(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128010
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】磁性体コア、インダクタ部品、電気回路および磁性体コアの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 27/245 20060101AFI20230907BHJP
H01F 17/06 20060101ALI20230907BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
H01F27/245
H01F17/06 F
H01F41/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032038
(22)【出願日】2022-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(72)【発明者】
【氏名】梅上 大勝
(72)【発明者】
【氏名】石飛 学
【テーマコード(参考)】
5E062
5E070
【Fターム(参考)】
5E062AC01
5E070AB03
5E070BA11
(57)【要約】
【課題】 高周波および高出力の用途により適した磁性体コア、インダクタ部品、電気回路および磁性体コアの製造方法を提供すること。
【解決手段】 磁性体コアA1は、軟磁性体を含む第1層1と、絶縁性を有する第2層2と、を備え、第1層1と第2層2とが互いに積層されており、記第1層1の厚さt1が、周囲に流される交流電流の周波数についての表皮深さの2倍以下である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性体を含む第1層と、
絶縁性を有する第2層と、を備え、
前記第1層と前記第2層とが互いに積層されており、
前記第1層の厚さが、周囲に流される交流電流の周波数についての表皮深さの2倍以下である、磁性体コア。
【請求項2】
前記第1層の厚さは、10μm以下である、請求項1に記載の磁性体コア。
【請求項3】
前記軟磁性体は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ガドリニウム(Gd)のいずれかから選択される、請求項1または2に記載の磁性体コア。
【請求項4】
前記第2層は、アルミナを含む、請求項1ないし3のいずれかに記載の磁性体コア。
【請求項5】
前記第2層の厚さは、前記第1層の厚さよりも薄い、請求項1ないし4のいずれかに記載の磁性体コア。
【請求項6】
前記第2層の厚さは、前記第1層の厚さの5%以上40%以下である、請求項5に記載の磁性体コア。
【請求項7】
前記第1層および前記第2層の積層方向に沿って視て、環状をなす形状とされている、請求項1ないし6のいずれかに記載の磁性体コア。
【請求項8】
複数の前記第1層と、
各々が隣り合う前記第1層の間に介在する前記第2層と、
を備える、請求項1ないし7のいずれかに記載の磁性体コア。
【請求項9】
複数の前記第1層は、互いに絶縁されている、請求項8に記載の磁性体コア。
【請求項10】
前記第1層および前記第2層の積層方向における両側最外層に、前記第2層が配置されている、請求項9に記載の磁性体コア。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれかに記載の磁性体コアと、
前記磁性体コアを包囲する環状導通経路をなすワイヤと、
を備える、インダクタ部品。
【請求項12】
前記ワイヤは、トロイダルコイルを構成している、請求項11に記載のインダクタ部品。
【請求項13】
請求項11または12に記載のインダクタ部品と、
前記ワイヤに交流電流を入力する制御部と、
を備える、電気回路。
【請求項14】
前記交流電流の周波数は、1MHz以上である、請求項13に記載の電気回路。
【請求項15】
支持体に支持され、且つ軟磁性体を含む第1層を形成する工程と、
前記第1層上に絶縁性を有する第2層を形成する工程と、
を備える、磁性体コアの製造方法。
【請求項16】
前記第1層を形成する工程の前に、前記支持体上に絶縁層を形成する工程をさらに備え、
前記絶縁層上に前記第1層を形成する、請求項15に記載の磁性体コアの製造方法。
【請求項17】
前記第1層を形成する工程においては、蒸着法、スパッタリング、めっきのいずれかを用いて前記第1層を形成する、請求項15または16に記載の磁性体コアの製造方法。
