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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128315
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】鋼管矢板の継手構造
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/12 20060101AFI20230907BHJP
【FI】
E02D5/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032579
(22)【出願日】2022-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100172096
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 理太
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】田中 智宏
(72)【発明者】
【氏名】有賀 洋一郎
【テーマコード(参考)】
2D049
【Fターム(参考)】
2D049FB03
2D049FB14
2D049FC03
2D049FC15
(57)【要約】
【課題】鋼管矢板の打設時に鋼管矢板の施工管理基準内の偏心が生じた場合でも確実に継手の係合状態を維持することができる鋼管矢板の継手構造の提供。
【解決手段】この鋼管矢板の継手構造3は、継手部材5の支持体が鋼管矢板2の外周に固定された固定支持部9と、一端に係合体8を支持させた可動支持部10とを備え、可動支持部に、上下方向に間隔をおいて複数のスライド用長孔14,14が形成され、固定支持部に保持されたスライドキー12がスライド用長孔14に挿通され、固定支持部9と可動支持部10とがスライドキー12を介して接線方向及び法線方向に移動可能に連結されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ隣り合う鋼管矢板の外周に支持された一対の継手部材を備え、該両継手部材が互いに係合されるようにした鋼管矢板の継手構造において、
前記継手部材の一方又は両方は、前記鋼管矢板の外周に固定された支持体と、該支持部に支持された係合体とを備え、
前記支持体は、前記鋼管矢板の外周に固定された固定支持部と、一端に前記係合体を支持させた可動支持部とを備え、
前記固定支持部又は前記可動支持部の何れか一方に、上下方向に間隔をおいて複数の接線方向に長いスライド用長孔が形成され、
前記固定支持部又は前記可動支持部の何れか他方に上下方向に間隔をおいて保持された複数のスライドキーが前記スライド用長孔に挿通され、前記固定支持部と前記可動支持部とが前記スライドキーを介して接線方向及び法線方向に移動可能に連結されていることを特徴としてなる鋼管矢板の継手構造。
【請求項2】
前記スライドキーは、前記固定支持部又は前記可動支持部の何れか他方に形成された接線方向に長いスライド用長孔に挿通させた状態で保持されている請求項1に記載の鋼管矢板の継手構造。
【請求項3】
前記固定支持部は、互いに間隔を置いて対向する一対の固定支持板で構成され、該固定支持板間に板状の前記可動支持部が挿通されている請求項1又は2に記載の鋼管矢板の継手構造。
【請求項4】
前記可動支持部は、互いに間隔を置いて対向する一対の可動支持板で構成され、該可動支持板間に板状の前記固定支持部が挿通されている請求項1又は2に記載の鋼管矢板の継手構造。
【請求項5】
前記固定支持部と前記可動支持部は、互いに重ね合わせ配置された一対の板材によって構成されている請求項1又は2に記載の鋼管矢板の継手構造。
【請求項6】
前記スライドキーは、両端部に前記スライド用長孔の縦幅より大きい抜け止め体を備え、該抜け止め体が前記スライド用長孔の縁部と係合した状態で前記スライドキーと前記スライド用長孔とが接線方向で相対移動するようにした請求項5に記載の鋼管矢板の継手構造。
【請求項7】
前記スライドキーは、筒状の外スライド管と、該外スライド管と軸方向にスライド可能に嵌合する内スライド管と、該内外スライド管を互いに収縮方向に付勢する弾性体とを備えている請求項5又は6に記載の鋼管矢板の継手構造。
【請求項8】
