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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128255
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】炭素材料含有複合体
(51)【国際特許分類】
   A01N 61/00 20060101AFI20230907BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20230907BHJP
   D06M 11/74 20060101ALI20230907BHJP
   D06M 15/267 20060101ALI20230907BHJP
   C02F 1/50 20230101ALI20230907BHJP
【FI】
A01N61/00 A
A01P1/00
A01N61/00 D
D06M11/74
D06M15/267
C02F1/50 510A
C02F1/50 532C
C02F1/50 532E
C02F1/50 540C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032482
(22)【出願日】2022-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】郷田 隼
(72)【発明者】
【氏名】仁科 彰
(72)【発明者】
【氏名】中之庄 正弘
【テーマコード(参考)】
4H011
4L031
4L033
【Fターム(参考)】
4H011AA02
4H011BB18
4H011BB19
4H011DA08
4H011DH02
4L031AB01
4L031AB31
4L031BA02
4L031DA12
4L033AB01
4L033AB06
4L033AC10
4L033CA19
(57)【要約】
【課題】 優れた抗菌・抗ウイルス性能を発揮し、かつ、耐水性にも優れる材料を提供する。
【解決手段】 炭素材料と重合体とを含む炭素材料含有複合体であって、該重合体は、カチオン性基含有単量体(A)由来の構造単位(a)と疎水性単量体(B)由来の構造単位(b)とを有し、該疎水性単量体(B)は、単独重合体の溶解性パラメータが15以下であることを特徴とする炭素材料含有複合体。
【選択図】なし



【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料と重合体とを含む炭素材料含有複合体であって、
該重合体は、カチオン性基含有単量体(A)由来の構造単位(a)と疎水性単量体(B)由来の構造単位(b)とを有し、
該疎水性単量体(B)は、単独重合体の溶解性パラメータが15以下であることを特徴とする炭素材料含有複合体。
【請求項2】
前記炭素材料が酸化グラフェン又は還元型酸化グラフェンであることを特徴とする請求項1に記載の炭素材料含有複合体。
【請求項3】
前記カチオン性基含有単量体(A)は、第1~3級アミノ基含有単量体及びこれらの酸による中和物並びに第4級アンモニウム塩基含有単量体からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭素材料含有複合体。
【請求項4】
前記重合体は、前記構造単位(a)の割合が、全構造単位100質量%に対して50~95質量%であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の炭素材料含有複合体。
【請求項5】
前記重合体は、重量平均分子量が4000~100万であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の炭素材料含有複合体。
【請求項6】
前記炭素材料含有複合体は、更に基材を含み、
該基材、炭素材料、重合体がこの順に積層された構造を有することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の炭素材料含有複合体。
【請求項7】
前記基材が、金属、ガラス、繊維、コラーゲン、セルロース、樹脂、セラミック、エナメル質及び象牙質からなる群より選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項6に記載の炭素材料含有複合体。
【請求項8】
炭素材料含有複合体を製造するためのセットであって、
該セットは、炭素材料又は炭素材料組成物と重合体又は重合体組成物とを有し、
該重合体は、カチオン性基含有単量体(A)由来の構造単位(a)と疎水性単量体(B)由来の構造単位(b)とを有し、
該疎水性単量体(B)は、単独重合体の溶解性パラメータが15以下であることを特徴とする炭素材料含有複合体製造用セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料含有複合体に関する。より詳しくは、衛生用品、生体材料、洗浄剤、化粧料、塗料、樹脂、木材防腐剤、セメント混和剤、水処理剤、工業用水、紙パルプ、プラスチック、繊維、食品添加物、医療機器、光学機器、モジュール、電子製品等に有用な炭素材料含有複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌やウイルス等による感染症は、人間の生命を脅かすことから、細菌やウイルス等に対する対策が世界的に求められている。近年、我が国では、消費者の清潔志向等から、医療や衛生分野にとどまらず、様々な分野において抗菌加工が施された種々のものが市販されている。抗菌・抗ウイルス加工に用いられる抗菌・抗ウイルス剤としては、例えば、有機系薬剤として第4級アンモニウム塩基を有するものや、無機系薬剤として銀、銅、亜鉛等の金属イオンを含むものが一般的によく知られている。
【0003】
近年、炭素材料の生物学的応用が検討されており、炭素材料を用いた抗菌・抗ウイルス剤が開発されている。炭素材料を含む抗菌剤に関して、特許文献1には、酸化グラフェン粒子を水及びN-メチル-2-ピロリドンの混合溶液に分散した分散液からなる、歯表面に塗布して持続的に抗菌性を付与するために用いる歯科用コーティング組成物であって、前記水及びN-メチル-2-ピロリドンの混合溶液は、N-メチル-2-ピロリドンの濃度が0.1~20質量%の範囲である、前記組成物が開示されている。特許文献2には、ラマンスペクトルにおいてGバンドを有する炭素材料と亜鉛成分とを含有することを特徴とする抗菌剤組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-074636号公報
【特許文献2】特開2020-070278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のとおり、従来、種々の抗菌・抗ウイルス性を発揮する炭素材料含有複合体が開示されているが、特許文献1に開示された抗菌剤は、抗菌性能において充分ではなかった。また、市販の水溶性抗菌・抗ウイルス剤は、水系であり、人体等の生体への利用が容易であることと、その抗菌・抗ウイルス性能は充分であるが、水溶性であることから長期的に生体表面に留まらせることが困難である。特許文献2に開示された抗菌剤組成物も、耐水性の点で充分ではなかった。
【0006】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、優れた抗菌・抗ウイルス性能を発揮し、かつ、耐水性にも優れる材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、抗菌・抗ウイルス性能を発揮し、かつ、耐水性にも優れる材料について種々検討したところ、カチオン性基含有単量体由来の構造単位と疎水性単量体由来の構造単位とを有する重合体と炭素材料とを組み合わせた複合体とすることで、優れた抗菌・抗ウイルス性能を発揮し、かつ、耐水性にも優れた材料となることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0008】
すなわち本発明は、炭素材料と重合体とを含む炭素材料含有複合体であって、上記重合体は、カチオン性基含有単量体(A)由来の構造単位(a)と疎水性単量体(B)由来の構造単位(b)とを有し、該疎水性単量体(B)は、単独重合体の溶解性パラメータが15以下である炭素材料含有複合体である。
【0009】
上記炭素材料は、酸化グラフェン又は還元型酸化グラフェンであることが好ましい。
【0010】
上記カチオン性基含有単量体(A)は、第1~3級アミノ基含有単量体及びこれらの酸による中和物並びに第4級アンモニウム塩基含有単量体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0011】
上記重合体は、上記構造単位(a)の割合が、全構造単位100質量%に対して50~95質量%であることが好ましい。
