(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128200
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】溶接方法およびレーザ装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/28 20140101AFI20230907BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20230907BHJP
B23K 26/082 20140101ALI20230907BHJP
【FI】
B23K26/28
B23K26/21 F
B23K26/082
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032378
(22)【出願日】2022-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】598072179
【氏名又は名称】株式会社片岡製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100211513
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100167438
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 淳司
(74)【代理人】
【識別番号】100166800
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 裕治
(72)【発明者】
【氏名】山村 健
(72)【発明者】
【氏名】長▲崎▼ 克俊
(72)【発明者】
【氏名】林 佳佑
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA14
4E168BA87
4E168CB04
4E168DA02
4E168DA03
4E168DA04
4E168DA13
4E168DA26
4E168DA32
4E168EA15
4E168EA17
4E168FA00
4E168FB01
(57)【要約】
【課題】レーザ溶接により金属溶接を行う溶接方法において、良好な溶接品質を保ちながらも処理時間を短縮することが可能な溶接方法を提供する。
【解決手段】レーザ装置100に対向して配置される第1部材52および第2部材52の端部を突き合わせて、レーザ光L1により溶接する溶接方法であって、レーザ光L1を第1部材52および前記第2部材52を突き合わせた端面に対し、所定の旋回径rで旋回照射する、レーザ光L1の集光径d1は、旋回径rと同一または旋回径rより大きく、旋回照射によるレーザ光L1の照射領域は、第1部材52および第2部材52に跨っていることを特徴とする。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ装置に対向して配置される第1部材および第2部材の端部を突き合わせて、レーザ光により溶接する溶接方法であって、
前記レーザ光を前記第1部材および前記第2部材を突き合わせた端面に対し、所定の旋回径で旋回照射する、
前記レーザ光の集光径は、前記旋回径と同一または前記旋回径より大きく、
旋回照射による前記レーザ光の照射領域は、前記第1部材および前記第2部材に跨っている
ことを特徴とする溶接方法。
【請求項2】
前記レーザ光の波長は300~600μmである
ことを特徴とする請求項1に記載の溶接方法。
【請求項3】
前記端面は矩形であって、
前記端面を形成する矩形の短辺の長さをaとし、前記レーザ光の集光径をd1とし、前記旋回径をrとすると、
r≦d1<aである
ことを特徴とする請求項2に記載の溶接方法。
【請求項4】
前記レーザ光の集光面積は前記端面の総面積の1パーセント~30パーセントである
ことを特徴とする請求項3に記載の溶接方法。
【請求項5】
前記レーザ光の出力パワーは、500W~2kWである
ことを特徴とする請求項4に記載の溶接方法。
【請求項6】
前記端面における前記レーザ光のエネルギー強度分布は、前記照射領域の略中心部分において最も強く、前記照射領域の前記略中心部以外の領域において弱くなり、前記照射領域外がゼロである
ことを特徴とする請求項1から請求項5の何れか一項に記載の溶接方法。
【請求項7】
前記溶接方法は、さらに、
前記レーザ光と波長が異なる第2のレーザ光を前記端面に対して旋回照射し、
前記第2のレーザ光の集光径は、前記レーザ光の集光径より小さい
ことを特徴とする請求項1に記載の溶接方法。
【請求項8】
前記レーザ光の光軸と前記第2のレーザ光の光軸とが一致している
ことを特徴とする請求項7に記載の溶接方法。
【請求項9】
前記第2のレーザ光の波長は、780nm~1100nmである
ことを特徴とする請求項8に記載の溶接方法。
【請求項10】
前記第2のレーザ光の集光径は、前記レーザ光の集光径の10分の1以下である
ことを特徴とする請求項9に記載の溶接方法。
【請求項11】
前記第2のレーザ光の集光径は、10μm~100μmである
ことを特徴とする請求項9に記載の溶接方法。
【請求項12】
前記レーザ光および前記第2のレーザ光を、旋回速度100~1000mm/sで旋回させる
ことを特徴とする請求項7から請求項11の何れか一項に記載の溶接方法。
【請求項13】
前記レーザ光および前記第2のレーザ光の照射時間は、50msec以上である
ことを特徴とする請求項7から請求項12の何れか一項に記載の溶接方法。
【請求項14】
