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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128288
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】マグネシウム-ビスマス合金電極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20230907BHJP
   H01M 4/46 20060101ALI20230907BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20230907BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20230907BHJP
   C22C 23/00 20060101ALN20230907BHJP
   C22C 12/00 20060101ALN20230907BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/46
H01M10/054
H01M4/1395
C22C23/00
C22C12/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032536
(22)【出願日】2022-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(71)【出願人】
【識別番号】000142872
【氏名又は名称】株式会社戸畑製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】山吹 一大
(72)【発明者】
【氏名】藤津 悟
(72)【発明者】
【氏名】栗田 聖平
(72)【発明者】
【氏名】床本 純一
(72)【発明者】
【氏名】松本 敏治
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK03
5H029AK05
5H029AL11
5H029AM02
5H029AM03
5H029AM04
5H029AM07
5H029BJ13
5H029HJ01
5H029HJ02
5H050AA08
5H050AA13
5H050BA15
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB11
5H050DA03
5H050EA23
5H050EA25
5H050EA27
5H050FA04
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、酸化被膜の形成を抑制でき、過電圧を小さくできるマグネシウム合金電極を提供することである。
【解決手段】マグネシウム-ビスマス合金表面がクラウンエーテルポリマーで被覆されたマグネシウム-ビスマス合金電極。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム-ビスマス合金表面がクラウンエーテルポリマーで被覆されたマグネシウム-ビスマス合金電極。
【請求項2】
マグネシウム-ビスマス合金におけるマグネシウム含有量が、50質量%以上であることを特徴とする請求項1記載のマグネシウム-ビスマス合金電極。
【請求項3】
クラウンエーテルポリマーの骨格となるクラウン環が15員環、18員環、21員環及び24員環から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2記載のマグネシウム-ビスマス合金電極。
【請求項4】
負極として請求項1~3のいずれかに記載の電極を備え、さらに電解質層及び正極を備えることを特徴とするマグネシウム二次電池。
【請求項5】
