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特開2023-128050青色発光透明サイアロンセラミックスおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128050
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】青色発光透明サイアロンセラミックスおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/80 20060101AFI20230907BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20230907BHJP
   C09K 11/00 20060101ALI20230907BHJP
   C04B 35/599 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
C09K11/80
C09K11/08 B
C09K11/00 Z
C04B35/599
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032103
(22)【出願日】2022-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 拓実
(72)【発明者】
【氏名】矢矧 束穂
(72)【発明者】
【氏名】多々見 純一
(72)【発明者】
【氏名】網中 康平
【テーマコード(参考)】
4H001
【Fターム(参考)】
4H001CA02
4H001CF02
4H001XA07
4H001XA08
4H001XA13
4H001XA14
4H001XA66
4H001XA67
4H001XA68
4H001XA69
4H001XA70
4H001XA71
4H001YA58
(57)【要約】
【課題】耐久性を従来と同等以上としながら、生産性を高めることが可能であって、且つ、透明性並びに青色蛍光性を兼備する青色発光透明サイアロンセラミックスを提供する。
【解決手段】このような青色発光透明サイアロンセラミックスは、一般式M(Si,Al)12(N,O)16(但し、Mは、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムからなる群から選択される少なくとも1種、0.3≦x≦1)において、前記Mの一部がCeに置換されているα-サイアロンを主相とし、発光中心イオンが少なくともCe3+である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式M(Si,Al)12(N,O)16(但し、Mは、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムからなる群から選択される少なくとも1種、0.3≦x≦1)において、前記Mの一部がCeに置換されているα-サイアロンを主相とし、
発光中心イオンが少なくともCe3+である青色発光透明サイアロンセラミックス。
【請求項2】
前記Ce元素の含有率が0.05~10質量%であることを特徴とする請求項1に記載の青色発光透明サイアロンセラミックス。
【請求項3】
365nmで励起したときの発光ピーク波長が490nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の青色発光透明サイアロンセラミックス。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の青色発光透明サイアロンセラミックスの製造方法であって、
酸化ジスプロシウム、酸化ホルミウム、酸化エルビウム、酸化ツリウム、酸化イッテルビウムおよび酸化ルテチウムから選択されるいずれか1種以上と、窒化ケイ素と、窒化アルミニウムと、酸化セリウムおよび高温処理したときに酸化セリウムとなるセリウム含有化合物の少なくとも一方と、を少なくとも含む混合物を、一軸加圧成形して1次成形体を作製する工程と、
前記1次成形体を、冷間静水圧加圧成形して2次成形体を作製する工程と、
前記2次成形体を、窒素雰囲気下で焼成し、焼結体を作製する工程と、
を有することを特徴とする青色発光透明サイアロンセラミックスの製造方法。
【請求項5】
前記酸化セリウムおよび前記セリウム含有化合物の平均粒子径が100nm以下であることを特徴とする請求項4に記載の青色発光透明サイアロンセラミックスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、青色発光透明サイアロンセラミックスおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