互いに嵌合する内スライド管の外周面又は外スライド管の内周面に弾性体からなるスライド抵抗部材が固定され、該スライド抵抗部材が外スライド管の内周面又は内スライド管の内周面に接触している請求項7に記載の鋼管矢板の継手構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隣り合う鋼管矢板間を連結する鋼管矢板の継手構造に関する。
【背景技術】
【0002】
土留め壁や鋼管矢板井筒基礎等に用いられる連続鋼管矢板壁は、隣り合う鋼管矢板間が継手構造を介して連結されている。
【0003】
この種の鋼管矢板の継手構造は、それぞれ隣り合う鋼管矢板の外周に支持された一対の継手部材が互いに係合されるようになっており、所謂「L-T形」継手、「P-T形」継手及び「P-P形」継手の3種類が標準として広く用いられており、このうちの「P-P形」継手は、井筒鋼管矢板基礎における標準の継手とされている。
【0004】
「P-P形」継手は、隣り合う両鋼管矢板の外周面にそれぞれ継手用鋼管が固定され、互いに継手用鋼管に形成されたスリットを通して両継手用鋼管を係合させるようになっている。
【0005】
一方、鋼管矢板の打設は、慎重な施工管理を行ったとしても、設計通りの理想的な平面の位置および地盤中に鉛直に打設することは容易でなく、各種管理基準によってある程度の偏心が許容されている。
【0006】
継手構造によって連結される鋼管矢板基礎の打設管理においては、一般に、鋼管矢板の傾斜に関する管理基準値は示されておらず、平面的に見た場合の偏心量が300mm以内と規定されている(例えば、非特許文献2を参照)。
【0007】
鋼管矢板の管理基準に比べて厳しい既製杭(鋼管杭やコンクリート杭)の打設に関する一般的な管理基準では、平面的に見た場合の偏心量が杭径の1/4且つ100mm以下、杭の傾斜が1/100以下と規定されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【0008】
ここで、杭の傾斜について「1/100の傾斜」とは、長さ10mの杭の場合、杭の底部と頭部で最大100mmの打設誤差を許容することを意味しており、傾斜に伴う杭の偏心量は深さ方向に異なることもある。
【0009】
一方、この種の継手構造では、継手部材の寸法が標準化されており、例えば、「P-P形」継手の一例として図に示すような寸法のものが知られている。
【0010】
よって、この種の標準化された継手構造を使用する場合では、鋼管矢板を打設する際、標準寸法に基づいて両継手部材が物理的に係合可能な許容偏心量に拘束されるようになっている。
【0011】
特に、P-P形継手は、継手鋼管間の遊間が少ないことから、上記のような偏心が生じた状況下において係合させることが難しく、例えば、標準係合状態の継手間隔247.8mmに対し、引張および圧縮係合状態では+12.8mm~-8.8mmの範囲の偏心量しか許容できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【非特許文献1】鋼管杭・鋼管矢板の附属品の標準化(改訂第10版),一般社団法人 鋼管杭・鋼管矢板技術協会,2018年5月
【非特許文献2】土木工事施工管理基準及び規格値(案),国土交通省,平成30年3月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上述の如き従来の継手構造では、継手部材の寸法が標準化されており、この種の標準化された継手構造を使用する場合では、鋼管矢板を打設する際、標準寸法に基づいて両継手部材が物理的に係合可能な許容偏心量に拘束されるようになっている。
【0014】
特に、P-P形継手は、継手鋼管間の遊間が少ないことから、上記のような偏心が生じた状況下において係合させることが難しく、例えば、標準係合状態の継手間隔247.8mmに対し、引張および圧縮係合状態では+12.8mm~-8.8mmの範囲の偏心量しか許容できない。
【0015】
また、傾斜に伴う鋼管矢板の偏心量は、深さ方向に異なることも考えられ、最悪の場合は継手が離脱(係合が外れる)に至る可能性もある。
【0016】
よって、従来の技術では、施工管理基準値を下回る杭の偏心量にしか対応できず、要求される杭打設の施工精度はより厳しくなるという問題があり、鋼管矢板が長くなるほどその問題が顕著となる。
【0017】
