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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128330
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】ポンプ装置
(51)【国際特許分類】
   F04C 15/06 20060101AFI20230907BHJP
   F04C 15/00 20060101ALI20230907BHJP
   F04C 2/10 20060101ALI20230907BHJP
   F04B 53/16 20060101ALI20230907BHJP
【FI】
F04C15/06 A
F04C15/00 E
F04C2/10 341E
F04B53/16 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032607
(22)【出願日】2022-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000177612
【氏名又は名称】株式会社ミクニ
(74)【代理人】
【識別番号】100106312
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 敬敏
(72)【発明者】
【氏名】猪野 恭裕
【テーマコード(参考)】
3H041
3H044
3H071
【Fターム(参考)】
3H041AA02
3H041BB04
3H041CC17
3H041CC20
3H041DD12
3H041DD37
3H041DD38
3H044AA02
3H044BB03
3H044CC16
3H044CC19
3H044DD12
3H044DD27
3H044DD28
3H071AA03
3H071BB02
3H071CC14
3H071CC34
3H071DD32
(57)【要約】
【課題】吐出通路から吸入通路に流体を戻す戻し通路を備えたポンプ装置において、流れの乱れ、流れ損失等を抑えつつ、ポンプ効率を向上させる。
【解決手段】上流端に吸入口12aを画定する吸入通路12,22,下流端に吐出口23aを画定する吐出通路13,23,吐出通路を流れる流体の一部を吸入通路の途中に戻す戻し通路15を有するハウジングHと、ハウジングに収容されて流体を吸入,加圧及び吐出するべく所定の軸線S回りに回転するポンプ要素Peと、戻し通路を開閉する開閉弁60を備え、ハウジングHは、戻し通路が吸入通路に開口する開口部15bよりも上流側の吸入通路12において、吸入通路の吸入口から吸入される吸入流体の流れを戻し通路から戻される戻し流体の流れから逸らすように指向させる指向壁16aを有する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流端に吸入口を画定する吸入通路,下流端に吐出口を画定する吐出通路,及び前記吐出通路を流れる流体の一部を前記吸入通路の途中に戻す戻し通路を有するハウジングと、
前記ハウジングに収容されて流体を吸入,加圧及び吐出するべく所定の軸線回りに回転するポンプ要素と、
前記戻し通路を開閉する開閉弁と、を備え、
前記ハウジングは、前記戻し通路が前記吸入通路に開口する開口部よりも上流側の前記吸入通路において、前記吸入口から前記吸入通路内に吸入される吸入流体の流れを前記戻し通路から戻される戻し流体の流れから逸らすように指向させる指向壁を有する、
ことを特徴とするポンプ装置。
【請求項2】
前記ハウジングは、前記戻し通路が前記吸入通路に開口する開口部よりも上流側の前記吸入通路において、前記吸入通路の底壁から突出して前記開口部を含む領域に流体を溜める溜め領域を画定する堰部を有し、
前記堰部は、前記指向壁を画定するべく下流側に向けて上り勾配をなす傾斜面を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載のポンプ装置。
【請求項3】
前記戻し通路の開口部は、前記溜め領域の底壁に沿うように形成されている、
ことを特徴とする請求項2に記載のポンプ装置。
【請求項4】
前記戻し通路は、前記吸入通路に直交する位置よりも下流側に向けて開口する、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載のポンプ装置。
【請求項5】
前記ハウジングは、前記戻し通路が前記吸入通路に開口する開口部を含む所定領域において、前記戻し通路から戻される戻し流体を前記吸入通路に沿うように整流させるべく前記溜め領域の底壁から突出する整流壁を有する、
ことを特徴とする請求項2ないし4いずれか一つに記載のポンプ装置。
【請求項6】
前記吸入口は、適用対象物に適用された使用状態で、鉛直方向の下向きに開口する、
ことを特徴とする請求項2ないし5いずれか一つに記載のポンプ装置。
【請求項7】
前記吐出口は、前記使用状態で、前記鉛直方向の上向きに開口する、
ことを特徴とする請求項6に記載のポンプ装置。
【請求項8】
前記ハウジングは、前記使用状態で、前記鉛直方向の上向きに開口するハウジング本体と、前記ハウジング本体を上側から閉塞するべく連結されるハウジングカバーとを含む、
ことを特徴とする請求項6又は7に記載のポンプ装置。
【請求項9】
前記ハウジング本体は、前記ポンプ要素を収容するべく前記鉛直方向の上向きに開口するポンプ収容凹部と、前記吸入通路,前記吐出通路,及び前記戻し通路の一部を画定するべく前記鉛直方向の上向きに開口する溝状通路と、前記溝状通路に形成された前記堰部を含む、
ことを特徴とする請求項8に記載のポンプ装置。
【請求項10】
前記ハウジングカバーは、前記吸入通路及び前記吐出通路の一部を画定するべく、前記鉛直方向の下向きに開口する溝状通路を含む、
ことを特徴とする請求項9に記載のポンプ装置。
【請求項11】
前記ハウジングは、前記軸線の方向における前記ポンプ要素の両端面において、前記ポンプ要素のポンプ室に流体を吸入するポンプ室吸入口を有する、
ことを特徴とする請求項10に記載のポンプ装置。
【請求項12】
前記ポンプ室吸入口は、前記ハウジング本体の吸入通路の下流端において前記ポンプ要素の一端面に臨むように形成された一端側ポンプ室吸入口と、前記ハウジングカバーの吸入通路の下流端において前記ポンプ要素の他端面に臨むように形成された他端側ポンプ室吸入口を含む、
ことを特徴とする請求項11に記載のポンプ装置。
【請求項13】
