(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128191
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】測位システム、サーバ、基準局、情報処理方法、プログラム、測位対象の装置及び移動体
(51)【国際特許分類】
G01S 19/07 20100101AFI20230907BHJP
G01S 19/22 20100101ALI20230907BHJP
【FI】
G01S19/07
G01S19/22
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032365
(22)【出願日】2022-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】501440684
【氏名又は名称】ソフトバンク株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】318014809
【氏名又は名称】ALES株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(74)【代理人】
【識別番号】100128691
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 弘通
(72)【発明者】
【氏名】池田 将平
(72)【発明者】
【氏名】大西 健広
(72)【発明者】
【氏名】近藤 徹
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062BB01
5J062BB02
5J062BB03
5J062BB08
5J062CC07
5J062EE04
(57)【要約】
【課題】従来の全方位の画像情報に基づいてNLOS状態を判定する場合とは異なり、障害物の誤認識による直接見通し不可能な(NLOS)状態の誤判定を回避することができ、また、方角の調整も必要としないサーバを提供する。
【解決手段】測位対象の位置測定に用いるサーバは、互いに異なる既知の位置座標に配置された複数の基準局のそれぞれから、前記基準局が人工衛星の電波を受信して生成した観測データを受信し、前記複数の基準局のそれぞれについて、前記基準局の観測データに基づいて、前記基準局の上空の全天空における前記人工衛星からの電波の受信品質指標値を推定する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測位対象の位置測定に用いるサーバであって、
互いに異なる既知の位置座標に配置された複数の基準局のそれぞれから、前記基準局が人工衛星の電波を受信して生成した観測データを受信する基準局通信部と、
前記複数の基準局のそれぞれについて、前記基準局の観測データに基づいて、前記基準局の上空の全天空における前記人工衛星からの電波の受信品質指標値を推定する推定部と、
を備える、ことを特徴とするサーバ。
【請求項2】
請求項1のサーバにおいて、
前記推定部は、前記基準局の位置を基準にした前記人工衛星の方向の仰角に基づいて前記基準局の観測データを補正し、前記補正後の観測データに基づいて前記受信品質指標値の推定を行う、ことを特徴とするサーバ。
【請求項3】
請求項1又は2のサーバにおいて、
前記推定部は、前記人工衛星の電波を受信する前記基準局のアンテナの指向特性に基づいて前記基準局の観測データを補正し、前記補正後の観測データに基づいて前記受信品質指標値の推定を行う、ことを特徴とするサーバ。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかのサーバにおいて、
前記基準局通信部は、前記複数の基準局のそれぞれから、前記基準局が複数の人工衛星の電波を受信して生成した観測データを受信し、
前記推定部は、
前記複数の人工衛星のそれぞれについて、前記人工衛星と前記基準局との間が直接見通し可能な(LOS)状態での前記受信品質指標値の基準値を決定し、
前記受信品質指標値の基準値に基づいて、前記複数の人工衛星の個体差による前記基準局の観測データの変動を補正して規格化し、
前記規格化後の観測データに基づいて前記受信品質指標値の推定を行う、
ことを特徴とするサーバ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかのサーバにおいて、
前記推定部は、機械学習を用いて予め決定した機械学習済みモデル又は関数に基づいて、前記受信品質指標値の推定を行う、
ことを特徴とするサーバ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかのサーバにおいて、
前記補正情報作成部は、前記基準局の上空の全天空における前記受信品質指標値の推定結果に基づいて、前記電波を受信して前記観測データを生成した前記基準局と前記人工衛星との間が直接見通し不可能な(NLOS)状態であるか否かを判定する、ことを特徴とするサーバ。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかのサーバにおいて、
前記複数の基準局それぞれについて前記基準局観測データを含む測位補正情報を作成する補正情報作成部と、
前記測位対象の現在位置の情報に基づいて、前記複数の基準局から、前記測位対象の位置測定に用いる基準局を選択する基準局選択部と、
前記観測データを含む測位補正情報を要求する補正情報要求を、前記測定対象から受信する要求受信部と、
前記選択した基準局に対応する前記観測データを含む測位補正情報を、前記測位対象の装置に送信する情報送信部と、
を備える、ことを特徴とするサーバ。
【請求項8】
請求項7のサーバにおいて、
前記補正情報作成部は、前記直接見通し不可能な(NLOS)状態である観測データについては前記測位補正情報を作成しない、ことを特徴とするサーバ。
【請求項9】
請求項7のサーバにおいて、
前記情報送信部は、前記直接見通し不可能な(NLOS)状態である観測データについては前記測位補正情報を前記測位対象の装置に送信しない、ことを特徴とするサーバ。
【請求項10】
請求項1乃至6のいずれかのサーバにおいて、
前記複数の基準局それぞれについて前記基準局観測データを含む測位補正情報を作成する補正情報作成部と、
前記測位対象の現在位置の情報に基づいて、前記複数の基準局から、前記測位対象の位置測定に用いる基準局を選択する基準局選択部と、
前記人工衛星の電波を前記測位対象が受信して生成した観測データを、前記測位対象から受信する測位対象通信部と、
前記選択した基準局に対応する前記観測データを含む測位補正情報と、前記測位対象の観測データとに基づいて、前記測位対象の位置情報を計算する位置情報計算部と、
を備える、ことを特徴とするサーバ。
【請求項11】
請求項10のサーバにおいて、
前記直接見通し不可能な(NLOS)状態である観測データを除外して前記測位対象の位置測定を行う、ことを特徴とするサーバ。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれかのサーバにおいて、
前記基準局は、移動通信の基地局、無線LANのアクセスポイント装置又は国土地理院の基準点に配置された基準局である、ことを特徴とするサーバ。
【請求項13】
測位システムであって、
請求項1乃至12のいずれかのサーバと、既知の位置座標に配置された基準局及び測位対象の装置の少なくとも一方と、を備えることを特徴とする測位システム。
【請求項14】
測位対象の装置であって、
請求項7、8又は9のサーバに、前記誤差補正を行った観測データを含む測位補正情報を要求する補正情報要求を送信する要求送信部と、
前記サーバから、前記選択した基準局に対応する前記観測データを含む測位補正情報を受信する情報受信部と、
前記サーバから受信した前記測位補正情報と当該測位対象が前記人工衛星の電波を受信して生成した観測データとに基づいて、当該測位対象の位置情報を計算する位置情報計算部と、
を備えることを特徴とする測位対象の装置。
【請求項15】
請求項14の測位対象の装置を備える移動体。
【請求項16】
測位対象の位置測定に用いる情報を処理する情報処理方法であって、
互いに異なる既知の位置座標に配置された複数の基準局のそれぞれから、前記基準局が人工衛星の電波を受信して生成した観測データを受信することと、
前記複数の基準局のそれぞれについて、前記基準局の観測データに基づいて、前記基準局の上空の全天空における前記人工衛星からの電波の受信品質指標値を推定することと、
を含む、ことを特徴とする情報処理方法。
【請求項17】
測位対象の位置測定に用いるサーバ又は装置に備えるコンピュータ又はプロセッサにおいて実行されるプログラムであって、
互いに異なる既知の位置座標に配置された複数の基準局のそれぞれから、前記基準局が人工衛星の電波を受信して生成した観測データを受信するためのプログラムコードと、
前記複数の基準局のそれぞれについて、前記基準局の観測データに基づいて、前記基準局の上空の全天空における前記人工衛星からの電波の受信品質指標値を推定するためのプログラムコードと、