そこで、本発明は、このような従来の問題に鑑み、鋼管矢板の打設時に鋼管矢板の施工管理基準内の偏心が生じた場合でも確実に継手の係合状態を維持することができる鋼管矢板の継手構造の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上述の如き従来の問題を解決するための請求項1に記載の発明の特徴は、それぞれ隣り合う鋼管矢板の外周に支持された一対の継手部材を備え、該両継手部材が互いに係合されるようにした鋼管矢板の継手構造において、前記継手部材の一方又は両方は、前記鋼管矢板の外周に固定された支持体と、該支持部に支持された係合体とを備え、前記支持体は、前記鋼管矢板の外周に固定された固定支持部と、一端に前記係合体を支持させた可動支持部とを備え、前記固定支持部又は前記可動支持部の何れか一方に、上下方向に間隔をおいて複数の接線方向に長いスライド用長孔が形成され、前記固定支持部又は前記可動支持部の何れか他方に上下方向に間隔をおいて保持された複数のスライドキーが前記スライド用長孔に挿通され、前記固定支持部と前記可動支持部とが前記スライドキーを介して接線方向及び法線方向に移動可能に連結されていることにある。
【0019】
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記スライドキーは、前記固定支持部又は前記可動支持部の何れか他方に形成された接線方向に長いスライド用長孔に挿通させた状態で保持されていることにある。
【0020】
請求項3に記載の発明の特徴は、請求項1又は2の構成に加え、前記固定支持部は、互いに間隔を置いて対向する一対の固定支持板で構成され、該固定支持板間に板状の前記可動支持部が挿通されていることにある。
【0021】
請求項4に記載の発明の特徴は、請求項1又は2の構成に加え、前記可動支持部は、互いに間隔を置いて対向する一対の可動支持板で構成され、該可動支持板間に板状の前記固定支持部が挿通されていることにある。
【0022】
請求項5に記載の発明の特徴は、請求項1又は2の構成に加え、前記固定支持部と前記可動支持部は、互いに重ね合わせ配置された一対の板材によって構成されていることにある。
【0023】
請求項6に記載の発明の特徴は、請求項5の構成に加え、前記スライドキーは、両端部に前記スライド用長孔の縦幅より大きい抜け止め体を備え、該抜け止め体が前記スライド用長孔の縁部と係合した状態で前記スライドキーと前記スライド用長孔とが接線方向で相対移動するようにしたことにある。
【0024】
請求項7に記載の発明の特徴は、請求項5又は6の構成に加え、前記スライドキーは、筒状の外スライド管と、該外スライド管と軸方向にスライド可能に嵌合する内スライド管と、該内外スライド管を互いに収縮方向に付勢する弾性体とを備えている
【0025】
請求項8に記載の発明の特徴は、請求項7の構成に加え、互いに嵌合する内スライド管の外周面又は外スライド管の内周面に弾性体からなるスライド抵抗部材が固定され、該スライド抵抗部材が外スライド管の内周面又は内スライド管の内周面に接触していることにある。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る鋼管矢板の継手構造は、請求項1に記載の構成を具備することによって、既設鋼管矢板が偏心している場合であっても、新設鋼管矢板を打設する際にその偏心を継手部で吸収することができ、鋼管矢板を継合させることができる。
【0027】
また、本発明において、請求項2の構成を具備することによって、固定支持部と可動支持部との接線方向の可動距離を長くすることができる。
【0028】
また、本発明において、請求項3の構成を具備することによって、互いに対向する固定支持板間によって想定以上の可動支持部の法線方向の移動を規制することができる。
【0029】
また、本発明において、請求項4の構成を具備することによって、互いに対向する固定支持板間によって想定以上の可動支持部の法線方向の移動を規制することができる。
【0030】
また、本発明において、請求項5の構成を具備することによって、鋼管矢板の接線方向の偏心を吸収することができる。
【0031】
また、本発明において、請求項6の構成を具備することによって、固定支持板と可動支持部を確実に連結させることができる。
【0032】
また、本発明において、請求項7の構成を具備することによって、スライドキーの伸縮により固定支持部と可動支持部との法線方向の位置ズレを吸収することができる。
