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  • 特開-潜熱蓄熱材料成形体とその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128245
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】潜熱蓄熱材料成形体とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/06 20060101AFI20230907BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20230907BHJP
   B22F 1/14 20220101ALI20230907BHJP
   C22C 1/05 20230101ALI20230907BHJP
   C22C 32/00 20060101ALI20230907BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20230907BHJP
   C09K 5/14 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
C09K5/06 Z ZAB
B22F1/00 N
B22F1/14 700
C22C1/05 Z
C22C32/00 R
B22F3/02 N
B22F1/14 500
B22F3/02 M
C09K5/14 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032460
(22)【出願日】2022-03-03
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2020年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム/合金系潜熱蓄熱マイクロカプセルを基盤とした高速かつ高密度な蓄熱技術の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(72)【発明者】
【氏名】樋口 泰弘
(72)【発明者】
【氏名】古性 和樹
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA16
4K018AB01
4K018AC01
4K018BA20
4K018BB04
4K018BC01
4K018BC11
4K018BC28
4K018CA07
4K018CA08
4K018CA09
4K018CA11
4K018CA23
4K018CA29
4K018CA31
4K018CA34
4K018DA22
4K018DA31
4K018HA01
4K018HA04
4K018HA07
4K018HA08
4K018KA70
(57)【要約】
【課題】
合金系潜熱蓄熱材料において、高温焼成時にコア粒子の合金の漏洩がなく、蓄熱密度の高い潜熱蓄熱材料成形体を提供すること。
【解決手段】
Al-Si合金からなるコア粒子が酸化アルミニウム被膜で被覆された潜熱蓄熱材料(A)と酸化物(B)からなる成形体であって、前記酸化物(B)は、二酸化ケイ素が60質量%以上であることを特徴とする成形体。当該組成を有する成形体とすることにより、高温焼成時のコア粒子の合金の漏洩を抑制でき、蓄熱密度の高い成形体とすることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Al-Si合金からなるコア粒子が酸化アルミニウム被膜で被覆された潜熱蓄熱材料(A)と酸化物(B)からなる成形体であって、
前記酸化物(B)は、二酸化ケイ素が60質量%以上であることを特徴とする成形体。
【請求項2】
前記潜熱蓄熱材料(A)が70~95質量%、前記酸化物(B)が、5~30質量%であることを特徴とする請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
前記酸化物(B)は、二酸化ケイ素が90質量%以上であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の成形体。
【請求項4】
