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特開2023-128368電気化学セルの製造方法及び電気化学セル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023128368
(43)【公開日】2023-09-14
(54)【発明の名称】電気化学セルの製造方法及び電気化学セル
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0585 20100101AFI20230907BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20230907BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/0562
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022032672
(22)【出願日】2022-03-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002325
【氏名又は名称】セイコーインスツル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 竜
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL07
5H029AL08
5H029AL12
5H029AM12
5H029BJ04
5H029HJ04
5H029HJ12
(57)【要約】
【課題】本発明は、電気容量をより高められ、電池寿命をより高められる電気化学セル及び電気化学セルの製造方法を目的とする。
【解決手段】正極活物質を含む正極層20と、負極活物質を含む負極層30と、固体電解質を含む固体電解質層10と、を有し、固体電解質層10は、正極層20と負極層30との間に位置し、固体電解質層10は、正極層20側に開口し、正極層20が入り込む正極凹部11を有し、固体電解質層10は、負極層30側に開口し、負極層30が入り込む負極凹部15を有し、正極凹部11と、負極凹部15とが、固体電解質層10の面方向にずれている、電気化学セル。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極層と、
負極活物質を含む負極層と、
固体電解質を含む固体電解質層と、を有し、
前記固体電解質層は、前記正極層と前記負極層との間に位置し、
前記固体電解質層は、前記正極層側に開口し、前記正極層が入り込む正極凹部を有し、
前記固体電解質層は、前記負極層側に開口し、前記負極層が入り込む負極凹部を有し、
前記正極凹部と、前記負極凹部とが、前記固体電解質層の面方向にずれている、電気化学セル。
【請求項2】
前記固体電解質層は、前記正極凹部及び前記負極凹部を各々2個以上有し、
平面視において、前記固体電解質層の面方向で、前記正極凹部と、前記負極凹部とが交互に位置している、請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記正極凹部の深さが、前記固体電解質層の厚さの1/2よりも深く、前記負極凹部の深さが、前記固体電解質層の厚さの1/2よりも深い、請求項1又は2に記載の電気化学セル。
【請求項4】
前記固体電解質層の厚さと前記正極凹部の深さとの差と、
前記固体電解質層の厚さと前記負極凹部の深さとの差と、
前記固体電解質層の厚さ方向の断面視における前記正極凹部と前記負極凹部との距離と、が互いに等しい、請求項1~3のいずれか一項に記載の電気化学セル。
【請求項5】
正極活物質を含む正極層と、
負極活物質を含む負極層と、
固体電解質を含む固体電解質層と、を有し、
前記固体電解質層が、前記正極層と前記負極層との間に位置する電気化学セルの製造方法であって、
前記固体電解質層の前記正極層側に開口し、前記正極層が入り込む正極凹部と、
前記固体電解質層の前記負極層側に開口し、前記負極層が入り込む負極凹部とを、前記固体電解質層の面方向にずらして位置させる、電気化学セルの製造方法。
【請求項6】
前記固体電解質層に、前記正極凹部及び前記負極凹部を各々2個以上とし、
