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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128100
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】細胞死滅システム及び細胞死滅方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 18/00 20060101AFI20230907BHJP
【FI】
A61B18/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032209
(22)【出願日】2022-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】599090062
【氏名又は名称】株式会社アサヒテクノ
(71)【出願人】
【識別番号】501083643
【氏名又は名称】学校法人慈恵大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】高橋 茂吉
(72)【発明者】
【氏名】菅原 美年子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 裕
【テーマコード(参考)】
4C160
【Fターム(参考)】
4C160JJ50
(57)【要約】
【課題】対象細胞に含まれる水分を利用したキャビテーション現象によって、対象細胞を死滅させる。
【解決手段】空気圧の調整によって水分を爆縮Ipさせるとともに衝撃波Swを発生させるキャビテーション現象を、死滅の対象とされた対象細胞100が内包する水分に対して起こし、衝撃波Swによって対象細胞100を破壊して死滅させる細胞死滅システムが、対象細胞100が含まれる対象部位110に向かって差し込まれる第一差込部10と、キャビテーション発生装置20と、を備え、キャビテーション発生装置20は、第一差込部10を通じて対象部位110を負圧化し、対象部位110の負圧化状態を維持したまま、その負圧の度合いを大きくしたり小さくしたりして、対象細胞100が内包する水分に対してキャビテーション現象を起こす工程を繰り返すことで衝撃波Swによって対象細胞100を破壊する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気圧の調整によって水分を爆縮させるとともに衝撃波を発生させるキャビテーション現象を、対象物のうち死滅の対象とされた対象細胞が内包する水分に対して起こし、前記衝撃波によって前記対象細胞を破壊して死滅させる細胞死滅システムであって、
空気の流通が可能に構成され、前記対象物のうち前記対象細胞が含まれる対象部位に向かって差し込まれる第一差込部と、
前記第一差込部が接続されたキャビテーション発生装置と、を備えており、
前記キャビテーション発生装置は、前記第一差込部を通じて前記対象部位を負圧化し、前記対象部位の負圧化状態を維持したまま、その負圧の度合いを大きくしたり小さくしたりして、前記対象細胞が内包する前記水分に対して前記キャビテーション現象を起こす工程を繰り返すことで前記衝撃波によって前記対象細胞を破壊することを特徴とする細胞死滅システム。
【請求項2】
前記キャビテーション発生装置は、
前記第一差込部が空気流通可能に接続された調整タンクと、
前記調整タンクに接続されて当該調整タンクの内部を真空吸引する真空ポンプと、
前記調整タンクに設けられるとともに開閉可能に構成され、前記調整タンクの内部に空気を送り込むための空気流入弁と、
前記空気流入弁の開閉動作を制御する制御部と、を有しており、
前記制御部は、前記真空ポンプによって前記調整タンクの内部の真空吸引を行っている最中に前記空気流入弁の開閉動作を制御し、前記調整タンクの内部における空気圧の調整を行うことを特徴とする請求項1に記載の細胞死滅システム。
【請求項3】
空気の流通が可能に構成され、前記対象物のうち前記対象部位の周囲における前記対象細胞が含まれない正常部位に差し込まれる第二差込部と、
前記第二差込部が接続された負圧化防止装置と、を更に備えており、
前記負圧化防止装置は、前記キャビテーション発生装置が前記対象部位の負圧化状態を維持している最中に、前記第二差込部を通じて前記正常部位を正圧化することを特徴とする請求項1又は2に記載の細胞死滅システム。
【請求項4】
前記第一差込部は、
前記対象部位に向かって穿刺される穿刺部と、
前記穿刺部と前記キャビテーション発生装置とを接続する接続管と、を有しており、
前記穿刺部は、
前記接続管と連通する管状の穿刺部本体と、
前記穿刺部本体の前記対象部位への差込方向における先端に位置し、前記穿刺部本体よりも大径に設定された先端部と、
前記穿刺部本体のうち前記先端部との間に間隔を空けた位置に設けられ、前記穿刺部本体よりも大径に設定されて外周方向に張り出した張出部と、
前記穿刺部本体に貫通形成された複数の吸引孔と、を備えており、
前記複数の吸引孔は、前記穿刺部本体のうち前記先端部及び前記張出部よりも前記差込方向の基端側に位置し、かつ、前記先端部及び前記張出部の縁部に沿って形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の細胞死滅システム。
【請求項5】
前記第一差込部は、前記対象物の空洞部を通過するようにして前記対象部位に向かって差し込まれ、先端部で前記対象部位を包囲する管状に形成されており、
前記第一差込部の先端部は、前記対象部位を負圧化するときに、前記対象部位を包囲した状態で、前記対象部位の周囲における前記対象物の空洞部表面に密着することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の細胞死滅システム。
【請求項6】
非侵襲的に前記対象部位の治療を行うための非侵襲的治療装置を更に備えることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の細胞死滅システム。
【請求項7】
前記対象物のうち前記対象部位に向かって差し込まれる第三差込部と、
前記第三差込部が接続された対象部位判別装置と、を更に備えており、
前記対象部位判別装置は、前記第三差込部に流された電流の抵抗値に基づいて、前記対象細胞が含まれる前記対象部位と、前記対象細胞が含まれない正常部位と、の判別を行うことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の細胞死滅システム。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の細胞死滅システムによって、前記対象細胞を破壊して死滅させる細胞死滅方法であって、
前記第一差込部を、前記対象物のうち前記対象細胞が含まれる前記対象部位に向かって差し込んだ後、
