(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128276
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】粒子状製鉄原料の成分分析方法及び粒子状製鉄原料の成分分析装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/71 20060101AFI20230907BHJP
【FI】
G01N21/71
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032519
(22)【出願日】2022-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【弁理士】
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【弁理士】
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【弁理士】
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【弁理士】
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】辻 典宏
(72)【発明者】
【氏名】相本 道宏
(72)【発明者】
【氏名】夏井 琢哉
【テーマコード(参考)】
2G043
【Fターム(参考)】
2G043AA01
2G043BA02
2G043CA06
2G043EA10
2G043JA01
2G043KA09
(57)【要約】
【課題】粒子状製鉄原料の成分組成を、レーザ誘起ブレークダウン発光分光分析法を用いて精度よく測定すること。
【解決手段】本発明に係る粒子状製鉄原料の成分分析方法は、前記粒子状製鉄原料に対して、レーザパワー密度が2~20GW/cm
2のレーザ光を照射する前処理工程と、前記前処理工程においてレーザ光が照射された部位の少なくとも一部に対し、分析用のレーザ光を照射することで、レーザ誘起ブレークダウン発光分光分析による成分分析を行う成分分析工程と、を有する。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状製鉄原料の成分分析方法であって、
前記粒子状製鉄原料に対して、レーザパワー密度が2~20GW/cm2のレーザ光を照射する前処理工程と、
前記前処理工程においてレーザ光が照射された部位の少なくとも一部に対し、分析用のレーザ光を照射することで、レーザ誘起ブレークダウン発光分光分析による成分分析を行う成分分析工程と、
を有する、粒子状製鉄原料の成分分析方法。
【請求項2】
前記前処理工程は、前記粒子状製鉄原料にレーザ光を照射することで、前記粒子状製鉄原料の表面を焼き固めるとともに、前記粒子状製鉄原料から水分を除去する工程である、請求項1に記載の粒子状製鉄原料の成分分析方法。
【請求項3】
搬送設備の搬送面上に位置し、当該搬送設備により搬送されている前記粒子状製鉄原料を、分析対象とする、請求項1又は2に記載の粒子状製鉄原料の成分分析方法。
【請求項4】
前記前処理工程と、前記成分分析工程と、の間に、前記搬送面上に位置する前記粒子状製鉄原料の高さをレーザ光により測定する高さ測定工程を更に有し、
前記成分分析工程では、前記前処理工程においてレーザ光が照射され、かつ、前記高さ測定工程により高さの測定された前記粒子状製鉄原料を分析対象として、前記レーザ誘起ブレークダウン発光分光分析を行う、請求項3に記載の粒子状製鉄原料の成分分析方法。
【請求項5】
前記前処理工程では、前記成分分析工程で用いられる分析用のレーザよりも出射の繰り返しが大きいレーザを用いて、前記粒子状製鉄原料の表面を走査しつつレーザ光を照射する、請求項1~4の何れか1項に記載の粒子状製鉄原料の成分分析方法。
【請求項6】
前記成分分析工程では、前記前処理工程でレーザ光が照射された部位の少なくとも一部を分析対象とするように、レーザ光の照射タイミングが制御されている、請求項1~4の何れか1項に記載の粒子状製鉄原料の成分分析方法。
【請求項7】
前記前処理工程で用いられるレーザ光の照射面積は、前記成分分析工程で用いられる分析用のレーザ光の照射面積よりも大きい、請求項1~6の何れか1項に記載の粒子状製鉄原料の成分分析方法。
【請求項8】
前記粒子製鉄原料の大きさは、シングルミクロン~10mmである、請求項1~7の何れか1項に記載の粒子状製鉄原料の成分分析方法。
【請求項9】
前記粒子製鉄原料は、粉鉱石、製銑プロセスで発生するダストもしくはシュレッダーダスト、又は、地金類である、請求項1~8の何れか1項に記載の粒子状製鉄原料の成分分析方法。
【請求項10】
粒子状製鉄原料の成分分析装置であって、
粒子状製鉄原料粒子に対して、レーザパワーが2~20GW/cm2のレーザ光を照射する前処理用レーザ光源と、
前記前処理用レーザ光源からのレーザ光が照射された部位の少なくとも一部に対し、分析用のレーザ光を照射する分析用レーザ光源と、
前記分析用レーザ光源から照射されたレーザ光により誘起された発光を分光しながら検出する分光検出部と、
前記分光検出部による検出結果に基づき、前記粒子状製鉄原料の成分分析を行う成分分析部と、
を備える、粒子状製鉄原料の成分分析装置。
【請求項11】
搬送設備の搬送面上を搬送されている前記粒子状製鉄原料を分析するものであり、
前記分析用レーザ光源及び前記分光検出部は、前記前処理用レーザ光源の搬送方向下流側に位置する、請求項10に記載の粒子状製鉄原料の成分分析装置。
【請求項12】
前記搬送面上に位置する前記粒子状製鉄原料にレーザ光を照射する測距用レーザ光源を前記分析用レーザ光源よりも搬送方向上流に有し、前記粒子状製鉄原料の高さを測定する測距用ユニットと、
前記レーザ光源の駆動制御を少なくとも行う制御部と、
を更に備え、
前記制御部は、前記分析用レーザ光源の焦点位置を少なくとも制御し、
前記分析用レーザ光源は、前記前処理用レーザ光源からのレーザ光が照射され、かつ、前記測距用レーザ光源からのレーザ光が照射された部位の少なくとも一部に対して、分析用のレーザ光を照射する、請求項11に記載の粒子状製鉄原料の成分分析装置。
【請求項13】