平面視において、前記固体電解質層の面方向で、前記正極凹部と、前記負極凹部とを、交互に位置させる、請求項5に記載の電気化学セルの製造方法。
【請求項7】
前記正極凹部の深さを前記固体電解質層の厚さの1/2よりも深くし、前記負極凹部の深さを前記固体電解質層の厚さの1/2よりも深くする、請求項5又は6に記載の電気化学セルの製造方法。
【請求項8】
前記固体電解質層の厚さと前記正極凹部の深さとの差と、
前記固体電解質層の厚さと前記負極凹部の深さとの差と、
前記固体電解質層の厚さ方向の断面視における前記正極凹部と前記負極凹部との距離と、を互いに等しくなるようにする、請求項5~7のいずれか一項に記載の電気化学セルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セルの製造方法及び電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池の電解液や、電解液を高分子ポリマーに保持させたゲル電解質に代えて、無機材料からなる固体電解質を用いる全固体電池(電気化学セル)が知られている。
全固体電池においては、無機材料間の接触抵抗に起因して、固体電解質内部の内部抵抗が高くなる。
【0003】
こうした問題に対して、例えば、特許文献1には、固体電解質を含む固体電解質層の表面に凹凸を形成して内部抵抗を低減した全固体電池が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-243735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の全固体電池(リチウムイオン二次電池)に用いられる電極体100は、図15に示すように、正極層120と、負極層130と、正極層120と負極層130との間に位置する固体電解質層110とを有する。固体電解質層110には、正極層120に向いて開口する正極凹部111が形成されている。これにより、断面視において、固体電解質層110の正極層120側には、正極凹部111と正極凸部112とが交互に形成されている。固体電解質層110には、負極層130に向いて開口する負極凹部115が形成されている。これにより、断面視において、固体電解質層110の負極層130側には、負極凹部115と負極凸部116とが交互に形成されている。
【0006】
特許文献1の発明は、正極凹部111と負極凹部115との距離D8と、正極凸部112と負極凸部116との距離D9とが異なる。すなわち、正極層120と負極層130との距離が不均一となっている。このため、固体電解質層110の内部抵抗が低いところと高いところとができ、電流密度に差ができ、電池反応が不均一になる。その結果、全固体電池の電極利用率(電気容量)の低下や、特定部位の劣化が促進されることによる電池寿命の低下が起きる。
【0007】
そこで、本発明は、電気容量をより高められ、電池寿命をより高められる電気化学セル及び電気化学セルの製造方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の態様を有する。
本発明に係る電気化学セルは、正極活物質を含む正極層と、負極活物質を含む負極層と、固体電解質を含む固体電解質層と、を有し、前記固体電解質層は、前記正極層と前記負極層との間に位置し、前記固体電解質層は、前記正極層側に開口し、前記正極層が入り込む正極凹部を有し、前記固体電解質層は、前記負極層側に開口し、前記負極層が入り込む負極凹部を有し、前記正極凹部と、前記負極凹部とが、前記固体電解質層の面方向にずれている。
【0009】
この構成によれば、固体電解質層の内部抵抗を均一にでき、電流密度の均一性を高められる。このため、電気容量をより高められ、電池寿命をより高められる。
【0010】
また、前記固体電解質層は、前記正極凹部及び前記負極凹部を各々2個以上有し、平面視において、前記固体電解質層の面方向で、前記正極凹部と、前記負極凹部とが交互に位置していてもよい。
この構成によれば、電流密度の均一性をさらに高められる。
【0011】
また、前記正極凹部の深さが、前記固体電解質層の厚さの1/2よりも深く、前記負極凹部の深さが、前記固体電解質層の厚さの1/2よりも深くてもよい。
この構成によれば、電気容量をさらに高められる。
【0012】
