(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128290
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】玉軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/41 20060101AFI20230907BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20230907BHJP
B60B 35/02 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
F16C33/41
F16C19/18
B60B35/02 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032540
(22)【出願日】2022-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中西 直也
(72)【発明者】
【氏名】井上 祐哉
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA25
3J701BA44
3J701FA38
3J701GA03
(57)【要約】
【課題】回転抵抗を低減することが可能となる玉軸受を提供する。
【解決手段】玉軸受18は、外輪11と、内輪12と、複数の玉13と、保持器14とを備える。保持器14は、環状部20と複数の柱部21とを有する。周方向で隣り合う2つの柱部21,21の間の空間がポケット22である。ポケット22は、玉13に対向するポケット面23を有する。ポケット面23は、凹面30と、ポケット中心よりも軸方向一方側に形成され玉13に接触可能である第一平面31と、第一柱部においてポケット中心よりも軸方向他方側に形成され玉13に接触可能である第三平面33と、第二柱部においてポケット中心よりも軸方向他方側に形成され玉13に接触可能である第四平面34とを有する。第一平面31は、玉13の自転軸の延長線と交差し、玉13は、第一平面31、第三平面33、及び、第四平面34のうち、少なくとも1つの平面に点接触して、保持器14に保持される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と、内輪と、前記外輪と前記内輪との間に転動自在となって設けられている複数の玉と、前記複数の玉を保持する保持器と、を備え、
前記保持器は、
前記玉の軸方向一方側に位置する環状部と、
前記環状部から軸方向他方側に延びる複数の柱部と、を有し、
前記環状部の軸方向他方側であって周方向で隣り合う2つの前記柱部の間の空間が、一つの前記玉を収容するポケットであり、
前記ポケットは、前記玉に対向するポケット面を有し、
前記ポケットに収容される前記玉の中心をポケット中心と定義した場合に、
前記ポケット面は、
凹面と、
前記ポケット中心よりも軸方向一方側に形成され前記玉に接触可能である第一平面と、
周方向で隣り合う2つの前記柱部のうち、一方の第一柱部において前記ポケット中心よりも軸方向他方側に形成され前記玉に接触可能である第三平面と、
周方向で隣り合う2つの前記柱部のうち、他方の第二柱部において前記ポケット中心よりも軸方向他方側に形成され前記玉に接触可能である第四平面と、
を有し、
前記第一平面は、前記玉の自転軸の延長線と交差し、
前記玉は、前記第一平面、前記第三平面、及び、前記第四平面のうち、少なくとも1つの平面に点接触して、前記保持器に保持される、
玉軸受。
【請求項2】
前記保持器は、径方向および軸方向に変位しても、前記内輪及び前記外輪に非接触であって、
前記保持器は、径方向および軸方向に変位すると、前記第一平面、前記第三平面、及び、前記第四平面のうち、少なくとも1つの平面で、前記玉に点接触する、請求項1に記載の玉軸受。
【請求項3】
前記玉は、前記凹面に非接触であって、前記第一平面、前記第三平面、及び、前記第四平面のうち、少なくとも1つの平面に点接触する、請求項1または請求項2に記載の玉軸受。
【請求項4】
前記第一柱部は軸方向他方側の端部に第一爪部を有し、前記第二柱部は軸方向他方側の端部に第二爪部を有し、
前記第一爪部と前記第二爪部との間隔は、前記玉の直径よりも小さく、