前記酸化物(B)は、酸化アルミニウムを25質量%以下含むことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の成形体。
【請求項5】
前記成形体が、ペレット状、球状、リング状、板状、棒状、またはハニカム状のいずれかであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項6】
Al-Si合金からなるコア粒子が酸化アルミニウム被膜で被覆された潜熱蓄熱材料(A)と酸化物(B)からなる成形体の製造方法であって、
(1)前記潜熱蓄熱材料(A)の焼成前駆体と酸化物換算で二酸化ケイ素を60質量%以上含む無機バインダーとを混合する混合工程;
(2)ペレット状、球状、リング状、板状、棒状、またはハニカム状のいずれかに成形する成形工程;
(3)700℃以上で焼成する焼成工程;
を含む成形体の製造方法。
【請求項7】
前記無機バインダーが酸化物換算で二酸化ケイ素を75質量%以上含み、酸化アルミニウムを25質量%以下含むことを特徴とする請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
前記混合工程が湿式混合である請求項6または7に記載の製造方法
【請求項9】
前記混合工程において、さらに、有機バインダー(C)を添加して混合することを特徴とする請求項6から8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
前記潜熱蓄熱材料(A)が、ベーマイト構造を有する水酸化アルミニウムを用いて、酸化アルミニウム被覆されたことを特徴とする請求項6から9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潜熱蓄熱材料に関し、より詳しくは、比較的高温でも利用可能で、蓄熱密度と熱伝導性に優れた、マイクロサイズの潜熱蓄熱材料の製造方法に関する。
【0002】
熱を貯蔵する方法として、温度変化を利用する顕熱蓄熱(例えば、特許文献1)と、物質の相変化を利用する潜熱蓄熱(例えば、特許文献2)が知られている。
【0003】
このうち、顕熱蓄熱技術は、高温での蓄熱が可能である反面、物質の温度変化による顕熱のみを利用するものであるため、蓄熱密度が低いという問題があった。斯かる問題を解決する方法として提案されたのが、溶融塩等の潜熱を利用して蓄熱する潜熱蓄熱技術である。
【0004】
潜熱蓄熱技術で用いられる蓄熱体として種々の態様のものが提案されており、例えば、特許文献3には、一層、二層または三層の金属被膜を潜熱蓄熱材の表面に被成したことを特徴とする潜熱蓄熱カプセルや、潜熱蓄熱材に電解めっき法によって金属被膜を被覆することを特徴とする潜熱蓄熱カプセルの製造方法等の発明が開示されている。
【0005】
また、特許文献4では、コア部と、該コア部を覆うシェルから構成される潜熱蓄熱体において、前記シェルに関して、コア粒子を化成被膜処理し、更に熱酸化処理をすることで酸化被膜を形成することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6-50681号公報
【特許文献2】特開平10-238979号公報
【特許文献3】特開平11-23172号公報
【特許文献4】国際公開2015/162929号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献4に開示の合金系潜熱蓄熱マイクロカプセル(Micro-Encapsulated Phase Change Material:以下、MEPCMと略す)において、種々検討を行った結果、熱酸化処理の際にシェル部が破損した粒子が存在することが判った。シェル部が破損することにより、成形品へ加工する際にコアの合金が漏洩する等の不具合が生じることが判った。
【0008】