また、前記固体電解質層の厚さと前記正極凹部の深さとの差と、前記固体電解質層の厚さと前記負極凹部の深さとの差と、前記固体電解質層の厚さ方向の断面視における前記正極凹部と前記負極凹部との距離と、が互いに等しくてもよい。
この構成によれば、電流密度の均一性をさらに高められる。
【0013】
本発明の電気化学セルの製造方法は、正極活物質を含む正極層と、負極活物質を含む負極層と、固体電解質を含む固体電解質層と、を有し、前記固体電解質層が、前記正極層と前記負極層との間に位置する電気化学セルの製造方法であって、前記固体電解質層の前記正極層側に開口し、前記正極層が入り込む正極凹部と、前記固体電解質層の前記負極層側に開口し、前記負極層が入り込む負極凹部とを、前記固体電解質層の面方向にずらして位置させる。
【0014】
この構成によれば、固体電解質層の内部抵抗を均一にでき、電流密度の均一性を高められる。このため、電気容量をより高められ、電池寿命をより高められる。
【0015】
また、前記固体電解質層に、前記正極凹部及び前記負極凹部を各々2個以上とし、平面視において、前記固体電解質層の面方向で、前記正極凹部と、前記負極凹部とを、交互に位置させてもよい。
この構成によれば、電流密度の均一性をさらに高められる。
【0016】
また、前記正極凹部の深さを前記固体電解質層の厚さの1/2よりも深くし、前記負極凹部の深さを前記固体電解質層の厚さの1/2よりも深くしてもよい。
この構成によれば、電気容量をさらに高められる。
【0017】
また、前記固体電解質層の厚さと前記正極凹部の深さとの差と、前記固体電解質層の厚さと前記負極凹部の深さとの差と、前記固体電解質層の厚さ方向の断面視における前記正極凹部と前記負極凹部との距離と、を互いに等しくなるようにしてもよい。
この構成によれば、電流密度の均一性をさらに高められる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の電気化学セルの製造方法及び電気化学セルによれば、電気容量をより高められ、電池寿命をより高められる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る電気化学セルの外観を示す斜視図である。
図2】同電気化学セルに収容する電極体の一例を示す断面図である。
図3】正極凹部と負極凹部との位置関係の一例を示す平面図である。
図4】正極凹部と負極凹部との位置関係の一例を示す平面図である。
図5図2の電極体の製造方法を示す断面図である。
図6図2の電極体の製造方法を示す断面図である。
図7図2の電極体の製造方法を示す断面図である。
図8図2の電極体の製造方法を示す断面図である。
図9図2の電極体の製造方法を示す断面図である。
図10図2の電極体の製造方法を示す断面図である。
図11】本発明の一実施形態に係る電気化学セルに収容する電極体の他の例を示す断面図である。
図12】本発明の一実施形態に係る電気化学セルに収容する電極体の他の例を示す斜視図である。
図13】本発明の一実施形態に係る電気化学セルに収容する電極体の他の例を示す斜視図である。
図14】本発明の一実施形態に係る電気化学セルに収容する電極体の他の例を示す斜視図である。
図15】従来の全固体電池に用いられる電極体の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る電気化学セルの実施形態について図面を参照して説明する。以下の実施形態では、電気化学セルの一例として、コイン型の全固体電池(以下、単に「電池」ともいう。)を挙げ、この電池の構成について説明する。
なお、以下の説明に用いる図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更し、表示している。
【0021】
≪電気化学セル≫
図1に示すように、本実施形態の電池(電気化学セル)1は、平面視円形状のボタン型の電池である。この電池1は、容器状の外装体2と外装体2の内部に収容された電極体とを備えている。
【0022】
外装体2は、ラミネートフィルムにより形成されている。ラミネートフィルムは、金属箔と内側面に設けられ金属箔を被覆する融着層と、外側面に設けられ金属箔を被覆する保護層とを有する。
金属箔は、例えば、アルミニウムやステンレス鋼等の外気や水蒸気を遮断する金属により形成されている。