前記第一爪部に前記第三平面が形成され、
前記第二爪部に前記第四平面が形成されている、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の玉軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
玉軸受は様々な回転機器に用いられる。特許文献1に、車輪用軸受に用いられる玉軸受が開示されている。玉軸受は、外輪と、内輪と、これら外輪と内輪との間に設けられている複数の玉と、複数の玉を保持する保持器とを備える。保持器は、玉を保持するポケットを有し、ポケットは、保持する玉と中心を同じとする仮想球面に沿った形状のポケット面を有する。つまり、ポケットは、全体が球面状であるポケット面を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、玉軸受などの転がり軸受では、グリースなどの潤滑剤が用いられる。このような転がり軸受では、その回転抵抗(回転トルク)の要因として、グリースの撹拌抵抗およびグリースの転がり粘性抵抗が挙げられる。グリースの撹拌抵抗に、グリースのせん断抵抗が含まれることから、転がり軸受の回転抵抗を低減するためには、グリースのせん断抵抗の小さくするのが好ましい。
【0005】
前記のとおり、特許文献1に開示の玉軸受の場合、保持器のポケットは、全体が球面状であるポケット面を有する。この場合、玉とポケット面とは、楕円の範囲で接触することから、面接触に近づく。このため、接触領域においてグリースの厚さが確保され難く、次の式(1)で説明されるように、グリースのせん断抵抗が大きくなりやすい。
【0006】
グリースのせん断抵抗Fは、次の式(1)によって表される。
F=η・u・S/h ・・・(1)
式(1)において、ηはグリースの粘度、uは速度、Sは滑り面積、hはグリースの厚さである。
球面状であるポケット面に玉が接触する場合、グリースの厚さhが確保され難く、その結果、せん断抵抗が大きくなり、回転抵抗が大きくなる。
【0007】
そこで、本開示では、回転抵抗を低減することが可能となる玉軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本開示の玉軸受は、外輪と、内輪と、前記外輪と前記内輪との間に転動自在となって設けられている複数の玉と、前記複数の玉を保持する保持器と、を備え、前記保持器は、前記玉の軸方向一方側に位置する環状部と、前記環状部から軸方向他方側に延びる複数の柱部と、を有し、前記環状部の軸方向他方側であって周方向で隣り合う2つの前記柱部の間の空間が、一つの前記玉を収容するポケットであり、前記ポケットは、前記玉に対向するポケット面を有し、前記ポケットに収容される前記玉の中心をポケット中心と定義した場合に、前記ポケット面は、凹面と、前記ポケット中心よりも軸方向一方側に形成され前記玉に接触可能である第一平面と、周方向で隣り合う2つの前記柱部のうち、一方の第一柱部において前記ポケット中心よりも軸方向他方側に形成され前記玉に接触可能である第三平面と、周方向で隣り合う2つの前記柱部のうち、他方の第二柱部において前記ポケット中心よりも軸方向他方側に形成され前記玉に接触可能である第四平面と、を有し、前記第一平面は、前記玉の自転軸の延長線と交差し、前記玉は、前記第一平面、前記第三平面、及び、前記第四平面のうち、少なくとも1つの平面に点接触して、前記保持器に保持される。
【0009】
本開示の玉軸受によれば、玉が、ポケット面の第一平面、第三平面、及び、第四平面のうち、少なくとも1つの平面に接触して保持器に保持される場合に、その接触位置において玉は前記平面に点接触する。このため、接触位置において、ポケット面(前記平面)と玉との間にグリースなどの潤滑剤が介在しやすくなり、玉軸受の回転抵抗を低減することが可能となる。また、玉の外面のうち、玉の自転軸と交差する点では、玉の周速度(自転速度)が遅くなる(0に近づく)ため、前記構成によれば、第一平面で、玉との接触による潤滑剤のせん断抵抗を更に低減することが可能となる。
【0010】
