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特開2023-128324原子炉停止システム及び原子炉停止方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128324
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】原子炉停止システム及び原子炉停止方法
(51)【国際特許分類】
   G21C 7/14 20060101AFI20230907BHJP
   G21C 9/027 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
G21C7/14
G21C9/027
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032593
(22)【出願日】2022-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大槻 昇平
(72)【発明者】
【氏名】蒲原 覚
(72)【発明者】
【氏名】淀 忠勝
(72)【発明者】
【氏名】小林 翔太
(72)【発明者】
【氏名】村上 望
(72)【発明者】
【氏名】中里 道
(72)【発明者】
【氏名】佐野 圭祐
(72)【発明者】
【氏名】藤原 大祐
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 寛和
(72)【発明者】
【氏名】田中 豊
(72)【発明者】
【氏名】石黒 達男
(72)【発明者】
【氏名】野口 浩徳
(72)【発明者】
【氏名】東海林 剛
(72)【発明者】
【氏名】唐戸 孝典
(72)【発明者】
【氏名】宮本 貴洋
(57)【要約】
【課題】安全性及び迅速性を維持しつつ、小型の原子炉に適用可能な緊急停止用の原子炉停止システム及び原子炉停止方法を提供する。
【解決手段】原子炉停止システムは、原子炉容器に密閉状態に格納される炉心燃料の間を通り、一方の端部が開口し他方の端部が閉塞する遮へい通路と、遮へい通路の開口から進入可能な中性子吸収材と、圧縮した状態から解放されることで中性子吸収材を遮へい通路の開口から内部に進入する方向へ付勢する弾性部材と、弾性部材の圧縮状態を維持するように配置され、閾値温度以上になった場合に弾性部材の圧縮状態を解放する制動部と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉容器に密閉状態に格納される炉心燃料の間を通り、一方の端部が開口し他方の端部が閉塞する遮蔽通路と、
前記遮へい通路の前記開口から進入可能な中性子吸収材と、
圧縮した状態から解放されることで前記中性子吸収材を前記遮へい通路の前記開口から内部に進入する方向へ付勢する弾性部材と、
前記弾性部材の圧縮状態を維持するように配置され、閾値温度以上になった場合に前記弾性部材の圧縮状態を解放する制動部と、
を備える原子炉停止システム。
【請求項2】
前記炉心燃料と前記原子炉容器とを含む原子炉と、
前記原子炉容器の内部に配置され、前記炉心燃料の熱を固体熱伝導で伝達する熱伝導部と、
を備える原子炉ユニットに設けられる請求項1に記載の原子炉停止システム。
【請求項3】
前記制動部は、前記閾値温度以上で溶融する又は変質する材料で形成される請求項1又は2に記載の原子炉停止システム。
【請求項4】
前記中性子吸収材は、前記遮へい通路が延びる方向に延びる棒状である請求項1から3のいずれか1項に記載の原子炉停止システム。
【請求項5】
前記弾性部材が圧縮状態から解放されるのに伴って、前記中性子吸収材を前記遮へい通路の前記開口から内部へ向かって送り出す送り出し部材を備える請求項1から3のいずれか1項に記載の原子炉停止システム。
【請求項6】
前記送り出し部材は、一方の端部に前記制動部が配置され、他方の端部が前記遮へい通路の前記開口に連通するシリンダと、前記弾性部材の弾性力によって前記シリンダの内部を往復移動可能なピストンと、を有し、
前記中性子吸収材は、前記ピストンより前記遮へい通路側の前記シリンダの内部に収容され、前記ピストンが前記遮へい通路側へ付勢されることによって前記遮へい通路の前記開口から内部へ向かって送り出される請求項5に記載の原子炉停止システム。
【請求項7】
前記中性子吸収材は、複数の固形の球体である請求項6に記載の原子炉停止システム。
【請求項8】
前記制動部を前記閾値温度以上まで加熱可能な加熱ユニットと、