前記キャビテーション発生装置によって、前記第一差込部を通じて前記対象部位を負圧化し、前記対象部位の負圧化状態を維持したまま、その負圧の度合いを大きくしたり小さくしたりして、前記対象細胞が内包する前記水分に対して前記キャビテーション現象を起こす工程を繰り返すことで前記衝撃波によって前記対象細胞を破壊することを特徴とする細胞死滅方法。
【請求項9】
前記対象部位の負圧化状態を維持したまま、当該対象部位に薬剤を注入する工程を有することを特徴とする請求項8に記載の細胞死滅方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象細胞を死滅させる細胞死滅システム及び細胞死滅方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、癌等の腫瘍を治療する方法として、例えば外科手術、薬物療法(化学療法、抗がん剤治療とも言う)、陽子線や炭素線による粒子線治療を含む各種の放射線治療、免疫療法、超音波温熱療法などが挙げられる。その他にも、経皮的エタノール注入療法、ラジオ波焼灼療法、造血幹細胞移植等のように腫瘍の特性ごとに適用可能な治療法があり、更には複数の治療法を組み合わせて高い治療効果を得る集学的治療も行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2020-505319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、細胞に含まれた水分を利用して衝撃波を発生させるキャビテーション現象によって細胞を破壊して死滅させる方法がある。そして、このような方法は、癌細胞等の病巣細胞の死滅や細菌細胞の死滅にも応用できると考えられている。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その課題は、病巣細胞や細菌細胞等の対象細胞に含まれる水分を利用したキャビテーション現象によって、対象細胞を死滅させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、空気圧の調整によって水分を爆縮させるとともに衝撃波を発生させるキャビテーション現象を、対象物のうち死滅の対象とされた対象細胞が内包する水分に対して起こし、前記衝撃波によって前記対象細胞を破壊して死滅させる細胞死滅システムであって、
空気の流通が可能に構成され、前記対象物のうち前記対象細胞が含まれる対象部位に向かって差し込まれる第一差込部と、
前記第一差込部が接続されたキャビテーション発生装置と、を備えており、
前記キャビテーション発生装置は、前記第一差込部を通じて前記対象部位を負圧化し、前記対象部位の負圧化状態を維持したまま、その負圧の度合いを大きくしたり小さくしたりして、前記対象細胞が内包する前記水分に対して前記キャビテーション現象を起こす工程を繰り返すことで前記衝撃波によって前記対象細胞を破壊することを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の細胞死滅システムにおいて、
前記キャビテーション発生装置は、
前記第一差込部が空気流通可能に接続された調整タンクと、
前記調整タンクに接続されて当該調整タンクの内部を真空吸引する真空ポンプと、
前記調整タンクに設けられるとともに開閉可能に構成され、前記調整タンクの内部に空気を送り込むための空気流入弁と、
前記空気流入弁の開閉動作を制御する制御部と、を有しており、
前記制御部は、前記真空ポンプによって前記調整タンクの内部の真空吸引を行っている最中に前記空気流入弁の開閉動作を制御し、前記調整タンクの内部における空気圧の調整を行うことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の細胞死滅システムにおいて、
空気の流通が可能に構成され、前記対象物のうち前記対象部位の周囲における前記対象細胞が含まれない正常部位に差し込まれる第二差込部と、
前記第二差込部が接続された負圧化防止装置と、を更に備えており、
前記負圧化防止装置は、前記キャビテーション発生装置が前記対象部位の負圧化状態を維持している最中に、前記第二差込部を通じて前記正常部位を正圧化することを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の細胞死滅システムにおいて、
前記第一差込部は、
前記対象部位に向かって穿刺される穿刺部と、
前記穿刺部と前記キャビテーション発生装置とを接続する接続管と、を有しており、
前記穿刺部は、
前記接続管と連通する管状の穿刺部本体と、
前記穿刺部本体の前記対象部位への差込方向における先端に位置し、前記穿刺部本体よりも大径に設定された先端部と、
前記穿刺部本体のうち前記先端部との間に間隔を空けた位置に設けられ、前記穿刺部本体よりも大径に設定されて外周方向に張り出した張出部と、
前記穿刺部本体に貫通形成された複数の吸引孔と、を備えており、
前記複数の吸引孔は、前記穿刺部本体のうち前記先端部及び前記張出部よりも前記差込方向の基端側に位置し、かつ、前記先端部及び前記張出部の縁部に沿って形成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の細胞死滅システムにおいて、
前記第一差込部は、前記生体の空洞部を通過するようにして前記対象部位に向かって差し込まれ、先端部で前記対象部位を包囲する管状に形成されており、
前記第一差込部の先端部は、前記対象部位を負圧化するときに、前記対象部位を包囲した状態で、前記対象部位の周囲における前記生体の空洞部表面に密着することを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項1から5のいずれか一項に記載の細胞死滅システムにおいて、
非侵襲的に前記対象部位の治療を行うための非侵襲的治療装置を更に備えることを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項1から6のいずれか一項に記載の細胞死滅システムにおいて、
前記対象物のうち前記対象部位に向かって差し込まれる第三差込部と、
前記第三差込部が接続された対象部位判別装置と、を更に備えており、
前記対象部位判別装置は、前記第三差込部に流された電流の抵抗値に基づいて、前記対象細胞が含まれる前記対象部位と、前記対象細胞が含まれない正常部位と、の判別を行うことを特徴とする。
【0013】
請求項8に記載の発明は、請求項1から7のいずれか一項に記載の細胞死滅システムによって、前記対象細胞を破壊して死滅させる細胞死滅方法であって、
前記第一差込部を、前記対象物のうち前記対象細胞が含まれる前記対象部位に向かって差し込んだ後、
前記キャビテーション発生装置によって、前記第一差込部を通じて前記対象部位を負圧化し、前記対象部位の負圧化状態を維持したまま、その負圧の度合いを大きくしたり小さくしたりして、前記対象細胞が内包する前記水分に対して前記キャビテーション現象を起こす工程を繰り返すことで前記衝撃波によって前記対象細胞を破壊することを特徴とする。