を含む、ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測位対象の位置測定に用いる測位システム、サーバ、基準局、情報処理方法、プログラム、測位対象の装置及び移動体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、既知の位置に配置された基準局(固定局)を用いて、GNSS(全地球航法衛星システム)の人工衛星から電波を受信し、測位対象の位置測定をリアルタイムに行うリアルタイムキネマティック(RTK)測位法が知られている(例えば特許文献1参照)。このRTK測位法では、人工衛星から電波を受信した基準局が搬送波観測データを測位対象に送信する。測位対象では、基準局から受信した搬送波観測データと、人工衛星から電波を受信した自機の搬送波観測データと、予め初期化処理により決定された測位補正情報としての補正データ(整数値バイアス)とに基づいて、移動体の位置座標を計算する。RTK測位法によれば、数cm程度の高い精度で測位対象の測位ができるとされている。
【0003】
上記RTK測位法を用いるシステムとして、特許文献2には、人工衛星からの電波を受信する仮想基準点の観測局(基準局)と、観測局の観測データに基づいて生成された測位補正情報を測位対象の現場端末に送信する接続サーバと備え、接続サーバから受信した測位補正情報と、人工衛星からの電波を受信した現場端末の観測データとを用いて、現場端末が位置情報を計算する測位システムが開示されている。
【0004】
また、特許文献3には、GPS衛星から電波を受信する複数の参照局(基準局)と、複数の参照局から送信されたGPS受信情報に基づいて演算された擬似距離補正情報(測位補正情報)と、各参照局の位置情報と、GPS衛星からの電波を受信した移動体端末から受信したGPS受信情報(観測データ)とに基づいて、移動体端末の位置情報を計算するサーバを備えた位置補正システムが開示されている。
【0005】
上記従来の方法及びシステムにおいて、基準局の周辺に構造物(例えば、鉄塔、煙突、防災無線などの背の高い構造物)が存在する場合、又は、その基準局の周辺の構造物が変化する場合(例えば、新規ビルの建設、樹木の成長など)、これらの構造物の影響を受けて直接見通し不可能な(Non Line of Sight:NLOS)状態の信号やマルチパスなどで品質が低下した基準局の観測データを含む測位補正情報が、測位対象の位置情報の計算に用いられ、測位が困難になったり正しい位置を測定できなかったりするおそれがある。また、上記受信品質低下の影響を受けて受信された基準局の観測データを含む測位補正情報が、測位対象に配信されて位置情報の計算に用いられる場合は、測位対象において位置情報を計算できなかったり正しい位置情報を計算できなかったりするおそれがある。
【0006】
特許文献4には、衛星からの衛星信号を受信する衛星アンテナの設置位置に設置された撮像部(全方位撮像カメラ部)によって全方位の画像を撮像し、その全方位の画像情報に基づき、受信した衛星信号に係る衛星が前記衛星アンテナの設置位置から直接見通し可能な(Line of Sight:LOS)状態かNLOS状態かを判定し、NLOS状態の衛星からの衛星信号は反射波であるものとして該衛星信号に対して補正処理を行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2016/147569号
【特許文献2】特開2018-077136号
【特許文献3】特開2005-241517号
【特許文献4】国際公開第2017/010230号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献4に開示されている技術のように全方位の画像情報に基づいてNLOS状態を判定する場合、画像の撮像方向と方角とを合わせる方角の調整に時間を要し、また、撮像した画像における障害物の色と空の色が同化して障害物を誤認識してNLOS状態を誤判定する可能性がある、という課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るサーバは、測位対象の位置測定に用いるサーバである。このサーバは、互いに異なる既知の位置座標に配置された複数の基準局のそれぞれから、前記基準局が人工衛星の電波を受信して生成した観測データを受信する基準局通信部と、前記複数の基準局のそれぞれについて、前記基準局の観測データに基づいて、前記基準局の上空の全天空における前記人工衛星からの電波の受信品質指標値を推定する推定部と、を備える。
【0010】
本発明の他の態様に係る方法は、測位対象の位置測定に用いる情報を処理する情報処理方法である。この情報処理方法は、互いに異なる既知の位置座標に配置された複数の基準局のそれぞれから、前記基準局が人工衛星の電波を受信して生成した観測データを受信することと、前記複数の基準局のそれぞれについて、前記基準局の観測データに基づいて、前記基準局の上空の全天空における前記人工衛星からの電波の受信品質指標値を推定することと、を含む。
【0011】
本発明の更に他の態様に係るプログラムは、測位対象の位置測定に用いるサーバ又は装置に備えるコンピュータ又はプロセッサにおいて実行されるプログラムである。このプログラムは、互いに異なる既知の位置座標に配置された複数の基準局のそれぞれから、前記基準局が人工衛星の電波を受信して生成した観測データを受信するためのプログラムコードと、前記複数の基準局のそれぞれについて、前記基準局の観測データに基づいて、前記基準局の上空の全天空における前記人工衛星からの電波の受信品質指標値を推定するためのプログラムコードと、を含む。
【0012】
前記サーバ、前記情報処理方法及び前記プログラムのそれぞれにおいて、前記基準局の位置を基準にした前記人工衛星の方向の仰角に基づいて前記基準局の観測データを補正し、前記補正後の観測データに基づいて前記受信品質指標値の推定を行ってもよい。
【0013】
前記サーバ、前記情報処理方法及び前記プログラムのそれぞれにおいて、前記人工衛星の電波を受信する前記基準局のアンテナの指向特性に基づいて前記基準局の観測データを補正し、前記補正後の観測データに基づいて前記受信品質指標値の推定を行ってもよい。
【0014】
前記サーバ、前記情報処理方法及び前記プログラムのそれぞれにおいて、前記複数の基準局のそれぞれから、前記基準局が複数の人工衛星の電波を受信して生成した観測データを受信し、前記複数の人工衛星のそれぞれについて、前記人工衛星と前記基準局との間が直接見通し可能な(LOS)状態での前記受信品質指標値の基準値を決定し、前記受信品質指標値の基準値に基づいて、前記複数の人工衛星の個体差による前記基準局の観測データの変動を補正して規格化し、前記規格化後の観測データに基づいて前記受信品質指標値の推定を行ってもよい。
【0015】
前記サーバ、前記情報処理方法及び前記プログラムのそれぞれにおいて、機械学習を用いて予め決定した機械学習済みモデル又は関数を用いて、前記受信品質指標値の推定を行ってもよい。前記関数は、ガウス過程回帰モデルの関数であってもよい。
【0016】
前記サーバ、前記情報処理方法及び前記プログラムのそれぞれにおいて、前記基準局の上空の全天空における前記受信品質指標値の推定結果に基づいて、前記電波を受信して前記観測データを生成した前記基準局と前記人工衛星との間が直接見通し不可能な(NLOS)状態であるか否かを判定してもよい。
【0017】
前記サーバ、前記情報処理方法及び前記プログラムのそれぞれにおいて、前記複数の基準局それぞれについて前記基準局観測データを含む測位補正情報を作成し、前記測位対象の現在位置の情報に基づいて、前記複数の基準局から、前記測位対象の位置測定に用いる基準局を選択し、前記観測データを含む測位補正情報を要求する補正情報要求を、前記測定対象から受信し、前記選択した基準局に対応する前記観測データを含む測位補正情報を、前記測位対象の装置に送信してもよい。
ここで、前記補正情報作成部は、前記直接見通し不可能な(NLOS)状態である観測データについては、前記測位補正情報を作成しないようにしてもよいし、又は、前記測位補正情報を前記測位対象の装置に送信しないようにしてもよい。
【0018】
前記サーバ、前記情報処理方法及び前記プログラムのそれぞれにおいて、前記複数の基準局それぞれについて前記基準局観測データを含む測位補正情報を作成し、前記測位対象の現在位置の情報に基づいて、前記複数の基準局から、前記測位対象の位置測定に用いる基準局を選択し、前記人工衛星の電波を前記測位対象が受信して生成した観測データを、前記測位対象から受信し、前記選択した基準局に対応する前記観測データを含む測位補正情報と、前記測位対象の観測データとに基づいて、前記測位対象の位置情報を計算してもよい。
ここで、前記直接見通し不可能な(NLOS)状態である観測データを除外して前記測位対象の位置測定を行ってもよい。
【0019】
前記サーバ、前記情報処理方法及び前記プログラムのそれぞれにおいて、前記基準局は、移動通信の基地局、無線LANのアクセスポイント装置又は国土地理院の基準点に配置された基準局であってもよい。
【0020】
本発明の更に他の態様に係る測位システムは、前記いずれかのサーバと、既知の位置座標に配置された基準局及び測位対象の装置の少なくとも一方と、を備える。
【0021】