【0012】
上記重合体は、重量平均分子量が4000~100万であることが好ましい。
【0013】
上記炭素材料含有複合体は、更に基材を含み、上記基材、炭素材料、重合体がこの順に積層された構造を有することが好ましい。
【0014】
上記基材は、金属、ガラス、繊維、コラーゲン、セルロース、樹脂、セラミック、エナメル質及び象牙質からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0015】
本発明は更に、炭素材料含有複合体を製造するためのセットであって、上記セットは、炭素材料又は炭素材料組成物と重合体又は重合体組成物とを有し、上記重合体は、カチオン性基含有単量体(A)由来の構造単位(a)と疎水性単量体(B)由来の構造単位(b)とを有し、上記疎水性単量体(B)は、単独重合体の溶解性パラメータが15以下である炭素材料含有複合体製造用セットでもある。
【発明の効果】
【0016】
本発明の炭素材料含有複合体は、上述の構成よりなり、優れた抗菌・抗ウイルス性能を発揮し、かつ、耐水性にも優れるため、衛生用品、生体材料、洗浄剤、化粧料、塗料、樹脂、木材防腐剤、セメント混和剤、水処理剤、工業用水、紙パルプ、プラスチック、繊維、食品添加物、医療機器、光学機器、モジュール、電子製品等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。なお、以下に記載される本発明の個々の好ましい形態を2又は3以上組み合わせた形態も、本発明の好ましい形態に該当する。なお本明細中では、「抗菌・抗ウイルス」という表現があるが、これは抗菌性、抗ウイルス性どちらかを有する、または抗菌性、抗ウイルス性をともに有することを意味する。また、抗菌と記載されているものは抗ウイルス性を有していても、有していなくてもよく、また抗ウイルスと記載されているものは抗菌性を有していても、有していなくてもよい。
【0018】
<炭素材料含有複合体>
本発明の炭素材料含有複合体は、カチオン性基含有単量体(A)由来の構造単位(a)と疎水性単量体(B)由来の構造単位(b)とを有する重合体(以下、カチオン性基含有共重合体又は単に共重合体ともいう。)と、炭素材料とを含む複合体であり、優れた抗菌・抗ウイルス性能を発揮し、かつ、耐水性にも優れる。
【0019】
上記炭素材料含有複合体は、カチオン性基含有共重合体と炭素材料とが静電的相互作用、水素結合、双極子相互作用、ファンデルワールス力等の分子間力により相互作用(結合及び/又は吸着)しているものであればよい。
上記炭素材料含有複合体の形態としては特に制限されず、例えば、シート状炭素材料にカチオン性基含有共重合体が積層されている形態、断片化したシート状炭素材料とカチオン性基含有共重合体とが混合された形態等が挙げられる。好ましくはシート状炭素材料にカチオン性基含有共重合体が積層されている形態である。
【0020】
本発明の炭素材料含有複合体は、炭素材料と上記共重合体とが好適に相互作用し、安定な複合体であること、及び、炭素材料含有複合体を対象物に対して使用する際に、対象物の表面と炭素材料及び/又は共重合体とが好適に相互作用にすることにより、優れた耐水性を発揮することができる。
【0021】
本発明において、抗菌・抗ウイルス性能とは、殺菌(微生物を殺す、ウイルスを不活化する)、静菌(微生物、ウイルスの繁殖を抑える)、滅菌、消毒、制菌、除菌、防腐、防カビ等の性能を有することをいう。抗菌・抗ウイルスの対象となるのは、細菌、真菌、ウイルスである。具体的には、細菌としては、Actinomyces naeslundii、Actinomyces viscosus等のアクチノバクテリア門;Streptococcus mutans、Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)、Enterococcus faecalis、クロストリジウム属細菌等のファーミキューテス門;等のグラム陽性菌;Aggregatibacter actinomycetemcomitans、Escherichia coli(大腸菌)、Salmonella enterica、Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌)、Moraxella、Legionella等のプロテオバクテリア門;Porphyromonas gingivalis、Prevotella intermedia、Tannerella forsythia等のバクテロイデス門;Fusobacterium nucleatum等のフソバクテリア門;Chlamydia trachomatis等のクラミジア門;Treponema denticola等のスピロヘータ門;等のグラム陰性菌が挙げられる。真菌としては、Candida albicans(カンジダ)、パン酵母、Fusarium(赤カビ)、Cladosporium(クロカワカビ)、Aspergillus brasiliensis(クロコウジカビ)等のアスコマイコータ門;ロドトルラ等の担子菌門等が挙げられる。ウイルスとしては、influenza Viruses、SARS-CoV-2、human immunodeficiency virus type 1等のRNAウイルス;herpes simplex viruses、hepatitis B virus、adenovirus等のDNAウイルス等が挙げられる。
【0022】
本発明の炭素材料含有複合体は、カチオン性基含有単量体(A)由来の構造単位(a)と疎水性単量体(B)由来の構造単位(b)とを有する重合体を含むことにより、抗菌・抗ウイルス性能を発揮することができ、その理由は以下のように推定される。
本発明の炭素材料含有複合体を、微生物やウイルスに作用させると、カチオン性基含有共重合体が有するカチオン性基がマイナスの電荷を有する微生物やウイルスの表面に吸着する。さらにカチオン性基含有共重合体が有する疎水基が微生物の細胞膜やウイルスのエンベロープ部分と親和性を示し、これらと相互作用することにより、細胞膜やエンベロープを構成する脂質等の間の相互作用を破壊し、及び/又は、膜に結合しているタンパク質等の機能を阻害することにより、細胞、ウイルスの粒子が破壊され、及び/又は、微生物、ウイルスの生理活性が阻害され、微生物が死滅、ウイルスが不活性化することが推定される。
【0023】
本発明の炭素材料含有複合体において、炭素材料100質量%に対する上記共重合体の割合は、0.01~100質量%であることが好ましい。より好ましくは0.05~10質量%であり、更に好ましくは0.1~5質量%である。
上記共重合体の割合は、XPSにより、炭素材料を製膜したのみのサンプルと炭素材料含有複合体としたときのサンプルとのCおよびNの元素量の差分により算出することができる。
【0024】
(カチオン性基含有共重合体)
本発明の炭素材料含有複合体に含まれるカチオン性基含有共重合体は、カチオン性基含有単量体(A)由来の構造単位(a)を有している。上記共重合体は主に共重合体のカチオン性基に基づき炭素材料と好適に相互作用し、安定な複合体となる。このような炭素材料含有複合体を、抗菌・抗ウイルス性を付与したい対象物に使用した際に、対象物が水等で洗浄された場合にもカチオン性基含有共重合体に基づく抗菌・抗ウイルス性を充分に発揮することができる。
【0025】
上記カチオン性基含有単量体(A)は、エチレン性不飽和基とカチオン性基とを少なくとも1つずつ有していれば、特に制限されない。ここでカチオン性基とは、カチオンを有する基又はカチオンを発生させる基であり、例えば、第1~3級アミノ基、第1~3級アミノ基の酸による中和物、第4級アンモニウム塩基、イミニウム基等が挙げられる。カチオン性基としては、下記式(1)~(4);
【0026】
【化1】
【0027】
(式中、R、Rは、同一又は異なって、水素原子又はヘテロ原子を有していてもよい炭素数1~12の炭化水素基を表す。R、R、Rは、同一又は異なって、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1~12の炭化水素基を表す。R、R又はR、R若しくはR、R、Rのうちの2つが結合して環構造を形成していてもよい。Xは、陰イオンを表す。)で表される構造であることが好ましい。
【0028】
上記炭化水素基は、鎖状構造であっても、環構造を有していてもよいが、鎖状構造であることが好ましい。炭化水素基が鎖状構造である場合、直鎖状であっても分岐を有していてもよい。
上記炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アリール基が好ましく、より好ましくはアルキル基、アルケニル基であり、更に好ましくはアルキル基である。
また、上記炭化水素基は、炭素原子がヘテロ原子に置換されていてもよい。上記ヘテロ原子としては酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子等が挙げられる。