前記加熱ユニットに前記制動部を加熱させるための制御信号を送る制御部と、をさらに備える請求項1から7のいずれか1項に記載の原子炉停止システム。
【請求項9】
原子炉容器に密閉状態に格納される炉心燃料の間を通り、一方の端部が開口し他方の端部が閉塞する遮へい通路と、
前記遮へい通路の前記開口から進入可能な中性子吸収材と、
圧縮した状態から解放されることで前記中性子吸収材を前記遮へい通路の前記開口から内部に進入する方向へ付勢する弾性部材と、
前記弾性部材の圧縮状態を維持するように配置され、閾値温度以上になった場合に前記弾性部材の圧縮状態を解放する制動部と、において、
前記制動部が前記閾値温度以上になった場合に前記弾性部材の圧縮状態が解放されることで、前記弾性部材に付勢された前記中性子吸収材が、前記遮へい通路の前記開口から内部に進入する原子炉停止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、原子炉停止システム及び原子炉停止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
核燃料を用い、核反応の熱を利用して発電を行う原子力発電システムでは、原子炉で生じた熱を原子炉と二次冷却系統との間で一次冷却材が循環する一次冷却系統で回収し、一次冷却材と二次冷却材とで熱交換を行い、二次冷却系統に設けられたタービンを二次冷却材のエネルギーで回転させて発電を行う。このような原子力設備では、緊急時に原子炉の核反応を停止させるためのシステムが備えられている。例えば、特許文献1には、炉出力増大時に溶断するストッパーによって上部に固定された中性子吸収体を含む制御要素ピンが内包される燃料集合体が開示されている。このような燃料集合体を備える原子炉では、炉出力増大時にストッパーが溶断して中性子吸収体が燃料部の間に落下して原子炉を停止させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭62-47585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、原子炉を用いた発電設備等として、比較的小型の原子炉を用いた設備が検討されており、例えば、一次冷却材が循環する一時冷却系統を有さず、原子炉容器内の熱を外部に固体熱伝導で伝える熱伝導部を有するマイクロ炉が提案されている。このような小型の原子炉を用いる場合、従来の原子炉停止システムをそのまま適用することが困難な場合がある。
【0005】
本開示は、上述した課題を解決するものであり、安全性及び迅速性を維持しつつ、小型の原子炉に適用可能な緊急停止用の原子炉停止システム及び原子炉停止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するために、本開示の一態様に係る原子炉停止システムは、原子炉容器に密閉状態に格納される炉心燃料の間を通り、一方の端部が開口し他方の端部が閉塞する遮へい通路と、前記遮へい通路の前記開口から進入可能な中性子吸収材と、圧縮した状態から解放されることで前記中性子吸収材を前記遮へい通路の前記開口から内部に進入する方向へ付勢する弾性部材と、前記弾性部材の圧縮状態を維持するように配置され、閾値温度以上になった場合に前記弾性部材の圧縮状態を解放する制動部と、を備える。
【0007】
上述の目的を達成するために、本開示の一態様に係る原子炉停止方法は、原子炉容器に密閉状態に格納される炉心燃料の間を通り、一方の端部が開口し他方の端部が閉塞する遮へい通路と、前記遮へい通路の前記開口から進入可能な中性子吸収材と、圧縮した状態から解放されることで前記中性子吸収材を前記遮へい通路の前記開口から内部に進入する方向へ付勢する弾性部材と、前記弾性部材の圧縮状態を維持するように配置され、閾値温度以上になった場合に前記弾性部材の圧縮状態を解放する制動部と、において、前記制動部が前記閾値温度以上になった場合に前記弾性部材の圧縮状態が解放されることで、前記弾性部材に付勢された前記中性子吸収材が、前記遮へい通路の前記開口から内部に進入する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、安全性及び迅速性を維持しつつ、小型の原子炉に適用可能であるいう効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施形態に係る原子力発電システムの概略構成を示す模式図である。