(2)好ましくは、前記保持器は、径方向および軸方向に変位しても、前記内輪及び前記外輪に非接触であって、前記保持器は、径方向および軸方向に変位すると、前記第一平面、前記第三平面、及び、前記第四平面のうち、少なくとも1つの平面で、前記玉に点接触する。この場合、玉によって保持器が径方向および軸方向について位置決めされる転動体案内の軸受となる。ポケット面が玉に接触することで保持器が玉によって位置決めされる転動体案内の場合であっても、玉は前記平面に点接触する構成が得られる。
【0011】
(3)好ましくは、前記玉は、前記凹面に非接触であって、前記第一平面、前記第三平面、及び、前記第四平面のうち、少なくとも1つの平面に点接触する。玉と凹面とが接触する場合、それらは楕円の範囲で接触することから、面接触に近づき、潤滑剤のせん断抵抗が大きくなりやすいが、前記構成によれば、玉はポケット面(前記平面)に点接触することから、潤滑剤のせん断抵抗が小さくなり、玉軸受の回転抵抗を低減することが可能となる。
【0012】
(4)好ましくは、前記第一柱部は軸方向他方側の端部に第一爪部を有し、前記第二柱部は軸方向他方側の端部に第二爪部を有し、前記第一爪部と前記第二爪部との間隔は、前記玉の直径よりも小さく、前記第一爪部に前記第三平面が形成され、前記第二爪部に前記第四平面が形成されている。玉と保持器との組み付けの際、玉をポケットに軸方向一方に向かって接近させ、第一爪部および第二爪部の一部を弾性変形させればよく、組み付けが容易となる。組み付けが完了した状態で、玉と保持器との分離が防止される。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、玉軸受において、回転抵抗を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、玉軸受を含む軸受装置の一例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、第一の玉軸受において玉を省略した場合の断面図である。
【
図4】
図4は、複数の玉および保持器の斜視図である。
【
図6】
図6は、ポケットを拡大して示す説明図である。
【
図7】
図7は、保持器の一部を内周側から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、玉軸受を含む軸受装置の一例を示す断面図である。
図1に示す軸受装置10は、自動車に用いられる車輪用軸受装置(ハブユニット)である。軸受装置10は、自動車の車体に設けられている懸架装置に対して車輪を回転自在に支持する。軸受装置10は、円筒形状の外輪11と、その径方向内側に位置する内軸部材12と、外輪11と内軸部材12との間に二列となって設けられている複数の玉13と、複数の玉13を保持する環状の保持器14とを備える。
【0016】
車両インナ側(
図1の右側)の複数の玉13により構成される列を第一列L1と定義し、車両アウタ側(
図1の左側)の複数の玉13により構成される列を第二列L2と定義する。保持器14は2つ設けられており、各列に含まれる複数の玉13を一つの保持器14が保持する。内軸部材12は、内軸16と、内軸16の車両インナ側に取り付けられている内輪17とを有する。
【0017】
第一列L1に含まれる複数の玉13と、外輪11の車両インナ側の一部である第一部分11aと、内輪17とによって、第一の玉軸受18が構成される。外輪11の第一部分11aが、第一の玉軸受18の「外輪」に相当し、内輪17が、第一の玉軸受18の「内輪」に相当する。第二列L2に含まれる複数の玉13と、外輪11の車両アウタ側の一部である第二部分11bと、内軸16の車両アウタ側の一部である第三部分16aとによって、第二の玉軸受19が構成される。外輪11の第二部分11bが、第二の玉軸受19の「外輪」に相当し、内軸16の第三部分16aが、第二の玉軸受19の「内輪」に相当する。第一列L1用の保持器14と、第二列L2用の保持器14とは、装着方向が反対であるが、同じ構成である。以下、第一の玉軸受18について説明する。軸受装置10における潤滑性能を維持するため、玉軸受18はグリースなどの潤滑剤によって潤滑される。
【0018】
図2は、第一の玉軸受18の断面図である。
図3は、第一の玉軸受18において玉13を省略した場合の断面図である。
図3では、玉13を仮想線(二点鎖線)で示している。
本開示の説明に関して、各方向について定義する。玉軸受18の中心線Cは、
