(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128269
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】高炉吹き込み用ランス及び高炉の操業方法
(51)【国際特許分類】
C21B 7/00 20060101AFI20230907BHJP
C21B 5/00 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
C21B7/00 309
C21B5/00 321
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032506
(22)【出願日】2022-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(72)【発明者】
【氏名】上城 親司
【テーマコード(参考)】
4K012
4K015
【Fターム(参考)】
4K012BF04
4K012BF08
4K015AD03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】燃焼速度が大きい炭材を高炉に吹き込む高炉の操業方法において、炉体温度の過度な上昇を防止する。
【解決手段】高炉吹き込み用ランス5がブローパイプに挿通された高炉の操業方法において、外管52から水素系還元ガスを吹き込みながら、燃焼速度が3.0(mg/min)以上の炭材を50質量%以上含む微粉炭を、内管51からキャリアガスにより吹き込むとともに、水素系還元ガスの流量をX1、キャリアガスの流量をX2としたとき、X1/X2≧0.5なる条件満足するように高炉を操業する。高炉吹き込み用ランスは二重管構造であり、内管の先端開口部が内管の軸方向に垂直な面に対して55度以上傾斜している。内管と外管の長手方向における離間距離Wを、所定範囲に制限する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外管及び内管を有する二重管構造の高炉吹き込み用ランスにおいて、
前記内管の先端開口部が、前記内管の軸方向に垂直な面に対して55度以上の所定角度θだけ傾斜しており、前記内管の先端開口部における最先端部と前記外管の先端開口部との、該高炉吹き込み用ランスの長手方向における距離をWとしたとき、距離Wは以下の式(1)を満足することを特徴とする高炉吹き込み用ランス。
W≦tanθ×D・・・・・・・・・式(1)
ただし、Dは前記内管の直径である。
【請求項2】
前記内管の前記最先端部は、前記外管の外側の突き出し位置、前記外管の内側の管路内位置及び前記外管の先端開口部と面一の面一位置のうちいずれかに配設されていることを特徴とする請求項1に記載の高炉吹き込み用ランス。
【請求項3】
前記外管の先端開口部は、前記内管の軸方向に対して垂直であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高炉吹き込み用ランス。
【請求項4】
請求項1乃至3のうちいずれか一つに記載の高炉吹き込み用ランスがブローパイプに挿通された高炉の操業方法において、
前記外管から水素系還元ガスを吹き込みながら、
燃焼速度が3.0(mg/min)以上の炭材を50質量%以上含む微粉炭を、前記内管からキャリアガスにより吹き込むとともに、
前記水素系還元ガスの流量をX1、前記キャリアガスの流量をX2としたとき、以下の式(2)に示す吹込み条件を満足させることを特徴とする高炉の操業方法。
X1/X2≧0.5・・・・・・・・・式(2)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粉炭等を高炉に吹き込むための高炉吹き込み用ランス及び高炉の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉操業では、炉頂から鉄原料(塊鉱石、焼結鉱、ペレット等)及びコークス(還元材)を交互に層状に装入することにより銑鉄を製造する。高炉操業におけるコスト低減手段として、コークスの装入量を減らすとともに、羽口に設置された高炉吹き込み用ランスから微粉炭を吹き込む方法が知られている。また、高炉の還元材比の低減、二酸化炭素の排出量の削減などを目的として、水素系還元ガスを羽口から吹き込む高炉の操業方法も知られている。
【0003】