【0033】
また、本発明において、請求項8の構成を具備することによって、固定支持部と可動支持部との変位を制限することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明に係る鋼管矢板の継手構造を使用した鋼管矢板連続壁を示す正面図である。
図2】(a)は図1中の鋼管矢板の継手構造の一例を示す部分拡大平面図、(b)は同部分拡大正面図である。
図3】同上の継手構造の分解斜視図である。
図4】(a)は同上の鋼管矢板の継手構造において鋼管矢板が偏心した際の状態を示す部分拡大平面図、(b)は同部分拡大正面図である。
図5】同上の鋼管矢板の継手構造の他の一例を示す分解斜視図である。
図6】同上の鋼管矢板の継手構造のさらに他の一例を示す分解斜視図である。
図7図6に示す継手部の拡大横断面図であって、(a)は通常の状態、(b)は同接線方向に伸長した状態、(c)は同法線方向に移動した状態を示す図である。
図8】同上の伸縮式スライドキーの他の一例を示す縦断面図である。
図9図6に示す継手部の他の実施例を示す拡大横断面図である。
図10】従来の鋼管矢板の継手構造の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
次に、本発明に係る鋼管矢板の継手構造の実施態様を図1図5に示した実施例に基づいて説明する。図中符号1は鋼管矢板連続壁、符号2は鋼管矢板連続壁を構成する鋼管矢板2である。尚、本実施例においては、所謂「P-P形」継手を例に説明する。
【0036】
鋼管矢板連続壁1は、図1に示すように、縦向きに打設された複数の鋼管矢板2,2…を備え、隣り合う鋼管矢板2,2間が継手構造3を介して連結されている。
【0037】
この継手構造3は、図2図3に示すように、それぞれ隣り合う鋼管矢板2の外周に支持された一対の継手部材4,5を備え、両継手部材4,5が互いに係合されるようになっている。
【0038】
この一対の継手部材4,5は、連結される鋼管矢板2,2の外周面の互いに向かい合った位置にそれぞれ配置され、隣り合う一方の鋼管矢板2の継手部材4と、他方の鋼管矢板2の継手部材5とが係合するようになっている。
【0039】
継手部材4は、継手用鋼管によって構成され(以下、継手用鋼管4という)、直径方向の一端が溶接等によって鋼管矢板2の外周面に固定され、周方向の所定の位置に縦向きのスリット6が形成されている。
【0040】
スリット6は、幅が後述する他方の継手部材5の係合部を構成する係合体用鋼管8の肉厚より広く形成され、スリットを通して継手用鋼管4と係合体用鋼管8とが上下方向に挿通し、係合できるようになっている。
【0041】
継手部材5は、鋼管矢板2の外周に固定された支持体7と、支持体7に支持された係合体(以下、係合体用鋼管8という)とを備え、支持体7に支持された係合体用鋼管8を継手用鋼管4と係合させるようになっている。
【0042】
係合体用鋼管8は、鋼管によって構成され、直径方向の一端が溶接等によって支持体7を構成する可動支持部10に固定され、周方向の所定の位置に縦向きのスリット6が形成され、係合体用鋼管8が継手部材を構成する継手用鋼管4と互いのスリット6,6を通して係合するようになっている。
【0043】
支持体7は、鋼管矢板2の外周に固定された固定支持部9と、一端に係合体用鋼管8を支持させた可動支持部10とを備え、固定支持部9に対し可動支持部10が接線方向及び法線方向に所定の範囲で移動できるようになっている。
【0044】
固定支持部9は、互いに法線方向に間隔をおいて対向した一対の固定支持板9a,9aによって構成され、両固定支持板9a,9a間に板状の可動支持部10が挿通されている。
【0045】
両固定支持板9a,9aは、鋼板等からなる細長板状に形成され、長辺の一方が鋼管矢板2の外周に溶接等によって鋼管矢板2の全長に亘って固定されている。尚、両固定支持板9a,9a間の法線方向距離は、後述する板状の可動支持部10の板厚よりやや広く、両固定支持板9a,9a間で可動支持部10が法線方向で若干量移動できるようになっている。
【0046】
両固定支持板9a,9aには、それぞれ同じ高さで鋼管矢板2の軸方向に間隔をおいて形成された貫通孔11が形成され、両固定支持板9a,9aの同じ高さの貫通孔11にスライドキー12が貫通され、両固定支持板9a,9a間に跨ってスライドキー12が保持されている。尚、貫通孔11の内径は、スライドキー12の外径と略同じ大きさとなっている。
