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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128179
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】パラメータ推定装置および方法
(51)【国際特許分類】
   G05B 11/36 20060101AFI20230907BHJP
   G05B 13/02 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
G05B11/36 501B
G05B13/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032348
(22)【出願日】2022-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 雅人
【テーマコード(参考)】
5H004
【Fターム(参考)】
5H004GA03
5H004GA07
5H004HA01
5H004HB01
5H004KA69
5H004KB02
5H004KB04
5H004KB06
5H004KC53
5H004KC55
5H004LB05
(57)【要約】
【課題】オーバーシュート抑制機能のための適切なパラメータの決定・調整を効率化する。
【解決手段】パラメータ推定装置1は、制御装置2のオーバーシュート抑制機能が無効の状態において外乱印加前後の整定時における操作量MVの変化分を検出する操作量差検出部10と、オーバーシュート量の最大値を検出するオーバーシュート量検出部11と、外乱偏差の最大値を検出する外乱偏差検出部12と、制御装置2に設定されている比例帯を取得する比例帯取得部13と、操作量MVの変化分と比例帯に基づいて、オーバーシュート抑制のための制御装置2の偏差補正において確保されるべき補正後偏差を推定する補正後偏差推定部14と、オーバーシュート量の最大値と外乱偏差の最大値との比率と、補正後偏差に基づいて、偏差補正のためのパラメータの適正値を算出する適正値算出部15を備える。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御装置が設定値と制御量との偏差を補正して前記制御量のオーバーシュートを抑制する機能が無効の状態において、前記制御量に外乱が印加されたときに外乱印加前の整定時に前記制御装置から制御対象に出力されていた操作量に対して外乱印加後の整定時に出力された前記操作量の変化分を検出するように構成された操作量差検出部と、
前記外乱が印加された後に発生した前記制御量のオーバーシュート量の最大値を検出するように構成されたオーバーシュート量検出部と、
前記外乱が印加されたときの外乱偏差の最大値を検出するように構成された外乱偏差検出部と、
前記制御装置に設定されているPIDパラメータ中の比例帯を取得するように構成された比例帯取得部と、
前記操作量の変化分と前記比例帯とに基づいて、オーバーシュート抑制のための前記制御装置の偏差補正において確保されるべき補正後偏差を推定するように構成された補正後偏差推定部と、
前記オーバーシュート量の最大値と前記外乱偏差の最大値との比率と、前記補正後偏差とに基づいて、前記偏差補正のためのパラメータξの適正値を算出するように構成された適正値算出部と、
前記パラメータξの適正値を出力するように構成された適正値出力部とを備えることを特徴とするパラメータ推定装置。
【請求項2】
請求項1記載のパラメータ推定装置において、
前記適正値算出部は、前記オーバーシュート量の最大値と前記外乱偏差の最大値との比率と、前記パラメータξとに基づいて、前記制御装置において前記偏差補正と等価な設定値補正を行った後の前記設定値に対する前記制御量のオーバーシュート量を推定し、このオーバーシュート量が、前記偏差に前記パラメータξを乗算した偏差補正量に対して規定された割合以下になるように前記パラメータξを修正することを特徴とするパラメータ推定装置。
【請求項3】
制御装置が設定値と制御量との偏差を補正して前記制御量のオーバーシュートを抑制する機能が無効の状態において、前記制御量に外乱が印加されたときに外乱印加前の整定時に前記制御装置から制御対象に出力されていた操作量に対して外乱印加後の整定時に出力された前記操作量の変化分を検出する第1のステップと、