本発明の更に他の態様に係る測位対象の装置は、前記サーバに、前記誤差補正を行った観測データを含む測位補正情報を要求する補正情報要求を送信する要求送信部と、前記サーバから、前記選択した基準局に対応する前記観測データを含む測位補正情報を受信する情報受信部と、前記サーバから受信した前記測位補正情報と当該測位対象が前記人工衛星の電波を受信して生成した観測データとに基づいて、当該測位対象の位置情報を計算する位置情報計算部と、を備える。
【0022】
本発明の更に他の態様に係る移動体は、前記測位対象の装置を備える。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、従来の画像情報に基づいてNLOS状態を判定する場合とは異なり、障害物の誤認識によるNLOS状態の誤判定を回避することができ、また、画像の撮影方向のような方角の調整も必要としない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】実施形態に係る測位システムの主要な構成の一例を示す機能ブロック図。
【
図2】実施形態に係るサーバの補正情報作成部及び情報記憶部の構成の一例を示すブロック図。
【
図3】実施形態に係るサーバにおける観測データ(C/N値)の補正の処理並びに全天空のC/N値の推定及び判定の処理の一例を示すフローチャート。
【
図4】実施形態に係るサーバに累積格納される観測データの一例を示す説明図。
【
図5】(a)は規格化前のC/N値と仰角との関係の一例を示す説明図。(b)はアンテナ指向性の補正後のC/N値と仰角との関係の一例を示す説明図。(c)はアンテナ指向性及び衛星間個体差の補正後のC/N値と仰角との関係の一例を示す説明図。
【
図6】(a)は障害物がない場合の全空における補正後のC/N推定値の分布の一例を示す説明図。(b)は障害物がある場合の全空における補正後のC/N推定値の分布の一例を示す説明図。(c)は全天空におけるNLOSマップの一例を示す説明図。
【
図7】実施形態に係るサーバにおけるNLOSマップを用いた補正情報配信処理の一例を示すフローチャート。
【
図8】実施形態に係る測位システムの主要な構成の他の例を示す機能ブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
本書に記載された実施形態に係るRRS(Real Reference Station)方式の測位システムでは、人工衛星からの電波を受信する基準局(ベース)の観測データを用いて全天空における人工衛星からの電波の受信品質指標値(C/N値)を推定し、その受信品質指標値(C/N値)の推定結果に基づいて、基準局(ベース)と人工衛星との間が直接見通し不可能な(NLOS)状態であるか否かを判定することができる。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態に係る測位システムの主要な構成の一例を示す機能ブロック図である。
図1において、測位システム10は、測位対象の装置(以下「対象装置」という。)20の位置測定に用いるサーバ30と、互いに異なる複数の既知の位置座標(基準点)それぞれに配置された複数の基準局(以下「ベース」ともいう。)40とを備える。既知の位置座標は、例えば、既知の緯度、経度及び高度である。既知の位置座標は、例えば基準点を定義されたECEF(Earth-Centered Earth-Fixed)座標系における座標位置(X,Y,Z)であってもよい。測位システム10は、対象装置20を更に備えてもよい。また、対象装置20は、移動中の装置若しくは一時停止中の装置であってもよいし、又は、固定配置された装置であってもよい。
【0027】
なお、本実施形態では、対象装置20の測位方法として、誤差数cmの測位サービス(センチメートル級測位サービス)を提供可能なRRS方式のRTK(リアルタイムキネマティック)測位法を用いた場合について説明するが、本発明は、対象装置の現在位置の位置情報を人工衛星の電波を受信する1局の基準局40の観測データを用いて計算する、RTK測位法以外の測位法を用いる場合にも適用できる。
【0028】
本実施形態における対象装置20は、例えばGNSS受信機210と観測データ生成部220と位置情報計算部230とサーバ通信部240とを有する装置(以下「GNSSユーザ装置」ともいう。)である。GNSS受信機210は、GPS(全地球測位システム)等のGNSS(全地球航法衛星システム)の一又は複数の人工衛星(例えば4つの人工衛星)50から電波を受信する。観測データ生成部220は、GNSS受信機210で受信された電波の受信信号(「GNSS信号」ともいう。)から観測データを生成する。
【0029】
観測データ生成部220で生成する観測データは、例えば、GNSS受信機210で受信された電波の搬送波(キャリア)の位相観測値の(以下「搬送波位相観測データ」ともいう。)、及び、当該電波の搬送波を変調したコードの受信結果(コード位相)に基づいて算出した擬似距離観測値のデータ(以下「擬似距離観測データ」ともいう。)である。以下、搬送波位相観測データ及び擬似距離観測データを区別しない場合は、「観測データ」ともいう。
【0030】
GNSS受信機210が人工衛星50から電波を受信して観測データ生成部220が観測データを生成する観測タイミングは、複数の基準局40が人工衛星50から電波を受信して観測データを生成する観測タイミングと必ずしも同期している必要は無く、数秒から10数秒程度離れていてもかまわない。この観測タイミングは、例えば、2秒間隔、1秒間隔、又は1秒未満の時間間隔の時間タイミングである。観測タイミングは、例えば、10分、30分、1時間などであってもよいし、変化させてもよい。
【0031】
位置情報計算部230は、後述のように、サーバ30から受信した一又は複数の基準局40の測位補正情報(例えば、基準局の座標、観測データ)と、対象装置20が人工衛星50の電波を受信して生成した観測データと、エフェメリスデータとに基づいて、対象装置20の数センチメートル級の高精度位置情報(例えば、緯度、経度、高度)を計算する。サーバ30から受信する測位補正情報は、当該対象装置20に対応するフォーマットを有している。測位補正情報のフォーマットは、例えば、当該対象装置20の識別情報に基づいて選択されたフォーマットであってもよい。
【0032】
計算対象の対象装置20の位置情報は、例えば基準点を定義されたECEF(Earth-Centered Earth-Fixed)座標系における座標位置(X,Y,Z)であってもよい。また、対象装置20で計算した高精度位置情報は、対象装置20の観測データ(受信RAWデータ)とともに、サーバ30に送信してもよい。
【0033】
対象装置20の位置情報は、例えばRTK測位法により計算することができる。まず、選択した基準局40の観測データと対象装置20の観測データ、エフェメリスから基準局40から対象装置20に向かう基線ベクトルを決定する。この基線ベクトルと基準局40の既知の位置情報とに基づいて、対象装置20の位置情報を算出する。
【0034】
位置情報計算部230は、前記選択した一又は複数の基準局40の測位補正情報と対象装置20の観測データとエフェメリスデータとに基づいて、対象装置20の複数の位置情報を計算し、その複数の位置情報の計算結果から、いずれか一つの位置情報の計算結果を選択してもよい。位置情報の計算結果を選択する際、例えばカルマンフィルタ又は最適化処理を選択処理に組み合わせてもよい。
【0035】
サーバ通信部240は、識別情報(ID)を含む補正情報要求をサーバ30に送信する。識別情報(ID)は、例えば補正情報要求の送信時に補正情報要求に自動的に含めるように処理される。対象装置20の識別情報(ID)は、移動通信サービスにおける利用者識別情報(UID)又は端末識別情報(IMEI)であってもよい。
【0036】
また、サーバ通信部240は、対象装置20に対応するフォーマットの測位補正情報(例えば、基準局の観測データ及び位置情報)をサーバ30から受信する。
【0037】
サーバ通信部240は、対象装置20の観測データ(受信RAWデータ)や対象装置20で計算した自装置の位置情報の計算結果をサーバ30に送信してもよい。
【0038】
対象装置20は、例えば、移動通信網を介して通信可能な移動局(「移動機」、「ユーザ装置」等ともいう。)、又は、移動型の基地局(「eNodeB」、「g-NodeB」等ともいう。)であってもよい。この場合、サーバ30の測位補正情報(例えば、基準局の座標、観測データ)は、サーバ30から移動通信網を経由して対象装置20に送信することができる。また、補正情報要求、対象装置20で計算した自装置の位置情報の計算結果、対象装置20の観測データ(受信RAWデータ)などは、対象装置20から移動通信網を経由してサーバ30に送信することができる。
【0039】
また、対象装置20は、移動する移動体そのものであってもよいし、移動体に組み込まれた装置(例えば、測位モジュールのデバイス)であってもよい。
【0040】
移動体は、例えば、地上を移動する車両(例えば、乗用車、トラック、バス、農機、建機、重機など)、上空を移動するドローンや航空機、海などの水上を移動する船舶などであってもよい。移動体は、一時的固定設置される移動可能な装置(可搬装置)であってもよい。例えば、移動体は、測量における固定点や観測点に設置して用いられる装置や、農業分野の圃場の境界点や任意の観測点に設置される装置、土木、建築の現場における土地や建物(構造体)の境界点や任意の観測点に設置される装置などであってもよい。なお、対象装置又はその対象装置が組み込まれた移動体は「ローバー」ともいう。