前記ハウジングカバーの吸入通路は、前記ハウジング本体に形成された前記堰部の傾斜面と同方向に傾斜する傾斜面を含む、
ことを特徴とする請求項12に記載のポンプ装置。
【請求項14】
前記ハウジングは、前記ポンプ要素を境に前記吸入通路と前記吐出通路とがV字状に配置されるように形成されている、
ことを特徴とする請求項1ないし13いずれか一つに記載のポンプ装置。
【請求項15】
前記ハウジングは、前記吸入通路と前記吐出通路とに挟まれる領域において、前記開閉弁を収容する弁収容部及び前記戻し通路を含む、
ことを特徴とする請求項14に記載のポンプ装置。
【請求項16】
前記ポンプ要素は、前記ハウジングに対して前記軸線回りに回動自在に支持される回転軸と一体的に回転するインナーロータと、前記インナーロータに連動して回転するアウターロータを含む、
ことを特徴とする請求項1ないし15いずれか一つに記載のポンプ装置。
【請求項17】
前記インナーロータ及び前記アウターロータは、トロコイド式の歯型を有するトロコイドロータである、
ことを特徴とする請求項16に記載のポンプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を吐出通路から吸入通路に戻す戻し通路を備えたポンプ装置に関し、特に、船外機の内燃エンジンに適用されてオイル(潤滑油又は作動油)を吸入し加圧して吐出するポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のポンプ装置としては、吸入通路,吐出通路,及び吐出通路と吸入通路を連通させるドレン通路を有するポンプハウジングと、ポンプハウジング内に収容されて吸入した作動油を加圧して吐出するポンプ要素と、吐出通路内の作動油の余剰分を吸入通路側に還流させるべくドレン通路を開閉するスプール弁(逃し弁)と、外部から作動油を吸入通路に導入するべくポンプハウジングに連結された吸入パイプと、ドレン通路から還流された作動油の流れと吸入パイプから供給された作動油の流れを整流するべく吸入パイプの内壁に固定された整流部材を備えたオイルポンプが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
このオイルポンプにおいて、整流部材は、ドレン通路と吸入パイプの供給通路とが交差する領域に配置されて整流するだけであるため、ドレン通路から還流された作動油と吸入パイプの供給通路から供給された作動油との衝突を抑制ないし防止することはできない。それ故に、流れの乱れによる吸入抵抗を十分低減させることはできない。また、整流部材は、吸入パイプに固定された専用の部品として形成されているため、部品点数の増加、高コスト化を招く。
【0004】
他のポンプ装置としては、吸入油路,吐出油路,及び吐出油路と吸入油路を連通させる戻し油路を有するハウジングと、ハウジング内に収容されて吸入した作動油を加圧して吐出するポンプ要素(ベーンポンプ)と、戻し油路から吸入油路に戻されるオイルの流れを整流する整流部材とを備え、整流部材が、オイルの流れを略90度方向変換するべく湾曲した傾斜面を有すると共にハウジングに嵌合して固定される固定部を有するシールプラグとして形成された、油圧回路が知られている(例えば、特許文献2)。
【0005】
この油圧回路において、整流部材は、戻し油路から流れ出るオイルを湾曲させて吸入油路内に導くだけであり、戻し油路から戻されるオイルと吸入油路を流れるオイルとの衝突を抑制ないし防止することはできない。それ故に、流れの乱れによる吸入抵抗を十分低減させることはできない。また、整流部材は、ハウジングに嵌合されるシールプラグであるため、ハウジングとは別部品であり、部品点数の増加、高コスト化を招く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-255335号公報
【特許文献2】特開2018-53740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、構造の簡素化、部品点数の削減、低コスト化を図りつつ、流体流れの乱れ及び圧力損失等を抑制してポンプ効率の向上を図れるポンプ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のポンプ装置は、上流端に吸入口を画定する吸入通路,下流端に吐出口を画定する吐出通路,及び吐出通路を流れる流体の一部を吸入通路の途中に戻す戻し通路を有するハウジングと、ハウジングに収容されて流体を吸入,加圧及び吐出するべく所定の軸線回りに回転するポンプ要素と、戻し通路を開閉する開閉弁とを備え、ハウジングは、戻し通路が吸入通路に開口する開口部よりも上流側の吸入通路において、吸入口から吸入通路内に吸入される吸入流体の流れを戻し通路から戻される戻し流体の流れから逸らすように指向させる指向壁を有する、構成となっている。
【0009】
上記ポンプ装置において、ハウジングは、戻し通路が吸入通路に開口する開口部よりも上流側の吸入通路において、吸入通路の底壁から突出して開口部を含む領域に流体を溜める溜め領域を画定する堰部を有し、堰部は、指向壁を画定するべく下流側に向けて上り勾配をなす傾斜面を含む、構成を採用してもよい。
【0010】
上記ポンプ装置において、戻し通路の開口部は、溜め領域の底壁に沿うように形成されている、構成を採用してもよい。
【0011】
上記ポンプ装置において、戻し通路は、吸入通路に直交する位置よりも下流側に向けて開口する、構成を採用してもよい。
【0012】
上記ポンプ装置において、ハウジングは、戻し通路が吸入通路に開口する開口部を含む所定領域において、戻し通路から戻される戻し流体を吸入通路に沿うように整流させるべく溜め領域の底壁から突出する整流壁を有する、構成を採用してもよい。
【0013】
上記ポンプ装置において、吸入口は、適用対象物に適用された使用状態で、鉛直方向の下向きに開口する、構成を採用してもよい。
【0014】
上記ポンプ装置において、吐出口は、適用対象物に適用された使用状態で、鉛直方向の上向きに開口する、構成を採用してもよい。
【0015】
上記ポンプ装置において、ハウジングは、適用対象物に適用された使用状態で、鉛直方向の上向きに開口するハウジング本体と、ハウジング本体を上側から閉塞するべく連結されるハウジングカバーとを含む、構成を採用してもよい。
【0016】
上記ポンプ装置において、ハウジング本体は、ポンプ要素を収容するべく鉛直方向の上向きに開口するポンプ収容凹部と、吸入通路,吐出通路,及び戻し通路の一部を画定するべく鉛直方向の上向きに開口する溝状通路と、溝状通路に形成された堰部を含む、構成を採用してもよい。