前記外乱が印加された後に発生した前記制御量のオーバーシュート量の最大値を検出する第2のステップと、
前記外乱が印加されたときの外乱偏差の最大値を検出する第3のステップと、
前記制御装置に設定されているPIDパラメータ中の比例帯を取得する第4のステップと、
前記操作量の変化分と前記比例帯とに基づいて、オーバーシュート抑制のための前記制御装置の偏差補正において確保されるべき補正後偏差を推定する第5のステップと、
前記オーバーシュート量の最大値と前記外乱偏差の最大値との比率と、前記補正後偏差とに基づいて、前記偏差補正のためのパラメータの適正値を算出する第6のステップと、
前記パラメータの適正値を出力する第7のステップとを含むことを特徴とするパラメータ推定方法。
【請求項4】
請求項3記載のパラメータ推定方法において、
前記第6のステップは、前記オーバーシュート量の最大値と前記外乱偏差の最大値との比率と、前記パラメータξとに基づいて、前記制御装置において前記偏差補正と等価な設定値補正を行った後の前記設定値に対する前記制御量のオーバーシュート量を推定し、このオーバーシュート量が、前記偏差に前記パラメータξを乗算した偏差補正量に対して規定された割合以下になるように前記パラメータξを修正するステップを含むことを特徴とするパラメータ推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置のパラメータを推定する技術に係り、特にオーバーシュート抑制機能のためのパラメータを推定するパラメータ推定装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
代表的なフィードバック制御であるPID制御の動作には、例えば温度制御系における外乱印加時のリカバリー制御(外乱リカバリー応答)があり、加熱装置などの保温性が高いことなどの要因により、制御量にオーバーシュートが発生することが多い。
【0003】
図10の加熱装置は、処理対象のワークを加熱する熱処理炉100と、電気ヒータ101と、熱処理炉100内の温度を計測する温度センサ102と、熱処理炉100内の温度を制御する温調計103と、電力調整器104と、電力供給回路105と、加熱装置全体を制御するPLC(Programmable Logic Controller)106とから構成される。温調計103は、温度センサ102が計測した温度PV(制御量)が温度設定値SPと一致するように操作量MVを算出する。電力調整器104は、操作量MVに応じた電力を決定し、この決定した電力を電力供給回路105を通じて電気ヒータ101に供給する。
【0004】
図11は、図10に示したような加熱装置の温度制御中に発生したオーバーシュートの例を示す図である。図11の例では、温度制御中に制御量PVが下降する外乱が発生し、外乱に応じた操作量MVが温調計103から出力され外乱リカバリー制御が行われたときに、過剰な操作量修正によって制御量PVが温度設定値SP=300℃を超過するオーバーシュートが発生した例を示している。
【0005】
図11のような現象に対応するため、オーバーシュート抑制機能が提案されている(特許文献1参照)。特許文献1に開示された技術では、外乱印加時の前半(図11の降温時)はパラメータξにより設定値SPと制御量PVとの偏差Er(=SP-PV)の補正量Erxを算出し、外乱印加時の後半(収束時)はパラメータλにより補正量Erxを算出する。
【0006】
具体的には、偏差Erが正または負の値で、その絶対値|Er|が増大するときに外乱が印加されたと判定し、偏差補正量Erxを次式のように算出する。
Erx=ξEr ・・・(1)
【0007】
パラメータξは例えば0.8である。続いて、偏差補正量Erxが一定規則で徐々に0に収束するように収束演算を行う。具体的には、収束演算後の偏差補正量Erx’を次式のように算出する。
Erx’=λErx ・・・(2)
【0008】
パラメータλ(0<λ<1)は例えばλ=0.95である。以上のような偏差補正量Erx’によって偏差Erを補正(Er-Erx’)することにより、オーバーシュートを抑制する。特許文献1に開示された技術の効果を図12に示す。なお、図12では、偏差補正量Erx’の代わりに、補正後の設定値SPh=SP-Erx’を示している。特許文献1に開示されているように、Er-Erx’という偏差補正は、(SP-Erx’)-PVという設定値補正と等価である。