【0029】
また、上記炭化水素基の炭素数としては、1~10が好ましく、より好ましくは1~8であり、更に好ましくは1~5であり、特に好ましくは1~2である。
【0030】
上記式(1)、(2)において、R及びRのうち少なくともいずれか一方は、炭素数1~12の炭化水素基であることが好ましく、R及びRの両方が炭素数1~12の炭化水素基であることがより好ましい。すなわち、第1~3級アミノ基の中でも、第3級アミノ基が好ましい。
【0031】
上記炭化水素基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基(アミル基)、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、i-プロピル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、1-メチルブチル基、1-エチルプロピル基、2-メチルブチル基、i-アミル基、ネオペンチル基、1,2-ジメチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、t-アミル基、1,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、2-エチルブチル基、2-エチル-2-メチルプロピル基、1-メチルヘプチル基、2-エチルヘキシル基、1,5-ジメチルヘキシル基、t-オクチル基、分岐したノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が好ましく、より好ましくは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、i-プロピル基、sec-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基であり、メチル基又はエチル基が最も好ましい。
【0032】
上記式(2)~(4)におけるXは、特に制限されないが、例えば、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン等のハロゲン化物イオン;硫酸メチルイオン等の硫酸アルキルイオン;酢酸イオン等の有機酸のイオン等が挙げられる。
上記式(2)におけるXは、有機酸のイオンが好ましい。
上記式(3)、(4)におけるXは、ハロゲン化物イオン、硫酸アルキルイオンが好ましい。
【0033】
上記カチオン性基としては、第1~3級アミノ基、第1~3級アミノ基の酸による中和物及び第4級アンモニウム塩基が好ましく、より好ましくは第3級アミノ基、第3級アミノ基の酸による中和物又は第4級アンモニウム塩基である。第3級アミノ基又は第3級アミノ基の酸による中和物としてはジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基又はこれらの塩酸、酢酸等の酸による中和物が好ましい。
【0034】
上記カチオン性基含有単量体(A)としては、下記式(5)~(8);
【0035】
【化2】
【0036】
(式(5)及び(6)中、R、Rは、同一又は異なって、水素原子又はヘテロ原子を有していてもよい炭素数1~12の炭化水素基を表す。式(7)及び(8)中、R~Rは、同一又は異なって、ヘテロ原子を有していてもよい炭素数1~12の炭化水素基を表す。R~Rは、同一又は異なって、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す。Yは、2価の連結基を表す。Xは、陰イオンを表す。m、nは、同一又は異なって、1~3の整数である。)で表される構造であることが好ましい。
【0037】
上記R、Rは、水素原子であることが好ましい。
上記Rにおける炭素数1~5のアルキル基は、メチル基であることが好ましい。上記Rとしては、水素原子又はメチル基が好ましい。抗菌・抗ウイルス性及び耐加水分解性の観点からRとしてはメチル基がより好ましい。
【0038】
上記式(5)~(7)のYにおける2価の連結基としては、特に制限されないが、例えば、炭素数1~12のアルキレン基や、下記式(9);
【0039】
【化3】
【0040】
(式中、pは、0~12の整数を表す。)、下記式(10);
【0041】
【化4】
【0042】
(式中、qは、0~4の整数を表す。)及び下記式(11);
【0043】
【化5】
【0044】
(式中、rは、1~10の整数を表す。)で表される構造が挙げられる。
【0045】
上記式(9)におけるpは、1~8であることが好ましく、より好ましくは1~5である。
上記式(10)におけるqは、0~3であることが好ましく、より好ましくは0~5であり、更に好ましくは1~2であり、最も好ましくは1である。
上記式(11)におけるrは、1~8であることが好ましく、より好ましくは1~5である。
【0046】
上記式(5)~(7)のYにおける2価の連結基としては、上記式(9)で表される構造が好ましい。
上記カチオン性基含有単量体(A)は上記式(5)~(7)におけるRがメチル基であり、Yが上記式(9)で表される構造であることが好ましい。
【0047】
上記カチオン性基含有単量体(A)としては、第1~3級アミノ基含有単量体及びこれらの酸による中和物並びに第4級アンモニウム塩基含有単量体からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0048】
上記カチオン性基含有単量体(A)として、具体的には、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート等のN,N-ジアルキルアミノ基含有(メタ)アクリレート類及び上記モノマーに4級化剤を付加させたモノマー若しくはこれらの塩酸、酢酸等の酸による中和物;N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のN,N-ジアルキルアミノ基含有(メタ)アクリルアミド類及び上記モノマーに4級化剤を付加させたモノマー若しくはこれらの塩酸等の酸による中和物;モノメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モノエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モノメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、モノエチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸2-(tert-ブチルアミノ)エチル等のモノアルキルアミノ基含有(メタ)アクリレート類及びこれらの塩酸等の酸による中和物;モノメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、モノエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、モノメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、モノエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のモノアルキルアミノ基含有(メタ)アクリルアミド類及びこれらの塩酸等の酸による中和物;(メタ)アクリル酸-2-アミノエチル等の(メタ)アクリル酸とアルカノールアミンとのエステル類及びこれらの塩酸等の酸による中和物;N,N-ジアリルメチルアミン及びこれに4級化剤を付加させたモノマー若しくはこれの塩酸等の酸による中和物;アリルアミン及びこれの塩酸等の酸による中和物;1-アリルオキシ-3-ジブチルアミノ-2-オール、1-アリルオキシ-3-ジエタノールアミノ-2-オール等の炭素数2~8の環状エーテル含有基を有する不飽和単量体と炭素数1~24のアミン化合物との付加反応物及びこれに4級化剤を付加させたモノマー若しくはこれの塩酸等の酸による中和物等が挙げられる。
【0049】
上記炭素数1~24のアミン化合物は、アミノ基を有し、炭素数2~8の環状エーテル含有基を有する不飽和単量体の環状エーテル構造と反応することができる限り特に制限されない。炭素数1~24のアミン化合物の炭素数は、1~20が好ましく、1~16がより好ましい。炭素数1~24のアミン化合物としては、第1級アミン、第2級アミンが挙げられ、例えば、炭素数1~24の(ジ)アルキルアミン、炭素数1~24の(ジ)アルカノールアミン、炭素数1~24のアルキルアルカノールアミン等が挙げられる。
炭素数1~24の(ジ)アルキルアミンとしては、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ペンチルアミン、ジペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジヘキシルアミン、ヘプチルアミン、ジヘプチルアミン、オクチルアミン、ジオクチルアミン、ドデシルアミン、ジドデシルアミン等が好ましい。