青色発光ダイオード(LED)の実用化に伴い、この青色LEDを利用した白色LEDの開発が精力的にすすめられている。白色LEDは、既存の白色光源に比べて消費電力が低く、長寿命であるため、液晶表示装置用バックライト、屋内外の照明機器等に有用である。白色LEDは、例えば、粉体状の蛍光体が樹脂に分散され、これを青色LEDの表面に固定化したものがある(例えば、特許文献1参照)。本発明者らは、先般、セラミックス蛍光体自体を所定の形状に成形して白色LEDに適用可能な窒化物セラミックス蛍光体からなるEu-β-サイアロン蛍光体セラミックス、Y-α-サイアロン蛍光体セラミックスなどの透明バルク体を提案した(特許文献2)。
【0003】
蛍光性については検討されていないが、Si、Lu、AlN、Alの混合物を窒素雰囲気中1950℃で2時間ホットプレスして得られた、可視光帯域で透明性に優れるLu-α-サイアロンセラミックスが報告されている(非特許文献1)。本発明者らにおいても、主相としてα-サイアロン、第二相としてβ-サイアロンおよびJ相が存在している、透明性の高いLu-α-サイアロンセラミックスを報告した(非特許文献2)。また、α-サイアロン率が高く、相対密度を高くできるHo-α-サイアロンセラミックス(非特許文献3)、Ho-α-サイアロンセラミックスが、Ho3+(1195nm)(985nm)の準位間でのf-f遷移に起因すると考えられる蛍光を示すことを報告した(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013-173868号公報
【特許文献2】国際公開第2015/133612号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M. I. Jones, etal., Highly transparent Lu-α-SiAlON, J. Am. Ceram. Soc., 87, 714-716 (2004)
【非特許文献2】日本セラミックス協会2020年年会講演予稿集、1P010(2020年)
【非特許文献3】日本セラミックス協会第33回秋期シンポジウム講演予稿集、2F27(2020年)
【非特許文献4】日本セラミックス協会第34回秋期シンポジウム講演予稿集、2T26(2021年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
樹脂を含む方法は耐久性に課題があり、ホットプレス法、放電プラズマ焼結法、熱間等方圧プレス法などによる方法は実用化する視点において生産性に課題がある。透明性と青色蛍光性を有する蛍光体は提案されているが、市場では、白色光の演色性を高めるために、従来よりも品質が高く、生産性に優れる青色蛍光材料が求められている。なお、白色光における課題について述べたが、青色蛍光材料およびその用途全般において同様の課題が生じ得る。
【0007】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであって、耐久性を従来と同等以上としながら、生産性を高めることが可能であって、且つ、透明性並びに青色蛍光性を兼備する青色発光透明サイアロンセラミックスおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが鋭意検討を重ねたところ、以下の態様において本課題を解決し得ることを見出した。
[1]: 一般式M(Si,Al)12(N,O)16(但し、Mは、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムからなる群から選択される少なくとも1種、0.3≦x≦1)において、前記Mの一部がCeに置換されているα-サイアロンを主相とし、
発光中心イオンが少なくともCe3+である青色発光透明サイアロンセラミックス。
[2]: 前記Ce元素の含有率が0.05~10質量%であることを特徴とする[1]に記載の青色発光透明サイアロンセラミックス。
[3]: 365nmで励起したときの発光ピーク波長が490nm以下であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の青色発光透明サイアロンセラミックス。
[4]: [1]~[3]のいずれかに記載の青色発光透明サイアロンセラミックスの製造方法であって、