【0017】
上記ポンプ装置において、ハウジングカバーは、吸入通路及び吐出通路の一部を画定するべく、鉛直方向の下向きに開口する溝状通路を含む、構成を採用してもよい。
【0018】
上記ポンプ装置において、ハウジングは、軸線の方向におけるポンプ要素の両端面において、ポンプ要素のポンプ室に流体を吸入するポンプ室吸入口を有する、構成を採用してもよい。
【0019】
上記ポンプ装置において、ポンプ室吸入口は、ハウジング本体の吸入通路の下流端においてポンプ要素の一端面に臨むように形成された一端側ポンプ室吸入口と、ハウジングカバーの吸入通路の下流端においてポンプ要素の他端面に臨むように形成された他端側ポンプ室吸入口を含む、構成を採用してもよい。
【0020】
上記ポンプ装置において、ハウジングカバーの吸入通路は、ハウジング本体に形成された堰部の傾斜面と同方向に傾斜する傾斜面を含む、構成を採用してもよい。
【0021】
上記ポンプ装置において、ハウジングは、ポンプ要素を境に吸入通路と吐出通路とがV字状に配置されるように形成されている、構成を採用してもよい。
【0022】
上記ポンプ装置において、ハウジングは、吸入通路と吐出通路とに挟まれる領域において、開閉弁を収容する弁収容部及び戻し通路を含む、構成を採用してもよい。
【0023】
上記ポンプ装置において、ポンプ要素は、ハウジングに対して軸線回りに回動自在に支持される回転軸と一体的に回転するインナーロータと、インナーロータに連動して回転するアウターロータを含む、構成を採用してもよい。
【0024】
上記ポンプ装置において、インナーロータ及びアウターロータは、トロコイド式の歯型を有するトロコイドロータである、構成を採用してもよい。
【発明の効果】
【0025】
上記構成をなすポンプ装置によれば、構造の簡素化、部品点数の削減、低コスト化を達成しつつ、流体流れの乱れ及び圧力損失等を抑制でき、ポンプ効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明のポンプ装置が適用対象物としての船外機に適用された状態を示す模式図である。
図2】本発明の第1実施形態に係るポンプ装置を示す外観斜視図である。
図3】第1実施形態に係るポンプ装置を分解して上方斜めから視た分解斜視図である。
図4】第1実施形態に係るポンプ装置を分解して下方斜めから視た分解斜視図である。
図5】第1実施形態に係るポンプ装置の一部を切断した斜視断面図である。
図6】第1実施形態に係るポンプ装置において、ハウジングを構成するハウジングカバーを取り除いて上方斜めから視た斜視図である。
図7】第1実施形態に係るポンプ装置において、開閉弁が閉弁した状態で、回転軸の軸線に垂直な面(適用対象物に適用された状態の水平面)における断面図である。
図8図7に示すポンプ装置において、開閉弁が開弁した状態での断面図である。
図9】第1実施形態に係るポンプ装置が適用対象物に適用された状態において、吸入通路の領域を鉛直方向に切断した状態を示す断面図である。
図10】本発明の第2実施形態に係るポンプ装置を示すものであり、ハウジングを構成するハウジングカバーを取り除いて上方斜めから視た斜視図である。
図11】第2実施形態に係るポンプ装置において、開閉弁が開弁した状態で、回転軸の軸線に垂直な面(適用対象物に適用された状態の水平面)における断面図である。
図12】本発明の第3実施形態に係るポンプ装置を示すものであり、ハウジングを構成するハウジングカバーを取り除いて上方斜めから視た斜視図である。
図13】第3実施形態に係るポンプ装置において、ハウジングを構成するハウジング本体を上方斜めから視た斜視図である。
図14】第3実施形態に係るポンプ装置において、開閉弁が開弁した状態で、回転軸の軸線に垂直な面(適用対象物に適用された状態の水平面)における断面図である。
図15】比較例としてのポンプ装置において、吸入通路内の流体の流れ状態を示すものであり、上側が回転軸の軸線に平行な鉛直断面での流線図、下側が回転軸の軸線に垂直な水平断面での流線図である。
図16】第1実施形態に係るポンプ装置において、吸入通路内の流体の流れ状態を示すものであり、上側が回転軸の軸線に平行な鉛直断面での流線図、下側が回転軸の軸線に垂直な水平断面での流線図である。
図17】第2実施形態に係るポンプ装置において、吸入通路内の流体の流れ状態を示すものであり、上側が回転軸の軸線に平行な鉛直断面での流線図、下側が回転軸の軸線に垂直な水平断面での流線図である。
図18】第3実施形態に係るポンプ装置において、吸入通路内の流体の流れ状態を示すものであり、上側が回転軸の軸線に平行な鉛直断面での流線図、下側が回転軸の軸線に垂直な水平断面での流線図である。
図19】本発明の第1実施形態~第3実施形態に係るポンプ装置と比較例としてのポンプ装置における圧力損失を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
第1実施形態に係るポンプ装置M1は、適用対象物としての船外機Aに搭載される内燃エンジンEに適用されるものである。
船外機Aは、図1に示すように、内燃エンジンE、内燃エンジンEを覆うエンジンカバー1、プロペラ2、内燃エンジンEのクランクシャフトの回転力が伝達される歯車列3、歯車列3の1つの歯車と一体的に回転してプロペラ2に回転力を伝達する駆動シャフト4、船体に取り付けるためのブラケット5等を備えている。
【0028】
内燃エンジンEは、図1に示すように、エンジン本体6、流体としてのオイルを溜めるべくエンジン本体6の下方に結合されたオイルパン7、オイルパン7の内部においてエンジン本体6に取り付けられたポンプ装置M1を備えている。
ここで、ポンプ装置M1は、船外機Aに適用された使用状態において、オイルパン7内のオイルを、オイルストレーナ8を介して鉛直方向Vdに吸い上げ、水平方向Hdに延在する吸入通路及び吐出通路を経て、加圧されたオイルを鉛直方向Vdの上方に吐出し、二点鎖線で示すようにエンジン本体6内を流れてオイルパン7に戻ったオイルを再び吸い上げて循環させる。
【0029】
ポンプ装置M1は、図2ないし図4に示すように、ハウジングHとしてのハウジング本体10及びハウジングカバー20、軸線Sを中心とする回転軸30、ポンプ要素Peとしてのインナーロータ40及びアウターロータ50、開閉弁60、ハウジングカバー20をハウジング本体10に締結するネジbを備えている。
【0030】