マグネシウム-ビスマス合金表面にクラウンエーテルポリマーを被覆することを特徴とするマグネシウム-ビスマス合金電極の酸化被膜形成抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム-ビスマス合金電極、マグネシウム-ビスマス合金電極を負極として備えるマグネシウム二次電池、及びマグネシウム-ビスマス合金電極の酸化被膜形成抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池としてリチウムイオン二次電池が実用化され、電子デバイス等の様々な用途に使用されている。しかしながら、今後の車載用途や大型用途に対しては、リチウムイオン二次電池では対応することが難しく、他の二次電池の開発が行われている。そこで、体積当たりの電気容量でリチウムイオン二次電池を凌ぐ特性を有するマグネシウム二次電池の開発が盛んに行われている。マグネシウムは、体積当たりの電気容量がリチウムの約2倍であるだけでなく、融点がリチウムの186℃に比べて650℃と高い。リチウムイオン二次電池は、電池内部での短絡等により加熱、発火するとの問題が指摘されているが、この原因の一つとしてリチウムの融点の低さが挙げられている。この点、マグネシウムはリチウムに比べて融点が高いため、安全性が高い。また、マグネシウムは、希少金属であるリチウムに比べて地球上に多く存在し、資源的にも豊富である。しかし、従来のマグネシウム負極は、その表面に絶縁層である酸化被膜が形成されるため、電気が流れにくく過電圧が大きくなり、本来の電池容量特性が発揮できないとの問題があった。
【0003】
上記問題を解決するためにいくつかの提案がなされている。例えば、電解質を改良することにより酸化被膜の形成を抑制する方法として、EtMgBr/THFを電解液として用いてマグネシウム負極表面の酸化被膜を除去する方法が提案されている(非特許文献1)。しかし、この方法では、酸化側の電位に対して耐性がなく、電解液の分解が生じるため長期での充放電が行えないとの問題がある。また、使用できる正極材料が限られており、電圧1V程度の低電位の電池しか報告されていない。負極を改良する方法としては、負極にマグネシウムの金属間化合物を使用する方法が提案され、マグネシウムとビスマスのモル比が3:2に調製された金属間化合物を用いることが提案されている(特許文献1、非特許文献2)。しかしこの方法の場合、マグネシウム-ビスマス金属間化合物は、マグネシウムの含有量が16質量%程度であるため使用できるマグネシウムの量が少ない。また、金属間化合物は脆いため、そのまま電極として用いると耐久性に問題があった。
【0004】
そこで、本発明者らは、上記のマグネシウム-ビスマス金属間化合物(MgBi)の問題点に着目し、より少ないビスマス含有量の合金において酸化被膜の形成が抑制され、高電位かつ高容量なマグネシウム二次電池用の電極として使用できることを報告している(特許文献2)。また、本発明者らは、電解液にニトリル系有機溶媒を使用し、クラウンエーテルを添加することで、酸化被膜の形成を抑制できることを報告している(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2014-512637号公報
【特許文献2】特許第6958812号公報
【特許文献3】特開2021-77459号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】D.Aurbach,Z.Lu,A.Schechter,Y.Gofer,H.Gizbar,R.Turgeman,Y.Cohen,M.Moshkovich&E.Levi“ Prototype systems for rechargeable magnesium batteries”,Nature,407, 724-727(2000).
【非特許文献2】Timothy S.Arthur,Nikhilendra Singh,Masaki Matsui, “Electrodeposited Bi,Sb and Bi1-xSbxalloys as anodes for Mg-ion batteries”, Electrochemistry Communications,16,103-106 (2012).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、酸化被膜の形成を抑制でき、過電圧を小さくできるマグネシウム合金電極を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、マグネシウムを含む電極であっても酸化被膜の形成を抑制でき、過電圧を小さくできる電極として、マグネシウム-ビスマス合金電極を提案したが、酸化被膜の形成を抑制しながらマグネシウムの含有量を更に高める方法の検討を進めたところ、マグネシウム-ビスマス合金の表面をクラウンエーテルポリマーで被覆することにより、マグネシウムの含有量を高めても酸化被膜の形成を抑制でき、過電圧を小さくできることを見いだした。