酸化ジスプロシウム、酸化ホルミウム、酸化エルビウム、酸化ツリウム、酸化イッテルビウムおよび酸化ルテチウムから選択されるいずれか1種以上と、窒化ケイ素と、窒化アルミニウムと、酸化セリウムおよび高温処理したときに酸化セリウムとなるセリウム含有化合物の少なくとも一方と、を少なくとも含む混合物を、一軸加圧成形して1次成形体を作製する工程と、
前記1次成形体を、冷間静水圧加圧成形して2次成形体を作製する工程と、
前記2次成形体を、窒素雰囲気下で焼成し、焼結体を作製する工程と、
を有することを特徴とする青色発光透明サイアロンセラミックスの製造方法。
[5]: 前記酸化セリウおよび前記セリウム含有化合物の平均粒子径が100nm以下であることを特徴とする[4]に記載の青色発光透明サイアロンセラミックスの製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、耐久性を従来と同等以上としながら、生産性を高めることが可能であって、且つ、透明性並びに青色蛍光性を兼備する青色発光透明サイアロンセラミックスおよびその製造方法を提供できるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1、比較例1のセラミックスの直線透過率スペクトルを示すグラフ。
図2】実施例2~4のセラミックスの直線透過率スペクトルを示すグラフ。
図3】実施例5~7のセラミックスの直線透過率スペクトルを示すグラフ。
図4】実施例1、比較例1のセラミックスの発光スペクトルを示すグラフ。
図5】実施例2~4のセラミックスの発光スペクトルを示すグラフ。
図6】実施例5~7のセラミックスの発光スペクトルを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施形態の一例について説明する。但し、本開示は、本実施形態に限定されるものではなく、その要旨に合致する限り、他の実施形態も本開示の範疇に属し得る。また、本明細書で特定する数値「A~B」は、数値Aと数値Aより大きい値および数値Bと数値Bより小さい値を満たす範囲をいう。本明細書中に出てくる各種成分は特に注釈しない限り、それぞれ独立に一種単独でも二種以上を併用してもよい。
【0012】
1.青色発光透明サイアロンセラミックス
本開示の青色発光透明サイアロンセラミックス(以下、本セラミックスともいう)は、一般式M(Si,Al)12(N,O)16(但し、Mは、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)からなる群から選択される少なくとも1種、0.3≦x≦1)において、前記Mの一部がCe(セリウム)に置換されているα-サイアロンを主相とする。そして、発光中心イオンを少なくともCe3+とする。α-サイアロンにおいて、金属元素Mは、安定化イオンとして働き、通常DyはDy3+、HoはHo3+、ErはEr3+、TmはTm3+、YbはYb2+またはYb3+、LuはLu3+として存在している。ここで、主相とは本セラミックスの結晶相100質量%あたり、50質量%以上であることをいう。主相は70質量%以上であることが好ましい。
【0013】
一般式M(Si,Al)12(N,O)16は、一般式MSi12-(b+c)Al(b+c)16-c(但し、Mは、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムからなる群から選択される少なくとも1種、0.3≦x≦1、0.9≦b≦3、0≦c≦2)とも表わされる。一般式MSi12-(b+c)Al(b+c)16-cにおいて、xが0.3以上0.8以下であることが好ましい。また、一般式MSi12-(b+c)Al(b+c)16-cにおいて、b/cが1.5以上であることが好ましい。
【0014】
本セラミックスは、粒子状(粉末状)ではなく、サイアロン蛍光体の単結晶が多数集合してなる多結晶体であり、任意の形状をなす焼結体である。この焼結体の形状は特に限定されず、例えば、円盤状、平板状、凸レンズ状、凹レンズ状、球状、半球状、立方体状、直方体状、角柱や円柱等の柱状、角筒や円筒等の筒状が例示できる。本セラミックスを白色LEDに適用する場合、例えば、光源となる青色LEDの外周に固定化される形状に成形されて用いられる。
【0015】
本セラミックスにおける「透明」とは、波長600nmにおける直線透過率が膜厚100nmあたり20%以上であることをいうものとする。