【0009】
特許文献1に開示された技術では、パラメータξを定数としている。対象とする制御系に特有の適切なパラメータξの数値を決定できれば、頻繁に数値変更をする必要はない。しかしながら、特許文献1に開示された従来では、適切なパラメータξを決定する技術が実現できていない、という課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3437807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、制御装置のオーバーシュート抑制機能のための適切なパラメータの決定・調整を効率化することができるパラメータ推定装置および方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のパラメータ推定装置は、制御装置が設定値と制御量との偏差を補正して前記制御量のオーバーシュートを抑制する機能が無効の状態において、前記制御量に外乱が印加されたときに外乱印加前の整定時に前記制御装置から制御対象に出力されていた操作量に対して外乱印加後の整定時に出力された前記操作量の変化分を検出するように構成された操作量差検出部と、前記外乱が印加された後に発生した前記制御量のオーバーシュート量の最大値を検出するように構成されたオーバーシュート量検出部と、前記外乱が印加されたときの外乱偏差の最大値を検出するように構成された外乱偏差検出部と、前記制御装置に設定されているPIDパラメータ中の比例帯を取得するように構成された比例帯取得部と、前記操作量の変化分と前記比例帯とに基づいて、オーバーシュート抑制のための前記制御装置の偏差補正において確保されるべき補正後偏差を推定するように構成された補正後偏差推定部と、前記オーバーシュート量の最大値と前記外乱偏差の最大値との比率と、前記補正後偏差とに基づいて、前記偏差補正のためのパラメータξの適正値を算出するように構成された適正値算出部と、前記パラメータξの適正値を出力するように構成された適正値出力部とを備えることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明のパラメータ推定装置の1構成例において、前記適正値算出部は、前記オーバーシュート量の最大値と前記外乱偏差の最大値との比率と、前記パラメータξとに基づいて、前記制御装置において前記偏差補正と等価な設定値補正を行った後の前記設定値に対する前記制御量のオーバーシュート量を推定し、このオーバーシュート量が、前記偏差に前記パラメータξを乗算した偏差補正量に対して規定された割合以下になるように前記パラメータξを修正することを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明のパラメータ推定方法は、制御装置が設定値と制御量との偏差を補正して前記制御量のオーバーシュートを抑制する機能が無効の状態において、前記制御量に外乱が印加されたときに外乱印加前の整定時に前記制御装置から制御対象に出力されていた操作量に対して外乱印加後の整定時に出力された前記操作量の変化分を検出する第1のステップと、前記外乱が印加された後に発生した前記制御量のオーバーシュート量の最大値を検出する第2のステップと、前記外乱が印加されたときの外乱偏差の最大値を検出する第3のステップと、前記制御装置に設定されているPIDパラメータ中の比例帯を取得する第4のステップと、前記操作量の変化分と前記比例帯とに基づいて、オーバーシュート抑制のための前記制御装置の偏差補正において確保されるべき補正後偏差を推定する第5のステップと、前記オーバーシュート量の最大値と前記外乱偏差の最大値との比率と、前記補正後偏差とに基づいて、前記偏差補正のためのパラメータの適正値を算出する第6のステップと、前記パラメータの適正値を出力する第7のステップとを含むことを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明のパラメータ推定方法の1構成例において、前記第6のステップは、前記オーバーシュート量の最大値と前記外乱偏差の最大値との比率と、前記パラメータξとに基づいて、前記制御装置において前記偏差補正と等価な設定値補正を行った後の前記設定値に対する前記制御量のオーバーシュート量を推定し、このオーバーシュート量が、前記偏差に前記パラメータξを乗算した偏差補正量に対して規定された割合以下になるように前記パラメータξを修正するステップを含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、操作量差検出部とオーバーシュート量検出部と外乱偏差検出部と比例帯取得部と補正後偏差推定部と適正値算出部と適正値出力部とを設けることにより、制御装置のオーバーシュート抑制機能のための適切なパラメータξの決定・調整を効率化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、本発明の実施例に係るパラメータ推定装置の構成を示すブロック図である。
図2図2は、本発明の実施例に係る制御装置の動作を説明するフローチャートである。
図3図3は、本発明の実施例に係るパラメータ推定装置の動作を説明するフローチャートである。
図4図4は、従来の技術を適用した制御装置による外乱リカバリー応答のシミュレーション結果を示す図である。
図5図5は、従来のオーバーシュート抑制機能を無効にした制御装置による外乱リカバリー応答のシミュレーション結果を示す図である。
図6図6は、パラメータを適正値に調整した後の制御装置による外乱リカバリー応答のシミュレーション結果を示す図である。
図7図7は、従来のオーバーシュート抑制機能を無効にした制御装置による外乱リカバリー応答のシミュレーション結果を示す図である。
図8図8は、パラメータを適正値に調整した後の制御装置による外乱リカバリー応答のシミュレーション結果を示す図である。
図9図9は、本発明の実施例に係るパラメータ推定装置と制御装置を実現するコンピュータの構成例を示すブロック図である。
図10図10は、加熱装置の構成を示すブロック図である。
図11図11は、加熱装置の温度制御中に発生したオーバーシュートの例を示す図である。
図12図12は、従来のオーバーシュート抑制機能の効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[発明の原理]
以下の説明では、設定値SPを補正するという解釈で発明の原理を説明する。設定値SPを補正する動作として捉えると、特許文献1に開示された技術の動作は、制御量PVの下降に同調して、パラメータξで規定される比率で補正された設定値SPg(=SP-Erx)も下降する。すなわち、実際の偏差ErよりもPID演算に入力される偏差が少なくなり、偏差の減少に対応して操作量MVの変化分も少なくなる。このとき、オーバーシュートに寄与してしまう操作量MVの分だけ少なくなるのが適切と考えると、外乱リカバリー応答の前後での整定時の操作量MVの変化分ΔMVが残るような設定値SPの補正が好ましい。
【0019】
外乱には、大きく分けてステップ外乱とインパルス外乱があり、ステップ外乱では操作量MVの変化分ΔMVが発生し、インパルス外乱では発生しない。この両者の混合がパラメータξの決定を難しくしているのであるから、少なくとも1回の外乱リカバリー応答を試行し、その際の操作量MVの変化分ΔMVに応じてパラメータξを決定するように規定すればよい。
【0020】
なお、本発明では、例えばパラメータλを適切に調整した後に、パラメータξに関わる制御対象や外乱の性質の変化があった場合などを想定しているが、パラメータξを調整した後に、パラメータλを試行錯誤で調整することも可能である。
【0021】
[実施例]
以下、本発明の実施例について図面を参照して説明する。図1は本発明の実施例に係るパラメータ推定装置の構成を示すブロック図である。パラメータ推定装置1は、制御装置2が設定値SPと制御量PVとの偏差Erを補正して制御量PVのオーバーシュートを抑制する機能が無効の状態において、制御量PVに外乱が印加されたときに外乱印加前の整定時に制御装置2から制御対象に出力されていた操作量MVに対して外乱印加後の整定時に出力された操作量MVの変化分ΔMVを検出する操作量差検出部10と、外乱が印加された後に発生した制御量PVのオーバーシュート量の最大値OS_maxを検出するオーバーシュート量検出部11と、外乱が印加されたときの外乱偏差の最大値Er_maxを検出する外乱偏差検出部12と、制御装置2に設定されているPIDパラメータ中の比例帯Pbを取得する比例帯取得部13と、操作量MVの変化分ΔMVと比例帯Pbとに基づいて、オーバーシュート抑制のための制御装置2の偏差補正において確保されるべき補正後偏差Erhを推定する補正後偏差推定部14と、オーバーシュート量の最大値OS_maxと外乱偏差の最大値Er_maxとの比率と、補正後偏差Erhとに基づいて、偏差補正のためのパラメータξの適正値を算出する適正値算出部15と、パラメータξの適正値を出力する適正値出力部16とを備えている。