前記粒子製鉄原料は、粉鉱石、製銑プロセスで発生するダストもしくはシュレッダーダスト、又は、地金類である、請求項10~12の何れか1項に記載の粒子状製鉄原料の成分分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子状製鉄原料の成分分析方法及び粒子状製鉄原料の成分分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ベルトコンベア等の搬送設備の搬送面上に位置する物体を、オンライン、かつ、リアルタイムで選別するための技術が各種提案されている。例えば以下の特許文献1には、LIBS(Laser Induced Breakdown Spectroscopy:レーザ誘起ブレークダウン発光分光分析)を用いて、ベルトコンベア上を搬送される破砕スクラップ片等の選別対象物を選別する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鉄鋼業における製銑プロセスでは、高炉操業に際して、高炉に装入される各種の製鉄原料(例えば、焼結鉱、返し鉱、高炉庫下粉等の塊状物)の分析が行われてきた。また、分析対象とする製鉄原料としては、上記のような塊状物だけでなく、塊として成立していないような微小な粒子状の製鉄原料も存在する。このような微小な粒子状の製鉄原料(以下、「粒子状製鉄原料」という。)は、シングルミクロン~10mm程度と、ミクロンオーダーからシングルミリ程度の大きさを有している。
【0005】
かかる分析は、例えば数時間ごとに製鉄原料をサンプリングし、得られた製鉄原料の元素組成を、蛍光X線分析法や化学分析法等により測定することが一般的である。このような製鉄原料の成分分析においても、ベルトコンベア等の搬送設備の搬送面上を搬送される製鉄原料を、製鉄原料の採取を行うことなくオンラインで実施できれば、高炉操業のより一層の効率化を図ることが可能になると期待される。
【0006】
製鉄原料の中でも上記のような粒子状製鉄原料のオンライン分析に対し、上記特許文献1に開示されているようなLIBSによる成分分析を適用することについて、本発明者らは、詳細な検討を行った。その結果、以下のようなことが明らかとなった。
【0007】
すなわち、上記のような粒子状製鉄原料は、焼結鉱、返し鉱、高炉庫下粉といった塊状物と比較すると、その表面積が大きい。そのため、分析用のレーザ光が粒子状製鉄原料に照射されても、レーザ光が有するエネルギーが粒子状製鉄原料の表面で吸収されてしまう。その結果、LIBSによる成分分析で着目するプラズマ発光が微弱となり、正確なLIBS分析が困難となることが判明した。
【0008】
更に、粒子状製鉄原料をはじめとする各種の製鉄原料は、貯蔵時や搬送時における粉塵対策の散水や、降雨によって、水分を含むことがある。水分を含有する試料をLIBSに供した場合、照射されるレーザ光から供給される、プラズマ生成に必要なエネルギーの少なくとも一部が、水分蒸発等に使われてしまう。そのため、試料からの発光が大幅に減衰する懸念がある。多変量解析等の手法を更に適用することで、水分の影響を一部補正できる可能性もあるが、発光強度が低下することに伴って分析精度も低下しているため、分析結果の信頼性も低下することが懸念される。
【0009】
以上のように、製銑プロセスに用いられる粒子状製鉄原料の成分組成をLIBSによりオンライン分析する場合には、従来から存在する技術をそのまま適用すればよいわけではなく、今般新たに見出された、上記のような粒子状製鉄原料に特有の懸念点を解消しなければならないことが判明した。
【0010】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、粒子状製鉄原料の成分組成を、レーザ誘起ブレークダウン発光分光分析法を用いて精度よく測定することが可能な、粒子状製鉄原料の成分分析方法及び粒子状製鉄原料の成分分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明者らが更なる検討を行った結果、LIBSによる測定とは別に、かかる測定の前段に、粒子状製鉄原料を焼き固めるとともに、粒子状製鉄原料から水分を除去する工程を別途設けることに想到した。このような工程として、様々な処理方法が考えうるが、オンライン分析を目的とした場合には、LIBSによる測定位置の近傍に、粒子状製鉄原料の表面を焼き固めるとともに水分を迅速に除去可能な工程を別途設けることが望まれる。かかる観点から、本発明者らは、レーザ光を用いて表面を焼き固めつつ水分を除去することに想到し、本発明を完成するに至った。
かかる知見に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
【0012】
(1)粒子状製鉄原料の成分分析方法であって、前記粒子状製鉄原料に対して、レーザパワー密度が2~20GW/cm2のレーザ光を照射する前処理工程と、前記前処理工程においてレーザ光が照射された部位の少なくとも一部に対し、分析用のレーザ光を照射することで、レーザ誘起ブレークダウン発光分光分析による成分分析を行う成分分析工程と、を有する、粒子状製鉄原料の成分分析方法。
(2)前記前処理工程は、前記粒子状製鉄原料にレーザ光を照射することで、前記粒子状製鉄原料の表面を焼き固めるとともに、前記粒子状製鉄原料から水分を除去する工程である、(1)に記載の粒子状製鉄原料の成分分析方法。
(3)搬送設備の搬送面上に位置し、当該搬送設備により搬送されている前記粒子状製鉄原料を、分析対象とする、(1)又は(2)に記載の粒子状製鉄原料の成分分析方法。
(4)前記前処理工程と、前記成分分析工程と、の間に、前記搬送面上に位置する前記粒子状製鉄原料の高さをレーザ光により測定する高さ測定工程を更に有し、前記成分分析工程では、前記前処理工程においてレーザ光が照射され、かつ、前記高さ測定工程により高さの測定された前記粒子状製鉄原料を分析対象として、前記レーザ誘起ブレークダウン発光分光分析を行う、(3)に記載の粒子状製鉄原料の成分分析方法。
(5)前記前処理工程では、前記成分分析工程で用いられる分析用のレーザよりも出射の繰り返しが大きいレーザを用いて、前記粒子状製鉄原料の表面を走査しつつレーザ光を照射する、(1)~(4)の何れか1つに記載の粒子状製鉄原料の成分分析方法。
(6)前記成分分析工程では、前記前処理工程でレーザ光が照射された部位の少なくとも一部を分析対象とするように、レーザ光の照射タイミングが制御されている、(1)~(4)の何れか1つに記載の粒子状製鉄原料の成分分析方法。
(7)前記前処理工程で用いられるレーザ光の照射面積は、前記成分分析工程で用いられる分析用のレーザ光の照射面積よりも大きい、(1)~(6)の何れか1つに記載の粒子状製鉄原料の成分分析方法。
(8)前記粒子製鉄原料の大きさは、シングルミクロン~10mmである、(1)~(7)の何れか1つに記載の粒子状製鉄原料の成分分析方法。
(9)前記粒子製鉄原料は、粉鉱石、製銑プロセスで発生するダストもしくはシュレッダーダスト、又は、地金類である、(1)~(8)の何れか1つに記載の粒子状製鉄原料の成分分析方法。
(10)粒子状製鉄原料の成分分析装置であって、粒子状製鉄原料粒子に対して、レーザパワーが2~20GW/cm2のレーザ光を照射する前処理用レーザ光源と、前記前処理用レーザ光源からのレーザ光が照射された部位の少なくとも一部に対し、分析用のレーザ光を照射する分析用レーザ光源と、前記分析用レーザ光源から照射されたレーザ光により誘起された発光を分光しながら検出する分光検出部と、前記分光検出部による検出結果に基づき、前記粒子状製鉄原料の成分分析を行う成分分析部と、を備える、粒子状製鉄原料の成分分析装置。