図1に示す軸受装置10の中心線と一致する。玉軸受18の中心線Cに沿う方向を「軸方向」と定義する。この軸方向に、中心線Cに平行な方向も含まれる。第一の玉軸受18では、車両アウタ側(
図2、
図3の左側)を軸方向一方側と定義し、車両インナ側(
図2、
図3の右側)を軸方向他方側と定義する。前記中心線Cに直交する方向を「径方向」と定義する。前記中心線Cを中心とする円に沿った方向を「周方向」と定義する。内輪17が中心線C回りに回転する方向が「周方向」となる。
【0019】
図2および
図3に示すように、玉軸受18は、外輪11(外輪11の第一部分11a)と、内輪17と、外輪11と内輪17との間に転動自在となって設けられている複数の玉13と、複数の玉13を保持する保持器14とを備える。複数の玉13は全て同じ形状(同じ直径)を有する。玉13が収容される後述のポケット22は全て同じ形状を有する。
【0020】
外輪11は、玉13が転がり接触する外軌道面51を有する。内輪17は、玉13が転がり接触する内軌道面52を有する。玉13は、外軌道面51および内軌道面52に対して接触角θを有して接触する。つまり、玉13および外軌道面51の接触点と玉13および内軌道面52の接触点とを結ぶ直線Qは、中心線Cに直交する基準線Jに対して、角度θを有して傾斜している。玉軸受18が回転すると(内輪17が回転すると)、玉13は前記直線Qに直交する回転中心線Sを中心として回転する。つまり、回転中心線Sは玉13の自転軸となる。
【0021】
図4は、複数の玉13および保持器14の斜視図である。
図4では、説明のために一つの玉13の記載が省略されている。
図5は、保持器14の斜視図である。保持器14は、玉13の軸方向一方側に位置する環状部20と、複数の柱部21とを有する。環状部20は、環状の部分である。柱部21は、環状部20から軸方向他方側に延びる部分である。
【0022】
環状部20の軸方向他方側であって周方向で隣り合う2つの柱部21,21の間の空間が、一つの玉13を収容するポケット22である。
図4および
図5に示す保持器14は、いわゆる冠型の保持器である。ポケット22に対して玉13を軸方向一方に向かって接近させて、玉13をポケット22に収容させることで、保持器14と玉13とが組み付けられる。この際、後にも説明するが、柱部21の先端部が弾性変形する。ポケット22に玉13が収容されると、玉13はポケット22から軸方向および径方向に脱落不能である。
【0023】
各柱部21は、環状部20から延びて設けられている柱本体24と、各柱部21の軸方向他方側の端部において柱本体24の周方向両側に設けられている一対の爪部25,25とを有する。爪部25は、柱本体24から周方向に突出している。
図6は、ポケット22を拡大して示す説明図である。
図6において、周方向で隣り合う2つの柱部21,21に着目する。2つの柱部21,21のうちの一方を「第一柱部21a」と呼び、他方を「第二柱部21b」と呼ぶ。第一柱部21aが有する一対の爪部25,25のうち第二柱部21bに近い側を「第一爪部25a」と呼ぶ。第二柱部21bが有する一対の爪部25,25のうち第一柱部21aに近い側を「第二爪部25b」と呼ぶ。第一爪部25aと第二爪部25bとの間隔(前記間隔の最小値B)は、玉13(
図4参照)の直径Dよりも小さい。
図7は、保持器14の一部を内周側から見た斜視図である。
【0024】
玉13と保持器14との組み付けの際、玉13をポケット22に軸方向一方に向かって接近させ、第一爪部25aおよび第二爪部25bの一部を弾性変形させればよく、組み付けが容易となる。玉13と保持器14との組み付けが完了した中間体の状態で、環状部20の軸方向他方側の面と、第一爪部25aおよび第二爪部25bによって、玉13と保持器14との軸方向および径方向についての分離が防止される。さらに、詳しく説明すると、玉13と保持器14との組み付けが完了した中間体の状態で、環状部20の軸方向他方側の面に形成された後述の第一平面31と、第一爪部25aに形成された後述の第三平面33と、第二爪部25bに形成された後述の第四平面34とによって、玉13と保持器との軸方向および径方向についての分離が防止される。
【0025】
図6および