本発明はこのような従来のMEPCMの問題点に鑑みてなされたもので、蓄熱密度と熱伝導性に優れた潜熱蓄熱材料において、加工安定性、機械強度に優れた潜熱蓄熱材料成形体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を達成する為に種々検討を行ない、本発明に想到した。すなわち、Al-Si合金からなるコア粒子が酸化アルミニウム被膜で被覆された潜熱蓄熱材料(A)と酸化物(B)からなる成形体であって、前記酸化物(B)は、二酸化ケイ素が60質量%以上であることを特徴とする成形体である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の成形体は、Al-Si合金からなるコア粒子が酸化アルミニウム被膜で被覆された潜熱蓄熱材料(A)を成形加工する際に、無機バインダーである酸化物(B)として二酸化ケイ素を60質量%以上含む無機バインダーを用いることにより、より高温で焼成してもコア粒子の合金を漏洩する事がなく、結果、高い蓄熱密度を維持しつつも強固なシェルに覆われた、熱交換効率のよい潜熱蓄熱成形体とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1で得られた潜熱蓄熱材料成形体のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0013】
[潜熱蓄熱材料(A)]
本発明の成形体に用いられる潜熱蓄熱材料(A)は、Al-Si合金からなるコア粒子が酸化アルミニウム被膜で被覆された合金系潜熱蓄熱材料である。
前記Al-Si合金は、アルミニウムとシリコンからなる合金であればよく、シリコンの含有量は4質量%~40質量%の範囲が好ましく、10質量%~30質量%の範囲がさらに好ましく、12質量%~25質量%の範囲が特に好ましい。前記範囲内であれば、固相から液相に相変化のする際の体積膨張率を低く抑制できることから、MEPCMとしての耐久性が高くすることができる。
【0014】
前記酸化アルミニウム被膜は、特に限定されないが、単層であってもよいし、複数の層を備えてもよい。限定されるものではないが、例えば、α-Alを成分として含むことが好ましい。酸化アルミニウム被膜を構成する成分は、酸化アルミニウムのみに限定されず、他の元素及び/又は不可避的不純物を含んでもよい。
【0015】
本発明の潜熱蓄熱材料(A)のコア粒子の平均粒子径は、1μm以上500μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以上200μm以下であり、さらに好ましくは10μm以上100μm以下である。粒子径が小さいと、蓄熱を担うコア部に対してシェル部の割合が大きくなり、蓄熱密度が低下する。潜熱蓄熱材料として繰り返し使用する中で、コア部が溶融・凝固するに伴い、膨張・収縮するが、粒子径が大きいと、シェルに対してコアの割合が大きくなるため、シェルが応力に耐えられず金属漏出が起こりやすくなる。
【0016】
[潜熱蓄熱材料(A)の製造方法]
潜熱蓄熱材料(A)の製造方法は、特に限定されないが、Al-Si合金からなるコア粒子に酸化アルミニウム被膜を形成するアルミニウムの原料として、結晶構造がベーマイトである水酸化アルミニウムを用いることが好ましい。
該酸化アルミニウム被膜は、結晶構造がベーマイトである水酸化アルミニウムを含む水溶液中に、Al-Si合金からなるコア粒子を投入することにより形成することができる。結晶構造がベーマイト(AlOOH)である水酸化アルミニウムを用いることにより、緻密な酸化被膜を形成することができる。
【0017】
前記水溶液中の水酸化アルミニウムの量は、コア粒子100質量部に対し、0.5質量部~25質量部が好ましく、より好ましくは1質量部~15質量部である。
【0018】
前記酸化アルミニウム被膜の形成は、前記水溶液に少量のアンモニア等を添加して処理してもよい。pH値が高くなるにつれて得られる酸化アルミニウム被膜は良質となる傾向が確認されており、特に、6.0以上11.0未満の範囲に設定することが好ましく、7.0~10.0がより好ましく、最も好ましくは8.5~9.5である。
【0019】
前記酸化アルミニウム被膜の形成の反応温度は、60℃~100℃が好ましく、70℃以上がより好ましく、80℃以上がさらに好ましく、90℃以上が特に好ましい。温度の上限は水溶液の沸点であり、常圧下では100℃である。反応時間は、0.25~24時間が好ましく、0.5~5時間がより好ましい。
【0020】
本発明で用いられる潜熱蓄熱材料(A)の製造方法は、さらに熱酸化処理工程を有することが好ましい。これにより、前記被膜形成工程で形成された酸化アルミニウム被膜がより酸化され、結晶質のAlであるMEPCMとすることができる。
【0021】