図2図2は、本実施形態に係る原子炉停止システムを備える原子炉ユニットの概略構成を示す模式図である。
図3図3は、図2に示す原子炉停止システムが作動した状態を示す模式図である。
図4図4は、原子炉停止システムの他の例を備える原子炉ユニットを示す模式図である。
図5図5は、図4に示す原子炉停止システムが作動した状態を示す模式図である。
図6図6は、原子炉停止システムの他の例を備える原子炉ユニットを示す模式図である。
【0010】
(実施形態)
以下に、本開示に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、実質的に同一のもの、あるいは均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態における構成要素は、本開示の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。下記実施形態では、実施形態を例示する上で、必要となる構成要素を説明し、その他の構成要素を省略するとともに、同一構成には同一符号を付し、異なる構成には異なる符号を付すものとする。
【0011】
図1は、本実施形態に係る原子力発電システムの概略構成を示す模式図である。図1に示す原子力設備は、原子炉で発生した熱を用いて発電を行う原子力発電の場合として説明するが、本開示はこれに限定されない。原子炉で発生した熱を発電以外の用途に用いる設備にも適用可能である。また、原子炉で発生する放射線を用いて放射性物質を製造する設備としても用いることができる。図1に示す原子力発電システム10は、原子炉ユニット12と、発電ユニット13と、を含む。発電ユニット13は、冷媒循環手段16と、タービン18と、発電機20と、冷却器22と、圧縮機24と、再生熱交換器26と、を有する。
【0012】
原子炉ユニット12は、原子炉30と、熱伝導部32と、原子炉停止システム50と、を有する。原子炉30は、原子炉容器40と、炉心燃料42と、制御ユニット44と、を有する。原子炉容器40は、内部に炉心燃料42が格納されている。原子炉容器40は、炉心燃料42を密閉状態で格納する。原子炉容器40は、内部に載置する炉心燃料42が挿抜できるように、開閉部が設けられている。開閉部は、例えば蓋である。原子炉容器40は、内部で核反応がおき、内部が高温、高圧になった場合でも、密閉状態を維持することができる。また、原子炉容器40は、中性子線の遮へい性能を備える材料で形成され、内部で生じた中性子線が外部に漏えいしない厚みで形成されている。原子炉容器40は、例えばコンクリートで形成されている。原子炉容器40は、ボロン等の遮へい性の高い元素を含めてもよい。
【0013】
炉心燃料42は、複数の燃料保持板43を含む。燃料保持板43は、内部に複数の核燃料が配置される。燃料保持板43は、核燃料で発生した熱を伝熱する材料で形成される。燃料保持板43は、グラファイト、シリコンカーバイド等を用いることができる。炉心燃料42は、核燃料が核反応を生じることで反応熱が生じる。
【0014】
制御ユニット44は、炉心燃料42の間に移動可能な遮へい材を有する。遮へい材は、放射線を遮へいし、核反応を抑制する機能を備える、いわゆる制御棒である。原子炉30は、制御ユニット44を移動させ、遮へい材の位置を調整することで、炉心燃料42の反応を制御する。
【0015】
熱伝導部32は、図1示すように、原子炉容器40の内部に配置され、燃料保持板43と接している。本実施形態の熱伝導部32は、複数の板形状であり、燃料保持板43と交互に積層された構造である。熱伝導部32は、燃料保持板43よりも外形形状が大きい板であり、燃料保持板43が配置されていない領域に突出している。ここで、熱伝導部32は、例えば、チタン、ニッケル、銅、グラファイト、グラフェンを用いることができる。
【0016】
熱伝導部32は、突出している部分への熱伝達効率を高くするために、板の表面に沿った方向に熱が伝導しやすい向きに配置したグラフェンを用いることが好ましい。熱伝導部32は、固体熱伝導で熱を伝達する。つまり、熱伝導部32は、熱媒(流体)を用いずに、熱を伝達する。具体的には、熱伝導部32は、炉心燃料42で生じた熱を固体熱伝導で発電ユニット13に伝達する。
【0017】
原子炉ユニット12は、原子炉30の内部の炉心燃料42で核反応が生じ、反応熱が発生する。発生した熱は、原子炉容器40の内部に溜められ、内部が高温となる。また、原子炉ユニット12は、原子炉30で発生した熱の一部が、熱伝導部32に伝達される。熱伝導部32は、発電ユニット13の冷媒循環手段16に流れる冷媒を加熱する。ここで、冷媒としては、二酸化炭素(CO)を用いることが好ましい。