(11)搬送設備の搬送面上を搬送されている前記粒子状製鉄原料を分析するものであり、前記分析用レーザ光源及び前記分光検出部は、前記前処理用レーザ光源の搬送方向下流側に位置する、(10)に記載の粒子状製鉄原料の成分分析装置。
(12)前記搬送面上に位置する前記粒子状製鉄原料にレーザ光を照射する測距用レーザ光源を前記分析用レーザ光源よりも搬送方向上流に有し、前記粒子状製鉄原料の高さを測定する測距用ユニットと、前記レーザ光源の駆動制御を少なくとも行う制御部と、を更に備え、前記制御部は、前記分析用レーザ光源の焦点位置を少なくとも制御し、前記分析用レーザ光源は、前記前処理用レーザ光源からのレーザ光が照射され、かつ、前記測距用レーザ光源からのレーザ光が照射された部位の少なくとも一部に対して、分析用のレーザ光を照射する、(11)に記載の粒子状製鉄原料の成分分析装置。
(13)前記粒子製鉄原料は、粉鉱石、製銑プロセスで発生するダストもしくはシュレッダーダスト、又は、地金類である、(10)~(12)の何れか1つに記載の粒子状製鉄原料の成分分析装置。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように本発明によれば、粒子状製鉄原料の成分組成を、レーザ誘起ブレークダウン発光分光分析法を用いて精度よく測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】本発明の実施形態に係る粒子状製鉄原料の成分分析方法の流れの一例を示した流れ図である。
【
図1B】同実施形態に係る粒子状製鉄原料の成分分析方法の流れの一例を示した流れ図である。
【
図2】同実施形態に係る粒子状製鉄原料の成分分析装置の構成の一例を模式的に示した説明図である。
【
図3】同実施形態に係る粒子状製鉄原料の成分分析装置における各レーザ光の照射方法の一例を説明するための説明図である。
【
図4A】同実施形態に係る粒子状製鉄原料の成分分析装置における各レーザ光の照射方法の一例を説明するための説明図である。
【
図4B】同実施形態に係る粒子状製鉄原料の成分分析装置における各レーザ光の照射方法の一例を説明するための説明図である。
【
図5】同実施形態に係る粒子状製鉄原料の成分分析装置が有する演算処理装置の構成の一例を示したブロック図である。
【
図6】同実施形態に係る演算処理装置が有する演算処理部の構成の一例を示したブロック図である。
【
図7】同実施形態に係る演算処理装置のハードウェア構成の一例を示したブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0016】
(粒子状製鉄原料の成分分析方法の流れについて)
以下では、
図1A及び
図1Bを参照しながら、本発明の実施形態に係る粒子状製鉄原料の成分分析方法(以下、「成分分析方法」と略記することがある。)の流れについて、説明する。
【0017】
本実施形態に係る成分分析方法において着目する分析対象物は、鉄鋼業における製銑プロセスで用いられる各種の製鉄原料のうち、塊として存在しておらずに、シングルミクロン~10mm程度(例えば、5μm~10mm程度)の大きさの粒子状態で存在しているものである。このような粒子状製鉄原料として、例えば、粉鉱石、製銑プロセスで発生するダスト又はシュレッダーダスト、地金類等を挙げることができる。
【0018】
以下では、かかる粒子状製鉄原料の一例として、粉鉱石に着目し、詳細な説明を行うものとする。
【0019】
なお、以下で詳述する本実施形態に係る成分分析方法は、オンライン成分分析に適用可能な方法であるが、オフライン成分分析や、バッチ式の成分分析に対しても適用が可能である。また、オンライン分析では、連続的にLIBSによる分析を実施することで、搬送される粉鉱石の成分を、逐次分析することが可能となるため、好ましい。
【0020】
図1Aに示したように、本実施形態に係る成分分析方法は、前処理工程S11と、成分分析工程S15と、を有している。また、
図1Bに示したように、本実施形態に係る成分分析方法は、前処理工程S11と、成分分析工程S15と、の間に、更に、高さ測定工程S13を有していることが好ましい。以下、これらの工程について、詳細に説明する。
【0021】
ここで、本実施形態に係る成分分析方法で着目する粒子状製鉄原料の一例である粉鉱石は、例えば、ベルトコンベア等の搬送設備の搬送面上に位置し、かかる搬送設備により搬送されている粉鉱石である。かかる粉鉱石は、粒子の大きさが小さいために表面積が大きくなる結果、LIBS分析用に照射されるレーザ光のエネルギーを吸収してしまい、プラズマ発光が微弱となって正確なLIBS分析が困難となる。また、かかる粉鉱石は、水分を含有している可能性もある。そこで、本実施形態に係る成分分析方法では、LIBSに先立って、以下で説明するような前処理工程を実施する。
【0022】
すなわち、本実施形態に係る前処理工程S11は、粒子状製鉄原料の一例である粉鉱石に対し、特定のレーザパワー密度を有するレーザ光を照射する工程である。これにより、粉鉱石の少なくとも表面を焼き固めるとともに、粉鉱石から水分を除去する。換言すれば、前処理工程S11は、いわゆるレーザアブレーション(Laser Ablation)により、粉鉱石のすくなくとも表面を焼き固めるとともに、粉鉱石から水分を除去する工程である。かかる前処理工程S11により、少なくとも分析対象となる部位について粉鉱石の表面を焼き固めて、表面積を低減させるとともに、焼き固められた表面から水分を除去することができる。焼き固めることで表面積を低減させ、更に水分が除去されることで、照射されるレーザ光のエネルギーのうち、プラズマ発光に寄与しないエネルギー消費を抑制することが可能となる。その結果、本実施形態に係る成分分析方法では、粉鉱石の成分組成を、LIBSを用いて精度よく測定することが可能となる。
【0023】
また、前処理工程S11の後段に行われることが好ましい高さ測定工程S13は、ベルトコンベア等の搬送設備の搬送面上に位置する粉鉱石の高さ(搬送面からの高さ)を、レーザ光により測定する工程である。これにより、分析対象とする粉鉱石の高さ(焼き固められた部位の高さ)を特定することが可能となり、後段の成分分析工程S15において、分析に用いるレーザ光を着目する粉鉱石の表面に十分に集光することが可能となる。その結果、本実施形態に係る成分分析方法では、粉鉱石の成分組成を、LIBSを用いてより一層精度よく測定することが可能となる。
【0024】
また、成分分析工程S15は、前処理工程においてレーザ光が照射された部位の少なくとも一部に対し、分析用のレーザ光を照射することで、LIBSによる成分分析を行う工程である。前処理工程においてレーザ光が照射された部位は、いわゆるレーザアブレーションにより焼き固められて表面積が低減され、かつ、水分が除去された状態となっている。そのため、かかる部位を分析対象領域としてLIBSを実施することで、着目する粉鉱石の成分組成を、精度よく測定することが可能となる。
