(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128217
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】水栓用分岐金具
(51)【国際特許分類】
F16L 19/025 20060101AFI20230907BHJP
E03C 1/02 20060101ALI20230907BHJP
F16L 41/12 20060101ALI20230907BHJP
F16L 41/16 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
F16L19/025
E03C1/02
F16L41/12
F16L41/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032407
(22)【出願日】2022-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000144072
【氏名又は名称】SANEI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 隆裕
【テーマコード(参考)】
2D060
3H014
3H019
【Fターム(参考)】
2D060AA01
2D060AC03
3H014AA08
3H014CA05
3H019BA04
3H019BB01
3H019BB10
3H019BC05
(57)【要約】
【課題】施工性の向上と施工後の位置保持性能の向上とを図ることが可能な水栓用分岐金具を提供すること。
【解決手段】水栓用分岐金具は、通水路を成す主管部から分岐される分岐管部22と、分岐管部22の開口端部22Aに管軸方向の配置が重なるように嵌合される管継手3と、管継手3の嵌合管部31Aの外周面に管周方向に延びるように形成される逃がし溝A1と、分岐管部22の嵌合管部22Bに固定されて逃がし溝A1に入り込むように突出するビスBと、を有する。逃がし溝A1は、管周方向の一部に管軸方向に延び出るキー溝A2を有する。管継手3の分岐管部22に対する管軸方向の摺動に伴い、ビスBがキー溝A2に入ることで管継手3の分岐管部22に対する管周方向の摺動が規制され、ビスBがキー溝A2から抜けることで管継手3の管周方向の摺動が許容される。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
通水路を成す主管部と、該主管部から分岐される分岐管部と、を有する水栓用分岐金具であって、
前記分岐管部の開口端部に管軸方向の配置が重なるように嵌合され、前記分岐管部により前記管軸方向と管周方向とに摺動可能なように支持される管継手と、
前記管継手と前記分岐管部との嵌合された内外2重の嵌合管部のうちの内側の嵌合管部の外周面に前記管周方向に延びるように形成される逃がし溝と、
外側の嵌合管部に固定されて前記逃がし溝に入り込むように突出する突出ピンと、を有し、
前記逃がし溝が、前記管周方向の一部に前記管軸方向に延び出るキー溝を有し、前記管継手の前記分岐管部に対する前記管軸方向の摺動に伴い、前記突出ピンが前記キー溝に入ることで前記管継手の前記分岐管部に対する前記管周方向の摺動が規制され、前記突出ピンが前記キー溝から抜けることで前記管継手の前記管周方向の摺動が許容される水栓用分岐金具。
【請求項2】
請求項1に記載の水栓用分岐金具であって、
前記逃がし溝が、前記突出ピンの前記管軸方向の双方向の移動を溝幅の範囲内に規制可能な断面U字状の溝とされる水栓用分岐金具。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の水栓用分岐金具であって、
前記キー溝が、前記管継手の前記分岐管部に対する前記管軸方向の離間により前記突出ピンが入るよう前記逃がし溝から延び出る水栓用分岐金具。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の水栓用分岐金具であって、
前記内側の嵌合管部が、前記管継手により構成され、前記外側の嵌合管部が、前記分岐管部により構成される水栓用分岐金具。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の水栓用分岐金具であって、
前記キー溝が、前記逃がし溝の前記管周方向の複数箇所に形成される水栓用分岐金具。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の水栓用分岐金具であって、
前記突出ピンと該突出ピンが入る前記キー溝との組み合わせが、前記管周方向の複数箇所に設定される水栓用分岐金具。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれかに記載の水栓用分岐金具であって、
前記分岐管部と前記管継手との間に設けられ、前記突出ピンと前記キー溝との前記管周方向の位置が合わされることで付勢により前記突出ピンを前記キー溝に入らせるように弾発力を作用させる弾性手段を更に有する水栓用分岐金具。
【請求項8】
請求項7に記載の水栓用分岐金具であって、
前記弾性手段が、前記外側の嵌合管部の内部に位置固定されるように組み付けられる座部と該座部から前記内側の嵌合管部の内部に向かって前記管軸方向に延びる軸部とを有する支持部材と、前記軸部に通されて前記座部と前記内側の嵌合管部との間に前記管軸方向の反発力を作用させる圧縮コイルばねと、で構成される水栓用分岐金具。
【請求項9】
請求項8に記載の水栓用分岐金具であって、
前記軸部が、前記内側の嵌合管部の内部まで前記管軸方向に延び、かつ、前記軸部の中心部に、前記管軸方向に貫通して前記外側の嵌合管部と前記内側の嵌合管部との間の流路を成す中間流路が形成される水栓用分岐金具。
【請求項10】
請求項1から請求項9のいずれかに記載の水栓用分岐金具であって、
前記キー溝を含む前記逃がし溝が、前記管継手の前記分岐管部に対する前記管軸方向の可動範囲の全域において、前記外側の嵌合管部から前記管軸方向に食み出さない位置に形成される水栓用分岐金具。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれかに記載の水栓用分岐金具であって、