【請求項18】
前記第2層を形成する工程においては、蒸着法またはスパッタリングを用いて前記第2層を形成する、請求項15ないし17のいずれかに記載の磁性体コアの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、磁性体コア、インダクタ部品、電気回路および磁性体コアの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性体コアを用いたインダクタ部品は、電気回路等を構成する部品として広く用いられている。特許文献1には、従来の磁性体コアの一例が開示されている。同文献に開示された磁性体コアは、電磁鋼板等からなる磁性薄帯を巻き成形することによって形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁性体コアの鉄損が大きいと、高周波の電流が流れる電気回路に不向きである。また、飽和磁束密度および透磁率が低いと、高出力の電気回路に適用することが困難である。
【0005】
本開示は、上記した事情のもとで考え出されたものであって、高周波および高出力の用途により適した磁性体コア、インダクタ部品、電気回路および磁性体コアの製造方法を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1の側面によって提供される磁性体コアは、軟磁性体を含む第1層と、絶縁性を有する第2層と、を備え、前記第1層と前記第2層とが互いに積層されており、前記第1層の厚さが、周囲に流される交流電流の周波数についての表皮深さの2倍以下である。
【0007】
本開示の第2の側面によって提供されるインダクタ部品は、本開示の第1の側面によって提供される磁性体コアと、前記磁性体コアを包囲する環状導通経路をなすワイヤと、を備える。
【0008】
本開示の第3の側面によって提供される電気回路は、本開示の第2の側面によって提供されるインダクタ部品と、前記ワイヤに交流電流を入力する制御部と、を備える。
【0009】
本開示の第4の側面によって提供される磁性体コアの製造方法は、支持体に支持され、且つ軟磁性体を含む第1層を形成する工程と、前記第1層上に絶縁性を有する第2層を形成する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、高周波および高出力の用途により適した磁性体コア、インダクタ部品、電気回路および磁性体コアの製造方法を提供することができる。
【0011】
本開示のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本開示の第1実施形態に係る磁性体コアを示す斜視図である。
【
図2】
図2は、本開示の第1実施形態に係る磁性体コアを示す平面図である。
【
図4】
図4は、本開示の第1実施形態に係る磁性体コアを示す要部拡大断面図である。
【
図5】
図5は、本開示の第1実施形態に係るインダクタ部品を示す平面図である。
【
図7】
図7は、本開示の第1実施形態に係る電気回路を示す回路図である。
【
図8】
図8は、本開示の第1実施形態に係る磁性体コアの製造方法を示す断面図である。
【
図9】
図9は、本開示の第1実施形態に係る磁性体コアの製造方法を示す断面図である。
【
図10】
図10は、本開示の第1実施形態に係る磁性体コアの製造方法を示す断面図である。
【
図11】
図11は、本開示の第1実施形態に係る磁性体コアの製造方法を示す断面図である。
【
図12】
図12は、本開示の第1実施形態に係る磁性体コアの製造方法を示す断面図である。
【
図13】
図13は、本開示の第2実施形態に係る磁性体コアおよびインダクタ部品を示す断面図である。
【
図14】
図14は、本開示の第3実施形態に係るインダクタ部品を示す平面図である。
【
図15】
図15は、本開示の第3実施形態に係る電気回路を示す回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の好ましい実施の形態につき、図面を参照して具体的に説明する。
【0014】
本開示における「第1」、「第2」、「第3」等の用語は、単に識別のために用いたものであり、それらの対象物に順列を付することを意図していない。
【0015】
<第1実施形態>
〔磁性体コアA1〕
図1~
図4は、本開示の第1実施形態に係る磁性体コアを示している。本実施形態の磁性体コアA1は、複数の第1層1および複数の第2層2を備えている。
【0016】
図1は、磁性体コアA1を示す斜視図である。