炭素数1~24の(ジ)アルカノールアミンとしては、メタノールアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン、ジメタノールアミン、ジエタノールアミン、ジプロパノールアミン、ジブタノールアミン、ヘキサノールアミン等が好ましい。
炭素数1~24のアルキルアルカノールアミンとしては、メチルエタノールアミン等が好ましい。
【0050】
上記カチオン性基含有単量体(A)として、好ましくは、N,N-ジアルキルアミノ基含有(メタ)アクリレート類及びこれらの塩酸等の酸による中和物やこれらに4級化剤を付加させたモノマー、N,N-ジアルキルアミノ基含有(メタ)アクリルアミド類及びこれらの塩酸等の酸による中和物やこれらに4級化剤を付加させたモノマー、中でもN,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド及びこれらの塩酸等の酸による中和物やこれらに4級化剤を付加させたモノマーがより好ましい。
上記4級化剤としては、特に制限されるものではないが、塩化メチル、塩化エチル、臭化メチル、ヨウ化メチル等のハロゲン化アルキル;硫酸ジメチル、硫酸ジエチル、硫酸ジ-n-プロピル等のアルキル硫酸等の一般的なアルキル化剤が挙げられる。
【0051】
上記重合体は、疎水性単量体(B)由来の構造単位(b)を有する物であり、疎水性単量体(B)は、単独重合を行って得られた単独重合体(ホモポリマー)に対する溶解性パラメータが15以下である。なお、溶解性パラメータが15以下であっても、カチオン性基を有するものについては、カチオン性基含有単量体(A)に含まれるものとする。
ここで、上記溶解性パラメータは、「POLYMER ENGINEERING AND SCIENCE」(1974年、Vol.14、No.2)の147~154ページに記載の方法によって計算される値である。
以下にその方法を概説する。単独重合体の溶解性パラメータ(δ)(cal/cm1/2は、該重合体を形成している構成単位の蒸発エネルギー(△ei)及びモル体積(△vi)に基づいて、下記の計算法により算出される。
δ=(△ei/△vi)1/2 (cal/cm1/2
【0052】
疎水性単量体(B)を単独で重合した際に得られた単独重合体(ホモポリマー)に対する溶解性パラメータが15以下であれば、上記カチオン性基含有共重合体における疎水性が充分なものとなり、微生物の細胞膜やウイルスのエンベロープに対する親和性が向上し、細胞膜やエンベロープとの相互作用が増大することで、細胞膜やエンベロープの生理活性にダメージを与えるため、従来のポリマー型抗菌剤よりも抗菌・抗ウイルス性能に優れる。上記溶解性パラメータとして好ましくは14以下であり、より好ましくは13以下であり、更に好ましくは12以下である。上記溶解性パラメータとしては通常5以上である。
【0053】
上記疎水性単量体(B)としては、単独重合体での溶解性パラメータが15以下であれば特に制限されないが、(メタ)アクリル酸と置換基を有していてもよいアルコールとのエステル((メタ)アクリレート)類;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、α―アリルオキシアクリル酸及びこれらの塩等の不飽和モノカルボン酸類;スチレン等の芳香族ビニル系単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン系単量体;酢酸ビニル等の不飽和アルコールとカルボン酸とのエステル;塩化ビニル等のハロゲン化ビニル;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル類;1-アリルオキシ-3-ブトキシプロパン-2-オール等の炭素数2~8の環状エーテル含有基を有する不飽和単量体と炭素数1~20のアルコールとの付加反応物;アリルアルコールのエチレンオキシド付加物、メタリルアルコールのエチレンオキシド付加物、イソプレノールのエチレンオキシド付加物等の炭素数2~20の不飽和アルコールのアルキレンオキシド付加物及びそれらの末端疎水変性物;N-ビニルピロリドン等の環状ビニル系単量体が挙げられる。
上記疎水性単量体(B)としては、溶解性パラメータが15以下のものの中でも、炭素数が2以上のアルキル基を有するものが好ましい。疎水性単量体(B)が、炭素数2以上のアルキル基を有することにより、微生物の細胞膜やウイルスのエンベロープとの親和性が増し、抗菌・抗ウイルス性がより向上する。
【0054】
上記不飽和モノカルボン酸の塩としては、金属塩が挙げられる。上記金属塩の金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属が挙げられる。
【0055】
上記(メタ)アクリレートにおける置換基としては、水酸基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1~18のアルコキシ基;オキシアルキレン基、スルホン酸基、リン酸基等のオキソ基含有基;フルオロ基等のハロゲノ基;グリシジル基等のエポキシ基;アルデヒド基等のカルボニル基等が挙げられる。
【0056】
上記のような置換基を有しないアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート、n-ラウリル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニルメタクリレート等が挙げられる。
【0057】
水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのエステル基の炭素数が1~18の水酸基含有(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0058】
アルコキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシブチル(メタ)アクリレート、エトキシブチル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリプロポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0059】
オキソ基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチレングリコール(メタ)アクリレート、エチレングリコールメトキシ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールメトキシ(メタ)アクリレート等の(ジ)エチレングリコール(メトキシ)(メタ)アクリレート;アルコキシポリエチレングリコールメタクリレート(アントックスLMA-10)等のアルキレングリコールの繰り返し数が1~100のアルコキシポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート;スルホプロピル(メタ)アクリレート;(メタ)アクリロイルオキシエチルホスフェート等が挙げられる。
【0060】
フルオロ基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレートなどのエステル基の炭素数が2~6のフルオロ基含有アルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0061】
エポキシ基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、α-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルアリルエーテル等が挙げられる。
【0062】
カルボニル基含有(メタ)アクリレートとしては、例えば、アセトニル(メタ)アクリレート、ジアセトン(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートアセチルアセテート、ブタンジオール-1,4-アクリレートアセチルアセテート、2-(アセトアセトキシ)エチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシアルキルプロペナール等が挙げられる。
【0063】
上記疎水性単量体(B)は、少なくとも1種の(メタ)アクリル酸エステルを含むことが好ましい。
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、下記式(12);
【0064】
【化6】
【0065】
(式中、Rは、水素原子又はメチル基を表す。R10は、炭素数1~30の炭化水素基を表す。)で表される化合物であることが好ましい。