本セラミックスに、励起源として近紫外線が照射されると、波長領域430nm~490nmに発光ピークを有する演色性の高い発光スペクトルを示す青色の可視光が発光される。近紫外線は波長200nm以上の近紫外線領域をいい、例えば、350nm~420nmの帯域の近紫外線を好適に用いることができる。ここで、「青色」とは、波長領域430nm~490nmをいい、緑色寄りの青色、即ち青緑色も含まれる。ピーク波長が前記波長領域にあればよく、前記波長帯域以外の発光波長が含まれていてもよい。
【0016】
本セラミックスは、発光ピーク波長は480nm以下であることがより好ましい。本セラミックスは、厚さが100μmのとき、可視光の直線透過率が600nmで25%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、35%以上であることが特に好ましい。
【0017】
本セラミックスは、金属元素Mとしてジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムからなる群から選択される少なくとも1種を用い、そのMの一部をCeに置換することによって、青色蛍光に最適な透明性、並びに発光波長の短波長化を実現し、且つ耐久性に優れる青色発光透明サイアロンセラミックスおよびその製造方法を提供できる。
【0018】
一般的には、αサイアロン蛍光体の金属元素Mの原子量が大きくなるにつれて、即ち、金属イオンのイオン半径の減少につれて、液相の粘度が高くなり、液相中の物質移動が難しくなる。このため、緻密なバルク体を得ることが困難になり、耐久性および品質が低下する。しかしながら、本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、驚くべきことに、本セラミックスは、この従来からの常識を覆し、サイアロン蛍光体でよく用いられるイットリウムよりもイオン半径が小さいジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムからなる群から選択される少なくとも1種を金属元素Mとして用い、Mの一部をCeで置換したセラミックスによって、緻密性に優れ、且つ青色発光波長の短波長化を実現できるサイアロンセラミックスが得られることがわかった。その理由は推測の域を出ないが、原子量の小さい、即ち、イオン半径の大きいCeと、原子量の大きい、即ち、イオン半径の小さいジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムからなる群から選択される金属元素Mとの組み合わせによりαサイアロンの核生成や溶融粘度が適切な値になり、即ち、各構成元素が最適なバランスで配合され、焼結体の緻密化が実現できたと考えられる。
【0019】
本セラミックスは、発光中心イオンとしてCe3+を含有するサイアロン蛍光体からなる塊であり、セラミックス自体を所定の形状に成形して、青色蛍光体として、例えば白色LEDに適用することができる。従って、従来のようにサイアロン蛍光体を樹脂に分散させる必要がないため、サイアロン蛍光体と樹脂との屈折率差に起因する光の散乱による白色LEDの発光効率低減を防止できる。また、本セラミックスは、全体にわたってサイアロン蛍光体が均一に存在するので、蛍光の発光が偏りなく均一であるとともに、可視光の透過率も偏りなく均一であるというメリットを有する。
【0020】
緻密化と発光強度の観点からは、発光中心元素として含まれるCe元素の含有率が、本セラミックス100質量%に対し、0.05~10質量%であることが好ましい。より好ましくは0.1~8質量%であり、更に好ましくは0.3~4質量%である。本セラミックスは、発光中心イオンとして、Ce3+のみを専ら用いる態様の他、ホルミウムイオン(Ho3+)、ジスプロシウムイオン(Dy3+)などから選択される少なくとも一種のMによる発光と、Ce3+による発光とを併用してもよい。
【0021】
本セラミックスは、耐久性および品質をより向上させる観点から、365nmで励起したときの発光ピーク波長が490nm以下であることが好ましい。より好ましくは発光ピーク波長が480nm以下であり、更に好ましくは発光ピーク波長が476nm以下である。365nmの光はレーザー光源などにおいて汎用性が高い点において優れている。
【0022】
本セラミックスは、青色~青緑色の可視光を発光するので、他の公知の蛍光体と組み合わせることによって、白色光発光装置に利用することができる。また、発光素子、発光装置などに利用することができる。
【0023】
2.青色発光透明サイアロンセラミックスの製造方法
以下、本セラミックスの製造方法の一例を説明するが、本セラミックスは以下の製造方法に限定されるものではない。
【0024】