【0022】
制御装置2は、制御量PVを入力とする制御量入力部20と、設定値SPを入力とする設定値入力部21と、設定値SPから制御量PVを減算して偏差Erを算出する減算部22と、偏差Erに基づいて外乱が印加されたか否かを制御周期毎に判定し、偏差Erの絶対値が増大するとき外乱が印加されたと判定する外乱印加検出部23と、外乱印加検出部23によって外乱の印加が検出されたときに偏差Erの大きさに基づいて偏差補正量Erxを算出する偏差補正量算出部24と、偏差補正量算出部24によって算出された偏差補正量Erxが一定規則で徐々に0に収束するよう収束演算を行う偏差補正量収束算出部25と、偏差Erと収束演算後の偏差補正量とに基づき操作量MVをPID制御演算によって算出する制御演算部26と、操作量MVを制御対象に出力する操作量出力部27とを備えている。
【0023】
まず、パラメータ推定装置1について説明する前に、特許文献1に開示された制御装置2の動作について簡単に説明する。図2は制御装置2の動作を説明するフローチャートである。制御量入力部20には、図示しないセンサによって計測された制御量PVが入力される(図2ステップS101)。
【0024】
設定値入力部21には、オペレータによって設定された設定値SPが入力される(図2ステップS102)。
減算部22は、設定値SPと制御量PVとの偏差Er=SP-PVを算出する(図2ステップS103)。
【0025】
次に、外乱印加検出部23は、外乱が印加されたか否かを制御周期毎に判定し、外乱が印加されたと判定したときに偏差補正量算出部24に起動信号s1を出力する(図2ステップS104)。具体的には、外乱印加検出部23は、偏差Erが正の値で、絶対値|Er|が増大する場合(Er>0で、かつEr>Er’(Er’は1制御周期前の偏差)が成立する場合)、または偏差Erが負の値で、絶対値|Er|が増大する場合(Er<0で、かつEr<Er’が成立する場合)に、外乱が印加されたと判定する。
【0026】
偏差補正量算出部24は、外乱印加検出部23から起動信号s1が出力されると(ステップS104においてYES)、式(1)のように偏差Erにパラメータξを乗算した偏差補正量Erxを算出し、これを偏差補正量収束算出部25に出力する(図2ステップS105)。
【0027】
次に、偏差補正量収束算出部25は、収束演算後の偏差補正量Erx’を式(2)のように算出する(図2ステップS106)。パラメータλは定数(0<λ<1)である。なお、偏差補正量算出部24は、外乱が印加されたと外乱印加検出部23が判定したときのみ偏差補正量Erxを出力する。すなわち、偏差の絶対値|Er|が増大する状況(制御量PVが設定値SPから離れる状況)が終了すると、起動信号s1の出力が停止し、偏差補正量算出部24による偏差補正量Erxの出力が停止する。
【0028】
偏差補正量収束算出部25は、偏差補正量算出部24から偏差補正量Erxが出力されない場合、1制御周期前に収束演算を行った偏差補正量Erx’を現制御周期の偏差補正量Erxとして式(2)の収束演算を行う。偏差補正量Erx’(Erx)の初期値は0である。
【0029】
制御演算部26は、偏差Erから収束演算後の偏差補正量Erx’を減算した値に基づいて次式のようなPID制御演算を行い、操作量MVを算出する(図2ステップS107)。
MV=(100/Pb){1+(1/Tis)+Tds}(Er-Erx’)
・・・(3)
【0030】
式(3)において、Pbは比例帯、Tiは積分時間、Tdは微分時間、sはラプラス演算子である。
制御演算部26によって算出された操作量MVは、操作量出力部27を介して制御対象(実際には例えば図10の電力調整器104)へ出力される(図2ステップS108)。
【0031】
制御装置2は、ステップS101~S108の処理を例えばオペレータの指示によって制御が終了するまで(図2ステップS109においてYES)、制御周期毎に実行する。
【0032】