【0014】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の細胞死滅方法において、
前記対象部位の負圧化状態を維持したまま、当該対象部位に薬剤を注入する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、病巣細胞や細菌細胞等の対象細胞に含まれる水分を利用したキャビテーション現象によって、対象細胞を死滅させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】細胞死滅システムの構成を示す概略図である。
図2】第一差込部における穿刺部の構成について説明する断面図である。
図3】第一差込部及び第二差込部の使用例を説明する断面図である。
図4】キャビテーション現象について説明する概略図である。
図5】放射線治療装置を併用する場合について説明する図である。
図6】第三差込部及び対象部位判別装置について説明する図である。
図7】第一差込部の変形例について説明する図である。
図8】第一差込部の他の変形例について説明する図である。
図9】薬剤を注入する態様の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の技術的範囲を以下の実施形態および図示例に限定するものではない。
【0018】
図1において符号1は、細胞の死滅が行われる対象物である人(患者)を示す。この患者1は癌患者であり、死滅の対象となる対象細胞100として、病巣細胞、すなわち癌細胞が体内に発生した状態となっている。
なお、本実施形態における対象細胞100は、癌細胞であるとしたが、これに限られるものではなく、良性のポリープを構成する細胞でもよいし、その他の変異・変質した細胞でもよいし、細菌細胞でもよく、ある程度の水分を含む細胞を対象とする。また、癌は、原発性でも転移性でもよい。
【0019】
対象細胞100は、図4に示すように、正常細胞と同様、外側を細胞膜101によって覆われており、細胞膜101によって内部への毒素や異物の侵入を防いでいる。細胞膜101の内部には、図示しない細胞核と細胞質102からなる原形質があり、細胞質102は、細胞質基質の他に様々な細胞小器官を含む。細胞質基質は、細胞骨格、溶解した分子、水分などからなる混合物であり、ゲル状となっている。つまり、対象細胞100は水分を内包した状態となっている。
また、癌細胞である対象細胞100は増殖して腫瘍(以下、対象部位110と称する。病変、病巣、患部などとも言う)となっており、周囲の組織に浸潤している。つまり、対象細胞100は、正常細胞によって構成されて対象細胞100が含まれない正常部位120に対して広がって腫瘍化している。
【0020】
患者1は、図1に示すように、細胞死滅システムによる治療が行われている間は、手術台2に寝かされており、手術台2の脇には、患者1の容態をモニタリングするモニタリング装置3が設置されている。モニタリング装置3では、例えば酸素濃度や脈拍、血圧、尿量、脳波等の各種モニタリングが行われる。また、必要に応じて出血量のモニタリングも行われる。
【0021】
以上のような対象細胞100を破壊して死滅させるための細胞死滅システムは、図1図3に示すように、第一差込部10と、キャビテーション発生装置20と、第二差込部30と、負圧化防止装置40と、圧力監視装置50と、を備えている。
【0022】
第一差込部10は、詳細については後述するが、空気の流通が可能に構成され、患者1の身体のうち対象細胞100が含まれる対象部位110に向かって差し込まれるものであり、キャビテーション発生装置20に接続されている。
【0023】
キャビテーション発生装置20は、空気圧の調整によって水分を爆縮(図4の矢印Ip参照)させるとともに衝撃波(図4の矢印Sw参照)を発生させるキャビテーション現象を、患者1の身体のうち死滅の対象とされた対象細胞100が内包する水分に対して起こすための装置であり、第一差込部10が接続されている。
すなわち、キャビテーション発生装置20は、第一差込部10を通じて対象部位110を負圧化し、対象部位110の負圧化状態を維持したまま、その負圧の度合いを大きくしたり小さくしたりして、対象細胞100が内包する水分に対してキャビテーション現象を起こす工程を繰り返すことで衝撃波Swによって対象細胞100を破壊する。
このようなキャビテーション現象を起こすことを可能とする構成として、キャビテーション発生装置20は、調整タンク21と、真空ポンプ22と、冷却用水槽23と、空気流入弁24と、制御部25と、を有する。
【0024】
調整タンク21は、空洞状に形成されており、通常時には空気のみが入っている状態となっている。タンク壁には、内部と外部とを連通する管状の吸引部21aが一体に設けられており、当該吸引部21aには、真空ポンプ22の吸引管22a(後述する)が接続される。また、図示はしないが、タンク壁の他の部位には、内部を確認できる開口部が形成されており、開口部には、当該開口部を開閉する蓋が設けられている。
このような調整タンク21は、キャビテーション現象の発生時には真空状態又は真空に近い状態となるため、少なくとも大気圧に耐え得る強度と、高い密閉性を有するものとする。
【0025】
真空ポンプ22は、本実施形態においては水封式エルモ型真空ポンプが採用される。水封式エルモ型真空ポンプは、ケーシングにファンを内蔵したもので、ケーシングに吸引口及び吐出口が備えられている。円柱型のファンは、そのファン中心を、円筒型のケーシングに対してケーシング中心に対し20~30mm程度偏心させて組み込まれており、吸引口に吸引管22aが接続されている。この吸引管22aは、調整タンク21の吸引部21aに接続されている。そして、このような水封式エルモ型真空ポンプは、ケーシングに対するファンの偏心ローリング回転によって、調整タンク21の内部から空気(あるいは水蒸気)を、吸引管22aを介して吸引口よりケーシング内に真空吸引して、吐出口から吐出する。
さらに、ケーシングの内部には水が封入されている。すなわち、ケーシングの底部に循環水路が接続されて、この循環水路の先端は、大容量で放熱性に優れる冷却用水槽23に満たされた循環水の内部に導入されている。したがって、ケーシングに対するファンの偏心ローリング回転によって、冷却用水槽23の循環水は、循環水路から真空吸引されて、吐出口から空気中の水分が吐出されるようになっている。
なお、真空ポンプ22の種類は、水封式エルモ型真空ポンプに限られるものではなく、他の真空ポンプであってもよい。
【0026】
空気流入弁24は、調整タンク21の内部に空気を送り込むための電磁弁(電子バルブともいう)であり、調整タンク21のタンク壁に一体に設けられている。そして、調整タンク21の内部と外部とを連通して空気を流入させる管状の流入口と、当該流入口を開閉する弁体と、を備える。
【0027】
制御部25は、空気流入弁24と通信可能に接続されており、空気流入弁24における弁体の開閉動作を制御する制御信号を、予め設定されたタイミングで送信可能となっている。弁体の開閉動作を制御し、弁体を動作さて流入口を開放することで外部の空気が調整タンク21の内部に送り込まれ、弁体を動作させて流入口を閉塞することで調整タンク21の内部に空気が流入しないようにすることができる。
このような制御部25の制御によって、真空ポンプ22によって真空吸引される調整タンク21内部の真空度の強弱を調整することができる。つまり、調整タンク21内部を、高真空(必要に応じて、極高真空・超高真空でもよい)から中真空あるいは低真空までの間の状態に調整することができる。あくまでも、対象部位110の負圧化状態は維持されたままで、その負圧の度合いを大きくしたり小さくしたりする。
弁体の開閉動作を制御するタイミングは、様々な種類のパターンに設定することが可能となっており、本実施形態においては、所定の時間が経過した時に弁体を動作させて流入口を開放し、更に所定の時間が経過した時に弁体を動作させて流入口を閉塞する動作を繰り返すパターンが採用されている。
より具体的には、第一差込部10が対象部位110に差し込まれた後、数分間(本実施形態においては5分)は真空ポンプ22によって高真空で調整タンク21の内部を真空吸引し、その後、数秒間(本実施形態においては5秒)は空気流入弁24の弁体を開放し、その数秒が経過した後は弁体を閉塞する、といったタイミングで弁体を開閉制御するものとする。そして、このような工程を所定時間(本実施形態においては約3時間)の間、繰り返して行うものとする。ただし、弁体の開閉動作を制御するタイミングは、これに限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、弁体を開放している間も、真空ポンプ22による調整タンク21内部の真空吸引は継続されるため、弁体の開放中における調整タンク21の内部は、中真空あるいは低真空までの間の状態に調整されることとなり、これに伴って、弁体の開放中における対象部位110も中真空あるいは低真空までの間の状態に調整されることとなる。
なお、本実施形態においては、真空ポンプ22によるバキューム圧を、空気流入弁24の弁体を閉塞して高真空とするときには、-0.08MPaとし、空気流入弁24の弁体を開放して低真空とするときには、-0.02MPaとする。ただし、バキューム圧は、これに限られるものではなく、真空ポンプ22の能力の範囲内で、かつ、人体に悪影響を及ぼさない範囲で適宜変更である。すなわち、バキューム圧は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更である。
【0028】
なお、真空ポンプ22や制御部25は個別に動作するものとしてもよいが、これらを統合制御装置26に接続し、真空ポンプ22や制御部25を総合的に制御できるようにしてもよい。例えば、制御部25は、上記のように予め設定されたタイミングで空気流入弁24における弁体の開閉動作を制御するが、真空ポンプ22の動作とずれてしまうと、効果的な真空吸引を行うことができない。そこで、統合制御装置26によって真空ポンプ22や制御部25を総合的に制御できれば、真空ポンプ22の動作と、制御部25による空気流入弁24の制御をタイミングよく行うことができる。すなわち、統合制御装置26は、キャビテーション発生装置20におけるコントローラーとして機能することになる。
【0029】
このような統合制御装置26は、CPU、ROM、RAMなどを備えた汎用のコンピュータ(例えばパーソナルコンピュータ、タブレット端末等)により構成され、キャビテーション発生装置20と通信可能に接続されている。より具体的には、真空ポンプ22は、統合制御装置26によってON・OFFスイッチが制御され、制御部25は、制御信号の送信が制御される。
【0030】
また、この統合制御装置26は、細胞死滅システムに採用される各種センサーと通信可能に接続されており、各種センサーのセンシング結果を収集し、そのセンシング結果に基づいてキャビテーション発生装置20の制御を行うことができる。例えば、モニタリング装置3による患者1のモニタリング結果に基づいてキャビテーション発生装置20の稼働をストップしたり、調整タンク21内部の真空度の強弱を調整したりすることができる。
【0031】
なお、統合制御装置26と、当該統合制御装置26以外の他の装置やセンサーとの通信接続は、有線でもよいし、無線でもよい。
【0032】
以上のように構成されたキャビテーション発生装置20は、水封式エルモ型の真空ポンプ22により高真空(P=-0.85~-0.95MPa位)で調整タンク21の内部を真空吸引し、第一差込部10を通じて対象細胞100の水分を1700倍の低温水蒸気に膨張させることができる。また、真空ポンプ22の内部に封入された水を循環水として冷却して使用するため、低温高スチーム(雲)で吸引しても、Q=50(l/min)位までは真空可能で凍結せず、かつ、加熱せずとも対象細胞100を体積膨張させることができる。
すなわち、第一差込部10が接続された調整タンク21に水封式エルモ型の真空ポンプ22を接続し、その真空ポンプ22に循環水路を介して冷却用水槽23内の循環水を接続したため、真空ポンプ22の駆動により調整タンク21内部を常温で真空吸引することで、対象部位110の水分を低温水蒸気で吸引することができる。
【0033】
以上のようなキャビテーション発生装置20の構成を踏まえて、第一差込部10の構成について説明すると、この第一差込部10は、上記のように空気の流通が可能に構成されているため、キャビテーション発生装置20の真空ポンプ22は、調整タンク21及び第一差込部10を通じて対象部位110の真空吸引を行うことができる。
このような第一差込部10は、患者1の身体に穿刺される針状のものであり、対象部位110に向かって穿刺される穿刺部11と、穿刺部11とキャビテーション発生装置20とを接続する接続管16と、を有する。
【0034】
穿刺部11は、図2に示すように、穿刺部本体12と、先端部13と、張出部14と、複数の吸引孔15と、を備えており、全体が一体形成されている。なお、この穿刺部11は、対象部位110に向かって経皮的に穿刺されるか、皮膚内にて直視下で対象部位110に向かって穿刺される。
【0035】
穿刺部本体12は、管状に形成されており、接続管16と連通している。穿刺部本体12の長さは、対象部位110の大きさや対象部位110までの距離に応じて適宜変更されるものとする。
【0036】
先端部13は、穿刺部本体12の対象部位110への差込方向P1における先端に位置し、穿刺部本体12よりも大径に設定されている。なお、先端部13は、丸みを帯びた状態に形成されているが、これに限られるものではなく、鋭利な状態に形成されてもよい。
【0037】
張出部14は、本実施形態においては複数設けられており、穿刺部本体12のうち先端部13との間に間隔を空けた位置に設けられ、穿刺部本体12よりも大径に設定されて外周方向に張り出している。より詳細には、穿刺部本体12の軸回りに環状(ドーナツ状)に形成されており、穿刺部本体12の外周面に凹凸を形成している。