【0018】
原子炉停止システム50は、炉心燃料42の核反応を緊急停止するためのシステムである。実施形態の原子炉停止システム50の詳細な構成については、後述にて説明する。
【0019】
冷媒循環手段16は、原子炉容器40の外を循環する循環経路34と、原子炉容器40の内部を循環する熱交換部36と、を有する。冷媒循環手段16は、循環経路34と、熱交換部36とが閉ループを形成し、循環される。循環経路34は、原子炉容器40の外で冷媒を循環させる経路であり、タービン18と、冷却器22と、圧縮機24と、再生熱交換器26とが接続されている。熱交換部36は、原子炉容器40に挿入され、内部に配置される。熱交換部36の両端は、原子炉容器40の外側に露出し、循環経路34と接続される。熱交換部36は、冷媒が流通する管路であり、熱伝導部32の炉心燃料42と接していない領域と接触する。つまり、熱交換部36は、熱伝導部32の炉心燃料42よりも突出している部分と接触する。熱交換部36は、熱伝導部32と熱交換し、冷媒を加熱する。
【0020】
冷媒循環手段16を流れる冷媒は、熱交換部36に供給される。原子力発電システム10は、熱伝導部32と、冷媒循環手段16から供給される冷媒との間で熱交換を行う。本実施形態の熱交換器は、熱伝導部32と冷媒循環手段16の熱交換部36で構成されている。熱交換器は、冷媒循環手段16を流れる冷媒で、熱伝導部32の熱を回収する。つまり冷媒は、熱伝導部32で加熱される。熱交換部36で加熱された熱媒は、タービン18、冷却器22、圧縮機24、再生熱交換器26の順で流れる。再生熱交換器26を通過した冷媒は、再度熱交換部36に供給される。このように冷媒は、冷媒循環手段16を循環される。
【0021】
タービン18は、熱伝導部32を通過した冷媒が流入する。タービン18は、加熱された冷媒のエネルギーにより回転される。つまりタービン18は、冷媒のエネルギーを回転エネルギーに変換して、冷媒からエネルギーを吸収する。発電機20は、タービン18と連結されており、タービン18と一体で回転する。発電機20は、タービン18と回転することで発電する。
【0022】
冷却器22は、タービン18を通過した冷媒を冷却する。冷却器22は、チラーや冷媒を一時的に液化する場合、復水器等である。圧縮機24は、冷媒を加圧するポンプである。再生熱交換器26は、タービン18を通過した冷媒と、圧縮機24を通過した冷媒との間で熱交換を行う。再生熱交換器26は、タービン18を通過した冷媒で、圧縮機24を通過した冷媒を加熱する。つまり、再生熱交換器26は、冷却器22で冷却される前の冷媒と、冷却器22で冷却された後の冷媒との間で熱交換を行い、冷却器22で捨てられる熱を、原子炉ユニット12に供給される前の冷媒で回収する。
【0023】
原子力発電システム10は、原子炉ユニット12の核燃料の反応で生じた熱を熱伝導部32で熱交換部36の冷媒に伝え、熱伝導部32の熱で、冷媒循環手段16を流れる冷媒を加熱する。つまり、冷媒は、熱伝導部32で伝達された熱を吸収する。これにより、原子炉ユニット12で発生した熱は、熱伝導部32により固体熱伝導で伝達され、冷媒で回収される。冷媒は、圧縮機24で圧縮された後、熱伝導部32の通過時に加熱され、圧縮され、加熱されたエネルギーでタービン18を回転させる。その後、冷却器22で基準状態まで冷却され、再び圧縮機24に供給される。
【0024】
原子力発電システム10は、以上のように、固体熱伝導で熱を伝達する熱伝導部32を用いて原子炉30の熱を、タービン18を回転する媒体となる冷媒に伝達する。
【0025】
原子力発電システム10は、冷媒として二酸化炭素を用いることで、冷媒を原子炉30の内部を流通させた場合でも、冷媒の汚染を抑制することができる。これにより、タービン18を回転する媒体が汚染される恐れを低減することができる。また、固体熱伝導で熱を伝達する熱伝導部32を設けることで、熱伝導部32で中性子線を遮へいすることができる。
【0026】
また、原子炉容器40は、熱伝導部32よりも熱伝導性が低い材料で形成されることが好ましい。これにより、熱を外に排出する経路である熱伝導部32以外の部分から原子炉30内の熱が外に排出されることを抑制できる。
【0027】