図2は、磁性体コアA1を示す平面図である。
図3は、
図2のIII-III線に沿う断面図である。
図4は、磁性体コアA1を示す要部拡大断面図である。これらの図において、z方向は、第1層1および第2層2の積層方向である。x方向およびy方向は、互いに直交する方向であって、いずれもがz方向と直交する方向である。
【0017】
第1層1は、軟磁性体を含む層であり、xy平面に沿って広がっている。第1層1が含む軟磁性体としては、たとえば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ガドリニウム(Gd)が挙げられる。後述の製造方法によって形成された第1層1は、実質的に上述の軟磁性体のみからなる。ここで、実質的に軟磁性体のみからなるとは、たとえば製造方法に起因して意図しない不純物等が不可避的に混入した構成を含む概念である。以降の説明においては、特に説明する場合を除き、第1層1が鉄(Fe)のみからなる場合を例に説明する。
【0018】
第1層1の厚さt1は、磁性体コアA1の周囲に流される交流電流の周波数についての表皮深さの2倍以下である。たとえば、第1層1が実質的に軟磁性体の一例である鉄のみからなり、交流電流の周波数が、1MHzである場合、厚さt1は、表皮深さである2.25μmの2倍以下、すなわち4.5μm以下であり、好ましくは、50nm以上2μm以下である。同様に、交流電流の周波数が、10MHzである場合、厚さt1は、表皮深さである0.71μmの2倍以下、すなわち1.42μm以下であり、交流電流の周波数が、100MHzである場合、厚さt1は、表皮深さである0.23μmの2倍以下、すなわち0.46μm以下であり、磁性体コアA1においては、複数の第1層1が積層されている。この場合、厚さt1は、たとえば100nm程度に設定される。
【0019】
第2層2は、絶縁性を有する。第2層2に含まれる材質は何ら限定されず、種々の絶縁材料を適宜選択可能である。第2層2に含まれる絶縁材料としては、たとえば、二酸化ケイ素(SiO2)、アルミナ(Al2O3)が挙げられる。後述の製造方法によって形成された第2層2は、実質的に上述の絶縁材料のみからなる。ここで、実質的に絶縁材料のみからなるとは、たとえば製造方法に起因して意図しない不純物等が不可避的に混入した構成を含む概念である。たとえば、第1層1が鉄(Fe)を含む場合、第2層2は、アルミナ(Al2O3)を含む構成が好ましい。
【0020】
第2層2の厚さt2は、何ら限定されない。本実施形態においては、第2層2の厚さt2は、第1層1の厚さt1よりも薄い。たとえば、厚さt2は、5%以上100%未満であり、好ましくは5%以上20%以下に設定される。厚さt1の厚さt1が10nm程度である場合、厚さt2は、たとえば10nm程度である。
【0021】
図3および
図4に示すように、複数の第1層1と複数の第2層2とは、z方向に交互に積層されている。第1層1および第2層2それぞれの層数は、何ら限定されない。本実施形態とは異なり、後述の実施形態のように、1層のみの第1層1を備える構成であってもよい。また、本実施形態においては、z方向における両側の最外層に第2層2が配置されている。
【0022】
磁性体コアA1では、z方向において隣り合う第1層1の間に第2層2が介在している。これにより、隣り合う第1層1同士は、互いに接しておらず、互いに絶縁されている。
【0023】
磁性体コアA1の大きさおよび形状は、何ら限定されない。磁性体コアA1の形状は、直線状、U字状、円環状、楕円環状、矩形環状等の種々の形状に適宜設定可能である。
図1および
図2に示すように、本実施形態においては、磁性体コアA1は、積層方向であるz方向に沿って視て、環状をなす形状である。
【0024】
〔インダクタ部品B1〕
図5および
図6は、本開示の第1実施形態に係るインダクタ部品を示している。本実施形態のインダクタ部品B1は、磁性体コアA1とワイヤ3とを備えており、コイル部品として構成されている。
【0025】
図5は、インダクタ部品B1を示す平面図である。
図6は、
図5のVI-VI線に沿う断面図である。これらの図におけるx方向、y方向およびz方向は、
図1~
図4における定義に準じている。
【0026】
ワイヤ3は、磁性体コアA1を包囲する環状導通経路をなしている。ワイヤ3の材質は特に限定されず、種々の導電性材料が適宜選択される。ワイヤ3が金属を含む場合、当該金属としては、たとえば銅(Cu)が挙げられる。
【0027】
図5および