なお、張出部14の数は、穿刺部本体12の長さに応じて適宜変更されるものとする。
【0038】
複数の吸引孔15は、穿刺部本体12に貫通形成されている。より詳細に説明すると、複数の吸引孔15は、穿刺部本体12のうち先端部13及び張出部14よりも差込方向P1の基端側(接続管16側)に位置し、かつ、先端部13及び張出部14の縁部に沿って形成されている。つまり、複数の吸引孔15は、先端部13及び張出部14における先端部13及び張出部14の差込方向P1基端側の際に沿った位置に、穿刺部本体12の壁を貫通した状態で形成されている。また、図3に示すように、複数の吸引孔15は、穿刺部本体12の外周方向にも複数形成されている。
なお、穿刺部本体12の長さ方向に形成される複数の吸引孔15の数は、先端部13及び張出部14の数に対応する。
【0039】
接続管16は、少なくとも大気圧に耐え得る強度と、高い密閉性を有するとともに可撓性を有するホース(チューブ)によって構成されている。
【0040】
先端部13及び張出部14の外周方向への張出寸法は略等しく設定されており、穿刺部11が穿刺された対象部位110は、部分的に先端部13及び張出部14によって押し広げられた状態となる。これにより、対象部位110のうち、先端部13と張出部14との間に位置する部分と、複数の張出部14間に位置する部分は、穿刺部本体12の外周面には密着しにくい状態、もしくは密着しても複数の吸引孔15を完全に閉塞しにくい状態となる。つまり、目詰まりしにくい状態となる。そのため、複数の吸引孔15は、穿刺部11が対象部位110に穿刺された状態で、穿刺部本体12の内外方向に空気を流通させることが可能となっている。
【0041】
第一差込部10(穿刺部11)の本数は、図1においては一本のみ示されているが、例えば図5に示すように、複数用いられてもよい。本数は、対象部位110の大きさや浸潤の範囲に応じて適宜変更可能とされている。
【0042】
以上のように構成された第一差込部10を通じて対象部位110を負圧化する場合は、穿刺部11を、対象部位110に向かって、複数の吸引孔15が対象部位110の範囲に収まるように差し込む(穿刺する)。この状態で複数の吸引孔15は、穿刺部本体12の内外方向に空気を流通させることが可能であるため、真空ポンプ22を稼働して調整タンク21内部を真空状態にすると、穿刺部本体12の内部において矢印V1の方向に吸引が行われ、これに伴って複数の吸引孔15による吸引も行われて対象部位110が負圧化されることとなる。負圧が伝播する範囲(負圧化の効力が届く範囲)においては対象細胞100に含まれる水分が水蒸気として気化し、対象細胞100は体積膨張する。
【0043】
そして、真空ポンプ22によって調整タンク21の内部を真空吸引しながら、空気流入弁24を開閉することで、調整タンク21の内部は、高真空の状態から急激に低真空の状態になる。調整タンク21の内部を真空状態にすると対象細胞100の水分は沸騰して蒸気になるが、その際にキャビティ(気泡)が発生する。その時に、調整タンク21の内部を低真空の状態にすることで気泡圧壊、すなわちキャビテーションが起きる。キャビテーションとは、気泡が爆縮した直後に崩壊して外側に向かって衝撃波を発生する現象を指しており、衝撃波は、水の場合、1ミクロンあたり1000~10000気圧もの圧力に匹敵し、金属であっても壊食(エロージョン)を引き起こすことができる。
すなわち、調整タンク21の内部を真空吸引しながら、空気流入弁24を開閉することで、図4に示すように、対象細胞100が内包する水分に対してキャビテーション(気泡圧壊)を起こさせ、当該水分を爆縮(矢印Ip参照)させるとともに衝撃波(矢印Sw参照)を発生させて、さらに、このキャビテーション現象を起こす工程を繰り返すことで、衝撃波によって対象細胞100を破壊して死滅させることができる(図4の符号100Dは、死滅した対象細胞を示す)。
【0044】
キャビテーション発生装置20による負圧化の効果が届く範囲が、対象部位110の範囲よりも広い場合は、対象部位110の周囲の正常部位120における正常細胞も負圧化の影響を受けてしまう。そのため、上記の第二差込部30及び負圧化防止装置40が用いられる。
【0045】
第二差込部30は、患者1の身体に穿刺される針状のものであり、空気の流通が可能に構成され、患者1の身体のうち対象部位110の周囲における対象細胞100が含まれない正常部位120に差し込まれる。そして、この第二差込部30は、正常部位120に向かって穿刺される穿刺部31と、穿刺部31と負圧化防止装置40とを接続する接続管36と、を有する。
穿刺部31は、第一差込部10における穿刺部11とは異なり、環状に張り出す張出部を有しておらず、先端部も外側に張り出す形状とはなっていない。ただし、穿刺部31の外周壁には複数の貫通孔35が形成されており、穿刺部31の内部と外部とを連通している。
【0046】
第二差込部30(穿刺部31)の本数は、図1においては一本のみ示されているが、例えば図5に示すように、複数用いられてもよい。本数は、対象部位110の大きさや浸潤の範囲に応じて適宜変更可能とされている。
【0047】
負圧化防止装置40は、第二差込部30が接続されており、キャビテーション発生装置20が対象部位110の負圧化状態を維持している最中に、第二差込部30を通じて正常部位120を正圧化する。本実施形態における負圧化防止装置40は、空気を連続して送り出すコンプレッサが採用されている。
なお、この負圧化防止装置40は、統合制御装置26と通信可能に接続されており、統合制御装置26は、負圧化防止装置40におけるコントローラーとして機能し、負圧化防止装置40は、統合制御装置26によってON・OFFスイッチが制御される。また、空気の送り出し量をコントロールできるコンプレッサが採用される場合は、統合制御装置26によって空気の送り出し量を制御することもできる。
【0048】
負圧化防止装置40によって第二差込部30に空気を送り出すと、第二差込部30における穿刺部31に形成された複数の貫通孔35から空気が吹き出し、正常部位120を正圧化することができる。
なお、本実施形態においては負圧化防止装置40としてコンプレッサを採用したが、正常部位120を大気圧にすることができれば、これに限られるものではない。
【0049】
第一差込部10及びキャビテーション発生装置20によって対象部位110の治療を行っている間は、第二差込部30及び負圧化防止装置40によって正常部位120を正圧化する。これにより、正常部位120における正常細胞を保護できるので、患者1の身体の組織を極力傷つけずに治療できるようになっている。
【0050】