ハウジング本体10は、鋼、鋳鉄、焼結鋼、アルミニウム合金等の金属材料を用いて軸線S方向の一方側に開口した、すなわち、船外機Aに適用された使用状態において鉛直方向Vdの上向きに開口した有底凹状に形成されている。
ハウジング本体10は、図3及び図4に示すように、ポンプ収容凹部11、吸入通路12、吐出通路13、弁収容部14、戻し通路15、指向壁16aを形成する堰部16、接合面17、軸受孔18、三つのネジ孔19a、五つの挿通孔19bを備えている。
【0031】
ポンプ収容凹部11は、ポンプ要素Pe(インナーロータ40及びアウターロータ50)を収容する領域であり、インナーロータ40及びアウターロータ50の一端面41,51を受けるスラスト面11a、アウターロータ50の外周面53を軸線Sに平行な軸線S1周りに回動自在に支持する内周面11bを備えている。
【0032】
吸入通路12は、船外機Aに適用された使用状態において鉛直方向Vdの上向きに開口した略矩形断面をなす溝状通路として形成され、その上流端において画定される鉛直方向Vdの下向きに開口する吸入口12aからポンプ収容凹部11に臨む一端側ポンプ室吸入口12bまで水平方向Hdに伸長するように形成されている。
【0033】
吐出通路13は、船外機Aに適用された使用状態において鉛直方向Vdの上向きに開口した略矩形断面をなす溝状通路として形成され、その下流端(ハウジングカバー20に形成された鉛直方向Vdの上向きに開口する吐出口23aが対向する位置)からポンプ収容凹部11に臨む一端側ポンプ室吐出口13bまで水平方向Hdに伸長するように形成されている。
【0034】
弁収容部14は、図3及び図7に示すように、吸入通路12と吐出通路13とに挟まれる領域において、水平方向Hdに伸長する円形断面のドリル孔として形成され、開閉弁60の弁体61を当接させる円環状のストッパ14a、ストッパピン64を嵌合させるピン孔14bを備えている。
そして、弁収容部14は、開閉弁60の弁体61を摺動自在にガイドすると共に、戻し通路15の一部としても機能する。
【0035】
戻し通路15は、図3及び図7に示すように、船外機Aに適用された使用状態において鉛直方向Vdの上向きに開口した略矩形断面の溝状通路をなす上流側通路15a及び下流側通路15b、上流側通路15aと下流側通路15bの間において弁収容部14の一部により画定される中間通路15cにより形成されている。上流側通路15aは、吐出通路13の途中に開口し、下流側通路15bは吸入通路12の途中に開口する。
そして、中間通路15cが開閉弁60により開放されることにより、上流側通路15aと下流側通路15bが連通して、吐出通路13を流れるオイルの一部が吸入通路12に戻されるようになっている。
ここで、戻し通路15の下流側通路15bは、図5ないし図9に示すように、吸入通路12に直交するように方向付けられて、吸入通路12に開口する開口部15bを備えている。開口部15bは、中間通路15cに連通する連通孔の面積(弁体61により開閉される孔から流れ出るオイル流れの断面積)に相当する面積の通路が吸入通路12に交わる領域として画定されるものであり、堰部16よりも下流側に位置する吸入通路12の底壁12c、すなわち、溜め領域Saの底壁12cに沿うように形成されている。
【0036】
堰部16は、図6及び図9に示すように、戻し通路15(下流側通路15b)が吸入通路12に開口する開口部15bよりも上流側の吸入通路12において、吸入通路12の底壁12cから所定の高さだけ突出して形成されている。
そして、堰部16は、それよりも下流側の開口部15bを含む領域において、オイルを溜める溜め領域Saを画定する。
このように、溜め領域Saを形成することにより、内燃エンジンEが停止した状態において、ポンプ要素Pe内から全てのオイルが抜け落ちるのを防止することができる。それ故に、次に内燃エンジンEを始動させる時に、ポンプ要素Peを円滑に作動させることができる。
【0037】
また、堰部16は、図9に示すように、上側の輪郭が吸入通路12の下流側に向けて上り勾配Usをなす傾斜面として形成された指向壁16aを画定している。
指向壁16aは、戻し通路15が吸入通路12に開口する開口部15bよりも上流側の吸入通路12において、吸入口12aから吸入通路12内に吸入される吸入流体としての吸入オイルの流れを、戻し通路15から戻される戻し流体としての戻しオイルの流れから逸らすように、吸入オイルを斜め上向きに指向させる役割をなす。ここで、「逸らすように」とは、外れるように又は偏倚させるようにと同義であり、吸入オイルが戻しオイルと直接的に衝突するのを避けるべく、吸入オイルの流れを戻しオイルの流れに直面しないように方向付ける意味である。
具体的には、図9に示すように、吸入オイルの流線Fが、戻し通路15の開口部15b(中間通路15cに連通する連通孔の領域)から流れ出る戻しオイルの流線Fに直面しないように、指向壁16aの傾斜面の勾配Usに沿って戻しオイルの流線Fから外れた方向に、すなわち、下流側に向かって斜め上向きに方向付けられる。
【0038】
接合面17は、図3及び図6に示すように、ハウジングカバー20の接合面27が軸線S方向から接合されるべく、軸線Sに垂直な方向において平坦面をなす。また、接合面17には、ポンプ収容凹部11の周りの領域において、ハウジングカバー20の位置合わせを行う二つの位置決めピンPが設けられている。
【0039】
軸受孔18は、図3及び図9に示すように、ポンプ収容凹部11の領域において、回転軸30の一端部31を回動自在に支持するべく、軸線Sを中心とする円筒状に形成されている。
三つのネジ孔19aは、ポンプ収容凹部11の周りでかつ接合面17の領域において、ハウジングカバー20をハウジング本体10に結合するネジbを捩じ込むものである。
五つの挿通孔19bは、接合面17の領域において、ハウジングH(ハウジング本体10及びハウジングカバー20)をエンジン本体6に結合するボルト(不図示)を挿通させるものである。
【0040】
すなわち、ハウジング本体10は、ポンプ要素Peを収容するべく軸線S方向の一方側(鉛直方向Vdの上向き)に開口するポンプ収容凹部11と、吸入通路12,吐出通路13,及び戻し通路15の一部(上流側通路15a及び下流側通路15b)を画定するべく軸線S方向の一方側(鉛直方向Vdの上向き)に開口する溝状通路と、溝状通路をなす吸入通路12の底壁12cから突出する堰部16を含むように形成されている。
このように、ハウジング本体10が、軸線S方向の一方側(鉛直方向Vdの上向き)に開口するため、ハウジング本体10を金型等により成型する際に、ポンプ収容凹部11、吸入通路12、吐出通路13、戻し通路15(上流側通路15a及び下流側通路15b)を型抜きにより容易に形成することができ、特に、溝状通路をなす吸入通路12内において堰部16及び指向壁16aを一体的に容易に形成することができる。