【0025】
以下では、上記のような各工程について、成分分析方法に用いる成分分析装置を説明しながら、より詳細に説明する。
【0026】
(粒子状製鉄原料の成分分析装置について)
以下では、
図2~
図6を参照しながら、本実施形態に係る粒子状製鉄原料の成分分析方法に用いられる成分分析装置について、詳細に説明する。なお、以下では、本実施形態に係る粒子状製鉄原料の成分分析方法が高さ測定工程を有する場合に利用可能な成分分析装置に着目する。以下においても、かかる粒子状製鉄原料の一例として、粉鉱石に着目し、詳細な説明を行うものとする。
【0027】
<粒子状製鉄原料の成分分析装置の全体構成>
まず、
図2を参照しながら、本実施形態に係る成分分析方法に利用可能な、粒子状製鉄原料の成分分析装置(以下、「成分分析装置」と略記することがある。)の全体構成について説明する。
図2は、本実施形態に係る粒子状製鉄原料の成分分析装置の構成の一例を模式的に示した説明図である。なお、以下の説明では、便宜的に、
図2に示したような座標系を参照しながら説明を行うことがある。
【0028】
図2に模式的に示したように、本実施形態に係る成分分析装置1は、ベルトコンベア等の搬送設備の搬送面上に存在する粉鉱石を分析対象とする装置である。ここで、本実施形態において、分析対象である粉鉱石は、所定の搬送速度(例えば、2~10m/s程度)で所定の搬送方向(
図2の場合、Z軸正方向)に搬送されているものとする。なお、
図2では、粉鉱石を便宜的に球状の粒子として図示しているが、分析対象とする粉鉱石の形状は特に規定されるものではなく、任意の形状を有している。
【0029】
本実施形態に係る成分分析装置1は、前処理用レーザ光源10と、分析用レーザ光源30と、分光検出部40と、演算処理装置50と、を少なくとも有している。また、本実施形態に係る成分分析装置1は、上記構成に加え、更に、測距用ユニット20を有していることが好ましい。
【0030】
[前処理用レーザ光源10]
本実施形態に係る前処理用レーザ光源10は、先だって説明したような前処理工程S11のために設けられるレーザ光源である。この前処理用レーザ光源10は、例えば演算処理装置50による制御のもとで、粉鉱石に対して、所定のレーザパワー密度を有するレーザ光を照射して、粉鉱石の少なくとも表面を焼き固めるとともに、粉鉱石から水分を除去する。
【0031】
ここで、
図2では、前処理用レーザ光源10が、搬送面の上方に設けられる場合を例に挙げて図示しているが、前処理用レーザ光源10の設置位置は、
図2に示した例に限定されるものではない。前処理用レーザ光源10は、後述する分析用レーザ光源30よりも搬送方向上流側に、前処理用レーザ光を照射可能な位置であれば、任意の位置に設置することが可能である。また、前処理用レーザ光源10から照射された前処理用レーザ光は、例えば各種のレンズやミラー等の光学素子(図示せず。)を用いて、所望の位置へと導光されてもよい。
【0032】
ただし、除去された水分が焼結鉱の表面に再付着することを防止するために、前処理用レーザ光の照射位置と、後段の分析用レーザ光源30から照射される分析用レーザ光の照射位置と、の間の距離(例えば
図2におけるZ軸方向の距離)は、搬送設備の搬送速度やレーザアブレーションに要する時間等に応じて設定することが好ましい。例えば、前処理用レーザ光の照射位置と、分析用レーザ光の照射位置と、の間の距離は、50cm程度とすることが好ましい。
【0033】
ここで、前処理用レーザ光源10として用いられる具体的なレーザ光源の種類や前処理用レーザ光の波長については、特に限定されるものではなく、レーザアブレーションに利用可能なものであれば、任意のものを利用することが可能である。このようなレーザ光源として、例えば、ルビーレーザ、Tiサファイヤレーザ、YAGレーザ等の固体レーザや、CO2ガスレーザ、Arイオンレーザ、He-Neイオンレーザ、エキシマレーザ等の気体レーザや、各種の半導体レーザや、ファイバレーザ等を挙げることができる。また、前処理用レーザ光源10は、CWレーザ光源であってもよいし、パルスレーザ光源であってもよい。ただし、レーザアブレーションでは、なるべく高いエネルギーを有するレーザ光を照射することが好ましいため、例えばYAGレーザのような、単位面積当たりのエネルギーが強いレーザ光を発振可能な高周期パルスレーザ光源を用いることが好ましい。
【0034】
なお、粉鉱石をはじめとする粒子状製鉄原料では、一般的に2~10%程度の水分を含有していることが多い。かかる水分含有量や粉鉱石の成分組成等を考慮して、前処理用レーザ光源10から照射される前処理用レーザ光の粉鉱石分析面におけるレーザパワー密度は、2~20GW/cm2の範囲内とする。レーザパワー密度を2GW/cm2以上とすることで、粉鉱石をはじめとする各種の粒子状製鉄原料の少なくとも表面をより十分に焼き固めることが可能となる。一方、レーザパワー密度を20GW/cm2以下とすることで、粉鉱石の成分の一部が消失したり変性したりすることを防止しながら、正確なLIBS分析を実施することが可能となる。前処理用レーザ光源10から照射される前処理用レーザ光の粉鉱石分析面におけるレーザパワー密度は、好ましくは、3~10GW/cm2である。レーザパワー密度を3~10GW/cm2の範囲内とすることで、粒子状製鉄原料の少なくとも表面を確実に焼き固めつつ、より精度の高いLIBS分析を実施することが可能となる。なお、粒子状製鉄原料に照射するレーザ光のレーザパワー密度は、成分の消失や変質が生じずに、LIBS分析に適した表面となるような程度の値を事前に検証した上で、決定しておくことが好ましい。
【0035】
また、分析用レーザの照射面積よりも広い領域を前処理することが重要である。例えば、前処理用レーザ光を、0.5cm×0.5cm以上の面積に対して照射すればよい。更に、前処理用レーザ光源10が1台しか設置できない場合には、分析用レーザ光よりも多い繰り返し周波数で粉鉱石の表面をスキャンして、前処理すればよい。例えば、前処理用レーザ光を、分析用レーザの10倍以上の繰り返し周波数でスキャンすることが好ましい。
【0036】
本実施形態に係る前処理工程では、
図2中に破線でしめしたように、少なくとも成分分析工程において分析対象となる部分について、表面が焼き固められ、かつ、水分が除去されればよく、着目する粉鉱石全体について、表面を焼き固め、かつ、水分を除去しなくともよい。そのため、上記のようなレーザパワー密度の範囲内で前処理用レーザ光を照射することで、少なくとも成分分析工程において分析対象となる部分については、表面を焼き固め、かつ、水分を除去することが可能となる。
【0037】
[測距用ユニット20]