続いて、上記の圧力監視装置50は、図示はしないが、第一差込部10及び第二差込部30の内部における圧力をセンシングする圧力センサー(プレッシャーゲージ)を備えている。第一差込部10の接続管16及び第二差込部30の接続管36は、圧力監視装置50のうち圧力センサーを通過するように配管されている。換言すれば、第一差込部10の接続管16及び第二差込部30の接続管36は、圧力センサーの一方側(穿刺部11,31側)と他方側(穿刺部11,31の反対側)の双方の部位が圧力センサーに接続されて、圧力センサーが設けられた箇所を含んで構成されている。
このような圧力監視装置50は、統合制御装置26と通信可能に接続されている。すなわち、統合制御装置26は、圧力センサーのセンシング結果を収集し、そのセンシング結果に基づいてキャビテーション発生装置20及び負圧化防止装置40の制御を行うことができるようになっている。
【0051】
なお、調整タンク21の内部も、上記のように真空吸引されるため負圧化状態となるので、調整タンク21の内部における殺菌も可能となる。つまり、第一差込部10をキャビテーション発生装置20に接続しない状態においては、調整タンク21の内部に殺菌対象の物品を収納し、キャビテーション現象を起こすことによって、当該物品の殺菌を行うことができる。また、調整タンク21の内部の水分は水蒸気化するため、物品の乾燥を行うことも可能となっている。
【0052】
以上のように構成された細胞死滅システムによって対象細胞100を死滅させるには、まず、第一差込部10を、患者1の身体のうち対象細胞100が含まれる対象部位110に向かって差し込む。第一差込部10を複数用いる場合は、複数の第一差込部10を対象部位110に差し込む。
【0053】
次に、第二差込部30を、患者1の身体のうち対象部位110の周囲における対象細胞100が含まれない正常部位120に差し込む。第二差込部30を複数用いる場合は、複数の第二差込部30を正常部位120に差し込む。
【0054】
続いて、キャビテーション発生装置20と負圧化防止装置40を同時に稼働する。
すなわち、キャビテーション発生装置20によって、第一差込部10を通じて対象部位110を負圧化し、対象部位110の負圧化状態を維持したまま、その負圧の度合いを大きくしたり小さくしたりして、対象細胞100が内包する水分に対してキャビテーション現象を起こす工程を繰り返すことで衝撃波Swによって対象細胞100を破壊する。これによって、対象細胞100を、死滅した対象細胞100Dとすることができる。死滅した対象細胞110Dが含まれる対象部位110は、例えば内視鏡や腹腔鏡等によって切除するか、他の方法によって体内から取り出すようにする。
さらに、キャビテーション発生装置20が対象部位110の負圧化状態を維持している最中に、負圧化防止装置40によって、第二差込部30を通じて正常部位120を正圧化する。
【0055】
以上のような簡易な方法によって、対象部位110における対象細胞100を死滅させることができる。
治療が行われている最中は、モニタリング装置3及び圧力監視装置50によるモニタリング結果やセンシング結果に基づいて、キャビテーション発生装置20の稼働をストップしたり、調整タンク21内部の真空度の強弱を調整したりすることができる。キャビテーション発生装置20の稼働をストップする場合は、負圧化防止装置40の稼働も同時にストップしてよい。
【0056】
また、以上のようなキャビテーション発生装置20と他の治療装置とを併用して、いわゆる集学的治療を行ってもよい。本実施形態においては、図5に示すように、細胞死滅システムが、対象部位110に放射線Rを照射する放射線治療装置(図示省略)を更に備えている。
放射線治療装置は、手術台2の周囲に設けられて患者1の身体に向かって放射線Rを照射する照射部を少なくとも有しており、放射線Rの照射によって対象細胞100を死滅することができる。
【0057】
なお、この放射線治療装置も、統合制御装置26と通信可能に接続されて、統合制御装置26による制御が可能となっていてもよい。
また、他の治療装置として、本実施形態においては放射線治療装置を採用したが、これに限られるものではなく、例えば、超音波振動子によって対象細胞100を焼灼壊死する高強度集束超音波(high-intensity focused ultra-sound: HIFU)装置や、陽子線や重粒子線による粒子線治療装置、対象細胞100の水分に対して分子間振動(水分子の回転)を起こして発熱させるためのマイクロ波によるマイクロ波治療器(例えばマグネトロンであり、マグネトロンを利用した電子レンジの場合、水分子は、1秒間に24億5000万回の回転が起きる)などを適宜採用してもよい。すなわち、超音波や各種の放射線・電磁波等(陽子線、重粒子線、ガンマ線、X線、電子線、マイクロ波等)によって体外から非侵襲的に対象部位110の治療を行うための非侵襲的治療装置を適宜採用し、キャビテーション発生装置20による治療との相乗効果を狙ってもよいものとする。
【0058】
また、対象部位110は、患者1の身体の部位によっては場所が判別しづらい、という問題がある。そこで、本実施形態における細胞死滅システムは、図6に示すように、患者1の身体のうち対象部位110に向かって差し込まれる第三差込部60と、第三差込部60が接続された対象部位判別装置70と、を更に備えている。
対象部位判別装置70は、第三差込部60に流された電流の抵抗値に基づいて、対象細胞100が含まれる対象部位110と、対象細胞100が含まれない正常部位120と、の判別を行うものである。対象細胞100が含まれる対象部位110と、対象細胞100が含まれない正常部位120では、内包する水分の量に差があり、水分の多い方が電気抵抗が小さくなるため、その水分量の差によって判別できるようになっている。
このような対象部位判別装置70は、図示はしないが、第三差込部60に電流を流す電源部と、電源部から第三差込部60への電流の流れにくさ(電気抵抗)を測定する測定部と、を有する。患者1の身体のうち複数の箇所に第三差込部60を穿刺してその電気抵抗を測定すれば、対象部位110の位置を判別することができる。これにより、見当違いの箇所に第一差込部10を穿刺することを防ぐことができるので、適切な治療を行うことができる。また、対象部位110が、隆起しておらず、平坦型や陥凹型であって見つけにくい場合でも対象部位判別装置70によって判別できる。
【0059】
また、本実施形態における第三差込部60は、一本の針(第三差込部60)を、差込方向P2に沿って複数のセクション61に分けて、セクション61ごとに電流を流せるとともに、セクション61ごとに電気抵抗を測定できるように構成されている。
これにより、一本の針(第三差込部60)の、どの位置(どのセクション61)が対象部位110に接触しているのか、あるいは正常部位120に接触しているのかが判別できる。そのため、患者1の身体に穿刺される針の本数を極力減らすことができ、患者1の負担を軽減できる。
【0060】
なお、この対象部位判別装置70も、統合制御装置26と通信可能に接続されて、統合制御装置26による制御が可能となっていてもよい。
【0061】
本実施形態によれば、以下のような優れた効果を奏する。