図6に示す例においては、ワイヤ3は、巻線部31を含む。巻線部31は、磁性体コアA1に巻回されている。このように、環状の磁性体コアA1にワイヤ3(巻線部31)が巻回されている構成のインダクタ部品B1は、いわゆるトロイダルコイルと称される。なお、インダクタ部品B1の構成はトロイダルコイル限定されず、たとえば直線上の磁性体コアA1にワイヤ3が巻回された構成や、E形の磁性体コアA1を有する構成のコイル部品、または後述のトランス部品等が挙げられる。
【0028】
本例においては、巻線部31は、2つの接続部35を有する。2つの接続部35は、インダクタ部品B1が組み込まれる電気回路において、所定の導通部分に接続される部位である。
【0029】
〔電気回路C1〕
図7は、本開示の第1実施形態に係る電気回路を示している。本実施形態の電気回路C1は、インダクタ部品B1と制御部4とを備えている。電気回路C1の具体的な回路構成や機能は何ら限定されない。図示された例の電気回路C1は、インダクタ部品B1に接続された機能部5を備える。機能部5の具体的構成は何ら限定されない。図示された例においては、機能部5は、電力変換部51および負荷部52を含む。
【0030】
制御部4は、インダクタ部品B1のワイヤ3に交流電流を入力するものであり、インダクタ部品B1の一方の接続部35(入力側)に接続されている。制御部4からは、たとえば周波数が1MHzの交流電流が入力される。機能部5は、インダクタ部品B1の他方の接続部35(出力側)に接続されている。図示された例の機能部5では、インダクタ部品B1を介して制御部4から供給される電力を、電力変換部51が適宜変換し、負荷部へと供給される。負荷部52は、供給された電力によって所定の機能を果たすものであり、たとえばモータ等である。
【0031】
〔磁性体コアA1の製造方法〕
次に、本実施形態に係る磁性体コアA1の製造方法について、
図8~
図12を参照しつつ、以下に説明する。
【0032】
まず、
図8に示すように、支持部材8を用意する。支持部材8は、磁性体コアA1の形成における土台として用いられる。支持部材8の材質は何ら限定されない。図示された例においては、支持部材8は、アルミナ(Al
2O
3)を含み、たとえばアルミナ基板である。支持部材8は、支持面81を有する。支持面81は、z方向の図中上方を向く平滑な面である。
【0033】
ついで、絶縁層20を形成する。絶縁層20は、絶縁性材料を含み、上述した磁性体コアA1を形成する場合、絶縁層20は、アルミナ(Al2O3)のみからなる。支持面81上に絶縁層20を形成する手法は何ら限定されず、たとえば蒸着法またはスパッタリングを用いる。絶縁層20は、磁性体コアA1のz方向の片側の最外層をなす第2層2となる。このため、絶縁層20の厚さは、上述した厚さt2とされる。
【0034】
次いで、
図9に示すように、絶縁層20上に第1層1を形成する。上述した磁性体コアA1を形成する場合、第1層1は、鉄(Fe)のみからなる。絶縁層20上に第1層1を形成する手法は何ら限定されず、たとえば蒸着法、スパッタリング、めっきのいずれかを用いる。第1層1の形成厚さは、上述の厚さt1とされる。絶縁層20(第2層2)上に第1層1を形成する工程は、支持部材8に支持された第1層1を形成する工程の一例である。
【0035】
なお、図示された例とは異なり、支持部材8の支持面81に第1層1を直接形成してもよい。このような工程は、支持部材8に支持された第1層1を形成する工程の一例である。支持部材8に第1層1を直接形成した場合、たとえば、支持部材8を研磨によって薄肉化することにより、上述の第2層2としてもよい。
【0036】
次いで、
図10に示すように、第1層1上に第2層2を形成する。同図に示す2層目の第2層2の形成手法は、1層目の第2層2(絶縁層20)の形成手法と同様である。
【0037】
次いで、
図11に示すように、第2層2上に第1層1を形成する。同図に示す2層目の第1層1の形成手法は、1層目の第1層1の形成手法と同様である。
【0038】
この後は、第2層2および第1層1の形成を順次繰り返す。これにより、
図12に示すように、複数の第1層1と複数の第2層2とが、z方向に交互に積層された構造が得られる。そして、図中最下層の第2層2から支持部材8を剥離させる等により、磁性体コアA1が得られる。
【0039】
なお、
図1および