ここで、羽口から吹き込まれる微粉炭に揮発分(以下、VMともいう)が多く含まれる場合、送風圧が変動して、高炉の安定操業が阻害される。したがって、高炉に吹き込まれる微粉炭には、VMの低い半無煙炭等(以下、従来炭材ともいう)が利用されている。しかしながら、近年は、資源枯渇によりVMの低い炭材を確保することが困難となっている。そこで、バイオマスや褐炭を乾留した改質炭(以下、チャーともいう)を炭材として吹き込む方法が検討されている。しかしながら、バイオマスや褐炭を由来とするチャーは従来炭材よりも炭素結合が弱いため、燃焼しやすい(言い換えると、燃焼速度が大きい)。そのため、吹き込み用の炭材として前述のチャーを用いると、燃焼位置(燃焼焦点)が羽口側にシフトして、炉体温度が過度に上昇するおそれがある。
【0004】
特許文献1には、内管から気体還元材を吹き込み、外管と内管との間に冷却用の空気を流通させるように構成した二重管構造の高炉吹き込み用ランスが開示されているが、上述の課題については検討されていない。
特許文献2には、羽口の摩耗防止を目的として、内管の先端が切り欠き形状である二重管ランスが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-312757号公報
【特許文献2】実開昭62-97154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、燃焼速度が大きい炭材を高炉に吹き込む高炉の操業方法において、炉体温度の過度な上昇を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る高炉吹き込み用ランスは、(1)外管及び内管を有する二重管構造の高炉吹き込み用ランスにおいて、前記内管の先端開口部が、前記内管の軸方向に垂直な面に対して55度以上の所定角度θだけ傾斜しており、前記内管の先端開口部における最先端部と前記外管の先端開口部との、該高炉吹き込み用ランスの長手方向における距離をWとしたとき、距離Wは以下の式(1)を満足することを特徴とする高炉吹き込み用ランス。
W≦tanθ×D・・・・・・・・・式(1)
ただし、Dは前記内管の直径である。
【0008】
(2)前記内管の前記最先端部は、前記外管の外側の突き出し位置、前記外管の内側の管路内位置及び前記外管の先端開口部と面一の面一位置のうちいずれかに配設されていることを特徴とする上記(1)に記載の高炉吹き込み用ランス。
【0009】
(3)前記外管の先端開口部は、前記内管の軸方向に対して垂直であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の高炉吹き込み用ランス。
【0010】
(4)上記(1)乃至(3)のうちいずれか一つに記載の高炉吹き込み用ランスがブローパイプに挿通された高炉の操業方法において、前記外管から水素系還元ガスを吹き込みながら、燃焼速度が3.0(mg/min)以上の炭材を50質量%以上含む微粉炭を、前記内管からキャリアガスにより吹き込むとともに、前記水素系還元ガスの流量をX1、前記キャリアガスの流量をX2としたとき、以下の式(2)に示す吹込み条件を満足させることを特徴とする高炉の操業方法。
X1/X2≧0.5・・・・・・・・・式(2)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、燃焼速度が大きい炭材を高炉に吹き込む高炉の操業方法において、水素系還元ガスの吹込量及び高炉吹き込み用ランスの内管の先端傾斜角を調整することにより、炉体温度の過度な上昇を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】高炉吹き込み用ランスの先端部を拡大した拡大図である。
【
図4】先端傾斜角θと炭材粒子個数の増加率との関係を示すグラフである。
【
図5】水素系還元ガス流量(X1)/キャリアガス流量(X2)と炭材粒子個数の増加率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態の高炉(ベルレス式高炉)の概略図である。高炉1では、主原料として焼結鉱やペレットや塊鉱石などの鉄原料が用いられ、還元材としてコークス、微粉炭、水素系還元ガスが用いられる。鉄原料とコークスは高炉1の炉頂部から交互に層状に装入される。これにより、高炉1の炉内には、塊状帯、鉄原料が溶解して固体から液体に変わる融着帯、液体になった溶鉄や溶融スラグがコークス層を滴下する滴下帯などが形成される。
【0014】