【0041】
対象装置20は、無線LAN(例えば、Wi-Fi(登録商標))の端末装置であってもよい。この場合、サーバ30の測位補正情報(例えば、基準局の座標、観測データ)は、サーバ30から無線LANのアクセスポイント装置(例えば、Wi-Fiルータ)を経由して無線LANの端末装置に送信することができる。また、補正情報要求、対象装置20で計算した自装置の位置情報の計算結果、対象装置20の観測データ(受信RAWデータ)などは、対象装置20から無線LANのアクセスポイント装置(例えば、Wi-Fiルータ)を経由してサーバ30に送信することができる。
【0042】
人工衛星50は、GPS用の人工衛星のほか、GLONASS、Galileo、BeiDou等のグローバル軌道衛星群の人工衛星でもよいし、QZSSやIRNSSなどの特定地域衛星群の人工衛星でもよい。また、人工衛星50は、WAAS、EGNOS、MSAS、GAGANなどの補強衛星群の人工衛星であってもよい。
【0043】
人工衛星50から受信する電波は、例えば、1.1GHz帯、1.2GHz帯又は1.5GHz帯における所定周波数の電波である。例えば、GPSの人工衛星の場合、L1電波(周波数:1575.42MHz、波長:約0.19m)及びL2電波(周波数:1227.60MHz、波長:約0.24m)を受信することができる。人工衛星50から送信される電波は、例えば、所定の時間タイミングで測位符号(C/Aコード、Pコード)や航法メッセージ等を含む所定データにより所定周波数の搬送波をコード変調したものである。例えば、GPSの人工衛星の場合、L1電波が測位符号(C/Aコード及びPコード)及び航法メッセージでコード変調され、L2電波が測位符号のPコードのみでコード変調されている。
【0044】
人工衛星50から同時に受信する電波は、1周波数の電波でもよいし、2周波数(例えば、1.5GHz、1.2GHz)又は3周波数以上の電波でもよい。例えば、2周波数の電波を受信する場合は、基準局40と対象装置20との距離が10km以上の場合(例えば、基準局40を中心として20km~40km程度の広域エリアを対象装置が移動している場合)でも、RTK(リアルタイムキネマティック)測位法で測位される対象装置20の位置精度が数cm程度(例えば、2cm+1ppm×基線長)の高精度になる。
【0045】
対象装置20のGNSS受信機210は、複数種類の人工衛星50の複数の周波数の電波(信号)に対応するものであってもよい。例えば、GNSS受信機210は、QZSS衛星(L1/L2/L5)、GPS(L1/L2/L5)、GLONASS(G1/G2)、Galileo(E1/E5)及びBeiDou(B1/B2)のように、5種類の人工衛星の3周波数に対応するものであってもよい。
【0046】
複数の基準局40(以下「GNSS基準局装置」ともいう。)は、対象装置20が移動する可能性があるエリアに分散されて配置される。複数の基準局40は、移動中の対象装置20との距離が所定距離以下(例えば、20km以下、又は、40km以下)である基準局40の数が2以上になるように配置される。前記所定距離は、例えば、RTK測位法で測位される対象装置20の位置精度が数cm程度(例えば、2cm+1ppm×基線長)になる距離である。複数の基準局40はそれぞれ、移動通信の基地局の位置又は無線LANのアクセスポイント装置(例えば、Wi-Fiルータ)の位置に設けてもよい。この場合、基準局40は、移動通信の基地局の基地局装置に組み込んでもよいし、無線LANのアクセスポイント装置に組み込んでもよい。また、基準局40は、電柱、コンビニエンスストア、自宅、学校、病院、農協、各種の公共施設などの、人工衛星50に対して見通しとなる任意の場所に設けてもよい。また、基準局40は、個人、法人、公共団体などの任意のエンティティによって設置された善意の基準局であってもよい。
【0047】
複数の基準局40は、例えば日本国内の場合、国土地理院によって全国約1,300ヶ所に設置されたGNSS連続観測点からなる電子基準点の基準局と、移動通信事業者等によって全国のセル(例えば、LTEエリア、次世代の5Gエリアなど)の一部又は全部に対応させて独自に設置された独自基準点の基準局とを含んでもよい。独自基準点の基準局の設置箇所の数は、特に限定されるものではなく、例えば、独自基準点の基準局は、約1,000ヶ所、約1,500ヶ所、又は、約3,000ヶ所以上に設けてもよい。この電子基準点及び独自基準点に配置した基準局により、全国にわたって高密度でほぼ等間隔の均一配置の多数の基準局(例えば約2,000ヶ所以上又は約4,000ヶ所以上の基準局)40からなる基準局網を実現することでき、センチメートル級の高精度測位と基準局40の冗長性を担保することができ、また、測位サービスを利用するユーザによる基準局(基準点)の準備が不要になる。
【0048】
複数の基準局40はそれぞれ、所定の観測タイミングに、GPS等のGNSSの一又は複数の人工衛星(例えば4つの人工衛星)50から電波を受信して観測データを生成する。複数の基準局40それぞれの観測タイミングは、対象装置20がGPS等のGNSSの一又は複数の人工衛星(例えば4つの人工衛星)50から電波を受信して観測データを生成する観測タイミングと必ずしも同期している必要は無く、数秒から10数秒程度離れていてもかまわない。この観測タイミングは、例えば、2秒間隔、1秒間隔、又は1秒未満の時間間隔の時間タイミングである。観測タイミングは、数秒から10秒間隔であってもかまわない。
【0049】
基準局40が生成する観測データは、例えば、RTK測位法で用いられる情報であり、基準局40が人工衛星50から電波を受信して生成した受信RAWデータに対して必要に応じて誤差補正を行った観測データ(例えば、搬送波位相観測データ、及び、擬似距離観測データ)を含む。複数の基準局40それぞれの観測データは、基準局40の位置座標データとともに各基準局40からサーバ30に送信してもよいし、サーバ30内のデータベース等にあらかじめ記録されていてもよい。基準局40が生成する観測データは、基準局40が人工衛星50から受信したコードの受信結果(コード位相)に基づいて算出した人工衛星50と基準局40との間の擬似距離観測データを含む。
【0050】
サーバ30は、基準局情報処理部31と測位対象情報処理部32とを備える。基準局情報処理部31は、基準局通信部310と補正情報作成部311と基準局情報作成部312と情報記憶部313とを有する。測位対象情報処理部32は、測位対象通信部321と基準局選択部322と補正情報選択部323とを有する。
【0051】
基準局通信部310は、高速の通信回線(例えば、専用の光通信回線)を介して、複数の基準局40それぞれから搬送波位相観測データを含む情報を受信する。
【0052】
複数の基準局40それぞれから受信する受信情報は、例えば、人工衛星50から受信した電波の受信RAWデータである位相観測データ(例えば、搬送波位相観測データ、及び、擬似距離観測データ)と基準局40の位置座標データとを含む。前記受信情報は、基準局40が人工衛星の電波を受信して生成した搬送波位相観測データの品質に関する観測品質情報、その観測品質情報を計算するための基礎情報、及び、後述のTEQC(Translation, Editing and Quality Checking)から取得した情報の、少なくとも1つの情報を含んでもよい。
【0053】
補正情報作成部311は、複数の基準局40それぞれについて、基準局40から受信した位相観測データに基づいて、対象装置20の位置測定に用いる所定フォーマットの測位補正情報、状態情報(例えば、測位補正情報が使用可能か否かを識別する情報)等を作成する。測位補正情報は、例えば、RTK測位法で用いられる情報である。
【0054】
測位補正情報のフォーマットは、例えば、RTK測位法で用いられる位相観測データ(例えば、搬送波位相観測データ、及び、擬似距離観測データ)と基準局40の位置座標データとを含むRTCM(Radio Technical Commission for Maritime Services)フォーマットであってもよい。測位補正情報のフォーマットは複数種類のフォーマットであってもよい。
【0055】
基準局情報作成部312は、複数の基準局40それぞれについて、基準局40から受信した位相観測データに基づいて、基準局40が設置されている基準点の名称、位置情報(例えば、経度、緯度、高度)、状態情報(例えば、基準局40が使用可能か否かを識別する情報)等の基準局情報を作成する。
【0056】
基準局情報作成部312は、複数の基準局40それぞれについて、基準局40から受信した基礎情報(例えば、搬送波位相観測データ)に基づいて、基準局40が人工衛星の電波を受信して生成した搬送波位相観測データの品質に関する観測品質情報の一部又は全部を計算して作成してもよい。
【0057】