当該水栓用分岐金具が、前記分岐管部に前記管継手が回転式のエルボとしてユニット化されて、シンクの下方に設けられるキャビネットの内部において前記主管部が高さ方向に延びて前記分岐管部が前記高さ方向とは交差する方向に延びるように配設される分岐止水栓として構成される水栓用分岐金具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水栓用分岐金具に関する。詳しくは、通水路を成す主管部と、主管部から分岐される分岐管部と、を有する水栓用分岐金具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、通水路を二手に分ける分岐金具が開示されている。この分岐金具は、湯水を給水栓へと導く主管部と、主管部から分岐されて湯水を他の水栓器具(食器洗浄機や浄水器)へと導く分岐管部と、を備える。分岐管部には、他の水栓器具との間を繋ぐ管継手が管軸回りに回転可能なように接続されている。それにより、管継手を施工現場の状況に合わせた向きに自由に変えて配管施工を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の構成では、管継手が分岐管部に対して回転フリーに接続されている。そのため、施工後に管継手が外力の作用を受けて意図しない方向に回転し、他の水栓器具との間を繋ぐ接続配管に過大なテンションを掛けたりキンクを生じさせたりするおそれがある。そこで、本発明は、施工性の向上と施工後の位置保持性能の向上とを図ることが可能な水栓用分岐金具を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の水栓用分岐金具は、次の手段をとる。すなわち、本発明の第1の発明は、通水路を成す主管部と、該主管部から分岐される分岐管部と、を有する水栓用分岐金具であって、前記分岐管部の開口端部に管軸方向の配置が重なるように嵌合され、前記分岐管部により前記管軸方向と管周方向とに摺動可能なように支持される管継手と、前記管継手と前記分岐管部との嵌合された内外2重の嵌合管部のうちの内側の嵌合管部の外周面に前記管周方向に延びるように形成される逃がし溝と、外側の嵌合管部に固定されて前記逃がし溝に入り込むように突出する突出ピンと、を有し、前記逃がし溝が、前記管周方向の一部に前記管軸方向に延び出るキー溝を有し、前記管継手の前記分岐管部に対する前記管軸方向の摺動に伴い、前記突出ピンが前記キー溝に入ることで前記管継手の前記分岐管部に対する前記管周方向の摺動が規制され、前記突出ピンが前記キー溝から抜けることで前記管継手の前記管周方向の摺動が許容される水栓用分岐金具である。
【0006】
第1の発明によれば、管継手を分岐管部に対して管軸方向に動かすだけの簡便な操作により、突出ピンをキー溝に対して出し入れして、管継手を分岐管部に対して回転ロックしたり解除したりするよう切り替えることができる。したがって、例えば、管継手に他の接続配管を接続するなどの施工時には管継手を施工しやすい位置に回転させ、施工後に管継手を回転ロックして定位置に保持するといった切り替えをワンタッチで簡便に行うことができる。それにより、配管施工の施工性の向上と施工後の位置保持性能の向上とを図ることができる。
【0007】
本発明の第2の発明は、上記第1の発明において、前記逃がし溝が、前記突出ピンの前記管軸方向の双方向の移動を溝幅の範囲内に規制可能な断面U字状の溝とされる水栓用分岐金具である。
【0008】
第2の発明によれば、突出ピンが逃がし溝に入り込む構造を利用して、管継手の分岐管部に対する抜け止め構造を合理的に構成することができる。
【0009】
本発明の第3の発明は、上記第1又は第2の発明において、前記キー溝が、前記管継手の前記分岐管部に対する前記管軸方向の離間により前記突出ピンが入るよう前記逃がし溝から延び出る水栓用分岐金具である。
【0010】
第3の発明によれば、管継手を分岐管部から離間させる方向が、管継手を回転ロックする方向となる。それにより、管継手を回転ロックする方向と、管継手が通水圧により分岐管部から引き離されるように力を受ける方向と、が同一となる。したがって、使用時に管継手の回転ロックが意図せず解除されてしまう不測の事態を防止することができる。
【0011】
本発明の第4の発明は、上記第1から第3のいずれかの発明において、前記内側の嵌合管部が、前記管継手により構成され、前記外側の嵌合管部が、前記分岐管部により構成される水栓用分岐金具である。
【0012】
第4の発明によれば、内側の嵌合管部を構成する管継手に、逃がし溝が形成されることとなる。したがって、分岐管部が主管部と一体成形された鋳物から成るような複雑な切削加工を施しにくい構成とされても、比較的簡単に各構成部品の加工を行うことができる。
【0013】
本発明の第5の発明は、上記第1から第4のいずれかの発明において、前記キー溝が、前記逃がし溝の前記管周方向の複数箇所に形成される水栓用分岐金具である。
【0014】
第5の発明によれば、管継手を複数の回転位置で選択的に回転ロックすることができ、更なる利便性の向上を図ることができる。
【0015】
本発明の第6の発明は、上記第1から第5のいずれかの発明において、前記突出ピンと該突出ピンが入る前記キー溝との組み合わせが、前記管周方向の複数箇所に設定される水栓用分岐金具である。
【0016】
第6の発明によれば、管継手の回転ロックの強度を高めることができる。また、管継手の分岐管部に対する傾ぎを抑制することができる。
【0017】
本発明の第7の発明は、上記第1から第6のいずれかの発明において、前記分岐管部と前記管継手との間に設けられ、前記突出ピンと前記キー溝との前記管周方向の位置が合わされることで付勢により前記突出ピンを前記キー溝に入らせるように弾発力を作用させる弾性手段を更に有する水栓用分岐金具である。
【0018】
第7の発明によれば、管継手を回転ロックさせたい位置に回して手を離すことで弾発力により自動で回転ロックすることができる。また、弾性手段の弾発力により、管継手を回転ロックさせた状態に適切に保持することができる。
【0019】
本発明の第8の発明は、上記第7の発明において、前記弾性手段が、前記外側の嵌合管部の内部に位置固定されるように組み付けられる座部と該座部から前記内側の嵌合管部の内部に向かって前記管軸方向に延びる軸部とを有する支持部材と、前記軸部に通されて前記座部と前記内側の嵌合管部との間に前記管軸方向の反発力を作用させる圧縮コイルばねと、で構成される水栓用分岐金具である。