【0041】
ハウジングカバー20は、ハウジング本体10を閉塞するべくハウジング本体10に結合されるものであり、鋼、鋳鉄、焼結鋼、アルミニウム合金等の材料を用いて、軸線S方向の他方側に開口した、すなわち、船外機Aに適用された使用状態において鉛直方向Vdの下向きに開口した有底凹状に形成されている。
ハウジングカバー20は、図3及び図4に示すように、吸入通路22、吐出通路23、接合面27、軸受孔28、三つの円孔29a、五つの挿通孔29bを備えている。
【0042】
吸入通路22は、船外機Aに適用された使用状態において鉛直方向Vdの下向きに開口した略矩形断面をなす溝状通路として形成され、その上流端(ハウジング本体10に形成された鉛直方向Vdの下向きに開口する吸入口12aが対向する位置)からハウジング本体10のポンプ収容凹部11に臨む他端側ポンプ室吸入口22bまで水平方向Hdに伸長するように形成されている。
また、吸入通路22は、図5及び図9に示すように、ハウジング本体10の吸入通路12内に形成された堰部16の指向壁16aとしての上向き勾配Usをなす傾斜面と同方向に傾斜する傾斜面22aを含み、傾斜面22aを境に下流側の通路面積が大きくなるように形成されている。
このように、指向壁16aと同方向に傾斜する傾斜面22aを形成したことにより、堰部16及び指向壁16aを設けても吸入通路12,22の通路面積が絞られないようにして、吸入口12aから吸入されたオイルを吸入通路22の内壁面に沿わせて他端側ポンプ室吸入口22bに導くことができる。
【0043】
吐出通路23は、船外機Aに適用された使用状態において鉛直方向Vdの下向きに開口した略矩形断面をなす溝状通路として形成され、その下流端において画定される鉛直方向Vdの上向きに開口する吐出口23aからポンプ収容凹部11に臨む他端側ポンプ室吐出口23bまで水平方向Hdに伸長するように形成されている。
【0044】
接合面27は、図4に示すように、ハウジング本体10の接合面17に対して軸線S方向から接合されるべく、軸線Sに垂直な方向において平坦面をなす。また、接合面27には、ポンプ収容凹部11の周りに対向する領域において、ハウジング本体10の位置決めピンPを嵌合させる二つの位置決め穴hが形成されている。さらに、接合面27は、軸受孔28の周りの領域において、インナーロータ40及びアウターロータ50の他端面42,52を受けるスラスト面27aを画定する。
【0045】
軸受孔28は、図4及び図9に示すように、ポンプ収容凹部11に対向する領域において、回転軸30の中間部32を回動自在に支持するべく、軸線Sを中心とする円筒状に形成されている。
三つの円孔29aは、ポンプ収容凹部11の周りに対向する領域でかつ接合面27の領域において、ハウジングカバー20をハウジング本体10に結合するネジbを通すように形成されている。
五つの挿通孔29bは、接合面27の領域において、ハウジングH(ハウジング本体10及びハウジングカバー20)をエンジン本体6に結合するボルト(不図示)を挿通させるように形成されている。
【0046】
回転軸30は、鋼材料等を用いて軸線S方向に伸長する円柱状に形成され、図9に示すように、一端部31がハウジング本体10の軸受孔18に嵌合され、又、中間部32がハウジングカバー20の軸受孔28に嵌合されて、ハウジングHに対して軸線S回りに回動自在に支持される。
また、回転軸30は、一端部31と中間部32の間の嵌合部33がインナーロータ40の嵌合孔43に嵌合され、ロックピンLpを介してインナーロータ40と一体的に回転するように組み付けられている。さらに、回転軸30は、他端部において、歯車列3のうちの一つの歯車が連結される連結部34を備えている。
【0047】
ポンプ要素Peは、図3図7図8に示すように、ハウジング本体10のポンプ収容凹部11に配置され、流体としてのオイルに対して、吸入行程、加圧及び吐出行程を含むポンプ作用を及ぼすべく拡大及び縮小するポンプ室Pcを画定する。ここでは、インナーロータ40及びアウターロータ50は、4葉5節のトロコイド式の歯型をなすトロコイドロータである。
【0048】
インナーロータ40は、鋼又は焼結鋼等の金属材料を用いて、トロコイド曲線による歯型をもつ外歯車として形成され、ハウジング本体10のスラスト面11aを摺動する一端面41、ハウジングカバー20のスラスト面27aを摺動する他端面42、回転軸30を嵌合する嵌合孔43、四つの凸部44及び四つの凹部45を備えている。そして、インナーロータ40は、図3に示すように、軸線Sを中心として矢印R方向に回転軸30と一体的に回転する。
【0049】
アウターロータ50は、鋼又は焼結鋼等の金属材料を用いて、インナーロータ40に噛合し得る歯型をもつ内歯車として形成され、ハウジング本体10のスラスト面11aを摺動する一端面51、ハウジングカバー20のスラスト面27aを摺動する他端面52、軸線S1を中心とする円筒状の外周面53、五つの凸部54及び五つの凹部55を備えている。外周面53は、ハウジング本体10の内周面11bに摺動自在に接触する。
五つの凸部54及び五つの凹部55は、インナーロータ40の四つの凸部44及び四つの凹部45と部分的に噛み合うように形成されている。
【0050】
そして、アウターロータ50は、軸線Sを中心として回転するインナーロータ40の回転に連動しつつ、インナーロータ40よりも遅い速度で、軸線S1を中心としてインナーロータ40と同一方向に回転する。
また、インナーロータ40とアウターロータ50とが部分的に噛み合って回転することにより、両者の間において拡大及び縮小するポンプ室Pcが画定され、吸入行程、加圧及び吐出行程を含むポンプ作用が連続的に生じる。
【0051】
開閉弁60は、図7及び図8に示すように、弁体61、付勢バネ62、蓋部材63、ストッパピン64により構成されている。弁体61は、有底円筒状をなし、ハウジング本体10の弁収容部14に摺動自在に挿入される。付勢バネ62は、圧縮型のコイルバネであり、弁体61を閉弁方向に付勢する。蓋部材63は、付勢バネ62を所定の圧縮代に圧縮して閉塞するべく弁収容部14に嵌合される。ストッパピン64は、弁収容部14内において蓋部材63を固定するべくハウジング本体10のピン孔14bに嵌合される。
【0052】