情報記憶部(DB)313は、複数の基準局40それぞれについて、表1の基準局データテーブルに例示するように、基準局40の識別情報としての基準局ID(管理番号)に対応づけて、基準局又は基準点の名称、既知の位置情報(例えば、緯度、経度、標高[m]、楕円体高[m]、ジオイド高[m])、座標系情報及び状態情報を互いに関連付けて記憶する。楕円体高は基準楕円体面からの高さであり、GNSS測量により測定することができる。ジオイド高は仮想平均海面の高さであり、任意のジオイドモデルを用いて緯度及び経度から決まる値である。例えば、標高と楕円体高が与えられた場合、ジオイド高は楕円体高-標高で決まる。また、楕円体高とジオイド高が与えられた場合、標高は、楕円体高-ジオイド高で決まる。また、座標系情報は、後述するように基地局(基準点)の位置座標が準拠する座標系に関する情報であり、例えば、基地局(基準点)の位置座標が準拠する座標系(例えば、ITRF94,ITRF2008)の識別情報(F1,F2)である。
【0058】
【0059】
また、情報記憶部(DB)313は、複数の基準局40それぞれについて、表2の補正データテーブルに例示するように、基準局IDに対応づけて、対象装置20の種類に応じて複数種類のフォーマット(例えば、3種類のRTCMフォーマット)による測位補正情報及び状態情報を互いに関連付けて記憶する。複数種類のフォーマットそれぞれが対応する対象装置20の種類は、対象装置20から受信する対象装置20の識別情報(ID)に基づいて判断することができる。
【0060】
【0061】
また、情報記憶部(DB)313は、複数の基準局40それぞれについて、表3の補正データテーブルに例示するように、基準局IDに対応づけて、複数の接続先としてのマウントポイント(MP)及び対象装置20の種類に応じて複数種類のフォーマット(例えば、3種類のRTCMフォーマット)による測位補正情報及び状態情報を互いに関連付けて記憶してもよい。複数種類のフォーマットそれぞれが対応するマウントポイント(MP)及び対象装置20の種類は、例えば、対象装置20から受信するマウントポイントを指定するMP指定情報に基づいて、又は、MP指定情報及び対象装置20の識別情報(ID)に基づいて判断することができる。
【0062】
【0063】
表1、表2及び表3の状態情報の「1」はそれぞれ、対応する基準局40及び測位補正情報が利用可能なアクティブ状態であることを示し、「2」は対応する基準局40及び測位補正情報が利用不可の状態であることを示している。また、表1の各基準局40の名称及び既知の位置情報と表2及び表3の測位補正情報とは、基準局IDを介して互いに関連付けられている。
【0064】
表2及び表3に示すように複数種類のフォーマットで測位補正情報を記憶しておくことにより、対象装置20の種類等によって対象装置20の現在位置の計算に用いる測位補正情報のフォーマットが異なる場合でも、対応するフォーマットの測位補正情報を選択して対象装置20の現在位置を確実に計算することができる。
【0065】
測位対象通信部321は、対象装置(GNSSユーザ装置)20の識別情報(ID)を含む補正情報要求を、通信網(例えば、インターネット、移動通信網)60を介して対象装置20から受信する。対象装置20の識別情報(ID)は、移動通信サービスにおける利用者識別情報(UID)又は端末識別情報(IMEI)であってもよい。
【0066】
また、測位対象通信部321は、対象装置(GNSSユーザ装置)20から受信した補正情報要求に応答するように、対象装置20に対応するフォーマットの測位補正情報(例えば、基準局の観測データ及び位置情報)を、通信網(例えば、インターネット、移動通信網)60を介して対象装置20に送信する。
【0067】
また、測位対象通信部321は、対象装置20で計算した対象装置20の数センチメートル級の高精度位置情報(例えば、緯度、経度、高度)の計算結果である所定のフォーマット(例えば、NMEA(National Marine Electronics Association)フォーマット)からなる測位演算結果を、通信網(例えば、インターネット、移動通信網)60を介して対象装置20から受信してもよい。補正情報作成部311は、高精度位置情報を計算した対象装置20から受信した観測データ(受信RAWデータ)に基づいて測位補正情報を作成し、情報記憶部313は、対象装置20から受信した観測データ(受信RAWデータ)及び対象装置20について生成した測位補正情報を記憶してもよい。この場合、対象装置20を基準局として追加することができる。
【0068】
測位対象通信部321は、対象装置(GNSSユーザ装置)20が人工衛星50からの電波を受信して生成した観測データを、通信網(例えば、インターネット、移動通信網)60を介して対象装置20から受信してもよい。対象装置20から受信する観測データは、例えば、対象装置20が人工衛星50から電波を受信して生成した受信RAWデータである観測データ(例えば、搬送波位相観測データ、又は、擬似距離観測データ)と、対象装置(GNSSユーザ装置)20の識別情報(ID)とを含む。
【0069】
例えば、測位対象通信部321は、対象装置(GNSSユーザ装置)20の概略位置情報を取得するために、対象装置20が人工衛星50からの電波を受信して生成した所定フォーマット(例えば、RTCMフォーマット)の観測データを、通信網(例えば、インターネット、移動通信網)60を介して、対象装置20から定期的に受信してもよい。対象装置20から受信する観測データは、対象装置20の識別情報(ID)を含む。対象装置20の識別情報(ID)は、例えば、移動通信サービスにおける利用者識別情報(UID)又は端末識別情報(IMEI)であってもよい。
【0070】
対象装置20の概略位置情報を取得するための観測データの受信間隔は一定間隔(例えば、0.1秒、1秒、10分、30分、1時間など)であってもよいし、一度だけ受信するだけでもよいし、対象装置20の移動速度、周辺の基準局40の設置間隔などに応じて変化させてもよい。測位対象通信部321が対象装置20から定期的に受信した対象装置20の観測データは、基準局選択部322及び補正情報作成部311に渡される。
【0071】
また、対象装置20からサーバ30に送信する観測データは、通信網60を介した通信の負荷や測位処理の負荷を抑制するために、測位要求精度に応じてデータの種類が制限された観測データであってもよい。例えば、測位要求精度が高い場合は、対象装置20で観測された複数の人工衛星のすべての観測データ(受信RAWデータ)をサーバ30に送信し、測位要求精度が低い場合は、対象装置20で観測された複数の人工衛星の一部の観測データ(受信RAWデータ)をサーバ30に送信してもよい。
【0072】
また、基準局選択部322は、対象装置20から受信した補正情報要求に含まれる識別情報(例えば、UID又はIMEI)に基づいて一又は複数の基準局40を選択する。
【0073】
例えば、基準局選択部322は、定期的に、測位対象通信部321から受けた対象装置20の観測データと、エフェメリスデータとに基づいて、対象装置20の概略位置情報を計算して取得し、対象装置20に近い位置に配置されている基準局40を選択してもよい。この基準局40の選択は、対象装置20の概略位置情報を取得するための観測データを受信するたびに定期的に実行される。
【0074】
エフェメリスデータは、人工衛星50の位置を求めるために必要な人工衛星50の軌道情報であり、人工衛星50から放送されている。このエフェメリスデータは、所定時間(例えば、GPSでは2時間、Galileoでは10分)ごとに定期的に更新される。
【0075】
なお、基準局40の選択は、対象装置20の移動予測エリアに位置する基準局40を含めるように行ってもよい。例えば、対象装置20の概略位置情報の変化から対象装置20の移動予測エリアを決定し、その移動予測エリアに位置する基準局40を含めるように基準局40を選択してもよい。
【0076】
基準局選択部322は、例えば表4の基準局選択テーブルに示すように、前記選択した一又は複数の基準局40の識別情報(管理番号)と、測位補正情報のRTCMフォーマットの識別番号と、対象装置20の識別情報(例えば、IMEI又はUID)とを互いに対応付けて記憶する。
【0077】
【0078】
また、基準局選択部322は、例えば表5の基準局選択テーブルに示すように、前記選択した一又は複数の基準局40の識別情報(管理番号)と、マウントポイント(MP)の識別情報と、測位補正情報のRTCMフォーマットの識別番号と、対象装置20の識別情報(例えば、IMEI又はUID)とを互いに対応付けて記憶してもよい。
【0079】
【0080】
補正情報選択部323は、例えば表4又は表5の基準局選択テーブルに基づいて、選択した一又は複数の基準局40に対応する複数種類のRTCMフォーマット(データフォーマット)の測位補正情報から、対象装置20の識別情報(IMEI)に基づいて対象装置20に対応するRTCMフォーマット(データフォーマット)からなる測位補正情報を選択する。
【0081】
また、サーバ30は、複数の対象装置20から受信した高精度の位置情報を用いてデータ処理を行ってもよい。例えば、サーバ30は、構造物に設置した複数の対象装置20の位置情報を用いて構造物の変形や変位を測定したり、3次元地図を作成して測位計算に用いる衛星信号からのNLOS状態の信号の除去を行ったりするように、データ処理を行ってもよい。
【0082】