本発明者らが開発した従来のマグネシウム-ビスマス合金電極も酸化被膜の形成抑制、過電圧を小さくするという改善効果を有するが、過電圧を大幅に改善するためには、マグネシウム合金電極に含まれるビスマス含有量を50質量%程度にする必要があり、この場合、エネルギー密度は理論上マグネシウムが本来有するエネルギー密度の半分程度となるので、マグネシウムが本来有するエネルギー密度を利用するのは難しかった。また、ビスマスを多く使用することにより電極コストも高くなっていた。本発明によれば、例えば、ビスマス含有量を30質量%程度に少なくしてマグネシウムの含有量を70質量%程度にしても、酸化被膜の形成を抑制でき、過電圧を小さくできるので、エネルギー密度の高いマグネシウム合金電極を得ることができる。また、ビスマスの使用量を少なくできるので、電極コストを低く抑えられる。これは、クラウンエーテルの金属配位性を利用することでより少ないビスマス量でマグネシウムの溶解-析出反応を促進させることが可能になったためと思われる。さらに、酸化被膜の形成抑制効果に加えて、電極表面に付着する電解液分解物の量も低減させることができるため、充放電を繰り返しても過電圧を低減した状態を維持でき、長期サイクルでの充放電を行うことが可能となった。本発明は、こうして完成されたものである。
【0009】
すなわち、本発明は以下に示す事項により特定されるものである。
(1)マグネシウム-ビスマス合金表面がクラウンエーテルポリマーで被覆されたマグネシウム-ビスマス合金電極。
(2)マグネシウム-ビスマス合金におけるマグネシウム含有量が、50質量%以上であることを特徴とする上記(1)記載のマグネシウム-ビスマス合金電極。
(3)クラウンエーテルポリマーの骨格となるクラウン環が15員環、18員環、21員環及び24員環から選択される少なくとも1種であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載のマグネシウム-ビスマス合金電極。
(4)負極として上記(1)~(3)のいずれかに記載の電極を備え、さらに電解質層及び正極を備えることを特徴とするマグネシウム二次電池。
(5)マグネシウム-ビスマス合金表面にクラウンエーテルポリマーを被覆することを特徴とするマグネシウム-ビスマス合金電極の酸化被膜形成抑制方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、酸化被膜の形成を抑制でき、過電圧を小さくできるマグネシウム合金電極を提供することができ、このマグネシウム合金電極を使用することにより過電圧を抑制し、高電位かつ高容量のマグネシウム二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施例1におけるクラウンエーテルポリマーの合成過程を示す図である。
図2図2(a)は、実施例1におけるコーティング過程を示す模式図であり、図2(b)は、コーティング後のMg-Bi合金電極表面の写真である。
図3図3は、実施例1におけるCV測定で使用したL型三極式ガラスセルを示す図である。
図4図4は、実施例1のPoly24C8コートMg-Bi合金電極のサイクリックボルタンメトリーを示す図である。
図5図5は、実施例1のPoly24C8コートMg-Bi合金電極の試験後の電極表面の写真である。
図6図6は、比較例1のMg-Bi合金電極のサイクリックボルタンメトリーを示す図である。
図7図7は、比較例1のMg-Bi合金電極の試験後の電極表面の写真である。
図8図8は、実施例2のPoly24C8コートMg-Bi合金電極のサイクリックボルタンメトリーを示す図である。
図9図9は、実施例2のPoly24C8コートMg-Bi合金電極の試験後の電極表面の写真である。
図10図10は、比較例2のMg-Bi合金電極のサイクリックボルタンメトリーを示す図である。
図11図11は、比較例2のMg-Bi合金電極の試験後の電極表面の写真である。
図12図12は、実施例1のPoly24C8コートMg-Bi合金電極を使用したコイン型電池による充放電試験の結果を示す図である。
図13図13は、比較例1のMg-Bi合金電極を使用したコイン型電池による充放電試験の結果を示す図である。
