、第1途切れ要素57D、第2途切れ要素57Eの長さが拡大する。これにより、内側サイプ要素52のタイヤ周方向DCに延びる成分52Aが増大し、摩耗末期の氷雪路面やウェット路面で優れた旋回性能が得られる。
【0064】
傾斜要素58A、58B、58C、58D、及び58Eのタイヤ半径方向DRに対する角度αは、45゜以下が望ましい。上記角度αが45゜以下であることにより、平行要素59A、59Bの間隔の過度な拡がりが抑制され、タイヤ周方向DCにより多くのサイプ5Cを設けることが可能になる。なお、上記角度αは、0゜より大きい角度である。
【0065】
以上、本開示のタイヤ1が詳細に説明されたが、本開示は上記の具体的な実施形態に限定されることなく種々の態様に変更して実施される。
【0066】
[付記]
本開示は以下の態様を含む。
【0067】
[本開示1]
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部は、少なくとも1つの陸部を備え、
前記陸部は、踏面からタイヤ半径方向内側に位置する外側領域と、前記外側領域のタイヤ半径方向内側に位置する内側領域と、少なくとも1つのサイプとを含み、
前記少なくとも一つのサイプは、前記外側領域をタイヤ軸方向に延びる1本の外側サイプ要素と、前記内側領域を延びる複数の内側サイプ要素とを含み、
前記複数の内側サイプ要素は、タイヤ周方向に延びる成分を含み、前記外側サイプ要素と繋がっている、
タイヤ。
[本開示2]
タイヤ周方向に延びる前記成分は、前記外側サイプ要素とは非平行である、請求項1に記載のタイヤ。
[本開示3]
タイヤ周方向に延びる前記成分は、タイヤ半径方向内側に向かって増加する、本開示1または2に記載のタイヤ。
[本開示4]
前記複数の内側サイプ要素は、複数の屈曲要素を含み、
前記複数の屈曲要素は、それぞれ、
前記外側サイプ要素に対してタイヤ周方向の一方側にオフセットされてタイヤ軸方向に延びる第1オフセット要素と、
前記外側サイプ要素に対してタイヤ周方向の他方側にオフセットされてタイヤ軸方向に延びる第2オフセット要素と、
前記第1オフセット要素の少なくとも一つと、前記第2オフセット要素の少なくとも1つとを継ぐジョイント要素とを含む、本開示1ないし3のいずれかに記載のタイヤ。
[本開示5]
前記ジョイント要素は、タイヤ周方向に対して傾斜している、本開示4に記載のタイヤ。
[本開示6]
前記複数の屈曲要素のそれぞれにおいて、
前記第1オフセット要素は、前記ジョイント要素が接続された側と反対側の端部に、前記第2オフセット要素に向かって、タイヤ周方向に対して、前記ジョイント要素とは逆向きに傾斜して延びる第1途切れ要素を備える、本開示5に記載のタイヤ。
[本開示7]
前記複数の屈曲要素のそれぞれにおいて、
前記第2オフセット要素は、前記ジョイント要素が接続された側と反対側の端部に、前記第1オフセット要素に向かって、タイヤ周方向に対して、前記ジョイント要素とは逆向きに傾斜して延びる第2途切れ要素を備える、本開示6に記載のタイヤ。
[本開示8]
前記複数の屈曲要素のうちタイヤ周方向で隣接する屈曲要素は、タイヤ軸方向で部分的にオーバラップする、本開示7に記載のタイヤ。
[本開示9]
前記第1オフセット要素及び前記第2オフセット要素は、タイヤ半径方向に対して傾斜する傾斜要素を有する、本開示4ないし8のいずれかに記載のタイヤ。
[本開示10]
前記第1オフセット要素及び前記第2オフセット要素は、前記傾斜要素から屈曲し、タイヤ半径方向に対して平行な平行要素を有する、本開示9に記載のタイヤ。
[本開示11]
前記傾斜要素のタイヤ半径方向内端において、前記内側サイプ要素は、タイヤ軸方向に延びる成分の長さの総和Yに対するタイヤ周方向に延びる前記成分の長さの総和Xの比X/Yが0.3~0.7である、本開示9または10に記載のタイヤ。
[本開示12]
前記複数の内側サイプ要素は、前記外側サイプ要素と繋がる起点から放射状に広がる要素を含む、本開示1ないし3のいずれかに記載のタイヤ。
[本開示13]
前記複数の内側サイプ要素は、前記外側サイプ要素と繋がる起点から循環する閉じた要素を含む、本開示1ないし3のいずれかに記載のタイヤ。
[本開示14]
前記複数の内側サイプ要素は、互いに離隔した複数の要素を含んでいる、本開示1、12または13に記載のタイヤ。
【符号の説明】
【0068】
1 :タイヤ
2 :トレッド部
4 :陸部
5 :サイプ
5A :サイプ
5B :サイプ
5C :サイプ
40 :踏面
41 :外側領域
42 :内側領域
51 :外側サイプ要素
52 :内側サイプ要素
52A :成分
52B :成分
53 :起点
54 :要素
55 :要素
56 :要素
57 :屈曲要素
57A :第1オフセット要素
57B :第2オフセット要素
57C :ジョイント要素
57D :第1途切れ要素
57E :第2途切れ要素
58A :傾斜要素
58B :傾斜要素
58C :傾斜要素
58D :傾斜要素
58E :傾斜要素
59A :平行要素
59B :平行要素
59C :平行要素
59D :平行要素