上記構成の測位システム10において、基準局40の周辺に電波受信の障害物となる構造物(例えば、鉄塔、煙突、防災無線などの背の高い構造物)が存在する場合、又は、その基準局40の周辺の構造物(障害物)が変化する場合(例えば、新規ビルの建設、樹木の成長など)、人工衛星50からの電波がこれらの構造物の影響を受けて直接見通し不可能な(Non Line of Sight:NLOS)状態の信号やマルチパスなどで品質が低下した基準局40の観測データを含む測位補正情報が、対象装置20の位置情報の計算に用いられ、測位が困難になったり正しい位置を測定できなかったりするおそれがある。特に、上記構造物(障害物)による受信品質低下は、天空が開けた環境に配置した基準局40(例えば、国土地理院設置の電子基準点など)ではなく、構造物が比較的多い都市部や郊外などにおける基準局40(例えば、移動通信の基地局や無線LANのアクセスポイント装置等に配置した基準点)場合に発生しやすい。また、上記受信品質低下の影響を受けて受信された基準局40の観測データを含む測位補正情報が、対象装置20に配信されて位置情報の計算に用いられる場合は、対象装置20において位置情報を計算できなかったり正しい位置情報を計算できなかったりするおそれがある。
【0083】
上記受信品質低下の影響を受けた観測データを含む測位補正情報が対象装置20の位置情報の計算に用いられないようにするために、各基準局40と人工衛星が直接見通し不可能な(NLOS)状態か否かを判定し、除去することが考えられる。このNLOS状態か否かを判定する方法としては、基準局40に設けたカメラで天空の全方位の画像を撮像した画像情報を用いる方法がある。しかしながら、全方位の画像情報に基づいてNLOS状態を判定する場合、画像の撮像方向と方角と合わせる方角の調整に時間を要し、また、撮像した画像における構造物(障害物)の色と空の色が同化して構造物(障害物)を誤認識してNLOS状態を誤判定する可能性がある。
【0084】
本実施形態の測位システムでは、構造物(障害物)がある方向からの電波の受信品質指標値(例えば、衛星電波の信号強度であるC/N値)が低下することに着目し、基準局40の上空の全天空における人工衛星50からの電波の受信品質指標値を推定してNLOS状態か否かを判定している。
【0085】
上記全天空における受信品質指標値を推定する推定部及び上記NLOS状態か否かを判定する判定部は、例えば、前述の補正情報作成部311に設けることができる。推定部は、複数の基準局40のそれぞれについて、基準局40の観測データに基づいて、基準局40の上空の全天空における人工衛星50からの電波の受信品質指標値としてのC/N(雑音対キャリア比)値を推定する。また、判定部は、複数の基準局40のそれぞれについて、全天空におけるC/N値の推定結果(C/N推定値)と予め設定した閾値とを比較してNLOS状態か否かを判定し、全天空の各方向(方位、仰角)におけるNLOSの分布図(以下「NLOSマップ」ともいう。)を作成する。
【0086】
なお、本実施形態では、受信品質指標値としてC/N値を用いるが、人工衛星50からの電波の受信品質を示すものであれば、電波の受信強度又は受信電力等の他の値を用いてもよい。また、本実施形態では、全天空におけるC/N値の推定結果(C/N推定値)に基づいてNLOS状態か否かを判定してNLOSマップを作成しているが、全天空におけるC/N値の推定結果(C/N推定値)に基づいてLOS状態か否かを判定して全天空の各方向(方位、仰角)におけるLOSの地図(以下「LOSマップ」ともいう。)を作成してもよい。
【0087】
図2は、本実施形態に係るサーバ30の補正情報作成部311及び情報記憶部313の構成の一例を示すブロック図である。
図2において、補正情報作成部311は、観測データ格納処理部3111とC/N値推定部3112とC/N値判定部3113と補正情報処理部3114とを備える。
【0088】
観測データ格納処理部3111は、複数の基準局40のそれぞれについて、基準局40が所定の時間ごとに人工衛星50の電波を受信して生成した観測データを、基準局通信部310を介して受信して情報記憶部313に格納する。所定の時間ごとの観測データは、例えば、人工衛星50の電波を受信したときの基準局40の位置を基準にした人工衛星50の方位及び仰角と受信品質指標値としてのC/N値とを含む。所定の時間ごとの観測データは、人工衛星50の電波を受信したときの受信時刻情報(タイムスタンプ)を含んでもよい。
【0089】
C/N値推定部3112は、複数の基準局40のそれぞれについて、基準局40の観測データに基づいて、基準局40の上空の全天空における人工衛星50からの電波のC/N値を推定する。ここで、C/N値推定部3112は、基準局40から見た人工衛星50の方向の仰角に基づいて基準局40の観測データを補正し、その補正後の観測データに基づいて、全天空における人工衛星50からの電波のC/N値の推定を行ってもよい。また、C/N値推定部3112は、人工衛星50の電波を受信する基準局40のアンテナの指向特性に基づいて基準局40の観測データを補正し、その補正後の観測データに基づいて、全天空における人工衛星50からの電波のC/N値の推定を行ってもよい。また、C/N値推定部3112は、複数の人工衛星50のそれぞれについて、人工衛星50と基準局40との間が直接見通し可能な(LOS)状態でのC/N値の基準値を決定し、そのC/N値の基準値に基づいて、複数の人工衛星50の個体差による基準局40の観測データの変動を補正して規格化し、その規格化後の観測データに基づいて、全天空における人工衛星50からの電波のC/N値の推定を行ってもよい。
【0090】
前記全天空におけるC/N値の推定は、機械学習を用いて予め決定した機械学習済みモデル又は関数を用いて行ってもよい。前記関数は、ガウス過程回帰モデルの関数であってもよい。
【0091】
C/N値判定部3113は、複数の基準局40のそれぞれについて、基準局40の上空の全天空におけるC/N値の推定結果に基づいて、電波を受信して観測データを生成した基準局40と人工衛星50との間が直接見通し不可能な(NLOS)状態であるか否か、又は、直接見通し可能な(LOS)状態であるか否か、を判定する。この判定結果に基づいて、複数の基準局40のそれぞれについて、基準局設置時に、及び、その後の定期的なタイミングに、基準局40の上空のNLOSマップ、LOSマップ又はその両方を作成することができる。NLOSマップは、例えば、複数の基準局40のそれぞれについて、全天空の所定の角度単位で互いに異なる全方向における方位と仰角とNLOS状態であるか否かを示す識別情報とを互いに対応付けたマップである。LOSマップは、例えば、複数の基準局40のそれぞれについて、全天空の所定の角度単位で互いに異なる全方向における方位と仰角とLOS状態であるか否かを示す識別情報とを互いに対応付けたマップである。
【0092】
補正情報処理部3114は、対象装置20からの要求などに基づいて測位補正情報を作成する処理を行う。また、補正情報処理部3114は、NLOSマップ又はLOSマップを参照し、直接見通し不可能な(NLOS)状態である観測データについては測位補正情報を作成しないように、又は、測位補正情報を対象装置20に送信しないように処理してもよい。
【0093】
図2において、情報記憶部313は、観測データ記憶部3131と軌道情報記憶部3132と受信機位置情報記憶部3133とNLOSマップ記憶部3134と測位補正情報記憶部3135とを備える。観測データ記憶部3131は、複数の基準局40のそれぞれについて、基準局40が所定の時間ごとに人工衛星50の電波を受信して生成した観測データを記憶する。
【0094】
軌道情報記憶部3132は、各基準局40の受信機で電波を受信可能な複数の人工衛星50の軌道情報(例えば、エフェメリスの情報)を記憶する。受信機位置情報記憶部3133は、複数の基準局40のそれぞれについて基準局40のGNSS受信機の位置情報(既知の情報)を記憶する。
【0095】
NLOSマップ記憶部3134は、前述のC/N値判定部3113で基準局40ごとに作成されたNLOSマップ(又は、LOSマップ)の情報を記憶する。
【0096】
測位補正情報記憶部3135は、前述の補正情報処理部1114で基準局40ごとに作成された測位補正情報を記憶する。測位補正情報は、NLOSのため作成しなかった旨の情報を含んでもよいし、また、NLOSのため送信不可である旨の情報を含んでもよい。また、測位補正情報は、対象装置20から選択される前述のマウントポイントごとに格納してもよい。
【0097】
図3は、本実施形態に係るサーバ30における観測データ(C/N値)の補正処理(S100)並びに全天空のC/N値の推定及び判定の処理(S200)の一例を示すフローチャートである。
図3の補正処理(S100)の例では、
図4に例示する一定時間(例えば、直近の24時間、12時間、6時間又は3時間)の間に繰り返し観測されて累積記憶されている観測データについて、仰角に基づく補正と、基準局40のアンテナの指向特性に基づく補正と、複数の人工衛星50の間の個体差に基づく補正とを行っている。なお、この補正に用いる観測データの数や観測期間は、使用する衛星システムの数に応じて設定してもよい。例えば、使用する衛星システムの数が多くなるほど、上記補正に用いる観測データの観測期間を短くしたり、観測データの数を減らしたりしてもよい。
【0098】
図3の補正処理(S100)において、まず、サーバ30は、軌道情報記憶部3132に記憶されている人工衛星50の軌道情報(エフェメリス)に基づいて、基準局40が電波を受信した時刻における人工衛星50の位置を演算する(S101)。
【0099】