図14図14は、実施例1のPoly24C8コートMg-Bi合金電極を使用したコイン型電池と比較例1のMg-Bi合金電極を使用したコイン型電池のサイクルごとの放電容量の推移を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のマグネシウム-ビスマス合金電極は、マグネシウム-ビスマス合金表面がクラウンエーテルポリマーで被覆されていることを特徴とする。本発明において、「マグネシウム-ビスマス合金」とは、「マグネシウムとビスマスとの合金」の意味である。クラウンエーテルポリマーとは、クラウンエーテル骨格で構成される高分子のことである。クラウンエーテルとは、電子供与性原子として酸素、窒素、硫黄等のヘテロ原子をもつ大環状化合物である。骨格を構成するクラウンエーテルとしては、特に制限されるものではないが、例えば、クラウンエーテル、ベンゾクラウンエーテル、ジベンゾクラウンエーテル等のクラウンエーテル、クラウンエーテルの酸素原子の一部を窒素原子で置き換えたアザクラウンエーテル、ジアザクラウンエーテル等のアザクラウンエーテル、クラウンエーテルの酸素原子の一部を硫黄原子で置き換えたチアクラウンエーテル等を挙げることができる。具体的には、例えば、12-クラウン-4-エーテル、14-クラウン-4-エーテル、15-クラウン-5-エーテル、18-クラウン-6-エーテル、21-クラウン-7-エーテル、24-クラウン-8-エーテル、27-クラウン-9-エーテル、ナフチル-12-クラウン-4-エーテル、ジベンゾ-14-クラウン-4-エーテル、ベンゾ-12-クラウン-4-エーテル、ベンゾ-15-クラウン-5-エーテル、ベンゾ-18-クラウン-6-エーテル、ジベンゾ-12-クラウン-4-エーテル、ジベンゾ-15-クラウン-5-エーテル、ジベンゾ-18-クラウン-6-エーテル、ジベンゾ-21-クラウン-7-エーテル、ジベンゾ-24-クラウン-8-エーテル、ジベンゾ-27-クラウン-9-エーテル、ジシクロヘキサノ-18-クラウン-6-エーテル等のクラウンエーテル、1-アザ-15-クラウン-5-エーテル、1-アザ-18-クラウン-6-エーテル、ベンゾ-1-アザ-18-クラウン-6-エーテル、4,10-ジアザ-12-クラウン-4-エーテル、4,10-ジアザ-15-クラウン-5-エーテル、4,13-ジアザ-18-クラウン-6-エーテル、5,6,14,15-ジベンゾ-1,4-ジオキサ-8,12-ジアザシクロペンタデカ-5,14-ジエン等のアザクラウンエーテル、1-チア-15-クラウン-5-エーテル、1-チア-18-クラウン-6-エーテル、1,4,8,11-テトラチアシクロテトラデカン等のチアクラウンエーテルなどを挙げることができ、本発明におけるクラウンエーテルは置換基を有してもよい。骨格を構成するクラウンエーテルとしては、1種でもよく、2種以上でもよい。骨格を構成するクラウンエーテルとしては、クラウン環が15員環、18員環、21員環及び24員環から選択される少なくとも1種であるクラウンエーテルが好ましい。本発明におけるクラウンエーテルポリマーとしては、クラウンエーテル骨格を有するポリマーであれば特に制限されるものではないが、マグネシウムイオンと配位する観点からクラウンエーテルポリマーの骨格となるクラウン環が15員環、18員環、21員環及び24員環から選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、マグネシウムイオンとの配位と放出のバランスの観点から18員環、21員環及び24員環から選択される少なくとも1種が好ましい。また、電子供与性原子が酸素であるクラウンエーテルが好ましい。クラウンエーテルポリマーの合成方法は、特に制限されるものではないが、例えば、クラウンエーテルモノマーを使用し、重合性基を導入、重合反応を行う方法等により合成することができる。その他メタセシス反応、クリック反応、重縮合、チオール-エン反応、カップリング反応等を利用して合成することができる。本発明におけるクラウンエーテルポリマーとしては、主鎖にクラウンエーテルが含まれるものであれば特に制限されず、例えば、クラウンエーテル同士が、アルキル、アルケン(内部オレフィン)、芳香族、オキサゾリン、スルフィド(チオエーテル)、ジスルフィド、スルホニル、エーテル、エステル、アミド、イミド、ウレタン、カルボナートを介して少なくとも2つ以上連結した構造等を挙げることができる。
【0013】