前記第1部材と前記第2部材とは、ステータ用のコイルを構成する断面矩形の平角導体であって、
前記レーザ装置に対向して配置される2つの平角導体の端部を突き合わせて前記レーザ光および前記第2のレーザ光により溶接することにより前記端面に溶融玉を形成する
ことを特徴とする請求項1から請求項13の何れか一項に記載の溶接方法。
【請求項15】
前記レーザ光および前記第2のレーザ光の照射と同時若しくは照射前から、照射が終了するまで若しくはそれ以上、前記端面に対して、流量が5L/min~100L/min、前記端面に対する傾き角度が0~90°で窒素を吹き付ける
ことを特徴とする請求項1から請求項14の何れか一項に記載の溶接方法。
【請求項16】
レーザ装置に対向して配置される第1部材および第2部材の端部を突き合わせて、レーザ光により溶接する溶接方法であって、
前記レーザ光は、波長が異なる第1レーザ光と第2レーザ光とから成り、
前記レーザ光を前記端面の略中心に対し所定の旋回径で旋回照射することにより、前記第1レーザ光および前記第2レーザ光が前記端面に対して環状に照射され、
前記第2レーザ光の集光径は、前記第1レーザ光の集光径より小さい
ことを特徴とする溶接方法。
【請求項17】
第1部材および第2部材の端部を突き合わせて溶接するレーザ装置であって、
レーザ光を発振する発振器と、
前記レーザ光を前記端面の略中心に対し所定の旋回径で旋回照射するガルバノスキャナ部とを備え、
前記レーザ光の集光径は、前記旋回径と同一または前記旋回径より大きく、
旋回照射による前記レーザ光の照射領域は、前記第1部材および前記第2部材に跨っている
ことを特徴とするレーザ装置。
【請求項18】
第1部材および第2部材の端部を突き合わせて溶接するレーザ装置であって、
第1レーザ光を発振する第1発振器と、
前記第1レーザ光と波長が異なる第2レーザ光を発振する第2発振器と、
前記第1レーザ光と前記第2レーザ光とを同一の光軸上に重畳するコンバイナ部と、
前記第1レーザ光および前記第2レーザ光を前記端面の略中心に対し所定の旋回径で旋回照射するガルバノスキャナ部とを備え、
前記第1レーザ光の集光径は、前記旋回径と同一または前記旋回径より大きく、
前記第2レーザ光の集光径は、前記第1レーザ光の集光径より小さい
ことを特徴とするレーザ装置。
【請求項19】
第1部材および第2部材の端部を突き合わせて溶接するレーザ装置であって、
第1レーザ光を発振する第1発振器と、
前記第1レーザ光と波長が異なる第2レーザ光を発振する第2発振器と、
前記第1レーザ光および前記第2レーザ光を前記端面の略中心に対し所定の旋回径で旋回照射する1以上のガルバノスキャナ部とを備え、
前記第1レーザ光および前記第2レーザ光が前記端面に対して環状に照射され、
前記第2レーザ光の集光径は、前記第1レーザ光の集光径より小さい
ことを特徴とするレーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を用いて金属溶接を行う溶接方法およびレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属溶接を行う技術の一つとして、レーザ光を用いたレーザ溶接が利用されている。レーザ溶接は他の溶接技術と比較すると、集光レンズにより高密度化されたエネルギーで被加工物を溶接可能であり、溶接品質が高く微細な溶接に適している。
近年、ハイブリッド車や電気自動車に組み込むモータ用のステータ(固定子)の製造においてこのレーザ溶接が利用されている。ステータは、ステータコアと、ステータコアのスロットに装着された複数のセグメントコイルとから構成され、対応するセグメントコイルの端部同士をレーザ溶接により接合する。通常、個々のセグメントコイルは丸線ではなく平角導線を用いる。これにより、丸線が作る隙間を無くし接合部の密度を上げることが可能となり、低燃費且つ小型化を実現する。溶接面は数ミリ平方メートルと微細なためレーザ溶接が適している。
特許文献1には、ステータ用コイルのレーザ溶接技術が開示されている。ここでは、対応する平角導体を隙間を置いて並べ両端面をレーザ溶融する。このとき、溶融した平角導体が固化した溶融固化部分が、両端面を窪ませるように端面下に侵入していることを特徴としている。すなわち、この技術は、従来の溶接方法において、溶融池が凸レンズ上に膨らみ溶融池が深くなることがスパッタの一つの要因であると捉え、これを抑制するために、溶接中の溶融平角導体が隙間に順次流入することにより、レーザ光が照射される被照射点における溶融池を浅く形成するというものである(段落0045参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の技術によれば溶接中に生じるスパッタを抑制して溶接品質を一定に保つことが可能となる。ところで、ステータの製造工程における生産性向上が望まれているが、上記の文献には処理時間の短縮等、生産性向上に関する知見が無い。