そして、開閉弁60は、ポンプ要素Peから吐出されるオイルの吐出圧が所定レベルを超えると、図8に示すように、付勢バネ62の付勢力に抗して弁体61が戻し通路15を開放して開弁状態となり、吐出通路13,23を流れるオイルの一部を戻し流体として、戻し通路15(上流側通路15a,中間通路15c,下流側通路15b)から吸入通路12,22に戻し、一方、吐出圧が所定レベル以下になると、付勢バネ62の付勢力により弁体61が閉弁して、オイルの戻りを停止する。
ここでは、開閉弁60がハウジング本体10に内蔵されているため、ハウジングHの外部に配置される場合に比べて、装置の簡素化、小型化を達成することができる。
【0053】
上記のように、第1実施形態に係るポンプ装置M1においては、ハウジングHは、船外機Aに適用された使用状態で、鉛直方向Vdの上向きに開口するハウジング本体10と、ハウジング本体10を上側から閉塞するべく連結されるハウジングカバー20を含む。そして、ハウジング本体10及びハウジングカバー20の溝状通路をなす吸入通路12,22及び吐出通路13,23により、ハウジングHにおいて、筒状通路をなす吸入通路及び吐出通路が形成される。
このように、ハウジングHを二分割構造にしたことにより、溝状通路をなす吸入通路12において、底壁12cから突出する堰部16及び指向壁16aを、ハウジング本体10の一部として一体的に容易に形成することができる。
【0054】
また、ハウジングHは、戻し通路15が吸入通路12,22に開口する開口部15bよりも上流側の吸入通路12において、吸入口12aから吸入通路12,22内に吸入される吸入オイル(吸入流体)の流れを戻し通路15から戻される戻しオイル(戻し流体)の流れから逸らすように指向させる指向壁16aを有する。
【0055】
すなわち、吸入口12aから吸入された吸入オイルは、図9において流線Fで示すように、吸入通路12,22内に流れ込んで略水平方向に方向変換させられ、指向壁16aにより斜め上向きに指向され、主として吸入通路22の内壁面に沿うように導かれて他端側ポンプ室吸入口22bに至る。
一方、戻し通路15の開口部15bから戻された戻しオイルは、図8及び図9において流線Fで示すように、吸入通路12内の溜め領域Saに積極的に流れ出て、吸入通路12に沿うように方向変換させられ、主として吸入通路12の底壁12cに沿うように導かれて一端側ポンプ室吸入口12bに至る。
このように、吸入オイル(流線F)が、戻しオイル(流線F)と直接的に衝突しないように指向壁16aにより上向きに流れるように逸らされるため、オイル同士の衝突による流れの乱れを抑制ないし防止することができる。その結果、吸入通路12,22内の圧力損失を低減することができ、ポンプ効率を向上させることができる。
【0056】
また、堰部16がオイルを溜める溜め領域Saを画定する役割の他に、その輪郭を形成する上側面が下流側に向けて上り勾配Usをなす傾斜面に形成されて指向壁16aとして機能するため、堰部と指向壁を別々に設ける場合に比べて、吸入通路12,22内の構造の簡素化、圧力損失の低減を達成することができる。
また、戻し通路15の開口部15bは、図9に示すように、ハウジング本体10の吸入通路12の堰部16の下流側に画定される溜め領域Saの底壁12cに沿うように開口して形成されている。これにより、戻し通路15の開口部15bから戻された戻しオイルを、堰部16の高さよりも低い溜め領域Saに積極的に流出させることができる。その結果、戻しオイルと吸入口12aから吸入された吸入オイルとの衝突をより効果的に抑制ないし防止することができる。
【0057】
また、吸入口12aが、適用対象物としての船外機Aに適用された使用状態で、鉛直方向Vdの下向きに開口するように形成されているため、下方に位置するオイルパン7内のオイルを垂直に吸い上げて吸入通路22の内壁面に沿うように方向変換させて、吸入オイルの流れを吸入通路12,22内の上方側に積極的に偏倚させて流すことができる。
また、吐出口23aが、適用対象物としての船外機Aに適用された使用状態で、鉛直方向Vdの上向きに開口するように形成されているため、吸入口12aに連結される吸入管(例えば、オイルストレーナ8)と吐出口23aに連結される吐出管とを同方向に配列することができ、ポンプ装置M1を取り付ける領域の部品が横方向(水平方向)に広がらないように集約して配置することができる。
【0058】
また、ハウジングHは、軸線Sの方向におけるポンプ要素Peの両端面において、ポンプ要素Peのポンプ室Pcにオイルを吸入するポンプ室吸入口を有する。
すなわち、ポンプ室吸入口として、ハウジング本体10の吸入通路12の下流端においてポンプ要素Peの一端面41,51に臨むように形成された一端側ポンプ室吸入口12bと、ハウジングカバー20の吸入通路22の下流端においてポンプ要素Peの他端面42,52に臨むように形成された他端側ポンプ室吸入口22bを含む。
したがって、吸入オイル(流線F1)と戻しオイル(流線F2)との衝突を抑制しつつ、吸入オイル(流線F1)を積極的に他端側ポンプ室吸入口22bに導き、戻しオイル(流線F2)を積極的に一端側ポンプ室吸入口12bに導くことができる。これにより、吸入通路12,22内での圧力損失を抑制することができ、特に高回転時におけるキャビテーションの発生を防止することができる。
【0059】
さらに、ハウジングHは、図3図4図7に示すように、ポンプ要素Peを境に吸入通路12,22と吐出通路13,23とがV字状に配置されるように形成されている。そして、ハウジング本体10は、吸入通路12と吐出通路13とに挟まれる領域において、開閉弁60を収容する弁収容部14及び戻し通路15を含むように形成されている。
これにより、部品の集約化、軸線Sに垂直な面方向における幅狭化、軸線S方向における薄型化、装置全体としての小型化等を達成することができる。
【0060】
次に、船外機Aに搭載の内燃エンジンEに適用されたポンプ装置M1の動作について簡単に説明する。
内燃エンジンEの始動により、歯車列3及び回転軸30を介して、インナーロータ40が矢印R方向に回転すると、アウターロータ50が連動して同方向に回転し、ポンプ室Pcの拡大及び縮小によりポンプ作用が生じる。
そして、吸入口12aから流れ込んだオイルは、吸入通路12,22内を流れて、ポンプ要素Peの両端面に配置されたポンプ室吸入口(一端側ポンプ室吸入12b及び他端側ポンプ室吸入口22b)からポンプ室Pc内に吸入される。
そして、ポンプ要素Peのポンプ作用により、加圧されたオイルは、ポンプ要素Peの両端面に配置されたポンプ室吐出口(一端側ポンプ室吐出口13b及び他端側ポンプ室吐出口23b)から吐出通路13,23内に押し出される。
【0061】