上記炭化水素基の炭素数は、1~20であることが好ましい。より好ましくは1~16であり、更に好ましくは1~12であり、特に好ましくは1~8であり、最も好ましくは2~6である。
上記炭化水素基の炭素数が1~20であれば、重合体の水溶性、粘度を好適な範囲とすることができ、取扱いに優れるものとなる。上記炭化水素基の炭素数が1~12であれば、重合体の製造が容易となり、さらに、抗菌・抗ウイルス性に加えて安全性にも優れるものとなる。さらに上記炭化水素基の炭素数が2~8であれば、重合体の製造が容易であるだけでなく、安全性に優れ、かつ微生物の細胞膜やウイルスのエンベロープとの親和性が増し、抗菌・抗ウイルス性がより向上するものとなる。
【0066】
上記炭化水素基としては、特に制限されず、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等の鎖状炭化水素基、芳香族炭化水素基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基等の環状炭化水素基が挙げられる。上記炭化水素基は、分岐を有していてもよく、分岐を有する場合の炭化水素基の炭素数は、主鎖及び分岐鎖の合計の炭素数を意味する。
上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、2-エチルへキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ステアリル基、イコシル基等が挙げられる。
上記アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ドデセニル基、オクタデセニル基、イコセニル基等が挙げられる。
上記アルキニル基としては、例えば、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、ヘプチニル基、オクチニル基、ノニニル基、デシニル基、ドデシニル基、オクタデシニル基、イコシニル基等が挙げられる。
【0067】
上記芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ベンジル基、トリル基、o-キシリル基等が挙げられる。
上記シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
上記シクロアルケニル基としては、例えば、シクロプロペニル基、シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等が挙げられる。
上記炭化水素基として、好ましくはアルキル基、アルケニル基であり、より好ましくはアルキル基である。
すなわち上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(アルキル(メタ)アクリレート)が好ましい。
【0068】
アルキル(メタ)アクリレートとして好ましくはメチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレートであり、より好ましくは、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートである。
【0069】
本発明の炭素材料含有複合体に含まれる重合体はまた、疎水性単量体(B)として、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構造単位と、更に溶解性パラメータが15以下であって、カルボキシル基、水酸基及びエーテル基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有するモノマー由来の構造単位とを有していてもよい。このような構造単位を有する共重合体を含む形態もまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
上記カルボキシル基、水酸基及びエーテル基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有するモノマーは、溶解性パラメータが15以下であって、カルボキシル基、水酸基及びエーテル基のいずれかの官能基を有しているものであればよく、(メタ)アクリル酸エステル構造を有しているものであっても、カルボキシル基、水酸基及びエーテル基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有するモノマーに分類するものとする。
本発明において、疎水性単量体(B)として、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとカルボキシル基、水酸基及びエーテル基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有するモノマーとを共重合することにより、得られる共重合体の水溶性が向上し、また、塩やpHによる共重合体の析出、抗菌・抗ウイルス性の低下等の影響をより充分に緩和することができるため、幅広いpH領域において共重合体を使用することができ、弱酸性のものが多い化粧品や、中性から弱アルカリ領域のものが多い洗剤等の種々の用途に好適に用いることができる。
上記カルボキシル基、水酸基及びエーテル基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有するモノマーとしては、上述の不飽和モノカルボン酸類;水酸基含有(メタ)アクリレート;アルキルビニルエーテル類;炭素数2~20の不飽和アルコールのアルキレンオキシド付加物;炭素数2~8の環状エーテル含有基を有する不飽和単量体と炭素数1~20のアルコールとの付加反応物等が挙げられる。
【0070】
カルボキシル基、水酸基及びエーテル基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有するモノマーとしては、不飽和モノカルボン酸類;水酸基含有(メタ)アクリレート;炭素数2~20の不飽和アルコールのアルキレンオキシド付加物;炭素数2~8の環状エーテル含有基を有する不飽和単量体と炭素数1~20のアルコールとの付加反応物が好ましい。
上記不飽和モノカルボン酸類としては、(メタ)アクリル酸及びこれらの塩が好ましい。
上記水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0071】
上記炭素数2~20の不飽和アルコールの炭素数は、2~18であることが好ましく、炭素数2~20の不飽和アルコールとしては、ビニルアルコール、アリルアルコール、イソプレニルアルコール等が挙げられる。
上記炭素数2~20の不飽和アルコールのアルキレンオキシド付加物におけるアルキレンオキシドの炭素数は、2~16であることが好ましく、より好ましくは、2~12であり、更に好ましくは2~6であり、特に好ましくは2~4であり、最も好ましくは2~3である。上記アルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、イソブチレンオキシド、1-ブテンオキシド、2-ブテンオキシド、スチレンオキシド等が挙げられる。より好ましくは、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドであり、更に好ましくは、エチレンオキシド、プロピレンオキシドである。
上記アルキレンオキシドの平均付加モル数は、1~100であることが好ましい。より好ましくは、1~80であり、更に好ましくは、1~70であり、特に好ましくは、1~50である。
上記炭素数2~20の不飽和アルコールのアルキレンオキシド付加物としては、イソプレノールのエチレンオキシド付加物が好ましい。
【0072】
上記炭素数1~20のアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等のアルキルアルコールが挙げられる。好ましくはエタノール、プロパノール、ブタノール等の炭素数2~16のアルキルアルコールである。
上記炭素数2~8の環状エーテル含有基を有する不飽和単量体と炭素数1~20のアルコールとの付加反応物としては1-アリルオキシ-3-ブトキシプロパン-2-オールが好ましい。
【0073】
上記カチオン性基含有共重合体は、上記カチオン性基含有単量体(A)及び疎水性単量体(B)以外のその他の単量体(E)由来の構造単位(e)を有していてもよい。その他の単量体(E)としては、カチオン性基を有しないものであって、カチオン性基含有単量体(A)及び疎水性単量体(B)と共重合できるものである限り特に制限されない。その他の単量体の単独重合体での溶解性パラメータは、15以下であっても、15を超えるものであってもよい。その他の単量体(E)の溶解性パラメータが15以下であっても、15を超えるものであっても、上記疎水性単量体(B)を好ましい割合で重合している限り、共重合体としての疎水性は充分に維持されることとなる。