本セラミックスの製造方法は、酸化ジスプロシウム、酸化ホルミウム、酸化エルビウム、酸化ツリウム、酸化イッテルビウムおよび酸化ルテチウムから選択されるいずれか1種以上と、窒化ケイ素粉末と、窒化アルミニウムと、酸化セリウムおよび高温処理したときに酸化セリウムとなるセリウム含有化合物の少なくとも一方と、を少なくとも含む混合物を、一軸加圧成形して1次成形体を作製する工程と、1次成形体を、冷間静水圧加圧成形して2次成形体を作製する工程とを有する。2次成形体に対し、更に、窒素雰囲気下でガス圧焼成し、焼結体を作製する工程を経て製造することができる。高温処理したときに酸化セリウムとなるセリウム含有化合物としては、硝酸セリウム、炭酸セリウム、水酸化セリウム、蓚酸セリウムが例示できる。以下、具体例を詳細に説明する。
【0025】
原料粉末として、酸化ジスプロシウム、酸化ホルミウム、酸化エルビウム、酸化ツリウム、酸化イッテルビウムおよび酸化ルテチウムから選択されるいずれか1種以上と、窒化ケイ素と、窒化アルミニウムと、酸化セリウム(IV)(CeO)と、を少なくとも含む混合物を所定の質量比となるように秤量する。発光中心元素源となる物質としては、酸化セリウムが好適に用いられる。これらの原料粉末の混合比は、目的とする青色発光透明サイアロンセラミックスの蛍光性および光透過性に応じて適宜調整する。
【0026】
本セラミックスの青色発光をより短波長化させる観点からは、酸化セリウムの平均粒子径が100nm以下であることが好ましく、70nm以下であることがより好ましい。平均粒子径の下限値は特に限定されないが、入手容易性を考慮すると通常は10nm以上である。なお、酸化セリウムの平均粒子径は、電子顕微鏡写真にて視野中の50個の粒子の最大長さを測定し、その平均を平均粒子径として定義した。
【0027】
本セラミックスの青色発光をより短波長化させる観点からは、酸化ジスプロシウム、酸化ホルミウム、酸化エルビウム、酸化ツリウム、酸化イッテルビウムおよび酸化ルテチウムから選択されるいずれか1種以上においても、平均粒子径が小さい方が好ましい。好適な範囲として20μm以下、より好適には10μm以下、更に好ましくは2μm未満である。下限値は限定されないが入手容易性を考慮すると通常は10nm以上である。なお、ここでいう平均粒子径は、酸化セリウムと同様である。
【0028】
これらの原料粉末に分散剤を添加して、ボールミルにより、例えばエタノール中で湿式混合を行い、原料粉末を含むスラリーを調製する。得られたスラリーを、マントルヒーター等のヒーターを用いて加熱し、スラリーに含まれるエタノールを充分に蒸発させて、原料粉末の混合物(混合粉末)を得る。なお、ボールミルによる撹拌に代えて又は併用して公知の攪拌機を用いてもよい。
【0029】
上記混合粉末を、目開きの大きさが異なる2つ以上の篩を段階的に用い、それらの篩を強制的に通過させて、所定の粒径を有する混合粉末を造粒する。別途、充分に融解したパラフィン等のバインダーと、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)等の滑剤と、シクロヘキサン等の溶媒とを、十分に攪拌、混合して、バインダー溶液を調製する。なお、篩に代えて又は併用して噴霧乾燥や凍結乾燥により造粒してもよい。
【0030】
得られたバインダー溶液に、造粒した前記混合粉末を添加し、混合粉末全体にバインダー溶液が染み渡るように混合する。そして、その混合物を加熱して、溶媒を蒸発させる。溶媒を充分に蒸発させた後、混合粉末を、所定の大きさの目開きを有する篩を用いて、その篩を強制的に通過させることにより、所定の粒径を有する造粒粉末を得る。
【0031】
得られた造粒粉末を、成形後の成形体の厚さが所定の大きさとなるように、所定量の造粒粉末を採取し、その造粒粉末を金型内に供給する。その後、一軸加圧成形機を用いて、例えば、圧力50MPaで30秒間、一軸加圧成形を行い、1次成形体を得る。
【0032】
得られた1次成形体の面取りを行い、真空パックにて袋詰めする。その後、真空パックに袋詰めされた1次成形体を、冷間静水圧加圧装置を用いて、例えば、圧力200MPaで、1分間1回、または繰り返し10回の冷間静水圧加圧(Cold Isostatic Pressing、CIP)成形して、2次成形体を得る。
【0033】
次に、例えば、アルミナボート上に、2次成形体を載置し、管状抵抗炉を用いて、例えば、70L/minの空気気流中、2次成形体を加熱し、2次成形体を脱脂し、2次成形体に含まれるバインダーを除去する。この脱脂工程では、2次成形体の加熱温度および加熱時間を2段階に設定する。1段階目の加熱では、例えば、加熱温度を250℃、加熱時間を3時間とする。2段階目の加熱では、例えば加熱温度を500℃、加熱時間を3時間とする。また、2次成形体に含まれるバインダーや滑剤の熱分解と酸化を促すためには、2次成形体の加熱温度を300~600℃、加熱時間を1~10時間とすることが好ましい。