そこで本発明は、レーザ溶接により金属溶接を行う溶接方法において、良好な溶接品質を保ちながらも処理時間を短縮することが可能な溶接方法およびレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するために、レーザ装置に対向して配置される第1部材および第2部材の端部を突き合わせて、レーザ光により溶接する溶接方法であって、前記レーザ光を前記第1部材および前記第2部材を突き合わせた端面に対し、所定の旋回径で旋回照射する、前記レーザ光の集光径は、前記旋回径と同一または前記旋回径より大きく、旋回照射による前記レーザ光の照射領域は、前記第1部材および前記第2部材に跨っていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、レーザ光の集光径が旋回径と同一または旋回径よりも大きいため、溶接面の中心部分に常にレーザ光が照射される。そのため、溶接面の中心部分に対して十分なエネルギーを供給することが可能であり、中心部分から溶け始め、熱伝導により端部に向かって徐々に溶融していく。このように、溶接面の端部に熱を与え過ぎず、中心部分から溶融することにより溶接面の端部から溶融金属が溶け流れることがなく、綺麗な溶融玉を形成することが可能となる。また、レーザ光を旋回照射することにより、熱の集中を抑制すると共に溶融池内部に旋回方向の流れを生み出し、これにより溶融池を安定化させる。その結果、スパッタの発生を抑制し、高い溶接品質を実現することが可能となる。
また、上記の先行技術文献は溶接面の中心部分に常にレーザ光が照射される構成ではないため、上記の先行技術文献と比較すると、本発明の溶接方法は、中心部分の溶け始めが早い。それにより溶融池の形成が促進され、溶接対象のワークを早く溶融することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るレーザ装置100の全体構成を示す概略図である。
【
図3】(a)ステータの概略構成を示す斜視図である。(b)セグメントコイル52について説明するための図である。(c)ワークWについて説明するための図である。
【
図4】第1実施形態に係る溶接方法について説明するための図である。
【
図5】本発明の第2実施形態に係るレーザ装置1の全体構成を示す概略図である。
【
図6】第2実施形態に係る溶接方法の一例(r≦d1の場合)について説明するための図である。
【
図7】第2実施形態に係る溶接方法の一例(r>d1の場合)について説明するための図である。
【
図9】セグメントコイルの溶接について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<概要>
本実施態様の一態様に係る溶接方法は、レーザ装置に対向して配置される第1部材および第2部材の端部を突き合わせて、レーザ光により溶接する溶接方法であって、前記レーザ光を前記第1部材および前記第2部材を突き合わせた端面に対し、所定の旋回径で旋回照射する、前記レーザ光の集光径は、前記旋回径と同一または前記旋回径より大きく、旋回照射による前記レーザ光の照射領域は、前記第1部材および前記第2部材に跨っていることを特徴とする。
本実施形態の別態様に係る溶接方法において、前記レーザ光の波長は300~600μmであることを特徴とする。 
本実施形態の別態様に係る溶接方法において、前記端面は矩形であって、前記端面を形成する矩形の短辺の長さをaとし、前記レーザ光の集光径をd1とし、前記旋回径をrとすると、r≦d1<aであることを特徴とする。
【0009】
本実施形態の別態様に係る溶接方法において、前記レーザ光の集光面積(スポット面積)は前記端面の総面積の1パーセント~30パーセントであることを特徴とする。
本実施形態の別態様に係る溶接方法において、前記レーザ光の出力パワーは、500W~2kWであることを特徴とする。
本実施形態の別態様に係る溶接方法において、前記端面における前記レーザ光のエネルギー強度分布は、前記照射領域の略中心部分において最も強く、前記照射領域の前記略中心部以外の領域において弱くなり、前記照射領域外がゼロであることを特徴とする。
本実施形態の別態様に係る溶接方法は、さらに、前記レーザ光と波長が異なる第2のレーザ光を前記端面に対して旋回照射し、前記第2のレーザ光の集光径は、前記レーザ光の集光径より小さいことを特徴とする。
【0010】
本実施形態の別態様に係る溶接方法において、前記レーザ光の光軸と前記第2のレーザ光の光軸とが一致していることを特徴とする。
本実施形態の別態様に係る溶接方法において、前記第2のレーザ光の波長は、780nm~1100nmであることを特徴とする。
本実施形態の別態様に係る溶接方法において、前記第2のレーザ光の集光径は、前記レーザ光の集光径の10分の1以下であることを特徴とする。
本実施形態の別態様に係る溶接方法において、前記第2のレーザ光の集光径は、10μm~100μmであることを特徴とする。
本実施形態の別態様に係る溶接方法において、前記レーザ光および前記第2のレーザ光を、旋回速度100~1000mm/sで旋回させることを特徴とする。
本実施形態の別態様に係る溶接方法において、前記レーザ光および前記第2のレーザ光の照射時間は、50msec以上であることを特徴とする。
【0011】
本実施形態の別態様に係る溶接方法において、前記第1部材と前記第2部材とは、ステータ用のコイルを構成する断面矩形の平角導体であって、前記レーザ装置に対向して配置される2つの平角導体の端部を突き合わせて前記レーザ光および前記第2のレーザ光により溶接することにより前記端面に溶融玉を形成することを特徴とする。
本実施形態の別態様に係る溶接方法において、前記レーザ光および前記第2のレーザ光の照射と同時若しくは照射前から、照射が終了するまで若しくはそれ以上、前記端面に対して、流量が5L/min~100L/min、前記端面に対する傾き角度が0~90°で窒素を吹き付けることを特徴とする。
本実施態様の一態様に係る溶接方法は、レーザ装置に対向して配置される第1部材および第2部材の端部を突き合わせて、レーザ光により溶接する溶接方法であって、前記レーザ光は、波長が異なる第1レーザ光と第2レーザ光とから成り、前記レーザ光を前記端面の略中心に対し所定の旋回径で旋回照射することにより、前記第1レーザ光および前記第2レーザ光が前記端面に対して環状に照射され、前記第2レーザ光の集光径は、前記第1レーザ光の集光径より小さいことを特徴とする。