図2は、本実施形態に係る原子炉停止システムを備える原子炉ユニットの概略攻勢を示す模式図である。図3は、図2に示す原子炉停止システムが作動した状態を示す模式図である。原子炉停止システム50は、中性子吸収材52と、遮へい通路54と、弾性部材56と、制動部58と、を備える。
【0028】
中性子吸収材52は、中性子を吸収する、例えば、ボロン(B)、カドミウム(Cd)、ゼノン(Xe)、ハフニウム(Hf)等を含む物質である。図2及び図3に示す中性子吸収材52は、水平方向に延びる棒状の所謂制御棒である。中性子吸収材52は、図3に示すように、炉心に導入されることで、核燃料が吸収する中性子を減少させ、核反応を抑制させる、又は原子炉30を停止させることが可能である。
【0029】
遮へい通路54は、炉心燃料42の間を通る通路である。遮へい通路54は、中性子吸収材52の延びる方向の延長上に延びて形成される。実施形態の遮へい通路54は、炉心中央に水平方向に延びて形成される。遮へい通路54の一方(図2及び図3における左方)の端部は、炉心燃料42の外部に開口している。遮へい通路54の他方(図2及び図3における右方)の端部は、閉塞している。遮へい通路54は、開口から中性子吸収材52が進入可能である。
【0030】
弾性部材56は、遮へい通路54が開口する側の延長上において、中性子吸収材52を挟んで配置される。弾性部材56は、実施形態において、圧縮コイルバネである。弾性部材56は、圧縮コイルバネの一方の腕部が原子炉容器40に固定され、他方の腕部が中性子吸収材52に固定され、弾性力によって中性子吸収材52側が軸方向に往復移動可能である。弾性部材56は、原子炉容器40の定格運転時には、制動部58によって圧縮した状態に維持されている。弾性部材56が圧縮状態である場合、中性子吸収材52は、遮へい通路54の開口に先端のみが支持された状態を維持する。
【0031】
弾性部材56は、制動部58から解放されることで、中性子吸収材52が遮へい通路54へ進入する方向に膨らむように弾性変形可能である。すなわち、弾性部材56は、圧縮した状態から解放されることで、中性子吸収材52が遮へい通路54の開口から内部に進入する方向へ付勢する。弾性部材56は、原子炉容器40の定格運転時の温度よりも高い温度、すなわち異常な運転状態となり、後述の制動部58が閾値温度となった場合でも形状を維持できる、閾値温度よりも融点が高い材料で形成される。
【0032】
制動部58は、弾性部材56の圧縮状態を維持するように配置される。制動部58は、図2に示す例では、弾性部材56の中性子吸収材52に固定されている側から、腕部を除きコイル部分を覆うように配置される板状部分を含む。板状部分は、閾値温度以上で溶融して穴が開く又は変質して離脱する。制動部58は、例えば、閾値温度以上で開く弁体を含むものであってもよい。制動部58は、例えば、圧縮状態の弾性部材56の両端を結ぶ紐状であってもよい。
【0033】
制動部58は、所定の閾値温度より低い場合には、図2に示すように、弾性部材56が圧縮した状態を維持する。制動部58は、閾値温度以上になった場合には、図3に示すように、弾性部材56の圧縮状態を解放する。制動部58は、例えば、閾値温度以上で溶融する又は変質する材料で形成される。制動部58は、融点が、原子炉容器40の定格運転時の温度以上の材料で形成される。制動部58は、例えば、真鍮等の金属で形成される。
【0034】
原子炉停止システム50は、原子炉30の定格運転時には、制動部58の温度が閾値温度より低く維持される。この状態では、制動部58が弾性部材56の圧縮状態を維持しているため、中性子吸収材52が遮へい通路54の開口に先端のみが支持された状態を維持する。
【0035】
原子炉停止システム50は、原子炉30に異常が発生し、原子炉容器40内の温度が上昇して、制動部58の温度が閾値温度以上になると、図3に示すように、弾性部材56の中性子吸収材52に固定されている側の端部が解放され、圧縮状態が解放される。弾性部材56の圧縮状態が解放されると、中性子吸収材52が遮へい通路54側へ付勢されて遮へい通路54の内部に進入する。
【0036】
遮へい通路54の内部に進入した、すなわち炉心の内部に到達した中性子吸収材52は、炉心の中性子を吸収して、炉心燃料42の核反応を抑制する。弾性部材56に付勢された中性子吸収材52は、遮へい通路54の内部を閉塞した端部側に向かってさらに進み、炉心の内部への進入量が増大することで炉心の中性子の吸収量も増大し、炉心燃料42の核反応が停止する。
【0037】