また、粘度を調整する観点から溶解性パラメータの値にかかわらずエチレン性不飽和基を2個以上有する単量体が含まれていてもよい。エチレン性不飽和基を2個以上有する単量体としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、サッカロース、ソルビトール、1,4-ブタンジオール等のポリオールの2置換以上の水酸基と(メタ)アクリル酸とのエステル類;上記ポリオールの2置換以上のメタクリル酸エステル類;上記ポリオールの2置換以上の水酸基とアリルアルコール、ビニルアルコール等の不飽和アルコールとのエーテル類;フタル酸ジアリル、リン酸トリアリル、メタクリル酸アリル、テトラアリルオキシエタン、トリアリルシアヌレート、アジピン酸ジビニル、クロトン酸ビニル、1,5-ヘキサジエン、ジビニルベンゼン等が挙げられる。これらのその他の単量体は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
抗菌・抗ウイルス性を向上させる観点から、上記カチオン性基含有共重合体はその他の単量体(E)として重合性金属塩を共重合していてもよい。重合性金属塩としてはアクリル酸亜鉛、メタクリル酸亜鉛、α―アリルオキシアクリル酸亜鉛等の不飽和カルボン酸の重金属塩が挙げられる。
【0074】
上記カチオン性基含有共重合体は、共重合体を形成する構造単位(全構造単位)の総量100質量%に対して、カチオン性基含有単量体(A)由来の構造単位(a)を50~95質量%の割合で有することが好ましい。より好ましくは50~90質量%であり、更に好ましくは55~85質量%である。
【0075】
本発明のカチオン性基含有共重合体は、共重合体を形成する構造単位の総量100質量%に対して、疎水性単量体(B)由来の構造単位(b)を0.01~50質量%の割合で有することが好ましい。より好ましくは5~50質量%であり、更に好ましくは10~50質量%であり、特に好ましくは15~45質量%である。
【0076】
上記カチオン性基含有共重合体は、共重合体における疎水性単量体(B)由来の構造単位(b)の含有割合が、共重合体におけるカチオン性基含有単量体(A)由来の構造単位(a)100質量%に対して、5~100質量%であることが好ましい。より好ましくは10~90質量%、更に好ましくは30~80質量%であり、特に好ましくは40~70質量%である。本発明の共重合体における疎水性単量体(B)由来の構造単位(b)の含有割合がこのような範囲であれば、上記共重合体の抗菌・抗ウイルス性能が向上する傾向にある。
【0077】
上記カチオン性基含有共重合体は上述のとおり、疎水性単量体(B)として、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構造単位と、更にカルボキシル基、水酸基及びエーテル基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有するモノマー由来の構造単位とを有していてもよく、上記共重合体におけるカルボキシル基、水酸基及びエーテル基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基を有するモノマー由来の構造単位の割合は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構造単位100質量%に対して、0~100質量%であることが好ましい。より好ましくは0~50質量%である。
【0078】
上記カチオン性基含有共重合体の疎水性単量体(B)由来の構造単位(b)として(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構造単位を有する場合、(メタ)アクリル酸アルキルエステル由来の構造単位の割合は、共重合体を形成する構造単位の総量100質量%に対して、0.01~50質量%であることが好ましい。より好ましくは5~45質量%、更に好ましくは10~40質量%である。
【0079】
上記カチオン性基含有共重合体は、共重合体を形成する構造単位の総量100質量%に対して、その他の単量体(E)由来の構造単位(e)の含有割合が、0~10質量%であることが好ましい。より好ましくは0~8質量%、更に好ましくは0~5質量%である。その他の単量体の中でもエチレン性不飽和基を2個以上有する単量体由来の構造単位の含有割合は、共重合体を形成する構造単位の総量100質量%に対して0~1%であることが好ましく、より好ましくは、0~0.5質量%、更に好ましくは0~0.1質量%である。
【0080】
本発明の抗菌剤に含まれる共重合体としては、カチオン性基含有単量体(A)由来の構造単位(a)と疎水性単量体(B)由来の構造単位(b)のみからなる共重合体もまた、好ましい形態の1つである。この場合、カチオン性基含有単量体(A)由来の構造単位(a)と疎水性単量体(B)由来の構造単位(b)の割合の合計は100質量%であり、これらの構造単位のそれぞれの割合は、100質量%から上述のカチオン性基含有単量体(A)由来の構造単位(a)の割合又は疎水性単量体(B)由来の構造単位(b)の割合を差し引いた値となる。
【0081】
上記カチオン性基含有共重合体の重量平均分子量は特に制限されないが、4000~100万であることが好ましい。カチオン性基含有共重合体の重量平均分子量がこのような範囲であれば、炭素材料含有複合体を使用する対象及び/又は炭素材料に対する吸着性が向上するため、洗浄した際に洗い流されることを充分に抑制し、炭素材料含有複合体を使用する対象に対して、より優れた抗菌・抗ウイルス性能を付与することができる。
上記重量平均分子量としてより好ましくは5000~80万であり、更に好ましくは6000~60万であり、一層好ましくは8000~40万であり、より一層好ましくは10000~20万であり、更に一層好ましくは15000~10万であり、特に好ましくは20000~8万である。カチオン性基含有共重合体の重量平均分子量は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0082】
上記カチオン性基含有共重合体は、カチオン性基含有単量体(A)由来の構造単位(a)と疎水性単量体(B)由来の構造単位(b)とを有するものであれば、全体として疎水性であっても水溶性であってもよいが、水溶性のものであることが好ましい。日用品等は、水等で洗浄されることが多いため、水溶性の抗菌・抗ウイルス剤で加工されたものの場合には洗い流されて抗菌・抗ウイルス性が充分に発揮できないことがある。これに対して本発明では、炭素材料とカチオン性基含有共重合体とを複合化することにより、炭素材料とカチオン性基含有共重合体との強い相互作用により、上記共重合体が水溶性であっても洗い流されることが充分に抑制されるため、上記カチオン性基含有共重合体が水溶性である場合には、本発明の技術的意義をより効果的に発揮することができる。
【0083】
上記カチオン性基含有共重合体の構造はランダム共重合体構造、グラフト構造、ブロック共重合体構造、グラジエント共重合体構造、星形構造、デンドリマー構造などが挙げられるが、いずれの構造であってもよい。
【0084】
上記カチオン性基含有共重合体の製造方法は、特に制限されず、上記カチオン性基含有共重合体は通常用いられる方法により製造することができる。例えば、特開2017-214346号公報に記載の方法により重合反応を行って製造することが好ましい。
【0085】
(炭素材料)
本発明の炭素材料含有複合体が含む炭素材料としては上記共重合体と相互作用するものであれば特に制限されないが、酸素(O)と結合した炭素を有するものであることが好ましい。この場合、炭素材料はアニオン性を発揮するため、カチオン性基を有する上記共重合体と静電的相互作用により、より安定な複合体を形成することができる。
本発明における炭素材料が酸素(O)と結合した炭素を有する場合、酸素原子数に対する炭素原子数の比(C/O)が0.5~20であることが好ましい。該比は、1以上であることがより好ましく、1.2以上であることが更に好ましい。また、該比は、10以下であることがより好ましく、6以下であることが更に好ましく、4以下であることが一層好ましく、3以下であることが特に好ましい。酸素原子数に対する炭素原子数の比は、XPS測定で得られるO1s領域の全ピーク面積とC1s領域の全ピーク面積との比率により確認することができる。
【0086】
上記炭素材料としてより好ましくはグラフェン骨格を有するものである。上記グラフェン骨格を有する炭素材料は、sp結合で結合した炭素(C)を有し、該炭素が平面的に並んだものである。より好ましくは酸素(O)と結合した炭素を有するものであり、更に好ましくは、グラフェンの炭素に酸素が結合した酸化グラフェンである。酸化グラフェンとしては、グラフェンの炭素に酸素が結合したものを部分的に還元して得られる還元型酸化グラフェンであってもよく、例えば、共重合体との複合化により酸化グラフェンが還元されることや、製膜中及び/又は製膜後の処理により還元されることもある。上記炭素材料が酸化グラフェン又は還元型酸化グラフェンである形態は本発明の好ましい実施形態の1つである。炭素材料が上記のように炭素が平面的に並んだ構造により、使用対象や基材と相互作用できる実効面積が増えることや、酸素(O)と結合した炭素を有することにより、使用対象、基材表面や重合体の官能基とより充分に相互作用することで本発明の効果をより充分に発揮することができる。