【0012】
本実施態様の一態様に係るレーザ装置は、第1部材および第2部材の端部を突き合わせて溶接するレーザ装置であって、レーザ光を発振する発振器と、前記レーザ光を前記端面の略中心に対し所定の旋回径で旋回照射するガルバノスキャナ部とを備え、前記レーザ光の集光径は、前記旋回径と同一または前記旋回径より大きく、旋回照射による前記レーザ光の照射領域は、前記第1部材および前記第2部材に跨っていることを特徴とする。
本実施態様の一態様に係るレーザ装置は、第1部材および第2部材の端部を突き合わせて溶接するレーザ装置であって、第1レーザ光を発振する第1発振器と、前記第1レーザ光と波長が異なる第2レーザ光を発振する第2発振器と、前記第1レーザ光と前記第2レーザ光とを同一の光軸上に重畳するコンバイナ部と、前記第1レーザ光および前記第2レーザ光を前記端面の略中心に対し所定の旋回径で旋回照射するガルバノスキャナ部とを備え、前記第1レーザ光の集光径は、前記旋回径と同一または前記旋回径より大きく、前記第2レーザ光の集光径は、前記第1レーザ光の集光径より小さいことを特徴とする。
【0013】
本実施態様の一態様に係るレーザ装置は、第1部材および第2部材の端部を突き合わせて溶接するレーザ装置であって、第1レーザ光を発振する第1発振器と、前記第1レーザ光と波長が異なる第2レーザ光を発振する第2発振器と、前記第1レーザ光および前記第2レーザ光を前記端面の略中心に対し所定の旋回径で旋回照射する1以上のガルバノスキャナ部とを備え、前記第1レーザ光および前記第2レーザ光が前記端面に対して環状に照射され、前記第2レーザ光の集光径は、前記第1レーザ光の集光径より小さいことを特徴とする。
<第1実施形態>
ここでは、本発明の第1実施形態であるレーザ装置100について説明する。レーザ装置100は、熱伝導率が高い材料で形成された被加工物の突き合わせ溶接を行う装置であって、矩形形状の溶接面におけるレーザのエネルギー分布が、中心部において最も高く、周縁部においてゼロとなるようにレーザを照射することにより熱伝導溶接を行う。
【0014】
図1は、レーザ装置100の概略構成を示す図である。同図に示すように、レーザ装置100は、第1レーザ光L1を発振する第1発振器2と、第1レーザ光L1を伝送する光ファイバである伝送ファイバ21と、第1レーザ光L1を平行光に変換するコリメートレンズ22と、第1レーザ光L1の集光径を縮小する集光レンズ6と、集光レンズ6を保護するための保護ガラス7と、ワークWに対する第1レーザ光L1の照射位置を二次元的に変位させるガルバノスキャナ8と、ワークWに対しシールドガスを供給するためのシールドノズル9a、9bとから構成される。なお、レーザ装置100は、上記の構成要素に加え、他の光学系、光ファイバ等を備えていてもよい。
第1レーザ光L1として本実施形態では、マルチモードファイバと連結した青色半導体レーザを用いる。第1レーザ光L1は、波長が300~600nmであればよく、青色レーザに替えて緑色レーザを用いてもよい。第1レーザ光L1の出力パワーは500W~2kWが好ましい。
【0015】
続いてガルバノスキャナ8について説明する。
図2は、ガルバノスキャナ8の構成を模式的に示す図である。同図に示すように、ガルバノスキャナ8は、X軸ガルバノミラー81、X軸ガルバノミラー81を回動させるX軸ガルバノモータ82、Y軸ガルバノミラー83、Y軸ガルバノミラー83を回動させるY軸ガルバノモータ84から構成される。すなわち、ガルバノスキャナ8は、第1レーザ光L1を二次元の任意の方向に偏向する機能を有する。X軸ガルバノモータ42およびY軸ガルバノモータ44として、ステッピングモータやサーボモータ等を用いることができる。
【0016】
ガルバノスキャナ8は、制御部(不図示)と接続されており、制御部から送信される制御指令に基づいて各モータ82、84を駆動することにより、第1レーザ光L1のワークW上における照射位置を二次元的に制御する。より具体的には、ワークWの二次元平面上を第1レーザ光L1が旋回するように制御する。
図3を用いて溶接対象のワークWについて説明する。
図3(a)は、電気自動車等のモータの固定子であるステータ50の概略構成を示す斜視図である。同図に示すように、ステータ50は、略円筒形状のステータコア51と複数のセグメントコイル52とを有する。セグメントコイル52は、断面が矩形状の電線すなわち平角導体である。通常、セグメントコイル52は純銅製のものが用いられるが、銅を主成分とする合金、銅およびアルミニウムから成る合金等、高導電率を有する金属材料で構成してもよい。各セグメントコイル52の端部はステータコア51の上端部から突出しており、レーザ装置100は、ステータコア51の径方向に隣接する2つのセグメントコイル(平角導体)52の端部同士をレーザ溶接する。
【0017】
まず、
図3(b)のように、絶縁被膜が剥離されたセグメントコイル(平角導体)52の突き合せ面52b同士を突き合わせる。このときジグ(不図示)を用いてセグメントコイル52同士を突き合わせてもよい。
図3(c)に示すように、突き合わされた2つのセグメントコイル52の端面52aが、溶接面すなわち本実施形態のワークWとなる。ここで、溶接面のギャップは溶接不良の原因となり得る。溶接不良を抑制するために、2つのセグメントコイル52の端面52a同士が面一となるように突き合わせることが好ましい。レーザ装置100は、隣接する2つのセグメントコイル52が付き合わせた端面52aに対して第1レーザ光L1を旋回照射して、隣接する2つのセグメントコイル52を溶接する。
【0018】