図4は、原子炉停止システムの他の例を備える原子炉ユニットを示す模式図である。図5は、図4に示す原子炉停止システムが作動した状態を示す模式図である。図4及び図5に示す原子炉ユニット12aが備える原子炉停止システム50aは、図2及び図3に示す原子炉停止システム50と比較して、棒状の中性子吸収材52の代わりに、送り出し部材60及び複数の球体の中性子吸収材62を備える点で異なる。以下、原子炉停止システム50aの特有の構成である送り出し部材60及び中性子吸収材62について説明し、原子炉停止システム50と同様の構成については、詳細な説明を省略する。
【0038】
送り出し部材60は、弾性部材56が圧縮状態から解放されるのに伴って、中性子吸収材62を遮へい通路54の開口から内部へ向かって送り出す部材である。送り出し部材60は、遮へい通路54が開口する側と弾性部材56との間に配置される。送り出し部材60は、実施形態において、シリンダ60aと、ピストン60bと、を有する。
【0039】
シリンダ60aは、遮へい通路54の開口する側の延長上に配置される。シリンダ60aの一方(図4及び図5における左方)の端部には、制動部58が配置される。シリンダ60aの他方(図4及び図5における右方)の端部は、遮へい通路54に開口で連通している。
【0040】
ピストン60bは、シリンダ60aの内部を軸方向(図4及び図5における左右方向)に移動可能であるように配置される。ピストン60bは、弾性部材56の弾性力によって軸方向に往復移動可能であるように弾性部材56に固定されている。ピストン60bは、弾性部材56が制動部58から解放されて弾性状態から解放されることで、弾性部材56によって遮へい通路54側へ付勢される。
【0041】
シリンダ60aの内部は、ピストン60bによって、遮へい通路54側と弾性部材56側とに空間を隔てられている。図4に示すように、シリンダ60aの内部の遮へい通路54側には、中性子吸収材62が収容される。図2及び図3に示す原子炉停止システム50の中性子吸収材52が棒状であったのに対し、図4及び図5に示す原子炉停止システム50aの中性子吸収材62は、複数の粒状である。図4及び図5に示す中性子吸収材62は、複数の固形の球体であるが、細かくバラバラに移動可能であれば個々の形状は特に限定されず、例えば、楕円体や棒状を含んでもよい。また、固形に限定されず、ゲル状、液体、気体を含んでもよいが、固形の球体であることが好ましい。
【0042】
原子炉停止システム50aは、原子炉30の定格運転時には、制動部58の温度が閾値温度より低く維持される。この状態では、図2に示すように、制動部58が弾性部材56の圧縮状態を維持しているため、ピストン60bがシリンダ60aの内部の弾性部材56側に引き寄せられた状態を維持し、中性子吸収材62がシリンダ60aの内部に留められた状態を維持する。
【0043】
原子炉停止システム50aは、原子炉30に異常が発生し、原子炉容器40内の温度が上昇して、制動部58の温度が閾値温度以上になると、図3に示すように、弾性部材56のピストン60bに固定されている側の端部が解放され、圧縮状態が解放される。弾性部材56の圧縮状態が解放されると、ピストン60bが遮へい通路54側へ付勢されて、シリンダ60aの内部の中性子吸収材62を遮へい通路54の開口から内部へ向かって送り出す。
【0044】
遮へい通路54の内部に進入した、すなわち炉心の内部に到達した中性子吸収材62は、炉心の中性子を吸収して、炉心燃料42の核反応を抑制する。遮へい通路54には、次々と中性子吸収材62が充填されていき、複数の中性子吸収材62が炉心の中性子を吸収することによって、炉心燃料42の核反応が停止する。
【0045】
図4及び図5に示す原子炉停止システム50aでは、中性子吸収材62が固形の球体であるため、中性子吸収材62がシリンダ60aの内部を転がることができる。これにより、複数の中性子吸収材62が次々に遮へい通路54の開口へ向かってピストン60bに送り出される際に、中性子吸収材62が開口で詰まってしまうことを抑制することができる。
【0046】
図6は、原子炉停止システムの他の例を備える原子炉ユニットを示す模式図である。図6に示す原子炉ユニット12bが備える原子炉停止システム50bは、図2に示す原子炉停止システム50の構成に加え、加熱ユニット64と、制御部70と、をさらに備える。以下、原子炉停止システム50bの特有の構成である加熱ユニット64及び制御部70について説明し、原子炉停止システム50と同様の構成については、詳細な説明を省略する。
【0047】