前記熱酸化処理工程の温度は、コア部の成分となるAl-Si合金の融点よりも高い温度で実行することが好ましい。シリコンの含有量が25wt%の合金の場合、融点が580℃であり、それ以上の温度(例えば700℃以上)で加熱することが好ましい。より好ましくは800℃以上、さらに好ましくは900℃以上で処理することが好ましい。この理由としては、熱処理により形成されるアルミニウム酸化膜は、800℃以下の比較的低温ではγ-Alの結晶構造をとり、化学的に安定とされるα-Alの結晶構造をもつ被膜は880℃以上の比較的高温で得られるからである。上限値は特に限定されないが、1200℃以下とすることが好ましい。熱処理の時間は、0.5時間~12時間が好ましく、より好ましくは2時間~5時間である。上記、熱酸化処理工程をすることに繰り返し安定性の高いMEPCMとすることができる。
【0022】
[酸化物(B)]
本発明の成形体に用いられる酸化物(B)は、二酸化ケイ素が60質量%以上であればよく、好ましくは75質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上である。
前記酸化物(B)は、二酸化ケイ素以外の酸化物を含んでいてもよい。二酸化ケイ素以外の酸化物としては、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム等のアルカリ土類金属の酸化物;酸化イットリウム、酸化スカンジウム、酸化ランタン、酸化セリウム等の希土類元素の酸化物;酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化ガリウム、酸化インジウム、酸化ゲルマニウム、酸化スズ等が挙げられる。前記酸化物(B)は、酸化物のみに限定されず、不可避的不純物を含んでいてもよい。
【0023】
また、前記酸化物(B)は、二酸化ケイ素以外の酸化物として酸化アルミニウムを25質量%以下含んでいてもよい。酸化物(B)として、酸化アルミニウムを含むことにより、酸化物(B)への潜熱蓄熱材料(A)の分散性が良くなり、より均一な成形体を形成することができる。また、二酸化ケイ素以外の酸化物として、酸化アルミニウムなどの、熱伝導性の高い物質を含むことで、熱伝導性が良くなり、蓄熱・放熱時の熱交換の、時間の短縮を期待できる。
【0024】
[潜熱蓄熱材料成形体]
本発明の成形体は、Al-Si合金からなるコア粒子が酸化アルミニウム被膜で被覆された潜熱蓄熱材料(A)と酸化物(B)からなる成形体であって、前記酸化物(B)は、二酸化ケイ素が60質量%以上であることを特徴とする成形体である。
【0025】
本発明の成形体は、前記潜熱蓄熱材料(A)が60~95質量%、前記酸化物(B)が、5~40質量%であることが好ましい。より好ましくは、前記潜熱蓄熱材料(A)が70質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上である。
前記酸化物(B)については、30質量%以下がより好ましく、20質量%以下がより好ましく、特に好ましくは10質量%以下である。
【0026】
本発明の成形体の形状は、ペレット状、球状、リング状、板状、棒状、またはハニカム状のいずれかであることが好ましい。成形体の大きさについては、特に限定されないが、長径が1mm以上、より好ましくは2mm以上、さらに好ましくは3mm以上であることが好ましい。
【0027】
[潜熱蓄熱材料成形体の製造方法]
本発明の成形体の製造方法は、Al-Si合金からなるコア粒子が酸化アルミニウム被膜で被覆された潜熱蓄熱材料(A)と酸化物(B)からなる成形体の製造方法であって、(1)前記潜熱蓄熱材料(A)の焼成前駆体と酸化物換算で二酸化ケイ素を60質量%以上含む無機バインダーとを混合する混合工程;(2)ペレット状、球状、リング状、板状、棒状、またはハニカム状のいずれかに成形する成形工程;(3)700℃以上で焼成する焼成工程;を含む成形体の製造方法である。
【0028】
前記無機バインダーは、酸化物換算で二酸化ケイ素を60質量%以上含むことが好ましく、より好ましくは、70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。
【0029】
前記無機バインダーは酸化物換算で、酸化アルミニウムを25質量%以下含んでいてもよい。酸化アルミニウムを含むことにより、無機バインダーである酸化物(B)への潜熱蓄熱材料(A)の分散性が良くなり、より均一な成形体を形成することができる。また、二酸化ケイ素以外の酸化物として、酸化アルミニウムなどの、熱伝導性の高い物質を含むことで、熱伝導性が良くなり、蓄熱・放熱時の熱交換の、時間の短縮を期待できる。