次に、本実施例のパラメータ推定装置1の動作を図3を用いて説明する。パラメータ推定装置1は、パラメータξの調整時に制御装置2と接続される。
最初に、操作量差検出部10は、制御装置2のオーバーシュート抑制機能を無効にする(図3ステップS200)。オーバーシュート抑制機能が無効の場合、偏差補正量Erx’が0になるので、制御装置2の制御演算部26は、式(3)の代わりに次の式(4)により操作量MVを算出する。
MV=(100/Pb){1+(1/Tis)+Tds}Er ・・・(4)
【0033】
操作量差検出部10は、制御装置2のオーバーシュート抑制機能が無効の状態で外乱が印加されたと制御装置2の外乱印加検出部23が判定した後に(図3ステップS201においてYES)、外乱リカバリー応答によって制御量PVが整定したときに(図3ステップS202においてYES)、外乱印加前の整定時の操作量MVに対する外乱印加後の整定時の操作量MVの変化分ΔMVを検出する(図3ステップS203)。
【0034】
なお、例えば図10に示した加熱装置の場合であれば、パラメータξを決定するための試行時に、熱処理炉100の扉を一時的に開くことで、熱処理炉100内の温度(制御量PV)が降温する外乱を意図的に発生させることが可能である。
【0035】
オーバーシュート量検出部11は、制御装置2のオーバーシュート抑制機能が無効の状態で、外乱が印加された後に外乱リカバリー応答によって発生した制御量PVのオーバーシュート量の最大値OS_max(上昇した制御量PVの最大値PV_maxと設定値SPとの差PV_max-SP)を検出する(図3ステップS204)。
【0036】
外乱偏差検出部12は、制御装置2のオーバーシュート抑制機能が無効の状態で、外乱が印加されたときの外乱偏差の最大値Er_max(設定値SPと下降した制御量PVの最小値PV_minとの差SP-PV_min)を検出する(図3ステップS205)。
比例帯取得部13は、制御装置2の制御演算部26に設定されているPIDパラメータ中の比例帯Pbを取得する(図3ステップS206)。
【0037】
補正後偏差推定部14は、操作量差検出部10によって検出された操作量MVの変化分ΔMVと比例帯取得部13によって取得された比例帯Pbとに基づいて、オーバーシュート抑制のための偏差Er補正において確保されるべき補正後偏差Erhを推定する(図3ステップS207)。具体的には、補正後偏差Erhは、制御装置2の、比例帯Pbで規定される比例動作のみによって操作量変化分ΔMVを発生させるために必要な偏差である。補正後偏差推定部14は、補正後偏差Erhを次式により算出する。
Erh=ΔMV(Pb/100) ・・・(5)
【0038】
適正値算出部15は、外乱偏差検出部12によって検出された外乱偏差の最大値Er_maxと補正後偏差推定部14によって算出された補正後偏差Erhとに基づいて、パラメータξの適正値候補(暫定値)ξaを次式により算出する(図3ステップS208)。
ξa=(Er_max-Erh)/Er_max ・・・(6)
【0039】
式(6)は、偏差補正量Erx=ξEr_max=Er_max-Erhの関係から得られたものである。
続いて、適正値算出部15は、パラメータξの適正値候補ξaにより補正後の設定値SPgが想定できるので、適正値候補ξaとオーバーシュート量検出部11によって検出されたオーバーシュート量の最大値OS_maxと外乱偏差検出部12によって検出された外乱偏差の最大値Er_maxとに基づいて、偏差補正と等価な設定値補正を行った後の設定値SPgに対する制御量PVのオーバーシュート量OSxを次式により推定する(図3ステップS209)。
OSx=ErhOS_max/Er_max
=(Er_max-ξaEr_max)OS_max/Er_max ・・(7)
【0040】
式(7)は、制御装置2のPID制御系の特性に変化がない場合に、外乱偏差とオーバーシュート量との比率(オーバーシュート率)が維持される(Er_max:OS_max=Erh:OSx)という、性質から得られたものである。
【0041】
なお、式(7)の計算で想定する補正後の設定値SPgとは、制御装置2が操作量MVの算出の際に用いる補正後偏差に相当する補正後の設定値SPh=SP-Erx’そのものではなく、偏差補正量Erxによって設定値SPを補正した値SPg=SP-Erxである。したがって、上記の「偏差補正と等価な設定値補正」の偏差補正とは、Er-Erx’ではなく、Er-Erxを意味する。
