(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128080
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】検体分析装置及び検体分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 1/38 20060101AFI20230907BHJP
G01N 35/10 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
G01N1/38
G01N35/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032154
(22)【出願日】2022-03-02
(71)【出願人】
【識別番号】306008724
【氏名又は名称】富士レビオ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川田 秀信
(72)【発明者】
【氏名】山下 勲
(72)【発明者】
【氏名】雜賀 光一
(72)【発明者】
【氏名】山下 峰
【テーマコード(参考)】
2G052
2G058
【Fターム(参考)】
2G052AA29
2G052AA30
2G052AD26
2G052AD46
2G052CA03
2G052CA18
2G052FB02
2G052FB09
2G052GA11
2G052GA29
2G052HA08
2G052HA18
2G052HA19
2G058CE08
2G058EA02
2G058ED35
2G058FA05
2G058GA01
2G058GB03
2G058GB05
2G058GB06
2G058GE04
2G058GE10
(57)【要約】
【課題】検体の分注に先立って、簡易な構成で、検体の混和状態を生じさせる。
【解決手段】ノズル52による検体68の吸引吐出がn回繰り返される。その後、検体68がノズル52内に吸引され、吸引された検体が反応容器であるキュベットへ吐出される。検体攪拌及び分注用検体吸引は同じ位置で行われる。検体攪拌とそれに続く検体吸引の間でノズルチップ72が交換される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルと、
前記ノズルを用いた検体分注を制御する制御部であって、攪拌実行条件が満たされる場合に前記検体分注の制御に先立って前記ノズルを用いた検体攪拌を制御する制御部と、
を含み、
前記検体分注においては、吸引位置に移送された元容器内の検体が前記ノズル内に吸引され、吸引された検体が前記ノズルから反応容器へ吐出され、
前記検体攪拌は、前記吸引位置において行われるn(但しnは1以上の整数)回の吸引吐出動作を含み、
前記各吸引吐出動作においては、前記元容器内の検体が前記ノズル内に吸引され、吸引された検体が前記ノズルから前記元容器内へ吐出される、
ことを特徴とする検体分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の検体分析装置において、
当該検体分析装置はサイクルタイムに従って動作し、
複数のサイクルタイムからなるサイクルタイムユニットごとに、又は、サイクルタイムごとに、前記検体攪拌及び前記検体分注が実施される、
ことを特徴とする検体分析装置。
【請求項3】
請求項1記載の検体分析装置において、
前記制御部は、
前記元容器の架設に基づいて定められる基準時から前記検体攪拌を開始する前の判定時までの経過時間を計測し、
前記経過時間に基づいて前記ノズルの動作を制御する、
ことを特徴とする検体分析装置。
【請求項4】
請求項3記載の検体分析装置において、
前記制御部は、前記経過時間が所定時間を超える場合に、前記ノズルに前記検体攪拌を行わせることなくエラーを判定する、
ことを特徴とする検体分析装置。
【請求項5】
請求項3記載の検体分析装置において、
前記制御部は、前記経過時間に応じて前記検体攪拌の条件を変更する、
ことを特徴とする検体分析装置。
【請求項6】
請求項5記載の検体分析装置において、
前記制御部は、前記経過時間に応じて前記nを変更する、
ことを特徴とする検体分析装置。
【請求項7】
請求項1記載の検体分析装置において、
前記ノズルは、ノズル本体とそれに装着されるノズルチップとにより構成され、
前記検体攪拌と前記検体分注の間でノズルチップ交換が実施される、
ことを特徴とする検体分析装置。
【請求項8】
請求項1記載の検体分析装置において、
前記攪拌実行条件には液量条件が含まれ、
前記液量条件は前記元容器内の検体の量が満たすべき条件である、
ことを特徴とする検体分析装置。
【請求項9】
請求項1記載の検体分析装置において、
前記攪拌実行条件には容器条件が含まれ、
前記容器条件は前記元容器が満たすべき条件である、
ことを特徴とする検体分析装置。
【請求項10】
請求項1記載の検体分析装置において、
前記攪拌実行条件には検体状態条件が含まれ、
前記検体状態条件は前記元容器内の検体の状態が満たすべき条件である、
ことを特徴とする検体分析装置。
【請求項11】
請求項1記載の検体分析装置において、
前記検体攪拌において前記元容器内の検体の液面の上下運動に合わせて前記ノズルが上下に搬送される、
ことを特徴とする検体分析装置。
【請求項12】
請求項1記載の検体分析装置において、
前記各吸引吐出動作における前記元容器内の検体への前記ノズルの進入量は0.5―15mmの範囲内である、
ことを特徴とする検体分析装置。
【請求項13】
請求項1記載の検体分析装置において、
前記ノズル内の圧力を検出する圧力センサと、
前記検体攪拌において、前記圧力センサの出力信号に基づいて、気泡吸引、詰まり及びリークの内の少なくとも1つを吸引異常として判定する手段と、
前記吸引異常が判定された場合にエラー処理を実行する手段と、
を含むことを特徴とする検体分析装置。
【請求項14】
請求項1記載の検体分析装置において、
前記検体攪拌に先立って前記元容器内の検体の液面の高さを判定する手段と、
前記液面の高さが所定高さ範囲外にある場合にエラー処理を実行する手段と、
を含むことを特徴とする検体分析装置。
【請求項15】
ノズルを用いて検体分注を実施する工程と、
前記検体分注の前に前記ノズルを用いて検体攪拌を実施する工程と、
前記検体分注の後に検体分析を実施する工程と、
を含み、
前記検体分注においては、吸引位置に移送された元容器内の検体が前記ノズル内に吸引され、吸引された検体が前記ノズルから反応容器内へ吐出され、
前記検体攪拌は、前記吸引位置で行われるn(但しnは1以上の整数)回の吸引吐出動作を含み、
前記各吸引吐出動作においては、前記元容器内の検体が前記ノズル内に吸引され、吸引した検体が前記ノズルから前記元容器内へ吐出される、