加熱ユニット64は、制御部70から受け付けた制御信号に基づいて、制動部58を閾値温度以上まで加熱可能である。加熱ユニット64の構成及び加熱方式は、特に限定されず、例えば、制動部58に直接通電することで加熱してもよいし、通電により加熱する熱源からの放熱により加熱してもよい。
【0048】
制御部70は、加熱ユニット64に、制動部58を加熱させるための制御信号を送る。制御部70は、操作者による所定の操作を受け付けた場合に、制動部58を加熱させるための制御信号を送ってもよい。制御部70は、何らかの異常を検出した場合、所定の判断基準に基づいて、制動部58を加熱させるための制御信号を送ってもよい。制御部70は、原子炉ユニット12の運転を制御する制御システムの一部の機能として備えられてもよく、原子炉ユニット12又は原子力発電システム10と連携した、例えば、異常発生時の補助電源システムの一部の機能として備えられてもよい。
【0049】
(実施形態の作用効果)
実施形態に記載の原子炉停止システム50、50a、50b、及び原子炉停止方法は、例えば以下のように把握される。
【0050】
第1の様態に係る原子炉停止システム50、50a、50bは、原子炉容器40に密閉状態に格納される炉心燃料42の間を通り、一方の端部が開口し他方の端部が閉塞する遮へい通路54と、遮へい通路54の開口から進入可能な中性子吸収材52、62と、圧縮した状態から解放されることで中性子吸収材52、62を遮へい通路54の開口から内部に進入する方向へ付勢する弾性部材56と、弾性部材56の圧縮状態を維持するように配置され、閾値温度以上になった場合に弾性部材56の圧縮状態を解放する制動部58と、を備える。
【0051】
第1の様態に係る原子炉停止システム50、50a、50bは、異常時に原子炉容器40内の温度上昇に伴い、弾性部材56の圧縮状態を維持する制動部58が閾値温度以上になった場合に弾性部材56の圧縮状態を解除する。弾性部材56は、圧縮状態において中性子吸収材52、62を炉心燃料42の外側に留めておき、圧縮状態が開放されると炉心燃料42の内部へ付勢する。すなわち、特別な制御機能を必要とせず、制動部58が閾値温度以上になることで中性子吸収材52、62が炉心燃料42の間に進入するので、原子炉容器40内の異常時な温度上昇時に、受動的に核反応を抑制し、安全かつ迅速に機能を停止することができる。また、弾性部材56が中性子吸収材52、62を付勢する方向は、特に限定されず、原子炉容器40の形状、内部の構成や、炉心燃料42の配置に応じて、水平方向、上下方向、斜め方向等、適宜変更可能である。したがって、小型の原子炉にも適用可能である。
【0052】
第2の様態に係る原子炉停止システム50、50a、50bは、炉心燃料42と原子炉容器40とを含む原子炉30と、原子炉容器40の内部に配置され、炉心燃料42の熱を固体熱伝導で伝達する熱伝導部32と、を備える原子炉ユニット12に設けられる。原子炉停止システム50、50a、50bは、特別な制御機能を必要とせず、制動部58が閾値温度以上になることで中性子吸収材52、62が炉心燃料42の間に進入する構成が実現できるので、固体熱伝導で炉心燃料42の熱を伝達する原子炉ユニット12にも適用可能である。
【0053】
第3の様態に係る原子炉停止システム50、50a、50bにおいて、制動部58は、閾値温度以上で溶融する又は変質する材料で形成される。このような制動部58は、閾値温度以上で溶融して穴が開く又は破断する、あるいは変質して外周部から離脱する。これにより、連通部56、57が閾値温度以上になった場合に弾性部材56の圧縮状態を解放する構成を、簡素な構成で実現できる。
【0054】
第4の様態に係る原子炉停止システム50、50bにおいて、中性子吸収材52は、遮へい通路54が延びる方向に延びる棒状である。すなわち、中性子吸収材52は、所謂制御棒である。制動部58が閾値温度以上になることで制御棒が炉心燃料42の間に進入するので、原子炉容器40内の異常時な温度上昇時に、受動的に核反応を抑制し、安全かつ迅速に機能を停止する構成を、簡素な構成で実現できる。
【0055】
第5の様態に係る原子炉停止システム50aは、弾性部材56が圧縮状態から解放されるのに伴って、中性子吸収材62を遮へい通路54の開口から内部へ向かって送り出す送り出し部材60を備える。すなわち、弾性部材56と中性子吸収材62とを直接接続する構成でなくても、中性子吸収材62を炉心燃料42の外側に留めておくとともに、炉心燃料42の内部へ付勢することが可能である。
【0056】