次に、
図4を参照してレーザ装置100による溶接方法の詳細について説明する。
図4(a)は、ガルバノスキャナ8が停止している状態のワークWにおける第1レーザ光L1の照射領域を模式的に示す図である。ワークWは上述したように2つのセグメントコイル52の端部を突き合わせた矩形状をしており、その大きさは任意である。短辺の長さをa、長辺の長さをbとすると、通常のステータのセグメントコイルの場合、2.5mm≦a≦4.0mm、3.0mm≦b≦5.0mm程度である。そうすると、ワークWの総面積(a×b)は、7.5mm
2≦(a×b)≦20.0mm
2程度となる。本実施形態では、一例として、a=2.8mm、b=3.2mmとする。
図4(a)に示すように、第1レーザ光L1の集光径をd1として、この第1レーザ光L1を矢印で示すように、ワークWの中心Oに対して旋回径rで旋回させる。このとき、r≦d1<aとなる。好ましくはr<d1<aである。
また、第1レーザ光L1の集光面積(
図4(a)のグレーの領域)がワークWの総面積の1パーセント~30パーセントとなるように集光径d1を決定してもよい。ここでは一例として、旋回径rを800μmとし、集光径d1を1050μmとする。
【0019】
この状態から第1レーザ光L1を旋回させると、
図4(b)に示すように、第1レーザ光L1の照射領域S(
図4(b)の淡いグレーの領域)は円形となり、その径はd1+rとなる。ここで、ワークWに綺麗な溶融玉を形成するためには、第1レーザ光L1の照射領域Sの外周縁からワークWのエッジ部分までの距離a´は少なくとも0.2mm以上の間隔が開いていることが望ましい。照射領域Sの外周縁からワークWのエッジ部分までの距離a´が短すぎると、スパッタが発生したり、溶融金属が溶け流れる可能性がある。
図4(b)に示すように、ワークWの中心部分における径がd1-rである円形領域s(
図4(b)の濃いグレーの領域)には、第1レーザ光L1が常時照射される。すなわち、第1レーザ光L1のエネルギー分布は、ワークWの中心部分である円形領域sが最も高く、それ以外の領域では中心部分よりも低く一定であり、照射領域Sの外部には第1レーザ光L1が照射されないため、エネルギー分布はゼロとなる。
レーザ装置100は、第1レーザ光L1を旋回速度500mm/sで旋回させる。また、第1レーザ光L1の照射時間は、50msec以上とする。
【0020】
このように、レーザ装置100では、ワークWの中心部分に常に第1レーザ光L1が照射されるため、ワークWの中心部分に対して十分なエネルギー密度で第1レーザ光L1を照射することが可能となる。そのため、中心部分の溶け始めが速く、ワークWの中心部分から端部に向かって熱伝導によって徐々に溶融していく。ここで、ワークWは熱伝導率が非常に高い銅であるが、ワークWのエッジ部分は周囲に熱の逃げ場が無いため、ワークWのエッジ部分に熱を与え過ぎると溶融金属が溶け流れて綺麗な溶融玉を形成することができない。したがって、本実施形態のレーザ装置100は、ワークWのエッジ部分にはレーザ光を照射せず、ワークWの中心部分から端部に向かって徐々に溶融していくことにより、綺麗な溶融玉を形成することができる。
また、第1レーザ光L1を旋回照射することにより、集光径が大きく且つ大出力のレーザ光源を用いなくとも、ワークWに対して必要なエネルギーを供給することが可能となる。
【0021】
レーザ装置100は、第1レーザ光L1の照射と同時もしくは照射前から、照射が終了するまで若しくはそれ以上、溶接面に対してシールドガスである窒素を5L/min~100L/minで吹き付ける。より好ましくは、10L/min~40L/minで吹き付ける。
図1に示すように、本実施形態では2本のシールドノズル9a、9bを用いて左右から窒素を吹き付ける。ワークWに対する各シールドノズル9a、9bの角度は一例として30度である。シールドノズル9a、9bの先端開口の径(ノズルチップ径)は、1~10mm程度が好ましい。また、シールドノズル9a、9bの先端開口からワークWまでの距離であるワーキングディスタンスは、5~15mm程度が好ましい。
シールドノズル9a、9bによってワークWに対し窒素を供給することにより、レーザ装置100は、窒素雰囲気中でワークWの溶接を行う。シールドガスにより溶接面の酸化を防止し、これにより、溶接面の酸化により生じる溶接強度の低下およびポロシティの発生を抑制することが可能となる。更には、シールドガスの流量、ノズルチップ径、ワーキングディスタンス等の条件を好適に選択することにより、溶融玉のゆれを抑制し綺麗な溶融玉を形成することが可能となる。特に、左右から窒素を吹き付けることにより、左右対称の綺麗な溶融玉が形成される。これにより溶接品質が向上する。
【0022】
<第2実施形態>
続いて、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態は、第1レーザ光L1に更に第2レーザ光L2を追加で照射することにより、溶接処理を更に高速で行うことができる溶接方法である。
図5は、第2実施形態に係るレーザ装置1の概略構成を示す図である。同図に示すように、レーザ装置1は、第1レーザ光L1を発振する第1発振器2と、第2レーザ光L2を発振する第2発振器3と、第1レーザ光L1を伝送する光ファイバである伝送ファイバ21と、第2レーザ光L2を伝送する光ファイバである伝送ファイバ31と、第1レーザ光L1を平行光に変換するコリメートレンズ22と、第2レーザ光L2を平行光に変換するコリメートレンズ32と、第1レーザ光L1および第2レーザ光L2の光軸を一致させるためのミラー4、5と、第1レーザ光L1および第2レーザ光L2の集光径を縮小する集光レンズ6と、集光レンズ6を保護するための保護ガラス7と、ワークWに対する第1レーザ光L1および第2レーザ光L2の照射位置を変位させるガルバノスキャナ8と、ワークWに対しシールドガスを供給するためのシールドノズル9a、9bとから構成される。