【0047】
スライドキー12は、鋼棒等によって丸棒状に形成され、両端部がそれぞれ固定具13,13によって各固定支持板9a,9aの外側面、即ち、互いに対向する面とは反対側の面に固定されている。尚、固定具13の寸法は、貫通孔11の孔径及び後述するスライド用長孔14の縦幅(短辺幅)より大きく、スライドキー12が抜けないようになっている。
【0048】
可動支持部10は、鋼板等によって細長板状に形成され、一方の長辺部に係合体用鋼管8が溶接等によって固定されている。
【0049】
この可動支持部10は、固定支持板9a,9aと略同じ長さに形成され、スライドキー12の位置に合わせて、上下方向に間隔をおいて複数の接線方向に長いスライド用長孔14,14…が板厚方向に貫通して形成されている。
【0050】
スライド用長孔14は、事前に想定した許容されるスライド量に合わせて長さが設定され、固定支持部9に保持されたスライドキー12がスライド用長孔14の端に当接するまで固定支持部9に対し接線方向に可動支持部10が移動できるようになっている。
【0051】
可動支持部10は、両固定支持板9a,9a間に挿通され、スライド用長孔14,14…にスライドキー12が貫通され、スライドキー12を介して固定支持部9に可動支持部10が接線方向に移動可能に連結されている。
【0052】
このように構成された鋼管矢板の継手構造は、新設鋼管矢板2を打設する際、隣り合う鋼管矢板2の接線方向で鋼管矢板2が互いに離間する方向に偏心が生じると、図4に示すように、固定支持部9及び可動支持部10が互いに鋼管矢板2の接線方法(X方向)にスライド移動し、偏心を許容することができる。
【0053】
また、鋼管矢板2の法線方向(Y方向)の若干の偏心に対しても固定支持板9a,9a間の遊間を可動支持部10が移動することにより偏心を吸収することができる。
【0054】
このように本継手構造では、偏心が生じても固定支持部9と可動支持部10とがスライド移動することによって、確実に両継手部材4,5を物理的に係合させた状態を維持することができ、鋼管矢板2としての一体性を確保できる。また、必要に応じ両継手部材4,5を係合させた後、継手用鋼管4及び係合体用鋼管8内にグラウト等の充填材を充填・固化させることによって安定して係合させ、止水することができる。
【0055】
尚、上述の実施例では、固定支持部9を一対の固定支持板9a,9aによって構成し、両固定支持板9a,9a間にスライド用長孔14,14…を有する板状の可動支持部10が移動可能に挿入されている場合について説明したが、図5に示すように、可動支持部10を互いに間隔を置いて対向する一対の可動支持板10a,10aで構成し、可動支持板10a,10a間にスライド用長孔14,14…が形成された板状の固定支持部9が挿通されているものであってもよい。
【0056】
さらに、上述の実施例では、可動支持部10にスライド用長孔14,14…を設け、固定支持部9に貫通孔11を設けた場合について説明したが、固定支持部9側にスライド用長孔14,14…を設け、可動支持部10に貫通孔11を設けてもよく、貫通孔11に替えて固定支持部9及び可動支持部10の双方にスライド用長孔14,14…を設け、スライドキー12を固定支持板9a,9a及び可動支持板10a,10aに形成されたスライド用長孔14,14…に挿通させた状態で保持させるようにしてもよい。
【0057】
さらにまた、本発明に係る鋼管矢板の継手構造3は、上述の実施例に限定されず、例えば、図6に示すように、固定支持部9と可動支持部10がそれぞれ互いに重ね合わせ配置された各1枚の板材によって構成され、両板材9,10が貫通孔11及びスライド用長孔14(又は貫通孔11に替えて固定支持部9及び可動支持部10の双方に設けたスライド用長孔14,14)に通したスライドキー20を介して接線方向及び法線方向に移動可能な状態で連結されたものであってもよい。尚、上述の実施例と同様の構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0058】
この場合、スライドキーには、例えば、図7図8に示すような伸縮式スライドキー20を使用してもよく、図9に示す長さ固定式のスライドキー26を使用してもよい。
【0059】