測距用ユニット20は、先だって説明したような高さ測定工程S13のために設けられるユニットであり、搬送方向に沿って、前処理用レーザ光源10と、分析用レーザ光源30との間に設けられる。この測距用ユニット20は、搬送面上に位置する粉鉱石にレーザ光を照射する測距用レーザ光源を有している。測距用ユニット20は、例えば演算処理装置50による制御のもとで、測距用レーザ光源から測距用レーザ光を照射して、焼き固められた状態にある粉鉱石の高さを測定する。
【0038】
かかる測距用ユニット20は、焼き固められた状態にある粉鉱石の搬送面からの高さを直接測定するものであってもよいし、レーザ光の射出面と粉鉱石との間の距離を測定し、ユニットの設置位置に関する幾何学的な関係から焼き固められた状態にある粉鉱石の高さを特定するものであってもよい。
【0039】
なお、測距用ユニット20が焼き固められた状態にある粉鉱石の高さを測定する具体的な方式については、特に限定されるものではなく、公知の各種の方式を適宜採用することが可能である。また、測距用ユニット20として、市販の各種のレーザ距離計を用いることも可能である。
【0040】
なお、測距用ユニット20を設ける場合、測距用ユニット20により測定された、焼き固められた状態にある粉鉱石の高さを利用して、後段の分析用レーザ光源30から照射される分析用レーザ光の焦点を制御する。そのため、搬送面上における測距用レーザ光の照射位置(詳細には、
図2のX軸方向の座標)と、分析用レーザ光の照射位置(
図2のX軸方向の座標)とが一致するように、測距用レーザ光及び分析用レーザ光の照射位置を調整することが好ましい。
【0041】
[分析用レーザ光源30]
分析用レーザ光源30は、先だって説明したような成分分析工程S15のために設けられるレーザ光源である。この分析用レーザ光源30は、例えば演算処理装置50による制御のもとで、前処理用レーザ光源10からのレーザ光が照射された部位の少なくとも一部(測距用ユニット20が設けられる場合には、前処理用レーザ光源10からのレーザ光が照射され、かつ、測距用レーザ光源からのレーザ光が照射された部位の少なくとも一部)に対し、分析用のレーザ光を照射する。これにより、分析用レーザ光が照射された、や北固められた状態にある粉鉱石の表面がスパッタされてガス化し、かかるガスに由来する発光が生じる。LIBSでは、かかる発光を検出することで、粉鉱石の成分組成についての分析が行われる。特に、LIBSの場合、分析用レーザ光によって発生したガスがプラズマ状態となり、かかるプラズマから発生する光を分析することで、粉鉱石の成分組成を特定することが可能となる。
【0042】
ここで、分析用レーザ光源30には、分析用レーザ光の光路長や焦点位置を調整可能なように、各種のレンズやミラー等の光学素子(図示せず。)が設けられていることが好ましい。
【0043】
また、
図2では、分析用レーザ光源30が、搬送面の上方に設けられる場合を例に挙げて図示しているが、分析用レーザ光源30の設置位置は、
図2に示した例に限定されるものではなく、前処理用レーザ光源10や測距用レーザ光源よりも搬送方向下流側に、分析用レーザ光を照射可能な位置であれば、任意の位置に設置することが可能である。
【0044】
分析用レーザ光源30として用いられる具体的なレーザ光源の種類や分析用レーザ光の波長については、特に限定されるものではなく、LIBSに利用可能なものであれば、任意のものを利用することが可能である。このようなレーザ光源として、例えば、ルビーレーザ、Tiサファイヤレーザ、YAGレーザ等の固体レーザや、CO2ガスレーザ、Arイオンレーザ、He-Neイオンレーザ、エキシマレーザ等の気体レーザや、各種の半導体レーザや、ファイバレーザ等を挙げることができる。また、分析用レーザ光源30は、CWレーザ光源であってもよいが、粉鉱石に由来する成分からの発光をより一層生じさせるために、パルスレーザ光源を用いることが好ましい。このようなパルスレーザ光源として、例えばYAGレーザを挙げることができる。
【0045】
また、分析用レーザ光源30の照射面積、繰り返し周波数、パルス幅、パルスエネルギー、集光条件等については、分析対象とする粉鉱石の大まかな成分組成や、搬送速度等に応じて適宜設定すればよい。例えば、照射面積は100μm~1mmφ、繰り返し周波数は10~100Hz、パルス幅は1~20nsが好ましい。パルスエネルギーについては、1mJ以上とすることが好ましく、10mJ以上であることがより好ましい。また、例えば、焦点距離500~1000mmのレンズ等の集光光学素子により、分析対象の分析点において1~10GW/cm2のレーザパワー密度が実現されることが好ましい。
【0046】
[各レーザ光の照射位置等について]
ここで、上記のような光源から射出される各レーザ光の照射位置や照射タイミングについて、
図3~
図4Bを参照しながら説明する。
図3~
図4Bは、本実施形態に係る粒子状製鉄原料の成分分析装置における各レーザ光の照射方法の一例を説明するための説明図である。
【0047】
図3~
図4Bは、搬送設備の搬送面を上方(各図におけるY軸正方向側)から見た場合の各レーザ光の照射位置を模式的に示したものである。
本実施形態に係る成分分析装置及び成分分析方法において、LIBSによる粉鉱石の成分分析の精度を向上させるためには、少なくとも表面が焼き固められており、かつ、水分が除去されている粉鉱石を、成分分析の分析対象とすることが重要である。そのため、前処理が施された領域の少なくとも一部が、成分分析工程における分析対象領域となる(換言すれば、成分分析工程における分析対象領域の大きさが、前処理が施された領域の大きさを超えないこと)が重要である。
【0048】
ここで、
図3に模式的に示したように、測距用ユニット20の測距用レーザ光源から照射された測距用レーザ光の照射位置と、分析用レーザ光源30から照射された分析用レーザ光の照射位置が、搬送面の幅方向の中心軸上に位置しているものとする。この場合に、上記のような条件を満足させるために、前処理工程において、前処理用レーザ光源10は、分析用レーザ光の照射領域よりも広くなるように粉鉱石の表面を走査しながら、前処理用レーザ光を照射してもよい。この際、前処理用レーザ光源10として、分析用レーザ光源30よりも出射の繰り返しが大きいレーザを用いることで、前処理が施される領域の大きさを所望の状態とすることが容易となる。
【0049】
ここで、
図3では、前処理用レーザ光が、図中に示したX軸に対して平行となるようにジグザグに走査される場合を図示しているが、前処理用レーザ光の走査方法は、
図3に示した例に限定されるものではなく、任意の走査方法を採用することが可能である。
【0050】
また、前処理用レーザ光を走査しない場合であっても、例えば
図4Aに示したように、所望のレーザパワー密度は満たしながら、前処理用レーザ光の照射面積が分析用レーザ光の照射面積よりも大きくなるように、前処理用レーザ光の集光状態を調整してもよい。また、
図4Bに示したように、シリンドリカルレンズ等の光学素子を用いて前処理用レーザ光をカラム状の光とすることで、所望のレーザパワー密度は満たしながら、前処理用レーザ光の照射面積が分析用レーザ光の照射面積よりも大きくなるようにしてもよい。