【0042】
算出されたオーバーシュート量OSxが偏差補正量Erx=ξaEr_maxよりも大きい場合(図12のケースで言えば、オーバーシュート量が補正後の設定値SPhの降下量よりも大きいことで補正前の設定値SPを制御量PVが超える場合)、オーバーシュート抑制が不十分である。さらに厳密に言えば、偏差補正量Erxが補正前の設定値SPに収束する途中でオーバーシュート量OSxが発生するようになる。設定値SPに収束する途中とは、パラメータλを時定数Tに等価変換した場合の時定数Tの概ね1.5倍くらいの時間帯になる。パラメータλと時定数Tとの関係は式(8)のようになる。dtは制御装置2の制御周期である。
λ=T/(T+dt) ・・・(8)
【0043】
したがって、適正値算出部15は、オーバーシュート量OSxが偏差補正量Erxに対して規定された割合を超える場合、具体的にはOSx>Erx/(2.718×1.5)が成立する場合(図3ステップS210においてYES)、次式によりパラメータξの適正値候補ξaを修正する(図3ステップS211)。
ξa_new=ξa+0.01 ・・・(9)
【0044】
上記の2.718は、偏差補正量Erxの収束量に対応する値であり、指数関数で用いられるネイピア数である。
適正値算出部15は、算出したξa_newを新たな適正値候補ξaとして、ステップS209のオーバーシュート量OSxの算出処理に戻る。こうして、適正値算出部15は、オーバーシュート量OSxが偏差補正量Erxに対して規定された割合以下になるまで、すなわちOSx≦Erx/(2.718×1.5)が成立するまで(ステップS210においてNO)、ステップS209~S211の処理を繰り返す。
【0045】
適正値算出部15は、OSx≦Erx/(2.718×1.5)が成立した時点の適正値候補ξaをパラメータξの適正値として確定する。
適正値出力部16は、パラメータξの適正値を出力する(図3ステップS212)。出力の例としては、適正値の表示などがある。オペレータは、表示された適正値を見て、制御装置2に設定されているパラメータξを変更することになる。あるいは、適正値出力部16は、制御装置2の偏差補正量算出部24に設定されているパラメータξを適正値に自動的に更新するようにしてもよい。
【0046】
なお、パラメータξの上限値をξ_max=0.99のように予め規定しておくことが好ましい。この場合、適正値算出部15は、OSx≦Erx/(2.718×1.5)が成立する前に式(9)のξa_newが上限値ξ_maxに達した時点でステップS209~S211の探索処理を終了し、上限値ξ_maxをパラメータξの適正値として確定する。
【0047】
以上で、パラメータξの調整が終了する。調整終了後、オペレータは、パラメータ推定装置1を操作して、制御装置2のオーバーシュート抑制機能を有効に戻し、パラメータ推定装置1と制御装置2との接続を解除する(図3ステップS213)。
【0048】
制御量PVにインパルス外乱の傾向が強い変化(操作量MVの変化分ΔMV=1.0%)が発生した場合の本実施例の検証例を図4図6に示す。なお、この検証例では、制御装置2のパラメータλに対応する時定数TがT=120秒で概ね妥当な値に調整されていることを前提とする。ただし、パラメータ推定装置1によってパラメータξを調整した後に、時定数T(パラメータλ)を試行錯誤で微調整しても構わない。
【0049】
図4は、特許文献1に開示された技術を適用した制御装置2による外乱リカバリー応答のシミュレーション結果を示す図である。図4の例では、パラメータλに対応する時定数TがT=120秒で概ね妥当な値に設定されているが、パラメータξが不適切な値ξ=0.50に設定されていることにより、制御量PVが下降する外乱が発生したときに、過剰な操作量修正によって制御量PVが設定値SP=300℃を超過するオーバーシュートが発生している。
【0050】
ここでは、パラメータξと時定数Tがもともと適切に調整されていたものとし、その後、インパルス外乱の傾向とステップ外乱の傾向のバランスが変化したことにより、パラメータξが不適切になったものと仮定する。すなわち、調整すべき対象はパラメータξであるとする。
【0051】