ここで、加圧されたオイルの圧力が所定レベル以下のとき、開閉弁60は閉弁状態にある。したがって、加圧されたオイルは、図7に示すように、戻し通路15を通ることなく、吐出口23aから吐出されて内燃エンジンE内の供給先に供給される。
この流れ状態において、吸入通路12,22内においては、戻し通路15から戻しオイルが流れ込まないため、吸入口12aから流れ込んだ吸入オイルは、流れを乱されることなくポンプ室Pcに向けて流れ込む。
【0062】
一方、加圧されたオイルの圧力が所定レベルを超えるとき、開閉弁60は開弁状態となる。したがって、加圧されたオイルは、図8及び図9に示すように、吐出口23aから吐出されて内燃エンジンE内の供給先に供給されると共に、その一部が戻し通路15(上流側通路15a,中間通路15c、下流側通路15b)を通して吸入通路12,22に戻される。
この流れ状態において、戻し通路15から吸入通路12,22内に戻された戻しオイルは、主として堰部16の背後に画定される溜め領域Saに積極的に流れ込み、その後に吸入通路12の向きに方向を変えると共に底壁12cに沿うように流れ、一端側ポンプ室吸入口12bからポンプ室Pcに流れ込む。
【0063】
また、吸入口12aから流れ込んだ吸入オイルは、指向壁16aにより斜め上向きに指向され、主として吸入通路22の内壁面及び傾斜面22aに沿うように流れ、他端側ポンプ室吸入口22bからポンプ室Pcに流れ込む。
このように、吸入口12aから吸入通路12,22内に吸入された吸入オイルの流れは、指向壁16aにより、戻し通路15から戻される戻しオイルの流れから逸れるように指向させられる。
その結果、吸入オイルと戻しオイルとの直接的な衝突が抑制ないし防止され、オイル流れの乱れ及び圧力損失等が抑制され、ポンプ効率が向上する。
【0064】
以上述べたように、第1実施形態に係るポンプ装置M1によれば、構造の簡素化、部品点数の削減、低コスト化を達成しつつ、流体流れの乱れ及び圧力損失等を抑制でき、ポンプ効率を向上させることができる。
【0065】
図10及び図11は、本発明の第2実施形態に係るポンプ装置M2を示すものであり、第1実施形態のハウジング本体10をハウジング本体110に変更した以外は、第1実施形態と同一の構成であり、前述の第1実施形態と同一の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
ポンプ装置M2は、ハウジングHとしてのハウジング本体110及びハウジングカバー20、軸線Sを中心とする回転軸30、ポンプ要素Peとしてのインナーロータ40及びアウターロータ50、開閉弁60、ハウジングカバー20をハウジング本体10に締結するネジbを備えている。
【0066】
ハウジング本体110は、ポンプ収容凹部11、吸入通路12、吐出通路13、弁収容部14、戻し通路115、指向壁16aを形成する堰部16、接合面17、軸受孔18、三つのネジ孔19a、五つの挿通孔19bを備えている。
【0067】
戻し通路115は、上流側通路15a、鉛直方向Vdの上向きに開口した略矩形断面の溝状通路をなす下流側通路115b、上流側通路15aと下流側通路115bの間において弁収容部14の一部により画定される中間通路15cにより形成されている。
戻し通路115の下流側通路115bは、吸入通路12に直交する位置(図8に示す位置)よりも下流側に向けて斜めに伸長して開口する。また、下流側通路115bの開口部115bは、堰部16よりも下流側に位置する吸入通路12の底壁12c、すなわち、溜め領域Saの底壁12cに沿うように形成されている。
【0068】
第2実施形態に係るポンプ装置M2によれば、戻し通路115から戻された戻しオイルは、図11に示すように、吸入通路12,22に対して下流側に斜めに流れ込んで合流する。したがって、戻しオイルが、第1実施形態と同様に吸入口12aから吸入された吸入オイルと衝突するのを抑制することができると共に、吸入通路12,22の内壁面に衝突するのも抑制することができる。
【0069】
すなわち、吸入オイル(流線F)が、戻しオイル(流線F)と直接的に衝突しないように指向壁16aにより上向きに流れるように逸らされると共に、戻しオイル(流線F)が吸入通路12,22内にスムーズに流れ込むことで、オイル同士の衝突による流れの乱れを抑制ないし防止することができる。その結果、第1実施形態のポンプ装置M1よりも吸入通路12,22内の圧力損失を低減することができ、ポンプ効率を向上させることができる。
【0070】
以上述べたように、第2実施形態に係るポンプ装置M2によれば、構造の簡素化、部品点数の削減、低コスト化を達成しつつ、流体流れの乱れ及び圧力損失等を抑制でき、ポンプ効率を向上させることができる。
【0071】
図12ないし図14は、本発明の第3実施形態に係るポンプ装置M3を示すものであり、第2実施形態のハウジング本体110をハウジング本体210に変更した以外は、第2実施形態と同一の構成であり、前述の第1実施形態及び第2実施形態と同一の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
ポンプ装置M3は、ハウジングHとしてのハウジング本体210及びハウジングカバー20、軸線Sを中心とする回転軸30、ポンプ要素Peとしてのインナーロータ40及びアウターロータ50、開閉弁60、ハウジングカバー20をハウジング本体10に締結するネジbを備えている。
【0072】
ハウジング本体210は、ポンプ収容凹部11、吸入通路12、吐出通路13、弁収容部14、戻し通路115、指向壁16aを形成する堰部16、接合面17、軸受孔18、三つのネジ孔19a、五つの挿通孔19b、整流壁211を備えている。
【0073】
整流壁211は、戻し通路115の下流側通路115bが吸入通路12に開口する開口部115bを含む所定領域において、戻し通路115の下流側通路115bから戻される戻しオイルを吸入通路12に沿うように整流させるべく、溜め領域Saの底壁12cから軸線S方向に突出すると共に、吸入通路12の伸長方向に長尺な略矩形の平板状に形成されている。
【0074】
そして、整流壁211は、戻し通路115(下流側通路115b)から戻された戻りオイルを強制的に吸入通路12の下流側に向けて方向変換させる。これにより、戻しオイルが、吸入口12aから吸入通路12,22内に吸入された吸入オイルから隔離され、両オイルの衝突をより効果的に抑制することができる。
【0075】