本実施形態における高炉1は、羽口2と、環状管3と、ブローパイプ4と、高炉吹き込み用ランス5と、出銑口6等を備える。環状管3は高炉1の下部を包囲するように配設されている。ブローパイプ4は環状管3の周方向に間欠的に設けられるとともに、それぞれが異なる羽口2に接続されている。高炉吹き込み用ランス5は、各ブローパイプ4を挿通しており、各ブローパイプ4の内部には、高炉吹き込み用ランス5の先端部が延出している。出銑口6は、炉底にたまった溶銑を排出するために設けられている。上述の構成において、高炉吹き込み用ランス5は、微粉炭及び水素系還元ガスをブローパイプ4の内部に吹き込む。吹き込まれた微粉炭及び水素系還元ガスは、環状管3からブローパイプ4に送風された熱風と共に羽口2から高炉1内に吹き込まれる。
【0015】
熱風は例えば、熱風炉(不図示)で生成される。熱風炉には例えば、内部に珪石レンガを格子状に組んだ蓄熱室を含む円筒状の炉を用いることができる。熱風の温度を検出し、この検出結果に基づき、熱風炉における蓄熱量や空気の供給量を制御することにより、熱風の温度が調整される。以上の高炉1の設備構成は一例であり、本発明は、これらの構成に限定されるものではない。すなわち、本願発明は、例えば、ベル式高炉にも適用することができる。
【0016】
微粉炭は、吹き込む微粉炭の全量を100質量%としたとき、燃焼速度が大きい炭材を50質量%以上含む。つまり、本実施形態の高炉の操業方法では、羽口2から燃焼速度が大きい炭材をリッチに含む微粉炭を吹き込むことを操業条件としている。燃焼速度の定義は、以下の通りである。まず、炭材(質量10mg)を、赤外線ゴールドイメージ炉(例えば、Thermo plus EV02/TG-DTA8120(株式会社リガク製))を用いて空気流量200(ml/min)で流通させながら900(℃/min)の昇温速度にて常温から1000℃まで昇温し、昇温開始から炭材の質量変化が終了するまでの時間で炭材の質量(10mg)を除することによって、燃焼速度(mg/min)を求めることができる。なお、炭材の質量変化が終了する終了時点は、炭材質量の経時変化曲線の傾きが直線関係から逸脱した時点とする。
【0017】
また、本明細書において「燃焼速度が大きい炭材」とは、燃焼速度が3.0(mg/min)以上の炭材のことである。燃焼速度が3.0(mg/min)以上の炭材は、従来炭材と比べて燃焼しやすい。燃焼速度が3.0(mg/min)以上の炭材には、バイオマスや褐炭を乾留したチャーを用いることができる。バイオマスには、例えば、農業系(麦わら、サトウキビ、米糠、草木、椰子殻核等)のバイオマス、林業系(製紙廃棄物、製材廃材、除間伐材、薪炭林等)のバイオマス、畜産系(家畜廃棄物)のバイオマス、水産系(水産加工残滓)のバイオマス、廃棄物系(生ゴミ、RDF(ゴミ固形化燃料;Refused Derived Fuel)庭木、建設廃材、下水汚泥)のバイオマスなどを用いることができる。褐炭についても、産地などは特に限定しない。また、チャーとは、炭材を加熱した際に、軟化・溶融状態を得ないで生成する炭素質物質のことである(JIS0104 石炭利用技術用語参照)。
【0018】
なお、本実施形態において用いられる微粉炭の粒径は、特に限定するものではないが、例えば、75μm以下に設定することができる。
【0019】
高炉吹き込み用ランス5の構成について、
図2を参照しながら、詳細に説明する。
図2は、本実施形態の高炉吹き込み用ランスの先端部を拡大した拡大図である。高炉吹き込み用ランス5は、内管51及び外管52からなる二重管構造を呈しており、内管51から微粉炭が吹き込まれ、外管52(言い換えると、内管51及び外管52の間に形成された隙間)から水素系還元ガスが吹き込まれる。微粉炭を吹き込むためのキャリアガスとして、窒素ガスなどの不活性ガスを用いることができる。水素系還元ガスは、少なくとも元素として水素を含む還元ガスであり、天然ガス、COG、LPG、メタンガス等の水素含有ガスであってもよいし、水素ガスそのものであってもよい。
【0020】
内管51の先端面51Aは、切り欠き形状に形成されており、内管51及び外管52の長手方向軸5aに垂直な面に対してθ(以下、先端傾斜角θと称する)だけ傾斜している。先端傾斜角θの詳細については、後述する。外管52の先端面52Aは、長手方向軸5aに対して垂直であり、内管51のような切り欠き形状にはなっていない。ここで、内管51の先端面51Aにおける最先端部と、外管52の先端面52Aとの、長手方向軸5a方向における距離(離間距離)をWとしたとき、距離Wは以下の式(1)を満足する必要がある。