ことを特徴とする検体分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は検体分析装置及び検体分析方法に関し、特に、検体を攪拌する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
検体分析装置は、被検者から採取された血液、尿等を分析する装置である。検体分析装置として、免疫測定装置、生化学分析装置等が知られている。
【0003】
血液の分析に際しては、例えば、抗凝固剤入りの採血管の中に被検者から採取された血液が収容される。その血液は検体であり、それは全血とも称される。採血管内の全血、又は、採血管から別の容器へ移された全血においては、時間の経過に伴って、血球成分(赤血球、白血球等)が容器下部へ沈降する。つまり、採血管内又は別の容器内において血球成分の濃度勾配が生じる。分析対象物質の全部または一部が血球成分に含まれる場合、そのような不均一状態にある全血の一部を吸引しその分析を行うと、分析結果の信頼性が低下してしまう。全血以外の検体においても、定量化対象である特定の物質つまり分析対象物質において、濃度勾配が生じていると、上記同様の問題が生じる。濃度勾配を解消するために、検体を攪拌する必要がある。
【0004】
特許文献1、2には、検体の吸引及び吐出を繰り返すことにより検体を攪拌する技術が開示されている。しかし、それらの特許文献には、元容器から反応容器への検体分注の直前に行われる検体攪拌については開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-184009号公報
【特許文献2】国際公開2017/006969号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
検体分析に先立って、元容器内の検体がノズル内に吸引され、吸引された検体がノズルから反応容器へ吐出される。検体の吸引時に元容器内において分析対象物質の濃度勾配が生じていると、分析結果の信頼性が低下してしまう。
【0007】
本発明の目的は、信頼性の高い分析結果を得られる検体分析装置及び検体分析方法を提供することにある。あるいは、検体吸引に先立って簡易な構成で検体の混和状態を生じさせることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る検体分析装置は、ノズルと、前記ノズルを用いた検体分注を制御する制御部であって、攪拌実行条件が満たされる場合に前記検体分注の制御に先立って前記ノズルを用いた検体攪拌を制御する制御部と、を含み、前記検体分注においては、吸引位置に移送された元容器内の検体が前記ノズル内に吸引され、吸引された検体が前記ノズルから反応容器へ吐出され、前記検体攪拌は、前記吸引位置において行われるn(但しnは1以上の整数)回の吸引吐出動作を含み、前記各吸引吐出動作においては、前記元容器内の検体が前記ノズル内に吸引され、吸引された検体が前記ノズルから前記元容器内へ吐出される、ことを特徴とする。
【0009】
本発明に係る検体分析方法は、ノズルを用いて検体分注を実施する工程と、前記検体分注の前に前記ノズルを用いて検体攪拌を実施する工程と、前記検体分注の後に検体分析を実施する工程と、を含み、前記検体分注においては、吸引位置に移送された元容器内の検体が前記ノズル内に吸引され、吸引された検体が前記ノズルから反応容器内へ吐出され、前記検体攪拌は、前記吸引位置で行われるn(但しnは1以上の整数)回の吸引吐出動作を含み、前記各吸引吐出動作においては、前記元容器内の検体が前記ノズル内に吸引され、吸引した検体が前記ノズルから前記元容器内へ吐出される、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、信頼性の高い分析結果を得られる検体分析装置及び方法を提供できる。あるいは、検体吸引に先立って簡易な構成で検体の混和状態を生じさせることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態に係る分析装置を示す模式図である。
【
図4】攪拌分注動作の第1例を示すタイミングチャートである。
【
図5】攪拌分注動作の第2例を示すタイミングチャートである。
【
図9】攪拌分注過程を示すフローチャート(その1)である。
【
図10】攪拌分注過程を示すフローチャート(その2)である。
【
図11】変形例に係る検体分析装置を示す模式図である。
【
図12】経過時間に基づく攪拌実行条件の変更を示す図である。
【
図13】検体量及び容器種別に基づく攪拌実行条件の変更を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
(1)実施形態の概要
実施形態に係る検体分析装置は、ノズル、及び、制御部を有する。制御部は、ノズルを用いた検体分注を制御する。制御部は、攪拌実行条件が満たされる場合に、検体分注の制御に先立って、ノズルを用いた検体攪拌を制御する。検体分注においては、吸引位置に移送された元容器内の検体がノズル内に吸引され、吸引された検体がノズルから反応容器へ吐出される。検体攪拌は、吸引位置において行われるn(但しnは1以上の整数)回の吸引吐出動作を含む。各吸引吐出動作においては、元容器内の検体がノズル内に吸引され、吸引された検体がノズルから元容器内へ吐出される。
【0014】
上記構成によれば、攪拌実行条件が満たされる場合に、検体分注に先立って、検体攪拌が実施される。これにより、元容器内において検体の混和状態が生じる。つまり、元容器内において分析対象物質の濃度勾配が生じていたとしても、それが解消される。検体の均一状態が形成された上で、速やかに分注用検体吸引つまりサンプリングを行えば、分析対象物質の分析精度を高められ、すなわち、分析対象物質の分析結果の信頼性を高められる。ノズルを用いた検体攪拌であるので特別な設備を設ける必要はなく、既存の設備を利用して検体攪拌を行えるという利点も得られる。
【0015】
検体攪拌を行う位置(攪拌位置)と検体分注において検体吸引を行う位置(分注用吸引位置、サンプリング位置)とを異ならせることも可能であるが、その場合には、検体攪拌と検体吸引との間で元容器を移送する必要があり、そのための時間又は工程を確保しなければならなくなる。上記構成では、攪拌位置と分注用吸引位置が同一であるから、検体攪拌後に速やかに検体吸引を行える。後述するように、検体攪拌と検体吸引との間でノズルチップが交換されてもよい。ノズルチップ交換に要する時間は通常、短時間であるから、その場合でも、混和状態にある検体を吸引対象とすることが可能である。
【0016】
例えば、元容器が検体分析装置内の所定位置へ設置つまり架設されてから長時間が経過して沈降成分の粘度が非常に高まっている場合や、元容器内に多量の検体が収容されている場合、ノズルによる吸引吐出の繰り返しでは検体を十分に攪拌できないこともある。そのような場合、手作業での攪拌又は他の方法による攪拌を補助的又は代替的に適用することが望まれる。また、検体の種類又は状態によっては、攪拌が不要とされることもある。様々な状況を考慮し、上記構成では、攪拌実行条件が満たされる場合に、ノズルによる検体攪拌を行うようにしている。手作業での攪拌又は他の方法による攪拌が実施された後に、ノズルによる検体攪拌が実施されてもよい。