【0030】
前記潜熱蓄熱材料(A)の焼成前駆体と酸化物換算で二酸化ケイ素を60質量%以上含む無機バインダーとを混合する混合工程における混合方法は、特に限定されないが、より均一な成形体とすることができることから、湿式混合であることが好ましい。湿式混合する際の分散媒としては特に限定はされないが、例えば、水、有機溶媒及びこれらの混合物等が挙げられ、1種又は2種以上を使用してもよい。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類;アセトン、2-ブタノン、4-メチル-2-ペンタノン等のケトン類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールメチルエーテルアセタート等のグリコールエーテル類;ジメチルスルホキシド;ジメチルホルムアミド;ジメチルアセトアミド;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類等が挙げられる。
【0031】
前記混合工程は、さらに、有機バインダー(C)を添加して混合することが好ましい。有機バインダー(C)としては、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース、ヒドロキシアルキルメチルセルロース、ナトリウムカルボキシルメチルセルロース、エチルセルロースなどのセルロース類;ポリビニルアルコールなどのアルコール類;リグニンスルホン酸塩等の有機バインダーを例示できる。有機バインダー(C)の量は、成形体成分に対して、15質量%以下であることが好ましく、より好ましくは10質量%部以下、さらに好ましくは5質量%以下である。また、有機バインダー(C)の下限量は限定されないが、0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは1質量%以上である。
【0032】
本発明の成形体の製造方法は、成形工程において、ペレット状、球状、リング状、板状、棒状、またはハニカム状に成形する方法は特に限定されないが、一軸加圧成形、等方加圧成形、射出成形、押出成形、転動造粒、鋳込み成形等が挙げられる。
【0033】
本発明の成形体の製造方法は、焼成工程において、焼成温度が700℃以上であればよく、より好ましくは800℃以上、より好ましくは850℃以上である。上限温度は特に限定されないが1200℃未満であることが好ましく、より好ましくは1100℃以下、さらに好ましくは1000℃以下である。焼成温度が低いと成形体の強度が不十分となる恐れがある。また、焼成温度が高すぎると潜熱蓄熱材料(A)からの金属漏れが生じやすくなる。
【0034】
本発明の成形体の製造方法は、蓄熱潜熱材料(A)の熱酸化処理と成形体の焼成を同時に行っている。蓄熱潜熱材料(A)の熱酸化処理と成形体の焼成は別々に行っても良く、同時に行う事で工程を簡略化でき、生産効率の向上と生産コストの低減が期待できる。
【実施例0035】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0036】
<平均粒子径の測定>
HORIBA製 レーザー回折式粒度分布計 LA-950V2を用いて測定を行なった。具体的には、ピロリン酸ナトリウム(富士フィルム和光純薬株式会社製)を0.2wt%溶解させた水溶液中にAl-Si合金を分散させ、粒度分布計で測定を行い、累積50%体積径の値を平均粒子径とした。
【0037】
<Al-Si合金>
Alの重量比が75%でSiの重量比が25%のAl-Si合金(Al-25wt%Si)から成るコア粒子を準備した。これらのコア粒子の直径は38μm未満であり、平均直径は35.9μmであった。
【0038】
<成形体の焼成>
アズワン株式会社製のHPM―1G型ガス置換マッフル炉を用いて成形体の焼成を行なった。具体的には、ペレット型の成形体を入れたセラミック製るつぼをマッフル炉内に入れ、空気:1.0L/min流通下、昇温速度:5℃/min、焼成条件:850℃、1hで焼成を行った。
【0039】
<金属漏れ>
成形体の金属漏れの有無は、焼成後のペレット型成形体の表面上に金属光沢のある粒状の異物の存在を目視で確認した。金属光沢のある異物が全く確認できなければ「金属漏れ無し」、金属光沢のある異物を1個以上確認した場合は「金属漏れ有り」と判断した。