【0023】
レーザ装置1は、これらの構成要素に加えて、更に他の光学系、光ファイバ等を備えていても良い。
第1発振器2、第2発振器3から発振された第1レーザ光L1、第2レーザ光L2は、それぞれコリメートレンズ22、32にて平行光化される。コリメートレンズ22、32を通過した第1レーザ光L1、第2レーザ光L2は、ミラー4およびミラー5により光軸が一致するように重畳される。その後、集光レンズ6に向けて光軸が変更され、集光レンズ6により所定の径に縮小される。そして、ガルバノスキャナ8にて対向するワークWに対し旋回照射される。なお、ミラー5は、第1レーザ光L1の波長は反射し、第2レーザ光L2の波長は透過するダイクロイックミラーである。このように、レーザ装置1は、ワークWに対し2つのレーザ光L1およびL2を照射して溶接を行う。
【0024】
第1レーザ光L1については、基本的に第1実施形態と同様である。すなわち、第1レーザ光L1の出力パワーは500W~2kWが好ましく、本実施形態では、一例として600Wとする。第2レーザ光L2の出力パワーは500W~2kWが好ましく、本実施形態では一例として900Wとする。
また、第1レーザ光L1の波長は、300nm~600nmであり、第2レーザ光L2の波長は、780nm~1100nmである。すなわち、第1レーザ光L1および第2レーザ光L2は互いに波長が異なり、第1レーザ光L1の波長が第2レーザ光L2の波長よりも短い。ビームモードはマルチモード、シングルモードいずれを使用することも可能であるが、本実施形態では、第1レーザ光L1はマルチモード、第2レーザ光L2はシングルモードを用いている。後述するが、第2レーザ光L2は第1レーザ光L1と比較すると集光径が小さいスポット光である。そのため、第2発振器3としてシングルモードファイバレーザを用いることにより、ビーム径が小さくエネルギー強度が高尖頭値の第2レーザ光L2を効果的に生成することができる。
【0025】
次に、
図6および
図7を用いてレーザ装置1による溶接方法の詳細について説明する。上記の第1実施形態では、第1レーザ光L1の集光径d1は、r≦d1<aであり、集光径d1は旋回径rよりも大きく、ワークWの中心に常に第1レーザ光L1を照射する構成であった。一方で、第2実施形態では、第1レーザ光L1の集光径d1は、旋回径rと比較して大きくてもよいし、小さくてもよいし、同サイズでもよい。
図6は、第1レーザ光L1の集光径d1が、第1実施形態と同様にr≦d1である場合の溶接方法の一例を示している。
図7は、第1レーザ光L1の集光径d1が、r>d1である場合の溶接方法の一例を示している。
先ずは、r≦d1の例を説明する。
図6(a)は、ガルバノスキャナ8が停止している状態のワークWにおける第1レーザ光L1および第2レーザ光L2の照射領域を模式的に示す図である。ワークWについては既に第1実施形態で説明した通りであり、本実施形態においてもワークWの大きさは一例として、a=2.8mm、b=3.2mmとする。
【0026】
図6(a)に示すように、第1レーザ光L1、第2レーザ光L2は、光軸が同一であり、集光径がそれぞれd1、d2の円形ビームである。この第1レーザ光L1および第2レーザ光L2を矢印で示すように、ワークWの中心Oに対して旋回径rで旋回させる。ここでは一例として、第1レーザ光L1の集光径d1を1050μmとし、旋回径rを、800μmとする。また、第2レーザ光L2の集光径d2は、第1レーザ光L1の集光径d1と比して小さく、例えば、d2はd1の10分の1以下である。ここでは一例として、d2を40μmとする。
また、第1実施形態と同様に、第1レーザ光L1の集光面積(
図6(a)のグレーの領域)がワークWの総面積の1パーセント~30パーセントとなるように集光径d1を決定してもよい。
【0027】
この状態から第1レーザ光L1および第2レーザ光L2を旋回させると、
図6(b)に示すように、第1レーザ光L1の照射領域S(
図6(b)の淡いグレーの領域)は円形となり、その径はd1+rとなる。ワークWに綺麗な溶融玉を形成するためには、第1レーザ光L1の照射領域Sの外周縁からワークWのエッジ部分までの距離a´は少なくとも0.2mm以上の間隔が開いていることが望ましい。照射領域Sの外周縁からワークWのエッジ部分までの距離a´が短すぎると、スパッタが発生したり、溶融金属が溶け流れる可能性がある。
図6(b)に示すように、ワークWの中心部分における径がd1-rである円形領域s(
図6(b)の濃いグレーの領域)には、第1レーザ光L1が常時照射される。すなわち、第1レーザ光L1のエネルギー分布は、ワークWの中心部分である円形領域sが最も高く、それ以外の領域では中心部分よりも低く一定であり、照射領域Sの外部には第1レーザ光L1が照射されないため、エネルギー分布はゼロとなる。
【0028】
第2実施形態では、第2レーザ光L2の照射が追加されたことにより、第2レーザ光L2の照射領域Rは、
図6(b)示すように環状となる。ここで、第2レーザ光L2は、ワークWに対しエネルギー、すなわち溶融に必要な熱を供給するために追加照射されるものであり、ワークWにキーホールを形成することが目的ではない。したがって、本実施形態におけるレーザ装置1は、第2レーザ光L2の照射によりキーホールを形成してもよいし、キーホールを形成しなくてもよい。