【0017】
実施形態に係る検体分析装置はサイクルタイムに従って動作する。複数のサイクルタイムからなるサイクルタイムユニットごとに、又は、サイクルタイムごとに、検体攪拌及び検体分注が実施される。サイクルタイムは、時間軸上における動作の基本単位であり、検体分析装置において、各設備はサイクルタイムに従って動作する。サイクルタイムユニットは、時間的に並ぶ複数のサイクルタイムからなるものである。
【0018】
実施形態において、制御部は、元容器の架設に基づいて定められる基準時から検体攪拌を開始する前の判定時までの経過時間を計測し、経過時間に基づいてノズルの動作を制御する。
【0019】
一般に、元容器を検体分析装置へ架設する前に、元容器に対して手作業による攪拌が実施される。元容器の架設後、元容器内において特定成分の沈降や凝集が進行する。検体変化の度合いは経過時間に依存するが、経過時間は実際には諸条件(検体数、割り込み有無、等)に応じて変動する。そこで、上記構成では、経過時間を実測し経過時間に基づいてノズル動作を制御するようにしている。元容器の架設時を基準時としてもよいし、元容器の架設後における所定時を基準時としてもよい。吸引工程の始期を判定時としてもよいし、吸引開始直前の時点を判定時としてもよい。検体容器ラックが検体分析装置へ架設される場合においても、適宜、基準時及び判定時を定めればよい。
【0020】
実施形態において、制御部は、経過時間が所定時間を超える場合に、ノズルに検体攪拌を行わせることなく、エラーを判定する。あるいは、制御部は、経過時間に応じて検体攪拌の条件を変更する。例えば、制御部は、経過時間に応じてnを変更する。エラーの判定を契機としてマニュアルでの検体攪拌等の措置を取り得る。経過時間の増大に伴ってnを増大すれば、攪拌不十分という事態が生じる可能性を低減できる。吸引吐出量等の他のパラメータを変更してもよい。
【0021】
実施形態において、ノズルは、ノズル本体とそれに装着されるノズルチップとにより構成される。検体攪拌と検体分注の間でノズルチップ交換が実施される。
【0022】
検体攪拌時にノズルチップの内面及び外面に検体が付着する。その残留検体が分析精度に影響を与える可能性がある。検体攪拌の完了後にノズルチップを交換すれば、新しいノズルチップを利用して検体分注を行えるので、残留検体に起因する問題が生じない。一種類のノズルチップを用いて検体攪拌及び検体分注の両方を行ってもよい。検体攪拌用のノズルチップとそれとは異なる検体分注用のノズルチップとを用いてもよい。一種類のノズルチップを用いる場合にはコストダウンを図れる。検体攪拌用の専用ノズルチップを用意すれば、攪拌効率を高められる。洗浄式ノズルを用いて検体攪拌及び検体分注を行うことも考えられる。
【0023】
攪拌実行条件に液量条件が含まれてもよい。液量条件は元容器内の検体の量が満たすべき条件である。攪拌実行条件に容器条件が含まれてもよい。容器条件は元容器が満たすべき条件である。攪拌実行条件に検体種類条件が含まれてもよい。検体種類条件は元容器内の検体の種類が満たすべき条件である。攪拌実行条件に検体状態条件が含まれてもよい。検体状態条件は元容器内の検体の状態が満たすべき条件である。検体状態条件として、例えば、溶血条件及び血球濃度条件が挙げられる。溶血条件は、元容器内の検体が全血の場合において、検体における溶血の程度が満たすべき条件である。血球濃度条件は、元容器内の検体が全血の場合において、検体における血球濃度の程度が満たすべき条件である。攪拌実行条件に複数の条件が含まれ、それらの条件の全部が満たされた場合に攪拌が実行されてもよい。
【0024】
実施形態においては、検体攪拌において元容器内の検体の液面の上下運動に合わせてノズルが上下に搬送される。液面の上下運動に対してノズルの上下運動を同期させることにより、元容器内の検体へのノズルの進入量を一定値又は一定範囲内に制御することが可能となる。例えば、各吸引吐出動作における元容器内の検体へのノズルの進入量は0.5―15mmの範囲内である。
【0025】
実施形態においては、ノズル内の圧力を検出する圧力センサが設けられる。検体攪拌において、圧力センサの出力信号に基づいて、気泡吸引、詰まり及びリークの内の少なくとも1つが吸引異常として判定される。吸引異常が判定された場合にエラー処理が実行される。この構成によれば、検体の混和状態を適正に形成できないおそれがある状況下において吸引吐出動作が進行してしまう事態を回避できる。実施形態においては、プロセッサが吸引異常判定手段及びエラー処理手段として機能する。
【0026】
実施形態においては、検体攪拌に先立って元容器内の検体の液面の高さが判定される。液面の高さが所定高さ範囲外にある場合にエラー処理が実行される。この構成によれば、液量が過大又は過小であるために適正な検体攪拌を行えない状況下において吸引吐出動作が進行してしまう事態を回避できる。液面の高さの概念には液量が含まれる。実施形態においては、プロセッサが液量適否判定手段及びエラー処理手段として機能する。
【0027】
実施形態に係る検体分析方法は、分注工程、攪拌工程、及び、分析工程を有する。分注工程は、ノズルを用いて検体分注を実施する工程である。攪拌工程は、検体分注の前に実施される工程であり、ノズルを用いて検体攪拌を実施する工程である。分析工程は、検体分注の後に検体分析を実施する工程である。検体分注においては、吸引位置に移送された元容器内の検体がノズル内に吸引され、吸引された検体がノズルから反応容器内へ吐出される。検体攪拌は、吸引位置で行われるn(但しnは1以上の整数)回の吸引吐出動作を含む。各吸引吐出動作においては、元容器内の検体がノズル内に吸引され、吸引した検体がノズルから元容器内へ吐出される。
【0028】
上記方法によれば、検体分析のための検体分注の直前でノズルを用いて検体攪拌が実施され、つまり検体の均一性又は一様性が確保された上で検体がサンプリングされるので、分析対象物質の分析結果の信頼性を高められる。検体攪拌のための複雑な設備を設ける必要がなく、既存の設備を活用して検体攪拌を行えるという利点も得られる。なお、検体が全血である場合において、例えば、検体における血球沈降速度が遅いときや、溶血の度合いが所定レベル以上であるときには、分析対象物質の種類によっては、攪拌が不要となるので、ノズルによる検体攪拌が見送られる。
【0029】
実施形態においては、検体は全血である。攪拌実行条件が満たされる限りにおいて、すべての検体に対して攪拌工程が適用される。もっとも、検体の種類ごとに攪拌要否が判断されてもよい。検体の種類として、血清、血漿、尿、汗、唾液、等が挙げられる。
【0030】
(2)実施形態の詳細