【0034】
次いで、脱脂した2次成形体を、多目的高温焼結炉を用い、窒素雰囲気下で焼成し、焼結体を得る。2次成形体を焼結するには、カーボン製の筐体内に、反応焼結により作製された多孔質のSi製の坩堝を配置し、更に、その坩堝の中に多孔質のSi製の棚板を設置し、その棚板状に2次成形体を配置する。例えば、この焼結工程は以下の条件とすることができる。即ち、室温から1200℃までは真空下(6.7×10-2Pa以下)、20℃/minで昇温し、1200℃で、窒素ガスで0.25MPaまで加圧し、1200℃から目的とする焼結温度までは、10℃/minで昇温しながら、4L/minの窒素ガス流で0.9MPaまで加圧する。2次成形体の焼結温度を1600℃、焼結時間を2時間とする。また、焼結時の圧力を、窒素雰囲気下、0.88MPa~0.91MPaとする。その後、焼結終了後、焼結体を室温まで自然放冷して冷却する。
【0035】
本セラミックスの製造方法によれば、1次成形体を、冷間静水圧加圧成形して2次成形体を作製する工程と、2次成形体を、窒素雰囲気下で焼成し、焼結体を作製する工程とを経ることにより、光の散乱源となる屈折率の異なる領域や、光の吸収源となるガラス相を除去することができる。その結果、得られる青色発光透明サイアロンセラミックスは、全体にわたってサイアロン蛍光体が均一に存在する。その結果、蛍光の発光が偏りなく均一であるとともに、可視光の透過率も偏りなく均一となる。また、青色発光透明サイアロンセラミックスは、内部に気孔やガラス相が少ないため、気孔やガラス相に起因する透明性の低下がなく、光透過性に優れる。
【0036】
本セラミックスの製造方法によれば、特殊な設備と開放検査等の法定検査などが必要で高製造コスト要因となる前記熱間等方圧プレス法による焼成の工程を行わなくても優れた品質のセラミックスが得られることがわかった。即ち、耐久性を従来と同等以上としながら、生産性に優れ、且つ透明性並びに青色蛍光性を兼備するセラミックスが得られることがわかった。なお、本セラミックスは、更に、熱間等方圧プレス法による焼成の工程を行うことを排除するものではない。熱間等方圧プレス法による焼成の工程を行うことにより、得られるセラミックスの直線透過率を高めることができる。求められるセラミックスのニーズおよび用途に応じて、熱間等方圧プレス法を追加することができる。
【0037】
本セラミックスは、発光ダイオード(LED)、蛍光灯、シンチレータ、レーザー等の発光装置、テレビジョン、パソコン用ディスプレイ等の表示装置、センサ等に適用することができる。従来、蛍光体は、粉末の形態で供給されていたため、蛍光体を、シンチレータのように単結晶を用いる分野には適用することが難しかった。本セラミックスは、それ自体が任意の形状をなす焼結体であるので、単結晶を用いる分野にも広く適用することができる。本セラミックスは、温度上昇に伴う消光が極めて小さく、演色性等に優れる発光装置を実現できる。
【0038】
<<実施例>>
以下、本開示を更に具体的に説明するが、本開示は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
(青色発光透明サイアロンセラミックスの製造)
(実施例1:(Lu0.5,Ce0.5)1/3Si10.5Al1.5O0.5N15.5
原料として、窒化ケイ素(α-Si)粉末(平均粒子径0.2μm、SN-E10、宇部興産社製)、窒化アルミニウム(AlN)粉末(平均粒子径0.6μm、Hグレード、トクヤマ社製)、Lu(平均粒子径2~10μm、STD、信越化学工業社製)、CeO(平均粒子径2~10μm、STD、信越化学工業社製)を使用した。これらの粉末を、モル比がSi:AlN:Lu:CeO=21:9:0.5:1となるよう秤量した。
これらを分散剤(ポリアクリル酸系、セルナE503、中京油脂社製)2質量%と混合し、エタノール中でボールミル(ポット:窒化ケイ素製、内容積:400mL、サイアロンボール:粒径5mm、1400個)により回転速度110rpmで48時間混合し、原料粉末を含むスラリーを調製した。
【0040】
得られたスラリーを、マントルヒーター等のヒーターを用いて加熱して、スラリーに含まれるエタノールを十分に蒸発させて、原料粉末の混合物(混合粉末)を得た。
【0041】
次いで、♯32(呼び寸法:500μm)の篩と、♯48(呼び寸法:300μm)の篩とをこの順に、上記混合粉末を強制的に通過させて、所定の粒径を有する混合粉末を造粒した。