【0020】
第8の発明によれば、弾性手段を水栓用分岐金具の外観を崩さないよう外側の嵌合管部の内部に組み込んで設けることが可能な構成とすることができる。
【0021】
本発明の第9の発明は、上記第8の発明において、前記軸部が、前記内側の嵌合管部の内部まで前記管軸方向に延び、かつ、前記軸部の中心部に、前記管軸方向に貫通して前記外側の嵌合管部と前記内側の嵌合管部との間の流路を成す中間流路が形成される水栓用分岐金具である。
【0022】
第9の発明によれば、中間流路を備える軸部により、外側の嵌合管部の内部から外側の嵌合管部と内側の嵌合管部とのシール面までの流路を複雑化して、シール面に異物を混入させにくくすることができる。具体的には、上記シール面までの流路は、軸部の中間流路を通ってから軸部と内側の嵌合管部との間に回り込み、これらの間を通ってから更に内側の嵌合管部と外側の嵌合管部との間へと回り込む迂回路として形成される。
【0023】
本発明の第10の発明は、上記第1から第9のいずれかの発明において、前記キー溝を含む前記逃がし溝が、前記管継手の前記分岐管部に対する前記管軸方向の可動範囲の全域において、前記外側の嵌合管部から前記管軸方向に食み出さない位置に形成される水栓用分岐金具である。
【0024】
第10の発明によれば、管継手を分岐管部に対して管軸方向に動かしても、キー溝及び逃がし溝が外部に露出しない。そのため、逃がし溝にゴミ等の異物が入り込むことによる動作不良の発生を抑制することができる。
【0025】
本発明の第11の発明は、上記第1から第10のいずれかの発明において、当該水栓用分岐金具が、前記分岐管部に前記管継手が回転式のエルボとしてユニット化されて、シンクの下方に設けられるキャビネットの内部において前記主管部が高さ方向に延びて前記分岐管部が前記高さ方向とは交差する方向に延びるように配設される分岐止水栓として構成される水栓用分岐金具である。
【0026】
第11の発明によれば、シンク下の狭いスペースにおいて、管継手を工具を用いることなく施工現場の状況に合わせた向きに自由に変えて、配管施工を簡便に行うことができる。また、施工後には、管継手を他の配管と干渉しても回転しない状態に保持することができる。したがって、他の配管との干渉を生じやすいシンク下の狭いスペースにおいて、管継手に接続される接続配管を適切に位置固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】第1の実施形態に係る水栓用分岐金具の概略構成を表す斜視図である。
【
図2】管継手を分岐管部から外した分解斜視図である。
【
図4】管継手を分岐管部に組み付けた状態を表す部分断面斜視図である。
【
図6】管継手の初期状態を表す部分断面斜視図である。
【
図8】管継手を分岐管部に押し込んだ状態を表す部分断面正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明を実施するための形態について、図面を用いて説明する。
【0029】
《第1の実施形態》
(水栓用分岐金具1の概略構成)
始めに、本発明の第1の実施形態に係る水栓用分岐金具1の構成について、
図1~
図8を用いて説明する。なお、以下の説明において、手前、奥、上、下、左、右等の各方向を示す場合には、各図中に示されたそれぞれの方向を指すものとする。各図中に示す方向は、それぞれ、本実施形態に係る水栓用分岐金具1を正面から見た方向となっている。以下の説明において、具体的な参照図を示さない場合、或いは参照図に該当する符号がない場合には、
図1~
図8のいずれかの図を適宜参照するものとする。
【0030】
図1に示すように、本実施形態に係る水栓用分岐金具1は、キッチンのシンク下のスペース、すなわち、シンクの下方に設けられる不図示のキャビネットの内部に配管施工される分岐止水栓として構成される。水栓用分岐金具1は、銅合金製の金具本体2と、金具本体2の分岐管部22に接続される銅合金製のエルボから成る管継手3と、を備える。
【0031】
また、水栓用分岐金具1は、金具本体2の通水路を成す主管部21の流量調節を行う回転操作式の上ハンドル4と、金具本体2の分岐管部22の流量調節を行う回転操作式の下ハンドル5と、を備える。また、水栓用分岐金具1は、管継手3の分岐管部22に対する回転をロックするべく、これらの間に管軸方向のばね付勢力を作用させる弾性手段6を更に備える。
【0032】
水栓用分岐金具1は、上記金具本体2と管継手3と上ハンドル4と下ハンドル5と弾性手段6とが1つに組み付けられて施工現場へと持ち運ばれる、ユニット化された構成とされる。水栓用分岐金具1は、その金具本体2の図示下側の開口端部21Aに、キャビネットの床下から延び出る給水配管P1が接続されるように配管施工される。それにより、水栓用分岐金具1は、図示下側の給水配管P1から湯または水(以下、湯水)の給水を受ける構成とされる。
【0033】
また、水栓用分岐金具1は、その金具本体2の図示上側の開口端部21Bに、接続配管P2を介して不図示の給水栓が接続されるように配管施工される。それにより、水栓用分岐金具1は、図示下側の給水配管P1から給水された湯水を接続配管P2を介して不図示の給水栓へと流す構成とされる。
【0034】
また、水栓用分岐金具1は、その分岐管部22に接続された管継手3に、別の接続配管P3を介して不図示の他の水栓器具(食器洗浄機や浄水器)が接続されるように配管施工される。それにより、水栓用分岐金具1は、図示下側の給水配管P1から給水された湯水を管継手3から別の接続配管P3を介して不図示の他の水栓器具へも分岐して流す構成とされる。
【0035】
図2~
図3に示すように、管継手3は、分岐管部22の図示左側の開口端部22A内に図示左側から嵌め込まれて接続される。そして、上記嵌め込みの後、
図4~
図5に示すように、分岐管部22の外周部の上下2箇所の位置に貫通形成された各ビス孔B1に、対応する各ビスBが管径方向の外側から締め付けられる。それにより、管継手3が、各ビスBを介して分岐管部22に抜け止めされた状態に組み付けられる。ここで、各ビスBが、本発明の「突出ピン」に相当する。
【0036】
各ビスBは、それぞれ、管継手3の外周部に形成された逃がし溝A1の内部に入り込む位置まで締め付けられる。それにより、管継手3は、各ビスBを介して、分岐管部22に対して管軸方向の脱落が防止された状態に組み付けられる。逃がし溝A1は、各ビスBの管軸方向の双方向の移動を溝幅の範囲内に規制することが可能な断面U字状に窪んだ形状とされる。