図1には、実施形態に係る検体分析装置10が示されている。
図1は、検体分析装置10の上面を模式的に示すものである。この検体分析装置10は、免疫反応つまり抗原抗体反応を利用して検体を分析する免疫測定装置であり、具体的には、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)に従う免疫測定装置である。以下に説明する技術的事項が生化学分析装置等に適用されてもよい。
【0031】
図1において、検体分析装置10は、検体供給部12、反応部14、試薬供給部16、光検出部18、キュベット供給部20、基質保冷庫22、キュベット移送機構24,26、検体分注機構28、試薬分注機構30,32、等を有する。
【0032】
検体供給部12は、回転台としてのターンテーブル33を有する。ターンテーブル33には、保持孔群34が形成されており、保持孔群34は複数の保持孔34aにより構成される。図示例では、保持孔群34は、環状に配列された複数の保持孔34aからなる外側保持孔列と、環状に配列された複数の保持孔34aからなる内側保持孔列と、により構成される。各保持孔34aは、元容器としての検体容器を収容する部分である。検体容器内には検体が収容されている。
【0033】
実施形態において、検体は全血である。生体から採取された他の液体が検体とされてもよい。検体容器(元容器)は、全血を収容している採血管又は全血を収容している他の容器である。例えば、抗凝固剤入りの採血管内に生体から採取された血液が収容される。その場合、採血管内の血液又は採血管から他の容器へ移された血液が検体としての全血である。周知のように、全血には血球成分が含まれ、全血を静置しておくと、血球成分が沈降する。沈降速度は、検体によって区々である。
【0034】
なお、溶血状態にある全血の場合、溶血の程度(溶血の度合い)によっては、血球成分中の分析対象物質の大部分が血漿中に溶出していることもある。よって、実施形態においては、後述するように、溶血の程度によってノズルによる検体攪拌の要否が判断される。溶血の程度は検体中の上澄み部分のヘモグロビン値を測定することにより決定できる。溶血の程度が検体の撮像により取得された画像の解析により判定されてもよい。一方、血球濃度の程度によっては、血球沈降速度が遅くなり、分析への影響が小さくなることもある。よって、血球濃度の程度によってノズルによる検体攪拌の要否が判断されてもよい。血球濃度の程度は、ヘマトクリット値を測定することにより決定できる。ヘマトクリット値として、公知の方法(ミクロヘマトクリット法など)により得られる測定値を使用してもよい。沈降の程度が検体の撮像により取得された画像の解析により判定されてもよい。
【0035】
検査者の手作業によって、各検体容器が各保持孔34aに差し込まれる。つまり、各検体容器が架設される。通常、各検体容器の差し込みに先立って、その検体容器を繰り返し振ることにより、つまり転倒による混和を繰り返し実施することにより、検体容器内の検体が攪拌される。検体供給部12に対して任意数の検体容器数を架設し得る。各検体容器を架設するタイミングも検査者が任意に定め得る。
【0036】
検体容器の架設に先立って、検査者により、ボタン36が操作される。これにより、検体供給部12の動作が一時的に中断し、検体供給部12において検体容器を受け入れ可能な状態が形成される。検体容器の架設後、検査者により、ボタン36が再び操作される。これにより、検体供給部12の動作が再開する。タッチスクリーンパネル等にボタン36に代わる仮想的なボタンを表示してもよい。ボタン38は、ターンテーブル33を回転させたい場合に操作されるものである。ボタン36とボタン38を一体化させてもよい。
【0037】
検体供給部12には、図示されていないバーコードリーダー(BCR)が設けられている。BCRにより、保持孔群34によって保持されている各検体容器に貼付されたバーコードラベルの内容が読み取られる。これにより、検体ごとに検体ID等の検体情報が読み取られる。検体IDに基づいて、被検者情報、分析項目、検体容器種別、等が特定される。
【0038】
反応部14は、回転台としてのターンテーブル39を有する。ターンテーブル39には、保持孔群40が形成されており、保持孔群40は複数の保持孔40aにより構成される。図示例では、保持孔群40は、環状に配列された複数の保持孔40aからなる外側保持孔列と、環状に配列された複数の保持孔40aからなる内側保持孔列と、により構成される。各保持孔40aは、反応容器としてのキュベットを収容する部分である。各キュベット内に試薬及び検体が段階的に注入される。これにより、各キュベット内において免疫反応が生じる。
【0039】
実施形態においては、例えば、いわゆる2ステップ法に基づいて検体が測定される。2ステップ法には、第1の抗体を含む第1試薬を用いた第1免疫反応工程、第2の抗体を含む第2試薬を用いた第2免疫反応工程、基質(基質液)を用いた酵素反応工程、及び、光検出工程が含まれる。反応部14において、第1免疫反応工程、第2免疫反応工程、及び、酵素反応工程が実施される。また、反応部14において、攪拌工程、B/F洗浄工程、等が実施される。
図1においては、反応部14が有する機構の図示が省略されている。なお、反応部14における攪拌方式は、キュベットを旋回運動させてキュベット内に渦を生じさせるボルテックス攪拌方式である。
【0040】
試薬供給部16は、回転する保冷庫としての試薬槽41を有する。試薬槽41には、試薬ボトル列42及び試薬ボトル列44が収容されている。試薬ボトル列42及び試薬ボトル列44はそれぞれ複数の試薬ボトルにより構成されている。各試薬ボトルには試薬が収容されている。試薬供給部16及び反応部14に隣接して試薬分注機構30,32が設けられている。試薬分注機構30は、旋回するアーム60及びアーム60の先端に設けられたノズル62を有する。試薬分注機構32は、旋回するアーム64及びアーム64の先端に設けられたノズル65を有する。ノズル62,65は、それぞれ非交換型ノズル、つまり洗浄式ノズルである。試薬分注機構30,32により、特定の試薬が吸引され、吸引された試薬が特定のキュベット内に吐出される。
【0041】
光検出部18は、酵素反応後においてキュベット内で生じる発光を検出するユニットである。検出値に基づいて分析対象物質の濃度等が演算される。キュベットの移送に際しては、キュベット移送機構24,26が機能する。
図1において、符号56,58は廃棄部を示している。廃棄部において使用済みキュベットや使用済みノズルチップが廃棄される。
【0042】
検体分注機構28は、図示の構成例において、レール機構46、スライドベース48、アーム50、ノズル52、等を有する。レール機構46は、装置左右方向及び装置奥行方向に対して傾斜した方向に伸長したレールを有する。そのレールに沿ってスライドベース48がスライド運動する(符号53を参照)。アーム50の基端部がスライドベース48により回転可能に保持されており、アーム50の先端部にノズル52が配置されている。