第6の様態に係る原子炉停止システム50aにおいて、送り出し部材60は、一方の端部に制動部58が配置され、他方の端部が遮へい通路54の開口に連通するシリンダ60aと、弾性部材56の弾性力によってシリンダ60aの内部を往復移動可能なピストン60bと、を有し、中性子吸収材62は、ピストン60bより遮へい通路54側のシリンダ60aの内部に収容され、ピストン60bが遮へい通路54側へ付勢されることによって遮へい通路54の開口から内部へ向かって送り出される。すなわち、弾性部材56と中性子吸収材62とを直接接続せず、中性子吸収材62を炉心燃料42の外側に留めておくとともに、炉心燃料42の内部へ付勢する構成を、簡素な構成で実現できる。
【0057】
第7の様態に係る原子炉停止システム50aにおいて、中性子吸収材62は、複数の固形の球体である。中性子吸収材60は、一塊の物質でなく、遮へい通路54の開口を通過可能な複数の物質であるため、シリンダ60a内に収容されている状態での全体的な形状に自由度がある。すなわち、中性子吸収材62を収容するシリンダ60aの径に自由度があり、軸方向の短縮が図れるため、小型の原子炉にも適用可能である。また、中性子吸収材62は、シリンダ60aの内部を転がることができるので、複数の中性子吸収材62が次々に遮へい通路54の開口へ向かってピストン60bに送り出される際に、中性子吸収材62が開口で詰まってしまうことを抑制することができる。
【0058】
第8の様態に係る原子炉停止システム50bは、制動部58を閾値温度以上まで加熱可能な加熱ユニット64と、加熱ユニット64に制動部58を加熱させるための制御信号を送る制御部70と、をさらに備える。すなわち、異常時において制動部58が閾値温度まで上昇していない状態においても、原子炉容器40内のさらなる温度上昇が予測された場合や、別の異常が検出された場合に、積極的な方法でも核反応を抑制し、安全かつ迅速に機能を停止することができる。
【0059】
第9の様態に係る原子炉停止方法は、原子炉容器40に密閉状態に格納される炉心燃料42の間を通り、一方の端部が開口し他方の端部が閉塞する遮へい通路54と、遮へい通路54の開口から進入可能な中性子吸収材52、62と、圧縮した状態から解放されることで中性子吸収材52、62を遮へい通路54の開口から内部に進入する方向へ付勢する弾性部材56と、弾性部材56の圧縮状態を維持するように配置され、閾値温度以上になった場合に弾性部材56の圧縮状態を解放する制動部58と、において、制動部58が閾値温度以上になった場合に弾性部材56の圧縮状態が解放されることで、弾性部材56に付勢された中性子吸収材52、62が、遮へい通路54の開口から内部に進入する。
【0060】
第9の様態に係る原子炉停止方法は、異常時に原子炉容器40内の温度上昇に伴い、弾性部材56の圧縮状態を維持する制動部58が閾値温度以上になった場合に弾性部材56の圧縮状態を解除する。弾性部材56は、圧縮状態において中性子吸収材52、62を炉心燃料42の外側に留めておき、圧縮状態が開放されると炉心燃料42の内部へ付勢する。すなわち、特別な制御機能を必要とせず、制動部58が閾値温度以上になることで中性子吸収材52、62が炉心燃料42の間に進入するので、原子炉容器40内の異常時な温度上昇時に、受動的に核反応を抑制し、安全かつ迅速に機能を停止することができる。また、弾性部材56が中性子吸収材52、62を付勢する方向は、特に限定されず、原子炉容器40の形状、内部の構成や、炉心燃料42の配置に応じて、水平方向、上下方向、斜め方向等、適宜変更可能である。したがって、小型の原子炉にも適用可能である。
【0061】
以上、本開示の実施形態を説明したが、これらの実施形態の記載内容によって実施形態が限定されるものではない。
【符号の説明】
【0062】
10 原子力発電システム
12、12a、12b 原子炉ユニット
13 発電ユニット
14 熱交換器
16 冷媒循環手段
18 タービン
20 発電機
22 チラー(冷却器)
24 ポンプ(圧縮機)
26 再生熱交換器
30 原子炉
32 熱伝導部
34 循環経路
36 熱交換部
40 原子炉容器
42 炉心燃料
43 燃料保持板
44 制御ユニット
50、50a、50b 原子炉停止システム
52、62 中性子吸収材
54 遮へい通路
56 弾性部材
58 制動部
60 送り出し部材
60a シリンダ
60b ピストン
64 加熱ユニット
70 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6