【0037】
一方、逃がし溝A1は、管継手3の外周部に沿って管周方向に環状に延びる形に窪む形状とされる。そのため、逃がし溝A1は、各ビスBがその内部に組み付けられた状態から、管継手3が分岐管部22に対して管軸回りに回されても、各ビスBとは管周方向に当接しないようになっている。そのようなことから、管継手3は、各ビスBが逃がし溝A1の内部に入り込むように締め付けられた状態においても、分岐管部22に対する管軸回りの回転(管周方向の摺動)が許容されるようになっている。
【0038】
図4に示すように、逃がし溝A1は、その管周方向の6箇所の位置に、各ビスBを管軸方向に受け入れ可能に図示右側へと半円溝状に凹むキー溝A2が形成された構成とされる。これらキー溝A2は、逃がし溝A1の管周方向の6箇所の位置に等間隔に並んで形成されている。これらキー溝A2は、作業者により管継手3が分岐管部22に対して管軸回りに回されることにより、そのうちの2つのキー溝A2と各ビスBとの管周方向の配置が一致するように合わされたりずらされたりするようになっている。
【0039】
上記2つのキー溝A2と各ビスBとの管周方向の配置が合わされることで、管継手3が分岐管部22に対して図示左側へと摺動できる状態となる。したがって、この状態から、管継手3を図示左側へと摺動させることにより、
図6~
図7に示すように、各ビスBが、対応する2つのキー溝A2の内部に嵌まり込む。この嵌合により、管継手3の分岐管部22に対する管軸回りの回転(管周方向の摺動)が各ビスBを介して規制される。
【0040】
図2~
図3に示すように、上述した管継手3は、詳しくは、分岐管部22との間に圧縮コイルばね62を備える弾性手段6が組み込まれる構成とされる。それにより、
図6~
図7に示すように、管継手3は、分岐管部22に組み付けられた状態では、弾性手段6により常時、分岐管部22に対して図示左側に押圧されるばね付勢力が掛けられる構成とされる。
【0041】
このばね付勢力により、管継手3は、その自由状態では、各ビスBが逃がし溝A1の図示右内側面、或いは対応する各キー溝A2の内部に嵌まり込んで各キー溝A2の図示右内側面に押し当てられて保持されるようになっている。上記構成により、管継手3は、その回転により2つのキー溝A2と各ビスBとの位置が合わされることで、弾性手段6のばね付勢力によって図示左側へと押し出される。それにより、各ビスBが対応する2つのキー溝A2の内部に嵌まり込んで、管継手3の分岐管部22に対する回転がロックされる。
【0042】
また、
図8に示すように、管継手3は、作業者により弾性手段6のばね付勢力に抗して図示右側へと押し込まれることにより、各ビスBに嵌まり込んでいた2つのキー溝A2が各ビスBから図示右側へと外される。それにより、各ビスBが、逃がし溝A1に入り込んだ状態へと切り替わる。その結果、管継手3の分岐管部22に対する回転ロックが解除され、管継手3を分岐管部22に対して管軸回りに自由に回転させることができる状態となる。
【0043】
上記管継手3は、その分岐管部22に対する回転位置を所望の位置に調節した後、作業者による図示右側への押し込み力が解除されることにより、再び弾性手段6のばね付勢力によって図示左側へと押し戻されて回転ロックされた状態となる(
図7参照)。具体的には、管継手3は、各ビスBが対応する各キー溝A2と嵌合する管周方向の60度間隔の各位置にて回転ロックされるようになっている。
【0044】
上記構成により、管継手3をその調節した所望の向きにロックすることができる。このように、水栓用分岐金具1は、管継手3の分岐管部22に対する回転をばね付勢力により自動的にロックしたり、管継手3をばね付勢力に抗して押し込むことで回転ロックを解除したりすることが可能なばね式のロック機構を備える。このような構成により、水栓用分岐金具1は、作業者が工具を用いることなく管継手3を手で押し込んだり押し込みを解除したりするだけの簡便な操作によって、管継手3の分岐管部22に対する回転をロックしたり許容したりするように切り替えることができるようになっている。
【0045】
図1に示すように、水栓用分岐金具1は、上記のように管継手3が予め分岐管部22にユニット化された構成とされることで、シンク下の狭いスペースで管継手3を分岐管部22に接続するといった作業が不要な構成とされる。なおかつ、作業者が管継手3を分岐管部22に向かって図示右側に押し込むだけで、エルボから成る管継手3の向きを施工現場の状況に合わせた向きに自由に変えることができる状態に切り替えられる。したがって、シンク下の狭いスペースにおいて、管継手3に別の接続配管P3を接続する作業を簡便に行うことができる。
【0046】
また、管継手3に接続配管P3を接続した後、管継手3を所望の向きに調節してその押し込み力を解除することにより、管継手3の分岐管部22に対する向きを所望の向きにロックすることができる。したがって、管継手3を接続配管P3の配索経路に適した向きに固定することができる。その結果、一連の配管施工後には、管継手3及び管継手3に接続される接続配管P3を、シンク下の狭いスペースに配索される他の配管(不図示)と干渉しても回転しない状態に保持することができる。
【0047】
(各部の構成)
以下、水栓用分岐金具1の各部の具体的な構成について説明する。
図1に示すように、金具本体2は、図示上下方向に延びる縦向きの通水路を成す円管形状の主管部21と、主管部21の経路途中から図示左向きに通水路を分岐する円管形状の分岐管部22と、を有する。金具本体2は、鋳造により主管部21と分岐管部22とが一体成形された鋳物から成る。主管部21は、図示下側の開口端部21Aと図示上側の開口端部21Bとの間を真っ直ぐ繋ぐように延びる縦向きの通水路を成す。
【0048】
(分岐管部22)
分岐管部22は、主管部21から図示左向きに直交して延びるように分岐される横向きの通水路を成す。
図2~
図3に示すように、分岐管部22は、その図示左側の開口端部22Aに向かって延びる管部が、内部に管継手3を嵌合させることが可能な嵌合管部22Bとして形成される。ここで、嵌合管部22Bが、本発明の「外側の嵌合管部」に相当する。
【0049】