【0051】
また、
図3~
図4Bに示したような各レーザ光の照射制御の際に、前処理工程でレーザ光が照射された部位の少なくとも一部が分析対象領域となるように、分析用レーザ光の照射タイミングが制御されていることが好ましい。このような照射タイミングの制御により、前処理が施された領域の大きさが成分分析工程における分析対象領域よりも大きくなるような状態を実現することが容易となる。
【0052】
また、測距用ユニット20と分析用レーザ光源30との間の距離(より詳細には、搬送方向(Z軸方向)の離隔距離)は、2m以下であることが好ましい。かかる距離が2m以下であると、搬送面上の粉鉱石が搬送に伴う振動で動いていても、測定高さの変動をより少なくすることができる。
【0053】
[分光検出部40]
再び
図2に戻って、本実施形態に係る成分分析装置1の分光検出部40について説明する。
本実施形態に係る分光検出部40は、演算処理装置50による制御のもとで、分析用レーザ光源30から照射された分析用レーザ光によって発生した光を、分光しながら検出する。これにより、分析用レーザ光に起因する発光が、どのような波長の光をどの程度の強さで含んでいるのか、を検出することが可能となり、各波長における光の強度を電気信号化することができる。
【0054】
このような分光検出部40については、特に限定されるものではなく、着目する発光の波長範囲や強度に応じて、公知の各種の分光器等を適宜選択すればよい。このような分光器として、例えば、Avantes社製AvanSpec-ULS2048CL-EVO等を挙げることができる。
【0055】
[演算処理装置50]
本実施形態に係る演算処理装置50は、前処理用レーザ光源10、測距用ユニット20、分析用レーザ光源30、及び、分光検出部40の動作状態を統括的に制御する。また、演算処理装置50は、分光検出部40から出力された、粉鉱石から発生した発光に関する測定データ(各波長の発光強度に関するデータ)を取得し、かかる測定データに基づき、粉鉱石の成分組成を、LIBSにより分析する。これにより、本実施形態に係る成分分析装置1の使用者は、着目する粉鉱石の成分を把握することが可能となる。
【0056】
ここで、演算処理装置50の詳細な構成については、以下で改めて説明する。
【0057】
<演算処理装置50の詳細な構成について>
続いて、
図5及び
図6を参照しながら、本実施形態に係る成分分析装置1が備える演算処理装置50の詳細な構成について説明する。
図5は、本実施形態に係る粒子状製鉄原料の成分分析装置が有する演算処理装置の構成の一例を示したブロック図であり、
図6は、本実施形態に係る演算処理装置が有する演算処理部の構成の一例を示したブロック図である。
【0058】
図5に示したように、本実施形態に係る演算処理装置50は、レーザ光源の駆動制御を少なくとも行う制御部の一例としての測定制御部501と、演算処理部503と、結果出力部505と、表示制御部507と、記憶部509と、を主に有している。
【0059】
測定制御部501は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等により実現される。測定制御部501は、前処理用レーザ光源10、測距用ユニット20、分析用レーザ光源30、及び、分光検出部40の動作状態を、統括的に制御する。
【0060】
これにより、測定制御部501は、前処理用レーザ光源10、測距用レーザ光源(図示せず。)、分析用レーザ光源30の各レーザ光源から照射されるレーザ光の照射条件(例えば、照射タイミング、レーザパワー、焦点制御等)を所望の状態とすることができる。また、測定制御部501は、測距用ユニット20の全体的な動作状態を制御して、着目する粉鉱石の高さを特定することが可能となる。その結果、測定制御部501は、各レーザ光源の動作を同期させたり、測距ユニット20による粉鉱石の高さの測定結果に基づいて、分析用レーザ光の焦点位置や照射位置を所望の状態に調整したりすることが可能となる。
【0061】
また、測定制御部501は、分光検出部40の動作状態(例えば、検出開始/終了タイミングや、露光時間等)を所望の状態とすることができる。これにより、着目する粉鉱石からの発光を確実に検出することが可能となる。
【0062】
演算処理部503は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。演算処理部503は、LIBSを用いて、分光検出部40から出力された測定データに基づき、成分分析処理を実施する。これにより、着目する粉鉱石の成分組成を把握することが可能となる。
【0063】
かかる演算処理部503の詳細な構成については、以下で改めて説明する。
【0064】
結果出力部505は、例えば、CPU、ROM、RAM、出力装置、通信装置等により実現される。結果出力部505は、演算処理部503から出力された、着目する焼結体の成分組成に関する情報を、成分分析装置1のユーザに出力する。具体的には、結果出力部505は、演算処理部503から出力された成分組成の分析結果に関するデータを、当該データが生成された日時等に関する時刻データと関連付けて、各種サーバや制御装置に出力したり、プリンタ等の出力装置を利用して紙媒体として出力したりする。また、結果出力部505は、分析結果に関するデータを、外部に設けられたコンピュータ等の各種の情報処理装置や各種の記録媒体に出力してもよい。
【0065】
また、結果出力部505は、演算処理部503による分析結果に関するデータを、後述する表示制御部507に出力することができる。
【0066】
表示制御部507は、例えば、CPU、ROM、RAM、出力装置、通信装置等により実現される。表示制御部507は、結果出力部505から出力された分析結果を、成分分析装置1が備えるディスプレイ等の出力装置や成分分析装置1の外部に設けられた出力装置等に表示する際の表示制御を行う。これにより、成分分析装置1のユーザは、着目する粉鉱石の成分組成についての分析結果を、その場で把握することが可能となる。
【0067】
記憶部509は、成分分析装置1が備える記憶装置の一例であり、例えば、ROM、RAM、ストレージ装置等により実現される。この記憶部509には、本実施形態に係る成分分析装置1が何らかの処理を行う際に保存する必要が生じた様々なパラメータや処理の途中経過(例えば、事前に格納されている各種のデータやデータベース、及び、プログラム等)が、適宜記録される。この記憶部509は、測定制御部501、演算処理部503、結果出力部505、表示制御部507等が、自由にデータのリード/ライト処理を行うことが可能である。
【0068】
[演算処理部503の構成について]
次に、
図6を参照しながら、演算処理装置50が有する演算処理部503の構成について、詳細に説明する。
本実施形態に係る演算処理部503は、
図6に示したように、データ取得部511と、成分分析部513と、を有する。