融着層は、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンや、2種類以上の樹脂を含むコポリマーから形成されている。
保護層は、例えば、上述のポリオレフィンや、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ナイロン等のポリアミドから形成されている。
【0023】
電極体は、正極活物質を含む正極層と負極活物質を含む負極層と、正極層と負極層との間に位置する固体電解質層とを有する。固体電解質層は、固体電解質を含む。
本実施形態の電極体3Aは、図2に示すように、正極層20と、負極層30と、正極層20と負極層30との間に位置する固体電解質層10とを有する。
固体電解質層10は、正極層20側に開口する正極凹部11を有する。正極凹部11には、正極層20が入り込んでいる。
固体電解質層10は、負極層30側に開口する負極凹部15を有する。負極凹部15には、負極層30が入り込んでいる。
正極凹部11と負極凹部15とは、固体電解質層10の面方向(X方向)にずれて位置している。
【0024】
電極体3Aの厚さT3Aは、例えば、500~4000μmが好ましく、800~3500μmがより好ましく、1000~3000μmがさらに好ましい。厚さT3Aが上記下限値以上であると、電池1の電気容量をより高められる。厚さT3Aが上記上限値以下であると、電池1をよりコンパクトにできる。
厚さT3Aは、例えば、電極体3Aを厚さ方向(Z方向)に切断した断面を顕微鏡等で観察することにより求められる。
【0025】
<固体電解質層>
固体電解質層10は、固体電解質を含む。
固体電解質としては、全固体電池に用いられる公知のものを利用できる。固体電解質としては、酸化物系固体電解質が挙げられる。
酸化物系固体電解質としては、例えば、Li1.5Al0.5Ge1.512(LAGP)、LiLaZr12(LLZ)、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO(LATP)、Li10GeP12(LGPS)、Li3.5Ge0.50.5(LGVO)、LiTaPO(LTPO)、La0.57Li0.29TiO(LLTO)、Li6.2Ga0.3La2.95Rb0.05Zr12(LGLRZO)、Li10GeO12(LGPO)、Li6.25LaZrAl0.2512等が挙げられる。
これらの固体電解質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
固体電解質層10の厚さT10は、例えば、300~3800μmが好ましく、500~3300μmがより好ましく、800~2800μmがさらに好ましい。厚さT10が上記下限値以上であると、電池1の強度をより高められる。厚さT10が上記上限値以下であると、電池1の内部抵抗をより低減できる。
厚さT10は、厚さT3Aと同様の方法により求められる。
【0027】
正極凹部11の深さD11は、例えば、200~3700μmが好ましく、400~3200μmがより好ましく、700~2700μmがさらに好ましい。深さD11が上記下限値以上であると、電池1の内部抵抗をより低減できる。深さD11が上記上限値以下であると、固体電解質層10の強度をより高められる。
深さD11は、厚さT3Aと同様の方法により求められる。
【0028】
正極凹部11の幅W11は、例えば、1~100μmが好ましく、2~80μmがより好ましく、3~60μmがさらに好ましい。幅W11が上記下限値以上であると、正極凹部11に正極層20が入り込みやすい。幅W11が上記上限値以下であると、固体電解質層10の強度をより高められる。
幅W11は、厚さT3Aと同様の方法により求められる。
【0029】
2つの正極凹部11の間には、正極凸部12が形成されている。
正極凸部12の高さH12は、正極凹部11の深さD11と同様である。
正極凸部12の幅W12は、例えば、1~300μmが好ましく、2~240μmがより好ましく、3~180μmがさらに好ましい。幅W12が上記下限値以上であると、固体電解質層10の強度をより高められる。幅W12が上記上限値以下であると、電池1の内部抵抗をより低減できる。