嵌合管部22Bの外周部には、その図示上下2箇所の位置に、管径方向に貫通する丸孔形状のビス孔B1が形成されている。各ビス孔B1は、それらの内周面に雌ねじがねじ切りされた構成とされる。
【0050】
嵌合管部22Bの内周部は、その管軸方向の基端(図示右端)から開口端部22Aに向かって内径が段階的に広がる段付き形状に形成されている。具体的には、嵌合管部22Bの内周部は、その図示左側の開口端部22Aから基端(図示右端)に向かって、拡径部B3、縮径部B2及び係止座B4が管軸方向に連続して並ぶ形状とされる。
【0051】
拡径部B3は、嵌合管部22Bの図示左側の開口端部22Aに臨む開口端側の管路の内周部を成す。拡径部B3は、その内周面が、嵌合管部22Bの管路と同心円状となる平滑な環状面に形成されている。縮径部B2は、拡径部B3の上流側の管路の内周部を成す。縮径部B2は、その内周面が、拡径部B3よりもひとまわり小さな同心円状の平滑な環状面に形成されている。係止座B4は、縮径部B2とその上流側の更に縮径された管路の内周部との間の段差部を成す環状の座面部として形成されている。
【0052】
上記嵌合管部22Bには、その管内に、後述する弾性手段6と管継手3の嵌合管部31Aとが図示左側の開口端部22Aから順に緩やかに嵌合する状態にセットされる(
図4~
図5参照)。上記組み付けにより、嵌合管部22Bは、その係止座B4に、後述する弾性手段6の座部61Aが図示左側から管周方向の全域に亘って管軸方向に当てられた状態にセットされる。ここで、管継手3の嵌合管部31Aが、本発明の「内側の嵌合管部」に相当する。
【0053】
また、嵌合管部22Bは、その縮径部B2に、後述する管継手3の嵌合管部31Aが管軸方向に緩やかに嵌合された状態にセットされる。それにより、縮径部B2の内周面には、嵌合管部31Aの外周部に装着されたOリングRが管周方向の全域に亘って密着した状態に押し付けられる。上述した各ビス孔B1は、嵌合管部22Bの拡径部B3における図示上下2箇所の位置に、管軸中心に向かって互いに上下に真っ直ぐ並ぶように形成されている。
【0054】
(管継手3)
図2~
図3に示すように、管継手3は、図示左右方向に真っ直ぐ延びる段付き円管形状の本体管部31と、本体管部31の外周部に形成された接続口31Bに接続される円管形状の接続管部32と、を有する。管継手3は、上記本体管部31と接続管部32との接続により、L字型の配管継手を成すエルボとしてユニット化される構成とされる。
【0055】
具体的には、管継手3は、接続管部32が本体管部31の図示上側に開口する接続口31Bに図示上側から螺合されることで、互いの管路が内部で連通するように一体的に接続される。この接続により、管継手3は、本体管部31の図示右側の開口端部と接続管部32の図示上側の開口端部とが互いに連通するL字型の管路を成すように組まれる。本体管部31は、その図示左側の端部が閉塞された有底の円管形状とされる。
【0056】
本体管部31は、その図示右端側の円管部分が、図示左端側の円管部分よりもひとまわり小さな同心状の円管形状を成す嵌合管部31Aとして形成される。嵌合管部31Aの外周部には、その管軸方向の中間部に、管周方向に環状に延びる形に窪んだ逃がし溝A1が形成されている。逃がし溝A1は、前述した各ビスBがその内部に入り込むように締め付けられる溝とされる。逃がし溝A1の管周方向の6箇所の位置には、前述した各キー溝A2が形成されている。
【0057】
また、嵌合管部31Aの外周部には、その逃がし溝A1の形成領域から図示右側に外れた管軸方向の中間部に、管周方向に環状に延びる形に窪んだ環状溝A3が形成されている。この環状溝A3には、ゴム製のOリングRが嵌め込まれて装着される。
図3に示すように、嵌合管部31Aの外周部の逃がし溝A1より図示左側の基端部A5は、分岐管部22の拡径部B3の内径よりも僅かに小さい略同一の外径を有する同心円状の平滑な環状面に形成されている。
【0058】
図2~
図3に示すように、嵌合管部31Aは、分岐管部22の嵌合管部22Bの管内に図示左側の開口端部22Aから管軸方向に差し込まれて嵌合される。具体的には、嵌合管部31Aは、次の手順により、分岐管部22の嵌合管部22Bの管内にセットされる。先ず、嵌合管部31Aの管内に図示右側の開口端部から後述する弾性手段6の軸部61Bと軸部61Bに通された圧縮コイルばね62とを差し込んで、弾性手段6を嵌合管部31Aに組み付ける。
【0059】
次に、
図4~
図5に示すように、弾性手段6が組み付けられた嵌合管部31Aを、弾性手段6と共に分岐管部22の嵌合管部22Bの管内に差し込む。それにより、
図5に示すように、後述する弾性手段6の座部61Aが、分岐管部22の縮径部B2内へと通されて、係止座B4に図示左側から管周方向の全域に亘って管軸方向に当てられた状態にセットされる。弾性手段6の座部61Aは、縮径部B2の内径よりも僅かに小さい略同一の外径を有する円板形状とされる。そのため、弾性手段6の座部61Aは、縮径部B2へと通されることで、縮径部B2により管径方向の外側から取り囲まれるように支持されて、縮径部B2の略管軸中心となる位置に保持される。
【0060】
そして、上記組み付けにより、嵌合管部31Aが、分岐管部22の嵌合管部22Bに対し、互いの管路が内部で連通するように嵌合される。具体的には、
図7に示すように、嵌合管部31Aは、弾性手段6の軸部61Bの中心部に貫通して形成された中間流路B5を介して、分岐管部22の嵌合管部22Bの管路と連通するように嵌合される。そして、嵌合管部31Aが分岐管部22の嵌合管部22Bの管内に嵌合されることで、嵌合管部31Aの外周部に装着されたOリングRが、分岐管部22の縮径部B2の内周面に管周方向の全域に亘って密着した状態にセットされる。また、基端部A5が、拡径部B3に緩やかに嵌合した状態にセットされる。
【0061】
それにより、嵌合管部31Aは、分岐管部22の嵌合管部22Bに対して、管軸方向の配置が重なるように嵌合されて、OリングRにより水密、かつ、基端部A5の緩やかな嵌合により軸の傾ぎが生じにくいように接続される。
図8に示すように、上記嵌合管部31Aは、その基端部A5の基端(図示左端)からフランジ状に張り出す本体管部31の段差面31Cが分岐管部22の開口端部22Aと当接する位置まで、分岐管部22の嵌合管部22B内に差し込めるようになっている。
【0062】