【0087】
上記炭素材料が酸素(O)と結合した炭素を有する場合、その製造方法としては、黒鉛を酸溶媒中で強力な酸化剤と作用させる方法が一般的であり、酸化剤として硫酸と過マンガン酸カリウムを用いるHummers法を使用できる。またその他の方法として、硝酸と塩素酸カリウムを用いるBrodie法、酸化剤として硫酸、硝酸と塩素酸カリウムを用いるStaudenmaier法等を使用できる。Hummers法における酸化方法を採用した場合、黒鉛と硫酸とを含む混合液に過マンガン酸塩を添加する方法であってもよい。このようにして得られた炭素材料は、通常、ろ過、デカンテーション、遠心分離、分液抽出、水洗等の手法により精製されるものである。精製は、空気中で行ってもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。また、加圧条件下、常圧条件下、減圧条件下のいずれで行ってもよい。精製後に超音波処理やホモジナイザー処理を行うことで、各酸化グラフェン層を剥離し、層数を減少させることが可能である。
【0088】
本発明の炭素材料含有複合体は更に基材を含むことが好ましい。
上記炭素材料含有複合体が基材を含む場合、炭素材料は基材上に積層された形態であることが好ましい。上記炭素材料含有複合体が基材を含む場合、より好ましくは、基材、炭素材料、共重合体がこの順に積層された構造を有する形態である。
【0089】
本発明の炭素材料含有複合体において、炭素材料が基材上に積層されたものである場合、炭素材料の層数は特に制限されないが、平均の層数が10以下であることが好ましい。これにより、基材への密着性がより向上し、かつ、基材への着色がより充分に抑制されることになる。炭素材料の平均の層数としてより好ましくは8以下であり、更に好ましくは5以下であり、特に好ましくは3以下であり、最も好ましくは1である。上記炭素材料の層数は、走査型電子顕微鏡又は原子間力顕微鏡により測定することができる。
【0090】
上記基材上に積層された炭素材料は、紫外可視分光光度計で測定される波長660nmにおける吸光度が0.05以下であることが好ましい。より好ましくは吸光度が0.01以下である。
【0091】
上記基材の材質は特に制限されないが、炭素材料を積層できるものであることが好ましい。
具体的には例えば、金属、ガラス、繊維、コラーゲン、セルロース、樹脂、セラミック、エナメル質、セメント質及び象牙質等が挙げられ、これらからなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。より好ましくは、ガラス、繊維、象牙質である。
【0092】
<炭素材料含有複合体の用途>
本発明の炭素材料含有複合体は、上述の構成よりなり、抗菌・抗ウイルス性能に優れ、かつ、着色がほとんどないため、幅広い用途に用いることができ、具体的には、骨や皮膚等の組織再生、人工歯等に用いられる生体材料用途;洗濯洗浄剤、柔軟剤、住居用洗剤、食器洗浄剤、硬質表面用洗浄剤等の洗浄剤用途;シャンプー、リンス、化粧水、乳液、クリーム、日焼け止め、ファンデーション、アイメイク製品等の化粧品、制汗剤等の化粧料用途;塗料、木材防腐剤、セメント混和剤、工業用水(製紙工程における抄紙工程水、各種工業用の冷却水や洗浄水)等の工業用途;マスク、眼帯、包帯、絆創膏、ガーゼ等の衛生用品;医療器具;衣類等の繊維製品;食品添加物、太陽電池モジュールや有機素子デバイス、熱線遮蔽フィルムなどの電子機器用途等に好適に用いることができる。特に本発明の炭素材料含有複合体は、生体材料用途により好適に用いることができる。
【0093】
<炭素材料含有複合体の製造方法>
本発明の炭素材料含有複合体の製造方法は特に制限されず、炭素材料とカチオン性基含有共重合体とを複合化すればよいが、例えば、炭素材料とカチオン性基含有共重合体とを混合する工程を含む形態や、炭素材料をシート状に製膜する工程と、該製膜工程で得られたシート状炭素材料にカチオン性基含有共重合体を複合化させる工程とを含む形態等が挙げられる。
好ましくは、上記製膜工程と上記複合化工程とを含む形態であり、より好ましくは、炭素材料含有複合体を使用する対象(以下、使用対象ともいう)の表面に炭素材料を製膜する工程と、該製膜工程で得られた使用対象表面上の炭素材料にカチオン性基含有共重合体を複合化させる工程とを含む形態である。
以下では、使用対象表面上に炭素材料を製膜し、これにカチオン性基含有共重合体を複合化させて、使用対象表面上に炭素材料含有複合体を形成する態様について説明する。
【0094】
使用対象表面上に炭素材料含有複合体を形成する態様において、上記製膜工程は、炭素材料を含む組成物(以下、炭素材料組成物ともいう)に使用対象を浸漬させる方法や、炭素材料含有複合体の使用対象に炭素材料を含む組成物を塗布する方法等により行うことができる。
【0095】
上記製膜工程で用いる炭素材料組成物における炭素材料の濃度は、0.001~10質量%であることが好ましい。これにより、使用対象表面の被覆率がより向上する。より好ましくは0.005~5質量%であり、更に好ましくは0.1~2質量%である。
【0096】
上記炭素材料組成物は、炭素材料を含むものであれば特に制限されないが、溶媒等のその他の成分を含んでいてもよい、上記溶媒としては、炭素材料を分散させるものであれば特に制限されず、水;N-メチル-2-ピロリドン、N,N’-ジメチルホルムアミド、N,N’-ジメチルアセトアミド等のアミド類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類等の極性溶媒が好ましい。上記炭素材料組成物が極性溶媒を含むことにより、炭素材料の分散性がより向上し、より均一に製膜することができる。より好ましくは水である。
【0097】
上記炭素材料組成物中に含まれていてもよいその他の成分としては特に制限されないが、例えば、界面活性剤等が挙げられる。これにより、炭素材料組成物の分散安定性がより向上する。
【0098】
上記炭素材料含有複合体の製造方法は、製膜工程後の使用対象表面を洗浄する工程を有していてもよい。これにより、製膜していない炭素材料をより充分に除去することができる。着色をより充分に抑制するために用いる炭素材料の濃度は上述の範囲であることが好ましいが、濃度が濃い場合であっても、使用対象最表面と相互作用していない余分な炭素材料を除去することで、限りなく無色に近づけることが可能である。この場合用いる炭素材料の濃度(量)に関わらず、最終的に使用対象表面に残る炭素材料量は使用対象最表面と相互作用可能な炭素材料量である。最表面のみの炭素材料であっても本発明の効果を十分に発揮する。また、洗浄処理により、多層の炭素材料が選択的に除去されることで、単層~10層程度の薄膜が残りやすい。さらに製膜工程、洗浄工程はそれぞれ複数回繰り返すことも好ましい。これにより炭素材料膜の膜厚や被覆率を任意に変更することが可能である。
【0099】
上記複合化工程は、製膜工程で得られた使用対象上の炭素材料に共重合体を複合化させることができる限り特に制限されないが、製膜後の使用対象を共重合体を含む組成物(以下、重合体組成物ともいう)に浸漬させる方法や、製膜後の使用対象に重合体組成物を塗布する方法等により行うことができる。
【0100】
上記複合化工程で用いる重合体組成物における共重合体の濃度は、0.001~100質量%であることが好ましい。これにより、より効率的に炭素材料と複合化することができる。より好ましくは0.01~50質量%であり、更に好ましくは0.1~10質量%である。
【0101】
上記重合体組成物は、上記共重合体を含むものであれば特に制限されないが、溶媒等のその他の成分を含んでいてもよい、上記溶媒としては上述のものが挙げられ、好ましくは水である。
【0102】
上記炭素材料含有複合体の製造方法は、複合化工程後の使用対象を洗浄する工程を有していてもよい。これにより、複合化していない共重合体をより充分に除去することができる。また、複合化工程、洗浄工程は複数回繰り返してもよい。これにより炭素材料と共重合体を効果的に複合化することが可能である。
【0103】
上記では、使用対象表面上に炭素材料含有複合体を形成する態様について説明したが、例えば、使用対象表面に代えて、シート状炭素材料を作製するため台等(PEフィルム等)の表面に炭素材料を製膜し、同様にカチオン性基含有共重合体を複合化させた後に、得られた複合体を上記台等の表面から分離して複合体を得ることもできる。
【0104】