幅W12は、厚さT3Aと同様の方法により求められる。
【0030】
負極凹部15の深さD15は、例えば、200~3700μmが好ましく、400~3200μmがより好ましく、700~2700μmがさらに好ましい。深さD15が上記下限値以上であると、電池1の内部抵抗をより低減できる。深さD15が上記上限値以下であると、固体電解質層10の強度をより高められる。
深さD15は、厚さT3Aと同様の方法により求められる。
【0031】
負極凹部15の幅W15は、例えば、1~100μmが好ましく、2~80μmがより好ましく、3~60μmがさらに好ましい。幅W15が上記下限値以上であると、負極凹部15に負極層30が入り込みやすい。幅W15が上記上限値以下であると、固体電解質層10の強度をより高められる。
幅W15は、厚さT3Aと同様の方法により求められる。
【0032】
2つの負極凹部15の間には、負極凸部16が形成されている。
負極凸部16の高さH16は、負極凹部15の深さD15と同様である。
負極凸部16の幅W16は、例えば、1~300μmが好ましく、2~240μmがより好ましく、3~180μmがさらに好ましい。幅W16が上記下限値以上であると、固体電解質層10の強度をより高められる。幅W16が上記上限値以下であると、電池1の内部抵抗をより低減できる。
幅W16は、厚さT3Aと同様の方法により求められる。
【0033】
固体電解質層10の厚さT10と正極凹部11の深さD11との差(正極凹部11の最深部から負極層30までの距離)をD1とする。
固体電解質層10の厚さT10と負極凹部15の深さD15との差(負極凹部15の最深部から正極層20までの距離)をD2とする。
固体電解質層10の厚さ方向(Z方向)の断面視における、正極凹部11と負極凹部15との固体電解質層10の面方向(X方向)の距離をD3とする。
このとき、距離D1と距離D2と距離D3とは、互いに等しいことが好ましい。距離D1と距離D2と距離D3とが互いに等しいことで、固体電解質層10の内部の電流密度の均一性をさらに高められる。
ここで、「等しい」とは、距離の比(D1/D2、D1/D3等)が±5%以内であることをいうものとする。
【0034】
固体電解質層10は、正極凹部11及び負極凹部15を各々2個以上有する。固体電解質層10において、固体電解質層10の面方向で、正極凹部11と負極凹部15とは、交互に位置していることが好ましい。正極凹部11と負極凹部15とが交互に位置していることで、固体電解質層10の内部の電流密度の均一性をさらに高められる。
ここで、「固体電解質層10の面方向で、正極凹部11と負極凹部15とが交互に位置している」とは、図3に示すように、平面視で、X方向及びY方向の双方に正極凹部11と負極凹部15とが交互に位置している場合のほか、図4に示すように、平面視で、X方向にのみ正極凹部11と負極凹部15とが交互に位置している場合を含むものとする。
なお、正極凹部11と負極凹部15とが交互に位置しているのは、平面視で、任意の方向に位置していればよい。
【0035】
正極凹部11の深さD11は、固体電解質層10の厚さT10の1/2よりも深いことが好ましい。深さD11が厚さT10の1/2よりも深いと、正極凹部11の最深部が負極凸部16の内部に位置する。このため、固体電解質層10の内部の電流密度をより高められ、電池1の電気特性をより高められる。
深さD11の上限値は特に限定されず、厚さT10よりも小さければよい。
【0036】
負極凹部15の深さD15は、固体電解質層10の厚さT10の1/2よりも深いことが好ましい。深さD15が厚さT10の1/2よりも深いと、負極凹部15の最深部が正極凸部12の内部に位置する。このため、固体電解質層10の内部の電流密度をより高められ、電池1の電気特性をより高められる。
深さD15の上限値は特に限定されず、厚さT10よりも小さければよい。
【0037】
<正極層>
正極層20は、正極活物質を含む。
正極活物質としては、全固体電池に用いられる公知のものを利用できる。正極活物質としては、例えば、一元系正極材、二元系正極材、三元系正極材等が挙げられる。
一元系正極材としては、例えば、LiMO(Mは、Co、Ni、Mn、Al、Fe等の金属元素を表す)が挙げられる。