嵌合管部31Aを上記位置まで差し込むことで、嵌合管部31Aの逃がし溝A1が、分岐管部22の各ビス孔B1と管軸方向の配置が重なる状態となり、各ビス孔B1と管径方向に対向する状態となる。したがって、この状態から各ビス孔B1に各ビスBを締め付けることにより、各ビスBを逃がし溝A1に入り込む位置まで締め付けて、管継手3の嵌合管部31Aを分岐管部22の嵌合管部22Bに抜け止めした状態に組み付けることができる。
【0063】
上記組み付けられた嵌合管部31Aは、
図7に示すように、弾性手段6のばね付勢力によって各ビスBに対し対応する2つのキー溝A2が嵌まり込むように図示左側に押圧されても、逃がし溝A1が分岐管部22の管内に収まる位置までしか動かされないようになっている。そのため、逃がし溝A1が外部に露出せず、逃がし溝A1にゴミ等の異物が入り込んで動作不良を引き起こすことが抑制される。
【0064】
(弾性手段6)
図2~
図3に示すように、弾性手段6は、座部品となる支持部材61と、支持部材61に組み付けられる圧縮コイルばね62と、を有する。支持部材61は、管軸方向を向いて設けられる円板状の座部61Aと、座部61Aの中心部から図示左側へ向かって管軸方向に円筒状に延び出る軸部61Bと、を一体に有する構成とされる。軸部61B及び座部61Aには、これらの中心部を通って管軸方向に貫通する丸孔状の中間流路B5が形成されている。圧縮コイルばね62は、軸部61Bの外周部に図示左側の先端から通されることで、図示右側の端部が座部61Aに当てられた状態にセットされる。
【0065】
弾性手段6は、次の手順により、管継手3の嵌合管部31Aの管内に組み付けられて、嵌合管部31Aと共に分岐管部22の嵌合管部22Bの管内に差し込まれてセットされる。すなわち、先ず、支持部材61の軸部61Bに圧縮コイルばね62を先端側から通してセットする。次に、支持部材61の軸部61Bと軸部61Bに通された圧縮コイルばね62とを管継手3の嵌合管部31Aの管内に図示右側の開口端部から差し込む。それにより、
図7に示すように、軸部61Bが、嵌合管部31Aの管軸方向に入り込んだ位置に形成された、段差状に縮径された内周部である内嵌合部A4内に緩やかに嵌め込まれる。
【0066】
また、軸部61Bに通された圧縮コイルばね62の図示左側の端部が上記内嵌合部A4の図示右側の側端面に当てられるようにセットされる。それにより、圧縮コイルばね62は、上記内嵌合部A4の図示右側の側端面と支持部材61の座部61Aとによって管軸方向に挟まれる配置となるようにセットされる。
【0067】
次に、同図(
図7)に示すように、上記弾性手段6が組み付けられた管継手3の嵌合管部31Aを分岐管部22の嵌合管部22Bの管内に差し込む。それにより、支持部材61の座部61Aが、分岐管部22の縮径部B2内へと通されて係止座B4に図示左側から管周方向の全域に亘って管軸方向に当てられた状態にセットされる。そして、
図8に示すように、管継手3の嵌合管部31Aを段差面31Cが分岐管部22の開口端部22Aと当接する位置まで更に押し込んで、各ビスBを各ビス孔B1に締め付けて逃がし溝A1へと差し込む。
【0068】
それにより、管継手3の嵌合管部31Aが、分岐管部22の嵌合管部22Bに対して、弾性手段6を介して常に図示左側に押圧されるばね付勢力が掛けられる状態に組み付けられる。上記組み付けにより、管継手3の嵌合管部31Aと分岐管部22の嵌合管部22Bとは、互いの管路が支持部材61の中間流路B5を介して内部で連通するように接続される。中間流路B5は、支持部材61の座部61Aの中心部から軸部61Bの中心部を通って管継手3の嵌合管部31Aの管軸方向の中間部(内嵌合部A4)の管内に開口する。
【0069】
そのような流路構造となっていることにより、水栓用分岐金具1は、中間流路B5を流れる湯水に何らかの異物が混ざり込んでいたとしても、この異物がOリングRによるシール面までは届きにくい構成となっている。具体的には、例えば、中間流路B5を流れる湯水が、管継手3の内嵌合部A4と軸部61Bとの狭い嵌合隙間を通って圧縮コイルばね62の設置スペースに向かって図示右側へと流れ出たとする。
【0070】
その場合、湯水は、更に、管継手3の嵌合管部31Aの図示右側の端部と支持部材61の座部61Aとの間の隙間を通って管径方向の外側へと流れ出る経路をたどる。そして、更に、上記流れ出た湯水は、管継手3の嵌合管部31Aの外周部と分岐管部22の嵌合管部22Bの内周部との間の狭い嵌合隙間を通ってOリングRによるシール面に向かって図示左側へと流れ出る経路をたどる。このように、中間流路B5からOリングRによるシール面に至るまでの流路が管軸方向に2度折り返す複雑な迂回路構造となっていることにより、OリングRによるシール面への異物の混入を適切に抑制することができる。
【0071】
なお、上記の説明では、弾性手段6を先に管継手3の嵌合管部31Aの管内に組み付けてから、これらをまとめて分岐管部22の管内に組み付けるようにしたが、これらを個別に分岐管部22の管内に組み付けるようにしても良い。
【0072】
(水栓用分岐金具1の使用方法)
続いて、水栓用分岐金具1の配管施工方法について説明する。
図1に示すように、水栓用分岐金具1は、前述したように、各構成部品が予め1つに組み付けられてユニット化された状態として施工現場へと持ち運ばれる。その際、管継手3は、予め任意の回転位置にロックされた状態とされているものとする。なお、管継手3は、回転ロックされない回転位置にある状態で施工現場へと持ち運ばれるようになっていても良い。
【0073】
次に、施工現場において、水栓用分岐金具1の下側の開口端部21Aに給水配管P1を接続する。その後、上側の開口端部21Bへの接続配管P2の接続と、分岐管部22に接続された管継手3への接続配管P3の接続と、を行う。その際、作業者が管継手3を図示右側へと押し込んでから所望の向きに回転させることで、エルボから成る管継手3の向きを施工現場の状況に合わせた向きに自由に変えることができる。したがって、管継手3に接続配管P3を接続する作業を簡便に行うことができる。
【0074】
そして、管継手3に接続配管P3を接続した後、管継手3の向きを接続配管P3の配索経路に適した向きに調節し、管継手3に掛けていた押し込み力を解除する。それにより、管継手3の回転がロックされ、管継手3を接続配管P3の配索経路に適した向きに固定することができる。なお、水栓用分岐金具1は、給水用或いは給湯用のどちらの給水経路に配管施工される構成であっても良い。また、水栓用分岐金具1は、施工現場の状況に合わせて、分岐管部22が主管部21から右方、後方、或いは前方に延びる向きとなるように配管施工される構成であっても良い。