また、炭素材料含有複合体が基材を含む場合、基材上に炭素材料を製膜する工程と、該製膜工程で得られた基材上の炭素材料にカチオン性基含有共重合体を複合化させる工程とを行って炭素材料含有複合体を製造することが好ましい。
基材上に炭素材料を製膜する工程と、該製膜工程で得られた基材上の炭素材料に共重合体を複合化させる工程とを含む炭素材料含有複合体の製造方法もまた、本発明の1つである。
上記基材上に炭素材料を製膜する工程及び該製膜工程で得られた基材上の炭素材料に共重合体を複合化させる工程の好ましい態様は、上記使用対象表面上に炭素材料含有複合体を形成する場合の好ましい態様と同様である。
【0105】
<抗菌・抗ウイルス性コート方法>
本発明はまた、基材及び/又は使用対象に抗菌・抗ウイルス性のコートをする方法であって、該方法は、基材及び/又は使用対象上に炭素材料を製膜する工程と、該製膜工程で得られた基材及び/又は使用対象上の炭素材料にカチオン性基含有共重合体を複合化させる工程とを含む抗菌・抗ウイルス性コート方法でもある。上記製膜工程、複合化工程は、上記炭素材料含有複合体の製造方法における製膜工程、複合化工程と同様である。また、上記抗菌・抗ウイルス性コート方法が、上述の洗浄工程を含んでいてもよい。
【0106】
<炭素材料含有複合体製造用セット>
本発明は、炭素材料含有複合体を製造するためのセットであって、該セットは、炭素材料又は炭素材料組成物と重合体又は重合体組成物とを有し、上記重合体は、カチオン性基含有単量体(A)由来の構造単位(a)と疎水性単量体(B)由来の構造単位(b)とを有し、該疎水性単量体(B)は、単独重合体の溶解性パラメータが15以下である炭素材料含有複合体製造用セットでもある。
上記炭素材料含有複合体製造用セットは、炭素材料組成物と重合体組成物とを有するものであることが好ましい。上記セットにおける炭素材料、重合体の具体例及び好ましい形態は炭素材料含有複合体において述べたとおりであり、上記炭素材料組成物、重合体組成物は、上記炭素材料含有複合体の製造方法、抗菌・抗ウイルスコート方法で用いられるものと同様であることが好ましい。
【実施例0107】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0108】
各種物性の測定を以下の方法により行った。
<ラマンスペクトルの測定>
以下の条件で分析し、1600および1350cm-1付近にピークがあるかないかで酸化グラフェンの存在の有無を確認した。
ラマン分光分析は以下の装置、条件により行った。測定装置:顕微ラマン(日本分光NRS-3100)測定条件:532nmレーザー使用、対物レンズ20倍、CCD取り込み時間1秒、積算32回(分解能=4cm-1
【0109】
<X線光電子分光(XPS)>
以下の条件で分析し、窒素含有量を確認した。
島津クレイトス社製 AXIS-NOVAX線線源・出力 AlKα―100Wパスエネルギー40eV中和銃ON
【0110】
<抗菌性評価>
抗菌性評価をJIS Z2801に基づき、以下の方法で行った。
供試菌(大腸菌、黄色ブドウ球菌)を寒天培地で前培養(37℃、20時間)した後、細菌のコロニーを1白金耳取り、緩衝液に懸濁した。懸濁液をOD660=0.1程度に調整した後、1/500ブイヨン培地で更に100倍希釈した試験菌液を5cm×5cmに裁断したサンプル膜上に0.4mlのせ、4cm×4cmのPEフィルムで挟み込み、温度35℃、湿度90%以上で24時間保持した。
保存開始直後及び24時間培養後にSCDLP培地で洗い出し、希釈系列を調製して菌数測定用の標準寒天培地を用いる混釈平板培養法(37℃、2日間)により生菌数を測定した。
保存開始直後及び24時間培養後の生菌数を対数表記にした時の「保存開始直後の生菌数(対数)-24時間培養後の生菌数(対数)」を抗菌活性値として算出した。
抗菌活性値3以上(抗菌率99.9%以上)を◎、2以上3未満(抗菌率99%以上99.9%未満)を〇、抗菌活性値1以上2未満(抗菌率90%以上99%未満)を△、抗菌活性値1未満抗菌率90%未満)を×として評価した。
【0111】
<製造例1>
温度計、還流冷却器、攪拌機を備えたガラス製のセパラブルフラスコに、純水11.1gと1,3-ブタンジオール100.0g(株式会社ダイセル製)を仕込み、攪拌下、90℃に昇温した。次いで攪拌下、90℃一定状態の重合反応系中に、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル(別名:N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート)(共栄社化学株式会社製、以下DAMと称す。)60.0gからなるモノマー溶液1と、メタクリル酸エチル(共栄社化学株式会社製、以下EMAと称す。溶解性パラメータ:9.71)40.0gからなるモノマー溶液2と、2,2’ -アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(富士フイルム和光純薬株式会社製、以下V-50と称す。)3%水溶液36.6gからなる開始剤水溶液をそれぞれ別々の滴下ノズルより滴下した。滴下開始時間に関して、モノマー溶液1、2と開始剤水溶液は同時に滴下を開始し、モノマー溶液1は180分間、モノマー溶液2は170分間、開始剤水溶液は210分間滴下した。全滴下終了後、さらに30分間反応溶液を90℃に保持して熟成し、重合を完結させたのち、純水252.5gと1,3-ブタンジオール500.0gを添加して共重合体1を得た。得られた共重合体の固形分は9.9%、pHは9.0、重量平均分子量は48000であった。
【0112】
<製造例2>
酸化グラフェン分散液を以下の工程で合成した。反応容器にあらかじめ黒鉛(伊藤黒鉛株式会社製Z-25)15g、硫酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)640gを入れ、30℃に調整しながら過マンガン酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)45gを入れた。投入後、30分、35℃に昇温し2時間反応させた。反応後反応液を水1070ml、30%過酸化水素水(富士フイルム和光純薬株式会社製)42mlを加え反応停止させた。得られた反応液は静置沈降により、上澄みの除去とイオン交換水による再分散を繰り返し精製した。精製後、ホモジナイザーにより剥離操作を行い、酸化グラフェン分散液(1)を調製した。
【0113】
<実施例1>
PETフィルムに酸化グラフェン分散液(1%に調製)を塗布し、乾燥させずに水洗した。これにより、酸化グラフェンが自発的に製膜した酸化グラフェン単層膜が形成できた。続いて、共重合体1の0.1%水溶液を調製し、酸化グラフェン単層膜が形成されたPETフィルム上に含侵させ、乾燥させずに水洗した。これにより、酸化グラフェン+共重合体複合体膜がPETフィルム上に形成された。ラマン分析により、酸化グラフェンの存在が確認でき、XPS分析から窒素量は2.3%であった。
【0114】
<比較例1>
共重合体の0.1%水溶液を塩化ベンザルコニウム(BAC)に変えた以外は実施例1と同様にして、酸化グラフェン+BAC複合体膜がPETフィルム上に形成された。ラマン分析により、酸化グラフェンの存在が確認でき、XPS分析から窒素量は0.9%であった。
【0115】
<比較例2>
PETフィルムに酸化グラフェン分散液(1%に調製)を塗布し、乾燥させずに水洗した。これにより、酸化グラフェンが自発的に製膜し、酸化グラフェン膜がPETフィルム上に形成された。ラマン分析により、酸化グラフェンの存在が確認でき、XPS分析から窒素量は0%であった。
【0116】
<比較例3>
PETフィルムに共重合体1の0.1%水溶液を含侵させ、乾燥させずに水洗した。これにより、共重合体のみを曝したPETフィルムが形成された。ラマン分析により、酸化グラフェンの存在が確認できず、XPS分析から窒素量は0%であった。
【0117】
<比較例4>
共重合体の0.1%水溶液を塩化ベンザルコニウム(BAC)に変えた以外は比較例3と同様にして、BACのみを曝したPETフィルムが形成された。ラマン分析により、酸化グラフェンの存在が確認できず、XPS分析から窒素量は0%であった。
【0118】
【表1】
【0119】
ラマン分析、XPS分析、抗菌評価結果から、実施例1では共重合体1を用いることで酸化グラフェンと良好に複合体を形成し、水洗後も共重合体1が充分に残存するため、高い抗菌性を示した。比較例1ではBACが水洗後にもある程度残存するが、実施例1と比較して残存量(窒素量)が少ないため、抗菌性は実施例1と比較して低かった。比較例2では、酸化グラフェンのみであるため抗菌性を示さず、比較例3、4では水洗により抗菌剤(共重合体1およびBAC)が流出するために抗菌性を示さないことが分かった。これにより、酸化グラフェンと共重合体1とを複合化することで耐水洗性の高い抗菌複合体を形成できることが明らかとなった。