図7において、ポケット22は、玉13に対向するポケット面23を有する。ポケット面23は、凹面30、第一平面31、第三平面33、及び、第四平面34を有する。凹面30は、玉13と対向する凹曲面であり、本実施形態では、保持する玉13と中心を同じとする仮想球面Kに沿った形状(凹形状)を有する。ポケット22に収容される玉13の中心をポケット中心Pと定義する。第一平面31は、ポケット中心Pよりも軸方向一方側に形成されていて、玉13と接触可能である。第三平面33及び第四平面34は、ポケット中心Pよりも軸方向他方側に形成されていて、玉13と接触可能である。なお、玉13はポケット22内でわずかに変位することから、前記のように定義するポケット中心Pは、そのような変位に伴い、変位する領域を含む。
【0026】
各平面の配置についてより具体的に説明する。第一平面31は、環状部20(環状部20の軸方向他方側の面)に形成されている。第一平面31は、環状部20のうち径方向内側に形成されている。周方向で隣り合う2つの第一柱部21aおよび第二柱部21bにおいて、第一柱部21aの第一爪部25aに第三平面33が形成されており、第二柱部21bの第二爪部25bに第四平面34が形成されている。
【0027】
第一平面31は、平面であり、保持器14(環状部20)の内周面20iと交差する面である。第一平面31は、一部が欠けた円形の面である。
図3に示すように、第一平面31は、玉13の自転軸(回転中心線S)の延長線と交差する。本実施形態では、第一平面31は、玉13の自転軸(回転中心線S)の延長線と直交する。保持器14が軸方向他方側に変位すると、第一平面31は玉13に点接触可能である。保持器14が径方向外側に変位すると、第一平面31は玉13に点接触可能である。
【0028】
図7に示すように、第三平面33は、柱部21の軸方向他方側の端部、つまり柱部21(爪部25)の先端部であって、その柱部21(爪部25)の径方向外側に形成されている。第三平面33は、平面であり、保持器14の外周面(柱部21の径方向外側面21o)と交差するとともに、柱部21の軸方向他方側の端面39と交差する面である。第三平面33は、扇形形状を有する。
【0029】
第四平面34は、柱部21の軸方向他方側の端部、つまり柱部21(爪部25)の先端部であって、その柱部21(爪部25)の径方向外側に形成されている。第四平面34は、平面であり、保持器14の外周面(柱部21の径方向外側面21o)と交差するとともに、柱部21の軸方向他方側の端面39と交差する面である。第四平面34は、扇形形状を有する。
【0030】
第三平面33および第四平面34のうち、玉軸受18(内輪17)が回転すると、その回転方向の前方側に位置する平面に、玉13は点接触する。また、玉軸受18(内輪17)が回転すると、第三平面33または第四平面34に玉13が点接触する他に、第一平面31に点接触する場合もある。玉軸受18(内輪17)が回転している状態で、玉13は、凹面30に非接触であって、第一平面31、第三平面33、及び、第四平面34のうち、少なくとも1つの平面に点接触する。凹面30は、仮想球面Kに沿った形状に限定されず、玉13に接触しない凹形状であればよい。
【0031】
図3において、保持器14が軸方向一方側に変位すると、第三平面33および第四平面34の少なくとも一方が、玉13に点接触する。保持器14が軸方向他方側に変位すると、第一平面31が、玉13に点接触する。保持器14が径方向外側(外輪11側)に変位すると、第一平面31が、玉13に点接触する。保持器14が径方向内側(内輪17側)に変位すると、第三平面33第四平面34の少なくとも一方が、玉13に点接触する。凹面30は、玉13に接触しない面である。
【0032】
保持器14は、径方向および軸方向に変位しても、内輪17及び外輪11に非接触である。その代わり、保持器14は、径方向および軸方向に変位すると、第一平面31、第三平面33、及び、第四平面34のうち、少なくとも1つの平面で、玉13に点接触する。さらに、保持器14が径方向および軸方向の少なくとも一方に変位しても、玉13は、凹面30に非接触であって、第一平面31、第三平面33、及び、第四平面34のうち、少なくとも1つの平面に点接触する。
【0033】
図1に示す車輪用軸受の場合、車両が旋回走行すると各部が弾性変形し、その影響により、玉軸受18の接触角が、例えばプラスマイナス2度程度、変化する場合がある。このように、接触角(前記直線Qの角度)がプラスマイナス2度変化しても、第一平面31、第三平面33、および第四平面34それぞれは、玉13と点接触することができる広さに設定されている。