二元系正極材としては、例えば、Li1-xCoMnO(xは、0<x<1を満たす数)、LiFePO(xは、0<x≦1を満たす数)、Li13(xは、0<x≦1を満たす数)、Li1-xMn(xは、0<x<1を満たす数)、Li1-xNi0.5Mn1.5(xは、0<x<1を満たす数)等が挙げられる。
三元系正極材としては、例えば、LiNi1/3Mn1/3Co1/3等が挙げられる。
これらの正極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
正極層20の厚さT20は、例えば、10~500μmが好ましく、30~400μmがより好ましく、80~300μmがさらに好ましい。厚さT20が上記下限値以上であると、電池1の電気容量をより高められる。厚さT20が上記上限値以下であると、電池1の内部抵抗をより低減できる。
厚さT20は、厚さT3Aと同様の方法により求められる。
【0039】
<負極層>
負極層30は、負極活物質を含む。負極活物質としては、全固体電池に用いられる公知のものを利用できる。
負極活物質としては、例えば、金属リチウム、金属リチウムとリチウム以外の金属との合金等が挙げられる。負極活物質としては、この他、カーボンやグラファイト等の炭素材料系、SiやSiO等のシリコン材料系、LiTi12(LTO)等のリチウム遷移金属複合酸化物等が挙げられる。
負極活物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
負極層30の厚さT30は、例えば、10~500μmが好ましく、30~400μmがより好ましく、80~300μmがさらに好ましい。厚さT30が上記下限値以上であると、電池1の電気容量をより高められる。厚さT30が上記上限値以下であると、電池1の内部抵抗をより低減できる。
厚さT30は、厚さT3Aと同様の方法により求められる。
【0041】
≪電気化学セルの製造方法≫
本発明の電気化学セルの製造方法は、固体電解質層の正極層側に開口し、正極層が入り込む正極凹部と、固体電解質層の負極層側に開口し、負極層が入り込む負極凹部とを、固体電解質層の面方向にずらして位置させる工程、を有する。
以下に、本実施形態の電気化学セルの製造方法について、図面を参照して、詳細に説明する。
【0042】
図5に示すように、固体電解質層10を用意する。
固体電解質層10を製造するには、固体電解質の粉末を圧粉成形し、電気炉等で焼成して固体電解質層10とする。
固体電解質の粉末としては、上述した固体電解質層10に含まれる固体電解質の粉末が挙げられる。
【0043】
焼成の雰囲気は、酸素欠損を抑える為、酸素を含む雰囲気が好ましく、水分の影響が懸念される場合は、ドライ雰囲気を選択することがさらに好ましい。焼成の際、固体電解質シートのゆがみを抑える為、セラミック板(AlやMgO等からなる)やグラファイト板等で挟むことが好ましい。セラミック板との反応や、Liの揮発を抑える為に、固体電解質と同じ材料や、Liを含有する酸化物等をシート化したものをセラミック板との間に挿入してもよい。
【0044】
次に、図6に示すように、固体電解質層10の一方の面に、負極層30が入り込む負極凹部15を形成する。負極凹部15を形成する方法は特に限定されず、例えば、レーザーを用いる方法、フォトリソグラフィを用いる方法、金型を用いる方法等が挙げられる。
金型を用いる方法の場合、上述した固体電解質の粉末を金型に充填し、圧粉成形し、焼成することで、負極凹部15を有する固体電解質層10が得られる。
なお、負極凹部15は、あらかじめ形成されたものであってもよい。
【0045】
負極凹部15を形成することで、負極凹部15が形成されていない部分が、負極凸部16として残る。
【0046】
負極凹部15は、2個以上形成されることが好ましい。負極凹部15を2個以上形成することで、電池1の内部抵抗をより低減できる。負極凹部15を形成する数は、特に限定されないが、上述した各形成方法による負極凹部15の形成のしやすさや、固体電解質層10の強度を維持する観点を考慮して適宜設定することができる。
【0047】
負極凹部15の深さD15は、固体電解質層10の厚さT10の1/2よりも深く形成されることが好ましい。負極凹部15の深さD15を固体電解質層10の厚さT10の1/2よりも深く形成することで、固体電解質層10の内部の電流密度をより高められ、電池1の電気特性をより高められる。