キャビテーション発生装置20は、第一差込部10を通じて対象部位110を負圧化し、対象部位110の負圧化状態を維持したまま、その負圧の度合いを大きくしたり小さくしたりして、対象細胞100が内包する水分に対してキャビテーション現象を起こす工程を繰り返すことで衝撃波によって対象細胞100を破壊するので、例えば癌細胞のような病巣細胞や細菌細胞等の対象細胞100に含まれる水分を利用したキャビテーション現象によって、対象細胞100を死滅させることができる。
すなわち、対象部位110を負圧化して対象細胞100の水分を水蒸気として気化して体積膨張させることができる。そして、対象部位110の負圧化状態を維持したまま、その負圧の度合いを小さくして水蒸気を液体に戻すときに対象細胞100が内包する水分に対してキャビテーション現象が起きることとなる。つまり、空気圧の調整によって水分を爆縮させるとともに衝撃波を発生させることができる。このようなキャビテーション現象を繰り返し起こすことで衝撃波が繰り返し発生するため、対象細胞100は衝撃波によって破壊されて死滅することになる。
【0062】
また、調整タンク21の内部を真空状態とすることで、第一差込部10を通じて対象部位110を負圧化でき、制御部25によって空気流入弁24の開閉動作を制御することで、調整タンク21の内部の空気圧を調整することができ、これにより、対象部位110の負圧化状態を維持したまま、その負圧の度合いを大きくしたり小さくしたりすることができる。その結果、病巣細胞や細菌細胞等の対象細胞100に含まれる水分を利用したキャビテーション現象によって、対象細胞100である病巣細胞や細菌細胞を死滅させることができる。
【0063】
また、正常部位120に差し込まれる第二差込部30が接続された負圧化防止装置40は、キャビテーション発生装置20が対象部位110の負圧化状態を維持している最中に、第二差込部30を通じて正常部位120を正圧化するので、正常部位120がキャビテーション発生装置20によって負圧化して、正常部位120の正常細胞が破壊されることを防ぐことができる。
【0064】
また、対象部位110に向かって穿刺される穿刺部11は、管状の穿刺部本体12と、穿刺部本体12よりも大径に設定された先端部13と、穿刺部本体12よりも大径に設定されて外周方向に張り出した張出部14と、穿刺部本体12に貫通形成された複数の吸引孔15と、を備えているので、複数の吸引孔15から空気を吸引して、対象部位110を負圧化することができる。
さらに、対象部位110に向かって穿刺部11が穿刺されると、対象部位110は部分的に先端部13及び張出部14によって押し広げられた状態となる。そして、複数の吸引孔15は、穿刺部本体12のうち先端部13及び張出部14よりも差込方向P1の基端側に位置し、かつ、先端部13及び張出部14の縁部に沿って形成されているので、これら複数の吸引孔15は、先端部13及び張出部14によって押し広げられた対象部位110が密着しにくく、塞がれにくくなり、複数の吸引孔15から空気を吸引しやすくなる。
【0065】
また、細胞死滅システムは、対象部位110に放射線Rを照射する放射線治療装置を更に備えるので、放射線治療装置によって対象細胞100を死滅することができる。すなわち、キャビテーション発生装置20によってキャビテーション現象を繰り返し起こすことで、対象細胞100を衝撃波によって破壊して死滅させながら、放射線治療装置によって対象細胞100を死滅させるので、対象部位110における対象細胞100を極力多く死滅することができる。
【0066】
また、第三差込部60が接続された対象部位判別装置70は、第三差込部60に流された電流の抵抗値に基づいて、対象細胞100が含まれる対象部位110と、対象細胞100が含まれない正常部位120と、の判別を行うので、対象細胞100が含まれる対象部位110の位置を探り当てることができる。したがって、第三差込部60が接続された対象部位判別装置70によって、対象細胞100が含まれる対象部位110の位置を予め判明させておけば、第一差込部10を正確な位置に向かって差し込むことができ、適切な治療を行うことができる。
【0067】
〔変形例〕
なお、本発明を適用可能な実施形態は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。以下、変形例について説明する。以下に挙げる変形例は可能な限り組み合わせてもよい。また、以下の各変形例において、上述の実施形態と共通する要素については、共通の符号を付し、説明を省略又は簡略する。
【0068】
〔変形例1〕
上記の実施形態における第一差込部10は、患者1の身体に穿刺される針として形成されたものであるが、本変形例における第一差込部80は、図7に示すように、患者1の身体における空洞部1aを通過するようにして対象部位110に向かって差し込まれ、先端部81で対象部位110を包囲する管状に形成されている。
ここで、患者1の身体における空洞部1aとは、例えば食道や胃、腸、あるいは肺などのように内視鏡を通過させることが可能な管状の部位を指す。また、本変形例における対象部位110は、比較的小さく、表在して隆起しており、良性ポリープであってもよい。
なお、符号1bはリンパ管である(リンパ節でもよい)。
【0069】
本変形例における第一差込部80の先端部81は、対象細胞100が含まれる対象部位110を負圧化するときに、対象部位110を包囲した状態で、対象部位110の周囲における空洞部1a表面に密着する。そして、キャビテーション発生装置20を稼働させると、対象部位110と、その周囲の組織を負圧化することができる。なお、符号V2は吸引方向である。
このように対象部位110と、その周囲の組織を負圧化すると、対象部位110における対象細胞100及び周囲の組織における細胞が内包する水分に対してキャビテーション現象を起こすことができ、キャビテーション現象を起こす工程を繰り返すことで衝撃波によって対象細胞100を破壊することができる。つまり、対象細胞100を死滅させることができる。
【0070】
対象細胞100を死滅させた状態の対象部位110は、結紮具82によって結紮切除される。なお、結紮具82は、図7に示すように、第一差込部80とは別体に設けられるものであってもよいが、第一差込部80と一体的に設けられて、第一差込部80と同時に対象部位110に向かって差し込まれるものとしてもよい。
【0071】
本変形例によれば、第一差込部80は、患者1の身体の空洞部1aを通過して対象部位110に向かって差し込まれ、先端部81で対象部位110を包囲する管状に形成されており、第一差込部80の先端部81は、対象部位110を負圧化するときに、対象部位110を包囲した状態で、対象部位110の周囲における空洞部1a表面に密着するので、第一差込部80の先端部81が密着した空洞部1aの表面とその周囲を負圧化することができる。これにより、対象部位110が空洞部1aの表面に露出する場合に、当該対象部位110を負圧化することができる。
【0072】
〔変形例2〕