【0034】
図8は、保持器14の変形例1を示す図である。
図8に示す保持器14のポケット面23は、
図5および
図6に示す形態と同様の第一平面31、第三平面33、および、第四平面34を有する。さらに、その保持器14は、第二平面32を有する。第二平面32は、環状部20(環状部20の軸方向他方側の面)に形成されている。第二平面32は、環状部20のうち径方向外側に形成されている。
図8に示すように、第二平面32は、平面であり、一部が欠けた円形の面である。第二平面32は、ポケット面23に沿って第一平面31の径方向外側に設けられており、保持器14(環状部20)の外周面20oと交差する面である。第一平面31と第二平面32とは、凹面30の一部を挟んで離れて設けられている。保持器14が軸方向他方側に変位すると、第二平面32は玉13に点接触可能である。
【0035】
玉13を第三平面33および第四平面34に点接触させた状態で、その玉13をポケット面23のうちの環状部20の径方向外側の領域に接触させる場合に、その接触位置を含む範囲に第二平面32が設定される。
さらに、別の接触態様として、玉13を第一平面31に点接触させた状態で、その玉13をポケット面23のうちの環状部20の径方向外側の領域に接触させる場合に、その接触位置を含む範囲に第二平面32が設定される。この場合、玉13は第一平面31と第二平面32との2点で接触する。
図8に示す保持器14は、ポケット面23が玉13に比べて比較的大きい場合に好適である。玉軸受18が回転すると、玉13は、第二平面32に点接触することが可能となる。
【0036】
変形例1において、第一平面31と第二平面32とは凹面30の一部を挟んで離れて設けられている。
しかし、これに限定されず、第一平面31と第二平面32とは、単一の平面で形成されていてもよい。これを言い換えると、第一平面31に第二平面32が含まれており、その第一平面31は、径方向内側から径方向外側に亘るように形成された平面である。そして、その第一平面31は、環状部20の軸方向他方側の面の径方向内側において、玉13の自転軸(回転中心線S)の延長線と交差する。
【0037】
図9は、保持器14の変形例2を示す図である。
図9に示す保持器14のポケット面23は、
図5および
図6に示す形態と同様の第一平面31、第三平面33、および、第四平面34を有する。さらに、その保持器14は、変形例1と同様の第二平面32を有する。さらに、その保持器14は、第五平面35および第六平面36を有する。第五平面35は、ポケット面23のうち、周方向一方側に設けられている。第五平面35は、ポケット面23のうち、玉13の転がり方向の前方の位置を含む範囲に設けられている。第六平面36は、ポケット面23のうち、周方向他方側に設けられている。第六平面36は、ポケット面23のうち、玉13の転がり方向の後方の位置を含む範囲に設けられている。
【0038】
図9に示す保持器14は、ポケット面23が玉13に比べて比較的大きい場合に好適である。玉軸受18が回転すると、玉13は、第五平面35に点接触することが可能であり、また、玉13の進み遅れなどが生じても、玉13は第六平面36に点接触することが可能となる。
【0039】
さらに別の形態の保持器14として、
図4および
図9に示すような、環状部20を軸方向一方側にのみ有する冠型の保持器ではなく、
図10に示すように、軸方向両側に環状部20a,20bを有する保持器14であってもよい。
図10に示す保持器14においても、そのポケット面23は、凹面30と、ポケット中心Pよりも軸方向一方側に形成されていて、玉13と接触可能である第一平面31と、ポケット中心Pよりも軸方向他方側に形成されていて、玉13と接触可能である第三平面33及び第四平面34とを有する。
【0040】
図10に示す形態では、第一平面31は、第一環状部20aの軸方向他方側の面に設けられており、玉13と点接触可能である。第一平面31は、玉13の自転軸(回転中心線S)の延長線と交差する。