【0069】
データ取得部511は、例えば、CPU、ROM、RAM、入力装置、通信装置等により実現される。データ取得部511は、分光検出部40から出力された、分析用レーザ光の照射に起因する発光の分光測定データを取得する。データ取得部511が取得する測定データは、着目している波長帯域について、各波長における信号強度(発光強度)がいくつであるかを示したデータ(換言すれば、発光のスペクトルに関するデータ)である。データ取得部511は、かかる測定データを取得すると、取得した測定データを、後述する成分分析部513へと出力する。また、データ取得部511は、取得した測定データを、当該データを取得した日時に関する時刻情報と関連付けた上で、履歴情報として記憶部509に格納してもよい。
【0070】
成分分析部513は、例えば、CPU、ROM、RAM等により実現される。成分分析部513は、分光検出部40による検出結果(すなわち、測定データ)に基づき、LIBSによる粉鉱石の成分分析を行う。具体的には、成分分析部513は、測定データを参照して、どの波長にどの程度の強度の光が検出されたのかを特定する。その上で、成分分析部513は、記憶部509等に格納されているデータベースを参照して、着目する波長の光が、粉鉱石のどのような成分に由来するものであるかを特定する。これにより、着目する粉鉱石に含有される成分を特定することができる。
【0071】
また、成分分析部513は、得られた測定データに含まれる発光強度に関するデータから、特定された成分の含有量(濃度)を特定することが可能である。かかる含有量は、上記のようにして特定された各成分の発光強度から、相対的な含有量として算出されたものであってもよい。また、粉鉱石に多く含まれる成分(例えば、Fe2O3、CaCO3、AlOOH、SiO2等)について、標準試薬を用いて、発光強度と含有量の関係を示す検量線を事前に作成しておき、得られた発光強度から各成分の含有量を算出してもよい。
【0072】
成分分析部513は、上記のようにして粉鉱石に含有されている具体的な成分とその含有量を特定すると、得られた結果を、分析結果として結果出力部505へと出力する。また、成分分析部513は、取得した分析結果に関するデータを、当該データを取得した日時に関する時刻情報と関連付けた上で、履歴情報として記憶部509に格納してもよい。
【0073】
以上、
図5及び
図6を参照しながら、本実施形態に係る演算処理装置50の構成の一例について、詳細に説明した。
【0074】
以上、本実施形態に係る演算処理装置50の機能の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材や回路を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。また、各構成要素の機能を、CPU等が全て行ってもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用する構成を変更することが可能である。
【0075】
なお、上述のような本実施形態に係る演算処理装置の各機能を実現するためのコンピュータプログラムを作製し、パーソナルコンピュータ等に実装することが可能である。また、このようなコンピュータプログラムが格納された、コンピュータで読み取り可能な記録媒体も提供することができる。記録媒体は、例えば、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、フラッシュメモリなどである。また、上記のコンピュータプログラムは、記録媒体を用いずに、例えばネットワークを介して配信してもよい。
【0076】
(演算処理装置50のハードウェア構成について)
次に、
図7を参照しながら、本発明の実施形態に係る演算処理装置50のハードウェア構成について、詳細に説明する。
図7は、本発明の実施形態に係る演算処理装置50のハードウェア構成を説明するためのブロック図である。
【0077】
演算処理装置50は、主に、CPU901と、ROM903と、RAM905と、を備える。また、演算処理装置50は、更に、バス907と、入力装置909と、出力装置911と、ストレージ装置913と、ドライブ915と、接続ポート917と、通信装置919とを備える。
【0078】
CPU901は、中心的な処理装置及び制御装置として機能し、ROM903、RAM905、ストレージ装置913、又はリムーバブル記録媒体921に記録された各種プログラムに従って、演算処理装置50内の動作全般又はその一部を制御する。ROM903は、CPU901が使用するプログラムや演算パラメータ等を記憶する。RAM905は、CPU901が使用するプログラムや、プログラムの実行において適宜変化するパラメータ等を一次記憶する。これらはCPUバス等の内部バスにより構成されるバス907により相互に接続されている。
【0079】
バス907は、ブリッジを介して、PCI(Peripheral Component Interconnect/Interface)バスなどの外部バスに接続されている。
【0080】
入力装置909は、例えば、マウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、スイッチ及びレバーなどユーザが操作する操作手段である。また、入力装置909は、例えば、赤外線やその他の電波を利用したリモートコントロール手段(いわゆる、リモコン)であってもよいし、演算処理装置50の操作に対応したPDA等の外部接続機器923であってもよい。更に、入力装置909は、例えば、上記の操作手段を用いてユーザにより入力された情報に基づいて入力信号を生成し、CPU901に出力する入力制御回路などから構成されている。ユーザは、この入力装置909を操作することにより、演算処理装置50に対して各種のデータを入力したり処理動作を指示したりすることができる。
【0081】
出力装置911は、取得した情報をユーザに対して視覚的又は聴覚的に通知することが可能な装置で構成される。このような装置として、CRTディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置、プラズマディスプレイ装置、ELディスプレイ装置及びランプなどの表示装置や、スピーカ及びヘッドホンなどの音声出力装置や、プリンタ装置、携帯電話、ファクシミリなどがある。出力装置911は、例えば、演算処理装置50が行った各種処理により得られた結果を出力する。具体的には、表示装置は、演算処理装置50が行った各種処理により得られた結果を、テキスト又はイメージで表示する。他方、音声出力装置は、再生された音声データや音響データ等からなるオーディオ信号をアナログ信号に変換して出力する。
【0082】