図2に示すように、z方向に沿って視て環状の磁性体コアA1を形成する場合、その形状を実現する手法は何ら限定されない。たとえば、z方向に沿って視て磁性体コアA1よりも十分に大きなサイズの複数の第1層1および複数の第2層2を形成し、エッチング等を用いたパターニングにより、上述した形状の磁性体コアA1を形成してもよい。あるいは、支持部材8に所定形状のマスクや犠牲層等を配置し、磁性体コアA1の形状とされた開口領域に複数の第1層1および複数の第2層2を形成し、その後にマスクや犠牲層等を除去することにより、上述した形状の磁性体コアA1を形成してもよい。
【0040】
次に、磁性体コアA1、インダクタ部品B1、電気回路C1の作用について説明する。
【0041】
本実施形態によれば、第1層1は、軟磁性体を含んでおり、厚さt1が、上述の表皮深さの2倍以下である。このため、第1層1における渦電流を低減することが可能である。これにより、磁性体コアA1を備えるインダクタ部品B1を、より高周波の信号が流れる電気回路(たとえば、電気回路C1)に適用することができる。また、第1層1の飽和磁束密度および透磁率を向上させることが可能である。これにより、磁性体コアA1を備えるインダクタ部品B1を、より高出力の電気回路(たとえば、電気回路C1)に適用することができる。
【0042】
第1層1の厚さt1を10μm以下とすることにより、より高周波の信号が流れる電気回路(たとえば、電気回路C1)に磁性体コアA1を備えるインダクタ部品B1を適用するのに好ましい。
【0043】
第1層1が、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ガドリニウム(Gd)のいずれかから選択された軟磁性体を含むことは、飽和磁束密度および透磁率を向上させるのに好ましい。また、第1層1が実質的に軟磁性体のみからなる構成は、飽和磁束密度および透磁率を向上させるのに好適である。
【0044】
第2層2は、アルミナ(Al2O3)を含み、本実施形態においては、実質的にアルミナ(Al2O3)のみからなる。第1層1が鉄(Fe)を含む場合、線膨張係数が12X10-6[1/K]程度であり、第2層2の線膨張係数は、8X10-6[1/K]程度である。この組み合わせは、たとえば、第2層2が、二酸化ケイ素(SiO2、線膨張係数:0.58X10-6[1/K]程度)からなる場合と比べて、第1層1の線膨張係数と第2層2の線膨張係数との差を縮小することが可能である。これにより、第1層1と第2層2との剥離を抑制することができる。
【0045】
磁性体コアA1は、複数の第1層1と複数の第2層2とがz方向に積層されている。これにより、1つ1つの第1層1の厚さを、表皮深さの2倍よりも十分に薄いものとしつつ、磁性体コアA1が含む軟磁性体の体積を所望の大きさに設定することが可能である。
【0046】
第2層2の厚さt2が、第1層1の厚さt1よりも薄いことにより、隣り合う第1層1同士を絶縁しつつ、磁性体コアA1のz方向の寸法が過度に大きくなることを回避することができる。
【0047】
複数の第1層1は、複数の第2層2を介して積層されており、互いに絶縁されている。これにより、たとえば、磁性体コアA1を備えるインダクタ部品B1に交流電流が与えられた場合に、隣り合う第1層1同士を渦電流が流れてしまうなど、意図しない形態の渦電流が生じることを抑制することができる。
【0048】
磁性体コアA1は、複数の第1層1および複数の第2層2の積層方向であるz方向に沿って視て、環状とされている。本実施形態と異なり、たとえば磁性薄帯を巻き成形することによって、環状の磁性体コアを形成する場合、磁性薄帯の巻き加減によって、磁性体コア全体の形状が影響を受けてしまい、全体形状をより正確に仕上げることが困難である。本実施形態によれば、所定形状に形成された複数の第1層1および複数の第2層2が積層されているため、磁性体コアA1の全体形状を所望の形状により正確に仕上げることができる。
【0049】
磁性体コアA1の製造方法においては、支持部材8の支持面81上に、第2層2および第1層1を順番に形成して互いに積層させる。これにより、たとえば、圧延工程を用いて形成された磁性薄帯と比べて、第1層1の厚さをより薄くすることが可能である。これは、第1層1の厚さを、表皮深さの2倍以下に設定するのに好ましい。また、蒸着法、スパッタリング、めっきのいずれかを用いて第1層1を形成することにより、厚さt1が50nm以上2μm以下の第1層1をより確実に形成することができる。
【0050】
また、第2層2の形成に、蒸着法またはスパッタリングを用いることにより、第1層1の厚さt1よりも薄い厚さt2を有する第2層2を、より確実に形成することができる。
【0051】
図13~
図15は、本開示の他の実施形態を示している。なお、これらの図において、上記実施形態と同一または類似の要素には、上記実施形態と同一の符号を付している。