すなわち、吸入オイル(流線F)が、戻しオイル(流線F)と直接的に衝突しないように指向壁16aにより上向きに流れるように逸らされ、戻しオイル(流線F)が吸入通路12,22内にスムーズに流れ込むと共に整流壁221により整流されることで、オイル同士の衝突による流れの乱れをさらに抑制ないし防止することができる。その結果、第2実施形態のポンプ装置M2よりも吸入通路12,22内の圧力損失を低減することができ、ポンプ効率を向上させることができる。
【0076】
また、ハウジングHをハウジング本体210及びハウジングカバー20の二分割構造にし、整流壁211は、ハウジング本体210の吸入通路12において、堰部16と同様に、吸入通路12の底壁12cから軸線S方向に突出するように形成されている。
このように、ハウジング本体210において、溝状通路をなす吸入通路12の底壁12cから突出する整流壁211を設けたことにより、堰部16及び指向壁16a並びに整流壁211を、ハウジング本体210の一部として一体的に容易に形成することができる。
【0077】
以上述べたように、第3実施形態に係るポンプ装置M3によれば、構造の簡素化、部品点数の削減、低コスト化を達成しつつ、流体流れの乱れ及び圧力損失等を抑制でき、ポンプ効率を向上させることができる。
【0078】
図15ないし図18は、比較例としての堰部及び指向壁が無いポンプ装置、第1実施形態~第3実施形態に係るポンプ装置M1,M2,M3を、流体の流れを解析するべくモデル化して、それぞれにおいて、流体の流れをシミュレーションした実験結果を示したものである。
【0079】
その結果によれば、比較例では、図15に示すように、吸入流体と戻し流体が激しく衝突しており、流線が重なり合って黒く視える領域において渦流れを生じている。
第1実施形態(堰部16及び指向壁16a)では、図16に示すように、指向壁16aにより、吸入流体が下流側の斜め上方に流れるように指向されており、比較例よりも流体同士の衝突が緩やかになっている。
第2実施形態(堰部16、指向壁16a、及び戻し通路115の下流側通路115bが下流側に向けて開口)では、図17に示すように、戻し流体が吸入通路12に沿うようにスムーズに流れ込んでおり、第1実施形態よりも流体同士の衝突が緩やかになっている。
第3実施形態(堰部16、指向壁16a、戻し通路115の下流側通路115bが下流側に向けて開口、及び整流壁211)では、図18に示すように、戻し流体が吸入通路12に沿うように整流壁211により整流されてよりスムーズに流れ込んでおり、第2実施形態よりも流体同士の衝突が緩やかになっている。
【0080】
図19は、図15ないし図18に示すシミュレーションの実験結果において、それぞれ得られた圧力損失を示すグラフである。尚、圧力損失は、吸入通路12,22の上流端の圧力Pin(kPa)から下流端の圧力Pout(kPa)を引いた、Pin-Poutの値ΔPで表し、比較例の値ΔPを基に、第1実施形態~第3実施形態における値をΔPに対する比率として表している。
この実験によれば、比較例に比べて第1実施形態の圧力損失が小さくなっており、第1実施形態に比べて第2実施形態の圧力損失が小さくなっており、第2実施形態に比べて第3実施形態の圧力損失が小さくなっている。
【0081】
上記のように、吸入口12aから吸入通路12,22内に吸入される吸入流体の流れを戻し通路15から戻される戻し流体の流れから逸らすように指向させる指向壁16aを堰部16に設けたことにより、流体流れの乱れ及び圧力損失を抑制することができ、それ故に、ポンプ効率を向上させることができる。
また、指向壁16aに加えて、戻し通路15を吸入通路12の下流側に向けて開口させる構成、さらには、整流壁211を設ける構成とすることにより、流体流れの乱れ及び圧力損失をさらに抑制することができ、それ故に、ポンプ効率をさらに向上させることができる。
【0082】
上記実施形態においては、ハウジングに設けられる指向壁として、吸入通路12の底壁12cから突出する堰部16の上面に形成された傾斜面をなす指向壁16aを示したが、これに限定されるものではなく、吸入口から吸入通路内に吸入される吸入流体の流れを戻し通路から戻される戻し流体の流れから逸らすように指向させるものであれば、その他の形態をなす指向壁を採用してもよい。
【0083】
上記実施形態においては、ハウジングとして、ハウジング本体10,110,210及びハウジングカバー20から成るハウジングHを示したが、これに限定されるものではなく、指向壁、堰部、戻し通路、整流壁を設けることができる構造であれば、その他の形態や分割構造をなすハウジングを採用してもよい。
【0084】
上記実施形態においては、本発明のポンプ装置が適用される適用対象物として、船外機Aを示したが、これに限定されるものではなく、その他の流体循環又は供給装置、その他の配置構造をなす適用対象物において適用されてもよい。
【0085】
以上述べたように、本発明のポンプ装置によれば、構造の簡素化、部品点数の削減、低コスト化を達成しつつ、流体流れの乱れ及び圧力損失等を抑制でき、ポンプ効率を向上させることができるため、船外機に搭載される内燃エンジンに適用できるのは勿論のこと、その他のエンジンを搭載する車両、あるいは、作動油又は潤滑油の圧送を必要とするその他の装置等にも有用である。
【符号の説明】
【0086】
A 船外機(適用対象物)
Vd 鉛直方向
Hd 水平方向
E 内燃エンジン
H ハウジング
10 ハウジング本体(ハウジング)
11 ポンプ収容凹部
12 吸入通路(溝状通路)
12a 吸入口
12b 一端側ポンプ室吸入口(ポンプ室吸入口)
13 吐出通路(溝状通路)
13b 一端側ポンプ室吐出口
14 弁収容部
15 戻し通路
15a 上流側通路(戻し通路、溝状通路)
15b 下流側通路(戻し通路、溝状通路)
15b 戻し通路の開口部
15c 中間通路(戻し通路)
16 堰部
16a 指向壁(上り勾配をなす傾斜面)
20 ハウジングカバー(ハウジング)
22 吸入通路(溝状通路)
22a 傾斜面
22b 一端側ポンプ室吸入口(ポンプ室吸入口)
23 吐出通路(溝状通路)
23a 吐出口
23b 他端側ポンプ室吐出口
30 回転軸
S 軸線
Pe ポンプ要素
Pc ポンプ室
40 インナーロータ(ポンプ要素)
50 アウターロータ(ポンプ要素)
60 開閉弁
110 ハウジング本体(ハウジング)
115 戻し通路
115b 下流側通路(戻し通路、溝状通路)
115b 開口部
210 ハウジング本体(ハウジング)
211 整流壁
図1
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