本発明におけるマグネシウム-ビスマス合金は、マグネシウムとビスマスとの固溶体を含む、又はマグネシウムとビスマスとの固溶体及びマグネシウムとビスマスとの金属間化合物を含む。ここで、マグネシウムとビスマスとの固溶体及びマグネシウムとビスマスとの金属間化合物を含むとは、マグネシウムとビスマスとの固溶体と金属間化合物とが共晶の組織形態で合金中に存在する場合も含む。マグネシウム(Mg)とビスマス(Bi)との二元系合金は、その状態図から合金におけるBi含有量が固溶限である8.87質量%(1.12at%)までは金属Mg及びMg-Bi固溶体を形成し、8.87質量%(1.12at%)から共晶点である58.9質量%(14.3at%)まではMg-Bi固溶体とMg-MgBi共晶を形成し、58.9質量%(14.3at%)から82.2質量%(35at%)まではMg-MgBi共晶とMgBi金属間化合物を形成し、82.2質量%(35at%)以上ではMgBi金属間化合物とBi-Mg固溶体及び金属Biを形成することが知られており、製造条件によって組織の形態が異なる。上記マグネシウム-ビスマス合金においては、マグネシウムとビスマスとの固溶体、又はマグネシウムとビスマスとの固溶体及びマグネシウムとビスマスとの金属間化合物を含む。すなわち、上記マグネシウム-ビスマス合金の組成は、金属Mg及びMg-Bi固溶体が共存する形態、Mg-Bi固溶体とMg-MgBi共晶が共存する形態、及びMg-MgBi共晶とMgBi金属間化合物が共存する形態を含む。上記マグネシウム-ビスマス合金のビスマスの含有量は、電池反応が金属Mg及びMg-Bi固溶体の溶解-析出を伴うため、その体積当たりの電気容量を大きくする観点から、合金中に固溶体が形成されなくなるマグネシウム合金全体に対して58.9質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。上記マグネシウム-ビスマス合金のビスマスの含有量は、マグネシウム合金の加工成形性の観点から、マグネシウム合金全体に対して1~50質量%であることが好ましい。また、上記マグネシウム-ビスマス合金のビスマスの含有量は、酸化被膜形成の抑制効果の観点から、マグネシウム合金全体に対して1~58.9質量%であることが好ましく、1~50質量%であることがより好ましい。さらに、上記マグネシウム-ビスマス合金のビスマスの含有量は、エネルギー密度を増加させる観点から1~50質量%が好ましく、10~50質量%がより好ましく、10~40質量%が更に好ましい。本発明のマグネシウム-ビスマス合金におけるマグネシウムの含有量は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。また上記マグネシウムの含有量は、50~99質量%が好ましく、60~90質量%がより好ましい。本発明におけるマグネシウムとビスマスの固溶体(Mg1-xBi)では、xは固溶体として実質的に存在できる下限である0.001以上、固溶限である0.0112以下の範囲が好ましい。また、本発明では、マグネシウム-ビスマス合金がマグネシウムとビスマス以外の金属元素を含む場合を除外するものではなく、不可避の不純物を含めて本発明におけるマグネシウム-ビスマス合金は、例えば、Al、Zn、Mn、Ca、Ce、La、Si、C、Be、Zr、Sn、Sb、Li、Na、Ag、Cu、Ni、Fe、Pb、Y、Nd、Gd、Sr、Dy等の金属元素のうちいずれか1種の元素を1質量%以下、又はこれらの金属元素のうちいずれか2種以上の元素を合計で2質量%以下程度含んでいてもよい。本発明におけるマグネシウム-ビスマス合金は、例えば、鋳造法等により製造することができる。
【0014】
本発明におけるマグネシウム-ビスマス合金は、充分な強度を有し、板状、柱状等の形態に容易に加工できるため、加工した形態のマグネシウム-ビスマス合金そのものを電極として使用する、あるいは集電体に取り付けて電極として使用することができる。そのため、粒状の電極材料を使用する場合のように、バインダーや導電助剤を必要とすることなく電極を作製できるので、電極におけるマグネシウムの含有量を減少させずに電極を作製できる。また、マグネシウム-ビスマス合金を鱗片形状、偏平形状、紡錘形状、球状等の粒状に加工し、バインダーと混合して集電体上に固定する等の方法により電極を作製してもよい。本発明のマグネシウム-ビスマス合金電極は、マグネシウム-ビスマス合金層を備える。「マグネシウム-ビスマス合金層」とは、本発明におけるマグネシウム-ビスマス合金を含む層の意味であり、本発明におけるマグネシウム-ビスマス合金が、板状、柱状等の形態に加工されマグネシウム-ビスマス合金そのものがマグネシウム-ビスマス合金層を形成している場合、及びマグネシウム-ビスマス合金の粒子がバインダー等で固定されマグネシウム-ビスマス合金層を形成している場合を含む。本発明のマグネシウム-ビスマス合金電極とは、電極が上記マグネシウム合金層を有していればよく、マグネシウム合金層のみで電極を構成している場合、マグネシウム合金層と集電体等の他の構成部品と共に電極が構成されている場合を含む。