次に、サーバ30は、受信機位置情報記憶部3133に記憶されている基準局40のGNSS受信機の位置情報(既知)と、前記人工衛星50の電波を受信した時刻における衛星位置とに基づいて、基準局40の受信機位置を基準にした人工衛星50の方位及び仰角を演算する(S102)。
【0100】
次に、サーバ30は、観測データ記憶部3131に記憶されている観測データであるC/N値(
図5(a)参照)について、次の3種類の補正を行って規格化する(S103)。
(1)仰角に基づく補正:
図5(a)に例示するように、2つの人工衛星50から受信する電波のC/N値501A,502Bは高仰角にいくほど大きく、また、低仰角ではC/N値のばらつきが大きい。この仰角による影響を抑制するために、C/N値を仰角によらず一定になるように補正する。
【0101】
(2)アンテナ指向性に基づく補正:
人工衛星50から受信する電波のC/N値はGNSS受信機のアンテナの指向特性(特に仰角方向の特性)によっても変化する。このアンテナの指向特性による影響を抑制するために、アンテナの指向特性のデータに基づいて(例えば、アンテナメーカから提供されたパラメータのデータを用いて)、C/N値をアンテナの指向特性によらず一定になるように補正する。
【0102】
図5(b)は、2つの人工衛星50から受信した電波のC/N値について、仰角及びアンテナ指向性特性に基づく補正を行った後のC/N値502A、502Bの例である。補正後のC/N値502A、502Bは、仰角によらず一定の値周辺で推移するが、その推移する値は人工衛星ごとに若干異なる。
【0103】
(3)人工衛星の個体差に基づく補正:
上記人工衛星ごとにC/N値502A、502Bが異なる影響を抑制するために、人工衛星の個体差に基づいて、C/N値を人工衛星によらず一定値の周りで推移するように補正する。例えば、人工衛星50と基準局40との間が直接見通し可能な(LOS)状態での基準C/N値(受信品質指標値の基準値)を決定し、その基準C/N値に基づいて、複数の人工衛星50の個体差によるC/N値の変動を補正して規格化する。
【0104】
図5(c)の例では、周辺に障害物がないLOS状態の環境で得られたC/N値に基づいて、各人工衛星50について受信品質指標値の基準値としての基準C/N値(図中のΔA、ΔB)を決定する。各人工衛星50の基準C/N値は、例えば、C/N値の算術平均で導出することができる。各人工衛星50の基準C/N値(図中のΔA、ΔB)をC/N値から差し引くことにより、人工衛星50の個体差に基づく補正を行って規格化されたC/N値503A、503Bを計算することができる。各人工衛星の補正後のC/N値503A、503Bは、値が0の周りで推移するように規格化されているので、後述のガウス過程回帰モデルの関数などを用いた全天空のC/N値の推定が可能になる。
【0105】
なお、上記3種類の補正は、後述の全天空におけるC/N値の推定に対する影響度に応じて、上記3種類の補正のいずれか1種類又は2種類の補正を選択して実施してもよいし、又は、他の種類の補正を代替的に若しくは追加して行ってもよい。
【0106】
図3における全天空のC/N値の推定及び判定の処理(S200)では、全天空の所定の角度単位で互いに異なる全方向(方位、仰角)のそれぞれについて以下の処理を行うことにより、NLOSマップを作成している。
【0107】
サーバ30は、まず、前述の補正処理で求めた補正後のC/N値を用いて、全天空のある方向(方位、仰角)についてC/N値を推定する(S201)。このC/N値の推定は、例えば、機械学習を用いて予め決定した機械学習済みモデル又は関数(例えば、ガウス過程回帰モデルの関数)を用いて行うことができる。ガウス過程を行う際のパラメータについては、例えば、OptunaというPythonのライブラリを用いてハイパーパラメータの最適化を実施することができる。
【0108】
次に、サーバ30は、上記推定したC/N値(以下「C/N推定値」という。)と予め設定した閾値とを比較し、C/N推定値が閾値以上であるか否かを判断する(S202)。閾値は、例えば、実際に屋外で測位を行って導出しておく。ここで、C/N推定値が閾値以上である場合(S202でYes)は、対応する方向(方位、仰角)についてLOS状態であると判定する(S203)。一方、C/N推定値が閾値よりも小さい場合(S202でNo)は、対応する方向(方位、仰角)についてNLOS状態であると判定する(S204)。
【0109】
サーバ30は、全天空の所定の角度単位で互いに異なる全方向(方位、仰角)について上記S201~S204を繰り返す実行することにより、NLOSマップを作成することができる。
【0110】
なお、各基準局40について作成されるNLOSマップに基づいて、人工衛星50からの電波の受信特性が良好な基準局40の特定を行ってもよい。
【0111】
図6(a)は障害物がない場合の全空における前述の補正(1)~(3)を行った後のC/N推定値の分布510の一例を示す説明図である。
図6(a)のC/N推定値の分布510には、障害物に対応するC/N推定値の低下部分を確認できない。
【0112】
図6(b)は障害物がある場合の全空における前述の補正(1)~(3)を行った後のC/N推定値の分布510の一例を示す説明図である。
図6(b)のC/N推定値の分布510には、障害物に対応するC/N推定値の低下部分512を確認できる。
【0113】
図6(c)は、
図6(b)のC/N推定値の分布510に基づいて作成した全天空におけるNLOSマップ520の一例を示す説明図である。
図6(c)のNLOSマップ520の例では、
図6(b)のC/N推定値の分布を二値化処理したマップである。図中の白いエリアはLOS状態の方向(方位、仰角)のエリアである。白いエリアの方向に位置する人工衛星50についてはC/N値に基づいて作成された測位補正情報を配信して測位に用いられる。一方、黒いエリアはNLOS状態の方向(方位、仰角)のエリアである。黒いエリアの方向に位置する人工衛星50についてはC/N値に基づく測位補正情報の作成は行われない、又は、測位補正情報の作成が行われても配信されず、測位に用いられなくてもよい。
【0114】
図7は、本実施形態に係るサーバ30におけるNLOSマップを用いた補正情報配信処理(S300)の一例を示すフローチャートである。
図3の処理は、例えば、対象装置20から測位補正情報の要求があったときに、対象装置20に応じて選択された基準局40が人工衛星50から電波を受けてC/N値を生成したときに実行される。
【0115】
図7において、サーバ30は、まず、C/N値が得られた人工衛星50について、軌道情報記憶部3132に記憶されている人工衛星50の軌道情報(エフェメリス)に基づいて、基準局40が電波を受信している人工衛星50の衛星位置を演算する(S301)。
【0116】
次に、サーバ30は、受信機位置情報記憶部3133に記憶されている基準局40のGNSS受信機の位置情報(既知)と、前記人工衛星50の衛星位置とに基づいて、基準局40の受信機位置を基準にした人工衛星50の方位及び仰角を演算する(S302)。
【0117】
次に、サーバ30は、NLOSマップ記憶部3134に記憶されているNLOSマップを参照し(S303)、人工衛星50の方位及び仰角の方向のエリアがLOS状態のエリアか否かを判定する。人工衛星50の方位及び仰角の方向のエリアがLOS状態のエリアである場合(S304でYes)、サーバ30は、人工衛星50から電波を受信して得られたC/N値に基づいて測位補正情報を作成して対象装置20に配信する(S305)。一方、人工衛星50の方位及び仰角の方向のエリアがLOS状態のエリアでない場合(S304でNo)、サーバ30は、人工衛星50から電波を受信して得られたC/N値に基づく測位補正情報の作成を行わず、測位補正情報の対象装置20への配信は行われない(S306)。
【0118】
図7の例によれば、サーバ30が作成したNLOSマップに基づいて測位補正情報の作成又は配信を制御することにより、対象装置20側で測位補正情報の品質に関する判断処理を行うことなく、品質の悪い測位補正情報が対象装置20での測位に用いられなくなる。従って、対象装置20での処理の負荷増加を抑制しつつ、測位精度の向上を図ることできる。特に、サーバ30から配信された測位補正情報の品質に関する判断処理を行う機能を対象装置20が有していない場合に効果的である。
【0119】
なお、
図7の例では、NLOSマップに基づいて測位補正情報の作成の有無又は配信の有無を制御しているが、人工衛星50の方位及び仰角の方向のエリアがLOS状態のエリアでないか否かにかかわらず、測位補正情報の作成及び配信は行うようにしてもよい。この場合、人工衛星50の方位及び仰角の方向のエリアがLOS状態のエリアでないか否かを識別可能な識別情報(例えば、フラグ情報)を測位補正情報に付加して配信し、その識別情報に基づいて対象装置20が当該測位補正情報を測位処理に用いるか否かを判断できるようにしてもよい。
【0120】
図8は、本実施形態に係る測位システムの主要な構成の他の例を示す機能ブロック図である。
図8の例では、サーバ30が対象装置(ローバー)20から受信した観測データに基づいて対象装置20の高精度測位の計算を行う。なお、
図8において、前述の
図1と共通する構成部分については、同じ符号を付し、説明を省略する。
【0121】
図8において、サーバ30の測位対象情報処理部32は、測位対象通信部321と基準局選択部322と位置情報計算部324とを有する。