【0048】
次に、図7に示すように、負極層30を形成する。負極層30を形成する方法は特に限定されず、例えば、負極活物質を含む負極スラリーを用意し、負極スラリーに固体電解質層10をディッピングする方法、固体電解質層10にスクリーン印刷等により負極スラリーを塗工する方法等が挙げられる。
【0049】
負極層30を形成した後、図8に示すように、固体電解質層10の他方の面(負極凹部15が形成されていない方の面)に形成された負極層30を研磨し、除去する。
【0050】
次に、図7に示すように、固体電解質層10の他方の面に、正極層20が入り込む正極凹部11を形成する。正極凹部11を形成する方法は特に限定されず、例えば、レーザーを用いる方法、フォトリソグラフィを用いる方法等が挙げられる。
なお、正極凹部11は、あらかじめ形成されたものであってもよい。
正極凹部11を形成することで、正極凹部11が形成されていない部分が、正極凸部12として残る。
【0051】
正極凹部11は、負極凹部15に対して、固体電解質層10の面方向にずらして位置させる。正極凹部11と負極凹部15とを固体電解質層10の面方向にずらして位置させることで、固体電解質層10の内部抵抗を均一にでき、電流密度の均一性を高められる。このため、電池1の電気容量をより高められ、電池1の電池寿命をより高められる。
正極凹部11の位置は、照射するレーザーの位置、フォトリソグラフィのマスクの形状、金型の形状等により調節できる。
【0052】
正極凹部11は、2個以上形成されることが好ましい。正極凹部11を2個以上形成することで、電池1の内部抵抗をより低減できる。正極凹部11を形成する数は、特に限定されないが、上述した各形成方法による正極凹部11の形成のしやすさや、固体電解質層10の強度を維持する観点を考慮して適宜設定することができる。
電流密度の均一性をより高められることから、正極凹部11を形成する数は、負極凹部15を形成する数と同じであることが好ましい。
【0053】
正極凹部11は、平面視において、固体電解質層10の面方向で、負極凹部15と交互に位置することが好ましい。正極凹部11と負極凹部15とを、交互に位置させることで、電流密度の均一性をさらに高められる。
【0054】
正極凹部11の深さD11は、固体電解質層10の厚さT10の1/2よりも深く形成されることが好ましい。正極凹部11の深さD11を固体電解質層10の厚さT10の1/2よりも深く形成することで、固体電解質層10の内部の電流密度をより高められ、電池1の電気特性をより高められる。
【0055】
固体電解質層10の厚さT10と正極凹部11の深さD11との差(正極凹部11の最深部から負極層30までの距離)をD1とする。
固体電解質層10の厚さT10と負極凹部15の深さD15との差(負極凹部15の最深部から正極層20までの距離)をD2とする。
固体電解質層10の厚さ方向(Z方向)の断面視における、正極凹部11と負極凹部15との固体電解質層10の面方向(X方向)の距離をD3とする。
このとき、距離D1と距離D2と距離D3とが、互いに等しくなるように、正極凹部11を位置させることが好ましい。距離D1と距離D2と距離D3とが互いに等しくなるように、正極凹部11を位置させることで、固体電解質層10の内部の電流密度の均一性をさらに高められる。
ここで、「等しい」とは、距離の比(D1/D2、D1/D3等)が±5%以内であることをいうものとする。
【0056】
次に、図10に示すように、正極層20を形成する。正極層20を形成する方法は特に限定されず、例えば、正極活物質を含む正極スラリーを用意し、正極スラリーに負極層30が形成された固体電解質層10をディッピングする方法、負極層30が形成された固体電解質層10にスクリーン印刷等により正極スラリーを塗工する方法等が挙げられる。
【0057】
正極層20を形成した後、固体電解質層10の他方の面(負極凹部15が形成されていない方の面)以外に形成された正極層20を研磨し、除去する。
以上の工程により、図2に示すような、電極体3Aが得られる。
【0058】
以上の説明では、固体電解質層10に負極層30を形成してから、正極層20を形成したが、本発明の電気化学セルの製造方法は、上述した実施形態に限定されない。