【0042】
別途、充分に融解したバインダーのパラフィン(融点46℃~48℃、純正化学社製)と、滑剤のフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(純度97.0%、和光純薬工業社製)と、溶媒のシクロヘキサン(純度99.5%、和光純薬工業社製)とを、十分に攪拌、混合して、バインダー溶液を調製した。ここで、原料粉末の総量に対する、パラフィンの添加量を4質量%、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)の添加量を2質量%とした。また、シクロヘキサンの添加量を35mL/100gとした。
【0043】
得られたバインダー溶液に、造粒した上記混合粉末を添加し、混合粉末全体にバインダー溶液が染み渡るように混合しながら、その混合物を加熱して、溶媒を蒸発させた。溶媒を充分に蒸発させた後、♯60(呼び寸法:250μm)の篩に、混合粉末を強制的に通過させて、所定の粒径を有する造粒粉末を得た。
【0044】
次いで、直径15mmの円筒形状のステンレス製金型を用い、成形後の成形体の厚さが2mmとなるように、0.7gの造粒粉末を採取し、その造粒粉末を金型内に供給した。そして、一軸加圧成形機(商品名:MP-500H、マルトー社製)を用いて、圧力50MPaで、30秒間、一軸加圧成形を行い、1次成形体を得た。得られた1次成形体の面取りを行い、真空パックにて袋詰めした。次いで、真空パックに袋詰めされた1次成形体を、冷間静水圧加圧装置(商品名:CPA50-200、エヌピーエーシステム社製)を用いて、圧力200MPaで、60秒間、繰り返し10回の冷間静水圧加圧成形して、2次成形体を作製した。
【0045】
この2次成形体を、アルミナボート上に載置し、管状抵抗炉を用いて、70L/minの空気気流中で加熱し、2次成形体を脱脂し、2次成形体に含まれる上記バインダーと滑剤などの有機物を除去した。この脱脂工程では、空気中、250℃で3時間加熱し、続いて、500℃で3時間(昇温速度1℃/min)で脱脂し、0.9MPaのN中で1600℃、4時間ガス圧焼結した。
【0046】
(比較例1:(Y0.5,Ce0.5)1/3Si10.5Al1.5O0.5N15.5 ))
Luに代えてY(平均粒子径1μm、RU-P、信越化学工業社製)を用いたこと、混合物の粉末のモル比がSi:AlN:Y:CeO=21:9:0.5:1となるよう秤量した以外は実施例1と同様の方法により、比較例1に係るセラミックスを得た。
【0047】
(実施例2:(Lu0.9,Ce0.1)1/3Si10.5Al1.5O0.5N15.5 ))
CeOに代えてCeOナノ粒子(<50 nm (BET)、Sigma-Ardrich)を用いた点、および混合物の粉末のモル比がSi:AlN:Lu:CeO=21:9:0.9:0.2となるよう秤量した以外は実施例1と同様の方法により、実施例2に係るセラミックスを得た。
【0048】
(実施例3:(Lu0.95,Ce0.05)1/3Si10.5Al1.5O0.5N15.5 ))
混合物の粉末のモル比がSi:AlN:Lu:CeO=21:9:0.95:0.1となるよう秤量した以外は実施例1と同様の方法により、実施例3に係るセラミックスを得た。
【0049】
(実施例4:(Lu0.95,Ce0.05)1/3Si10.5Al1.5O0.5N15.5 ))
混合物の粉末のモル比がSi:AlN:Lu:CeO=21:9:0.95:0.1となるよう秤量した以外は実施例2と同様の方法により、実施例4に係るセラミックスを得た。
【0050】
(実施例5:(Ho0.5,Ce0.5)1/3Si10.5Al1.5O0.5N15.5
Luに代えてHo(平均粒子径2~10μm、STD、信越化学工業社製)を用いたこと、混合物の粉末のモル比がSi:AlN:Ho:CeO=21:9:0.5:1となるよう秤量した以外は実施例1と同様の方法により、実施例5に係るセラミックスを得た。
【0051】
(実施例6:(Dy0.5,Ce0.5)1/3Si10.5Al1.5O0.5N15.5
Luに代えてDy(平均粒子径2~10μm、STD、信越化学工業社製)を用いたこと、混合物の粉末のモル比がSi:AlN:Dy:CeO=21:9:0.5:1となるよう秤量した以外は実施例1と同様の方法により、実施例6に係るセラミックスを得た。
【0052】
(実施例7:(Lu0.9,Ce0.1)1/3Si10.5Al1.5O0.5N15.5
Luに代えてLu(平均粒子径1μm、RU、信越化学工業社製)を用いたこと、混合物の粉末のモル比がSi:AlN:Lu:CeO=21:9:0.9:0.2となるよう秤量した以外は実施例1と同様の方法により、実施例7に係るセラミックスを得た。