ストレージ装置913は、演算処理装置50の記憶部の一例として構成されたデータ格納用の装置である。ストレージ装置913は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイス、又は光磁気記憶デバイス等により構成される。このストレージ装置913は、CPU901が実行するプログラムや各種データ、及び外部から取得した各種のデータなどを格納する。
【0083】
ドライブ915は、記録媒体用リーダライタであり、演算処理装置50に内蔵、あるいは外付けされる。ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、又は半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録されている情報を読み出して、RAM905に出力する。また、ドライブ915は、装着されている磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスク、又は半導体メモリ等のリムーバブル記録媒体921に記録を書き込むことも可能である。リムーバブル記録媒体921は、例えば、CDメディア、DVDメディア、Blu-ray(登録商標)メディア等である。また、リムーバブル記録媒体921は、コンパクトフラッシュ(登録商標)(CompactFlash:CF)、フラッシュメモリ、又は、SDメモリカード(Secure Digital memory card)等であってもよい。また、リムーバブル記録媒体921は、例えば、非接触型ICチップを搭載したICカード(Integrated Circuit card)又は電子機器等であってもよい。
【0084】
接続ポート917は、機器を演算処理装置50に直接接続するためのポートである。接続ポート917の一例として、USB(Universal Serial Bus)ポート、IEEE1394ポート、SCSI(Small Computer System Interface)ポート、RS-232Cポート、HDMI(登録商標)(High-Definition Multimedia Interface)ポート等がある。この接続ポート917に外部接続機器923を接続することで、演算処理装置50は、外部接続機器923から直接各種のデータを取得したり、外部接続機器923に各種のデータを提供したりする。
【0085】
通信装置919は、例えば、通信網925に接続するための通信デバイス等で構成された通信インターフェースである。通信装置919は、例えば、有線もしくは無線LAN(Local Area Network)、Bluetooth(登録商標)、又はWUSB(Wireless USB)用の通信カード等である。また、通信装置919は、光通信用のルータ、ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)用のルータ、又は、各種通信用のモデム等であってもよい。この通信装置919は、例えば、インターネットや他の通信機器との間で、例えばTCP/IP等の所定のプロトコルに則して信号等を送受信することができる。また、通信装置919に接続される通信網925は、有線又は無線によって接続されたネットワーク等により構成され、例えば、インターネット、家庭内LAN、社内LAN、赤外線通信、ラジオ波通信又は衛星通信等であってもよい。
【0086】
以上、本発明の実施形態に係る演算処理装置50の機能を実現可能なハードウェア構成の一例を示した。上記の各構成要素は、汎用的な部材を用いて構成されていてもよいし、各構成要素の機能に特化したハードウェアにより構成されていてもよい。従って、本実施形態を実施する時々の技術レベルに応じて、適宜、利用するハードウェア構成を変更することが可能である。
【実施例0087】
以下では、実施例及び比較例を示しながら、本発明に係る粒子状製鉄原料の成分分析方法及び成分分析装置について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明に係る粒子状製鉄原料の成分分析方法及び成分分析装置の一例にすぎず、本発明に係る粒子状製鉄原料の成分分析方法及び成分分析装置が以下の例に限定されるものではない。
【0088】
実際の操業に用いられている粉鉱石(含有水分量2%)を、分析対象とした。ベルトコンベアを用いて粉鉱石(大きさ:100μm~5mm程度)を2m/secの搬送速度で搬送しているラインに対し、
図2に示したような成分分析装置(ただし、測距用ユニット20は設けていない。)を設置した。
【0089】
ここで、前処理用レーザ光源10としては、パルスエネルギー:5mJ、波長:1060nm帯、繰返周波数:4MHz、パルス幅:250nsのファイバー励起レーザ光源を用い、レーザ光の集光度合いを調節することでレーザパワー密度を制御した。分析点におけるレーザパワー密度は、3GW/cm2であった。かかる光源から照射される前処理用レーザ光を、3mm×3mmの領域で走査して、粉鉱石の表面を焼き固めるとともに、粉鉱石から水分を除去した。
【0090】
上記前処理用レーザ光源10の50cm下流側に、分析用レーザ光源30を設置するとともに、分光検出部40として、Avantes社製AvanSpec-ULS2048CL-EVOを設置した。ここで、用いた分析用レーザ光源は、パルスエネルギー:40mJ、波長:1064nm、繰返周波数:100Hz、パルス幅:7nsのレーザ光源を用いた。照射面積は、0.5mmφであり、分析点におけるレーザパワー密度は、1GW/cm2であった。
【0091】
前処理用レーザ光の照射を受けた粉鉱石の一部、及び、前処理用レーザ光の照射を受けなかった粉鉱石の一部をそれぞれサンプリングし、倍率100倍に設定したデジタルマイクロスコープ(キーエンス社製VHX-7000)により別途観察した。その結果、前処理が施されていない粉鉱石は、表面が焼き固められていない一方で、前処理が施された粉鉱石では、複数の粉鉱石粒子が互いに焼き固められて表面積が低減されていることが確認された。
【0092】
得られた測定結果を用いて、LIBSによる成分分析(Fe及びCaに関する成分分析)を実施した。また、比較のために、前処理が施された粉鉱石の一部を取り出し、その成分について化学分析を実施した。得られた結果を、以下の表1にまとめて示した。成分の算出は、発光分析が異常データとなった場合を除いた、1000パルスの平均値を用いた。
【0093】
【0094】
上記表1から明らかなように、Fe及びCaの換算濃度については、前処理の有無によらず大きく変化はない一方で、標準誤差は、前処理の有無によって大きく異なっていることがわかる。これは、前処理によって粉鉱石の表面が焼き固められ、かつ、水分が除去されることによって、プラズマ発光の強度が約1.5倍程度となった結果、分析のバラツキが抑制されたものと推察される。かかる結果より、本発明による粒子状製鉄原料の成分分析方法及び成分分析装置により、粒子状製鉄原料の成分組成の測定精度が向上したことがわかる。
【0095】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。