W≦tanθ×D・・・・・・・・・式(1)
ただし、Dは内管51の直径である。
図2は、内管51の最先端部と外管52の先端面が面一の状態(つまり、距離W=0)を図示するが、式(1)の範囲内で内管51は外管52から突き出していてもよいし(
図2の「突き出し位置」参照)、外管52の内側に退避していてもよい(
図2の「管路内位置」参照)。
【0021】
本発明者は、水素系還元ガスの吹込量に関する条件A、高炉吹き込み用ランス5の構造面に関する条件B、条件Cを同時に満足させることによって、炉体温度の過度な温度上昇を防止できることを発見した。
条件A:外管52を流れる水素系還元ガスの流量をX1、内管51を流れるキャリアガスの流量をX2としたとき、X1/X2≧0.5とする。
条件B:内管51の先端面51Aの先端傾斜角θを55度以上(90度未満)に設定する。
条件C:W≦tanθ×D
なお、条件Cについては、上述したので説明を繰り返さない。
【0022】
条件Cを満足することを前提条件として、条件A及び条件Bを同時に満足させることにより、内管51から吐出された微粉炭が密集して酸素に触れにくくなるため、燃焼焦点を炉内側にシフトさせることができる。これにより、炉体温度の過度な温度上昇を防止することができる。すなわち、先端傾斜角θを55度以上に設定することにより、内管51から吐出された微粉炭粒子を一旦は分散させることができる。そして、条件Aの吹込条件を満足することにより、分散した微粉炭粒子が水素系還元ガスによって包囲され分散できなくなり、逆に密集するため、炉内に吹き込まれるまで密集状態を維持することができる。つまり、一旦分散した微粉炭粒子がリング状に直進する水素系還元ガスに衝突して、リング中心側に跳ね返されるため、微粉炭粒子を密集させることができる。一方、先端傾斜角θが55度未満に低下すると、内管51から吐出された微粉炭粒子が分散せずに水素系還元ガスに衝突しにくくなるため、上述の密集効果を十分に発現させることができない。
【0023】
次に、実施例を示しながら本発明について具体的に説明する。
(試験1)
図3に示す高炉炉下部を模擬した試験装置を用いて、微粉炭として用いる炭材や水素系還元ガスの流量を種々変化させながら炉体温度変化率(%)を評価した。なお、炉体温度は、後述する温度センサ15によって測定した。基準条件一定で実験を行い、温度センサ15の変化がほとんど見られなくなった時の温度を、基準条件における炉体温度とした。次に、条件を変更して温度センサ15の測定値が変化しなくなるまで実験を継続し、変化しなくなったときの温度を測定した。両者の温度差を基準条件における炉体温度で除して、変化後の条件における炉体温度変化率とした。条件を変更して安定するまでに要する時間は、約3時間であった。
図3の試験炉10において、12は羽口であり、13は羽口12に熱風を供給するブローパイプであり、14は二重管構造の試験炉用ランス(以下、試験炉用二重管ランス14という)であり、15は温度センサである。なお、試験炉用二重管ランス14の本数は1本である。
【0024】
試験炉10は長さ1.2m、幅1.2m、高さ2.4mの竪型直方体とし、炉壁は鉄皮の内側に耐火レンガを張り付けた二層構造とした。温度センサ15には熱電対を使用し、この熱電対を羽口12の中心軸から600mm上方の炉体レンガと鉄皮との間に配置した。
【0025】
試験炉10には、粒径が9~13mmのコークスを充填した。熱風の送風温度を1200℃に設定し、送風量を0.8(m3/min)に設定した。微粉炭の吹き込み量は、典型的な実炉の吹込条件:200(kg/pig-ton)に一致させた。
なお、実高炉で用いられる微粉炭粒子(75μm以下)を使用した。
【0026】
表1に、本試験において微粉炭として使用した炭材の種類及び性状を示す。チャー1は褐炭を乾留して得られたチャーであり、チャー2はバイオマス(木材)を乾留して得られたチャーである。Ashは灰分であり、FCは固定炭素である。VMについては、上述したので説明を繰り返さない。
【表1】
【0027】
表2に、試験炉用二重管ランス14から吹き込まれる各炭材の吹込割合、先端傾斜角θ、水素系還元ガス及びキャリアガスの流量比(X1/X2)、炉体温度変化率、評価結果を示す。なお、各炭材の吹込割合は、各比較例及び実施例で吹き込まれる微粉炭の全量を100質量%としたときの質量分率で示した。各実施例及び比較例における炉体温度変化率は、参考例における炉体温度の上昇率を100%として算出した。炉体温度変化率が100%以下である場合には評価を「○」とし、炉体温度変化率が100%超である場合には評価を「×」とした。水素系還元ガスとして、コークス炉ガスの成分を模擬した水素を含む気体還元材(質量%で、H