【0052】
<第2実施形態>
図13は、本開示の第2実施形態に係る磁性体コアおよびインダクタ部品を示している。本実施形態の磁性体コアA2は、1つの第1層1と2つの第2層2とを備えている。インダクタ部品B2は、磁性体コアA2とワイヤ3とを備える。ワイヤ3の構成は、インダクタ部品B1の構成と同様であってもよいし、他の構成であってもよい。
【0053】
磁性体コアA2においては、1つの第1層1のz方向両側に2つの第2層2が配置されている。本実施形態においても、第1層1の厚さt1は、上述の表面深さの2倍以下である。第1層1が実質的に軟磁性体の一例である鉄のみからなり、交流電流の周波数が、1MHzである場合、厚さt1は、表皮深さである2.25μmの2倍以下、すなわち4.5μm以下であり、好ましくは、50nm以上2μm以下である。磁性体コアA2においては、厚さt1は、たとえば1μm程度に設定される。第2層2の厚さt2は、磁性体コアA1と同様である。
【0054】
本実施形態によっても、高周波および高出力の用途により適した磁性体コアを提供することができる。また、本実施形態から理解されるように、第1層1および第2層2の層数は、何ら限定されない。
【0055】
<第3実施形態>
図14および
図15は、本開示の第3実施形態に係る磁性体コア、インダクタ部品および電気回路を示している。
【0056】
〔インダクタ部品B3〕
本実施形態のインダクタ部品B3は、磁性体コアA3とワイヤ3とを備えており、トランス部品として構成されている。磁性体コアA3は、たとえば上述の磁性体コアA1または磁性体コアA2と類似の構成である。
【0057】
本実施形態においては、ワイヤ3は、巻線部31および巻線部32を含む。巻線部31および巻線部32は、それぞれが、磁性体コアA3の一部ずつに巻回されている。このように、環状の磁性体コアA3にワイヤ3(巻線部31,32)が巻回されている構成のインダクタ部品B3は、いわゆるトランス部品と称される。なお、インダクタ部品B3の構成が採用される用途はトランス部品に限定されない。
【0058】
本例においては、巻線部31は、2つの接続部35を有する。2つの接続部35は、インダクタ部品B3が組み込まれる電気回路において、所定の導通部分に接続される部位である。また、巻線部32は、2つの接続部36を有する。2つの接続部36は、インダクタ部品B3が組み込まれる電気回路において、所定の導通部分に接続される部位である。
【0059】
たとえば、巻線部31を入力側、巻線部32を出力側とした場合、巻線部31に交流電流を入力すると、巻線部32から交流電流が出力される。なお、ワイヤ3が、巻線部31および巻線部32を含む構成は、ワイヤ3の一実施例であり、これに限定されない。ワイヤ3が含む巻線部の個数は、1つであってもよいし、3つ以上であってもよい。
【0060】
〔電気回路C3〕
図15は、本開示の第3実施形態に係る電気回路を示している。本実施形態の電気回路C1は、インダクタ部品B3と制御部4とを備えている。電気回路C3の具体的な回路構成や機能は何ら限定されない。図示された例の電気回路C3は、スイッチング素子Qに駆動信号を出力する駆動回路として構成されている。スイッチング素子Qは、たとえばMOSFETである。この構成において、電気回路C3は、いわゆるゲートドライバであって、駆動信号は電圧信号である。スイッチング素子Qは、MOSFETに限定されず、IGBTなどの他のトランジスタなどであってもよい。
【0061】
図示された例のインダクタ部品B3のワイヤ3は、3つの巻線部31A,31B,31Cと、1つの巻線部32と、を含む。3つの巻線部31A,31B,31Cは、一次巻線として機能する。巻線部32は、二次巻線として機能する。
【0062】
制御部4は、インダクタ部品B3のワイヤ3に交流電流を入力するものである。制御部4の具体的構成は何ら限定されず、図示された例においては、制御IC41A,41B,41Cを含む。
【0063】
制御IC41Aは、接続部35Aにおいて巻線部31Aに接続されている。制御IC41Bは、接続部35Bにおいて巻線部31Bに接続されている。制御IC41Cは、接続部35Cにおいて巻線部31Cに接続されている。制御IC41A,41B,41Cはそれぞれ、交流電流を通電するための交流電圧を生成し、巻線部31A,31B,31Cに対して出力する。すなわち、制御IC41Aは、巻線部31Aに交流電圧V1Aを出力する。制御IC41Bは、巻線部31Bに交流電圧V1Bを出力する。制御IC41Cは、巻線部31Cに交流電圧V1Cを出力する。3つの交流電圧V1A,V1B,V1Cは、それぞれ矩形波であり、たとえば、位相が約120°(=2π/3)ずつ互いにずれている。制御IC41A,41B,41Cのそれぞれからは、たとえば周波数が1MHzの交流電流が入力される。