【0015】
本発明において、マグネシウム-ビスマス合金表面をクラウンエーテルポリマーで被覆する方法は特に制限されないが、例えば、クラウンエーテルポリマーをマグネシウム-ビスマス合金表面に塗布することにより、マグネシウム-ビスマス合金表面に被膜を形成することができる。被覆する際は、必要に応じてクラウンエーテルポリマーを溶媒に溶解させて塗布液を調製し、これを塗布して乾燥してもよい。また、マグネシウム-ビスマス合金を、塗布液に浸漬し、これを引き上げた後、乾燥してもよい。本発明のマグネシウム-ビスマス合金電極及びマグネシウム-ビスマス合金電極の酸化被膜形成抑制方法においては、マグネシウム-ビスマス合金表面にクラウンエーテルポリマーを被覆することにより、マグネシウム-ビスマス合金を電極に使用したときの表面への酸化被膜の形成を抑制することができ、それにより過電圧を低減できる。本発明において被覆とは、マグネシウム-ビスマス合金表面の全体がクラウンエーテルポリマーの被膜で被覆されていることのみを示すものでなく、電極での酸化被膜の形成抑制、それによる過電圧の低減という本発明の効果が奏される範囲でマグネシウム-ビスマス合金表面にクラウンエーテルポリマーの被膜が形成されていればよい。クラウンエーテルポリマーの好ましい被覆量としては、例えば、40~100μg/cmを挙げることができる。
【0016】
本発明の電池は、本発明の電極を負極として備え、さらに電解質層及び正極を備えることを特徴とする。本発明の電池における正極、電解質、及び必要に応じて他の構成要素は、従来のマグネシウム二次電池に使用されているものを使用することができる。例えば、正極としては、正極活物質がバインダーにより集電体上に固定されたものを挙げることができ、必要に応じて導電助剤を含んでもよい。正極活物質としては、例えば、硫黄又は硫黄化合物、V、硫黄ドープV等のV系、MnO系、MnO、MgMnO等のMnO系などの酸化物系の正極、Mo系等の硫化物系の正極、Mg1.03Mn0.97SiO、MgCoSiO、MgFeSiO、MgMnSiO、MoSe11、FePOなどを挙げることができる。バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素含有樹脂、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース等の樹脂材料などを挙げることができる。また、導電助剤としては、例えば、無定型炭素、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチューブ等の炭素質物質などを挙げることができる。
【0017】
電解質としては、例えば、過塩素酸マグネシウム(Mg(ClO))、グリニャール試薬(RMgX(Rは有機基、Xはハロゲンである。))、臭化マグネシウム(MgBr2)等のハロゲン化マグネシウム、硝酸マグネシウム(Mg(NO32)、マグネシウムビストリフルオロメタンスルホンイミド(Mg(TFSI))、Mg(SOCF、ホウフッ化マグネシウム(Mg(BF)、トリフルオロメチルスルホン酸マグネシウム(Mg(CFSO)、ヘキサフルオロ燐酸マグネシウム(Mg(PF)などを挙げることができる。電解質溶媒としては、公知の非水電解質溶媒を用いることができ、例えば、アセトニトリル(AN)、ジエトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、テトラグライムジメチルエーテル(テトラグライム)、テトラヒドロフラン(THF)、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ-ブチルラクトン、スルホラン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、2-メチルテトラヒドロフラン、3-メチル-1,3-ジオキソラン、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等を挙げることができる。セパレータとしては、非水電解質二次電池のセパレータとして使用されるものであればどのようなものでも使用可能であり、例えば、高率放電性能を有する多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することができる。セパレータを構成する材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン共重合体、フッ化ビニリデン-プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体や、セルロースやセルロース誘導体(カルボキシメチルセルロースなど)等を挙げることができる。