このようにr≦d1の場合、ワークWの中心部分には常に第1レーザ光L1が照射されるため、ワークWの中心部分に対して十分なエネルギー密度で第1レーザ光L1を照射することが可能となる。そのため、中心部分に最も熱が蓄積され、2つのセグメントコイル52の接合面において最も温度が上昇し、突合せ面52bに深い溶融池が形成される。そして熱伝導によってワークWの端部に向かって徐々に溶融していく。すなわち、本実施形態のレーザ装置1も第1実施形態のレーザ装置100と同様に熱伝導溶接を行う。
レーザ装置1は、第1レーザ光L1の照射により熱吸収率が高まっている状態のワークWに対し、さらに、第2レーザ光L2も照射する。これにより、被加工物の溶融が加速されて、溶接処理の高速化が可能となる。
【0029】
次に、r>d1の例を説明する。
図7(a)は、ガルバノスキャナ8が停止している状態のワークWにおける第1レーザ光L1および第2レーザ光L2の照射領域を模式的に示す図である。この状態から第1レーザ光L1および第2レーザ光L2を旋回させると、
図7(b)に示すように、ワークWの中心部分は第1レーザ光L1が照射されず、第1レーザ光L1の照射領域S(
図7(b)のグレーの領域)は環状となる。照射領域Sの外径はd1+rであり、内径はr-d1である。照射領域Sの外周縁からワークWのエッジ部分までの距離a´は少なくとも0.2mm以上の間隔が開いていることが望ましい。また、第2レーザ光L2の照射領域Rは、
図7(b)に示すように環状となる。
このように、ワークWの中心部分に第1レーザ光L1が照射されない場合であっても、第2レーザ光L2の照射が追加されることにより、照射開始直後は、第2レーザ光L2が照射された部分から溶け始めるが、ワークWの中心部分に熱が伝播し、中心部分に最もエネルギーが蓄積される。そのため、2つのセグメントコイル52の接合面において最も温度が上昇し、突合せ面52bに深い溶融池が形成される。更に、第2レーザ光L2の照射により、被加工物の溶融が加速されて、溶接処理の高速化が可能となる。また、ワークWのエッジ部分にはレーザ光が照射されないので、ワークWの中心部分から端部に向かって徐々に溶融し、綺麗な溶融玉を形成することができる。
【0030】
レーザ装置1は、第1レーザ光L1および第2レーザ光L2を旋回速度500mm/sで旋回させる。また、第1レーザ光L1および第2レーザ光L2の照射時間は、50msec以上とする。また、レーザ装置1は、第1実施形態と同様に、シールドノズル9a、9bによってワークWに対し窒素を供給しながら、窒素雰囲気中でワークWの溶接を行う。シールドガスの流量やノズルの条件などは、第1実施形態と同様である。
<実施形態の効果>
レーザ装置100は、波長が300nm~600nmであり銅に対する光吸収率が高い第1レーザ光L1を旋回照射することによりワークWに溶融池を形成する。そして、レーザ装置100は、照射面の中心に強いエネルギー、照射面の周縁部にはレーザ光を照射しない。このようなエネルギー分布で第1レーザ光L1を照射することにより、熱伝導率が高い被加工物に対して綺麗な溶融玉を形成することが可能となる。
【0031】
仮に第1レーザ光L1を旋回照射せず定点照射する場合は、大出力の青色レーザ光源が必要となるが、大出力の青色レーザ光源はいまだ手に入りにくく高価である。更に、第1レーザ光L1を定点照射した場合は、スパッタが大量に発生する可能性がある。
レーザ装置1は、波長が300nm~600nmであり銅に対する光吸収率が高い第1レーザ光L1を旋回照射することによりワークWに溶融池を形成する。そして、形成される溶融池内部において集光径が小さくエネルギー密度が高い第2レーザ光L2を高速で旋回させながら照射することにより、溶融池内部において局所的に深い溶け込み深さを実現し、溶融池の形成を促進させる。
また、レーザ装置1、レーザ装置100は、従来の溶接装置と比較すると、集光径が大きい第1レーザ光L1を溶接に用いる。その第1レーザ光L1を、レーザ装置1、レーザ装置100は更に旋回照射することにより、ワークWに対し効果的に熱を与えて熔融することができる。
【0032】
更に、レーザ装置1、レーザ装置100は、第1レーザ光L1および第2レーザ光L2を定点照射ではなく旋回照射させることにより、溶融池に流れを生み出す。これが高温に達した溶融池から発生する気泡を外部に排出する。これによりポロシティを抑制することができる。さらに、溶融池において局所的に熱が集中するのを防止し、溶融池を安定化させ、スパッタを軽減することが可能となる。ポロシティやスパッタは接合不良などの溶接欠陥の要因となるため、レーザ装置1、レーザ装置100,およびこれらの装置を用いた溶接方法によれば、溶接欠陥の発生を抑制することが可能となる。
図8は、第2実施形態のレーザ装置1を用いてステータ50のセグメントコイル52を溶接した結果を示す。同図に示すように、光沢があり左右対称の綺麗な溶融玉が形成されていることが分かる。
また、レーザ装置1、レーザ装置100はガルバノスキャナ8により各レーザ光の光軸を二次元的に変位することが可能であるから、ガルバノスキャナ8を備えていないレーザ装置と比較すると、各段にステータ用のセグメントコイルの溶接に要する処理時間を短縮させることが可能となる。
【0033】
ガルバノスキャナを備えていないレーザ装置でセグメントコイルの溶接を行う場合、
図9(a)に示すように、先ず、ワークW1にレーザ光L1、L2の照射位置を合わせた後、レーザ照射する。次に、ワークW2の溶接を行うため照射ノズルをワークW2に対向させるべくレーザ装置1を搬送手段(不図示)によって搬送し、ワークW2にレーザ光L1、L2の照射位置を合わせた後、レーザ照射する。ワークW3、ワークW4についても同様に、レーザ装置の搬送、位置決め、レーザ照射を繰り返し行う必要がある。