【0064】
スイッチング素子Qは、接続部36において巻線部32と接続されている。巻線部31A,31B,31Cに交流電圧V1A,V1B,V1Cが入力されると、磁性体コアA1に生じる磁場の影響により誘導電流が生じ、巻線部32から出力電圧V2が出力される。
【0065】
本実施形態によっても、磁性体コアA3を備えるインダクタ部品B3を、より高出力の電気回路(たとえば、電気回路C3)に適用することができる。また、本実施形態から理解されるように、本開示の磁性体コイル、インダクタ部品および電気回路の具体的構成は、何ら限定されない。
【0066】
本開示に係る磁性体コア、インダクタ部品、電気回路および磁性体コアの製造方法は、上述した実施形態に限定されるものではない。本開示に係る磁性体コア、インダクタ部品、電気回路および磁性体コアの製造方法の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【0067】
〔付記1〕
軟磁性体を含む第1層と、
絶縁性を有する第2層と、を備え、
前記第1層と前記第2層とが互いに積層されており、
前記第1層の厚さが、周囲に流される交流電流の周波数についての表皮深さの2倍以下である、磁性体コア。
〔付記2〕
前記第1層の厚さは、10μm以下である、付記1に記載の磁性体コア。
〔付記3〕
前記軟磁性体は、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ガドリニウム(Gd)のいずれかから選択される、付記1または2に記載の磁性体コア。
〔付記4〕
前記第2層は、アルミナ(Al2O3)を含む、付記1ないし3のいずれかに記載の磁性体コア。
〔付記5〕
前記第2層の厚さは、前記第1層の厚さよりも薄い、付記1ないし4のいずれかに記載の磁性体コア。
〔付記6〕
前記第2層の厚さは、前記第1層の厚さの5%以上40%である、付記5に記載の磁性体コア。
〔付記7〕
前記第1層および前記第2層の積層方向に沿って視て、環状をなす形状とされている、付記1ないし6のいずれかに記載の磁性体コア。
〔付記8〕
複数の前記第1層と、
各々が隣り合う前記第1層の間に介在する前記第2層と、
を備える、付記1ないし7のいずれかに記載の磁性体コア。
〔付記9〕
複数の前記第1層は、互いに絶縁されている、付記8に記載の磁性体コア。
〔付記10〕
前記第1層および前記第2層の積層方向における両側最外層に、前記第2層が配置されている、付記9に記載の磁性体コア。
〔付記11〕
付記1ないし10のいずれかに記載の磁性体コアと、
前記磁性体コアを包囲する環状導通経路をなすワイヤと、
を備える、インダクタ部品。
〔付記12〕
前記ワイヤは、トロイダルコイルを構成している、付記11に記載のインダクタ部品。
〔付記13〕
付記11または12に記載のインダクタ部品と、
前記ワイヤに交流電流を入力する制御部と、
を備える、電気回路。
〔付記14〕
前記交流電流の周波数は、1MHz以上である、付記13に記載の電気回路。
〔付記15〕
支持体に支持され、且つ軟磁性体を含む第1層を形成する工程と、
前記第1層上に絶縁性を有する第2層を形成する工程と、
を備える、磁性体コアの製造方法。
〔付記16〕
前記第1層を形成する工程の前に、前記支持体上に絶縁層を形成する工程をさらに備え、
前記絶縁層上に前記第1層を形成する、付記15に記載の磁性体コアの製造方法。
〔付記17〕
前記第1層を形成する工程においては、蒸着法、スパッタリング、めっきのいずれかを用いて前記第1層を形成する、付記15または16に記載の磁性体コアの製造方法。
〔付記18〕
前記第2層を形成する工程においては、蒸着法またはスパッタリングを用いて前記第2層を形成する、付記15ないし17のいずれかに記載の磁性体コアの製造方法。
【符号の説明】
【0068】
A1,A2,A3:磁性体コア
B1,B2,B3:インダクタ部品
C1,C3 :電気回路
1 :第1層
2 :第2層
3 :ワイヤ
4 :制御部
8 :支持部材
20 :絶縁層
31,31A,31B,31C,32:巻線部
35,35A,35B,35C,36:接続部
41A,41B,41C:制御IC
81 :支持面
Q :スイッチング素子
V1A,V1B,V1C:交流電圧
V2 :出力電圧
t1,t2 :厚さ