【0040】
<成形体の断面の観察および組成分析>
成形体の断面の観察および組成分析は、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製のNSS312型エネルギー分散型X線分析装置を搭載した日本電子株式会社製のJSM―7600F型走査電子顕微鏡(以下、SEM―EDSと記す)を用いて、酸化物(B)の組成分析を実施した。EDSによる組成分析時は、SEM画像上で、合金部分を含まず最低10μm以上となるような範囲を設定し、定量を行った。また、1つのサンプルについて3か所以上に定量を行い、それらの平均値を、そのサンプルの組成濃度とした。
分析用のサンプルは、ペレット型の成形体をエポキシ樹脂に包埋し、表面を研磨する事で成形体の断面を露出させた後、カーボン蒸着処理を行ったものを使用した。
【0041】
[合成例1]潜熱蓄熱材料(1)の調製
1Lのフラスコに、水300gを入れた。撹拌翼により150rpmで撹拌させながらオイルバスを用いて加熱した。水温を測定し100℃に到達した後、結晶がベーマイトからなる水酸化アルミニウム(大明化学工業製)を1g添加し、分散させた。その後、1Mに調整したアンモニア水を添加し、分散液のpHが、常温で計測した際に、9.0~9.5の範囲になるように調整を行った。pH調整を行った後の分散液にAl-Si合金:10gを投入した。投入後、pH調整を行いながら2時間撹拌し続け、その後、冷却を行なった。冷却後、デカンテーションにより、余分な水酸化アルミニウムを取り除き、吸引濾過を行い、乾燥し、粉体の潜熱蓄熱材料(A-1)を得た。得られた潜熱蓄熱材料の平均粒子径は36.3μmであった。
【0042】
[実施例1]
成形体に使用する酸化物(B)として、シリカゾル由来のシリカを使用した。シリカゾル(日産化学社製、固形分濃度:20.3質量%)7.4gを蒸発皿に秤量し、60℃で一晩(約12時間)乾燥させた。シリカゾル乾燥体を乳鉢に移し、合成例1の潜熱蓄熱材料(A-1)を3.5g加え、エタノール3.5gを加えて湿潤な状態にしつつ混合した。室温下1時間程度静置して充分に乾燥させた後、メトローズ(信越化学社製)0.1gを加えて混合した。さらに水を加えて坏土を調製し、金属製の型に坏土を投入、押し出しして円筒型のペレットを形成した。60℃で一晩(約12時間)乾燥させた後焼成を行う事で、潜熱蓄熱材料:酸化物=70:30質量%、形状がΦ5mm×H5mmのペレット型の成形体を得た。焼成した成形体からの金属漏れは観察されなかった。
得られたペレット型成形体に対して、SEM―EDSを用いて断面の観察と組成分析を行った結果、酸化物(B)の組成は二酸化ケイ素が93質量%(酸化物換算)であった。
【0043】
[実施例2]
成形体に使用する酸化物(B)として、シリカ粉体由来のシリカを使用した以外は実施例1と同様の方法により、成形体を得た。具体的には、潜熱蓄熱材料(A-1)3.5gとシリカ粉体(東ソー・シリカ社製)1.5gを秤量して乳鉢に入れ、エタノール4.2gを加えて湿潤な状態にしつつ混合した。室温下1時間程度静置して充分に乾燥させた後、メトローズ(信越化学社製)0.1gを加えて混合した。さらに水を加えて坏土を調製し、金属製の型に坏土を投入、押し出しして円筒型のペレットを形成した。60℃で一晩(約12時間)乾燥させた後焼成を行う事で、潜熱蓄熱材料:酸化物=70:30質量%、形状がΦ5mm×H5mmのペレット型の成形体を得た。焼成した成形体からの金属漏れは観察されなかった。
実施例1と同様の方法でSEM―EDSによる成形体断面の測定を行った結果、酸化物(B)の組成は二酸化ケイ素が97質量%(酸化物換算)であった。
【0044】
[実施例3]
成形体に使用する酸化物(B)として、シリカゾル由来のシリカとシリカ粉体由来のシリカを併せて使用した以外は実施例1と同様の方法により、成形体を得た。具体的には、シリカゾル(日産化学社製、固形分濃度:20.3質量%)2.5gを蒸発皿に秤量し、60℃で一晩(約12時間)乾燥させた。シリカゾル乾燥体を乳鉢に移し、潜熱蓄熱材料(A-1)35gとシリカ粉体(東ソー・シリカ社製)1.0gを秤量して乳鉢に入れ、エタノール3.6gを加えて湿潤な状態にしつつ混合した。室温下1時間程度静置して充分に乾燥させた後、メトローズ(信越化学社製)0.1gを加えて混合した。さらに水を加えて坏土を調製し、金属製の型に坏土を投入、押し出しして円筒型のペレットを形成した。60℃で一晩(約12時間)乾燥させた後焼成を行う事で、潜熱蓄熱材料:酸化物=70:30質量%、Φ5mm×H5mmのペレット型の成形体を得た。焼成した成形体からの金属漏れは観察されなかった。
実施例1と同様の方法でSEM―EDSによる成形体断面の測定を行った結果、酸化物(B)の組成は二酸化ケイ素が95質量%(酸化物換算)であった。
【0045】
[実施例4]
成形体に使用する酸化物(B)として、シリカゾル由来のシリカとシリカ粉体由来のシリカ、および酸化アルミニウム由来を併せて使用した以外は実施例1と同様の方法により、成形体を得た。具体的には、潜熱蓄熱材料(A-1)35.0g、シリカゾル(日産化学社製、固形分濃度:20.3質量%)32.0g、シリカ粉体(東ソー・シリカ社製)4.0g、アルミナ4.5g、メトローズ(信越化学社製)0.2gを混合し、さらに水を加えて坏土を調製し、金属製の型に坏土を投入、押し出しして円筒型のペレットを形成した。60℃で一晩(約12時間)乾燥させた後焼成を行う事で、潜熱蓄熱材料:酸化物=70:30質量%、Φ6.7mm×H6.7mmのペレット型の成形体を得た。焼成した成形体からの金属漏れは観察されなかった。
実施例1と同様の方法でSEM―EDSによる成形体断面の測定を行った結果、酸化物(B)の組成は、二酸化ケイ素64質量%(酸化物換算)、酸化アルミニウムは36質量%(酸化物換算)であった。
【0046】
[比較例1]
成形体に使用する酸化物(B)として、ガラスフリットを使用した以外は実施例1と同様の方法により、成形体を得た。具体的には、潜熱蓄熱材料(A-1)3.5gとガラスフリット1.5gを秤量して乳鉢に入れ、エタノール2.3gを加えて湿潤な状態にしつつ混合した。室温下1時間程度静置して充分に乾燥させた後、メトローズ(信越化学社製)0.1gを加えて混合した。さらに水を加えて坏土を調製し、金属製の型に坏土を投入、押し出しして円筒型のペレットを形成した。60℃で一晩(約12時間)乾燥させた後、焼成を行う事で、潜熱蓄熱材料:酸化物=70:30質量%、Φ5mm×H5mmのペレット型の成形体を得た。焼成した成形体の表面には金属漏れが確認された。
実施例1と同様の方法でSEM―EDSによる成形体断面の測定を行った結果、酸化物(B)の組成は二酸化ケイ素が5質量%(酸化物換算)であった。
【0047】
[比較例2]
成形体に使用する酸化物(B)として、グラスファイバーを使用した以外は実施例1と同様の方法により、成形体を得た。具体的には、潜熱蓄熱材料(A-1)3.5gとグラスファイバー1.5gを秤量して乳鉢に入れ、エタノール2.3gを加えて湿潤な状態にしつつ混合した。室温下1時間程度静置して充分に乾燥させた後、メトローズ(信越化学社製)0.1gを加えて混合した。ささらに水を加えて坏土を調製し、金属製の型に坏土を投入、押し出しして円筒型のペレットを形成した。60℃で一晩(約12時間)乾燥させた後、焼成を行う事で、潜熱蓄熱材料:酸化物=70:30質量%、Φ5mm×H5mmのペレット型成形体を得た。焼成した成形体の表面には金属漏れが確認された。
実施例1と同様の方法でSEM―EDSによる成形体断面の測定を行った結果、酸化物(B)の組成は二酸化ケイ素が51質量%(酸化物換算)であった。
【0048】
<蓄熱量測定>
TG-DSC(TAインスツルメンツ社製SDT650)により、蓄熱量の測定を行った。実施例1で得られた粉体の潜熱蓄熱材料成形体を、乳鉢により粉砕した。粉砕したサンプルをアルミナ製サンプルパン内に入れ、窒素:20ml/min流通下、昇温速度:10℃/minで700℃まで昇温を行い、蓄熱量(潜熱量/吸熱量)を測定した(1回目)。その後、降温速度:5℃/minで500℃になるまで降温し、放熱量(潜熱量/発熱量)を測定した(1回目)。再度、昇温速度:10℃/minで700℃まで昇温を行い、蓄熱量(潜熱量/吸熱量)を測定した(2回目)。その後、降温速度:5℃/minで500℃になるまで降温し、放熱量(潜熱量/発熱量)を測定した。(2回目)。例として、実施例1の結果を表に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
上記結果から、実施例1で得られた潜熱蓄熱材料成形体は、蓄熱体として繰り返し機能することを確認できた。その他実施例に関しても同様であった。
図1