【0075】
以上をまとめると、第1の実施形態に係る水栓用分岐金具1は、次のような構成となっている。なお、以下において括弧書きで付す符号は、上記実施形態で示した各構成に対応する符号である。
【0076】
すなわち、水栓用分岐金具(1)は、通水路を成す主管部(21)と、主管部(21)から分岐される分岐管部(22)と、を有する水栓用分岐金具(1)である。水栓用分岐金具(1)は、管継手(3)と、逃がし溝(A1)と、突出ピン(B)と、を有する。管継手(3)は、分岐管部(22)の開口端部(22A)に管軸方向の配置が重なるように嵌合され、分岐管部(22)により管軸方向と管周方向とに摺動可能なように支持される。逃がし溝(A1)は、管継手(3)と分岐管部(22)との嵌合された内外2重の嵌合管部(31A,22B)のうちの内側の嵌合管部(31A)の外周面に管周方向に延びるように形成される。
【0077】
突出ピン(B)は、外側の嵌合管部(22B)に固定されて逃がし溝(A1)に入り込むように突出する。逃がし溝(A1)は、管周方向の一部に管軸方向に延び出るキー溝(A2)を有する。管継手(3)の分岐管部(22)に対する管軸方向の摺動に伴い、突出ピン(B)がキー溝(A2)に入ることで管継手(3)の分岐管部(22)に対する管周方向の摺動が規制され、突出ピン(B)がキー溝(A2)から抜けることで管継手(3)の管周方向の摺動が許容される。
【0078】
上記構成によれば、管継手(3)を分岐管部(22)に対して管軸方向に動かすだけの簡便な操作により、突出ピン(B)をキー溝(A2)に対して出し入れして、管継手(3)を分岐管部(22)に対して回転ロックしたり解除したりするよう切り替えることができる。したがって、例えば、管継手(3)に他の接続配管(P3)を接続するなどの施工時には管継手(3)を施工しやすい位置に回転させ、施工後に管継手(3)を回転ロックして定位置に保持するといった切り替えをワンタッチで簡便に行うことができる。それにより、配管施工の施工性の向上と施工後の位置保持性能の向上とを図ることができる。
【0079】
また、逃がし溝(A1)が、突出ピン(B)の管軸方向の双方向の移動を溝幅の範囲内に規制可能な断面U字状の溝とされる。上記構成によれば、突出ピン(B)が逃がし溝(A1)に入り込む構造を利用して、管継手(3)の分岐管部(22)に対する抜け止め構造を合理的に構成することができる。
【0080】
また、キー溝(A2)が、管継手(3)の分岐管部(22)に対する管軸方向の離間により突出ピン(B)が入るよう逃がし溝(A1)から延び出る。上記構成によれば、管継手(3)を分岐管部(22)から離間させる方向が、管継手(3)を回転ロックする方向となる。それにより、管継手(3)を回転ロックする方向と、管継手(3)が通水圧により分岐管部(22)から引き離されるように力を受ける方向と、が同一となる。したがって、使用時に管継手(3)の回転ロックが意図せず解除されてしまう不測の事態を防止することができる。
【0081】
また、内側の嵌合管部(31A)が、管継手(3)により構成され、外側の嵌合管部(22B)が、分岐管部(22)により構成される。上記構成によれば、内側の嵌合管部(31A)を構成する管継手(3)に、逃がし溝(A1)が形成されることとなる。したがって、分岐管部(22)が主管部(21)と一体成形された鋳物から成るような複雑な切削加工を施しにくい構成とされても、比較的簡単に各構成部品の加工を行うことができる。
【0082】
また、キー溝(A2)が、逃がし溝(A1)の管周方向の複数箇所に形成される。上記構成によれば、管継手(3)を複数の回転位置で選択的に回転ロックすることができ、更なる利便性の向上を図ることができる。
【0083】
また、突出ピン(B)と突出ピン(B)が入るキー溝(A2)との組み合わせが、管周方向の複数箇所に設定される。上記構成によれば、管継手(3)の回転ロックの強度を高めることができる。また、管継手(3)の分岐管部(22)に対する傾ぎを抑制することができる。
【0084】
また、水栓用分岐金具(1)が、分岐管部(22)と管継手(3)との間に設けられる弾性手段(6)を更に有する。弾性手段(6)は、突出ピン(B)とキー溝(A2)との管周方向の位置が合わされることで付勢により突出ピン(B)をキー溝(A2)に入らせるように弾発力を作用させる。上記構成によれば、管継手(3)を回転ロックさせたい位置に回して手を離すことで弾発力により自動で回転ロックすることができる。また、弾性手段(6)の弾発力により、管継手(3)を回転ロックさせた状態に適切に保持することができる。
【0085】
また、弾性手段(6)が、外側の嵌合管部(22B)の内部に位置固定されるように組み付けられる座部(61A)と座部(61A)から内側の嵌合管部(31A)の内部に向かって管軸方向に延びる軸部(61B)とを有する支持部材(61)と、軸部(61B)に通されて座部(61A)と内側の嵌合管部(31A)との間に管軸方向の反発力を作用させる圧縮コイルばね(62)と、で構成される。上記構成によれば、弾性手段(6)を水栓用分岐金具(1)の外観を崩さないよう外側の嵌合管部(22B)の内部に組み込んで設けることが可能な構成とすることができる。
【0086】
また、軸部(61B)が、内側の嵌合管部(31A)の内部まで管軸方向に延び、かつ、軸部(61B)の中心部に、管軸方向に貫通して外側の嵌合管部(22B)と内側の嵌合管部(31A)との間の流路を成す中間流路(B5)が形成される。上記構成によれば、中間流路(B5)を備える軸部(61B)により、外側の嵌合管部(22B)の内部から外側の嵌合管部(22B)と内側の嵌合管部(31A)とのシール面までの流路を複雑化して、シール面に異物を混入させにくくすることができる。
【0087】
具体的には、上記シール面までの流路は、軸部(61B)の中間流路(B5)を通ってから軸部(61B)と内側の嵌合管部(31A)との間に回り込み、これらの間を通ってから更に内側の嵌合管部(31A)と外側の嵌合管部(22B)との間へと回り込む迂回路として形成される。
【0088】