【0043】
ノズル52は、ノズル本体及びノズルチップにより構成される。ノズル本体に対してノズルチップが着脱可能に装着される。ノズル本体は金属により構成され、ノズルチップは透明性、半透明性又は非透明性を有する樹脂により構成される。検体吸引後にノズルチップが交換される。実施形態においては、ノズルによる検体攪拌後においても、ノズルチップが交換される。
【0044】
検体供給部12においては、第1吸引位置(外側吸引位置)及び第2吸引位置(内側吸引位置)が定められている。各吸引位置において、分注用検体吸引が実行される他、検体攪拌が実行される。検体攪拌については後に詳述する。
【0045】
スライドベース48のスライド運動、及び、アーム50の旋回運動の組み合わせにより、ノズル52の移動エリアが拡大されている。後述する制御部の制御により、検体分注時に、吸引位置(第1吸引位置又は第2吸引位置)にある検体容器(元容器)内の検体がノズル52により吸引され、吸引された検体がノズル52から反応部14上の特定のキュベット内に吐出される。吐出先位置が固定的に定められてもよいし、吐出先位置が動的に変更されてもよい。実施形態においては、キュベット内へ第1試薬が分注された後に、そのキュベット内に検体が吐出される。検体の吐出時に検体と第1試薬とが混ざり合う。
【0046】
図1に示されている検体分注機構28は一例であり、検体分注機構28として他の機構を採用してもよい。例えば、レール機構46を有しない検体分注機構28を採用してもよいし、Xレール及びYレールを備える検体分注機構を採用してもよい。
【0047】
チップラック54は、複数のノズルチップを保持している部材である。ノズルチップの交換時には、ノズル本体から使用済みノズルチップが取り外され、それが廃棄される。その後、ノズル本体の先端部がチップラック54の中から選択されたノズルチップの上側開口内に差し込まれる。これによりノズル本体に対して新しいノズルチップが装着される。図示されていないチップラック交換機構によりチップラックが交換されている。
【0048】
図2を用いて吸引吐出制御について説明する。検体分注機構は、ノズル搬送機構28Aを有している。ノズル搬送機構28Aは、既に説明したレール機構、スライドベース、アーム等により構成される。アームに対してシリンジポンプ76が固定されている。シリンジポンプ76は、シリンジ及びピストンを有し、吸引圧力及び吐出圧力を生成するものである。他のタイプのポンプが利用されてもよい。
【0049】
ノズル52は、ノズル搬送機構28Aに保持されている。ノズル搬送機構28Aによりノズル52を垂直方向及び水平方向に自在に運動させることが可能である。ノズル52は、既に説明したようにノズル本体70及びノズルチップ72により構成される。ノズル本体70はサンプルロッドとも言い得る。
図2においては、検体供給部12における吸引位置に移送された上で吸引位置において停止している検体容器66が示されている。その内部には検体(全血)68が収容されている。
【0050】
ノズル本体70とシリンジポンプ76との間にチューブ74が設けられており、チューブ74内のエアを媒介として吸引圧力及び吐出圧力が伝達されている。チューブ74の途中には圧力センサ78が設けられている。圧力センサ78によりチューブ74内のエアの圧力が検出されている。その圧力はノズル52内の圧力を示すものである。圧力センサ78からの検出信号が情報処理部80へ出力されている。
【0051】
情報処理部80は、例えば、プロセッサを備えるコンピュータにより構成される。情報処理部80は、制御部、演算部、等として機能する。情報処理部80には、図示の構成例において、タイマー82、入力器84、表示器86、及び、通信器88が接続されている。情報処理部80は記憶部を有するが、
図2においてはその図示が省略されている。
【0052】
タイマー82は、検体容器ごとに基準時から判定時までの経過時間を計測するものである。情報処理部80それ自体が計時機能を備えてもよい。基準時は、例えば、検体容器が検体供給部に架設された上で検体容器のバーコードラベルが読み取られてその検体IDが特定された時点である。検体容器を架設した時点を基準時としてもよいし、検体架設に係る他のタイミングを基準時としてもよい。判定時は、例えば、分注工程に割り当てられた特定のサイクルタイムの始期である。検体吸引に係る他のタイミングが判定時とされてもよい。経過時間は、検体容器66内における血球成分の沈降速度を推定する1つの目安情報として用いられる。すなわち、ノズル52による検体攪拌に適する検体状態であることを判定する情報として、経過時間が用いられる。
【0053】
入力器84は、ボタン、スイッチ、タッチパネル、ポインティングデバイス、キーボード等により構成され得る。表示器86は、液晶表示器、有機EL表示デバイス、等により構成され得る。通信器88は、情報処理部80がネットワークを介してホストコンピュータとの間でデータを授受する際に機能する。
【0054】
実施形態においては、攪拌実行条件が満たされる場合、検体分注を実施する直前で検体攪拌が実施される。具体的には、吸引位置にある検体容器66の上方にノズルが移送され、その後、ノズル52が下方へ降ろされる。下降状態において、シリンジポンプ76の作用により、ノズル52内にエアが連続的に送り込まれる。ノズル52の先端が検体68の液面に接し、先端開口が封鎖された時点でのエア圧力上昇が圧力センサ78により検出される。圧力センサ78からの出力信号に基づいて、情報処理部80が液面の高さを特定し、その高さから液量を演算する。ちなみに、検体IDに基づいて検体容器66の種別を特定可能であり、液量の演算に際しては検体容器66の種別が参照される。
【0055】
液面検出後、シリンジポンプ76の作用により、検体がノズルチップ72内に吸引される。その吸引過程において、液面の降下に伴ってノズル52が下方に搬送される。これにより、検体68内へのノズルチップ72の進入量が一定に維持される。所定量の吸引が完了した時点で、ノズル52の降下及び検体吸引が停止される。その直後、又は、一定の一時待機時間を経た後、ノズル52が上方に引き上げられる共に、シリンジポンプ76の作用により、検体吐出が行われる。その吐出過程において、液面の上昇に伴ってノズル52が上方に搬送される。これにより、検体68内へのノズルチップ72の進入量が一定に維持される。
【0056】
例えば、ノズルチップ72の進入量として、0.5-15mmの範囲内の数値が選択される。その範囲の下限は、ノズルチップ72による空気吸引を回避する観点から定められる。その範囲の上限は、検体容器66の内底面へのノズルチップ72の先端の接触を回避する観点から定められ、また、ノズルチップ72の外面へ付着する検体の量を抑制する観点から定められる。好ましくは、ノズルチップ72の進入量として、1-4mmの範囲内の数値が選択される。本願明細書において挙げる数値はいずれも例示に過ぎないものである。吐出完了後、上記の進入量が保たれた状態で、ノズル52の上昇及び検体吐出が停止される。