2:約59%、CH
3:約29%、CO:約6%、N
2:約6%)を使用した。
【表2】
先端傾斜角θが0度に統一された参考例、比較例1及び比較例2を比較参照して、燃焼速度が3.0(mg/min)未満の半無煙炭Aの含有割合を100質量%から50質量%に減らして、燃焼速度が3.0(mg/min)以上のチャー1又はチャー2に振り替えることにより、炉体温度変化率(%)が高くなった。燃焼速度が3.0(mg/min)以上の炭材が含まれることによって、燃焼焦点が羽口近傍となり、炉体温度変化率(%)が増大したと考えられる。
【0028】
実施例1乃至4は、炉体温度変化率が参考例と同程度(100%)となり、評価が「○」となった。条件A及びBを満足させることにより、微粉炭を密集させる効果が発現して、燃焼焦点が炉内側にシフトしたものと推察される。また、実施例1,2と実施例5,6を比較して、X1/X2を1.0から0.5に下げても、炉体温度変化率(%)が参考例に対してほぼ同程度に維持されることがわかった。実施例5,6と比較例3,4を比較して、、X1/X2を0.5から0.4に低下させることにより、炉体温度変化率(%)が参考例に対して大幅に増大することがわかった。X1/X2が0.4に低下することにより、微粉炭の密集状態を維持する効果が低下して、燃焼焦点が羽口側にシフトしたものと推察される。
【0029】
(試験2)
先端傾斜角θを55度以上に設定することによって、炉体温度変化率が改善する理由を調べるために、先端傾斜角θを種々変更して、炭材粒子の密集度合いの増加率を求めた。炭材粒子の密集度合いの増加率は、所定領域内に存する炭材粒子個数の増加率(%)によって評価した。具体的には、汎用流体解析ソフト(FLUENT)を用いて高炉吹き込み用ランスからブローパイプ内に吹き込まれる粒子の運動状態を計算し、高炉吹き込み用ランスの先端から炉内方向に100mmの位置における、ブローパイプ内の炭材粒子のスナップショットを出力した。出力したスナップショットの結果から、ブローパイプ断面の中心点を中心とする円形領域(ブローパイプの断面積の6.25%に相当する領域)内の炭材粒子個数を集計した。炭材粒子には、実高炉に吹き込まれる微粉炭粒子(粒径:75μm以下)を使用した。なお、水素系還元ガス及びキャリアガスの流量比(X1/X2)は、1.2とした。
【0030】
この集計結果に基づいて、先端傾斜角θが0度のときの該円形領域内の炭材粒子個数を100%として、炭材粒子個数の増加率(%)を算出した。
図4は、算出結果を纏めたグラフである。同図を参照して、先端傾斜角θが大きくなるほど、炭材粒子個数の増加率(すなわち、炭材粒子の密集度合いの増加率)が上昇した。特に、先端傾斜角θを55度以上に設定した場合、炭材粒子の密集度合いの増加率が大幅に上昇した。すなわち、先端傾斜角θを55度以上に設定することにより、高炉吹き込み用ランスから吐出された微粉炭が十分に密集することがわかった。
【0031】
(試験3)
水素系還元ガスの吹込量が炭材の分散に与える影響を評価するために、水素系還元ガスの流量を変更して、炭材粒子の密集度合いの増加率を調べた。炭材粒子の密集度合いについては、試験2と同じ方法で算出した。先端傾斜角θは、55度に統一した。
図5のグラフは試験結果であり、水素系還元ガスの流量は実施形態で説明したX1/X2(水素系還元ガスの流量/微粉炭のキャリアガスの流量)で表している。
【0032】
同図に示すように、X1/X2が0.5に達すると、炭材粒子の密集度合いの増加率が急激に増大することがわかった。
【0033】
また、X1/X2=0.5の吹込条件にて、内管の先端面(以下、切断面という)の向きを「上」、「右」、「下」、「左」で変化させて炭材粒子の密集度合いの増加率を調べたところ、それぞれ「13.1%」、「13.5%」、「13.3%」、「12.9%」であった。切断面の向きによって、炭材粒子の密集度合いの増加率は殆ど変わらないことを確認した。なお、切断面の向きは、羽口を炉内側から視たときに切断面の切り口が向く方向を、時計回り方向に順に「上」、「右」、「下」、「左」と定義した。
【符号の説明】
【0034】
1:高炉 2:羽口 3:環状管 4:ブローパイプ 5:高炉吹き込み用ランス 6:出銑口
51:内管 52:外管