また、キー溝(A2)を含む逃がし溝(A1)が、管継手(3)の分岐管部(22)に対する管軸方向の可動範囲の全域において、外側の嵌合管部(22B)から管軸方向に食み出さない位置に形成される。上記構成によれば、管継手(3)を分岐管部(22)に対して管軸方向に動かしても、キー溝(A2)及び逃がし溝(A1)が外部に露出しない。そのため、逃がし溝(A1)にゴミ等の異物が入り込むことによる動作不良の発生を抑制することができる。
【0089】
また、水栓用分岐金具(1)が、分岐管部(22)に管継手(3)が回転式のエルボとしてユニット化されて、シンクの下方に設けられるキャビネットの内部において主管部(21)が高さ方向に延びて分岐管部(22)が高さ方向とは交差する方向に延びるように配設される分岐止水栓として構成される。
【0090】
上記構成によれば、シンク下の狭いスペースにおいて、管継手(3)を工具を用いることなく施工現場の状況に合わせた向きに自由に変えて、配管施工を簡便に行うことができる。また、施工後には、管継手(3)を他の配管と干渉しても回転しない状態に保持することができる。したがって、他の配管との干渉を生じやすいシンク下の狭いスペースにおいて、管継手(3)に接続される接続配管(P3)を適切に位置固定することができる。
【0091】
《その他の実施形態について》
以上、本発明の実施形態を1つの実施形態を用いて説明したが、本発明は上記実施形態のほか、以下に示す様々な形態で実施することができるものである。
【0092】
1.本発明の水栓用分岐金具は、キッチンのシンク下のスペースの他、洗面化粧台下のスペースや浴室その他のスペースに配管施工されるものであっても良い。また、水栓用分岐金具は、床下から来る配管に接続されるいわゆるストレート型の分岐止水栓の他、壁側から来る配管に接続されて向きを変えて給水を行ういわゆるアングル型の分岐止水栓として構成されるものであっても良い。また、水栓用分岐金具は、止水機能を備えない単なる分岐配管として構成されるものであっても良い。
【0093】
2.管継手は、エルボの他、分岐管部と他の接続配管とを真っ直ぐ接続するソケットであっても良い。また、管継手は、分岐管部から分岐された流路を更に分岐するいわゆるチーズ(T字管)から成るものであっても良い。
【0094】
3.管継手と分岐管部とは、互いに嵌合される内外2重の嵌合管部のうちの外側の嵌合管部が管継手により構成され、内側の嵌合管部が分岐管部により構成されるものであっても良い。その場合には、逃がし溝が内側の嵌合管部である分岐管部に形成され、突出ピンが外側の嵌合管部である管継手に固定されて逃がし溝に入り込むよう突出して設けられる構成となる。
【0095】
4.逃がし溝は、管継手の回転移動を許容するように管周方向に延びる形状とされるものであれば良く、管周方向に環状(無端状)に延びるものの他、管周方向の一部にのみ円弧状(有端状)に延びるものであっても良い。キー溝は、管継手の回転ロック位置に対応して形成され、その数を増やすことで管継手を複数の回転位置でロックすることが可能となるものである。
【0096】
したがって、キー溝の設置数は、キー溝に入る1つの突出ピンに対して管周方向の1箇所にのみ形成されるもの、或いは管周方向に複数形成されるものであっても良い。キー溝を1つの突出ピンに対して管周方向に複数形成する場合の配列のピッチは一定である必要はなく、管継手の回転ロック位置に対応した位置に形成すれば良い。また、キー溝をいわゆるスプライン溝のように管周方向に連続的に並べた形に形成しても良い。キー溝は、管継手を分岐管部に押し込む管軸方向の移動により突出ピンが逃がし溝から入り込むように逃がし溝から延び出る構成であっても良い。
【0097】
キー溝に入る突出ピンは、外側の嵌合管部に締め付けられて固定されるビスの他、外側の嵌合管部に圧入されて固定される圧入ピンであっても良い。また、突出ピンは、外側の嵌合管部に埋め込まれて先端のボールやピンをばね力で逃がし溝に入らせるプランジャから成るものであっても良い。突出ピンは、管周方向の1箇所にのみ、或いは管周方向の複数箇所に設けられても良い。突出ピンを管周方向に複数設ける場合の配列のピッチは一定である必要はなく、その管周方向の配置は特に限定されるものではない。
【0098】
5.上記実施形態では、逃がし溝が突出ピンの管軸方向の双方向の移動を溝幅の範囲内に規制可能な断面U字状の溝とされ、管継手の分岐管部に対する管軸方向の抜け止めも兼ねる構成とされた。しかし、逃がし溝は、管軸方向の一方が開放された断面L字状の溝とされて、管継手の分岐管部に対する管軸方向の抜け止めを行わない構成であっても良い。すなわち、管継手の分岐管部に対する管軸方向の抜け止めは、別の部分で行われても良い。
【0099】
6.水栓用分岐金具は、弾性手段、すなわち、分岐管部と管継手との間に設けられて突出ピンをキー溝に入らせるようにばね付勢力を作用させる弾性手段を備えない構成であっても良い。例えば、弾性手段に代えて、分岐管部と管継手との間に互いを摺動摩擦抵抗力により突出ピンをキー溝に入らせる位置とキー溝から抜けて逃がし溝へと入らせる位置とに保持できる構成としても良い。弾性手段としては、引張ばね等の圧縮コイルばね以外のばねを用いた付勢構造の他、ゴム等のばね以外の弾性体を用いた付勢構造を適用することができる。
【0100】
7.逃がし溝及び/又はキー溝は、管継手の分岐管部に対する管軸方向の可動範囲において、外側の嵌合管部から管軸方向に食み出る位置に形成されていても構わない。また、弾性手段は、管継手と分岐管部との間に引張ばね或いは圧縮ばねを管外に露出させる形で掛着させるような外部に露出する構成とされても構わない。
【0101】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0102】
1…水栓用分岐金具、2…金具本体、3…管継手、4…上ハンドル、5…下ハンドル、6…弾性手段、21…主管部、21A…開口端部、21B…開口端部、22…分岐管部、22A…開口端部、22B…嵌合管部(外側の嵌合管部)、B1…ビス孔、B2…縮径部、B3…拡径部、B4…係止座、31…本体管部、31A…嵌合管部(内側の嵌合管部)、A1…逃がし溝、A2…キー溝、A3…環状溝、A4…内嵌合部、A5…基端部、31B…接続口、31C…段差面、32…接続管部、R…Oリング、B…ビス(突出ピン)、P1…給水配管、P2…接続配管、P3…接続配管、61…支持部材、61A…座部、61B…軸部、B5…中間流路、62…圧縮コイルばね