【実施例0018】
以下、本発明の実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0019】
[クラウンエーテルポリマー(Poly24C8)の合成]
(1)ジベンゾ-24-クラウン-8-エーテル(3.00g:6.69mmol)、ヘキサメチレンテトラアミン(7.50g:53.5mmol)及びトリフルオロ酢酸(30mL:0.39mol)の混合溶液を60℃で16時間還流をした。反応混合溶液に純水(20mL)を加え、ジクロロメタンで抽出、有機層を純水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過した溶液を濃縮し、真空乾燥した。その後、吸引濾過を行い、自然乾燥をしてBFB24C8を得た(収量2.83g:収率94.2%)。
(2)BFB24C8(2.83g:5.60mmol)をテトラヒドロフラン(THF)(150mL)とメタノール(MeOH)(50mL)の混合溶媒に溶解し、4ホウ酸ナトリウム(0.84672g:22.4mmol)をゆっくり加え、60℃で18時間還流した。純水(50mL)を加え、ジクロロメタンで抽出、有機層を純水で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過した溶液を濃縮し、真空乾燥してBHMB24C8を得た(収量2.96g:収率100%)。
(3)BHMB24C8(2.96g:5.81mmol)のTHF(50mL)溶液に氷浴条件下でNaH(2.34g:58.1mmol)を攪拌しながらゆっくり加えた。安定したところで11-ブロモ-1-ウンデセン(5.42g:23.2mmol)のTHF(20mL)溶液を加え、60℃で18時間攪拌をした。混合溶液に純水をゆっくり加えて反応を停止させた。ジクロロメタンで抽出し、有機層を硫酸マグネシウムで乾燥し、ろ過した溶液を濃縮した。濃縮物はカラムクロマトグラフィー(シリカゲル.ジクロロメタン/酢酸エチル=1/50;v/v)によって粗精製し、ジクロロメタンと酢酸エチルを用いて再沈殿を行いBUOMB24C8を得た(収量1.50g:収率100%)。
(4)モノマーBUOMB24C8(0.2762g:3.39mmol)とジクロロメタン(20mL)の混合溶液にグラブス触媒(13.9mg)を加え、オイルバスを用いて40℃条件下で16時間還流した。反応液を濃縮し、ジクロロメタン(3mL)に再び溶解させメタノール(30mL)で再沈殿させることでPoly24C8(0.221g)を得た。図1に上記ステップ(1)~(4)の合成過程を示す。
【0020】
[実施例1]
[Poly24C8コートマグネシウム-ビスマス合金(Mg-Bi合金)電極の作製]
Poly24C8(0.0735g)とクロロホルム(0.7400g)を混合したコーティング液を調製し、円柱状のMg-Bi合金(マグネシウム70質量%、ビスマス30質量%)の上面に、調製したコーティング液をパスツールピペットで垂らし、自然乾燥させることで被覆した。円柱状のMg-Bi合金の断面の直径は7mm、高さは3mmであった。ポリマーとしての被覆量は88.7μg/cmだった。図2にコーティング過程を示す模式図とコーティング後のMg-Bi合金電極表面の写真を示す。
【0021】
[サイクリックボルタンメトリー(CV)]
上記で作製したPoly24C8コートMg-Bi合金を電極として使用して、負極の電解液中での電気化学的挙動を測定した。試験極にPoly24C8コートMg-Bi合金を使用し、参照極に銀線(Ag)、対極にマグネシウムリボン、電解液は溶媒にG3(トリエチレングリコールジメチルエーテル)を用い、0.5M Mg(TFSA)/G3電解液とした三極式ガラスセルを用いてCVにより検証した。なお、TFSAはビストリフルオロメタンスルホニルアミドを表す。試験極、対極はエメリーペーパー♯600~2000で研磨したのちに使用した(ただし、試験極はポリマーコートの前に研磨した)。参照極はエメリーペーパー♯2000で研磨したのちに使用した。また走査範囲は-3.5~0.0Vで行った。いずれも、測定温度は室温、走査速度は10mV/s、サンプリング間隔は0.1s、電位掃引の向きは0V→酸化側→還元側であった。図3に使用したL型三極式ガラスセルを示す。図4に実施例1のPoly24C8コートMg-Bi合金電極のサイクリックボルタンメトリーを示す。図5に、実施例1の試験後の電極表面の写真を示す。