【0053】
(直線透過率の測定)
各実施例・比較例の試料(円柱状のサイアロンセラミックス)を、機械加工により薄片化し、最終的に100μmとした。薄片化と同時に両面鏡面研磨を行った。この両面鏡面研磨したサンプルで、可視光の直線透過率の測定を行った。直線透過率の測定は、厚さ100μmのサンプルをφ8mmのアパーチャーに挟み、紫外可視近赤外分光光度計(UV-3600Plus、島津製作所社製)を用い、測定波長域を190nm~3200nmとした。結果を図1~3に示す。また、600nmにおける膜厚100nmあたりの透過率を表1に示す。
【0054】
図1~3より、本実施例1~7は、可視帯域から近赤外帯域の全体にわたって、比較例1よりも高い直線透過率を示すことが確認できた。光の散乱源として、気孔、第二相、粗大粒子が挙げられる。気孔率は、各実施例および比較例いずれも3%程度であり(表1参照)、第二相はβ-サイアロンと屈折率の差が少ないα-Siおよびβ-サイアロンのみであることを確認した。この結果より、本実施例1~7が、比較例1よりも透過率が高かった理由は、これらに起因しないと考えられる。
【0055】
実施例1のα-サイアロンの平均粒径は328nmであり、比較例1のα-サイアロンの平均粒径は413nmであり、実施例1は比較例1に比べて平均粒径が小さいことが確認された。これは、イオン半径の小さなLu3+の原料としてLuを添加したことで液相の粘度が高いこと、および広いα-サイアロン生成領域に起因して多数の核生成が生じたことによって、粒成長が抑制されたことによると考えられる。なお、α-サイアロンの平均粒径は、ISO 13383-1:2012のインターセプト法に準拠して求めた値をいう。
【0056】
本実施例1が比較例1に比べて直線透過率が高かった理由は、イオン半径の小さなLu3+の原料としてLuを用いたことにより高温で粘性の高い液相が生成し、それによって粒成長が抑制されてα―サイアロン粒子による光散乱が低減した効果であると考えられる。また、本実施例7の直線透過率が特に高かった理由は、原料として用いるLuの平均粒径が小さかったことから、より均一に液相が生成したために粒子径分布が小さくなったからであると考えられる。
【0057】
(発光スペクトルの測定)
透過率の測定と同様の方法で作製したサンプルに対し、発光スペクトルの測定を行った。具体的には、蛍光スペクトル測定は蛍光分光光度計(FP6300、日本分光社製)を用いて、試料を厚さ0.1mmになるように両面から鏡面研磨した試料に対して行った。励起波長を365nmとし、シャープカットフィルター(L-37、Hoya社製)を蛍光側にセットした。結果を図4~6に示す。また、発光ピーク波長を表1に示す。
【0058】
いずれの試料もCe3+の4f-5d遷移に基づく青色発光を示した(図4~6)。実施例1の蛍光スペクトルのピーク波長は487nm、比較例1は494nmであり、実施例1の方が短波長化できることを確認した。また、比較例1の格子体積が299.15Åであるのに対し、実施例1の格子体積が298.92Åであり、実施例1の格子体積の方が小さいことを確認した。このような格子体積の減少は、Lu3+のイオン半径が小さいことに起因している。即ち、α―サイアロンの母体にLu3+を含むことにより、α-サイアロンの結晶格子がより収縮し、Ce3+に働く結晶場が変化したことによるものと考えられる。これらの結果、実施例1では比較例1に比べて発光波長の短波長シフトが生じたと考えられる。なお、格子体積は、X線回折法で求めた格子定数から算出した。
【0059】
本セラミックスによれば、同様の製造工程で製造し、励起波長を同じにした場合に、従来よりも発光ピーク波長の短波長化を実現できることを確認した。なお、同一の原料を用いても、製造工程に由来して得られるセラミックスの発光ピーク波長は変動する。また、同一のセラミックスにおいて、励起波長を代えることにより発光ピーク波長は変動する。
【0060】
【表1】
【0061】
表1、図4~6の結果から、実施例1~7の本セラミックスは青色~青緑色の蛍光色を発光することを確認した。また、表1より、原料として用いる酸化セリウム(IV)(CeO)の平均粒子径が小さくなるにつれて、あるいは、原料として用いる希土類酸化物(M)の平均粒子径が小さくなるにつれて、発光波長の短波長化が確認できた。これは、α―サイアロンの組成の均質化が達成されたためである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6