【0057】
以上の吸引動作及び吐出動作が繰り返し実行される。検体攪拌はn回の吸引吐出動作からなるものである。繰り返し数nとして事前に任意の値を指定し得る。nは、例えば、1以上整数であり、nとして5,6又は7等の数値を指定してもよい。1つのサイクルタイム内において実行可能な最大繰り返し回数をnとして指定してもよい。諸条件に応じてnを適応的に可変してもよい。これについては後述する。上記のように、検体攪拌においては、検体の液面の上下運動に合わせてノズルが上下に搬送される。換言すれば、検体の液面の上下運動に追従及び同期してノズルが上下運動する。その過程では検体へノズルの進入量が比較的に小さく定められ、且つ、その進入量が維持される。これによりノズルの外面への検体の付着を少なくでき、また、安定的で確実な検体攪拌を行うことが可能である。
【0058】
検体攪拌の完了後、ノズルチップ交換が実施された上で、上記吸引動作が実施される。これによりノズルチップ72内に所定量の検体が収容される。その収容状態を維持したまま、ノズル52が上方へ引き上げられ、吐出先であるキュベットへ搬送される。ノズルチップ交換により、ノズルチップ72の内面及び外面に付着した残留検体による測定精度低下という問題が生じることを回避できる。そのような問題が生じない場合やそれを無視できる場合には、ノズルチップ交換を省略してもよい。
図2に示した検体容器66は一例であり、検体容器として様々な容器を用い得る。
【0059】
同じ吸引位置において検体攪拌及び検体吸引を連続して行うことにより、検体攪拌後にノズルチップ内に検体を速やかに収容することが可能となる。全血において血球成分が沈降している場合においても、その全血に対して検体攪拌が適用され、血球成分濃度が均一化された全血をサンプリング対象とすることが可能である。
【0060】
図3には、情報処理部80の構成例が示されている。
図3において、
図2に示した要素と同様の要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。情報処理部80は、プロセッサ90を有する。プロセッサ90は、例えば、プログラムを実行するCPUにより構成される。
【0061】
図3には、プロセッサ90が発揮する複数の機能が複数のブロックにより表現されている。プロセッサ90は、動作制御部(エラー処理部)94、超過判定部96、気泡吸引判定部98、詰まり判定部100、等として機能する。プロセッサ90は、攪拌実行条件が満たされたか否かを判定する。攪拌実行条件として、例えば、経過時間が所定時間を超えていないことを求める条件、検体量が所定範囲内にあることを求める条件、検体容器が攪拌に不向きな形状でないことを求める条件、溶血の度合いが所定レベルより低いことを求める条件、血球沈降の程度が所定レベルより小さい条件、等が挙げられる。
図3においては、経過時間に関する判定を行う機能が超過判定部96として明示されている。プロセッサ90には記憶部92が接続されている。記憶部92には管理テーブル102が格納されている。管理テーブル102に基づいてプロセッサ90が制御、演算等を行う。
【0062】
超過判定部96は、検体ごとに経過時間が所定時間(基準時間)を超過したか否かを判定するものである。超過が判定された場合、動作制御部94がエラー処理を実行する。例えば、検査者に対して超過が報告され、検体容器に対する手作業での攪拌が促される。手作業での攪拌後、その検体容器が再び検体供給部に戻される。その後、その検体容器が優先的に処理されてもよい。なお、経過時間と比較される複数の基準時間が設定されてもよい。例えば、経過時間が第1基準時間を超過していない場合に攪拌が見送られた上でサンプリングが実施され、経過時間が第1基準時間を超過し且つ第2基準時間を超過していない場合に攪拌が実行された上でサンプリングが実施され、経過時間が第2基準時間を超過している場合にエラー処理が実行されてもよい。
【0063】
気泡吸引判定部98は、圧力センサからの検出信号に基づいて気泡吸引を判定するものである。例えば、検体の液面に泡が存在している場合において、その泡の表面を液面であると誤認した場合、泡のみがノズルチップ内に吸引される。それが気泡吸引判定部98により判定される。気泡吸引が判定された場合、エラー処理が実行され、その旨がユーザーに通知される。
【0064】
詰まり判定部100は、圧力センサからの検出信号に基づいて詰まりを判定するものである。例えば、吸引時にノズルチップ内で詰まりが発生した場合、ノズルチップの内部の圧力が急激に上昇する。その圧力変化に基づいて詰まりが判定される。詰まりが判定された場合、エラー処理が実行され、その旨がユーザーに通知される。
【0065】
以上の他、検体攪拌及び検体分注を適正に行うために他の監視や他の判定を行ってもよい。実施形態に係るプロセッサ90は、様々な判定及び様々なエラー処理を実行するものである。例えば、ノズルチップの内部を含む吸引経路へのエアの進入(つまりリーク)が判定されてもよい。圧力センサからの検出信号に基づいてリークを判定し得る。気泡吸引、詰まり、及び、リークはいずれも吸引異常と言い得る。他の吸引異常が判定されてもよい。プロセッサ90に対してカメラを接続してもよい。カメラによって検体攪拌前又は検体攪拌時の検体状態が撮影され、それにより得られた画像を解析することにより、エラーが判定されてもよいし、検体攪拌実行条件が変更されてもよい。後に説明するように、検体攪拌に先立って、検体の液面高さが所定高さ範囲に入っているか否かが判定される。検体の液面高さが所定高さ範囲外である場合にエラー処理が実行される。
【0066】
図4には、攪拌分注動作の第1例がタイミングチャートとして示されている。(A)は、i番目のサイクルタイム、i+1番目のサイクルタイム、及び、i+2番目のサイクルタイムを示している。iは1以上の整数である。(B)は、j番目の検体に対する処理、及び、j+1番目の検体についての処理を示している。jは1以上の整数である。j番目の検体については、i番目のサイクルタイム内において攪拌動作が実行され、続くi+1番目のサイクルタイム内において分注動作が実行される。一方、j+1番目の検体については、i+2番目のサイクルタイム内において攪拌動作が実行され、続くi+3番目のサイクルタイム内において分注動作が実行される。この第1例においては、連なる2つのサイクルタイムからなるサイクルタイムユニット200ごとに、攪拌動作及び分注動作が実行される。
【0067】
図4において、Txは、j番目の検体についての経過時間を示している。経過時間Txは、基準時T1と判定時T2の間の時間である。経過時間Txが所定時間を超える場合に、エラー処理が実行される。検体ごとにその経過時間が所定時間と比較される。