伸縮式スライドキー20は、筒状の外スライド管21と、外スライド管21と軸方向にスライド可能に嵌合する内スライド管22と、内外スライド管21,22を互いに収縮方向に付勢する弾性体23と、内外スライド管21,22の端部に固定された抜け止め体24,24とを備えている。
【0060】
固定支持部9及び可動支持部10には、それぞれ同じ高さに対応する貫通孔11(又はスライド用長孔14)とスライド用長孔14とが形成され、重ね合わされた固定支持部9及び可動支持部10の貫通孔11とスライド用長孔14とを伸縮式スライドキー20が貫通し、抜け止め体24,24がそれぞれ貫通孔11の縁部とスライド用長孔14の縁部とに係合されている。
【0061】
外スライド管21及び内スライド管22は、それぞれ径の異なる筒状に形成され、互いに軸方向にスライド可能な状態で嵌合されるようになっている。
【0062】
また、外スライド管21及び内スライド管22は、一端がそれぞれ抜け止め体24,24を構成する蓋体によって閉鎖され、この蓋体に弾性体23の一端がそれぞれ固定され、内外スライド管21,22を互いに収縮方向に付勢するようになっている。
【0063】
弾性体23は、例えば、コイルばねによって構成され、弾性変形した状態で両端が蓋体に固定され、内外スライド管21,22を互いに収縮方向に付勢するようになっている。尚、弾性体23は、コイルばねに限定されず、ゴム材等であってもよい。
【0064】
また、図8に示すように、互いに嵌合する内スライド管22の外周面又は外スライド管21の内周面にゴム等の弾性部材からなるスライド抵抗部材25を固定し、スライド抵抗部材25を外スライド管21の内周面又は内スライド管22の内周面に接触させておき、スライド抵抗部材25の摩擦抵抗によって容易に内外スライド管21,22が伸縮せず、固定支持部9と可動支持部10との接線及び法線方法の変位を制限するようにしてもよい。
【0065】
この伸縮式スライドキー20を用いた継手構造では、板状の可動支持部10に形成されたスライド用長孔14に固定支持部9に設けた貫通孔11に保持された伸縮式スライドキー20が貫通され、通常の状態では、図7(a)に示すように、伸縮式スライドキー20の弾性体23による付勢力で互いに押圧され、固定支持部9と可動支持部10とが重ね合わされた状態で連結される。
【0066】
一方、両鋼管矢板2,2間が接線方向で偏心した場合には、図7(b)に示すように、スライド用長孔14により固定支持部9と可動支持部10とが互いに接線方向で移動し、偏心を吸収するようになっている。
【0067】
また、両鋼管矢板間に法線方向で偏心が生じた場合は、図7(c)に示すように、弾性体23の付勢力に抗して伸縮式スライドキー20が伸長し、法線方向の偏心を吸収するようになっている。
【0068】
図9に示すスライドキー26は、丸棒状に形成され、その両端にスライド用長孔14の縦幅及び貫通孔10の内径より大きい抜け止め体24,24を備え、抜け止め体24,24がスライド用長孔14の縁部又は貫通孔11の縁部に係合され、両板材9,10が貫通孔11及びスライド用長孔14に通したスライドキー26を介して接線方向及び法線方向に移動可能な状態で連結されている。
【0069】
この場合、固定支持部9と可動支持部10との接線方向への変位量は、スライド用長孔14の横幅(長手方向幅)によって設定されるが、固定支持部9と可動支持部10の法線方向への変位量は、固定支持部9の板厚、可動支持部10の板厚及びスライドキー26の長さで定めることができる。
【0070】
尚、上述の実施例では、「P-P形」継手を例に説明したが、本願発明は、「L-T形」継手又は「P-T形」継手にも適用することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 鋼管矢板連続壁
2 鋼管矢板
3 継手構造
4 継手部材(継手用鋼管)
5 継手部材
6 スリット
7 支持体
8 係合体(係合体用鋼管)
9 固定支持部
10 可動支持部
11 貫通孔
12 スライドキー
13 固定具
14 スライド用長孔
20 スライドキー(伸縮式スライドキー)
21 外スライド管
22 内スライド管
23 弾性体
24 抜け止め体
25 スライド抵抗部材
26 スライドキー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10