一方で、ガルバノスキャナ8を備えるレーザ装置1、レーザ装置100を用いれば、
図9(b)に示すように、ガルバノスキャナ8にてワークW1に対するレーザ光L1、L2の照射位置を合わせた後、レーザ照射する。次に、ワークW2の溶接を行うため、ガルバノスキャナ8にてワークW2に対するレーザ光L1、L2の照射位置を合わせた後、レーザ照射する。すなわち、レーザ装置1、レーザ装置100では、ガルバノスキャナ8を用いることにより、レーザ装置の搬送が不要となる。ワークW3、ワークW4についても同様に、各ワークの溶接加工の都度レーザ装置を搬送する必要がなく、位置決めおよびレーザ照射を繰り返し行うことができる。
【0034】
このように、レーザ装置1、レーザ装置100はレーザ装置の搬送に要する時間が不要となり、加工時間を短縮することが可能となる。
<変形例>
以上、本発明の一実施態様として、レーザ装置1およびレーザ装置100について説明したが、本発明は上記に説明したレーザ装置1、レーザ装置100およびこれらの装置による溶接方法に限定されないのは勿論であり、上記実施形態を以下のように変更することも可能である。
ここでは、上記実施形態の変形例を説明する。上記実施形態と以下に説明する変形例とを如何様にも組み合わせることができる。
【0035】
(1)第2実施形態において、レーザ装置1は互いに波長が異なるレーザ光L1、L2を重畳している。ここで、光の屈折率はその光の波長に依存しており、波長の異なる複数のレーザ光を重畳してレンズ等を通過させると、ワークW上において第1レーザ光L1の照射位置と、第2レーザ光L2の照射位置とがずれてしまうことがある。これを抑制するために、レーザ装置1がfθレンズを備えてもよいし、ガルバノスキャナ8に替えて3Dガルバノスキャナを用いてもよい。更に他の光学系、光ファイバ等を備えていても良い。
(2)第1実施形態、第2実施形態において、第1レーザ光L1の集光径d1は、1050μmに限定されない。上記で説明したように、第1レーザ光L1の照射領域の面積(集光面積、スポット面積)がワークWの総面積の1パーセント~30パーセントとなるように集光径d1を選択することが可能である。
また、第2実施形態において、第2レーザ光L2の集光径d2は40μmに限定されない。第2レーザ光L2の集光径d2は、10~100μm程度とすることが可能であり、第1レーザ光L1の集光径d1の10分の1以下とすることが好ましい。
【0036】
各レーザ光の集光径は、伝送ファイバのコア径、コリメートレンズの焦点距離、集光レンズの焦点距離に依存し、集光径=伝送ファイバのコア径×(集光レンズの焦点距離/コリメートレンズの焦点距離)で計算することができる。したがって、これらの光学系を調整することにより、各レーザ光の集光径を変更することが可能である。
(3)上記の第1実施形態、第2実施形態では、第1レーザ光L1、第2レーザ光L2の旋回速度を500mm/sとして説明したが、第1レーザ光L1、第2レーザ光L2の旋回速度はこれに限定されず、100~1000mm/sの範囲であればよい。
(4)上記の第2実施形態では、第1レーザ光L1はマルチモードであり、第2レーザ光L2はシングルモードであると説明したが、これは一例であり、各レーザ光のビームモードは限定されない。
【0037】
(5)上記の第1実施形態、第2実施形態では、ガルバノスキャナ8の動作との干渉を避け、効果的に窒素を供給するためにサイドノズル型のシールドノズル9a、9bを用いたが、シールドノズルはサイドノズル型に限定されないのは勿論である。シールドノズルは、溶接面に対して傾き角度0~90°で窒素を吹き付け、窒素雰囲気中で溶接することが可能であればよい。
(6)上記の第1実施形態、第2実施形態では、第1レーザ光L1および第2レーザ光L2は、ワークW(溶接面)上に焦点を合わせているが、本発明においては、第1レーザ光L1および第2レーザ光L2はともに、溶接面から鉛直方向に±2mmの範囲の位置に焦点を合わせてもよい。
(7)上記の第1実施形態、第2実施形態において第1レーザ光L1、第2レーザ光L2は円形ビームであったが、第1レーザ光L1、第2レーザ光L2のビーム形状はこれに限定されない。例えば、楕円形状のビームや矩形形状のビームを用いてもよい。この場合、矩形の溶接面において長手方向を長径とすることが好ましい。
【0038】
(8)上記の第1実施形態、第2実施形態では被加工物としてステータ用コイルを例に説明した。しかしながら、上記の溶接方法およびレーザ装置1、レーザ装置100は、ステータ用コイルの溶接に使用する場合に限定されないのは勿論である。
(9)第2実施形態では第1レーザ光L1の光軸と第2レーザ光L2の光軸とを一致させてガルバノスキャナ8で旋回照射している。しかし本発明はこれには限定されず、第1レーザ光L1の光軸と第2レーザ光L2の光軸とが不一致でもよく、それぞれを別個のレーザ走査光学系(ガルバノスキャナ)で旋回させることも可能である。すなわち、レーザ装置100が2つのガルバノスキャナを備えており、一方のガルバノスキャナが第1レーザ光L1を旋回させて、他方のガルバノスキャナが第2レーザ光L2を旋回させる構成も本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0039】
1、100 レーザ装置
2 第1発振器
3 第2発振器
4、5 ミラー(コンバイナ部)
6 集光レンズ
7 保護ガラス
8 ガルバノスキャナ
9a、9b シールドノズル
21、31 伝送ファイバ
21、32 コリメートレンズ
52 セグメントコイル(第1部材、第2部材)
52a 端面