【0122】
測位対象通信部321は、対象装置(GNSSユーザ装置)20が人工衛星50からの電波を受信して生成した観測データを、通信網(例えば、インターネット、移動通信網)60を介して対象装置20から受信する。
【0123】
また、測位対象通信部321は、後述の位置情報計算部324で計算した対象装置20の数センチメートル級の高精度位置情報(例えば、緯度、経度、高度)の計算結果である所定のフォーマット(例えば、NMEA(National Marine Electronics Association)フォーマット)からなる測位演算結果を、通信網(例えば、インターネット、移動通信網)60を介して対象装置20に送信する。
【0124】
また、測位対象通信部321は、対象装置(GNSSユーザ装置)20の概略位置情報を取得するために、対象装置20が人工衛星50からの電波を受信して生成した所定フォーマット(例えば、RTCMフォーマット)の観測データを、通信網(例えば、インターネット、移動通信網)60を介して、対象装置20から定期的に受信する。
【0125】
位置情報計算部324は、基準局選択部322の基準局選択テーブルを参照し、前記選択した基準局40の補正観測情報(例えば、搬送波位相観測データ、位置情報)と、対象装置20の観測データと、エフェメリスデータとに基づいて、対象装置20の数センチメートル級の高精度位置情報(例えば、緯度、経度、高度)を計算する。計算対象の対象装置20の位置情報は、例えば基準点を定義されたECEF(Earth-Centered Earth-Fixed)座標系における座標位置(X,Y,Z)であってもよい。位置情報計算部324は、前記直接見通し不可能な(NLOS)状態である観測データ(C/N値)を除外して対象装置20の位置測定を行ってもよい。
【0126】
対象装置20の位置情報は、例えばRTK測位法により計算することができる。まず、選択した基準局40の搬送波位相観測データと対象装置20の搬送波位相観測データ、エフェメリスから基準局40から対象装置20に向かう基線ベクトルを決定する。この基線ベクトルと基準局40の既知の位置情報とに基づいて、対象装置20の位置情報を算出する。
【0127】
以上、本実施形態によれば、RRS方式の測位システムにおいて、従来の画像情報に基づいてNLOS状態を判定する場合とは異なり、障害物を誤認識によるNLOS状態の誤判定を回避することができ、また、画像の撮影方向のような方角の調整も必要としない。
【0128】
また、本実施形態によれば、NLOS状態を簡易に判定することができるので、基準局40を新規に設置する場合に設計通りに設置されているか否かを容易に確認することができる(検品的利用)。
【0129】
また、本実施形態によれば、常時観測データ取得による基準局40の正常性の確認が容易になるとともに、利用可能な基準局をリアルタイムに特定することができる。
【0130】
また、本実施形態によれば、基準局40の設置後において、隣にタワーマンションが建設された等により、ある時から常時、基準局40の受信特性が劣化することを容易に検知できる。
【0131】
また、本実施形態によれば、植生の影響で冬は品質の良い受信信号が多く取れる一方で夏は品質の良い受信信号を取得できる頻度が減ってくるなど、基準局40の受信特性がある季節だけ劣化することを容易に検知できる。
【0132】
また、本実施形態によれば、昼夜を問わずにNLOS状態の確認ができるので、基準局40の隣で工事が始まり、クレーンが停止位置にある夜間だけ受信特性が劣化することを確認きる。
【0133】
なお、本実施形態の測位システムは様々なユースケースに適用可能である。例えば、本実施形態の測位システムは、農業分野における農機の運転・操作の自動化や圃場マップの高度化、建築分野における建機の運転・操作の自動化や建物の工事進捗を高精度に管理するドローンの自動制御、交通分野における無人自動運転バスを実現するバス高速輸送システム(BRT)や(MaaS(Mobility as a Service))での高精度な車両位置情報の取得などに適用できる。
【0134】
また、本発明は、高精度の測位サービス(センチメートル級測位サービス)の測位システムの基盤を提供できるため、持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の達成に貢献できる。
【0135】
なお、本明細書で説明された処理工程並びにサーバ、対象装置(ユーザ装置、移動局、通信端末、端末装置など)、基準局、基地局などの構成要素は、様々な手段によって実装することができる。例えば、これらの工程及び構成要素は、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又は、それらの組み合わせで実装されてもよい。
【0136】
ハードウェア実装については、実体(例えば、中継通信局、フィーダ局、ゲートウェイ局、基地局、基地局装置、中継通信局装置、端末装置(ユーザ装置、移動局、通信端末)、管理装置、監視装置、遠隔制御装置、サーバ、ハードディスクドライブ装置、又は、光ディスクドライブ装置)において前記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、1つ又は複数の、特定用途向けIC(ASIC)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、デジタル信号処理装置(DSPD)、プログラマブル・ロジック・デバイス(PLD)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、電子デバイス、本明細書で説明された機能を実行するようにデザインされた他の電子ユニット、コンピュータ、又は、それらの組み合わせの中に実装されてもよい。
【0137】
また、ファームウェア及び/又はソフトウェア実装については、前記構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、本明細書で説明された機能を実行するプログラム(例えば、プロシージャ、関数、モジュール、インストラクション、などのコード)で実装されてもよい。一般に、ファームウェア及び/又はソフトウェアのコードを明確に具体化する任意のコンピュータ/プロセッサ読み取り可能な媒体が、本明細書で説明された前記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段の実装に利用されてもよい。例えば、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば制御装置において、メモリに記憶され、コンピュータやプロセッサにより実行されてもよい。そのメモリは、コンピュータやプロセッサの内部に実装されてもよいし、又は、プロセッサの外部に実装されてもよい。また、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、不揮発性ランダムアクセスメモリ(NVRAM)、プログラマブルリードオンリーメモリ(PROM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、フラッシュメモリ、フロッピー(登録商標)ディスク、コンパクトディスク(CD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、磁気又は光データ記憶装置、などのような、コンピュータやプロセッサで読み取り可能な媒体に記憶されてもよい。そのコードは、1又は複数のコンピュータやプロセッサにより実行されてもよく、また、コンピュータやプロセッサに、本明細書で説明された機能性のある態様を実行させてもよい。
【0138】
また、前記媒体は非一時的な記録媒体であってもよい。また、前記プログラムのコードは、コンピュータ、プロセッサ、又は他のデバイス若しくは装置機械で読み込んで実行可能であればよく、その形式は特定の形式に限定されない。例えば、前記プログラムのコードは、ソースコード、オブジェクトコード及びバイナリコードのいずれでもよく、また、それらのコードの2以上が混在したものであってもよい。
【0139】
また、本明細書で開示された実施形態の説明は、当業者が本開示を製造又は使用するのを可能にするために提供される。本開示に対するさまざまな修正は当業者には容易に明白になり、本明細書で定義される一般的原理は、本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなく、他のバリエーションに適用可能である。それゆえ、本開示は、本明細書で説明される例及びデザインに限定されるものではなく、本明細書で開示された原理及び新規な特徴に合致する最も広い範囲に認められるべきである。
【符号の説明】
【0140】
10 測位システム
20 測位対象(対象装置、ローバー)
30 サーバ
31 基準局情報処理部
32 測位対象情報処理部
40 基準局(ベース)
41 電子基準点
42 独自基準点
50 人工衛星
210 GNSS受信機
220 観測データ生成部
230 位置情報計算部
240 サーバ通信部
310 基準局通信部
311 補正情報作成部
312 基準局情報作成部
313 情報記憶部(DB)
321 測位対象通信部
322 基準局選択部
323 補正情報選択部
324 位置情報計算部