例えば、固体電解質層10に正極層20を形成してから、負極層30を形成してもよい。
正極凹部11を形成する際、金型を用いて正極凹部11を形成してもよい。
この場合、負極凹部15と正極凹部11とが形成された金型を用い、この金型に固体電解質の粉末を充填し、圧粉成形し、焼成することで、負極凹部15と正極凹部11とを有する固体電解質層10が得られる。この固体電解質層10に負極層30と正極層20とを順次形成することで、電極体3Aが得られる。
なお、負極層30と正極層20とを形成する順序は特に限定されず、負極層30を形成してから正極層20を形成してもよく、正極層20を形成してから負極層30を形成してもよい。
【0059】
本発明の電気化学セルは、正極凹部と負極凹部とが、固体電解質層の面方向にずれているため、固体電解質層の内部抵抗を均一にでき、電流密度の均一性を高められる。このため、電気容量をより高められ、電池寿命をより高められる。
本発明の電気化学セルの製造方法は、正極凹部と負極凹部とを、固体電解質層の面方向にずらして位置させるため、固体電解質層の内部抵抗を均一にでき、電流密度の均一性を高められる。このため、電気容量をより高められ、電池寿命をより高められる。
【0060】
以上、本発明の電気化学セル及び電気化学セルの製造方法について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、図11に示すように、電極体3Bは、電極体3Aに比べて、正極凹部13の深さD13が浅く、負極凹部17の深さD17が浅くてもよい。
正極凹部13の深さD13が、深さD11よりも浅いことで、固体電解質層10の厚さT10と正極凹部13の深さD13との差(正極凹部13の最深部から負極層30までの距離)D4を、距離D1よりも大きくできる。このため、特定部位の劣化を抑制でき、電池寿命をより高められる。
負極凹部17の深さD17が、深さD15よりも浅いことで、固体電解質層10の厚さT10と負極凹部17の深さD17との差(負極凹部17の最深部から正極層20までの距離)D5を、距離D2よりも大きくできる。このため、特定部位の劣化を抑制でき、電池寿命をより高められる。
図11において、距離D4と距離D5とは等しい。このため、固体電解質層10の内部の電流密度を均一にできる。
ここで、「等しい」とは、距離の比(D4/D5)が±5%以内であることをいうものとする。
【0061】
正極凹部13の幅W13は、正極凹部11の幅W11と同様である。正極凹部13の幅W13は、正極凹部11の幅W11と同じでもよく、異なっていてもよい。
正極凸部14の高さH14は、正極凹部13の深さD13と同様である。
正極凸部14の幅W14は、正極凸部12の幅W12と同様である。正極凸部14の幅W14は、正極凸部12の幅W12と同じでもよく、異なっていてもよい。
【0062】
負極凹部17の幅W17は、負極凹部15の幅W15と同様である。負極凹部17の幅W17は、負極凹部15の幅W15と同じでもよく、異なっていてもよい。
負極凸部18の高さH18は、負極凹部17の深さD17と同様である。
負極凸部18の幅W18は、負極凸部16の幅W16と同様である。負極凸部18の幅W18は、負極凸部16の幅W16と同じでもよく、異なっていてもよい。
【0063】
図12に示すように、電極体3Cは、直線状の正極凹部11と、直線状の負極凹部15とを有していてもよい。
【0064】
図13に示すように、電極体3Dは、円柱状の正極凹部と、円柱状の負極凹部とを有していてもよい。
【0065】
図14に示すように、電極体3Eは、ビア化工された正極凹部と、ビア化工された負極凹部とを有していてもよい。
【0066】
例えば、固体電解質層の形状は、平面視円形状ではなく、平面視多角形状であってもよい。
例えば、電極体は、1つではなく、2つ以上積層されていてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1…電気化学セル、2…外装体、3A,3B,3C,3D,3E…電極体、10…固体電解質層、11,13…正極凹部、12,14…正極凸部、15,17…負極凹部、16,18…負極凸部、20…正極層、30…負極層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15