【0022】
[比較例1]
実施例1と同様の円柱状のMg-Bi合金(マグネシウム70質量%、ビスマス30質量%)をPoly24C8コートしないで試験極に使用した以外は、実施例1と同様にCVを行った。その結果を図6に示す。図7に、比較例1の試験後の電極表面の写真を示す。比較例1においても従来のマグネシウム電極やマグネシウム-ビスマス金属間化合物電極に比べて過電圧は低減されているが、サイクル特性が、20サイクルで電流値最大となり、それ以降は電流値が低下している。一方、実施例1では、比較例1に比べて過電圧が低減された状態で100サイクルにおいても最大電流値を維持していた。また、実施例1では試験後の電極表面の黒ずみが比較例1に比べて少なく、電解液の分解が少なかったことが分かる。
【0023】
[実施例2]
Mg-Bi合金として、マグネシウム50質量%及びビスマス50質量%のMg-Bi合金を使用し、ポリマーとしての被覆量を44.4μg/cmとした以外は、実施例1と同様にPoly24C8をコートしてCVを行った。その結果を図8に示す。図9に、実施例2の試験後の電極表面の写真を示す。
【0024】
[比較例2]
実施例2と同様の円柱状のMg-Bi合金(マグネシウム50質量%、ビスマス50質量%)をPoly24C8コートしないで試験極に使用した以外は、実施例2と同様にCVを行った。その結果を図10に示す。図11に、比較例2の試験後の電極表面の写真を示す。比較例2においては、サイクル特性が、40サイクルで電流値最大となり、それ以降は電流値が低下している。一方、実施例2では、比較例2に比べて過電圧が低減された状態で100サイクルにおいても最大電流値をほぼ維持していた。また、実施例2では試験後の電極表面の黒ずみが比較例2に比べて少なく、電解液の分解が少なかったことが分かる。
【0025】
[コインセル(二極式セル)での評価]
五酸化バナジウム(V):ケッチェンブラック(KB):ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が6:3:1で構成される電極を正極に使用し、0.5M Mg(TFSA)/G3にロタキサン構造を有するネットワークポリマーを添加したゲル電解質を電解質として使用して、実施例1で作製したPoly24C8コートMg-Bi合金を負極に使用したコインセル(CR2032)と比較例1のPoly24C8をコートしないMg-Bi合金を負極に使用したコインセル(CR2032)を用いて、充放電試験を行った。ロタキサン構造を有するネットワークポリマーは、特開2016-162543に開示された方法で製造した。測定条件はC=0.05C、0~4V、室温とした。実施例1で作製したPoly24C8コートMg-Bi合金負極の結果を図12に、比較例1のMg-Bi合金負極の結果を図13に示す。比較例1のMg-Bi合金負極の場合、5サイクルを過ぎると急激に性能が低下したが、実施例1のPoly24C8コートMg-Bi合金負極の場合、7サイクルでも性能は低下しなかった。また、図14に、サイクルごとの放電容量の推移を示す。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の電極は、マグネシウムの含有量が多くても電極表面への酸化被膜の形成が抑制され、サイクル特性が向上するので、マグネシウム二次電池に好適に用いることができ、過電圧を抑制し、高電位、高容量でサイクル特性に優れた二次電池を得ることができる。また、本発明の電極は、マグネシウム合金を電極材料として使用しているため、電極として充分な強度と耐久性を有する。本発明のマグネシウム二次電池は、電極上への酸化被膜の形成が抑制されるので、マグネシウムが有する電気特性を充分に発揮することができ、高電位、高容量でサイクル特性に優れた二次電池を得ることができる。そのため、本発明のマグネシウム二次電池は、車載用途や大型用途に対して好適である。
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