【0068】
図5には、攪拌分注動作の第2例がタイミングチャートとして示されている。(A)は、i番目のサイクルタイム、及び、i+1番目のサイクルタイムを示している。(B)は、j番目の検体に対する処理、及び、j+1番目の検体についての処理を示している。j番目の検体については、i番目のサイクルタイム内において攪拌動作及び分注動作が順次実行される。一方、j+1番目の検体については、i+1番目のサイクルタイム内において攪拌動作及び分注動作が順次実行される。このように、第2攪拌分注動作においては、サイクルタイムごとに攪拌動作及び分注動作が実行される。
図4及び
図5に示した第1例及びび第2例以外の攪拌分注動作が採用されてもよい。
【0069】
図6には、管理テーブルの構成例が示されている。図示された管理テーブル102は、複数の検体に対応する複数のレコード104を有する。各レコード104は、検体容器の位置を特定する情報106、検体IDを特定する情報108、検体種別を表す情報110、分析項目を表す情報112を含み、更に、基準時において特定された時刻(経過時間の始期)を表す情報114を含んでいる。情報114に基づいて経過時間が演算される。
【0070】
図7を用いて検体量の適正範囲について説明する。(A)は検体容器116に対して定められた適正範囲122を示している。具体的には、検体容器116に対しては上限118及び下限120が定められ、それらの間が適正範囲122である。適正範囲122内に液面が存在する場合、つまり検体量が一定範囲内にある場合には、検体攪拌の実行が許容される。適正範囲122内に液面が存在しない場合、特に、液面が上限118を超えた位置にある場合、検体攪拌は実行されず、エラー処理が実行される。その場合、手作業での検体攪拌が促される。検体量が下限120を下回っている場合にも、エラー処理が実行される。その場合には、検体量不足がユーザーに報知される。
【0071】
図7において、(B)は、検体容器124に対して定められた適正範囲132を示している。具体的には、検体容器124はアダプタ126によって保持されている。検体容器124に対しては上限128及び下限130が定められ、それらの間が適正範囲132である。上記同様に、適正範囲132内に液面が存在する場合には、検体攪拌の実行が許容される。適正範囲132内に液面が存在しない場合、検体攪拌は実行されず、エラー処理が実行される。
【0072】
図8には、検体分析過程それ全体がフローチャートとして示されている。そのフローチャートは、2つの免疫反応工程を含む2ステップ法を前提とするものである。
【0073】
S10では、検体供給部に対して検体容器が架設される。S12では、検体容器に貼付されているバーコードがバーコードリーダーにより読み取られる。これにより検体IDが特定され、その検体IDを用いてホストコンピュータへの照会が実行される。なお、バーコードを使用せずに検体架設位置情報を用いて検体IDを特定してもよい。S14は、待機工程であり、S14では、検体は順番待ち状態にある。
【0074】
攪拌実行条件が満たされる場合、S16において、検体攪拌が実施される。すなわち、n回の吸引吐出動作が繰り返し実行される。S18では、検体分注が実施される。詳しくは、検体容器内の検体がノズルにより吸引され、吸引された検体がノズルからキュベット内に吐出される。
【0075】
S20は、通常、検体分注よりも先に実行される。S20では、第1試薬が試薬分注ノズルにより吸引され、吸引された第1試薬がキュベット内に吐出される。S18において、ノズルからキュベット内に検体を吐出すると、キュベット内において第1試薬と検体の混合状態が生じる。
【0076】
S22では、キュベット内の混合液が攪拌される。S24は一次免疫反応工程を示している。S24の後、S26においてB/F洗浄が実施される。その後、S28において、試薬分注ノズルを利用してキュベット内に第2試薬が分注される。S30では、キュベット内の液体が攪拌される。S32は二次免疫反応工程を示している。S34ではB/F洗浄が実施される。
【0077】
S38では、キュベット内に基質が分注される。その場合、基質分注用ノズルが利用される。S40では、キュベット内の液体が攪拌される。S42は酵素反応工程を示している。S44では、キュベット内で生じる発光が測定される。S46では、発光量に基づいて分析対象物質の濃度等が演算される。また、S46では測定結果が出力される。
【0078】
図8における攪拌分注過程A1について
図9及び
図10を用いて詳述する。
図9は、攪拌分注過程を示すフローチャート(その1)であり、
図10は、攪拌分注過程を示すフローチャート(その2)である。それらは、プロセッサによる制御の内容を示すものでもある。
【0079】
図9において、S50では、検体供給部に架設された検体容器に貼付されているバーコードがバーコードリーダーによって読み取られる。これにより検体IDが特定され、その検体IDに基づいて検体種別及び容器種別が特定される。S50では、基準時からの経過時間の計測が開始される。
【0080】
S52では、特定された検体種別に基づいて、検体容器内の検体が攪拌対象となる検体か否かが判定される。攪拌対象でない検体であれば、S54において検体分析のための他のプロセスが適用される。特定された検体種別が全血の場合、S55において、検体容器内の検体の状態が判定される。例えば、検体における上清部分のヘモグロビン値や色調に基づいて、検体が溶血状態にあるか否かが判定される。具体的には、上清部分のヘモグロビン値が測定された上で、そのヘモグロビン値が閾値(所定値)と比較され、ヘモグロビン値が閾値を超えている場合に、検体が溶血状態にあることが判定される。上清部分の色調により溶血状態が判定されてもよい。溶血状態が判定された場合、S54において検体分析のための他のプロセスが適用される。なお、血球沈降の程度(度合い又は速度)から検体の状態が判定されてもよい。
【0081】
S56においては、容器種別に基づいて、検体容器が攪拌に適するものであるか否かが判定される。例えば、検体容器が大型容器である場合、検体容器が攪拌に適しないものであると判定される。その場合、S58においてエラー処理が実行され、検査者であるユーザーにエラーが通知される。
【0082】
S56において、検体容器が攪拌に適するものであると判定された場合、S60において、攪拌実行条件等が設定される。例えば、吸引吐出繰り返し数n、吸引量、吸引速度、吸引後の一時待機時間、吐出量、吐出速度、吐出後の一時待機時間、ノズル下降速度、ノズル上昇速度、等が設定される。S62は、待機工程を示している。これは
図8に示したS14に相当する。
【0083】
S64では、基準時から判定時までの経過時間が所定時間を超過したか否かが判定されている。経過時間が所定時間を超過していている場合、S66においてエラー処理が実行される。その場合、ユーザーに対してエラーが通知され、手作業での検体攪拌が促される。S64において、経過時間が所定時間を超過していないと判定された場合、S68では、ノズル本体に対してノズルチップが装着され、S70では、吸引位置の上方にノズルが位置決められる。