本変形例における第一差込部90は、図8に示すように、患者1の身体における空洞部1aを通過するようにして対象部位110に向かって差し込まれ、先端部91で対象部位110を包囲する管状に形成されている。
ここで、本変形例における対象部位110は、比較的大きく(範囲が広い)、表在して隆起しており、リンパ管1bまで浸潤した悪性腫瘍である。なお、隆起していない場合であってもよい。
【0073】
第一差込部90の先端部91は、図8(b)に示すように、対象部位110を包囲できる径まで拡張可能に構成されている。
【0074】
本変形例における第一差込部90の先端部91は、対象細胞100が含まれる対象部位110を負圧化するときに、対象部位110を包囲した状態で、対象部位110の周囲における空洞部1a表面に密着する。そして、キャビテーション発生装置20を稼働させると、対象部位110と、その周囲の組織を負圧化することができる。なお、符号V3は吸引方向である。
このように対象部位110と、その周囲の組織を負圧化すると、対象部位110における対象細胞100及び周囲の組織における細胞が内包する水分に対してキャビテーション現象を起こすことができ、キャビテーション現象を起こす工程を繰り返すことで衝撃波によって対象細胞100を破壊することができる。つまり、対象細胞100を死滅させることができる。
【0075】
対象細胞100を死滅させた状態の対象部位110は、図示しない内視鏡によって切除してもよいし、上記の結紮具82を用いて切除してもよい。
【0076】
本変形例によれば、上記の変形例1と同様の効果を奏するとともに、先端部91が、対象部位110を包囲できる径まで拡張可能に構成されているので、対象部位110の範囲が広かったり隆起が大きかったりする場合であっても、対象部位110を確実に包囲することができ、当該対象部位110を負圧化することができる。
【0077】
〔変形例3〕
上記の実施形態においては、キャビテーション発生装置20によって、第一差込部10(穿刺部11)を通じて対象部位110を負圧化し、対象部位110の負圧化状態を維持したまま、その負圧の度合いを大きくしたり小さくしたりして、対象細胞100が内包する水分に対してキャビテーション現象を起こす工程を繰り返すことで衝撃波Swによって対象細胞100を破壊していた。本変形例においては、このような一連の工程の中に、対象部位110の負圧化状態を維持したまま、当該対象部位110に薬剤134を注入する工程を組み込むようにする。
【0078】
なお、本変形例における薬剤134は、抗がん剤を指すものとする。抗がん剤は、一種類の抗がん剤でもよいし、複数種類の抗がん剤を混合したものでもよい。また、本変形例における薬剤134は抗がん剤であるが、対象部位110に注入されて薬効を発揮する他の薬剤でもよい。
【0079】
薬剤134の注入は薬剤注入具130によって行われる。薬剤注入具130は、例えば図9に示すような注射器が好適に採用される。
薬剤注入具130は、筒状に形成されて薬剤134が充填される容器部131と、容器部131の一端部側から内部に挿入されて薬剤134を押し出す押し子132と、容器部131の他端部に設けられた管状の穿刺部133と、を備える。
なお、管状の穿刺部133は、経皮的に穿刺されて対象部位110に届く長さに設定されている。また、穿刺部133は、容器部131とチューブ(図示省略)によって接続されてもよい。
【0080】
薬剤注入具130によって対象部位110に薬剤134を注入する際は、キャビテーション発生装置20によって対象部位110の負圧化状態を維持したまま行うものとする。
なお、キャビテーション発生装置20による負圧化状態の維持は、複数の第一差込部10が対象部位110に差し込まれて施術が開始された後、衝撃波Swによって対象細胞100を破壊する施術が一定程度完了するまで行われる。
【0081】
薬剤注入具130による対象部位110への薬剤134の注入は、施術開始から完了までの間の負圧化状態が維持されている時間のうち所定のタイミングで行われる。
より具体的に説明すると、本変形例においては、衝撃波Swによって対象細胞100を破壊する工程が完了する直前とする。すなわち、衝撃波Swによって対象細胞100を破壊した直後、対象部位110の負圧化状態を維持したまま、薬剤注入具130によって対象部位110に薬剤134を注入する。そして、薬剤134が対象部位110に浸透したら、対象部位110の負圧化を終了する。
ただし、薬剤134の注入を開始するタイミングは、これに限られるものではなく、衝撃波Swによって対象細胞100を破壊している最中に行ってもよい。また、薬剤134の注入と、衝撃波Swによる対象細胞100の破壊を交互に複数回行ってもよい。いずれの場合も、薬剤134が対象部位110に浸透したら、対象部位110の負圧化を終了する。
【0082】
なお、衝撃波Swによって対象細胞100を破壊する時間は、対象部位110の大きさに比例する。したがって、本変形例においては、負圧化防止装置40及び第二差込部30を用いなくてもよい。すなわち、対象部位110の大きさに合わせて時間を調整することで、負圧化防止装置40及び第二差込部30による正常部位120の正圧化を省略することができる。これにより、第二差込部30の穿刺を省略できるので、患者1の身体への負担を軽減できる。
【0083】
また、本変形例においては、上記の実施形態における対象部位判別装置70及び第三差込部60を併用してもよい。すなわち、対象部位判別装置70は、水分量の多少を判別できるため、対象部位110の負圧化状態の維持が十分に行われているか否かを、対象部位判別装置70及び第三差込部60によって判別することができる(負圧化状態の維持が十分に行われていると水分は少ない)。また、同様に、対象部位110に対して薬剤134が浸透しているか否かも、対象部位判別装置70及び第三差込部60によって判別することができる。
【0084】
本変形例によれば、キャビテーション発生装置20によって対象部位110の負圧化状態を維持したまま、薬剤注入具130によって対象部位110に薬剤134を注入するので、負圧化状態で水分の少なくなった対象部位110に薬剤134を十分に浸透させることができる。これにより、例えば対象部位110を負圧化状態にしないまま薬剤134を注入した場合よりも効果的に薬効を発揮することが期待できる。
【符号の説明】
【0085】
1 患者
10 第一差込部
11 穿刺部
12 穿刺部本体
13 先端部
14 張出部
15 吸引孔
16 接続管
20 キャビテーション発生装置
21 調整タンク
22 真空ポンプ
24 空気流入弁
25 制御部
26 統合制御装置
30 第二差込部
40 負圧化防止装置
50 圧力監視装置
60 第三差込部
70 対象部位判別装置
80 第一差込部
90 第一差込部
100 対象細胞
100D 死滅した対象細胞
101 細胞膜
102 細胞質
110 対象部位
120 正常部位
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9