図5は、図4と同じ条件で、特許文献1に開示されたオーバーシュート抑制機能を無効にした制御装置2による外乱リカバリー応答のシミュレーション結果を示す図である。すなわち、図5の例は、ステップS200~ステップS205で実施された外乱リカバリー応答に相当する。図5の例は操作量MVの変化分がΔMV=1.0%と小さく、インパルス外乱の傾向がある。
【0052】
本実施例のオーバーシュート量検出部11はオーバーシュート量の最大値OS_max=8℃を検出し、外乱偏差検出部12は外乱偏差の最大値Er_max=20℃を検出する。制御装置2の制御演算部26に設定されている比例帯Pbは100%である。本実施例の適正値算出部15は、パラメータξの適正値をξ=0.95と算出する。
【0053】
図6は、パラメータξを適正値に調整した後の制御装置2による外乱リカバリー応答のシミュレーション結果を示す図である。図6の例では、パラメータλに対応する時定数TがT=120秒で概ね妥当な値に設定され、さらにパラメータξを適切な値ξ=0.95に設定したことにより、制御量PVのオーバーシュートが適切に抑制されていることが分かる。
【0054】
制御量PVにステップ外乱の傾向が強い変化(操作量MVの変化分ΔMV=30.0%)が発生した場合の本実施例の検証例を図7図8に示す。なお、この検証例では、制御装置2のパラメータλに対応する時定数TがT=230秒で概ね妥当な値に調整されていることを前提とする。
【0055】
図7は、特許文献1に開示されたオーバーシュート抑制機能を無効にした制御装置2による外乱リカバリー応答のシミュレーション結果を示す図である。すなわち、図7の例は、ステップS200~ステップS205で実施された外乱リカバリー応答に相当する。図7の例は操作量MVの変化分がΔMV=30.0%と大きく、ステップ外乱の傾向がある。
【0056】
本実施例のオーバーシュート量検出部11はオーバーシュート量の最大値OS_max=5.5℃を検出し、外乱偏差検出部12は外乱偏差の最大値Er_max=23℃を検出する。制御装置2の制御演算部26に設定されている比例帯Pbは100%である。本実施例の適正値算出部15は、パラメータξの適正値をξ=0.50と算出する。
【0057】
図8は、パラメータξを適正値に調整した後の制御装置2による外乱リカバリー応答のシミュレーション結果を示す図である。図8の例では、パラメータλに対応する時定数TがT=230秒で概ね妥当な値に設定され、さらにパラメータξを適切な値ξ=0.50に設定したことにより、制御量PVのオーバーシュートが適切に抑制されていることが分かる。
【0058】
なお、本実施例では、パラメータ推定装置1と制御装置2とを別々に設けているが、制御装置2の内部にパラメータ推定装置1を設けるようにしてもよい。
【0059】
本実施例のパラメータ推定装置1と制御装置2の各々は、CPU(Central Processing Unit)、記憶装置および外部とのインタフェースを備えたコンピュータと、これらのハードウェア資源を制御するプログラムによって実現することができる。このコンピュータの構成例を図9に示す。コンピュータは、CPU200と、記憶装置201と、インタフェース装置(I/F)202とを備えている。
【0060】
パラメータ推定装置1の場合、I/F202には、制御装置2とディスプレイ装置等が接続される。制御装置2の場合、I/F202には、パラメータ推定装置1とセンサと電力調整器等が接続される。本発明のパラメータ推定方法を実現させるためのプログラムは記憶装置201に格納される。各装置のCPU200は、記憶装置201に格納されたプログラムに従って本実施例で説明した処理を実行する。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、制御装置のパラメータを推定する技術に適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
1…パラメータ推定装置、2…制御装置、10…操作量差検出部、11…オーバーシュート量検出部、12…外乱偏差検出部、13…比例帯取得部、14…補正後偏差推定部、15…適正値算出部、16…適正値出力部、20…制御量入力部、21…設定値入力部、22…減算部、23…外乱印加検出部、24…偏差補正量算出部、25…偏差補正量収束算出部、26…制御演算部、27…操作量出力部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図12