図10に示す形態では、第一平面31は、玉13の自転軸(回転中心線S)の延長線と直交する。第三平面33は、ポケット中心Pよりも軸方向他方側に形成されている。具体的に説明すると、第三平面33は、第二環状部20bと第一柱部21aとの境界部分を含む領域に設けられており、玉13と点接触可能である。第四平面34は、ポケット中心Pよりも軸方向他方側に形成されている。具体的に説明すると、第四平面34は、第二環状部20bと第二柱部21bとの境界部分を含む領域に設けられており、玉13と点接触可能である。凹面30は、玉13と非接触となる面である。凹面30は、保持する玉13と中心を同じとする仮想球面Kに沿った形状を有していてもよいが、そのような形状以外の凹曲面であってもよい。
【0041】
以上のように、前記各形態(
図4、
図8、
図9、
図10)の玉軸受18では、玉13は、第一平面31、第三平面33、及び、第四平面34のうち、少なくとも1つの平面に点接触して、保持器14に保持される。このような玉軸受18によれば、玉13が、ポケット面23の第一平面31、第三平面33、及び、第四平面34のうち、少なくとも1つの平面に接触して保持器14に保持される場合に、その接触位置において玉13は前記平面に点接触する。このため、接触位置において、ポケット面23(前記平面)と玉13との間にグリースなどの潤滑剤が介在しやすくなり、玉軸受18の回転抵抗を低減することが可能となる。
【0042】
前記各形態(
図4、
図8、
図9、
図10)の玉軸受18では、保持器14は、径方向および軸方向に変位しても、内輪17及び外輪11に非接触である。その代わり、保持器14は、径方向および軸方向に変位すると、第一平面31、第三平面33、及び、第四平面34のうち、少なくとも1つの平面で、玉13に点接触する。このため、各形態の玉軸受18は、保持器14が外輪11または内輪17によって位置決めされる軌道輪案内の軸受ではなく、玉13によって保持器14が径方向および軸方向について位置決めされる転動体案内の軸受となる。転動体案内の軸受の場合であっても、玉13は、第一平面31、第三平面33、及び、第四平面34のうち、少なくとも1つの平面に点接触する構成が得られる。
【0043】
前記各形態(
図4、
図8、
図9、
図10)の玉軸受18では、玉13は、凹面30に非接触であって、第一平面31、第三平面33、及び、第四平面34のうち、少なくとも1つの平面に点接触する。仮に、玉13と凹面30とが接触する場合、それらは楕円の範囲で接触することから、面接触に近づき、潤滑剤のせん断抵抗が大きくなりやすい。しかし、前記各形態の玉軸受18によれば、玉13はポケット面23(前記平面)に点接触することから、潤滑剤のせん断抵抗が小さくなり、玉軸受18の回転抵抗を低減することが可能となる。
【0044】
前記各形態の玉軸受18の場合、第一平面31は、玉13の自転軸(回転中心線S)の延長線と交差する(直交する)。玉13の外面のうち、玉13の自転軸と交差する点では、玉13の周速度(自転速度)が遅くなる(0に近づく)。このため、第一平面31では、玉13との接触による潤滑剤のせん断抵抗を更に低減することが可能となる。第三平面33および第四平面34それぞれは、玉13の自転軸(回転中心線S)と交差しないが、ポケット面23のうち、柱部21の軸方向他方側の端部において、玉13の自転軸に最も近い位置を含む範囲に形成されている。これにより、第三平面33および第四平面34においても、玉13の周速度(自転速度)ができるだけ小さくなる位置で、玉13が第三平面33および第四平面34に接触することが可能である。
【0045】
前記実施形態では、本発明の玉軸受が車輪用の軸受装置10に含まれる場合について説明したが、本発明の玉軸受は、他の用途であってもよく、外輪、内輪、複数の玉、およびこれら玉を保持する保持器を有する玉軸受であればよい。そして、その保持器のポケット面が前記各形態のように構成されている。
【0046】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0047】
11 外輪
13 玉
14 保持器
17 内輪
18 第一の玉軸受(玉軸受)
20 環状部
20a,20b 環状部
21 柱部
21a 第一柱部
21b 第二柱部
22 ポケット
23 ポケット面
24 柱本体
25 爪部
25a 第一爪部
25b 第二爪部
30 凹面
31 第一平面
32 第二平面
33 第三平面
34 第四平面
B 間隔
D 直径
K 仮想球面
P ポケット中心
S 回転中心線(自転軸)