【0084】
図10において、S72では、ノズルの降下が開始される。S74においてはノズルチップ先端の液面到達が判定される。S76では、液面レベルから、検体量が演算され、検体量が適正範囲内にあるか否かが判定される。もっとも、液面レベルから、検体量が適正範囲内にあるか否かが直接的に判定されてもよい。検体量が適正範囲から外れる場合、つまり検体量が不適正なものである場合にはS78においてエラー処理が実行され、エラーがユーザーに通知される。その場合、結果として、攪拌実行条件が満たされなかったことになる。S76において検体量が適正なものであると判定された場合、S80以降の工程が実行される。なお、実施形態においては、液面検出時点でノズルの降下が一時的に停止されているが、ノズルの降下を止めないで吸引を開始させることも可能である。
【0085】
S80では、ノズルによる吸引が開始され、同時に、ノズルの降下が開始される。S82では、液面降下に追従するノズルの降下が行われる。所定量の検体が吸引された時点で、S84において、検体の吸引が停止され、且つ、ノズルの降下が停止される。その後、一時待機時間を経て、S86において、検体の吐出が開始され、且つ、ノズルの上昇が開始される。S88では、液面上昇に追従するノズルの上昇が行われる。S90において、検体の吐出が終了し、且つ、ノズルの上昇が終了する。
【0086】
S92では、吸引吐出の繰り返し回数nxが設定値nに到達したか否かが判定され、到達していない場合、nxが1つインクリメントされた上で、S80以降の工程が再び実行される。S80の実行前に一時待機時間が設けられている。nxの初期値は1であり、nには1以上の整数が与えられる。
【0087】
S92において、n回の吸引吐出動作が完了したと判定された場合、S100において、ノズルがチップ廃棄場所へ搬送され、そこでノズル本体からノズルチップが取り外される。S102では、ノズル本体に対して新しいノズルチップが装着される。S104では、吸引位置の上方へノズルが搬送される。
【0088】
S106では、ノズル降下が開始され、S108では、液面へのノズルチップ先端の到達が判定される。実施形態では、その時点でノズルの降下が停止されているが、そのままノズルを降下させてもよい。S110では、検体の吸引及びノズルの降下が開始され、S112では、液面下降に追従するノズルの降下が行われる。所定量の検体が吸引された時点で、S114において、検体の吸引が停止され、且つ、ノズルの降下が停止される。その後、一時待機時間を経て、S116において、ノズルが上方に引き上げられる。その後、吐出先のキュベットまでノズルが搬送される。S118では、ノズルからキュベット内へ検体が吐出される。S120では、使用済みノズルチップが取り外されて廃棄される。
【0089】
S96は、吸引過程で異常吸引を監視する工程を示している。すなわち、S96では、気泡吸引及び詰まりが判定される。S98は、吐出過程で異常吐出を監視する工程を示している。すなわち、S98では、詰まりが判定される。S122は、吸引過程で異常吸引を監視する工程を示している。すなわち、S122では、S96と同様に、気泡吸引及び詰まりが判定される。
【0090】
図11には、変形例に係る検体分析装置が示されている。
図11において、
図1に示した要素と同様の要素には同一の符号を付してある。検体分析装置10Aは、装置本体134とそれに付加されたラック搬送台136とからなる。装置本体134には、検体分注機構28が設けられている。検体分注機構28は、レール機構46、スライドベース48、アーム50、及び、ノズル52を有する。
【0091】
ラック搬送台136上において個々のラックが搬送される。符号140は、ユーザーによりセットされた検体容器ラック列を示している(以下、検体容器ラックを単にラックと表現する。)。符号142は、処理対象になっているラックを示している。符号144は、バッファエリア内にある再処理可能なラック列144を示している。符号146は、排出されたラック列146を示している。各ラックには複数本の検体容器が保持されている。
【0092】
ラック142に保持された個々の検体容器内の検体が分注対象となる。換言すれば、個々の検体容器の位置が、攪拌動作及び分注用吸引動作が行われる吸引位置に相当する。検体分注機構28におけるノズル搬送機構は、各吸引位置にノズル52を順次位置決める。
【0093】
変形例に係る検体分析装置10Aにおいては、例えば、検体供給部12内の検体が優先的に処理され、その後、各ラック内の各検体が処理される。もっとも、各ラック内の各検体が優先的に処理されるように制御を行ってもよい。
【0094】
図12に示すように、経過時間148に基づいて攪拌実行条件が変更されてもよい。例えば、経過時間148に基づいて吸引吐出回数(n)150が設定されてもよい。その場合、経過時間148が大きいほど、吸引吐出回数(n)を増大させてもよい。経過時間148に基づいて吸引吐出速度152が設定されてもよい。
【0095】
図13に示すように、検体量/検体状態/容器種別154に基づいて、吸引吐出回数(n)156が変更されてもよい(ここで“/”は、“or”を意味する。)。例えば、検体量が多いほど、あるいは、容器が大きいほど、吸引吐出回数(n)156を増大させてもよい。検体量/検体状態/容器種別154に基づいて、吸引吐出速度158、吸引吐出量160、液面内の進入量162、吸引終了から吐出開始までの待機時間(又は吐出終了から吸引開始までの待機時間)164、検体容器内におけるノズルの水平位置166、等を変更してもよい。同様に、ノズルチップの容量や検体の種類に基づいて、吸引吐出速度158、吸引吐出量160、液面内の進入量162、吸引終了から吐出開始までの待機時間(又は吐出終了から吸引開始までの待機時間)164、検体容器内におけるノズルの水平位置166、等を変更してもよい。
【0096】
上記実施形態によれば、攪拌実行条件が満たされる場合に、検体分注に先立って、検体攪拌が実施され、元容器内において検体の混和状態が形成される。その後に検体をサンプリングできるので、分析対象物質の分析精度を高められる。検体攪拌のために特別な設備を設ける必要はなく、既存の設備を利用して検体攪拌を行える。実施形態においては、攪拌位置と分注用吸引位置とが同一であるから、検体攪拌後に直ちに検体吸引を行える。
【符号の説明】
【0097】
10 検体分析装置、12 検体供給部、14 反応部、16 試薬供給部、18 光検出部、28 検体分注機構、30,32 試薬分注機構、46 レール機構、48 スライドベース、50 アーム、52 ノズル、70 ノズル本体、72 ノズルチップ、78 圧力センサ、80 情報処理部、82 タイマー、90 プロセッサ。